説明

電気式脱イオン水製造装置及び脱イオン水の製造方法

【課題】本発明は、炭酸の逆拡散の発生を抑制し、高水質の脱イオン水を得ることができる電気式脱イオン水製造装置及び脱イオン水の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、陽極と陰極との間に、一側のカチオン交換膜と他側のアニオン交換膜とで区画され、イオン交換体が充填された脱塩室と、前記カチオン交換膜、前記アニオン交換膜を介して前記脱塩室の両側に設けられ、アニオン交換体が充填された濃縮室とを配置する電気式脱イオン水製造装置であって、前記濃縮室のアニオン交換体と前記カチオン交換膜との間に、モノリス状有機多孔質カチオン交換体を配置し、前記モノリス状有機多孔質カチオン交換体は、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、前記重なり合った部分に開口部を有する連続気泡構造である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体、液晶、製薬、食品工業等の各種産業、民生用ないし研究施設等において利用される電気式脱イオン水製造装置及び脱イオン水の製造方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
脱イオン水を製造する方法として、従来からイオン交換樹脂に被処理水を通して脱イオンを行う方法が知られている。しかし、この方法では、イオン交換樹脂がイオンで飽和されたときに、通常薬剤によって再生を行う。このような再生処理は、処理操作上の不利であり、このような点を解消するため、薬剤による再生が不要な電気式脱イオン法による脱イオン水製造方法が確立され、実用化に至っている。
【0003】
このような脱塩処理を行う電気式脱イオン水製造装置(EDI)においては、陽極と陰との間に、一側のカチオン交換膜と他側のアニオン交換膜とで区画され、イオン交換体が充填された脱塩室と、カチオン交換膜、アニオン交換膜を介して脱塩室の両側に濃縮室とが配置される。通常、脱塩室及び濃縮室は複数組配置される。そして、電気式脱イオン水製造装置によって脱イオン水を製造する場合、陽極と陰極間に直流電流を流した状態で、イオン交換体が充填された脱塩室内に被処理水を、濃縮室に濃縮水を通水させることによって、被処理水中のイオンを濃縮水中に移動させ、脱イオン水を得る。
【0004】
ここで、脱塩室に流入させる被処理水中の硬度が高い場合、例えば、水道水または水道水をRO膜処理した水を被処理水として用いると、濃縮室のアニオン交換膜面に硬度スケールが発生しやすい。すなわち、被処理水中に炭酸成分と硬度成分が含まれていると、電気式脱イオン水製造装置の濃縮室に移動したカルシウムイオンやマグネシウムイオンが濃縮室のアニオン交換膜面で炭酸イオン等と結合し、炭酸カルシウムや炭酸マグネシウム等の硬度スケールを生じやすい。
【0005】
特許文献1には、濃縮室のアニオン交換膜側に特定構造のアニオン交換体を配置する電気式脱イオン水製造装置が提案されている。この特許文献1の装置によれば、OHイオンの濃縮液への拡散希釈が、多孔性アニオン交換体表面より促進され、多孔性アニオン交換体表面におけるOHイオン濃度の速やかな低減が図られる。他方、硬度成分イオンは、多孔性アニオン交換体の内部に侵入し難くなり、OHイオンと硬度成分イオンとが接触し反応する機会が低減されるため、硬度成分の析出や蓄積が抑制される。
【0006】
しかし、被処理水中の炭酸(遊離炭酸、重炭酸イオン、炭酸イオンの総称)が脱塩室から陽極側のアニオン交換膜を介して濃縮室へ移動すると、(詳細は後述するが)濃縮室内のアニオン交換体はHCO形となる。そして、HCO形のアニオン交換体に電流が流れると、HCO(及びCO2−)が電場によってカチオン交換膜近傍まで引き寄せられるが、カチオン交換膜を透過することはできず、カチオン交換膜近傍で濃縮される。また、水素イオンがカチオン交換膜を透過してくるため、カチオン交換膜付近のpHは低くなる。そうすると、水と炭酸ガス(CO)が発生し、カチオン交換膜近傍に高濃度炭酸ガス含有水溶液層が形成される。そして、炭酸ガスは、拡散によってカチオン交換膜10を透過して脱塩室へ移動(逆拡散)してしまう。すなわち、一旦被処理水中から除去された炭酸が、炭酸ガスとして被処理水中に再度溶解される、いわゆる炭酸の逆拡散が発生し、脱塩室から排出される処理水が炭酸成分で汚染される。
【0007】
特許文献2では、濃縮室に充填されたアニオン交換樹脂とカチオン交換膜との間に強塩基性アニオン基を有さない水透過性体を設けることにより、炭酸の逆拡散の発生を抑制する電気式脱イオン水製造装置が提案されている。この特許文献2の装置によれば、HCO等が水透過性体でブロックされ、カチオン交換膜近傍にまで拡散することを防止して、炭酸の逆拡散を防止することができる。
【0008】
また、特許文献3には、濃縮室にアニオン交換樹脂及びカチオン交換樹脂を充填することにより、炭酸の逆拡散の発生を抑制する電気式脱イオン水製造装置が提案されている。この特許文献3の装置によれば、カチオンおよびアニオンの両方が濃縮室内で移動可能になり、炭酸の逆拡散を比較的小さくして、かつスケールの発生も少なくできる。
【0009】
【特許文献1】特開2001−225078号公報
【特許文献2】特開2004−358440号公報
【特許文献3】特開2004−34004号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記と異なる構成で炭酸の逆拡散の発生を抑制し、高水質の脱イオン水を得ることができる電気式脱イオン水製造装置及び脱イオン水の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、陽極と陰極との間に、一側のカチオン交換膜と他側のアニオン交換膜とで区画され、イオン交換体が充填された脱塩室と、前記カチオン交換膜、前記アニオン交換膜を介して前記脱塩室の両側に設けられ、アニオン交換体が充填された濃縮室とを配置する電気式脱イオン水製造装置であって、前記濃縮室のアニオン交換体と前記カチオン交換膜との間に、モノリス状有機多孔質カチオン交換体を配置し、前記モノリス状有機多孔質カチオン交換体は、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、前記重なり合った部分に開口部を有する連続気泡構造である。
