説明

電気部品用樹脂成形品及びその製造方法

本発明は、耐熱性、機械特性、電気特性、寸法安定性、難燃性、及び成形性に優れ、かつ通常の射出成形が可能な電気部品用の樹脂成形品およびその製造方法を提供する。熱可塑性ポリマーと、主骨格の末端に不飽和基を有する多官能性のモノマー又はオリゴマーからなる架橋剤と、無機充填剤と、強化繊維とを含有する樹脂組成物を成形固化した後、放射線で前記熱可塑性ポリマーを架橋してなる。架橋剤は、あらかじめ無機充填剤に吸着させる吸着工程の後、熱可塑性ポリマーと、強化繊維等とを混練し、射出成形後に放射線照射を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、例えば、電磁開閉器等の接点支持用の部材やハウジング等として好適に用いられる、耐熱性、難燃性、寸法安定性等の熱的特性、耐磨耗性等の機械的特性に優れる電気部品用の樹脂成形品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
一般に、電気部品等に用いられる樹脂成形品は、汎用のプラスチックに比べて、高度の強度、寸法安定性、耐磨耗性等の機械的特性に加えて、耐熱性、難燃性等の熱的特性が要求される。このような電気部品用樹脂成形品としては、従来より、エポキシ樹脂やフェノール系樹脂等の熱硬化性樹脂が多く使用されている。
しかし、近年、電気部品用樹脂成形品は、薄肉成形品による軽量化、機械特性や難燃性の向上に加え、更に環境への対応としてリサイクル性が要望されており、これらの要求性能の点から、熱可塑性樹脂を用いた電気部品用樹脂成形品が検討されている。
一方、上記の電気部品の一例である電磁開閉器は、制御システムの重要な構成部品として、PLCやインバータなど電子応用装置の使用回路やコンデンサ負荷開閉など幅広い分野で使用されており、この成形品は、摺動性を要求される接点で発生する熱及び接点の繰り返し運動による負荷に耐える必要があることから、上記のような機械的強度、耐熱性、寸法安定性、電気的特性、難燃性等に関して高度の物性が要求される部品の一つである。
また、成形品は、薄肉成形が可能で、生産性が良く、寸法精度が要求されるために射出成形などの成形法によって製造されることが多いことからも、汎用の熱可塑性樹脂が使用できることが好ましい。
しかし、熱可塑性樹脂を使用する以上、樹脂単独では耐熱性、機械強度、寸法安定性、難燃性に限界があり、特に上記のような電磁開閉器においては、コスト・軽量化等を含めてすべての要求特性を満たすことは困難である。このため、各種の強化材の添加や、樹脂の改質等が検討されている。
例えば、熱可塑性樹脂の改質として、電子線やγ線等の放射線によって熱可塑性樹脂を架橋し、耐熱性の向上により機械強度・表面の磨耗性を向上されることが知られており、電線の被覆の際に溶融ポリエチレン樹脂(PE)を電子線架橋する方法や、ポリエステル樹脂成形品を放射線重合することで樹脂改質可能なことが、非特許文献「ポリマーの友」,Vol.17,No.7,P435〜444(1980)に開示されている。
また、ポリアミド系樹脂に架橋剤を添加した後、放射線照射によって架橋して耐熱性等を向上させ、架橋剤として、トリアリルシアヌレートや、トリアリルイソシアヌレートを用いることが、特開昭57−119911号公報,特開昭59−12935号公報に開示されている
また、ポリアミドとポリエーテルアミドとの共重合体に、多官能性アクリルモノマー又は多官能性メタクリレートモノマーを含有せしめてなる樹脂組成物であって、放射線照射架橋されている熱回復性物品が、特開昭61−7336号公報に開示されている。
更に、加熱によって架橋する架橋剤を用いた架橋型ポリアミド系樹脂として、(A)ポリアミド系樹脂と、(B)特定構造の1,2−ジフェニルエタン誘導体又はジイソプロピルベンゼンオリゴマーから選ばれる1種のラジカル発生剤と、(C)分子中に少なくとも2個以上の炭素間二重結合を有する多官能モノマーとからなるポリアミド系樹脂組成物、及び、それを220〜320℃の温度で加熱・架橋して得られる架橋型ポリアミド系樹脂が、特開2001−40206号公報に開示されている。
また、その他の樹脂改質方法として、シランカップリング剤によって樹脂を架橋硬化させることも、非特許文献J.App.Polymer.Sci.,Vol.28,3387〜3398(1983)によって知られており、例えば、ポリアミドを主体とするポリマーと、無機充填剤と、シランカップリング剤とを含有する樹脂組成物を成形固化し、射出工程後に加熱してシランカップリング剤によって架橋硬化させる電気部品用樹脂成形品が、特開2002−265631号公報に開示されている。
更に、難燃剤としてメラミン誘導体、シアヌル酸、イソシアヌル酸を配合してポリアミド樹脂に難燃性を付与することも、特開昭47−41745号公報,特開昭51−39750号公報により検討されている。
しかし、上記の従来技術のうち、特開昭57−119911号公報、特開昭59−12935号公報、特開昭61−7336号公報に開示されているような、放射線による架橋を用いた熱可塑性樹脂成形品においては、架橋硬化による収縮や樹脂分解を起こしやすく、これによる変形を起こしやすかった。また、樹脂中に練り込むときや成形の際に、架橋助剤が気化して発泡したり、組成が変化しゲル化したりする恐れがあった。更に、金型の表面を汚染して、成形性が悪く薄肉・精密な成形品が得られないという問題点があった。更に、難燃剤等を添加した際にブリードアウトして均一な樹脂組成が得られないという問題もあった。
また、上記の電磁開閉器やコネクタ、又はブレイカー等の成形部材として使用する場合、放射線架橋によって、架橋剤の未反応のモノマーや分解ガスが発生したり、オリゴマー化したものがブリードアウトして電極等の金属汚染を起こしたり、駆動時に付着して誤動作を引き起こしやすく、更に耐磨耗性等の機械特性を低下させたり寸法変化を起こすという問題があった。
また、特開2001−40206号公報や特開2002−265631号公報に開示されているような、熱触媒やシランカップリング剤による架橋硬化を行なう樹脂組成物においては、射出成形時の金型中における加熱によっても、架橋反応が一部進んでしまう。このため、架橋の制御が困難であり、また、成形時の余分のスプール部はリサイクルができないという問題があった。
また、特開昭47−41745号公報や特開昭51−39750号公報に開示されているような、メラミン誘導体、シアヌル酸、イソシアヌル酸の配合による難燃性の付与においても、得られる成形品の耐熱性、寸法変化、機械特性が不充分であるという問題があった。
