説明

電気溶接回路の変数を判定する方法及び器具

本発明は、溶接電流(Is)又はそれより小さいパイロット電流(Ip)のいずれかを供給するように設計された電力供給装置(24)に接続された溶接回路(32)の電気変数(R3、L3)を判定する方法に関し、電力供給装置(24)はパイロット電流(Ip)を供給するための入力回路(40)を有し、入力回路(40)は溶接電流(Is)を供給するためにブリッジされ、この方法は、a)入力回路(40)がブリッジされていないときに第1の電気変数(R3)を判定するステップと、b)入力回路(40)がブリッジされているときに第2の電気変数(L3)を判定するステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力供給装置に接続された溶接回路の電気変数を判定する方法に関する。本発明はまた、溶接プロセスを制御する方法、及び、スタッド溶接設備のような溶接器具に関する。
【背景技術】
【0002】
引き上げアーク溶接(drawn−arc welding)の過程で生じたアークを用いて加工物上にスタッドを溶接するスタッド溶接設備は、溶接回路の一部を形成する少なくとも1つの接続ラインを介して、スタッドを保持する溶接ヘッドに接続された電力供給装置を有し、さらに制御装置を有する。
現代のスタッド溶接設備においては、より上手くプロセスを制御し、溶接結果をチェックすることを可能にするために、アーク電圧が測定される。
アーク電圧を測定するためには、電力供給装置から溶接ヘッドまでの接続ラインと並列に測定ラインを敷設することが知られている。これにより、スタッドホルダと、測定される加工物上の接地との間のアーク電圧を直接測定することができる。この方法は非常に正確であるが、機械的故障の影響を受けやすいため、故障を調整するためのシャットダウン時間を必要とすることがある。
【0003】
電力供給装置の出力端子におけるアーク電圧の直接測定は、極めて誤差の影響を受けやすい。これは、溶接ヘッドへの接続ラインが、電気抵抗(非リアクタンス性抵抗)とインダクタンスとを含むためである。電力供給装置の出力端子において測定が行われる場合、抵抗及びインダクタンスによる電圧降下も測定される。このことが、50%を上回る測定誤差を生じさせることがある。
溶接回路の抵抗を、付加的な電気回路により測定することも知られている。この場合は、溶接回路の抵抗による電圧降下が、電力供給装置の出力端子において測定される電圧から差し引かれ、従って、その結果得られる計算されたアーク電圧は、主として溶接回路のインダクタンスによる電圧降下を無視することによって生じる不正確さを伴う。
【0004】
特許文献1は、溶接プロセス電圧を判定する方法を開示し、ここでは、溶接プロセス電圧は、加工物と、消耗電極を用いた連続アーク溶接のための溶接バーナとの間で判定される。溶接プロセス電圧は、メッシュ方程式を用いて、溶接設備のインダクタンス及び抵抗を含む外乱変数を考慮してリアルタイムで計算され、このインダクタンス及び抵抗は静的測定法により求められる。外乱変数の静的計算は、この場合、電極と加工物との間で短絡を生じさせて行うことができる。
特許文献2は、導電性部品上へのスタッド溶接中の品質検査方法を開示する。この場合、溶接時間の後、スタッドを部品上に押し付ける圧力が維持され、溶接時間に続く待機時間の後、特定の試験時間にわたって、試験電流、具体的には一定の試験電流パルスが溶接変圧器を通って流される。試験電流パルスの結果としてスタッドを通って流れる試験電流が求められ、生成された溶接の質を検査するために、この試験電流の値が前もって求められた比較値と比較される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】欧州特許第1 183 125 B1号
【特許文献2】独国特許出願公開第2005 053 438 A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の背景に対して、本発明の1つの目的は、スタッド溶接設備に特に適した、溶接回路の電気変数を判定するためのより良い方法及びより良い器具を特定することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的は、溶接電流又はそれより小さいパイロット電流のいずれかを供給するように設計された電力供給装置に接続された溶接回路の電気変数を判定する方法により達成され、この電力供給装置はパイロット電流を供給するための入力回路を有し、この入力回路は溶接電流を供給するためにブリッジされ、この方法は、
