電気化学表示素子の製造方法
【課題】一対の基板間に電解液を注入、封止した後、銀薄膜と電解液との長期間の接触を回避して銀薄膜の特性劣化を回避し、これによって、表示ムラや駆動安定性の低下を回避する。
【解決手段】観察側のコモン基板上に透明電極としてのITO膜を形成する(S2、S21)。続いて、ITO膜上にAg薄膜を形成する(S2、S22)。その後、観察側の基板と非観察側の基板との間に電解液を注入して封止する(S4)。そして、電解液を封止した後、6時間以内に、一対の電極間に電圧を印加して、Ag薄膜を溶解させる一方、非観察側の基板上にAgを析出させる(S6)。
【解決手段】観察側のコモン基板上に透明電極としてのITO膜を形成する(S2、S21)。続いて、ITO膜上にAg薄膜を形成する(S2、S22)。その後、観察側の基板と非観察側の基板との間に電解液を注入して封止する(S4)。そして、電解液を封止した後、6時間以内に、一対の電極間に電圧を印加して、Ag薄膜を溶解させる一方、非観察側の基板上にAgを析出させる(S6)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解液に含まれる銀の酸化還元反応による析出、溶解によって表示を行う電気化学表示素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、視認性に優れ、低消費電力な表示素子が求められている。現在、CRTやPDPに代表される自発光型の表示素子や、LCDのように発光体(バックライト)からの光を変調する表示素子が一般に用いられているが、これらの表示素子では、表示画像は明るくて見やすいが、その分、消費電力が大きい。
【0003】
低消費電力という観点からは、表示素子は、一旦表示した画像を無電力状態でも保持し続けるメモリー特性を有することが望ましく、さらには駆動電圧が低いことが望まれる。このような特性を備える表示素子として、近年、エレクトロクロミック表示素子(以下、ECDとも称する)やエレクトロデポジション表示素子(以下、EDとも称する)といった電気化学表示素子の開発が盛んに行われている。ECDおよびEDは、ともに、電極上での酸化還元反応による反応物質単独での光吸収状態の変化により表示を行うものである。つまり、ECDでは、酸化還元反応によるエレクトロクロミック材料の光吸収状態の可逆変化(色の変化)により表示を行っている。一方、EDでは、例えば、銀または銀を化学構造中に有する化合物を含む電解質から電極上への銀の析出と、電解質への銀の溶解とを利用して表示を行っている。これらの電気化学表示素子は、LCDに比べて、偏光板やバックライトなどの追加部材が不要であり、低コスト化、省プロセス化(製造のしやすさ)の点で非常に有利なものとなっている。
【0004】
ところで、EDの駆動安定性を向上させるためには、電解質(電解液)における銀の析出、溶解を円滑に行うことが必要である。このとき、電解液中に元々存在している銀イオンのみを利用して銀の析出、溶解を行う場合よりも、銀薄膜をスパッタ等により電極上に一旦形成しておき、その銀薄膜の銀を電解液に一旦溶解して得られる銀イオンをさらに利用して銀の析出、溶解を行う場合のほうが、銀の酸化還元速度が速く、銀の析出、溶解を円滑に行えることがわかっている。このように、一方の電極上に予め銀の層を形成し、銀の析出および溶解を円滑に行う構成については、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−51307号公報(実施例2、図16参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方の電極上に予め銀薄膜を形成したEDは、例えば以下のようにして製造される。すなわち、観察側の基板上に一方の電極としての透明電極を形成し、その透明電極上に銀薄膜を形成する。その後、透明電極および銀薄膜を形成した一方の基板と、他方の電極(例えば画素電極)を形成した他方の基板との間に電解液を注入して、封止する。
【0007】
このとき、電解液を封止した後、観察側の銀薄膜と電解液とが長期間接触したままであると、電解液が空気中の水分や酸素と反応したときの副反応物(例えば酸化銀)が銀薄膜に影響を与えるため、銀薄膜の特性が劣化し、電圧を印加しても銀薄膜の溶解が均一には起こりにくくなる。その結果、表示ムラが生じたり、EDの駆動安定性が低下するという問題が生ずる。なお、このような問題は、例えば、一方の基板上に、デポジション材料としての銀を含有する電解液をアイランドパターンで滴下し、他方の基板と貼り合わせて電解液を封止する場合には、銀薄膜と電解液との接触の仕方にムラが生じ、銀薄膜の特性劣化が局所的となるため、より起こりやすくなる。
【0008】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、その目的は、一対の基板間に電解液を注入、封止した後、銀薄膜と電解液との長期間の接触を回避して銀薄膜の特性劣化を回避し、これによって、表示ムラや駆動安定性の低下を回避することができる電気化学表示素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電気化学表示素子の製造方法は、電解液を挟んで対向する一対の電極間に電圧を印加し、前記電解液に含まれる銀の酸化還元反応による析出、溶解によって表示を行う電気化学表示素子の製造方法であって、観察側の基板上に一方の電極である透明電極を形成する透明電極形成工程と、前記透明電極上に銀薄膜を形成する銀薄膜形成工程と、観察側の基板と他方の電極を形成した非観察側の基板との間に電解液を注入して封止する封止工程と、前記電解液を封止した後、6時間以内に、一対の電極間に電圧を印加して、前記銀薄膜を溶解させる一方、非観察側の基板上に銀を析出させる転写工程とを有していることを特徴としている。
【0010】
上記の方法によれば、観察側の基板上に透明電極および銀薄膜を形成し、一対の基板間に電解液を注入して封止した後、6時間以内に、各基板上の一対の電極間に電圧を印加して、観察側の銀薄膜を溶解させる一方、非観察側の基板上に銀を析出させる。このように、電解液の封止後、速やかに観察側の銀(銀薄膜を形成する銀)を非観察側に転写することにより、形成した銀薄膜と電解液との長期の接触を回避して、電解液による銀薄膜の特性劣化を回避することができる。これにより、電圧印加時の銀薄膜の溶解を均一に起こりやすくすることができ、その結果、表示ムラおよび表示素子の駆動安定性の低下を回避することができる。
【0011】
本発明の電気化学表示素子の製造方法において、前記封止工程では、観察側の基板と非観察側の基板とのうちの一方に電解液を滴下して、前記電解液を両基板間に封止してもよい。
【0012】
一方の基板上に電解液を滴下して両基板間で電解液を封止する場合には、電解液の滴下の仕方(滴下パターン)によって、銀薄膜と電解液との接触の仕方にムラが生じ、電解液による銀薄膜の特性劣化が局所的に生じるため、表示ムラおよび表示素子の駆動安定性の低下が起こりやすくなる。したがって、このような封止工程を行う場合には、電解液の封止後、速やかに観察側の銀を非観察側に転写して、銀薄膜と電解液との長期の接触を回避する本発明が非常に有効となる。
【0013】
本発明の電気化学表示素子の製造方法は、前記転写工程の後、20℃以上の環境下で前記電解液を維持するエージング工程と、前記エージング工程の後、前記一対の電極間に電圧を印加して駆動検査を行う検査工程とをさらに含んでいてもよい。
【0014】
転写工程の後、電解液を20℃未満で維持すると、電解液中に溶けている物質(例えばポリエチレングリコール単体またはポリエチレングリコールと酸化チタンの凝集物など)が結晶化して不純物として析出しやすくなり、これが良好な駆動を妨げるおそれがある。したがって、転写工程の後、電解液を20℃以上で維持することにより、不純物の析出を確実に抑えて、良好な駆動を確実に実現することができる。
【0015】
本発明の電気化学表示素子の製造方法において、前記検査工程では、前記一対の電極間への電圧印加による駆動を複数回連続して行うことが望ましい。
【0016】
表示素子の駆動を連続して行うことにより、電解液中に溶けている物質(銀イオンなど)の横方向の分布、つまり、一対の基板の対向方向に垂直な方向の分布が均一になり、表示ムラを確実に抑えることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電解液の封止後、6時間以内に、観察側の銀を非観察側に転写することにより、形成した銀薄膜と電解液との接触が長期にわたるのを回避して、電解液による銀薄膜の特性劣化を回避することができる。その結果、表示ムラおよび表示素子の駆動安定性の低下を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)は、本発明の実施の一形態の表示素子の1画素の概略の構成を模式的に示すとともに、黒表示状態での画素を示す説明図であり、(b)は白表示状態での画素を示す説明図である。
【図2】上記表示素子の製造工程の流れを示すフローチャートである。
【図3】(a)は、Ag薄膜を形成する前の観察側の基板の断面図であり、(b)は、Ag薄膜を形成した後の観察側の基板の断面図である。
【図4】電解液の注入、封止工程の詳細を示す断面図および斜視図である。
【図5】貼り合わせた基板のカット前の平面図およびカット後の平面図、正面図、側面図である。
【図6】カットした基板を転写用の装置に接続したときの接続状態を示す説明図である。
【図7】上記表示素子の1画素の等価回路を示す説明図である。
