説明

電気磁気効果材料及び電気磁気効果材料からなる電子素子

【課題】常温において電気磁気効果を呈する電気磁気効果材料及び電気磁気効果材料からなる電子素子を提供する。
【解決手段】電気磁気効果材料を、下記式(1)で表され、式(1)中のRの一部が正二価以下の元素により固溶置換されている酸化物とする。
(RM24)m(RMO3)n (1)
(式中、Rは、Y、Dy、Lu、Er、Yb、Tm、Ho、Sc及びInからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、Mは、Mn、Fe、Co及びGaからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、mは1または2であり、nは0以上の整数である。)。この電気磁気効果材料を用いて電子素子を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加えた磁場によって誘電率が変化するとともに、加えた電場によって透磁率が変化する電気磁気効果材料、及びこの電気磁気効果材料からなる電子素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、外部から磁場を印加することによって誘電率を変化させることができるとともに、外部から電場を印加することによって透磁率を変化させることができる電気磁気効果材料が知られている。このような電気磁気効果材料では、冷却手段によって一般的に100K程度にまで冷却された状態でしか電気磁気効果が現れないため、一般的な電気製品には利用されていなかった。
【0003】
なお、室温付近で電気磁気効果を呈する電気磁気効果材料としてはCr2O3が知られているが、反強磁性秩序を基本としてもつために実用材料として不向きであった。
【0004】
また、Cr2O3に代わる材料として、A及びBを一般式ABO3で表され、かつ強磁性または反強磁性を示すペロブスカイト型構造の化合物を形成しうる元素とし、C及びDを一般式CDO3で表され、かつ強誘電性、反強誘電性、圧電効果またはピエゾ効果を示すペロブスカイト型構造の化合物を形成しうる元素として、x+y+z+w=1であって、0.01<x,y,z,w<0.95であり、αが他の元素の原子価を満足する酸素の数として、xA−yB−zC−wD−αO系酸化物セラミックスが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平05−043227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のxA−yB−zC−wD−αO系酸化物セラミックスは、確かに室温環境下で利用できる電気磁気効果材料ではあるが、簡単に製造できるものではなく、量産化が容易ではないために低コスト化することが困難であった。
【0007】
本発明者らは、xA−yB−zC−wD−αO系酸化物セラミックスとは異なる材料で、常温においても電気磁気効果を呈する材料を知見し、本発明を成すに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電気磁気効果材料では、下記式(1)で表され、式(1)中のRの一部が正二価以下の元素により固溶置換されている酸化物からなる電気磁気効果材料とした。
(RM24)m(RMO3)n (1)
(式中、Rは、Y、Dy、Lu、Er、Yb、Tm、Ho、Sc及びInからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、Mは、Mn、Fe、Co及びGaからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、mは1または2であり、nは0以上の整数である。)
【0009】
また、本発明の電気磁気効果材料からなる電子素子では、Rを、Y、Dy、Lu、Er、Yb、Tm、Ho、Sc及びInからなる群より選択される少なくとも1種の元素、Mを、Mn、Fe、Co及びGaからなる群より選択される少なくとも1種の元素、mを、1または2、nを、0以上の整数として(RM24)m(RMO3)nと表されるとともに、Rの一部を正二価以下の元素により固溶置換した酸化物からなる電気磁気効果材料と、この電気磁気効果材料を挟んで対向させて設けた2つ1組の電極とを有する電気磁気効果材料からなる電子素子とした。さらに、電極の対向する方向を酸化物におけるc軸方向としていることにも特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、Rを、Y、Dy、Lu、Er、Yb、Tm、Ho、Sc及びInからなる群より選択される少なくとも1種の元素、Mを、Mn、Fe、Co及びGaからなる群より選択される少なくとも1種の元素、mを、1または2、nを、0以上の整数として(RM24)m(RMO3)nと表されるとともに、Rの一部を正二価以下の元素により固溶置換した酸化物からなる電気磁気効果材料を用いることにより、室温においても電気磁気効果を呈する材料を極めて簡単に提供できる。
