説明

電機子及び電機子の巻線装置及び巻線方法

【課題】磁極歯を備えた回転電気の電機子において、磁極歯間スロットにおけるコイルの占積率を向上させる。
【解決手段】電機子を構成する対象物(磁極歯22)の周囲にワイヤを巻き付ける電機子の巻線装置4は、ワイヤ回転部材42を介して導出されたワイヤWを前記対象物22の外周面へと案内すると共に前記対象物22の巻軸22c方向に移動可能なガイド部材44と、該ガイド部材44によって案内されたワイヤWの対象物22上の上記巻軸22c方向位置を規制すると共に前記巻軸22c方向に移動可能なストッパ部材46と、前記ワイヤ回転部材42を回転させる第1の駆動手段41と、前記ガイド部材44を対象物22の巻軸22c方向に移動させる第2の駆動手段45と、前記ストッパ部材46を対象物22の巻軸22c方向に移動させる第3の駆動手段47と、ワイヤ巻き付けに従って前記第2の駆動手段45と第3の駆動手段47の作動を各々別に制御する制御手段48とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば発電機や電動モータ等の回転電機の電機子、およびその磁極歯周囲にコイルを巻回するための巻線装置およびこれら電機子及び巻線装置を使用した巻線方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車或いはバギー車等のATVやスノーモビル、ウォータビークル及び船外機(以下、自動二輪車等という)のエンジンでは、内燃機関のクランク軸にフライホイール兼用のロータを固定し、このロータに固定された永久磁石がステータに対向した位置で回転することで車両に必要な交流電力を作る永久磁石式交流発電機が広く用いられている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
一般に、交流発電機のステータは、金属板を積層した放射状に突出する磁極歯を有するステータヨーク(コア)と、このステータヨークの各磁極歯に嵌め込まれた絶縁材料からなるボビンと、このボビン上に巻回されたワイヤ(巻線)からなるコイルで構成され、このステータの磁極歯に対向する永久磁石を備えたロータの回転によってコイルに起電力を生じるようになっている。
【0004】
ところで、上記交流発電機は、駆動源となるエンジンの回転数が低い時でも車両運転に充分な交流電力を供給できなければならず、いわゆる小型かつ高出力化が求められている。この観点から、発電機のステータにおいては、ボビンを介し磁極歯周りに巻回される上記ワイヤの巻数を出来るだけ多くし、磁極歯間スロットにおけるコイルの占積率を高めて、高出力化させることが好ましい。
【0005】
しかしながら現状は、A:磁極歯に沿って一定の層厚でコイルを巻くと外側部分(突出端部側)のスペースに多くのワイヤが巻けないため外側部分のスロットに空間が生じる、B:磁極歯同士へのワイヤ渡り線が巻回しの邪魔になる、等の理由によりスロットにおけるコイルの占積率を向上することは困難である。以下、上記理由を詳しく述べる。
【0006】
1)理由Aについて
通常、電機子の巻線装置として、ノズル式やフライヤ式の巻線装置が用いられるが、フライヤ式の巻装置ではステータの磁極歯へのワイヤ巻回しは、ステータに対し側方(磁極歯に対向する位置)で巻線装置のワイヤが挿通するワイヤ回転部材を回転させ、ワイヤガイドを磁極歯の巻軸方向(突出方向)に沿って往復運動させることにより磁極歯上にコイルを形成する。1つの磁極歯へのワイヤ巻回しが終了したならばステータを1つ又は複数の磁極歯分だけ回転し、次の磁極歯にワイヤを巻回すといったように磁極歯毎に行われる。ここで、ステータの各磁極歯はコア本体から放射状に突出しているため、ワイヤに占有されるべき各スロットの幅は磁極歯の半径方向内側部分で狭く、外側部分で広い、所謂扇型となる。巻線装置による1つの磁極歯へのワイヤ巻回しは、隣接する磁極歯のコイルとの干渉を避けつつ出来るだけ多くのワイヤを巻回する必要があり、磁極歯の根元では巻回数を少なく抑えつつ、磁極歯の先端側では巻回数を多くすることが望ましい。しかしながら、実際のワイヤ巻回しにあたっては、磁極歯の先端側に巻回されたワイヤが、巻き回し動作中に磁極歯の根元側に崩れてしまい先端部側のみ巻数を多くすることが円滑にできなかった。
