説明

電気脱イオンシステムにおける電流分布をシフトする方法及び装置

電気脱イオン(EDI)装置及び方法は、内部を通過する液体からイオンを除去するためのイオン削減室を備え、抵抗成分をイオン削減室の出口領域付近で連結して、イオン削減室の出口領域の電気抵抗を入口領域に対して増加する。抵抗成分を希釈室及び/又は濃縮室に接するイオン選択性膜に連結することができる。別の実施形態では、抵抗成分をイオン削減室内のイオン交換媒体粒子自体間に連結することができる。いずれの実施形態でも、イオン削減室の出口領域の電気抵抗を入口領域に対して増加し、その結果電流を出口領域から入口領域に向けてシフトし、こうしてEDI装置の全体的脱イオン性能を高める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に改良された電気脱イオンシステムに関し、特に樹脂床の特定区域の導電率を変えて脱イオンプロセスを改良することができる、電気脱イオンシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気脱イオン(EDI=electrodeionization)システムは、液体、特に水からイオンを除去するのに用いられている。電気脱イオンシステムでは、工業プロセス水を発電、電子、食品、化学、製薬その他の工業に用いる超高純度に精製するために、EDIモジュールに電圧をかける電源が必要である。
【0003】
代表的な電気脱イオン装置では、電流がイオン交換樹脂の床に流れる。樹脂床は、両側でかつ電流の方向に直角に、イオン交換膜で挟まれている。電流が床を通過すると、イオンが溶液及びイオン交換ビーズ両方を移動し、これに伴って水の解離がアニオン/カチオン、ビーズ/ビーズ及びビーズ/膜界面で起こる。この電流を流すのに必要な電位は、ビーズ及び膜のイオン交換相におけるイオンの移動度、ビーズを包囲する溶液におけるイオンの移動度及び水解離に必要な電位に依存する。
【0004】
電気脱イオン装置では、不純物イオンが、供給電流に直角にイオン交換床の一端に送られ、純水がイオン交換床の他端から出てくる。この状況では、イオン交換床の入口から出口への不純物イオンの勾配が設定され、例えばNaHCO3を供給する場合、入口のイオン交換媒体は主としてNa+及びHCO3-形態であり、出口に向かってNa+及びHCO3-濃度が次第に減少する。出口領域では、イオン交換媒体は主として再生されたH+及びOH-形態である。普通の逆浸透透過液を処理する混合もしくは層状希釈室電気脱イオン装置では、入口から出口へのこの種形成勾配の結果として、Na+及びHCO3-の相対移動度がH+及びOH-の相対移動度よりはるかに低いため、装置の入口が出口より低導電性となる。その結果、定電位をEDI装置に印加したとき、出口に流れる電流が入口に流れる電流より著しく大きくなる。
【0005】
いくつかの要因がイオン交換媒体の床におけるイオンの移動度に影響することが知られている。例えば、(1)イオン種の性質、即ちカチオンの場合、H+対Na+対Ca2+、(2)架橋率、イオン交換位置の濃度、イオン交換位置の分布及びビーズ表面構造など、イオン交換材料の性質、(3)イオン種の濃度、(4)アニオン/カチオン、ビーズ/ビーズ界面の量、(5)アニオン/カチオン、ビーズ/ビーズ界面の品質、(6)装置で処理中の溶剤の組成及び(7)温度などの要因がある。
【0006】
EDI装置が不純物イオンを除去し、高純度の水を生成する能力は、再生電流の分布に大きく依存することが知られている。脱イオン性能を向上するために、EDI装置におけるアニオン及びカチオンイオン交換相の導電率を変更することが試みられており、例えば、DiMascioらの米国特許第6284124号及び同第6514398号(特許文献1及び2)に記載されている。特許文献1及び2の装置は、イオン交換樹脂の交互層を有するイオン削減コンパートメントを備え、これらの層の一方にドーパント材料を添加して交互層間の導電率の差を小さくしたことを特徴とする。
【特許文献1】米国特許第6284124号明細書
【特許文献2】米国特許第6514398号明細書