a)入力回路がブリッジされていないときに第1の電気変数を判定するステップと、
b)入力回路がブリッジされているときに第2の電気変数を判定するステップと
を含む。
【0008】
引き上げアーク溶接法を用いて動作するスタッド溶接設備は、すべてのパスの最初に、例えば20アンペアの比較的小さいパイロット電流を、溶接回路を通して流し、これによってアークを生じさせることができる能力を含む。実際の溶接電流(2000アンペアまで)は、これが行われて初めて設定される。現代のスタッド溶接設備は、単一のエネルギー源を用いて、パイロット電流アークを生じさせるバイアス電流又はパイロット電流、並びに、実際の溶接プロセスのための溶接電流を生成することを可能にする。パイロット電流は溶接電流と比較すると非常に小さいため、パイロット電流は、入力回路の一部である大きいインダクタンスを用いて安定させなければならない。この入力回路は、溶接電流の上昇率が制限されないようにするために、溶接電流の開始時にスイッチを用いてブリッジされる。入力回路のインダクタンスは、溶接回路のインダクタンスより10,000倍大きくすることができる。
溶接回路の第1の電気変数がステップa)で判定される場合には、この理由のために、溶接回路のインダクタンスは無視できる。従って、第1の電気変数は、溶接回路のインダクタンスを無視して計算することができる。一例として、このことは、それ自体公知のメッシュ方程式を用いることにより行うことができる。ステップb)において、第2の電気変数は、入力回路がブリッジされているときに判定され、すなわち、入力回路のインダクタンスはやはり測定には含まれない。
溶接回路の電気変数をこのように判定することができるので、いかなるハードウェアの複雑さも追加することなく、アーク電圧を簡単かつ正確に計算することができる。溶接ヘッドに至るいかなる測定ラインも必要ない。
【0009】
本発明によると、上述の判定方法はまた、溶接プロセスを制御する方法にも用いることができる。さらに、判定方法は、電源装置と、この判定方法を行うように設計された制御装置とを有する溶接器具において用いることができる。
具体的には、溶接器具は、本発明による判定方法を行うように設計された制御装置を有する、上述のタイプの溶接器具とすることができる。
本発明の第2の態様によると、上述の目的は、本発明の第1の態様による判定方法と有利に組み合わせることができるが、必ずしもそうでなくてもよい、溶接プロセスを制御する方法により達成される。本発明の第2の態様による溶接プロセスを制御する方法において、溶接回路の数学的モデルが制御観測器を形成し、少なくとも1つの溶接パラメータが、観測器に含まれる状態変数の関数として設定される。
従って、目的は完全に達成される。
【0010】
本発明の第1の態様において、第1の電気変数が溶接回路の電気抵抗であることが特に好ましい。
このことは、溶接回路のインダクタンスがパイロット回路のインダクタンスよりはるかに小さく、結果として電気抵抗の判定において無視することができる場合に特に当てはまる。
従って、第2の電気変数が溶接回路のインダクタンスであることが、同様に有利である。
入力回路がブリッジされると、入力回路のインダクタンスは無効になり、その結果として、溶接回路のインダクタンスを求めることができる。
【0011】
全般的に、ステップa)及び/又はステップb)は溶接プロセスの過程で行われることも好ましい。
これにより、溶接回路の電気変数を「オンライン」、すなわち、実際の溶接プロセスに関してリアルタイムで判定することが可能になる。結果として、溶接プロセス時に、電気変数を正確に判定することを保証することが可能になる。
この場合、溶接電圧が短絡され、かつパイロット電流のスイッチがオンにされたときにステップa)を行うことが特に有利である。
一例として、このことは、スタッド溶接プロセスの過程で、スタッドが加工物上に置かれ、かつパイロット電流のスイッチがオンにされたとき、すなわち、アークが生じる直前に行うことができる。
さらなる好ましい実施形態によると、ステップb)は、溶接電圧が短絡され、かつ電流がパイロット電流から溶接電流まで増大する前に行われる。
