電気化学的使用のための複数の材料の試験方法
複数の材料の電気化学的挙動を試験するための電気化学電池は、第1電極;通過した全電荷に比例して変化する視覚的又は測定可能な性質を有するエレクトロクロミック材料を有する対向電極;及び前記第1電極と前記対向電極との間にあり、且つこれらと電気的に接触している電解液;を含有し、ここで、前記第1電極及び前記電解液の一つが複数領域を含み、前記領域の各々が試験対象材料の試料を含み、前記第1電極の場合、前記領域が通常の端子に電気的に接続されている。かかる電池は、考えられ得る電池の構成要素の性質を試験するための「コンビナトリアル化学」アプローチに使用することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学的使用、特に電極触媒としての使用、より具体的には、メタノール燃料電池等の燃料電池において使用する電極触媒としての使用のための材料の試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池、すなわち、メタノール等の燃料の酸化から直接電気を発生させる電気化学電池への関心が高まっている。このような電池は触媒を必要とし、その効率は、用いられる触媒の活性と直接的に関連する。しかしながら、触媒配合のわずかな違いは、触媒としてのその材料の活性に大きな影響を及ぼすことがあり、単純な触媒でさえ多様な配合割合(variables)があるため、触媒としての活性について多数の個々の材料を試験することには、時間がかかり、そして費用もかかる。また、大きな電池アレイからの情報の伝達には、電池との多くの結線や、電池とモニター装置との間の信号を伝達するための多くの配線が必要とされる。
【0003】
「Detection of Catalytic Activity in Combinatorial Libraries of Heterogeneous Catalysts by IR Thermography」という表題の論文[Angew. Chem., Int.編(1998), 37, 2644-7](A. Holzwarth等著)には、酸素と混合された還元性ガスに曝露された触媒アレイの前後(across)の温度変化を測定することによる触媒活性の測定が記載されている。この技術は、結線を必要とせず、酸素中における化学的活性の一般的な指標(general indication)を与え得るが、この結果は、酸素ガスを反応物質と直接接触させない電気化学電池には直接あてはまらない。
【0004】
この問題を解決するため、「Automated Electrochemical Combinatorial Electrode Arrays」という表題の別の論文[Anal. Chem. (1999), 71, 4369-4375](M. G. Sullivan等著)では、コンビナトリアル化学の原理に基づいた技術の使用が提案されている。この提案された技術は、電極の1つが、電極触媒としての活性がテストされる材料の構造化されたアレイを基とし、電解液が、電極触媒作用によって、通過した電流に比例する程度に蛍光を発する特別な電解液組成物であるテスト用電気化学電池の使用を伴う。実際、該方法は、多くの材料を迅速且つ経済的にテストすることを可能にするが、電解質溶液に、燃料電池に通常存在しない成分を添加及び/又は該成分と置き換えることにより、電極触媒の化学的環境が妨害される。従って、かかるテスト用電池を用いて得られる結果は、同じ電極触媒を、特定の電解液中に溶解した所望の燃料のみを含む燃料電池に使用した場合に得られうることを忠実に示すものとはなり得ない。
【0005】
最後に、「High Throughput Screening System for Catalytic Hydrogen-Producing Materials」という表題の論文[J. Comb. Chem. (2002), 4, 17-22](T. F. Jaramillo等著)には、電極触媒のアレイから電解により生成した水素ガスを検出するための比色法(colourimetric method)におけるPdコート酸化タングステンフィルムの使用が記載されている。この場合、試験される触媒反応は、燃料電池の電極触媒に必要とされる反応とは全く異なる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、燃料電池に使用されることが期待され得るものと全く同じ電解液及び燃料に曝露している間での多数の候補電極触媒の同時試験を可能にする。このように、本発明の方法は、コンビナトリアル化学に似たアプローチの利益を得ると同時に、前述の提案の不利益も克服するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、複数の材料の電気化学的挙動を試験するための電気化学電池であって、
前記電池が、
第1電極、
通過した全電荷に比例して電磁エネルギー(例えば、紫外線、可視光、赤外線又はマイクロ波放射等)の反射、屈折又は吸収が変化するエレクトロクロミック材料を有する対向電極、及び
前記第1電極と前記対向電極との間にあり、且つこれらと電気的に接触している電解液
を含み、
前記第1電極及び前記電解液の一つが複数領域を含み、前記領域の各々が試験対象材料の試料を含有し、第1電極の場合、前記領域が通常の端子に電気的に接続されている、電気化学電池が提供される。
【0008】
また、電位の測定及び制御のために参照電極を電解液と接触させてもよい。或いは、対向電極を、これらの目的に使用してもよい。
【0009】
本発明の一つの実施形態において、第1電極は、試験対象材料の複数領域を含む。この場合、試験対象材料は、電極触媒、バッテリー電極材料(例えば、MnO2)又は水素貯蔵合金であり得る。この場合、電解液は、以下で詳細に記載するように、試験材料の使用目的を考慮して選択される。
【0010】
本発明の第2の実施形態において、電解液は、試験対象材料の複数領域を含む。この場合、第1電極は、以下で詳細に記載するように、試験材料の使用目的を考慮して選択される。
【0011】
ポテンシオスタット等の外部測定装置に接続することによって第1電極とイメージング(imaging)対向電極との間に電流を流すと、第1電極の各領域又は電解液の各領域に最も近い(及び通常、反対側の)エレクトロクロミック材料の視覚的又は測定可能な性質が、試験時間中に、試験下の材料を含有する領域を通過する全電荷に比例して変化する(例えば、色、色の強度又は他の性質等)。テスト領域の各々が、例えば、電極触媒としての使用のための異なる材料で構成されている場合、各材料の電気化学的挙動、例えば触媒活性によって、通過する電荷が決定され、従ってエレクトロクロミック材料の色又は他の性質が決定される。電荷及び対応する電流の絶対値は、定電流(galvanostatic)条件下でのエレクトロクロミック材料の検量により得られ得る。また、イメージング対向電極は、検量試料の調製中に測定されるその電位/電荷関係を考慮すれば、参照電極としての機能を果たし得る。このように、作用電極における電位は、各点でスキャンされた電位から必要な参照電位を引くことにより算出される。
