説明

電気部品の分離方法及び分離装置

【課題】分離対象となる電気部品の接合箇所を選択的かつ短時間で加熱することができかつ汎用性が良好な電気部品の分離方法等を提供する。
【解決手段】融点以上に加熱することによって溶融する接合材料によって基板上に固定された部品を基板から分離する電気部品の分離方法であって、基板110の表面に分離対象となる電気部品121周辺の領域を他の領域と隔離する隔壁31,32を当接させ、隔壁の内側に接合材料の融点以上の温度を有する過熱水蒸気Sを導入する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば基板等の基材上にハンダ付け、ロウ付け、ワニス等によって固定された電気部品を選択的に分離する電気部品の分離方法及び分離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
基板上に素子等の多数の電気部品を実装した回路基板の製造時、修理時、メインテナンス時等において、故障等の不具合が生じたり、劣化等が懸念される一部の電気部品を、他の部品及びその接合部に影響を与えることなく選択的に基板から分離する必要が生じる場合がある。
また、使用済みの回路基板から再利用可能な電気部品を取り外す場合にも、同様に一部の電気部品を選択的に分離することが求められる。
【0003】
このような電気部品の分離工程において、従来は例えばハンダゴテを用いて電気部品を固定しているハンダを溶融させ、溶融したハンダを吸い取ることによって電気部品を分離していた。
しかし、この手法の場合、自動化が困難であり、人手による作業が必要であった。
さらに、ハンダを吸い上げながら引き剥がすため、ハンダの詰まりが生じ、メインテナンスなどに時間がかかり、非効率的であった。
【0004】
また、電気部品の分離に関する他の従来技術として、例えば特許文献1には、基板全体を加熱するとともに、取外し対象となる部品を吊上げ機構によって取り外す電子部品の取外し方法が記載されている。
また、特許文献2には、接着剤で固定されたチップ部品にコレットを装着し、コレット内に高温の窒素ガス、空気等を供給し、あるいは、コレット自体をヒータによって高温とするチップ部品除去装置が記載されている。
また、特許文献3には、素子を取り囲む遮蔽壁の内部をヒータブロック及び空気の熱風で加熱する電子回路素子の取外し装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平 9−186450号公報
【特許文献2】特開昭61−295696号公報
【特許文献3】特開昭63−318133号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、基板全体を加熱する技術の場合、分離対象となる電気部品以外への影響を無視することはできない。
一方、分離対象となる電気部品を囲った状態で空気や窒素等の高温気体で加熱する技術においても、このような気体では熱容量が小さいことから加熱に時間がかかり、処理能力を高めることが困難である。さらに、加熱に要する時間が長くなると、分離しようとする部品自体や、熱伝導による他の部品及びその接合部へのダメージが懸念される。
また、電気部品をヒータ等からの固体熱伝導で直接加熱する場合には、電気部品の種類毎にその表面に密着するアタッチメントを準備する必要があり、汎用性に乏しい。さらに、電気部品の表面を加熱してここからの熱伝導によって接合部のハンダ等を溶融させるため、電気部品に与えるダメージはより深刻となる。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、分離対象となる電気部品の接合箇所を選択的かつ短時間で加熱することができかつ汎用性が良好な電気部品の分離方法及び分離装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
請求項1の発明は、融点以上に加熱することによって溶融する接合材料によって基板上に固定された部品を前記基板から分離する電気部品の分離方法であって、前記基板の表面に分離対象となる電気部品周辺の領域を他の領域と隔離する隔壁を当接させ、前記隔壁の内側に前記接合材料の融点以上の温度を有する過熱水蒸気を導入することを特徴とする電気部品の分離方法である。