この場合、ステップb)は、スタッド溶接プロセスの場合には、例えば、スタッドが加工物上に置かれ、かつパイロット電流のスイッチがオンにされたときに行われる。この場合、入力回路は、第2の電気変数を判定する目的のためにブリッジされる。この場合、その後、入力回路が再度ブリッジされていないときに引き上げアーク溶接のためにスタッドを加工物から持ち上げることを可能にするために、溶接回路は短い測定期間でブリッジすることが好ましい。これは、この場合、電流を安定させるためには入力回路の比較的高いインダクタンスが必要であるからである。
【0012】
サイリスタを用いて入力回路をブリッジすることが好ましい。これは、一般に認められているように、測定期間を開始するために、「負荷時」にスイッチをオンにすることができる。サイリスタは一般に、負荷時にスイッチをオフにできないため、この場合、ひとたび測定期間が終了すると、パイロット電流を短時間、再度ゼロまで減少させることが必要であり得る。このことは、現代の電源装置に用いられるようなクロック制御されたスイッチモード電源を用いる場合には、問題ない。
測定期間は、本例においては判定期間と呼ばれる。
【0013】
上述の実施形態によると、第2の電気変数は、溶接電流のスイッチがオンにされる前に判定されることが好ましい。代替的な実施形態によると、ステップb)を、溶接電流が降下している間、すなわち、溶接電流のスイッチがオンにされた後、かつ溶接電圧が再度短絡された後で、行うことが可能である。
例えば、スタッド溶接プロセスの場合、このことは、表面の溶融後にスタッドが加工物上に下されるとすぐに行うことができる。この場合、アーク、すなわち溶接電圧は短絡される。この場合、電流のスイッチは通常すぐにオフにされるが、電流は、溶接回路内のインダクタンスのせいで比較的ゆっくりと低下する。ステップb)は、溶接電流が再度ゼロに降下するまで行うことができる。
【0014】
溶接プロセスの過程において溶接回路の電気変数を判定することが好ましいが、もちろん、溶接プロセス前又は後、すなわち「オフライン」で、ステップa)及び/又はステップb)を行うことも可能である。この場合、電気変数は、必要に応じて、溶接プロセスとは完全に独立して、すなわち、例えば、10回、100回、又は1000回の溶接プロセス毎に判定することができる。電気変数は、一般に、急速に変化しないため、このような間隔でこれらを判定するだけで十分であり得る。
第1の電気変数を判定するステップa)の結果を、第2の電気変数を判定するステップb)で用いることは特に好ましい。
ステップb)においては、一例として、抵抗及びインダクタンスの両方が溶接回路内に存在し、インダクタンスは無視できないので、抵抗が既に判定されている場合には、インダクタンスは簡単な方法で確証することができる。
【0015】
本発明により判定された溶接回路の電気変数を用いて溶接プロセスを制御する方法において、例えば、電気変数の変化により引き起こされる溶接電流のdI/dtの変化を確認することができる。その後、このような変化は、溶接時間を長くする又は短くすることにより、正確に言うと「オンライン」で、かつ位置に関連した基準で(position−related basis)、補償することができる。
さらに、溶接電圧、具体的にはアーク電圧における変化により引き起こされる溶接電流のdI/dtにおける変化を、正確に言うと特に電流が一定である場合、確認することができる。これらの変化もまた、上述したように、対応する方法で補償することができる。
さらに、溶接回路の電気変数が既知の場合、溶接電圧、具体的にはアーク電圧により制御される、例えば短絡の確認のような溶接プロセスのイベント・トリガリングを、より簡単に行うことができる。短絡が発生した場合には、溶接中のイベント・トリガリングを用いて、溶接電流のスイッチを非常に素早く、好ましくは、<1から10μ秒の時間間隔でオフにすることができ、従って、スタッドと加工物との間の短絡のトリガリングを、円滑に、かつ液体状の短絡リンク内でいかなる大きな爆発も生じさせることなく行うことができる程度まで、溶接電流を減少させることが可能である。さらに、イベント・トリガニングの結果として、溶接電流を元のレベル又は異なるレベルで再度オンにすることができ、短絡は新しいアークの発生直後にトリガされる。このことは、<1μ秒から100μ秒の時間間隔で行うことができる。
これらは両方共、電源ユニット内のクロック制御されたハーフブリッジ又はフルブリッジトランジスタ回路を用いて適切に行われ、そのクロック周波数は20kHzから200kHzまでの間とすることができる。
【0016】
さらに、このようにして判定された電気変数は、溶接回路又はスタッド溶接設備に必要な修理又はメンテナンス作業についてのステートメントを作成することを可能にするために、溶接回路のパラメータ監視に組み入れることができる。