【0007】
2)理由Bについて
通常、ステータの磁極歯に対し巻線装置は、磁極歯の内側(磁極歯の根元側)と外側(磁極歯の先端側)の間で往復動作させながら複数層にワイヤを巻回し、1つの磁極歯のワイヤ巻回しが終了したならば、ワイヤを切断することなくワイヤガイドを次の磁極歯へと相対移動させ、同様にワイヤを巻回すようになっている。しかしながら、この巻線方法では連続してコイルを形成する2つの磁極歯間に、スロットを斜めに横断するワイヤ(渡り線)が生じることとなり、このワイヤが次の磁極歯のワイヤ巻回しに邪魔になり、スロット間の空間を充分埋めることができず占積率の向上ができなかった。
【0008】
【特許文献1】特願2004−195433号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような現状を考慮したものであって、放射状に突出する磁極歯を備えた電機子において、各磁極歯間のスロットにおける巻線占積率を向上することが可能な電機子及び巻線装置及び巻線方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、電機子を構成する対象物の周囲にワイヤを巻き付ける電機子の巻線装置であって、巻き付けるワイヤの巻線ロールと、該巻線ロールより導出されたワイヤを部分的に支持して前記対象物の巻軸方向の端部に対向して該巻軸と同軸上に回転軸を有するワイヤ回転部材と、該ワイヤ回転部材を介して導出されたワイヤを前記対象物の外周面へと案内すると共に前記対象物の巻軸方向に移動可能なガイド部材と、該ガイド部材によって案内されたワイヤの対象物上の上記巻軸方向位置を規制すると共に前記巻軸方向に移動可能なストッパ部材と、前記ワイヤ回転部材を回転させる第1の駆動手段と、前記ガイド部材を対象物の巻軸方向に移動させる第2の駆動手段と、前記ストッパ部材を対象物の巻軸方向に移動させる第3の駆動手段と、ワイヤ巻き付けに従って前記第2の駆動手段と第3の駆動手段の作動を各々別に制御する制御手段とを有することを特徴とする電機子の巻線装置を提供する。
請求項2の発明は、請求項1に記載の巻線装置において、前記制御手段は、前記対象物上の巻線の層厚に応じて、前記ストッパ部材の対象物上の巻軸方向位置が異なるように第3の駆動手段を制御することを特徴とする。
【0011】
請求項3の発明は、請求項2に記載の巻線装置において、前記対象物は、円筒状コア本体から放射状に突出する複数の磁極歯であることを特徴とする。
【0012】
請求項4の発明は、請求項3に記載の巻線装置を用い、前記磁極歯の半径方向外側部分におけるワイヤ巻回し回数が、半径方向内側部分におけるワイヤ巻回し回数よりも多くなるように、前記ガイド部材及びストッパ部材を駆動制御することを特徴とする巻線方法を提供する。
【0013】
請求項5の発明は、円筒状のコア本体と該コア本体から半径方向外方に放射状に突出する複数の磁極歯とを備えたコア、及び絶縁性樹脂からなり前記磁極歯の周囲に設けられたボビンを有する回転電機用電機子であって、前記ボビンは、各磁極歯に対応してコア本体部分上に、コア軸方向に突出する巻線係止用の突起を備えたことを特徴とする回転電機用電機子を提供する。
【0014】
請求項6の発明は、請求項5に記載の回転電機用電機子において、自動二輪車等のエンジンの発電機を構成することを特徴とする。
【0015】
