説明

電気コネクタ

【課題】簡易な構成で、正常なロック解除操作を可能としつつ、係止ロック部の不意の離脱を防止することを可能とする。
【解決手段】係止ロック部13aを有する帯状部材からなるロックアーム部材13bの途中部分に折返し部13b1を形成するとともに、折返し部13b1から延出する他端部に絶縁ハウジング11に当接する支持部13cを設け、解除操作が行われる初期段階においてロック解除操作部11dにより直接的に押圧されるロックアーム部材13bの折返し部13b1を押し縮めるように変形させて折返し部13b1のみを変位させ、信号伝送媒体Fに係合された状態のままに係止ロック部13aを維持させることにより、例えば誤ってロック解除操作部に触るなどしてロック解除操作部11dが僅かに押し下げられただけでは係止ロック部13aの解除が行われることがないように構成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号伝送媒体の端末部分を絶縁ハウジングの内部に挿入することによって信号伝送媒体を係止ロック部の係合力によって保持するように構成された電気コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、種々の電気機器等において、フレキシブル・プリンテッド・サーキット(FPC)や、フレキシブル・フラット・ケーブル(FFC)等の各種信号伝送媒体を電気的に接続するための手段として種々の電気コネクタが広く用いられている。例えば、下記の特許文献1のように印刷配線基板上に実装されて使用される電気コネクタでは、FPCやFFC等からなる信号伝送媒体が、絶縁ハウジング(インシュレータ)の前端側開口部から内部に挿入され、その後にアクチュエータ(接続操作手段)が、作業者の操作力でコネクタ前方側又は後方側の接続作用位置に向かって押し倒されるように回動される。これによって、信号伝送媒体の端末部分に切欠き形状をなすように設けられた位置決め部にロック部材の一部が落ち込んで係合状態になされ、信号伝送媒体の端末部分がロック部材により略不動状態に保持される構成になされている。
【0003】
このように、アクチュエータを備えた電気コネクタは、接続解除位置と接続作用位置との間でアクチュエータを回動操作することによってロック部材の係合・離脱を操作する構成になされているが、信号伝送媒体(FPC,FFC等)の挿入作業とは別個にアクチュエータを操作する必要があるために作業効率が問題となる場合がある。そのため、下記の特許文献2のように従来から、絶縁ハウジングの内部に挿入された信号伝送媒体に対してロック部の一部が乗り上げるように配置した、いわゆるワンアクションオートロック機構を備えた電気コネクタが従来から開発されている。このようなワンアクションオートロック機構を備えた電気コネクタを用いれば、電気コネクタの内部に信号伝送媒体を挿入するだけで、信号伝送媒体に乗り上げたロック部材の一部が信号伝送媒体の位置決め部(切欠き部)に落ち込んで、信号伝送媒体が略不動状態に保持されることから、作業効率の向上が図られるようになっている。
【0004】
一方、このようなワンアクションオートロック機構を有する電気コネクタにおいても、信号伝送媒体(FPC,FFC等)からロック部の嵌合状態を解除するためには、ロック解除操作部を押圧して信号伝送媒体の位置決め部(切欠き部)からロック部を離脱させる必要があるが、従来の電気コネクタでは、誤操作などによりロック解除操作部に僅かに触っただけでロック部の解除が行われてしまい、信号伝送媒体が不意に脱抜するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−221067号公報
