説明

電気式人工喉頭

【課題】利用者の都合に応じて2つの使用の仕方を切り替えられるような電気式人工喉頭を提供すること。
【解決手段】振動板をその面が露出するように支持すると共に、パルス信号の供給を受けて振動板を振動させるボイスコイルモータを有する振動発生ユニットと、利用者に把持される把持部と、振動発生ユニットを把持部と連結する第1の連結部とを有する把持ユニットと、利用者の頚部に装着される装着部と、振動発生ユニットを、その振動板の露出面が頚部へ向くように装着部と連結する第2の連結部とを有する装着ユニットを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気式人工喉頭に関する。
【背景技術】
【0002】
健常者は、自らの呼気が喉頭(声門)を経由する際に声帯を振動させることにより音を発生させ、その音の周波数成分を舌・顎や唇などの調音器官で変えることにより様々な発話を行っている。この声帯の振動により発生される音は、発話の基となる音であることから、「声門音源」などと呼ばれる。
【0003】
これに対し、喉頭を摘出してしまった喉頭摘出者は、通常であれば自らの意思による発声は不可能であるが、調音器官さえ残存していれば、人工的に作り出した音を声門音源の代わりに口腔内で発生させ、または、口腔内へ送り込んでやることにより、不完全ながらも発声ができるようになる。
【0004】
このような声門音源の代わりとなる音を人工的に作り出す装置の一つに電気式人工喉頭がある。電気式人工喉頭は、声門音源の代わりとなる音を、機械的、または、電気機械的に生成し、その音を頚部の振動などを通じて口腔内に導くことによって、喉頭摘出者自らによる発声を支援する。
【0005】
特許文献1に開示された電気式人工喉頭は、利用者の掌に収まる略円筒状の本体フレームにボイスコイルモータや電源を内蔵し、ボイスコイルモータの駆動力を受けて振動する振動板を本体フレームの一端側から露出させている。そして、利用者が、この電気式人工喉頭の本体フレームを掌に握り、自らの頚部に振動板の露出面を押し当ててボイスコイルモータを駆動させると、振動板の振動が頚部から口腔内に伝わり、口腔内に音を導くものである。
【0006】
特許文献2に開示された電気式人工喉頭は、振動板とボイスコイルモータとを内蔵する音源発生部と、電源その他の制御系回路を内蔵する制御ユニットとを別筐体として分離し、それらをケーブルにより接続した構成になっている。そして、利用者が、伸縮自在で且つ所定の伸び強度を有するネックバンドにより音源発生部を頚部に装着して制御ユニットを操作することにより、口腔内に音を導くものである。
【特許文献1】特開2000−188794号
【特許文献2】国際公開WO99/012501号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の電気式人工喉頭は、利用者が本体フレームを掌に握って自らの頚部に押し当てなければ利用できないため、利用している間は利用者の片方の手が常に塞がった状態になってしまうという問題がある。これに対し、特許文献2の電気式人工喉頭は、音源発生部をネックバンドにより利用者の頚部へ装着するため、利用者は両手を自由に使うことができる。しかしながら、ネックバンドにより音源発生部を装着し続けると、利用者に苦しさや圧迫感を与えてしまうという問題がある。
【0008】
本発明は、このような背景の下に案出されたものであり、利用者の都合に応じて2つの使用の仕方を切り替えられるような電気式人工喉頭を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の好適な態様である電気式人工喉頭は、振動板をその面が露出するように支持すると共に、パルス信号の供給を受けて上記振動板を振動させる駆動部を有する振動発生ユニットと、利用者に把持される把持部と、上記振動発生ユニットを上記把持部と連結する第1の連結部とを有する把持ユニットと、利用者の頚部に装着される装着部と、上記振動発生ユニットを、その振動板の露出面が上記頚部へ向くように上記装着部と連結する第2の連結部とを有する装着ユニットとを備えたことを特徴とする。この態様によると、利用者の都合に応じて2つの使用の仕方を切り替えられるような電気式人工喉頭を提供できる。
【0010】
この態様において、前記駆動部は、ボイスコイルモータであり、前記第1の連結部および前記第2の連結部は、上記ボイスコイルモータを駆動させるマグネットの磁気力の作用を受けて当該ボイスコイルモータを吸着させる金属板を有してもよい。この態様によると、ボイスコイルモータ内のマグネットに、ボイスコイルモータを駆動させる機能と、両連結部へ固定する機能とを兼備させることができる。
【0011】
