説明

電気自動車の状態把握支援装置、状態把握支援方法、車両点検装置及び車両点検方法

【課題】原動機となる電気モータのトルク変動が小さい電気自動車において、車両状態を把握し易くしたり、車両点検を行い易くしたりする装置を提供する。
【解決手段】電気自動車1を駆動する電動モータの駆動トルクにおいて、前記電動モータが本来的に発生するトルク変動以外のトルク変動を付加的に生じさせることにより、前記電気自動車1の走行中における車両状態を把握し易い状態にするトルク変動発生手段21と通報手段23を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータで駆動走行する電気自動車について、その車両状態を把握し易くするために使用される電気自動車の状態把握支援装置、状態把握支援方法、車両点検をするための車両点検装置及び車両点検方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車は、内燃機関を搭載する内燃機関自動車と比べると、走行駆動源となる電動モータが発生する固有のトルク変動が小さいため、車両各部で発生する回転振動が小さく抑えられ、低振動で滑らかな走行フィーリングを得られるように構成されている。更に、駆動トルクをトルクセンサで検出してフィードバック制御を行う等することで、モータが本来的に発生する固有のトルク変動さえも抑制する措置が講じられている。その反面、内燃機関自動車において原動機のトルク変動による回転振動の変化に基づき把握されるような車両状態の変化が、電気自動車では把握できないことがある。
【0003】
例えば、原動機から走行駆動輪に駆動トルクを伝動するモータ変速機、プロペラシャフト、減速機等の駆動系部品や、原動機で駆動されるエアコンの圧縮機や油圧式パワーステアリングの油圧ポンプ等の補機部品あるいは該補機部品に駆動トルクを伝動するベルトプーリー等の動力伝動装置については、軸、軸受、歯車等の構成部品が、経年変化その他の原因で変形・摩耗及び傷付き等の異常を生じることがある。
【0004】
原動機が内燃機関の場合には、駆動トルクの変動による回転振動によって、上記のような異常が運転中の異常振動(例えば歯車の歯打音)として明確に表れ、運転者が異常発生を認識することができ、更に熟練者であれば、不具合箇所・内容を特定することも可能である。また、機械運転中における異常音を聴取し易くする装置(例えば、特許文献1参照)や、振動を自動的にサンプリング・分析する方法(例えば、特許文献2参照)も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−248527号公報
【特許文献2】特開平8−278191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、トルク変動が比較的小さい電動モータで駆動される電気自動車では、異常振動も小さく表れるため、熟練者でもそのような異常状態を認識することは難しく、あるいは上述した異常音の聴取を容易化する装置や、振動のサンプリング・分析方法を使用しても検出困難である。そのため、内燃機関自動車において異常振動として容易に把握され、検出されるような不具合が、電気自動車では全く検出されず、そのために定期点検等で異常なしと判定された車両が路上で突然走行不能となることが懸念される。
【0007】
また、競走用自動車等では、運転者がタイヤのスリップ状況を車体の挙動変化として感知しながら、ハンドル及びアクセル操作を行い、車体の向きをコントロールするところ、このような競走用に内燃機関自動車を使用する場合には、原動機の回転振動の影響によって挙動変化を早い段階で把握することができ、早めの対応を取ることができる。しかし、電気自動車を競走用に使用する場合、回転振動が小さいために、挙動変化を感知することが難しく、タイヤのグリップ限界付近の変化が的確に把握できずに不意にスピンさせてしまうような事態が懸念される。
【0008】
本発明は、斯かる実情に鑑み、原動機のトルク変動が小さい電気自動車において、車両状態を把握し易くしたり、車両点検を行い易くしたりすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1の発明は、電気自動車を駆動する電動モータの駆動トルクにおいて、前記電動モータが本来的に発生するトルク変動以外のトルク変動を付加的に生じさせることにより、前記電気自動車の走行中における車両状態を把握し易い状態にするトルク変動発生手段を備えることを特徴とする電気自動車の状態把握支援装置を提供する。
【0010】