【0008】
請求項2の発明は、前記隔壁の前記基板との当接部に設けられた弾性を有するシール部材によって前記過熱水蒸気の前記他の領域への漏洩を防止することを特徴とする請求項1に記載の電気部品の分離方法である。
請求項3の発明は、分離対象となる電気部品が前記基板の下方に配置された状態で前記基板の上方に前記隔壁を当接させて前記過熱水蒸気を導入することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電気部品の分離方法である。
請求項4の発明は、前記基板における分離対象となる電気部品が設けられた側に前記隔壁を当接させて前記過熱水蒸気を導入し、前記接合材料の溶融後、分離対象となる電気部品に前記基板から離間する方向の力を加えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電気部品の分離方法である。
請求項5の発明は、前記過熱水蒸気は、ボイラから供給される飽和水蒸気を加熱して過熱水蒸気とする過熱水蒸気発生手段によって発生され、前記飽和水蒸気の供給を遮断した状態で前記過熱水蒸気発生手段を所定の過熱水蒸気発生温度以上の温度に予熱し、その後前記飽和水蒸気の供給を開始することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の電気部品の分離方法である。
請求項6の発明は、前記隔壁を前記基板に着脱する際に、前記過熱水蒸気の流路を、前記隔壁の内側に導入する流路から前記隔壁内をバイパスする他の流路に切換えることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の電気部品の分離方法である。
請求項7の発明は、複数の前記隔壁内に共通の過熱水蒸気発生手段から前記過熱水蒸気を供給するとともに、複数の前記隔壁のうち前記基板への着脱を行うものへの前記過熱水蒸気の供給を遮断することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の電気部品の分離方法である。
【0009】
請求項8の発明は、融点以上に加熱することによって溶融する接合材料によって基板上に固定された部品を前記基板から分離する電気部品の分離装置であって、前記基板の表面に当接して分離対象となる電気部品周辺の領域を他の領域と隔離する隔壁と、前記接合材料の融点以上の温度を有する過熱水蒸気を発生する過熱水蒸気発生手段と、前記隔壁の内側に前記過熱水蒸気を導入する導入手段とを備えることを特徴とする電気部品の分離装置である。
【0010】
請求項9の発明は、前記隔壁の前記基板との当接箇所に、前記過熱水蒸気の前記他の領域への漏洩を防止するシール部材を備えることを特徴とする請求項8に記載の電気部品の分離装置である。
請求項10の発明は、前記隔壁は、一方の開口端が前記基板に当接される筒状に形成され、前記導入手段は、前記過熱水蒸気が吐出される開口端が前記隔壁の中央部付近に配置された管路を有することを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の電気部品の分離装置である。
請求項11の発明は、前記隔壁及び前記管路はそれぞれ円筒状に形成されほぼ同心に配置されることを特徴とする請求項10に記載の電気部品の分離装置である。
請求項12の発明は、前記隔壁の内側に設けられ、分離対象となる電気部品に前記基板から離間する方向の力を加える分離力付与手段を備えることを特徴とする請求項8から請求項11までのいずれか1項に記載の電気部品の分離装置である。
請求項13の発明は、前記過熱水蒸気発生手段は、ボイラから供給される飽和水蒸気を加熱して過熱水蒸気を発生させるものであり、前記ボイラからの前記飽和水蒸気の供給を停止した状態で前記過熱水蒸気発生手段の温度を所定の過熱水蒸気発生温度以上に維持する予熱手段を備えることを特徴とする請求項8から請求項12までのいずれか1項に記載の電気部品の分離装置である。