【0012】
また、前記電気式脱イオン水製造装置において、前記開口部の平均直径は20〜200μmの範囲であることが好ましい。
【0013】
また、前記電気式脱イオン水製造装置において、前記モノリス状有機多孔質カチオン交換体の全細孔容積は0.5〜5ml/gの範囲であることが好ましい。
【0014】
また、前記電気式脱イオン水製造装置において、前記モノリス状有機多孔質カチオン交換体の厚さは、1mm以上であることが好ましい。
【0015】
また、前記電気式脱イオン水製造装置において、前記モノリス状有機多孔質カチオン交換体のイオン交換量は、0.5mg当量/g乾燥多孔質体以上であることが好ましい。
【0016】
また、前記電気式脱イオン水製造装置において、前記モノリス状有機多孔質カチオン交換体の骨格部を構成する材料は、架橋構造を有する有機ポリマーであり、前記有機ポリマーは、前記モノリス状有機多孔質カチオン交換体の全構成単位に対して0.3〜20モル%の範囲の架橋構造単位を有することが好ましい。
【0017】
また、前記電気式脱イオン水製造装置において、前記モノリス状有機多孔質カチオン交換体の断面積中の前記骨格部の面積は、単位断面積当たり3〜50%の範囲であることが好ましい。
【0018】
また、前記電気式脱イオン水製造装置において、前記骨格部の厚さは、0.8〜40μmの範囲であることが好ましい。
【0019】
また、本発明は、陽極と陰極との間に、一側のカチオン交換膜と他側のアニオン交換膜とで区画され、イオン交換体が充填された脱塩室と、前記カチオン交換膜、前記アニオン交換膜を介して前記脱塩室の両側に設けられ、アニオン交換体が充填された濃縮室と、を配置する電気式脱イオン水製造装置を利用して脱イオン水を製造する脱イオン水の製造方法であって、前記濃縮室のアニオン交換体と前記カチオン交換膜との間に、前記モノリス状有機多孔質カチオン交換体を配置する。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、陽極と陰極との間に、一側のカチオン交換膜と他側のアニオン交換膜とで区画され、イオン交換体が充填された脱塩室と、前記カチオン交換膜、前記アニオン交換膜を介して前記脱塩室の両側に設けられ、アニオン交換体が充填された濃縮室とを配置する電気式脱イオン水製造装置であって、前記濃縮室のアニオン交換体と前記カチオン交換膜との間に、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、前記重なり合った部分に開口部を有する連続気泡構造のモノリス状有機多孔質カチオン交換体を配置するものである。これによって、炭酸の逆拡散の発生を抑制し、高水質の脱イオン水を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0022】
本実施形態に係る電気式脱イオン水製造装置には、陽極と陰極との間に、一側のカチオン交換膜と他側のアニオン交換膜とで区画され、イオン交換体が充填された脱塩室と、前記カチオン交換膜、前記アニオン交換膜を介して前記脱塩室の両側に設けられ、アニオン交換体が充填された濃縮室とが配置される。ここで、本実施形態に係る電気式脱イオン水製造装置の脱塩室は、上記構成を有するものであれば、単一の脱塩室であっても、例えば、当該カチオン交換膜と当該アニオン交換膜との間に位置する中間イオン交換膜により2つの小脱塩室に区画された脱塩室であって、被処理水が2つの小脱塩室を順次流れるように構成されたものであってもよい。この2つの小脱塩室に区画された脱塩室を用いると、被処理水の脱塩処理を効率よく行うことが可能になる。
【0023】
以下に説明する本実施形態では、カチオン交換膜とアニオン交換膜との間に位置する中間イオン交換膜により2つの小脱塩室に区画された脱塩室を例とする。
【0024】
図1は、本実施形態に係る電気式脱イオン水製造装置の概略構成図である。電気式脱イオン水製造装置1には、カチオン交換膜10と、中間イオン交換膜12と、アニオン交換膜14とが互いに離間して交互に配置され、中間イオン交換膜12とアニオン交換膜14とで区画される第一小脱塩室d1,d3,d5及びカチオン交換膜10と中間イオン交換膜12とで区画される第二小脱塩室d2,d4,d6が形成されている。第一小脱塩室d1と第二小脱塩室d2とで脱塩室D1、第一小脱塩室d3と第二小脱塩室d4とで脱塩室D2、第一小脱塩室d5と第二小脱塩室d6とで脱塩室D3とする。また、脱塩室D1とD2、D2とD3のそれぞれの間に位置するアニオン交換膜14とカチオン交換膜10とで形成される部分は、濃縮水を流すための濃縮室16(16a,16b)とする。これを順次に併設して図1中、左より脱塩室D1、濃縮室16a、脱塩室D2、濃縮室16b、脱塩室D3が形成されている。なお、図1の脱塩室及び濃縮室の数は一例であって、これに限定されない。また、濃縮室は、必要に応じて脱塩室と後述する電極室との間にも設けられる。
【0025】
図1に示す第一小脱塩室d1,d3,d5には、アニオン交換体20が充填され、第二小脱塩室d2,d4,d6には、アニオン交換体及びカチオン交換体の混合体18(以下、混合体18と呼ぶ)が充填されている。しかし、第一小脱塩室d1,d3,d5及び第二小脱塩室d2,d4,d6に充填されるイオン交換体は、必ずしも上記に制限されるものではなく、脱塩処理の目的に応じて適宜選択されればよい。
【0026】
本実施形態の中間イオン交換膜12はアニオン交換膜であるが、特に制限されるものではない。
【0027】
濃縮室16a,16bには、アニオン交換体22が充填されている。濃縮室16a,16bにアニオン交換体22を充填することで、濃縮室16a,16bのカチオン交換膜10面に炭酸が拡散して、カチオン交換膜10面に硬度スケールが発生するのを防止でき、また高伝導度のアニオン交換体22が存在することで印加電圧を低電圧化することができる。
【0028】
また、濃縮室16a,16bには、アニオン交換体22とカチオン交換膜10との間に、モノリス状有機多孔質カチオン交換体23が配置されている。本実施形態のモノリス状有機多孔質カチオン交換体23は、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、重なり合った部分に開口部(メソポア、ミクロポア等)を有する連続気泡構造である。したがって、マクロポア等の連続気泡及びマクロポア同士が重なり合った部分の開口部が形成されないメッシュ状物、不織布、織布等の多孔質カチオン交換体とは異なるものである。モノリス状有機多孔質カチオン交換体23には、マクロポア及び開口部により、濃縮水の流路が形成されている。