【0012】
従って、添付図面の図1及び図2に示すように、本発明で用いられるイメージング対向電極の原理は、ある種の電極材料、すなわち酸化タングステン等のエレクトロクロミック材料が、通過する電荷に応答して色が変化するというものである。このように、平板電極上の所与の位置を通過した電荷は、誘導される色の濃さによって推定され得る。本発明では、このエレクトロクロミック特性を、サンプルアレイが一方の電極2とエレクトロクロミック材料である他方の電極3(すなわち対向電極)とを形成する薄膜電池1を構築することによって利用する。ただし、エレクトロクロミック対向電極3は、電極2を形成する電極触媒アレイ上の各点から通過する電荷を色変化(modulated)イメージとして記録する電流を妨げないものとする。電極2と電極3との間には電解質溶液4がある。
【0013】
通過する電荷は、電流の時間積分であるため、電流は、電極の色変化の割合で示される電荷の変化速度により与えられる。図3に模式化して示されるような電流−時間プロフィールを示すために、電極の一連のスナップ写真を用いることができる。
【0014】
エレクトロクロミック材料の選択に応じて、電荷測定値の範囲は、約1〜50mCcm−2の最大測定限界(full scale)までで変わり得る。目的とされる典型的な電流密度は、1マイクロアンペアcm−2未満〜100mAcm−2、またはそれ以上の範囲である。電流測定値の範囲及び分解能は、エレクトロクロミック材料のスキャン速度及び感度を変化させることにより調整することができ、例えば、10mCcm−2最大測定限界応答でイメージング電極を用いる10秒スキャンでは、1mAcm−2までの電流密度が効率的に測定され得る。
【0015】
本発明に従って最良の結果を達成するためには、電池の寸法を、良好な方位分解能が得られるようなものにすることを確実にするのが望ましい。これは、添付図面の図4に示すように、相当な抵抗率の溶液の比較的薄い層を確保することによって電解液の側面抵抗を大きくしない限り、イメージ電流(image current)が広範囲に広がるからである。ただし、隣接する領域への抵抗パス(resistance path)R1は大きく、電流は、電解液中でかなりのオーム減少により制限されるものとする。好ましくは、抵抗パスR1は、構成要素の面積(平方センチメートル)の逆数よりもかなり大きい。高分解能及び高密度のアレイ電極には、電解液層の適切な設計が必要である。
【0016】
対向電極の一部又は全部を形成するエレクトロクロミック材料は、電流の通過に応答し、且つ通過する電流に比例して、ある種の性質、好ましくは視覚的性質が変化するような任意の材料であり得る。好適なかかる材料は酸化タングステンであり、これは、本発明における使用において好ましい材料である。しかしながら、他の材料、例えば、C. G. Granqvist著、「Handbook of Inorganic Electrochromic Materials」、Elsevier (1995)、(アムステルダム)、ISBN 0444 89930 8に記載されているような無機化合物;P. M. S. Monk, R. J. Mortimer及びD. R. Rosseinski著、「Electrochromism, Fundamentals and Applications」、VCH (1995)、(ワインハイム)、ISBN 0-89573-788-4に記載されているような、ビオロゲン、金属フタロシアニン類、導電性高分子(例えば、ポリアニリン、ポリチオフェン等)等の有機材料を使用してもよい。微粉化された金属への還元はエレクトロクロミック変化を引き起こすので、ハロゲン化銀等の容易に還元される不溶性金属化合物もまた使用され得る。
【0017】
酸化タングステンの場合のように、エレクトロクロミック材料が、単独で電極を形成するのに充分な機械強度を有しない場合、適当な不活性材料で支持することが好ましい。実験の進行に伴って色又は色の強度の変化をモニターすることが望ましい場合、エレクトロクロミック材料を有さない支持材料の側面から変化が見えるように、支持材料は透明又は半透明であることが好ましい。さらに、支持材料は、エレクトロクロミック電極との電気的接触をもたらすように、導電性であることが必要とされる。これに好適な材料は、酸化インジウムスズ(ITO)又はフッ素ドープ酸化スズ(FTO)等の透明な導電性フィルムでコートされたガラスである。また、調査される反応を触媒しないのであれば、貴金属も使用され得る。
【0018】
酸化タングステンは、その酸化状態に従って色が変化する。
WO3 + x(Li+ +e−) → LixWVI(1−x)WVxO3
(非常に薄い黄色) (青)
【0019】
これは容易に観察される変化であり、これにより、この材料は、エレクトロクロミック材料としての使用に特に好適なものとなっている。
【0020】
本発明により試験される材料の性状は、もちろん、その使用目的に依存する。メタノール燃料電池における触媒活性が試験される場合、該材料は、例えば、白金族金属のうちの1つを含有する合金、又は導電性フィルムを形成する要素の任意の組合せであり得る。電気合成等の他の使用では、触媒される反応の種類に応じて他の材料を試験してもよい。
【0021】
本発明では、複数の種々の材料を同時に試験することが可能であるため、試験対象の材料が第1電極にある場合、これらの材料は、適当な導電性支持材料に好ましくは支持される。支持体は、不活性であってよく、又は接触可能な(accessible)表面積を増大させることにより、若しくは触媒−支持体相互作用を通して触媒活性を高めるものであってもよい。ほとんどの目的には、炭素支持体が推奨される。また、特に、反応材料が、電解液中に溶解しているのではなく、電池の外側にある気体である場合は、多孔質支持体も使用され得る。
【0022】
試験材料が第1電極にある場合の本発明のテスト用電池に用いられる電解液の性状は、重要であり得る。最も正確な結果を得るためには、電解液が、試験材料が使用される実際の装置、例えば、燃料電池に使用される電解液にできるだけ近いこと、好ましくは同一であることが好ましい。試験対象材料を触媒効果について試験する場合、電解液は、その反応が試験材料に触媒される材料の一部を含むのがよい。
【0023】
