説明

電気機械変換素子、液体噴射ヘッド、及び電気機械変換素子の製造方法

【課題】安定したインク吐出特性を得ることが可能な電気機械変換素子、液体噴射ヘッド、及び、電気機械変換素子の製造方法を提供する。
【解決手段】基板301または下地膜上に所望のパターンに形成された導電性酸化物層を含む第1の電極303と、第1の電極303上に所望のパターンに形成された金属からなる第2の電極304と、第1の電極303上において、第2の電極304の形成領域以外の領域に所望のパターンに形成された電気機械変換膜305と、電気機械変換膜305上に所望のパターンに形成された導電性酸化物層を含む第3の電極306とを有し、第2の電極304が白金族金属以外の遷移金属からなる金属または、白金族金属以外の遷移金属と白金族金属との合金である電気機械変換素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機械変換素子、前記電気変換素子を備えた液体吐出ヘッド、及び前記電気機械変換素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、ファクシミリ、複写装置等の画像記録装置或いは画像形成装置として使用されるインクジェット記録装置のインクジェット式記録ヘッドには、電気機械変換素子の軸方向に伸長、収縮する縦振動モードの圧電アクチュエータを使用したものと、たわみ振動モードの圧電アクチュエータを使用したものが実用化されている。たわみ振動モードのアクチュエータを使用したものとしては、例えば、振動板の表面全体にわたって成膜技術により均一な圧電材料層を形成し、この圧電材料層をリソグラフィ法により圧力発生室に対応する形状に切り分けて各圧力発生室に独立するように電気機械変換素子を形成したものが知られている。
【0003】
しかしながら、リソグラフィ法では、材料の使用効率が悪く、また工程が煩雑となるため高コストとなりタクトタイムも大きくなるという問題が発生する。特に電気機械変換膜については数μmの膜厚を要するために、低コスト化に向けて印刷法での微細パターン形成が検討されている。例えば、振動板を撥水、親水処理したパターン基板上にインクジェット等の印刷技術を用いて微細パターン形成する技術が紹介されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
但し、この場合、下部の電極としては主にPtをベースにした金属電極を用いられているため、PZTに含まれるPbが金属電極に拡散することによる疲労特性の劣化が懸念される。この問題に関しては、酸化物電極を用いることで、PZTの疲労特性が改善されることが開示されている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、酸化物電極を用いる場合には、金属電極を用いる場合に比べて、比抵抗値が約10〜1000倍も高くなる。このため、酸化物電極が複数の電気機械変換素子に共通して設けられていると、多数の電気機械変換素子を同時に駆動して多数のインク滴を一度に吐出させる場合に、電圧降下が発生して電気機械変換素子の変位量が不安定となり、安定したインク吐出特性が得られないという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、安定したインク吐出特性を得ることが可能な電気機械変換素子、液滴吐出ヘッド、及び電気機械変換素子の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、基板または下地膜上に所望のパターンに形成された導電性酸化物層を含む第1の電極と、前記第1の電極上に所望のパターンに形成された金属からなる第2の電極と、前記第1の電極上において、前記第2の電極の形成領域以外の領域に所望のパターンに形成された電気機械変換膜と、該電気機械変換膜上に所望のパターンに形成された導電性酸化物層を含む第3の電極とを有し、前記第2の電極が白金族金属以外の遷移金属からなる金属または、白金族金属以外の遷移金属と白金族金属との合金である電気機械変換素子が提供される。
【発明の効果】
【0007】
安定したインク吐出特性を得ることが可能な電気機械変換素子、前期電気機械変換素子を含む液滴吐出ヘッド、及び前記電気機械変換素子の製造方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、電気機械変換素子を用いた液滴吐出ヘッドの一般的な例を示す断面図である。
【図2】図2は、図1の液体吐出ヘッドを複数個配置した例を示す断面図である。
【図3】図3は、本発明に係る電気機械変換素子を例示する断面図である。
【図4】図4は、本発明に係る電気機械変換素子の他の例を示す断面図および真上図である。
【図5】図5は、本発明に係るインクジェット法による詳細プロセスについて例示する図である。
【図6】図6は、液滴吐出装置を例示する斜視説明図である。
【図7】図7は、液滴吐出装置を例示する側面図である。
【図8】図8は、インクジェット塗布装置を例示する斜視図である。
【図9】図9は、本発明に係る電気機械変換膜のパターニング結果について、一例を示す図である。
【図10】図10は、代表的な電界強度と分極のヒステリシス曲線を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を用いて本発明について詳しく説明する。
【0010】
まず、電気機械変換素子を用いた液滴吐出ヘッドの一般的な構成を図1に示す。
【0011】
液滴吐出ヘッド10は、インク滴を吐出するノズル12と、このノズルが連通する加圧室11(インク流路、加圧液室、圧力室、吐出室、液室等とも称される)と、加圧室内のインクを加圧する電気機械変換素子等の電気機械変換素子19、或いはヒータ等の電気熱変換素子、若しくはインク流路の壁面を形成する振動板と、これに対向する電極からなるエネルギー発生手段とを備えている。電気機械変換素子は上部電極18と、電気機械変換膜17と、下部電極16とからなり、圧力室は圧力室基盤14と振動板15と、ノズル板13とから構成される。前記エネルギー発生手段で発生したエネルギーを受けて、振動板15が変形変位し、加圧室11内のインクを加圧することによってノズルからインク滴を吐出させる。
【0012】
図2に、図1の1ノズルの液体吐出ヘッドを複数個配置したものを示す。本発明で得られる電気機械変換素子は、圧力室を形成するために、Si基盤の一部を裏面からエッチング除去し、ノズル孔を有するノズル板を接合することで液滴吐出ヘッドを作製できる。なお、図2の密着層20は第1の電極と振動板との密着力を強めるために設けられた層である。図1と図2には液体供給手段、流路、流体抵抗については図示しておらず、電気機械変換素子についても、従来の構成のものを示している。