【0029】
図2は、本実施形態に係る濃縮室の構成の一例を示す分解斜視図である。図2に示すように、濃縮室16a,16bには、脱塩室(D1,D2)のアニオン交換膜14と別の脱塩室(D2,D3)のカチオン交換膜10との間に枠体25が配置され、枠体25のくり抜かれた部分に、アニオン交換体22が充填されている。また、枠体25とカチオン交換膜10との間にモノリス状有機多孔質カチオン交換体23が配置されている。枠体25とアニオン交換膜14、枠体25とモノリス状有機多孔質カチオン交換体23、モノリス状有機多孔質カチオン交換体23とカチオン交換膜10はそれぞれ封着されている。また、本実施形態では、枠体25とカチオン交換膜10との間に別の枠体を配置し、当該枠体のくり抜かれた部分にモノリス状有機多孔質カチオン交換体23が配置されていてもよい。なお、イオン交換膜は通常比較的柔らかいものであるため、アニオン交換膜14と枠体25との封着時には、アニオン交換膜14が湾曲して、枠体25のくり抜かれた部分に充填されたアニオン交換体22の充填層が不均一となりやすい。これを防止するため、枠体25の空間部に複数のリブ(不図示)が縦設されてもよい。また、図では省略するが、枠体25に濃縮水の流入口及び流出口が付設されている。
【0030】
脱塩室D1,D2,D3も上記同様に枠体を用いて、枠体のくり抜かれた部分にイオン交換体が充填される構成であることが好ましい。すなわち、カチオン交換膜10及び中間イオン交換膜12との間、中間イオン交換膜12とアニオン交換膜14との間に枠体が配置され、各枠体のくり抜かれた部分にイオン交換体が充填される。また各枠体とカチオン交換膜10、中間イオン交換膜12、アニオン交換膜14とは、封着される。
【0031】
両端の脱塩室D1,D3の両外側と両電極(陰極24,陽極26)との間の空間をそれぞれ電極室28,30として、ここに電極水(本実施形態では濃縮水)が通水される。なお、電極室28,30には、必要に応じてカチオン交換体、アニオン交換体等が充填されてもよい。図1の例では、電極室28にアニオン交換体32が、電極室30にカチオン交換体34が配設されているが、これに限らない。
【0032】
図1の電気式脱イオン水製造装置1において、被処理水が流入するための第一流入ライン36が、第一小脱塩室d1,d3,d5の入口にそれぞれ接続され、第一小脱塩室d1,d3,d5の出口からの被処理水が流出するための第一流出ライン38が、第二小脱塩室d2,d4,d6の入口へ被処理水が流入するための第二流入ライン40に接続されている。処理水が流出するための第二流出ライン42が、第二小脱塩室d2,d4,d6の出口にそれぞれ接続されている。上記構成によって、被処理水は、まず、第一小脱塩室d1,d3,d5に供給され、脱塩処理される。そして、第一小脱塩室d1,d3,d5を通過した被処理水が、第二小脱塩室d2,d4,d6に供給され、さらに脱塩処理されて処理水として排出される。なお、被処理水の通水経路は、上記に制限されるものではなく、例えば、混合体18が充填された第二小脱塩室d2,d4,d6からアニオン交換体20が充填された第一小脱塩室d1,d3,d5へ被処理水が通水されてもよい。
【0033】
また、濃縮水流入ライン48は、濃縮室16a,16bの入口にそれぞれ接続され、濃縮水流出ライン50は、濃縮室16a,16bの出口にそれぞれ接続されている。電極水流入ラインは、濃縮水流入ライン48と同一のラインとし、電極室28,30の入口にそれぞれ接続され、電極水流出ラインは、濃縮水流出ライン50と同一のラインとし、電極室28,30の出口にそれぞれ接続されている。本実施形態では、電極水流入ライン及び濃縮水流入ライン48、電極水流出ライン及び濃縮水流出ライン50をそれぞれ同一のラインとしているが、異なるラインとしてもよい。また、濃縮水及び電極水として流入させる溶液を同じものとして通水させているが、これに限られず、濃縮水及び電極水を異なる溶液としてもよい。
【0034】
また、本実施形態では、第一小脱塩室d1,d3,d5に流入する被処理水の流れ方向及び第二小脱塩室d2,d4,d6に流入する被処理水の流れ方向は共に下降方向であり、濃縮水の流れ方向はその逆の上昇方向であるが、これに制限されない。
【0035】
本実施形態に係る電気式脱イオン水製造装置1によって、脱イオン水を製造する場合の運転方法の一例を以下に説明する。まず、陰極24と陽極26間に直流電流を流した状態で、第一流入ライン36から被処理水を流入させると共に、濃縮水流入ライン48から濃縮水を流入させる。第一流入ライン36から流入した被処理水は、第一小脱塩室d1,d3,d5を流れ、アニオン交換体20の充填層を通過する際に炭酸(遊離炭酸、重炭酸イオン、炭酸イオン)、シリカ等のアニオンが除去される。更に、第一小脱塩室d1,d3,d5の第一流出ライン38を通った被処理水は、第二小脱塩室d2,d4,d6の第二流入ライン40を流れ、混合体18の充填層を通過する際にカチオン及びアニオンが除去され、処理水(脱イオン水)が第二流出ライン42から得られる。また、濃縮水流入ライン48から流入した濃縮水は、各濃縮室16a,16bを流れ、カチオン交換膜10及びアニオン交換膜14を介して移動してくるイオンを受取り、イオンを濃縮した濃縮水として濃縮水流出ライン50から流出される。さらに、濃縮水流入ライン48(電極水流入ライン)から流入した電極水は、濃縮水流出ライン50(電極水流出ライン)から流出される。上述の運転によって、被処理水中の不純物イオンが除去された処理水(脱イオン水)が得られる。
【0036】