請求項14の発明は、前記導入手段は、前記過熱水蒸気発生手段が発生する前記過熱水蒸気の流路を、前記隔壁の内側に導入する流路から前記隔壁内をバイパスする他の流路に切換えるバイパス手段を備えることを特徴とする請求項8から請求項12までのいずれか1項に記載の電気部品の分離装置である。
請求項15の発明は、複数の前記隔壁にそれぞれ設けられた前記導入手段に共通の前記過熱水蒸気発生手段から前記過熱水蒸気を供給するとともに、複数の前記導入手段のうち一部への前記過熱水蒸気の供給を遮断する供給遮断手段を備えることを特徴とする請求項8から請求項12へのいずれか1項に記載の電気部品の分離装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)隔壁の内側(分離対象となる電気部品側)に、例えばハンダ、ロウ等の接合材料の融点以上の温度を有する過熱水蒸気を導入して接合材料を溶融させることによって、電子部品、電気品、配線等の電気部品は、基板から容易に剥離可能な状態となり、電気機器から所望の部品を容易に分解して、修理や製造時の手直しにおける電気部品の交換や、廃回路基板から再利用可能な電気部品のリユースが可能となる。
(2)電気部品が例えばワニス等の樹脂系材料によって固められている場合であっても、過熱水蒸気で樹脂系材料を加熱し軟化させることによって、容易に剥離することができる。
(3)過熱水蒸気によって隔壁内側の空気を追い出し、高温かつ低酸素の雰囲気とすることによって、樹脂の燃焼(酸化)や炭化による有害ガスの発生を抑制できる。
(4)熱媒として過熱水蒸気を用いることによって、ワークが100℃以下の状態では539kcal/kgの潜熱を加熱に用いることができるため、例えば加熱空気等の熱風を用いる場合よりも短時間でワークを昇温することができ、高速処理が可能であるとともに、分離を行わない他の部品への熱伝導を低減することができる。さらに、装置から漏れた場合も有毒ではなく、また、不燃性であるため、高い安全性が得られる。
(5)過熱水蒸気が分離対象以外の部品側へ漏出することを隔壁が防止するため、他の電気部品やその基板との接合箇所に影響が及ぶことを防止できる。
(6)隔壁の基板との当接箇所にシール部材を設けることによって、より確実に(5)項の効果を得ることができる。
(7)電気部品を下側とし、上方から過熱水蒸気を供給した場合には、電気部品をその自重及び基板のスルーホールを介して作用する過熱水蒸気の動圧によって落下させることができる。また、溶融したハンダ等の残渣も同時に落下させることができる。
(8)電気部品側から過熱水蒸気を供給するとともに、電気部品に対して基板から離間する方向の力を加えることによって、電気部品を確実に分離させることができる。
(9)過熱水蒸気発生手段への飽和水蒸気の供給を遮断した状態で、過熱水蒸気発生手段を過熱水蒸気発生温度以上の温度に予熱することによって、隔壁を基板に当接させた後に飽和水蒸気を過熱水蒸気発生手段に供給すると短時間で過熱水蒸気を発生させることができ、作業性を向上できる。
(10)隔壁を筒状に形成してその中央部付近に過熱水蒸気を管路から吐出させることによって、管路内を流れる過熱水蒸気が周囲から冷却されることを抑制するとともに、隔壁内部の加熱状態を均一に近づけることができる。
(11)隔壁と管路とをほぼ同心の二重管構造とすることによって、比較的製造が容易な構成によって(10)項の効果を得ることができる。
(12)隔壁を基板に着脱する際に、過熱水蒸気の流路を、隔壁の内側に導入する流路から隔壁内をバイパスする他の流路に切換えることによって、過熱水蒸気を連続して発生させた場合であっても着脱作業を安全に行なうことができ、かつ、隔壁の装着後直ちに過熱水蒸気を導入することができる。
(13)複数の隔壁内に共通の過熱水蒸気発生手段から過熱水蒸気を供給するとともに、複数の隔壁のうち前記基板への着脱を行うものへの過熱水蒸気の供給を遮断することによって、過熱水蒸気を連続して発生させた場合であっても着脱作業を安全に行なうことができ、かつ、隔壁の装着後直ちに過熱水蒸気を導入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明を適用した電気部品の分離装置の第1実施形態における構成を示す図である。
