説明

電気負荷装置の診断装置

【課題】 電気負荷装置(ソレノイド)の地絡等の故障を確実に診断する。
【解決手段】 制御装置(マイコン)から駆動回路への駆動信号と、駆動回路の出力状態に応じたステータス信号とを比較する。具体的には、ステータス信号の立ち上がり時に、駆動信号のレベルを判定し、例えばHレベルで整合性があれば、ステータス信号は有効と判断し、ステータス信号のカウントにより正常と診断する。ソレノイドの地絡故障を生じた場合は、駆動回路の出力が固定され、ステータス信号は発生しなくなる。また、仮に擬似的信号を発生したとしても、その立ち上がり時の駆動信号のレベルを判定し、Hレベルでなければ、ステータス信号は無効と判定する。それゆえ、誤診断を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソレノイド等の電気負荷装置の診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、ソレノイドは、制御装置により駆動回路を介してデューティ駆動され、制御装置では、電流検出回路を介してソレノイドに流れる電流をモニタし、これを基に目標電流が得られるように駆動信号を生成している。そして、このソレノイドの断線、短絡等の診断については、目標電流とモニタ電流との差が一定以上の場合に異常とする診断手法がとられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−194175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ソレノイドの駆動回路にICを用いる場合、そのICがその出力状態に応じてレベル変化するステータス信号(制御装置からの駆動信号と同相又は逆相で同期する信号)を発行するものがあり、この場合はこのステータス信号でモニタできる。例えば、ソレノイドの地絡状態では駆動回路の出力がLレベルに固定される結果、ステータス信号もLレベルに固定されるからである。
【0005】
ところが、ソレノイドの地絡時に、駆動周期と過電流保護処理周期等、ICの内部処理タイミングが重なったりすると、状況によっては地絡状態でも擬似的なステータス信号を生じる場合がある。ここでいう擬似的なステータス信号とは、本来のステータス信号ではないが、同様のレベルのパルス信号を生じることで、見かけ上、ステータス信号であるかのような信号である。この場合、制御装置は、周期的には正しい擬似的信号により、異常無しと誤診断することとなる。
【0006】
本発明は、このような実状に鑑み、モニタ信号(電流検出回路のモニタ電流や駆動回路からのステータス信号を含む)に基づいて判定する際に、擬似的信号などの影響を排除して診断精度を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、電気負荷装置をデューティ駆動する駆動回路と、この駆動回路に駆動指示を行う制御装置と、前記駆動回路の出力をモニタするモニタ手段とを備える場合に、前記制御装置が、前記モニタ手段のモニタ信号と、前記駆動回路への駆動信号とを比較して、電気負荷装置の異常の有無を診断する構成とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、モニタ信号(電流検出回路のモニタ電流や駆動回路からのステータス信号を含む)に基づいて診断する際に、駆動信号の状態を確認し、モニタ信号と駆動信号とが整合する場合に正常とすることで、擬似的信号などの影響を排除して診断を確実に行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態を示す回路構成図
【図2】駆動信号とステータス信号との関係を示す図
【図3】擬似的信号の発生メカニズムの説明図
【図4】ソレノイド故障診断のフローチャート
【図5】作用例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施の形態について図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態を示す電気負荷装置の駆動制御装置の回路構成図である。本実施形態での電気負荷装置は、ソレノイドであり、例えば自動変速機の制御用のリニアソレノイドである。