また、前記装着ユニットに対して着脱自在なケーブルであって、前記把持ユニットから自らを経由して前記装着ユニットへパルス信号を供給するケーブルをさらに備えてもよい。この態様によると、振動発生ユニットを搭載させた把持ユニットを通常の電気式人工喉頭と同様に単独で用いることができる。
【0012】
また、前記装着部は、弾性体を略U字状に湾曲した部材であって、自らの一端に前記第2の連結部を接続し、その第2の連結部を介して連結された前記振動発生ユニットの前記振動板の露出面と自らの他端とによって利用者の頚部を挟持する部材であるネックバンドであってもよい。この態様によると、振動発生ユニットを搭載させた装着ユニットを利用者の頚部に容易に搭載することができる。
【0013】
また、前記装着ユニットは、無線信号を受信し、受信した無線信号から得たパルス信号を前記第2の連結部に連結された振動発生ユニットの前記駆動部へ供給する受信部を有してもよい。この態様によると、振動発生ユニットと装着ユニットの間をケーブルレスにつなぐことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、利用者の都合に応じて2つの使用の仕方を切り替えられるような電気式人工喉頭を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(発明の実施の形態)
本発明の実施形態について、以下、図面を参照しながら説明する。本実施形態にかかる電気式人工喉頭は、機械的、または電気機械的に生成した音を喉頭摘出者の口腔内で人工的に発生させる、もしくは口腔内に音を導くものである。その結果、口や舌などの調音器官を通じてその音の周波数成分に変化が加えられ、利用者の口から発せられる。
【0016】
図1は、本実施形態にかかる電気式人工喉頭の全体構成を示す図である。図に示すように、この電気式人工喉頭10は、振動発生ユニット20、把持ユニット40、および装着ユニット60を有している。そして、把持ユニット40と装着ユニット60はケーブル80を介して接続されており、振動発生ユニット20はそれらの両ユニット40および60の各々に着脱自在となっている。
【0017】
図2Aは、振動発生ユニット20を側面から見た図であり、図2Bは、その内部構成を示す図である。なお、この図の左から右に向かう方向を前後方向とする。振動発生ユニット20は、後端が塞がった略筒状の筐体21にボイスコイルモータ22(請求項の「駆動部」に相当)を内蔵させ、ボイスコイルモータ22により駆動される振動板23を筐体21の前方から露出させたような構造を有する。筐体21は、ABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)などの合成樹脂により形成されている。この筐体21の外周には、内部のボイスコイルモータ22と電気的に繋がった電極板24,25が張り渡されている。
【0018】
ボイスコイルモータ22は、両端がN極とS極にそれぞれ着磁された円柱形のマグネット26、そのマグネット26を前方および側方から包囲する円筒形のボビン27、ボビン27の外周に巻き回されたコイル28、およびそれらを後方ならびに側方から包囲するヨーク29を有する。このヨーク29は前方が開口しており、その開口する部位を塞ぐように円形ゴム30が張り渡されている。そして、円形ゴム30の中央には、軸31が前後方向に貫かれ、固定されている。軸31の一端は、ボビン27に固定されている。振動板23は、幅の薄い円柱状をなしており、ウレタン系の樹脂により形成されている。この振動板23は、ゴム材32によって筐体21の前方の縁の内側に支持されている。
【0019】
このボイスコイルモータ22による振動板23の駆動は、フレミングの法則を利用してなされる。つまり、電極板24,25を介してボイスコイルモータ22のコイル28へ所定の周波数およびレベルのパルス信号が供給されると、ヨーク29内をスライドするボビン27に加わる磁気力より前方へ押し出された軸31の他端が振動板23を打撃し、また離れるという動作を繰り返す。この結果、振動板23が振動する。そして、コイル28へのパルス信号の供給が止まると、円形ゴム30の復元力の作用を受けて軸31が後退する。
【0020】
図3は、把持ユニット40を側面やや後方から見た図である。なお、この図の左から右に向かう方向を前後方向とし、手前から奥に向かう方向を上下方向とする。把持ユニット40は、後端が塞がった略筒状の筐体41(請求項の「把持部」に相当)に電源その他の回路素子を内蔵させ、さらにその内周の前端から所定の距離だけ後方に磁性を有する金属板51(図4参照)が嵌め込まれている。
【0021】
この把持ユニット40の筐体41の内周の周径は、振動発生ユニット20の外周の周径とほぼ同じになっている。よって、金属板51を挟んだ前方に形成される開口部42(請求項の「第1の連結部」に相当)は、振動発生ユニット20の後方の一部を収納できる。また、上述したように、振動発生ユニット20は、マグネット26を内蔵しているため、把持ユニット40の開口部42に収容された振動発生ユニット20は、マグネット26と金属板51との間に働く磁力の作用を受けてそのまま把持ユニット40に吸着し、両ユニット20および40の連結状態が維持される。