【0013】
本発明の電気機械変換素子の構成の一部を図3に示す。本発明の電気機械変換素子は、基板301、振動板302、第1の電極303、第2の電極304、電気機械変換膜305、第3の電極306を有している。第1の電極303及び第3の電極306は導電性酸化物電極、または導電性酸化物電極と金属電極の積層から構成されている。また、第2の電極304は金属電極である。
【0014】
第2の電極304は、電気機械変換膜305作製前に、予め所望のパターンに加工する。パターン形成の手法としては、特に制限なく目的に応じて公知の手法を用いることができ、例えば、フォトリソグラフィー法でレジストパターンを形成した後、ICPエッチング装置を用いて不要な薄膜を除去することでパターン形成できる。
【0015】
その後、アルカンチオール材料等からなるSAM(Self Assembled Monolayer)を用いて浸漬処理させる。これにより、金属からなる第2の電極表面304にはSAM材料が反応しSAM膜が付着するため、表面状態を撥水化することができる。また、酸化物からなる第1の電極表面はアルカンチオール材料等からなるSAM材料が反応しないため、表面状態としては親水化されている。これにより、アルカンチオール材料等からなるSAM材料の浸漬処理のみで親水部、疎水部の部分改質がセルフアラインで行うことができため、後の電気機械変換膜のパターニングも有利になる。
【0016】
電気機械変換膜305については、数μm程度の厚みにするため何層も重ねて作製する必要がある。電気機械変換膜としてPZTを材料とした場合、400℃以上の熱処理温度が必要となるため、熱処理後にアルカンチオール材料等からなるSAM膜が消失してしまう。そのため、第2の電極304上に1層目のPZTを形成し、熱処理後、2層目のPZTを形成する前に、振動板の浸漬処理を再度施す必要がある。熱処理後に2層目以降を積層する場合であっても、アルカンチオール材料等からなるSAM材料の浸漬処理のみで親水部、疎水部の部分改質をセルフアラインで行うことができる。
【0017】
また、アルカンチオール材料を用いて浸漬処理させ、金属から成る第2の電極表面304のみを表面処理させた後、有機シラン材料を用いて同様に浸漬処理させ、酸化物からなる第1の電極303のみを表面処理させることもできる。有機シラン材料は金属表面に反応しないため、酸化物である第1の電極303の表面のみを処理することが可能になる。親水性の高い基を有する有機シラン材料を用いることで、さらに表面の親水部と疎水部のコントラスト比をつけることが出来るようになり、電気機械変換膜をインクジェット法で作製するにあたってより効果的になる。
【0018】
電気機械変換膜305の材料としてPZTを用いた場合、第1の電極303と第3の電極306に酸化物電極を用いることでPb拡散を防止できる。さらに、第2の電極304として比抵抗の十分低い金属膜を設けることで、電圧駆動を行ったときに共通電極に対して十分な電流を供給することができ、多数の電気機械変換素子を同時に駆動した場合においても、素子間でばらつきなく十分な変位量を得ることが出来る。
【0019】
図4に絶縁保護膜を形成した場合の電気機械変換素子の構成の一例を示す。第2の電極304と第3の電極306上の一部にコンタクトホール300を有しており、それぞれ第4の電極308(共通電極)、第5の電極309(個別電極)と電気的に導通した構成となっている。絶縁保護膜307は第2の電極304、第3の電極306、電気機械変換膜305を被覆するように形成されている。このように絶縁保護膜307を形成することにより、電気ショート等による不具合や水分やガス等による電気機械変換膜305の破壊を防止できる。
【0020】
以下に、本発明の各構成の材料、工法について具体的に説明する。
【0021】
(インクジェット法によるパターン形成)
図5に、本発明の形態に係るインクジェット法による詳細プロセスを説明する。
【0022】
まず、図5(a)に示すように、下地314を準備する。そして、図5(b)に示すように、振動板の上にSAM材310を全面塗布する。SAM材料310は下地314の材料によっても異なるが、下地314が酸化物の場合は主に有機シラン化合物、ホスホン酸、リン酸エステル、カルボン酸から選び、下地314が窒化シリコンのような窒化物の場合は主に臭化アルキルを選定する。分子鎖長により反応性や疎水(撥水)性が異なるものの、C6からC18の分子を一般的な有機溶媒(アルコール、アセトン、トルエンなど)に溶解させる(濃度:数モル/リットル)。この溶液を用いて、浸漬、蒸気、スピンコーター等のいずれかにより全面塗布処理を行い、余剰な分子を溶媒で置換洗浄し乾燥することで下地314の表面に形成できる。
【0023】
次に図5(c)に示すように、フォトリソグラフィーによりフォトレジスト311をパターン形成する。次に、図5(d)に示すように、ドライエッチングにより、フォトレジスト311に覆われていない部分のSAM膜310を除去し、さらに、フォトレジスト311を除去してSAM膜のパターニングが終了する。
【0024】
次に図5(e)に示すように、液滴吐出ヘッド312により液滴を塗布することで、SAM膜が除去された親水部のみに第1の電極のパターン化前駆体塗膜313(a)が形成される。その後、通常のゾルゲル法に従ってパターン化前駆体塗膜313に熱処理を行う。前記熱処理温度は有機物の燃焼温度:300−500℃、結晶化温度:500−700℃であり、この熱処理により図5(f)に示すようにSAM膜17は消失する。また、パターン化前駆体塗膜313(a)は熱処理されたパターン化前駆体塗膜313(b)となる。
【0025】
インクジェット法を用いた場合、1層あたり約30〜100nmの膜厚になるため、何層か重ね打ちする必要がある。そのため、SAM膜のパターニングを繰り返し行うことで、インクジェット法により複数のパターン化前駆体塗膜を作製して、さらに熱処理を行い所望の膜厚を得る。
【0026】
なお、本発明においては、下地となる振動板上にインクジェット法により第1の電極を形成する例だけでなく、例えば、下地となる第1の電極上にインクジェット法により電気機械変換膜を形成する場合、下地となる第1の電極上にインクジェット法により第2の電極を形成する場合、下地となる電気機械変換膜上にインクジェット法により第3の電極を形成する場合、下地となる絶縁保護膜上にインクジェット法により第4の電極または第5の電極を形成する場合も同様の工程とすることができる。
【0027】
(基板)