本発明の請求項2の発明は、前記トルク変動発生手段が、アクセル操作量に応じたトルク指令に高周波の振動波形を合成した変動トルク指令を設定することにより、前記電動モータが本来的に発生するトルク変動以外のトルク変動を生じさせることを特徴とする請求項1記載の電気自動車の状態把握支援装置を提供する。
【0011】
本発明の請求項3の発明は、前記トルク変動発生手段が、前記電動モータのコイル巻線を短絡することにより、前記電動モータが本来的に発生するトルク変動以外のトルク変動を生じさせることを特徴とする請求項1記載の電気自動車の状態把握支援装置を提供する。
【0012】
本発明の請求項4の発明は、電気自動車を駆動する電動モータの駆動トルクにおいて、前記電動モータが本来的に発生するトルク変動以外のトルク変動を付加的に生じさせることにより、前記電気自動車の走行中における車両状態を把握し易い状態にすることを特徴とする電気自動車の状態把握支援方法を提供する。
【0013】
本発明の請求項5の発明は、電気自動車を駆動する電動モータの駆動トルクにおいて、前記電動モータが本来的に発生するトルク変動以外のトルク変動を付加的に生じさせることにより、車両各部を加振して不具合を検出し易い状態にするトルク変動発生手段を備えることを特徴とする電気自動車の車両点検装置を提供する。
【0014】
本発明の請求項6の発明は、前記トルク変動発生手段が、アクセル操作量に応じたトルク指令に高周波の振動波形を合成した変動トルク指令を設定することにより、前記電動モータが本来的に発生するトルク変動以外のトルク変動を生じさせることを特徴とする請求項5記載の電気自動車の車両点検装置を提供する。
【0015】
本発明の請求項7の発明は、前記トルク変動発生手段が、前記電動モータのコイル巻線を短絡することにより、前記電動モータが本来的に発生するトルク変動以外のトルク変動を生じさせることを特徴とする請求項5記載の電気自動車の車両点検装置を提供する。
【0016】
本発明の請求項8の発明は、前記電気自動車の車両各部に配設される振動センサを備えることにより、前記トルク変動発生手段によるトルク変動の付加的発生時に、前記振動センサからのセンサ信号に基づき車両各部の不具合を検出する不具合検出手段を備えることを特徴とする請求項5乃至7の何れかに記載の電気自動車の車両点検装置を提供する。
【0017】
本発明の請求項9の発明は、前記不具合検出手段による不具合検出がなされたときに、その旨を通報する通報手段を備えることを特徴とする請求項8記載の電気自動車の車両点検装置を提供する。
【0018】
本発明の請求項10の発明は、前記電気自動車の運転状態、走行履歴、点検履歴又はこれらの複合が所定条件に該当するときに起動することを特徴とする請求項5乃至9の何れかに記載の電気自動車の車両点検装置を提供する。
【0019】
本発明の請求項11の発明は、前記トルク変動発生手段は、前記付加的に生じさせるトルク変動の波形を変化させられることを特徴とする請求項5乃至10の何れかに記載の電気自動車の車両点検装置を提供する。
【0020】
本発明の請求項12の発明は、前記トルク変動発生手段は、前記付加的に生じさせるトルク変動の周波数及び/又は振幅を変化させられることを特徴とする請求項11記載の電気自動車の車両点検装置を提供する。
【0021】
本発明の請求項13の発明は、前記トルク変動発生手段は、前記付加的に生じさせるトルク変動の周波数を前記電動モータの回転数に応じて変化させられることを特徴とする請求項12記載の電気自動車の車両点検装置を提供する。
【0022】
本発明の請求項14の発明は、前記トルク変動発生手段は、前記電動モータの回転軸に対して、前記付加的に生じさせるトルク変動の位相を変化させられることを特徴とする請求項5乃至10の何れかに記載の電気自動車の車両点検装置を提供する。
【0023】
本発明の請求項15の発明は、電気自動車を駆動する電動モータの駆動トルクにおいて、前記電動モータが本来的に発生するトルク変動以外のトルク変動を付加的に生じさせることにより、車両各部を加振して不具合を検出し易い状態にすることを特徴とする前記電気自動車の車両点検方法を提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の請求項1乃至4の発明によれば、以下のような優れた効果を奏し得る。電気自動車を駆動する電動モータの駆動トルクにおいて、電動モータが本来的に発生する固有のトルク変動とは別のトルク変動を付加的に生じさせることにより、内燃機関自動車に類する車両の振動状態を実現する。これにより、原動機のトルク変動が小さい電気自動車において、運転者が車両運転中における車両の挙動変化や不具合発生を把握し易くなることから、ハンドル及びアクセル操作によるタイヤのグリップ限界付近での車体コントロールを行い易くなり、また、不具合発生に対して早い段階で措置を講じられるようになる等の利点がある。
