電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置およびそれを用いた検査対象物解析方法
【課題】 区画化用の単一デバイスマイクロウェルに検査対象物操作(DEPおよびEP)用の電極を統合することにより、簡便な装置とそれを用いた方法で検査対象物解析を行うことができる電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置およびそれを用いた検査対象物解析方法を提供する。
【解決手段】 電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置において、DEPを用いて細胞8を捕捉し、EPを用いて細胞8を破砕するための、基板1上に形成される対向電極2を含み、この電極2が底部に形成されたマイクロウェル3を有するマイクロウェルアレイ4と、細胞8を含有する溶液または細胞成分の生化学的解析用の溶液9を導入するためのマイクロ流体チャネル5と、前記マイクロウェル3の限定された容積に細胞物質を閉じ込めるため、細胞8破砕の前に前記マイクロウェル3を密閉する膜6とを具備する。
【解決手段】 電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置において、DEPを用いて細胞8を捕捉し、EPを用いて細胞8を破砕するための、基板1上に形成される対向電極2を含み、この電極2が底部に形成されたマイクロウェル3を有するマイクロウェルアレイ4と、細胞8を含有する溶液または細胞成分の生化学的解析用の溶液9を導入するためのマイクロ流体チャネル5と、前記マイクロウェル3の限定された容積に細胞物質を閉じ込めるため、細胞8破砕の前に前記マイクロウェル3を密閉する膜6とを具備する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置およびそれを用いた検査対象物解析方法に係り、特に、単一細胞解析を行うための電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置およびそれを用いた単一細胞解析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞単位でのバイオアッセイは、細胞集団を精査するが、その場合、関連する個々の細胞の特性は完全に平均化され、また場合によっては、細胞の性質が誤って解釈されることもある(下記非特許文献1〜3参照)。したがって、近年は、ゲノミクス、プロテオミクス、およびトランスクリプトミクスに関する新たなかつ興味深い研究の分野で、単一細胞解析方法に対する関心が高まってきている。単一細胞を解析するため、細胞パターニング(下記非特許文献2,4参照)、光ピンセット(下記非特許文献5参照)、およびマイクロフルイディクス(下記非特許文献6〜8参照)などのいくつかの方法が開発されてきた。空間的に不均一な電場で分極した粒子に力を作用させる誘電泳動(DEP)は、特定の位置で細胞をパターニングする有力なツールの1つである(下記非特許文献9参照)。この方法は、選択的かつ安定的な細胞の処理を可能とする。また、Albrechtらにより、インジウムスズ酸化物(ITO)でコーティングしたスライドガラス上にフォトレジストマイクロウェルアレイをパターニングしたDEP細胞パターニングチャンバー法が発表されている(下記非特許文献10参照)。この方法によって、正確に定義された3次元細胞ネットワークが得られる。
【0003】
一方、単一細胞毎の細胞内の核酸、タンパク質、または他の成分の解析は、多様な生物学的機能の研究にとって非常に有望である。これらを直接解析するために細胞内物質を得るには、細胞膜を開く必要がある。これは、電位を膜に印加することによってプラスミドDNAまたは小分子を細胞内に導入することができる電気穿孔法(EP)を用いることで、効率的に実現することができる(下記非特許文献11参照)。印加する電界の強度が十分に強いと、不可逆的な膜の機械的分解が生じて、細胞破砕がもたらされる。マイクロ流体デバイスを用いれば、電極間の距離を短くすることによって電位を比較的低くした状態でも高電界強度を形成することが可能になるので、EPによる細胞破砕を行うのに有用である。この種のマイクロ流体デバイスがこれまでにいくつか発表されており(下記非特許文献12〜15参照)、それに加えて、現在、細胞破砕後に細胞内成分を回収し精製するための、より統合されたシステムが作られてきている(下記非特許文献16参照)。
【0004】
この取組みを単一細胞レベルにスケールダウンすることは、単一細胞解析にとって非常に有用である。近年、EPを用いた単一細胞破砕の方法が発表されている。例えば、Gaoらにより、細胞破砕後に細胞内成分を検出するためのマイクロ流体デバイスが提案されている(下記非特許文献17参照)。さらに、Khineらにより、捕捉工程において水力学的な力を用いる単一細胞電気穿孔デバイスが提案されている(下記非特許文献18参照)。しかしながら、これらのこれまでの研究では、細胞膜崩壊の直後に、閉じ込めがないために、細胞内物質の拡散と希釈が起こる。解析に役立ち得るほとんどの酵素がマイクロモル範囲の濃度の基質を必要とすることが知られているが、単一細胞からの細胞物質の量は少ないので、それが希釈された状態で解析するのは困難である。よって、密閉された微小区画(下記非特許文献19,20参照)を使用することが、生体分子の単離および高スループットの解析にとって理想的である(下記非特許文献21,22参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2004−535176号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Lidstrom,M.E. and Meldrum,D.R.,“Life−on−a−chip”,Nature reviews,Vol.1,pp.158−164(2003)
【非特許文献2】Di Carlo,D.,Aghdam,N. and Lee,L.P.,“Single−Cell Enzyme Concentrations,Kinetics,and Inhibition Analysis Using High−Density Hydrodynamic Cell Isolation Arrays”,Analytical Chemistry,Vol.78,No.14,pp.4925−4930(2006)
【非特許文献3】Sims,C.E. and Allbritton,N.L.,“Analysis of single mammalian cells on−chip”,Lab on a Chip,Vol.7,pp423−440(2007)
【非特許文献4】El−Ali,J.,Sorger,P.K. and Jensen,K.F.,“Cells on chips”,Nature,Vol.442,pp.403−411(2006)
【非特許文献5】Hellmich,W.,Pelargus,C.,Leffhalm,K.,Ros,A. and Anselmetti,D.,“Single cell manipulation,analytics,and label−free protein detection in microfluidic devices for systems nanobiology”,Electrophoresis,Vol.26,pp.3689−3696(2005)
【非特許文献6】Chao,T.C., and Ros,A.,“Microfluidic single−cell analysis of intracellular compounds”,Journal of the Royal Society,Interface/the Royal Society,Vol.5,Suppl.2,pp.S139−150(2008)
【非特許文献7】Bennett,M.R., and Hasty,J.,“Microfluidic devices for measuring gene network dynamics in single cells”,Nat Rev Genet,Vol.10,pp.628−638(2009)
【非特許文献8】Ben−Yakar,A.,Chronis,N., and Lu,H.,“Microfluidics for the analysis of behavior,nerve regeneration, and neural cell biology in C.elegans”,Current Opinion in Neurobiology,Vol.19,pp.561−567(2009)
【非特許文献9】Voldman,J.“Electrical Forces For Microscale Cell Manipulation”,Annual Review of Bilomedical Engineering,Vol.8,pp.425−454(2006)
【非特許文献10】Albrecht,D.R.,Underhill,G.H.,Wassermann,T.B.,Sah,R.L. and Bhatia,S.N.,“Probing the role of multicellular organization in three−dimensional microenvironments”,Nature Methods,Vol.3,No.5,pp.369−375(2006)
【非特許文献11】Tsong,T.Y.“Electroporation of cell membrances”,Biophysical Journal,Vol.60,pp.297−306(1991)
【非特許文献12】Lee,S.W., and Tai,Y.C.,“A micro cell lysis device”,Sensors and Actuators,Vol.73,pp.74−79(1999)
【非特許文献13】Lu,H.,Schmidt,M.A. and Jensen,K.F.,“A microfluidic electroporation device for cell lysis”, Lab on a Chip,Vol.5,pp.23−29(2005)
【非特許文献14】Wang,H.Y. and Lu,C.,“Electroporation of Mammalian Cells in a Microfluidic Channel with Geometric Variation”,Analytical Chemistry,Vol.78,No.14,pp.5158−5164(2006)
【非特許文献15】Ramadan,Q.,Samper,V.,Poenar,D.,Liang,Z.,Yu,C. and Lim,T.M.,“Simultaneous cell lysis and bead trapping in a continuous flow microfluidic device”,Sensors and Actuators B,Vol.113,pp.944−955(2006)
【非特許文献16】Nakayama,T.,Namura,M.,Tabata,K.V.,Noji,H. and Yokokawa,R.,“Sequential processing from cell lysis to protein assay on a chip enabling the optimization of an F1 −ATPase single molecule assay condition”,Lab on a Chip,Vol.9,pp.3567−3573(2009)
【非特許文献17】Gao,J.,Yin,X.F. and Fang,Z.L.,“Integration of single cell injection,cell lysis,separation and detection of intracellular constituents on a microfluidic chip”,Lab on a Chip,Vol.4,pp.47−52(2004)
【非特許文献18】Khine,M.,Lau,A.,Ionescu−Zanetti,C.,Seo,J. and Lee,L.P.,“A single cell electroporation chip”,Lab on a Chip,Vol.5,pp.38−43(2005)
【非特許文献19】Nagai,H.,Murakami,Y.,Morita,Y.,Yokoyama,K. and Tamiya,E.,“Development of A Microchamber Array for Picoliter PCR”,Analytical Chemistry,Vol.73,No.5,pp.1043−1047(2001)
【非特許文献20】Kinpara,T.Mizuno,R.,Murakami,Y.,Kobayashi,M.,Yamaura,S.,Hasan,Q.,Morita,Y.,Nakano,H.,Yamane,T. and Tamiya,E.,“A Picoliter Chamber Array for Cell−Free Protein Synthesis”,Journal of Biochemistry,Vol.136,No.2,pp.149−154(2004)
【非特許文献21】Rondelez,Y.,Tresset,G.,Tabata,K.V.,Arata,H.,Fujita,H.,Takeuchi,S. and Noji,H.,“Microfabricated arrays of femtoliter chambers allow single molecule enzymology”,Nature biotechnology,Vol.23,No.3,pp.361−365(2005)
【非特許文献22】Rissin,D.M. and Walt,D.R.,“Digital Concentration Readout of Single Enzyme Molecules Using Femtomiter Arrays and Poison Statistics”,Nano Letters,Vol.6,No.3,pp.520−523(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように従来技術では、マイクロウェル内において誘電泳動(DEP)と細胞破砕(EP)とは別個の手段により実施されており、細胞操作と処理が複雑なものにならざるを得なかった。