電解液は、自由液体(free liquid)、例えば、酸の水溶液であってもよく、或いは意図する燃料電池に使用するのと同様に、適当な多孔質セパレーターの微多孔内に含まれたもの、又は高分子若しくは固形電解液フィルム内に吸収されたものであってもよい。電解液は、好ましくは、燃料電池に使用されるものと同じであるのがよいが、上記のように側面抵抗を増大して方位分解能を改善するために希釈してもよい。メタノール燃料電池の場合、例えば、好適な電解液は、0.05〜2M、より好ましくは約1Mの濃度の硫酸である。本明細書で使用する用語「電解液」は、イオン伝導体である材料を意味することに注意されたい。
【0024】
試験対象材料が電解液である場合、これは、通常、高分子電解液、例えば、ポリフッ化ビニリデンコポリマー、プロピレンカーボネート及びリチウム塩で形成された電解液ゲルであり、又は燃料電池の電解液の場合は、Nafion(登録商標)等のプロトン伝導性高分子である。前者の場合、ゲルを構成する化合物の割合は様々であり、後者の場合は、種々の添加剤をNafionに組込み、その効果を試験し得る。
【0025】
テスト用電池は容器で仕上げてもよく、該容器は、電解液及び電解液中のあらゆる材料に不活性な材料で作製されたものがよい。ガラス又は各種のプラスチックが好適である。試験材料及び対向電極は、適当な導電手段によって、当該技術分野で既知の、制御可能な電流の供給源に接続される。
【0026】
本発明を、以下の限定されない実施例により、さらに説明する。
【実施例】
【0027】
[実施例1]
以下の構成要素から電池を構築した。作用電極は、導電性炭素基板(4cm四方)上に配置した4つの等しい大きさの円板状の異なる組成の白金含有触媒電極候補のアレイから成った。この導電性炭素基板は、透明なフッ素ドープ酸化スズでコートされた平方あたり50オーム未満の導電率を有する4cm四方のガラス上に配置されている。電解液は、Whatman500ろ紙に吸収させた0.5M硫酸水溶液の1Mメタノール溶液とした。2つの電極を互いにろ紙に対して押し付けて電池を形成させた。この電池をポテンシオスタットに接続し、コートガラス電極に対する炭素電極の電位を、3秒間で0〜0.5ボルトまで直線的にスキャンする一方で、対向電極をデジタルカメラにて0.3秒間隔で写真撮影した。酸化タングステン電極の2つの同じ試料を、0.5M硫酸を含有する電解液中に段階的に浸漬させながら、定電流カソード処理に供した。各工程の時間を、検量線(calibration strip)の役割を果たす電極に沿ったバンドにおいて、3、6、9、12、15、18及び21mCcm−2の電荷の増加をもたらすように制御した。次いで、この電極を、スクリーニング実験と同じ光条件下で写真撮影した。結果を図式的に図5に示す。
【0028】
上記の結果より、メタノール酸化用の最も有望な触媒は、図6に示した左下部分に配置されたものであると結論づけた。
【0029】
[実施例2]
9つの触媒のスポットのアレイを、金/クロムコートガラスの顕微鏡スライド上に、以下のようにして配置した。炭素に担持させた白金触媒を、酢酸溶液中に分散させた。分散液の直径約3mmの3つのスポット(各々は、それぞれ3、2及び1滴の分散液を含む)をガラス上に一列に配置した。その下に、スポットの第2及び第3の列を、第1列と同一の手順を用いて配置した。エタノール水溶液中に分散させた約2μlのNafion(登録商標)を各スポット上に配置した後、温風ガンでアレイを乾燥させた。アレイを、2Mメタノールを含有する0.001M H2SO4からなる電解液を含浸させた2枚のろ紙スペーサーで隔てられた電池の一方の電極として使用した。対向電極は、平方あたり50オーム未満の導電率を有し、透明なフッ素ドープ酸化スズでコートされたガラス上の約300nmの酸化タングステン層とした。銀/酸化銀配線の参照電極を、アレイの一端でろ紙と接触させて配置した。ポテンシオスタットを用い、酸化タングステン電極に適切な電流を流すことにより、触媒アレイと参照電極との間の電位を制御した。電位は、20mVs−1にて−0.2V〜1.0Vまでスキャンした。
【0030】
対向電極を、Andor TechnologyのDV437前面照射型フレーム転送式CCDカメラ(−50℃に冷却し、マクロレンズ(fl 15cm)及び600nm帯域通過フィルターを有する)を用いて観察した。イメージングした全基板ウィンドウ(substrate window)は55mm×20mmであった。測定した強度データは、捕捉中の各画素の全eカウント(e-count)とした。動力学的配列(kinetic series)における各画像は、計測器読み取り前の5回の露光のオンチップ累積(on-chip accumulation)とした。各露光は、9msであり、各画像は、合計で1.8秒かかった(露光の間は0.3秒の遅れ)。1枚の画像を5秒ごとに撮影した後、60秒間のスキャン中に合計10枚の画像を得た。図7は、中央の列の3つのスポットの画像を示す(6秒後、参照電極に対して−0.16Vの電位)。光学濃度の勾配を図8に定量化する。各スポットを通過した電荷を、電荷密度の関数として光学濃度の検量曲線から算出した。
【0031】
[実施例3]
電池アレイを、以下の構成要素から構築した。
【0032】
作用電極アレイは、ガラス充填PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)プレートに支持された大きさの等しい64個のガラス状炭素製の3mm径柱状物から成った。各柱状物を、以下のようにして調製した白金触媒でコートした。触媒ストック溶液(12.2mgの白金黒を含む1mlの溶液(95wt%酢酸及び5wt%Nafion溶液からなる))を、コート(deposition)直前に2時間超音波処理し、一定分量を取り出し、柱状物上にコートした。次いで、アレイを使用前に3時間風乾させた。各柱状物は、図9aに示したパターンに従って、6、12、18又は18μgの特定の負荷白金質量を有した。
【0033】
1Mメタノール及び1mM硫酸を含有する水溶液を含浸させたセパレーターとしてのWhatman Glass Microfibreフィルター(GF/Fグレード)でアレイを覆った。
【0034】
エレクトロクロミック対向電極は、平方あたり50オーム未満の導電率を有し、透明なフッ素ドープ酸化スズでコートされたガラス上の約300nmの酸化タングステン層から成った。この電極は、電解液としての0.1M硫酸、白金対向電極及びSCE参照電極を含有する電池内に作用電極として配置することにより予備条件化(pre-conditioned)した。電極は、開回路残留電位(open circuit rest potential)とSCEに対して−200mVとの間で、10回、回路を開閉(cycle)し、最後に、蒸留水で洗浄してセパレーターを覆うアレイ電池に移す前に、−50mVで10分間放置した。
【0035】
