説明

電気自動車用減速差動装置

【課題】遊星ギヤ型の減速機と差動装置を備えた電気自動車用減速差動装置において、装置内で発生する諸損失を小さくすることによって駆動力の伝達効率を向上させ、電気自動車の1充電当たりの走行距離を延ばすことである。
【解決手段】遊星ギヤ型の減速機12及び差動装置13を備えた電気自動車用減速差動装置において、減速機12の遊星ギヤ機構を構成する減速側キャリヤ38の内径面を減速側キャリヤ支持軸受43によって支持することにより、歯面の当りが適正化され、損失トルクが減少する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、モータを駆動源とした電気自動車用減速差動装置に関し、特に損失トルクを小さくすることにより伝達効率を向上させ、1充電当たりの走行距離を延ばすようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
電気自動車用減速差動装置として従来から知られているものは、電動モータ、遊星ギヤ型の減速機、遊星ギヤ型の差動装置の組み合わせにより構成されている。前記減速機は前記電動モータのモータシャフトと一体化された入力シャフトを備え、前記差動装置は前記減速機の減速出力を入力とする(特許文献1)。
【0003】
前記差動装置においては、そのサンギヤとキャリヤの2つの分配部材に出力が差動分配される。前記サンギヤのセンターに第一出力シャフトが挿入結合される。前記第一出力シャフトが、減速機入力シャフト及びこれと一体のモータシャフトの内部を同軸状態に貫通し、さらにモータ側等速ジョイントを経て一方の車輪に連結される。また、前記キャリヤに第二出力シャフトが結合され、第二出力シャフトは差動側等速ジョイントを経て他方の車輪に連結される。
【0004】
前記の減速機及び差動装置における遊星ギヤ機構におけるピニオンギヤの軸受としては、特許文献1、2に示されているように、一般に針状ころ軸受が用いられる。その具体例を図7示す。
【0005】
図7は、減速機のピニオンギヤ1の支持構造に関するものであり、ピニオンギヤ1とピニオンシャフト2との間に針状ころ軸受3が介在され、前記ピニオンシャフト2の両端部がそれぞれキャリヤ4及び差動側リングギヤの円板部5によって支持される。ピニオンギヤ1の両端面とキャリヤ4及び円板部5との間にスラストワッシャ6、6が介在される。針状ころ軸受3に対する給油は、ピニオンシャフト2に設けた給油穴7から行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−42656号公報
【特許文献2】特開平6−323404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1の減速機の遊星ギヤ機構におけるキャリヤの支持構造について見ると、減速側キャリヤは減速側ピニオンピンに連結されているのみであり、軸受を介してケーシングに支持される構成とはなっていない。減速側キャリヤは差動側リングギヤに一体化されているが、差動側リングギヤも差動側ピニオンギヤに噛み合っているだけである。
【0008】
したがって、減速側キャリヤ及び差動側リングギヤはラジアル方向の位置が決まらず、偏心しながら回転する場合がある。また、傾きも発生するため、歯当たりが悪く、歯面の損失が大きくなる要因となる場合がある。
【0009】
また、図7に示した減速機におけるピニオンギヤ1の支持構造においては、スラストワッシャ6、6が針状ころ軸受3の保持器の端面、ピニオンギヤ1の端面及びキャリヤ4及び円板部5と接触し、これらの接触部分においてすべり損失が発生する。
【0010】
そこで、この発明は、前記のように装置内で発生する諸損失を小さくすることによって駆動力の伝達効率を向上させ、これによって電気自動車の1充電当たりの走行距離を延ばすことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題を解決するために、この発明は、同軸状態に配置された電動モータ、遊星ギヤ型の減速機及び遊星ギヤ型の差動装置、並びに前記各部材を収納したケーシング、同軸上の第一及び第二出力シャフトの組み合わせからなり、前記第一出力シャフトは前記電動モータのモータシャフトを貫通して配置されその両端部が出力シャフト支持軸受を介して前記ケーシングに支持され、前記電動モータの動力は前記減速機において減速され前記差動装置に出力され、減速された駆動力は前記差動装置において負荷の大きさに応じて2つの分配部材に出力され、一方の分配部材は第一出力シャフトに連結され、他方の分配部材は前記第二出力シャフトに連結された電気自動車用減速差動装置において、前記減速機の遊星ギヤ機構を構成する減速側キャリヤと前記ケーシングとの間に減速側キャリヤの支持軸受が介在された構成としたものである。