本発明は、上記状況に鑑みて、区画化用の単一デバイスマイクロウェルに検査対象物操作(DEPおよびEP)用の電極を統合することにより、簡便な装置とそれを用いた方法で検査対象物解析を行うことができる電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置およびそれを用いた検査対象物解析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、DEPおよびEPに基づく検査対象物の捕捉と、それに続く検査対象物の破砕を行い、その後に検査対象物解析を行うためのデバイスおよび方法を提供する。デバイスは、多数のアレイ状マイクロウェルを含み、それにより、細胞集団を並列的に操作し解析することが可能になっている。マイクロ流体デバイスは、成形したポリジメチルシロキサン(PDMS)膜をマイクロウェルアレイ基板に接合することによって作製する。マイクロウェルアレイは、ネガティブ型のフォトレジストを用いて、相互に噛み合ったインジウムスズ酸化物(ITO)電極上に作製した。電界は、マイクロウェルの底部にある電極の縁部に高度に局在化させた。このように構成すると、検査対象物をマイクロウェル内に引き込むためのDEP力と、検査対象物破砕のためのEPとが効率的に誘導される。本発明では、マイクロウェルの直径、および検査対象物搬送に用いられる溶液の流量などの実験パラメーターを制御することによって捕捉検査対象物の数を単一検査対象物に調整できる。本発明のデバイスを用いた検査対象物破砕では、電界がチャンバー内で高度に局在化されているので、非常に高効率である。
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置において、DEPを用いて検査対象物を捕捉し、EPを用いて前記検査対象物を破砕するための、基板上に形成される対向電極を含み、この電極が底部に形成されたマイクロウェルを有するマイクロウェルアレイと、前記検査対象物を含有する溶液または検査対象物成分の生化学的解析用の溶液を導入するためのマイクロ流体チャネルと、前記マイクロウェルの限定された容積に前記検査対象物内物質を閉じ込めるため、前記検査対象物の破砕の前に前記マイクロウェルを密閉する膜とを具備することを特徴とする。
【0009】
〔2〕上記〔1〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置において、前記検査対象物が単一の細胞であることを特徴とする。
〔3〕上記〔1〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置において、前記検査対象物が小胞であることを特徴とする。
〔4〕上記〔1〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置において、前記検査対象物が微小区画を形成する脂質二重膜であることを特徴とする。
【0010】
〔5〕上記〔2〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置において、前記マイクロウェルは前記細胞のサイズにあわせて直径20−35マイクロメートルであり、そのマイクロウェルの数が数百から数万個形成されたマイクロウェルアレイであることを特徴とする。
〔6〕上記〔1〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置において、前記対向電極が互いに噛み合ったIDE(Inter−Digitated Electrodes)電極からなることを特徴とする。
【0011】
〔7〕上記〔6〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置において、前記対向電極がインジウムスズ酸化物(ITO)からなることを特徴とする。
〔8〕上記〔1〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置において、前記マイクロウェルの壁がフォトレジストで作られることを特徴とする。
〔9〕上記〔1〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置において、前記基板がガラス基板であることを特徴とする。
【0012】
〔10〕電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、基板上に形成される対向電極を含み、該対向電極が底部に形成されたマイクロウェルを有するマイクロウェルアレイと、検査対象物を含有する溶液または前記検査対象物成分の生化学的解析用の溶液を導入するためのマイクロ流体チャネルと、前記マイクロウェルの限定された容積に前記検査対象物内物質を閉じ込めるため、前記検査対象物破砕の前に前記マイクロウェルを密閉する膜とを備え、前記マイクロウェルの寸法、前記溶液の流量、および前記対向電極に印加される電界を調整したDEPによって前記各マイクロウェルに1個の前記検査対象物を位置付けし、前記マイクロ流体チャネルによって前記溶液を交換するフローが存在する場合でも、前記マイクロウェル内で前記検査対象物の位置を一定に保ち、前記マイクロウェル内で前記対向電極に短パルスを印加することにより、EPを用いて前記検査対象物を破砕し、前記マイクロウェルの寸法が前記検査対象物破砕後に該検査対象物内物質の解析を妨げる前記検査対象物内物質の希釈を防ぐのに十分に小さい状態で前記検査対象物を解析することを特徴とする。
【0013】
〔11〕上記〔10〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、単一細胞がDEPを用いて捕捉されることを特徴とする。
〔12〕上記〔10〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、小胞がDEPを用いて捕捉されることを特徴とする。
〔13〕上記〔10〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、微小区画を形成する脂質二重膜がDEPを用いて捕捉されることを特徴とする。
【0014】
〔14〕上記〔11〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記単一細胞が検体を含有することを特徴とする。
〔15〕上記〔13〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記微小区画を形成する脂質二重膜が検体を含有することを特徴とする。
【0015】
〔16〕上記〔13〕又は〔14〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記検体が生体分子であることを特徴とする。
〔17〕上記〔13〕又は〔14〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記検体の解析を行うことを特徴とする。
【0016】
〔18〕上記〔17〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記検体の解析が放射線を用いて行われることを特徴とする。
〔19〕上記〔18〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記検体の解析が前記検体によって放射される放射線を用いて行われることを特徴とする。
【0017】
〔20〕上記〔17〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記検体の解析が生化学反応を用いて行われることを特徴とする。
〔21〕上記〔18〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記放射線が生化学反応によるものであることを特徴とする。
【0018】
〔22〕上記〔18〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記放射線が化学反応によるものであることを特徴とする。
〔23〕上記〔18〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記放射線がルミネセンスであることを特徴とする。
【0019】
〔24〕上記〔18〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記放射線が蛍光であることを特徴とする。
〔25〕上記〔18〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記放射線がリン光であることを特徴とする。
〔26〕上記〔11〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記単一細胞が細胞内物質を含有することを特徴とする。
【0020】
〔27〕上記〔26〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記細胞内物質がDNA分子であることを特徴とする。
〔28〕上記〔26〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記細胞内物質がRNA分子であることを特徴とする。
〔29〕上記〔26〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記細胞内物質が生成物を合成するのに用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、誘電泳動(DEP)を用いて検査対象物を捕捉するのに使用される、電気的機能を持つマイクロウェルを必要とする。誘電泳動力を加えることによって、検査対象物はマイクロウェルの底部に位置づけられる。マイクロウェルの寸法により、検査対象物を非常に効率的に捕捉することが可能になる。また、DEPを停止し液体を流しても、マイクロウェル内での検査対象物の位置が維持される。この性質は、DEP緩衝液を、検査対象物内成分を解析するために後で用いられる溶液と交換する場合に利用される。検査対象物破砕は、短い電気パルスを印加することによって実現される。この装置および方法を用いて、検査対象物毎のATPの検査対象物内濃度を解析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例を示す単一細胞の捕捉および破砕の実験概念を示す図である。
【図2】本発明の実施例を示すマイクロ流体デバイスの分解概略図である。
【図3】本発明の実施例を示すマイクロ流体デバイスのマイクロウェルアレイを示す図である。
【図4】本発明のシミュレーションによる電界強度分布(V/m)および電界強度勾配(▽E2)(V/m2 )ベクトルを示す図である。
【図5】本発明の実施例を示すマイクロウェルアレイの製造工程図である。
【図6】本発明の実施例を示すPDMS膜の製造工程図である。
【図7】本発明の実施例を示すマイクロウェルアレイとPDMS膜が組み合わされたマイクロ流体デバイスの断面図である。
【図8】本発明のマイクロウェルアレイへの細胞捕捉の状態を示す図である。
【図9】本発明のマイクロウェルの個数の割合を捕捉された細胞数毎にマイクロウェルの直径に対してプロットした図である。
【図10】本発明のマイクロチャンバー内で細胞破砕する様子を示す図である。
【図11】本発明の細胞内ATP濃度の測定を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置は、DEPを用いて細胞を捕捉し、EPを用いて細胞を破砕するための、基板上に形成される対向電極を含み、この電極が底部に形成されたマイクロウェルを有するマイクロウェルアレイと、細胞を含有する溶液または細胞成分の生化学的解析用の溶液を導入するためのマイクロ流体チャネルと、前記マイクロウェルの限定された容積に細胞物質を閉じ込めるため、細胞破砕の前に前記マイクロウェルを密閉する膜とを具備することを特徴とする。
【0024】
また、電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた単一細胞解析方法において、基板上に形成される対向電極を含み、この対向電極が底部に形成されたマイクロウェルを有するマイクロウェルアレイと、細胞を含有する溶液または細胞成分の生化学的解析用の溶液を導入するためのマイクロ流体チャネルと、前記マイクロウェルの限定された容積に細胞物質を閉じ込めるため、細胞破砕の前に前記マイクロウェルを密閉する膜とを備え、前記マイクロウェルの寸法、前記溶液の流量、および前記対向電極に印加される電界を調整したDEPによって前記各マイクロウェルに1個の細胞を位置付けし、前記マイクロ流体チャネルによって前記溶液を交換するフローが存在する場合でも、前記マイクロウェル内で前記細胞の位置を一定に保ち、前記マイクロウェル内で前記対向電極への短パルスの印加により、EPを用いて細胞を破砕し、前記マイクロウェルの寸法が細胞破砕後に細胞内物質の解析を妨げる細胞内物質の希釈を防ぐのに十分に小さい状態で細胞を解析する。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施例について図面を用いて詳細に説明する。なお、実施例中では検査対象物として主に単一細胞を例に述べているが、後述する種々の検査対象物に適用可能である。
図1は本発明の実施例を示す単一細胞の捕捉および破砕の実験概念を示す図、図2はそのマイクロ流体デバイスの分解概略図、図3はそのマイクロ流体デバイスのマイクロウェルアレイを示す図であり、図3(a)はその平面図、図3(b)はその断面図である。また、図4はシミュレーションによる電界強度分布(V/m)および電界強度勾配(▽E2)(V/m2 )ベクトルを示す図である。
【0026】
これらの図において、1は基板(ガラス基板)、2は基板1上に形成された相互に噛み合ったIDE(交差指状電極:Inter−Digitated Electrodes)であり、その材料はITOからなる。3はそのITO電極2上に形成されるマイクロウェル、3Aはフォトレジスト、4はそのマイクロウェル3が配列されたマイクロウェルアレイ、5はマイクロ流体チャネル、6はPDMS膜、7はマイクロウェル3を閉じることにより形成されるマイクロチャンバー、8は細胞、9は細胞8を含有する溶液、10は細胞内物質である。
【0027】