請求項7の発明は、1つの磁極歯の巻線動作終了後に連続して別の磁極歯の巻線動作を行う場合にワイヤを前記突起を経由させることを特徴とする請求項5に記載の回転電機用電機子の磁極歯にワイヤを巻き付ける巻線方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、ガイド部材及びストッパ部材の各駆動手段を各々別に制御することにより巻線装置のガイド部材によって案内されたワイヤの位置を規制するストッパ部材がガイド部材の往復動作とは別に移動可能となる。これにより、ワイヤを対象物上の適正な位置に巻き回すことができる。すなわちストッパ部材は対象物の巻軸方向に移動可能であるため、対象物の両端部間の中間位置にストッパ部材を移動させて静止させその一方の側でガイド部材を往復動作させることにより、巻軸方向の一方の端部に近い側の巻回し回数を増やして層数を大きくすることができる。このときストッパ部材により厚く巻回したワイヤの崩れが防止される。これにより、例えば扇形のような広がりのある巻線領域の場合広がりに応じてコイル層数を増やすことができ、本発明の課題である占積率の向上が図られる。なお巻軸とは、ワイヤを対象物上で巻回すときの巻線の中心軸であり、一巻の巻線が形成する平面での対象物断面の中心軸をいう。したがって、円筒状ボビン上にコイルを形成するのであれば、巻軸は円筒軸であり、コア本体から放射状に突出する磁極歯のように角形の柱体上にコイルを形成するのであれば巻軸はコイルが形成された4つの側面で囲まれた部分の柱体の中心軸であり、磁極歯であれば突出方向の中心軸をいう。巻軸方向とはこのような巻線の中心軸(巻軸)に沿った方向をいう。すなわち、本発明は制御手段によって、ガイド部材が対象物の巻軸方向の所定区間を往復可能であるとともに、本発明のストッパ部材を段階的に移動させて移動した位置毎にガイド部材を往復させることにより、対象物の巻軸方向に沿って異なる巻回数を以ってワイヤを巻き回すことができる。
【0017】
請求項2の発明によれば、制御手段によって、巻線の層厚に応じてストッパ部材の対象物上の巻軸方向位置が異なるようにしたことで、対象物上に一定層数の巻線を巻回した後、ストッパ部材をずらせて既に巻回した巻線の上に巻き軸方向の一方の側にのみ新たな巻線を形成して層数を増やすことができる。この場合、ストッパ部材は新たな巻線を形成するときの巻線の崩れを防ぐ壁として機能する。
【0018】
請求項3の発明によれば、対象物を円筒状コア本体から放射状に突出する複数の磁極歯としたことにより、ワイヤを磁極歯間のスロットの形状に対応させて巻回すことができスロットのコイル占積率を高めることができる。
【0019】
請求項4の発明によれば、巻線装置のガイド部材及びストッパ部材を各々別に駆動制御して、磁極歯の中間位置でストッパ部材を静止させ、その外側部分でガイド部材を往復動作させることにより、外側部分での巻回し回数を多くして占積率を高めることができる。
【0020】
請求項5の発明によれば、回転電機用電機子はコア軸方向に突出する複数の突起を備えることにより、磁極歯間のワイヤ巻回し過程において、磁極歯間の渡り線を突起に係止させてこれを経由することができ、次の磁極歯のワイヤ巻回しを邪魔しない。なお、コア軸方向とは、電機子ロータの回転軸方向であり、ステータについてもロータの回転軸と同軸方向である。したがって磁極歯については、ステータ本体からの突出方向と直角な方向である。
【0021】
請求項6の発明によれば、自動二輪車等のエンジンの発電機のコイルの占積率を上げることにより、特に低回転域の出力を向上させてレギュレータの小型を図ることができる。さらに詳しくいうと、自動二輪車等のエンジンは、通常、前述のように、コイルをステータとしたアウターロータ型の永久磁石式発電機をクランク軸端部に備えている。
【0022】
図8はこのようなアウターロータ式永久磁石式発電機の出力特性図である。点線aは従来の発電機の出力特性、一点鎖線bは自動二輪車等で必要とされる理想的な出力特性、実線cは本発明に係る発電機の出力特性を示す。
【0023】
従来は点線aで示すように、アイドリング時の低回転域(1000〜1300rpm)で特に出力が小さく、高回転域では出力が大きく上昇して、一点鎖線bの理想出力レベルを大きく越える。
【0024】