【0022】
図4は、把持ユニット40の開口部42を示す図である。図4に示すように、把持ユニット40の開口部42の内周面の一部には、図示せぬバネ部材によって、円周面の法線方向内側に向かって付勢される2つの凸状電極52,53が設けられている。よって、振動発生ユニット20と把持ユニット40が連結されると、2つの凸状電極52,53が、電極板24,25にそれぞれ接触する。これにより、凸状電極52,53と電極板24,25とがそれぞれ電気的に接続される。
【0023】
なお、電極板24,25は、図2Aに示すように、振動発生ユニット20の外周を一巡するように張り巡らされているので、振動発生ユニット20を如何なる角度で連結した場合でも、電気的な接続を確保できる。これにより、ユーザは、振動発生ユニット20の角度を考慮せずに、把持ユニット40に連結することができる。また、凸状電極52,53は、バネ部材によって法線方向内側へ付勢されているので、振動発生ユニット20が強く振動している場合であっても、電極24,25との電気的な接続を維持できる。
【0024】
図3に示すように、把持ユニット40の筐体41の上部に設けられた孔からは、押しボタン43が露出している。この押しボタン43は、音の発生の有無を指示する操作子であり、接点やスプリングを含むON/OFFスイッチ45(図5参照)と連動している。
【0025】
把持ユニット40の筐体41の金属板51を挟んだ後方に形成される中空部には、電源その他の回路素子が内蔵される。図5は、振動発生ユニット20と把持ユニット40とが連結された状態の回路構成を示す図である。図5に示すように、把持ユニット40には、電源44、ON/OFFスイッチ45のほか、制御部46およびパルス信号出力部47が内蔵されている。電源44は、例えば、電池であり、制御部46などへ電力を供給する。
【0026】
制御部46は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)などを有する。この制御部46は、押しボタン43の押下に伴ってON/OFFスイッチ45からオン信号が供給されると、パルス信号の供給を指示する制御信号をパルス信号出力部47へ供給する。制御信号の供給を受けたパルス信号出力部47は、予め設定された所定の周期およびレベルのパルス信号をボイスコイルモータ22へ供給する。このパルス信号は、把持ユニット40の開口部42の内周に設けられた凸状電極52,53と振動発生ユニット20の筐体21の外周に設けられた電極板24,25との接触面を介してボイスコイルモータ22のコイル28へと流れ込む。
【0027】
図6は、振動発生ユニット20を把持ユニット40に連結させたときの使用のされ方を示す図である。振動発生ユニット20を把持ユニット40に連結させた電気式人工喉頭10を使用する利用者は、把持ユニット40の筐体41を自らの掌で包み込むように握ってその押しボタン43に親指を添え、振動発生ユニット20の振動板23を自らの頚部に押し当てる。この状態で把持ユニット40の押しボタン43を押下すると、把持ユニット40のパルス信号出力部47から発せられたパルス信号が振動発生ユニット20のボイスコイルモータ22へ供給され、軸31が振動板23を打撃し、打撃により発生した振動板23の振動が頚部から口腔内に伝わって音が発生する。口腔内にて発生する音のピッチは、ボイスコイルモータ22の軸31が振動板23を打撃する周期に依存し、また、音のレベルは、軸31が振動板23を打撃する強度に依存する。
【0028】
図5の2つの丸枠内には、パルス信号出力部47からボイスコイルモータ22へ出力されるパルス信号の波形の一例と、その波形に応じたボイスコイルモータ22の駆動により口腔内で発生する音の波形がそれぞれ記してある。このパルス波形のT1により指し示される波形の立ち上がりの間隔(周期)は、ボイスコイルモータ22の軸31が振動板23を打撃する時間間隔と対応する。よって、この間隔が狭いほど、振動板23の振動の周波数が高くなり、口腔内で発生する音のピッチも高くなる。また、この波形のT2により指し示される、波形がハイレベルになっている時間のT1に対する割合、つまり、デューティー比(T2/T1)は、ボイスコイルモータ22の軸31が振動板23を打撃する強さと対応する。よって、このデューティー比が大きいほど、振動板23の振動の強さも大きくなり、口腔内で発生する音のレベルも大きくなる。
【0029】