先に流入する第一小脱塩室d1,d3,d5のアニオン交換体20にて捕捉される炭酸(遊離炭酸、重炭酸イオン、炭酸イオン)は、水酸化物イオンやアニオン交換体20に捕捉された他のアニオン成分と共に陽極側のアニオン交換膜14を通過し、濃縮室16a,16bへと移動する。濃縮室16a,16bのアニオン交換体22は、移動してきた炭酸によりHCO形のアニオン交換体となる。仮に、本実施形態とは異なり、濃縮室16a,16b内のアニオン交換体22とカチオン交換膜10との間にモノリス状有機多孔質カチオン交換体23が配置されていない状態で、HCO形のアニオン交換体に電流が流れると、HCO(及びCO2−)は電場によってカチオン交換膜10近傍まで引き寄せられるが、カチオン交換膜10を透過することはできず、カチオン交換膜10近傍で濃縮される。これによって、カチオン交換膜10を隔てて濃縮室16a,16b(濃厚側)と第一小脱塩室d3,d5(希薄側)との間にHCO(及びCO2−)の急な濃度勾配が発生する。また、カチオン交換膜10からは水素イオンが透過してくるため、濃縮室16a,16bのカチオン交換膜10近傍のpHは低くなる。そうすると、水と炭酸ガス(CO)が発生し、カチオン交換膜10近傍に高濃度炭酸ガス含有水溶液層が形成され、炭酸ガスは、拡散によってカチオン交換膜10を透過して第二小脱塩室d4,d6へ移動(逆拡散)してしまう。これにより第二小脱塩室d4,d6から排出される最終処理水が炭酸で汚染されることになる。
【0037】
これに対し、本実施形態では、濃縮室16a,16b内のアニオン交換体22とカチオン交換膜10との間にモノリス状有機多孔質カチオン交換体23が配置されているため、濃縮室16a,16b内のアニオン交換体22はカチオン交換膜10と接触していない。したがって、高濃度炭酸ガス含有水溶液層は、カチオン交換膜10から離れて、主にアニオン交換体22と接するモノリス状有機多孔質カチオン交換体23表面又は内部に形成される。また、上記でも説明したようにモノリス状有機多孔質カチオン交換体23のマクロポア及び開口部は、濃縮水が通過する流路であるため、モノリス状有機多孔質カチオン交換体23表面又は内部の炭酸ガスは、カチオン交換膜10に接する前に濃縮水と共に濃縮室16a,16bから流出される。また、モノリス状有機多孔質カチオン交換体23表面又は内部の炭酸ガスが、カチオン交換膜10に到達したとしても、モノリス状有機多孔質カチオン交換体23内で希薄化(低濃度化)されているため、カチオン交換膜10を透過する炭酸ガスの量は大きく低減される。
【0038】
また、本実施形態のモノリス状有機多孔質カチオン交換体23は、イオン交換基(カチオン交換基)が分散しているため、単にモノリス状の有機多孔質体を濃縮室16a,16b内のアニオン交換体22とカチオン交換膜10との間に配置するものより、電気式脱イオン水製造装置1の電気抵抗を低くすることができる。また、モノリス状有機多孔質カチオン交換体23は、その他のメッシュ状物、不織布、織布等の多孔質カチオン交換体よりも充填率が高いため、その他のメッシュ状物、不織布、織布等の多孔質カチオン交換体を配置するよりも、電気式脱イオン水製造装置1の電気抵抗を低くすることができる。
【0039】
また、被処理水を第一小脱塩室に充填されたアニオン交換体から第二小脱塩室に充填された混合体(アニオン交換体及びカチオン交換体)の順で接触させる構成では、炭酸の逆拡散現象が起こると、最終処理の第二小脱塩室に炭酸が移動するため、処理水が炭酸で汚染され易い。しかし、上記モノリス状有機多孔質カチオン交換体を濃縮室のアニオン交換体とカチオン交換体との間に配置することにより、炭酸の逆拡散現象が抑制されるため、このような構成でも最終処理水の炭酸汚染を防止することができる。また、脱塩室に充填された混合体によって、アニオン及びカチオンの両方のイオン除去が行え、高品位の脱イオン水を得ることができる。
【0040】
次に、本実施形態のモノリス状有機多孔質カチオン交換体の物性、製法等について説明する。
【0041】
モノリス状有機多孔質カチオン交換体23は、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、重なり合った部分に開口部(メソポア、ミクロポア等)を有する連続気泡構造である。そして、開口部の平均直径は、20〜200μmの範囲であることが好ましく、8〜80μmの範囲であることがより好ましい。開口部の平均直径が20μmより小さいと、モノリス状有機多孔質カチオン交換体23を流れる濃縮水の圧力損失が高くなり、モノリス状有機多孔質カチオン交換体23内で発生した炭酸ガスを濃縮水と共に排水させることが困難となる場合がある。また、開口部の平均直径が200μmより大きいと、モノリス状有機多孔質カチオン交換体23の強度が低下する場合や、充填率が低くなり電気式脱イオン水製造装置の電気抵抗が高くなる場合がある。また、マクロポアの平均直径は特に制限されるものではないが、2〜5000μmの範囲であることが好ましい。また、マクロポア同士の重なりは、特に制限されるものではないが、1個のマクロポアで1〜12個、多くのものは3〜10個である。
【0042】
また、モノリス状有機多孔質カチオン交換体23は、全細孔容積が、0.5〜5ml/gの範囲であることが好ましい。全細孔容積が、0.5ml/gより小さいと、上記と同様に濃縮水の圧力損失が高くなり、モノリス状有機多孔質カチオン交換体23内で発生した炭酸ガスを濃縮水と共に排水させることが困難となる場合がある。また、全細孔容積が、5ml/gより大きい場合には、モノリス状有機多孔質カチオン交換体23の強度低下、電気式脱イオン水製造装置の電気抵抗の増加、又は炭酸ガスがモノリス状有機多孔質カチオン交換体23を移動(アニオン交換体22側からカチオン交換膜10側へ移動)する量が増加し、炭酸の逆拡散を抑制することが困難となる場合がある。
【0043】
また、モノリス状有機多孔質カチオン交換体23の厚さは、1mm以上であることが好ましい。厚さが1mmより小さいと、モノリス状有機多孔質カチオン交換体23の強度低下又は炭酸ガスがモノリス状有機多孔質カチオン交換体23を移動(アニオン交換体22側からカチオン交換膜10側へ移動)する量が増加し、炭酸の逆拡散を抑制することが困難となる場合がある。また、モノリス状有機多孔質カチオン交換体23の厚さは、濃縮室16a,16bの厚さに対して1/4以下に設定されることが好ましい。
【0044】
また、モノリス状有機多孔質カチオン交換体23は、0.5mg当量/乾燥多孔質体以上のイオン交換量を有することが好ましい。イオン交換量が0.5mg当量/乾燥多孔質体より小さいと、電気式脱イオン水製造装置の電気抵抗が増加する場合がある。
【0045】