【特許文献2】特開2004−165046号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、簡易な構成で、ロック部が不意に解除されることを防止することができるようにした電気コネクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明では、絶縁ハウジングの内部に挿入された信号伝送媒体の端末部分に係合することによって前記信号伝送媒体を略不動状態に保持する係止ロック部が、弾性変位可能な可撓性部材からなるロックアーム部材の一部分に設けられているとともに、前記ロックアーム部材の他の部分が、ロック解除操作部により押圧されて前記ロックアーム部材を弾性変位させることで、前記係止ロック部が前記信号伝送媒体から離脱されるように構成された電気コネクタにおいて、前記ロックアーム部材が、当該ロックアーム部材の途中部分に折返し部を有する帯状部材からなり、そのロックアーム部材が前記折返し部から延出する一方側の部分に前記係止ロック部が設けられているとともに、当該ロックアーム部材が前記折返し部から延出する他方側に前記絶縁ハウジングに当接する支持部が設けられたものであって、前記ロック解除操作部が、前記ロックアーム部材の折返し部又はその近傍を押圧する構成になされている。
【0008】
このような構成を有する本発明によれば、ロック解除操作部を押圧操作してロックアーム部材を弾性変形させることにより信号伝送媒体から係止ロック部がワンタッチで解除されることとなるが、そのようなワンタッチ解除操作が行われる初期段階においては、ロック解除操作部により直接的に押圧されるロックアーム部材の折返し部自体が、押圧方向に押し縮められて当該折返し部の隙間が縮小されるように変形が行われることから、ロックアーム部材の折返し部のみが変位し、係止ロック部は、信号伝送媒体に係合された状態のままに維持される。従って、例えば誤ってロック解除操作部に触るなどしてロック解除操作部が僅かに押し下げられただけでは、係止ロック部の解除が行われることはない。これに対して、正常なロック解除操作が行われ、ロック解除操作部が一定量を超えて押圧された場合には、ロックアーム部材の折返し部の圧縮変形が完了した後に係止ロック部が通常の変位を開始し、それによって信号伝送媒体から係止ロック部が離脱してロック状態が解除される。
【0009】
このとき、本発明における前記支持部は、前記絶縁ハウジングの壁面に対して滑動可能に当接する突状形状をなすように形成されていることが望ましい。
【0010】
このような構成を有する本発明によれば、ロック解除操作部が押圧された際に支持部が絶縁ハウジングの壁面に沿って移動するため、特にロック解除操作の初期段階における係止ロック部の係合状態が良好に維持される。
【0011】
また、本発明における前記支持部及び絶縁ハウジングの壁面には、前記支持部が所定量だけ滑動した際に係合する解除検知部が設けられていることが望ましい。
【0012】
このような構成を有する本発明によれば、ロック解除操作部が所定量だけ押圧されて解除検知部の係合が行われた際に発生する、いわゆるクリック感によって、ロック解除操作の完了が作業者に認識される。
【0013】
また、本発明における前記支持部は、前記ロックアーム部材に対して前記ロック解除操作部が押圧する位置から前記係止ロック部側に位置ズレした位置に配置されていることが望ましい。
【0014】
このような構成を有する本発明によれば、ロック解除操作部が押圧された際に、支持部が係止ロック部側に向かって滑動すると同時に、ロックアーム部材が、ロック解除操作部の押圧位置と係止ロック部との間部分において傾斜するように変位する傾向が生じ、ロック解除操作の初期段階における係止ロック部の係合状態が一層良好に維持される。
【0015】
また、本発明においては、前記ロック解除操作部が、前記絶縁ハウジングから連結部を介して一体的に延出する片持ち状部材から形成されていることが望ましい。
【0016】
このような構成を有する本発明によれば、解除操作時にロック解除部が連結部を介して回動するように移動することにより傾斜状態になされ、そのロック解除部の傾斜状態に従ってロックアーム部材が傾斜状態になされることから、ロックアーム部材の折返し部のみ変位し、ロック解除操作の初期段階における係止ロック部の係合状態が良好に維持される。
【発明の効果】
【0017】