【発明の開示】
したがって、本発明の目的は、耐熱性、機械特性、電気特性、寸法安定性、難燃性、及び成形性に優れ、特に電磁開閉器等の接点支持用部材やハウジング等として好適に用いることができ、しかも熱可塑性樹脂を使用して射出成形に適した電気部品用の樹脂成形品及びその製造方法を提供することにある。
上記課題を解決するため、本発明の電気部品用樹脂成形品は、熱可塑性ポリマーと、主骨格の末端に不飽和基を有する多官能性のモノマー又はオリゴマーからなる架橋剤と、無機充填剤と、強化繊維とを含有する樹脂組成物を成形固化した後、加熱又は放射線で前記熱可塑性ポリマーを架橋してなることを特徴とする。
本発明の電気部品用樹脂成形品によれば、加熱又は放射線で主成分ポリマーを3次元網目構造に架橋化反応させることにより、耐熱性と機械強度を向上させることができ、更に、無機充填剤と、強化繊維とを併用することによって架橋に伴う収縮や分解を抑え、化学的安定性、耐熱性、機械特性、電気特性、寸法安定性、難燃性、及び成形性の全てに優れる樹脂成形品を得ることができる。更に薄肉成形加工も可能になる。
また、放射線架橋の場合には、射出成形等の加熱成形時には架橋反応は全く進行しないので、成形時の余分のスプール部は、熱可塑性樹脂としてのリサイクルが可能である。
一方、本発明の電気部品用樹脂成形品の製造方法は、主骨格の末端に不飽和基を有する多官能性のモノマー又はオリゴマーからなる架橋剤を無機充填剤に吸着させる吸着工程と、該吸着後の無機充填剤と、熱可塑性ポリマーと、強化繊維とを含有する樹脂組成物を混練する混練工程と、前記混練された樹脂組成物を射出成形する工程と、前記射出工程後の樹脂組成物を金型から取り出して、加熱又は放射線照射する架橋工程とを含むことを特徴とする。
この製造方法によれば、射出成形機を使用して通常の熱可塑性樹脂と同様な成形が可能であり、更に射出後に加熱又は放射線によって架橋させることにより、架橋反応を促進させて硬化を進行させるので、機械的強度、耐熱性、難燃性に優れた樹脂成形品を生産性よく製造できる。
また、架橋剤を無機充填剤に吸着させた後に、熱可塑性ポリマー及び強化繊維と混練するので、架橋剤の分散が均一に行なわれる。これによって、得られる樹脂成形品の物性が均一なものとなり、耐熱性、機械特性、電気特性、寸法安定性、難燃性、及び成形性の全てに優れる樹脂成形品を得ることができる。
なお、放射線照射で架橋工程を行う場合には、線量が10kGy以上の電子線又はγ線を照射することが好ましい。これにより、線量不足による3次元網目構造の不均一な形成や、未反応の架橋剤残留によるブリードアウトを防止できる。また、特に、照射線量を10〜45kGyとすれば、線量過剰によって生じる酸化分解生成物に起因する、樹脂組成物の内部歪みによる変形や収縮等も防止でき、上記の物性に優れる樹脂成形品が得られる。
また、加熱で架橋工程を行う場合には、前記射出成形の温度より5℃以上高い温度で加熱することが好ましい。これにより、放射線照射装置等が不要であり、特に熱硬化性樹脂を含有する樹脂組成物に好適に用いることができる。
本発明の電気部品用樹脂成形品及びその製造方法のより好ましい態様によれば、前記架橋剤として、少なくとも3官能性の前記架橋剤を含有することが好ましい。これにより、均一な3次元網目構造が形成されるので、上記の物性に優れる樹脂成形品が得られる。
本発明の電気部品用樹脂成形品及びその製造方法の更に好ましい態様によれば、前記架橋剤として、2種類以上の多官能性の前記架橋剤を併用することが好ましい。これにより、例えばアリレートとアクリレートのように反応性の異なる架橋剤の併用によって架橋に要する反応速度を制御できるので、急激な架橋反応の進行による樹脂成形品の収縮を防止することができる。また、例えば、2官能性の前記架橋剤と3官能性の前記架橋剤とを併用することによっても、架橋に要する反応速度を制御できるので、急激な架橋反応の進行による樹脂成形品の収縮を防止することができる。
本発明の電気部品用樹脂成形品及びその製造方法の更に好ましい態様によれば、前記熱可塑性ポリマーがポリアミド系樹脂であって、前記架橋剤の主骨格が、N元素を含む環状化合物であることが好ましい。これにより、アミド基のN元素との相溶性がより高まるので、ポリアミド系樹脂との相溶性がより向上する。また、架橋剤であるN元素を含む環状化合物はそれ自身が難燃性も有しているので、樹脂成形品の難燃性が向上する。
本発明の電気部品用樹脂成形品及びその製造方法の更に好ましい態様によれば、前記架橋剤が、下記の一般式(I)で示される化合物であることが好ましい。

(式(I)中、R〜Rは、−O−R−CR=CH、−R−OOC−CR=CH、−R−CR=CH、−HNOC−CR=CH、−HN−CH−CR=CHより選ばれる基を表す。Rは炭素数1〜5のアルキレン基、Rは水素又はメチル基を表す。R〜Rは同一又は異なっていてもよい。)
上記の化合物はホウ素を含有し、ホウ素原子は原子半径が大きいので架橋効果が大きくなり、得られる成形品の機械強度・耐熱性を更に向上することができる。また、樹脂との相溶性も良好であるので成形性が低下することもない。更に、上記の化合物は、それ自身が難燃助剤としての効果も有しているため、特に本発明に好適に用いることができる。
本発明の電気部品用樹脂成形品及びその製造方法の更に好ましい態様によれば、前記熱可塑性ポリマー100質量部に対して、前記架橋剤を0.5〜10質量部含有することが好ましい。これにより、成形品の機械的強度が維持できるとともに、寸法安定性が向上する。
本発明の電気部品用樹脂成形品及びその製造方法の更に好ましい態様によれば、前記強化繊維を、前記樹脂組成物全体に対して5〜40質量%含有し、前記強化繊維が、樹脂で表面処理されたガラス繊維であることが好ましい。強化繊維の含有により、引張り、圧縮、曲げ、衝撃等の機械的強度を向上させることができ、更に水分や温度に対する物性低下を防止することができる。また、あらかじめ樹脂で表面処理されたガラス繊維を用いたので、熱可塑性ポリマーとの密着性が向上する。
本発明の電気部品用樹脂成形品及びその製造方法の更に好ましい態様によれば、前記無機充填剤を、前記樹脂組成物全体に対して1〜15質量%含有することが好ましい。これにより、成形品の機械的強度が維持でき寸法安定性が向上するとともに、過剰の含有によって樹脂成形品が脆くなり、割れ等が生じるのを防止できる。