【図8】Agの転写前後での上記表示素子の模式的な断面図である。
【図9】実施例1−1、1−2、1−3、比較例1−4、1−5、1−6の各表示素子の検査結果を示す説明図である。
【図10】実施例2の表示素子の検査結果を示す説明図である。
【図11】実施例2−1−1〜2−1−4、実施例2−2−1〜2−2−4、実施例2−3−1〜2−3−4の各表示素子の検査結果を示す説明図である。
【図12】実施例3の表示素子の検査結果を示す説明図である。
【図13】実施例4−1、4−2、4−3、比較例4−4、4−5、4−6の各表示素子の検査結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の一形態について、図面に基づいて説明すれば、以下の通りである。
【0020】
〔表示素子の基本構成〕
図1(a)(b)は、本実施形態の表示素子1の1画素の概略の構成を模式的に示す説明図である。ただし、図1(a)は黒表示状態での画素を示し、図1(b)は白表示状態での画素を示している。表示素子1は、EDと呼ばれる電気化学表示素子で構成されており、観察側の基板10と非観察側の基板20との間に電解質としての電解液30を封入して構成されている。電解液30には、デポジション材料としての銀が溶解しており、銀イオン31が存在している。なお、電解液30の詳細については後述する。
【0021】
観察側の基板10は、例えば透明なガラス基板で構成されるコモン基板11を有している。そして、コモン基板11上には、各画素1aに共通のコモン電極12(共通電極)が形成されている。一方、非観察側の基板20は、例えば透明なガラス基板で構成される駆動基板21を有している。なお、駆動基板21は非観察側に配置されるため、透明でなくてもよい。この駆動基板21上には、各画素1aに対応する画素電極22が形成されている。各基板10・20は、コモン電極12および画素電極22が内側となるように(電解液30を介して対向するように)貼り合わされている。
【0022】
コモン電極12は、観察側の電極であるため、透明であることが必要である。このため、コモン電極12としては、通常、酸化インジウムスズ(以下、ITOと言う)などの透明電極が用いられる。一方、画素電極22は、例えば銀パラジウムからなる導電性の金属や、アモルファス状のITOで構成されている。また、画素電極22上には、多孔質金属酸化物電極23が形成されているが、その詳細については後述する。
【0023】
図1(a)において、コモン電極12に画素電極22に対して閾値以上の負の電圧が印加されると、コモン電極12から電解液30に電子が注入され、銀イオン31が還元されてコモン電極12上に銀の層32bが析出する。これをコモン電極12側から見ると、黒く見える。なお、このとき、非観察側に析出していた銀の層32aは、酸化反応により溶解する。
【0024】
一方、図1(b)において、コモン電極12に画素電極22に対して閾値以上の正の電圧が印加されると、観察側では、図1(a)で析出した銀の層32bが酸化されて溶解し、電解液30の内部に銀イオン31が分散される。一方、非観察側では、銀イオン31が還元されて銀の層32aが析出する。この状態は、コモン電極12側から見て透明であるため、電解液30を白く着色しておくことにより、白く見える。
【0025】
このように、コモン電極12および画素電極22に印加する電圧を制御することにより、各画素1aにて白と黒の表示を切り替えることができる。表示素子1は、このような画素1aをマトリクス状に配置して構成されている。なお、白黒の濃度制御は、印加電圧や印加時間を変化させて、銀の析出量を制御することで行うことができる。
【0026】
次に、表示素子1の各構成の詳細について説明する。
【0027】
〔デポジション材料〕
表示素子1をEDで構成する場合、デポジション材料(ED材料)としては、銀または銀を化学構造中に含む化合物が用いられる。銀または銀を化学構造中に含む化合物とは、例えば、酸化銀、硫化銀、金属銀、銀コロイド粒子、ハロゲン化銀、銀錯体化合物、銀イオン等の化合物の総称である。このとき、固体状態や液体への可溶化状態や気体状態等の相の状態種、中性、アニオン性、カチオン性等の荷電状態種は、特に問わない。
【0028】
電解質(電解液)に含まれる銀イオン濃度は、0.2モル/kg≦[Ag]≦2.0モル/kgが好ましい。銀イオン濃度が0.2モル/kgよりも少ないと、希薄な銀溶液となって駆動速度が遅延し、逆に、2モル/kgよりも大きいと、溶解性が劣化し、低温保存時に析出が起きやすくなる傾向にあり、不利である。
【0029】
〔電解質〕
「電解質」とは、一般に、水などの溶媒に溶けて、その溶液がイオン伝導性を示す物質のこと(狭義の電解質)を言うが、本実施形態では、電解質を含む層全体を指すものとする。つまり、本実施形態で言う「電解質」とは、電解質に他の金属や化合物等(電解質、非電解質を問わない)を含有させた混合物(広義の電解質)を指すものとする。
【0030】
本実施形態における電解質(電解液30)は、有機溶媒、イオン性液体、酸化還元活性物質、支持電解質、錯化剤、白色散乱物、高分子バインダー等を必要に応じて選択して構成されている。
【0031】
また、電解質は、通常、液体電解質と、ポリマー電解質とに分類される。ポリマー電解質は、さらに、実質的に固体化合物からなる固体電解質と、高分子化合物と液体電解質からなるゲル状電解質とに分類される。また、流動性の観点からは、固体電解質は、実質的に流動性がなく、ゲル状電解質は、液体電解質と固体電解質の中間の流動性を有している。
【0032】
本実施形態では、ゲル状電解質とは、室温環境下で高粘性を備え、かつ流動性を有する液状電解質をいい、例えば、25℃における粘度が、100mPa・s以上1000mPa・s以下のゲル状または高粘度電解質液を言う。なお、ゲル状電解質は、温度によるゾルゲル変化を生じる特性を必ずしも備えている必要はない。一方、低粘度電解質は、25℃における粘度が、0.1mPa・s以上100mPa・s未満である電解質液をいい、電解質の溶媒に対する高分子バインダーの量が重量比で10%未満であることが好ましい。
【0033】
〔多孔質金属酸化物電極〕
多孔質構造の電極を構成する微粒子の主成分としては、Cu、Al、Ag、Pd等の金属や、ITO、SnO2、TiO2、ZnO等の金属酸化物、カーボンナノチューブ、グラッシーカーボン、ダイヤモンドライクカーボン、窒素含有カーボン等の炭素電極等があげられるが、画素電極22の耐久性の面から、多孔質金属酸化物電極23としては、特に、ITO、SnO2およびZnO等の金属酸化物から選択されることが好ましい。
【0034】
ここで、「多孔質構造」とは、電極中にナノメートルサイズの孔が無数に存在する、いわゆるナノ多孔質構造の内部を、電解液中に含まれるイオン種が移動可能な構造を有することを言う。そのため、多孔質金属酸化物電極23を構成する微粒子の平均粒子径は、5nmから30nm程度が好ましい。上記微粒子としては、不定形、針状、球形等、任意の形状のものを用いることができる。
【0035】
このような多孔質構造を有する多孔質金属酸化物電極23を設けることにより、多孔質金属酸化物電極23中にデポジション材料である銀が担持され、この部分に後述する電源バスVDDからの電流が画素電極22を介して供給されるので、電流供給時の酸化還元反応速度(駆動速度)を速めることができる。
【0036】
〔表示素子の製造方法〕
次に、上記構成の表示素子1の製造方法について、図2を参照しながら説明する。図2は、表示素子1の製造工程の流れを示すフローチャートである。
【0037】
(電解液の作製工程;S1)
ジメチルスルホキシド2.5g中に、ヨウ化ナトリウム90mg、ヨウ化銀75mgを加えて完全に溶解させた後に、ポリビニルピロリドン(平均分子量15000)を150mg加えて120℃に加熱しながら1時間攪拌し溶液化した。この溶液に対して、さらにポリエチレングリコール(PEG)(分子量=10万)と酸化チタンの粉末とを混合し、ゲル状の白色電解液を電解液30として作製した。PEGは白色電解液の5wt%、酸化チタンの粉末は同30wt%とした。
【0038】
(観察側基板の作製工程;S2)
図3(a)に示すように、ガラスからなるコモン基板11上に、透明導電膜であるITOをスパッタ法にて150nmの膜厚となるように成膜し、コモン電極12(透明電極)としてのITO膜を形成した(透明電極形成工程;S21)。その後、図3(b)に示すように、コモン電極12上に、同様にスパッタ法にて膜厚20nmのAg薄膜13を形成した(銀薄膜形成工程;S22)。
【0039】
(非観察側基板の作製工程;S3)
駆動基板21としてガラス基板を用い、この駆動基板21上に、2次元マトリクス状に、1画素当たり2個のTFT(後述する薄膜トランジスタQ1・Q2に対応)を有するTFTアレイを形成し、そのTFTアレイを覆うように層間絶縁層を形成し、さらに層間絶縁膜上に画素電極22を各画素1aに対応して形成した。なお、駆動基板21上に画素電極22を形成するまでの工程は、周知の技術により行うことができる。また、ここでは、画素電極22を150μm×150μmのサイズとし、200μmピッチで形成した。
【0040】
そして、画素電極22上に、塗布液(ITOインク)としてX806CN27S(住友金属鉱山株式会社製)を用い、スピンコート1000rpmで、多孔質金属酸化物電極23としてのITO電極層を平均膜厚0.5μmで形成した。乾燥後、200℃のオーブンで30分間焼成を行った後、公知のフォトリソグラフィー法により、ITO電極層を画素形状にパターニングした。したがって、多孔質金属酸化物電極23の画素ピッチは200μmであり、1画素あたりのサイズは150μm×150μmである。