【0012】
前記の構成によると、減速側キャリヤのラジアル方向の位置が決まり、偏心回転が防止される。そのため各ギヤの歯面の当りが適正化され、損失トルクが小さくなる。
【0013】
具体的には、前記減速側キャリヤにボスが設けられ、前記減速側キャリヤ支持軸受が前記ボスの外径面と前記ケーシングとの間に介在され、前記ボスの内径面と前記電動モータのモータシャフトとの間にモータシャフト支持軸受が介在された構成を採ることができる。
【0014】
さらに、前記ケーシングの内部が、区画壁によって前記電動モータ収納部と減速機及び差動装置の収納部に区分され、前記区画壁に設けた軸穴に前記モータシャフトが貫通され、前記減速側キャリヤのボスが前記軸穴とモータシャフトとの間に挿入され、前記ボスの外径面と軸穴との間に前記キャリヤ支持軸受が介在された構成を採ることができる。
【0015】
また、前記減速機の遊星ギヤ機構を構成するピニオンギヤとピニオンギヤシャフトとの間に深溝玉軸受が介在された構成を採ることにより、潤滑油を深溝玉軸受の幅面から供給することができる。これにより、針状ころ軸受を使用した場合のようにピニオンシャフトから供給する必要がなく、油浴潤滑とした場合には油面の高さを低く設定することができる。これにより潤滑油の攪拌トルクを小さくすることができる。
【0016】
前記ピニオンシャフトの一方の端部を支持する減速側キャリヤと前記深溝玉軸受の内輪の端面の間、前記ピニオンシャフトの他方の端部を支持する差動側リングギヤの円板部と前記深溝玉軸受の内輪の端面の間にそれぞれ側板が介在された構成を採ることができる。
【0017】
このような側板を配置することにより、減速側ピニオンギヤ及び軸受外輪とのすべり接触が生じることがないので、すべりによるトルク損失を軽減することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、この発明によれば、装置内で発生する諸損失が小さくなるので、駆動力の伝達効率が向上し、電気自動車の1充電当たりの走行距離を延ばすことができる。
【0019】
前記減速機の遊星ギヤ機構を構成する減速側キャリヤと前記ケーシングとの間に減速側キャリヤの支持軸受が介在された構成とすると、減速側キャリヤのラジアル方向の位置が決まり、偏心回転が防止される。そのため各ギヤの歯面の当たりが適正化され、損失トルクが小さくなる。実際に伝達効率を測定したところ、最大で1%向上した。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、実施形態1の断面図である。
【図2】図2は、同上の一部拡大断面図である。
【図3】図3は、図1のX1−X1線の断面図である。
【図4】図4は、実施形態1の減速側ピニオン支持構造の一部拡大断面図である。
【図5】図5は、図4の場合の変形例の一部拡大断面図である。
【図6】図6は、図1のX2−X2線の断面図である。
【図7】図7は、従来例の減速側ピニオン支持構造の一部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
[実施形態1]
【0022】
実施形態1に係る電気自動車用減速差動装置は、図1及び図2に示したように、同軸状態に配置された電動モータ11、遊星ギヤ型の減速機12及び遊星ギヤ型の差動装置13、並びに前記各部材を収納したケーシング14、同軸上に配置された第一出力シャフト15a及び第二出力シャフト15bの組み合わせからなる。第一出力シャフト15aにはモータ側等速ジョイントの外輪16(以下、モータ側外輪16と称する。)が連結され、第二出力シャフト15bには差動側等速ジョイントの外輪17(以下、差動側外輪17と称する。)が連結される。
【0023】