【特許文献3】米国特許第6391178号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
比較的簡単な低コストなやり方で1以上の抵抗成分をEDI装置の出口領域付近でビーズ/膜界面に連結して、EDI装置の出口領域の電気抵抗を入口領域に対して増加し、これにより装置の入口領域での電流分布を装置の出口領域に対して増加するとともに、装置の全体的脱イオン性能を高めた、改良EDI装置は、従来技術に教示も示唆もされていない。種々の異なる用途に簡単に適合させうる改良EDI装置を開発することも望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、現在の技術水準に鑑みて開発され、特に現在入手できるEDI装置ではまだ完全に解決されていない問題やニーズに応えて開発された。したがって、本発明は、内部を通過する液体からイオンを除去するためのイオン削減(デプレーション)希釈室を備え、1以上の抵抗成分を希釈室の出口領域付近で、希釈室に隣接するアニオン膜及びカチオン膜のいずれか一方又は両方に連結した、改良電気脱イオン(EDI)装置を提供するために開発されたものである。抵抗成分は、抵抗成分自体が抵抗を付加するか、抵抗成分がビーズ/膜接触面積を減らすのに有効であるか、またはその両方の理由で、希釈室の出口領域における電気抵抗を入口領域に対して増加する機能を果たす。抵抗成分は、膜の希釈側又は濃縮側のいずれに(又は両側に)配置してもよい。希釈室の出口領域の電気抵抗を入口領域に対して増加することにより、希釈室の入口領域及び出口領域間の電流分布の改善を図り、こうしてEDI装置の脱イオン性能を高める。さらに、抵抗成分の形状、寸法、組成及び/又は位置を変更することにより、希釈室内の電流分布を簡単に制御することができ、かくして様々な用途及び運転条件に簡単に適合可能なEDI装置が得られる。
【0009】
本発明はまた、イオン選択性膜(例えばアニオン及びカチオン膜)をイオン削減室の両側にかつイオン削減室の入口端及び出口端間に設け、ついで1以上の抵抗成分を出口領域の近くで(希釈側及び濃縮側のいずれかもしくは両方で)イオン選択性膜のいずれか一方又は両方に連結し、出口領域の電気抵抗を入口領域に対して増加する工程を含む、イオン削減室全体を通しての電流のバランスを改良する方法を提供するために開発されたものである。作動時には、液体をイオン削減室に入口領域から出口領域に向かって流通させ、電界を液体の流れ方向に交差してイオン削減室にかける。1以上の抵抗成分をイオン削減室の出口領域の近くでイオン選択性膜のいずれか一方又は両方に連結し、その結果、出口領域に流れる電流の割合(%)が減少し、一方入口領域に流れる電流の割合(%)が増加し、これによりEDI装置の全体的イオン削減性能を増進する。
【0010】
本明細書において特徴、利点その他への言及は、本発明で実現できる特徴及び利点のすべてが本発明のあらゆる実施形態に存在するか存在すべきであることを意味しない。そうではなくて、特徴や利点に関する記述は、一実施形態に関連して記載した特定の特徴、利点もしくは特性が本発明の1以上の実施形態に含まれることを意味すると理解すべきである。したがって、特徴、利点その他についての議論は、必ずではないが、同じ実施形態についてのものである。
【0011】
さらに、本発明の特徴、利点及び特性は1つ又は2つ以上の実施形態で任意適当な態様で組合せ可能である。本発明は特定の実施形態の特定の特徴もしくは利点の1つ以上がなくても実施可能であることが、当業者には理解できるはずである。他の状況では、本発明のすべての実施形態に存在しない追加の特徴及び利点がある実施形態に認められることもある。
【0012】
本発明の特徴及び利点は、以下の詳細な説明及び特許請求の範囲から一層明らかになるか、以下の通りに本発明を実施することで自ずと習得されるはずである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の利点を理解しやすくするために、上に簡単にまとめた本発明を、添付の図面に図解した特定の実施形態に言及しながら、以下にさらに詳しく説明する。図面は本発明の代表的な実施形態のみを図示しており、したがって本発明の範囲を限定するものと考えるべきではないことを理解した上で、以下に本発明を添付図面を参照しながら、さらに具体的にかつ詳細に説明する。
