説明

電気浸透脱水装置の運転方法

【課題】農産物加工工場等で発生する汚泥や土砂などの被処理含水物を電気浸透脱水機を用いて脱水と同時に加温して減量すると共に、汚泥や土砂中のシストセンチュウを死滅させることができる電気浸透脱水装置の運転方法を提供する。
【解決手段】濾布よりなるコンベヤベルト1がローラ2,3間にエンドレスに架け渡されており、陰極4の上面に沿って無端回動可能とされている。コンベヤベルト1の搬送方向に陽極ユニット21〜25が配列されており、下面に陽極板33が設けられている。脱水工程及び移送・貯留工程で被処理含水物が30分以上にわたって70℃以上の温度となるように運転する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水の生物処理汚泥、上水汚泥や土砂などの含水物を脱水するための電気浸透脱水装置の運転方法に係り、特に被処理含水物中の菌を死滅させるように電気浸透脱水装置を運転する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排水の生物処理過程で発生する汚泥などの含水物を脱水処理する方法として、電気浸透脱水が周知である(特許文献1〜6、非特許文献1)。この電気浸透脱水処理では、被処理含水物に通電して、マイナスに荷電した汚泥を陽極側に引き寄せ、一方、汚泥の間隙水を陰極側に移動させて分離させながら加圧力をかけて脱水するため、機械的脱水処理の場合に比べて、脱水効率が高く、汚泥の含水率を更に低減することが可能である。
【0003】
特許文献1の電気浸透脱水装置は、無端回動する下側フィルタベルト(陰極)と無端回動する上側プレスベルト(陽極)との間で汚泥を電気浸透脱水処理するように構成したものである。
【0004】
特許文献2,6の電気浸透脱水装置は、上側プレスベルトとは別個に陽極としての電極ドラムを配置し、この電極ドラムによって上下のベルトを挟圧するように構成している。
【0005】
特許文献3の電気浸透脱水装置は、無端回動するコンベヤベルトの上に汚泥を供給し、コンベヤベルトの下側の陰極板とコンベヤベルトの上方の陽極ユニットとの間で含水物を挟圧すると共に電流を通電して電気浸透脱水するように構成したものである。陽極ユニットはコンベヤ移動方向に複数個配設されている。各陽極ユニットの底面部には水平な陽極板が設置されている。この陽極板はエアシリンダによって押し下げ可能とされると共に、スプリングによって引き上げ可能とされている。コンベヤは、陽極板を上昇させた状態で、1スパン(陽極ユニットの設置間隔)分だけ含水物を移動させる。
【0006】
特許文献4,5の電気浸透脱水装置は、両極を有した左右1対の濾板の間に2葉の濾布を配置している。濾布同士の間に汚泥を供給し、濾布を介して汚泥を挟圧すると共に、電極間に通電することにより、汚泥が電気浸透脱水処理される。処理後は、濾板を離反させ、次いで濾布同士を離反させて脱水物を取り出す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−189311
【特許文献2】特開平6−154797
【特許文献3】WO2007/143840
【特許文献4】特公平7−73646
【特許文献5】特許第3576269
【特許文献6】特開昭63−256112
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】水処理管理便覧(平成10年9月30日丸善)P.339〜341
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、北海道においてはジャガイモシストセンチュウによる被害が拡大し大きな問題となりつつある。シストセンチュウが発生した土壌は、ジャガイモの生育に多大な被害を及ぼすため、例えば種イモをある地域から他の地域に移して栽培し生育する場合、シストセンチュウに汚染されていない種イモ(シストセンチュウを含まない付着土壌)を使用する必要がある。また、一つの畑でジャガイモのほかにビートや他の作物を輪作している場合、ビートに付着した土壌がシストセンチュウに汚染されていると、同じくこの汚泥を他の地域に戻して埋めることはシストセンチュウ汚染を広げることになる。食品加工工場にても、野菜やイモ原料の洗浄、流送時に回収排出される土砂やSSにはシストセンチュウが混入している可能性もある。これらの流送水処理を行っている活性汚泥設備の余剰汚泥中にもシストセンチュウが存在している危険性もある。安易に余剰汚泥を畑還元した場合、センチュウの蔓延を助長してしまう。