一方、本発明に係る発電機では、実線cで示すように、低回転域での出力を向上させ高回転域での出力を下げて全体的に平均化して理想出力bに近づけることができる。すなわち、同じ大きさの発電機を比べたとき、本発明ではコイルの巻数が増えて占積率が向上しているため必要とする理想特性bに近づけたときに高回転域の過分な出力を抑えることができる。このため発電機出力を一定にするためのレギュレータの能力を低下させることができ、小型のレギュレータを用いることが可能になる。
【0025】
請求項7の発明によれば、1つの磁極歯から別の磁極歯へワイヤを移動する過程において、1つの磁極歯から延びるワイヤは、突起を経由して隣の磁極歯に渡らされるため、この磁極歯のワイヤ巻回しを邪魔せずスロットのコイル占積率を高めることができる。なお、請求項7の発明は、請求項5で特定する巻線係止用の突起を備えた電機子を用いることが要件であり、巻線装置はいかなる巻線装置を用いてもよい。また手巻き作業でコイルを形成する場合も含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1は、本発明に係る巻線装置及び巻線方法が適用可能な、回転電機の電機子の外観斜視図である。ここでは回転電機は、内燃機関に装備される磁石式発電機として、また電機子はその発電機のステータとして例示される。
【0027】
ステータ1は、磁性材料からなるリング状薄板を多数積層させたコア(ステータヨーク)2と、例えば射出成形等によりコア2と一体成形されるボビン3とを備える。なお、ボビン3は、コアとの一体成形体に限らず、コアの上下から嵌め込んでコアを覆う別体のボビンでも良い。
【0028】
図2は上記ステータ1の平面図である。また、図3は図2のA−A線に沿うステータ断面図である。図2に示すように、コア2は、円筒形のコア本体21と、その外周に放射状に突出する多数(本例では18)の磁極歯22とを一体で備えており、これらは前述したように薄板を多数積層することによって形成される。コア本体21はその中央にエンジンのクランク軸(不図示)を通すための開口部23を有する。各磁極歯22は、矩形断面のコイル巻回部24と、その外側端に接続する頭部25とからなり、図2に示すように、平面視で略T字状を有する。コア本体21の外側には隣接する磁極歯22、22間に扇状のスロット26が多数(本例では18)形成される。
【0029】
一体成形の場合のボビン3は、以上のように形成されたコア2を射出成形用の金型(不図示)の中に配置し、金型内に絶縁性樹脂材料を射出することにより、コア2の一部に一体成形される。ボビン3は、矩形断面のコイル巻回部24の上下左右4側面と、コア本体21のコア軸方向両端面における外周側の円環部21aとを覆うように形成され、また上下一方の円環部21aであってかつ隣接する2つの磁極歯22,22に挟まれたボビン部分には、後述する巻線装置によるコイル巻回しの際、巻線(ワイヤ)を引っ掛けるための係止突起31がコア軸方向に突出して一体成形される。
【0030】
巻線装置により、各磁極歯22のコイル巻回部24の周囲にワイヤが巻き回される。図4は、コイル巻回状態にある巻線装置の概略図である。巻線装置4は、巻き付けるワイヤWの巻線ロール41を備え、さらにステータ1の磁極歯22の側方に位置して、巻線ロール41より導出されたワイヤWを、磁極歯22周りで旋回させる“フライヤ”と呼ばれる円盤状又は羽根状のワイヤ回転部材42を備える。ワイヤ回転部材42はその外周部分にワイヤWを通すガイドホール42aを有し、中央の回転軸42bを介してモータ43(第1の駆動手段)により回転駆動される。回転軸42bは、磁極歯22の外側端面に対向して磁極歯22の巻軸22Cと同軸上に配置される。
【0031】
巻線装置4はさらに、ワイヤ回転部材42を介して導出されたワイヤWを下側から支持して磁極歯22上のボビンの外周面3aへと案内するガイド部材44を備える。ガイド部材44は、その先端部44aが下方に折曲され、ガイドアクチュエータ45(第2の駆動手段)によって図中矢印Bで示した磁極歯巻軸22C方向にスライド可能であると共に、ガイドアクチュエータ45に内蔵されたモータ(不図示)によってボビン3の外周面3aに対し図中矢印C方向に沿って接近・離反できるように構成されている。