前記モータ側外輪16及び差動側外輪17はそれぞれカップ16a、17a及びステム16b、17bを有し、それぞれカップ16a、17aとステム16b、17bの間はカップ底板16c、17cによって区切られている。ステム16b及びステム17bには軸方向に貫通したセレーション穴18、19が設けられる。
【0024】
前記第一出力シャフト15aは電動モータ11の中空のモータシャフト21を貫通して配置され、その第一出力シャフト15aの電動モータ11側の端部は、モータ側外輪16のステム16bのセレーション穴18に挿入され、セレーション結合により一体に連結される。さらに、ステム16bに抜け止めピン20が第一出力シャフト15aの挿入端部に径方向に貫通され、第一出力シャフト15aの抜け止めを図っている。
【0025】
また、第一出力シャフト15aの差動装置13側の端部は、後述の差動側キャリヤ48のボス48aに設けられた軸受穴48bに挿入される(図2参照)。第二出力シャフト15bの挿入端部と軸受穴48bの内径面との間に針状ころ軸受でなる出力シャフト支持軸受22が介在される。
【0026】
ケーシング14は、電動モータ11を収納したモータケーシング14aと、減速機12及び差動装置13を収納した減速差動ケーシング14b並びに差動装置13側のケーシング蓋14cを組み合わせたものである。
【0027】
モータケーシング14a及び減速差動ケーシング14bは、それぞれ一端が閉塞され他端が開放されている。モータケーシング14aの開放端に減速差動ケーシング14bの閉塞端が同軸状態に密着・結合され、また減速差動ケーシング14bの開放端にケーシング蓋14cが密着・結合される。
【0028】
減速差動ケーシング14bの閉塞端がケーシング14の内部を区画する区画壁14dとなっており、その区画壁14dによって電動モータ11の収納部と、減速機12及び差動装置13の収納部とに区画される。区画壁14dのセンターに軸受穴14eが設けられる。
【0029】
モータケーシング14aの閉塞端部(左端)のセンターに軸穴23が設けられ、その軸穴23の内側に軸方向に突き出したボス24が設けられる。ボス24の内端内径面にモータシャフト21一端部が挿入され、両者の間に深溝玉軸受でなるモータシャフト支持軸受25が介在される。
【0030】
前記モータシャフト支持軸受25の部分でモータシャフト21の端部から第一出力シャフト15aが抜け出し、モータケーシング14aの外側方に突き出し、その突き出した部分に前記のモータ側外輪16のステム16bが連結される。また、前記ボス24の内径面と第一出力シャフト15aとの間に第一出力シャフト支持軸受26及びその外側に並んでオイルシール27が介在される。オイルシール27は、モータケーシング14a内の潤滑油をシールする。
【0031】
前記のモータケーシング14aに収納された電動モータ11は、モータケーシング14aの内周面に固定されたステータ28と、その内径側においてモータシャフト21に一体に取り付けられたロータ29によって構成される。モータシャフト21の一端部は前記のモータシャフト支持軸受25によって支持される。
【0032】
モータシャフト21の他端部は前記減速差動ケーシング14bの閉塞壁である区画壁14dとの間に介在された深溝玉軸受でなるモータシャフト支持軸受31によって支持される。そのモータシャフト支持軸受31から減速機12側に突き出したモータシャフト21の端部が減速機入力シャフト30となっている。
【0033】
前記の減速差動ケーシング14bには、区画壁14d側から順に、減速機12及び差動装置13が同軸状態に収納される。
【0034】
減速機12は、前記減速機入力シャフト30の先端部外周面に一体に設けられた減速側サンギヤ35(図2、図3参照)、その外径側において前記減速差動ケーシング14bの内径面に同軸状態に固定された減速側リングギヤ36、前記サンギヤ35とリングギヤ36の間において周方向の3個所に等間隔をおいて介在された減速側ピニオンギヤ37及び減速側キャリヤ38(図1、図2参照)により構成される。
【0035】
減速側ピニオンギヤ37はサンギヤ35とリングギヤ36に噛み合う。また、
前記ピニオンギヤ37は深溝玉軸受39を介して減速側ピニオンシャフト41によって支持される。ピニオンシャフト41には、軸方向に貫通した通油穴42が設けられる。
【0036】
