説明

電気製品、その製造方法、及びその方法に用いる接合材料

【課題】無鉛はんだよりも安価で厳格な温度管理を要せず、しかも高い接合強度を有する接合材料を提供すること、及びそのような接合材料を用いて接合された信頼性に優れた電気製品を提供することにある。
【解決手段】一つの導電性端子と他の導電性端子とを接合して電気製品を製造する方法において、前記両導電性端子間に、平均粒径100ミクロン以下の金属粉末と、この金属粉末が焼結し始める温度よりも低温で蒸発または熱分解しうる有機バインダとの混合物の成形体を介在させ、金属粉末を焼結させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気素子・電気機器などの電気製品、その製造方法、及びその方法に用いる接合材料に関し、特に鉛を含まない接合材料にて低温で接合する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護のため、有害性の高い鉛を含有しない無鉛はんだが接合材料として用いられている。これにより家電メーカーなどは、製品の有害性を低減し、顧客に与える印象を良くすることができる。
一方、はんだのような低温ろう材に代えて樹脂系バインダに導電性フィラー(金属、炭素等)を混合して作られた導電性接着剤も用いられている。
いずれにしても電気製品は、一日の気温変動や電源ON-OFFの際に温度変化にさらされることから、接合強度が低い場合は、電子部品と基板の熱膨張係数差に起因する熱応力の繰り返しによりクラックが接合部に生じ、さらに進行するとついには破断して非導通となり、製品が故障する。従って、上記の温度変化に耐える接合強度が要求される。
【特許文献1】特開2002-167604 焼結体の製造方法
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、無鉛はんだとして汎用されているSn系合金は、(1)鉛含有はんだと比べ融点が高いので、部品によっては利用できない場合がある、(2)上記Sn系合金は銀のような貴金属をも含有するためコスト上昇につながる、等の多くの課題を有している。また、融点が300℃近傍のいわゆる高融点はんだについては無鉛にする現実的な代替え技術がないので欧州連合によるRoHS指令では規制が見送られている。一方、導電性接着剤は、バインダとなる樹脂の硬化という単なる物理的接触によって強度を確保していることから、はんだに比べて接合信頼性が低い。従って、接合不良となる確率もはんだより高いため、接合部の目視ができないBGAやCSPのようなエリアアレイ型パッケージには適用できない。
それ故、この発明の一つの課題は、無鉛はんだよりもトータルコストが低く、厳格な温度管理を要せず、しかも低温処理ながら高い接合強度を有する接合材料を提供すること、及びそのような接合材料を用いて接合された信頼性に優れた電気製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
その課題を解決するために、この発明の電気製品は、
一つの導電性端子と、この導電性端子に接合材料を介して接合された他の導電性端子とを備える電気製品において、
前記接合材料が、平均粒径100ミクロン以下、好ましくは平均粒径30ミクロン以下の金属粉末の焼結体からなることを特徴とする。
この発明の電気製品は、接合材料が金属粉末の焼結体からなるので、接合強度及び信頼性が高い。さらに導電性端子と同じ熱膨張係数をもつ金属を接合材料に使用する事で熱応力を抑える事もできる。
また金属粉末を異種の金属粉末の配合物とし、端子間を横切る方向の位置に応じて配合比の異なる傾斜材料とし、異なる素材の結合を図る事もできるので、より接合性のすぐれた物ができ,さらに粉末の選択により耐食性,耐熱性を待たせる事も可能である
【0005】
このような電気製品を製造する適切な一つの方法は、
一つの導電性端子と他の導電性端子とを接合して電気製品を製造する方法において、
前記両導電性端子間に、平均粒径100ミクロン以下の金属粉末と、この金属粉末が焼結し始める温度よりも低温で蒸発または熱分解しうる有機バインダとの混合物又はその成形体を介在させ、金属粉末を焼結させることを特徴とする。混合物は、必要により溶剤を含んでいても良い。
【0006】
