説明

電気音響変換器および電気音響変換器用カバー

【課題】所望の指向特性を実現することのできる電気音響変換器を提供する。
【解決手段】静電型スピーカ1(電気音響変換器)は、固定電極10,50と、固定電極10,50に離間配置され、固定電極10,50との電位差に応じて変位するシート状の振動体30と、振動体30と固定電極10,50との間に設けられた通気性を有する弾性部材20,40とを備えている。弾性部材20,40は、その通気抵抗の値が外縁側において大きく設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電機音響変換器および電気音響変換器用カバーの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
静電型スピーカ(コンデンサスピーカ)といわれるスピーカが知られており、軽量、コンパクトに設計することができるという点において注目されている。ここで、静電型スピーカの構成の一例について説明する。静電型スピーカは、空隙を隔てて向かい合う2枚の固定電極と、固定電極の間に固定電極と接触しないように支持された通電性を有するシート状の部材(以下、振動体という)とから構成される。この固定電極と振動体との間に所定の電圧を印加すると、生じた電位差によって振動体を一方の電極側に引き寄せる力が働く。一方、印加する電圧の方向を反転させると、振動体には逆方向の力が働き、振動体は逆方向に移動する。このように、電極に適宜電圧を印加することによって、振動体の振動状態(振動数や振幅など)を変化させることができるから、印加電圧値を入力信号に応じて変化させれば、振動体はそれに応じて振動し、振動体から入力信号に対応した音波が発生する。固定電極を音波透過性の良い部材(例えば、多数の孔が設けられた金属板)で構成することにより、発生した音波は固定電極を通り抜けてスピーカ外部に音として出力される。
【0003】
ところで、静電型スピーカを含むいわゆる平面型のスピーカにおいては、その構造上、振動面積が大きく平面波に近い音波であるため、振動体にて生成される音波の指向特性をコントロールすることが困難であることが知られている。すなわち、振動体によって発生する音波は、振動体の特性や振動状態に対応して、特定方向に出力レベルの極大値(メインローブ及びサイドローブ)が複数現れるような指向特性を持つ。
【0004】
ここで、例えば主極大方向に伝達される音波(メインローブ)のみを残し、副極大方向に伝達される音波(サイドローブ)を抑制することができれば、鋭い指向性を持つ音波が実現する。特許文献1には、面密度が外縁に近づくほど大きくなる振動体を用いることによって、サイドローブを効率的に抑制することのできる静電型スピーカが開示されている。また、特許文献2には、荷重関数(余弦関数、円関数、ベッセル関数)を掛けた信号を用いることによってサイドローブを抑制する技術が開示されている。また、特許文献3には、複数のスピーカユニットを同心円状に配置し、かつ振動面積が大きいスピーカユニットほど外側になるように配置することによって、サイドローブを抑制する技術が開示されている。また、特許文献4には、スピーカユニットを複数設け、各ユニットに供給する入力信号のレベルや遅延などを制御するという技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−274363号公報
【特許文献2】特開平05−103391号公報
【特許文献3】特開平06−038289号公報
【特許文献4】特表2003−510924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、1枚の振動体のなかで面密度を異ならせることは製造や加工が困難であるという問題があった。また、特許文献2に記載の技術では、荷重関数を用いて演算を行う回路が必要となり、装置構成が複雑になってしまう場合
があった。また、スピーカユニットを複数用いる場合は、各スピーカユニットに供給する信号を制御する電気回路が必要となり、駆動回路を含むスピーカ全体の構造が複雑になり製造コストが嵩むという問題があった。また、これらのスピーカの構成をマイクロフォンの構成として用いることも可能であるが、この場合も、振動体の正面方向からの音を効率よく収音し外縁方向からの音をあまり収音しないようにする、といった指向性の制御を行うことはできなかった。
本発明は上述した背景に鑑みてなされたものであり、所望の指向特性を実現することのできる電気音響変換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するため、本発明は、電極と、前記電極に対向して離間配置され、導電性を有するシート状の振動体と、前記振動体と前記電極との間に設けられた通気性を有する弾性部材とを有する静電型スピーカにおいて、前記弾性部材の通気抵抗の値が前記振動体の外縁側において大きく設定されていることを特徴とする電気音響変換器を提供する。
