説明

電気機器の分解装置

【課題】部品を基板から容易に分離する電気機器の分解装置を提供する。
【解決手段】被接合部材よりも低い融点を有する接合材料によって基板上に固定された部品を基板から分離する電気機器の分解装置を、基板及び基板上に固定された部品を接合材料の融点以上の温度を有する過熱水蒸気に曝して接合材料を溶融させ、部品を基板から分離するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば基板等の基材上にハンダ付け、ロウ付け、ワニス等によって固定された部品を有する電気機器の分解装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば使用済の携帯電話機やコンピュータ等の情報通信機器に搭載される回路基板等の電気機器(本明細書、請求の範囲等では電子機器を含むものとする)には、貴金属や希少金属(レアメタル)等の有用な材料や、再利用可能なチップ、コイル等の部品が含まれるため、樹脂部分や他の金属部分から分離してこれらを回収し、再利用することが要望されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、接続部に用いられる金(Au)等の有価金属を回収するためのプリント基板のリサイクル方法において、プリント基板の通電時間、製造方法、分解方法等の情報を示す記号を参照しながら回路パターン等の引き剥がしを行うことが記載されている。また、プリント板等の基材に固定された一部の部品を交換するために、この部品のハンダやロウなどの接合材料を溶融して、部品を基板上から取り除く方法も多数公知例として知られている。
【0004】
例えば、特許文献2には、接合材料の溶融手段の一つとして、有機溶剤の蒸気(飽和蒸気と考えられる)を用いる方法が記載されている。
また、特許文献3には、高沸点の熱媒体として、沸化炭化水素(沸点215℃)やシリコーンオイル(沸点250℃)の蒸気や、加熱液体を使用する方法が記載されている。
【0005】
また、特許文献4には、接合材料を溶融させる手段として、赤外線ヒータ、熱風、不活性有機溶剤の凝縮熱、高周波加熱等の方法を使用し、接合材料を溶融した後に、衝撃や振動、せん断を加えること等により、部品を基板から分離する方法を使用する例が記載されている。
【0006】
さらに、特許文献5には、基板に高温の窒素ガス(300〜500℃)を噴出して、接合材料を溶融し、その後超音波振動を加えることにより部品を基板から分離する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−314210号公報
【特許文献2】特開平9−186450号公報
【特許文献3】特開昭60−244096(4)号公報
【特許文献4】特開平8−139446号公報
【特許文献5】特開昭61−295696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したような電気機器の解体は、金属部分や樹脂部分を切り離すために、おもに手動または機械的に分離する方法や、機器一式を炉で溶融し、溶融状態で分離を行う方法が採用されている。
また、高沸点の熱媒体を加熱し、その媒体(液体)中に基板を浸したり、それらの飽和蒸気の凝縮潜熱を加熱に利用しているため、加熱利用濃度の領域に限界がある。
さらに、手動または機械的に分離する場合、種々の形状の部品等に切断力、引き剥がし力などの機械的な力を与えて基材から取り外すため、自動化が難しく非常に作業性が低い。
一方、溶融回収を行う場合、回収しようとする金属が混合されるため、溶融した後の分離作業に多くの手間がかかり、分離回収効率が低い。また、回収対象材料以外の材料も溶融する必要があるため、不要物の溶解に多くのエネルギを使ってしまう。
また、熱を使う方法では、樹脂等が燃焼したりコンデンサからの絶縁油等の酸化により有毒ガスが発生する場合があり、さらに分離回収した金属等の酸化変質の問題があり好ましくない。
【0009】
本発明は、上記の問題点を解決すべく創案されたものであって、部品を基板から容易に分離する電気機器の分解装置を提供することを課題とする。特には、部品を基板から分離するための、電気機器を加熱する装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
本発明の電気機器の分解装置によって行われる電気機器の分解方法は、融点以上に加熱することによって溶融する接合材料によって基板上に固定された部品を前記基板から分離する電気機器の分解方法であって、前記部品は前記基板上に樹脂系材料によって固定され、100℃以下の前記基板を過熱水蒸気が導入される容器中に収容し、前記接合材料を、少なくとも前記部品の加熱箇所において実質的に大気圧であるとともに、前記接合材料の融点以上でありかつ前記樹脂系材料の軟化点以上の温度である過熱水蒸気を用いて加熱することを特徴とする。
【0011】
ここで、飽和蒸気でなく過熱蒸気を使用する理由は、電気基板で多用されている共昌ハンダ(スズ−銅系の場合)の融点が最大で約240℃であるため、飽和蒸気の凝縮潜熱だけでは溶融しにくく、飽和蒸気をさらに加熱した乾き蒸気点以上の過熱蒸気が必要であるためである。
過熱蒸気の顕熱のみ、又は、顕熱と凝縮潜熱を利用するため、凝縮潜熱のみを利用する場合よりも、より高温領域に加熱できる。なお、過熱水蒸気を得る手段は、本発明の過熱水蒸気発生手段に限らない。
【0012】
電気機器の分解方法は、前記過熱水蒸気によって前記基板及び前記部品の周囲を低酸素雰囲気に保った状態で処理することを特徴とする。
【0013】
特には、電気機器が処理される雰囲気を過熱水蒸気で満たす際、酸素濃度が空気の約1/20程度の低酸素雰囲気とすることが好ましい。
【0014】
この電気機器の分解方法は、前記基板及び該基板上に固定された部品を過熱水蒸気に曝す際に、前記基板を加振することを特徴とする。
【0015】
本発明の電気機器の分解装置は、融点以上に加熱することによって溶融する接合材料によって基板上に固定された部品を前記基板から分離する電気機器の分解装置であって、前記基板及び該基板上に固定された前記部品を収容する加熱容器部と、前記加熱容器部内に前記接合材料の融点以上の温度を有する過熱水蒸気を導入する過熱水蒸気発生装置と、を備えることを特徴とする。
【0016】
上記した電気機器の分解装置は、前記部品は前記基板上に樹脂系材料によって固定され、前記過熱蒸気は、少なくとも前記部品の加熱箇所において大気圧であるとともに、前記樹脂系材料の軟化点又は融点のうちの高い温度以上の温度であることを特徴とする。
【0017】
