説明

電気亜鉛めっき鋼板の製造方法

【課題】無機物や有機物などの添加剤を用いず、白色度の高い電気亜鉛めっき鋼板を製造する方法を提供する。
【解決手段】Znを0.5mol/L以上、HSOを70g/L超含有する硫酸酸性亜鉛めっき浴を用いる。そして、電流密度100A/dm未満で、鋼板を陰極として電気亜鉛めっき処理する。めっき浴中に含有するHSOは好ましくは75g/L以上、さらに好ましくは90g/L以上である。また、50A/dm2以下の電流密度で電気亜鉛めっき処理することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白色度の高い電気亜鉛めっき鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気亜鉛めっき鋼板は、皮膜の均一性および外観に優れていることから、自動車、家電、建材用途等に広く用いられている。
【0003】
無塗装で使用される各種化成処理電気亜鉛めっき鋼板では、表面外観に優れることが要求される。要求項目としては、ムラ等の表面欠陥が無いことに加え、白色度が高いことが挙げられる。そこで、現在、白色度の高い化成処理電気亜鉛めっき鋼板を得ることのできる製造方法が求められている。
【0004】
鋼板の白色度は、めっき後の化成処理により白色度は低下するものの、化成処理前のめっき層の表面状態に大きく依存する。そのため、電気亜鉛めっき条件の適正化を図ることで、白色度の向上を図る技術が数多く開発されている。なお、電気亜鉛めっき鋼板の白色度の指標としては、通常、明度(L値)が用いられている。
【0005】
白色度の高い電気亜鉛めっき鋼板を製造する従来技術としては、以下の方法が提案されている。
【0006】
特許文献1には、めっき浴中の硫酸ナトリウムおよび硫酸アンモニウムを40g/L以下、無水硫酸を30〜60g/L、Znを 75〜130g/L、Niを 50〜250ppm、Feを 200〜3000ppm、Sn を0.01〜5ppmとし、電流密度 70〜600A/dm2でめっき処理を行う亜鉛めっき鋼板の製造方法が開示されている。
【0007】
特許文献2、3には、めっき浴に有機物を添加する技術が記載されている。
【0008】
また、高電流密度で高い白色度を維持する技術として、以下の方法が提案されている。
特許文献4には、電流密度400〜5000A/dm2であり、電導度補助剤を添加せず、高温かつ高流速で、低pHのめっき浴を用いて電気亜鉛めっき処理を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11-200087号公報
【特許文献2】特開平8-74089号公報
【特許文献3】特開平10-287992号公報
【特許文献4】特開平6-336691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1では、めっき皮膜中にFe、Ni、Snが共析し、めっき皮膜の耐食性が劣化するなど亜鉛めっき本来の特性が変化してしまう。また、特許文献1の技術ではH2SO4濃度が低いため、高白色度を得るにはFe、Ni、Snの添加が必要である。
【0011】
特許文献2、3では、電気めっき処理時に電流効率が低下する、不溶性アノードの寿命が短くなる、又はめっき皮膜中に有機物が共析してめっき皮膜の硬度が上昇してしまう等の問題がある。
【0012】
特許文献4では、高電流密度域で外観を維持するための技術であり、現行の低電流密度域において白色度を上昇させる技術ではない。また、電流密度が100A/dm2より大きい場合、H2SO4濃度増加による白色化の効果は観測されない。
【0013】
以上のように、従来技術では、めっき皮膜の白色化を目指しめっき浴中に無機物もしくは有機物を添加するため、それらがめっき皮膜に共析してしまい、めっき本来の特性が失われる、電流効率が低下するなどの欠点があった。
【0014】
本発明は、かかる事情に鑑み、無機物や有機物などの添加剤を用いず、白色度の高い電気亜鉛めっき鋼板を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた。その結果、Zn濃度、硫酸濃度を適正範囲に制御しためっき浴を用いて所定の電流密度で電気亜鉛めっき処理することで白色度の優れた電気亜鉛めっき鋼板を製造できることを見出した。