【0041】
(電解液の注入、封止工程(基板の貼り合わせ工程);S4)
次に、一対の基板(観察側の基板10、非観察側の基板20)の間に電解液30を注入し、封止する。以下、この工程について図4を用いて説明する。図4は、電解液30の注入、封止工程の詳細を示す断面図および斜視図である。まず、S2で作製した観察側の基板10上の所定のシール位置に、ディスペンサでUV硬化型のシール剤14を塗布する。その際、シール剤14の高さは、後の工程で滴下する電解液30の高さよりも低くなるように制御する。シール剤14は、パネル表示領域の隔壁となる材料(表示エリアを規定するもの)である。
【0042】
続いて、シール剤14の内側の表示領域に、予め調液した電解液30を充填した容量計量式ディスペンサを用いて、基板10上に所定のパターンで、かつ、電解液30がパネルの容積と略等量となるように計量塗布(滴下)する。なお、電解液30の塗布パターンは、基板の貼り合わせを完了したときに表示領域空間を十分に満たすような適量を塗布できるパターンであればよく、例えばライン状であってもよいし、島状(アイランドパターン)であってもよい。
【0043】
なお、電解液30を塗布する基板は、S3で作製した非観察側の基板20であってもよいが、基板20にはTFT等が形成されており、凹凸が多く、電解液30を塗布したときに気泡が残りやすいため、本実施形態のように、観察側の基板10に電解液30を塗布することが望ましい。
【0044】
その後、シール剤14および電解液30を塗布した基板10を、真空貼り合わせ装置のチャンバー40内へ設置し、基板10・20を貼り合わせる位置にアライメント(位置調整)する。そして、基板10・20のギャップを小さくして、基板20が電解液30には接するが、シール剤14には接しない間隔で保持し、基板10・20を所定のギャップで保持した状態で真空引きを開始する。
【0045】
次に、真空引きを実施した減圧状態のチャンバー40内で基板10・20のアライメントを微調整し、一対の基板10・20に対して表示領域から離れた位置で仮止めなどの固定を行った上で、チャンバー40を大気開放する。その後、シール剤14を完全硬化させて基板の貼り合わせを完了させる。完全硬化にはシール剤14を完全硬化させるのに最適な照射量のUV照射を用いればよい。
【0046】
なお、S4において、一方の基板10に電解液30を滴下して両基板10・20を貼り合わせる代わりに、両基板10・20を先にシール剤14で貼り合わせた後、電解液30の注入口から電解液30を注入し、最後に上記注入口を封止するようにしてもよい。
【0047】
(基板のカット工程;S5)
次に、基板10・20の各電極に電圧を印加するための電極パッドを露出させるため、基板10・20をガラスカッターによりカットする。より具体的には、図5に示すように、基板10については、図中の一点鎖線に沿ってカットし、基板20については、図中の二点鎖線に沿ってカットする。なお、図5では、便宜上、基板カット前については、基板10・20の平面図のみを示し、基板カット後については、基板10・20の平面図、正面図、側面図を示す。
【0048】
そして、図6で示すように、基板10のコモン電極12と電源51とをコモン端子52を介して接続するとともに、基板20の画素電極22と電源51とをVdd端子53を介して接続する。そして、コモン電極12と画素電極22との間に1.2Vの電位が印加されるように、電源コントローラ54によって電源51をコントロールする。
【0049】
また、基板20の後述する薄膜トランジスタQ1のゲート電極が接続されるゲートバスGmを、ゲート側端子55を介して、電源を含むゲート信号コントローラ56と接続する。また、基板20の後述する薄膜トランジスタQ1のソース/ドレイン電極の一方の電極が接続されるソースバスSnを、ソース側端子57を介して、電源を含むソース信号コントローラ58と接続する。
【0050】
なお、上記した電源51、電源コントローラ54、ゲート信号コントローラ56およびソース信号コントローラ58は、転写用の装置をそれぞれ構成しているが、これらが表示素子1の構成要素を兼ねていてもよい。
【0051】
ここで、表示素子1の各画素の詳細な構成について説明を補足しておく。なお、各画素の構成は同じであるため、以下では、1つの画素1aを例に挙げて説明する。つまり、以下に示す画素1aがマトリクス状に配置されて表示素子1が構成されている。
【0052】
図7は、表示素子1の1画素1aの等価回路を示す説明図である。画素1aには、2個の薄膜トランジスタQ1・Q2が形成されている。薄膜トランジスタQ1は、駆動する画素1aを選択するための選択トランジスタ(スイッチングトランジスタ)であり、薄膜トランジスタQ2は、画素1aを駆動する駆動トランジスタである。
【0053】
薄膜トランジスタQ1は、ゲートバスGmの信号により駆動され、オンされたときのソースバスSnの信号を薄膜トランジスタQ2のゲート電極に印加する。薄膜トランジスタQ2は、薄膜トランジスタQ1によってゲート電位が高電位にされたときに、コモン電位Vcomと駆動電位Vddとの差の電位を、コモン電極12と画素電極22との間に印加して、電解液30に電流を流す。コモン電極12と画素電極22との間の電位に応じて、電解液30中のデポジション材料である銀が酸化還元反応を起こし、これによって、画素1aを黒化させたり白化させたりすることができる。
【0054】
(転写工程;S6)
次に、上記したS4の工程の後、所定時間以内に転写工程を行う。すなわち、一対の基板10・20間への電解液30の封止後、6時間以内に、コモン電極12が画素電極22に対して+1.2Vとなるように、コモン電極12および画素電極22に電圧を印加して、S22で形成したAg薄膜13を溶解させる一方、非観察側の基板20上にAgの層13aを析出させる。図8は、Agの転写前後での表示素子1の模式的な断面図を示している。なお、図8では、便宜上、画素電極22と多孔質金属酸化物電極23とを1つの画素電極として併せて図示している。同図に示すように、電圧印加により、観察側のAg薄膜13が非観察側に転写されていることがわかる。
【0055】
(エージング工程;S7)
続いて、S6での転写の後、20℃以上の環境下で、次の検査工程を行うまで電解液30を維持する。この工程により、電解液30中のイオンが均一に拡散し、電解液30が安定する。なお、S7の工程は必ずしも必要ではないが、上記のように電解液30を安定させる点でS7の工程を行うことが望ましい。
【0056】
(検査工程;S8)
そして、最後に、コモン電極12および画素電極22の間に電圧を印加して駆動検査を行う。例えば、表示素子1の全面がコントラスト2となるように電圧を印加し(例えば印加電圧1.2V、印加時間200msec)、表示エリアを100分割したときのそれぞれの箇所における反射率を測定し、そのばらつきを評価することにより、表示ムラおよび駆動安定性を評価することができる。なお、コントラスト2とは、白と黒との視感反射率(Y値)比が2:1であることを示す。
【0057】
〔実施例および比較例〕
以下、表示素子1の製造方法の実施例について、比較例を参照しながら説明する。
【0058】
(実施例1−1)
実施例1−1では、上述した表示素子1の製造方法の転写工程において、S4での電解液30の注入、封止後(UVシール硬化直後)から、転写パルス印加までの時間T1を1時間とした。そして、S6の転写工程後、S7のエージングを行わずに、S8の検査工程を速やかに行った。なお、S8の検査工程における反射率の測定には、コニカミノルタセンシング社製の分光測色計3700dを用いた。それ以外の各工程については、上述した通りである。
【0059】
(実施例1−2)
実施例1−2では、時間T1を3時間に延ばした。それ以外の工程については、実施例1−1と同様である。
【0060】
(実施例1−3)
実施例1−3では、時間T1を6時間に延ばした。それ以外の工程については、実施例1−1と同様である。
【0061】
(比較例1−4)
比較例1−4では、時間T1を7時間に延ばした。それ以外の工程については、実施例1−1と同様である。
【0062】
(比較例1−5)
比較例1−5では、時間T1を10時間に延ばした。それ以外の工程については、実施例1−1と同様である。
【0063】
(比較例1−6)
比較例1−6では、時間T1を15時間に延ばした。それ以外の工程については、実施例1−1と同様である。
【0064】
図9は、実施例1−1、1−2、1−3、比較例1−4、1−5、1−6の各表示素子のS8での検査結果を示している。実施例1−1、1−2、1−3では、いずれも、反射率のばらつきを示す標準偏差が5以下となっており、表示ムラが抑えられ、駆動安定性が良好であると言える。これに対して、比較例1−4、1−5、1−6では、反射率の標準偏差が5よりも大きいことから、表示ムラが抑えられているとは言えず、駆動安定性が良好であるとも言えない。
【0065】
したがって、以上のことから、電解液の封止後、6時間以内に、観察側のAg薄膜13のAgを非観察側に転写することにより、表示ムラおよび表示素子1の駆動安定性の低下を回避できると言える。これは、観察側に形成したAg薄膜13と電解液30との長期にわたる接触が回避されることにより、電解液30が空気中の水分や酸素と反応したときの副反応物(例えば酸化銀)の影響によるAg薄膜13の特性劣化が回避され、電圧印加時のAg薄膜13の溶解がどの画素でも均一に起こりやすくなっているためと考えられる。