上記した電気機器の分解装置は、前記加熱容器部内は前記過熱蒸気の導入により低酸素雰囲気にされていることを特徴とする。
上記した電気機器の分解装置は、前記加熱容器部の近傍に、前記基板を加振する加振手段が備えられていることを特徴とする。
【0018】
上記した電気機器の分解装置は、前記加熱容器部内に、前記基板を徐熱する予熱室又は前記基板を徐冷する予冷室の少なくとも一方が設けられていることを特徴とする。
【0019】
上記した電気機器の分解装置は、前記予熱室内に、前記過熱蒸気発生装置が配置されていることを特徴とする。
上記した電気機器の分解装置は、前記加熱容器部内に、予熱ヒータが設置されていることを特徴とする。
上記した電気機器の分解装置は、前記加熱容器部の、前記基板が導入される入口、及び、該基板が搬出される出口に、前記加熱容器部への外気の漏入を防止するエアカーテンが設けられていることを特徴とする。
【0020】
上記した電気機器の分解装置は、前記加熱容器部内に、前記基板に機械的な衝撃を加える衝撃付与機構が備えられていることを特徴とする。
上記した電気機器の分解装置は、前記加熱容器部内に、過熱水蒸気回収手段が設けられていることを特徴とする。
【0021】
本発明の電気機器の分解装置において行われる電気機器の分解方法は、被接合部材よりも低い融点を有する接合材料によって基板上に固定された部品を前記基板から分離する電気機器の分解方法であって、前記基板及び該基板上に固定された前記部品を前記接合材料の融点以上の温度を有する過熱水蒸気に曝して前記接合材料を溶融させ、前記部品を前記基板から分離することを特徴とする。
【0022】
本発明の他の態様における電気機器の分解装置は、被接合部材よりも低い融点を有する接合材料によって基板上に固定された部品を前記基板から分離する電気機器の分解装置であって、前記基板及び該基板上に固定された前記部品を収容する容器部と、前記容器部内に前記接合材料の融点以上の温度を有する過熱蒸気を導入する過熱蒸気発生装置と、を備えることを特徴とする。
【0023】
上記した電気機器の分解装置は、前記過熱蒸気発生装置は、第1の筒状体と、前記第1の筒状体の一方の端部から蒸気を該第1の筒状体内に導入する導入管路と、前記第1の筒状体の内部に挿入され、前記導入管路側と反対側の端部で前記第1の筒状体と連通する第2の筒状体と、前記第2の筒状体の内部に挿入され、前記第1の筒状体と前記第2の筒状体とが連通する側と反対側の端部で前記第2の筒状体と連通する第3の筒状体と、前記第3の筒状体から過熱蒸気を排出する排出管路と、前記導入管路から前記排出管路までの気体流路内に設けられ、前記蒸気を加熱する加熱手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)例えばハンダ、ロウ等の接合材料の融点以上の温度を有する過熱蒸気でこの接合材料を溶融させることによって、電子部品、電気品、配線等の部品は、基板から容易に剥離可能な状態となり、電気機器を容易に分解することができる。
(2)部品が例えばワニス等の樹脂系材料によって固められている場合であっても、過熱蒸気で樹脂系材料を加熱し軟化させることによって、部品を容易に剥離することができる。
(3)過熱蒸気によって空気を追い出し、高温かつ低酸素の還元雰囲気とすることによって、樹脂の燃焼(酸化)や炭化による有害ガスの発生を抑制できる。
(4)過熱蒸気として過熱水蒸気を用いることによって、ワークが100℃以下の状態では539kcal/kgの潜熱を加熱に用いることができるため、例えば加熱空気の熱風を用いる場合よりも短時間でワークを昇温することができ、高速処理が可能である。さらに、装置から漏れた場合も有毒ではなく、また、不燃性であるため、高い安全性が得られる。
(5)ワークを過熱蒸気に曝しつつ基板を加振することによって、容易に剥離可能となった部品を重力で落下させて回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明を適用した電気機器の分解装置の第1の実施形態における構成を示す図である。
【図2】図1の電気機器の分解装置における過熱蒸気発生装置を示す図である。
【図3】図2のIII−III断面を示す断面図である。
【図4】図2のIV部拡大図である。
【図5】本発明を適用した電気機器の分解装置の第2の実施形態における構成を示す図である。
【図6】図5の電気機器の分解装置におけるシャワーヘッドの構造を説明する図であって、図6(a)は平面図、図6(b)は側面図である。
【図7】図5の電気機器の分解装置の過熱蒸気供給システムを説明するブロック図である。
【図8】図5の電気機器の分解装置のホルダの底板の構造を示す図であって、図8(a)は平面図、図8(b)は正面図である。
【図9】図5の電気機器の分解装置のローダ機構を説明する図である。
【図10】図9のローダ機構のリンクアームの回動動作を説明する図である。
【図11】図5の電気機器の分解装置における、処理温度と分離収率との関係を示すグラフである。
【図12】図5の電気機器の分解装置における、加熱時間と分離収率との関係を示すグラフである。
【図13】図5の電気機器の分解装置における、蒸気流量と分離収率との関係を示すグラフである。
【図14】図5の電気機器の分解装置内の酸素濃度の分布を示すグラフである。
【図15】図5の電気機器の分解装置の分離収率の測定結果を示す表である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明を適用した電気機器の分解装置(以下、単に「分解装置」と称する。)の実施形態を、図面に基づいて説明する。この分解装置は、例えば携帯電話機、コンピュータ等の回路基板(ワーク)を分解するものであり、本発明の電気機器の分解方法を実行するものである。回路基板は、例えば、プリント基板等の基板上にICチップ(素子)、コイル、コンデンサ等の各種部品や配線が固定されたものもある。各種部品の接続端子は、プリント基板にハンダ付けによって固定されている。また、ICチップは、ワニスによってもプリント基板に固定されているものもある。
【0027】
図1は、本発明の第1の実施形態の分解装置の構成を示す図である。
分解装置は、ボイラ1、過熱蒸気発生装置2、シャワーヘッド3、コンベア4、バイブレータ5、加熱容器6等を備えて構成されている。
分解装置によって分解されるワーク(電気機器)は、例えばプリント基板である基板7、及び、この基板7にハンダ付けされ、さらにワニスで固められた素子8を有して構成される。
【0028】
ボイラ1は、図示しない給水手段から供給される水を加熱して飽和水蒸気を発生するものである。