本発明の電気部品用樹脂成形品及びその製造方法の更に好ましい態様によれば、前記無機充填剤としてシリケート層が積層してなる層状のクレーを含有し、前記層状のクレーを前記樹脂組成物全体に対して1〜10質量%含有することが好ましい。これによれば、ナノオーダーで層状のクレーが樹脂中に分散することにより樹脂とのハイブリット構造を形成する。これによって、得られる難燃性樹脂加工品の耐熱性、機械強度等が向上する。
本発明の電気部品用樹脂成形品及びその製造方法の更に好ましい態様によれば、前記樹脂組成物が難燃剤を含有し、該難燃剤を、前記樹脂組成物全体に対して2〜35質量%含有することが好ましい。上記範囲の含有量とすることによって、難燃性が向上できるとともに、過剰の添加によるブリードアウトや架橋不良を防止でき、電磁開閉器として使用した際の、耐久性や電気特性等の低下を防止できる。
本発明の電気部品用樹脂成形品及びその製造方法の更に好ましい態様によれば、前記難燃剤として、末端に1つの不飽和基を有する単官能性の有機リン化合物を含有することが好ましい。これにより、難燃剤が樹脂と反応して結合するので、難燃剤のブリードアウトを防止でき、難燃効果の経時劣化を防止できる。また、少量の添加であっても高い離燃効果を得ることができる。
本発明の電気部品用樹脂成形品及びその製造方法の更に好ましい態様によれば、前記電気部品が電磁開閉器に用いられるものであることが好ましい。電磁開閉器においては、例えば接点を支持するために樹脂成形品が使用されており、接点で発生する熱及び接点の繰返し運動に耐える高度の強度、耐熱性、難燃性、更には寸法安定性等が要求され、火災に対する安全性の要求が高いので、本発明の樹脂成形品及びその製造方法が特に効果的である。
【図面の簡単な説明】
図1は、実施例におけるはんだ耐熱試験後の外観状態を比較した写真である。
図2は、実施例における耐熱性試験の結果を示す図表である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の電気部品用樹脂成形品は、熱可塑性ポリマーと、主骨格の末端に不飽和基を有する多官能性のモノマー又はオリゴマーからなる架橋剤と、無機充填剤と、強化繊維とを含有する樹脂組成物を成形固化した後、加熱又は放射線で前記熱可塑性ポリマーを架橋してなる。
まず、本発明の樹脂組成物を構成する熱可塑性ポリマーについて説明する。
本発明において用いる熱可塑性ポリマーとしては、特に限定されず、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体等のポリスチレン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンサルファイド、ポリブタジエン等が挙げられるが、なかでも、耐磨耗性や耐熱性等の点から、ポリアミド系樹脂、ポリブチレンテレフタレートを用いることが好ましい。
ポリアミド系樹脂としては、アミノカルボン酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸等を主たる原料としたアミド結合を有するポリマーであればよく特に限定されない。例えば、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド4−6、ポリアミド6−6、ポリアミド6−10、ポリアミド6−12のような脂肪族ポリアミドでもよく、またポリアミドMXD6のような芳香族を含むポリアミドでもよい。更に、これらの群から選択される2種のポリアミドを適宜ブレンド又はアロイとして用いることも可能であり適宜限定されない。
また、上記のホモポリマーには限定されず、例えばポリアミド6とポリアミド66(ポリアミド6/6)や、ポリアミド6とポリアミド12(ポリアミド6/12)のような、上記のホモポリマーの少なくとも2種からなる共重合体であってもよい。
更に、本発明においてはポリアミドが変性ポリアミド共重合体であってもよい。変性ポリアミド共重合体としては例えば、フェノール誘導体、メラミン誘導体、グリシジール誘導体、ビニル基含有化合物等により変性されたポリアミド、ポリエステル系の変性ポリマーをグラフト重合したポリアミド、テレフタール酸等のフタル酸変性されたポリアミド等が挙げられる。
次に、本発明に用いる架橋剤について説明する。本発明における架橋剤としては、主骨格の末端に不飽和基を有する多官能性のモノマー又はオリゴマーからなる架橋剤を用いる。
このような架橋剤としては、以下の一般式(a)〜(c)で表される2〜4官能性の化合物が挙げられる。ここで、Xは主骨格であり、R〜Rは末端に不飽和基を有する官能性基であって、(a)は2官能性化合物、(b)は3官能性化合物、(c)は4官能性化合物である。

具体的には、以下に示すような一般式の、主骨格Xが、グリセリン、ペンタエリストール誘導体等の脂肪族アルキルや、トリメリット、ピロメリット、テトラヒドロフラン、シンメトリックトリアジン、イソシアヌル、シアヌル、トリメチレントリオキサン等の芳香族環、ビスフェノール等である構造が挙げられる。

また、熱可塑性ポリマーがポリアミド系樹脂の場合には、主骨格Xが、イソシアヌル環、シアヌル環等のN元素を含む環状化合物であることが好ましい。これにより、アミド基のN元素との相溶性がより高まるので、ポリアミド系樹脂との相溶性がより向上する。また、N元素を含む環状化合物であるので、同時に難燃性も向上するので好ましい。
末端に不飽和基を有する官能性基R〜Rとしては、−O−R−CR=CH、−R−OOC−CR=CH、−R−CR=CH、−HNOC−CR=CH、−HN−CH−CR=CHより選ばれる基が挙げられる。ここで、Rは炭素数1〜5のアルキレン基、Rは水素又はメチル基を表し、R〜Rは同一又は異なっていてもよい。
具体的には、ジアクリレート、ジメタクリレート、ジアリレート、トリアクリレート、トリメタクリレート、トリアリレート、テトラアクリレート、テトラメタクリレート、テトラアリレート等が挙げられるが、反応性の点からはジアクリレート、トリアクリレート、テトラアクリレート等のアクリレートであることがより好ましい。
上記の架橋剤の具体例としては、2官能性のモノマー又はオリゴマーとしては、ビスフェノールF−EO変性ジアクリレート、ビスフェノールA−EO変性ジアクリレート、イソシアヌル酸EO変性ジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレートモノステアレート等のジアクリレートや、それらのジメタクリレート、ジアリレートが挙げられる。