ここでバインダとは、シアノアクリレート系接着剤、低密度ポリエチレンのような樹脂、グリセリンのような多価アルコール、ステアリン酸等の油脂又はそれらの溶剤による希釈物であってよい。シアノアクリレート系接着剤に含まれるシアノアクリレートとしては、たとえばアルキル基の炭素数が1〜10のアルキルシアノアクリレートが挙げられる。溶剤としてはたとえば炭素数3〜5のケトン類、炭素数1〜3のアルコール類が挙げられる。混合物は流動性を有していても固形であってもよい。この方法によれば、接合材料となる混合物がバインダによって高粘度にあるいは定形に維持されているので、金属粉末が焼結するまで接合材料を端子間に介在させておくことができる。また、バインダが有機物であるから、金属粉末の表面の酸化物が還元され、活性が維持される。そして、バインダが蒸発または熱分解した後に金属粉末同士が焼結する。金属がバルクの場合は焼結を開始する温度は一般に絶対温度での融点の2/3以上であるが、この発明では金属粉末の平均粒径が100ミクロン以下であることから、1000℃程度の融点をもつ金属であっても、鉛を含む低中融点合金の融点に比べて焼結開始温度は低く、金属の種類によっては300℃以下、平均粒径1ミクロン以下の銅粉末においては200℃以下である。従って、従来のままの電気製品であっても端子近傍の基板材料を変形させることも素子を破壊することもない。しかも焼結温度を金属粉末の組成だけでなく粒子径によっても調整することができる。
【0007】
更に、上記のバインダは、25℃以上340℃以下におけるいずれかの温度範囲で流動性を有し、時間の経過、温度の低下又は空気もしくは水分との接触により凝固するものが好ましい。作業温度において、成形型への混合物の充填が容易であり、充填後に成形体の形状が保持されるからである。従って、導電性端子間に接合材料を容易に介在させることができる。340℃以下としたのは、通常のはんだ付けによる部品の耐熱温度上限が340℃であり、この温度を超えなければ流動性を有しないものは大半の電気製品に適用できないからである。本発明接合材料を低融点はんだの代替品として用いる場合は、上限温度は240℃のものが好ましい。
従って、この発明を電気製品用接合材料の局面から見れば、
平均粒径100ミクロン以下の金属粉末と、この金属粉末が焼結し始める温度よりも低温で蒸発または熱分解しうる有機バインダとの混合物の成形体からなることを特徴とする。
尚、バインダがシアノアクリレートのように水分と反応しやすいものである場合は、金属粉末を予めメタンスルフォン酸等の重合禁止剤の希釈剤溶液で処理しておくことにより、粉末表面の吸着水によるバインダの反応を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0008】
貴金属を用いる必要がないので無鉛はんだよりも安価である。従って、製品のコストを低下させることができる。しかも金属粒子同士の焼結による金属結合によって接合しているので、高い接合強度を有し、信頼性に優れた電気製品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
−実施形態1−
この発明の実施形態を図面とともに説明する。図1は、実施形態に係る電気製品の製造方法のうち、接合材料となる成形体を得るまでの工程を示す図である。
ガスアトマイズ法により製造された平均粒径10μm、純度99.8mass%以上の銅Cu粉末とエチルシアノアクリレート(バインダ)4〜8mass%のアセトン溶液を準備する。銅粉末150gに対してメタンスルフォン酸(重合禁止剤)の1mass%アセトン溶液7.5gを添加し、混合し、真空ポンプで30分間脱気し、乾燥後、粉砕する。これにより、銅粉末表面の吸着水によるシアノアクリレートの反応が防がれる。
【0010】
そして、銅粉末1をシリコンゴムからなる成形型2に充填する(図1(a))。粉末1を充填した成形型2をチャンバ3に入れ、真空ポンプで減圧した後、アセトンガスをチャンバ3内に送る(図1(b))。前記シアノアクリレートの希釈剤溶液4をシリコンゴム製成形型2に加えて粉末1中に浸透させる(図1(c))。チャンバ3内を大気圧にし、成形型2を軽く叩いて強制的に浸透させる。希釈剤を乾燥させて除去し、シアノアクリレートで粉末1が固化された後、成形型2から取り出す(図1(d))。アセトン溶液中のシアノアクリレート濃度が4mass%に満たないと、取り出すときの成形体強度が弱くて崩れやすい。他方、8mass%を超えると、シアノアクリレートの分解が不完全となってかえって焼結性を阻害する。