【0029】
過熱蒸気発生装置2は、ボイラ1から供給される飽和水蒸気を再加熱して過熱蒸気を発生するものである。この過熱蒸気発生装置2については、後に詳しく説明する。
【0030】
シャワーヘッド3は、加熱容器6内に設けられ、その内部を通過するワークに対して、過熱蒸気発生装置2が発生した過熱蒸気を噴出し照射するものである。シャワーヘッド3は、過熱蒸気が噴出する複数の噴出孔を有する。
【0031】
コンベア4は、加熱容器6を貫いて配置されたベルトコンベアであって、回収容器9に載せられたワークを加熱容器6内に搬入し、加熱容器6内を所定時間かけて搬送した後に搬出する搬送装置である。
【0032】
バイブレータ5は、加熱容器6内におけるコンベア4の内部に設けられ、コンベア4における回収容器9が載せられる上面部を加振するものである。バイブレータ5は、コンベア4の走行方向(ワーク搬送方向)に沿って、例えば3個がほぼ等間隔に分布して配置されている。
【0033】
加熱容器6は、例えばほぼ矩形の側面視形状、正面視形状、平面形状を有するボックス状に形成されている。加熱容器6は、コンベア4と協働して、連続式のコンベア炉を構成する。分解装置の運転時には、加熱容器6の内部は、シャワーヘッド3から噴出する過熱蒸気によって空気を追い出し、高温かつ低酸素状態の雰囲気とする。
【0034】
本実施形態の電気機器の分解装置において、過熱蒸気の温度は過熱蒸気発生装置2のシーズヒータ60の出力によりコントロールされる。また、過熱蒸気の流量は、ボイラ1の出力によってコントロールされる。加熱容器6内の過熱蒸気の分布は、シャワーヘッド3の穴位置、穴径によって決定される。
【0035】
ワークが回収すべき素子8を下向きとして回収容器9に載せられた状態で、加熱容器6内をコンベア4によって搬送されるときに、ワークが過熱蒸気に曝されると、ハンダやロウ材等の、基板7に素子8を固定している導電性の物質(合金)は、過熱蒸気によって温度を上げられ(例えば約100〜1300℃)、溶融状態となって剥離が容易な状態となる。また、ワニスも加熱されて軟化する。
そして、バイブレータ5によってコンベア4及び回収容器9を介してワークを加振すると、素子8が基板7から分離して素子8は重力落下し、回収容器9に収容される。
【0036】
以下、過熱蒸気発生装置2の構成について、より詳細に説明する。
図2は、過熱蒸気発生装置2の一部断面を含む側面図である。図3は、図2のIII―III部断面図である。
過熱蒸気発生装置2の外観は、飽和水蒸気供給管10が接続された供給側端板30と器体本体20と過熱水蒸気排出管70が接続された排出側端板40から構成される。過熱蒸気発生装置2の内部には、隔管50が配置され、過熱水蒸気排出管70を隔管50の閉端部近傍まで伸ばして流体流路を形成した上で、流体を効率よく加熱するために隔管50の内側で過熱水蒸気排出管70の外側にシーズヒータ60が配設される。過熱蒸気発生装置2の内部の蒸気の流れ方向を、図中に矢印で示す。
【0037】
過熱蒸気発生装置2の内部には高温の水蒸気が流れることになるので、特に温度条件の厳しくなる隔管50等の各部材は、高温酸化処理または電解研磨後に表面を不動態化処理したステンレス鋼等を用い高温腐食対策をとる。
【0038】
器体本体20は、円筒状に形成されている。器体本体20の両端部21,22は、それぞれ供給側端板30及び排出側端板40によって閉塞されている。器体本体20は、本発明にいう第1の筒状体として機能する。器体本体20は、例えばその中心軸がほぼ水平となるように配置されるが、本発明はこれに限定されない。
供給側端板30及び排出側端板40は、それぞれ平板状の円盤であって、その外周縁部が器体本体20の内周面と接する状態で嵌め込まれ、溶接等によって固定されている。
供給側端板30及び排出側端板40の中央部には、それぞれ飽和水蒸気供給管10及び過熱水蒸気排出管70が挿入され固定される開口31,41が形成されている。
【0039】
隔管50は、器体本体20よりも径が小さい円筒状に形成されている。隔管50は、器体本体20と同心となるように器体本体20内に挿入されている。隔管50は、その外周面から外径側に突き出したステー51を有し、ステー51の突端部を器体本体20の内周面に固定することによって支持されている。隔管50の両端部52,53は、供給側端板30及び排出側端板40とそれぞれ間隔を隔てて対向して配置されている。
隔管50は、本発明にいう第2の筒状体として機能する。
【0040】
隔管50の供給側端板30側の端部52は、端板54によって閉塞されている。端板54は、平坦な円盤状の部材であって、その周囲を隔管50に溶接されることによって固定及びシールされている。
また、隔管50の端部52には、遮熱板110が設けられている。遮熱板110は、端板54の外表面(飽和水蒸気供給管10側の面)との間に空隙を有して配置された平板状の部材である。遮熱板110は、例えばステンレス鋼によって隔管50よりもわずかに径が大きい円盤状に形成されている。遮熱板110は、端板54と平行に配置されるとともに、後述する複数の支柱113で端板54から浮かせた状態で隔管50に固定されている。
【0041】
図4は、遮熱板110付近の拡大図であり、図4(a)は図1のIV部拡大図、図4(b)は図4(a)のb−b部矢視図である。
遮熱板110は、1対のプレート111、112を層状に重ねた二重構造となっており、支柱113により隔管50に支持されている。
プレート111は、円盤状に形成され、隔管50の端板54と間隔を隔てて対向し、この端板54と平行に配置されている。プレート111の外周縁部には、隔管50と反対側(供給端板30側)に立ち上げられた立上部111aが形成されている。また、プレート111には、支柱113が挿入される開口111bが形成されている。
プレート112は、円盤状に形成され、プレート111の隔管50とは反対側の面部と間隔を隔てて対向し、プレート111と平行に配置されている。プレート112の外周縁部は、プレート111の立上部111aの突端部と溶接等によって接合されている。これによって、プレート111,112は、中空の円盤状の構造を形成する。
支柱113は、隔管50の端板54とプレート111とにわたして設けられた軸状の部材である。支柱113は、遮熱板110の周方向にほぼ等間隔に分散して、例えば3本が設けられる。支柱113の遮熱板110側の端部には円盤状のフランジ113aが固定される。このフランジ113aは、遮熱板110の内部(プレート111と112の間)に収容され、プレート111のプレート112側の面に固定されている。支柱113の隔管50側の端部は、端板54と例えば溶接等によって固定されている。