【0066】
特に、実施例1−1、1−2、1−3では、S4の封止工程において、観察側の基板10に電解液30を滴下して、基板10・20間に電解液30を封止している。例えば、電解液30をアイランドパターンで滴下する場合には、Ag薄膜13が電解液30と十分に接触する部分と十分に接触しない部分とが生じ、十分に接触しない部分に比べて、十分に接触する部分で電解液30によるAg薄膜13の特性劣化が生じやすくなる。このようにAg薄膜13の特性劣化が局所的に生じやすくなるような電解液30の滴下を行った場合には、上記のように、観察側のAgの非観察側への転写を、電解液30の封止後6時間以内に行って、電解液30とAg薄膜13との長期の接触を回避することが非常に有効となる。
【0067】
(実施例2)
実施例2では、実施例1のS6にて、電解液30の封止から1時間以内に転写を行った後、S7のエージング工程にて、25℃オーブンにて10時間、電解液30とともに作製された表示素子1を放置した。それ以外の工程については、実施例1と同様である。なお、このときのエージング時間をT2とし、エージング温度をt2とすると、T2=10時間であり、t2=25℃である。
【0068】
図10は、実施例2の表示素子のS8での検査結果を示している。実施例2では、反射率の標準偏差が5以下で、かつ、実施例1−1、1−2、1−3と比べてさらに小さくなっていることから、表示ムラがさらに抑えられ、駆動安定性がさらに良好であると言える。
【0069】
(実施例2−1−1、2−1−2、2−1−3、2−1−4)
実施例2−1−1、2−1−2、2−1−3、2−1−4では、T2=1時間、t2=30℃、20℃、18℃、10℃とそれぞれ異ならせてS7のエージング工程を行った。それ以外の工程については、実施例2と同様である。
【0070】
(実施例2−2−1、2−2−2、2−2−3、2−2−4)
実施例2−2−1、2−2−2、2−2−3、2−2−4では、T2=5時間、t2=30℃、20℃、18℃、10℃とそれぞれ異ならせてS7のエージング工程を行った。それ以外の工程については、実施例2と同様である。
【0071】
(実施例2−3−1、2−3−2、2−3−3、2−3−4)
実施例2−3−1、2−3−2、2−3−3、2−3−4では、T2=30時間、t2=30℃、20℃、18℃、10℃とそれぞれ異ならせてS7のエージング工程を行った。それ以外の工程については、実施例2と同様である。
【0072】
図11は、実施例2−1−1〜2−1−4、実施例2−2−1〜2−2−4、実施例2−3−1〜2−3−4の各表示素子のS8での検査結果を示している。同図に示すように、時間T2および温度t2の変化に対する反射率の標準偏差の依存性は少なく、いずれも反射率の標準偏差が5以下であり、良好な駆動を実現できていることがわかった。
【0073】
なお、t2=18℃以下では、t2=20℃以上に比べて、反射率の標準偏差が若干大きくなっている。これは、S6での転写の後、電解液30を20℃未満で維持すると、電解液30中に溶けている物質(例えばポリエチレングリコール単体またはポリエチレングリコールと酸化チタンの凝集物など)が結晶化して不純物として析出しやすくなり、これが駆動に影響を与えるためと思われる。
【0074】
したがって、上述した実施例2の結果も含めると、不純物の析出を確実に抑えて良好な駆動を確実に実現するためには、t2=20℃以上であることが望ましいと言える。
【0075】
なお、温度t2の上限は特に規定していないが、表示素子1のシール剤14の溶解温度や電解液30の特性の変化(例えば銀濃度の変化)を考慮すると、温度t2の上限は高くても100℃程度に抑えることが適切と思われる。
【0076】
(実施例3)
実施例3では、実施例2のS8の検査工程にて、図6で示した転写用の装置を用いて、コモン電極12および画素電極22への電圧印加による駆動を複数回連続して行った。それ以外の工程については、実施例2と同様である。ここで、複数回の連続駆動としては、コントラスト10となる白/黒の表示の書き換えを10回行った。なお、印加電圧は1.2Vとし、印加時間は1000msecとした。
【0077】
図12は、実施例3の表示素子のS8での検査結果を示している。実施例3では、反射率の標準偏差が1以下であり、実施例2に比べて、表示ムラがさらに抑えられ、駆動安定性がさらに良好であると言える。これは、表示素子1の駆動を連続して行い、表示エリア全面に対してAgの酸化還元反応を繰り返し行うことにより、電解液30中に溶けている物質(銀イオンを含む)の横方向(基板10・20の対向方向に垂直な方向)の分布が均一になるためと考えられる。
【0078】
(実施例4)
実施例4では、実施例1のS1において、電解液30の作製条件を変えた。それ以外の工程については、実施例1と同様である。以下、詳細に説明する。
【0079】
(電解液の作製工程;S1)
ジメチルスルホキシド2.5g中に、ヨウ化リチウム18mg、塩化ビスマス90mg、ヨウ化銀75mgを加えて完全に溶解させた後に、ポリビニルピロリドン(平均分子量15000)を150mg加えて120℃に加熱しながら1時間攪拌し溶液化した。この溶液に対して、さらにポリエチレングリコール(PEG)(分子量=2万)と酸化チタンの粉末とを混合し、ゲル状の白色電解液を電解液30として作製した。PEGは白色電解液の3wt%、酸化チタンの粉末は同20wt%とした。
【0080】
実施例1に比べて、PEGの分子量を低下させ、同含有量を低減し、酸化チタン量を低減することにより、低粘度の電解液30を作製した。このように電解液30を低粘度化することで、反応時間を短縮(=応答速度を向上)させることができる。ちなみに、実施例1の電解液30を用いた場合と比較すると、実施例4の電解液30を用いた場合は、黒化時間と白化時間がそれぞれ約0.7倍となり、応答速度が向上した。
【0081】
(実施例4−1)
実施例4−1では、上記の電解液30を用い、実施例1−1と同様の転写(T1=1時間)を行った。それ以外は、実施例1−1と同様である。
【0082】
(実施例4−2)
実施例4−2では、上記の電解液30を用い、実施例1−2と同様の転写(T1=3時間)を行った。それ以外は、実施例1−2と同様である。
【0083】
(実施例4−3)
実施例4−3では、上記の電解液30を用い、実施例1−3と同様の転写(T1=6時間)を行った。それ以外は、実施例1−3と同様である。
【0084】
(比較例4−4)
比較例4−4では、上記の電解液30を用い、比較例1−4と同様の転写(T1=7時間)を行った。それ以外は、比較例1−4と同様である。
【0085】
(比較例4−5)
比較例4−5では、上記の電解液30を用い、比較例1−5と同様の転写(T1=10時間)を行った。それ以外は、比較例1−5と同様である。
【0086】
(比較例4−6)
比較例4−6では、上記の電解液30を用い、比較例1−6と同様の転写(T1=15時間)を行った。それ以外は、比較例1−6と同様である。
【0087】
図13は、実施例4−1、4−2、4−3、比較例4−4、4−5、4−6の各表示素子のS8での検査結果を示している。このように電解液30を実施例1−1等と変えた場合でも、実施例4−1、4−2、4−3では、いずれも、反射率の標準偏差が5以下となっており、表示ムラが抑えられ、駆動安定性が良好であると言える。これに対して、比較例4−4、4−5、4−6では、反射率の標準偏差が5よりも大きいことから、表示ムラが抑えられているとは言えず、駆動安定性が良好であるとも言えない。
【0088】
したがって、図9および図13の結果より、以下のことが言える。すなわち、電解液30の封止後、6時間以内に、観察側のAg薄膜13のAgを非観察側に転写することにより、表示ムラおよび表示素子1の駆動安定性の低下を回避できるという効果は、電解液30中のデポジション材料がAgである限り、電解液30の種類や組成に関係なく同様に得られる傾向にあると言える。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、例えば電子書籍をはじめとする各種の表示装置を構成するEDのような電気化学表示素子の製造に利用可能である。
【符号の説明】
【0090】
1 表示素子(電気化学表示素子)
1a 画素
10 基板
11 コモン基板
12 コモン電極(透明電極)
13 Ag薄膜(銀薄膜)
20 基板
21 駆動基板
22 画素電極
30 電解液
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解液に含まれる銀の酸化還元反応による析出、溶解によって表示を行う電気化学表示素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、視認性に優れ、低消費電力な表示素子が求められている。現在、CRTやPDPに代表される自発光型の表示素子や、LCDのように発光体(バックライト)からの光を変調する表示素子が一般に用いられているが、これらの表示素子では、表示画像は明るくて見やすいが、その分、消費電力が大きい。
【0003】
