説明

電気手術装置

【課題】術者等が生体組織に対して行う処置の効果の低下を防止可能な電気手術装置を提供する。
【解決手段】本発明の電気手術装置は、高周波電圧を発生する交流電源と、一次側回路において印加された前記高周波電圧を変圧するとともに、該変圧後の前記高周波電圧に基づく高周波電流を二次側回路において出力する変圧器と、二本の高周波電流供給ラインを有し、前記変圧器から出力される前記高周波電流を、前記二本の高周波電流供給ラインを介して生体組織に対して供給するバイポーラ型処置具と、前記二本の高周波電流供給ラインの間の結合容量と、前記高周波電流が有する周波数とに基づき、前記前記二本の高周波電流供給ラインの間におけるインピーダンスが前記周波数に対して極大となるように設定される所定の定数を有して構成されるインピーダンス整合回路とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気手術装置に関し、特に、高周波電流により生体組織に対する処置を行うことが可能な電気手術装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、電気メス等の電気手術装置は、外科手術等において、生体組織の切開、凝固または止血等の処置を行う際に用いられている。前述した電気手術装置は、一般的に、高周波電流を出力する高周波電源と、該高周波電源に接続される処置具を有して構成されている。そして、術者等は、患者の生体組織に接触させた処置具を介し、高周波電源から出力される高周波電流を該生体組織に供給することにより、該生体組織に対して前述した各処置を行う。
【0003】
また、前述した電気手術装置においては、処置対象となる生体組織の状態または術者等が行う処置に応じた高周波電流の供給を行うことのできる構成を有することが望ましい。そして、前記構成を有する電気手術装置と略同様の構成を有する装置としては、例えば、特許文献1に提案されている高周波電流治療装置が広く知られている。
【0004】
特許文献1に提案されている高周波電流治療装置は、処置具である電気メスにおける出力電圧及び出力電流を検出するとともに、該出力電圧及び該出力電流に基づいて算出された、処置対象となる生体組織のインピーダンスに応じた高周波電流の供給を行うための構成を有している。
【0005】
【特許文献1】特開平10−118093号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、前述した電気手術装置においては、数百kHz程度の高周波電流が高周波電源から処置具へと出力されるため、特に、処置対象となる生体組織のインピーダンスが高い状態においては、浮遊容量及び結合容量等の影響が無視できなくなる。
【0007】
しかし、特許文献1に提案されている電気外科手術装置は、インピーダンス算出の際に、浮遊容量の影響を無視した演算を行っている。そのため、特許文献1に提案されている電気外科手術装置は、処置対象となる生体組織における、実際のインピーダンスの値とは異なるインピーダンスの値を算出してしまう場合がある。その結果、特許文献1に提案されている電気外科手術装置においては、処置対象となる生体組織に対し、適切に高周波電流の供給が行われないことにより、術者等が行う処置の効果が低下してしまうという課題が生じている。
【0008】
本発明は、前述した点に鑑みてなされたものであり、術者等が生体組織に対して行う処置の効果の低下を防止可能な電気手術装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明における第1の電気手術装置は、高周波電圧を発生する交流電源と、一次側回路において印加された前記高周波電圧を変圧するとともに、該変圧後の前記高周波電圧に基づく高周波電流を二次側回路において出力する変圧器と、二本の高周波電流供給ラインを有し、前記変圧器から出力される前記高周波電流を、前記二本の高周波電流供給ラインを介して生体組織に対して供給するバイポーラ型処置具と、前記二本の高周波電流供給ラインの間の結合容量と、前記高周波電流が有する周波数とに基づき、前記前記二本の高周波電流供給ラインの間におけるインピーダンスが前記周波数に対して極大となるように設定される所定の定数を有して構成されるインピーダンス整合回路とを有することを特徴とする。
【0010】
本発明における第2の電気手術装置は、前記第1の電気手術装置において、前記インピーダンス整合回路は、前記変圧器の前記二次側回路に設けられていることを特徴とする。
【0011】
本発明における第3の電気手術装置は、前記第1または第2の電気手術装置において、 前記インピーダンス整合回路は、前記バイポーラ型処置具内部に設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明における電気手術装置によると、術者等が生体組織に対して行う処置の効果の低下を防止可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本実施形態に係る電気手術装置の要部の構成の一例を示す図である。
【0014】