以上述べたように本発明にかかる電気コネクタは、係止ロック部を一部分に有する帯状部材からなるロックアーム部材の途中部分に折返し部を形成し、そのロックアーム部材における折返し部から延出する他の部分に絶縁ハウジングに当接する支持部を設けて、当該ロックアーム部材の折返し部又はその近傍をロック解除操作部で押圧することで、ワンタッチの解除操作が行われる初期段階において、ロック解除操作部により直接的に押圧されるロックアーム部材の折返し部を押し縮めるように変形させてロックアーム部材の折返し部のみを変位させ、信号伝送媒体に係合された状態のままに係止ロック部を維持させることにより、例えば誤ってロック解除操作部に触るなどしてロック解除操作部が僅かに押し下げられただけでは係止ロック部の解除が行われることがないように構成したものであるから、簡易な構成で、正常なロック解除操作を可能としつつ、係止ロック部の不意の離脱を防止することができ、電気コネクタの信頼性を低廉かつ大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態にかかる電気コネクタにフレキシブル印刷配線基板が差し込まれる直前の状態を示した外願斜視説明図である。
【図2】図1に表された本発明にかかる電気コネクタを背面側から示した外観斜視説明図である。
【図3】図1及び図2に表された本発明にかかる電気コネクタの平面説明図である。
【図4】図1及び図2に表された本発明にかかる電気コネクタの正面説明図である。
【図5】図1及び図2に表された本発明にかかる電気コネクタの背面説明図である。
【図6】図4中の VI−VI線に沿った横断面説明図である。
【図7】図1〜図6に表された電気コネクタに使用されているロック部材を前方上方側から表した外観斜視説明図である。
【図8】図7に表されたロック部材を下方側から表した外観斜視説明図である。
【図9】図4中の IX−IX 線に沿ったものであって、信号伝送媒体が差し込まれた状態を示した横断面説明図である。
【図10】図9の状態からロック解除操作部が押し下げ始められた状態を示した横断面説明図である。
【図11】図10の状態からロック解除操作部が完全に押し下げられて信号伝送媒のロック解除状態を示した横断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下において、フレキシブル・プリンテッド・サーキット(FPC)やフレキシブル・フラット・ケーブル(FFC)等からなる信号伝送媒体の接続を行うために配線基板上に実装して使用される電気コネクタに本発明を適用した実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0020】
[電気コネクタの全体構成について]
まず、図1〜図11に示されている本発明の一実施形態にかかる電気コネクタ10は、いわゆるノン・ジフ(NON-ZIF)タイプのワンアクションオートロック機構を備えた電気コネクタからなるものであって、上述した信号伝送媒体(FPC又はFFC等)Fの端末部分を、絶縁ハウジング11の前端縁部(図6の左端縁部)に設けられた媒体挿入口11aを通して絶縁ハウジング11の内部の所定位置まで挿入した際に、信号伝送媒体Fのロックが自動的に行われる構成になされたものである。
【0021】
[絶縁ハウジングについて]
このとき、前記絶縁ハウジング11は、細長状に延在する中空枠体状の絶縁部材から形成されているが、その絶縁ハウジング11における長手の横幅方向を、以下において「コネクタ長手方向」と呼び、また信号伝送媒体(FPC又はFFC等)Fの端末部分を抜去及び挿入する方向をそれぞれ「コネクタ前方」及び「コネクタ後方」と呼ぶこととする。また、「コネクタ長手方向」及び「コネクタ前後方向」の双方に直交する方向を「コネクタ上下方向」と呼び、さらに「コネクタ長手方向」において、コネクタの中心側から外方側へ向かう方向を「コネクタ外方」、その反対方向を「コネクタ内方」と呼ぶこととする。
【0022】
その絶縁ハウジング11の内部には、特に図6に示されているように、適宜の形状をなす薄板状金属製部材により形成された導電コンタクト12が、複数体にわたって装着されている。それらの導電コンタクト12は、絶縁ハウジング11の内部においてコネクタ長手方向に沿って適宜の間隔をなして多極状に配置されている。これらの導電コンタクト12の各々は、信号伝送用又はグランド接続用のいずれかとして、主印刷配線基板(図示省略)上に形成された導電路(図示省略)に対して半田接合により実装された状態で使用されるようになっている。