【0042】
飽和水蒸気供給管10は、ボイラ1から飽和水蒸気を供給される円筒状の管路である。飽和水蒸気供給管10は、供給側端板30の開口31から器体本体20内に挿入されている。開口31の内周縁部と飽和水蒸気供給管10の外周面との間は全周にわたって溶接され、これによって開口31はシールされている。飽和水蒸気供給管10は、器体本体20とほぼ同心に配置されている。飽和水蒸気供給管10の端部11は、供給側端板30から突出するとともに、遮熱板110と間隔を隔てて対向して配置されている。飽和水蒸気供給管10は、本発明にいう導入管路として機能する。
【0043】
過熱水蒸気排出管70は、過熱蒸気発生装置2内で発生した加熱済気体である過熱蒸気を外部へ排出する円筒状の管路である。過熱水蒸気排出管70は、排出側端板40の開口41から器体本体20内へ挿入され、さらに、器体本体20内で隔管50内に挿入されている。開口41の内周縁部と過熱水蒸気排出管70の外周面との間は全周にわたって溶接され、これによって開口41はシールされている。過熱水蒸気排出管70は、器体本体20及び隔管50とそれぞれほぼ同心に配置されている。過熱水蒸気排出管70の先端部71は、隔管50の内部において、端板54と間隔を隔てて対向して配置されている。この先端部71は、隔管50の内周面と過熱水蒸気排出管70の外周面との間を流れてきた水蒸気が過熱水蒸気排出管70内に導入される連通部となっている。
この過熱水蒸気排出管70は、本発明にいう第3の筒状体、及び、排出管路として機能する。
【0044】
シーズヒータ60は、飽和水蒸気供給管10から供給された飽和水蒸気を再加熱して過熱蒸気とする加熱手段である。シーズヒータ60は、供給側端板30から器体本体20内に導入され、ここから器体本体20の内周面と隔管50の外周面との間を通して隔管50の端板54と反対側の端部(開口端部)53まで直線状に配置されている。シーズヒータ60の発熱部61は、隔管50の開口端部から隔管50の内径側に引き込まれ、過熱水蒸気排出管70の外周面に螺旋状に巻き付けられている。
シーズヒータ60の発熱部61は、過熱水蒸気排出管70の外周面から突き出して設けられたサポート100によって支持されている。
過熱水蒸気排出管70の外表面上軸方向に付設されたサポート100によってシーズヒータ60の耐振性を確保し、シーズヒータ60と過熱水蒸気排出管70及び隔管50の損傷事故を防ぎ、さらに連通する過熱水蒸気排出管70内を流れる過熱水蒸気への伝熱効率を付与された耐振及び加熱構造である。
【0045】
上記した構成によって、飽和水蒸気供給管10から器体本体20に導入された飽和水蒸気は、隔管50内を流れる過熱水蒸気の冷却回避の目的で配設された遮熱板110と隣接する端板54に当たり外空間S1で予熱され、連通する内空間S2で加熱され、さらに連通する過熱水蒸気排出管70で最終加熱され、1.5パスによる安定した質の過熱水蒸気を生成することができる。
【0046】
すなわち、飽和水蒸気供給管10から器体本体20内に吹込まれた飽和水蒸気は、遮熱板110に衝突して外径側に流れ、さらに器体本体20の内周面と衝突し、器体本体20の内周面と隔管50の外周面との間の外空間S1内を排出側端板40側へ流れる。排出側端板40付近に達した水蒸気は、隔管50の開口している端部53から隔管50の内径側へ流入し、隔管50の内周面と過熱水蒸気排出管70との間の内空間S2内を端部52及び端板54側へ流れる。端部52付近に達した水蒸気は、端板54と衝突して過熱水蒸気排出管70の端部71内へ導入され、過熱水蒸気排出管70内を通って外部へ排出される。
【0047】
また、飽和水蒸気は、上記のように流れる途中で、シーズヒータ60の発熱部61によって加熱され、飽和水蒸気から過熱蒸気へと変化する。また、飽和水蒸気が器体本体20を介した外気との熱交換や、運転開始直後における低温の各部材によって冷却されて発生する凝縮水は、器体本体20の内周面等を伝って滴下し、器体本体20の下部に貯留される。凝縮水は、装置の運転中に加熱されて過熱水蒸気となり排出される。
【0048】
本実施形態においては、生成した過熱水蒸気温度を減温させることなく最大熱効率を確保するため、飽和水蒸気供給管10の入口と過熱水蒸気排出管70の出口を両間隔が最大となるように、器体本体20の両端部21,22近傍に配設し、飽和水蒸気供給管10の入口近傍に飽和水蒸気の流れ方向に直面する位置に遮熱板110を配設し、過熱水蒸気が内流する隔管50が冷却減温されることを回避し、全体の熱効率を向上させている。
【0049】
ここで、本実施形態において、飽和水蒸気供給管10から供給する飽和水蒸気の流速が大きいと、装置内に滞留する凝縮水の水面に沿った気流に凝縮水が液滴として巻き込まれ、排出される過熱水蒸気内に液相の状態で混入する場合がある。これを防止するため、飽和水蒸気の供給量は、凝縮水の液面の蒸気流速を考慮して、水蒸気気流が液滴を巻込まないように設定する。
【0050】
以上説明した実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)ハンダの融点以上の温度を有する過熱蒸気でこのハンダを溶融させることによって、素子8は基板7から容易に剥離可能な状態となり、ワークを容易に分解することができる。
(2)素子8がハンダ付け等に加えて、さらにワニスによって固められている場合であっても、過熱蒸気でワニスを加熱し軟化、溶融させることによって、素子8を容易に剥離することができる。
(3)過熱蒸気によって加熱容器6内の空気を追い出し、高温かつ低酸素の雰囲気とすることによって、ワニス等の炭化による有害ガスの発生を抑制できる。
(4)過熱蒸気として過熱水蒸気を用いることによって、ワークが100℃以下の状態では539kcal/kgの潜熱を加熱に用いることができるため、例えば加熱空気の熱風を用いる場合よりも短時間でワークを昇温することができ、高速処理が可能である。
(5)ワークを過熱蒸気に曝しつつワークを載せたコンベア4をバイブレータ5で加振することによって、素子8を回収容器9内に落下させて回収することができる。
【0051】
次に、図5を参照して、本発明の第2の実施の形態に係る電気機器の分解装置を説明する。
この例の分解装置200は、ワークが収容されて加熱される加熱容器部(ローダ部)210と、過熱蒸気を発生する過熱蒸気発生装置250と、同装置で発生した過熱蒸気を加熱容器部210の内部に導入するシャワーヘッド260と、加熱容器部210内でワークを搬送する搬送手段(コンベア)270と、を主に備える。
【0052】
