説明

電気光学装置及びその製造方法、電子機器

【課題】封止特性を向上させることができるとともに、電気的特性を向上させることができる電気光学装置及びその製造方法、電子機器を提供する。
【解決手段】陽極と陰極との間に正孔輸送層及び発光層が挟持されてなる複数の画素3を有する基板1と、基板1に対向配置され、基板1にシール剤層を介して接着される封止部材20とを備えた有機EL装置Sにおいて、基板1あるいは封止部材20上に光触媒層37A,37Bが形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気光学装置及びその製造方法、電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、情報機器の多様化等に伴い、消費電力が少なく軽量化された電子光学装置のニーズが高まっている。この様な電気光学装置の一つとして、有機発光層を備えた有機エレクトロルミネッセンス装置(以下、「有機EL装置」という)が知られている。このような有機EL装置は、陽極と陰極との間に発光層を備えた発光素子を備えたものが一般的である。さらに、正孔注入性や電子注入性を向上させるために、陽極と発光層の間に正孔輸送層を配置した構成や、発光層と陰極の間に電子輸送層を配置した構成が提案されている。
【0003】
このような有機EL装置にあっては、発光層、正孔輸送層、電子輸送層に用いられる材料は、大気中の酸素や水分等と反応し、劣化し易いものが多い。これらの層が劣化すると有機EL装置の劣化やダークスポット欠陥の発生、又は陰極が酸化されることにより生じる導電性低下等により、安定した発光特性が得られないだけでなく、発光寿命が短くなってしまう。したがって、このような有機EL装置おいては、水分や酸素等の侵入を防ぐことが課題となっている。
【0004】
そこで、発光素子の積層構造体の外表面に保護層を設けた後、シールドガラス内にシールド層を充填したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、積層構造体の全てを流動パラフィン若しくはパラフィンやシリコーンオイル等の絶縁性オイル等の不活性物質中に封じ込めるものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平5−89959号公報
【特許文献2】特開平5−129080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば、ライン状のプリンタヘッド(ラインヘッド)のような短冊状の細長い基板同士を貼り合わせする際、シール幅の形成可能領域が狭いため、基板と封止基板とを確実に貼り合わせ難いという問題がある。また、シール剤の塗布領域に汚れ等が付着していると、シール剤を確実に塗布することができないため、シール強度が大きく低下してしまうという問題がある。
【0006】
また、近年では、シール剤の形成領域を極力狭くさせて、携帯電話等に用いる表示体の小型化や、大型テレビ等に用いる表示体のコンパクト化等に対応させるような要請がある。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、封止特性を向上させることができるとともに、電気的特性を向上させることができる電気光学装置及びその製造方法、電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る電気光学装置は、一対の電極の間に電気光学層が挟持されてなる複数の画素を有する基板と、前記基板に対向配置され、前記基板にシール剤層を介して接着される封止部材とを備えた電気光学装置において、前記基板あるいは前記封止部材の少なくとも一方の前記シール剤層の形成領域に光触媒層が形成されていることを特徴とする。
この構成によれば、基板あるいは封止部材の少なくとも一方に光触媒層が形成されることで、光触媒の作用により光触媒層上が活性化され、有機物が酸化して除去される。これにより、光触媒層上の親液性を向上させることができるため、親液性が向上された光触媒層上にシール剤層が形成されることで、シール剤層のシール強度を向上させることができる。そのため、基板と封止基板とをシール剤層を介して接着することで封止特性を向上させることができる。したがって、画素内に大気中の酸素や水分等の侵入を防ぎ、画素の電気的特性を向上させることができるとともに、画素を長寿命化することができる。
また、シール強度を向上させることで、シール剤層の形成幅を縮小することができるため、シール剤層の形成可能領域が狭く、基板と封止部材とのシール強度が確保できない場合にも対応することができ、また、装置自体のコンパクト化を図ることができる。
