説明

電気抵抗の測定方法

【課題】 本発明は、通電自己加熱により急速昇温中のオーミックな導電性物質の電気抵抗を4端子法の原理により測定する方法において、広い温度範囲における電気抵抗率を正確かつ効率的に導出できる電気抵抗の測定方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 通電自己加熱により急速昇温中のオーミックな導電性物質の電気抵抗を4端子法の原理により測定する方法であって、同一試料の昇温速度を変化させて行った複数回の測定から得られる電圧―電流プロット一次近似直線の傾きから試料の電気抵抗を導出することを特徴とする電気抵抗の測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気抵抗の測定方法に関し、通電自己加熱により急速昇温中のオーミックな導電性試料の広い温度範囲における電気抵抗を4端子法の原理により短時間で連続測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属や炭素材料等のオーミックな導電性物質(オームの法則が成立する物質)の電気抵抗率は理工学両面において基本的かつ重要な電気特性であるため、高温での電気抵抗率を正確かつ簡便に測定する方法は強く求められている。金属についてはWiedemann-Franzの法則により電気抵抗率から熱伝導率を近似的に導出できるため、測定が難しい高温での熱伝導率を見積もる有力な手段としても高温での電気抵抗率測定の重要性は増加している。
【0003】
オーミックな物質の高温における電気抵抗率を測定する一般的な方法は、高温における試料の電気抵抗と寸法を測定して電気抵抗率を導出する方法である。高温における試料の電気抵抗を測定する方法としては、従来より次のような方法が採用されている。
(従来技術1)
非特許文献1に記載したJIS規格には、オーミックな導電性物質の最も一般的な高温における電気抵抗測定法が紹介されている。この方法では、高温槽もしくは電気炉を用いて試料を目的温度に一定に保持させた後、試料温度を上昇させない程度の一定電流を試料に通電し、その際の試料と電流値検出のための標準抵抗それぞれの電圧降下の測定結果から4端子法の原理を利用して試料の電気抵抗を導出する。
【0004】
この技術は、次に紹介する従来技術2に比較すると測定に要する時間が格段に長くなると共に測定できる温度範囲が低いことが大きな問題点である。特に、高温に試料を長時間保持することになるため、試料の酸化や接触物との反応等に起因する測定誤差の増加が問題となる。その他、下記の従来技術2と異なり、試料の温度分布や温度安定性を確保するために大きな炉体や複雑な温度制御機構を必要とするため、測定する装置の価格やスペースが大きくなることも問題である。
【0005】
(従来技術2)
この方法は、試料を一定の温度に保持することはあえて行わず、大容量のバッテリーやキャパシターを用いて大電流を試料に流して試料を高速加熱し、昇温中の試料温度、試料及びに電流値検出のための標準抵抗の電圧降下を連続的に測定・集録し、1秒以下の短時間で室温から融点にいたる広い温度範囲の試料の電気抵抗を4端子法の原理から導出することができる(非特許文献2参照)。この方法は、急速通電加熱中の試料から周囲への伝導熱損失が無視できるために試料温度分布が均一になる利点を活かしており、広い温度範囲における電気抵抗を1秒以下の短時間で測定することができる。
【0006】
また、加熱は短時間で行われるため、高温時に生じる試料の汚染や装置の劣化が低減され、初めに紹介した従来技術1より高温での電気抵抗測定を正確かつ簡便に行うことができる。また、温度制御機構を有する電気炉や高温槽を必要としないため、低コストかつ省スペースな装置で測定を実施できる。このような利点により、従来技術2は、高温における金属の電気抵抗測定方法として定評がある。
しかしながら、炭素材料のような電気抵抗率の温度係数が金属と異なり単純な正ではない導電性物質に適用できるかどうかについては十分な検証が行われていない。また、従来技術1と異なり試料に流れる電流を一定に保持したり1回の実験中に電流の方向を逆転させることが困難であるため、金属を測定する際にも誘導起電力や熱起電力に起因する誤差が含まれてしまう懸念がある。
【0007】
高温におけるオーミックな導電性物質の電気抵抗率測定を行う方法として従来技術1が最も一般的に用いられてきたが、上に述べた欠点を抱えている。従来技術2については、高温における広い温度範囲に渡って電気抵抗率を正確かつ短時間で連続的に測定できる優れた利点を有するが、金属以外について過去に行われた測定の中には正確性を疑わせる問題点が指摘されている。
従来技術2を用いて黒鉛の電気抵抗率測定を行った際、通電加熱中の試料の昇温速度が低い場合には測定値が昇温速度の違いにより変化する不自然な測定結果が得られたことが報告されている(非特許文献3参照)。本発明者による黒鉛の測定でも同様の傾向が確認されており、この問題を解消することにより従来技術2を金属以外のオーミックな導電性物質へ適用する契機になる。
また、金属の測定においても、装置や試料によっては誘導起電力や熱起電力に起因する測定誤差の懸念が生じており、この測定法を一般に普及させるためには測定の健全性を評価する手法の開発が必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】JIS C2526「金属抵抗材料の電気抵抗−温度特性試験方法」
【非特許文献2】A. Cezairliyan,J. L. McClure, and C. W. Beckett: J. Res. National Bureau of Standards, Vol.75C, 7(1971).
