説明

電気回路の製造方法、及びその方法により得られる電気回路基板

【課題】狭い線幅及び線間隔の電気回路を形成した場合であっても、高い機械的強度や密着強度を維持しうる電気回路の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】絶縁基材表面に樹脂皮膜を形成する皮膜形成工程と、前記樹脂皮膜の外表面側から前記絶縁基材にレーザー加工又は機械加工することにより所望の形状及び深さを有する溝及び/又は孔を形成して回路パターン部を形成する回路パターン形成工程と、前記絶縁基材の回路パターン部の表面及び前記絶縁基材を被覆する樹脂皮膜の表面にメッキ触媒またはその前駆体を被着させる触媒被着工程と、前記絶縁基材から前記樹脂皮膜を剥離する皮膜剥離工程と、前記樹脂皮膜が剥離された絶縁基材に無電解メッキを施すメッキ処理工程と、を備え、前記回路パターン形成工程において、回路パターン部の少なくとも一部分にメッキ補強構造を形成する方法を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気回路の製造方法及び電気回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話をはじめとする携帯情報端末機器、コンピュータ及びその周辺機器、各種情報家電製品等の電気機器においては、高機能化が急速に進行している。それに伴い、これら電気機器に搭載される電気回路基板には電気回路の高密度化がますます要求されている。このような電気回路基板の高密度化を実現するために、より狭い線幅及び線間隔を有する電気回路の形成方法が求められている。
【0003】
従来から、電気回路基板の電気回路の形成方法として、サブトラクティブ法やアディティブ法が知られている。サブトラクティブ法は、金属箔張積層板表面の電気回路を形成したい部分以外の不要な金属箔を除去(サブトラクティブ)することにより、電気回路を形成する方法である。一方、アディティブ法は、絶縁基材上の電気回路を形成したい部分のみに無電解メッキを施すことにより、電気回路を形成する方法である。
【0004】
サブトラクティブ法は、金属箔張積層板表面の金属箔をエッチングすることにより、電気回路を形成したい部分のみの金属箔を残し、その他の部分を除去するような方法である。この方法は、除去される部分の金属を浪費するために製造コストの点で不利である。一方、アディティブ法は、回路形成部分のみに無電解メッキを用いて導電層を形成する。この方法は、資源の無駄がない点から好ましい方法である。
【0005】
従来の代表的なアディティブ法であるフルアディティブ法により、金属配線を形成する方法の概略について、図6A〜図6Eの工程断面図を参照しながら説明する。
【0006】
はじめに、図6Aに示すように、スルーホール101が設けられた絶縁基材100の表面にメッキ触媒102を被着させる。なお、絶縁基材100の表面は、予め粗化されている。次に、図1Bに示すように、フォトレジスト層103を形成する。次に、図1Cに示すように、フォトレジスト層103の表面に所定の回路パターンが形成されたフォトマスク110を介して露光する。次に、図1Dに示すように、回路パターンを現像する。そして、図1Eに示すように、現像により形成された回路パターン部分及びスルーホールに無電解銅メッキを施すことにより金属配線104を形成する。このような工程により絶縁基材100の表面に電気回路が形成される。
【0007】
上述したような、従来の一般的なアディティブ法によれば、絶縁基材100の表面全体にメッキ触媒102が被着されているために、次のような問題が生じていた。すなわち、フォトレジスト層103がフォトマスクのパターン通りに高精度に現像された場合には、フォトレジストで保護されていない部分のみに正確にメッキを形成させることができる。しかし、フォトレジスト層103が高精度に現像されなかった場合には、絶縁基材100の表面全体にメッキ触媒102が被着されているために、図7に示すような、本来メッキを形成したくない部分に不要なメッキ部分105が残ることがある。このような不要なメッキ部分105は、隣接する回路間に短絡やマイグレーションを引き起こす原因になる。このような短絡やマイグレーションは、線幅及び線間隔が狭い電気回路を形成する場合にはより生じやすくなる。
【0008】