【0014】
本発明の原理を理解しやすくする目的で、以下、図面に示した実施形態に言及し、特定の用語を用いて実施形態を説明する。しかしながら、これは本発明の要旨を限定するつもりはないことを理解すべきである。当業者に想起できるであろう、本明細書に具体的に示す本発明の特徴の変更やさらなる修正、そして本発明の原理の追加の応用例も、本発明の要旨に含まれると考えられる。
【0015】
本明細書におけるある「実施形態」、「一実施形態」などへの言及は、その実施形態に関連して記載した特定の特徴、構造又は特性が本発明の1以上の実施形態に含まれることを意味する。したがって、用語「実施形態」、「一実施形態」などは、必ずではないが、すべて同じ実施形態についてのものである。
【0016】
本発明は、脱イオン室の樹脂床内の特定の区域の導電率を変更して全体的脱イオンプロセスを改良することができる手段を備える改良電気脱イオン(EDI)装置である。脱イオン室全体での電流分布は樹脂床への不純物イオンの浸透深さに影響すること、その結果、選択された全体電流にて、所定のEDI装置設計についての浸透深さを最小にすることができる、樹脂床全体での最適な電流分布が存在すること、を確かめた。
【0017】
したがって、本発明は、樹脂床内の特定の区域の導電率を変更して脱イオンプロセスを改良することができる、改良電気脱イオン(EDI)装置及び方法を提供する。ある実施形態では、本発明は、膜と希釈もしくは濃縮室いずれかのビーズとの間に抵抗成分を追加することにより樹脂床全体の電流分布をより均一にする。本実施形態で抵抗成分に選択する材料はポリマーメッシュ材料であるが、多数の他の材料を使用して、イオン削減室の出口領域近くでビーズ/膜界面に隣接して実質的に非導電性粒子の層を設けることにより、同等の結果を達成できることが理解される。例えば、抵抗性樹脂ビーズ又は他の樹脂材料の層を出口領域近くでビーズ/膜界面に隣接して設けて、出口領域の抵抗を増加することができる。また、抵抗成分の形状を、出口領域近くのビーズ/膜接触面積を効果的に減少させるように構成されたスペーサの形状とし、これにより出口領域の抵抗を入口領域に対して増加することができる。ここに開示した実施形態のほかに、当業者は、抵抗成分が、出口領域の近くのビーズ/膜界面に隣接して配置されたときに、室の出口領域の抵抗を入口領域に対して増加するように機能するならば、抵抗成分が様々な異なる形態、形状及び組成をとり得ることを理解できるはずである。本発明はまた、床中の特定の区域の抵抗を抵抗成分の形状及び寸法により制御できる、例えばメッシュの開口度、メッシュの厚さ、室のメッシュ充填割合及びセル対当たりのメッシュ片の数を変えることにより制御できることを特徴とする。
【0018】
本発明の着想を一層よく理解するには、イオン交換床中の特定の区域の導電率が下記の手段の少なくともいくつかにより影響を受けることを認識しなければならない。その手段とは、(1)希釈室もしくは濃縮室いずれかで膜とビーズとの間に抵抗成分を設けること(ここに開示する実施形態では、抵抗成分に選択した材料はポリマーメッシュである)、(2)希釈室もしくは濃縮室いずれかでビーズ/ビーズ界面間にて、イオン交換床に抵抗成分を設けること(これは、ビーズを部分的に被覆する溶融ポリマーを用いる例が示される)、(3)樹脂床中のビーズ接触圧力を増減すること(これは、もっとも簡単には、樹脂床の特定の区域における単位体積当たりのイオン交換材料の質量を変えることにより達成できる)、(4)カチオン/アニオンイオン交換接触点の数を増減すること(これは、イオン交換ビーズのパターン形成を利用するか、カチオン/アニオンイオン交換比を調節することにより達成できる)である。
【0019】