【0009】
また、前記光触媒層は酸化チタンからなることが望ましい。
この構成によれば、バンドギャップエネルギーが高く、化学的に安定した光触媒層を形成することができる。
【0010】
また、前記光触媒層が前記基板と前記シール剤層との間、及び前記封止部材とシール剤層との間に形成されていることを特徴とする。
この構成によれば、基板と封止部材の双方のシール剤層の形成領域に光触媒層が形成されているため、基板と封止部材とのシール強度をさらに向上させることができる。
【0011】
一方、本発明に係る電気光学装置の製造方法は、一対の電極の間に電気光学層が挟持されてなる複数の画素を有する基板と、前記基板に対向配置され、前記基板にシール剤層を介して接着される封止部材とを備えた電気光学装置の製造方法であって、前記基板あるいは前記封止部材の少なくとも一方に光触媒層を形成する工程と、前記光触媒層上にシール剤層を塗布する工程と、前記シール剤層を介して前記基板と前記封止部材とを接着する工程とを有することを特徴とする。
この構成によれば、光触媒層上にシール剤層を介して基板と封止部材とを接着することで、封止特性を向上させることができるため、画素内に大気中の酸素や水分等が侵入することを防ぐことができる。また、画素の電気的特性を向上させることができるとともに、画素を長寿命化することができる。
また、シール剤層のシール強度を向上することができるため、シール剤層の形成幅を縮小することができる。これにより、シール剤層の形成可能領域が狭く、基板と封止部材とのシール強度が確保できない場合にも対応することができるとともに、装置自体のコンパクト化を図ることができる。
【0012】
また、前記シール剤層を形成する前に、前記光触媒層をUV洗浄する工程と、前記光触媒層をスピン洗浄する工程とを有することを特徴とする。
この構成によれば、光触媒層をUV洗浄した後、スピン洗浄することにより、その光触媒層の表面が活性化され、有機物が酸化して除去される。そして、光触媒層上にシール剤層を形成することで、シール剤層のシール強度を向上させることができる。
【0013】
また、前記シール剤層の形成材料は原料液を混合することで硬化させる樹脂材料であることが望ましい。
この構成によれば、光(紫外線)や熱を用いず硬化させることができるため、光や熱により生じる画素の損傷を防ぐことができる。
【0014】
また、前記光触媒層は酸化チタンからなることを特徴とする。
この構成によれば、バンドギャップエネルギーが高く、化学的に安定した光触媒層を形成することができる。
【0015】
また、前記シール剤層の塗布工程において、前記シール剤層の形成材料をジェットディスペンサー法により塗布することが望ましい。
また、前記シール剤層の塗布工程において、前記シール剤層の形成材料をディスペンサー法により塗布することが望ましい。
また、前記シール剤層の塗布工程において、前記シール剤層の形成材料をインクジェット法により塗布することが望ましい。
この構成によれば、光触媒層上にシール剤層の形成材料を確実に配置することができる。
【0016】
一方、本発明に係る電子機器は、上記電気光学装置を備えたことを特徴とする
この構成によれば、上記電気光学装置を電子機器に適用することで、電気的特性に優れた電気光学装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態につき、図面を参照して説明する。なお、この実施の形態は、本発明の一部の態様を示すものであり、本発明を限定するものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また、以下に示す各図においては、各層や各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各層や各部材ごとに縮尺を異ならせてある。
【0018】
<第1実施形態>
本発明の実施形態は、本発明の電気光学装置を有機EL装置(有機エレクトロルミネッセンス装置)に適用したものである。図1は第1実施形態に係る有機EL装置の断面図であり、図2(a)は図1に示す有機EL装置の基板側の平面図であり、(b)は封止部材側の平面図である。
図1、2に示すように、有機EL装置(電気光学装置)Sは、平面視長細い矩形状の基板1と、基板1上に設けられた複数の発光素子(画素)3と、基板1に対向配置され、発光素子3との間に封止空間2を形成しつつ、発光素子3を覆う封止部材20とを備えている。また、基板1の表面(能動面)1Aであって、封止部材20の外側には、発光素子3を駆動するための駆動回路31が集積されている。
【0019】