下記特許文献1には、別のアディティブ法として以下のような方法が開示されている。はじめに、絶縁基板に溶剤可溶性の第1の感光性樹脂層とアルカリ可溶性の第2の感光性樹脂層を形成する。そして、第1及び第2の感光性樹脂層を所定の回路パターンを有するフォトマスクを介して露光した後、第1及び第2の感光性樹脂層を現像する。そして、現像により生じた凹部を含む表面全体に触媒を吸着させた後、アルカリ可溶性の第2の感光性樹脂をアルカリ溶液で溶解させることにより不要な触媒のみを除去する。そして、その後無電解メッキを施すことにより触媒が存在する部分のみに正確に回路を形成する方法が記載されている。しかしながら、このような方法によれば、溶剤溶解性の異なる2種の感光性樹脂層を形成し、また、現像時においても2種の溶剤で現像し、触媒を吸着させた後にさらに、アルカリ溶液で第2の感光性樹脂を溶解させる必要があるなど、製造工程が非常に煩雑であった。
【0009】
また、下記特許文献2には、以下のような方法が開示されている。はじめに、絶縁基板上に樹脂の保護膜をコーティングする(第1の工程)。次に、前記保護膜をコーティングした絶縁基板上に機械加工あるいはレーザービームの照射により配線パターンに対応した溝及びスルーホールを単独又は同時に描画形成する(第2の工程)。次に、前記絶縁基板全面に活性化層を形成したのち前記保護膜を剥離して前記絶縁基板上の活性化層を除去し溝およびスルーホールの内壁面のみに活性化層を残す(第3の工程)。次に、前記絶縁基板にメッキ保護膜を用いないメッキを施し前記活性化された溝およびスルーホールの内壁面のみに選択的に導電層を形成する(第4の工程)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭57−134996号公報
【特許文献2】特開昭58−186994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したような従来の各種電気回路の製造方法を用いて、電気回路の高密度化を実現するために狭い線幅及び線間隔を有する電気回路を形成した場合、以下のような問題が生じる。すなわち、電気回路の線幅及び線間隔が狭くなるにつれて、電気回路を構成する金属配線の強度がますます弱くなるという問題があった。このような、金属配線の強度の低下は、電子機器の信頼性を低下させる原因になる。
【0012】
具体的に、携帯電話をはじめとする携帯情報端末機器に搭載される電気回路基板において起こりうる問題を一例として説明する。携帯情報端末機器に搭載される電気回路基板には、比較的大きなLSI(Large Scale Integration)が実装される。このようなLSIは、電気回路基板の回路の一部として形成されたランド部分において、半田バンプにより接合される。携帯情報端末機器は、携帯されるために衝撃を受ける機会が多々ある。このような衝撃を受けた場合、実装されたLSIに力が掛かってランド部分を構成する金属配線が切断して損傷するおそれがある。同様に、LSI側においても、LSIの基板の接点部分が剥離したりして損傷を受けるおそれがある。電気回路の線幅及び線間隔が狭くなるにつれて、このような回路の損傷は起りやすくなる。
【0013】
このような問題を解決するために、部分的に回路線の線幅を広げて金属配線を補強する方法が考えられる。しかしながら、このような方法では回路の高密度化が図れなくなる。また、サブトラクティブ法により得られる回路においては、金属配線の厚みは銅箔厚みに依存するために、厚膜化による金属配線の補強もできない。
【0014】
本発明は、このような問題を解決すべく、狭い線幅及び線間隔の電気回路を形成した場合であっても、高い機械的強度や密着強度を維持しうる電気回路の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の電気回路の製造方法は、絶縁基材表面に樹脂皮膜を形成する皮膜形成工程と、前記樹脂皮膜の外表面側から前記絶縁基材にレーザー加工又は機械加工することにより所望の形状及び深さを有する溝及び/又は孔を形成して回路パターン部を形成する回路パターン形成工程と、前記絶縁基材の回路パターン部の表面及び前記絶縁基材を被覆する樹脂皮膜の表面にメッキ触媒またはその前駆体を被着させる触媒被着工程と、前記絶縁基材から前記樹脂皮膜を剥離する皮膜剥離工程と、前記樹脂皮膜が剥離された絶縁基材に無電解メッキを施すメッキ処理工程と、を備え、前記回路パターン形成工程において、回路パターン部の少なくとも一部分にメッキ補強構造を形成することを特徴とする。このような製造方法によれば、絶縁基材に形成された樹脂被膜の外表面からレーザー加工等により所望の深さ及び形状を有する回路パターン部を形成することができる。そして、回路パターンが形成された樹脂皮膜で被覆された絶縁基材の表面全体にメッキ触媒を付与した後、樹脂皮膜を剥離することにより、回路パターン部表面のみのメッキ触媒が残る。そして、絶縁基材に無電解メッキを施すことにより、回路パターン部表面のみにメッキが形成される。この場合において、回路パターン部の表面にアンカー効果を示すような凹凸形状を形成したり、補強したい部分のみの溝を深く形成して部分的に厚膜のメッキを形成したりするようにして3次元的な補強部分を設けることにより、電気回路の損傷を受けやすい部分の機械的強度や密着強度を高めることができる。