加熱容器部210は、横に長い中空の箱状のものである。加熱容器部210の、一方の側面(図5の右側)には、ワークの入口211が開けられており、反対側の側面(図5の左側)には処理されたワークの出口212が開けられている。この入口211と出口212との間には、ワークを搬送するコンベア270が配置されている。コンベア270は、上流側(入口側)に配置されたスプロケット275と、下流側(出口側)に配置された駆動ローラ276との間に巻き回されて、図5の反時計方向に循環走行する。コンベア270は、この例では一対のチェーンコンベアである。ワークは、この例では、複数枚の基板であり、ボックス状のホルダ300に収容されて搬送される。ホルダ300については後述する。
【0053】
加熱容器部210の入口211の上流側には、ワークが収容されたホルダ300を、分解装置200に搬送するローラコンベア203が配置されている。ホルダ300は、ローラコンベア203からチェーンコンベア270に、ローダ機構500によって移管される。ローダ機構500については後述する。一方、加熱容器部210の出口212の下流には、ホルダ300を、分解装置200から搬出するローラコンベア205が配置されている。ホルダ300は、チェーンコンベア270からローラコンベア205に、アンローダ機構によって移管される。アンローダ機構については公知のため説明を省略する。
【0054】
加熱容器部210は、隔壁210a、210bによって、搬送方向における上流側から順に、予熱室215、処理室216、予冷室217に区分けされている。
【0055】
予熱室215の上方には、過熱蒸気発生装置250と、同装置250に接続するエジェクタ251が配置されている。過熱蒸気発生装置250は、例えば、図2〜図3を参照して説明した過熱蒸気発生装置を使用できる。エジェクタ251には、加熱容器部外に配置されたボイラ253が接続している。ボイラ253は、図示しない給水手段から供給される水を加熱して飽和水蒸気(100℃、約0.1MPA)を発生する。この飽和水蒸気は、エジェクタ251により過熱蒸気発生装置250に送り込まれて再加熱され、過熱蒸気(約280℃、約0.1MPA)を発生する。
【0056】
処理室216の上方には、過熱蒸気発生装置250で発生した過熱蒸気を導入するシャワーヘッド260が設けられている。シャワーヘッド260は、図6に示すように、中空の平たい直方体状の本体部261と、本体部261の上面中央から突き出して設けられた過熱蒸気導入管262とを有する。本体部261の下面には、複数の蒸気排出口263が分散して形成されている。排出口263の径や位置によって、過熱蒸気の分布を調整できる。例えば、ワークの寸法や数に応じて、排出口263の径や位置を調整して、適切な流量分布となるように蒸気の流路を形成する。本体部261は、コンベア270の上段経路に面して配置されている。
【0057】
図7に示すように、シャワーヘッド260の過熱蒸気導入管262には、過熱蒸気発生装置250から延びる過熱蒸気供給管255が接続している。過熱蒸気発生装置250で発生した過熱蒸気は、過熱蒸気供給管255からシャワーヘッド260を介して、チェーンコンベア270で搬送されるワークに向けて噴射される。処理室216内には温度センサ257が取り付けられており、同部内の温度を検知する。制御器258は、温度センサ257が検知した温度に応じて過熱蒸気発生器250の温度が所定の設定温度となるようにフィードバック制御し、過熱蒸気発生装置250の加熱電力や過熱蒸気の流量を調整する。
【0058】
また、処理室216内の、コンベア270の上段経路の下方には、吸引ヘッダ221が、シャワーヘッド260と対向するように配置されている。この吸引ヘッダ211は、エジェクタ251に接続している。吸引ヘッダ221は、ワークの加熱に使用されなかった廃過熱蒸気を吸引し、エジェクタ251に送る。この廃過熱蒸気は、ボイラ253から供給される飽和水蒸気と混合されて、過熱蒸気発生装置250に送られて再利用される。
【0059】
さらに、処理室216の下方には、過熱蒸気発生装置250の起動前に処理室216を徐熱する予熱ヒータ223が配置されている。
【0060】
なお、予熱室215及び予冷室217の上方にも、それぞれ吸引ヘッダ225、226が配置されている。これらの吸引ヘッダ225、226もエジェクタ251に接続している。これらの室内に存在する廃過熱蒸気も、吸引ヘッダ225、226から吸引されて、ボイラ253から供給される飽和水蒸気と混合され、過熱蒸気発生装置250に送られて再利用される。
【0061】
加熱容器部210の入口211及び出口212には、それぞれ対向する排気ヘッダ231、241と吸気ヘッダ232、242が配置されている。排気ヘッダ231、241と吸気ヘッダ232、242とは、直列に接続された加熱器233、243と送風器234、244を備えたラインで接続されている。入口211及び出口212において、加熱器233、243で加熱された空気は、送風器234、244によりラインを通って排気ヘッダ231、241から排出され、同時に吸気ヘッド232、242で吸引される。これにより、両ヘッダ間に加熱された空気によるエアカーテンが構成される。これらのエアカーテンにより、加熱容器部210内への外気の漏入が防止されるとともに、加熱容器部210内からの過熱蒸気の漏出を防止する。
【0062】
処理室216内の、チェーンコンベア270の上段経路には、搬送されるホルダに機械的な衝撃を加える衝撃付与手段が設けられている。衝撃付与手段は、この例では、断面形状が三角形のブロック290であり、上流から下流に向かって上方に傾斜した傾斜面290aを有する。傾斜面290aの前端は、チェーンコンベア270の搬送経路より上方に突き出ている。ブロック290は搬送経路に沿って複数個(図では3個)配置されている。
【0063】
加熱容器部210の底壁210cは、予熱室215から予冷室217に向かって下方に傾斜している。予冷室217の底壁には、凝縮水が回収される排水口227が形成されている。この排水口227は、ボイラ253に接続しており、回収された凝縮水が再利用される。
【0064】
次に、図8を参照して、ワークが収容されるホルダについて説明する。
ホルダ300は、底板310と、カバー(図示されず)とを有する。底板310は、平面形状が長方形の内板320と外板330との二重の構造である。外板330の幅は、内板320よりもやや広い。外板330の左右の縁には、側板331が立ち上がっており、両側板331の上端部332は、内板320の上方に張り出すように内側に折り曲げられている。内板320は、外板330の側板331の上端部332からバネ335によって吊り下げられて弾性支持されている。バネ335は、図8(a)に示すように、底板310の四隅近傍において、外板330の側板331の上端部332と、内板320とを貫通して延びるピン336に外嵌されている。このような構成により、内板320は外板330に対して、バネ335により弾性支持されている。