発光素子3は、基板1の表面1Aに形成された陽極4と、正孔輸送層(電気光学層)5と、発光層(電気光学層)6と、陰極7とを備えている。発光素子3の陽極4は、前述した駆動回路31と電気的に接続されている。また、図示しないが、発光素子3は、基板1の長手方向に沿って複数配列されており、この領域を画素領域10として構成している(図2(a)参照)。
【0020】
有機EL装置Sは、発光層6で発光した光を陽極4側から出射する、いわゆるボトムエミッション型であり、基板1は、透明あるいは半透明のものが採用される。例えば、透明なガラス、石英、サファイア、あるいはポリエステル、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリエーテルケトンなどの透明な合成樹脂などによって形成されている。特にガラス基板が好適に用いられる。
【0021】
陽極4は、印加された電圧によって正孔を正孔輸送層5に注入するものであり、ボトムエミッション型である本実施形態では、(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)などの透明導電膜により形成されている。なお、図示しないが、陽極4上には、二酸化珪素(SiO)等の絶縁性を有する無機物からなる無機隔壁が形成されており、複数の発光素子3を独立させて区分している。
【0022】
正孔輸送層5は、陽極4の正孔を発光層6へ注入/輸送するためのものである。正孔輸送層5の形成材料としては、特に3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(PEDOT/PSS)の水分散液が好適に用いられる。
なお、正孔輸送層5の形成材料としては、前記のものに限定されることなく種々のものが使用可能である。例えば、ポリスチレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレンやその誘導体などを、適宜な分散媒、例えば前記のポリスチレンスルフォン酸に分散させたものなどが使用可能である。
【0023】
発光層6は、陽極4から正孔輸送層5を経て注入された正孔と、陰極7から注入された電子とを結合して蛍光を発生させるものである。発光層6を形成するための材料としては、蛍光あるいは燐光を発光することが可能な公知の発光材料が用いられる。なお、本実施形態では、例えば発光波長帯域が赤色に対応した発光層が採用されるが、もちろん、発光波長帯域が緑色や青色に対応した発光層を採用するようにしてもよい。この場合、用いる感光体は、その発光領域に感度を持つものを採用する。
【0024】
発光層6の形成材料として具体的には、(ポリ)フルオレン誘導体(PF)、(ポリ)パラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリフェニレン誘導体(PP)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリチオフェン誘導体、ポリメチルフェニルシラン(PMPS)などのポリシラン系などが好適に用いられる。また、これらの高分子材料に、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素などの高分子系材料や、ルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクリドン等の低分子材料をドープして用いることもできる。
【0025】
また、発光層6と陰極7との間に電子輸送層を設けてもよい。電子輸送層は、発光層6に電子を注入する役割を果たすものである。電子輸送層を形成する材料としては、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン及びその誘導体、ベンゾキノン及びその誘導体、ナフトキノン及びその誘導体、アントラキノン及びその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタン及びその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン及びその誘導体、ジフェノキノン誘導体、8−ヒドロキシキノリン及びその誘導体の金属錯体などを用いることができる。
【0026】
陰極7は、発光層6を覆うように形成されたもので、発光層6へ効率的に電子注入を行うことができる仕事関数の低い金属、例えばアルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、金(Au)、銀(Ag)又はカルシウム(Ca)等の金属材料から形成されている。