【0010】
本発明は、農産物加工工場等で発生する汚泥や土砂などの被処理含水物を電気浸透脱水機を用いて脱水と同時に加温して減量すると共に、汚泥や土砂中のシストセンチュウを死滅させることができる電気浸透脱水装置の運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の電気浸透脱水装置の運転方法は、対向配置された電極と、対向する電極間に通電する通電手段と、対向する電極同士の間に配置された濾材と、該濾材同士の間又は濾材と一方の電極との間の電気浸透脱水処理部で被処理含水物を挟圧するための挟圧手段とを有する電気浸透脱水装置で被処理含水物を脱水する方法において、脱水工程及び移送・貯留工程で被処理含水物が30分以上にわたって70℃以上の温度となる条件を満たすように運転することを特徴とするものである。
【0012】
請求項2の電気浸透脱水装置の運転方法は、請求項1において、前記条件を満たすように被処理含水物に水又は電解質溶液を添加することを特徴とするものである。
【0013】
請求項3の電気浸透脱水装置の運転方法は、請求項1において、前記条件を満たすように脱水処理時間を調整することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、電気浸透脱水装置において、脱水工程及び移送・貯留工程で被処理含水物が30分以上にわたって70℃以上の温度となるように脱水処理を行う。これにより、汚泥や土砂中のシストセンチュウを死滅させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)図は実施の形態に係る洗浄方法が適用される電気浸透脱水装置の概略的な縦断面図、(b)図は(a)図のB−B線に沿う断面図である。
【図2】図1の電気浸透脱水装置のコンベヤベルト搬送時の概略的な縦断面図である。
【図3】別の実施の形態に用いられる電気浸透脱水装置の概略的な縦断面図である。
【図4】実施例に用いた電気浸透脱水装置の概略的な縦断面図である。
【図5】実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。第1図(a)及び第2図は、第1の実施の形態に係る洗浄方法が適用される電気浸透脱水装置の長手方向(ベルト回動方向)に沿う縦断面図であり、第1図(b)は第1図(a)のB−B線に沿う断面図である。なお、第1図は脱水工程の様子を示しており、第2図は、この電気浸透脱水装置のベルト送り工程の様子を示している。なお、第2図ではトレー6及び配管7の図示が省略されている。
【0017】
[電気浸透脱水装置の説明]
第1,2図の通り、濾布よりなるコンベヤベルト1がローラ2,3間にエンドレスに架け渡されており、無端回動可能とされている。
【0018】
このコンベヤベルト1の上面側が搬送側となっており、下面側が戻り側となっている。コンベヤベルト1の搬送側の下面に板状の陰極4が配置されている。この陰極4は金属などの導電材よりなる板状部材であり、上下方向に貫通する多数の孔を有している。陰極4はローラ2の直近からローラ3の直近まで延在している。
【0019】
このコンベヤベルト1の上面(搬送部)の搬送方向上流部に被処理含水物(この実施の形態では汚泥S)を供給するようにホッパー5が設けられている。
【0020】
陰極4の下側に、陰極4の前記孔を通って落下してくる濾液を受けとめるトレー6が設けられている。
【0021】
トレー6で集められた濾液は、配管7を介して水処理設備へ送られる。なお、一部の濾液をホッパー5に返送して汚泥に添加してもよい。
【0022】
コンベヤベルト1の搬送部の上方に陽極ユニット21,22,23,24,25が設置されている。なお、第1図(b)の通り、コンベヤベルト1の搬送部の両サイドに非導電性の側壁板20が立設されており、コンベヤベルト1上の汚泥が側方へはみ出ないように構成されている。陽極ユニット21〜25は側壁板20,20間に配置されている。
【0023】
