電気化学的検出方法
本発明は、気体環境中の少なくとも一種の化学的分析物の蒸気を検出する方法であって、繊維ベースの電気化学的センサーを準備する工程、但し、前記繊維ベースのセンサーは、少なくとも一種の複合体繊維を含み、前記複合体繊維は、第一及び第二の連続ポリマー相を含む共連続相ブレンドを含み、第一ポリマー相は、使用時に検出されるべき化学的分析物の蒸気に対して感受性であり、前記第一ポリマー相は、パーコレーション閾値より上の濃度のカーボンナノチューブの分散体を含み、化学的分析物は、前記第一ポリマー相中に溶解可能である;繊維ベースのセンサーの初期導電率を測定する工程;前記繊維ベースのセンサーを少なくとも一種の化学的分析物と接触させて、繊維の導電率の変化を誘導する工程;前記繊維ベースのセンサーの生じた導電率の変化を測定して、検出されるべき化学的分析物の濃度と前記変化を相関させる工程を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体環境中の少なくとも一種の化学的分析物の蒸気を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
文献US5417100は、環境中の溶媒の存在を検出するための、複合体中の導電性ポリマーの使用を開示する。溶媒の検出は、ポリマーを前記溶媒と接触させて膨潤させ、ポリマー鎖の間の空間を増大させることによって達成される。ポリマー鎖の配置のこの変化は、複合体の抵抗を増大させる。US5698089に開示されるような多数の溶媒を検出するために、多数の導電性ポリマーが一つのシステム中で一緒に使用されることができる。
【0003】
US5672297は、膨潤可能なポリマー粒子に沿って単離溶媒中に分散された導電性充填剤の使用を開示する。環境によって誘導されるポリマー粒子の膨潤は、残存自由溶媒の体積及び充填剤の局所濃度を減少させ、それは、パーコレーション閾値に到達する。従って、ポリマー粒子の膨潤は、混合物の導電率の主要な変化を誘導する。
【0004】
US7342479は、化学的センサーとしてのカーボンナノチューブを含む被覆の使用を開示し、被覆の電気抵抗の変化を使用して、特定の化学的分析物の濃度を決定することを開示する。この文献に記載される被覆は、ポリマーのような結合剤中に埋め込まれたカーボンナノチューブの固有抵抗の変化を使用する。かかる化学的センサーは、支持される必要があり、誘電体支持体上の被覆の形態で提案されている。
【0005】
文献US6315956は、化学的分析物の存在を検出するためのセンサーを開示する。開示されたセンサーは、第一及び第二連続ポリマー相(共連続相)を含むポリマーブレンドを含む。第一連続ポリマー相は、前記第一相が導電性であるように、パーコレーション閾値より上の濃度で導電性充填剤を含む。第二相は、絶縁性であり、検出されるべき分析物が前記第二相中に溶解可能であるように選択される。分析物の存在下で、第二相による前記分析物の吸収は、この相の膨潤を誘導し、巨視的なブレンドの導電性の変化を誘導する。さらに、第一ポリマー相は、分析物に対して反応しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来技術の欠点を克服する、少なくとも一種の化学的分析物の検出のための繊維ベースの電気化学的センサーを提供することを目的とする。
【0007】
より具体的には、本発明は、かさばらず、自立した、少なくとも一種の化学的分析物の検出のための繊維ベースの電気化学的センサーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、気体環境中の少なくとも一種の化学的分析物の蒸気を検出するための繊維ベースの電気化学的センサーに関し、前記繊維ベースのセンサーは、少なくとも一種の複合体繊維を含み、前記複合体繊維は、第一及び第二の連続ポリマー相の特定の関連を有する共連続相ブレンドを含み、第一ポリマー相は、使用時に検出されるべき化学的分析物の蒸気に対して感受性であり、前記第一ポリマー相は、パーコレーション閾値より上の濃度のカーボンナノチューブの分散体を含み、化学的分析物は、前記第一ポリマー相中に溶解可能である。
【0009】
特に好ましい実施態様によれば、本発明は、以下の特徴の少なくとも一つ又は好適な組み合わせをさらに開示する:
− 化学的分析物と第一ポリマー相との間のフローリー・ハギンズ相互作用パラメーターが、5.64[J1/2cm−3/2]より小さい;
− 前記カーボンナノチューブが、100〜400m2/gの比表面積を有する多層カーボンナノチューブである;
− 前記第一ポリマー相が、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリエチレンオキサイド、及びポリメチルメタクリレートからなる群から選択される;
− 前記少なくとも一種の化学的分析物が、芳香族溶媒、好ましくはスチレン及びトルエンからなる群から選択される;
− 前記少なくとも一種の化学的分析物が、アルコール、好ましくはメタノールからなる群から選択される;
− 前記少なくとも一種の化学的分析物が、塩素化溶媒、好ましくはトリクロロメタンからなる群から選択される;
− 前記第二ポリマー相が、ポリオレフィン、好ましくはポリエチレン又はポリプロピレンである;
− 前記第二ポリマー相が、ポリアミドである;
− 第一ポリマー相が、使用時のテトラヒドロフランの検出のためにポリカプロラクトンである;
− 第一ポリマー相が、使用時のスチレンの検出のためにポリ乳酸である;
− 第一ポリマー相が、使用時のメタノールの検出のためにポリエチレンオキサイドである;
− 第一ポリマー相が、使用時のトリクロロメタンの検出のためにポリメチルメタクリレートである。
【0010】
本発明は、上述の繊維ベースの電気化学的センサーを含む、少なくとも一種の化学的分析物の濃度を測定するための装置をさらに開示する。
【0011】
好ましくは、前記装置は、複数の異なる上述の繊維ベースの電気化学的センサーをさらに含む。
【0012】
本発明は、以下の工程を含むことを特徴とする、気体環境中の少なくとも一種の化学的分析物の蒸気を検出する方法にも関する:
− 繊維ベースの電気化学的センサーを準備する工程、但し、前記繊維ベースのセンサーは、少なくとも一種の複合体繊維を含み、前記複合体繊維は、第一及び第二の連続ポリマー相を含む共連続相ブレンドを含み、第一ポリマー相は、使用時に検出されるべき化学的分析物の蒸気に対して感受性であり、前記第一ポリマー相は、パーコレーション閾値より上の濃度のカーボンナノチューブの分散体を含み、化学的分析物は、前記第一ポリマー相中に溶解可能である;
− 繊維ベースのセンサーの初期導電率を測定する工程;
− 前記繊維ベースのセンサーを少なくとも一種の化学的分析物と接触させて、繊維の導電率の変化を誘導する工程;
− 前記繊維ベースのセンサーの生じた導電率の変化を測定して、検出されるべき化学的分析物の濃度と前記変化を相関させる工程。
【0013】