基板としては、シリコン単結晶基板を用いることが好ましく、通常100〜600μmの厚みを持つことが好ましい。面方位としては、(100)、(110)、(111)があるが、半導体産業では一般的に(100)、(111)が広く使用されており、本構成においては、主に(100)の面方位を持つ単結晶基板を主に使用した。また、加圧室を作製する場合、エッチングを利用してシリコン単結晶基板を加工していくが、この場合のエッチング方法としては、異方性エッチングを用いることが好ましい。
【0028】
異方性エッチングとは、結晶構造の面方位に対してエッチング速度が異なる性質を利用したものである。例えばKOH等のアルカリ溶液に浸漬させた異方性エッチングでは、(100)面に比べて(111)面は約1/400程度のエッチング速度となる。従って、面方位(100)では約54°の傾斜を持つ構造体が作製できるのに対して、面方位(110)では深い溝をほることができるため、より剛性を保ちつつ、配列密度を高くすることができる。本実施の形態において、(110)の面方位を持った単結晶基板を使用することも可能である。但し、この場合、マスク材であるSiOもエッチングされることに留意する必要がある。
【0029】
(振動板)
電気機械変換膜によって発生した力を受けて、振動板が変形変位して、加圧室のインク滴を吐出させる。そのため、振動板は所定の強度を有することが好ましい。振動板としては、Si、SiO、SiをCVD法により作製したものを用いることができる。さらに図1に示すような下部電極106、電気機械変換膜107の線膨張係数に近い材料を選択することが好ましい。
【0030】
特に、電気機械変換膜107の材料としてPZTが使用されることが多いため、振動板の材料としては、PZTの線膨張係数8×10−6(1/K)に近い線膨張係数である5×10−6〜10×10−6(1/K)の線膨張係数を有した材料が好ましく、さらには7×10−6〜9×10−6(1/K)の線膨張係数を有した材料がより好ましい。具体的な振動板の材料としては、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化イリジウム、酸化ルテニウム、酸化タンタル、酸化ハフニウム、酸化オスミウム、酸化レニウム、酸化ロジウム、酸化パラジウム及びそれらの化合物を用いることができ、これらをスパッタ法もしくはゾルゲル法(Sol−gel法)を用いてスピンコーターにて作製することができる。
【0031】
振動板の膜厚としては0.1〜10μmが好ましく、0.5〜3μmがさらに好ましい。この範囲より小さいと図1に示すような加圧室101の加工が難しくなり、この範囲より大きいと振動板105が変形変位しにくくなり、インク滴の吐出が不安定になる。
【0032】
(第1の電極)
電気機械変換膜として、鉛を含む複合酸化物を使用する場合、電気機械変換膜に含まれる鉛が第1の電極と反応、もしくは第1の電極に拡散して、圧電特性を劣化させる場合がある。従って、第1の電極の材料としては、鉛との反応/拡散に対してバリア性のある電極材料が要求される。
【0033】
第1の電極の材料としては、導電性酸化物を電極として用いることが好ましい。具体的には化学式ABOで記述され、A=Sr、Ba、Ca、La、 B=Ru、Co、Ni、を主成分とする複合酸化物があり、SrRuOやCaRuO、これらの固溶体である(Sr1−x Ca)Oのほか、LaNiOやSrCoO、さらにはこれらの固溶体である(La, Sr)(Ni1−y Coy)O (y=1でも良い)が挙げられる。それ以外の酸化物材料として、IrO、RuOも挙げられる。
【0034】
また、電気的導通を確保するために、金属電極を作製した後に上記導電性酸化物電極を積層して第1の電極とすることも可能である。金属電極材料としては、従来から高い耐熱性と低い反応性を有するRu、Rh、Pd、Os、Ir、Ptの白金族金属や、これら白金族金属を含む合金材料が挙げられる。また、振動板との密着性を良くするために、Ti、TiO、TiN、Ta、Ta、Ta等を密着層として先に積層することが好ましい。
【0035】
第1の電極の作製方法としては、スパッタ法もしくは、ゾルゲル法を用いてスピンコーターにて作製することができる。その場合、成膜エリアの一部においてパターニングが必要となるため、フォトリソエッチング等により所望のパターンを得る。これ以外にも、振動板表面を部分的に表面改質させる工程を用いて、インクジェット法により作製することでもパターニングすることができる。
【0036】
第1の電極の膜厚としては、0.05〜1μmが好ましく、0.1〜0.5μmがより好ましい。
【0037】
(第2の電極)
第2の電極の材料としては、浄化触媒作用の小さい白金族金属(Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt)以外の遷移金属が好ましい。また、前記遷移金属の中においては、Au、Agを用いることが好ましい。さらに、Au、Agを用いる場合においては、前記白金族金属との合金材料を使用することが好ましい。AuもしくはAgを含んだ合金材料の場合、合金材料中のAuあるいはAgの重量比率は20%以上であることが好ましく、40%以上であることがさらに好ましい。AuもしくはAgの重量比率が20%より低い場合は、触媒作用が大きくなる。そのため、第2の電極の表面上に、電気機械変換膜を形成させる際の熱処理工程で脱離する鉛酸化物や鉛化合物が付着しやすくなり、後にチオール化合物で第2の電極を表面改質する際に、チオール化合物が金属表面に付着されないことがある。
【0038】
第2の電極の作製方法としては、スパッタ法や真空蒸着等の真空成膜にて作製することができる。第2の電極の膜厚としては、0.05〜1μmが好ましく、0.1〜0.5μmがさらに好ましい。
【0039】
第2の電極の成膜後、図3に示すような微細パターンを作製するため、フォトリソエッチング等により所望のパターンを得る。それ以外にも、前述したインクジェット法により作製することでも、パターニングされた膜が得られる。
【0040】
(電気機械変換膜)
本実施の形態においては、電気機械変換膜の材料として、PZTを主に使用した。PZTとはジルコン酸鉛(PbZrO)とチタン酸鉛(PbTiO)の固溶体で、その比率により特性が異なる。優れた圧電特性を示す組成はPbZrOとPbTiOの比率が53:47の割合で、化学式で示すとPb(Zr0.53、Ti0.47)O、一般にはPZT(53/47)と示される。
【0041】
PZT以外の複合酸化物としてはチタン酸バリウムなどが挙げられ、この場合はバリウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒に溶解させることでチタン酸バリウム前駆体溶液を作製することも可能である。これら材料は一般式ABOで記述され、A=Pb、Ba、Sr B=Ti、Zr、Sn、Ni、Zn、Mg、Nbを主成分とする複合酸化物が該当する。その具体的な記述として(Pb1−x、 Ba)(Zr、 Ti)O、(Pb1−x、 Sr)(Zr, Ti)O、と表され、これはAサイトのPbを一部BaやSrで置換した場合である。このような置換は2価の元素であれば可能であり、その効果は熱処理中の鉛の蒸発による特性劣化を低減させる作用を示す。