全般に、本発明による電気変数を判定する方法は、いかなるハードウェアの複雑さも追加することなく行うことができることが特に好ましい。実際、本発明による方法を行うために、特にスタッド溶接設備にはいずれの場合でも存在する電源装置であって、内部に入力回路を含み、その入力回路の切換能力を含む電源装置が用いられる。
電源装置は、直流及び/又は交流のいずれかとして溶接電流を生成するクロック制御されたエネルギー源を含むことが好ましい。
【0017】
上述された特徴及び以下の本文でこれから説明される特徴は、本発明の範囲から逸脱することなく、それぞれの説明された組み合わせで用いられるのみならず、他の組合せ又はそれ自体で用いることができることが自明である。
本発明の例示的な実施形態は、以下の説明においてより詳細に述べられ、図面に示される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】スタッド溶接設備の概略図を示す。
【図2】電力供給装置の入力回路及び溶接回路の電気変数の回路図を示す。
【図3】制御観測器を備えた電力供給装置の概略図を示す。
【図4】溶接プロセス中の、スタッドの動き、電流、アーク電圧、入力回路のスイッチ位置、及び判定期間のタイミング図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1において、スタッド溶接設備は全体的に10で示される。スタッド溶接設備10は、導電性材料からなるスタッド12を導電性材料からなる加工物14に溶接するために、その都度用いられる。
スタッド溶接設備10は、少なくとも1つのアーム18を有するロボット16を含む。溶接ヘッド20がアーム18の端部に配置される。導電性のスタッドホルダ22が溶接ヘッド20内に設けられ、溶接されるスタッド12をその都度保持する。
これの代替法として、溶接ヘッド20は、手で操作する溶接ガン上に設けることもできる。
【0020】
さらに、溶接設備10は、電流源を与えるためのパワーエレクトロニクス26を含む電力供給装置24を含む。電力供給装置24は、溶接回路電圧が印加される出力端子28a、28bを有する。
電力供給装置24は、溶接プロセス手順を制御する、関連付けられた制御装置30を有する。
溶接回路32は、出力端子28a、28bに接続され、電力供給装置24から溶接ヘッド20に至る少なくとも1つの接続ライン34を含む。一般に、2つの出力端子28a、28bを、それぞれの接続ラインを介して溶接ヘッド20に接続することができる。
これの代替法として、図1に示すように、出力端子のうちの一方(28b)は接地36に接続される。
この場合、同様に図1に示すように、加工物14もまた接地36に接続される。
スタッド溶接プロセス中に生じるアークは38で示される。
【0021】
図2は、電力供給装置24の一部及び溶接回路32の回路図を示す。
接続ライン34があるので、溶接回路32は、本質的に、インダクタンスL3と電気抵抗R3とを有する。スタッド12と加工物14との間にアークが生じると、このアーク38にわたってアーク電圧Ulが降下する。溶接プロセスの過程の間中、パイロット電流Ip又は溶接電流Isのいずれかが溶接回路32を通って流れる。
電力供給装置24は、これ以上は詳細に示されていないが、2つの端子に電流を供給するパワーエレクトロニクスを有する(図2の左に示される)。ダイオードD1が、端子と並列に接続される。さらに、電力供給装置24は、インダクタンスL1を含むが、本例においては、これは無視することができる。
【0022】
測定抵抗R1及び入力回路40は、ダイオードD1と出力端子28a、28bとの間に直列に接続される。電圧UR1は測定抵抗R1を通って降下する。抵抗R1は既知なので、溶接回路32をその都度流れる電流は、電圧UR1の測定から求めることができる。溶接回路電圧USKを測定する測定装置が、出力端子28a、28bと並列に接続される。測定抵抗R1と出力端子の一方28aとの間に配置される入力回路40は、非常に高いインダクタンスL2及び抵抗器R2を含む。入力回路40は、スイッチS1によりブリッジすることができる。