特に好ましい実施態様によれば、本発明の方法は、以下の特徴の少なくとも一つ又は好適な組み合わせをさらに開示する:
− 化学的分析物と第一ポリマー相との間のフローリー・ハギンズ相互作用パラメーターが、5.64[J1/2cm−3/2]より小さい;
− 前記カーボンナノチューブが、100〜400m2/gの比表面積を有する多層カーボンナノチューブである;
− 前記第一ポリマー相が、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリエチレンオキサイド、及びポリメチルメタクリレートからなる群から選択される;
− 前記少なくとも一種の化学的分析物が、芳香族溶媒、好ましくはスチレン及びトルエンからなる群から選択される;
− 前記少なくとも一種の化学的分析物が、アルコール、好ましくはメタノールからなる群から選択される;
− 前記少なくとも一種の化学的分析物が、塩素化溶媒、好ましくはトリクロロメタンからなる群から選択される;
− 前記第二ポリマー相が、ポリオレフィン、好ましくはポリエチレン又はポリプロピレンである;
− 前記第二ポリマー相が、ポリアミドである;
− 第一ポリマー相が、テトラヒドロフランの検出のためにポリカプロラクトンである;
− 第一ポリマー相が、スチレンの検出のためにポリ乳酸である;
− 第一ポリマー相が、メタノールの検出のためにポリエチレンオキサイドである;
− 第一ポリマー相が、トリクロロメタンの検出のためにポリメチルメタクリレートである;
− 複数の異なる繊維ベースの電気化学的センサーが準備される;
− 第一ポリマー相と第二ポリマー相との間の粘度比率が、0.67〜1.5である;
− 第一ポリマー相と第二ポリマー相との間の粘度比率が、0.8〜1.2である;
− 共連続相ブレンドが、相溶化剤をさらに含み、好ましくは、前記相溶化剤が、無水マレイン酸グラフトポリオレフィン、イオノマー、及びコポリマーからなる群から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の繊維ベースの電気化学的センサーにおいて使用される繊維の製造のための紡糸プロセスを示す。
【0015】
【図2】図2は、PCL相の抽出後のPCL相中に分散された3%CNTを有するPP/PCLブレンド50/50を含む繊維(サンプル4)の横断面のSEM分析を示す。
【0016】
【図3】図3は、酢酸を使用したPCLの選択的な抽出によって測定されたPCLの連続性割合のグラフを示す。
【0017】
【図4】図4は、PA12及びPP中のPCLの重量分率の関数としての導電性を示す。
【0018】
【図5】図5は、PCL相の抽出後の50/50重量でのPA12/PCLブレンド(サンプル9)のSEM写真を示す。
【0019】
【図6】図6は、トリクロロメタンの存在下での様々な組成の繊維の導電率(相対振幅)の変化を示す。
【0020】
【図7】図7は、トルエンの存在下での様々な組成の繊維の導電率(相対振幅)の変化を示す。
【0021】
【図8】図8は、スチレンの存在下での様々な組成の繊維の導電率(相対振幅)の変化を示す。
【0022】
【図9】図9は、メタノールの存在下での様々な組成の繊維の導電率(相対振幅)の変化を示す。
【0023】
【図10】図10は、500cm3・分−1の蒸気の動的モードでの化学的分析物の様々な蒸気の存在下でのPA12/PMMA繊維(サンプル9)の導電率の変化を示す。
【0024】
【図11】図11は、様々な液体化学的分析物の存在下でのPP/PCL繊維の導電率の変化を示す。
【0025】
【図12】図12は、様々な流量についての動的モードでのクロロホルムの様々な量の蒸気の存在下でのPA12/PMMA繊維(サンプル9)の導電率の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、少なくとも一種の化学的分析物の検出のために好適な、繊維ベースのセンサーに関する。繊維ベースのセンサーは、少なくとも二つの共連続ポリマー相のブレンドを含む。共連続相ブレンドは、二つの連続相を含む相ブレンドを意味する。
【0027】
第一ポリマー相は、カーボンナノチューブ(CNT)のような導電性充填剤を含む。検出されるべき化学的分析物は、第一ポリマー相中に溶解可能である。
【0028】
本発明において、表現「溶解可能である」は、化学的分析物の少なくとも一部が、環境中の分析物の濃度の変化に応答して第一ポリマー相によって吸収又は放出されることができるということを意味する。
【0029】
化学的分析物の吸収は、前記第一ポリマー相の膨潤を誘導することができる。誘導された膨潤は、CNT間の接触を変化させ、従って、繊維の導電率の測定可能な変化を生じる。
【0030】
代替的に、分析物の拡散は、化学的分析物と前記第一ポリマー相との間のポリマー鎖の相互作用を(ファンデルワールス力又は水素結合によって)誘導してポリマー鎖がそれらの配置を再配列することができるのに十分であることができる。これは、CNTの移動を生じ、それにより電子伝導が妨害される。従って、前記第一ポリマー相は、貧溶媒に対して感受性であることができ、ポリマーマトリックスのいかなる観察可能な膨潤なしに電気信号を与えることができる。
【0031】
ポリマー中の溶媒の溶解度は、例えば以下の式によって規定されるフローリー・ハギンズ相互作用パラメーターから演繹されることができる:
式中、δTは、以下の式に由来する分子間の結合からの総エネルギーである。:
式中、δdは、分子間の分散結合からのエネルギーであり、δPは、分子間の極性結合からのエネルギーであり、δHは、分子間の水素結合からのエネルギーである。これらのパラメーターの値の例は、表1に与えられる。
【0032】
第一ポリマー相中の導電性充填剤の濃度は、分析物の非存在下でパーコレーション閾値より上であり、従って、前記第一ポリマー相は導電性である。パーコレーション閾値は、連続的な導電性経路が複合体中に形成される最小充填剤濃度である。このパーコレーション閾値は、増大する充填剤濃度と共に、ブレンドの導電性の鋭利な増大によって特徴付けられる。通常、導電性ポリマー複合体中では、このパーコレーション閾値は、106オーム・cm未満の抵抗率を誘導する充填剤の濃度であるとみなされる。
【0033】
第一ポリマー相は、検出されるべき分析物と良好な相溶性を有するように(即ち、分析物が吸収されることができるように)選択される。例えば、溶媒の蒸気を検出するために、第一ポリマー相は、検出されるべき分析物と第一ポリマー相との間のフローリー・ハギンズ相互作用パラメーターが、6[J1/2cm−3/2]より小さく、好ましくは5.64[J1/2cm−3/2]より小さくなるように選択されるであろう。
【0034】
第一ポリマー相と化学的分析物との高い相溶性のため、多量のこの化学的分析物が前記第一ポリマー相を通って拡散することができ、そして前記第一ポリマー相によって吸収されることができる。これは、ポリマー鎖の局所的可動性の変化を生じ、CNTの再編成を誘導する。このため、繊維の巨視的な抵抗が変化する。この拡散は、第一ポリマー相の膨潤を必然的に伴う。