また、3官能性のモノマー又はオリゴマーとしては、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパンPO変性トリアクリレート、トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート、イソシアヌル酸EO変性トリアクリレート等のトリアクリレートや、それらのトリメタクリレート、トリアリレートが挙げられる。
また、4官能性のモノマー又はオリゴマーとしては、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等が挙げられる。
上記の化合物は、主骨格Xとなる、トリメリット酸、ピロメリット酸、テトラヒドロフランテトラカルボン酸、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、グリセリン、ペンタエリストール、N,N’,N”−トリアリルイソシアヌレート、2,4,6−トリス(クロロメチル)−1,3,5−トリオキサン等より選ばれる1種に、末端に不飽和基を有する官能性基となる、臭化アリル、アリルアルコール、アリルアミン、臭化メタリル、メタリルアルコール、メタリルアミン等より選ばれる1種を反応させて得られる。
更に、本発明に用いる架橋剤としては、下記の一般式(I)で示される3官能性の化合物も好ましく用いられる。

式(I)中、R〜Rは、上記のR〜Rと同様に、−O−R−CR=CH、−R−OOC−CR=CH、−R−CR=CH、−HNOC−CR=CH、−HN−CH−CR=CHより選ばれる基を表す。Rは炭素数1〜5のアルキレン基、Rは水素又はメチル基を表す。R〜Rは同一又は異なっていてもよい。
上記の化合物はホウ素を含有し、ホウ素原子は原子半径が大きいので架橋効果が大きくなり、得られる成形品の機械強度・耐熱性を更に向上することができる。また、樹脂との相溶性も良好であるので成形性が低下することもない。更に、上記の化合物は、それ自身が難燃助剤としての効果も有しているため、特に本発明に好適に用いることができる。
上記の一般式(I)の化合物としては、以下の化合物(I−1)〜(I−6)が挙げられる。


なお、上記の一般式(I)で示される化合物は、トリクロロボラジンに、末端に不飽和基を有する官能性基となる、臭化アリル、アリルアルコール、アリルアミン、臭化メタリル、メタリルアルコール、メタリルアミン等より選ばれる1種を反応させて得られる。
上記の架橋剤は、単独で用いてもよいが、反応性を制御するために、複数を併用して用いることがより好ましい。なかでも、2種類以上の3官能性の架橋剤を併用することが好ましく、2官能性の架橋剤と3官能性の架橋剤とを併用することがより好ましい。これにより、2官能性の架橋剤によって架橋反応を抑制しながら、順次網目構造を形成できるので、架橋に伴う樹脂成形品の収縮をより抑えることができる。
架橋剤の含有量は、前記熱可塑性ポリマー100質量部に対して、前記架橋剤を0.5〜10質量部含有することが好ましく、1.0〜7.0質量部がより好ましい。含有量が0.5質量部より少ないと架橋が不充分であり、得られる樹脂成形品の機械的物性、熱的物性、電気的物性が好ましくなく、また、10質量部を超えると、架橋剤が過剰となり、架橋剤の未反応のモノマーや分解ガスが発生したり、オリゴマー化したものがブリードアウトして、電磁開閉器等に用いた際に電極等の金属汚染を起こしたり、駆動時に付着して誤動作を引き起こしやすく、更に耐磨耗性等の機械特性を低下させたり寸法変化を起こすので好ましくない。
次に、本発明の樹脂成形品は無機充填剤を含有する。これにより、成形品の機械的強度が向上するとともに、寸法安定性を向上させることができる。また、架橋剤の吸着させる基体となって、架橋剤の分散を均一化する。
無機充填剤としては、従来公知のものが使用可能であり、代表的なものとしては、銅、鉄、ニッケル、亜鉛、錫、ステンレス鋼、アルミニウム、金、銀等の金属粉末、ヒュームドシリカ、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸、含水珪酸カルシウム、含水珪酸アルミニウム、ガラスビーズ、カーボンブラック、石英粉末、雲母、タルク、クレー、マイカ、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、硫酸マグネシウム、チタン酸カリウム、ケイソウ土等が挙げられるが、これらの中でも特に多孔質のものを用いることが好ましく、具体的にはタルク、クレー、炭酸カルシウム等を用いることが好ましい。
なお、これらの充填剤は、単独でも、2種以上を併用して用いてもよく、また、公知の表面処理剤で処理されたものでもよい。
無機充填剤の含有量は、樹脂組成物全体に対して1〜15質量%含有することが好ましく、2〜10質量%がより好ましい。含有量が1質量%より少ないと、樹脂成形品の機械的強度が低下するとともに寸法安定性が不充分であり、更に架橋剤の吸着が不充分となるので好ましくない。また、15質量%を超えると、樹脂成形品が脆くなるので好ましくない。
上記の無機充填剤のうち、シリケート層が積層してなる層状のクレーを用いることが特に好ましい。シリケート層が積層してなる層状のクレーとは、厚さが約1nm、一辺の長さが約100nmのシリケート層が積層された構造を有しているクレーである。したがって、この層状のクレーはナノオーダーで樹脂中に分散されて樹脂とのハイブリット構造を形成し、これによって、得られる樹脂成形品の耐熱性、機械強度等が向上する。層状のクレーの平均粒径は100nm以下であることが好ましい。
層状のクレーとしては、モンモリロナイト、カオリナイト、マイカ等が挙げられるが、分散性に優れる点からモンモリロナイトが好ましい。また、層状のクレーは、樹脂への分散性を向上させるために表面処理されていてもよい。このような層状のクレーは市販されているものを用いてもよく、例えば「ナノマー」(商品名、日商岩井ベントナイト株式会社製)などが使用できる。
層状のクレーの含有量は、樹脂組成物全体に対して1〜10質量%が好ましい。なお、層状のクレーは単独で使用してもよく、他の無機充填剤と併用してもよい。
次に、本発明の樹脂成形品は強化繊維を含有する。これによっても、成形品の機械的強度が向上するとともに、寸法安定性を向上させることができる。
強化繊維はガラス繊維、炭素繊維、金属繊維のいずれも用いることができるが、強度及び熱可塑性ポリマーや無機充填剤との密着性の点からガラス繊維を用いることが好ましい。
また、ガラス繊維は、表面処理されており、更に樹脂で被覆されていることが好ましい。これにより、熱可塑性ポリマーとの密着性を更に向上することができる。