【0011】
成形体10を図2に示すように、半導体基板11の導電性端子12とマザーボード13の導電性端子14との間に介在させ、250℃で2時間保持し、次いで300℃に昇温して2時間保持する。これによって成形体10が焼結し、端子12と端子14とが焼結体を介して強く接合する。保持温度を2段階とするのは、250℃でシアノアクリレートを分解させた後、300℃でメタンスルフォン酸を分解させるとともに金属粉末同士を焼結させるためである。
【0012】
−実施形態2−
ガスアトマイズ法により製造された平均粒径10μmの純度99.8mass%以上の銅Cu粉末95gとステアリン酸(バインダ、融点:60℃、沸点291℃/100mmHg)5gをミルで乾式混合する。円筒状の成形空間を有する金型を80℃に保ち、そこに混合粉末を充填する。ステアリン酸が直ちに軟化する。混合粉末を上下方向から30MPaで加圧した状態で金型を室温まで冷却する。その後、円筒状に成形された混合物を金型から取り出す。実施形態1と同様に成形体を導電性端子間に介在させ、100mmHgの減圧下300℃に昇温して2時間保持する。これによって成形体が焼結し、端子同士が焼結体を介して強く接合する。
【0013】
−実施形態3−
ガスアトマイズ法により製造された平均粒径1μmの純度99.8mass%以上の銅Cu粉末とグリセリンを混合しスラリー状にする。これを基板上に滴下しその上に被接合物(電気部品)を載せ、軽く振動を与えた後、不活性ガスまたは還元ガス雰囲気中200℃で焼結する。
【0014】
−実施形態4−
実施形態1又は実施形態2の方法でトランジスター、サイリスタ、コンデンサなどの電気素子をDC−DCコンバータユニット内の基板に接合し、その後ユニットを実施形態3の方法で実装基板に接合する。実施形態3の接合材料の焼結温度の方が実施形態1及び2のそれよりも低いので、ユニットを実装基板に接合する際に内部の電気素子の接合部が軟化するおそれはない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態に係る電気製品の製造方法のうち、接合材料となる成形体を得るまでの工程を示す図である。
【図2】接合材料を導電性端子間に介在させて接合している状態を示す図である。
【符号の説明】
【0016】
1 金属粉末
2 成形型
3 チャンバ
4 シアノアクリレート(バインダ)の希釈剤溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つの導電性端子と、この導電性端子に接合材料を介して接合された他の導電性端子とを備える電気製品において、
前記接合材料が、平均粒径100ミクロン以下の金属粉末の焼結体からなることを特徴とする電気製品。
【請求項2】
一つの導電性端子と他の導電性端子とを接合して電気製品を製造する方法において、
前記両導電性端子間に、平均粒径100ミクロン以下の金属粉末と、この金属粉末が焼結し始める温度よりも低温で蒸発または熱分解しうる有機バインダとの混合物又はその成形体を介在させ、金属粉末を焼結させる特徴とする電気製品の製造方法。
【請求項3】
平均粒径100ミクロン以下の金属粉末と、この金属粉末が焼結し始める温度よりも低温で蒸発または熱分解しうる有機バインダとの混合物又はその成形体からなることを特徴とする電気製品用接合材料。
【請求項4】
前記金属粉末が鉛を含まない請求項3に記載の接合材料。
【請求項5】
前記混合物が溶剤を含む請求項3に記載の接合材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−158291(P2007−158291A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−177835(P2006−177835)
【出願日】平成18年6月28日(2006.6.28)
【出願人】(505347673)有限会社ティージーエーエル (4)
【Fターム(参考)】