【0011】
したがって、電気磁気効果材料からなる電子素子を低コスト化でき、特に、磁場印加にともなって変化する誘電率を検出する素子として使用した場合には、小型で高性能な磁気センサなどの磁場検出手段の電子素子として利用できる。
【0012】
あるいは、電場印加にともなって透磁率が変化することを利用して、ハードディスクにおけるデータの書き込みに用いるヘッドなどの磁場生成手段の電子素子として利用することもできる。また、変化された透磁率が保持されることから、メモリなどの記憶手段の電子素子としても利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】平面視における電気磁気効果材料中の各元素の配置の概略説明図である。
【図2】側面視における電気磁気効果材料中の各元素の配置の概略説明図である。
【図3】本発明の実施形態にかかる電気磁気効果材料で構成した試験サンプルの模式図である。
【図4】試験サンプルの磁場下における誘電率の周波数依存性を示すグラフである。
【図5】試験サンプルの磁場下における誘電率の温度依存性を示すグラフである。
【図6】試験サンプルの磁場下における交流電気伝導度の周波数依存性を示すグラフである。
【図7】試験サンプルの誘電率の磁場依存性を示すグラフである。
【図8】本発明の実施形態にかかる電子素子の模式図である。
【図9】試験サンプルの誘電率の磁場依存性を示すグラフである。
【図10】他の実施形態にかかる電子素子の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の電気磁気効果材料、及び電気磁気効果材料からなる電子素子では、Rを、Y、Dy、Lu、Er、Yb、Tm、Ho、Sc及びInからなる群より選択される少なくとも1種の元素、Mを、Mn、Fe、Co及びGaからなる群より選択される少なくとも1種の元素、mを、1または2、nを、0以上の整数として(RM24)m(RMO3)nと表されるとともに、Rの一部を正二価以下の元素により固溶置換した酸化物からなる電気磁気効果材料、及び電気磁気効果材料からなる電子素子としているものである。
【0015】
以下において、RをLuとし、MをFeとしたLuFe24を代表例として説明する。
【0016】
LuFe24は、まず、酸化ルテチウム(Lu23)と酸化鉄(III)(Fe23)とを1:2の割合で混合するとともに、ボールミルで約1時間混合する。次いで、混合物を所定形状に成形して、酸素雰囲気下で、24時間、800℃に加熱して仮焼成した後、一酸化炭素と二酸化炭素の混合ガスであるCO−CO2混合ガスの雰囲気下でFZ(Floating Zone)法によって結晶成長させることにより、単結晶として生成することができる。
【0017】
なお、CO−CO2混合ガスの代わりにCO2−H2混合ガスを用いてもよく、還元雰囲気で酸素分圧を制御しながら焼成することにより、減量状態では過剰となっている酸素の量を調整できる。
【0018】
単結晶のLuFe24の結晶構造について、図1及び図2を用いて説明する。なお、結晶中のFeイオンにおいてFe3+とFe2+の規則構造が出現していない、いわゆる電荷秩序化前の状態である。
【0019】
図1は、平面視における各元素の配置の概略説明図であり、元素Aの三角格子と、元素Bの三角格子と、元素Cの三角格子の位置関係を示している。以下において、元素Aの三角格子における元素Aの位置をA位置、元素Bの三角格子における元素Bの位置をB位置、元素Cの三角格子における元素Cの位置をC位置と呼ぶこととする。
【0020】
図2は、側面視における各元素の配置の概略説明図であり、最上層から下方に向けて以下の順番で所定の位置に各元素が位置している。
Lu−B位置
O −C位置
Fe−C位置
O −B位置
O −C位置
Fe−B位置
O −B位置
Lu−C位置
O −A位置
Fe−A位置○
O −C位置○
O −A位置○
Fe−C位置○
O −C位置
Lu−A位置
O −B位置
Fe−B位置
O −A位置
O −B位置
Fe−A位置
O −A位置
Lu−B位置
【0021】
このうち、○印を付した4層で構成される部分をW層(W-Layer)と呼んでおり、このW層を有していることがLuFe24の特徴点となっている。なお、LuFe24だけでなく、Rを、Y、Dy、Lu、Er、Yb、Tm、Ho、Sc及びInからなる群より選択される少なくとも1種の元素、Mを、Mn、Fe、Co及びGaからなる群より選択される少なくとも1種の元素、mを、1または2、nを、0以上の整数として(RM24)m(RMO3)nと表されるとともに、Rの一部を正二価以下の元素により固溶置換した酸化物も同様にW層を有している。