この実施の形態では陽極ユニットがコンベヤベルト搬送方向に5個配置されているが、これに限定されない。陽極ユニットは、コンベヤベルト搬送方向に通常は2〜5個程度配置されていればよい。
【0024】
各陽極ユニット21〜25は、下面に陽極板33を備えている。各陽極ユニット21〜25はエアシリンダ(図示略)によって上下動可能とされている。なお、陽極板33のみを上下動させるようにしてもよい。
【0025】
各陽極ユニット21〜25の陽極板33と陰極4との間に直流電源装置(図示略)から直流電流が通電される。
【0026】
このように構成された電気浸透脱水装置によって汚泥の脱水処理を行うには、ホッパー5内に供給された汚泥Sをコンベヤベルト1上に送り出し、各陽極ユニット21〜25に直流電流を通電すると共に、この汚泥を陽極ユニット21〜25の陽極板33で上方から押圧する。
【0027】
電圧は、陽極ユニット21〜25が正、陰極板4が負となるように印加される。各陽極ユニット21〜25に対し同一の電圧を印加するのが装置の運転管理を容易とする点からして好適であるが、搬送方向下流側ほど電圧を高くしたり、逆に低くしたりしてもよい。また、各陽極ユニットの電流値が同一となるように通電制御してもよい。
【0028】
各陽極ユニット21〜25のエアシリンダに対し同一の圧力のエアを供給してもよく、下流側の陽極ユニットほど供給エア圧を大きく又は小さくするようにしてもよい。
【0029】
このように陽極ユニット21〜25と陰極板4との間に通電すると共に陽極ユニット21〜25の陽極板33で汚泥をプレスすることにより、汚泥が電気浸透脱水される。そして、脱水濾液がコンベヤベルト1を透過し、陰極板4の孔を通過してトレー6上に落下する。トレー6上に落下した濾液は、水処理設備に送られて処理する。なお、このトレー6からの電気伝導率の高い濾液をホッパー5内に供給するようにした場合には、被処理汚泥の電気伝導率が高くなり、陽極ユニット21〜25と陰極板4との間の汚泥の電気伝導率が高くなり、脱水性が向上する。これにより、得られる脱水汚泥の含水率が低いものとなる。
【0030】
第1図のように各陽極ユニット21〜25に通電すると共に、陽極ユニット21〜25によって汚泥をプレスするときには、コンベヤベルト1は停止している。陽極ユニット21〜25によって所定時間プレス及び通電を行った後、各陽極ユニット21〜25を上昇させる。なお、前述の通り、陽極板33のみを上昇させるように構成してもよい。そして、コンベヤベルト1を陽極ユニット21〜25の配列ピッチの1ピッチ分だけ移動させる。これにより、陽極ユニット25の下側に位置していた汚泥は、脱水汚泥として送り出され、各陽極ユニット21〜24の下側に位置していた汚泥はそれぞれ1段だけ下流側の陽極ユニット22〜25の下側に移動する。コンベヤベルト1の搬送面の末端側の脱水汚泥は、ローラ3を通り過ぎた位置でコンベヤベルト1から送り出される。また、ホッパー5から未脱水処理汚泥が陽極ユニット21の下側に導入される。次いで、各陽極ユニット21〜25を押し下げると共に各陽極ユニット21〜25と陰極4との間に通電し、汚泥の電気浸透脱水処理を行う。以下、この工程を繰り返すことにより、汚泥を電気浸透脱水処理する。
【0031】
[脱水途中の汚泥の温度管理]
陰極4と接するように、又は汚泥上面と接するように温度センサを設け、汚泥温度を検知する。また、被処理含水物の貯留槽(例えば脱水汚泥貯留汚泥ホッパー)にも汚泥温度を検知する。脱水工程での汚泥が4分以上、例えば、4〜6分、特に4分にわたって75℃以上、例えば75〜80℃となるように運転する。その結果、脱水工程および移送・貯留工程で、被処理含水物が30分以上にわたって70℃以上の汚泥条件となる。例えば、被処理含水物に水や電解質溶液を添加すると、脱水汚泥の温度が上昇するので、汚泥温度に応じて水又は電解質溶液を添加する。電解質溶液としては、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化カリウムなどの塩の溶液や、塩酸、硫酸、硝酸などの酸の溶液が例示されるが、これに限定されない。
【0032】