本発明の実施形態によれば、ポリマーメッシュを膜の表面上に配置する。このメッシュは、ビーズ/膜界面でのビーズ/膜接触面積を限定し(これにより電気抵抗を増加し)、また膜の希釈側もしくは濃縮側いずれに配置することもできる。したがって、室抵抗の増加、即ち床内の特定区域の抵抗の増加は、メッシュの形状、寸法及び組成により制御できる、例えばメッシュの開口度、メッシュの厚さ、室のメッシュ充填割合及びセル対当たりのメッシュ片の数により制御できる。下記の実施例1に詳細に示すように、ポリマーメッシュをカチオン膜(濃縮側もしくは希釈側いずれでも)の出口領域近くに配置することにより、入口領域に向かって脱イオン室に流れる電流の割合(%)を効果的にシフトし、こうして全体的脱イオン性能を高める。
【0020】
ここで本発明の実施形態を図示した図1a〜図1dを参照する。これらの図には、イオン削減希釈室20が濃縮室21間に配置された構成の貫流電気脱イオン(EDI)モジュール10が示されている。図示の便宜上、1つの希釈室20に1対の濃縮室21が隣接した構造を示す。しかし、本発明は、本発明の要旨から逸脱することなく、当業界で周知の方法で1つもしくは2つ以上の交互の希釈/濃縮セル対モジュールを陽極14と陰極12間に配置した構成のEDI装置でも実施可能であることが明らかである。
【0021】
図1a〜図1dにおいて、カチオン選択性膜22及びアニオン選択性膜24が希釈室20の両周囲側面に配置されている。一方、陽極14及び陰極12がモジュール10の両端部に配置され、電圧を1以上の希釈室20及び濃縮室21に交差方向に供給する。代表的には、希釈室20及び濃縮室21には電気活性な樹脂ビーズ(図示せず)を充填して、当業界で既知の態様でのイオン交換を達成することができる。流体を希釈室20の入口(即ち、図の下部)に希釈流れ方向矢印で示す方向に導く。一方、精製された流体が希釈室20の出口(即ち、図の上部)から出てくる。
【0022】
図1a〜図1dに、抵抗成分32を希釈室20の出口領域近くに配置した、本発明の実施形態を図示する。ここに開示した実施形態を説明するために、実験用に、抵抗成分32として所定の長さL及び表面構造厚さWを有するポリマーメッシュを選択した。抵抗成分32の長さLが室の全長の約50%であるのが好ましいが、抵抗成分の一部が入口領域の一部も覆うか否かに関係なく、抵抗成分が室の出口領域の近傍に位置する限りで、50%より多いか50%より少ない部分長さを使用してもよく、本発明の要旨から逸脱しない。さらに、抵抗成分32については、出口領域近くでビーズ/膜界面に隣接する種々の位置に配置した様々な長さのメッシュ片と組み合わせて、様々な厚さ及び/又は表面構造(即ち、メッシュ密度、開口度)を使用しても、所望の結果を得ることが可能であることも理解される。さらに、上述したように、非メッシュ型抵抗成分32、例えばフィルムシート又は実質的に非導電性粒子の層を与えるように構成された他の適当な材料も本発明で使用できる。また、種々の長さの小片を(膜の希釈側もしくは濃縮側いずれかで)イオン選択性膜22,24の片方もしくは両方上の種々の位置に適切に配置して、希釈室20内の所定区域の導電率を変えることもでき、本発明の要旨から逸脱しない。
【0023】
図1aに示す一実施形態では、抵抗成分32がカチオン膜22の濃縮側でカチオン膜22の出口半部に配置されている。或いはまた、図1bに示すように、抵抗成分32をカチオン膜22の希釈側に配置してもよい。図1c及び1dに示す他の実施形態では、抵抗成分32がアニオン膜24の濃縮側(図1c)又は希釈側(図1d)でアニオン膜24の出口半部に配置されている。なお、図示の実施形態の種々の組合せや並べ替えも使用でき、本発明の要旨から逸脱しない。
【0024】