マクロ効果をもたらすためにレンズとカメラとの間にさらに28mmチューブスペーサーを使用することで適合させたノーマル35mmレンズ、及び645nm帯域通過フィルターを有するStarlight Xpress SXV−H9 CCDカメラを用い、エレクトロクロミック対向電極を観察した。
【0036】
各要素に一定量の電流を供給することにより、アレイ内の各要素の電位をエレクトロクロミック対向電極に対して一定の値に保持できるポテンシオスタットに電池を接続した。
【0037】
作用電極アレイを、まず、対向電極に対して0ボルトに維持し、次いで+0.4Vに切り替え、その間、40秒までの時間の関数として個々の各要素の電流の目盛りを読んだ。デジタルカメラを用い、実験の過程における対向電極の吸光度の記録を同時に得た。
【0038】
実験中に各要素を通過した全電荷を図9bに示す。このパターンにより、一番濃いスポットで示される触媒活性が、図9aのパターンに従って意図されるように分布したことが確認される。
【0039】
図9cは、エレクトロクロミック対向電極のインジケータ作用(indicator action)を示す。スポットのパターンにより、少なくとも、図9bのパターンとの定性的な相関性が得られ、最も活性な触媒は一番濃いスポットであることが確認される。
【0040】
[実施例4]
4つの構成要素のみを含み、40wt%白金における炭素触媒の負荷量を、それぞれ5.7、11.4、17.1及び22.8μgとした以外は、実施例3と同様の電池アレイを構築した。
【0041】
アレイを、前記のように、対向電極に対して0〜+0.4Vの電位段階に供し、時間の関数として電流を測定する一方で、対向電極プレートを写真撮影し、電極に沿った位置の関数として吸光度を得た。図10は、触媒試料の反対側に現れた4つのスポットの光学濃度地図の3次元の図を示す。
【0042】
実験中の種々の時間で記録した電荷を、図11において、触媒試料と反対側の各対向電極の位置の中央の画像上に記録された、対応する時間における吸光度に対してプロットした。光吸光度(optical absorbance)と通過電荷との間に定量的且つ直線的関係があることが認められ得る。従って、図10の光学濃度地図は、位置の関数としての通過した全電荷を図示したものとみなし得る。
【0043】
[実施例5]
新たな、予備条件化したエレクトロクロミック対向電極を用い、実施例4の実験を数回繰返した。各回では、電解液において異なる濃度の硫酸を用いたが、各々の場合で同じメタノール濃度及び触媒負荷量を用いた。用いた5種類の濃度に関する結果を図12に示す。高濃度では、スポットは、種々のバックグラウンド上に出現するが、低電解液濃度では、バックグラウンドは、電位段階前に出現した最初の材料からほとんど変化していない。この実験は、低濃度の電解液を使用することの効果を示す。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は、本発明の一つの実施形態によるテスト用電池の2つの電極の簡略化した側面図である。
【図2】図2は、簡略化した図1の対向電極を示す図である。
【図3】図3は、図1及び図2の対向電極3の色変化から推定される、電流の経時変化を示す図である。
【図4】図4は、本発明のテスト用電池の概略側面図である。
【図5】図5は、対向電極及び後述の実施例1に記載した実験を行なった後に得られた検量線の外観を示す図である。
【図6】図6は、検量線を用いた図5の対向電極の各領域を通過した電荷の計算の結果を示す図である。
【図7】図7は、後述の実施例2に従って調製及び処理した対向電極の中心部分の写真を示す図である。3つの濃い領域は、第1電極上の活性触媒領域と反対側の領域に相当する。
【図8】図8は、通常の実験室の照明下で照射された図7の対向電極における、波長600nmでの光強度のプロフィールを示す図である。
【図9a】図9aは、実施例3の電極中の白金の負荷質量を示す図である。
【図9b】図9bは、実施例3の実験中の各要素を通過した全電荷を示す図である。
【図9c】図9cは、実施例3のエレクトロクロミック対向電極のインジケータ作用を示す図である。
【図10】図10は、実施例4の画像位置の関数としての通過した全電荷を示す図である。
【図11】図11は、実施例4で記録された電荷を、触媒試料と反対側の各対向電極の位置の中央の画像上に記録された、対応する時間における吸光度に対してプロットしたものを示す図である。
【図12】図12は、実施例5のエレクトロクロミック電極の写真を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学的使用、特に電極触媒としての使用、より具体的には、メタノール燃料電池等の燃料電池において使用する電極触媒としての使用のための材料の試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池、すなわち、メタノール等の燃料の酸化から直接電気を発生させる電気化学電池への関心が高まっている。このような電池は触媒を必要とし、その効率は、用いられる触媒の活性と直接的に関連する。しかしながら、触媒配合のわずかな違いは、触媒としてのその材料の活性に大きな影響を及ぼすことがあり、単純な触媒でさえ多様な配合割合(variables)があるため、触媒としての活性について多数の個々の材料を試験することには、時間がかかり、そして費用もかかる。また、大きな電池アレイからの情報の伝達には、電池との多くの結線や、電池とモニター装置との間の信号を伝達するための多くの配線が必要とされる。
【0003】
「Detection of Catalytic Activity in Combinatorial Libraries of Heterogeneous Catalysts by IR Thermography」という表題の論文[Angew. Chem., Int.編(1998), 37, 2644-7](A. Holzwarth等著)には、酸素と混合された還元性ガスに曝露された触媒アレイの前後(across)の温度変化を測定することによる触媒活性の測定が記載されている。この技術は、結線を必要とせず、酸素中における化学的活性の一般的な指標(general indication)を与え得るが、この結果は、酸素ガスを反応物質と直接接触させない電気化学電池には直接あてはまらない。
【0004】