また、図示しないが、発光素子3の陰極7も駆動回路31と電気的に接続されている。発光素子3の陽極4及び陰極7には、不図示の制御部より駆動回路31を介して駆動信号を含む電力が供給される。そして、陽極4と陰極7との間に電流が流れると、発光素子3が発光して透明な基板1の外面側に光が射出されることとなる。
【0027】
ここで、基板1の表面1Aであって、複数の発光素子3が形成された画素領域10の外側は、第1領域41(形成領域)として構成されている。第1領域41は、画素領域10の周囲を取り囲むように枠状に形成されている(図2(a)参照)。この第1領域41は、基板1と封止部材20とを貼り合わせる際の後述するシール剤層8の形成領域となる部位である。
【0028】
ここで、第1領域41上には、光触媒層37Aが形成されている。この光触媒層37Aは、光触媒の作用によりシール剤層8との親液性を向上させる層であり、封止部材20との貼り合わせを行う、第1領域41の全面に亘って形成される。光触媒層37Aの形成材料としては、例えば光半導体として知られる酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、酸化タングステン(WO)、酸化ビスマス(Bi)、酸化鉄(Fe)の様な金属酸化物を挙げることができ、特に酸化チタン(TiO)はバンドギャップエネルギーが高く、化学的に安定で毒性も無く、入手も容易であることから好適である。酸化チタンには、アナターゼ型、ルチル型、およびブルッカイト型があり、本発明ではいずれも使用することができるが、特にアナターゼ型が好ましい。
【0029】
アナターゼ型酸化チタンとしては、例えば、塩酸解膠型のアナターゼ型チタニアゾル(石原産業(株)製STS−02(平均粒径7nm)、石原産業(株)製ST−K01)、硝酸解膠型のアナターゼ型チタニアゾル(日産化学(株)製TA−15(平均粒径12nm))等を挙げることができる。
【0030】
一方、封止部材20は、断面視下向きコ状に形成されており、基板1との間で封止空間2を形成している。封止部材20は、前述した基板1の第1領域41と同様に、シール剤層8が形成される第2領域(形成領域)42を有している。第2領域42は、封止部材20の下端面の周縁に設定されており、第1領域41と対向している。つまり、第1領域41と第2領域42とがシール剤層8を介して貼り合わせられることによって、平板状の基板1と封止部材20との間で、発光素子3を封止する封止空間2が形成される。
【0031】
封止部材20は、外部空間から封止空間2に対して、水分及び酸素等を含む大気が侵入することを遮断するものである。封止部材20を形成するための形成材料としては、所望の封止性能を有していれば特に限定されず、例えばガラスや石英、合成樹脂、あるいは金属など水分透過率の小さい材料を用いることができる。ガラスとしては、例えば、ソーダ石灰ガラス、鉛アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸ガラス、シリカガラスなどを用いることができる。合成樹脂としては、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリエーテルケトンなどの透明な合成樹脂などを用いることができる。金属としては、アルミニウムやステンレス等を用いることができる。
【0032】
封止空間2にはゲッター剤と呼ばれる乾燥剤9が設けられている。乾燥剤9は、封止部材20のうち、基板1の表面1Aと対向する天井面20Bに設けられている。この乾燥剤9により、発光素子3の水分等による劣化が抑制され、良好な封止性能を長期間維持することができる。
【0033】
乾燥剤9としては、封止空間2において所望の乾燥機能(吸湿機能)を有していれば特に限定されないが、例えば、シリカゲル、ゼオライト、活性炭、酸化カルシウム、酸化ゲルマニウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、五酸化リン、塩化カルシウムなどを用いることができる。
【0034】
また、封止部材20の下端面、つまり第2領域42の表面には、光触媒層37Bが形成されている。この光触媒層37Bは、前述した基板1の第1領域41の表面に形成された光触媒層37Aと同様の形成材料からなり、光触媒の作用によりシール剤層8との親液性を向上させる層である。
【0035】
シール剤層8は、光触媒層37A,37Bが形成された第1領域41及び第2領域42の全域に設けられる。シール剤層8としては、安定した接着強度を維持することができ、気密性が良好なものであれば特に限定されない。本実施形態のシール剤層8は、原料液を混合することで時間経過により硬化する樹脂材料であり、例えば、アクリル系樹脂材料やエポキシ系樹脂材料等からなる。これにより、基板1と封止部材20とを貼り合わせる際に紫外線(UV)や熱を用いず貼り合わせることができるため、発光素子3のダメージを防ぐことができる。