【0035】
分析物の濃度が高いと、膨潤が極めて高くなり第一相の機械的特性が強く低下することがある。このため、支持材料は、繊維の機械的一体性を維持することが必要である。この支持材料は、第二ポリマー相によって形成される。前記第二ポリマー相は、化学的分析物に対してほとんど反応しないように選択され、非導電性である。第二ポリマー相は、保護エンベロープとしても作用し、これは、使用時に繊維の一体性を保存する。
【0036】
液体環境中で使用される場合、第二ポリマー相は、ポリオレフィンであることが好ましく、より好ましくはポリプロピレン又はポリエチレンである。
【0037】
気体環境中で使用される場合、第二ポリマー相は、ポリアミドに基づくことが好ましい。
【0038】
繊維は、図1に示されるように紡糸プロセスにおいて製造される。繊維の使用は、いくつかの利点をもたらす。表面積対体積比率は、いくつかの繊維を束にして使用することによって最適化されることができ、抵抗測定における応答時間遅延を減少させることができる。繊維は、高性能の布中に含められることができ、特定の幾何学的形状に容易に成形されることができる。
【0039】
ポリマーブレンドの相溶性は、二相系の紡糸性に影響を与える。より具体的には、両方の相の間の付着は、ブレンドの紡糸性を改善する。付着は、本来的に付着するポリマーの対を選択することによって、又は一方のポリマー相に相溶化剤を添加することによって達成されることができる。相溶化剤の例は、無水マレイン酸グラフトポリオレフィン、イオノマー、各相のブロックを含むブロックコポリマーである。凝集も、ブレンドの形態に影響を与える。
【0040】
相の共連続性を可能にするため、二相系の二つの相の間の粘度の比率は、0.67〜1.5であることが好ましく、より好ましくは0.8〜1.2であり、理想的には1に近い。共連続性を決定する他のパラメーターは、ポリマーの性質(粘度、界面張力、及びこれらの粘度の比率)、それらの体積分率、及び加工条件である。
【0041】
本発明の記述における粘度を評価するための簡便な方法は、繊維の押出し温度(即ち、例えばPEについては190℃、PPについては230℃)に近い温度での、ISO 1133:1997に記載のいわゆるMFI手順である。かかるMFI測定は、通常の押出し条件での真の粘度の通常良好な相対的推定手段である。代替的に、粘度は、押出し条件に近い剪断条件下でISO 11443に従って動的に測定されることもできる。しかし、かかる方法は、使用するのが一層困難であり、しかも上述の通り、粘度比だけが必要であるなら、MFIが十分な推定手段である。
【実施例】
【0042】
実施例は、以下のものを含むブレンドに関する:
− 第一ポリマー相としてのポリ(ε−カプロラクトン)(PCL)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリ乳酸(PLA)及びポリメチルメタクリレート(PMMA);
− 第二ポリマー相としてのポリプロピレン(PP)及びポリアミド12(PA12);
− カーボンナノチューブ(CNT)。
【0043】
PCL、即ちSolvayからのCAPA6800は、約60℃の比較的低い融解温度を有する生分解性ポリマーである。ポリエチレンオキサイドは、Sigma Aldrichによって提供された。その商品名はPEO 181986である。PMMAは、Rhoemによって提供されるVQ101Sであった。PLAは、BiomerからのグレードL−9000であった。
【0044】
DOWからのH777−25Rという種類のPPが選択された。PA12は、EMS−ChemieからのGrilamid L16Eであった。これらのPP及びPA12は、紡糸タイプのものであり、ブレンドの良好な紡糸性に導くにちがいない。
【0045】
これらのポリマーとNanocylからのカーボンナノチューブ(CNT)の様々な重量との複合体は、様々な重量分率で調製された。カーボンナノチューブは、直径5〜20nm、好ましくは6〜15nmで比表面積100〜400m2/gの多層カーボンナノチューブである。
【0046】
繊維の製造は、二工程プロセスで行われた。第一工程では、カーボンナノチューブは、二軸スクリュー配合押出機で第一ポリマー中に分散された。得られた押出し物は、次にペレット化され、第二ポリマーとドライブレンドされた。
【0047】
得られたドライブレンドは、次に、図1に示されるように紡糸ダイに供給する一軸スクリュー押出機のホッパーに供給された。図1に相当する様々な領域の温度が表2にまとめられている。温度は、所定の第二ポリマー相について固定された。
さらなる実験のために調製された導電性ポリマー複合体(CPC)の組成が表3にまとめられている。
【0048】
マルチフィラメント糸を得るために溶融紡糸機(Busschaert Engineeringによって製造されたSpinboy I)が使用された。マルチフィラメント糸は、紡糸油剤で被覆され、延伸比率を制御するために異なる速度(S1及びS2)を有する二つのロールに巻き上げられた。マルチフィラメント糸の理論的な延伸は、比率DR=S2/S1によって与えられる。繊維紡糸中、ナノチューブを含む溶融ポリマーは、比較的小さい直径(ポリマーの種類に応じて400μm又は1.2mm)を有するダイヘッドを通して押し出され、次に一連のフィルターを通して押し出された。紡糸可能なブレンドを得るためにいくつかのパラメーターがプロセス中に最適化された。これらのパラメーターは主に、加熱領域の温度、体積計量ポンプ速度、及びロール速度であった。
【0049】
選択的な抽出によるPCL相の連続性の決定
PP/PCL及びPA12/PCLブレンドの共連続性の拡張された研究が実施された。一つの相の選択的な抽出は、混合物の共連続性の良好な推定を与える。これは、酢酸中へのPCLの溶解によって達成された。この溶媒は、PA12及びPPに対して何の影響も与えない。もし混合物が小節構造を有するなら、PCL含有物は、溶媒によって影響を受けず、従ってそれらは溶解しない。次に、PCL相の連続性の割合が、重量損失測定によって演繹された。
【0050】
PCLを除去するため、各ブレンドの繊維は、室温で2日間、酢酸中に浸漬された。抽出されたストランドは、次に酢酸中で洗浄され、50℃で乾燥されて酢酸が除去された。抽出プロセスを数回繰り返した後、サンプル重量は、一定値に収束した。
【0051】
相の連続性は、ブレンド中の初期PCLの濃度に対する溶解可能なPCL部分の比率を使用して計算された。ただし、溶解可能なPCL部分は、抽出前後のサンプル重量の差である。
【0052】
ブレンド中のPCL部分は、以下の式を使用して計算される:
PCLの%連続性=((PCLの初期重量−PCLの最終重量)/PCLの初期重量)×100%
結果は、図3に示される。図3から、PCLの連続性がPA12中で約40%のPCLに到達し、PP中で約30%のPCLに到達したことがわかる。
【0053】
蒸気検出