【0065】
内板320の上面には、複数(この例では10枚)の基板を片持ち式に保持するグリップ321が形成されている。この例では、基板は搬送方向と平行に立てられる。また、内板320の一面には、多数のスリット323が開けられている。
【0066】
外板330の下面の左右縁には、搬送方向に延びるガイド339が固定されている。ガイド339は、ホルダ300がチェーンコンベア270で搬送される間、各チェーンに係合して、左右にずれないようにガイドするためのものである。ガイド339は、搬送方向に長いプレートであり、進行方向前端341が下方に折れ曲がっている。このガイド339の前端341が、後述するように、チェーンに係合する。
【0067】
また、外板330の下面の、左右縁から内寄りの位置には、搬送方向に回転するローラ343が取り付けられている。これらのローラ343は、ガイド339よりも下方に突き出している。
さらに、外板330の一面には、多数のスリット345が開けられている。スリット345の位置は、内板320のスリット323に対して、横方向にずれて配置されている。
【0068】
カバー(図示されず)は、底板310の四方を覆うものであり、上面が開口している。
【0069】
次に、図9、図10を参照して、ホルダ300をコンベア270に受け渡すローダ機構500について説明する。
ローダ機構500は、ローラコンベア203で搬送されたホルダ300を、チェーンコンベア270に受け渡すものである。図9に示すように、ローラコンベア203は、チェーンコンベア270の上流端に向かって下方に傾斜するように配置されている。ローダ機構500は、ローラコンベア203の両側の下流端に配置されており、リンクアーム510と、このリンクアーム510に連結するガイドアーム520とで構成される。
【0070】
リンクアーム510は、図10に示すように、長アーム511と短アーム515とを有する。両アーム510の中央は、ローラコンベア203の基台に回動可能に取り付けられている。長アーム511の先端にはカウンタウェイト512が取り付けられており、リンクアーム510を時計方向に回動するように付勢している。
短アーム515ほぼ中央付近には、同アーム515から直立するストッパ片516が延びている。リンクアーム510は、ストッパ片516がローラコンベア203の搬送面から上方に突き出す上位置(図10の実線で示す)と、同面の下方に退避する下位置(図10の想像線で示す)との間を回動する。
【0071】
ガイドアーム520は、ほぼ中央でローラコンベア203の基台にピンにより回動可能に支持されている。ガイドアーム520の一端は、リンクアーム510の短アーム515の先端に、ピン521により回動可能に取り付けられている。リンクアーム510が上位置から下位置へ回動すると、ガイドアーム520は、チェーンコンベア270側に下方に傾斜した位置(図10の実線で示す)と、ほぼ水平な位置(図10の想像線で示す)との間を回動する。
【0072】
短アーム515とガイドアーム520とを連結するピン521は、張力可変のワイヤ525により下方に付勢されている。
【0073】
なお、チェーンコンベア270には、図9、10に示すように、所定の間隔で、搬送面から直立するアタッチメント271が取り付けられている。アタッチメント271には、搬送方向と直交する方向に延びるピン272が立設されている。このピン272に、ホルダ300のガイド339の前端341が係合する。
【0074】
図10の実線で示すアンロード状態においては、リンクアーム510は、カウンタウェイト512によって時計方向に回動するように付勢されて、短アーム515のストッパ片516がローラコンベア203の搬送面から上方に突き出す上位置に待機している。
ホルダ300がローラコンベア203で自重によって搬送されてくると、ホルダ300の前面がストッパ片516に当たり、ストッパ片516を前方に押す。すると、リンクアーム510は、ウェイト512に付勢力に抗して反時計方向に回動し始める。ここで、短アーム515とガイドアーム520とを連結するピン521にはワイヤ525により適宜な大きさの下方への付勢力がかけられているので、リンクアーム510はなめらかに回動する。これにより、ストッパ片516は搬送面から下方に退避し、ガイドアーム520は水平位置に回動する。すると、ホルダ300は、ストッパ片516から外れて前進し、図10の想像線で示すように、ガイド399の先端541がガイドアーム520に支持される。
【0075】
そして、ホルダ300のガイド399の前端341がガイドアーム520の先端に達するタイミングで、循環走行するチェーンコンベア270のアタッチメント271のピン272が、ガイド399の前端341に係合する。これにより、図9に示すように、ホルダ300が、ローラコンベア203からチェーンコンベア270に移管される。
【0076】
次に、図5を参照して、この分解装置を用いたワークの分解動作を説明する。
まず、過熱蒸気発生装置250で過熱蒸気を発生させる。一例として、過熱蒸気の温度は約280℃であり、圧力は大気圧(約0.1MPA)である。発生した過熱蒸気は、シャワーヘッド260から処理室216内に噴射される。その結果、処理室216内は、空気が追い出されて過熱蒸気が充満し、高温かつ低酸素状態の雰囲気とされている。ここで、過熱蒸気の温度は、放熱ロスの影響により約270℃程度に低下する。また、大気解放されるため圧力は実質的に大気圧(約0.1MPA)と等しい。処理室216内の酸素濃度は、空気の約1/20程度と極めて低い。
なお、処理室216は、過熱蒸気発生装置250の起動前に予熱ヒータ223により加温されている。これにより、過熱蒸気発生装置250の起動温度条件を整えるとともに、運転時の装置表面からの放熱ロスを補っている。
【0077】
さらに、加熱容器部210の入口211と出口212においては、各々エアカーテンにより外気の漏入が防止されている。
【0078】
また、予熱室215には過熱蒸気発生装置250が配置されているため、同室215は同装置250から発生する熱等により加温されている。一例として、予熱室215は約100℃に加温されている。一方、予冷室217は100℃以下に維持されている。
【0079】