【0022】
LuFe24においては、電荷秩序の発生にともなってFe3+とFe2+と電荷数の異なるFeイオンが共存することとなり、W層における上段層と下段層とでFe3+とFe2+の不均一が生じることにより電荷の偏りが発生して、W層のc軸方向に電気分極が生じることとなる。
【0023】
この電気分極が結晶全体で揃うことによってLuFe24は強誘電体となる。なお、LuFe24では、330K以下で電荷秩序が現れる。また、酸素欠損が生じることによってW層において電荷の偏りを生じさせやすくすることができる。
【0024】
単結晶のLuFe24はab面で劈開しやすく、c軸と直交する面を設けながら矩形体状に切り出し、図3に示すようにc軸と直交する一方の面に第1電極11を設けるとともに、もう一方の面に第2電極12を設けて、2つ一組となっている第1電極11と第2電極12で電気磁気効果材料13を挟んだ試験サンプルを作成し、誘電率を計測した。図3中、14は第1電極11に接続した第1接続配線、15は第2電極12に接続した第2接続配線である。
【0025】
図4は、250Kで計測した誘電率の周波数依存性を示しており、試験サンプルに対して2Tの磁場を印加した場合と、印加していない場合の2通りの試験を行ったが、両者の差異はほとんどみられなかった。なお、試験サンプルの電気磁気効果材料13は、FZ法による結晶成長時にCO:CO2=1:4のCO−CO2混合ガスを用いて作成しており、酸素欠損が比較的多いと思われる。
【0026】
図5は、10kHzで計測した誘電率の温度依存性を示しており、0Tで温度を下げながら誘電率を計測した後、低温で8Tの磁場を印加して昇温させながら誘電率を計測し(ZFC)、室温で0Tに戻した。その後、室温状態でもう一度、8Tの磁場を印加して、温度を下げながら誘電率を計測した(FC)。
【0027】
図5より、印加磁場によって誘電率の温度変化が大きく影響を受けていることがわかる。なお、試験サンプルの電気磁気効果材料13は、FZ法による結晶成長時にCO:CO2=1:5のCO−CO2混合ガスを用いて作成しており、酸素欠損が比較的少ないと思われる。
【0028】
図6は、260Kで計測した交流電気伝導度の周波数依存性を示しており、磁場を印加することにより交流電気伝導度が大きく変わることがわかる。なお、試験サンプルの電気磁気効果材料13は、FZ法による結晶成長時にCO:CO2=1:5のCO−CO2混合ガスを用いて作成しており、酸素欠損が比較的少ないと思われる。
【0029】
図7は、300K、10kHzで計測した交流誘電率の磁場依存性を示しており、印加磁場によって交流誘電率が変化することから、図8に示すように、試験サンプルに交流電源16を接続するとともに、交流誘電率の変化を電流値の変化として検出する検出器17を接続することにより、磁気センサとして機能させることができる。
【0030】
ここで、電気磁気効果材料13を挟んで対向している第1電極11と第2電極12の対向する方向を酸化物のc軸方向とすることにより、電気磁気効果材料13の誘電率変化の影響を最も効果的に検出することができ、磁気センサの感度を向上させることができる。
【0031】
なお、試験サンプルの電気磁気効果材料13は、FZ法による結晶成長時にCO:CO2=1:5のCO−CO2混合ガスを用いて作成しており、酸素欠損が比較的少ないと思われる。
【0032】
一方、試験サンプルの電気磁気効果材料13を、FZ法による結晶成長時にCO:CO2=1:4のCO−CO2混合ガスを用いて作成した場合には、図9に示すように、4T以上において、酸素欠損が比較的少ない試験サンプルでは交流誘電率が大きく変化するのに対して、ほとんど変化が見られない。
【0033】
すなわち、酸素欠損が大きく影響しているものと考えられる。具体的には、酸素欠陥を考慮した場合、LuFe24-δと表されるが、0≦δ≦0.2であることが望ましい。
【0034】
また、RFe24について、本発明の特性が発現する背景には、下記の2点の条件が必要となっているものと考えられる。
【0035】
第一に、RFe24の結晶中でW層と呼ばれる領域において、同数のFe2+とFe3+とが存在しているという条件がある。RFe24の結晶構造において、結晶全体としてもそうであるが、W層は三角格子の積層構造であるため、同数のFe2+とFe3+との存在は、電荷のフラストレーションを起こすことになる。
【0036】