図7は、装着ユニット60を正面よりも右側から見た図である。装着ユニット60は、ネックバンド61の一端にボイスコイルモータホルダ62を接続した構造を有する。ネックバンド61は、合成樹脂からなる板体を略逆U字状に湾曲形成し、その右下端よりやや上方の位置にボルト穴を貫いた部材である。このネックバンド61は、左右の両端が互いに接離する方向に変移する弾性力を保有する。
【0030】
ネックバンド61の右下の端に接続されたボイスコイルモータホルダ62は、上述した把持ユニット40の金属板51を境にその前方を切り取ったような形状を有している。すなわち、このボイスコイルモータホルダ62の略円筒状の筐体63の一端側の内周は磁性を有する金属板69により塞がれ、その他端側には振動発生ユニット20を収容する開口部64(請求項の「第2の連結部」に相当)が形成されている。把持ユニット40と同様に、この筐体63の開口部64の内周の周径は、振動発生ユニット20の筐体21の外周の周径とほぼ同じになっている。よって、この開口部64にも振動発生ユニット20の後方の一部を収容でき、収容された振動発生ユニット20は、マグネット26と金属板69との間に働く磁力の作用を受けてそのままボイスコイルモータホルダ62に吸着し、両ユニット20および60の連結状態が維持される
【0031】
また、筐体63の一端側の外周は板状に切り立ち、鍔部65が形成されている。この鍔部65にには、ボルト穴が貫かれている。そして、ネックバンド61とボイスコイルモータホルダ62のボルト穴にボルト66を貫通させてナット67を累合することにより、両者が固定される。さらに、筐体63の開口部64の内周面の一部には、ケーブル80と電気的に繋がった2つの凸状電極(図示せず)が設けられている。この筐体63の開口部64およびその内周面の一部に設けられた凸状電極の形状は、図4に示したところと概ね同じである。振動発生ユニット20と装着ユニット60が連結されると、2つの凸状電極が、電極板24,25にそれぞれ接触する。
【0032】
図8は、振動発生ユニット20と装着ユニット60とが連結された状態の回路構成を示す図である。図に示すように、装着ユニット60は、電源44、制御部46、パルス信号出力部47などの回路素子を有しない代わりに、把持ユニット40のパルス信号出力部47とケーブル80を介して繋がっている。よって、パルス信号の供給を指示する制御信号が制御部46からパルス信号出力部47へ供給されると、パルス信号出力部47より発せられるパルス信号が、ケーブル80を経由し、装着ユニット60の開口部64の内周に設けられた凸状電極と振動発生ユニット20の筐体21の外周に設けられた電極板24,25との接触面を介してボイスコイルモータ22のコイル28へと流れ込む。
【0033】
図9は、振動発生ユニット20を装着ユニット60に連結させたときの使用のされ方を示す図である。振動発生ユニット20を装着ユニット60に連結させた電気式人工喉頭10を使用する利用者は、まず、装着ユニット60のネックバンド61の両端を両手でそれぞれ掴んで外側へ押し広げる。そして、ネックバンド61の上部を後方に傾けたような姿勢にしたままその両端を自らの頚部の左右両側から頚部の前へ移動させ、振動発生ユニット20の振動板23が頚部に接するように位置決めしたところで押し広げる力を弱める。
【0034】
すると、ネックバンド61の両端の距離を近づけようとする弾性力が働き、装着ユニット60の一端に接続された振動発生ユニット20の振動板23とその他端により利用者の頚部を挟み込み、そのまま装着ユニット60が頚部に装着される。また、利用者は、把持ユニット40を衣服のポケットなどにしまい、その際に押しボタン43は把持ユニット40から分離され、独自に操作できる状態にしておく。そして発声を行うタイミングで押しボタン43を操作できるようにすると、把持ユニット40を手で持つことなく把持ユニット40のパルス信号出力部47から発せられたパルス信号がケーブル80を経由して装着ユニット60のボイスコイルモータ22へ供給され、軸31が振動板23を打撃し、打撃により発生した振動板23の振動が頚部から口腔内に伝わって音が発生する。
【0035】
以上説明した本実施形態によると、利用者の都合に応じて電気式人工喉頭10の使用の仕方を切り替えることができる。つまり、利用者が両手を使うことを余儀なくされるような作業を行っていない間は、振動発生ユニット20を連結させた把持ユニット40を片手で握り、頚部に押し付けて使用する。一方、両手を使うことを余儀なくされるような作業を行う間は、把持ユニット40から振動発生ユニット20を分離し、その振動発生ユニット20を連結させた装着ユニット60を自らの頚部に装着して使用する。このような使用の仕方の切り替えを行うことで、利用者は、電気式人工喉頭10を把持しないまま声による意思疎通を行わなければならないような作業も容易に行うことができ、また、頚部への装着が長時間に及ぶことによる苦しさや圧迫感の惹起も防ぐことができる。
【0036】