低消費電力という観点からは、表示素子は、一旦表示した画像を無電力状態でも保持し続けるメモリー特性を有することが望ましく、さらには駆動電圧が低いことが望まれる。このような特性を備える表示素子として、近年、エレクトロクロミック表示素子(以下、ECDとも称する)やエレクトロデポジション表示素子(以下、EDとも称する)といった電気化学表示素子の開発が盛んに行われている。ECDおよびEDは、ともに、電極上での酸化還元反応による反応物質単独での光吸収状態の変化により表示を行うものである。つまり、ECDでは、酸化還元反応によるエレクトロクロミック材料の光吸収状態の可逆変化(色の変化)により表示を行っている。一方、EDでは、例えば、銀または銀を化学構造中に有する化合物を含む電解質から電極上への銀の析出と、電解質への銀の溶解とを利用して表示を行っている。これらの電気化学表示素子は、LCDに比べて、偏光板やバックライトなどの追加部材が不要であり、低コスト化、省プロセス化(製造のしやすさ)の点で非常に有利なものとなっている。
【0004】
ところで、EDの駆動安定性を向上させるためには、電解質(電解液)における銀の析出、溶解を円滑に行うことが必要である。このとき、電解液中に元々存在している銀イオンのみを利用して銀の析出、溶解を行う場合よりも、銀薄膜をスパッタ等により電極上に一旦形成しておき、その銀薄膜の銀を電解液に一旦溶解して得られる銀イオンをさらに利用して銀の析出、溶解を行う場合のほうが、銀の酸化還元速度が速く、銀の析出、溶解を円滑に行えることがわかっている。このように、一方の電極上に予め銀の層を形成し、銀の析出および溶解を円滑に行う構成については、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−51307号公報(実施例2、図16参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方の電極上に予め銀薄膜を形成したEDは、例えば以下のようにして製造される。すなわち、観察側の基板上に一方の電極としての透明電極を形成し、その透明電極上に銀薄膜を形成する。その後、透明電極および銀薄膜を形成した一方の基板と、他方の電極(例えば画素電極)を形成した他方の基板との間に電解液を注入して、封止する。
【0007】
このとき、電解液を封止した後、観察側の銀薄膜と電解液とが長期間接触したままであると、電解液が空気中の水分や酸素と反応したときの副反応物(例えば酸化銀)が銀薄膜に影響を与えるため、銀薄膜の特性が劣化し、電圧を印加しても銀薄膜の溶解が均一には起こりにくくなる。その結果、表示ムラが生じたり、EDの駆動安定性が低下するという問題が生ずる。なお、このような問題は、例えば、一方の基板上に、デポジション材料としての銀を含有する電解液をアイランドパターンで滴下し、他方の基板と貼り合わせて電解液を封止する場合には、銀薄膜と電解液との接触の仕方にムラが生じ、銀薄膜の特性劣化が局所的となるため、より起こりやすくなる。
【0008】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、その目的は、一対の基板間に電解液を注入、封止した後、銀薄膜と電解液との長期間の接触を回避して銀薄膜の特性劣化を回避し、これによって、表示ムラや駆動安定性の低下を回避することができる電気化学表示素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電気化学表示素子の製造方法は、電解液を挟んで対向する一対の電極間に電圧を印加し、前記電解液に含まれる銀の酸化還元反応による析出、溶解によって表示を行う電気化学表示素子の製造方法であって、観察側の基板上に一方の電極である透明電極を形成する透明電極形成工程と、前記透明電極上に銀薄膜を形成する銀薄膜形成工程と、観察側の基板と他方の電極を形成した非観察側の基板との間に電解液を注入して封止する封止工程と、前記電解液を封止した後、6時間以内に、一対の電極間に電圧を印加して、前記銀薄膜を溶解させる一方、非観察側の基板上に銀を析出させる転写工程とを有していることを特徴としている。
【0010】
上記の方法によれば、観察側の基板上に透明電極および銀薄膜を形成し、一対の基板間に電解液を注入して封止した後、6時間以内に、各基板上の一対の電極間に電圧を印加して、観察側の銀薄膜を溶解させる一方、非観察側の基板上に銀を析出させる。このように、電解液の封止後、速やかに観察側の銀(銀薄膜を形成する銀)を非観察側に転写することにより、形成した銀薄膜と電解液との長期の接触を回避して、電解液による銀薄膜の特性劣化を回避することができる。これにより、電圧印加時の銀薄膜の溶解を均一に起こりやすくすることができ、その結果、表示ムラおよび表示素子の駆動安定性の低下を回避することができる。
【0011】
本発明の電気化学表示素子の製造方法において、前記封止工程では、観察側の基板と非観察側の基板とのうちの一方に電解液を滴下して、前記電解液を両基板間に封止してもよい。
【0012】
一方の基板上に電解液を滴下して両基板間で電解液を封止する場合には、電解液の滴下の仕方(滴下パターン)によって、銀薄膜と電解液との接触の仕方にムラが生じ、電解液による銀薄膜の特性劣化が局所的に生じるため、表示ムラおよび表示素子の駆動安定性の低下が起こりやすくなる。したがって、このような封止工程を行う場合には、電解液の封止後、速やかに観察側の銀を非観察側に転写して、銀薄膜と電解液との長期の接触を回避する本発明が非常に有効となる。
【0013】
本発明の電気化学表示素子の製造方法は、前記転写工程の後、20℃以上の環境下で前記電解液を維持するエージング工程と、前記エージング工程の後、前記一対の電極間に電圧を印加して駆動検査を行う検査工程とをさらに含んでいてもよい。
【0014】
転写工程の後、電解液を20℃未満で維持すると、電解液中に溶けている物質(例えばポリエチレングリコール単体またはポリエチレングリコールと酸化チタンの凝集物など)が結晶化して不純物として析出しやすくなり、これが良好な駆動を妨げるおそれがある。したがって、転写工程の後、電解液を20℃以上で維持することにより、不純物の析出を確実に抑えて、良好な駆動を確実に実現することができる。
【0015】
本発明の電気化学表示素子の製造方法において、前記検査工程では、前記一対の電極間への電圧印加による駆動を複数回連続して行うことが望ましい。
【0016】
表示素子の駆動を連続して行うことにより、電解液中に溶けている物質(銀イオンなど)の横方向の分布、つまり、一対の基板の対向方向に垂直な方向の分布が均一になり、表示ムラを確実に抑えることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電解液の封止後、6時間以内に、観察側の銀を非観察側に転写することにより、形成した銀薄膜と電解液との接触が長期にわたるのを回避して、電解液による銀薄膜の特性劣化を回避することができる。その結果、表示ムラおよび表示素子の駆動安定性の低下を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)は、本発明の実施の一形態の表示素子の1画素の概略の構成を模式的に示すとともに、黒表示状態での画素を示す説明図であり、(b)は白表示状態での画素を示す説明図である。
【図2】上記表示素子の製造工程の流れを示すフローチャートである。
【図3】(a)は、Ag薄膜を形成する前の観察側の基板の断面図であり、(b)は、Ag薄膜を形成した後の観察側の基板の断面図である。
【図4】電解液の注入、封止工程の詳細を示す断面図および斜視図である。
【図5】貼り合わせた基板のカット前の平面図およびカット後の平面図、正面図、側面図である。
【図6】カットした基板を転写用の装置に接続したときの接続状態を示す説明図である。
【図7】上記表示素子の1画素の等価回路を示す説明図である。
【図8】Agの転写前後での上記表示素子の模式的な断面図である。
【図9】実施例1−1、1−2、1−3、比較例1−4、1−5、1−6の各表示素子の検査結果を示す説明図である。
【図10】実施例2の表示素子の検査結果を示す説明図である。
【図11】実施例2−1−1〜2−1−4、実施例2−2−1〜2−2−4、実施例2−3−1〜2−3−4の各表示素子の検査結果を示す説明図である。
【図12】実施例3の表示素子の検査結果を示す説明図である。
【図13】実施例4−1、4−2、4−3、比較例4−4、4−5、4−6の各表示素子の検査結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の一形態について、図面に基づいて説明すれば、以下の通りである。
【0020】
〔表示素子の基本構成〕
図1(a)(b)は、本実施形態の表示素子1の1画素の概略の構成を模式的に示す説明図である。ただし、図1(a)は黒表示状態での画素を示し、図1(b)は白表示状態での画素を示している。表示素子1は、EDと呼ばれる電気化学表示素子で構成されており、観察側の基板10と非観察側の基板20との間に電解質としての電解液30を封入して構成されている。電解液30には、デポジション材料としての銀が溶解しており、銀イオン31が存在している。なお、電解液30の詳細については後述する。
【0021】
観察側の基板10は、例えば透明なガラス基板で構成されるコモン基板11を有している。そして、コモン基板11上には、各画素1aに共通のコモン電極12(共通電極)が形成されている。一方、非観察側の基板20は、例えば透明なガラス基板で構成される駆動基板21を有している。なお、駆動基板21は非観察側に配置されるため、透明でなくてもよい。この駆動基板21上には、各画素1aに対応する画素電極22が形成されている。各基板10・20は、コモン電極12および画素電極22が内側となるように(電解液30を介して対向するように)貼り合わされている。
【0022】
