説明

電気機械式のブレーキ力倍力装置

本発明は、液圧式の車両ブレーキ装置のための電気機械式のブレーキ力倍力装置(1)に関する。本発明は、2つの戻しばね(11,12)を設け、戻しばね(11,12)の一方が電気機械式のアクチュエータ(16)を付勢し、戻しばね(11,12)の他方(12)がペダルロッド(4)を付勢するように、ブレーキ力倍力装置(1)を形成することを提案する。電気機械式のアクチュエータ(16)の故障時には、筋力によって、有利には比較的小さなばね力を有する上記他方のばね(12)を緊縮するだけでよい。筋力だけで操作する場合の力の損失は、軽減されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
従来技術
本発明は、請求項1の上位概念部に記載の特徴を備える電気機械式のブレーキ力倍力装置、すなわち、電気機械式のブレーキ力倍力装置であって、マスタブレーキシリンダを筋力で操作可能な筋力伝達要素と、前記マスタブレーキシリンダをやはり操作可能な電気機械式のアクチュエータと、前記ブレーキ力倍力装置を操作後に初期位置に復帰運動させる(戻す)戻しばねとを備える電気機械式のブレーキ力倍力装置に関する。ブレーキ力倍力装置は、特に自動車用として考えられている。
【0002】
電気機械式のブレーキ力倍力装置は公知である。公知の電気機械式のブレーキ力倍力装置は、液圧式の車両ブレーキ装置のマスタブレーキシリンダを筋力で操作可能な筋力伝達要素を有している。公知のブレーキ力倍力装置の筋力伝達要素は、ピストンロッドである。ピストンロッドは、ヒンジ式にフットブレーキペダル又はハンドブレーキレバーに接続されており、マスタブレーキシリンダのロッドピストンを押圧する。ピストンロッドは、ペダルロッドとも呼ばれ、ロッドピストンは、プライマリピストンとも呼ばれる。車両の運転者により及ぼされる筋力は、機械的に、筋力伝達要素を介してマスタブレーキシリンダのピストンに伝達される。
【0003】
さらに、公知の電気機械式のブレーキ力倍力装置は、マスタブレーキシリンダをやはり操作可能な電気機械式のアクチュエータを有している。電気機械式のアクチュエータにより及ぼされるアクチュエータ力は、補助力とも呼ばれる。ブレーキ操作が電気機械式のアクチュエータだけでなされる場合は、補助力ではなく外力と呼ばれる。
【0004】
電気機械式のアクチュエータは、電磁石、リニアモータ、又は下流に接続される回転/並進変換伝動装置を備える電動モータを有していてよい。これらの列挙は、限定列挙ではない。
【0005】
電気機械式のブレーキ力倍力装置の例は、ドイツ連邦共和国特許出願公開第10057557号明細書に記載されている。この公知の電気機械式のブレーキ力倍力装置は、ペダルロッドを筋力操作のために有し、選択的に電磁石又はリニアモータをマスタブレーキシリンダの補助力操作のために有している。公知の電気機械式のブレーキ力倍力装置は、1つの戻しばねを有している。この戻しばねは、ブレーキ力倍力装置を操作後にブレーキ力倍力装置の初期位置に復帰運動させる。戻しばねは、一般に、弾性変形可能な部材と解釈されることができ、ブレーキ力倍力装置の操作時に緊縮され、上述のように、ブレーキ力倍力装置を操作後にブレーキ力倍力装置の初期位置に戻す。公知のブレーキ力倍力装置は、圧縮コイルばねを戻しばねとして有している。戻しばねのばね力は、ブレーキ力倍力装置を短時間で初期位置に復帰運動させるのに十分な大きさでなければならない。その結果、例えば、フットブレーキペダルは、車両の運転者が足をブレーキ操作後にフットブレーキペダルから外したときに、車両の運転者の足にしたがって動く。車両ブレーキがブレーキの操作後に知覚可能な遅れをともなって解除されるという感覚を車両の運転者が受けることは望ましいことではない。また、車両ブレーキ装置は、車両が再び制動されずに転動するように、操作後に短時間で解除されることが望ましい。このことは、やはり、ブレーキ力倍力装置の急速な解除を前提としている。