【0023】
絶縁ハウジング11の前端縁部分(図6左端縁部分)には、上述したようにフレキシブル・プリンテッド・サーキット(FPC)やフレキシブル・フラット・ケーブル(FFC)等からなる信号伝送媒体Fの端末部分が挿入される媒体挿入口11aが、コネクタ長手方向に沿って細長状をなすように設けられている。この媒体挿入口11aからは、信号伝送媒体Fの媒体挿入通路11bが「コネクタ後方」に向かって延出しており、その信号伝送媒体Fの媒体挿入通路11bの両側外方部分、すなわち絶縁ハウジング11における「コネクタ外方」領域には、後述する信号伝送媒体Fのロック機構が配置されている。さらに、媒体挿入口11aから延出する信号伝送媒体Fの媒体挿入通路11bの「コネクタ後方」側の端部、つまり上述した媒体挿入口11aの反対側部分には、導電コンタクト12を装着するための部品取付口11cが、同じくコネクタ長手方向に沿って細長状をなすように設けられている。
【0024】
[導電コンタクトについて]
上述したように導電コンタクト12は、絶縁ハウジング11のコネクタ後端側に設けられた部品取付口11cから「コネクタ前方」(図6の左方側)に向かって挿入されて装着されているが、そのようにして絶縁ハウジング11の内部に装着された各導電コンタクト12は、媒体挿入口11aを通して絶縁ハウジング11の内部に挿入された信号伝送媒体(FPC又はFFC等)Fの配線パターンに対応した位置に配置されている。それらの信号伝送媒体Fに形成された配線パターンは、信号伝送用導電路(信号線パッド)又はシールド用導電路(シールド線パッド)を適宜のピッチ間隔で配置したものである。
【0025】
すなわち、各導電コンタクト12は、信号伝送媒体(FPC又はFFC等)Fの挿入・抜去の方向(図6の左右方向)であるコネクタ前後方向に沿って略平行に延在する一対の細長状ビーム部材からなるコンタクト上ビーム12a及びコンタクト下ビーム12bをそれぞれ有している。これらのコンタクト上ビーム12a及びコンタクト下ビーム12bは、上述した絶縁ハウジング11の内部空間において図示上下方向に適宜の間隔をなして互いに対向するように配置されている。そのうちのコンタクト下ビーム12bは、前記絶縁ハウジング11の底面板の内壁面に沿って後端側部分が略不動状態となるように固定されているとともに、当該コンタクト下ビーム12bの先端部分は、信号伝送媒体Fの挿入を容易化する等の目的で、前記絶縁ハウジング11の底面板の内壁面から浮き上がるように上方に沿った形状になされており、上下方向に適宜の量だけ弾性変位可能な構成になされている。
【0026】
また、そのコンタクト下ビーム12bの図示上方位置に略平行に延在するコンタクト上ビーム12aは、後端部分に配置された連結支柱ビーム12cを介してコンタクト下ビーム12bに一体的に連結されている。その連結支柱ビーム12cは、細幅の柱状部材から形成されており、当該連結支柱ビーム12cの図示上端部分に連結されたコンタクト上ビーム12aは、連結支柱ビーム12cの弾性可撓性に基づいて、上述したコンタクト下ビーム12bに対して弾性変位可能となるように構成されており、コンタクト上ビーム12aが、連結支柱ビーム12c又はその近傍を回動中心として揺動可能となるように構成されている。そのときのコンタクト上ビーム12aの揺動は、図6の紙面内において上下の方向に行われることとなる。
【0027】
また、上述したコンタクト上ビーム12aの前端側部分(図6の左端側部分)には、信号伝送媒体(FPC又はFFC等)Fの図示上面側に形成された配線パターン(信号伝送用又はシールド用の導電路)のいずれかに接続される上端子接触凸部12a1が図示下向きの突形状をなすように設けられている。
【0028】