コモン電極12は、観察側の電極であるため、透明であることが必要である。このため、コモン電極12としては、通常、酸化インジウムスズ(以下、ITOと言う)などの透明電極が用いられる。一方、画素電極22は、例えば銀パラジウムからなる導電性の金属や、アモルファス状のITOで構成されている。また、画素電極22上には、多孔質金属酸化物電極23が形成されているが、その詳細については後述する。
【0023】
図1(a)において、コモン電極12に画素電極22に対して閾値以上の負の電圧が印加されると、コモン電極12から電解液30に電子が注入され、銀イオン31が還元されてコモン電極12上に銀の層32bが析出する。これをコモン電極12側から見ると、黒く見える。なお、このとき、非観察側に析出していた銀の層32aは、酸化反応により溶解する。
【0024】
一方、図1(b)において、コモン電極12に画素電極22に対して閾値以上の正の電圧が印加されると、観察側では、図1(a)で析出した銀の層32bが酸化されて溶解し、電解液30の内部に銀イオン31が分散される。一方、非観察側では、銀イオン31が還元されて銀の層32aが析出する。この状態は、コモン電極12側から見て透明であるため、電解液30を白く着色しておくことにより、白く見える。
【0025】
このように、コモン電極12および画素電極22に印加する電圧を制御することにより、各画素1aにて白と黒の表示を切り替えることができる。表示素子1は、このような画素1aをマトリクス状に配置して構成されている。なお、白黒の濃度制御は、印加電圧や印加時間を変化させて、銀の析出量を制御することで行うことができる。
【0026】
次に、表示素子1の各構成の詳細について説明する。
【0027】
〔デポジション材料〕
表示素子1をEDで構成する場合、デポジション材料(ED材料)としては、銀または銀を化学構造中に含む化合物が用いられる。銀または銀を化学構造中に含む化合物とは、例えば、酸化銀、硫化銀、金属銀、銀コロイド粒子、ハロゲン化銀、銀錯体化合物、銀イオン等の化合物の総称である。このとき、固体状態や液体への可溶化状態や気体状態等の相の状態種、中性、アニオン性、カチオン性等の荷電状態種は、特に問わない。
【0028】
電解質(電解液)に含まれる銀イオン濃度は、0.2モル/kg≦[Ag]≦2.0モル/kgが好ましい。銀イオン濃度が0.2モル/kgよりも少ないと、希薄な銀溶液となって駆動速度が遅延し、逆に、2モル/kgよりも大きいと、溶解性が劣化し、低温保存時に析出が起きやすくなる傾向にあり、不利である。
【0029】
〔電解質〕
「電解質」とは、一般に、水などの溶媒に溶けて、その溶液がイオン伝導性を示す物質のこと(狭義の電解質)を言うが、本実施形態では、電解質を含む層全体を指すものとする。つまり、本実施形態で言う「電解質」とは、電解質に他の金属や化合物等(電解質、非電解質を問わない)を含有させた混合物(広義の電解質)を指すものとする。
【0030】
本実施形態における電解質(電解液30)は、有機溶媒、イオン性液体、酸化還元活性物質、支持電解質、錯化剤、白色散乱物、高分子バインダー等を必要に応じて選択して構成されている。
【0031】
また、電解質は、通常、液体電解質と、ポリマー電解質とに分類される。ポリマー電解質は、さらに、実質的に固体化合物からなる固体電解質と、高分子化合物と液体電解質からなるゲル状電解質とに分類される。また、流動性の観点からは、固体電解質は、実質的に流動性がなく、ゲル状電解質は、液体電解質と固体電解質の中間の流動性を有している。
【0032】
本実施形態では、ゲル状電解質とは、室温環境下で高粘性を備え、かつ流動性を有する液状電解質をいい、例えば、25℃における粘度が、100mPa・s以上1000mPa・s以下のゲル状または高粘度電解質液を言う。なお、ゲル状電解質は、温度によるゾルゲル変化を生じる特性を必ずしも備えている必要はない。一方、低粘度電解質は、25℃における粘度が、0.1mPa・s以上100mPa・s未満である電解質液をいい、電解質の溶媒に対する高分子バインダーの量が重量比で10%未満であることが好ましい。
【0033】
〔多孔質金属酸化物電極〕
多孔質構造の電極を構成する微粒子の主成分としては、Cu、Al、Ag、Pd等の金属や、ITO、SnO2、TiO2、ZnO等の金属酸化物、カーボンナノチューブ、グラッシーカーボン、ダイヤモンドライクカーボン、窒素含有カーボン等の炭素電極等があげられるが、画素電極22の耐久性の面から、多孔質金属酸化物電極23としては、特に、ITO、SnO2およびZnO等の金属酸化物から選択されることが好ましい。
【0034】
ここで、「多孔質構造」とは、電極中にナノメートルサイズの孔が無数に存在する、いわゆるナノ多孔質構造の内部を、電解液中に含まれるイオン種が移動可能な構造を有することを言う。そのため、多孔質金属酸化物電極23を構成する微粒子の平均粒子径は、5nmから30nm程度が好ましい。上記微粒子としては、不定形、針状、球形等、任意の形状のものを用いることができる。
【0035】
このような多孔質構造を有する多孔質金属酸化物電極23を設けることにより、多孔質金属酸化物電極23中にデポジション材料である銀が担持され、この部分に後述する電源バスVDDからの電流が画素電極22を介して供給されるので、電流供給時の酸化還元反応速度(駆動速度)を速めることができる。
【0036】
〔表示素子の製造方法〕
次に、上記構成の表示素子1の製造方法について、図2を参照しながら説明する。図2は、表示素子1の製造工程の流れを示すフローチャートである。
【0037】
(電解液の作製工程;S1)
ジメチルスルホキシド2.5g中に、ヨウ化ナトリウム90mg、ヨウ化銀75mgを加えて完全に溶解させた後に、ポリビニルピロリドン(平均分子量15000)を150mg加えて120℃に加熱しながら1時間攪拌し溶液化した。この溶液に対して、さらにポリエチレングリコール(PEG)(分子量=10万)と酸化チタンの粉末とを混合し、ゲル状の白色電解液を電解液30として作製した。PEGは白色電解液の5wt%、酸化チタンの粉末は同30wt%とした。
【0038】
(観察側基板の作製工程;S2)
図3(a)に示すように、ガラスからなるコモン基板11上に、透明導電膜であるITOをスパッタ法にて150nmの膜厚となるように成膜し、コモン電極12(透明電極)としてのITO膜を形成した(透明電極形成工程;S21)。その後、図3(b)に示すように、コモン電極12上に、同様にスパッタ法にて膜厚20nmのAg薄膜13を形成した(銀薄膜形成工程;S22)。
【0039】
(非観察側基板の作製工程;S3)
駆動基板21としてガラス基板を用い、この駆動基板21上に、2次元マトリクス状に、1画素当たり2個のTFT(後述する薄膜トランジスタQ1・Q2に対応)を有するTFTアレイを形成し、そのTFTアレイを覆うように層間絶縁層を形成し、さらに層間絶縁膜上に画素電極22を各画素1aに対応して形成した。なお、駆動基板21上に画素電極22を形成するまでの工程は、周知の技術により行うことができる。また、ここでは、画素電極22を150μm×150μmのサイズとし、200μmピッチで形成した。
【0040】
そして、画素電極22上に、塗布液(ITOインク)としてX806CN27S(住友金属鉱山株式会社製)を用い、スピンコート1000rpmで、多孔質金属酸化物電極23としてのITO電極層を平均膜厚0.5μmで形成した。乾燥後、200℃のオーブンで30分間焼成を行った後、公知のフォトリソグラフィー法により、ITO電極層を画素形状にパターニングした。したがって、多孔質金属酸化物電極23の画素ピッチは200μmであり、1画素あたりのサイズは150μm×150μmである。
【0041】
(電解液の注入、封止工程(基板の貼り合わせ工程);S4)
次に、一対の基板(観察側の基板10、非観察側の基板20)の間に電解液30を注入し、封止する。以下、この工程について図4を用いて説明する。図4は、電解液30の注入、封止工程の詳細を示す断面図および斜視図である。まず、S2で作製した観察側の基板10上の所定のシール位置に、ディスペンサでUV硬化型のシール剤14を塗布する。その際、シール剤14の高さは、後の工程で滴下する電解液30の高さよりも低くなるように制御する。シール剤14は、パネル表示領域の隔壁となる材料(表示エリアを規定するもの)である。
【0042】
続いて、シール剤14の内側の表示領域に、予め調液した電解液30を充填した容量計量式ディスペンサを用いて、基板10上に所定のパターンで、かつ、電解液30がパネルの容積と略等量となるように計量塗布(滴下)する。なお、電解液30の塗布パターンは、基板の貼り合わせを完了したときに表示領域空間を十分に満たすような適量を塗布できるパターンであればよく、例えばライン状であってもよいし、島状(アイランドパターン)であってもよい。
【0043】
なお、電解液30を塗布する基板は、S3で作製した非観察側の基板20であってもよいが、基板20にはTFT等が形成されており、凹凸が多く、電解液30を塗布したときに気泡が残りやすいため、本実施形態のように、観察側の基板10に電解液30を塗布することが望ましい。
【0044】
その後、シール剤14および電解液30を塗布した基板10を、真空貼り合わせ装置のチャンバー40内へ設置し、基板10・20を貼り合わせる位置にアライメント(位置調整)する。そして、基板10・20のギャップを小さくして、基板20が電解液30には接するが、シール剤14には接しない間隔で保持し、基板10・20を所定のギャップで保持した状態で真空引きを開始する。
【0045】