前記減速側ピニオンシャフト41の両端部は、図2に示したように、それぞれ減速側キャリヤ38と後述の差動側リングギヤ44の円板部44aによって支持される。前記の減速側キャリヤ38と深溝玉軸受39の内輪39a(図4参照)の端面の間、及び前記差動側リングギヤ44の円板部44aとの間にそれぞれ側板32、33が介在される(図4参照)。
【0037】
前記の側板32、33の外径は外輪39bの外径未満の大きさに設定され、外輪39b及びピニオンギヤ37に対する接触が避けられている。また、側板32、33に対し、内輪39a、減速側キャリヤ38及び差動側リングギヤ44の相対回転は生じないので、側板32、33の部分においてすべり損失は生じない。
【0038】
前記の側板32、33を使用しない場合は、図5に示したように、内輪39aの幅を減速側ピニオンギヤ37の幅より大きく設定することにより、減速側キャリヤ38と差動側リングギヤ44の円板部44aとの接触を避け、すべり損失の発生を避ける手段もある。
【0039】
前記減速側キャリヤ38は、図2に示したように、減速差動ケーシング14bの閉塞端である区画壁14dと、減速側ピニオンギヤ37との間において、減速機入力シャフト30の回りに径方向のすき間をおいて嵌合される。減速側キャリヤ38はその内径部に電動モータ11側に突き出したボス38aを有し、そのボス38aが、モータシャフト21と一体の減速機入力シャフト30と、区画壁14dの軸受穴14eとの間に挿入される。
【0040】
前記ボス38aの外径面と軸受穴14eとの間に深溝玉軸受でなるキャリヤ支持軸受43が介在される。また、ボス38aの内径面と減速機入力シャフト30との間に前記のモータシャフト支持軸受31が介在される。前記のキャリヤ支持軸受43は減速側キャリヤ38をケーシング14に対して位置決めする。また、モータシャフト支持軸受31は、モータシャフト21をキャリヤ支持軸受43を介してケーシング14に対して位置決めする。
【0041】
前記減速側キャリヤ38の外周縁の周方向複数個所には、差動装置13側に屈曲した結合片40(図1、図3参照)が設けられる。その結合片40を差動側リングギヤ44のリングギヤ円板部44aに差し込んで固定することにより、減速側キャリヤ38と差動側リングギヤ44とが結合一体化される。
【0042】
前記差動装置13は、図1、図2及び図6示したように、差動側リングギヤ44、その内径側において同軸状態に設けられた差動側サンギヤ45、前記リングギヤ44とサンギヤ45の間に介在され相互に噛み合ったダブルピニオン式の差動側ピニオンギヤ46a、46b、これらのピニオンギヤ46a、46bを支持する差動側ピニオンシャフト47a、47b、これらのピニオンシャフト47a、47bを支持した差動側キャリヤ48によって構成される。
【0043】
前記差動側リングギヤ44は、円板部44aと、その円板部44aの外周縁を外向き(ケーシング蓋14cの向き)に屈曲形成された周縁部44b及びその周縁部44bの内径面に形成されたギヤ部44cによって構成される。円板部44aが第一出力シャフト15aの外周に径方向のすき間をおいて同軸状態に嵌合・配置される(図2参照)。前記円板部44aと差動側サンギヤ45との間にスラスト軸受63が介在される。
【0044】
前記差動側サンギヤ45は、そのセンターに設けられたセレーション穴50に第一出力シャフト15aが挿通され、セレーション結合によって第一出力シャフト15aと一体化される。
【0045】
前記セレーション結合部から外方に突き出した第一出力シャフト15aの先端部は、差動側キャリヤ48のボス48aの軸受穴48bに挿入される。その挿入部分と軸受穴48bの内径面との間に針状ころ軸受でなる第一出力シャフト支持軸受22が介在される。ボス48aの部分は後述の差動側キャリヤ支持軸受54を介してケーシング蓋14cを含むケーシング14に支持される。差動側サンギヤ45には軸方向の通油穴62が設けられる。
【0046】
前記のダブルピニオン式のピニオンギヤ46a、46bは、同一歯数の同一サイズのギヤである。図6に示したように、相互に噛み合うとともに、一方のピニオンギヤ46aは他方のピニオンギヤ46bより大きいPCDを有しリングギヤ44と噛み合い、PCDの小さいピニオンギヤ46bがサンギヤ45と噛み合う。各ピニオンギヤ46a、46bと各ピニオンシャフト47a、47bの間に、それぞれ針状ころ軸受58a、58bが介在される。各ピニオンシャフト47a、47bには給油穴66が設けられる。