【0036】
以上のように、所定方向を長手方向とする平面視略長方形状に形成された有機EL装置Sは、例えば感光体(感光ドラム)に対して光を照射する光書き込みヘッド等に好適に用いることができる。
【0037】
<製造方法>
次に、図3,4に基づいて、上述した構成を有する有機EL装置Sの製造方法について説明する。図3,4は有機EL装置の製造方法の工程図であり、図3は基板側、図4は封止部材側を示す。また、以下で説明する製造工程の一部は、発光素子3の劣化を防ぐために、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気下で行われる。
【0038】
図3(a)に示すように、基板1の表面(能動面)1Aに陽極4を形成した後、光触媒層37Aを形成する。なお、図3には図示しないが、基板1の表面1Aには、既に駆動回路31が形成されている。具体的には、チタン(Ti)に酸素(O)を混合しながらスパッタ法により酸化チタン(TiO)の層を成膜する。その後、フォトリソグラフィ技術により露光、現像したレジストマスクを介して酸化チタン(TiO)層をエッチングし、基板1の画素領域10(図1,2参照)形成領域の周囲を取り囲む第1領域41上以外の酸化チタンの層を除去するようにパターニングする。
【0039】
続いて、酸化チタン(TiO)の層が成膜された基板1をUV洗浄する。具体的には、光触媒層37Aの表面に向けて露光用の光、例えば紫外線(UV光)を照射し、露光を行う(図3(a)中矢印)。このような露光に用いる光源としては、水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプなどの従来公知のものが使用される。
また、露光に際しての光の照射量については、酸化チタン(TiO)の表面を光触媒の作用によって特性を変化させるのに必要な照射量とする。
【0040】
これにより、第1領域41上に形成された光触媒層37Aの表面が活性化されるため、光触媒層37Aの表面に存在する有機物が酸化されて除去される。そして、光触媒効果で生成した正孔によって表面の酸素原子が脱離して酸素欠乏状態となる。ここで基板1を超純水スピン洗浄することで、水酸基を吸着させて表面の水酸基密度を上昇させる。
その結果、第1領域41の光触媒層37A上の親液性を向上させることができる。なお、光触媒層37Aの酸化チタン(TiO)は、チタン(Ti)をパターニングして積層させ、その後、熱酸化によって形成してもよい。
【0041】
次に、図3(b)に示すように、陽極4上に正孔輸送層5を形成する。具体的には、ジェットディスペンサー法や、ディスペンサー法、インクジェット法等の非接触塗布法により、正孔輸送層5の形成材料を塗布する。その後、乾燥処理および熱処理を行い、陽極4上に正孔輸送層5を形成する。
【0042】
次に、図3(c)に示すように、正孔輸送層5上に発光層6を形成する。具体的には、正孔輸送層5の形成方法と同様にジェットディスペンサー法や、ディスペンサー法、インクジェット法等の非接触塗布法により、発光層6の形成材料を塗布する。その後、乾燥処理および熱処理を行い、正孔輸送層5上に発光層6を形成する。
【0043】
次に、図3(d)に示すように、発光層6上に陰極7を形成する。具体的には、蒸着法、スパッタ法、CVD法等で形成することができる。特に蒸着法で形成することが、熱による発光層6の損傷を防止できる点で好ましい。
【0044】
次に、封止部材20側について説明する。
まず、図4(a),(b)に示すように、封止部材20の下端面の周縁における第2領域42に光触媒層37Bを形成する。具体的には、基板1側に形成された光触媒層37Aと同様の方法で形成する。
【0045】
次に、図4(c)に示すように、封止部材20の天井面20Bに乾燥剤9を形成する。具体的には、乾燥剤9の形成材料を液状体にし、イエローライト下窒素中で、その液状体をジェットディスペンサー法やディスペンサー法、インクジェット法等の非接触塗布法を用いて定量的に吐出する。これにより、所望領域に乾燥剤9の形成材料を塗布することができる。
【0046】
次に、図4(d)に示すように、封止部材20の光触媒層37B上にシール剤層8を塗布する。具体的には、封止部材20に乾燥剤9が形成された後、上述の乾燥剤9の形成方法と同様に、イエローライト下窒素中で、ジェットディスペンサー法やディスペンサー法、インクジェット法等の非接触塗布法を用いることができる。そして、封止部材20の光触媒層37B上にシール剤層8の形成材料を所定のパターンで塗布する。このように、非接触塗布法を用いることで、第2領域42の光触媒層37B上にシール剤層8の形成材料を確実に配置することができる。