【0006】
電気機械式のブレーキ力倍力装置の機能が通常通りであれば、戻しばねは、戻しばねの緊縮のために必要な力が電気機械式のアクチュエータにより加えられ、筋力により加えられる必要がないので、問題とはならない。しかし、電気機械式のアクチュエータが故障した場合、車両の運転者は、ブレーキ操作のために戻しばねを筋力で緊縮しなければならず、戻しばねのばね力は、マスタブレーキシリンダを操作する操作力を相応に小さくしてしまう。
【0007】
発明の開示
請求項1に記載の特徴を備える本発明に係る電気機械式のブレーキ力倍力装置は、少なくとも2つの戻しばねを有しており、戻しばねの一方は筋力伝達要素を戻すようになっている。他方の単数又は複数の戻しばねは、ブレーキ力倍力装置を戻すようになってはいるものの、力伝達部材を付勢するものではない。このことは、電気機械式のアクチュエータの故障時に車両の運転者がマスタブレーキシリンダを筋力で筋力伝達要素の戻しばねに抗してのみ操作すればよく、電気機械式のブレーキ力倍力装置を一般に戻すために、つまり、特に電気機械式のアクチュエータを戻すために存在している他方の単数又は複数の戻しばねに抗して操作する必要がないという利点を有している。それゆえ、電気機械式のアクチュエータの故障時、筋力の大部分を、マスタブレーキシリンダを操作するために利用可能である。
【0008】
従属請求項は、請求項1に記載の発明の有利な形態及び態様を対象としている。すなわち、本発明に係る電気機械式のブレーキ力倍力装置は、マスタブレーキシリンダを筋力で操作可能な筋力伝達要素と、前記マスタブレーキシリンダをやはり操作可能な電気機械式のアクチュエータと、前記ブレーキ力倍力装置を操作後に初期位置に復帰運動させる(戻す)戻しばねとを備える電気機械式のブレーキ力倍力装置において、前記ブレーキ力倍力装置が、少なくとも2つの戻しばねを備え、該戻しばねの一方が前記筋力伝達要素を戻し、該戻しばねの他方が前記アクチュエータを戻すことを特徴としており、好ましくは、前記筋力伝達要素のための前記戻しばねが、より小さなばね力を有する。また、好ましくは、前記アクチュエータが、電動モータ及び回転/並進変換伝動装置を備える。また、好ましくは、前記アクチュエータが、ラック伝動装置を回転・並進変換伝動装置として備える。また、好ましくは、前記アクチュエータが、前記電気機械式のアクチュエータのアクチュエータ力を前記マスタブレーキシリンダのピストンに伝達するための伸縮可能な倍力装置ボディを備える。
【0009】
請求項2に係る発明は、筋力伝達要素のための戻しばねが、単数又は複数の他方の戻しばねより小さなばね力を有することを特徴とする。この構成により、車両の運転者は、電気機械式のアクチュエータの故障時に、戻しばねを緊縮するために比較的小さな力を加えるだけでよく、その結果、車両の運転者によりブレーキ操作のために加えられる筋力の大部分は、実際にマスタブレーキシリンダを操作する。
【0010】
以下に、図面に示した一実施の形態を参照しながら本発明について詳説する。唯一の図面は、本発明に係る電気機械式のブレーキ力倍力装置の軸方向断面図を示している。図面は、発明の理解及び説明のための簡略化され概略化された図面と理解すべきものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る電気機械式のブレーキ力倍力装置の軸方向断面図である。
【0012】
発明の実施の形態
図面に示した本発明に係る電気機械式のブレーキ力倍力装置1は、筒状のハウジング2を有している。ハウジング2は、液圧式のマスタブレーキシリンダ3にフランジ固定されている。ブレーキ力倍力装置1のハウジング2内には、同軸的に、ペダルロッド4が配置されている。ペダルロッド4は、継手を介して、図示しないフットブレーキペダルに接続可能である。ペダルロッド4と、マスタブレーキシリンダ3のピストン5との間には、リアクションディスク6が配置されている。リアクションディスク6を介してピストン5は、マスタブレーキシリンダ3内に押し込み可能である。すなわち、マスタブレーキシリンダ3と、マスタブレーキシリンダ3に接続される図示しない液圧式の車両ブレーキ装置とは、自体公知の形式で操作可能である。操作は、図示しないフットブレーキペダルの踏み込みによって、つまり筋力によってなされる。ペダルロッド4は、一般に、筋力伝達要素19とも呼ばれる。