この問題を解決するため、「Automated Electrochemical Combinatorial Electrode Arrays」という表題の別の論文[Anal. Chem. (1999), 71, 4369-4375](M. G. Sullivan等著)では、コンビナトリアル化学の原理に基づいた技術の使用が提案されている。この提案された技術は、電極の1つが、電極触媒としての活性がテストされる材料の構造化されたアレイを基とし、電解液が、電極触媒作用によって、通過した電流に比例する程度に蛍光を発する特別な電解液組成物であるテスト用電気化学電池の使用を伴う。実際、該方法は、多くの材料を迅速且つ経済的にテストすることを可能にするが、電解質溶液に、燃料電池に通常存在しない成分を添加及び/又は該成分と置き換えることにより、電極触媒の化学的環境が妨害される。従って、かかるテスト用電池を用いて得られる結果は、同じ電極触媒を、特定の電解液中に溶解した所望の燃料のみを含む燃料電池に使用した場合に得られうることを忠実に示すものとはなり得ない。
【0005】
最後に、「High Throughput Screening System for Catalytic Hydrogen-Producing Materials」という表題の論文[J. Comb. Chem. (2002), 4, 17-22](T. F. Jaramillo等著)には、電極触媒のアレイから電解により生成した水素ガスを検出するための比色法(colourimetric method)におけるPdコート酸化タングステンフィルムの使用が記載されている。この場合、試験される触媒反応は、燃料電池の電極触媒に必要とされる反応とは全く異なる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、燃料電池に使用されることが期待され得るものと全く同じ電解液及び燃料に曝露している間での多数の候補電極触媒の同時試験を可能にする。このように、本発明の方法は、コンビナトリアル化学に似たアプローチの利益を得ると同時に、前述の提案の不利益も克服するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、複数の材料の電気化学的挙動を試験するための電気化学電池であって、
前記電池が、
第1電極、
通過した全電荷に比例して電磁エネルギー(例えば、紫外線、可視光、赤外線又はマイクロ波放射等)の反射、屈折又は吸収が変化するエレクトロクロミック材料を有する対向電極、及び
前記第1電極と前記対向電極との間にあり、且つこれらと電気的に接触している電解液
を含み、
前記第1電極及び前記電解液の一つが複数領域を含み、前記領域の各々が試験対象材料の試料を含有し、第1電極の場合、前記領域が通常の端子に電気的に接続されている、電気化学電池が提供される。
【0008】
また、電位の測定及び制御のために参照電極を電解液と接触させてもよい。或いは、対向電極を、これらの目的に使用してもよい。
【0009】
本発明の一つの実施形態において、第1電極は、試験対象材料の複数領域を含む。この場合、試験対象材料は、電極触媒、バッテリー電極材料(例えば、MnO2)又は水素貯蔵合金であり得る。この場合、電解液は、以下で詳細に記載するように、試験材料の使用目的を考慮して選択される。
【0010】
本発明の第2の実施形態において、電解液は、試験対象材料の複数領域を含む。この場合、第1電極は、以下で詳細に記載するように、試験材料の使用目的を考慮して選択される。
【0011】
ポテンシオスタット等の外部測定装置に接続することによって第1電極とイメージング(imaging)対向電極との間に電流を流すと、第1電極の各領域又は電解液の各領域に最も近い(及び通常、反対側の)エレクトロクロミック材料の視覚的又は測定可能な性質が、試験時間中に、試験下の材料を含有する領域を通過する全電荷に比例して変化する(例えば、色、色の強度又は他の性質等)。テスト領域の各々が、例えば、電極触媒としての使用のための異なる材料で構成されている場合、各材料の電気化学的挙動、例えば触媒活性によって、通過する電荷が決定され、従ってエレクトロクロミック材料の色又は他の性質が決定される。電荷及び対応する電流の絶対値は、定電流(galvanostatic)条件下でのエレクトロクロミック材料の検量により得られ得る。また、イメージング対向電極は、検量試料の調製中に測定されるその電位/電荷関係を考慮すれば、参照電極としての機能を果たし得る。このように、作用電極における電位は、各点でスキャンされた電位から必要な参照電位を引くことにより算出される。
【0012】
従って、添付図面の図1及び図2に示すように、本発明で用いられるイメージング対向電極の原理は、ある種の電極材料、すなわち酸化タングステン等のエレクトロクロミック材料が、通過する電荷に応答して色が変化するというものである。このように、平板電極上の所与の位置を通過した電荷は、誘導される色の濃さによって推定され得る。本発明では、このエレクトロクロミック特性を、サンプルアレイが一方の電極2とエレクトロクロミック材料である他方の電極3(すなわち対向電極)とを形成する薄膜電池1を構築することによって利用する。ただし、エレクトロクロミック対向電極3は、電極2を形成する電極触媒アレイ上の各点から通過する電荷を色変化(modulated)イメージとして記録する電流を妨げないものとする。電極2と電極3との間には電解質溶液4がある。
【0013】
通過する電荷は、電流の時間積分であるため、電流は、電極の色変化の割合で示される電荷の変化速度により与えられる。図3に模式化して示されるような電流−時間プロフィールを示すために、電極の一連のスナップ写真を用いることができる。
【0014】
エレクトロクロミック材料の選択に応じて、電荷測定値の範囲は、約1〜50mCcm−2の最大測定限界(full scale)までで変わり得る。目的とされる典型的な電流密度は、1マイクロアンペアcm−2未満〜100mAcm−2、またはそれ以上の範囲である。電流測定値の範囲及び分解能は、エレクトロクロミック材料のスキャン速度及び感度を変化させることにより調整することができ、例えば、10mCcm−2最大測定限界応答でイメージング電極を用いる10秒スキャンでは、1mAcm−2までの電流密度が効率的に測定され得る。
【0015】
本発明に従って最良の結果を達成するためには、電池の寸法を、良好な方位分解能が得られるようなものにすることを確実にするのが望ましい。これは、添付図面の図4に示すように、相当な抵抗率の溶液の比較的薄い層を確保することによって電解液の側面抵抗を大きくしない限り、イメージ電流(image current)が広範囲に広がるからである。ただし、隣接する領域への抵抗パス(resistance path)R1は大きく、電流は、電解液中でかなりのオーム減少により制限されるものとする。好ましくは、抵抗パスR1は、構成要素の面積(平方センチメートル)の逆数よりもかなり大きい。高分解能及び高密度のアレイ電極には、電解液層の適切な設計が必要である。
【0016】