【0047】
次に、基板1と封止部材20とを貼り合わせる。具体的には、封止部材20の光触媒層37B上にシール剤層8が塗布された後、この封止部材20の第2領域42と基板1の第1領域41とをシール剤層8を介して貼り合わせる。この時、本実施形態におけるシール剤層8の形成材料は、アクリル系合成樹脂と、エポキシ系合成樹脂とが混合されているため、光(紫外線)や熱を必要とせず、圧着するのみで貼り合わせることができる。これにより、発光素子3にダメージを与えることなく基板1と封止部材20とを貼り合わせることができる。
以上により、有機EL装置Sが完成する(図1参照)。
【0048】
このように、本実施形態では、基板1の第1領域41と封止部材20の第2領域42に光触媒層37A,37Bが形成されている構成とした。この構成によれば、この光触媒層37A,37BをUV洗浄した後、超純水スピン洗浄することで、光触媒層37A,37Bの表面が活性化され、有機物が酸化して除去される。つまり、この光触媒層37A,37B上にシール剤層8を形成することで、シール剤層8のシール強度を向上させることができる。そして、このシール剤層8を介して、基板1と封止部材20とを接着することで封止特性を向上させることができる。
これにより、発光素子3内に大気中の酸素や水分等が侵入することを防ぎ、有機EL装置Sの電気的特性を向上させることができるとともに、長寿命化することができる。
【0049】
また、シール剤層8のシール強度を向上することができるため、シール剤層8の形成幅を縮小することができる。これにより、シール剤層8の形成可能領域が狭く、基板1と封止部材20とのシール強度が確保できない場合にも対応することができるとともに、有機EL装置S自体のコンパクト化を図ることができる。さらに、デザインの自由度を向上させることができる。
また、1枚のマザー基板から取れるパネル数も増やすことができ材料効率を向上させて製造コストを低減させることができる。
【0050】
<第2実施形態>
次に、図5に基づいて、本発明の第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同様となる部分については、その詳細な説明を省略する。図5は、本発明の第2実施形態に係る有機EL装置の断面図である。
第1実施形態の有機EL装置(電気光学装置)は、発光素子3を封止部材20により取り囲んで封止するいわゆる缶封止構造であったのに対して、第2実施形態の有機EL装置(電気光学装置)Sは、基板1に対向配置された封止基板(封止部材)200を用いて封止している点で第1実施形態と相違している。
【0051】
図5に示すように、有機EL装置Sは、発光層6で発光した光を陽極4側から出射する、ボトムエミッション型が採用されており、したがって基板1には、前述した透明基板が用いられている。なお、発光層6で発光した光を陰極7側から出射する、いわゆるトップエミッション型である場合には、この基板1の対向配置された後述する封止基板200側から発光光を取り出す構成となるので、基板1は、透明基板及び不透明基板のいずれも用いることができる。不透明基板としては、例えば、アルミナ等のセラミックス、ステンレススチール等の金属シートに表面酸化などの絶縁処理を施したものの他に、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などが挙げられる。
【0052】
基板1の表面1Aには、複数の発光素子3が形成されており、複数の発光素子3が形成された画素領域10を覆うように、熱硬化性樹脂からなる有機緩衝層18が形成されている。この有機緩衝層18は、発光素子3の表面の凹凸部分を埋めるように形成され、その上面は略平坦に形成される。有機緩衝層18は、基板1の反りや体積膨張により発生する応力を緩和する機能を有する。
【0053】
基板1の表面には、有機緩衝層18の周囲を取り囲むように光触媒層37Aが形成されている。この光触媒層37Aは、第1実施形態と同様に、シール剤層8を形成する第1領域41(形成領域)上に第1実施形態と同様の材料、形成方法から形成される。なお、有機緩衝層18を覆うように、二酸化珪素(SiO)等からなるガスバリア層を形成してもよい。ガスバリア層は、発光素子3内に酸素や水分が侵入するのを防止するためのものであり、これにより酸素や水分による発光素子3の劣化等を抑えることができる。
【0054】
一方、封止基板200は、本実施形態がボトムエミッション構造であることから、必ずしも光透過性を有する材料である必要はない。したがって、第1実施形態の封止部材20と同様の材料を用いることができる。