【0047】
差動側キャリヤ48は、図2に示したように、ケーシング蓋14cの内側面に沿って配置され、差動側リングギヤ44の円板部44aに沿って配置された差動側キャリヤ補助部材49との間で前記のピニオンシャフト47a、47bの各両端部を支持する。差動側キャリヤ48の外周縁の複数個所には結合突部59が差動側キャリヤ補助部材49側に向けて設けられ(図1、図6参照)、その結合突部59の先端に設けられた小突起60(図1参照)が差動側キャリヤ補助部材49の結合穴61に挿入固定される。これによって、差動側キャリヤ48と差動側キャリヤ補助部材49が結合一体化される。
【0048】
前記差動側キャリヤ48は、図1及び図2に示したように、そのセンターに外方に突き出したボス48aを有する。ボス48aの内端(差動装置13側の端部)に軸方向の軸受穴48bが設けられ、その軸受穴48bに、前述のように第一出力シャフト15aの端部が挿入され、第一出力シャフト支持軸受22を介して回転自在となっている。
【0049】
前記ボス48aの閉塞された外端部のセンターに前記の第二出力シャフト15bが一体に設けられる。第二出力シャフト15bは、差動側外輪17のステム17bのセレーション穴19に挿入され、セレーション結合により一体に連結される。また、ステム17bには第二出力シャフト15bを貫通する抜け止めピン70が径方向に挿入され、抜け止めを図っている。
【0050】
前記差動側キャリヤ48のボス48aとケーシング蓋14cのボス53との間に深溝玉軸受によって構成された差動側キャリヤ支持軸受54が介在され、差動側キャリヤ48と第二出力シャフト15bを、ケーシング蓋14cを含むケーシング14において支持するようにしている。
【0051】
前記の差動側キャリヤ支持軸受54の押さえリング55が前記ケーシング蓋14cのボス53の外側面にボルト56によって固定される。その押さえリング55とボス48aとの間にオイルシール57が装着され、減速差動ケーシング14b内の潤滑油をシールする。
【0052】
実施形態1の電気自動車用減速差動装置は以上のように構成され、次にその作用について説明する。
【0053】
電動モータ11(図1参照)が駆動されると、そのモータシャフト21が回転し、同時にそのモータシャフト21と一体の減速機入力シャフト30及び減速側サンギヤ35が回転する。減速側サンギヤ35に噛み合った減速側ピニオンギヤ37は自転しつつ公転する。その公転によって減速側キャリヤ38が減速回転され、その減速回転が差動装置13側の差動側リングギヤ44へ出力される。
【0054】
減速側サンギヤ35の歯数をZs、減速側リングギヤ36の歯数をZrとした場合の減速比は、周知のように、Zs/(Zs+Zr)となる。
【0055】
車両の一方の車輪の負荷は、モータ側外輪16を含むモータ側等速ジョイント及び第一出力シャフト15aを介して差動側サンギヤ45に加えられ、他方の車輪の負荷は、差動側外輪17を含む差動側等速ジョイント及び第二出力シャフト15bを介して差動側キャリヤ48に加えられる。両方の車輪に作用する負荷が均等である場合は、差動側サンギヤ45、ピニオンギヤ46a、46b、キャリヤ48は、リングギヤ44の入力回転に伴って一体となって回転し、相対回転することがない。このため、入力回転が差動側サンギヤ45及び第一出力シャフト15aを経てモータ側外輪16に、また差動側キャリヤ48及び第二出力シャフト15bを経て差動側外輪17に均等に配分され、それぞれの等速ジョイントを介して左右の車輪を等速回転させる。
【0056】
これに対し、左右の車輪に作用する負荷に差が生じると、ピニオンギヤ46a、46bの自転と公転による入力回転は、負荷の差に応じて前記の経路を経てモータ側外輪16及び差動側外輪17を経て左右の車輪に差動分配される。
【0057】
即ち、モータ側外輪16を通じて第一出力シャフト15aに作用する負荷が相対的に大きくなり、これと一体のサンギヤ45の回転数Nsが、リングギヤ44の入力回転数NrよりΔNだけ小さくなった場合、キャリヤ48の回転数Ncは、
Nc=Nr+λ/(1−λ)・ΔN
となり、第二出力シャフト15bが増速される。但し、λは歯車比(=Zs/Zr)、Zsはサンギヤ45の歯数、Zrはリングギヤ44の歯数である。