【0025】
本発明の請求項5乃至7及び15の発明によれば、以下のような優れた効果を奏し得る。電気自動車を駆動する電動モータの駆動トルクにおいて、電動モータが本来的に発生する固有のトルク変動とは別のトルク変動を付加的に生じさせることにより、車両各部を大きく振動させることができる。これにより、原動機のトルク変動が小さい電気自動車において、駆動系部品や補機部品等の車両各部における変形、摩耗、傷付き等の不具合を車両運転中における異常振動又は異常音として検出し易くなる利点がある。
【0026】
本発明の請求項8の発明によれば、請求項5乃至7の何れかの発明が奏する効果に加えて、以下のような優れた効果を奏し得る。不具合検出手段が、電気自動車の各部に配設される振動センサからの信号に基づいて不具合を検出することにより、官能評価による不具合検出能力等を有しない者が運転する場合でも自動的に点検が行われる。
【0027】
本発明の請求項9の発明によれば、請求項8の発明が奏する効果に加えて、以下のような優れた効果を奏し得る。不具合検出手段による不具合検出時に通報することで、運転者に対して不具合発生を確実に認識させることができ、定期点検等を待つことなく適時にメンテナンスが行われる。
【0028】
本発明の請求項10の発明によれば、請求項5乃至9の何れかの発明が奏する効果に加えて、以下のような優れた効果を奏し得る。電気自動車の運転状態、走行履歴、点検履歴又はこれらの組合せが所定条件に該当するときに、車両点検装置を起動させることにより、運転者が意識しなくても適時に点検が行われる。
【0029】
本発明の請求項11の発明によれば、請求項5乃至10の何れかの発明が奏する効果に加えて、以下のような優れた効果を奏し得る。点検対象部位や不具合内容によって不具合を検出し易くなる振動条件が異なるところ、付加するトルク変動の波形を種々変化させることにより、不具合検出がより確実に行われる。
【0030】
本発明の請求項12の発明によれば、請求項11の発明が奏する効果に加えて、以下のような優れた効果を奏し得る。点検対象部位や不具合内容によって検出し易くなる振動条件が異なるところ、付加するトルク変動の周波数や振幅を変化させることにより、不具合検出がより確実に行われる。
【0031】
本発明の請求項13の発明によれば、請求項12の発明が奏する効果に加えて、以下のような優れた効果を奏し得る。電動モータの回転数に応じてトルク変動の周波数を変化させることで、電動モータの回転数が変化しても、点検対象部位の単位回転ごとに加わる振動回数が一定となり、その結果、不具合検出がより安定的に行われる。
【0032】
本発明の請求項14の発明によれば、請求項5乃至10の何れかの発明が奏する効果に加えて、以下のような優れた効果を奏し得る。電動モータの回転軸に対するトルク変動の位相を変化させることで、振動が加えられる回転位置をずらすことができ、その結果、不具合検出がより確実に行われる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態に係る車両点検装置を電気自動車に搭載した状態を示すブロック図。
【図2】(a)アクセル操作量に基づくトルク指令の波形の例、(b)トルク指令に付加されるトルク変動の波形の例、(c)トルク指令の波形に付加するトルク変動の波形を合成してなる変動トルク指令の波形の例、(d)振幅を変化させたトルク変動の波形の例、及び(e)周期(周波数)を変化させたトルク変動の波形の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら説明する。図1に示す電気自動車1は、本実施形態に係る車両点検装置2を搭載している。
【0035】
(電気自動車1)
電気自動車1は、電動モータ11で駆動走行する充電池式電気自動車であり、運転席に設けられるアクセルペダル12の運転者による操作量(踏込ストローク又は踏込角度)をアクセル操作量検出手段13が検出し、その検出データ信号に基づき、トルク指令設定手段14が電動モータ11の駆動トルクを規定するトルク指令を設定する。なお、該トルク指令は、アクセルペダル12の操作量に基づくものであるが、アクセルペダル操作量以外に、車両走行速度、ハンドル操作量、走行駆動輪のスリップ状況、補機部品による負荷状況等の副次的要素に基づく微調整又は補正が適宜なされている。
【0036】