【0013】
ペダルロッド4は、同心的に倍力装置ボディ7内に配置されている。倍力装置ボディ7は、軸方向で移動可能にブレーキ力倍力装置1のハウジング2内に収容されている。倍力装置ボディ7は、外管8及び内管9を備えるツーピースの伸縮自在な管として形成されている。ペダルロッド4は、倍力装置ボディ7の、マスタブレーキシリンダ3から遠位の内管9内に移動可能に収容されている。内管9に対するペダルロッド4の移動距離は、連行子10により制限されている。倍力装置ボディ7の内管9は、柱面状の凹部を有している。この凹部内に上記リアクションディスク6が収容されている。倍力装置ボディ7の伸縮性は、ブレーキ力倍力装置1の構造長さの短縮を可能にする。
【0014】
ブレーキ力倍力装置1は、2つの戻しばね11,12を有している。両戻しばね11,12は、マスタブレーキシリンダ3に支持されている。強いほうの戻しばね11は、倍力装置ボディ7の外管8を押圧し、弱いほうの戻しばね12は、倍力装置ボディ7の内管9を押圧している。
【0015】
倍力装置ボディ7の外管8は、ラック13を有している。ラック13には、電動モータ15により駆動可能な歯車14が噛み合う。歯車14と電動モータ15との間には、図示しない減速伝動装置が接続可能である。ラック13及び歯車14は、ラック伝動装置を形成している。ラック伝動装置は、電動モータ15の回転駆動運動を、倍力装置ボディ7を移動させる並進運動に変換する。リアクションディスク6を介して、倍力装置ボディ7は、ピストン5をマスタブレーキシリンダ3内に押し込む、すなわち、マスタブレーキシリンダ3を操作し、マスタブレーキシリンダ3によって、図示しない液圧式の車両ブレーキ装置を操作する。倍力装置ボディ7、ラック伝動装置13,14及び電動モータ15は、電気機械式のブレーキ力倍力装置1の電気機械式のアクチュエータ16を形成している。
【0016】
リアクションディスク6は、ゴム弾性のディスクであり、ペダルロッド4及び倍力装置ボディ7の内管9がリアクションディスク6に及ぼす力をマスタブレーキシリンダ3のピストン5に伝達する。つまり、リアクションディスク6は合算要素あるいは合力要素(Summierelement)を形成している。
【0017】
マスタブレーキシリンダ3を操作するために、自体公知の形式で、図示しないフットブレーキペダルが踏まれて、フットブレーキペダルに接続されたペダルロッド4が、マスタブレーキシリンダ3に向かって押し込まれる。位置センサ18によって、倍力装置ボディ7の内管9に対するペダルロッド4の相対移動が測定され、図示しない電子式の制御装置によって、電気機械式のアクチュエータ16が制御される。例えば「ゼロ」制御が実施可能である。すなわち、アクチュエータ16の電動モータ15は、倍力装置ボディ7の内管9が相対運動なしにペダルロッド4とともに運動するように通電される。内管9の先行又は遅れも可能である。すなわち、内管9は、ペダルロッド4に先んじて移動するか、又はペダルロッド4に遅れて移動する。付加的に、ペダルロッド4の絶対的な移動は、ストロークセンサ17によって測定され、アクチュエータ16の電子制御に取り込まれる。ストロークセンサ17は必須ではなく、位置センサ18だけでのアクチュエータ16の制御で十分である。リアクションディスク6を介してペダルロッド4及び倍力装置ボディ7は、力を、マスタブレーキシリンダ3に向かってピストン5に及ぼす。すなわち、ペダルロッド4及び倍力装置ボディ7は、マスタブレーキシリンダ3を操作する。アクチュエータ16により及ぼされるアクチュエータ力に対する、ペダルロッド4を介して及ぼされる筋力の比、つまり電気機械式のブレーキ力倍力装置1の倍力係数は、図示しない制御部により設定可能であり、この力比は、ペダルロッド4の移動距離にわたって任意の経過を有していてよい。操作の終了後、つまり、筋力がもはやペダルロッド4に加えられなくなると、戻しばね11,12は、ブレーキ力倍力装置1をブレーキ力倍力装置1の図示の初期位置に押し戻す。この押し戻しは、復帰とも呼ばれる。