【0055】
封止基板200の表面200Aには、光触媒層37Bが形成されている。この光触媒層37Bは、第1実施形態と同様に、基板1に形成された光触媒層37Aと対向して、シール剤層8を形成する第2領域42(形成領域)上であって、封止基板200の表面200Aの周囲を取り囲むように形成されている。第1実施形態と同様の材料、形成方法から形成される。そして、光触媒層37B上には、シール剤層8が形成されている。
【0056】
また、封止基板200と基板1との間であって、光触媒層37B及びシール剤層8で囲まれた内側には、熱硬化性樹脂からなる充填層34が形成されている。この充填層34は、基板1と封止基板200とに囲まれた内部に隙間なく充填されており、基板1に対向配置された封止基板200を固定させ、かつ外部からの機械的衝撃に対して緩衝機能を有し、発光素子3を保護するものである。そして、基板1と封止基板200とは、シール剤層8を介して貼り合わされることとなる。
【0057】
したがって、本実施形態のように、基板1を基板1に対向配置される封止基板200によって封止する場合においても、基板1と封止基板200のシール剤層8を形成する第1領域41と第2領域42上に光触媒層37A,37Bを形成することで、基板1封止基板200との間でシール強度を向上させることができる。これにより、発光素子3内に大気中の酸素や水分等が侵入することを防ぎ、基板1と封止部材20との封止特性を向上させることができる。したがって、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0058】
なお、封止基板200の表面200Aの全面に光触媒層37Bを形成してもよい。この構成によれば、封止基板200と有機緩衝層18との間に充填される充填層34と封止基板200の表面200Aとの間の親液性(濡れ性)を向上させることができるため、充填層34を隙間なく形成することができる。
【0059】
また、上述した実施形態では、電気光学装置に有機EL装置を適用した例を示したが、本発明はこれに限定されることなく、基本的にシール剤層の形成領域上に光触媒層が形成されたものであれば、どのような形態の電気光学装置にも適用可能である。
【0060】
例えば、上述の各実施形態の有機EL装置は、モノクロームのディスプレイに適用することができる。また、上述の各実施形態の有機EL装置の発光層(電気光学層)を、例えば白色発光材料で構成し、各画素領域のそれぞれから射出される光(白色光)を、カラーフィルタを用いて、赤色光、緑色光、及び青色光のそれぞれに変換することによって、フルカラーのディスプレイを形成することも可能である。
【0061】
<電子機器>
次に、本発明の電子機器について説明する。電子機器は、上述した有機EL装置(電気光学装置)を表示部として有したものであり、具体的には図6に示すものが挙げられる。
図6(a)は、携帯電話の一例を示した斜視図である。図6(a)において、携帯電話1000は、上述した有機EL装置を用いた表示部1001を備える。
図6(b)は、腕時計型電子機器の一例を示した斜視図である。図6(b)において、時計(電子機器)1100は、上述した有機EL装置を用いた表示部1101を備える。
図6(c)は、ワープロ、パソコンなどの携帯型情報処理装置の一例を示した斜視図である。図6(c)において、情報処理装置(電子機器)1200は、キーボードなどの入力部1202、上述した有機EL装置を用いた表示部1206、情報処理装置本体(筐体)1204を備える。
図6(d)は、薄型大画面テレビの一例を示した斜視図である。図6(d)において、薄型大画面テレビ(電子機器)1300は、薄型大画面テレビ本体(筐体)1302、スピーカーなどの音声出力部1304、上述した有機EL装置を用いた表示部1306を備える。
図6(a)〜(c)に示すそれぞれの電子機器は、上述した有機EL装置を有した表示部(電気光学装置)1001,1101,1206を備えているので、表示部を構成するEL表示装置の発光素子の長寿命化が図られたものとなる。
また、図6(d)に示す電子機器は、表示部(電気光学装置)1306の面積に関係なく有機EL装置が封止することができる本発明を適用したので、従来と比較して大面積(例えば対角20インチ以上)の表示部を備えるものとなる。
【0062】
なお、本実施形態においては、基板と封止部材との双方のシール剤層形成領域に光触媒層を形成した場合について説明したが、基板側の各配線の端子、コンタクト部等の配置関係により基板側に光触媒層が形成できない場合は、少なくとも封止部材側のシール剤層形成領域に光触媒層が形成されていればよい。また、封止部材側であれば、光触媒層を全面に形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】第1実施形態に係る有機EL装置を示す断面図である。