【図2】図1のII−II部矢視断面図である。
【図3】本発明を適用した電気部品の分離装置の第2実施形態における構成を示す図である。
【図4】図3の分離装置において表面実装されたチップを取り外す際の状態を示す図である。
【図5】本発明を適用した電気部品の分離装置の第3実施形態におけるノズルの横断面図であって、第1実施形態における図2に相当する断面を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
<第1実施形態>
本発明を適用した電気部品の分離方法及び分離装置の第1実施形態を、図面に基づいて説明する。この分離装置は、例えばOA機器、携帯電話機、コンピュータ、家電製品その他の回路基板(ワーク)から所望の電気部品を分離するものであり、本発明の電気部品の分離方法を実行するものである。回路基板は、例えば、プリント基板等の基板上にICチップ(素子)、コイル、コンデンサ等の各種部品や配線が固定されたものもある。各種部品の接続端子は、プリント基板にハンダ付けによって固定されている。また、ICチップは、ワニスによってもプリント基板に固定されているものもある。
【0014】
図1は、本発明の第1の実施形態の分離装置の構成を示す図である。
分離装置1は、ボイラ10、過熱水蒸気発生装置20、ノズル30等を備えて構成されている。
分離装置によって分解されるワーク100(電気機器)は、例えばガラスエポキシ基板等からなるプリント基板である基板110、及び、この基板110にハンダ付けされた素子121,122,123等を有して構成される。
各素子121〜123は、基板110に形成されたスルーホールに、接続端子であるリード(足部)を挿入し、素子本体の反対側からハンダ付けすることによって固定されている。
【0015】
ボイラ10は、給水手段Wから供給される水を加熱して飽和水蒸気を発生するものである。
【0016】
過熱水蒸気発生装置20は、ボイラ1から供給される飽和水蒸気を再加熱して過熱水蒸気を発生するものである。
過熱水蒸気発生装置20は、例えば、飽和水蒸気が導入される耐熱ステンレス合金製などの管路内にシーズヒータ等の熱源を配置し、飽和水蒸気を熱源で加熱することによって過熱水蒸気とする。
また、過熱水蒸気発生装置20は、ボイラ10からの飽和水蒸気の供給を遮断する遮断手段、及び、飽和水蒸気の供給を遮断した状態で、上述した熱源によって装置内を所定の過熱水蒸気発生温度(飽和水蒸気を供給開始したときに即時に過熱水蒸気を発生可能な温度)以上に予熱する予熱制御手段を備えている。
【0017】
次に、ノズル30について説明する。
図1及び図2に示すように、ノズル30は、外筒31、シール32、内筒33、ステー34等を備えて構成されている。
外筒31は、例えば両端部が開放された円筒状に形成されている。
図1に示すように、外筒31は、基板110の一方の面(第1実施形態においては素子121〜123が設けられた面とは反対側の面に、この面の法線方向と中心軸方向がほぼ一致するように、シール32を介して当接させられる。
【0018】
シール32は、外筒31と基板110との隙間から過熱水蒸気が漏れることを防止する部材である。
シール32は、過熱水蒸気の温度に耐えうる耐熱性、及び、可撓性・弾性を有する材料によって形成される。
このようなシール32の材料として、例えば、カーボン繊維、セラミック繊維の編物等の無機系補強剤を含む材料を用いることができる。
また、シール32は、例えば、薄い金属板を用いて形成してもよく、また、ガラス繊維等に樹脂等を含浸させて耐熱性及びシール性を持たせたコンポジット材を用いて形成してもよい。
外筒31及びシール32は、分離対象以外の素子122,123等や、これらの基板110との接合箇所が過熱水蒸気に曝されることを防止する隔壁として機能する。
【0019】