表面処理剤としては、公知のシランカップリング剤を用いることができ、具体的には、メトキシ基及びエトキシ基よりなる群から選択される少なくとも1種のアルコキシ基と、アミノ基、ビニル基、アクリル基、メタクリル基、エポキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子、イソシアネート基よりなる群から選択される少なくとも一種の反応性官能基を有するシランカップリング剤が例示できる。
また、被覆樹脂としても特に限定されず、ウレタン樹脂やエポキシ樹脂等が挙げられる。
強化繊維の配合量は、樹脂組成物全体に対して5〜40質量%含有することが好ましく、15〜30質量%がより好ましい。含有量が5質量%より少ないと、樹脂成形品の機械的強度が低下するとともに、寸法安定性が不充分であるので好ましくなく、また、40質量%を超えると、成形が困難になるので好ましくない。
更に、本発明の樹脂組成物には、難燃剤を含有することが好ましい。
難燃剤としては、従来公知の難燃剤が使用でき特に限定されないが、臭素等のハロゲン元素を分子内に有するハロゲン系難燃剤、リン元素を分子内に有するリン系難燃剤、シアヌール酸又はイソシアヌール酸の誘導体、メラミン誘導体等が好ましく使用できる。放射線照射による難燃剤の分解を防止する点からは、ハロゲン系難燃剤を用いることが好ましい。
ハロゲン系難燃剤としては臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシなどが挙げられる。
一方、リン系難燃剤としては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェートなどのモノリン酸エステル、ビスフェノールAビス(ジフェニル)ホスフェート、レゾルシノールビス(ジフェニル)ホスフェートなどの縮合リン酸エステル、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸アミド、赤リン、リン酸グアニジンなどが挙げられる。これらの難燃剤は単独で用いてもよく、また2種類以上併用することも可能である。
上記のリン系難燃剤のうち、末端に1つの不飽和基を有する単官能性の有機リン化合物を含有することが特に好ましい。これによって、末端の不飽和基が樹脂と反応して結合するので、難燃剤のブリードアウトを防止でき、難燃効果の経時劣化を防止できる。また、少量の添加であっても高い難燃効果を得ることができる。このような化合物としては特に限定されず、例えば、下記の構造式からなる化合物(II)が挙げられる。

なお、上記の化合物(II)は公知であり、例えば、商品名(ACA)として三光化学株式会社より市販されているものを用いることができる。
難燃剤の配合量は、樹脂組成物全体に対して2〜35質量%含有することが好ましい。含有量が2質量%より少ないと、難燃性が不充分であるので好ましくなく、35質量%を超えると、難燃剤の過剰の添加による、難燃剤のブリードアウトや架橋不良が発生して、電磁開閉器として使用した際の、耐久性や電気特性が低下するので好ましくない。また、架橋密度が低下するので耐熱性が劣り、寸法変化率が大きくなるので好ましくない。
なお、本発明の樹脂組成物には、本発明の目的である耐熱性、耐候性、耐衝撃性を著しく損わない範囲で、上記以外の常用の各種添加成分、例えば結晶核剤、着色剤、酸化防止剤、離型剤、可塑剤、熱安定剤、滑剤、紫外線防止剤などの添加剤を添加することができる。
着色剤としては特に限定されないが、放射線照射によって褪色しないものが好ましく、例えば、無機顔料である、ベンガラ、鉄黒、カーボン、黄鉛等や、フタロシアニン等の金属錯体が好ましく用いられる。
次に、本発明の製造方法について説明する。
まず、主骨格の末端に不飽和基を有する多官能性のモノマー又はオリゴマーからなる架橋剤を無機充填剤に吸着させる吸着工程を行なう。このように、本発明の製造方法においては、あらかじめ架橋剤を無機充填剤に吸着させることを特徴としている。これにより、架橋剤の分散が非常に均一に行なわれ、得られる樹脂成形品の物性が均一なものとなり、耐熱性、機械特性、電気特性、寸法安定性、難燃性、及び成形性の全てに優れる樹脂成形品を得ることができる。
次に、上記の吸着後の無機充填剤と、熱可塑性ポリマーと、強化繊維とを含有する樹脂組成物を混練する混練工程を行なう。混合は、通常の混合に使用される従来公知のミキサー、ブレンダーなどによって行うことができる。又、溶融混練は、単軸或いは二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ミキシングロールなどの通常の溶融混練加工機を使用して行うことができる。混練温度は熱可塑性ポリマーの種類によって適宜選択可能であるが、例えばポリアミド系樹脂の場合には240〜270℃で行なうことが好ましい、また、混練後の樹脂組成物はペレット化して乾燥させることが好ましい。
次に、上記のペレットを射出成形して成形品を得る。成形においては、従来公知の射出成形法を用いることができ、通常の熱可塑性樹脂の射出条件を用いることができる。射出条件としては、用いる熱可塑性ポリマーの種類によって適宜選択可能であるが、例えばポリアミド系樹脂の場合、シリンダー温度260〜330℃、金型温度60〜130℃が好ましい。なお、この段階では全く架橋は進行していないので、成形時の余分のスプール部は、熱可塑性樹脂としてのリサイクルが可能である。
次に、本発明の製造方法においては、射出工程後に金型中又は金型から取り出して、加熱又は放射線照射を行ない架橋を行なう。
架橋を放射線照射で行う場合には、電子線、α線、γ線、X線、紫外線等が利用できる。なお、本発明における放射線とは広義の放射線を意味し、具体的には、電子線やα線等の粒子線の他、X線や紫外線等の電磁波までを含む意味である。なかでも、電子線又はγ線照射によって行なうことが好ましい。電子線照射は公知の電子加速器等が使用できる。加速エネルギーとしては、2.5MeV以上であることが好ましい。
γ線照射は、公知のコバルト60線源等による照射装置を用いることができる。γ線は電子線に比べて透過性が強いために、成形品への照射が均一となり特に好ましい。しかし、照射強度が強いため、過剰の照射を防止するために線量の制御が必要である。
放射線の照射線量は10kGy以上が好ましく、10〜45kGyがより好ましく、15〜40kGyが特に好ましい。この範囲であれば、架橋によって上記の物性に優れる樹脂成形品が得られる。照射線量が10kGy未満では、架橋による3次元網目構造の形成が不均一となり、未反応の架橋剤がブリードアウトするので好ましくなく、45kGyを超えると、酸化分解生成物による樹脂組成物に内部歪みが残留し、これによって変形や収縮等が発生するので好ましくない。