すなわち、上記の結晶構造において、平均の鉄イオン価数は2.5価であるため、Fe2+は電子が多く負電荷の役割を持ち、一方、Fe3+は電子が足りず正電荷の役割を持つ。また、RFe24において、同数の正電荷と負電荷とがW層の三角格子上に配置せざるを得ず、その結果、Fe2+及びFe3+の規則配置がW−layer内に現れる。この規則配置では、上記したように、Fe3+の多い領域が正電荷の役割を持ち、一方、Fe2+の多い領域が負電荷の役割を持つ。このため、W層が電気双極子(電気分極)を持つことになり、この電気分極の存在が、様々な特性の起源となっている。
【0037】
第二の条件として、上記の物質において同数のFe2+とFe3+とが存在するためには、RFe24という化学式から導かれるように、Rが3+であることが必要となる。したがって、これらの条件から、本発明の物質における特性の発現のためには、Rの価数は3+となる。
【0038】
また、第三の条件として、結晶化学の立場から、この物質の結晶構造が成立するためには、遷移金属イオン、酸素イオン、希土類イオンそれぞれの比率が、現在のイオン半径比を保つことが必要になると推測している。
【0039】
上記したRFe24の結晶構造が成立するために、今のところ知られているRイオンは、Y、Dy、Lu、Er、Yb、Tm、Ho、Sc、Inである。これは上記した第三の条件によって制約されていると推測している。
【0040】
なお、本発明は、Rイオンに、一種類ではなく複数の3+イオンを導入することを排除するものでない。イオン半径の異なるイオンを固溶させることは、物性をさらに変化させる可能性があると推測している。
【0041】
本実施形態では、電気磁気効果材料13で構成された電子素子を磁気センサとして用いる場合について説明しているが、磁気センサとして用いる場合に限定するものではなく、適宜の磁場の検出手段として用いることができる。
【0042】
あるいは、図10に示すように、電気磁気効果材料13には電源装置18によって所定の電場を印加することにより、電気磁気効果材料13において電気分極の状態を変化させ、自発磁化の大きさを変化させて、電気磁気効果材料13で構成された電子素子を電場制御型の磁石としてもよい。
【0043】
特に、この場合には、磁気記録装置における書き込み用の磁気ヘッドとして用いることができ、生成される磁場の状態を高速で変更することができるので、高速な書き込みを可能とすることができる。
【符号の説明】
【0044】
11 第1電極
12 第2電極
13 電気磁気効果材料
14 第1接続配線
15 第2接続配線
16 交流電源
17 検出器
18 電源装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表され、
式(1)中のRの一部が正二価以下の元素により固溶置換されている酸化物からなる電気磁気効果材料。
(RM2O4)m(RMO3)n (1)
(式中、Rは、Y、Dy、Lu、Er、Yb、Tm、Ho、Sc及びInからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、Mは、Mn、Fe、Co及びGaからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、mは1または2であり、nは0以上の整数である。)
【請求項2】
Rを、Y、Dy、Lu、Er、Yb、Tm、Ho、Sc及びInからなる群より選択される少なくとも1種の元素、
Mを、Mn、Fe、Co及びGaからなる群より選択される少なくとも1種の元素、
mを、1または2、
nを、0以上の整数として(RM2O4)m(RMO3)nと表されるとともに、前記Rの一部を正二価以下の元素により固溶置換した酸化物からなる電気磁気効果材料と、
この電気磁気効果材料を挟んで対向させて設けた2つ1組の電極と
を有する電気磁気効果材料からなる電子素子。
【請求項3】
前記電極の対向する方向を前記酸化物におけるc軸方向としている請求項2に記載の電気磁気効果材料からなる電子素子。

【図1】
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【図3】
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【図8】
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【図10】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−202439(P2010−202439A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48503(P2009−48503)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】