電気手術装置1は、図1に示すように、高周波電流を出力する高周波電源装置2と、基端側において高周波電源装置2に接続可能な構造を有するとともに、先端側において高周波電源装置2から出力される高周波電流を生体組織101に対して供給するバイポーラ型処置具3とを有して要部が構成されている。
【0015】
高周波電源装置2は、高周波電流発生部21と、制御部22と、直列共振部23と、バイポーラ型処置具3の基端側に設けられたバイポーラコネクタ31に対して接続可能なバイポーラソケット24とを有して構成されている。また、高周波電流発生部21は、交流電圧及び交流電流を出力する交流電源21aと、高周波トランス21bと、コンデンサ21cとを有して構成されている。
【0016】
交流電源21aは、所定の周波数として、例えば、数百kHz程度の周波数を有する高周波電圧V1を高周波トランス21bの一次側回路及びコンデンサ21cに対して印加する。
【0017】
変圧器としての高周波トランス21bは、所定の周波数を有する高周波電圧V1が一次側回路に印加された場合、電磁誘導により、該所定の周波数を有する高周波電圧V2を二次側回路に発生させる。そして、高周波トランス21bの二次側回路において、所定の周波数を有する高周波電圧V2が発生した場合、該高周波電圧V2に基づく、該所定の周波数を有する高周波電流が、直列共振部23を経由し、バイポーラソケット24に対して出力される。
【0018】
コンデンサ21cは、高周波トランス21bの一次側回路のコイルとともに、並列共振部21dを構成している。そして、前記並列共振部21dにおいて、高周波電圧V1のスプリアス除去が行われる。
【0019】
CPU等により構成される制御部22は、高周波電流発生部21の制御を行うとともに、高周波電源装置2に設けられた、高周波電流発生部21以外の図示しない各部の制御を行う。
【0020】
直列共振部23は、コイル23aと、コンデンサ23bとを有して構成され、高周波トランス21bの二次側回路における出力インピーダンスを低下させる。
【0021】
バイポーラ型処置具3は、バイポーラコネクタ31と、コイル31aと、高周波電源装置2から出力される高周波電流をバイポーラ型処置具3の先端部に伝送する、高周波電流供給ラインとしての出力リード線32及び33と、出力リード線32及び33の間における短絡を防止するために、バイポーラ型処置具3の先端部に設けられた絶縁部34とを有して構成されている。
【0022】
バイポーラコネクタ31は、高周波電源装置2のバイポーラソケット24に対して接続可能な構成を有するとともに、内部にコイル31aを有して構成されている。
【0023】
インピーダンス整合回路としてのコイル31aは、出力リード線32及び33に対して並列に接続され、出力リード線32及び33の間に存在する結合容量とともに並列共振回路を構成する。また、コイル31aが有する所定の定数としてのインダクタンスは、高周波電源装置2が有する高周波トランス21bの二次側回路から出力される高周波電流が有する周波数に基づく共振周波数と、出力リード線32及び33の間に存在する結合容量とに応じて適宜設定される。
【0024】
なお、コイル31aは、高周波トランス21bの二次側回路において出力リード線32及び33に対して並列に接続され、かつ、高周波電源装置2が有する高周波トランス21bの二次側回路から出力される高周波電流が有する周波数に基づく共振周波数と、出力リード線32及び33の間に存在する結合容量とに応じて所定の定数としてのインダクタンスが適宜設定されるものであれば、バイポーラコネクタ31の内部に設けられているものに限らない。具体的には、コイル31aは、例えば、図1において点線を用いて示すように、高周波電源装置2内部であり、かつ、高周波トランス21bの二次側回路である、直列共振部23とバイポーラソケット24との間に設けられているものであっても良い。また、コイル31aは、高周波電源装置2内部に複数設けられるとともに、例えば、複数のコイルのうち、高周波電源装置2に接続される処置具固有の識別情報等から、該処置具に応じた所定の一のコイルが選択され、出力リード線32及び33に接続されるものであっても良い。
【0025】
次に、電気手術装置1の作用について説明を行う。
【0026】
まず、術者等は、バイポーラ型処置具3を高周波電源装置2に接続した後、高周波電源装置2の電源を投入する。
【0027】
高周波電源装置2の電源が投入されると、制御部22は、高周波電流発生部21に対し、高周波電流を出力させるための制御を行う。そして、高周波電流発生部21は、制御部22の制御に基づき、所定の周波数として、例えば、数百kHz程度の周波数を有する高周波電流を高周波トランス21bの二次側回路において発生させる。
【0028】
高周波トランス21bの二次側回路において発生した高周波電流は、バイポーラソケット24と、バイポーラコネクタ31と、出力リード線32及び33とを介し、バイポーラ型処置具3の先端部から生体組織101に対して供給される。
【0029】
バイポーラ型処置具3の先端部から生体組織101に対して高周波電流が供給される当初の段階において、該生体組織101のインピーダンスは、粘液等の付着により、出力リード線32及び33の間の結合容量によるリアクタンスを無視できる程度に低い状態である。すなわち、バイポーラ型処置具3の先端部から生体組織101に対して高周波電流が供給される当初の段階においては、該生体組織101のインピーダンスが有する各成分のうち、純抵抗成分が支配的な状態となる。