また、モノリス状有機多孔質カチオン交換体23の骨格部(連続気泡を形成する部分)を構成する材料は、架橋構造を有する有機ポリマーである。架橋構造を有する有機ポリマーは、モノリス状有機多孔質カチオン交換体23の全構成単位に対して0.3〜20モル%の架橋構造単位を有することが好ましい。架橋構造単位が0.3モル%より小さいと、モノリス状有機多孔質カチオン交換体23の強度が低下する場合がある。また、架橋構造単位が20モル%より大きいと、カチオン交換基の導入が困難となり、電気式脱イオン水製造装置の電気抵抗が増加する場合がある。有機ポリマーの種類は、特に制限されるものではなく、例えば、ポリスチレン、ポリ(α−メチルスチレン)等のスチレン系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン等のポリ(ハロゲン化オレフィン)、ポリアクリロニトリル等のニトリル系ポリマー、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル等の(メタ)アクリル系ポリマー、ポリビニルベンジルクロライド、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、ビニルベンジルクロライド−ジビニルベンゼン共重合体等の芳香族ビニルポリマー等が挙げられる。上記ポリマーは、単独のモノマーを重合させて得られるホモポリマーでも、複数のモノマーを重合させて得られるコポリマーであってもよく、また、2種類以上のポリマーがブレンドされたものであってもよい。これら有機ポリマーの中では、カチオン交換基の導入の容易性と機械的強度の高さから、芳香族ビニルポリマーであることが好ましく、特にスチレン−ジビニルベンゼン共重合体やビニルベンジルクロライド−ジビニルベンゼン共重合体であることがより好ましい。
【0046】
また、モノリス状有機多孔質カチオン交換体23の断面積中の骨格部の面積は、単位断面積当たり3〜50%であることが好ましい。単位断面積当たりの骨格部の面積は、モノリス状有機多孔質カチオン交換体23の断面積をSEMにより撮影し、得られた断面写真から、目視、画像解析等により求められる。骨格部の面積が、単位断面積当たり3%より小さいと、モノリス状有機多孔質カチオン交換体23の強度が低下する場合がある。骨格部の面積が、単位断面積当たり50%より大きいと、モノリス状有機多孔質カチオン交換体23を流れる濃縮水の圧力損失が高くなり、モノリス状有機多孔質カチオン交換体23内で発生した炭酸ガスを濃縮水と共に排水させることが困難となる場合がある。
【0047】
また、モノリス状有機多孔質カチオン交換体23の骨格部の厚さは、0.8〜40μmの範囲であることが好ましい。骨格部の厚さが、0.8μmより小さいと、上記同様に濃縮水の圧力損失が高くなり、モノリス状有機多孔質カチオン交換体23内で発生した炭酸ガスを濃縮水と共に排水させることが困難となる場合がある。また、骨格部の厚さが、40μmより大きいと、モノリス状有機多孔質カチオン交換体23の強度が低下する場合がある。なお、本実施形態に係るモノリス状有機多孔質カチオン交換体23の連続気泡構造は、SEM写真で比較的容易に観察することができる。
【0048】
上記モノリス状有機多孔質カチオン交換体23の製造方法としては、特に制限されず、カチオン交換基を含む成分を一段階でモノリス状有機多孔質体にする方法、カチオン交換基を含まない成分によりモノリス状有機多孔質体を形成し、その後、カチオン交換基を導入する方法などが挙げられる。モノリス状有機多孔質カチオン交換体23の製造方法の一例を次に示す。ここでは、モノリス状有機多孔質カチオン交換体23は、カチオン交換基を含まない油溶性モノマー、界面活性剤、水及び必要に応じて重合開始剤を混合し、油中水滴型エマルジョンを得、これを重合させて製造される。
【0049】
カチオン交換基を含まない油溶性モノマーとしては、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸等のカチオン交換基を含まず、水に対する溶解性が低く、親油性のモノマーを指すものである。これらモノマーの具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルベンジルクロライド、ジビニルベンゼン、エチレン、プロピレン、イソブテン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、塩化ビニル、エチレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。これらモノマーは、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。ただし、本実施形態においては、ジビニルベンゼン等の架橋性モノマーを少なくとも油溶性モノマーの一成分として選択し、その含有量を全油溶性モノマー中、0.3〜20モル%とすることが、後の工程でカチオン交換基量を多く導入する際に、必要な機械的強度が得られる点で好ましい。
【0050】
界面活性剤は、カチオン交換基を含まない油溶性モノマーと水とを混合した際に、油中水滴型(W/O)エマルジョンを形成できるものであれば特に制限はなく、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレエート等の非イオン界面活性剤、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド等の陽イオン界面活性剤、ラウリルジメチルベタイン等の両性界面活性剤等を用いることができる。これら界面活性剤は1種単独又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。なお、油中水滴型エマルジョンとは、油相が連続相となり、その中に水滴が分散しているエマルジョンを言う。上記界面活性剤の添加量としては、油溶性モノマーの種類および目的とするエマルジョン粒子(マクロポア)の大きさによって大幅に変動するため一概には言えないが、油溶性モノマーと界面活性剤の合計量に対して約2〜70%の範囲で選択することができる。また、必ずしも必須ではないが、モノリス状有機多孔質カチオン交換体23の気泡形状やサイズを制御するために、メタノール、ステアリルアルコール等のアルコール、ステアリン酸等のカルボン酸、オクタン、ドデカン等の炭化水素を系内に共存させてもよい。
【0051】