コンベア270は循環走行している。そして、ワークが収容されたホルダ300が、ローラコンベア203からローダ機構500によりチェーンコンベア270に移管される。チェーンコンベア270に移管されたホルダ300は、加熱容器部210の入口211からエアカーテンを通って予熱室215に入って予熱される。その後、処理室216に搬送され、ホルダ300に収容されているワークが、シャワーヘッド260から噴出される過熱蒸気に曝される。これにより、ハンダやロウ材等の、基板に部品を固定している接合部材(導電性の物質(合金))が溶融状態となり、部品と基板との接合力が弱まり、基板から分離しやすくなる。
【0080】
そして、ホルダ300がブロック290に達すると、ホルダ300の下面に設けたローラ343(図8(b)参照)がブロック290の斜面290aに乗り上げ、ガイド339はチェーンコンベア270のピン272(図10参照)から離れる。そして、やがて、ローラ343が斜面290aの前縁から離れて、ホルダ300はチェーンコンベア270上に落下して、ガイド339がチェーンコンベア270に係合する。この落下により、ホルダ300に衝撃が加えられ、ホルダ300に収容されているワークが振動を受ける。この振動により、さらに、部品と基板との接合力が弱められる。また、落下後は、ホルダ300内においては、ワークが片持ち式に支持されている内板320が、バネ335の減衰に応じてさらに振動している。さらに、ワークは片持ち式に支持されているので、グリップ321を支点として図8(b)の左右方向にも振動する。これらの振動によって、さらに、部品と基板との接合力が弱められる。
【0081】
ホルダ300は、複数個のブロック290を通過する毎に振動を受け、最終的には部品が基板から分離する。分離した部品は基板から落下してホルダ300の内板320上に堆積する。一方、溶融した接合部材は、内板320のスリット323から下方に落下し、外板330上に堆積する。
【0082】
その後、ホルダ300は予冷室217に搬送されて、約100℃以下の温度に冷却される。そして、出口212のエアカーテンを通って加熱容器部210から搬出され、チェーンコンベア270からアンローダ機構(図示されず)によりローラコンベア205に移管される。
【0083】
また、運転中は常に、加熱容器部210内に設置された廃過熱蒸気吸引ヘッダ221、225、226から、過剰に存在する過熱蒸気がエジェクタ251によって過熱蒸気発生装置250に回収されている。この過熱蒸気は、ボイラ253から供給される飽和水蒸気と混合されて再利用される。
さらに、運転終了後は、加熱容器部210内で発生した凝縮ドレンが排水口227から回収される。このドレンはボイラ253に送られて、再利用される。
【0084】
次に、装置の最適運転条件(温度、時間、酸素濃度)を求めた実験結果を、図11〜15を参照して説明する。
まず、図11のグラフを参照して、処理室内の温度と、ワークの分離収率との関係を説明する。グラフの縦軸は分離収率(%)を示し、横軸は処理室内の温度(℃)を示す。分離収率とは、全部品数に対する分離された部品数の割合である。
接合材料であるハンダの溶融点は最高で約240℃であるため、温度が250℃以上の場合の分離収率を求めた。グラフに示すように、温度が250℃付近では、分離収率は70〜75%であるが、温度が270℃以上では、90%以上の高い分離収率を得られた。
この結果、最適温度条件は270℃と設定できる。
【0085】
次に、図12のグラフを参照して、加熱時間と、ワークの分離収率との関係を説明する。グラフの縦軸は分離収率(%)を示し、横軸は加熱時間(分)を示す。処理室内の温度は270℃とした。
グラフに示すように、加熱時間が3分の場合は、分離収率は88%程度であるが、4分以上の場合は、90%程度にやや上昇している。
この結果、最適加熱時間は5分とした。
【0086】
次に、図13のグラフを参照して、処理室内の蒸気流量と、ワークの分離収率との関係を説明する。グラフの縦軸は分離収率(%)を示し、横軸は蒸気流量(kg/h)を示す。
グラフに示すように、蒸気流量が6kg/hでは分離収率は80%程度であるが、8kg/h以上では、90%程度となる。
この結果、蒸気流量は8kg/hとした。
【0087】
次に、図14のグラフを参照して、処理室内の酸素濃度の分布を説明する。グラフの縦軸は酸素濃度(%)、横軸は測定点である。測定点は、処理室の空間内の20ヵ所とした。
グラフに示すように、酸素濃度は0.5〜1.4%であり、非常に低い。このため加熱対象物(ワーク)に対する酸化作用や対象物の燃焼性を大幅に低減できると考えられる。
【0088】
最後に、以上の結果に基づく最適運転条件における分離収率を示す。
図15は、最適運転条件下での実験結果を示す表である。
最適運転条件(温度:270℃、加熱時間:5分、蒸気流量:8kg/h)で4回実験を行った結果、分離収率は89〜92%という高い結果が得られた。
【0089】
以上説明した第2の実施形態によれば、第1の実施形態で得られた効果に加え、以下の効果を得ることができる。
(1)過熱蒸気発生装置の最適運転条件を求めた結果、90%程度の高い分離収率を得ることができる。
(2)大気圧下において接合部材の溶融に必要な約280℃程度の高温での処理が可能であるため、耐高圧対策が不要であり、安全性が高い。また、過熱蒸気の温度範囲を広い範囲で自由に設定できるため、溶融温度範囲を広くとれるので、一般に使用されている接合材料のほとんどを溶融できる。
(3)加熱手段として、高沸点熱媒体や有機溶剤を使用せず、大気圧の過熱水蒸気を使用するため、安全性が高いとともに環境問題が生じず、ランニングコストも安い。
(4)過熱蒸気によって空気を排除し、酸素濃度が空気の約1/20程度の低酸素濃度雰囲気下で処理するので、部品や樹脂系接合部材の熱分解に伴う有機ガスの発生を抑制できる。
【0090】
(5)加熱容器部に予熱室を設け、予熱室内に過熱蒸気発生装置を配置したので、この過熱蒸気発生装置から発生する熱で予熱室内を加熱でき、他の加熱源が不要である。
(6)加熱容器部内に予冷室を設けて、ワークをある程度冷却してから搬出するので、匂いの発生や、加熱されたワークに触れてやけどする等の事故を防ぐことができる。
(7)廃過熱蒸気を吸引するヘッダを設けたので、廃過熱蒸気を再利用できる。
(8)凝縮ドレンを回収して再利用しているので、環境面において安全である。
【0091】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)実施形態では、分解対象となる電気機器は例えばハンダ付け及びワニスによって各種部品が実装されたプリント基板であるが、本発明の分解対象となる電気機器はこれに限定されない。