いわゆる静的モードの分析において、分析用の所望の量の溶媒分子が、閉鎖チャンバー中に導入された。飽和条件で、溶媒は、チャンバーの底に液体状態で存在していた。トルエン、スチレン、トリクロロメタン、THF、水、及びメタノールの蒸気について、いくつかのサンプルの蒸気検出挙動が調査された。電気抵抗の測定は、Keithleyマルチメーター2000を使用して室温で行われた。各サンプルは、飽和した有機蒸気に300秒間さらされ、次に、乾燥空気雰囲気を有するデシケーター中に移された。これらのサイクルは、3回繰り返された。繊維の抵抗は、10秒ごとに自動的に測定された。次に、相対振幅が(R−R0)/R0として定義された。ただし、R0は、複合体の初期抵抗(即ち、大気雰囲気にさらされたときの抵抗)である。
【0054】
いわゆる動的モードの分析において、CNTを含む複合体繊維の電気化学的特性が、窒素及び蒸気流の連続サイクルに15分間さらされたときのそれらの電気的応答を記録することによって調査された。動的システムは、質量流れコントローラー、溶媒発泡器、及び電気弁からなり、LabViewソフトウェアによって制御される。液体溶媒中へのN2ガスの泡立ちは、飽和された蒸気流を与え、これは、次に、第二N2流によって室温で所望の濃度に希釈された。装置の設計は、分析物の流量が分析物含有量の影響を調査するために適合されながらも総流量Qv(cm3・分−1)を一定に維持することを可能にする。CPCトランスデューサーの電気的特性は、KEITHLEY 6517Aマルチメーターによって記録された。サンプルは、9cm×3cm×3.5cmの大きさのチャンバー中に配置された。
【0055】
様々なサンプル及び様々な溶媒について得られた相対振幅が、図6〜12に示される。これらの図から、それぞれの特定の第一ポリマー相が、特定の溶媒に対して特定の感度を有することがわかる。例えば、PLAは、スチレンの蒸気に対して良好な感度を示し、PEDは、メタノールの蒸気に対して良好な感度を示す。これらの差は、特定の化学物質に対する装置の選択性を改良するために複数の検出繊維を含む蒸気検出装置において有利に使用されることができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体環境中の少なくとも一種の化学的分析物の蒸気を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
文献US5417100は、環境中の溶媒の存在を検出するための、複合体中の導電性ポリマーの使用を開示する。溶媒の検出は、ポリマーを前記溶媒と接触させて膨潤させ、ポリマー鎖の間の空間を増大させることによって達成される。ポリマー鎖の配置のこの変化は、複合体の抵抗を増大させる。US5698089に開示されるような多数の溶媒を検出するために、多数の導電性ポリマーが一つのシステム中で一緒に使用されることができる。
【0003】
US5672297は、膨潤可能なポリマー粒子に沿って単離溶媒中に分散された導電性充填剤の使用を開示する。環境によって誘導されるポリマー粒子の膨潤は、残存自由溶媒の体積及び充填剤の局所濃度を減少させ、それは、パーコレーション閾値に到達する。従って、ポリマー粒子の膨潤は、混合物の導電率の主要な変化を誘導する。
【0004】
US7342479は、化学的センサーとしてのカーボンナノチューブを含む被覆の使用を開示し、被覆の電気抵抗の変化を使用して、特定の化学的分析物の濃度を決定することを開示する。この文献に記載される被覆は、ポリマーのような結合剤中に埋め込まれたカーボンナノチューブの固有抵抗の変化を使用する。かかる化学的センサーは、支持される必要があり、誘電体支持体上の被覆の形態で提案されている。
【0005】
文献US6315956は、化学的分析物の存在を検出するためのセンサーを開示する。開示されたセンサーは、第一及び第二連続ポリマー相(共連続相)を含むポリマーブレンドを含む。第一連続ポリマー相は、前記第一相が導電性であるように、パーコレーション閾値より上の濃度で導電性充填剤を含む。第二相は、絶縁性であり、検出されるべき分析物が前記第二相中に溶解可能であるように選択される。分析物の存在下で、第二相による前記分析物の吸収は、この相の膨潤を誘導し、巨視的なブレンドの導電性の変化を誘導する。さらに、第一ポリマー相は、分析物に対して反応しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来技術の欠点を克服する、少なくとも一種の化学的分析物の検出のための繊維ベースの電気化学的センサーを提供することを目的とする。
【0007】
より具体的には、本発明は、かさばらず、自立した、少なくとも一種の化学的分析物の検出のための繊維ベースの電気化学的センサーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、気体環境中の少なくとも一種の化学的分析物の蒸気を検出するための繊維ベースの電気化学的センサーに関し、前記繊維ベースのセンサーは、少なくとも一種の複合体繊維を含み、前記複合体繊維は、第一及び第二の連続ポリマー相の特定の関連を有する共連続相ブレンドを含み、第一ポリマー相は、使用時に検出されるべき化学的分析物の蒸気に対して感受性であり、前記第一ポリマー相は、パーコレーション閾値より上の濃度のカーボンナノチューブの分散体を含み、化学的分析物は、前記第一ポリマー相中に溶解可能である。
【0009】
特に好ましい実施態様によれば、本発明は、以下の特徴の少なくとも一つ又は好適な組み合わせをさらに開示する:
− 化学的分析物と第一ポリマー相との間のフローリー・ハギンズ相互作用パラメーターが、5.64[J1/2cm−3/2]より小さい;
− 前記カーボンナノチューブが、100〜400m2/gの比表面積を有する多層カーボンナノチューブである;
− 前記第一ポリマー相が、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリエチレンオキサイド、及びポリメチルメタクリレートからなる群から選択される;
− 前記少なくとも一種の化学的分析物が、芳香族溶媒、好ましくはスチレン及びトルエンからなる群から選択される;
− 前記少なくとも一種の化学的分析物が、アルコール、好ましくはメタノールからなる群から選択される;
− 前記少なくとも一種の化学的分析物が、塩素化溶媒、好ましくはトリクロロメタンからなる群から選択される;
− 前記第二ポリマー相が、ポリオレフィン、好ましくはポリエチレン又はポリプロピレンである;
− 前記第二ポリマー相が、ポリアミドである;
− 第一ポリマー相が、使用時のテトラヒドロフランの検出のためにポリカプロラクトンである;
− 第一ポリマー相が、使用時のスチレンの検出のためにポリ乳酸である;
− 第一ポリマー相が、使用時のメタノールの検出のためにポリエチレンオキサイドである;
− 第一ポリマー相が、使用時のトリクロロメタンの検出のためにポリメチルメタクリレートである。
【0010】