【非特許文献3】A. Cezairliyanand A. P. Miiller: Int. J. Thermophys. Vol. 6, 285 (1985).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、通電自己加熱により急速昇温中のオーミックな導電性物質の電気抵抗を4端子法の原理により測定する方法において、広い温度範囲における電気抵抗率を正確かつ効率的に導出できる電気抵抗の測定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題は、以下の電気抵抗の測定方法によって解決される。
(1)通電自己加熱により急速昇温中のオーミックな導電性試料の電気抵抗を4端子法の原理により測定する方法において、同一試料に対して通電加熱時の昇温速度を変化させて行った複数回の測定結果から得られる同一温度における試料の電圧―電流プロットに関する近似直線の傾きから試料の電気抵抗を導出することを特徴とする電気抵抗の測定方法。
(2)上記近似直線の切片の値から測定時の試料と標準抵抗の電圧測定値に含まれる系統的な誤差を導出することを特徴とする(1)に記載の電気抵抗の測定方法。
(3)上記試料は、黒鉛であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の電気抵抗の測定方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、通電自己加熱により急速昇温中のオーミックな導電性試料の電気抵抗を4端子法の原理により測定する際、広い温度範囲における電気抵抗を正確かつ短時間で導出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る電気抵抗の測定方法を実施するための装置の1例である。
【図2】本発明に係る電気抵抗の測定方法における電気抵抗と電圧誤差の解析方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者は、従来技術2による電気抵抗測定値の見かけの昇温速度依存性が試料と標準抵抗の電圧降下の測定値に含まれる系統的な誤差成分によって生じることを実験的な考察から導いた。そして、この誤差を排除して真の電気抵抗を測定するため、同一の試料に異なる昇温速度での電気抵抗測定を複数回実施し、得られた複数組の試料の電圧降下測定値が試料電流測定値の一次関数と見なして、その近似直線の傾きと切片を最小自乗法により導出し、その傾きから試料の真の電気抵抗率を決定する。そして、試料と標準電圧の電圧降下の測定値に含まれる誤差の大きさが等しいという仮定の下で上記近似直線の切片の値から誤差の大きさを見積る。
【0014】
図1に、本発明を実施するための装置の1例を示す。直列に接続された試料と標準抵抗に生じる電圧降下のある温度Tmにおける測定値をそれぞれVsm、Vstとする。また、それらの測定値に含まれる電圧誤差成分をΔVと表すとオームの法則により以下の関係が成り立つ。
Vsm−ΔV=(Rsm/Rst)(Vst−ΔV) [式1]
式1中のRsmとRstは試料及び標準抵抗の電気抵抗値を表す。ここで、VsmとVstに含まれる電圧誤差が同値とした近似は、同一の電圧測定装置を用いて試料と標準抵抗の電圧降下測定を行っている場合には妥当な近似と言える。そして、式1を整理して次の式2を得る。
Vsm=Rsm(Vst/Rst)−ΔV(Rsm−Rst)/Rst [式2]
【0015】
式2の右辺第2項は電圧降下測定の誤差成分に起因するオームの法則からの見かけの偏差成分を表しており、Vsmに比較して十分に小さい場合には無視できるが、Cezairliyanらや発明者が行った黒鉛の測定に際しては無視できない大きさであったと考えられる。しかしながら、ΔVの値は試料に流す電流の大きさには依存しない系統的な値であると考えられる。また、(Rsm−Rst)/Rstの値は試料温度が同じであればVsmの値に依存しない。
したがって、式2の右辺第2項は定数項と見なせる。それゆえ、異なる昇温速度、すなわち異なる電流において測定されたVsmとVst/Rst(これは試料を流れる見かけの電流値)をプロットして得られる近似直線の傾きから試料の電気抵抗、切片から電圧誤差成分を導出することができる。
【0016】
図2の上部のグラフは、上記の解析を実施するために必要な試料の昇温速度を変えた実験により得られる4組の試料温度の時間変化曲線を示す。また、図2の下部のグラフは、上部のグラフが示す4組の測定から得られる温度Tmの際に得られる電圧と電流の測定値をプロットした図を示しており、点線の矢印は4組の測定結果のどれが電圧−電流プロットの点に対応しているかを表している。
昇温速度が大きいほど試料に流れる電流が大きくなる点と得られる電圧−電流プロットが直線の関係を持つ点から測定が健全に行われたことを確認できる。そこで、本発明では、図2の下部に示す電圧−電流プロットの線形性の有無から測定結果の健全性を評価することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電自己加熱により急速昇温中のオーミックな導電性物質の電気抵抗を4端子法の原理により測定する方法であって、同一試料の昇温速度を変化させて行った複数回の測定から得られる電圧―電流プロットに関する近似直線の傾きから試料の電気抵抗を導出することを特徴とする電気抵抗の測定方法。
【請求項2】
上記近似直線の切片の値から測定時の電圧測定値に含まれる系統的な誤差を導出することを特徴とする請求項1に記載の電気抵抗の測定方法。
【請求項3】
上記試料は、黒鉛であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電気抵抗の測定方法。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−52935(P2012−52935A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196277(P2010−196277)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】