トルク指令設定手段14は、トルク指令をアクセル操作量の時間的変化に応じてリアルタイムで設定しており、当該トルク指令は、図2(a)に示すように、時間経過に伴って変化する波形として表される。モータ制御部15は、通常走行時(後述する検査走行時以外)には、トルク指令設定手段14から供給されるトルク指令に基づいて電動モータ11に対する電力供給を制御し、これにより、電動モータ11は、トルク指令どおりの駆動トルクを出力する。したがって、電気自動車1は、アクセルペダル操作量に応じて、加速、減速又は定速走行することになる。なお、電動モータ11は、その回転駆動の際にコギングトルク等のモータ固有のトルク変動を発生する。
【0037】
電動モータ11は、その駆動トルクにより、走行駆動輪16だけでなく、一部の補機部品17(例えば、エアコンの圧縮機、パワーステアリングの油圧ポンプ、補機バッテリー用のオルタネータ等)も駆動する。走行駆動輪16に対する駆動トルクの伝動は、電動モータ11と走行駆動輪16の間に介在する駆動系部品18(例えば、CVT等の変速機、プロペラシャフト、減速機、ドライブシャフト等)により行われ、補機部品27に対する駆動トルクの伝動は、電動モータ11と補機部品17の間に介在する補機駆動装置19(例えば、ベルトプーリー、ベルト等)により行われる。
【0038】
(車両点検装置2)
車両点検装置2は、ガソリンエンジン等の内燃機関に比べて固有のトルク変動が小さい電動モータ11に、内燃機関と同等レベルあるいはそれ以上の大きなトルク変動を生じさせるようにして、上述した補機部品17、駆動系部品18、補機駆動装置19等を故意に加振し、これらの車両各部における変形、摩耗、傷付きその他の不具合が、車両運転中の異常振動(異常音を含む。以下同じ。)として表れるようにするものである。そのうえで、上記車両各部の振動をモニターすることにより、不具合を検出し、それを運転者に通報する。車両点検装置2は、図1に示すように、トルク変動発生手段21、不具合検出手段22及び通報手段23を備えてなり、当日の車両運転開始時に起動し、その後の一定時間に亘って作動し続けるように設定されている。
【0039】
(トルク変動発生手段21)
トルク変動発生手段21は、振動波形合成手段であり、電動モータ11の駆動トルクにおいてモータ固有のトルク変動以外のトルク変動を付加的に生じさせて、当該トルク変動によって上記車両各部を強制的に回転振動させる。具体的には、トルク変動発生手段21が、アクセル操作量に応じてトルク指令設定手段14が設定するトルク指令(図2(a))を受けて、これに高周波の振動波形(図2(b))を合成し、大きなトルク変動を生じる変動トルク指令(図2(c))を設定し、該変動トルク指令をモータ制御部15に供給する。
【0040】
トルク変動発生手段21による変動トルク指令の供給中は、トルク指令設定手段14からモータ制御部15に対して直接行われるトルク指令供給が中断される。すなわち、トルク変動発生手段21が、トルク指令設定手段14に代わって、電動モータ11を制御するトルク指令(変動トルク指令)を供給する。振動波形の振幅は、モータ固有のトルク変動に比べて十分大きいトルク変動を生じさせられる数値に設定されており、これにより上記車両各部を積極的に回転振動させて、不具合を検出し易くすることができる。
【0041】
トルク指令設定手段14からのトルク指令値に合成される振動波形は、図2(b)の振幅A、周波数f(周期T)に固定されるものでなく、図2(d)に示すように振幅を変化させたり、図2(e)に示すように周波数を変化させたり、更には振幅と周波数の両方を変化させるなど、付加するトルク変動の波形を種々変化させることができる。振幅や周波数の変化は、変動トルクの供給中、予め設定されている規則に従って自動的に行われるものであり、これにより、異常振動を生じる振幅や周波数が異なる複数種類の不具合をすべて洩れなく検出するほか、例えば、電動モータ11の回転数に応じてトルク変動の周波数を変化させることで、単位回転ごとに加わる振動回数を一定化して、モータ回転数の加減速にかかわらず不具合検出を安定的に行うことができる。
【0042】
(不具合検出手段22)
不具合検出手段22は、電気自動車1の運転中に車両各部で生じる振動を監視し、その振動に基づき車両各部で発生している不具合を自動的に検出するものであり、上記車両各部に配設されて振動(音を含む。以下同じ。)を検出可能な振動センサ22a,22b,22cを備えてなる。不具合検出手段22は、トルク変動発生手段21によるトルク変動の発生時に、各振動センサからのセンサ信号をサンプリングして分析を行い、その分析データに基づいて不具合の発生有無(異常振動の有無)を判定し、不具合が発生していると判定される場合に不具合内容を特定し、その不具合内容を記憶する。なお、ここでは、説明の簡略のため、振動センサを22a,22b,22cの3個のみを表示するが、更に多数設けても良いことは勿論である。