本発明は、上述の繊維ベースの電気化学的センサーを含む、少なくとも一種の化学的分析物の濃度を測定するための装置をさらに開示する。
【0011】
好ましくは、前記装置は、複数の異なる上述の繊維ベースの電気化学的センサーをさらに含む。
【0012】
本発明は、以下の工程を含むことを特徴とする、気体環境中の少なくとも一種の化学的分析物の蒸気を検出する方法にも関する:
− 繊維ベースの電気化学的センサーを準備する工程、但し、前記繊維ベースのセンサーは、少なくとも一種の複合体繊維を含み、前記複合体繊維は、第一及び第二の連続ポリマー相を含む共連続相ブレンドを含み、第一ポリマー相は、使用時に検出されるべき化学的分析物の蒸気に対して感受性であり、前記第一ポリマー相は、パーコレーション閾値より上の濃度のカーボンナノチューブの分散体を含み、化学的分析物は、前記第一ポリマー相中に溶解可能である;
− 繊維ベースのセンサーの初期導電率を測定する工程;
− 前記繊維ベースのセンサーを少なくとも一種の化学的分析物と接触させて、繊維の導電率の変化を誘導する工程;
− 前記繊維ベースのセンサーの生じた導電率の変化を測定して、検出されるべき化学的分析物の濃度と前記変化を相関させる工程。
【0013】
特に好ましい実施態様によれば、本発明の方法は、以下の特徴の少なくとも一つ又は好適な組み合わせをさらに開示する:
− 化学的分析物と第一ポリマー相との間のフローリー・ハギンズ相互作用パラメーターが、5.64[J1/2cm−3/2]より小さい;
− 前記カーボンナノチューブが、100〜400m2/gの比表面積を有する多層カーボンナノチューブである;
− 前記第一ポリマー相が、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリエチレンオキサイド、及びポリメチルメタクリレートからなる群から選択される;
− 前記少なくとも一種の化学的分析物が、芳香族溶媒、好ましくはスチレン及びトルエンからなる群から選択される;
− 前記少なくとも一種の化学的分析物が、アルコール、好ましくはメタノールからなる群から選択される;
− 前記少なくとも一種の化学的分析物が、塩素化溶媒、好ましくはトリクロロメタンからなる群から選択される;
− 前記第二ポリマー相が、ポリオレフィン、好ましくはポリエチレン又はポリプロピレンである;
− 前記第二ポリマー相が、ポリアミドである;
− 第一ポリマー相が、テトラヒドロフランの検出のためにポリカプロラクトンである;
− 第一ポリマー相が、スチレンの検出のためにポリ乳酸である;
− 第一ポリマー相が、メタノールの検出のためにポリエチレンオキサイドである;
− 第一ポリマー相が、トリクロロメタンの検出のためにポリメチルメタクリレートである;
− 複数の異なる繊維ベースの電気化学的センサーが準備される;
− 第一ポリマー相と第二ポリマー相との間の粘度比率が、0.67〜1.5である;
− 第一ポリマー相と第二ポリマー相との間の粘度比率が、0.8〜1.2である;
− 共連続相ブレンドが、相溶化剤をさらに含み、好ましくは、前記相溶化剤が、無水マレイン酸グラフトポリオレフィン、イオノマー、及びコポリマーからなる群から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の繊維ベースの電気化学的センサーにおいて使用される繊維の製造のための紡糸プロセスを示す。
【0015】
【図2】図2は、PCL相の抽出後のPCL相中に分散された3%CNTを有するPP/PCLブレンド50/50を含む繊維(サンプル4)の横断面のSEM分析を示す。
【0016】
【図3】図3は、酢酸を使用したPCLの選択的な抽出によって測定されたPCLの連続性割合のグラフを示す。
【0017】
【図4】図4は、PA12及びPP中のPCLの重量分率の関数としての導電性を示す。
【0018】
【図5】図5は、PCL相の抽出後の50/50重量でのPA12/PCLブレンド(サンプル9)のSEM写真を示す。
【0019】
【図6】図6は、トリクロロメタンの存在下での様々な組成の繊維の導電率(相対振幅)の変化を示す。
【0020】
【図7】図7は、トルエンの存在下での様々な組成の繊維の導電率(相対振幅)の変化を示す。
【0021】
【図8】図8は、スチレンの存在下での様々な組成の繊維の導電率(相対振幅)の変化を示す。
【0022】
【図9】図9は、メタノールの存在下での様々な組成の繊維の導電率(相対振幅)の変化を示す。
【0023】
【図10】図10は、500cm3・分−1の蒸気の動的モードでの化学的分析物の様々な蒸気の存在下でのPA12/PMMA繊維(サンプル9)の導電率の変化を示す。
【0024】
【図11】図11は、様々な液体化学的分析物の存在下でのPP/PCL繊維の導電率の変化を示す。
【0025】
【図12】図12は、様々な流量についての動的モードでのクロロホルムの様々な量の蒸気の存在下でのPA12/PMMA繊維(サンプル9)の導電率の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、少なくとも一種の化学的分析物の検出のために好適な、繊維ベースのセンサーに関する。繊維ベースのセンサーは、少なくとも二つの共連続ポリマー相のブレンドを含む。共連続相ブレンドは、二つの連続相を含む相ブレンドを意味する。
【0027】
第一ポリマー相は、カーボンナノチューブ(CNT)のような導電性充填剤を含む。検出されるべき化学的分析物は、第一ポリマー相中に溶解可能である。
【0028】
本発明において、表現「溶解可能である」は、化学的分析物の少なくとも一部が、環境中の分析物の濃度の変化に応答して第一ポリマー相によって吸収又は放出されることができるということを意味する。
【0029】
化学的分析物の吸収は、前記第一ポリマー相の膨潤を誘導することができる。誘導された膨潤は、CNT間の接触を変化させ、従って、繊維の導電率の測定可能な変化を生じる。
【0030】
代替的に、分析物の拡散は、化学的分析物と前記第一ポリマー相との間のポリマー鎖の相互作用を(ファンデルワールス力又は水素結合によって)誘導してポリマー鎖がそれらの配置を再配列することができるのに十分であることができる。これは、CNTの移動を生じ、それにより電子伝導が妨害される。従って、前記第一ポリマー相は、貧溶媒に対して感受性であることができ、ポリマーマトリックスのいかなる観察可能な膨潤なしに電気信号を与えることができる。
【0031】
ポリマー中の溶媒の溶解度は、例えば以下の式によって規定されるフローリー・ハギンズ相互作用パラメーターから演繹されることができる:
式中、δTは、以下の式に由来する分子間の結合からの総エネルギーである。:
式中、δdは、分子間の分散結合からのエネルギーであり、δPは、分子間の極性結合からのエネルギーであり、δHは、分子間の水素結合からのエネルギーである。これらのパラメーターの値の例は、表1に与えられる。
【0032】