【0016】
本発明は、以上の知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
[1] 鋼板を陰極として電気亜鉛めっき処理を施すことにより電気亜鉛めっき鋼板を製造する電気亜鉛めっき鋼板の製造方法において、Znを0.5mol/L以上、HSOを70g/L超含有する硫酸酸性亜鉛めっき浴を用いて、電流密度100A/dm未満で電気亜鉛めっき処理することを特徴とする電気亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[2]鋼板を陰極として電気亜鉛めっき処理を施すことにより電気亜鉛めっき鋼板を製造する電気亜鉛めっき鋼板の製造方法において、Znを0.5mol/L以上、HSOを75g/L以上含有する硫酸酸性亜鉛めっき浴を用いて、電流密度100A/dm未満で電気亜鉛めっき処理することを特徴とする電気亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[3]鋼板を陰極として電気亜鉛めっき処理を施すことにより電気亜鉛めっき鋼板を製造する電気亜鉛めっき鋼板の製造方法において、Znを0.5mol/L以上、HSOを90g/L以上含有する硫酸酸性亜鉛めっき浴を用いて、電流密度100A/dm未満で電気亜鉛めっき処理することを特徴とする電気亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[4]前記めっき浴のSnの含有量が0.01質量ppm未満であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の電気亜鉛めっき鋼板の製造方法。
[5]前記電流密度が50A/dm以下であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の電気亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、亜鉛以外の無機物や有機物の共析によりめっき特性を低下させることなく、また電気めっき時に電流効率の低下を生じることなく、L値が84以上の白色度が高い電気亜鉛めっき鋼板が得られる。本発明では、無機物や有機物の添加剤を用いず、浴中のH2SO4濃度を増加させ、かつ電流密度を低く抑えることにより、めっき本来の特性を維持し、高い電流効率を維持したまま高白色度を達成したものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の対象とするめっき鋼板は、酸性浴を用いて電気亜鉛めっき処理することにより得られる電気亜鉛めっき鋼板である。性能面(耐食性、加工性、白色度等)と操業面のバランスから、めっき皮膜中の亜鉛含有量の好ましい範囲は98質量%以上である。
【0019】
そして、本発明では、前記電気亜鉛めっき鋼板を製造するにあたり、Znを0.5mol/L以上、HSOを70g/L超含有する硫酸酸性亜鉛めっき浴を用いて、電流密度100A/dm未満で電気亜鉛めっき処理することとする。めっき浴中に含有するHSOは好ましくは75g/L以上、さらに好ましくは90g/L以上である。また、50A/dm2以下の電流密度で電気亜鉛めっき処理することが好ましい。これらは本発明の重要な要件である。
【0020】
以下に、本発明の詳細について説明する。
従来、電気亜鉛めっきの白色化には、無機物添加や有機物添加が検討されてきた。しかしいずれも問題点があり、発明者らは添加剤を用いない電気亜鉛めっきの白色化を目指して鋭意研究を重ねた。その結果、従来の電気亜鉛めっき浴と比べてH2SO4添加量を大幅に増加させ(現行電気亜鉛めっきラインでは約5 g/L)、かつ電流密度を低く制御することにより、白色度の高いめっき皮膜を得ることを可能とした。
本発明での白色化の原理は、以下のように考えられる。めっきの白色度は、表面の微細凹凸に大きく影響される。表面の微細凹凸が大きいほど、入射した光が多重反射によって減衰し、白色度は低下する。本発明では、強酸性のめっき浴を用いることにより析出した亜鉛結晶の凸部が僅かに溶解し、表面の微細凹凸が小さくなるため、結果的に白色度が上昇すると考えられる。
H2SO4濃度が70g/L超えであれば、L値が84以上となり十分な白色度が得られる。