【0042】
電気機械変換膜の作製方法としては、スパッタ法もしくは、ゾルゲル法を用いてスピンコーターにて作製することができる。その場合は、パターニングが必要となるので、フォトリソエッチング等により所望のパターンを得る。
【0043】
PZTをゾルゲル法により作製する場合、出発材料に酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒としてメトキシエタノールに溶解させ均一溶液を得ることで、PZT前駆体溶液が作製できる。金属アルコキシド化合物は大気中の水分により容易に加水分解してしまうので、前駆体溶液に安定剤としてアセチルアセトン、酢酸、ジエタノールアミンなどの安定化剤を適量、添加しても良い。
【0044】
振動板基板全面にPZT膜を得る場合、スピンコートなどの溶液塗布法により塗膜を形成し、溶媒乾燥、熱分解、結晶化の各々の熱処理を施すことで得られる。塗膜から結晶化膜への変態には体積収縮が伴うので、クラックフリーな膜を得るには一度の工程で100nm以下の膜厚が得られるように前駆体濃度の調整が必要になる。
【0045】
また、インクジェット法により第1の電極上に電気機械変換膜を作製する場合は、第1の電極を作製した場合と同様の作製フローにて、所望のパターンを有する電気機械変換膜を得ることができる。表面改質材については、下地の材料によっても異なるが、酸化物を下地とする場合は主にシラン化合物、金属を下地とする場合は主にアルカンチオールを選定する。
【0046】
電気機械変換膜の膜厚としては0.5〜5μmが好ましく、さらに好ましくは1μm〜2μmとなる。0.5μmより小さいと十分な変位を発生することが出来なくなることがあり、5μmより大きいと何層も積層させる必要があるため、工程数が多くなりプロセス時間が長くなる。
【0047】
(第3の電極)
第3の電極の材料としては、第1の電極と同様、導電性酸化物を電極として用いることが有効である。具体的には化学式ABOで記述され、A=Sr、Ba、Ca、La、 B=Ru、Co、Ni、を主成分とする複合酸化物であるSrRuO、CaRuOや、これらの固溶体である(Sr1−x Ca)Oのほか、LaNiO、SrCoOや、これらの固溶体である(La, Sr)(Ni1−y Co)O (y=1でも良い)が挙げられる。それ以外の酸化物材料として、IrO、RuOも挙げられる。また、配線抵抗を補うために導電性酸化物上に白金やイリジウムや白金−ロジウムなどの白金族金属や、これらの合金膜、またはAg合金、Cu、Al、Auを積層して用いることも有効である。
【0048】
第3の電極の作製方法としては、スパッタ法もしくは、ゾルゲル法を用いてスピンコーターにて作製することができる。その場合は、パターニングが必要となるので、フォトリソエッチング等により所望のパターンを得る。
【0049】
また、インクジェット法により作製する場合は、第1の電極を作製した場合と同様の作製フローにてパターニングされた膜を得ることができる。
【0050】
膜厚としては、0.05〜1μmが好ましく、0.1〜0.5μmがさらに好ましい。
【0051】
(絶縁保護膜)
絶縁保護膜は電気ショート等による不具合や水分やガス等による電気機械変換膜の破壊防止を目的に設ける。絶縁保護膜の材料としては、シリコン酸化膜や窒化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜などの無機膜、または、ポリイミド、パリレン膜等の有機膜が好ましい。
【0052】
絶縁保護膜の膜厚としては、0.5〜20μmが好ましく、1〜10μmがさらに好ましい。0.5μmより小さいと絶縁保護膜としての機能が十分果たせなくなり、20μmより大きいとプロセス時間が長くなる。
【0053】
絶縁保護膜の作製方法としては、CVD、スパッタ法、スピンコート法を用いて作製することができる。また、第4、第5の電極と導通させるためのコンタクトホール作製が必要となる場合は、フォトリソエッチング等により所望のパターンを得る。
【0054】
また、スクリーン印刷法を用いて、一度のプロセスでコンタクトホールを有する絶縁保護膜の作製を行うことが出来る。スクリーン印刷に用いられるペースト材料としては、樹脂と無機または有機粒子を有機溶媒に溶解させたものを用いることができる。前記樹脂については、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、アクリル系樹脂、エチルセルロース樹脂などを含む材料が挙げられる。無機粒子については、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸バリウム(BaTiO)等が挙げられる。中でもシリカ、アルミナ、酸化亜鉛などの比較的比誘電率の低い材料が好ましい。
【0055】
本発明にて精細度のパターンを形成する場合においては、線径が15〜50μm、開口率が40〜60%のメッシュ中に充填されたペースト状材料を転写することで絶縁保護膜を形成するため、絶縁保護膜をコンタクトホールとともに形成することができる。
【0056】
(第4の電極、第5の電極)
第4の電極及び、第5の電極の材料は、Ag合金、Cu、Al、Au、Pt、Irのいずれかから成る金属電極材料であることが好ましい。第4の電極および、第5の電極の材料の作製方法としては、スパッタ法、スピンコート法を用いて作製し、その後フォトリソエッチング等により所望のパターンとすることができる。また、下地となる絶縁保護膜表面を部分的に表面改質させる工程を用いて、第1の電極を作製した場合と同様の作製フローにて、インクジェット法により所望のパターンの電極を作製することが出来る。
【0057】
表面改質材については、下地である絶縁保護膜が酸化物である場合は主にシラン化合物を選定する。またポリイミドのような有機物の場合は、紫外線を照射して、照射された領域の表面エネルギーを増大させることができる。その結果、表面エネルギーを増大させた領域に、高精細な第4の電極または第5の電極のパターンを直接描画することができる。
【0058】
紫外線で表面エネルギーを増大させることが可能な高分子材料としては、特開2006−060079号公報に記載されている材料などを用いることができる。
【0059】