図示される回路図の既知の変数は、L1、R1、L2、R2、ダイオードD1を通って降下する電圧UD1、抵抗R1を通って降下する電圧UR1、及び溶接回路電圧USKである。溶接プロセスを制御するためには、それぞれのアーク電圧ULをできるだけ正確に知ることが重要である。最初に述べたように、これは、測定端子をスタッド12(又はスタッドホルダ22)上及び加工物上に直接配置して、適切な測定装置により測定することができる。しかしながら、本例においては、溶接回路電圧USKだけを測定することにより、アーク電圧ULを同様に正確に求めることができる。このための1つの前提条件は、溶接回路32のそれぞれの電気変数、すなわち、インダクタンスL3及び抵抗R3が既知であることである。
【0023】
抵抗R3は、スイッチS1が開いた状態で、正確に言うとアークが短絡している(すなわち、UL=0)ときに、メッシュ方程式を立てることにより計算で求めることができる。
この状況において、L2>>L3であるので、インダクタンスを通って降下する電圧UL3は無視することができ、ゼロに設定される。
その結果、メッシュ方程式は、以下の通りになる。
L1+UD1+UR1+UL2+UR2+UR3=0 又は
Sk+UR3=0
溶接回路32を通って流れる電流は、UR1の測定により既知であるため、電圧UR3はこの方程式から求めることができ、結果として、電気抵抗R3も、U=R・Iを用いてここから求めることができる。
【0024】
インダクタンスL3を判定する第2のステップにおいて、スイッチS1は閉じられる。この場合、アークは依然として短絡されている(すなわち、UL=0)。
この状況において、メッシュ方程式は、
L1+UD1+UR1+UL3+UR3=0 又は
SK+UL3+UR3=0
となる。
3と、その結果としてUR3とが既知なので、L3は、その結果として、式UL3=L3・dI/dtを用いて計算することにより求められる。
3及びR3が求められると、アーク燃焼時のアーク電圧ULは、以下のメッシュ方程式から、簡単な方法で求めることができる。
SK+UL3+UR3+Ul=0
【0025】
図3は、溶接制御プロセスに観測器を組み入れたオプションを模式的に示す。
溶接回路32についての数学的モデルと、必要であれば電力供給装置24の数学的モデルを決定することができ、制御観測器44の対象物とすることができる。観測器44は、この場合、実際の溶接プロセスと並行して、溶接プロセスにその都度存在する状態変数を数学的にシミュレートする。これにより、測定によって直接記録することができない変数さえも、観測器の状態変数によって求めることが可能になる。制御観測器44の原理は公知である。状態変数は、観測器44の測定可能な入力及び出力変数から決定される。観測器44において用いられ計算される状態変数は、正確に言うとそれ自体で又は冗長形態のいずれかで、溶接制御を決定するため又は測定結果の妥当性をチェックするために使用することができる。
それ自体の公差及び従属性を有する非常に多数の構成部品が溶接プロセスに影響を与えるので、この従属性は、観測器44によって低減することができ、理想的な場合には排除することができる。
【0026】
図4は、溶接プロセス42と、溶接回路の電気的変数を判定するための判定期間を組み入れたオプションとを模式的な形で示す。
図4において、Bは、加工物14に対するスタッドの動きを示す。これがゼロであるとき、スタッド12は加工物14と接触している。
溶接電流Isの値及びパイロット電流Ipの値が、電流iのタイミング図にプロットされている。対応して、図中のアーク電圧はULである。アーク電圧と電流の相対的な大きさは縮尺通りに示されているものではなく、より分かり易く例証するために変形されている。
図中、S1はスイッチS1の位置を表わす。最後に、判定期間が図Mにプロットされている。
【0027】
スタッド溶接プロセスは、最初に、スタッド12が加工物14と接触するまで、スタッド12を加工物14の上に下降させることにより行われる(時間t1)。次にパイロット電流Ipのスイッチがオンにされる(時間t2において)。
時間t7において、スタッド12は加工物14から持ち上げられ、アークが発生し、対応するアーク電圧ULPが発生する。入力回路は時間t8でブリッジされ、すなわち、スイッチS1が閉じられる。すると電流は、溶接電流Isまで増大する(時間t9において)。2000アンペアまでの比較的高い溶接電流が、スタッド12及び加工物14の互いに対向する表面を融合させる。時間t10において、溶融物を完全に混合するために、スタッド12を再び、加工物14の上まで、正確に言うとゼロ位置の下まで下降させる(時間t10)。そして溶接電流のスイッチが切られる。この溶接電流がゼロになるとすぐ、スイッチS1を再度開くこともできる(時間t11)。
【0028】