【0016】
また、前記電気回路の製造方法においては、前記回路パターン部が電子部品を表面実装するための少なくとも一つのランド部分と前記ランド部分と一体化されて形成される回路線部分を有し、前記凹凸形状がランド部分表面に付与されていることが好ましい。LSIのような電子部品が実装されるランド部分は、衝撃により特に切断や剥離がしやすい部分である。このような衝撃に弱いランド部分の表面に凹凸形状を付与することにより、ランド部分の金属配線の接着力が向上し、それによりLSI等を実装したときの実装強度が向上する。
【0017】
また、前記電気回路の製造方法においては、前記回路パターン部が電子部品を表面実装するための少なくとも一つのランド部分と前記ランド部分と一体化されて形成される回路線部分を有し、前記メッキ補強構造が、前記ランド部の溝深さを前記回路線部分の溝深さよりも深くなるようにして付与することにより形成されるものであることが好ましい。電子部品を実装した状態で電気回路基板が衝撃を受けた場合、ランド部分とランド部と一体化されて形成される回路線部分を有する回路パターンにおいては、ランド部分と回路線部分の接続部付近で切断が起りやすい。このような場合において、ランド部分の溝深さを回路線部分の溝深さよりも深くなるようにメッキ補強構造を付与することにより、ランド部分に形成されるメッキが回路線部分に形成されるメッキよりも厚く形成することができる。これにより、ランド部分と回路線部分との接続部を補強することができる。
【0018】
また、前記電気回路の製造方法においては、前記回路パターン部が電子部品を表面実装するための少なくとも一つのランド部分と前記ランド部分と一体化されて形成される回路線部分を有し、前記メッキ補強構造が、前記ランド部分の溝外周に突起形状を付与することにより形成されていることが好ましい。ランド部分の溝外周に突起形状を付与することにより、LSI等を実装したときの実装強度がさらに向上する。
【0019】
また、本発明の電気回路基板は前記製造方法により得られた電気回路を有するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の製造方法によれば、狭い線幅及び線間隔の電気回路を形成した場合であっても、高い機械的強度や密着強度を維持しうる電気回路を得ることができる。とくに、電気回路を部分的に補強することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明に係る実施形態の製造方法を説明するための工程図である。
【図2】図2は、本発明に係る実施形態の製造方法において形成するメッキ補強構造を説明するための模式図である。
【図3】図3は、本発明に係る実施形態の製造方法において形成する別のメッキ補強構造を説明するための模式図である。
【図4】図4は、本発明に係る実施形態の製造方法において形成する別のメッキ補強構造を説明するための模式図である。
【図5】図5は、本発明に係る実施形態の製造方法において形成するメッキ補強構造を型押により形成する方法を説明するための模式図である。
【図6】図6は、従来の代表的なアディティブ法による回路パターン形成を説明するための工程図である。
【図7】図7は、従来のアディティブ法により形成された回路の輪郭形状を説明するための説明図である。
【図8】図8は、表面凹凸形状の一例を示す概略図である。
【図9】図9は、表面凹凸形状の他の一例を示す概略図である。
【図10】図10は、表面凹凸形状の他の一例を示す概略図である。
【図11】図11は、表面凹凸形状の他の一例を示す概略図である。
【図12】図12は、表面凹凸形状の他の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[第1実施形態]
本実施形態の電気回路の製造方法は、絶縁基材表面に樹脂皮膜を形成する皮膜形成工程と、前記樹脂皮膜の外表面側から前記絶縁基材にレーザー加工又は機械加工することにより所望の形状及び深さを有する溝及び/又は孔を形成して回路パターン部を形成する回路パターン形成工程と、前記絶縁基材の回路パターン部の表面及び前記絶縁基材を被覆する樹脂皮膜の表面にメッキ触媒またはその前駆体を被着させる触媒被着工程と、前記絶縁基材から前記樹脂皮膜を剥離する皮膜剥離工程と、前記樹脂皮膜が剥離された絶縁基材に無電解メッキを施すメッキ処理工程と、を備え、前記回路パターン形成工程において、回路パターン部の少なくとも一部分にメッキ補強構造を形成することを特徴とする。