また、市販されているペースト材料を用いてスクリーン印刷で第4の電極及び、第5の電極となる電極膜を得ることが出来る。具体的には、パーフェクトゴールド(登録商標)(金ペースト、真空冶金社製商品名)、パーフェクトカッパー(銅ペースト、真空冶金社製商品名)、OrgaconPastevariant 1/4、Paste variant 1/3(以上、印刷用透明PEDOT/PSSインク、日本アグファ・ゲバルト社製商品名)、OrgaconCarbonPaste variant 2/2(カーボン電極ペースト、日本アグファ・ゲバルト社製商品名)、BAYTRON(登録商標) P(PEDT/PSS水溶液、日本スタルクヴィテック社製商品名)などが挙げられる。
【0060】
図4に示すように、第4の電極は、前記絶縁保護膜上に前記コンタクトホールを介して前記第2の電極と導通し、共通電極となっている。また、第5の電極は、前記絶縁保護膜上に前記コンタクトホールを介して前記第3の電極と導通し、個別電極となっている。
【0061】
第4の電極及び、第5の電極の膜厚としては、0.1〜20μmが好ましく、0.2〜10μmがさらに好ましい。0.1μmより小さいと抵抗が大きくなるために電極に十分な電流を流すことができなくなり、ヘッド吐出が不安定になる。また、20μmより大きいとプロセス時間が長くなる。
(液滴吐出装置)
本発明に係る液滴吐出ヘッドを搭載した液滴吐出装置の一例について図6及び図7を参照して説明する。なお、図6は前記装置の斜視説明図、図7は前記装置の機構部の側面説明図である。
【0062】
図6及び図7を参照するに、液滴吐出装置81は、主に、装置本体の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ93と、キャリッジ93に搭載した本発明を実施した液滴吐出ヘッドからなる記録ヘッド94と、記録ヘッド94へインクを供給するインクカートリッジ95とで構成される印字機構部82等を有している。液滴吐出装置81の下方部には前方側から多数枚の用紙83を積載可能な給紙カセット(或いは給紙トレイでもよい。)84を抜き差し自在に装着することができ、また、用紙83を手差しで給紙するための手差しトレイ85を開倒することができ、給紙カセット84或いは手差しトレイ85から給送される用紙83を取り込み、印字機構部82によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ86に排紙する。
【0063】
印字機構部82は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド91と従ガイドロッド92とでキャリッジ93を主走査方向に摺動自在に保持し、このキャリッジ93にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する本発明に係るインクジェットヘッドからなる記録ヘッド94を、複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と交差する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。またキャリッジ93には記録ヘッド94に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ95を交換可能に装着している。
【0064】
インクカートリッジ95は上方に大気と連通する図示しない大気口、下方にはインクジェットヘッドへインクを供給する図示しない供給口を、内部にはインクが充填された図示しない多孔質体を有しており、該多孔質体の毛管力によりインクジェットヘッドへ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。また、記録ヘッドとしてここでは各色のヘッド94を用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個のヘッドでもよい。
【0065】
キャリッジ93は後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド91に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド92に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ93を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ97で回転駆動される駆動プーリ98と従動プーリ99との間にタイミングベルト100を張装している。タイミングベルト100はキャリッジ93に固定しており、主走査モーター97の正逆回転によりキャリッジ93が往復駆動される。
【0066】
一方、給紙カセット84にセットした用紙83を記録ヘッド94の下方側に搬送するために、給紙カセット84から用紙83を分離給装する給紙ローラ101及びフリクションパッド102と、用紙83を案内するガイド部材103と、給紙された用紙83を反転させて搬送する搬送ローラ104と、この搬送ローラ104の周面に押し付けられる搬送コロ105及び搬送ローラ104からの用紙83の送り出し角度を規定する先端コロ106とを設けている。搬送ローラ104は副走査モータ107によってギヤ列を介して回転駆動される。
【0067】
そして、キャリッジ93の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ104から送り出された用紙83を記録ヘッド94の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材109を設けている。この印写受け部材109の用紙搬送方向下流側には、用紙83を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ111、拍車112を設け、さらに用紙83を排紙トレイ86に送り出す排紙ローラ113及び拍車114と、排紙経路を形成するガイド部材115,116とを配設している。
【0068】
記録時には、キャリッジ93を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド94を駆動することにより、停止している用紙83にインクを吐出して1行分を記録し、用紙83を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号または、用紙83の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙83を排紙する。
【0069】
キャリッジ93の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、ヘッド94の吐出不良を回復するための回復装置117を配置している。回復装置117はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。キャリッジ93は印字待機中にはこの回復装置117側に移動されてキャッピング手段でヘッド94をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