架橋を加熱で行う場合には、反応させる温度は、樹脂の成形温度より5℃以上高い温度とすることが好ましく、10℃以上高い温度とすることがより好ましい。
このようにして得られた本発明の電気部品用成形品は、従来の単独の熱可塑性樹脂成形品に比べて耐熱性、難燃性に優れるので、高度な耐熱性、難燃性が要求される電気部品、例えば電磁開閉器等の接点支持用の部材やハウジング、各種センサー類、電子デバイスのハウジング、封止剤等として好適に用いることができる。
【実施例】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
無機充填剤として平均粒径2μmのタルク4.5質量部と、着色剤として平均粒径1〜2μmの鉄黒1.0質量部となるように混合した系に、架橋剤として、末端に不飽和二重結合を有した3官能性である、イソシアヌル酸EO変性トリアクリレート(東亜合成社製:M−315)3.3質量部となるように液状で添加して表面に吸着させ、吸着物を得た。
次に、上記の吸着物に、熱可塑性ポリマーとして、66/6ナイロンの共重合体(宇部興産社製:2123B)65.8質量部、強化繊維として、シランカップリング剤で表面処理した後にウレタン樹脂が被覆されたガラス繊維25.0質量部、酸化防止剤(チバガイギー社製:イルガノックス1010)0.4質量部、となるように加えて混合して樹脂組成物を得た。
上記の樹脂組成物を、サイドフロー型2軸押出機を用いて240℃で混練した後、105℃で4時間乾燥させてペレットを得た。
上記のペレットを、射出成形機(FUNUC社製、α50C)を用い、シリンダー温度270℃、金型温度80℃、射出圧力800kg・F/cm、射出速度120mm/s、冷却時間15秒の条件で成形品を得た。
上記の成形品に、放射線照射として、コバルト60を線源として線量20kGyのγ線を照射して架橋工程を行ない、実施例1の樹脂成形品を得た。
【実施例2】
架橋剤として、N、N‘、N“−トリアリルイソシアヌレートを3質量部用い、熱可塑性ポリマーとして、66ナイロン樹脂(宇部興産社製:2020B)66.1質量部を用い、混練温度を270℃とした以外は実施例1と同様の条件でペレットを得た。
射出成形時のシリンダー温度を280℃とし、放射線照射のγ線の線量を15kGyとした以外は、実施例1と同様の条件で射出成形、放射線照射を行ない、実施例2の樹脂成形品を得た。
【実施例3】
架橋剤として、N、N‘、N“−トリアリルイソシアヌレート2.0質量部と、イソシアヌル酸EO変性トリアクリレート(東亜合成社製:M−315)1.0質量部とを併用して用いた以外は、実施例2と同様の条件でペレットを得て、実施例2と同様の条件で射出成形、放射線照射を行ない、実施例3の樹脂成形品を得た。
射出成形時のシリンダー温度を280℃とし、放射線照射のγ線の線量を25kGyとした以外は、実施例1と同様の条件で射出成形、放射線照射を行ない、実施例3の樹脂成形品を得た。
【実施例4】
架橋剤として、イソシアヌル酸EO変性トリアクリレート(東亜合成社製:M−315)2.5質量部と、ジアリルイソシアヌル酸0.5質量部とを併用して用いた以外は、実施例2と同様の条件でペレットを得て、実施例2と同様の条件で射出成形、放射線照射を行ない、実施例4の樹脂成形品を得た。
射出成形時のシリンダー温度を280℃とし、放射線照射のγ線の線量を20kGyとした以外は、実施例1と同様の条件で射出成形、放射線照射を行ない、実施例4の樹脂成形品を得た。
【実施例5】
実施例2の樹脂組成物100質量部に、更に、臭素化ポリスチレン系樹脂と酸化アンチモンを3:1の質量割合で併用した難燃剤25質量部を添加した以外は、実施例2と同様の条件でペレットを得た。
射出成形時のシリンダー温度を280℃とし、放射線照射のγ線の線量を20kGyとした以外は、実施例1と同様の条件で射出成形、放射線照射を行ない、実施例5の樹脂成形品を得た。
【実施例6】
実施例3の樹脂組成物100質量部に、更に、燐酸エステル系化合物であるノンハロゲン系難燃剤10質量部を添加した以外は、実施例2と同様の条件でペレットを得た。
射出成形時のシリンダー温度を280℃とした以外は実施例1と同様の条件で射出成形後、放射線として3.5MeVの電子線加速器を用い、線量を25kGyで放射線照射を行ない、実施例6の樹脂成形品を得た。
【実施例7】
架橋剤として、末端に不飽和二重結合を有した3官能性である、イソシアヌル酸EO変性トリアクリレート(東亜合成社製:M−315)1.65質量部、ペンタエルスリトールトリメチルアクリレート1.65質量部を併用して用い、熱可塑性ポリマーとして、PBT樹脂(東レ社製:トレコン1401x06)を65.8質量部、強化繊維として、エポキシ系シランカップリング剤で表面処理されたガラス繊維25.0質量部を用い、更に、臭素化ポリスチレン系樹脂と酸化アンチモンを3:1の質量割合で併用した難燃剤25質量部を添加した以外は、実施例1と同様の条件でペレットを得た。
射出成形時のシリンダー温度を250℃とした以外は、実施例1と同様の条件で射出成形、放射線照射を行ない、実施例7の樹脂成形品を得た。
【実施例8】
実施例5において、難燃剤の添加量を40質量部とした以外は、実施例5と同様の条件で実施例8の樹脂成形品を得た。
【実施例9】
実施例5において、難燃剤としてノンハロゲン系難燃剤(ビスフェノールAビス(ジフェニル)ホスフェート系燐酸エステル系)を15質量部添加した以外は、実施例5と同様の条件で実施例9の樹脂成形品を得た。
【実施例10】
架橋剤として、上記の化合物(I−1)を6質量部を用い、熱可塑性ポリマーとして、66ナイロン樹脂(宇部興産社製:2020B)66.1質量部を用い、混練温度を280℃とした以外は、実施例1と同様の条件でペレットを得た。射出成形時のシリンダー温度を280℃とし、放射線照射のγ線の線量を30kGyとした以外は、実施例1と同様の条件で射出成形、放射線照射を行ない、実施例10の樹脂成形品を得た。
【実施例11】
実施例10の組成に、更に、難燃剤として臭素化スチレン(フェロ・ジャパン社製)20質量部、三酸化アンチモン(日本精鉱社製)8質量部を添加して同様にペレットを得て、実施例10と同様の条件で射出成形、放射線照射を行ない、実施例11の樹脂成形品を得た。
【実施例12】