【0023】
以下、本実施形態の製造方法を、図面を参照しながら説明する。
【0024】
図1は本実施形態の製造方法を説明するための工程図である。図1中、1は絶縁基材、2は樹脂皮膜、3は回路パターン部、4はメッキ触媒、5は無電解メッキである。また、3aは回路パターン3の表面の一部に設けられた凹凸形状のメッキ補強構造である。
【0025】
本実施形態の製造方法においては、図1Aに示すように、はじめに、基材1の表面に樹脂皮膜2を形成する。
【0026】
絶縁基材1としては、電気回路基板の製造に用いられうる各種有機基板が用いられる。有機基板の具体例としては、エポキシ樹脂シート、アクリル樹脂シート、ポリカーボネート樹脂シート、ポリイミド樹脂シート等が特に限定なく用いられうる。また、上記樹脂シートの他、繊維基板に熱硬化性樹脂が含浸されてなるプリプレグや立体回路基板を形成するための成形体も好ましく用いられうる。絶縁基材1の厚みは特に限定されないが、例えば、10〜200μm、さらには20〜100μm程度であることが好ましい。
【0027】
樹脂皮膜2は、絶縁基材1の主面に液状材料を塗布した後、乾燥させたり、絶縁基材1の主面に予め形成された樹脂フィルムを貼り合せたりすることにより形成される。
【0028】
樹脂皮膜2は、後述する皮膜除去工程において所定の液体で膨潤または溶解させることにより、絶縁基材1表面から容易に除去しうるような樹脂皮膜が好ましく用いられうる。具体的には、例えば、有機溶剤やアルカリ溶液により容易に溶解しうる可溶型樹脂や、所定の溶媒で膨潤しうる膨潤性樹脂が挙げられる。これらの中では、正確な除去が容易である点から膨潤性樹脂が特に好ましい。
【0029】
膨潤性樹脂皮膜としては、膨潤液に対する膨潤度が50%以上、さらには100%以上で、1000%以下であるような膨潤度の樹脂皮膜が好ましく用いられうる。前記膨潤度が低すぎる場合には、膨潤性樹脂皮膜が剥離しにくくなる傾向があり、高すぎる場合には、皮膜強度が低下することにより剥離する際に破れる等して剥離が困難になる傾向がある。このような膨潤性樹脂は、絶縁基材1の主面にエラストマーのサスペンジョン又はエマルジョンを塗布した後、乾燥することや、支持基板にそれらを塗布した後、乾燥することにより形成される皮膜を絶縁基材1の主面に転写することにより形成することができる。
【0030】
このようなエラストマーの具体例としては、スチレン−ブタジエン系共重合体等のジエン系エラストマー、アクリル酸エステル系共重合体等のアクリル系エラストマー、及びポリエステル系エラストマー等が挙げられる。このようなエラストマーによれば、サスペンジョン又はエマルジョンとして分散されたエラストマー樹脂粒子の架橋度またはゲル化度等を調整することにより所望の膨潤度の膨潤性樹脂皮膜を容易に形成することができる。
【0031】
塗布する方法は特に限定されず、従来から知られたスピンコート法やバーコーター法等が特に限定なく用いられうる。
【0032】
樹脂皮膜2の厚みとしては、10μm以下、さらには5μm以下であり、0.1μm以上、さらには1μm以上であることが好ましい。樹脂皮膜2の厚みが厚すぎる場合には、レーザー加工又は機械加工することにより形成される溝及び/又は孔の精度が低下する傾向があり、前記厚みが薄すぎる場合は、均一な膜厚の樹脂皮膜を形成しにくくなる傾向がある。
【0033】
次に、図1Bに示すように、樹脂皮膜2の外表面側から絶縁基材1にレーザー加工又は機械加工することにより所望の形状及び深さを有する溝及び/又は孔を形成して回路パターン部3を形成する。そして、このときに、回路パターン部3の表面の少なくとも一部分にメッキ補強構造3aを形成する。(回路パターン形成工程)。
【0034】
例えば、LSIのような電子部品を表面実装するためのランド部分とランド部分と一体化されて形成されるような回路線部分を有する電気回路を形成する場合、電子部品が実装されるランド部分は、衝撃により切断や剥離が生じやすい傾向がある。このような場合において、衝撃に弱いランド部分にメッキ補強構造を設けることにより、電子部品を実装したときの実装強度を向上させることができる。本実施形態の方法によれば、電気回路を部分的に補強できるメッキ補強構造3aを容易に形成することができる。
【0035】