【0070】
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段でヘッド94の吐出口(ノズル)を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出し、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。
また、吸引されたインクは、本体下部に設置された図示しない廃インク溜に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
【実施例】
【0071】
(実施例1)
シリコンウェハに振動板としてSiO膜(膜厚1μm)をCVD法により形成し、チタン膜(膜厚50nm)及び、第1の電極として白金膜(膜厚200nm)とSrRuO膜(膜厚100nm)とをスパッタ成膜した。チタン膜については、熱酸化膜と白金膜の間の密着性を向上する役割を持つ。次に、第2の電極としてAgPd合金(Ag:Pd=70:30)膜(膜厚50nm)をスパッタ成膜した。その後、東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)をスピンコート法で成膜し、通常のフォトリソグラフィーでレジストパターンを形成した後、ICPエッチング装置(サムコ製)を用いて図4のようなパターンを作製した。
【0072】
次に、第2の電極の表面処理として、アルカンチオールにCH(CH−SHを用い、濃度0.01モル/リットル(溶媒:イソプロピルアルコール)溶液に浸漬した。その後、イソプロピルアルコールで洗浄・乾燥させて、SAM処理を行った。SAM処理後のAgPd合金膜上の水の接触角は92.2°であるのに対して、SrRuO膜上の水の接触角は15°であり、その後の電気機械変換膜をインクジェット法により成膜する際の、親水面と撥水面のコントラストが十分取れていることが確認できた。
【0073】
次に電気機械変換膜としてPZT(53/47)をインクジェット法により成膜した。前駆体塗布液の合成は、出発材料に酢酸鉛三水和物、イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムを用いた。酢酸鉛の結晶水はメトキシエタノールに溶解後、脱水した。化学両論組成に対し鉛量を10モル%過剰にして用いた。これは熱処理中の鉛抜けによる結晶性低下を防ぐためである。
【0074】
イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムをメトキシエタノールに溶解し、アルコール交換反応、エステル化反応を進め、前記の酢酸鉛を溶解したメトキシエタノール溶液と混合することでPZT前駆体溶液を合成した。このPZT濃度は0.1モル/リットルにした。インクジェット塗布装置により、前述の図5の工程でパターニングされた親水領域(第2の電極として作製したSrRuO膜)にPZT前駆体溶液を塗布した。
【0075】
図8にインクジェット塗布装置を説明するための斜視図を示す。架台200の上に、Y軸駆動手段201が設置してあり、その上に基板202を搭載するステージ203がY軸方向に駆動できるように設置されている。なおステージ203には図示されていない真空、静電気などの吸着手段が付随しており基板202が固定されている。
【0076】
また、X軸支持部材204にはX軸駆動手段205が取り付けられており、これにZ軸駆動手段211上に搭載されたヘッドベース206が取り付けられており、X軸方向に移動できるようになっている。ヘッドベース206の上にはインクを吐出させるIJヘッド208が搭載されている。このIJヘッドには図示されていない各インクタンクから各々着色樹脂インク供給用パイプ210からインクが供給される。
【0077】
一度の成膜で得られる膜厚は100nm前後が好ましく、前駆体濃度は成膜面積と前駆体塗布量の関係から適正化される。前述の図5(e)は、インクジェット塗布装置により塗布された状態を示しており、接触角のコントラストのため前駆体溶液は親水部のみに広がりパターンを形成する。これを第一の加熱(溶媒乾燥)として120℃処理後、有機物の熱分解(500℃)を行うことで前述の図5(f)を得た。このときの膜厚は90nmであった。
【0078】
引き続き、繰返し表面処理としてアルカンチオールによる浸漬処理を行うことで、パターニング化したSAM膜を形成した。SAM処理後のAgPd合金膜上の水の接触角は92.2°であるのに対して、インクジェットにて作製したPZT膜上の水の接触角は15°であった。インクジェット法を用いて2層目以降を成膜するための、親水面と撥水面のコントラストが十分取れていることが確認できた。
【0079】
前記工程を6回繰り返し540nmの膜を得た後、結晶化熱処理(温度700℃)をRTA(急速熱処理)にて行った。膜にクラックなどの不良は生じなかった。さらに6回のSAM膜処理→PZT前駆体の選択塗布→120℃乾燥→500℃熱分解を行い、結晶化処理をした。膜にクラックなどの不良は生じなかった。膜厚は1000nmに達した。
【0080】
次に第3の電極として、SrRuO膜(膜厚100nm)、白金膜(膜厚100nm)をスパッタ成膜した。その後、東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)をスピンコート法で成膜し、通常のフォトリソグラフィーでレジストパターンを形成した後、ICPエッチング装置(サムコ製)を用いて図4のようなパターンを作製した。
【0081】
次に絶縁保護膜として、パリレン膜(膜厚2μm)をCVD成膜した。その後、東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)をスピンコート法で成膜し、通常のフォトリソグラフィーでレジストパターンを形成した後、RIE(サムコ製)を用いて図4のようなパターンを作製した。
【0082】
最後に第4、第5の電極としてAl膜(膜厚5μm)をスパッタ成膜した。その後、東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)をスピンコート法で成膜し、通常のフォトリソグラフィーでレジストパターンを形成した後、RIE(サムコ製)を用いて図4のようなパターンを作製し、電気機械変換素子を作製した。
【0083】
(実施例2)