また、振動発生ユニット20自体は1つだけあれば足りるので、掌に握って使うタイプの電気式人工喉頭10と頚部に装着するタイプの電気式人工喉頭10の2台を常時持ち歩くよりも携帯が容易であり、また、それらの両方を個別に製造するよりもコストも安く抑えることができる。
【0037】
また、ボイスコイルモータ22に含まれるマグネット26と金属板との間に働く磁気力によって、振動発生ユニット20を把持ユニット40または装着ユニット60に固定するようにしたので、固定用の機構を別途設ける必要がない。つまり、振動発生ユニット20を把持ユニット40へ固定する機能とその駆動力を発生する機能とを振動発生ユニット20内のマグネット26に兼備させることができる。
【0038】
(他の実施形態)
本発明は、上述の実施形態に限定されることなく、種々の変形実施が可能である。
【0039】
上記実施形態にかかる電気式人工喉頭10は、把持ユニット40と装着ユニット60がケーブル80を介して繋がっており、振動発生ユニット20を装着ユニット60に連結して使う際は、把持ユニット40のパルス信号出力部47が発したパルス信号をケーブル80から装着ユニット60を介して振動発生ユニット20へ供給するようになっている。これに対し、振動発生ユニット20自体に電源44や制御部46などの回路素子を搭載し、把持ユニット40と装着ユニット60をケーブル80により繋がない構成をとってもよい。
【0040】
また、利用者の手指により操作されるON/OFFスイッチを搭載し、装着ユニット60に連結された振動発生ユニット20へのパルス信号の供給の有無がこのON/OFFスイッチの操作に応じて切り替えられるようにしてもよい。
【0041】
上記実施形態にかかる電気式人工喉頭10は、制御部46による制御の下にパルス信号出力部47から発せられるパルス信号の周期とデューティー比は一定であるため、そのパルス信号に応じた振動板23の振動により口腔内にて発生する音のピッチおよびレベルも概ね一定になる。これに対し、利用者の操作により、パルス信号の周期およびデューティー比を切り替え、口腔内にて発生する音のピッチおよびレベルに変化をつけられるようにしてもよい。この変形例は、周期やデューティー比を指定する各種データをピッチやレベルのインデックスデータと対応付けて記憶したメモリと、音のピッチおよびレベルを指定するつまみとを搭載し、制御部46が、つまみの操作に応じてメモリから読み出したデータに従ってパルス信号の周期やデューティー比を決定するようにすることで実現できる。
【0042】
また、ケーブル80を把持ユニット40側の端部に着脱可能なコネクタを設け、装着ユニット60を本体から分離できるようにしてもよい。そのような構成によれば、把持ユニット40を通常の電気式人工喉頭と同様に単独で用いることができる。
【0043】
上記実施形態にかかる電気式人工喉頭10の把持ユニット40の筐体41は、後端が塞がった略筒状をなしているが、利用者の掌に把持される部位さえ有していれば、この筐体41は、棒状や板状などといった他の形状であってもよい。
【0044】
上記実施形態にかかる電気式人工喉頭10の把持ユニット40および装着ユニット60の開口部の基底には金属板が嵌め込まれており、この金属板とマグネット26との間に働く磁力の作用を受けてそれらユニット40および60に振動発生ユニット20が吸着されるようになっている。これに対し、振動発生ユニット20の筐体21の外周と、把持ユニット40および装着ユニット60の開口部の内周に、相互に噛み合う係合部材を設け、この係合部材の係合によりユニットを連結させるようにしてもよい。要するに、利用者の操作により分離できるように振動発生ユニット20と把持ユニット40および装着ユニット60が連結し得るようにさえなっていれば、両者の連結に用いる機構の種別は問わない。
【0045】
上記実施形態にかかる電気式人工喉頭10は、振動板23を振動させる駆動部としてボイスコイルモータ22を搭載している。これに対し、圧電素子や電歪素子などの他の素子をボイスコイルモータ22の代わりに搭載させてもよい。
【0046】
上記実施形態にかかる電気式人工喉頭10の把持ユニット40および装着ユニット60の開口部の内周の一部には、2つの凸状電極が設けられ、また、振動発生ユニット20には、その外周を一巡するように、電極24,25が張り巡らされている。これに対し、凸状電極と電極24,25の組み合わせを逆にしてもよい。つまり、開口部64の内周を一巡するように、電極24,25を張り巡らし、振動発生ユニット20の外周の一部に、2つの凸状電極を設ける。このような構成によっても、ユーザは、振動発生ユニット20の角度を考慮せずに、把持ユニット40に連結することができ、また、振動の強度の如何にかかわらず、電気的な接続を維持できる。
【0047】