電気抵抗R3の判定は、時間t3、すなわち、パイロット電流IPのスイッチがオンであって、アーク電圧ULが依然として短絡されている時点で開始する、判定期間TR中に行うことができる。判定期間TRはt4で終了する。
これに続いて、インダクタンスL3を、第2の判定期間TLにおいて、すなわち時間t5から時間t6までの間に判定することができる。この場合にも、アーク電圧ULは依然として短絡されている。この場合、スイッチS1は判定期間TLの間中、閉じられている。判定期間TLの後、アークが生じる時間t7における電流を安定させるために、スイッチS1は再び開かれる。スイッチS1がサイリスタの形態である場合には、これをt6で開くことができるようにするためには、サイリスタ上にいかなる負荷もない状態でこれを切り換えるために、パイロット電流Ipを短時間、再度ゼロまで減少させることが必要であり得る。このことは、電流の図中に模式的に示されている。さらに、電流の図は、電流の変化(dI/dt)に基づいてインダクタンスを測定することを可能にするために、判定期間TLの間に電流を変化させることができることを示す。
図4は、インダクタンスL3を、時間t10と時間t11との間(判定期間TL’)において判定することもできることを示す。
【0029】
電圧UR1及びUSKの測定記録は、便宜上、電力供給装置におけるパワートランジスタのスイッチオン及びスイッチオフのプロセス外で、正確に言うと、好ましくは、トランジスタが確実にスイッチオン及び/又はオフされる時間間隔の間に少なくとも2回行われる。そして、これはまた、計算に必要なdI/dt値、及びIp及びIsの平均値を求めることを可能にする。
時間プロファイルの記録及び計算の測定は、パワートランジスタのスイッチング周波数に対して必ずしも1:1で行う必要はないが、分解能の要件に応じて、率で1:10まで減らすことができる。
上述のように、R3の計算のための測定は、アークが生じる前の短絡段階で行うことができる。L3の計算のための測定は、このアークが生じる前の短絡段階、又は、TL及びTL’に関して上述されたアーク消弧後の短絡段階のいずれかで行うことができる。
【0030】
時間プロファイルは、溶接パラメータの監視による評価のために、溶接プロセスの終了後にオフラインで計算することもでき、又は、プロセス制御を行うために、オンラインで、すなわち、溶接プロセス中に計算することもできる。
溶接電流の計算は、電流レベル及び電流フローの持続時間の結果としての抵抗R1の加熱を考慮に入れることができる。
3及びL3は、必ずしも各スタッド溶接プロセス前に判定する必要はない。溶接及び接地ラインが再現性のある動きをするプロセスを行う自動化設備においては、これらの測定は、位置に関連した基準で、10回、100回又は1000回の溶接プロセス毎に行うだけでも許容できる。抵抗R3の変化を溶接パラメータの監視の過程で評価することができるので、従って、疲労の結果として抵抗R3が大きくなり過ぎ、間もなく首尾よいスタッド溶接を行うことができなくなりそうになると、「予防的メンテナンス」要求がもたらされる。
【符号の説明】
【0031】
10:スタッド溶接設備
12:スタッド
14:加工物
16:ロボット
18:アーム
20:溶接ヘッド
22:スタッドホルダ
24:電力供給装置
26:パワーエレクトロニクス
28a、28b:出力端子
30:制御装置
32:溶接回路
34:接続ライン
36:接地
38:アーク
40:入力回路
42:溶接プロセス
44:制御観測器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接電流(Is)又はそれより小さいパイロット電流(Ip)のいずれかを供給するように設計された電力供給装置(24)に接続された溶接回路(32)の電気変数(R3、L3)を判定する方法であって、前記電力供給装置(24)は前記パイロット電流(Ip)を供給するための入力回路(40)を有し、前記入力回路(40)は前記溶接電流(Is)を供給するためにブリッジされ、
a)前記入力回路(40)がブリッジされていないときに第1の電気変数(R3)を判定するステップと、