シリコンウェハに振動板としてSiO膜(膜厚1μm)をCVD法により形成し、第1の電極として、LaNiO(膜厚0.08μm)をスピンコート法で成膜した。前駆体塗布液の合成は、出発材料にイソプロポキシドランタン、ビス(アセチルアセトナト)ニッケル(II)(二水和物)を用いた。ビス(アセチルアセトナト)ニッケル(II)(二水和物)の脱水処理を行った後、イソプロポキシドランタン、ビス(アセチルアセトナト)ニッケル(II)をメトキシエタノールに溶解し、アルコール交換反応、エステル化反応を進め、LaNiO前駆体溶液を合成した。前記LaNiO前駆体溶液の濃度を0.3モル/リットルにした。
【0084】
次に第1の電極の表面処理として、シラン化合物にCH(CH−SiClを用い、濃度0.01モル/リットル(溶媒:イソプロピルアルコール)溶液に浸漬させ、その後、イソプロピルアルコールで洗浄・乾燥させ、SAM処理を行った。東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)をスピンコート法で成膜し、通常のフォトリソグラフィーでレジストパターンを形成した後、酸素プラズマ処理を行い露出部のSAM膜を除去した。処理後の残渣レジストはアセトンにて溶解除去し、同様の接触角評価を行った。SAM膜が除去された領域の接触角は46.2°、前記残渣レジストでカバーされていた領域の接触角は104.3°の値を示し、SAM膜のパターン化がなされたことを確認した。
【0085】
次に第2の電極として、市販のナノAgPdインクを用いて、インクジェットにより成膜した。実施例1と同様のインクジェット塗布装置を用いて塗布した。接触角のコントラストにより、Agインクは第1の電極の親水部のみに広がりパターンを形成する。これを第一の加熱(溶媒乾燥)として150℃処理し、N雰囲気化で昇温速度(10℃/min)にて300℃で1時間熱処理を行った。このときの膜厚は80nmであった。
【0086】
次に実施例1と同様の作製方法で、第2の電極のSAM処理を行った後、電気機械変換膜をインクジェット法で作製した。電気機械変換膜の材料も実施例1と同様のものを用いた。さらに、第2の電極と同様な方法で下地のSAM処理を行った後、第3の電極としてLaNiOをインクジェット法により作製した。インクについては第1の電極作製で使用した材料を元にインク化した。
【0087】
次に絶縁保護膜として、SiOを(膜厚2μm)をCVD成膜した。その後、東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)をスピンコート法で成膜し、通常のフォトリソグラフィーでレジストパターンを形成した後、RIE(サムコ製)を用いて図4のようなパターンを作製した。
【0088】
最後に絶縁保護膜をシラン化合物(化1)でSAM処理を行った後、市販のAgPdインクを用いてインクジェット法により所望するパターンに印刷した。その後、300℃で熱処理し、第4の電極と第5の電極を作製し、電気機械変換素子を作製した。
【0089】
【化1】

(実施例3)
第1の電極形成までは、実施例1と同様の工程で行った後、第2の電極として、AuPd合金(Au:Pd=70:30)膜(膜厚50nm)をスパッタ成膜した。第2の電極形成後のパターン形成を実施例1と同様な作製を行った後、第2の電極の表面処理として、アルカンチオールにCH(CH−SHを用い、濃度0.01モル/リットル(溶媒:イソプロピルアルコール)溶液に浸漬させ、その後、イソプロピルアルコールで洗浄・乾燥させ、SAM処理を行った。その後、第1の電極の表面処理として、シラン化合物(化1)を用いて、濃度0.01モル/リットル(溶媒:イソプロピルアルコール)溶液に浸漬させ、その後、イソプロピルアルコールで洗浄・乾燥させ、SAM処理を行った。
【0090】
SAM処理後のAuPd合金膜上の水の接触角は92.2°であるのに対して、SrRuO膜上の水の接触角は5°以下であり、その後の電気機械変換膜をインクジェット法により成膜する際の、親水面と撥水面のコントラストが十分取れていることが確認できた。
【0091】
次に実施例1と同様な作製方法で、電気機械変換膜をインクジェット法で作製した。このとき2層目以降の電気機械変換膜作製においては、第1の電極の表面処理として、アルカンチオールを用いた。また、電気機械変換膜の表面処理としてシラン化合物(化1)を用いて、下地のSAM処理を行い、その後インクジェット法で第3の電極としてLaNiOを用いて作製した。絶縁保護膜、第4の電極、第5の電極については実施例1と同様の手順、膜厚で作製することで、電気機械変換素子を作製した。
【0092】
(比較例1)
第1の電極形成までは、実施例1と同様な作製を行った後、第2の電極として、白金膜(膜厚50nm)をスパッタ成膜した。
【0093】
第2の電極形成後のパターン形成までは、実施例1と同様な作製を行った後、第2の電極の表面処理として、アルカンチオールにCH(CH−SHを用い、濃度0.01モル/リットル(溶媒:イソプロピルアルコール)溶液に浸漬させ、その後、イソプロピルアルコールで洗浄・乾燥させ、SAM処理を行った。
【0094】
SAM処理後の白金膜上の水の接触角は102.2°であるのに対して、SrRuO膜上の水の接触角は5°以下であり、その後の電気機械変換膜をインクジェット法により成膜際の、親水面と撥水面のコントラストが十分取れていることが確認できた。
【0095】
次に実施例1と同様な作製方法で、電気機械変換膜をインクジェット法で作製した。このとき2層目以降の電気機械変換膜の作製においては、第1の電極の表面処理として、アルカンチオールを用いて下地のSAM処理を行い、その後インクジェット法により電気機械変換膜を作製した。第3の電極、絶縁保護膜、第4の電極、第5の電極については実施例1と同様に作製することで、電気機械変換素子を作製した。電気機械変換膜作製工程でのパターニングしたSAM膜を繰り返し作製する際に、電気機械変換膜同士でくっついている箇所が見受けられた。
【0096】
(実施例1〜3及び、比較例1の評価)
実施例1〜3及び、比較例1で作製した電気機械変換膜のパターニング結果の一例を、図9に示す。図9は電気機械変換膜を1000nm作製した後に観察した結果である。実施例1〜3で得られた電気機械変換膜は、図9(a)に示すようなパターニングが得られた。一方、比較例1については、図9(b)に示すように、電気機械変換膜の一部が隣接する第2の電極のビットにパターンが繋がるような結果になっていることが分かった。
【0097】
実施例1〜3及び、比較例1で作製した電気機械変換素子の電気特性及び電気機械変換能(圧電定数)の評価を行った結果を表1に示す。
【0098】
【表1】