重合開始剤としては、熱及び光照射によりラジカルを発生する化合物が好適に用いられる。重合開始剤は水溶性であっても油溶性であってもよく、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシクロヘキサンニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素−塩化第一鉄、過硫酸ナトリウム−酸性亜硫酸ナトリウム、テトラメチルチウラムジスルフィド等が挙げられる。ただし、場合によっては、重合開始剤を添加しなくても加熱のみや光照射のみで重合が進行する系もあるため、そのような系では重合開始剤の添加は不要である。
【0052】
カチオン交換基を含まない油溶性モノマー、界面活性剤、水及び重合開始剤を混合し、油中水滴型エマルジョンを形成させる際の混合方法としては、特に制限はなく、各成分を一括して一度に混合する方法、油溶性モノマー、界面活性剤及び油溶性重合開始剤である油溶性成分と、水や水溶性重合開始剤である水溶性成分とを別々に均一溶解させた後、それぞれの成分を混合する方法などが使用できる。エマルジョンを形成させるための混合装置についても特に制限はなく、通常のミキサーやホモジナイザー、高圧ホモジナイザー等を用いることができ、目的のエマルジョン粒径を得るのに適切な装置を選択すればよい。また、混合条件についても特に制限はなく、目的のエマルジョン粒径を得ることができる攪拌回転数や攪拌時間を、任意に設定することができる。
【0053】
このようにして得られた油中水滴型エマルジョンを重合させる重合条件は、モノマーの種類、開始剤系により様々な条件が選択できる。例えば、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム等を用いたときには、不活性雰囲気下の密封容器内において、30〜100℃で1〜48時間、加熱重合させればよく、開始剤として過酸化水素−塩化第一鉄、過硫酸ナトリウム−酸性亜硫酸ナトリウム等を用いたときには、不活性雰囲気下の密封容器内において、0〜30℃で1〜48時間重合させればよい。重合終了後、内容物を取り出し、イソプロパノール等の溶剤でソックスレー抽出し、未反応モノマーと残留界面活性剤を除去して多孔質体を得る。
【0054】
重合工程で得られた多孔質体にカチオン交換基を導入する方法としては、特に制限はなく、高分子反応やグラフト重合等の公知の方法を用いることができる。例えば、カチオン交換基としてスルホン酸基を導入する方法としては、多孔質体がスチレン−ジビニルベンゼン共重合体等であればクロロ硫酸や濃硫酸、発煙硫酸を用いてスルホン化する方法、多孔質体にラジカル開始基や連鎖移動基を導入し、スチレンスルホン酸ナトリウムやアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸をグラフト重合する方法、同様にグリシジルメタクリレートをグラフト重合した後、官能基変換によりスルホン酸基を導入する方法等が挙げられる。
【0055】
上記電気式脱イオン水製造装置では、被処理水を第一小脱塩室d1,d3,d5に充填されたアニオン交換体20から接触させる構成を例示している。本実施形態では、脱塩室に充填されたイオン交換体の通水順序及び脱塩室に充填されるイオン交換体等は特に制限されるものではないが、下記に第一小脱塩室にカチオン交換体を充填し、第二小脱塩室にアニオン交換体を充填し、被処理水をカチオン交換体からアニオン交換体の順で接触させる電気式脱イオン水製造装置について説明する。
【0056】
図3は、本発明の他の実施形態に係る電気式脱イオン水製造装置の概略構成図である。図3に示す第一小脱塩室d1,d3,d5は、カチオン交換膜10と中間イオン交換膜12とで区画され、第二小脱塩室d2,d4,d6は、中間イオン交換膜12とアニオン交換膜14とで区画されている。また、図3に示す第一小脱塩室d1,d3,d5には、カチオン交換体46が充填され、第二小脱塩室d2,d4,d6には、アニオン交換体20が充填されている。また、本実施形態において、中間イオン交換膜12は、アニオン交換膜であるが、アニオン交換膜に制限されるものではない。また、濃縮室16a,16b及び電極室28,30は、図1の電気式脱イオン水製造装置1と同様の構成であるため説明を省略する。
【0057】
図3の電気式脱イオン水製造装置2において、被処理水が流入するための第一流入ライン36が、第一小脱塩室d1,d3,d5の入口にそれぞれ接続され、第一小脱塩室d1,d3,d5の出口からの被処理水が流出するための第一流出ライン38が、第二小脱塩室d2,d4,d6の入口へ被処理水が流入するための第二流入ライン40に接続されている。処理水が流出するための第二流出ライン42が、第二小脱塩室d2,d4,d6の出口にそれぞれ接続されている。上記構成によって、被処理水は、まず、第一小脱塩室d1,d3,d5に供給され、脱塩処理される。そして、第一小脱塩室d1,d3,d5を通過した被処理水が、第二小脱塩室d2,d4,d6に供給され、さらに脱塩処理されて処理水として排出される。また、濃縮水流入ライン48、濃縮水流出ライン50等の構成は、図1の電気式脱イオン水製造装置1と同様の構成であるため説明を省略する。
【0058】
本実施形態に係る電気式脱イオン水製造装置2によって脱イオン水を製造する場合の運転方法の一例を以下に説明する。まず、陰極24と陽極26間に直流電流を流した状態で、第一流入ライン36から被処理水を流入させると共に、濃縮水流入ライン48から濃縮水を流入させる。第一流入ライン36から流入した被処理水は、第一小脱塩室d1,d3,d5を流れ、カチオン交換体46の充填層を通過する際にカチオンが除去される。更に、第一小脱塩室d1,d3,d5の第一流出ライン38を通った被処理水は、第二小脱塩室d2,d4,d6の第二流入ライン40を通って、第二小脱塩室d2,d4,d6を流れ、アニオン交換体20の充填層を通過する際に炭酸(遊離炭酸、重炭酸イオン、炭酸イオン)、シリカ等のアニオンが除去され、処理水(脱イオン水)が第二流出ライン42から得られる。また、濃縮水流入ライン48から流入した濃縮水は、各濃縮室16a,16bを流れ、カチオン交換膜10及びアニオン交換膜14を介して移動してくるイオンを受取り、イオンを濃縮した濃縮水として濃縮水流出ライン50から流出される。さらに濃縮水流入ライン48(電極水流入ライン)から流入した電極水は、濃縮水流出ライン50(電極水流出ライン)から流出される。
【0059】