第一ポリマー相中の導電性充填剤の濃度は、分析物の非存在下でパーコレーション閾値より上であり、従って、前記第一ポリマー相は導電性である。パーコレーション閾値は、連続的な導電性経路が複合体中に形成される最小充填剤濃度である。このパーコレーション閾値は、増大する充填剤濃度と共に、ブレンドの導電性の鋭利な増大によって特徴付けられる。通常、導電性ポリマー複合体中では、このパーコレーション閾値は、106オーム・cm未満の抵抗率を誘導する充填剤の濃度であるとみなされる。
【0033】
第一ポリマー相は、検出されるべき分析物と良好な相溶性を有するように(即ち、分析物が吸収されることができるように)選択される。例えば、溶媒の蒸気を検出するために、第一ポリマー相は、検出されるべき分析物と第一ポリマー相との間のフローリー・ハギンズ相互作用パラメーターが、6[J1/2cm−3/2]より小さく、好ましくは5.64[J1/2cm−3/2]より小さくなるように選択されるであろう。
【0034】
第一ポリマー相と化学的分析物との高い相溶性のため、多量のこの化学的分析物が前記第一ポリマー相を通って拡散することができ、そして前記第一ポリマー相によって吸収されることができる。これは、ポリマー鎖の局所的可動性の変化を生じ、CNTの再編成を誘導する。このため、繊維の巨視的な抵抗が変化する。この拡散は、第一ポリマー相の膨潤を必然的に伴う。
【0035】
分析物の濃度が高いと、膨潤が極めて高くなり第一相の機械的特性が強く低下することがある。このため、支持材料は、繊維の機械的一体性を維持することが必要である。この支持材料は、第二ポリマー相によって形成される。前記第二ポリマー相は、化学的分析物に対してほとんど反応しないように選択され、非導電性である。第二ポリマー相は、保護エンベロープとしても作用し、これは、使用時に繊維の一体性を保存する。
【0036】
液体環境中で使用される場合、第二ポリマー相は、ポリオレフィンであることが好ましく、より好ましくはポリプロピレン又はポリエチレンである。
【0037】
気体環境中で使用される場合、第二ポリマー相は、ポリアミドに基づくことが好ましい。
【0038】
繊維は、図1に示されるように紡糸プロセスにおいて製造される。繊維の使用は、いくつかの利点をもたらす。表面積対体積比率は、いくつかの繊維を束にして使用することによって最適化されることができ、抵抗測定における応答時間遅延を減少させることができる。繊維は、高性能の布中に含められることができ、特定の幾何学的形状に容易に成形されることができる。
【0039】
ポリマーブレンドの相溶性は、二相系の紡糸性に影響を与える。より具体的には、両方の相の間の付着は、ブレンドの紡糸性を改善する。付着は、本来的に付着するポリマーの対を選択することによって、又は一方のポリマー相に相溶化剤を添加することによって達成されることができる。相溶化剤の例は、無水マレイン酸グラフトポリオレフィン、イオノマー、各相のブロックを含むブロックコポリマーである。凝集も、ブレンドの形態に影響を与える。
【0040】
相の共連続性を可能にするため、二相系の二つの相の間の粘度の比率は、0.67〜1.5であることが好ましく、より好ましくは0.8〜1.2であり、理想的には1に近い。共連続性を決定する他のパラメーターは、ポリマーの性質(粘度、界面張力、及びこれらの粘度の比率)、それらの体積分率、及び加工条件である。
【0041】
本発明の記述における粘度を評価するための簡便な方法は、繊維の押出し温度(即ち、例えばPEについては190℃、PPについては230℃)に近い温度での、ISO 1133:1997に記載のいわゆるMFI手順である。かかるMFI測定は、通常の押出し条件での真の粘度の通常良好な相対的推定手段である。代替的に、粘度は、押出し条件に近い剪断条件下でISO 11443に従って動的に測定されることもできる。しかし、かかる方法は、使用するのが一層困難であり、しかも上述の通り、粘度比だけが必要であるなら、MFIが十分な推定手段である。
【実施例】
【0042】
実施例は、以下のものを含むブレンドに関する:
− 第一ポリマー相としてのポリ(ε−カプロラクトン)(PCL)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリ乳酸(PLA)及びポリメチルメタクリレート(PMMA);
− 第二ポリマー相としてのポリプロピレン(PP)及びポリアミド12(PA12);
− カーボンナノチューブ(CNT)。
【0043】
PCL、即ちSolvayからのCAPA6800は、約60℃の比較的低い融解温度を有する生分解性ポリマーである。ポリエチレンオキサイドは、Sigma Aldrichによって提供された。その商品名はPEO 181986である。PMMAは、Rhoemによって提供されるVQ101Sであった。PLAは、BiomerからのグレードL−9000であった。
【0044】
DOWからのH777−25Rという種類のPPが選択された。PA12は、EMS−ChemieからのGrilamid L16Eであった。これらのPP及びPA12は、紡糸タイプのものであり、ブレンドの良好な紡糸性に導くにちがいない。
【0045】
これらのポリマーとNanocylからのカーボンナノチューブ(CNT)の様々な重量との複合体は、様々な重量分率で調製された。カーボンナノチューブは、直径5〜20nm、好ましくは6〜15nmで比表面積100〜400m2/gの多層カーボンナノチューブである。
【0046】
繊維の製造は、二工程プロセスで行われた。第一工程では、カーボンナノチューブは、二軸スクリュー配合押出機で第一ポリマー中に分散された。得られた押出し物は、次にペレット化され、第二ポリマーとドライブレンドされた。
【0047】
得られたドライブレンドは、次に、図1に示されるように紡糸ダイに供給する一軸スクリュー押出機のホッパーに供給された。図1に相当する様々な領域の温度が表2にまとめられている。温度は、所定の第二ポリマー相について固定された。
さらなる実験のために調製された導電性ポリマー複合体(CPC)の組成が表3にまとめられている。
【0048】
マルチフィラメント糸を得るために溶融紡糸機(Busschaert Engineeringによって製造されたSpinboy I)が使用された。マルチフィラメント糸は、紡糸油剤で被覆され、延伸比率を制御するために異なる速度(S1及びS2)を有する二つのロールに巻き上げられた。マルチフィラメント糸の理論的な延伸は、比率DR=S2/S1によって与えられる。繊維紡糸中、ナノチューブを含む溶融ポリマーは、比較的小さい直径(ポリマーの種類に応じて400μm又は1.2mm)を有するダイヘッドを通して押し出され、次に一連のフィルターを通して押し出された。紡糸可能なブレンドを得るためにいくつかのパラメーターがプロセス中に最適化された。これらのパラメーターは主に、加熱領域の温度、体積計量ポンプ速度、及びロール速度であった。
【0049】
選択的な抽出によるPCL相の連続性の決定