次に、真空引きを実施した減圧状態のチャンバー40内で基板10・20のアライメントを微調整し、一対の基板10・20に対して表示領域から離れた位置で仮止めなどの固定を行った上で、チャンバー40を大気開放する。その後、シール剤14を完全硬化させて基板の貼り合わせを完了させる。完全硬化にはシール剤14を完全硬化させるのに最適な照射量のUV照射を用いればよい。
【0046】
なお、S4において、一方の基板10に電解液30を滴下して両基板10・20を貼り合わせる代わりに、両基板10・20を先にシール剤14で貼り合わせた後、電解液30の注入口から電解液30を注入し、最後に上記注入口を封止するようにしてもよい。
【0047】
(基板のカット工程;S5)
次に、基板10・20の各電極に電圧を印加するための電極パッドを露出させるため、基板10・20をガラスカッターによりカットする。より具体的には、図5に示すように、基板10については、図中の一点鎖線に沿ってカットし、基板20については、図中の二点鎖線に沿ってカットする。なお、図5では、便宜上、基板カット前については、基板10・20の平面図のみを示し、基板カット後については、基板10・20の平面図、正面図、側面図を示す。
【0048】
そして、図6で示すように、基板10のコモン電極12と電源51とをコモン端子52を介して接続するとともに、基板20の画素電極22と電源51とをVdd端子53を介して接続する。そして、コモン電極12と画素電極22との間に1.2Vの電位が印加されるように、電源コントローラ54によって電源51をコントロールする。
【0049】
また、基板20の後述する薄膜トランジスタQ1のゲート電極が接続されるゲートバスGmを、ゲート側端子55を介して、電源を含むゲート信号コントローラ56と接続する。また、基板20の後述する薄膜トランジスタQ1のソース/ドレイン電極の一方の電極が接続されるソースバスSnを、ソース側端子57を介して、電源を含むソース信号コントローラ58と接続する。
【0050】
なお、上記した電源51、電源コントローラ54、ゲート信号コントローラ56およびソース信号コントローラ58は、転写用の装置をそれぞれ構成しているが、これらが表示素子1の構成要素を兼ねていてもよい。
【0051】
ここで、表示素子1の各画素の詳細な構成について説明を補足しておく。なお、各画素の構成は同じであるため、以下では、1つの画素1aを例に挙げて説明する。つまり、以下に示す画素1aがマトリクス状に配置されて表示素子1が構成されている。
【0052】
図7は、表示素子1の1画素1aの等価回路を示す説明図である。画素1aには、2個の薄膜トランジスタQ1・Q2が形成されている。薄膜トランジスタQ1は、駆動する画素1aを選択するための選択トランジスタ(スイッチングトランジスタ)であり、薄膜トランジスタQ2は、画素1aを駆動する駆動トランジスタである。
【0053】
薄膜トランジスタQ1は、ゲートバスGmの信号により駆動され、オンされたときのソースバスSnの信号を薄膜トランジスタQ2のゲート電極に印加する。薄膜トランジスタQ2は、薄膜トランジスタQ1によってゲート電位が高電位にされたときに、コモン電位Vcomと駆動電位Vddとの差の電位を、コモン電極12と画素電極22との間に印加して、電解液30に電流を流す。コモン電極12と画素電極22との間の電位に応じて、電解液30中のデポジション材料である銀が酸化還元反応を起こし、これによって、画素1aを黒化させたり白化させたりすることができる。
【0054】
(転写工程;S6)
次に、上記したS4の工程の後、所定時間以内に転写工程を行う。すなわち、一対の基板10・20間への電解液30の封止後、6時間以内に、コモン電極12が画素電極22に対して+1.2Vとなるように、コモン電極12および画素電極22に電圧を印加して、S22で形成したAg薄膜13を溶解させる一方、非観察側の基板20上にAgの層13aを析出させる。図8は、Agの転写前後での表示素子1の模式的な断面図を示している。なお、図8では、便宜上、画素電極22と多孔質金属酸化物電極23とを1つの画素電極として併せて図示している。同図に示すように、電圧印加により、観察側のAg薄膜13が非観察側に転写されていることがわかる。
【0055】
(エージング工程;S7)
続いて、S6での転写の後、20℃以上の環境下で、次の検査工程を行うまで電解液30を維持する。この工程により、電解液30中のイオンが均一に拡散し、電解液30が安定する。なお、S7の工程は必ずしも必要ではないが、上記のように電解液30を安定させる点でS7の工程を行うことが望ましい。
【0056】
(検査工程;S8)
そして、最後に、コモン電極12および画素電極22の間に電圧を印加して駆動検査を行う。例えば、表示素子1の全面がコントラスト2となるように電圧を印加し(例えば印加電圧1.2V、印加時間200msec)、表示エリアを100分割したときのそれぞれの箇所における反射率を測定し、そのばらつきを評価することにより、表示ムラおよび駆動安定性を評価することができる。なお、コントラスト2とは、白と黒との視感反射率(Y値)比が2:1であることを示す。
【0057】
〔実施例および比較例〕
以下、表示素子1の製造方法の実施例について、比較例を参照しながら説明する。
【0058】
(実施例1−1)
実施例1−1では、上述した表示素子1の製造方法の転写工程において、S4での電解液30の注入、封止後(UVシール硬化直後)から、転写パルス印加までの時間T1を1時間とした。そして、S6の転写工程後、S7のエージングを行わずに、S8の検査工程を速やかに行った。なお、S8の検査工程における反射率の測定には、コニカミノルタセンシング社製の分光測色計3700dを用いた。それ以外の各工程については、上述した通りである。
【0059】
(実施例1−2)
実施例1−2では、時間T1を3時間に延ばした。それ以外の工程については、実施例1−1と同様である。
【0060】
(実施例1−3)
実施例1−3では、時間T1を6時間に延ばした。それ以外の工程については、実施例1−1と同様である。
【0061】
(比較例1−4)
比較例1−4では、時間T1を7時間に延ばした。それ以外の工程については、実施例1−1と同様である。
【0062】
(比較例1−5)
比較例1−5では、時間T1を10時間に延ばした。それ以外の工程については、実施例1−1と同様である。
【0063】
(比較例1−6)
比較例1−6では、時間T1を15時間に延ばした。それ以外の工程については、実施例1−1と同様である。
【0064】
図9は、実施例1−1、1−2、1−3、比較例1−4、1−5、1−6の各表示素子のS8での検査結果を示している。実施例1−1、1−2、1−3では、いずれも、反射率のばらつきを示す標準偏差が5以下となっており、表示ムラが抑えられ、駆動安定性が良好であると言える。これに対して、比較例1−4、1−5、1−6では、反射率の標準偏差が5よりも大きいことから、表示ムラが抑えられているとは言えず、駆動安定性が良好であるとも言えない。
【0065】
したがって、以上のことから、電解液の封止後、6時間以内に、観察側のAg薄膜13のAgを非観察側に転写することにより、表示ムラおよび表示素子1の駆動安定性の低下を回避できると言える。これは、観察側に形成したAg薄膜13と電解液30との長期にわたる接触が回避されることにより、電解液30が空気中の水分や酸素と反応したときの副反応物(例えば酸化銀)の影響によるAg薄膜13の特性劣化が回避され、電圧印加時のAg薄膜13の溶解がどの画素でも均一に起こりやすくなっているためと考えられる。
【0066】
特に、実施例1−1、1−2、1−3では、S4の封止工程において、観察側の基板10に電解液30を滴下して、基板10・20間に電解液30を封止している。例えば、電解液30をアイランドパターンで滴下する場合には、Ag薄膜13が電解液30と十分に接触する部分と十分に接触しない部分とが生じ、十分に接触しない部分に比べて、十分に接触する部分で電解液30によるAg薄膜13の特性劣化が生じやすくなる。このようにAg薄膜13の特性劣化が局所的に生じやすくなるような電解液30の滴下を行った場合には、上記のように、観察側のAgの非観察側への転写を、電解液30の封止後6時間以内に行って、電解液30とAg薄膜13との長期の接触を回避することが非常に有効となる。
【0067】
(実施例2)
実施例2では、実施例1のS6にて、電解液30の封止から1時間以内に転写を行った後、S7のエージング工程にて、25℃オーブンにて10時間、電解液30とともに作製された表示素子1を放置した。それ以外の工程については、実施例1と同様である。なお、このときのエージング時間をT2とし、エージング温度をt2とすると、T2=10時間であり、t2=25℃である。
【0068】
図10は、実施例2の表示素子のS8での検査結果を示している。実施例2では、反射率の標準偏差が5以下で、かつ、実施例1−1、1−2、1−3と比べてさらに小さくなっていることから、表示ムラがさらに抑えられ、駆動安定性がさらに良好であると言える。
【0069】
(実施例2−1−1、2−1−2、2−1−3、2−1−4)
実施例2−1−1、2−1−2、2−1−3、2−1−4では、T2=1時間、t2=30℃、20℃、18℃、10℃とそれぞれ異ならせてS7のエージング工程を行った。それ以外の工程については、実施例2と同様である。
【0070】
(実施例2−2−1、2−2−2、2−2−3、2−2−4)
実施例2−2−1、2−2−2、2−2−3、2−2−4では、T2=5時間、t2=30℃、20℃、18℃、10℃とそれぞれ異ならせてS7のエージング工程を行った。それ以外の工程については、実施例2と同様である。
【0071】
(実施例2−3−1、2−3−2、2−3−3、2−3−4)