対向電極の一部又は全部を形成するエレクトロクロミック材料は、電流の通過に応答し、且つ通過する電流に比例して、ある種の性質、好ましくは視覚的性質が変化するような任意の材料であり得る。好適なかかる材料は酸化タングステンであり、これは、本発明における使用において好ましい材料である。しかしながら、他の材料、例えば、C. G. Granqvist著、「Handbook of Inorganic Electrochromic Materials」、Elsevier (1995)、(アムステルダム)、ISBN 0444 89930 8に記載されているような無機化合物;P. M. S. Monk, R. J. Mortimer及びD. R. Rosseinski著、「Electrochromism, Fundamentals and Applications」、VCH (1995)、(ワインハイム)、ISBN 0-89573-788-4に記載されているような、ビオロゲン、金属フタロシアニン類、導電性高分子(例えば、ポリアニリン、ポリチオフェン等)等の有機材料を使用してもよい。微粉化された金属への還元はエレクトロクロミック変化を引き起こすので、ハロゲン化銀等の容易に還元される不溶性金属化合物もまた使用され得る。
【0017】
酸化タングステンの場合のように、エレクトロクロミック材料が、単独で電極を形成するのに充分な機械強度を有しない場合、適当な不活性材料で支持することが好ましい。実験の進行に伴って色又は色の強度の変化をモニターすることが望ましい場合、エレクトロクロミック材料を有さない支持材料の側面から変化が見えるように、支持材料は透明又は半透明であることが好ましい。さらに、支持材料は、エレクトロクロミック電極との電気的接触をもたらすように、導電性であることが必要とされる。これに好適な材料は、酸化インジウムスズ(ITO)又はフッ素ドープ酸化スズ(FTO)等の透明な導電性フィルムでコートされたガラスである。また、調査される反応を触媒しないのであれば、貴金属も使用され得る。
【0018】
酸化タングステンは、その酸化状態に従って色が変化する。
WO3 + x(Li+ +e−) → LixWVI(1−x)WVxO3
(非常に薄い黄色) (青)
【0019】
これは容易に観察される変化であり、これにより、この材料は、エレクトロクロミック材料としての使用に特に好適なものとなっている。
【0020】
本発明により試験される材料の性状は、もちろん、その使用目的に依存する。メタノール燃料電池における触媒活性が試験される場合、該材料は、例えば、白金族金属のうちの1つを含有する合金、又は導電性フィルムを形成する要素の任意の組合せであり得る。電気合成等の他の使用では、触媒される反応の種類に応じて他の材料を試験してもよい。
【0021】
本発明では、複数の種々の材料を同時に試験することが可能であるため、試験対象の材料が第1電極にある場合、これらの材料は、適当な導電性支持材料に好ましくは支持される。支持体は、不活性であってよく、又は接触可能な(accessible)表面積を増大させることにより、若しくは触媒−支持体相互作用を通して触媒活性を高めるものであってもよい。ほとんどの目的には、炭素支持体が推奨される。また、特に、反応材料が、電解液中に溶解しているのではなく、電池の外側にある気体である場合は、多孔質支持体も使用され得る。
【0022】
試験材料が第1電極にある場合の本発明のテスト用電池に用いられる電解液の性状は、重要であり得る。最も正確な結果を得るためには、電解液が、試験材料が使用される実際の装置、例えば、燃料電池に使用される電解液にできるだけ近いこと、好ましくは同一であることが好ましい。試験対象材料を触媒効果について試験する場合、電解液は、その反応が試験材料に触媒される材料の一部を含むのがよい。
【0023】
電解液は、自由液体(free liquid)、例えば、酸の水溶液であってもよく、或いは意図する燃料電池に使用するのと同様に、適当な多孔質セパレーターの微多孔内に含まれたもの、又は高分子若しくは固形電解液フィルム内に吸収されたものであってもよい。電解液は、好ましくは、燃料電池に使用されるものと同じであるのがよいが、上記のように側面抵抗を増大して方位分解能を改善するために希釈してもよい。メタノール燃料電池の場合、例えば、好適な電解液は、0.05〜2M、より好ましくは約1Mの濃度の硫酸である。本明細書で使用する用語「電解液」は、イオン伝導体である材料を意味することに注意されたい。
【0024】
試験対象材料が電解液である場合、これは、通常、高分子電解液、例えば、ポリフッ化ビニリデンコポリマー、プロピレンカーボネート及びリチウム塩で形成された電解液ゲルであり、又は燃料電池の電解液の場合は、Nafion(登録商標)等のプロトン伝導性高分子である。前者の場合、ゲルを構成する化合物の割合は様々であり、後者の場合は、種々の添加剤をNafionに組込み、その効果を試験し得る。
【0025】
テスト用電池は容器で仕上げてもよく、該容器は、電解液及び電解液中のあらゆる材料に不活性な材料で作製されたものがよい。ガラス又は各種のプラスチックが好適である。試験材料及び対向電極は、適当な導電手段によって、当該技術分野で既知の、制御可能な電流の供給源に接続される。
【0026】
本発明を、以下の限定されない実施例により、さらに説明する。
【実施例】
【0027】
[実施例1]
以下の構成要素から電池を構築した。作用電極は、導電性炭素基板(4cm四方)上に配置した4つの等しい大きさの円板状の異なる組成の白金含有触媒電極候補のアレイから成った。この導電性炭素基板は、透明なフッ素ドープ酸化スズでコートされた平方あたり50オーム未満の導電率を有する4cm四方のガラス上に配置されている。電解液は、Whatman500ろ紙に吸収させた0.5M硫酸水溶液の1Mメタノール溶液とした。2つの電極を互いにろ紙に対して押し付けて電池を形成させた。この電池をポテンシオスタットに接続し、コートガラス電極に対する炭素電極の電位を、3秒間で0〜0.5ボルトまで直線的にスキャンする一方で、対向電極をデジタルカメラにて0.3秒間隔で写真撮影した。酸化タングステン電極の2つの同じ試料を、0.5M硫酸を含有する電解液中に段階的に浸漬させながら、定電流カソード処理に供した。各工程の時間を、検量線(calibration strip)の役割を果たす電極に沿ったバンドにおいて、3、6、9、12、15、18及び21mCcm−2の電荷の増加をもたらすように制御した。次いで、この電極を、スクリーニング実験と同じ光条件下で写真撮影した。結果を図式的に図5に示す。
【0028】
上記の結果より、メタノール酸化用の最も有望な触媒は、図6に示した左下部分に配置されたものであると結論づけた。
【0029】
[実施例2]