まず、図1(a)に示すように、細胞8を含有する溶液(DEP緩衝液)9は、マイクロ流体チャネル5内へと連続的に導入され、図1(b)に示すように、マイクロウェル3の周りの細胞8は対向電極2によるDEPを用いて捕捉される。その後、図1(c)に示すように、マイクロウェル3はPDMS膜6が押し付けられることによって閉じられ、マイクロチャンバー7を構成する。最後に、図1(d)に示すように、細胞8はITO電極2によるEPを用いて、閉じたマイクロチャンバー7の内部で破砕され、マイクロチャンバー7の内部は細胞内物質10で満たされる。
【0028】
本発明のマイクロ流体デバイスは、図2に示すように、マイクロウェルアレイ4と、その上に接合されたPDMS膜6からなる。
マイクロウェルアレイ4においては、図3(a)に示すように、フォトレジスト3Aを用いて作製されたマイクロウェル3が、基板1上にパターニングされた相互に噛み合ったITO電極と位置合わせが行われている。
【0029】
本発明では、パターニングしたITO電極2により、DEPを用いて細胞8を引き付け、EPを用いてマイクロチャンバー7内部で破砕を行うようにした。図3(b)に示すように、隣り合うITO電極2間の距離は6μmであり、これは細胞8の直径約12.5μmよりも短い。フォトレジスト3Aを用いて作製したマイクロウェル3は、相互に噛み合ったITO電極2と位置合わせされるが、これは、陽極および陰極が両方ともマイクロウェル3の内部に突出するようにするためである。このマイクロウェル3の深さは15μmであり、これは対象の細胞8の直径よりもわずかに長い。マイクロウェルアレイ4には、3mm×3mmの正方形領域内に配置された60×60個のマイクロウェル3が配置されている。フォトレジスト3Aは絶縁性の良い材料なので、電場は、マイクロウェル3がパターニングされた領域を除いて良好に阻害される。さらに、相互に噛み合ったITO電極2がマイクロウェル3の底部に位置するので、電場は各マイクロウェル3の内部で高度に局在化される。マイクロウェル3は、DEPを用いた捕捉中に、細胞8が占有することが可能な空間を物理的に制限するだけではなく、マイクロウェル3が閉じられたときに、マイクロチャンバー7から細胞8破砕後の細胞内物質10が拡散することを防ぐ。マイクロウェル3は、マイクロ流体チャネル5の役割を果たすPDMS膜6を押し付けることによって緊密に閉じられ、マイクロチャンバー7を構成する。
【0030】
本発明のマイクロ流体デバイスのDEP力を評価するため、市販のコード(Comsol Multiphysics,COMSOL group)を使用して電場の二次元シミュレーションを行った。図4は、シミュレーションによる電界強度分布(V/m)および電界強度勾配(▽E2)(V/m2 )ベクトルを示しており、この計算では、電位は電極の境界線に与えられている。電極の縁部ではその周りの電界が強いので、電界強度勾配(▽E2)のベクトルの方向はマイクロウェル3の内部に向いている。したがって、マイクロウェル3の上方にある溶液9中の細胞8は、DEP力によってマイクロウェル3の底部に引き込まれる。
【0031】
図5はマイクロウェルアレイの製造工程図、図6はPDMS膜の製造工程図、図7はマイクロウェルアレイとPDMS膜が組み合わされたマイクロ流体デバイスの断面図である。
マイクロウェルアレイ4の作製プロセスを図5に示す。
まず、図5(a)に示すように、基板1上にITO電極膜2′が形成される。次に、ITO電極膜2′をパターニングしてITO電極2を形成する。このDEPおよびEPのための相互に噛み合ったITO電極2は、従来のフォトリソグラフィーを用いて作製する。厚さ500nmのITO電極膜2′をガラス基板1上にスパッタリングし、電極2の形状をポジティブ型のフォトレジスト(S−1813,Shipley far Ltd.)を用いてパターニングし、次に、HNO3+HCl=1+1溶液によって室温で25分間、ITOをエッチングする。マイクロウェルアレイ4は、パターニングしたITO電極2上でネガティブ型のフォトレジスト(SU−8 2010,MicroChem Co.)3Aを用いて作製している。フォトレジスト3Aは、ITO電極2が形成された基板1上にスピン塗布し、予備焼成する。パターニングしたマイクロウェルアレイ用のクロムフォトマスクを、パターニングしたITO電極2と位置合わせし、フォトレジスト3Aにフォトマスクを通してUV(紫外)光を照射した後、現像およびすすぎを行う。
【0032】
一方、PDMS膜6の作製プロセスを図6に示す。まず、図6(a)に示すように、鋳型の役割を果たすネガティブ型のフォトレジスト(SU−8 2050,MicroChem Co.)12を、シリコンウェハ11上にパターニングする。なお、鋳型は、イソプロピルアルコールおよび脱イオン水を用いて十分に洗浄するようにする。また、製作したPDMS膜を容易に離型できるように、反応性イオンエッチング装置(RIE−10NR,Samco Co.)を用いて、鋳型にCHF3プラズマを照射し、フッ化炭素層でコーティングする。その後、図6(b)に示すように、PDMSのポリマー前駆体(Silopt 184,Dow Corning Toray,Co.Ltd.)13′を硬化剤と質量比10:1で混合して、鋳型に流し込み、PDMSのポリマー前駆体13′から泡を除去するため、混合物を約0.02MPaで30分間乾燥機に入れて保持した。次に、PDMS膜13を75℃で2時間硬化させ、その後、重合したPDMS膜13を型から剥離する。最後に、図6(c)に示すように、マイクロ流体チャネル5へのアクセスポートとしての役割を果たす、細胞8を含む溶液9又は細胞成分の生化学的解析用の溶液の流入穴14および排出穴15を打ち抜き開口し、PDMS膜13とする。
【0033】
図5に示すマイクロウェルアレイ4と図6に示すPDMS膜13を図7に示すように組み立てるため、RIE装置を用いてそれらにO2プラズマを照射して表面を活性化させた。両方を位置合わせして接触させ、外圧を加えることなく自発的に接合させた。O2プラズマ処理によって、SU−8マイクロウェルアレイ4およびPDMS膜12が親水性になり、そのことにより、PDMSチャネルだけでなくマイクロウェル3に対しても試薬の注入が容易になる。
【0034】
次に、本発明における単一細胞の捕捉とアレイ上での細胞破砕について説明する。
まず、実験に用いた装置について説明する。
細胞8として、理研バイオリソースセンターから入手したU−937細胞を、培養器内のCO2を5%含有する加湿雰囲気において37℃で培養した。培地は、RPMI 1640(Invitrogen Corp.)であり、これにFBS(Gemini Bio−products)10%とペニシリン−ストレプトマイシン溶液(Sigma Chemical Co.)1%を補った。細胞の細胞質からの蛍光を観察するため、U−937細胞をカルセインAM(和光純薬工業)で染色した。DEPおよびEP実験に先立って、pDEP(ポジティブDEP)向けに細胞懸濁液9の導電性(21.4mS m-1)を調節するため、培地をDEP緩衝液(HEPES 10mM、CaCl2 0.1mM、D−グルコース59mM、およびスクロース236mM、pH7.35)と交換した。培地中の細胞を190gで3分間遠心分離し、静かに培地を除去し、DEP緩衝液を添加した。細胞8の直径は12.5±1.6μm、細胞8の濃度は約1×106個/mlであった。
【0035】
上記したマイクロ流体デバイスは、倒立顕微鏡(IX 71、オリンパス)上に配置したx−y並進ステージ上に載置した。細胞8は、顕微鏡上に設置した電子増倍電荷結合素子(EMCCD)カメラ(iXonEM +885 EMCCD Camera,Andor Technology Plc)を用いてモニターした。細胞8の捕捉後にマイクロウェルアレイ4を閉じるため、ステージコントローラー(SHOT−202AM;シグマ光機)によって制御される、電動ステージ(SGAM20;シグマ光機)に接続した丸いプラスチック製チップを用いてPDMS膜6を押し付けた。DEPおよびEPのための電位は、増幅器(HSA4010;エヌエフ回路設計)を用いて振幅を増幅した後、ファンクションジェネレーター(WF1974;エヌエフ回路設計)を用いて、相互に噛み合ったITO電極2に印加した。
【0036】
上記したマイクロ流体デバイスを用いた実験において、単一細胞の捕捉と、それに続く細胞破砕を実証した。細胞8を含む溶液9としての細胞懸濁液は、細胞供給の連続フローにより、アクセスポートとしての流入穴13を介してマイクロ流体チャネル5に導入される。実験により、1つのマイクロウェル3に捕捉される細胞の数が、マイクロウェル3の直径(20,25,30,または35μm)と細胞8を含む溶液9の流量(2または4μl/min)とに依存することを見出している。電場の振幅と周波数が変動することによって複雑さが増すことを回避するため、印加電位の振幅および周波数は2Vp−pおよび1MHzで一定に保っている。単一の細胞8は、2μl/minの流量で、相互に噛み合ったITO電極2に正弦電位を印加することによって、25μmのマイクロウェル3内へと成功裡に捕捉される。
【0037】
図8は、ITO電極に正弦AC電圧1MHzで2Vp-p を印加した場合の、直径25μmのマイクロウェルアレイへの細胞捕捉の状態を示す図である。
図8(a)は、細胞捕捉中のマイクロウェルアレイのt=0min,t=2.0min,t=3.0minそれぞれの時間経過画像を示す。マイクロ流体チャネル5には、細胞8を含む溶液9が2μl/minの流量で導入されており、破線で示す。マイクロウェル3には徐々に細胞が入り、3分後にはほとんど全てのマイクロウェル3が単一の細胞8を保持している。この図に示されるように、2個の細胞が入った、または空のマイクロウェルは数個のみであった。なお、図8(b)は捕捉中のU−937(リンパ球)細胞の時間経過画像、図8(c)は細胞捕捉中に観察された細胞の軌跡を示す模式図である。
【0038】
捕捉する細胞の数はマイクロウェルの直径と大きく関連している。捕捉に対してマイクロウェルの直径が及ぼす効果を、直径20,25,30,および35μmのマイクロウェル3を有するマイクロウェルアレイ4を用いて調査した。本発明では、正弦電位を3分間印加することによって細胞を捕捉し、その後、電位を遮断して捕捉を停止した。次に、ランダムに選択したマイクロウェル10×10個の領域で、0個、1個、2個、3個、または4個の細胞を含有するマイクロウェルの数を計数した。図9(a)では、2μl/minの流量で、内部に捕捉された細胞数が0個、1個、2個、3個または4個となったマイクロウェルの個数の全体に対する割合をマイクロウェルの直径に対してプロットしている。プロットしたデータはすべて、同じ実験条件下で試験した3つのマイクロウェルアレイにおいて測定した3つのデータ系列の平均値である。図9(a)に示されるように、25μmのマイクロウェルアレイ4は、単一細胞8に関して非常に優れた捕捉効率(約95%)を示している。2個または3個の細胞を含有するマイクロウェル3の数の割合は、マイクロウェルの直径に伴って増加した。
【0039】
流量もまた、細胞捕捉効率における別の重要なパラメーターである。本発明のデバイスでは、図4のシミュレーション結果に示されるように、DEP力はマイクロウェル3の周りに非常に集中している。したがって、フローの速度が増加した場合、細胞がマイクロウェルの上を流れるときに電場に触れる時間が短くなる。図9(b)は、流量が4μl/minであったことを除いて図9(a)のデータと実験条件は同じである。この場合、30μmのマイクロウェルアレイが最良の捕捉結果を示している。図9に示す2つのヒストグラムは、実験条件を制御することによって、異なるサイズのマイクロウェルに単一細胞を捕捉できることを示している。破砕後の細胞内物質の希釈係数はマイクロウェルのサイズによって決まるので、このことは重要である。
【0040】
図10はマイクロチャンバー内で細胞を破砕する様子を示す図である。
単一細胞から得られる細胞内物質の閉じ込めは、閉じたマイクロチャンバー7内で細胞8を破砕することによって実現される。細胞破砕では、30V,10μsのローレンツパルスを10Hzで10秒間印加した。図10(a)は、パルス印加前後の閉じたチャンバーアレイを示す蛍光画像であり、破線の左側と右側はそれぞれ直径25μmと30μmのチャンバーアレイである。2個の細胞が入ったマイクロチャンバーは、単一細胞が入ったマイクロチャンバーよりも明るい光を発している。細胞破砕の成功率は非常に高く、マイクロチャンバー7内の細胞はほぼ100%が同時に破砕している。これは、全ての細胞8が電極の縁部に位置付けられているので、各細胞に均一な高い電場を印加することができるためである。
【0041】
図10(b)は、t=0においてパルスが印加されたときの、単一細胞破砕の間の時間経過画像を示し、図10(c)は、図10(b)の画像における白い破線に沿って得られる蛍光強度を示す。電気パルスを印加すると、細胞内物質10の漏れ出しにより、細胞8の蛍光強度は減少した。他方では、細胞内物質10が細胞外に拡散することによって、マイクロチャンバー7の内部は徐々に蛍光で満たされる。マイクロチャンバー7と細胞8との体積比は約7:1なので、図10(c)に示されるように、細胞の蛍光強度はパルス印加から3秒後には約1/7に減少する。このように、経過時間に応じたマイクロチャンバー7内の蛍光分布を調査することによって、マイクロチャンバー7内での細胞内物質10の拡散および希釈を評価することができる。
【0042】
図11は細胞内ATP濃度の測定を示す図であり、ATP消費酵素であるルシフェラーゼによって発生する発光信号を示している。
本発明の汎用性を実証するため、ヒトU937およびHepG2を含む異なる細胞タイプを捕捉した。図11(a)はマイクロウェルアレイへの多数の細胞を捕捉した様子を示す図であり、図11(b)はその捕捉した細胞が生きているか死んでいるかをチェックする様子を示す図である。
【0043】