内筒33は、外筒31の中央部に外筒31とほぼ同心となるように挿入される円管状の部材である。内筒33の一方の端部は外筒31の内側で開口し、シール32を基板110に当接させた状態において、基板110の表面と間隔を隔てて対向するよう配置されている。内筒33の他方の端部は、過熱水蒸気発生装置20と接続され、過熱水蒸気Sが吹き込まれるようになっている。過熱水蒸気Sは、内筒33の端部から外筒31の内側へ吐出される。
【0020】
ステー34は、外筒31の内周面と内筒33の外周面との間にわたして設けられ、内筒
33を支持するものである。
ステー34は、外筒31及び内筒33の径方向にほぼ沿って伸び、例えば図2に示すように3本が周方向に分散して配置されている。
上述した外筒31、内筒33、ステー34は、例えば、耐熱性を有するステンレス系合金等によって形成されている。
【0021】
次に、上述した電気部品の分離装置1を用いた分離方法について説明する。
先ず、ワーク100は、基板110がほぼ水平に配置されかつ分離対象となる素子121が基板110の下側となるように配置され、保持される。
次に、ワーク100の上面(素子121の本体と反対側の面)に、ノズル30のシール32を密着させる。このとき、素子121を固定しているハンダ付け箇所がシール32の内径側に収まるようにする。
【0022】
次に、予め予熱しておいた過熱水蒸気発生装置20に、ボイラ10からの飽和水蒸気を流して加熱させ、飽和水蒸気Sを発生させる。
飽和水蒸気Sは、ノズル30の内筒33を通ってその開口端から外筒31の内径側に噴出し、ハンダ付け箇所に照射される。
ハンダ付け箇所を通過した飽和水蒸気Sは、外筒31の内周面と内筒33の外周面との間の隙間を通って上昇し、外筒31の基板110とは反対側の開口端部から周囲に放出される。
このとき、外筒31の内部は、過熱水蒸気によって空気をパージすることによって酸素不足状態に維持される。
【0023】
ここで、外筒31の内部における過熱水蒸気の温度は例えば300〜400℃(一例として350℃)であり、過熱水蒸気の流量(供給量)は例えば5〜10kg/である。
これによって、ハンダが溶融し、素子121は自然落下する。また、自然落下しない場合であっても、ごく小さな力で素子121を引っ張ることによって抜き取ることが可能である。
例えば、過熱水蒸気の流量を5kg/hとしてハンダを溶融させて素子121を落下させた後、過熱水蒸気の流量を9kg/hに上げると、溶融したハンダ等の残渣がスルーホールを経由して下方へ排出され、落下する。
【0024】
以上説明した実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)外筒31の内径側(分離対象となる素子121側)に、ハンダの融点以上の温度を有する過熱水蒸気Sを導入して接合材料を溶融させることによって、素子121は基板110から容易に剥離可能な状態となり、ワーク100から所望の素子121を容易に分離して、修理や製造時の手直しにおける電気部品の交換や、廃回路基板から再利用可能な電気部品のリユースが可能となる。
(2)素子121が例えばワニス等の樹脂系材料によって固められている場合であっても、過熱水蒸気Sで樹脂系材料を加熱し軟化させることによって、素子121を容易に剥離することができる。
(3)過熱水蒸気Sによって外筒31内側の空気を追い出し、高温かつ低酸素の雰囲気とすることによって、樹脂の燃焼(酸化)や炭化による有害ガスの発生を抑制できる。
(4)熱媒として過熱水蒸気Sを用いることによって、ワーク100が100℃以下の状態では539kcal/kgの潜熱を加熱に用いることができるため、例えば加熱空気等の熱風を用いる場合よりも短時間でワーク100を昇温することができ、高速処理が可能であるとともに、分離を行わない他の部品への熱伝導を低減することができる。さらに、装置から漏れた場合も有毒ではなく、また、不燃性であるため、高い安全性が得られる。
(5)過熱水蒸気Sが分離対象以外の素子122,123側へ漏出することを外筒31が防止するため、他の素子122,123自体やその基板110との接合箇所に影響が及ぶことを防止できる。
(6)外筒31の基板110との当接箇所にシール32を設けることによって、より確実に(5)項の効果を得ることができる。