上記で説明したように、第二小脱塩室d2,d4,d6のアニオン交換体20にて捕捉される炭酸(遊離炭酸、重炭酸イオン、炭酸イオン)は、水酸化物イオンやアニオン交換体20に捕捉された他のアニオン成分と共に陽極側のアニオン交換膜14を通過し、濃縮室16a,16bへと移動する。本実施形態では、濃縮室16a,16b内のアニオン交換体22とカチオン交換膜10との間にモノリス状有機多孔質カチオン交換体23が配置されているため、上記でも説明したように高濃度炭酸ガス含有水溶液層は、アニオン交換体22と接するモノリス状有機多孔質カチオン交換体23表面又は内部で発生し、炭酸ガスは、カチオン交換膜10に接する前に濃縮水と共に濃縮室16a,16bから流出される。また、炭酸ガスが、カチオン交換膜10に到達したとしても、モノリス状有機多孔質カチオン交換体23内で希薄化(低濃度化)されているため、カチオン交換膜10を透過する炭酸の量は大きく低減される。したがって、炭酸ガスがカチオン交換膜10を介して第一小脱塩室d3,d5へ移動し、被処理水中に逆拡散することを抑制することができる。
【0060】
本実施形態において、第一小脱塩室d1,d3,d5または第二小脱塩室d2,d4,d6の厚さは特に制限されないが、第一小脱塩室d1,d3,d5の厚さを0.8〜600mm、好ましくは2〜100mm、第二小脱塩室d2,d4,d6の厚さを0.8〜600mm、好ましくは6〜100mmとすれば、低い電気抵抗及び高い電流効率が得られる点で好適である。第一小脱塩室d1,d3,d5の厚さが0.8mm未満では滞留時間を充分に確保できず、水質が悪化しやすい。また、600mmを越えると電気抵抗が大きすぎて装置の安定運転に支障を来しやすくなる。また、同様に第二小脱塩室d2,d4,d6の厚さが0.8mm未満では滞留時間を充分に確保できず、水質が悪化しやすい。また、600mmを越えると電流効率の上昇に比べて電気抵抗の上昇が顕著となりやすい。
【0061】
アニオン交換体(20,32)、カチオン交換体(34,46)として用いられるイオン交換体としては、イオン交換樹脂、イオン交換繊維などイオン交換機能を有する物質であればいずれでもよく、また、それらを組み合わせたものであってもよい。
【0062】
濃縮室16a,16bに充填されるアニオン交換体22としては、例えば強塩基性アニオン交換体が挙げられる。また、アニオン交換体の形態としては、アニオン交換樹脂、アニオン交換繊維及び特開2002−306976号公報記載の有機多孔質アニオン交換体等が挙げられる。強塩基性アニオン交換体は一部に弱塩基性アニオン交換基が含まれていてもよい。アニオン交換樹脂は、遊離炭酸濃度が低くても反応が十分におき、スケール発生を抑制できるという利点を有する。また、アニオン交換樹脂の粒径が均一であると、濃縮室の差圧が低くなる点で好ましい。
【0063】
濃縮室16a,16bの厚さとしては、特に制限されるものではないが、0.5mm〜60mmが好ましく、特に1mm〜10mmが好ましい。0.5mm未満であると、たとえアニオン交換体22を充填してもスケール発生抑制効果が得られにくくなり、通水差圧も上昇しやすい。一方、60mmを越えると、電気抵抗が高くなり、消費電力が増大しやすくなる。
【0064】
なお、電気式脱イオン水製造装置において、処理量(SV、LV)、通電量、その他運転条件は、被処理水の性状などに応じて適宜設定することができる。
【0065】
本実施形態において、処理対象となる被処理水としては特に制限はないが、炭酸成分を多く含む被処理水であっても、最終処理水の炭酸汚染を防止することができる。炭酸成分を多く含む被処理水としては、例えば水道水または水道水をRO膜等で処理した水等が挙げられる。国内の水道水では通常炭酸成分の他に硬度成分が含まれるが、本実施形態によれば、濃縮室16a,16bへアニオン交換体22が充填されているため、濃縮室16a,16bに移動したCa2+イオンやMg2+イオンが濃縮室16a,16bのアニオン交換膜14面で炭酸イオン(CO2−)と結合して硬度スケールを生じることはほとんどなく、濃縮室16a,16bにおいて流路閉塞などが起こることもほとんどない。
【実施例】
【0066】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0067】
図4は、濃縮室から脱塩室に移動する炭酸成分量を測定するための試験セルを示す概略構成図である。図4に示すように、アニオン交換樹脂56が充填された陰極室58と、カチオン交換樹脂60が充填された陽極室62との間に、アニオン交換膜64及び第一カチオン交換膜66で区画された室にアニオン交換樹脂56が充填され、アニオン交換樹脂56と第一カチオン交換膜66との間にモノリス状有機多孔質カチオン交換樹脂54を配置した濃縮室68、第一カチオン交換膜66及び第二カチオン交換膜70で区画された室にカチオン交換樹脂60が充填された脱塩室72とを有する試験セル3を準備し、以下の条件で濃縮室68から脱塩室72に移動する炭酸成分量を測定した。実施例1では、脱塩室72及び電極室(58,62)に超純水を通水させると共に、濃縮室68にNaHCO溶液(炭酸イオン濃度30mg−CaCO/L)を通水させた。
【0068】
実施例2は、濃縮室68にCO含有溶液(炭酸イオン濃度30mg−CaCO/L)を通水させたこと以外は、実施例1と同様の条件で行った。
<使用したイオン交換体>
モノリス状有機多孔質カチオン交換樹脂:開口部の平均直径は62μm、全細孔容積は2.26ml/g、カチオン交換樹脂の厚さは2mm、イオン交換量は0.64mg当量/g乾燥多孔質体(4.7mg当量/g湿潤多孔質体)、水分保有能力は87%、3モル%の架橋構造単位、単位断面積当たりの骨格部の面積30%
カチオン交換樹脂:ロームアンドハース社製、アンバーライトIRA402BL
アニオン交換樹脂:ロームアンドハース社製、アンバーライトIRA402BL
第一カチオン交換膜、第二カチオン交換膜:株式会社アストム製、C66−10F
アニオン交換膜:株式会社アストム製、AHA
<EDIサイズ>
試験セル:縦10cm×幅10cm×厚さ8mm
<流量条件>
超純水、NaHCO溶液、CO含有溶液:8000ml/hr
<電流条件>
定電流:0.5A/dm
【0069】
比較例1は、濃縮室68のアニオン交換樹脂56と第一カチオン交換膜66との間にモノリス状有機多孔質カチオン交換樹脂54を配置していないこと以外は、実施例1と同様の条件で行った。