熱可塑性樹脂として66ナイロン(宇部興産社製:2020B)65.3質量部、強化繊維としてシランカップリング剤で表面処理した繊維長約3mmのガラス繊維(旭ファイバーグラス社製:03.JAFT2Ak25)20質量部、着色剤としてカーボンブラック1質量部、酸化防止剤(チバガイギー社製:イルガノイルガノックス1010)0.2質量部、無機充填剤として平均粒径2μmのタルク5質量部、架橋剤としてトリアリルイソシアヌレート(日本化成社製:TAIC)2.5質量部、難燃剤としてリン元素を含有した単官能性の化合物(上記の化合物(II)、三光化学社製:ACA)6質量部を混合し、サイドフロー型2軸押出機(日本製鋼社製)で280℃で混練して樹脂ペレットを得て105℃、4時間乾燥した後、上記ペレットを射出成形機(FUNUC社製:α50C)を用いて樹脂温度280℃、金型温度80℃の条件で成形した。
その後、上記成形品に、コバルト60を線源としたγ線を25kGy照射して実施例12の樹脂成形品を得た。
【実施例13】
実施例12の無機充填剤を、モンモリロナイトからなるナノ粒径のクレー(日商岩井株社:ナイマー)5質量部に変えた以外は、実施例12と同様の方法で実施例13の樹脂成形品を得た。
【実施例14】
熱可塑性樹脂としてポリブチレンテレフタレート樹脂(東レ株式会社製:トレコン1401X06)55.3質量部、実施例12の強化繊維20質量部、実施例12の無機充填剤5質量部、実施例12の着色剤0.5質量部、実施例12の酸化防止剤0.2質量部、架橋剤として実施例3の併用系を3質量部、難燃剤として非反応型の有機りん系難燃剤(三光化学社製:HCA−HQ)9質量部、酸化アンチモン10質量部を用い、混練温度を245℃で混練りして樹脂コンパウンドペレットを得て130℃で3時間乾燥させ、成形時のシリンダー温度を250℃の条件に変更した以外は実施例12と同様に成形した。
その後、上記成形品に、住友重機社製の加速器を用い、加速電圧4.8MeVで、照射線量40kGyの電子線を照射して実施例14の樹脂成形品を得た。
【実施例15】
実施例2の系に熱触媒(日本油脂社製:ノフマーBC)を3質量部、更に添加した以外は実施例2と同様の条件で成形品を成形した。
その後、上記成形品を、245℃、8時間加熱によって反応して実施例15の樹脂成形品を得た。
比較例1
成形品の放射線照射を行なわない以外は、実施例1と同様の条件で、比較例1の樹脂成形品を得た。
比較例2
無機充填剤として平均粒径2μmのタルク4.5質量部と、着色剤として平均粒径1〜2μmの鉄黒1.0質量部と、架橋剤として、N、N‘、N“−トリアリルイソシアヌレート11.3質量部と、熱可塑性ポリマーとして、66/6ナイロンの共重合体(宇部興産社製:2123B)57.8質量部、酸化防止剤(チバガイギー社製:イルガノックス1010)0.4質量部とを同時に混合した後、強化繊維として、シランカップリング剤で表面処理した後にウレタン樹脂が被覆されたガラス繊維25.0質量部を更に混合して混練した以外は、実施例1と同様の条件で樹脂組成物を得て、射出成形、放射線照射を行ない、比較例2の樹脂成形品を得た。
比較例3
γ線の線量を50kGyとした以外は比較例2と同様の条件で、比較例3の樹脂成形品を得た。
比較例4
架橋剤として、熱触媒タイプの樹脂改質剤(日本油脂社製:ノフマーBC)を用いた以外は実施例2と同様な条件でペレットを得て、射出成形を行なった。その後、放射線照射は行なわずに、加熱反応によって架橋化し、比較例4の樹脂成形品を得た。
比較例5
無機充填剤(炭酸カルシウム)7.0質量部にあらかじめシランカップリング剤として、エポキシシラン官能性シラン(信越化学社製:KBPS−402)1.0質量部とアミノ官能性シラン(信越化学社製KBE−903)1.0質量部を併用して吸着処理させた。
更に、これを66ナイロン樹脂(旭化成社製:レオナFG172x61)91質量部となるように混合して、270℃に設定した2軸押出し機を用いてペレットを得た。
このペレットを、実施例に用いた射出成形機で、シリンダ温度280℃、金型温度85℃、射出速度800kg・f/cm、射出速度100mm/s、冷却時間15秒の条件で成形品を得て、さらに架橋強化の為に、250℃、15分熱処理を施して比較例5の樹脂成形品を得た。
比較例6
実施例11の組成に、架橋剤である化合物(I−1)を添加しない以外は、実施例11と同様の条件で比較例6の樹脂成形品を得た。
試験例1
実施例1〜15、及び比較例1〜6の樹脂成形品を、電気部品用の代表例である、電磁開閉器用の接点部材として用い、表1に示す項目について評価を行なった。その結果をまとめて表2〜5に示す。





表2〜5の結果より、実施例1〜7、10〜15の樹脂成形品においては、成形性、外観、耐熱性、耐久性、機械特性、電気特性、難燃性のいずれも優れる。
なお、難燃剤の含有量が本発明の好ましい範囲を超える実施例8、難燃剤としてリン系の難燃剤を用いた実施例9においては、難燃剤のブリードが起こっており、過電流耐量、金属汚染試験の評価等が低下していることがわかる。
一方、放射線の架橋を行なっていない比較例1、吸着工程を行なわずに無機充填剤と架橋剤と熱可塑性ポリマーとを混練した比較例2、比較例2において放射線の照射量が本発明の好ましい範囲を超える比較例3、加熱によって架橋する架橋剤を用いた比較例4、架橋剤としてシランカップリング剤を用いた比較例5、架橋剤を添加しない比較例6においては、成形性、外観、耐熱性、耐久性、機械特性、電気特性、難燃性のいずれかの項目が実施例1〜7、10〜15より劣っていることがわかる。
試験例2
実施例1、比較例1の樹脂成形品について、はんだ耐熱試験後の外観を比較した状態を図1に示す。
図1から、放射線で架橋した実施例1は変形等が見られないのに対し、放射線未照射で架橋していない比較例1では著しい熱変形が生じていることがわかる。
試験例3
実施例1、2、5、6、13及び比較例1、2、4、6の樹脂成形品について、はんだ浴の温度による寸法変化率(10秒浸漬)の変化を測定した。結果を図2に示す。
図2のはんだ耐熱試験の結果から、実施例においては、寸法変化率がいずれのはんだ浴温度においても5%以内と少ないのに対し、比較例においては、大きく低下していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