ここに開示した実施形態のいずれにおいても、本発明は、希釈室もしくは濃縮室内いずれかでビーズ/ビーズ界面間にて出口領域近くでイオン交換床に抵抗成分を付加することにより達成できる。このことは、ビーズを部分的に被覆する溶融ポリマーを用いる例で実証され、溶融ポリマーを用いる結果として、ビーズ間のビーズ/ビーズ界面を減少させ、これによりビーズ間の電気抵抗を増加し、またそれに伴って出口領域の電気抵抗を入口領域に対して増加する。イオン交換ビーズの外に、抵抗成分を出口領域近くで、他のタイプのイオン交換媒体粒子、例えばイオン交換繊維もしくはフィルム粒子間に配置して、出口領域の電気抵抗を入口領域に対して増加することによっても、本発明を実施できることが分かる。さらに、本明細書に記載の実施形態のいずれにおいても、イオン交換床の特定の区域における単位体積当たりのイオン交換材料の質量を変えてビーズ及び/又は粒子接触圧力を増減することにより、イオン交換床の導電率を変更することができる。
【0025】
作動時には、精製すべき液体を希釈室20の入口領域に希釈流れ方向矢印で示される方向に供給する。一方、精製された水は希釈室20の出口領域から出てくる。電界をモジュール10の反対端にある陽極14及び陰極12にかける。すると、電流は当業界で周知の態様にて流体流れの方向に直角に流れ、かくして溶解されたカチオン及びアニオン成分がイオン交換樹脂ビーズまたは他のイオン交換繊維もしくはフィルム粒子(図示せず)から、対応する電極12,14の方向に移動する。カチオン成分はカチオン透過膜22を通って隣接する陰極対面イオン濃縮室21に移動する。アニオン成分のプロセスも同様であるが、反対方向に起こり、つまりアニオン成分はアニオン透過膜24を通って陽極対面イオン濃縮室21に移動する。このようにして、希釈室20を通過する流体からイオン成分が削減(除去)され、これにより形成される高純度流体流れが希釈室20の出口領域から出て行く。
【実施例】
【0026】
以下に実施例を示して、本発明の広い適用可能性を具体的に示すが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0027】
実施例1
NaHCO3をCaCO3として20ppmの全交換可能アニオン(TEA)濃度にて含有し、また250ppbのSiO2を含有する水溶液を、図2aに示すように従来のEDIモジュールに供給した。実施例1では、希釈室20から出てくる流体が、約15〜18ppbの残留SiO2を含有することが確認された。希釈室20全域にわたって測定した区域1〜4における電流分布を図2aに示す。電流分布は、区域1=11%、区域2=18%、区域3=30%、区域4=41%であった。したがって、電流の約71%が希釈室の出口半部(即ち、区域3及び4)近くに存在する一方、電流の約29%が希釈室の入口半部(即ち、区域1及び2)近くに存在することが明らかである。このように電流分布が希釈室の出口領域に向かってアンバランスになっていることは、希釈室を通る流れ長さの大きな割合が高イオン化種の除去に向けられ、一方出口領域近くの流れ長さの部分は弱イオン化種、即ちSiO2を除去するのに用いられていることを示している。
【0028】
これに対して、抵抗成分32が希釈室20の出口領域近くに配置された、本発明にしたがって構成されたEDIモジュールでは、図2bに示すように、希釈室の区域1〜4における電流分布が効果的に変更されている。本例では、電流分布が室全体にわたってもっとバランスよくなっていることが分かる。電流分布は、区域1=17%、区域2=33%、区域3=24%、区域4=26%であった。したがって、電流分布は希釈室20の入口及び出口領域間でよくバランスがとれており、電流の約50%が区域1及び2(即ち入口領域)に分布し、電流の約50%が区域3及び4(即ち出口領域)に分布している。電流分布が改良されているせいで、希釈室20の出口側から出てくる流体は、残留SiO2の量が約5〜6ppbと減少していることが分かった。したがって、本発明による抵抗成分32を設けたEDI装置は、希釈室20全体における電流分布を効果的に改良し、その結果、装置から出てくる流体のSiO2含量が約15〜18ppbから約5〜6ppbに減少した。これらの結果から、本発明にしたがって構成したメッシュ状抵抗成分32を用いて、電流を入口領域(区域1及び2)に向かってシフトし、それにより全体的脱イオン性能を高めることに成功したことが分かる。
【0029】