誘電泳動は生体細胞を損傷する恐れがある。誘電泳動による細胞の捕捉は膜の一体性に依存しているので、本発明のシステムは、無傷の生きた細胞を優先的に捕らえることができる〔図11(a)および図11(b)〕。実験パラメーターを最適化することによって、本発明では、生きた細胞の高い捕捉効率(ほぼ100%)を得ることができる。図11(b)では、DEP中における細胞の生存率を、カルセイン−AM(緑)およびヨウ化プロピジウム(赤)蛍光マーカーによって評価した。細胞内ATP解析に先立って、捕捉緩衝液9を、ホタルルシフェラーゼアッセイ試薬を含有する溶液と交換した。ATPはルシフェリンの二段階酸化を触媒するルシフェラーゼと反応し、それによって560nmの光が得られる。100msのEPパルスによって細胞膜崩壊が引き起こされた直後に細胞内ATPが放出され、ルシフェラーゼアッセイ試薬と自由に反応した。図11(c)は、膜崩壊の数秒後に検出された生物発光信号を、発光強度の時間依存性とともに示す図である。類似の曲線が得られることから単一細胞測定の妥当性を裏付けている。デバイスの測定値を校正し、マイクロチャンバー内に存在するATPの濃度を発光量から推測するため、ケージドATPを使用した。細胞内ATP濃度は、細胞内体積(細胞は類似のサイズを有する;U937,12.5±1.6μm)の平均値から計算することができ、またはマイクロチャンバー内の個々の細胞それぞれの評価から直接計算することもできる。デバイス上の解析から得られるATPの細胞内濃度レベルに関して見出した結果(細胞直径は12.5±1.6μm)を、バルク測定で得られた値と直接比較した。図11(d)は、両方の方法によって得られた濃度レベルが類似していることを示している。
【0044】
なお、本発明の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法では、微小区画を形成する脂質二重膜や細胞をDEPを用いて捕捉する。つまり、本発明では、検査対象物は細胞だけでなく、小胞(ベシクル:Vesicle)や微小区画を形成する脂質二重膜(リポソーム)など内部に液体を含み、なおかつDEPやEPで操作できるものをも対象とし、それらの内部に含有される物質を解析することも可能である。
【0045】
上記脂質二重膜構造もしくは細胞は、生体分子などの検体(例えば、ATP)を含有しており、これらの検体の解析を生化学反応又は化学反応による放射線(ルミネセンス、蛍光、リン光など)を用いて行う。なお、検体によって放射される放射線を用いて解析を行ってもよい。また、検体の生化学反応を用いて解析を行ってもよい。また、解析の対象となる単一細胞は、細胞内物質としてリボソーム、DNA分子、RNA分子を含有しており、この細胞内物質が生成物を合成するのに用いられる。
【0046】
上記したように、本発明において、アレイ形式のDEPおよびEPに基づくマイクロ流体デバイスを用いた、単一細胞の捕捉および破砕を成功裡に実証した。マイクロウェルの寸法、および流量などの他の実験パラメーターを調節することによって、本発明は、良好な単一細胞捕捉効率(約95%)を実現することができる。さらに、密閉されたマイクロチャンバーを使用することで、膜崩壊後の細胞内物質の拡散および希釈が物理的に制限される。多くのプロセス、特に細胞内成分の解析に用いられるような多くの生化学反応は、マイクロモル以上の濃度状態においてのみ効率的に発生するので、このことは重要である。したがって、本発明のデバイスは、単一細胞毎の細胞内物質を解析するための有用なプラットフォームとなる。高度に統合されたマイクロデバイスは、生物医学および薬学の基礎研究にとって有望であり、堅牢な携帯型のポイントオブケアデバイスは臨床現場で用いることができる。本発明のデバイスにより、細胞の単純な操作と、それに続く破砕およびデバイス上での解析が可能になる。
【0047】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、区画化用のマイクロウェル上に細胞操作(DEPおよびEP)用の電極を統合することにより、単一細胞解析を行うことができるツールとして利用可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 基板(ガラス基板)
2 ITO電極
2′ ITO電極膜
3 マイクロウェル
3A,12 フォトレジスト
4 マイクロウェルアレイ
5 マイクロ流体チャネル
6,13 PDMS膜
7 マイクロチャンバー
8 細胞
9 溶液
10 細胞内物質(細胞内容物)
11 シリコンウェハ
13′ PDMSのポリマー前駆体
14 流入穴
15 排出穴
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置およびそれを用いた検査対象物解析方法に係り、特に、単一細胞解析を行うための電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置およびそれを用いた単一細胞解析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞単位でのバイオアッセイは、細胞集団を精査するが、その場合、関連する個々の細胞の特性は完全に平均化され、また場合によっては、細胞の性質が誤って解釈されることもある(下記非特許文献1〜3参照)。したがって、近年は、ゲノミクス、プロテオミクス、およびトランスクリプトミクスに関する新たなかつ興味深い研究の分野で、単一細胞解析方法に対する関心が高まってきている。単一細胞を解析するため、細胞パターニング(下記非特許文献2,4参照)、光ピンセット(下記非特許文献5参照)、およびマイクロフルイディクス(下記非特許文献6〜8参照)などのいくつかの方法が開発されてきた。空間的に不均一な電場で分極した粒子に力を作用させる誘電泳動(DEP)は、特定の位置で細胞をパターニングする有力なツールの1つである(下記非特許文献9参照)。この方法は、選択的かつ安定的な細胞の処理を可能とする。また、Albrechtらにより、インジウムスズ酸化物(ITO)でコーティングしたスライドガラス上にフォトレジストマイクロウェルアレイをパターニングしたDEP細胞パターニングチャンバー法が発表されている(下記非特許文献10参照)。この方法によって、正確に定義された3次元細胞ネットワークが得られる。
【0003】
一方、単一細胞毎の細胞内の核酸、タンパク質、または他の成分の解析は、多様な生物学的機能の研究にとって非常に有望である。これらを直接解析するために細胞内物質を得るには、細胞膜を開く必要がある。これは、電位を膜に印加することによってプラスミドDNAまたは小分子を細胞内に導入することができる電気穿孔法(EP)を用いることで、効率的に実現することができる(下記非特許文献11参照)。印加する電界の強度が十分に強いと、不可逆的な膜の機械的分解が生じて、細胞破砕がもたらされる。マイクロ流体デバイスを用いれば、電極間の距離を短くすることによって電位を比較的低くした状態でも高電界強度を形成することが可能になるので、EPによる細胞破砕を行うのに有用である。この種のマイクロ流体デバイスがこれまでにいくつか発表されており(下記非特許文献12〜15参照)、それに加えて、現在、細胞破砕後に細胞内成分を回収し精製するための、より統合されたシステムが作られてきている(下記非特許文献16参照)。
【0004】
この取組みを単一細胞レベルにスケールダウンすることは、単一細胞解析にとって非常に有用である。近年、EPを用いた単一細胞破砕の方法が発表されている。例えば、Gaoらにより、細胞破砕後に細胞内成分を検出するためのマイクロ流体デバイスが提案されている(下記非特許文献17参照)。さらに、Khineらにより、捕捉工程において水力学的な力を用いる単一細胞電気穿孔デバイスが提案されている(下記非特許文献18参照)。しかしながら、これらのこれまでの研究では、細胞膜崩壊の直後に、閉じ込めがないために、細胞内物質の拡散と希釈が起こる。解析に役立ち得るほとんどの酵素がマイクロモル範囲の濃度の基質を必要とすることが知られているが、単一細胞からの細胞物質の量は少ないので、それが希釈された状態で解析するのは困難である。よって、密閉された微小区画(下記非特許文献19,20参照)を使用することが、生体分子の単離および高スループットの解析にとって理想的である(下記非特許文献21,22参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2004−535176号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Lidstrom,M.E. and Meldrum,D.R.,“Life−on−a−chip”,Nature reviews,Vol.1,pp.158−164(2003)
【非特許文献2】Di Carlo,D.,Aghdam,N. and Lee,L.P.,“Single−Cell Enzyme Concentrations,Kinetics,and Inhibition Analysis Using High−Density Hydrodynamic Cell Isolation Arrays”,Analytical Chemistry,Vol.78,No.14,pp.4925−4930(2006)
【非特許文献3】Sims,C.E. and Allbritton,N.L.,“Analysis of single mammalian cells on−chip”,Lab on a Chip,Vol.7,pp423−440(2007)
【非特許文献4】El−Ali,J.,Sorger,P.K. and Jensen,K.F.,“Cells on chips”,Nature,Vol.442,pp.403−411(2006)
【非特許文献5】Hellmich,W.,Pelargus,C.,Leffhalm,K.,Ros,A. and Anselmetti,D.,“Single cell manipulation,analytics,and label−free protein detection in microfluidic devices for systems nanobiology”,Electrophoresis,Vol.26,pp.3689−3696(2005)
【非特許文献6】Chao,T.C., and Ros,A.,“Microfluidic single−cell analysis of intracellular compounds”,Journal of the Royal Society,Interface/the Royal Society,Vol.5,Suppl.2,pp.S139−150(2008)
【非特許文献7】Bennett,M.R., and Hasty,J.,“Microfluidic devices for measuring gene network dynamics in single cells”,Nat Rev Genet,Vol.10,pp.628−638(2009)
【非特許文献8】Ben−Yakar,A.,Chronis,N., and Lu,H.,“Microfluidics for the analysis of behavior,nerve regeneration, and neural cell biology in C.elegans”,Current Opinion in Neurobiology,Vol.19,pp.561−567(2009)
【非特許文献9】Voldman,J.“Electrical Forces For Microscale Cell Manipulation”,Annual Review of Bilomedical Engineering,Vol.8,pp.425−454(2006)
【非特許文献10】Albrecht,D.R.,Underhill,G.H.,Wassermann,T.B.,Sah,R.L. and Bhatia,S.N.,“Probing the role of multicellular organization in three−dimensional microenvironments”,Nature Methods,Vol.3,No.5,pp.369−375(2006)
【非特許文献11】Tsong,T.Y.“Electroporation of cell membrances”,Biophysical Journal,Vol.60,pp.297−306(1991)
【非特許文献12】Lee,S.W., and Tai,Y.C.,“A micro cell lysis device”,Sensors and Actuators,Vol.73,pp.74−79(1999)
【非特許文献13】Lu,H.,Schmidt,M.A. and Jensen,K.F.,“A microfluidic electroporation device for cell lysis”, Lab on a Chip,Vol.5,pp.23−29(2005)
【非特許文献14】Wang,H.Y. and Lu,C.,“Electroporation of Mammalian Cells in a Microfluidic Channel with Geometric Variation”,Analytical Chemistry,Vol.78,No.14,pp.5158−5164(2006)
【非特許文献15】Ramadan,Q.,Samper,V.,Poenar,D.,Liang,Z.,Yu,C. and Lim,T.M.,“Simultaneous cell lysis and bead trapping in a continuous flow microfluidic device”,Sensors and Actuators B,Vol.113,pp.944−955(2006)
【非特許文献16】Nakayama,T.,Namura,M.,Tabata,K.V.,Noji,H. and Yokokawa,R.,“Sequential processing from cell lysis to protein assay on a chip enabling the optimization of an F1 −ATPase single molecule assay condition”,Lab on a Chip,Vol.9,pp.3567−3573(2009)
【非特許文献17】Gao,J.,Yin,X.F. and Fang,Z.L.,“Integration of single cell injection,cell lysis,separation and detection of intracellular constituents on a microfluidic chip”,Lab on a Chip,Vol.4,pp.47−52(2004)
【非特許文献18】Khine,M.,Lau,A.,Ionescu−Zanetti,C.,Seo,J. and Lee,L.P.,“A single cell electroporation chip”,Lab on a Chip,Vol.5,pp.38−43(2005)