9つの触媒のスポットのアレイを、金/クロムコートガラスの顕微鏡スライド上に、以下のようにして配置した。炭素に担持させた白金触媒を、酢酸溶液中に分散させた。分散液の直径約3mmの3つのスポット(各々は、それぞれ3、2及び1滴の分散液を含む)をガラス上に一列に配置した。その下に、スポットの第2及び第3の列を、第1列と同一の手順を用いて配置した。エタノール水溶液中に分散させた約2μlのNafion(登録商標)を各スポット上に配置した後、温風ガンでアレイを乾燥させた。アレイを、2Mメタノールを含有する0.001M H2SO4からなる電解液を含浸させた2枚のろ紙スペーサーで隔てられた電池の一方の電極として使用した。対向電極は、平方あたり50オーム未満の導電率を有し、透明なフッ素ドープ酸化スズでコートされたガラス上の約300nmの酸化タングステン層とした。銀/酸化銀配線の参照電極を、アレイの一端でろ紙と接触させて配置した。ポテンシオスタットを用い、酸化タングステン電極に適切な電流を流すことにより、触媒アレイと参照電極との間の電位を制御した。電位は、20mVs−1にて−0.2V〜1.0Vまでスキャンした。
【0030】
対向電極を、Andor TechnologyのDV437前面照射型フレーム転送式CCDカメラ(−50℃に冷却し、マクロレンズ(fl 15cm)及び600nm帯域通過フィルターを有する)を用いて観察した。イメージングした全基板ウィンドウ(substrate window)は55mm×20mmであった。測定した強度データは、捕捉中の各画素の全eカウント(e-count)とした。動力学的配列(kinetic series)における各画像は、計測器読み取り前の5回の露光のオンチップ累積(on-chip accumulation)とした。各露光は、9msであり、各画像は、合計で1.8秒かかった(露光の間は0.3秒の遅れ)。1枚の画像を5秒ごとに撮影した後、60秒間のスキャン中に合計10枚の画像を得た。図7は、中央の列の3つのスポットの画像を示す(6秒後、参照電極に対して−0.16Vの電位)。光学濃度の勾配を図8に定量化する。各スポットを通過した電荷を、電荷密度の関数として光学濃度の検量曲線から算出した。
【0031】
[実施例3]
電池アレイを、以下の構成要素から構築した。
【0032】
作用電極アレイは、ガラス充填PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)プレートに支持された大きさの等しい64個のガラス状炭素製の3mm径柱状物から成った。各柱状物を、以下のようにして調製した白金触媒でコートした。触媒ストック溶液(12.2mgの白金黒を含む1mlの溶液(95wt%酢酸及び5wt%Nafion溶液からなる))を、コート(deposition)直前に2時間超音波処理し、一定分量を取り出し、柱状物上にコートした。次いで、アレイを使用前に3時間風乾させた。各柱状物は、図9aに示したパターンに従って、6、12、18又は18μgの特定の負荷白金質量を有した。
【0033】
1Mメタノール及び1mM硫酸を含有する水溶液を含浸させたセパレーターとしてのWhatman Glass Microfibreフィルター(GF/Fグレード)でアレイを覆った。
【0034】
エレクトロクロミック対向電極は、平方あたり50オーム未満の導電率を有し、透明なフッ素ドープ酸化スズでコートされたガラス上の約300nmの酸化タングステン層から成った。この電極は、電解液としての0.1M硫酸、白金対向電極及びSCE参照電極を含有する電池内に作用電極として配置することにより予備条件化(pre-conditioned)した。電極は、開回路残留電位(open circuit rest potential)とSCEに対して−200mVとの間で、10回、回路を開閉(cycle)し、最後に、蒸留水で洗浄してセパレーターを覆うアレイ電池に移す前に、−50mVで10分間放置した。
【0035】
マクロ効果をもたらすためにレンズとカメラとの間にさらに28mmチューブスペーサーを使用することで適合させたノーマル35mmレンズ、及び645nm帯域通過フィルターを有するStarlight Xpress SXV−H9 CCDカメラを用い、エレクトロクロミック対向電極を観察した。
【0036】
各要素に一定量の電流を供給することにより、アレイ内の各要素の電位をエレクトロクロミック対向電極に対して一定の値に保持できるポテンシオスタットに電池を接続した。
【0037】
作用電極アレイを、まず、対向電極に対して0ボルトに維持し、次いで+0.4Vに切り替え、その間、40秒までの時間の関数として個々の各要素の電流の目盛りを読んだ。デジタルカメラを用い、実験の過程における対向電極の吸光度の記録を同時に得た。
【0038】
実験中に各要素を通過した全電荷を図9bに示す。このパターンにより、一番濃いスポットで示される触媒活性が、図9aのパターンに従って意図されるように分布したことが確認される。
【0039】
図9cは、エレクトロクロミック対向電極のインジケータ作用(indicator action)を示す。スポットのパターンにより、少なくとも、図9bのパターンとの定性的な相関性が得られ、最も活性な触媒は一番濃いスポットであることが確認される。
【0040】
[実施例4]
4つの構成要素のみを含み、40wt%白金における炭素触媒の負荷量を、それぞれ5.7、11.4、17.1及び22.8μgとした以外は、実施例3と同様の電池アレイを構築した。
【0041】
アレイを、前記のように、対向電極に対して0〜+0.4Vの電位段階に供し、時間の関数として電流を測定する一方で、対向電極プレートを写真撮影し、電極に沿った位置の関数として吸光度を得た。図10は、触媒試料の反対側に現れた4つのスポットの光学濃度地図の3次元の図を示す。
【0042】
実験中の種々の時間で記録した電荷を、図11において、触媒試料と反対側の各対向電極の位置の中央の画像上に記録された、対応する時間における吸光度に対してプロットした。光吸光度(optical absorbance)と通過電荷との間に定量的且つ直線的関係があることが認められ得る。従って、図10の光学濃度地図は、位置の関数としての通過した全電荷を図示したものとみなし得る。
【0043】
[実施例5]
新たな、予備条件化したエレクトロクロミック対向電極を用い、実施例4の実験を数回繰返した。各回では、電解液において異なる濃度の硫酸を用いたが、各々の場合で同じメタノール濃度及び触媒負荷量を用いた。用いた5種類の濃度に関する結果を図12に示す。高濃度では、スポットは、種々のバックグラウンド上に出現するが、低電解液濃度では、バックグラウンドは、電位段階前に出現した最初の材料からほとんど変化していない。この実験は、低濃度の電解液を使用することの効果を示す。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は、本発明の一つの実施形態によるテスト用電池の2つの電極の簡略化した側面図である。