一方、コンタクト下ビーム12bは、前述したように絶縁ハウジング11の底面板の内壁面に沿ってコネクタ前後方向に延在するように配置されているが、それらのコンタクト下ビーム12bにおける前方側部分(図6の左方側部分)には、信号伝送媒体(FPC又はFFC等)Fの図示下面側に形成された配線パターン(信号伝送用又はシールド用の導電路のいずれか)に接続される下端子接触凸部12b1が図示上向きの突形状をなすように設けられている。これらの下端子接触凸部12b1は、上述したコンタクト上ビーム12a側の上端子接触凸部12a1の図示直下位置に対面するように配置されている。
【0029】
これらの導電コンタクト12に設けられた上端子接触凸部12a1及び下端子接触凸部12b1は、上述したように信号伝送媒体Fが絶縁ハウジング11の内部に挿入されて来た際に、当該信号伝送媒体Fに設けられた配線パターン上に乗り上げる配置関係になされており、その信号伝送媒体Fが所定の最終位置まで挿入されたときに、コンタクト上ビーム12a、及びコンタクト下ビーム12bの弾性力によって圧接されることにより、それらの上端子接触凸部12a1と下端子接触凸部12b1との間に信号伝送媒体Fが挟持されて電気的に接続された状態に維持される構成になされている。
【0030】
なお、これらのコンタクト上ビーム12aの上端子接触凸部12a1、及びコンタクト下ビーム12bの下端子接触凸部12b1は、コネクタ前後方向における互いの位置を、コネクタ前方側(図4の左方側)或いはコネクタ後方側(図4の右方側)にずらして配置することも可能であり、また、電気的に接続される状態になされるのは、上端子接触凸部12a1、あるいは下端子接触凸部12b1のいずれか一方でも良い。
【0031】
また、上述した各コンタクト下ビーム12bの後端側部分(図6右端側部分)、すなわち連結支柱ビーム12cの下端部分には、主印刷配線基板(図示省略)上に形成された導電路に半田接続される基板接続部12b2がそれぞれ設けられている。
【0032】
[ワンアクションオートロック機構について]
本実施形態にかかる電気コネクタ10は、前述したようにワンアクションオートロック機構を備えたものであるが、その前提として信号伝送媒体(FPC又はFFC等)Fの端末部分には、特に図1に示されているように、幅方向両側の端縁部分に、切り欠き状の凹部からなる係合位置決め部Fa,Faが形成されている。そして、この信号伝送媒体Fに設けられた係合位置決め部Fa,Faに対応して電気コネクタ10側には一対の係止ロック部13a,13aが設けられており、それらの係止ロック部13a,13aの係止作用(ロック作用)によって、信号伝送媒体Fが挿入を完了した位置で略不動状態に保持される構成になされている。
【0033】
[ロック部材について]
上述したように両係止ロック部13a,13aは、絶縁ハウジング11のコネクタ長手方向における両端部分に配置されたロック部材13,13’の一部をなすように構成されている。なお、ロック部材13と13’とは左右対称形状の関係となっていることから、以下、正面左方側に配置されたロック部材13についてのみの説明を行い、他方のロック部材13‘については説明を省略することとする。
【0034】
より具体的には、ロック部材13の一部を構成する金属製の長尺帯状部材からなるロックアーム部13bの一端部に係止ロック部13aが形成されている。そして、電気コネクタ10の内部に信号伝送媒体(FPC又はFFC等)Fが差し込まれた際に、各ロックアーム部13bに設けられた係止ロック部13aの頂部に信号伝送媒体Fが乗り上げ、それによってロックアーム部13bが下方に弾性変位した状態で信号伝送媒体Fの挿入が更に行われると、ロックアーム部13bの弾性反発力によって係止ロック部13aが、信号伝送媒体Fの係合位置決め部Faの内部に向かって押し上げられ、その結果、係合状態(ロック状態)になされる。
【0035】
このときの各ロックアーム部13bは、特に図7及び図8に示されているような薄板帯状をなして延在する可撓性の一体折曲げ構造体から構成されている。より具体的には、そのロックアーム部13bの延在方向における途中部分には、側面視において略U字状の折返し部13b1が形成されており、その折返し部13b1又はその近傍部分を中心として、当該ロックアーム部13bが弾性変位可能となるように形成されている。このロックアーム部13bの折返し部13b1は、絶縁ハウジング11内の後端側部分に収容されているとともに、その折返し部13b1から上下一対のビーム13b2,13b3が、コネクタ前方側(図9の左方側)に向かって二股状をなすように延出している。