(2)実施形態の分解装置は、ワークをコンベアで搬送しながら過熱蒸気を吹き付けているが、本発明はこれに限らず、バッジ式処理を行うものにも適用することができる。
(3)実施形態の過熱蒸気発生装置は、例えば、器体本体、隔管、過熱水蒸気排出管からなる3重管構造を有しているが、本発明はこれに限らず、4重以上の多重管構造を有する過熱蒸気発生装置も適用することができる。この場合、第1の筒状体を他の筒状体の内部に挿入したり、また、第3の筒状体の内部に他の筒状体を挿入した構成とすることができる。この場合、気体流路は2パス以上の構成となる。また、本発明において、このような多重管を有するもの以外の過熱蒸気発生装置を用いてもよい。
(4)実施形態の過熱蒸気発生装置は、加熱手段として例えばシーズヒータを適用しているが、加熱手段はこれに限定されず、例えばIH等のシーズヒータ以外の加熱手段を用いるようにしてもよい。
(5)実施形態において、ハンダ等を溶融させる蒸気は例えば水蒸気であったが、本発明はこれに特に限定されず、他の物質からなる過熱蒸気を用いて電気機器の分解を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0092】
1 ボイラ 2 過熱蒸気発生装置
3 シャワーヘッド 4 コンベア
5 バイブレータ 6 加熱容器
7 基板 8 素子
9 回収容器
10 飽和水蒸気供給管 11 端部
20 器体本体 21,22 端部
23 扁平部 24,25 突出部
30 供給側端板 31 開口
40 排出側端板 41 開口
50 隔管 51 ステー
52,53 端部 54 端板
60 シーズヒータ 61 発熱部
70 過熱水蒸気排出管 71 先端部
100 サポート 110 遮熱板
S1 外空間 S2 内空間
200 電気機器の分解装置
210 加熱容器部 203 ローラコンベア
205 ローラコンベア 211 入口
212 出口 215 予熱室
216 処理室 217 予冷室
221、225、226 吸引ヘッダ 223 予熱ヒータ
227 排水口 231、241 排気ヘッダ
232、242 吸気ヘッダ 233、243 加熱器
234、244 送風器
250 過熱蒸気発生装置 251 エジェクタ
253 ボイラ 255 過熱蒸気供給管
257 温度センサ 258 制御器
260 シャワーヘッド 261 本体部
262 過熱蒸気導入管 263 蒸気排出口
270 チェーンコンベア 271 アタッチメント
272 ピン 275 スプロケット
276 駆動ローラ
290 衝撃付与手段(ブロック)
300 ホルダ 310 底板
320 内板 321 グリップ
323 スリット 330 外板
331 側板 332 上端部
335 バネ 336 ピン
339 ガイド 341 前端
343 ローラ 345 スリット
500 ローダ機構 510 リンクアーム
511 長アーム 515 短アーム
512 カウンタウェイト 516 ストッパ片
520 ガイドアーム 521 ピン
525 ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点以上に加熱することによって溶融する接合材料によって基板上に固定された部品を前記基板から分離する電気機器の分解装置であって、
前記基板及び該基板上に固定された前記部品を収容する加熱容器部と、
前記加熱容器部内に前記接合材料の融点以上の温度を有する過熱水蒸気を導入する過熱水蒸気発生装置と、
を備えることを特徴とする電気機器の分解装置。
【請求項2】
前記部品は前記基板上に樹脂系材料によって固定され、
前記過熱水蒸気は、少なくとも前記部品の加熱箇所において実質的に大気圧であるとともに、前記樹脂系材料の軟化点又は融点のうちの高い温度以上の温度であること
を特徴とする請求項1に記載の電気機器の分解装置。
【請求項3】
前記加熱容器部内は前記過熱水蒸気の導入により低酸素雰囲気にされていること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電気機器の分解装置。
【請求項4】
前記加熱容器部の近傍に、前記基板を加振する加振手段が備えられていること
を特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の電気機器の分解装置。
【請求項5】
前記加熱容器部内に、前記基板を徐熱する予熱室又は前記基板を徐冷する予冷室の少なくとも一方が設けられていること
を特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の電気機器の分解装置。
【請求項6】
前記予熱室内に、前記過熱水蒸気発生装置が配置されていること
を特徴とする請求項5に記載の電気機器の分解装置。
【請求項7】
前記加熱容器部内に、予熱ヒータが設置されていること
を特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の電気機器の分解装置。
【請求項8】
前記加熱容器部の、前記基板が導入される入口、及び、該基板が搬出される出口に、前記加熱容器部への外気の漏入を防止するエアカーテンが設けられていること
を特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の電気機器の分解装置。
【請求項9】
前記加熱容器部内に、前記基板に機械的な衝撃を加える衝撃付与機構が備えられていること
を特徴とする請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の電気機器の分解装置。
【請求項10】
前記加熱容器部内に、過熱水蒸気回収手段が設けられていること
を特徴とする請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載の電気機器の分解装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−87522(P2010−87522A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−236145(P2009−236145)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【分割の表示】特願2009−82294(P2009−82294)の分割
【原出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(594073129)新熱工業株式会社 (13)
【Fターム(参考)】