【非特許文献19】Nagai,H.,Murakami,Y.,Morita,Y.,Yokoyama,K. and Tamiya,E.,“Development of A Microchamber Array for Picoliter PCR”,Analytical Chemistry,Vol.73,No.5,pp.1043−1047(2001)
【非特許文献20】Kinpara,T.Mizuno,R.,Murakami,Y.,Kobayashi,M.,Yamaura,S.,Hasan,Q.,Morita,Y.,Nakano,H.,Yamane,T. and Tamiya,E.,“A Picoliter Chamber Array for Cell−Free Protein Synthesis”,Journal of Biochemistry,Vol.136,No.2,pp.149−154(2004)
【非特許文献21】Rondelez,Y.,Tresset,G.,Tabata,K.V.,Arata,H.,Fujita,H.,Takeuchi,S. and Noji,H.,“Microfabricated arrays of femtoliter chambers allow single molecule enzymology”,Nature biotechnology,Vol.23,No.3,pp.361−365(2005)
【非特許文献22】Rissin,D.M. and Walt,D.R.,“Digital Concentration Readout of Single Enzyme Molecules Using Femtomiter Arrays and Poison Statistics”,Nano Letters,Vol.6,No.3,pp.520−523(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように従来技術では、マイクロウェル内において誘電泳動(DEP)と細胞破砕(EP)とは別個の手段により実施されており、細胞操作と処理が複雑なものにならざるを得なかった。
本発明は、上記状況に鑑みて、区画化用の単一デバイスマイクロウェルに検査対象物操作(DEPおよびEP)用の電極を統合することにより、簡便な装置とそれを用いた方法で検査対象物解析を行うことができる電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置およびそれを用いた検査対象物解析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、DEPおよびEPに基づく検査対象物の捕捉と、それに続く検査対象物の破砕を行い、その後に検査対象物解析を行うためのデバイスおよび方法を提供する。デバイスは、多数のアレイ状マイクロウェルを含み、それにより、細胞集団を並列的に操作し解析することが可能になっている。マイクロ流体デバイスは、成形したポリジメチルシロキサン(PDMS)膜をマイクロウェルアレイ基板に接合することによって作製する。マイクロウェルアレイは、ネガティブ型のフォトレジストを用いて、相互に噛み合ったインジウムスズ酸化物(ITO)電極上に作製した。電界は、マイクロウェルの底部にある電極の縁部に高度に局在化させた。このように構成すると、検査対象物をマイクロウェル内に引き込むためのDEP力と、検査対象物破砕のためのEPとが効率的に誘導される。本発明では、マイクロウェルの直径、および検査対象物搬送に用いられる溶液の流量などの実験パラメーターを制御することによって捕捉検査対象物の数を単一検査対象物に調整できる。本発明のデバイスを用いた検査対象物破砕では、電界がチャンバー内で高度に局在化されているので、非常に高効率である。
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置において、DEPを用いて検査対象物を捕捉し、EPを用いて前記検査対象物を破砕するための、基板上に形成される対向電極を含み、この電極が底部に形成されたマイクロウェルを有するマイクロウェルアレイと、前記検査対象物を含有する溶液または検査対象物成分の生化学的解析用の溶液を導入するためのマイクロ流体チャネルと、前記マイクロウェルの限定された容積に前記検査対象物内物質を閉じ込めるため、前記検査対象物の破砕の前に前記マイクロウェルを密閉する膜とを具備することを特徴とする。
【0009】
〔2〕上記〔1〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置において、前記検査対象物が単一の細胞であることを特徴とする。
〔3〕上記〔1〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置において、前記検査対象物が小胞であることを特徴とする。
〔4〕上記〔1〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置において、前記検査対象物が微小区画を形成する脂質二重膜であることを特徴とする。
【0010】
〔5〕上記〔2〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置において、前記マイクロウェルは前記細胞のサイズにあわせて直径20−35マイクロメートルであり、そのマイクロウェルの数が数百から数万個形成されたマイクロウェルアレイであることを特徴とする。
〔6〕上記〔1〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置において、前記対向電極が互いに噛み合ったIDE(Inter−Digitated Electrodes)電極からなることを特徴とする。
【0011】
〔7〕上記〔6〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置において、前記対向電極がインジウムスズ酸化物(ITO)からなることを特徴とする。
〔8〕上記〔1〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置において、前記マイクロウェルの壁がフォトレジストで作られることを特徴とする。
〔9〕上記〔1〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置において、前記基板がガラス基板であることを特徴とする。
【0012】
〔10〕電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、基板上に形成される対向電極を含み、該対向電極が底部に形成されたマイクロウェルを有するマイクロウェルアレイと、検査対象物を含有する溶液または前記検査対象物成分の生化学的解析用の溶液を導入するためのマイクロ流体チャネルと、前記マイクロウェルの限定された容積に前記検査対象物内物質を閉じ込めるため、前記検査対象物破砕の前に前記マイクロウェルを密閉する膜とを備え、前記マイクロウェルの寸法、前記溶液の流量、および前記対向電極に印加される電界を調整したDEPによって前記各マイクロウェルに1個の前記検査対象物を位置付けし、前記マイクロ流体チャネルによって前記溶液を交換するフローが存在する場合でも、前記マイクロウェル内で前記検査対象物の位置を一定に保ち、前記マイクロウェル内で前記対向電極に短パルスを印加することにより、EPを用いて前記検査対象物を破砕し、前記マイクロウェルの寸法が前記検査対象物破砕後に該検査対象物内物質の解析を妨げる前記検査対象物内物質の希釈を防ぐのに十分に小さい状態で前記検査対象物を解析することを特徴とする。
【0013】
〔11〕上記〔10〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、単一細胞がDEPを用いて捕捉されることを特徴とする。
〔12〕上記〔10〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、小胞がDEPを用いて捕捉されることを特徴とする。
〔13〕上記〔10〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、微小区画を形成する脂質二重膜がDEPを用いて捕捉されることを特徴とする。
【0014】
〔14〕上記〔11〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記単一細胞が検体を含有することを特徴とする。
〔15〕上記〔13〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記微小区画を形成する脂質二重膜が検体を含有することを特徴とする。
【0015】
〔16〕上記〔13〕又は〔14〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記検体が生体分子であることを特徴とする。
〔17〕上記〔13〕又は〔14〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記検体の解析を行うことを特徴とする。
【0016】
〔18〕上記〔17〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記検体の解析が放射線を用いて行われることを特徴とする。
〔19〕上記〔18〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記検体の解析が前記検体によって放射される放射線を用いて行われることを特徴とする。
【0017】
〔20〕上記〔17〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記検体の解析が生化学反応を用いて行われることを特徴とする。
〔21〕上記〔18〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記放射線が生化学反応によるものであることを特徴とする。
【0018】
〔22〕上記〔18〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記放射線が化学反応によるものであることを特徴とする。
〔23〕上記〔18〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記放射線がルミネセンスであることを特徴とする。
【0019】
〔24〕上記〔18〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記放射線が蛍光であることを特徴とする。
〔25〕上記〔18〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記放射線がリン光であることを特徴とする。
〔26〕上記〔11〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記単一細胞が細胞内物質を含有することを特徴とする。
【0020】
〔27〕上記〔26〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記細胞内物質がDNA分子であることを特徴とする。
〔28〕上記〔26〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記細胞内物質がRNA分子であることを特徴とする。
〔29〕上記〔26〕記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記細胞内物質が生成物を合成するのに用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、誘電泳動(DEP)を用いて検査対象物を捕捉するのに使用される、電気的機能を持つマイクロウェルを必要とする。誘電泳動力を加えることによって、検査対象物はマイクロウェルの底部に位置づけられる。マイクロウェルの寸法により、検査対象物を非常に効率的に捕捉することが可能になる。また、DEPを停止し液体を流しても、マイクロウェル内での検査対象物の位置が維持される。この性質は、DEP緩衝液を、検査対象物内成分を解析するために後で用いられる溶液と交換する場合に利用される。検査対象物破砕は、短い電気パルスを印加することによって実現される。この装置および方法を用いて、検査対象物毎のATPの検査対象物内濃度を解析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例を示す単一細胞の捕捉および破砕の実験概念を示す図である。
【図2】本発明の実施例を示すマイクロ流体デバイスの分解概略図である。
【図3】本発明の実施例を示すマイクロ流体デバイスのマイクロウェルアレイを示す図である。
【図4】本発明のシミュレーションによる電界強度分布(V/m)および電界強度勾配(▽E2)(V/m2 )ベクトルを示す図である。
【図5】本発明の実施例を示すマイクロウェルアレイの製造工程図である。
【図6】本発明の実施例を示すPDMS膜の製造工程図である。
【図7】本発明の実施例を示すマイクロウェルアレイとPDMS膜が組み合わされたマイクロ流体デバイスの断面図である。
【図8】本発明のマイクロウェルアレイへの細胞捕捉の状態を示す図である。
【図9】本発明のマイクロウェルの個数の割合を捕捉された細胞数毎にマイクロウェルの直径に対してプロットした図である。
【図10】本発明のマイクロチャンバー内で細胞破砕する様子を示す図である。
【図11】本発明の細胞内ATP濃度の測定を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置は、DEPを用いて細胞を捕捉し、EPを用いて細胞を破砕するための、基板上に形成される対向電極を含み、この電極が底部に形成されたマイクロウェルを有するマイクロウェルアレイと、細胞を含有する溶液または細胞成分の生化学的解析用の溶液を導入するためのマイクロ流体チャネルと、前記マイクロウェルの限定された容積に細胞物質を閉じ込めるため、細胞破砕の前に前記マイクロウェルを密閉する膜とを具備することを特徴とする。
【0024】