上記実施形態にかかる電気式人工喉頭10は、把持ユニット40と装着ユニット60をケーブル80により繋ぎ、把持ユニット40のパルス信号出力部47から装着ユニット60に連結された振動発生ユニット20へのパルス信号の供給をこのケーブル80を介して行うようになっている。これに対し、把持ユニット40の側に、パルス信号を無線信号として送信する送信部を内蔵する一方、装着ユニット60の側に、その無線信号から得たパルス信号を振動発生ユニット20のボイスコイルモータ22へ供給する受信部を内蔵させることにより、両者をケーブルレスに繋いでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】電気式人工喉頭の全体構成を示す図である。
【図2】振動発生ユニットを側面から見た図および内部を示す図である。
【図3】把持ユニットを側面やや後方から見た図である。
【図4】把持ユニットの開口部を示す図である。
【図5】振動発生ユニットと把持ユニットとが連結された状態の回路構成を示す図である。
【図6】振動発生ユニットを把持ユニットに連結させたときの使用のされ方を示す図である。
【図7】装着ユニットを正面やや左方から見た図である。
【図8】振動発生ユニットと装着ユニットとが連結された状態の回路構成を示す図である。
【図9】振動発生ユニットを装着ユニットに連結させたときの使用のされ方を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
10…電気式人工喉頭、20…振動発生ユニット、40…把持ユニット、60…装着ユニット、21,41,63…筐体(41が「把持部」に相当)、22…ボイスコイルモータ(請求項の「駆動部」に相当)、23…振動板、24,25…電極、26…マグネット、27…ボビン、28…コイル、29…ヨーク、30…円形ゴム、31…軸、42,64…開口部(42が「第1の連結部」に相当:64が「第2の連結部」に相当)、43…押しボタン、44…電源、45…ON/OFFスイッチ、46…制御部、47…パルス信号出力部、61…ネックバンド、62…ボイスコイルモータホルダ、65…鍔部、66…ボルト、67…ナット、80…ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動板をその面が露出するように支持すると共に、パルス信号の供給を受けて上記振動板を振動させる駆動部を有する振動発生ユニットと、
利用者に把持される把持部と、上記振動発生ユニットを上記把持部と連結する第1の連結部とを有する把持ユニットと、
利用者の頚部に装着される装着部と、上記振動発生ユニットを、その振動板の露出面が上記頚部へ向くように上記装着部と連結する第2の連結部とを有する装着ユニットと、
を備えたことを特徴とする電気式人工喉頭。
【請求項2】
前記駆動部は、ボイスコイルモータであり、
前記第1の連結部および前記第2の連結部は、
上記ボイスコイルモータを駆動させるマグネットの磁気力の作用を受けて当該ボイスコイルモータを吸着させる金属板を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の電気式人工喉頭。
【請求項3】
前記装着ユニットに対して着脱自在なケーブルであって、前記把持ユニットから自らを経由して前記装着ユニットへパルス信号を供給するケーブル、
をさらに備えたことを特徴とする請求項2に記載の電気式人工喉頭。
【請求項4】
前記装着部は、
弾性体を略U字状に湾曲した部材であって、自らの一端に前記第2の連結部を接続し、その第2の連結部を介して連結された前記振動発生ユニットの前記振動板の露出面と自らの他端とによって利用者の頚部を挟持する部材であるネックバンドである
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の電気式人工喉頭。
【請求項5】
前記装着ユニットは、
無線信号を受信し、受信した無線信号から得たパルス信号を、前記第2の連結部に連結された振動発生ユニットの前記駆動部へ供給する受信部を有する、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の電気式人工喉頭。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−227603(P2008−227603A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−58890(P2007−58890)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(599008654)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【出願人】(591190955)北海道 (121)
【出願人】(391026106)株式会社電制 (12)
【Fターム(参考)】