電気負荷装置としてのソレノイド1の正極側のコネクタ1aには、図示しない電源が駆動回路(スイッチング素子)2及びシャント抵抗3を介して接続されている。ソレノイド1の負極(GND)側のコネクタ1bは、還流ダイオード4を介して駆動回路2とシャント抵抗3との間に接続されている。
【0011】
駆動回路2は、IPD(Intelligent Power Device)により構成され、制御装置(マイコン)5からの駆動信号(デューティ信号)によりON・OFFされて、ソレノイド1をデューティ駆動する。
駆動回路2はまた、ステータス信号発生機能を有し、ステータス信号を制御装置5へ出力する。ステータス信号は、図2に示されるように、駆動回路2の出力状態(ON・OFF状態)を示す信号、より詳しくは、駆動回路2の出力状態(ON・OFF状態)に応じてレベル変化するパルス信号であり、正常状態では、制御装置5からの駆動信号と同期して同相又は逆相で(本実施形態では同相で)レベル変化する。
【0012】
シャント抵抗3の両端には電流検出回路6が接続される。電流検出回路6は、シャント抵抗3の両端の端子電圧V1、V2とシャント抵抗3の抵抗値Rとから、ソレノイド1に流れる電流A=(V1−V2)/Rを検出して、制御装置5へ出力する。
制御装置5は、マイコンにより構成され、各種運転条件に応じて設定される目標電流と、電流検出回路6を介して検出される実電流とに基づき、目標電流に応じた基本制御分と、目標電流と実電流との偏差に応じたフィードバック分とを含む形で、デューティ比を設定し、これに対応した駆動信号(デューティ信号)を駆動回路2へ出力する。これを受けて、駆動回路2がソレノイド1をデューティ駆動することで、ソレノイド1に流れる電流が目標電流に制御される。
【0013】
制御装置5はまた、ソレノイド1の断線、地絡等の故障診断の機能を備える。
この故障診断のため、駆動回路2の出力をモニタするモニタ手段を用いる。モニタ手段としては、駆動回路2のステータス信号発生機能を用いることができるが、電流検出回路6を用いることもできる。
本実施形態では、モニタ手段として、駆動回路2のステータス信号発生機能を用いる。従って、モニタ信号として、駆動回路2の出力状態に応じてレベル変化するステータス信号を用いる。
【0014】
従って、制御装置5は、駆動回路2の出力状態に応じてレベル変化するステータス信号と、駆動回路2への駆動信号(駆動指示のデューティ信号)とを比較して、ソレノイド1の異常の有無を診断する。
図2は、駆動信号とステータス信号との関係を示している。
制御装置(マイコン)5から駆動回路2への駆動信号(デューティ信号)のレベル変化(H・L)に対応して駆動回路2のスイッチング素子がON・OFFすることで、ステータス信号は駆動信号に同期してレベル変化(H・L)する。
【0015】
制御装置(マイコン)5では、ステータス信号の立ち上がり(L→Hレベルへの変化)を検出してカウントし、前回のカウントから所定時間内にカウントが得られれば、正常と診断する。
ここで、図2中に記したタイミングで、ソレノイド1の地絡(例えば図1中のコネクタ1aの接地故障)が発生したものとする。すると、図2(a)に示すように、駆動回路2の出力がLレベルに固定される結果、ステータス信号もLレベルに固定される。これにより、制御装置(マイコン)5でのステータス判定において、所定時間内にステータス信号の立ち上がり(カウント)が得られず、これによりソレノイド1の故障と診断できる。
【0016】
しかし、駆動回路2の構成(ステータス信号の出力ロジック等)によっては、ソレノイド1の地絡時に、駆動周期と過電流保護処理周期等、ICの内部処理タイミングが重なったりすると、状況によっては、図2(b)に示すように、地絡状態でも擬似的なステータス信号を生じる場合がある。この場合に、制御装置(マイコン)5は周期的には正しい擬似的信号により、正常(異常無し)と誤診断することとなる。
【0017】
尚、図3に駆動回路での擬似的信号の発生メカニズムの一例を示している。リニアソレノイド駆動周期とIPD過電流保護時間のタイミングがズレている場合、過電流保護時間と入力信号の立ち下がりのタイミングとが合致しない。それゆえ、ステータス信号がL固定となり、地絡検知が可能となる。