(7)素子121を下向きとして基板110の上面から加熱することによって、素子121をその自重及び基板110のスルーホールを介して作用する過熱水蒸気Sの動圧によって落下させることができる。また、溶融したハンダ等の残渣も同時に落下させることができる。
(8)過熱水蒸気発生装置20への飽和水蒸気の供給を遮断した状態で過熱水蒸気発生装置20を過熱水蒸気発生温度以上の温度に予熱することによって、ノズル30を基板110に当接させた後に飽和水蒸気を過熱水蒸気発生装置20に供給すると短時間で過熱水蒸気Sを発生させることができ、作業性をより向上できる。これによって、ノズル30の着脱時には過熱水蒸気Sの供給を停止して作業の安全性を確保しつつ、ノズル30の装着後直ちに加熱を開始することが可能となる。
(9)筒状の外筒31の中央部付近に過熱水蒸気Sを内筒33から吐出させることによって、内筒33内を流れる過熱水蒸気Sが周囲から冷却されることを抑制するとともに、外筒31内部の加熱状態を均一に近づけることができる。
(10)外筒31と内筒33とをほぼ同心の二重管構造とすることによって、比較的製造が容易な構成によって(9)項の効果を得ることができる。
【0025】
<第2実施形態>
次に、本発明を適用した電気部品の分離方法及び分離装置の第2実施形態について説明する。
なお、以下説明する各実施形態において、従前の実施形態と実質的に共通する箇所については同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
【0026】
図3は、第2実施形態における分離装置1の構成を示す図である。
図3に示すように、第2実施形態においては、ワーク100の基板110を素子121が上方となるように保持し、素子121側にノズル30を当接させて過熱水蒸気を照射し、加熱を行う。
第2実施形態のノズル30においては、内筒33の下部に、段状に径を拡大して形成された拡径部33aが形成されている。この拡径部33aは、その内径側に素子121の本体部が収容可能となっている。
【0027】
また、内筒33の中央部には、素子121を真空吸引によって上方へ引っ張り、素子121を基板110から分離する方向の力を付与する真空吸引手段40が設けられている。
真空吸引手段40は、内筒33の中央部にほぼ同心に挿入された吸引管41と、吸引管41の下端部に設けられ、素子121の上面と当接するシール42とを有する。
吸引管41の一方は、図示しない真空ポンプに接続されている。
なお、このような真空吸引手段40に代えて、機械的に素子を保持して素子を基板から引き抜く機械的ピックアップ手段を設けてもよい。
【0028】
第2実施形態においては、シール32が基板110に当接し、シール42が素子121の上面に当接するようにノズル30を設置し、先ず過熱水蒸気Sを導入してハンダ、ワニス等の接合材料を溶融させ、その後過熱水蒸気Sを停止するとともに、真空吸引手段40によって素子121を吸着させノズル30を持ち上げることによって、素子121は基板110から引き抜かれる。
【0029】
また、図4は、素子121に代えて、基板110に対して表面実装された素子124を分離する際の状態を示す図である。
素子124は、スルーホールをもたない基板上に配置されたハンダ125によって端子部分が固定されている。
このように、第2実施形態においては、表面実装された素子124であっても分離が可能である。
【0030】
以上説明した第2実施形態によれば、上述した第1実施形態の効果と実質的に同様の効果に加え、素子に対して基板から離間する方向の力を付与することによって、より確実に分離を行うことができる。
また、スルーホール及びリードを用いない表面実装された素子であっても、容易に分離することが可能である。
【0031】
<第3実施形態>
次に、本発明を適用した電気部品の分離方法及び分離装置の第3実施形態について説明する。
図5は、第3実施形態におけるノズル30の横断面図であって、第1実施形態の図2に相当する断面を示す図である。
図5に示すように、第3実施形態においては、外筒31及び内筒33の横断面形状をそれぞれ矩形状としている。ここで、外筒31の形状(矩形の長辺、短辺それぞれの長さ等)は、分離対象となる素子のサイズや形状に応じて設定される。