【0032】
磁極歯22に関し、上述したガイド部材44の内側(磁極歯22の根元側)には、ガイド部材44によってボビン外周面3a上へと案内されたワイヤWの磁極歯巻軸方向位置を規制するストッパ部材46が設けられる。ストッパ部材46は、ガイド部材44と同様に、ストッパアクチュエータ47(第3の駆動手段)によって図中矢印B方向にスライド可能であると共に、ボビン外周面3aに対し図中矢印C方向に沿って接近・離反できるように構成されている。
【0033】
モータ43、ガイドアクチュエータ45及びストッパアクチュエータ47は、それぞれの駆動回路43a、45a、47aを介してそれぞれの作動を制御するコントローラ48(制御手段)に接続される。コントローラ48は、その内部に後述する巻線方法を実施するためのプログラムを備えており、プログラム実行に伴い、モータ43、ガイドアクチュエータ45及びストッパアクチュエータ47に作動信号を出力する。なお、49は前のコイルの巻回しが終了した時点でそのコイルから延びるワイヤWの端部を把持するクランプである。コイル巻回時にクランプ49でワイヤ始端をクランプした状態でワイヤ回転部材42の回転によりワイヤWを巻線ロール41から引出しながら磁極歯22上にコイルを巻回する。
【0034】
巻線装置4による1つの磁極歯22へのワイヤ巻線方法を図4及び図5を参照して説明する。
【0035】
ステータ1は回転可能なテーブル(不図示)にチャックされ、巻線装置4はワイヤ巻回し対象となる磁極歯22に対向してその側方に配置される(図4の状態)。なお、このテーブルは1つの磁極歯22へのワイヤ巻回しが終了した時点で所定角度分だけ回転する必要があるため、ステップモータなどの適当な駆動手段によって回転されるようになっており、その作動は巻線装置4側のコントローラ48によって制御される。
【0036】
次に、巻線装置4のガイド部材44を磁極歯22の根元側まで接近させる。この時、ストッパ部材46はストッパアクチュエータ47によって、ガイド部材44のステータ内径側に、ワイヤW1本程の間隔を隔てて配置される。このような状態で、ワイヤ回転部材42がモータ43によって回転され、ガイド部材44は、ガイドアクチュエータ45によって磁極歯22の半径方向内側から外側にかけて移動され、ストッパ部材46もまたストッパアクチュエータ47によってガイド部材44との上記間隔を保ちつつ磁極歯22の半径方向内側から外側にかけて移動される。図5の(a)は、ボビン外周面3aにその内側から外側にワイヤWが巻回されている状態を示しており、ワイヤWはガイド部材44とストッパ部材46とで形成される間隙内に挿入され、ボビン外周面3a上で内側から外側に向かって巻回される。
【0037】
ボビン外周面3a上に1列のワイヤWが巻回されたならば、次にガイド部材44は磁極歯22の半径方向外側から内側にかけて移動方向を逆にし、先のワイヤ列の上にさらにワイヤWが巻回されることになる。この時、ガイド部材44とストッパ部材46の内側への移動は、その途中までとし、ストッパ部材46は磁極歯22の長手方向のほぼ中間位置で静止した状態で保持される。一方、ガイド部材44は、ストッパ部材46と磁極歯22の最外端との間を往復するようにガイドアクチュエータ45により駆動される。この結果、ボビン外周面3a上では、図5の(b)に示すように、磁極歯22の半径方向外側においてワイヤWが厚く巻回されることになり、扇状スロット26の外側部分におけるワイヤ占積率を向上することができる。さらに、この巻線方法は、ワイヤ巻回し途中でストッパ部材46を停止させることにより、ワイヤ巻回しの壁として作用するため、巻回し過程において磁極歯22の先端側に巻回されたワイヤWが、磁極歯22の根元側へと崩れてしまうようなことはない。
【0038】