PP/PCL及びPA12/PCLブレンドの共連続性の拡張された研究が実施された。一つの相の選択的な抽出は、混合物の共連続性の良好な推定を与える。これは、酢酸中へのPCLの溶解によって達成された。この溶媒は、PA12及びPPに対して何の影響も与えない。もし混合物が小節構造を有するなら、PCL含有物は、溶媒によって影響を受けず、従ってそれらは溶解しない。次に、PCL相の連続性の割合が、重量損失測定によって演繹された。
【0050】
PCLを除去するため、各ブレンドの繊維は、室温で2日間、酢酸中に浸漬された。抽出されたストランドは、次に酢酸中で洗浄され、50℃で乾燥されて酢酸が除去された。抽出プロセスを数回繰り返した後、サンプル重量は、一定値に収束した。
【0051】
相の連続性は、ブレンド中の初期PCLの濃度に対する溶解可能なPCL部分の比率を使用して計算された。ただし、溶解可能なPCL部分は、抽出前後のサンプル重量の差である。
【0052】
ブレンド中のPCL部分は、以下の式を使用して計算される:
PCLの%連続性=((PCLの初期重量−PCLの最終重量)/PCLの初期重量)×100%
結果は、図3に示される。図3から、PCLの連続性がPA12中で約40%のPCLに到達し、PP中で約30%のPCLに到達したことがわかる。
【0053】
蒸気検出
いわゆる静的モードの分析において、分析用の所望の量の溶媒分子が、閉鎖チャンバー中に導入された。飽和条件で、溶媒は、チャンバーの底に液体状態で存在していた。トルエン、スチレン、トリクロロメタン、THF、水、及びメタノールの蒸気について、いくつかのサンプルの蒸気検出挙動が調査された。電気抵抗の測定は、Keithleyマルチメーター2000を使用して室温で行われた。各サンプルは、飽和した有機蒸気に300秒間さらされ、次に、乾燥空気雰囲気を有するデシケーター中に移された。これらのサイクルは、3回繰り返された。繊維の抵抗は、10秒ごとに自動的に測定された。次に、相対振幅が(R−R0)/R0として定義された。ただし、R0は、複合体の初期抵抗(即ち、大気雰囲気にさらされたときの抵抗)である。
【0054】
いわゆる動的モードの分析において、CNTを含む複合体繊維の電気化学的特性が、窒素及び蒸気流の連続サイクルに15分間さらされたときのそれらの電気的応答を記録することによって調査された。動的システムは、質量流れコントローラー、溶媒発泡器、及び電気弁からなり、LabViewソフトウェアによって制御される。液体溶媒中へのN2ガスの泡立ちは、飽和された蒸気流を与え、これは、次に、第二N2流によって室温で所望の濃度に希釈された。装置の設計は、分析物の流量が分析物含有量の影響を調査するために適合されながらも総流量Qv(cm3・分−1)を一定に維持することを可能にする。CPCトランスデューサーの電気的特性は、KEITHLEY 6517Aマルチメーターによって記録された。サンプルは、9cm×3cm×3.5cmの大きさのチャンバー中に配置された。
【0055】
様々なサンプル及び様々な溶媒について得られた相対振幅が、図6〜12に示される。これらの図から、それぞれの特定の第一ポリマー相が、特定の溶媒に対して特定の感度を有することがわかる。例えば、PLAは、スチレンの蒸気に対して良好な感度を示し、PEDは、メタノールの蒸気に対して良好な感度を示す。これらの差は、特定の化学物質に対する装置の選択性を改良するために複数の検出繊維を含む蒸気検出装置において有利に使用されることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含むことを特徴とする、気体環境中の少なくとも一種の化学的分析物の蒸気を検出する方法:
− 繊維ベースの電気化学的センサーを準備する工程、但し、前記繊維ベースのセンサーは、少なくとも一種の複合体繊維を含み、前記複合体繊維は、第一及び第二の連続ポリマー相を含む共連続相ブレンドを含み、第一ポリマー相は、使用時に検出されるべき化学的分析物の蒸気に対して感受性であり、前記第一ポリマー相は、パーコレーション閾値より上の濃度のカーボンナノチューブの分散体を含み、化学的分析物は、前記第一ポリマー相中に溶解可能である;
− 繊維ベースのセンサーの初期導電率を測定する工程;
− 前記繊維ベースのセンサーを少なくとも一種の化学的分析物と接触させて、繊維の導電率の変化を誘導する工程;
− 前記繊維ベースのセンサーの生じた導電率の変化を測定して、検出されるべき化学的分析物の濃度と前記変化を相関させる工程。
【請求項2】
化学的分析物と第一ポリマー相との間のフローリー・ハギンズ相互作用パラメーターが、5.64[J1/2cm−3/2]より小さいことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブが、100〜400m2/gの比表面積を有する多層カーボンナノチューブであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第一ポリマー相が、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリエチレンオキサイド、及びポリメチルメタクリレートからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも一種の化学的分析物が、芳香族溶媒、好ましくはスチレン及びトルエンからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも一種の化学的分析物が、アルコール、好ましくはメタノールからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも一種の化学的分析物が、塩素化溶媒、好ましくはトリクロロメタンからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記第二ポリマー相が、ポリオレフィン、好ましくはポリエチレン又はポリプロピレンであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記第二ポリマー相が、ポリアミドであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
第一ポリマー相が、テトラヒドロフランの検出のためにポリカプロラクトンであることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
第一ポリマー相が、スチレンの検出のためにポリ乳酸であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
第一ポリマー相が、メタノールの検出のためにポリエチレンオキサイドであることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
第一ポリマー相が、トリクロロメタンの検出のためにポリメチルメタクリレートであることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