【0058】
逆に、差動側外輪17を通じて第二出力シャフト15bに作用する負荷が相対的に大きくなり、これと一体のキャリヤ48の回転数Ncが、入力回転数NrよりΔNだけ小さくなった場合、サンギヤ45の回転数Nsは、
Ns=Nr+(1−λ)/λ・ΔN
となり、第一出力シャフト15aが増速される。
【0059】
以上の動作中、減速側キャリヤ38及びこれと一体化された差動側リングギヤ44は、減速側キャリヤ支持軸受43を介してケーシング14によって支持され位置決め状態を保持して回転する。このため、減速機12及び差動装置13の各遊星ギヤ機構の各ギヤが偏心回転することが防止される。
【0060】
また、減速側ピニオンギヤ37は及びその支持軸受である深溝玉軸受39は、側板32、33の存在によってすべり損失を生じることが避けられる。
【0061】
以上述べた実施形態1の電気自動車用減速差動装置の潤滑方式は、油浴潤滑が採用される。即ち、ケーシング14の内部において、モータケーシング14a、減速差動ケーシング14bに共通の潤滑油が油面Lで示す位置まで収納される。電動モータ11のステータ28は油面Lに浸かるが、ロータ29は浸からないようにする。こうすることで、ロータ29が回転しても潤滑油が攪拌されることはなく、攪拌による損失を小さくすることができる。
【0062】
減速機12においては、減速側キャリヤ38の外周部に設けられた結合片40及び減速側ピニオンギヤ37が、回転の途中において潤滑油の油面L以下の油中を通過することにより、潤滑油の掻き上げ作用を行う。掻き上げられた潤滑油は減速機12の内部に飛散され各部品に掛けられる。その一部は、減速側ピニオンシャフト41の通油穴42を通過して軸方向に移動する。
【0063】
減速側ピニオンギヤ37の支持軸受は深溝玉軸受39であるから、掻き上げられた潤滑油はその深溝玉軸受39の幅面から供給される。このため、減速側ピニオンシャフト41の内部から給油する構成は不要である。
【0064】
差動装置13においては、差動側キャリヤ48の外周部に設けられた結合突部59、差動側ピニオンギヤ46a、46b等が、それぞれ潤滑油の掻き上げ作用を行う。掻き上げられた潤滑油は、差動装置13の内部に飛散され各部品に掛けられる。その一部は、差動側サンギヤ45に設けられた通油穴62を通過して軸方向に移動する。
【0065】
前記の作動中、潤滑油がケーシング14の外部に漏れ出すことは、左右2個所のオイルシール27、57によって防止される。また、ケーシング14の内部において、モータケーシング14aと減速差動ケーシング14bに溜まった潤滑油は、減速差動ケーシング14bの閉塞壁に設けられた連通穴65を通って行き来する。
【符号の説明】
【0066】
11 電動モータ
12 減速機
13 差動装置
14 ケーシング
14a モータケーシング
14b 減速差動ケーシング
14c ケーシング蓋
14d 区画壁
14e 軸受穴
15a 第一出力シャフト
15b 第二出力シャフト
16 モータ側外輪
16a カップ
16b ステム
16c カップ底板
17 差動側外輪
17a カップ
17b ステム
17c カップ底板
18 セレーション穴
19 セレーション穴
20 抜け止めピン
21 モータシャフト
22 第一出力シャフト支持軸受
23 通油穴
24 ボス
25 モータシャフト支持軸受
26 第一出力シャフト支持軸受
27 オイルシール
28 ステータ
29 ロータ
30 減速機入力シャフト
31 モータシャフト支持軸受
32 側板
33 側板
35 減速側サンギヤ
36 減速側リングギヤ
37 減速側ピニオンギヤ
38 減速側キャリヤ
38a ボス
39 深溝玉軸受
39a 内輪
39b 外輪
40 結合片
41 減速側ピニオンシャフト
42 通油穴
43 減速側キャリヤ支持軸受
44 差動側リングギヤ
44a 円板部
44b 周縁部
44c ギヤ部
45 差動側サンギヤ
46a、46b 差動側ピニオンギヤ
47a、47b 差動側ピニオンシャフト
48 差動側キャリヤ
48a ボス
48b 軸受穴
49 差動側キャリヤ補助部材
50 セレーション穴
52 セレーション結合部
53 ボス
54 差動側キャリヤ支持軸受
55 押さえリング
56 ボルト
57 オイルシール
58a、58b 針状ころ軸受
59 結合突部
60 小突起