以上説明したように、本発明によれば、耐熱性、機械特性、電気特性、寸法安定性、難燃性、及び成形性に優れる電気部品用の樹脂成形品を提供することができる。したがって、この樹脂成形品は、特に電磁開閉器等の接点支持用部材やハウジング等として好適に用いることができる。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリマーと、主骨格の末端に不飽和基を有する多官能性のモノマー又はオリゴマーからなる架橋剤と、無機充填剤と、強化繊維とを含有する樹脂組成物を成形固化した後、加熱又は放射線で前記熱可塑性ポリマーを架橋してなることを特徴とする電気部品用樹脂成形品。
【請求項2】
前記架橋剤として、少なくとも3官能性の前記架橋剤を含有する請求項1記載の電気部品用樹脂成形品。
【請求項3】
前記架橋剤として、2種類以上の多官能性の前記架橋剤を併用する請求項1又は2記載の電気部品用樹脂成形品。
【請求項4】
前記熱可塑性ポリマーがポリアミド系樹脂であって、前記架橋剤の主骨格が、N元素を含む環状化合物である請求項1〜3のいずれか1つに記載の電気部品用樹脂成形品。
【請求項5】
前記架橋剤が、下記の一般式(I)で示される化合物である請求項1〜4のいずれか1つに記載の電気部品用樹脂成形品。

(式(I)中、R〜Rは、−O−R−CR=CH、−R−OOC−CR=CH、−R−CR=CH、−HNOC−CR=CH、−HN−CH−CR=CHより選ばれる基を表す。Rは炭素数1〜5のアルキレン基、Rは水素又はメチル基を表す。R〜Rは同一又は異なっていてもよい。)
【請求項6】
前記熱可塑性ポリマー100質量部に対して、前記架橋剤を0.5〜10質量部含有する請求項1〜5のいずれか1つに記載の電気部品用樹脂成形品。
【請求項7】
前記強化繊維を、前記樹脂組成物全体に対して5〜40質量%含有し、前記強化繊維が、樹脂で表面処理されたガラス繊維である請求項1〜6のいずれか1つに記載の電気部品用樹脂成形品。
【請求項8】
前記無機充填剤を、前記樹脂組成物全体に対して1〜15質量%含有する請求項1〜7のいずれか1つに記載の電気部品用樹脂成形品。
【請求項9】
前記無機充填剤としてシリケート層が積層してなる層状のクレーを含有し、前記層状のクレーを前記樹脂組成物全体に対して1〜10質量%含有する請求項8に記載の電気部品用樹脂成形品。
【請求項10】
前記樹脂組成物が難燃剤を含有し、該難燃剤を、前記樹脂組成物全体に対して2〜35質量%含有する請求項1〜9のいずれか1つに記載の電気部品用樹脂成形品。
【請求項11】
前記難燃剤として、末端に1つの不飽和基を有する単官能性の有機リン化合物を含有する請求項10に記載の電気部品用樹脂成形品。
【請求項12】
前記電気部品が電磁開閉器に用いられるものである請求項1〜11のいずれか一つに記載の電気部品用樹脂成形品。
【請求項13】
主骨格の末端に不飽和基を有する多官能性のモノマー又はオリゴマーからなる架橋剤を無機充填剤に吸着させる吸着工程と、該吸着後の無機充填剤と、熱可塑性ポリマーと、強化繊維とを含有する樹脂組成物を混練する混練工程と、前記混練された樹脂組成物を射出成形する工程と、前記射出工程後の樹脂組成物を金型から取り出して、加熱又は放射線照射する架橋工程とを含むことを特徴とする電気部品用樹脂成形品の製造方法。
【請求項14】
前記架橋工程における前記放射線照射として、線量が10kGy以上の電子線又はγ線を照射する請求項13記載の電気部品用樹脂成形品の製造方法。
【請求項15】
前記架橋工程における前記加熱として、前記射出成形の温度より5℃以上高い温度で加熱する請求項13記載の電気部品用樹脂成形品の製造方法。
【請求項16】
前記架橋剤として、少なくとも3官能性の前記架橋剤を含有させる請求項13〜15のいずれか1つに記載の電気部品用樹脂成形品の製造方法。
【請求項17】
前記架橋剤として、2種類以上の多官能性の前記架橋剤を併用する請求項13〜16のいずれか1つに記載の電気部品用樹脂成形品の製造方法。
【請求項18】
前記熱可塑性ポリマーとしてポリアミド系樹脂を用い、前記架橋剤として、前記主骨格にN元素を含む環状化合物を用いる請求項13〜17のいずれか1つに記載の電気部品用樹脂成形品の製造方法。
【請求項19】
前記架橋剤が、下記の一般式(I)で示される化合物である請求項13〜18のいずれか1つに記載の電気部品用樹脂成形品の製造方法。

(式(I)中、R〜Rは、−O−R−CR=CH、−R−OOC−CR=CH、−R−CR=CH、−HNOC−CR=CH、−HN−CH−CR=CHより選ばれる基を表す。Rは炭素数1〜5のアルキレン基、Rは水素又はメチル基を表す。R〜Rは同一又は異なっていてもよい。)
【請求項20】
前記熱可塑性ポリマー100質量部に対して、前記架橋剤を0.5〜10質量部含有させる請求項13〜19のいずれか1つに記載の電気部品用樹脂成形品の製造方法。
【請求項21】
前記強化繊維を、前記樹脂組成物全体に対して5〜40質量%含有させ、前記強化繊維として、樹脂で表面処理されたガラス繊維を用いる請求項13〜20のいずれか1つに記載の電気部品用樹脂成形品の製造方法。
【請求項22】
前記無機充填剤を、前記樹脂組成物全体に対して1〜15質量%含有させる請求項13〜21のいずれか1つに記載の電気部品用樹脂成形品の製造方法。
【請求項23】
前記無機充填剤としてシリケート層が積層してなる層状のクレーを含有させ、前記層状のクレーを前記樹脂組成物全体に対して1〜10質量%含有させる請求項22に記載の電気部品用樹脂成形品の製造方法。
【請求項24】
前記樹脂組成物に難燃剤を含有させ、該難燃剤を前記樹脂組成物全体に対して2〜35質量%含有させる請求項13〜23のいずれか1つに記載の電気部品用樹脂成形品の製造方法。
【請求項25】
前記難燃剤として、末端に1つの不飽和基を有する単官能性の有機リン化合物を含有させる請求項24に記載の電気部品用樹脂成形品の製造方法。
【請求項26】
前記電気部品が電磁開閉器に用いられるものである請求項13〜25のいずれか1つに記載の電気部品用樹脂成形品の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/037904
【国際公開日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【発行日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−501574(P2005−501574)
【国際出願番号】PCT/JP2003/013497
【国際出願日】平成15年10月22日(2003.10.22)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】