【0043】
(通報手段23)
通報手段23は、不具合検出手段22による不具合検出がなされたときに、その旨を運転者等に通報する表示装置又は音声出力装置である。通報手段23としては、専用の装置を採用するほか、電気自動車1に搭載されている計器パネル、ナビゲーション装置やAV機器等の表示パネルやスピーカを利用することもできる。また、通報手段23は、不具合が発生した旨のみならず、不具合内容を通報させても良いし、あるいは不具合発生のみを通報させて、車両点検装置2に接続される外部装置から不具合内容を出力させるようにしても良い。その他、通報手段23として警告灯を配設し、何れの警告灯を点灯させるかによって、あるいは警告灯の点滅の仕方によって不具合内容を知らせることもできる。
【0044】
(上記実施形態の変形例)
上記実施形態では、当日の運転開始後に車両点検装置2を起動することとしたが、これ以外の運転状態に該当するときに起動させることとしても良いし、累積走行距離が3000km増加する毎とか、前回の点検実施時から3000km走行後とか、走行履歴や点検履歴が所定条件に該当するときに起動するようにしても良い。あるいは、それに代えて、もしくは加えて、運転者(点検者)が手動操作で起動させることができるスイッチを設けておくこととしても良い。
【0045】
上記実施形態及び上記変形例では、起動後の一定時間に亘って作動することとしたが、所定の検査パターンを終了するまで作動し続けることとしても良いし、複数日に亘って作動させるようにしても良い。更に、車両点検装置2の作動中は、車体振動が大きくなるところ、運転者が故障と誤解しないように、通報手段23で点検が実施されていることを通報することとしても良い。
【0046】
上記実施形態及び上記変形例では、トルク指令の波形に合成する振動波形を三角波状としたが、正弦波、鋸歯状波、矩形波、その他の異なる種類の波形、例えばレシプロエンジンの駆動トルクから抽出されるトルク変動の波形やその擬似波形を採用することとしても良い。上記複数種類の波形を相互に切り替えて使用することとしても良いし、各波形の振幅や周波数を変化させるようにしても良い。また、単に波形を変化させるだけでなく、電動モータの回転軸に対するトルク変動の位相を変化させることとしても良い。更に、振動波形を規則によって自動的に変化させるのではなく、運転者(点検者)が手動で変化させるための操作部及び変化の状況を確認するための表示部を設けても良い。
【0047】
上記実施形態及び上記変形例では、トルク変動発生手段21が、トルク指令の波形に振動波形を合成した変動トルク指令を設定し、モータ制御部15に供給することにより、トルク変動を発生させることとしたが、トルク指令設定手段14にトルク変動発生手段21の機能を持たせて、トルク指令設定手段14が、アクセル操作量に応じたトルク指令に高周波の振動波形を合成した変動トルク指令をモータ制御部15に直接供給するようにしても良い。また、上記実施形態では、トルク変動発生手段は、トルク変動を生じさせるトルク指令(変動トルク指令)を設定するものとしたが、これに代えて、電動モータのコイル巻き線を電気的に短絡させられる回路を備え、当該回路で短絡を制御して、トルク変動を生じさせることとしても良い。
【0048】
上記実施形態及び上記変形例は、車両各部の振動をサンプリング・分析して、車両各部の不具合を検出する不具合検出手段22や不具合発生を通報するための通報手段23を備える車両点検装置であるが、不具合検出手段22や通報手段23を省いた構成とし、単に車両走行中の異音や異常振動を検出し易い状態を作り出すことができる電気自動車の状態把握支援装置としても良い。かかる場合には、運転者(点検者)が、官能評価で異音や異常振動を検出し、不具合を特定することになる。
【0049】
更に、上記の電気自動車の状態把握支援装置において、トルク変動発生手段を車両点検時にのみ作動させるのではなく、車両運転中、常に作動させることにより、運転者が車体の挙動変化(タイヤのスリップ状況等)を感知し易くして、電気自動車をスポーツ競技走行に適用できるようにすることもできる。
【0050】