【図2】図1の基板側と封止部材側の平面図である。
【図3】第1実施形態に係る有機EL装置の製造方法の工程図である。
【図4】第1実施形態に係る有機EL装置の製造方法の工程図である。
【図5】第2実施形態に係る有機EL装置を示す断面図である。
【図6】有機EL装置を備えた電子機器の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
1…基板 3…発光素子(画素) 4…陽極(一対の電極) 5…正孔輸送層(電気光学層) 6…発光層(電気光学層) 7…陰極(一対の電極) 8…シール剤層 20…封止部材 37A,37B…光触媒層 41…第1領域(形成領域) 42…第2領域(形成領域) 200…封止基板(封止部材) S…有機エレクトロルミネッセンス装置(電気光学装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極の間に電気光学層が挟持されてなる複数の画素を有する基板と、
前記基板に対向配置され、前記基板にシール剤層を介して接着される封止部材とを備えた電気光学装置において、
前記基板あるいは前記封止部材の少なくとも一方の前記シール剤層の形成領域に光触媒層が形成されていることを特徴とする電気光学装置。
【請求項2】
前記光触媒層は酸化チタンからなることを特徴とする請求項1記載の電気光学装置。
【請求項3】
前記光触媒層が前記基板と前記シール剤層との間、及び前記封止部材とシール剤層との間に形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の電気光学装置。
【請求項4】
一対の電極の間に電気光学層が挟持されてなる複数の画素を有する基板と、
前記基板に対向配置され、前記基板にシール剤層を介して接着される封止部材とを備えた電気光学装置の製造方法であって、
前記基板あるいは前記封止部材の少なくとも一方に光触媒層を形成する工程と、
前記光触媒層上にシール剤層を塗布する工程と、
前記シール剤層を介して前記基板と前記封止部材とを接着する工程とを有することを特徴とする記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項5】
前記シール剤層を形成する前に、前記光触媒層をUV洗浄する工程と、
前記光触媒層をスピン洗浄する工程とを有することを特徴とする請求項4記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項6】
前記シール剤層の形成材料は原料液を混合することで硬化させる樹脂材料であることを特徴とする請求項4又は請求項5記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項7】
前記光触媒層は酸化チタンからなることを特徴とする請求項4から請求項6の何れか1項に記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項8】
前記シール剤層の塗布工程において、前記シール剤層の形成材料をジェットディスペンサー法により塗布することを特徴とする請求項4から請求項7のいずれか1項に記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項9】
前記シール剤層の塗布工程において、前記シール剤層の形成材料をディスペンサー法により塗布することを特徴とする請求項4から請求項7のいずれか1項に記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項10】
前記シール剤層の塗布工程において、前記シール剤層の形成材料をインクジェット法により塗布することを特徴とする請求項4から請求項7のいずれか1項に記載の電気光学装置の製造方法。
【請求項11】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電気光学装置を備えたことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−218206(P2008−218206A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−54211(P2007−54211)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】