また、電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた単一細胞解析方法において、基板上に形成される対向電極を含み、この対向電極が底部に形成されたマイクロウェルを有するマイクロウェルアレイと、細胞を含有する溶液または細胞成分の生化学的解析用の溶液を導入するためのマイクロ流体チャネルと、前記マイクロウェルの限定された容積に細胞物質を閉じ込めるため、細胞破砕の前に前記マイクロウェルを密閉する膜とを備え、前記マイクロウェルの寸法、前記溶液の流量、および前記対向電極に印加される電界を調整したDEPによって前記各マイクロウェルに1個の細胞を位置付けし、前記マイクロ流体チャネルによって前記溶液を交換するフローが存在する場合でも、前記マイクロウェル内で前記細胞の位置を一定に保ち、前記マイクロウェル内で前記対向電極への短パルスの印加により、EPを用いて細胞を破砕し、前記マイクロウェルの寸法が細胞破砕後に細胞内物質の解析を妨げる細胞内物質の希釈を防ぐのに十分に小さい状態で細胞を解析する。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施例について図面を用いて詳細に説明する。なお、実施例中では検査対象物として主に単一細胞を例に述べているが、後述する種々の検査対象物に適用可能である。
図1は本発明の実施例を示す単一細胞の捕捉および破砕の実験概念を示す図、図2はそのマイクロ流体デバイスの分解概略図、図3はそのマイクロ流体デバイスのマイクロウェルアレイを示す図であり、図3(a)はその平面図、図3(b)はその断面図である。また、図4はシミュレーションによる電界強度分布(V/m)および電界強度勾配(▽E2)(V/m2 )ベクトルを示す図である。
【0026】
これらの図において、1は基板(ガラス基板)、2は基板1上に形成された相互に噛み合ったIDE(交差指状電極:Inter−Digitated Electrodes)であり、その材料はITOからなる。3はそのITO電極2上に形成されるマイクロウェル、3Aはフォトレジスト、4はそのマイクロウェル3が配列されたマイクロウェルアレイ、5はマイクロ流体チャネル、6はPDMS膜、7はマイクロウェル3を閉じることにより形成されるマイクロチャンバー、8は細胞、9は細胞8を含有する溶液、10は細胞内物質である。
【0027】
まず、図1(a)に示すように、細胞8を含有する溶液(DEP緩衝液)9は、マイクロ流体チャネル5内へと連続的に導入され、図1(b)に示すように、マイクロウェル3の周りの細胞8は対向電極2によるDEPを用いて捕捉される。その後、図1(c)に示すように、マイクロウェル3はPDMS膜6が押し付けられることによって閉じられ、マイクロチャンバー7を構成する。最後に、図1(d)に示すように、細胞8はITO電極2によるEPを用いて、閉じたマイクロチャンバー7の内部で破砕され、マイクロチャンバー7の内部は細胞内物質10で満たされる。
【0028】
本発明のマイクロ流体デバイスは、図2に示すように、マイクロウェルアレイ4と、その上に接合されたPDMS膜6からなる。
マイクロウェルアレイ4においては、図3(a)に示すように、フォトレジスト3Aを用いて作製されたマイクロウェル3が、基板1上にパターニングされた相互に噛み合ったITO電極と位置合わせが行われている。
【0029】
本発明では、パターニングしたITO電極2により、DEPを用いて細胞8を引き付け、EPを用いてマイクロチャンバー7内部で破砕を行うようにした。図3(b)に示すように、隣り合うITO電極2間の距離は6μmであり、これは細胞8の直径約12.5μmよりも短い。フォトレジスト3Aを用いて作製したマイクロウェル3は、相互に噛み合ったITO電極2と位置合わせされるが、これは、陽極および陰極が両方ともマイクロウェル3の内部に突出するようにするためである。このマイクロウェル3の深さは15μmであり、これは対象の細胞8の直径よりもわずかに長い。マイクロウェルアレイ4には、3mm×3mmの正方形領域内に配置された60×60個のマイクロウェル3が配置されている。フォトレジスト3Aは絶縁性の良い材料なので、電場は、マイクロウェル3がパターニングされた領域を除いて良好に阻害される。さらに、相互に噛み合ったITO電極2がマイクロウェル3の底部に位置するので、電場は各マイクロウェル3の内部で高度に局在化される。マイクロウェル3は、DEPを用いた捕捉中に、細胞8が占有することが可能な空間を物理的に制限するだけではなく、マイクロウェル3が閉じられたときに、マイクロチャンバー7から細胞8破砕後の細胞内物質10が拡散することを防ぐ。マイクロウェル3は、マイクロ流体チャネル5の役割を果たすPDMS膜6を押し付けることによって緊密に閉じられ、マイクロチャンバー7を構成する。
【0030】
本発明のマイクロ流体デバイスのDEP力を評価するため、市販のコード(Comsol Multiphysics,COMSOL group)を使用して電場の二次元シミュレーションを行った。図4は、シミュレーションによる電界強度分布(V/m)および電界強度勾配(▽E2)(V/m2 )ベクトルを示しており、この計算では、電位は電極の境界線に与えられている。電極の縁部ではその周りの電界が強いので、電界強度勾配(▽E2)のベクトルの方向はマイクロウェル3の内部に向いている。したがって、マイクロウェル3の上方にある溶液9中の細胞8は、DEP力によってマイクロウェル3の底部に引き込まれる。
【0031】
図5はマイクロウェルアレイの製造工程図、図6はPDMS膜の製造工程図、図7はマイクロウェルアレイとPDMS膜が組み合わされたマイクロ流体デバイスの断面図である。
マイクロウェルアレイ4の作製プロセスを図5に示す。
まず、図5(a)に示すように、基板1上にITO電極膜2′が形成される。次に、ITO電極膜2′をパターニングしてITO電極2を形成する。このDEPおよびEPのための相互に噛み合ったITO電極2は、従来のフォトリソグラフィーを用いて作製する。厚さ500nmのITO電極膜2′をガラス基板1上にスパッタリングし、電極2の形状をポジティブ型のフォトレジスト(S−1813,Shipley far Ltd.)を用いてパターニングし、次に、HNO3+HCl=1+1溶液によって室温で25分間、ITOをエッチングする。マイクロウェルアレイ4は、パターニングしたITO電極2上でネガティブ型のフォトレジスト(SU−8 2010,MicroChem Co.)3Aを用いて作製している。フォトレジスト3Aは、ITO電極2が形成された基板1上にスピン塗布し、予備焼成する。パターニングしたマイクロウェルアレイ用のクロムフォトマスクを、パターニングしたITO電極2と位置合わせし、フォトレジスト3Aにフォトマスクを通してUV(紫外)光を照射した後、現像およびすすぎを行う。
【0032】
一方、PDMS膜6の作製プロセスを図6に示す。まず、図6(a)に示すように、鋳型の役割を果たすネガティブ型のフォトレジスト(SU−8 2050,MicroChem Co.)12を、シリコンウェハ11上にパターニングする。なお、鋳型は、イソプロピルアルコールおよび脱イオン水を用いて十分に洗浄するようにする。また、製作したPDMS膜を容易に離型できるように、反応性イオンエッチング装置(RIE−10NR,Samco Co.)を用いて、鋳型にCHF3プラズマを照射し、フッ化炭素層でコーティングする。その後、図6(b)に示すように、PDMSのポリマー前駆体(Silopt 184,Dow Corning Toray,Co.Ltd.)13′を硬化剤と質量比10:1で混合して、鋳型に流し込み、PDMSのポリマー前駆体13′から泡を除去するため、混合物を約0.02MPaで30分間乾燥機に入れて保持した。次に、PDMS膜13を75℃で2時間硬化させ、その後、重合したPDMS膜13を型から剥離する。最後に、図6(c)に示すように、マイクロ流体チャネル5へのアクセスポートとしての役割を果たす、細胞8を含む溶液9又は細胞成分の生化学的解析用の溶液の流入穴14および排出穴15を打ち抜き開口し、PDMS膜13とする。
【0033】
図5に示すマイクロウェルアレイ4と図6に示すPDMS膜13を図7に示すように組み立てるため、RIE装置を用いてそれらにO2プラズマを照射して表面を活性化させた。両方を位置合わせして接触させ、外圧を加えることなく自発的に接合させた。O2プラズマ処理によって、SU−8マイクロウェルアレイ4およびPDMS膜12が親水性になり、そのことにより、PDMSチャネルだけでなくマイクロウェル3に対しても試薬の注入が容易になる。
【0034】
次に、本発明における単一細胞の捕捉とアレイ上での細胞破砕について説明する。
まず、実験に用いた装置について説明する。
細胞8として、理研バイオリソースセンターから入手したU−937細胞を、培養器内のCO2を5%含有する加湿雰囲気において37℃で培養した。培地は、RPMI 1640(Invitrogen Corp.)であり、これにFBS(Gemini Bio−products)10%とペニシリン−ストレプトマイシン溶液(Sigma Chemical Co.)1%を補った。細胞の細胞質からの蛍光を観察するため、U−937細胞をカルセインAM(和光純薬工業)で染色した。DEPおよびEP実験に先立って、pDEP(ポジティブDEP)向けに細胞懸濁液9の導電性(21.4mS m-1)を調節するため、培地をDEP緩衝液(HEPES 10mM、CaCl2 0.1mM、D−グルコース59mM、およびスクロース236mM、pH7.35)と交換した。培地中の細胞を190gで3分間遠心分離し、静かに培地を除去し、DEP緩衝液を添加した。細胞8の直径は12.5±1.6μm、細胞8の濃度は約1×106個/mlであった。
【0035】
上記したマイクロ流体デバイスは、倒立顕微鏡(IX 71、オリンパス)上に配置したx−y並進ステージ上に載置した。細胞8は、顕微鏡上に設置した電子増倍電荷結合素子(EMCCD)カメラ(iXonEM +885 EMCCD Camera,Andor Technology Plc)を用いてモニターした。細胞8の捕捉後にマイクロウェルアレイ4を閉じるため、ステージコントローラー(SHOT−202AM;シグマ光機)によって制御される、電動ステージ(SGAM20;シグマ光機)に接続した丸いプラスチック製チップを用いてPDMS膜6を押し付けた。DEPおよびEPのための電位は、増幅器(HSA4010;エヌエフ回路設計)を用いて振幅を増幅した後、ファンクションジェネレーター(WF1974;エヌエフ回路設計)を用いて、相互に噛み合ったITO電極2に印加した。
【0036】
上記したマイクロ流体デバイスを用いた実験において、単一細胞の捕捉と、それに続く細胞破砕を実証した。細胞8を含む溶液9としての細胞懸濁液は、細胞供給の連続フローにより、アクセスポートとしての流入穴13を介してマイクロ流体チャネル5に導入される。実験により、1つのマイクロウェル3に捕捉される細胞の数が、マイクロウェル3の直径(20,25,30,または35μm)と細胞8を含む溶液9の流量(2または4μl/min)とに依存することを見出している。電場の振幅と周波数が変動することによって複雑さが増すことを回避するため、印加電位の振幅および周波数は2Vp−pおよび1MHzで一定に保っている。単一の細胞8は、2μl/minの流量で、相互に噛み合ったITO電極2に正弦電位を印加することによって、25μmのマイクロウェル3内へと成功裡に捕捉される。
【0037】
図8は、ITO電極に正弦AC電圧1MHzで2Vp-p を印加した場合の、直径25μmのマイクロウェルアレイへの細胞捕捉の状態を示す図である。
図8(a)は、細胞捕捉中のマイクロウェルアレイのt=0min,t=2.0min,t=3.0minそれぞれの時間経過画像を示す。マイクロ流体チャネル5には、細胞8を含む溶液9が2μl/minの流量で導入されており、破線で示す。マイクロウェル3には徐々に細胞が入り、3分後にはほとんど全てのマイクロウェル3が単一の細胞8を保持している。この図に示されるように、2個の細胞が入った、または空のマイクロウェルは数個のみであった。なお、図8(b)は捕捉中のU−937(リンパ球)細胞の時間経過画像、図8(c)は細胞捕捉中に観察された細胞の軌跡を示す模式図である。
【0038】
捕捉する細胞の数はマイクロウェルの直径と大きく関連している。捕捉に対してマイクロウェルの直径が及ぼす効果を、直径20,25,30,および35μmのマイクロウェル3を有するマイクロウェルアレイ4を用いて調査した。本発明では、正弦電位を3分間印加することによって細胞を捕捉し、その後、電位を遮断して捕捉を停止した。次に、ランダムに選択したマイクロウェル10×10個の領域で、0個、1個、2個、3個、または4個の細胞を含有するマイクロウェルの数を計数した。図9(a)では、2μl/minの流量で、内部に捕捉された細胞数が0個、1個、2個、3個または4個となったマイクロウェルの個数の全体に対する割合をマイクロウェルの直径に対してプロットしている。プロットしたデータはすべて、同じ実験条件下で試験した3つのマイクロウェルアレイにおいて測定した3つのデータ系列の平均値である。図9(a)に示されるように、25μmのマイクロウェルアレイ4は、単一細胞8に関して非常に優れた捕捉効率(約95%)を示している。2個または3個の細胞を含有するマイクロウェル3の数の割合は、マイクロウェルの直径に伴って増加した。
【0039】
流量もまた、細胞捕捉効率における別の重要なパラメーターである。本発明のデバイスでは、図4のシミュレーション結果に示されるように、DEP力はマイクロウェル3の周りに非常に集中している。したがって、フローの速度が増加した場合、細胞がマイクロウェルの上を流れるときに電場に触れる時間が短くなる。図9(b)は、流量が4μl/minであったことを除いて図9(a)のデータと実験条件は同じである。この場合、30μmのマイクロウェルアレイが最良の捕捉結果を示している。図9に示す2つのヒストグラムは、実験条件を制御することによって、異なるサイズのマイクロウェルに単一細胞を捕捉できることを示している。破砕後の細胞内物質の希釈係数はマイクロウェルのサイズによって決まるので、このことは重要である。
【0040】
図10はマイクロチャンバー内で細胞を破砕する様子を示す図である。
単一細胞から得られる細胞内物質の閉じ込めは、閉じたマイクロチャンバー7内で細胞8を破砕することによって実現される。細胞破砕では、30V,10μsのローレンツパルスを10Hzで10秒間印加した。図10(a)は、パルス印加前後の閉じたチャンバーアレイを示す蛍光画像であり、破線の左側と右側はそれぞれ直径25μmと30μmのチャンバーアレイである。2個の細胞が入ったマイクロチャンバーは、単一細胞が入ったマイクロチャンバーよりも明るい光を発している。細胞破砕の成功率は非常に高く、マイクロチャンバー7内の細胞はほぼ100%が同時に破砕している。これは、全ての細胞8が電極の縁部に位置付けられているので、各細胞に均一な高い電場を印加することができるためである。