61 結合穴
62 通油穴
63 スラスト軸受
65 連通穴
66 給油穴
70 抜け止めピン


【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸状態に配置された電動モータ、遊星ギヤ型の減速機及び遊星ギヤ型の差動装置、並びに前記各部材を収納したケーシング、同軸上に配置された第一及び第二出力シャフトの組み合わせからなり、前記第一出力シャフトは前記電動モータのモータシャフトを貫通して配置されその両端部が出力シャフト支持軸受を介して前記ケーシングに支持され、前記電動モータの動力は前記減速機において減速され前記差動装置に出力され、減速された駆動力は前記差動装置において負荷の大きさに応じて2つの分配部材に出力され、一方の分配部材は第一出力シャフトに連結され、他方の分配部材は前記第二出力シャフトに連結された電気自動車用減速差動装置において、前記減速機の遊星ギヤ機構を構成する減速側キャリヤと前記ケーシングとの間に減速側キャリヤ支持軸受が介在されたことを特徴とする電気自動車用減速差動装置。
【請求項2】
前記減速側キャリヤにボスが設けられ、前記減速側キャリヤ支持軸受が前記ボスの外径面と前記ケーシングとの間に介在され、前記ボスの内径面と前記電動モータのモータシャフトとの間にモータシャフト支持軸受が介在されたことを特徴とする請求項1に記載の電気自動車用減速差動装置。
【請求項3】
前記ケーシングの内部が、区画壁によって電動モータ収納部と減速機及び差動装置の収納部に区分され、前記区画壁に設けた軸穴に前記モータシャフトが貫通され、前記減速側キャリヤのボスが前記軸穴とモータシャフトとの間に挿入され、前記ボスの外径面と軸穴との間に前記キャリヤ支持軸受が介在されたことを特徴とする請求項2に記載の電気自動車用減速差動装置。
【請求項4】
前記差動装置の遊星ギヤ機構を構成する差動側キャリヤがボスを有し、そのボスの内面側に軸方向の軸受穴、外面側に前記第二出力シャフトが一体に設けられ、前記ボスの外径面と前記ケーシングとの間に差動側キャリヤ支持軸受が介在されたことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の電気自動車用減速差動装置。
【請求項5】
前記差動側キャリヤの軸受穴に前記第一出力シャフトの一端部が挿入され、その挿入端部と前記軸受穴の内径面との間に第一出力シャフト支持軸受が介在されたことを特徴とする請求項4に記載の電気自動車用減速差動装置。
【請求項6】
前記減速機の遊星ギヤ機構を構成する減速側ピニオンギヤと減速側ピニオンギヤシャフトとの間に深溝玉軸受が介在されたことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の電気自動車用減速差動装置。
【請求項7】
前記減速側ピニオンシャフトの一方の端部を支持する減速側キャリヤと前記深溝玉軸受の内輪端面の間、前記減速側ピニオンシャフトの他方の端部を支持する差動側リングギヤの円板部と前記深溝玉軸受の内輪端面の間にそれぞれ側板が介在されたことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の電気自動車用減速差動装置。
【請求項8】
前記側板の外径が前記深溝玉軸受の外輪の内径未満の大きさに設定されていることを特徴とする請求項7に記載の電気自動車用減速差動装置。
【請求項9】
前記深溝玉軸受の内輪の幅が前記減速側ピニオンギヤの幅より大きく設定されていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の電気自動車用減速差動装置。
【請求項10】
前記減速機及び差動装置の潤滑方式が油浴潤滑であることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の電気自動車用減速差動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−241821(P2012−241821A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113364(P2011−113364)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】