上記実施形態及び変形例では、電動モータのみで走行駆動される電気自動車の例を説明したが、本発明は、例えば内燃機関と電動モータを併用するハイブリッド式電気自動車に適用しても良い。電動モータの駆動力のみが付与される部品の不具合を検出可能となるほか、内燃機関と電動モータ双方の駆動力が付与される部品についても様々な振幅・周波数の変動トルクが付与されて、内燃機関自動車でも検出しにくい異音や異常振動を検出することが可能となることが期待される。
【0051】
その他、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気自動車を駆動する電動モータの駆動トルクにおいて、前記電動モータが本来的に発生するトルク変動以外のトルク変動を付加的に生じさせることにより、前記電気自動車の走行中における車両状態を把握し易い状態にするトルク変動発生手段を備えることを特徴とする電気自動車の状態把握支援装置。
【請求項2】
前記トルク変動発生手段が、アクセル操作量に応じたトルク指令に高周波の振動波形を合成した変動トルク指令を設定することにより、前記電動モータが本来的に発生するトルク変動以外のトルク変動を生じさせることを特徴とする請求項1記載の電気自動車の状態把握支援装置。
【請求項3】
前記トルク変動発生手段が、前記電動モータのコイル巻線を短絡することにより、前記電動モータが本来的に発生するトルク変動以外のトルク変動を生じさせることを特徴とする請求項1記載の電気自動車の状態把握支援装置。
【請求項4】
電気自動車を駆動する電動モータの駆動トルクにおいて、前記電動モータが本来的に発生するトルク変動以外のトルク変動を付加的に生じさせることにより、前記電気自動車の走行中における車両状態を把握し易い状態にすることを特徴とする電気自動車の状態把握支援方法。
【請求項5】
電気自動車を駆動する電動モータの駆動トルクにおいて、前記電動モータが本来的に発生するトルク変動以外のトルク変動を付加的に生じさせることにより、車両各部を加振して不具合を検出し易い状態にするトルク変動発生手段を備えることを特徴とする電気自動車の車両点検装置。
【請求項6】
前記トルク変動発生手段が、アクセル操作量に応じたトルク指令に高周波の振動波形を合成した変動トルク指令を設定することにより、前記電動モータが本来的に発生するトルク変動以外のトルク変動を生じさせることを特徴とする請求項5記載の電気自動車の車両点検装置。
【請求項7】
前記トルク変動発生手段が、前記電動モータのコイル巻線を短絡することにより、前記電動モータが本来的に発生するトルク変動以外のトルク変動を生じさせることを特徴とする請求項5記載の電気自動車の車両点検装置。
【請求項8】
前記電気自動車の車両各部に配設される振動センサを備えることにより、前記トルク変動発生手段によるトルク変動の付加的発生時に、前記振動センサからのセンサ信号に基づき車両各部の不具合を検出する不具合検出手段を備えることを特徴とする請求項5乃至7の何れかに記載の電気自動車の車両点検装置。
【請求項9】
前記不具合検出手段による不具合検出がなされたときに、その旨を通報する通報手段を備えることを特徴とする請求項8記載の電気自動車の車両点検装置。
【請求項10】
前記電気自動車の運転状態、走行履歴、点検履歴又はこれらの複合が所定条件に該当するときに起動することを特徴とする請求項5乃至9の何れかに記載の電気自動車の車両点検装置。
【請求項11】
前記トルク変動発生手段は、前記付加的に生じさせるトルク変動の波形を変化させられることを特徴とする請求項5乃至10の何れかに記載の電気自動車の車両点検装置。
【請求項12】
前記トルク変動発生手段は、前記付加的に生じさせるトルク変動の周波数及び/又は振幅を変化させられることを特徴とする請求項11記載の電気自動車の車両点検装置。
【請求項13】
前記トルク変動発生手段は、前記付加的に生じさせるトルク変動の周波数を前記電動モータの回転数に応じて変化させられることを特徴とする請求項12記載の電気自動車の車両点検装置。
【請求項14】
前記トルク変動発生手段は、前記電動モータの回転軸に対して、前記付加的に生じさせるトルク変動の位相を変化させられることを特徴とする請求項5乃至10の何れかに記載の電気自動車の車両点検装置。
【請求項15】
電気自動車を駆動する電動モータの駆動トルクにおいて、前記電動モータが本来的に発生するトルク変動以外のトルク変動を付加的に生じさせることにより、車両各部を加振して不具合を検出し易い状態にすることを特徴とする前記電気自動車の車両点検方法。

【図1】
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【図2】
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