回路パターン部3の形成には、レーザー加工やダイシング加工,型押加工等の機械加工が用いられる。微細な回路を精度よく形成するためには、レーザー加工を用いることが好ましい。また、型押加工としては、ナノインプリントの分野において用いられるような微細樹脂型による型押加工が好ましく用いられうる。
【0036】
回路パターン部3の少なくとも一部分に形成されるメッキ補強構造の一例を図2〜図4に示す。
【0037】
図2はアンカー効果を付与することを目的として形成された表面凹凸形状20を有するメッキ補強構造である。図2Aは、ランド部分21とランド部分21と一体化されて形成される回路線部分22を有する回路パターンにメッキを形成したときの拡大上面図であり、図2Bは図2AのA−A’断面の模式図である。絶縁基材に回路パターンを形成する際に、このような表面凹凸形状20を形成することにより、後述する無電解メッキ処理工程において形成されるメッキの密着性をアンカー効果により向上させることができる。
【0038】
図2に示したような表面凹凸形状20としては、例えば十点平均粗さ(Rz)が0.1〜20μm、さらには1〜10μm程度となるような凹凸を形成することが好ましい。このような凹凸形状20を回路パターン部の補強したい部分の表面に形成することにより、その部分の配線回路を充分に補強することができる。
【0039】
なお、ここでの、Rzは、JIS B 0601:2001で定義される十点平均粗さである。その測定方法としては、例えば、走査型共焦点レーザ顕微鏡、表面粗さ測定機、及び原子間力顕微鏡等を用いて測定できる。具体的には、走査型共焦点レーザ顕微鏡(オリンパス株式会社製のLEXT OLS3000)等を用いて測定できる。
【0040】
図3は形成される電気回路の補強したい部分の溝深さを深くして厚いメッキを形成する構造30を有するメッキ補強構造である。図3Aは、ランド部分31とランド部分31と一体化されて形成される回路線部分32を有する回路パターンにメッキが形成したときの拡大上面図であり、図3Bは図3AのA−A’断面の模式図である。絶縁基材に回路パターンを形成する際に、補強したい部分の溝深さを深くすることにより補強したい部分のメッキが厚くなってその部分のメッキの密着性を向上させることができる。
【0041】
また、図3に示したような補強したい部分の溝深さを深くして厚いメッキを形成する構造としては、補強する部分のメッキの厚みが補強しない部分のメッキの厚みに比べて1〜10倍、さらには2〜5倍程度となるような厚みに形成することが好ましい。このように補強したい部分のメッキの厚みが厚くなるように溝を形成することにより、その部分の配線回路を充分に補強することができる。
【0042】
図4は、ランド部分41とランド部分41と一体化されて形成された回路線部分42を有し、ランド部41に突起部40が形成されている回路パターンにメッキを形成したときの拡大上面図である。上記突起部40により、ランド部分41の密着性が向上されている。
【0043】
上述したメッキ補強構造は、レーザー加工や機械加工の手段を用いて回路パターンを形成する際に形成できる。具体的には、図2に示すようなメッキ補強構造をレーザー加工を用いて形成する場合には、ランド部分21とランド部分21と一体化されて形成される回路線部分22を有する回路パターン部3を形成した後、形成されたランド部分21の表面のみに断続的にレーザーを照射して凹凸形状20を付与することができる。また、型押加工を用いる場合には、図5に示すように、表面の一領域に凹凸形状20を有する回路パターンを形成するための雄型50を用いて、樹脂皮膜2の外表面側から絶縁基材1に向けて型押しすることにより、凹凸形状20が付与される。
【0044】
また、前記表面凹凸形状20の形状は、アンカー効果を付与できる凹凸形状であれば、特に限定されないが、前記表面凹凸形状20の凹部の形状が、溝の表面上方から見たときに、円形状、及び一筆書き形状の少なくともいずれか一方であることが好ましい。すなわち、前記凹部同士が交わらない(接触しない)形状であることが好ましい。
【0045】
前記表面凹凸形状20の凹部の形状が、前記凹部同士が交わる形状であると、前記凹部を好適に形成できなくなる傾向がある。特に、レーザー加工を用いて、図2に示すようなメッキ補強構造を形成する場合には、ランド部分21の表面の同じ箇所に2度以上レーザー加工を施すことになる。具体的には、例えば、格子状であれば、格子点の箇所は、レーザー加工を2度施すことになり、その部分の深さが、格子点以外の部分の約2倍となってしまう。前記絶縁基材1の厚みによっては、貫通してしまうおそれがあった。また、前記雄型50を用いて型押しすることにより、図2に示すようなメッキ補強構造を形成する場合であっても、前記凹部同士が交わる形状であると、前記凹部同士が交わる部分付近の形状が複雑になりやすく、好適に形成されない傾向があった。