以上説明した第3実施形態においては、上述した第1実施形態の効果と同様の効果に加え、分離対象となる素子の形状により適合させたノズル形状とすることによって、より効率よく分離作業を行うことができる。
【0032】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)実施形態では、電気部品を分離する対象となる電気機器は例えばハンダ付けによって各種電気部品が実装されたプリント基板であるが、本発明の適用対象はこれに限定されない。例えば、接合材料はハンダに限らず、ロウ、ワニス、その他の樹脂系材料、接着剤等も含むものとする。
(2)隔壁及びノズルの形状、構造、材質などは、実施形態のものに限らず、適宜変更することが可能である。例えば、各実施形態においては、隔壁の中央側から過熱水蒸気を供給し、その外側へ排出するものであったが、これに限らず、例えば隔壁の内面に沿って過熱水蒸気を供給し、中央側に設けられた排出口から過熱水蒸気を外部へ排出する構成とすることも可能である。また、加熱処理に用いられた後の過熱水蒸気を回収し、再過熱して再び熱媒として利用したり、廃熱を回収するようにしてもよい。
(3)第2実施形態においては、真空吸引手段によって素子に基板から分離する方向の力を付与しているが、これに限らず、他の手段によって素子に力を付与して基板から分離するようにしてもよい。例えば、機械的に素子をクランプする手段を設けてもよい。
(4)実施形態においては、過熱水蒸気発生手段への飽和水蒸気の供給を停止した状態で過熱水蒸気発生手段を予熱することによって、隔壁(ノズル)の基板との脱着時に過熱水蒸気の導入を中止しても、装着後直ちに過熱水蒸気の供給を可能としているが、これに代えて、隔壁の脱着時に過熱水蒸気を隔壁内へ導入する流路から隔壁内をバイパスする他の流路に切換える切換え弁を設けてもよい。この場合過熱水蒸気を隔壁の着脱中も連続して発生させることが可能であり、隔壁着脱時の安全性を確保しつつ、基板への装着後直ちに過熱水蒸気を導入することが可能である。例えば、過熱水蒸気をノズルへ導入せずに外部に放出してもよい。
また、複数の隔壁(ノズル)に共通の過熱水蒸気発生手段から過熱水蒸気を供給するとともに、基板の着脱を行う一部の隔壁への過熱水蒸気の供給を選択的に遮断する供給遮断手段を設けてもよい。このようにしても、着脱を行わない他の隔壁(ノズル)への過熱水蒸気の供給を継続することによって、過熱水蒸気を連続して発生させつつ着脱時の安全性を確保できる。
【符号の説明】
【0033】
1 分離装置 10 ボイラ
20 過熱水蒸気発生装置 30 ノズル
31 外筒 32 シール
33 内筒 33a 拡径部
34 ステー 40 真空吸引手段
41 吸引管 42 シール
100 ワーク 110 基板
121〜124 素子 125 ハンダ
W 給水手段 S 過熱水蒸気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点以上に加熱することによって溶融する接合材料によって基板上に固定された部品を前記基板から分離する電気部品の分離方法であって、
前記基板の表面に分離対象となる電気部品周辺の領域を他の領域と隔離する隔壁を当接させ、
前記隔壁の内側に前記接合材料の融点以上の温度を有する過熱水蒸気を導入すること
を特徴とする電気部品の分離方法。
【請求項2】
前記隔壁の前記基板との当接部に設けられた弾性を有するシール部材によって前記過熱水蒸気の前記他の領域への漏洩を防止すること
を特徴とする請求項1に記載の電気部品の分離方法。
【請求項3】
分離対象となる電気部品が前記基板の下方に配置された状態で前記基板の上方に前記隔壁を当接させて前記過熱水蒸気を導入すること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電気部品の分離方法。
【請求項4】
前記基板における分離対象となる電気部品が設けられた側に前記隔壁を当接させて前記過熱水蒸気を導入し、前記接合材料の溶融後、分離対象となる電気部品に前記基板から離間する方向の力を加えること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電気部品の分離方法。