表1に示すように、初期においては、実施例1〜3及び、比較例1の何れの条件においても膜の比誘電率は1200前後、誘電損失は0.02、残留分極は20−25uC/cm、抗電界は40−50kV/cmであり、通常のセラミック焼結体と同等の特性であった。なお、図10は代表的な電界強度と分極のヒステリシス曲線を示す特性図である。
【0099】
電気機械変換能は電界印加による変形量をレーザードップラー振動計で計測し、シミュレーションによる合わせ込みから算出した。その圧電定数d31は−140〜−160pm/Vとなり、こちらもセラミック焼結体と同等の値であった。これは液体吐出ヘッドとして十分設計できうる特性値である。
【0100】
1010回繰り返し印可電圧を加えた直後の特性についても、実施例1〜3及び、比較例1の何れの条件の間で特性は大差ないことがわかった。
【0101】
実施例1〜3、比較例1で作製した電気機械変換素子を用いて、図2の液体吐出ヘッドを作製し液の吐出評価を行った。粘度を5cpに調整したインクを用いて、単純Push波形により−10〜−30Vの印可電圧を加えたときの吐出状況を確認した。実施例1〜3で作製した電気機械変換素子を用いた液体吐出ヘッドのノズル孔からは安定して吐出できていることを確認した。比較例1で作製した電気機械変換素子を用いた液体吐出ヘッドのノズル孔からは、ノズル箇所によっては吐出がばらつき安定していなかった。
【符号の説明】
【0102】
11 加圧室
12 ノズル
13 ノズル板
14、301 基板
15、302 振動板
16 下部電極
17、305 電気機械変換膜
18 上部電極
19 電気機械変換素子
303 第1の電極
304 第2の電極
306 第3の電極
307 絶縁保護膜
308 第4の電極
309 第5の電極
【先行技術文献】
【特許文献】
【0103】
【特許文献1】特開2004−006645号公報
【特許文献2】特開2005−327920号公報
【特許文献3】特開2000−094688号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板または下地膜上に所望のパターンに形成された導電性酸化物層を含む第1の電極と、前記第1の電極上に所望のパターンに形成された金属からなる第2の電極と、前記第1の電極上において、前記第2の電極の形成領域以外の領域に所望のパターンに形成された電気機械変換膜と、該電気機械変換膜上に所望のパターンに形成された導電性酸化物層を含む第3の電極とを有し、前記第2の電極が白金族金属以外の遷移金属からなる金属または、白金族金属以外の遷移金属と白金族金属との合金である電気機械変換素子。
【請求項2】
前記第2の電極がAuまたは、Auの重量比率が20%以上であるAu合金で、該合金の合金化元素がRu、Rh、Pd、Os、Ir、Ptのいずれかの金属である請求項1に記載の電気機械変換素子。
【請求項3】
前記第2の電極がAgまたは、Agの重量比率が20%以上であるAg合金で、該合金の合金化元素がRu、Rh、Pd、Os、Ir、Ptのいずれかの金属である請求項1に記載の電気機械変換素子。
【請求項4】
前記第1の電極及び/又は前記第3の電極の材料が、化学式ABOで記述され、AはSr、Ba、Ca、Laのいずれか1つまたは2つ以上、BはRu、Co、Niのいずれか1つまたは2つ以上を主成分とする複合酸化物または、IrO、RuOのいずれかから成る導電性酸化物である請求項1〜3のいずれかに記載の電気機械変換素子。
【請求項5】
前記第1の電極及び/又は前記第3の電極の材料が、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Ptのいずれかの元素からなる金属と、化学式ABOで記述され、AはSr、Ba、Ca、Laのいずれか1つまたは2つ以上、BはRu、Co、Niのいずれか1つまたは2つ以上を主成分とする複合酸化物または、IrO、RuOのいずれかから成る導電性酸化物との積層膜である請求項1〜3のいずれかに記載の電気機械変換素子。
【請求項6】
前記第2の電極と前記電気機械変換膜と、前記第3の電極とを被覆する、コンタクトホールを有する絶縁保護膜を形成させた請求項1〜5のいずれかに記載の電気機械変換素子。
【請求項7】
前記絶縁保護膜上に、コンタクトホールを介して前記第2の電極と導通し、共通電極となる、金属からなる第4の電極を形成させた請求項6に記載の電気機械変換素子。
【請求項8】
前記絶縁保護膜上に、コンタクトホールを介して前記第3の電極と導通し、個別電極となる、金属からなる第5の電極を形成させた請求項6または7のいずれかに記載の電気機械変換素子。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の電気機械変換素子を有する液滴吐出ヘッド。
【請求項10】
基板または下地膜上に所望のパターンに形成された導電性酸化物層を含む第1の電極と、前記第1の電極上に所望のパターンに形成された金属からなる第2の電極と、前記第1の電極上において、前記第2の電極の形成領域以外の領域に所望のパターンに形成された電気機械変換膜と、該電気機械変換膜上に所望のパターンに形成された導電性酸化物層を含む第3の電極とを有し、前記第2の電極が白金族金属以外の遷移金属からなる金属または、白金族金属以外の遷移金属と白金族金属との合金である電気機械変換素子を製造する方法であって、前記電気機械変換膜は、チオール化合物により前記第2の電極上を撥水性に表面改質させて、撥水化されていない前記第1の電極上に、インクジェット法により所望のパターンに形成される電気機械変換素子の製造方法。
【請求項11】
基板または下地膜上に所望のパターンに形成された導電性酸化物層を含む第1の電極と、前記第1の電極上に所望のパターンに形成された金属からなる第2の電極と、前記第1の電極上において、前記第2の電極の形成領域以外の領域に所望のパターンに形成された電気機械変換膜と、該電気機械変換膜上に所望のパターンに形成された導電性酸化物層を含む第3の電極とを有し、前記第2の電極が白金族金属以外の遷移金属からなる金属または、白金族金属以外の遷移金属と白金族金属との合金である電気機械変換素子を製造する方法であって、前記電気機械変換膜は、シラン化合物により前記第1の電極上を親水性に表面改質させて、かつ、チオール化合物により前記第2の電極上を撥水性に表面改質させて、親水化された前記第1の電極上に、インクジェット法により所望のパターンに形成される電気機械変換素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−119386(P2012−119386A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265423(P2010−265423)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】