【0046】
そこで、前記表面凹凸形状20の凹部の形状が、前記凹部同士が交わらない形状であれば、前記表面凹凸形状20を好適に形成できる。
【0047】
次に、前記表面凹凸形状20の凹部の好適な形状の具体例について説明する。
【0048】
前記表面凹凸形状20の凹部の形状は、具体的には、例えば、図8〜12に示す形状等が挙げられる。なお、図8〜図12は、それぞれ表面凹凸形状の一例を示す概略図である。そして、図8A〜図12Aは、前記表面凹凸形状20が形成された絶縁基材の拡大上面図であり、図8B〜図12Bは、それぞれ図8A〜図12AのA−A’断面の模式図である。また、前記表面凹凸形状20の形状は、ここで示す形状には限定されない。
【0049】
前記表面凹凸形状20の形状の一例(第1例)としては、図8に示すように、凹部21aが、溝の表面上方から見たときに、円形状であり、その円形状の凹部20aが、千鳥状に複数形成されているものが挙げられる。また、図8は、概略図であり、前記凹部20aの形成されている個数は、図8に示されているものより多く、前記表面凹凸形状20がアンカー効果を付与できる凹凸形状になる個数形成されていればよい。具体的には、例えば、前記表面凹凸形状20の十点平均粗さ(Rz)が0.1〜20μm、さらには1〜10μm程度となるような凹凸を形成することが好ましい。より具体的には、例えば、前記凹部20aの直径が1〜30μmであって、その中心間距離が5〜100μmとなるような個数が形成されていることが好ましい。
【0050】
前記表面凹凸形状20の形状の他の一例(第2例)としては、図9に示すように、凹部21aが、溝の表面上方から見たときに、渦巻状であるものが挙げられる。また、図9は、概略図であり、渦巻状の凹部20aの幅や巻き数は、前記表面凹凸形状20がアンカー効果を付与できる凹凸形状になる個数形成されていればよく、渦巻状の凹部20aの幅は、図9に示されているものより小さく、渦巻状の凹部20aの巻き数は、図9に示されているものより多い。具体的には、例えば、前記表面凹凸形状20の十点平均粗さ(Rz)が0.1〜20μm、さらには1〜10μm程度となるような凹凸を形成することが好ましい。
【0051】
前記表面凹凸形状20の形状の他の一例(第3例)としては、図10に示すように、凹部21aが、溝の表面上方から見たときに、直線状であり、その直線状の凹部20aの延びる方向が平行になるように、前記凹部20aが複数本形成されているものが挙げられる。また、図10は、概略図であり、前記凹部20aの形成されている本数は、図10に示されているものより多く、前記表面凹凸形状20がアンカー効果を付与できる凹凸形状になる本数形成されていればよい。具体的には、例えば、前記表面凹凸形状20の十点平均粗さ(Rz)が0.1〜20μm、さらには1〜10μm程度となるような凹凸を形成することが好ましい。より具体的には、例えば、前記凹部20aの幅が1〜30μmであって、その中心間距離が5〜100μmとなるような本数が形成されていることが好ましい。
【0052】
前記表面凹凸形状20の形状の他の一例(第4例)としては、図11に示すように、2種類の凹部が形成されており、溝の表面上方から見たときに、一方の凹部20bが、直線状であり、他方の凹部20cが円形状である。そして、前記直線状の凹部20bの延びる方向が平行になるように、前記直線状の凹部20bが複数本形成され、前記円形状の凹部20cが、隣り合う直線状の凹部20bと直線状の凹部20bとの間の部分に、前記直線状の凹部20bの延びる方向と平行になるように複数個形成されている。また、図11は、概略図であり、前記直線状の凹部20bの形成されている本数や前記円形状の凹部20cは、図11に示されているものより多く、前記表面凹凸形状20がアンカー効果を付与できる凹凸形状になる本数や個数が形成されていればよい。具体的には、例えば、前記表面凹凸形状20の十点平均粗さ(Rz)が0.1〜20μm、さらには1〜10μm程度となるような凹凸を形成することが好ましい。より具体的には、例えば、前記直線状の凹部20bの幅が1〜30μmであって、その中心間距離が5〜100μmとなるような本数であって、前記円形状の凹部20cの直径が1〜30μmであって、その中心間距離が5〜100μmとなるような個数が形成されていることが好ましい。
【0053】