【0041】
図10(b)は、t=0においてパルスが印加されたときの、単一細胞破砕の間の時間経過画像を示し、図10(c)は、図10(b)の画像における白い破線に沿って得られる蛍光強度を示す。電気パルスを印加すると、細胞内物質10の漏れ出しにより、細胞8の蛍光強度は減少した。他方では、細胞内物質10が細胞外に拡散することによって、マイクロチャンバー7の内部は徐々に蛍光で満たされる。マイクロチャンバー7と細胞8との体積比は約7:1なので、図10(c)に示されるように、細胞の蛍光強度はパルス印加から3秒後には約1/7に減少する。このように、経過時間に応じたマイクロチャンバー7内の蛍光分布を調査することによって、マイクロチャンバー7内での細胞内物質10の拡散および希釈を評価することができる。
【0042】
図11は細胞内ATP濃度の測定を示す図であり、ATP消費酵素であるルシフェラーゼによって発生する発光信号を示している。
本発明の汎用性を実証するため、ヒトU937およびHepG2を含む異なる細胞タイプを捕捉した。図11(a)はマイクロウェルアレイへの多数の細胞を捕捉した様子を示す図であり、図11(b)はその捕捉した細胞が生きているか死んでいるかをチェックする様子を示す図である。
【0043】
誘電泳動は生体細胞を損傷する恐れがある。誘電泳動による細胞の捕捉は膜の一体性に依存しているので、本発明のシステムは、無傷の生きた細胞を優先的に捕らえることができる〔図11(a)および図11(b)〕。実験パラメーターを最適化することによって、本発明では、生きた細胞の高い捕捉効率(ほぼ100%)を得ることができる。図11(b)では、DEP中における細胞の生存率を、カルセイン−AM(緑)およびヨウ化プロピジウム(赤)蛍光マーカーによって評価した。細胞内ATP解析に先立って、捕捉緩衝液9を、ホタルルシフェラーゼアッセイ試薬を含有する溶液と交換した。ATPはルシフェリンの二段階酸化を触媒するルシフェラーゼと反応し、それによって560nmの光が得られる。100msのEPパルスによって細胞膜崩壊が引き起こされた直後に細胞内ATPが放出され、ルシフェラーゼアッセイ試薬と自由に反応した。図11(c)は、膜崩壊の数秒後に検出された生物発光信号を、発光強度の時間依存性とともに示す図である。類似の曲線が得られることから単一細胞測定の妥当性を裏付けている。デバイスの測定値を校正し、マイクロチャンバー内に存在するATPの濃度を発光量から推測するため、ケージドATPを使用した。細胞内ATP濃度は、細胞内体積(細胞は類似のサイズを有する;U937,12.5±1.6μm)の平均値から計算することができ、またはマイクロチャンバー内の個々の細胞それぞれの評価から直接計算することもできる。デバイス上の解析から得られるATPの細胞内濃度レベルに関して見出した結果(細胞直径は12.5±1.6μm)を、バルク測定で得られた値と直接比較した。図11(d)は、両方の方法によって得られた濃度レベルが類似していることを示している。
【0044】
なお、本発明の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法では、微小区画を形成する脂質二重膜や細胞をDEPを用いて捕捉する。つまり、本発明では、検査対象物は細胞だけでなく、小胞(ベシクル:Vesicle)や微小区画を形成する脂質二重膜(リポソーム)など内部に液体を含み、なおかつDEPやEPで操作できるものをも対象とし、それらの内部に含有される物質を解析することも可能である。
【0045】
上記脂質二重膜構造もしくは細胞は、生体分子などの検体(例えば、ATP)を含有しており、これらの検体の解析を生化学反応又は化学反応による放射線(ルミネセンス、蛍光、リン光など)を用いて行う。なお、検体によって放射される放射線を用いて解析を行ってもよい。また、検体の生化学反応を用いて解析を行ってもよい。また、解析の対象となる単一細胞は、細胞内物質としてリボソーム、DNA分子、RNA分子を含有しており、この細胞内物質が生成物を合成するのに用いられる。
【0046】
上記したように、本発明において、アレイ形式のDEPおよびEPに基づくマイクロ流体デバイスを用いた、単一細胞の捕捉および破砕を成功裡に実証した。マイクロウェルの寸法、および流量などの他の実験パラメーターを調節することによって、本発明は、良好な単一細胞捕捉効率(約95%)を実現することができる。さらに、密閉されたマイクロチャンバーを使用することで、膜崩壊後の細胞内物質の拡散および希釈が物理的に制限される。多くのプロセス、特に細胞内成分の解析に用いられるような多くの生化学反応は、マイクロモル以上の濃度状態においてのみ効率的に発生するので、このことは重要である。したがって、本発明のデバイスは、単一細胞毎の細胞内物質を解析するための有用なプラットフォームとなる。高度に統合されたマイクロデバイスは、生物医学および薬学の基礎研究にとって有望であり、堅牢な携帯型のポイントオブケアデバイスは臨床現場で用いることができる。本発明のデバイスにより、細胞の単純な操作と、それに続く破砕およびデバイス上での解析が可能になる。
【0047】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、区画化用のマイクロウェル上に細胞操作(DEPおよびEP)用の電極を統合することにより、単一細胞解析を行うことができるツールとして利用可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 基板(ガラス基板)
2 ITO電極
2′ ITO電極膜
3 マイクロウェル
3A,12 フォトレジスト
4 マイクロウェルアレイ
5 マイクロ流体チャネル
6,13 PDMS膜
7 マイクロチャンバー
8 細胞
9 溶液
10 細胞内物質(細胞内容物)
11 シリコンウェハ
13′ PDMSのポリマー前駆体
14 流入穴
15 排出穴
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)DEPを用いて検査対象物を捕捉し、EPを用いて前記検査対象物を破砕するための、基板上に形成される対向電極を含み、該電極が底部に形成されたマイクロウェルを有するマイクロウェルアレイと、
(b)前記検査対象物を含有する溶液または前記検査対象物成分の生化学的解析用の溶液を導入するためのマイクロ流体チャネルと、
(c)前記マイクロウェルの限定された容積に前記検査対象物内物質を閉じ込めるため、前記検査対象物の破砕の前に前記マイクロウェルを密閉する膜とを具備することを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置。
【請求項2】
請求項1記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置において、前記検査対象物が単一の細胞であることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置。
【請求項3】
請求項1記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置において、前記検査対象物が小胞であることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置。
【請求項4】
請求項1記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置において、前記検査対象物が微小区画を形成する脂質二重膜であることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置。
【請求項5】
請求項2記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置において、前記マイクロウェルは前記細胞のサイズにあわせて直径20−35マイクロメートルであり、そのマイクロウェルの数が数百から数万個形成されたマイクロウェルアレイであることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置。
【請求項6】
請求項1記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置において、前記対向電極が互いに噛み合ったIDE(交差指状電極)からなることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置。
【請求項7】
請求項6記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置において、前記対向電極がインジウムスズ酸化物(ITO)からなることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置。
【請求項8】
請求項1記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置において、前記マイクロウェルの壁がフォトレジストで作られることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置。
【請求項9】
請求項1記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置において、前記基板がガラス基板であることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置。
【請求項10】
(a)基板上に形成される対向電極を含み、該対向電極が底部に形成されたマイクロウェルを有するマイクロウェルアレイと、
(b)検査対象物を含有する溶液または前記検査対象物成分の生化学的解析用の溶液を導入するためのマイクロ流体チャネルと、
(c)前記マイクロウェルの限定された容積に前記検査対象物内物質を閉じ込めるため、前記検査対象物破砕の前に前記マイクロウェルを密閉する膜とを備え、
(d)前記マイクロウェルの寸法、前記溶液の流量、および前記対向電極に印加される電界を調整したDEPによって前記各マイクロウェルに1個の前記検査対象物を位置付けし、
(e)前記マイクロ流体チャネルによって前記溶液を交換するフローが存在する場合でも、前記マイクロウェル内で前記検査対象物の位置を一定に保ち、
(f)前記マイクロウェル内で前記対向電極に短パルスを印加することにより、EPを用いて前記検査対象物を破砕し、
(g)前記マイクロウェルの寸法が前記検査対象物破砕後に該検査対象物内物質の解析を妨げる前記検査対象物内物質の希釈を防ぐのに十分に小さい状態で前記検査対象物を解析することを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【請求項11】
請求項10記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、単一細胞がDEPを用いて捕捉されることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【請求項12】
請求項10記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、小胞がDEPを用いて捕捉されることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【請求項13】
請求項10記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、微小区画を形成する脂質二重膜がDEPを用いて捕捉されることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【請求項14】
請求項11記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記単一細胞が検体を含有することを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【請求項15】
請求項13記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記微小区画を形成する脂質二重膜が検体を含有することを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【請求項16】
請求項13又は14記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記検体が生体分子であることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【請求項17】
請求項13又は14記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記検体の解析を行うことを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【請求項18】
請求項17記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記検体の解析が放射線を用いて行われることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【請求項19】
請求項18記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記検体の解析が前記検体によって放射される放射線を用いて行われることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【請求項20】
請求項17記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記検体の解析が生化学反応を用いて行われることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【請求項21】
請求項18記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記放射線が生化学反応によるものであることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【請求項22】