複数の異なる繊維ベースの電気化学的センサーが準備されることを特徴とする、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
第一ポリマー相と第二ポリマー相との間の粘度比率が、0.67〜1.5であることを特徴とする、請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
第一ポリマー相と第二ポリマー相との間の粘度比率が、0.8〜1.2であることを特徴とする、請求項1〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
共連続相ブレンドが、相溶化剤をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
相溶化剤が、無水マレイン酸グラフトポリオレフィン、イオノマー、及びコポリマーからなる群から選択されることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項1】
以下の工程を含むことを特徴とする、気体環境中の少なくとも一種の化学的分析物の蒸気を検出する方法:
− 繊維ベースの電気化学的センサーを準備する工程、但し、前記繊維ベースのセンサーは、少なくとも一種の複合体繊維を含み、前記複合体繊維は、第一及び第二の連続ポリマー相を含む共連続相ブレンドを含み、第一ポリマー相は、使用時に検出されるべき化学的分析物の蒸気に対して感受性であり、前記第一ポリマー相は、パーコレーション閾値より上の濃度のカーボンナノチューブの分散体を含み、化学的分析物は、前記第一ポリマー相中に溶解可能である;
− 繊維ベースのセンサーの初期導電率を測定する工程;
− 前記繊維ベースのセンサーを少なくとも一種の化学的分析物と接触させて、繊維の導電率の変化を誘導する工程;
− 前記繊維ベースのセンサーの生じた導電率の変化を測定して、検出されるべき化学的分析物の濃度と前記変化を相関させる工程。
【請求項2】
化学的分析物と第一ポリマー相との間のフローリー・ハギンズ相互作用パラメーターが、5.64[J1/2cm−3/2]より小さいことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブが、100〜400m2/gの比表面積を有する多層カーボンナノチューブであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第一ポリマー相が、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリエチレンオキサイド、及びポリメチルメタクリレートからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも一種の化学的分析物が、芳香族溶媒、好ましくはスチレン及びトルエンからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも一種の化学的分析物が、アルコール、好ましくはメタノールからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも一種の化学的分析物が、塩素化溶媒、好ましくはトリクロロメタンからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記第二ポリマー相が、ポリオレフィン、好ましくはポリエチレン又はポリプロピレンであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記第二ポリマー相が、ポリアミドであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
第一ポリマー相が、テトラヒドロフランの検出のためにポリカプロラクトンであることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
第一ポリマー相が、スチレンの検出のためにポリ乳酸であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
第一ポリマー相が、メタノールの検出のためにポリエチレンオキサイドであることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
第一ポリマー相が、トリクロロメタンの検出のためにポリメチルメタクリレートであることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
複数の異なる繊維ベースの電気化学的センサーが準備されることを特徴とする、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
第一ポリマー相と第二ポリマー相との間の粘度比率が、0.67〜1.5であることを特徴とする、請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
第一ポリマー相と第二ポリマー相との間の粘度比率が、0.8〜1.2であることを特徴とする、請求項1〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
共連続相ブレンドが、相溶化剤をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
相溶化剤が、無水マレイン酸グラフトポリオレフィン、イオノマー、及びコポリマーからなる群から選択されることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2013−513118(P2013−513118A)
【公表日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−542419(P2012−542419)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【国際出願番号】PCT/EP2010/066169
【国際公開番号】WO2011/069743
【国際公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(507201223)ナノシル エス.エー. (8)
【出願人】(512140027)ユニヴェルシテ ドゥ ブレターニュ スッド (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【国際出願番号】PCT/EP2010/066169
【国際公開番号】WO2011/069743
【国際公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(507201223)ナノシル エス.エー. (8)
【出願人】(512140027)ユニヴェルシテ ドゥ ブレターニュ スッド (2)
【Fターム(参考)】
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