【0036】
上述したロックアーム部13bの折返し部13b1から延出する上アーム13b2及び下アーム13b3は、それぞれ略水平及び斜め下方に向かって片持ち状に延出する可撓性部材からなり、その折返し部13b1から延出する一方側の部分を構成する上アーム13b2の前端部(図9の左端部)には、上述した係止ロック部13aが設けられている。その上アーム13b2の自由端部分に設けられた係止ロック部13aは、上述した折返し部13b1又は上アーム13b2がコネクタ上下方向に弾性変位することによって、コネクタ上下方向に往復移動されるように構成されている。
【0037】
さらに、ロックアーム部13bの折返し部13b1から延出する他方側の部分を構成する下アーム13b3は、前記折返し部13b1から斜め下方側に向かって延出しているが、当該下アーム13b3の延出方向における前端部(図9の左端部)には、絶縁ハウジング11の底壁面に当接する支持部13cが設けられている。この支持部13cは、絶縁ハウジング11の底壁面に対して滑動可能に当接する下方側突状形状をなすように形成されている。この絶縁ハウジング11の底壁面に対する支持部13cの滑動は前後方向に行われるが、後述するロック解除操作により折返し部13b1が下方に圧縮された際には、支持部13cが前方側に向かって滑動される構成になされている。そして、ロック解除操作が必要量にわたって行われることで支持部13cが前方側に所定量だけ滑動した際には、当該支持部13cに設けられた解除検知凹部13c1が、絶縁ハウジング11の底壁面に設けられた解除検知凸部11fに係合し、それら両解除検知部13c1,11f同士が係合した際に発生する、いわゆるクリック感によって、後述するロック解除操作の完了が作業者に認識されるようになっている。
【0038】
なお、ロック部材13を側面視した場合、支持部13cを先端部分に有する下アーム13b3は、ロックアーム部13bの折返し部13b1から係止ロック部13aの方向に延出しており、折返し部13b1と係止ロック部13aの略中央部分に支持部13cが位置している。すなわち、本実施形態における支持部13cは、後述するロック解除操作部11dによりロックアーム部13bの押圧が行われる位置の直下ではなく、そのロック解除操作部11dの押圧位置から前方寄りの位置である係止ロック部13a側に位置ズレした位置に配置された構成になされている。
【0039】
また、上述した上アーム13b2の後端側部分、つまり折返し部13b1の近傍には、コネクタ長手方向の両側方向に張り出すようにして一対の固定片13b4,13b4が設けられており、それら一対の固定片13b4,13b4が、後述するようにして絶縁ハウジング11の壁部に差し込まれていることにより、ロック部材13全体の固定が行われている。それらの各固定片13b4の前方側には、絶縁ハウジング11の内壁に当接される下降段差部13b5が形成されており、その下降段差部13b5から、上述した上アーム13b2の主体部分が前方側に向かって片持ち状をなすように延出する構成になされている。
【0040】
[係止ロック部について]
上述した係止ロック部13aは、側面視において楔形状をなすように形成されており、その係止ロック部13aの前方側部分には、当該係止ロック部13aの前端部から後方側に向かって斜め上方に延出する傾斜案内面13a1が形成されている。この傾斜案内面13a1は、信号伝送媒体(FPC又はFFC等)Fの挿入時に、当該信号伝送媒体Fの挿入側先端部が前方側から上方に向かって乗り上げるように当接する傾斜平面からなり、その当接時に生じる下方側分力によって係止ロック部13aが、ロックアーム部13bの弾性に抗して下降するように移動される構成になされている。
【0041】