請求項18記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記放射線が化学反応によるものであることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【請求項23】
請求項18記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記放射線がルミネセンスであることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【請求項24】
請求項18記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記放射線が蛍光であることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【請求項25】
請求項18記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記放射線がリン光であることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【請求項26】
請求項11記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記単一細胞が細胞内物質を含有することを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【請求項27】
請求項26記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記細胞内物質がDNA分子であることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【請求項28】
請求項26記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記細胞内物質がRNA分子であることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【請求項29】
請求項26記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記細胞内物質が生成物を合成するのに用いられることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【請求項1】
(a)DEPを用いて検査対象物を捕捉し、EPを用いて前記検査対象物を破砕するための、基板上に形成される対向電極を含み、該電極が底部に形成されたマイクロウェルを有するマイクロウェルアレイと、
(b)前記検査対象物を含有する溶液または前記検査対象物成分の生化学的解析用の溶液を導入するためのマイクロ流体チャネルと、
(c)前記マイクロウェルの限定された容積に前記検査対象物内物質を閉じ込めるため、前記検査対象物の破砕の前に前記マイクロウェルを密閉する膜とを具備することを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置。
【請求項2】
請求項1記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置において、前記検査対象物が単一の細胞であることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置。
【請求項3】
請求項1記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置において、前記検査対象物が小胞であることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置。
【請求項4】
請求項1記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置において、前記検査対象物が微小区画を形成する脂質二重膜であることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置。
【請求項5】
請求項2記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置において、前記マイクロウェルは前記細胞のサイズにあわせて直径20−35マイクロメートルであり、そのマイクロウェルの数が数百から数万個形成されたマイクロウェルアレイであることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置。
【請求項6】
請求項1記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置において、前記対向電極が互いに噛み合ったIDE(交差指状電極)からなることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置。
【請求項7】
請求項6記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置において、前記対向電極がインジウムスズ酸化物(ITO)からなることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置。
【請求項8】
請求項1記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置において、前記マイクロウェルの壁がフォトレジストで作られることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置。
【請求項9】
請求項1記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置において、前記基板がガラス基板であることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置。
【請求項10】
(a)基板上に形成される対向電極を含み、該対向電極が底部に形成されたマイクロウェルを有するマイクロウェルアレイと、
(b)検査対象物を含有する溶液または前記検査対象物成分の生化学的解析用の溶液を導入するためのマイクロ流体チャネルと、
(c)前記マイクロウェルの限定された容積に前記検査対象物内物質を閉じ込めるため、前記検査対象物破砕の前に前記マイクロウェルを密閉する膜とを備え、
(d)前記マイクロウェルの寸法、前記溶液の流量、および前記対向電極に印加される電界を調整したDEPによって前記各マイクロウェルに1個の前記検査対象物を位置付けし、
(e)前記マイクロ流体チャネルによって前記溶液を交換するフローが存在する場合でも、前記マイクロウェル内で前記検査対象物の位置を一定に保ち、
(f)前記マイクロウェル内で前記対向電極に短パルスを印加することにより、EPを用いて前記検査対象物を破砕し、
(g)前記マイクロウェルの寸法が前記検査対象物破砕後に該検査対象物内物質の解析を妨げる前記検査対象物内物質の希釈を防ぐのに十分に小さい状態で前記検査対象物を解析することを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【請求項11】
請求項10記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、単一細胞がDEPを用いて捕捉されることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【請求項12】
請求項10記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、小胞がDEPを用いて捕捉されることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【請求項13】
請求項10記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、微小区画を形成する脂質二重膜がDEPを用いて捕捉されることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【請求項14】
請求項11記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記単一細胞が検体を含有することを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【請求項15】
請求項13記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記微小区画を形成する脂質二重膜が検体を含有することを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【請求項16】
請求項13又は14記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記検体が生体分子であることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【請求項17】
請求項13又は14記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記検体の解析を行うことを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【請求項18】
請求項17記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記検体の解析が放射線を用いて行われることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【請求項19】
請求項18記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記検体の解析が前記検体によって放射される放射線を用いて行われることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【請求項20】
請求項17記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記検体の解析が生化学反応を用いて行われることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【請求項21】
請求項18記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記放射線が生化学反応によるものであることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【請求項22】
請求項18記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記放射線が化学反応によるものであることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【請求項23】
請求項18記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記放射線がルミネセンスであることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【請求項24】
請求項18記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記放射線が蛍光であることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【請求項25】
請求項18記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記放射線がリン光であることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【請求項26】
請求項11記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記単一細胞が細胞内物質を含有することを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【請求項27】
請求項26記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記細胞内物質がDNA分子であることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【請求項28】
請求項26記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記細胞内物質がRNA分子であることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【請求項29】
請求項26記載の電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法において、前記細胞内物質が生成物を合成するのに用いられることを特徴とする電気的機能を持つマイクロチャンバーアレイ装置を用いた検査対象物解析方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図4】
【図8】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図4】
【図8】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−34641(P2012−34641A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178790(P2010−178790)
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(509304287)サントル ナショナル ドゥラ ルシェルシュ シヤンティフィック (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(509304287)サントル ナショナル ドゥラ ルシェルシュ シヤンティフィック (3)
【Fターム(参考)】
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