【請求項5】
前記過熱水蒸気は、ボイラから供給される飽和水蒸気を加熱して過熱水蒸気とする過熱水蒸気発生手段によって発生され、
前記飽和水蒸気の供給を遮断した状態で前記過熱水蒸気発生手段を所定の過熱水蒸気発生温度以上の温度に予熱し、その後前記飽和水蒸気の供給を開始すること
を特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の電気部品の分離方法。
【請求項6】
前記隔壁を前記基板に着脱する際に、前記過熱水蒸気の流路を、前記隔壁の内側に導入する流路から前記隔壁内をバイパスする他の流路に切換えること
を特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の電気部品の分離方法。
【請求項7】
複数の前記隔壁内に共通の過熱水蒸気発生手段から前記過熱水蒸気を供給するとともに、
複数の前記隔壁のうち前記基板への着脱を行うものへの前記過熱水蒸気の供給を遮断すること
を特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の電気部品の分離方法。
【請求項8】
融点以上に加熱することによって溶融する接合材料によって基板上に固定された部品を前記基板から分離する電気部品の分離装置であって、
前記基板の表面に当接して分離対象となる電気部品周辺の領域を他の領域と隔離する隔壁と、
前記接合材料の融点以上の温度を有する過熱水蒸気を発生する過熱水蒸気発生手段と、
前記隔壁の内側に前記過熱水蒸気を導入する導入手段と
を備えることを特徴とする電気部品の分離装置。
【請求項9】
前記隔壁の前記基板との当接箇所に、前記過熱水蒸気の前記他の領域への漏洩を防止するシール部材を備えること
を特徴とする請求項8に記載の電気部品の分離装置。
【請求項10】
前記隔壁は、一方の開口端が前記基板に当接される筒状に形成され、
前記導入手段は、前記過熱水蒸気が吐出される開口端が前記隔壁の中央部付近に配置された管路を有すること
を特徴とする請求項8又は請求項9に記載の電気部品の分離装置。
【請求項11】
前記隔壁及び前記管路はそれぞれ円筒状に形成されほぼ同心に配置されること
を特徴とする請求項10に記載の電気部品の分離装置。
【請求項12】
前記隔壁の内側に設けられ、分離対象となる電気部品に前記基板から離間する方向の力を加える分離力付与手段を備えること
を特徴とする請求項8から請求項11までのいずれか1項に記載の電気部品の分離装置。
【請求項13】
前記過熱水蒸気発生手段は、ボイラから供給される飽和水蒸気を加熱して過熱水蒸気を発生させるものであり、
前記ボイラからの前記飽和水蒸気の供給を停止した状態で前記過熱水蒸気発生手段の温度を所定の過熱水蒸気発生温度以上に維持する予熱手段を備えること
を特徴とする請求項8から請求項12までのいずれか1項に記載の電気部品の分離装置。
【請求項14】
前記導入手段は、前記過熱水蒸気発生手段が発生する前記過熱水蒸気の流路を、前記隔壁の内側に導入する流路から前記隔壁内をバイパスする他の流路に切換えるバイパス手段を備えること
を特徴とする請求項8から請求項12までのいずれか1項に記載の電気部品の分離装置。
【請求項15】
複数の前記隔壁にそれぞれ設けられた前記導入手段に共通の前記過熱水蒸気発生手段から前記過熱水蒸気を供給するとともに、
複数の前記導入手段のうち一部への前記過熱水蒸気の供給を遮断する供給遮断手段を備えること
を特徴とする請求項8から請求項12へのいずれか1項に記載の電気部品の分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−94795(P2012−94795A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243060(P2010−243060)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(594073129)新熱工業株式会社 (13)
【Fターム(参考)】