【0070】
比較例2は、濃縮室68のアニオン交換樹脂56と第一カチオン交換膜66との間にモノリス状有機多孔質カチオン交換樹脂54を配置していないこと以外は、実施例2と同様の条件で行った。
【0071】
実施例1,2及び比較例1,2の脱塩室から排出される処理水(超純水)中の炭酸量を測定した。具体的には、アルテナ社製のTOC計(A−1000)にて処理水中の無機炭素(IC)を測定し、これを炭酸として、処理水中の炭酸量を測定した。比較例1及び比較例2の脱塩室から排出される処理水には、8400μg−CaCO/hr、9000μg−CaCO/hrの炭酸成分が含まれていた。一方、実施例1及び実施例2の脱塩室から排出される処理水には、340μg−CaCO/hr、380μg−CaCO/hrの炭酸成分が含まれていたが、比較例1及び比較例2より炭酸成分の量が大幅に抑えられた。すなわち、濃縮室のアニオン交換樹脂とカチオン交換膜との間にモノリス状有機多孔質カチオン交換樹脂を配置することによって、濃縮室の炭酸成分がカチオン交換膜を介して脱塩室に移動することを抑制できることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本実施形態に係る電気式脱イオン水製造装置の概略構成図である。
【図2】本実施形態に係る濃縮室の構成の一例を示す分解斜視図である。
【図3】本発明の他の実施形態に係る電気式脱イオン水製造装置の概略構成図である。
【図4】濃縮室から脱塩室に移動する炭酸成分量を測定するための試験セルを示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0073】
1,2 電気式脱イオン水製造装置、3 試験セル、10,66,70 カチオン交換膜、12 中間イオン交換膜、14,64 アニオン交換膜、16a,16b,68 濃縮室、18 混合体、20,22,32 アニオン交換体、23 モノリス状有機多孔質カチオン交換体、24 陰極、25 枠体、26 陽極、28,30,58,62 電極室、34,46 カチオン交換体、36 第一流入ライン、38 第一流出ライン、40 第二流入ライン、42 第二流出ライン、48 濃縮水流入ライン、50 濃縮水流出ライン、54 モノリス状有機多孔質カチオン交換樹脂、56 アニオン交換樹脂、60 カチオン交換樹脂、72,D1,D2,D3 脱塩室、d1,d3,d5 第一小脱塩室、d2,d4,d6 第二小脱塩室。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極との間に、一側のカチオン交換膜と他側のアニオン交換膜とで区画され、イオン交換体が充填された脱塩室と、前記カチオン交換膜、前記アニオン交換膜を介して前記脱塩室の両側に設けられ、アニオン交換体が充填された濃縮室とを配置する電気式脱イオン水製造装置であって、
前記濃縮室のアニオン交換体と前記カチオン交換膜との間に、モノリス状有機多孔質カチオン交換体を配置し、
前記モノリス状有機多孔質カチオン交換体は、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、前記重なり合った部分に開口部を有する連続気泡構造であることを特徴とする電気式脱イオン水製造装置。
【請求項2】
請求項1記載の電気式脱イオン水製造装置であって、前記開口部の平均直径は20〜200μmの範囲であることを特徴とする電気式脱イオン水製造装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の電気式脱イオン水製造装置であって、前記モノリス状有機多孔質カチオン交換体の全細孔容積は0.5〜5ml/gの範囲であることを特徴とする電気式脱イオン水製造装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の電気式脱イオン水製造装置であって、前記モノリス状有機多孔質カチオン交換体の厚さは、1mm以上であることを特徴とする電気式脱イオン水製造装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の電気式脱イオン水製造装置であって、前記モノリス状有機多孔質カチオン交換体のイオン交換量は、0.5mg当量/g乾燥多孔質体以上であることを特徴とする電気式脱イオン水製造装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の電気式脱イオン水製造装置であって、前記モノリス状有機多孔質カチオン交換体の骨格部を構成する材料は、架橋構造を有する有機ポリマーであり、前記有機ポリマーは、前記モノリス状有機多孔質カチオン交換体の全構成単位に対して0.3〜20モル%の範囲の架橋構造単位を有することを特徴とする電気式脱イオン水製造装置。
【請求項7】
請求項6に記載の電気式脱イオン水製造装置であって、前記モノリス状有機多孔質カチオン交換体の断面積中の前記骨格部の面積は、単位断面積当たり3〜50%の範囲であることを特徴とする電気式脱イオン水製造装置。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の電気式脱イオン水製造装置であって、前記骨格部の厚さは、0.8〜40μmの範囲であることを特徴とする電気式脱イオン水製造装置。
【請求項9】
陽極と陰極との間に、一側のカチオン交換膜と他側のアニオン交換膜とで区画され、イオン交換体が充填された脱塩室と、前記カチオン交換膜、前記アニオン交換膜を介して前記脱塩室の両側に設けられ、アニオン交換体が充填された濃縮室と、を配置する電気式脱イオン水製造装置を利用して脱イオン水を製造する脱イオン水の製造方法であって、
前記濃縮室のアニオン交換体と前記カチオン交換膜との間に、請求項1〜8のいずれか1項に記載のモノリス状有機多孔質カチオン交換体を配置することを特徴とする脱イオン水の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−136825(P2009−136825A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318125(P2007−318125)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】