図5(c)は、ワイヤWが巻回された各磁極歯22の上下方向中間部の断面図である。上述した巻線方法により、ワイヤWは、各磁極歯22の半径方向外側部分において内側部分よりも厚く巻き付けられるため、隣接する磁極歯22のコイル同士は内側部分で接することなく、高い占積率を以ってスロット26の空間を充満することができる。さらに本実施形態では、図示するように1つの磁極歯22へのコイル巻回しから隣接する磁極歯22へのコイル巻回しに至る過程において、ワイヤWは、ガイド部材44とストッパ部材46によって保持された状態で、磁極歯22間に位置する係止突起31を経由した後、次の磁極歯22のボビン外周面3a近傍へと渡らされるようになっている。これにより、従来の巻線方法に見られたような、スロット26を斜めに横断する渡り線が無くなることとなり、巻線装置4は渡り線に邪魔されることなく次の磁極歯22のコイル巻回し動作をスムーズに行うことができる。
【0039】
なお、コイルの最下層は1列に限らず、2列又はそれ以上にワイヤを巻回してもよい。またストッパ部材46は磁極歯22の巻軸22cに沿って中間の1段階で静止する動作に限らず、2段階又はさらに多くの段階で静止して磁極歯の外側部分の巻線回数を多くしてもよい。
【0040】
図6は、18個の磁極歯22を有するステータ1にワイヤを巻回しする際の巻回し順を概略的に示す図である。ここでは18個の磁極歯22を3つのグループに分け、各グループにおいては、隣接する3つの磁極歯22を連続してワイヤ巻回した後、大きくステータ1を回転させ、対向する3つの磁極歯22を連続してワイヤを巻回し、この巻線動作を3回繰り返すことで全ての磁極歯22にコイルが形成される。当然、隣接する磁極歯22間のワイヤ巻回しでは上述したようにガイド部材44とストッパ部材46によってワイヤWは係止突起31を経由する。なお、2つ又はそれ以上大きく離れた位置の磁極歯にワイヤを渡らせる場合、渡り線がステータの内径側の開口部23に入り込まないようにするため、開口部23に筒状キャップを装着した状態でワイヤを渡らせる。図では配線を分かりやすくするため磁極歯22の外側に渡り線を描いてあるが、実際には磁極歯22の内側の円環部21aを渡らせる。
【0041】
図7は、以上のようにしてワイヤ巻掛けが完了したステータ1の平面図である。上述した巻線方法によりワイヤWは係止突起31を経由して各磁極歯22に巻回されており、各磁極歯22においてはその半径方向外側が内側に比較して巻回されたワイヤWの層の厚さが大きく、スロット27におけるワイヤ占積率を高めている。
【0042】
以上説明したように、本発明による巻線装置は、対象物上でガイド部材によって案内されたワイヤの位置を規制するストッパ部材を備えることにより、対象物上へのワイヤ巻回しにおいて、ワイヤを対象物上の適正な位置に巻回することができるとともに、本発明では、ストッパ部材は対象物の巻軸方向に段階的に静止して移動可能であるため、対象物の巻軸方向に沿って巻線回数を変えて層厚を異ならせることができる。これにより扇形状に広がるスロットの占積率向上が図られる。
【0043】
また、本発明による回転電機用電機子は、コアの軸線方向に突出する複数の突起を備えることにより、磁極歯間のワイヤ巻回し過程において、磁極歯間の渡り線は突起を経由することができ、次の磁極歯のワイヤ巻回しを邪魔しない。
【0044】
また、本発明による巻線方法は、1つの磁極歯から別の磁極歯へワイヤを移動する過程において、1つの磁極歯から延びるワイヤは、突起を経由して別の磁極歯に渡らされるため、この別の磁極歯のワイヤ巻回しを邪魔せずスロットのコイル占積率を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の利用例として、ステータ側にコイルが備わる発電機に限らず、ロータ側にコイルが備わる発電機、あるいは電動モータのロータやステータ等、ボビンを介してコアにコイルが巻回される回転電機の全般に、本発明の巻線装置、巻線方法及び電機子を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る巻線装置及び巻線方法が適用可能なステータの外観斜視図。
【図2】図1のステータの平面図。