これに対し、駆動回路の構成(駆動回路を構成する素子)によっては、リニアソレノイド駆動周期と過電流保護時間のタイミングが合致してしまう場合があり、この場合は、過電流保護時間と入力信号の立ち下がりのタイミングが合致したときに、ステータス信号の出力ラインにパルス信号を生じ、これが擬似的なステータス信号となる。従って、見かけ上、ステータス信号が復帰し、通常動作時と同じタイミングで出力されるため、地絡検知不能となる。
【0018】
そこで、本実施形態では、ステータス状態を判定する際に、駆動信号の状態を確認し、駆動状態が整合する場合に正常とすることで、言い換えれば、ステータス信号を検出したときに駆動信号のレベルを確認して整合がとれていれば、検出した信号を本来の正常なステータス信号であると判定することで、擬似的信号などの影響を排除して診断が確実に行える構成とする。
【0019】
図4は上記の考えに基づいて制御装置(マイコン)5にて実行されるソレノイド故障診断のフローチャートである。
S1では、初期設定としてタイマ(TIM)をスタートさせる。尚、本フローではタイマ(TIM)のスタート及びリセットのみ行い、タイマ(TIM)の計時(カウントアップ)は別ルーチンにより行われるものとする。
【0020】
初期設定後は、S2で通常制御を行い、S3でステータス信号の立ち上がりエッジを検出・判定する。
S3での判定でステータス信号の立ち上がりエッジが検出されない場合は、S4へ進み、前回の検出(又は初期設定)から所定時間TC経過している(TIM>TC)か否かを判定し、経過していなければ、S2、S3へ戻る。
【0021】
S3での判定でステータス信号の立ち上がりエッジが検出された場合は、S5へ進み、駆動信号(デューティ信号)の状態を確認する。具体的には、駆動信号がHレベルであるか否か、言い換えれば、ステータス信号が駆動信号と整合しているか否かを判定する。
S5での判定で、駆動信号がHレベルの場合は、正しいステータス信号の立ち上がりが検出されたことになるので、ステータス信号の立ち上がりをカウントすることとして、S6へ進み、タイマ(TIM)をリセットしてから、S2、S3へ戻る。
【0022】
これに対し、S5での判定で、駆動信号がLレベルの場合は、ステータス信号が駆動信号と整合しておらず、正しいステータス信号ではなく、擬似的信号と判断する。よって、この擬似的信号はカウントせず、無視することとし、タイマ(TIM)をリセットすることなく、S2、S3へ戻る。
ステータス信号の立ち上がりエッジが検出されずに、また検出されたとしても駆動信号と不整合で擬似的信号ゆえ非検出とみなされて、所定時間経過した場合は、S4での判定で、S7へ進み、ソレノイド故障と診断する。そして、フェイルセーフ動作に移行する。尚、フェイルセーフ動作としては、ソレノイドOFFを実施する。また、自動変速機制御用のリニアソレノイドの場合は、複数のリニアソレノイドが使用されているので、1つのリニアソレノイドの故障診断により全てのリニアソレノイドをOFFに制御して、例えば3速固定等、変速比を固定する。
【0023】
図5は作用例を示す図である。ステータス信号の立ち上がりエッジを検出すると、このときの駆動信号のレベルを判定し、Hレベルであれば、ステータス信号は有効と判断し、このステータス信号のカウントにより、正常と診断できる。
これに対し、地絡の発生後に、たとえ擬似的信号を生じたとしても、このステータス信号(擬似的信号)の立ち上がり時の駆動信号のレベルを検出し、これがLレベルであれば、駆動信号とステータス信号とが整合せず、ステータス信号は無効と判断する。従って、このステータス信号(擬似的信号)はカウントせず、異常無しとの誤診断を回避することができる。
【0024】