よって、HSO濃度は70g/L超とする。白色度上昇効果をさらに得るには、好ましくは75g/L以上、より好ましくは90g/L以上である。H2SO4が90g/L以上であれば、L値を86以上とすることができる。一方、300g/L以下であれば、白色度の上昇効果が得られかつ、めっき電流効率が低下することがないので、好ましくは300g/L以下である。
Zn濃度は、0.5mol/L以上とする。0.5mol/L以上であれば、電解中に被めっき鋼板近傍の亜鉛イオンが不足せず、めっき焼けが生じることがない。一方、2.0mol/L以下とすれば、浴温低下時に硫酸亜鉛が析出することがないため、好ましくは2.0mol/L以下である。
【0021】
めっき浴の温度は、定温保持性を考えると、30℃以上が好ましい。上限は特に定めないが、温度上昇によりめっき浴の蒸発量が増えるので、90℃程度までが現実的であり好ましい。
【0022】
めっき浴に不可避的に侵入する不純物を少量含んでいても効果は奏される。ただし、Snを多量に含んでいると耐食性が劣化するため、Snは0.01質量ppm未満とするのが好ましい。
【0023】
本発明の電気亜鉛めっき鋼板は、以上からなるめっき浴を用いて、鋼板を陰極として電気亜鉛めっき処理する。
電流密度は100A/dm未満とする。電流密度が100A/dm2未満であれば、白色度の上昇効果が得られる。好ましくは、50A/dm2以下である。また、電流密度が10A/dm2より以上であれば、目標付着量のZnを電析させるために長時間を必要とせず、また効率が悪くならないため、好ましくは10A/dm2以上である。
【0024】
なお、電気亜鉛めっき処理を行うにあたって、上述しためっき浴および電流密度以外は特に限定しないが、以下の条件で行うことが好ましい。
電極(陽極)の種類は、特に限定するものではないが、めっき浴中への不純物の溶解を考慮すると、酸化イリジウム電極を用いることが好ましい。
めっき浴流速は1.0m/min以上が、電解界面の拡散層の薄膜化の観点から好ましい。
また、電気亜鉛めっき浴に不可避的に侵入する不純物等、何らかの元素が添加されている場合もあるが、本発明の効果が損なわれない限り適用可能である。
以上により、白色度に優れた電気亜鉛めっき鋼板が製造される。
なお、めっき付着量は、片面当たり5〜30g/m2が好ましい。5g/m2以上であれば、良好な耐食性が得られ、30g/m2以下であればコストが増加することがない。
【0025】
さらに、本発明の電気亜鉛めっき鋼板は、表面に化成処理皮膜、および/または有機樹脂を含有する塗膜を有することにより表面処理鋼板とすることもできる。
化成処理皮膜は、例えば、クロメート処理液またはクロムフリー化成処理液を塗布し水洗することなく鋼板温度として80〜300℃となる加熱乾燥処理を行うクロメート処理またはクロムフリー化成処理により形成できる。これら化成処理皮膜は単層でも複層でもよく、複層の場合には複数の化成処理を順次行えばよい。
【0026】
また、本発明の電気亜鉛めっき鋼板は用途に応じて、めっき層または化成処理皮膜の表面には有機樹脂を含有する単層又は複層の塗膜を形成することができる。この塗膜としては、例えば、ポリエステル系樹脂塗膜、エポキシ系樹脂塗膜、アクリル系樹脂塗膜、ウレタン系樹脂塗膜、フッ素系樹脂塗膜等が挙げられる。また、上記樹脂の一部を他の樹脂で変性した、例えばエポキシ変性ポリエステル系樹脂塗膜等も適用できる。さらに上記樹脂には必要に応じて硬化剤、硬化触媒、顔料、添加剤等を添加することができる。
【0027】
上記塗膜を形成するための塗装方法は特に規定しないが、塗装方法としてはロールコーター塗装、カーテンフロー塗装、スプレー塗装等が挙げられる。有機樹脂を含有する塗料を塗装した後、熱風乾燥、赤外線加熱、誘導加熱等の手段により加熱乾燥して塗膜を形成することができる。
ただし、上記表面処理鋼板の製造方法は一例であり、これに限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明する。
常法で製造した板厚0.7mmの冷延鋼板に対して、脱脂処理、酸洗処理を施し、次いで、表1に示すめっき浴組成、下記に示す条件で電気亜鉛めっき処理を行い、電気亜鉛めっき鋼板を製造した。なお、片面あたりの亜鉛めっき付着量は、亜鉛めっきを希塩酸で溶解し、溶解液中の亜鉛濃度をICP(Inductively Coupled Plasma)質量分析装置により測定し、付着量に換算して求めた。