前記表面凹凸形状20の形状の他の一例(第5例)としては、図12に示すように、凹部21aが、溝の表面上方から見たときに、ミアンダ形状であるものが挙げられる。また、図12は、概略図であり、前記凹部20aの幅や前記凹部20aの隣り合う平行部分の中心間距離は、前記表面凹凸形状20がアンカー効果を付与できる凹凸形状になるように形成されていればよく、前記凹部20aの幅や前記凹部20aの隣り合う平行部分の中心間距離は、図12に示されているものより小さい。具体的には、例えば、前記表面凹凸形状20の十点平均粗さ(Rz)が0.1〜20μm、さらには1〜10μm程度となるような凹凸を形成することが好ましい。より具体的には、例えば、前記凹部20aの幅が1〜30μmであって、前記凹部20aの隣り合う平行部分の中心間距離が5〜100μmとなるような形状であることが好ましい。
【0054】
また、図3に示すようなメッキ補強構造も、レーザー加工により補強部分の溝深さを深くしたり、型押加工を用いる型において補強部分の溝深さが深くなるような雄型を用いたりすることにより容易に形成することができる。
【0055】
また、図4に示すようなメッキ補強構造も、レーザー加工により回路の輪郭に突起部を設けたり、型押加工を用いる型において補強部分の輪郭に突起部を設けた雄型を用いたりすることにより容易に形成することができる。
【0056】
このようなメッキ補強構造により、形成される電気回路を部分的に補強することができる。
【0057】
回路パターン形成工程において必要に応じて設けられる孔は、後述するメッキ処理工程においてその表面にメッキが形成されることにより、電気回路基板における層間の導通をとるためのビアホールやインナービアホールになる。
【0058】
そして、回路パターン3を形成した後は、切屑等を除去することを目的として、過マンガン酸カリウム溶液等を用いた公知のデスミア処理を行ってもよい。
【0059】
次に、図1Cに示すように、絶縁基材1に形成された回路パターン部3の表面及び絶縁基材1を被覆する樹脂皮膜2の表面全体にメッキ触媒4を被着させる(触媒被着工程)。
【0060】
メッキ触媒4は、後述するメッキ処理工程において、触媒活性化した部分のみに無電解メッキを形成するために付与される触媒またはその前駆体であり、無電解メッキ用の触媒として知られたものであれば特に限定なく用いられうる。その具体例としては、例えば、金属パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)等、または、これらを生成させるような前駆体等が挙げられる。
【0061】
メッキ触媒4を被着させる方法としては、例えば、次のような方法が挙げられる。回路パターン3が形成された絶縁基材1を界面活性剤溶液中で所定の時間湯洗することにより、表面に付着している油分等を除去する。次に、その絶縁基材1を濃度0.1%程度の塩化第一錫水溶液等に浸漬して塩化第一錫を吸着させた後、濃度0.01%程度の塩化パラジウム水溶液等にさらに浸漬することにより塩化パラジウムを吸着させる。そして、吸着した塩化第一錫と塩化パラジウムとの間で酸化還元反応(SnCl2+PdCl2→SnCl4+Pd↓)させることにより金属パラジウムを形成させる。
【0062】
このようなメッキ被着処理により、図1Cに示すように、絶縁基材1に形成された回路パターン部3の表面及び絶縁基材1を被覆する樹脂皮膜2の表面にメッキ触媒4が被着される。
【0063】
次に、図1Dに示すように、樹脂皮膜2を所定の液体で膨潤または溶解させて除去する(皮膜除去工程)。この工程によれば、樹脂皮膜2を除去することにより、回路パターン部3の表面のみにメッキ触媒4を残すことができる。
【0064】
樹脂皮膜2を除去する方法としては、アルカリ溶液等の液に樹脂皮膜2で被覆された絶縁基材1を所定の時間浸漬することにより、樹脂皮膜2を溶解除去又は膨潤剥離するような方法が挙げられる。アルカリ溶液としては、例えば、1〜10%程度の濃度の水酸化ナトリウム水溶液等が用いられうる。また、浸漬中に超音波照射することにより除去効率を高めてもよい。なお、膨潤させて剥離するときには、軽い力で引き剥がしてもよい。
【0065】
次に、図1Eに示すように、皮膜除去された絶縁基材1に無電解メッキを施す(メッキ処理工程)。この工程により、形成された回路パターン部3のみに無電解メッキ5を析出させることができる。
【0066】
無電解メッキ5の形成方法としては、皮膜除去工程後の絶縁基材1を無電解めっき液に浸漬することにより、回路パターン部3のみに無電解メッキを析出させる方法が用いられうる。
【0067】
無電解メッキに用いられる金属としては、Cu(銅)、Ni(ニッケル)、Co(コバルト)、Al(アルミニウム)等が挙げられる。これらの中では、Cuを主成分とするメッキが導電性に優れている点から好ましく、また、Niを含む場合には耐食性や、はんだ等との密着性に優れている点等から好ましい。