実施例2−3−1、2−3−2、2−3−3、2−3−4では、T2=30時間、t2=30℃、20℃、18℃、10℃とそれぞれ異ならせてS7のエージング工程を行った。それ以外の工程については、実施例2と同様である。
【0072】
図11は、実施例2−1−1〜2−1−4、実施例2−2−1〜2−2−4、実施例2−3−1〜2−3−4の各表示素子のS8での検査結果を示している。同図に示すように、時間T2および温度t2の変化に対する反射率の標準偏差の依存性は少なく、いずれも反射率の標準偏差が5以下であり、良好な駆動を実現できていることがわかった。
【0073】
なお、t2=18℃以下では、t2=20℃以上に比べて、反射率の標準偏差が若干大きくなっている。これは、S6での転写の後、電解液30を20℃未満で維持すると、電解液30中に溶けている物質(例えばポリエチレングリコール単体またはポリエチレングリコールと酸化チタンの凝集物など)が結晶化して不純物として析出しやすくなり、これが駆動に影響を与えるためと思われる。
【0074】
したがって、上述した実施例2の結果も含めると、不純物の析出を確実に抑えて良好な駆動を確実に実現するためには、t2=20℃以上であることが望ましいと言える。
【0075】
なお、温度t2の上限は特に規定していないが、表示素子1のシール剤14の溶解温度や電解液30の特性の変化(例えば銀濃度の変化)を考慮すると、温度t2の上限は高くても100℃程度に抑えることが適切と思われる。
【0076】
(実施例3)
実施例3では、実施例2のS8の検査工程にて、図6で示した転写用の装置を用いて、コモン電極12および画素電極22への電圧印加による駆動を複数回連続して行った。それ以外の工程については、実施例2と同様である。ここで、複数回の連続駆動としては、コントラスト10となる白/黒の表示の書き換えを10回行った。なお、印加電圧は1.2Vとし、印加時間は1000msecとした。
【0077】
図12は、実施例3の表示素子のS8での検査結果を示している。実施例3では、反射率の標準偏差が1以下であり、実施例2に比べて、表示ムラがさらに抑えられ、駆動安定性がさらに良好であると言える。これは、表示素子1の駆動を連続して行い、表示エリア全面に対してAgの酸化還元反応を繰り返し行うことにより、電解液30中に溶けている物質(銀イオンを含む)の横方向(基板10・20の対向方向に垂直な方向)の分布が均一になるためと考えられる。
【0078】
(実施例4)
実施例4では、実施例1のS1において、電解液30の作製条件を変えた。それ以外の工程については、実施例1と同様である。以下、詳細に説明する。
【0079】
(電解液の作製工程;S1)
ジメチルスルホキシド2.5g中に、ヨウ化リチウム18mg、塩化ビスマス90mg、ヨウ化銀75mgを加えて完全に溶解させた後に、ポリビニルピロリドン(平均分子量15000)を150mg加えて120℃に加熱しながら1時間攪拌し溶液化した。この溶液に対して、さらにポリエチレングリコール(PEG)(分子量=2万)と酸化チタンの粉末とを混合し、ゲル状の白色電解液を電解液30として作製した。PEGは白色電解液の3wt%、酸化チタンの粉末は同20wt%とした。
【0080】
実施例1に比べて、PEGの分子量を低下させ、同含有量を低減し、酸化チタン量を低減することにより、低粘度の電解液30を作製した。このように電解液30を低粘度化することで、反応時間を短縮(=応答速度を向上)させることができる。ちなみに、実施例1の電解液30を用いた場合と比較すると、実施例4の電解液30を用いた場合は、黒化時間と白化時間がそれぞれ約0.7倍となり、応答速度が向上した。
【0081】
(実施例4−1)
実施例4−1では、上記の電解液30を用い、実施例1−1と同様の転写(T1=1時間)を行った。それ以外は、実施例1−1と同様である。
【0082】
(実施例4−2)
実施例4−2では、上記の電解液30を用い、実施例1−2と同様の転写(T1=3時間)を行った。それ以外は、実施例1−2と同様である。
【0083】
(実施例4−3)
実施例4−3では、上記の電解液30を用い、実施例1−3と同様の転写(T1=6時間)を行った。それ以外は、実施例1−3と同様である。
【0084】
(比較例4−4)
比較例4−4では、上記の電解液30を用い、比較例1−4と同様の転写(T1=7時間)を行った。それ以外は、比較例1−4と同様である。
【0085】
(比較例4−5)
比較例4−5では、上記の電解液30を用い、比較例1−5と同様の転写(T1=10時間)を行った。それ以外は、比較例1−5と同様である。
【0086】
(比較例4−6)
比較例4−6では、上記の電解液30を用い、比較例1−6と同様の転写(T1=15時間)を行った。それ以外は、比較例1−6と同様である。
【0087】
図13は、実施例4−1、4−2、4−3、比較例4−4、4−5、4−6の各表示素子のS8での検査結果を示している。このように電解液30を実施例1−1等と変えた場合でも、実施例4−1、4−2、4−3では、いずれも、反射率の標準偏差が5以下となっており、表示ムラが抑えられ、駆動安定性が良好であると言える。これに対して、比較例4−4、4−5、4−6では、反射率の標準偏差が5よりも大きいことから、表示ムラが抑えられているとは言えず、駆動安定性が良好であるとも言えない。
【0088】
したがって、図9および図13の結果より、以下のことが言える。すなわち、電解液30の封止後、6時間以内に、観察側のAg薄膜13のAgを非観察側に転写することにより、表示ムラおよび表示素子1の駆動安定性の低下を回避できるという効果は、電解液30中のデポジション材料がAgである限り、電解液30の種類や組成に関係なく同様に得られる傾向にあると言える。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、例えば電子書籍をはじめとする各種の表示装置を構成するEDのような電気化学表示素子の製造に利用可能である。
【符号の説明】
【0090】
1 表示素子(電気化学表示素子)
1a 画素
10 基板
11 コモン基板
12 コモン電極(透明電極)
13 Ag薄膜(銀薄膜)
20 基板
21 駆動基板
22 画素電極
30 電解液
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液を挟んで対向する一対の電極間に電圧を印加し、前記電解液に含まれる銀の酸化還元反応による析出、溶解によって表示を行う電気化学表示素子の製造方法であって、
観察側の基板上に一方の電極である透明電極を形成する透明電極形成工程と、
前記透明電極上に銀薄膜を形成する銀薄膜形成工程と、
観察側の基板と他方の電極を形成した非観察側の基板との間に電解液を注入して封止する封止工程と、
前記電解液を封止した後、6時間以内に、一対の電極間に電圧を印加して、前記銀薄膜を溶解させる一方、非観察側の基板上に銀を析出させる転写工程とを有していることを特徴とする電気化学表示素子の製造方法。
【請求項2】
前記封止工程では、観察側の基板と非観察側の基板とのうちの一方に電解液を滴下して、前記電解液を両基板間に封止することを特徴とする請求項1に記載の電気化学表示素子の製造方法。
【請求項3】
前記転写工程の後、20℃以上の環境下で前記電解液を維持するエージング工程と、
前記エージング工程の後、前記一対の電極間に電圧を印加して駆動検査を行う検査工程とをさらに含んでいることを特徴とする請求項1または2に記載の電気化学表示素子の製造方法。
【請求項4】
前記検査工程では、前記一対の電極間への電圧印加による駆動を複数回連続して行うことを特徴とする請求項3に記載の電気化学表示素子の製造方法。
【請求項1】
電解液を挟んで対向する一対の電極間に電圧を印加し、前記電解液に含まれる銀の酸化還元反応による析出、溶解によって表示を行う電気化学表示素子の製造方法であって、
観察側の基板上に一方の電極である透明電極を形成する透明電極形成工程と、
前記透明電極上に銀薄膜を形成する銀薄膜形成工程と、
観察側の基板と他方の電極を形成した非観察側の基板との間に電解液を注入して封止する封止工程と、
前記電解液を封止した後、6時間以内に、一対の電極間に電圧を印加して、前記銀薄膜を溶解させる一方、非観察側の基板上に銀を析出させる転写工程とを有していることを特徴とする電気化学表示素子の製造方法。
【請求項2】
前記封止工程では、観察側の基板と非観察側の基板とのうちの一方に電解液を滴下して、前記電解液を両基板間に封止することを特徴とする請求項1に記載の電気化学表示素子の製造方法。
【請求項3】
前記転写工程の後、20℃以上の環境下で前記電解液を維持するエージング工程と、
前記エージング工程の後、前記一対の電極間に電圧を印加して駆動検査を行う検査工程とをさらに含んでいることを特徴とする請求項1または2に記載の電気化学表示素子の製造方法。
【請求項4】
前記検査工程では、前記一対の電極間への電圧印加による駆動を複数回連続して行うことを特徴とする請求項3に記載の電気化学表示素子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−203647(P2011−203647A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72853(P2010−72853)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】
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