上記実施の形態では、陽極ユニット21〜25とコンベヤベルト1及び陰極4によって汚泥を電気浸透脱水する電気浸透脱水装置に本発明方法を適用しているが、本発明は別型式の電気浸透脱水装置にも適用可能である。例えば、第3図のように陽極ドラム61と、陰極を兼ねるコンベヤベルト62との間で汚泥Sを挟圧する電気浸透脱水装置60にも本発明を適用できる。また、図示はしないが、本発明は濾材同士の間で被処理物を挟圧する形式の電気浸透脱水装置にも適用することができる。例えば、前記特許文献4(特公平7−73646)、特許文献5(特許第3576269)、非特許文献1(水処理管理便覧P.340表8・6)のように1対の濾板間で圧搾膜及び電極を介して汚泥を挟圧する加圧圧搾型電気浸透脱水装置にも適用することができる。
【実施例】
【0033】
第4図に示す電気浸透脱水装置によって、試料として遊離土又はフリューム土の脱水試験を行った。なお、遊離土とは、農産物を畑から工場構内及び貯蔵地に運搬し堆積する際に除土機より発生する土砂および農産物の葉や根のかけらなどが混合した土砂である。また、フリューム土とは、農産物を移送した流送水から分離された土砂であり、農産物が削れて混合した農産物成分や農産物のひ毛、かけらなどが混合した土砂である。
【0034】
第4図の電気浸透脱水装置では3個の陽極ユニット21,22,23を設置してある。第4図のT〜Tの4地点に温度センサを設置して温度を測定した。脱水処理前の各試料の温度は25℃、気温25℃、1回の脱水運転時間5分、加圧圧力0.02MPaである。
【0035】
試験No.1,3では試料に何も添加せず、試験No.2,4では試料に水を表1の割合で添加し、試験No.5では電解質溶液としてNaSO5%溶液を0.2%添加した。脱水前後の含水率及び各地点T〜Tの温度の測定結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1の温度Tの通り、水又は電解質溶液を添加することにより、脱水物の温度が70℃以上に到達することが認められた。
【0038】
<実験1>
本発明の効果を確認するために次の実験を行った。
【0039】
直径100mmの電極間に試料としてビート製糖工場内の貯蔵地の土砂(脱水前含水率66%)150gを挟み、直流60Vを印加すると共に、0.02MPaにて加圧し、通電電流値と濾液量経時変化を測定した。なお、陰極を下側とし、陰極には直径0.5mmの小孔を100個貫通させてある。試料温度、濾液温度及び積算濾液量の経時変化を第5図に示す。なお、10分後に試料を取り出して含水率を測定したところ32%であった。
【0040】
第5図の通り、65℃以上にするには電気浸透脱水時間を5分以上にする必要がある。本試験時の周辺気温は25℃であった。しかし、冬季などで脱水機周辺気温が低下する場合には、気温や電気浸透前の脱水ケーキ温度が低くなるので運転時間を延長して土砂温度を高くすることができる。
【符号の説明】
【0041】
1 コンベヤベルト
2,3 ローラ
4 陰極
5 ホッパー
6 トレー
21〜25 陽極ユニット
33 陽極板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向配置された電極と、
対向する電極間に通電する通電手段と、
対向する電極同士の間に配置された濾材と、
該濾材同士の間又は濾材と一方の電極との間の電気浸透脱水処理部で被処理含水物を挟圧するための挟圧手段と
を有する電気浸透脱水装置で被処理含水物を脱水する方法において、
脱水工程及び移送・貯留工程で被処理含水物が30分以上にわたって70℃以上の温度となる条件を満たすように運転することを特徴とする電気浸透脱水装置の運転方法。
【請求項2】
請求項1において、前記条件を満たすように被処理含水物に水又は電解質溶液を添加することを特徴とする電気浸透脱水装置の運転方法。
【請求項3】
請求項1において、前記条件を満たすように脱水処理時間を調整することを特徴とする電気浸透脱水装置の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−183453(P2012−183453A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46571(P2011−46571)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】