さらに、上述したようにして信号伝送媒体(FPC又はFFC等)Fが、係止ロック部13aの傾斜案内面13a1に乗り上げた状態から、図9に示されているように、信号伝送媒体Fがコネクタ後方側の最終位置に差し込まれたときには、ロックアーム部13bの弾性復帰力によって係止ロック部13aが、信号伝送媒体Fの係合位置決め部Faの内部に向かって押し上げられるように移動していき、係合状態(ロック状態)になされるように構成されている。
【0042】
[ロック解除操作部について]
また、上述した絶縁ハウジング11のコネクタ長手方向の両端部分の平面部分には、ロック解除操作部11dが、絶縁ハウジング11の上面部分を片持ち状に切り欠くようにして形成されている。このロック解除操作部11dは、絶縁ハウジング11の本体部に対して可撓性連結部11eを介してコネクタ後方側に一体的に延出する片持ち状部材から形成されており、コネクタ上下方向に弾性変位するように形成されている。
【0043】
また、そのロック解除操作部11dは、上述したロックアーム部13bの折返し部13b1の上方から接触するように配置されており、そのロックアーム部13bに設けられた一対の固定片13b4,13b4が、ロック解除操作部11dの壁部に差し込まれて固定状態になされている。
【0044】
そして、図10に示されるように、ロック解除操作部11dが、手作業もしくは簡易的な治具を用いて押し下げられることにより、ロックアーム部13bの折返し部13b1が下方に圧縮されるように押し下げられる。このように解除操作の初期段階においては、ロック解除操作部11dにより直接的に押圧されるロックアーム部13bの折返し部13b1が押し縮められるように変形し、ロックアーム部13bの折返し部13b1のみが下方に変位する。従って、この解除操作の初期段階における係止ロック部13aは、信号伝送媒体(FPC又はFFC等)Fに係合された状態のままに維持される。
【0045】
特に、本実施形態においては、ロック解除操作部11dが、解除操作時に可撓性連結部11eを介して下方に回動するように移動して傾斜状態になされることから、当該ロック解除部11dの傾斜状態に従ってロックアーム部13bが傾斜状態になされ、ロックアーム部13bの折返し部13b1のみ変位し、ロック解除操作の初期段階における係止ロック部13aの係合状態が良好に維持される構成になされている。
【0046】
さらに、ロック解除操作部13aへの押圧が継続されて、一定量を超えて押し下げられたときには、図11に示されているように、ロックアーム部13bの折返し部13b1の圧縮変形が完了した後に係止ロック部13aが下方変位を開始し、それによって信号伝送媒体(FPC又はFFC等)Fから係止ロック部13aが下方に離脱してロック状態が解除される。
【0047】
このような構成を有する本実施形態によれば、ロック解除操作部11dを下方に押圧操作してロックアーム部13bを弾性変形させることにより、信号伝送媒体(FPC又はFFC等)Fから係止ロック部13aがワンタッチで解除されることとなるが、そのようなワンタッチ解除操作が行われる初期段階においては、ロック解除操作部11dにより直接的に押圧されるロックアーム部13bの折返し部13b1自体が押し縮められて当該折返し部13b1の隙間が縮小されるように変形が行われることから、ロックアーム部13bの折返し部13b1のみが変位し、係止ロック部13aは、信号伝送媒体Fに係合された状態のままに維持される。従って、例えば誤ってロック解除操作部11dに触るなどしてロック解除操作部11dが僅かに押し下げられただけでは、係止ロック部13aの解除が行われることはない。
【0048】
これに対して、正常なロック解除操作が行われて、ロック解除操作部11dが一定量を超えて押圧された場合には、ロックアーム部13bの折返し部13b1の圧縮変形が完了した後に係止ロック部13aが通常の変位を開始し、それによって信号伝送媒体Fから係止ロック部13aが離脱してロック状態が解除される。
【0049】
このとき、本実施形態においては、ロック解除操作部11dが押圧された際に支持部13cが絶縁ハウジング11の底壁面に沿って移動し、しかもロック解除操作部11dによる押圧位置と係止ロック部13aとの間部分が傾斜するように変位するようになされているため、特に、ロック解除操作の初期段階における係止ロック部13aの係合状態が良好に維持されるようになっている。