本実施形態によれば、電気負荷装置(ソレノイド)1をデューティ駆動する駆動回路2と、この駆動回路2に駆動指示を行う制御装置(マイコン)5と、前記駆動回路2の出力をモニタするモニタ手段(駆動回路2のステータス信号発生機能、又は、電流検出回路6)とを備え、前記制御装置(マイコン)5が、前記モニタ手段のモニタ信号と、前記駆動回路2への駆動信号とを比較して、電気負荷装置(ソレノイド)1の異常の有無を診断する構成としたことにより、モニタ信号(電流検出回路のモニタ電流や駆動回路からのステータス信号を含む)に基づいて診断する際に、駆動信号の状態を確認し、モニタ信号と駆動信号とが整合する場合に正常とすることで、擬似的信号などの影響を排除して診断を確実に行うことができる。従って、確実にフェイルセーフ動作に移行させることができる。また、従来の回路構成を流用可能であることから、コストアップは少ない。
【0025】
また、本実施形態によれば、前記モニタ手段は、前記モニタ信号として、前記駆動回路の出力状態に応じてレベル変化するステータス信号を出力するものとして、ステータス信号と駆動信号とを比較する構成とすることにより、駆動回路2のステータス信号発生機能を有効利用して、容易に実施できる。従って、システムへの影響がなく、新たにモニタ手段を追加する必要もない。また、診断についてもレベル判定のみで確実に実施できる。
【0026】
また、本実施形態によれば、前記制御装置(マイコン)5は、前記ステータス信号の立ち上がり又は立ち下がりのタイミングで、前記診断を実施することにより、ステータス信号の立ち上がり又は立ち下がりのタイミングでの駆動信号のレベルを確認するだけでよく、極めて簡単に実施できる。
従って、本実施形態では、ステータス信号の立ち上がりエッジにて駆動信号のレベル(整合正)を判定したが、ステータス信号の立ち下がりエッジにて駆動信号のレベル(整合性)を判定するようにしてもよいし、ステータス信号の立ち上がりエッジと立ち下がりエッジの両方で駆動信号のレベル(整合性)を判定するようにしてもよい。
【0027】
また、ステータス信号と駆動信号との整合性については、駆動信号がHレベルのときにステータス信号がHレベルとなる同相に限らず、駆動信号がHレベルのときにステータス信号がLレベルとなる逆相の場合もあるので、これらに応じたレベル判定を実施することは言うまでもない。
以上の説明では、ソレノイド1の地絡の場合について説明したが、ソレノイド1の断線の場合、図1の実施形態では、駆動回路2の出力がHレベルに固定され、ステータス信号もHレベルに固定される。従って、ステータス信号の立ち上がり又は立ち下がりのエッジが検出されないことで異常と診断される。また、擬似的信号によりエッジが検出されたとしても、ステータス信号と駆動信号との整合性の判定により、擬似的信号を無視することができる。この他、天絡等の故障時にも同様に検知可能である。
【0028】
尚、図示の実施形態はあくまで本発明を例示するものであり、本発明は、説明した実施形態により直接的に示されるものに加え、特許請求の範囲内で当業者によりなされる各種の改良・変更を包含するものであることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0029】
1 電気負荷装置としてのソレノイド
2 駆動回路(IPD)
3 シャント抵抗
4 還流ダイオード
5 制御装置(マイコン)
6 電流検出回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気負荷装置をデューティ駆動する駆動回路と、この駆動回路に駆動指示を行う制御装置と、前記駆動回路の出力をモニタするモニタ手段とを備え、
前記制御装置が、前記モニタ手段のモニタ信号と、前記駆動回路への駆動信号とを比較して、電気負荷装置の異常の有無を診断することを特徴とする電気負荷装置の診断装置。
【請求項2】
前記モニタ手段は、前記モニタ信号として、前記駆動回路の出力状態に応じてレベル変化するステータス信号を出力するものであることを特徴とする請求項1記載の電気負荷装置の診断装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記ステータス信号の立ち上がり又は立ち下がりのタイミングで、前記診断を実施することを特徴とする請求項2記載の電気負荷装置の診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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