【図3】図2のA−A線に沿うステータ断面図。
【図4】本発明に係る巻線装置の概略構成図。
【図5】本発明に係る巻線方法を説明する図。
【図6】ステータにワイヤを巻掛けする際の巻き掛け順を示した概略図。
【図7】ワイヤ巻掛けが完了したステータの平面図。
【図8】アウターロータ式永久磁石式発電機の出力特性図。
【符号の説明】
【0047】
1:ステータ、2:コア、3:ボビン、
3a:ボビン外周面、4:巻線装置、21:コア本体、21a円環部、
22:磁極歯、23:開口部、24:コイル巻回部、25:頭部、
26:スロット、31:係止突起、41:巻線ロール、
42:ワイヤ回転部材、42a:ガイドホール、42b:回転軸、
43:モータ(第1の駆動手段)、43a:駆動回路、44:ガイド部材、
44a:先端部、45:ガイドアクチュエータ(第2の駆動手段)、
45a:駆動回路、46:ストッパ部材、
47:ストッパアクチュエータ(第3の駆動手段)、47a:駆動回路、
48:コントローラ(制御手段)、49:クランプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電機子を構成する対象物の周囲にワイヤを巻き付ける電機子の巻線装置であって、
巻き付けるワイヤの巻線ロールと、該巻線ロールより導出されたワイヤを部分的に支持して前記対象物の巻軸方向の端部に対向して該巻軸と同軸上に回転軸を有するワイヤ回転部材と、該ワイヤ回転部材を介して導出されたワイヤを前記対象物の外周面へと案内すると共に前記対象物の巻軸方向に移動可能なガイド部材と、該ガイド部材によって案内されたワイヤの対象物上の上記巻軸方向位置を規制すると共に前記巻軸方向に移動可能なストッパ部材と、前記ワイヤ回転部材を回転させる第1の駆動手段と、前記ガイド部材を対象物の巻軸方向に移動させる第2の駆動手段と、前記ストッパ部材を対象物の巻軸方向に移動させる第3の駆動手段と、ワイヤ巻き付けに従って前記第2の駆動手段と第3の駆動手段の作動を各々別に制御する制御手段とを有することを特徴とする電機子の巻線装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記対象物上の巻線の層厚に応じて、前記ストッパ部材の対象物上の巻軸方向位置が異なるように第3の駆動手段を制御することを特徴とする請求項1に記載の電機子の巻線装置。
【請求項3】
前記対象物は、円筒状コア本体から放射状に突出する複数の磁極歯であることを特徴とする請求項2に記載の電機子の巻線装置。
【請求項4】
前記磁極歯の半径方向外側部分におけるワイヤ巻回し回数が、半径方向内側部分におけるワイヤ巻回し回数よりも多くなるように、前記ガイド部材及びストッパ部材を駆動制御することを特徴とする請求項3に記載の巻線装置を用いた巻線方法。
【請求項5】
円筒状のコア本体と該コア本体から半径方向外方に放射状に突出する複数の磁極歯とを備えたコア、及び絶縁性樹脂からなり前記磁極歯の周囲に設けられたボビンを有する回転電機用電機子であって、
前記ボビンは、各磁極歯に対応してコア本体部分上に、コア軸方向に突出する巻線係止用の突起を備えたことを特徴とする回転電機用電機子。
【請求項6】
自動二輪車等のエンジンの発電機を構成することを特徴とする請求項5に記載の回転電機用電機子。
【請求項7】
1つの磁極歯の巻線動作終了後に連続して別の磁極歯の巻線動作を行う場合にワイヤを前記突起を経由させることを特徴とする請求項5に記載の回転電機用電機子の磁極歯にワイヤを巻き付ける巻線方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−238580(P2006−238580A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−48547(P2005−48547)
【出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(000191858)株式会社モリック (98)
【Fターム(参考)】