図2a及び2bに示すように、本発明にしたがって(図2bに示すように)抵抗成分32を設けたEDI装置の有効性を、(図2aに示すように)抵抗成分を設けない従来のEDI装置と比較評価した。この目的で、実施例1では、抵抗成分32を希釈室の出口半部においてカチオン膜22の希釈側に配置した。なお、抵抗成分32を希釈室の出口半部近くでカチオン膜側もしくはアニオン膜側いずれに配置しても同等の結果を達成できる。抵抗成分32は、希釈室20の全長の約50%を覆う長さを有するポリマーメッシュであった。しかし、50%より多いか50%より少ない部分長さを使用しても、本発明の要旨から逸脱しない。図2bの希釈室20の区域1〜4における電流分布割合から分かるように、抵抗成分32は、希釈室20/カチオン膜22界面におけるビーズ/膜接触面積を限定することにより、希釈室20の出口領域の抵抗を増加するのに有効であることが明らかである。その結果、図2aと図2bの区域1〜4における電流分布割合の比較から証明される通り、希釈室の入口半部(即ち、区域1,2)における電流分布割合が増加し、一方抵抗成分32に帰せられる出口半部の高抵抗のために、出口半部(即ち、区域3,4)における電流分布割合が減少している。その結果、装置から出てくる流体のSiO2含量が約15〜18ppbから約5〜6ppbに減少したという実施例1の結果が証明するように、入口領域の高い電流割合により全体的脱イオン性能が改良されている。
【0030】
以上、本発明を代表的な実施形態について説明したが、本発明の要旨から逸脱することなく、種々の変更や置き換えが可能であるので、本発明は提示した細部に限定されるものではない。ここに開示した本発明の変更例や均等物は、通常の実験だけで当業者に想起でき、このような変更例や均等物も特許請求の範囲に規定された本発明の要旨の範囲内に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1a】本発明の一実施形態に係るイオン削減室の線図的断面図であり、抵抗成分をカチオン選択性透過膜の濃縮側に連結した構成例を示す。
【図1b】本発明の一実施形態に係るイオン削減室の線図的断面図であり、抵抗成分をカチオン選択性透過膜の希釈側に連結した別の構成例を示す。
【図1c】本発明の一実施形態に係るイオン削減室の線図的断面図であり、抵抗成分をアニオン選択性透過膜の濃縮側に連結した別の構成例を示す。
【図1d】本発明の一実施形態に係るイオン削減室の線図的断面図であり、抵抗成分をアニオン選択性透過膜の希釈側に連結した別の構成例を示す。
【図2a】従来の電気脱イオン(EDI)装置のイオン削減室の線図的断面図であり、室の各区域における電流分布割合を示す。
【図2b】本発明により構成した電気脱イオン(EDI)装置のイオン削減室の線図的断面図であり、室の各区域における電流分布割合が図2aの構成と比較して向上していることを示す。
【符号の説明】
【0032】
10 モジュール
20 希釈室
21 濃縮室
22 カチオン選択性透過膜
24 アニオン選択性透過膜
32 抵抗成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン選択性透過膜間に配置された入口領域及び出口領域を有する1以上の希釈室と、
前記イオン選択性透過膜の1以上に隣接配置された1以上の濃縮室と、
前記出口領域付近で前記1以上のイオン選択性透過膜に連結された1以上の抵抗成分とを含み、前記抵抗成分により出口領域の電気抵抗を入口領域に対して増加した、
内部を通過する液体からイオンを除去する電気脱イオン装置。
【請求項2】
前記イオン選択性透過膜の一方がアニオン膜であり、他方がカチオン膜である、請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記抵抗成分がポリマーメッシュ材料を含む、請求項2記載の装置。
【請求項4】
前記抵抗成分がビーズ樹脂材料を含む、請求項2記載の装置。
【請求項5】
前記抵抗成分が前記アニオン膜と前記希釈室間に連結された、請求項2記載の装置。
【請求項6】
前記抵抗成分が前記アニオン膜と前記濃縮室間に連結された、請求項2記載の装置。
【請求項7】