【0018】
電気機械式のアクチュエータ16が故障した場合、マスタブレーキシリンダ3の操作は、専ら筋力で行われる。その際、ペダルロッド4と、さらには連行子10を介して倍力装置ボディ7の内管9とは、マスタブレーキシリンダ3に向かって移動する。リアクションディスク6を介してペダルロッド4は、ピストン5を押圧し、マスタブレーキシリンダ3を操作する。内部で内管9が移動可能となった倍力装置ボディ7の外管8は、移動しない。それゆえ、倍力装置ボディ7の外管8を押圧するより大きなばね力を有する戻しばね11は、緊縮されない。緊縮されるのは、倍力装置ボディ7の内管9を押圧するより小さなばね力を有する戻しばね12だけである。それゆえ、電気機械式のアクチュエータ16の故障時、筋力だけでマスタブレーキシリンダ3を操作するために、小さいほうのばね力を有する戻しばね12だけを緊縮すればよく、大きいほうのばね力を有する戻しばね11を緊縮する必要がない。つまり、小さいほうのばね力を有する戻しばね12が、筋力を減殺するにすぎないので、所定の筋力で、ピストン5に加えられる操作力は、両戻しばね11,12を緊縮しなければならない場合に比べて大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機械式のブレーキ力倍力装置であって、マスタブレーキシリンダ(3)を筋力で操作可能な筋力伝達要素(19)と、前記マスタブレーキシリンダ(3)をやはり操作可能な電気機械式のアクチュエータ(16)と、前記ブレーキ力倍力装置(3)を操作後に初期位置に復帰運動させる(戻す)戻しばね(11,12)とを備える電気機械式のブレーキ力倍力装置において、前記ブレーキ力倍力装置(3)が、少なくとも2つの戻しばね(11,12)を備え、該戻しばね(11,12)の一方が前記筋力伝達要素(19)を戻し、該戻しばね(11,12)の他方が前記アクチュエータ(16)を戻すことを特徴とする、電気機械式のブレーキ力倍力装置。
【請求項2】
前記筋力伝達要素(19)のための前記戻しばね(12)が、より小さなばね力を有する、請求項1記載の電気機械式のブレーキ力倍力装置。
【請求項3】
前記アクチュエータ(16)が、電動モータ(15)及び回転/並進変換伝動装置(13,14)を備える、請求項1記載の電気機械式のブレーキ力倍力装置。
【請求項4】
前記アクチュエータ(16)が、ラック伝動装置(13,14)を回転/並進変換伝動装置として備える、請求項3記載の電気機械式のブレーキ力倍力装置。
【請求項5】
前記アクチュエータ(16)が、前記電気機械式のアクチュエータ(16)のアクチュエータ力を前記マスタブレーキシリンダ(3)のピストン(5)に伝達するための伸縮可能な倍力装置ボディ(7)を備える、請求項1記載の電気機械式のブレーキ力倍力装置。

【図1】
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【公表番号】特表2012−512775(P2012−512775A)
【公表日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−541249(P2011−541249)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【国際出願番号】PCT/EP2009/064187
【国際公開番号】WO2010/069658
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】