【0030】
その後、バイポーラ型処置具3の先端部から生体組織101に対して高周波電流が供給され続けることにより、該生体組織101は次第に乾燥してゆく。これにより、前記生体組織101のインピーダンスは、出力リード線32及び33の間の結合容量によるリアクタンスが無視できない程度に増加してゆく。
【0031】
そのため、従来においては、例えば、バイポーラ型処置具3の先端部から生体組織101に対して高周波電流が供給され続けることにより、該生体組織101に対して供給される電流の量が次第に減少してゆくとともに、出力リード線32及び33の間の結合容量を介して流れる電流の量が次第に増加してゆくという現象が発生してしまう。
【0032】
しかし、本実施形態のバイポーラ型処置具3は、高周波電源装置2から出力される高周波電流が有する周波数に基づく共振周波数と、出力リード線32及び33の間に存在する結合容量とに応じ、所定の定数としてのインダクタンスが適宜設定されるコイル31aを有する。そのため、出力リード線32及び33の間のインピーダンスは、高周波電源装置2から出力される高周波電流が有する周波数に対して極大となる。また、バイポーラ型処置具3がコイル31aを有していることにより、バイポーラ型処置具3の先端部から生体組織101に対して高周波電流が供給され続ける際に生じる、該生体組織101のインピーダンスと、出力リード線32及び33の間の結合容量のリアクタンスとの位相差を無くすことができる。
【0033】
そして、以上に述べたコイル31aの作用により、生体組織101のインピーダンスが出力リード線32及び33の間の結合容量によるリアクタンスが無視できない程度に増加した場合においても、出力リード線32及び33の間の結合容量を介して電流が流れることなく、かつ、該生体組織101に対して供給される電流の量が減少することがない。
【0034】
以上に述べたように、本実施形態の電気手術装置1は、生体組織101の処置に要する高周波電流を、バイポーラ型処置具3における出力リード線32及び33の間の結合容量を介して分流させることなく、適切に該生体組織101に対して供給することができる。その結果、本実施形態の電気手術装置1は、術者等が生体組織に対して行う処置の効果の低下を防止することができる。
【0035】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更や応用が可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態に係る電気手術装置の要部の構成の一例を示す図。
【符号の説明】
【0037】
1・・・電気手術装置、2・・・高周波電源装置、3・・・バイポーラ型処置具、21・・・高周波電流発生部、21a・・・交流電源、21b・・・高周波トランス、21c,23b・・・コンデンサ、21d・・・並列共振部、22・・・制御部、23・・・直列共振部、23a,31a・・・コイル、24・・・バイポーラソケット、31・・・バイポーラコネクタ、32,33・・・出力リード線、34・・・絶縁部、101・・・生体組織

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波電圧を発生する交流電源と、
一次側回路において印加された前記高周波電圧を変圧するとともに、該変圧後の前記高周波電圧に基づく高周波電流を二次側回路において出力する変圧器と、
二本の高周波電流供給ラインを有し、前記変圧器から出力される前記高周波電流を、前記二本の高周波電流供給ラインを介して生体組織に対して供給するバイポーラ型処置具と、
前記二本の高周波電流供給ラインの間の結合容量と、前記高周波電流が有する周波数とに基づき、前記前記二本の高周波電流供給ラインの間におけるインピーダンスが前記周波数に対して極大となるように設定される所定の定数を有して構成されるインピーダンス整合回路と、
を有することを特徴とする電気手術装置。
【請求項2】
前記インピーダンス整合回路は、前記変圧器の前記二次側回路に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の電気手術装置。
【請求項3】
前記インピーダンス整合回路は、前記バイポーラ型処置具内部に設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電気手術装置。

【図1】
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【公開番号】特開2007−135914(P2007−135914A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−334666(P2005−334666)
【出願日】平成17年11月18日(2005.11.18)
【出願人】(304050923)オリンパスメディカルシステムズ株式会社 (1,905)
【Fターム(参考)】