【0050】
以上、本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形可能であるというのはいうまでもない。
【0051】
例えば、上述した各実施形態では、電気コネクタに固定される信号伝送媒体として、フレキシブル・プリンテッド・サーキット(FPC)、及びフレキシブル・フラット・ケーブル(FFC)を採用しているが、その他の信号伝送用媒体等を用いた場合に対しても本発明は同様に適用することができる。
【0052】
さらに、上述した実施形態にかかる電気コネクタには、同一形状の導電コンタクトが用いられているが、異なる形状の導電コンタクトを交互に配置した構造であっても本発明は同様に適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、各種電気機器に使用する多種多様な電気コネクタに対して広く適用することが可能である。
【符号の説明】
【0054】
10 電気コネクタ
11 絶縁ハウジング
11a 媒体挿入口
11b 媒体挿入通路
11c 部品取付口
11d ロック解除操作部
11e 可撓性連結部
11f 解除検知凸部
12 導電コンタクト
12a コンタクト上ビーム
12a1 上端子接触凸部
12b コンタクト下ビーム
12b1 下端子接触凸部
12b2 基板接続部
12c 連結支柱ビーム
13,13’ ロック部材
13a 係止ロック部
13a1 傾斜案内面
13b ロックアーム部
13b1 折返し部
13b2 上アーム
13b3 下アーム
13b4 固定片
13b5 下降段差部
13c 支持部
13c1 解除検知凹部
F 信号伝送媒体
Fa 係合位置決め部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁ハウジングの内部に挿入された信号伝送媒体の端末部分に係合することによって前記信号伝送媒体を略不動状態に保持する係止ロック部が、弾性変位可能な可撓性部材からなるロックアーム部材の一部分に設けられているとともに、
前記ロックアーム部材の他の部分が、ロック解除操作部により押圧されて前記ロックアーム部材を弾性変位させることで、前記係止ロック部が前記信号伝送媒体から離脱されるように構成された電気コネクタにおいて、
前記ロックアーム部材が、当該ロックアーム部材の途中部分に折返し部を有する帯状部材からなり、
そのロックアーム部材が前記折返し部から延出する一方側の部分に前記係止ロック部が設けられているとともに、当該ロックアーム部材が前記折返し部から延出する他方側に前記絶縁ハウジングに当接する支持部が設けられたものであって、
前記ロック解除操作部が、前記ロックアーム部材の折返し部又はその近傍を押圧するように構成されていることを特徴とする電気コネクタ。
【請求項2】
前記支持部が、前記絶縁ハウジングの壁面に対して滑動可能に当接する突状形状をなすように形成されていることを特徴とする請求項1記載の電気コネクタ。
【請求項3】
前記支持部、及び前記絶縁ハウジングの壁面には、前記支持部が所定量だけ滑動した際に係合する解除検知部が設けられていることを特徴とする請求項2記載の電気コネクタ。
【請求項4】
前記支持部が、前記ロックアーム部材に対して前記ロック解除操作部が押圧する位置から前記係止ロック部側に位置ズレした位置に配置されていることを特徴とする請求項2記載の電気コネクタ。
【請求項5】
前記ロック解除操作部が、前記絶縁ハウジングから連結部を介して一体的に延出する片持ち状部材から形成されていることを特徴とする請求項1記載の電気コネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−110046(P2013−110046A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255717(P2011−255717)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(592028846)第一精工株式会社 (94)
【Fターム(参考)】