電解条件
電流密度:表1に示す
浴温、亜鉛めっき付着量:表1に示す
電極:酸化イリジウム
流速:2.0m/sec
以上より得られた電気亜鉛めっき鋼板に対して、以下に示すように、明度(L値)、電流効率、耐食性を求め、評価した。
【0029】
明度(L値)
分光色差計(日本電色工業(株)製 SD5000)を用いてSCE(正反射光除去)により、JIS Z 8722:2009に準拠して、明度(L値)を測定し、以下のように評価した。
◎:86≦L値
○:85≦L値<86
△:84≦L値<85
×:L値<84
電流効率
亜鉛めっきを希塩酸で溶解し、溶解液中のZn濃度を原子吸光法で定量することによりめっき付着量(g/m2)を求め、電流効率を算出した。電流効率は、(めっき付着量)/(通電した電気量から算出しためっき付着量の理論値)×100(%)により求めた。
○:95%≦電流効率
△:90%≦電流効率<95%
×:90%<電流効率
耐食性
JIS Z 2371-2000に準じて塩水噴霧試験を行い、赤錆発生が面積率で5 %となる時間を調べた。
片面あたりの亜鉛付着量20 g/m2の5 %赤錆発生時間24 hrを基準とし、その80 %超の耐食性を示した試料は○、80 %以下(19.2hr以下)、70%超(16.8hr超)の耐食性を示した試料は△、70%以下(16.8hr以下)の耐食性を示した試料は×とした。亜鉛付着量10 g/m2では12hrを基準(△:9.6hr以下、8.4hr超)、亜鉛付着量5 g/m2では6hr(△:4.8 hr以下、4.2hr超)を基準とした。
【0030】
【表1】

【0031】
表1より、本発明例ではめっき特性(耐食性)を低下させることなく、また電気めっき時に電流効率の低下を生じることなく、L値が84以上の白色度が高い電気亜鉛めっき鋼板が得られているのがわかる。
一方、比較例では、L値が低い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板を陰極として電気亜鉛めっき処理を施すことにより電気亜鉛めっき鋼板を製造する電気亜鉛めっき鋼板の製造方法において、
Znを0.5mol/L以上、HSOを70g/L超含有する硫酸酸性亜鉛めっき浴を用いて、
電流密度100A/dm未満で電気亜鉛めっき処理することを特徴とする電気亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項2】
鋼板を陰極として電気亜鉛めっき処理を施すことにより電気亜鉛めっき鋼板を製造する電気亜鉛めっき鋼板の製造方法において、
Znを0.5mol/L以上、HSOを75g/L以上含有する硫酸酸性亜鉛めっき浴を用いて、
電流密度100A/dm未満で電気亜鉛めっき処理することを特徴とする電気亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項3】
鋼板を陰極として電気亜鉛めっき処理を施すことにより電気亜鉛めっき鋼板を製造する電気亜鉛めっき鋼板の製造方法において、
Znを0.5mol/L以上、HSOを90g/L以上含有する硫酸酸性亜鉛めっき浴を用いて、
電流密度100A/dm未満で電気亜鉛めっき処理することを特徴とする電気亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記めっき浴のSnの含有量が0.01質量ppm未満であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電気亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記電流密度が50A/dm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の電気亜鉛めっき鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2012−31451(P2012−31451A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170254(P2010−170254)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】