【0068】
このようなメッキ処理工程により、絶縁基材1に形成された所望の形状及び深さを有する溝及び/又は孔を形成することによって得られた回路パターン部3のみに無電解メッキ5を析出させることができる。これにより絶縁基材1に電気回路10が形成される。
【0069】
無電解メッキ5の厚みは、特に限定されないが、0.1〜10μm、さらには1〜5μm程度であることが好ましい。特に、回路パターン部3の深さを深くすることにより、膜厚の厚いメッキであって、断面積が大きい金属配線を容易に形成することができる。この場合には、金属配線の強度を向上させることができる点から好ましい。
【0070】
以上説明した電気回路の製造方法によれば、狭い線幅及び線間隔の電気回路を形成した場合であっても、部分的に表面に凹凸形状を付与したり、部分的に深い溝を形成したりすることにより、損傷しやすい部分の金属配線を補強することができる。また、形成される電気回路は、金属配線を形成したい部分のみにメッキ触媒を被着させて形成するために、形状精度の高いものが得られる。このような電気回路の製造方法を用いることにより、配線幅及び配線間隔が狭く、部分的に損傷しやすい部分を有しやすいICサブストレート、携帯電話用プリント配線板、立体配線基板等の用途に用いられる片面,両面,多層タイプ等の電気回路基板を製造することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 絶縁基材
2 樹脂皮膜
3 回路パターン部
3a メッキ補強構造
4,102 メッキ触媒
5 無電解メッキ
10 電気回路
20 表面凹凸形状
21 ランド部分
22 回路線部分
30 厚みが異なるメッキ補強構造
31,41 ランド部分
32,42 回路線部分
40 突起部
50 雄型
100 絶縁基材
101 スルーホール
103 フォトレジスト層
104 金属配線
105 不要なメッキ部分
110 フォトマスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基材表面に樹脂皮膜を形成する皮膜形成工程と、前記樹脂皮膜の外表面側から前記絶縁基材にレーザー加工又は機械加工することにより所望の形状及び深さを有する溝及び/又は孔を形成して回路パターン部を形成する回路パターン形成工程と、前記絶縁基材の回路パターン部の表面及び前記絶縁基材を被覆する樹脂皮膜の表面にメッキ触媒またはその前駆体を被着させる触媒被着工程と、前記絶縁基材から前記樹脂皮膜を剥離する皮膜剥離工程と、前記樹脂皮膜が剥離された絶縁基材に無電解メッキを施すメッキ処理工程と、を備え、
前記回路パターン形成工程において、回路パターン部の少なくとも一部分にメッキ補強構造を形成することを特徴とする電気回路の製造方法。
【請求項2】
前記メッキ補強構造が、前記溝の表面に凹凸形状を付与することにより形成される請求項1に記載の電気回路の製造方法。
【請求項3】
前記回路パターン部が電子部品を表面実装するための少なくとも一つのランド部分と前記ランド部分と一体化されて形成される回路線部分を有し、前記凹凸形状がランド部分表面に付与されている請求項2に記載の電気回路の製造方法。
【請求項4】
前記回路パターン部が電子部品を表面実装するための少なくとも一つのランド部分と前記ランド部分と一体化されて形成される回路線部分を有し、前記メッキ補強構造が、前記ランド部の溝深さを前記回路線部分の溝深さよりも深くなるようにして付与することにより形成される請求項1〜3の何れか1項に記載の電気回路の製造方法。
【請求項5】
前記回路パターン部が電子部品を表面実装するための少なくとも一つのランド部分と前記ランド部分と一体化されて形成される回路線部分を有し、前記メッキ補強構造が、前記ランド部分の溝外周に少なくとも一つの突起を付与することにより形成される請求項1〜4の何れか1項に記載の電気回路の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の製造方法により得られた電気回路を備える電気回路基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−80946(P2010−80946A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195150(P2009−195150)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】