b)前記入力回路(40)がブリッジされているときに第2の電気変数(L3)を判定するステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第1の電気変数が、前記溶接回路(32)の電気抵抗(R3)であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2の電気変数が、前記溶接回路(32)のインダクタンス(L3)であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記入力回路(40)が、前記溶接回路のインダクタンス(L3)よりはるかに大きいインダクタンス(L2)を有することを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ステップa)及び/又は前記ステップb)が溶接プロセス(42)の過程で行われることを特徴とする請求項1から請求項4までの1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ステップa)が、溶接電圧(UL)が短絡され、かつ前記パイロット電流(Ip)のスイッチがオンにされているときに行われることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ステップb)が、溶接電圧(U1)が短絡され、かつ電流が前記パイロット電流(Ip)から前記溶接電流(Is)まで増大する前に行われることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ステップb)を行うために、前記入力回路(40)が、判定期間(TL)にわたってブリッジされることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ステップb)が、前記溶接電流(Is)のスイッチがオンにされた後、かつ溶接電圧(UL)が再度短絡された後で、前記溶接電流(Is)が減少している間に行われることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記ステップa)及び/又は前記ステップb)が、溶接プロセス(42)の前又は後で行われることを特徴とする請求項1から請求項4までの1項に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の電気変数(R3)を判定する前記ステップa)の結果が、前記第2の電気変数(L3)を判定する前記ステップb)に用いられることを特徴とする請求項1から請求項10までの1項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1から請求項11までの1項に記載の方法を用いて判定された溶接回路(32)の電気変数(R3、L3)を用いて溶接プロセスを制御することを特徴とする方法。
【請求項13】
前記溶接回路の数学的モデルが制御観測器(44)を形成し、少なくとも1つの溶接パラメータが前記観測器(44)に含まれる状態変数の関数として設定されることを特徴とする、特に請求項12に記載の溶接プロセス(42)を制御する方法。
【請求項14】
前記観測器が、前記溶接回路(32)を駆動させるのに用いられるパワーエレクトロニクス(26)の数学的モデルも含むことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
電力供給装置(24)と、請求項1から請求項14までの1項に記載の方法を行うように設計された制御装置(30)とを有することを特徴とする溶接器具。
【請求項16】
スタッド(12)を保持する溶接ヘッド(20)に、溶接回路(32)の一部を形成する少なくとも1つの接続ライン(34)を介して接続された電力供給装置(24)を有し、請求項1から請求項14までの1項に記載の方法を行うように設計された制御装置(30)を有することを特徴とする、引き上げアーク溶接の過程で生じたアーク(38)を用いてスタッド(12)を加工物(14)上に溶接する、スタッド溶接設備(10)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−509047(P2012−509047A)
【公表日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−535910(P2011−535910)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【国際出願番号】PCT/EP2009/008026
【国際公開番号】WO2010/054797
【国際公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(504075577)ニューフレイ リミテッド ライアビリティ カンパニー (117)
【Fターム(参考)】