【図2】図2は、簡略化した図1の対向電極を示す図である。
【図3】図3は、図1及び図2の対向電極3の色変化から推定される、電流の経時変化を示す図である。
【図4】図4は、本発明のテスト用電池の概略側面図である。
【図5】図5は、対向電極及び後述の実施例1に記載した実験を行なった後に得られた検量線の外観を示す図である。
【図6】図6は、検量線を用いた図5の対向電極の各領域を通過した電荷の計算の結果を示す図である。
【図7】図7は、後述の実施例2に従って調製及び処理した対向電極の中心部分の写真を示す図である。3つの濃い領域は、第1電極上の活性触媒領域と反対側の領域に相当する。
【図8】図8は、通常の実験室の照明下で照射された図7の対向電極における、波長600nmでの光強度のプロフィールを示す図である。
【図9a】図9aは、実施例3の電極中の白金の負荷質量を示す図である。
【図9b】図9bは、実施例3の実験中の各要素を通過した全電荷を示す図である。
【図9c】図9cは、実施例3のエレクトロクロミック対向電極のインジケータ作用を示す図である。
【図10】図10は、実施例4の画像位置の関数としての通過した全電荷を示す図である。
【図11】図11は、実施例4で記録された電荷を、触媒試料と反対側の各対向電極の位置の中央の画像上に記録された、対応する時間における吸光度に対してプロットしたものを示す図である。
【図12】図12は、実施例5のエレクトロクロミック電極の写真を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の材料の電気化学的挙動を試験するための電気化学電池であって、
前記電池が、
第1電極、
通過した全電荷に比例して電磁エネルギーの反射、屈折又は吸収が変化するエレクトロクロミック材料を有する対向電極、及び
前記第1電極と前記対向電極との間にあり、且つこれらと電気的に接触している電解液
を含み、
前記第1電極及び前記電解液の一つが複数領域を含み、前記領域の各々が試験対象材料の試料を含み、前記第1電極の場合、前記領域が通常の端子に電気的に接続されている、電気化学電池。
【請求項2】
前記試験対象材料が電極触媒であり、且つ前記電解液が前記電極触媒により反応が触媒される材料を含む、請求項1に記載の電気化学電池。
【請求項3】
前記第1電極が、前記試験対象材料の複数領域を含む、請求項1又は2に記載の電気化学電池。
【請求項4】
前記電解液が、前記試験対象材料の複数領域を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電気化学電池。
【請求項5】
前記エレクトロクロミック材料が酸化タングステンである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の電気化学電池。
【請求項6】
参照電極が、電位の測定及び制御のために、前記電解液と接触している、請求項1〜5のいずれか一項に記載の電気化学電池。
【請求項1】
複数の材料の電気化学的挙動を試験するための電気化学電池であって、
前記電池が、
第1電極、
通過した全電荷に比例して電磁エネルギーの反射、屈折又は吸収が変化するエレクトロクロミック材料を有する対向電極、及び
前記第1電極と前記対向電極との間にあり、且つこれらと電気的に接触している電解液
を含み、
前記第1電極及び前記電解液の一つが複数領域を含み、前記領域の各々が試験対象材料の試料を含み、前記第1電極の場合、前記領域が通常の端子に電気的に接続されている、電気化学電池。
【請求項2】
前記試験対象材料が電極触媒であり、且つ前記電解液が前記電極触媒により反応が触媒される材料を含む、請求項1に記載の電気化学電池。
【請求項3】
前記第1電極が、前記試験対象材料の複数領域を含む、請求項1又は2に記載の電気化学電池。
【請求項4】
前記電解液が、前記試験対象材料の複数領域を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電気化学電池。
【請求項5】
前記エレクトロクロミック材料が酸化タングステンである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の電気化学電池。
【請求項6】
参照電極が、電位の測定及び制御のために、前記電解液と接触している、請求項1〜5のいずれか一項に記載の電気化学電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9a】
【図9b】
【図9c】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9a】
【図9b】
【図9c】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2006−517288(P2006−517288A)
【公表日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−500195(P2006−500195)
【出願日】平成16年1月9日(2004.1.9)
【国際出願番号】PCT/GB2004/000085
【国際公開番号】WO2004/063742
【国際公開日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(500282999)ユニヴァーシティ・オブ・サウザンプトン (5)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF SOUTHAMPTON
【住所又は居所原語表記】Highfield, Southampton, Hampshire SO17 1BJ, United Kingdom
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年1月9日(2004.1.9)
【国際出願番号】PCT/GB2004/000085
【国際公開番号】WO2004/063742
【国際公開日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(500282999)ユニヴァーシティ・オブ・サウザンプトン (5)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF SOUTHAMPTON
【住所又は居所原語表記】Highfield, Southampton, Hampshire SO17 1BJ, United Kingdom
【Fターム(参考)】
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