前記抵抗成分が前記カチオン膜と前記希釈室間に連結された、請求項2記載の装置。
【請求項8】
前記抵抗成分が前記カチオン膜と前記濃縮室間に連結された、請求項2記載の装置。
【請求項9】
電気脱イオン装置で液体からイオンを除去する方法であって、
イオン選択性透過膜間に配置された入口領域及び出口領域を有する1以上の希釈室を設け、
前記イオン選択性透過膜の1以上に隣接配置された1以上の濃縮室を設け、
前記出口領域付近で前記1以上のイオン選択性透過膜に1以上の抵抗成分を連結し、これにより前記出口領域の電気抵抗を前記入口領域に対して増加するようにし、
液体を前記希釈室に入口領域から出口領域へ流通させ、
前記液体の流れ方向に交差して前記希釈室に電界をかける工程を含み、
前記抵抗成分が前記入口領域に流れる電流の分布を前記出口領域に対して増加させ、これにより前記電気脱イオン装置のイオン削減性能を高める、
電気脱イオン装置で液体からイオンを除去する方法。
【請求項10】
前記抵抗成分がポリマーメッシュ材料を含み、前記方法が、前記メッシュの開口度を変えるか、前記メッシュの厚さを変えるか、前記メッシュの長さを変えるか、前記メッシュの位置を変えるか、前記メッシュの量を変えるか、これらの組合せにより電気抵抗の増加の量を制御する工程を含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記抵抗成分がビーズ樹脂材料を含む、請求項9記載の方法。
【請求項12】
前記イオン選択性透過膜の一方がアニオン膜であり、他方がカチオン膜である、請求項9記載の方法。
【請求項13】
前記抵抗成分を前記アニオン膜と前記希釈室間に連結する、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記抵抗成分を前記アニオン膜と前記濃縮室間に連結する、請求項12記載の方法。
【請求項15】
前記抵抗成分を前記カチオン膜と前記希釈室間に連結する、請求項12記載の方法。
【請求項16】
前記抵抗成分を前記カチオン膜と前記濃縮室間に連結する、請求項12記載の方法。
【請求項17】
電気脱イオン装置で液体からイオンを除去する方法であって、
イオン選択性透過膜間に配置された入口領域及び出口領域を有する希釈室を設け、
1以上の濃縮室を前記イオン選択性透過膜の1つに連結し、
前記室の1以上に複数のイオン交換粒子を供給し、
2つ以上のイオン交換粒子間に前記出口領域付近で1以上の抵抗成分を設け、これにより前記出口領域の電気抵抗を前記入口領域に対して増加するようにし、
液体を前記希釈室に入口領域から出口領域へ流通させ、
前記液体の流れ方向に交差して前記希釈室に電界をかける工程を含み、
前記抵抗成分が前記入口領域に流れる電流の分布を前記出口領域に対して増加させ、これにより前記電気脱イオン装置のイオン削減性能を高める、
電気脱イオン装置で液体からイオンを除去する方法。
【請求項18】
前記抵抗成分が溶融ポリマー材料を含む、請求項17記載の方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図1d】
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【図2a】
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【図2b】
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【公表番号】特表2009−539578(P2009−539578A)
【公表日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−513356(P2009−513356)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【国際出願番号】PCT/US2007/067646
【国際公開番号】WO2007/143296
【国際公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】