本発明の好適な態様において、前記弾性部材は、各々異なる通気抵抗に設定された複数の領域を有してもよい。
【0008】
また、本発明は、通気性を有する電極と、前記電極に対向して離間配置され、導電性を有するシート状の振動体とを有する静電型スピーカにおいて、前記電極の通気抵抗の値が前記振動体の外縁側において大きく設定されていることを特徴とする電気音響変換器を提供する。
また、本発明の好適な態様において、前記電極は、各々異なる通気抵抗に設定された複数の領域を有してもよい。
【0009】
また、本発明は、振動体と該振動体の振動と電気信号とを相互に変換する変換手段とを有する電気音響変換器の一部又は全部を覆う電気音響変換器用カバーであって、前記電気音響変換器の一部又は全部を覆う通気性を有する部材を有し、その通気抵抗の値が前記振動体の外縁側において大きく設定されていることを特徴とする電気音響変換器用カバーを提供する。
また、本発明の好適な態様において、前記部材は、各々異なる通気抵抗に設定された複数の領域を有してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電気音響変換器において所望の指向特性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る静電型スピーカ1の構成を示す図である。
【図2】弾性部材における複数の領域の構成の一例を示す図である。
【図3】弾性部材の断面を示す断面図である。
【図4】弾性部材の形状を例示した図である。
【図5】指向特性のシミュレーション結果を示す図である。
【図6】指向特性のシミュレーション結果を示す図である。
【図7】弾性部材における複数の領域の構成の一例を示す図である。
【図8】弾性部材における複数の領域の構成の一例を示す図である。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る静電型スピーカ2の構成を示す図である。
【図10】固定電極における複数の領域の構成の一例を示す図である。
【図11】本発明の第3の実施形態に係る静電型スピーカ3の構成を示す図である。
【図12】カバー部材における複数の領域の構成の一例を示す図である。
【図13】静電型マイクロフォン4の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1実施形態>
以下、図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。本実施形態においては、電気音響変換器を、音響信号(電気信号)を音波(音響)に変換する静電型スピーカとして適用した例を説明する。なお、以下の説明において音と音波とは同義で用いる。図1の(a)は、本発明の一実施形態に係る静電型スピーカ1の構成を示す平面図であり、図1の(b)は、静電型スピーカ1の断面図である。静電型スピーカ1は、所定距離隔ててほぼ並行に設けられた方形平板状の固定電極10及び固定電極50を有する、いわゆるプッシュ・プル型の静電型スピーカである。静電型スピーカ1は、固定電極10と固定電極50の間に挟まれた振動体30を有する。固定電極10と振動体30との間および固定電極50と振動体30との間には各々、通気性を有する弾性部材20,40が設けられおり、これにより、振動体30は固定電極10側および固定電極50側に移動可能となっている。固定電極10と固定電極50の間には、その間隙を保持するためのスペーサ60が設けられている。スペーサ60は、接着剤などを用いて固定電極10および固定電極50に対して固定される。このスペーサ60は、例えば、塩化ビニル、アクリル(メチルメタアクリレート)、ゴム等の絶縁材料により形成される。
【0013】
固定電極10及び固定電極50はパンチングメタルによって構成され、音波を通過させる多数の孔を有している。なお、固定電極10および固定電極50は、スパッタ処理により金属などの導電性材料を蒸着した不織布により形成されてもよい。さらにあるいは、固定電極10及び固定電極50は、導電染料を塗布した不織布により形成されていてもよい。このように不織布で構成することにより、不織布の繊維の隙間から音波が通過することができる。また、固定電極10及び固定電極50は、導電性を有する経糸と、同じく導電性を有する緯糸を織って形成された導電布により形成されていてもよい。要するに、固定電極10及び固定電極50は、導電性及び音波透過性(通気性)を兼ね備えた材料であればどのような材料を用いて形成されてもよい。
【0014】
振動体30は、薄い箔状の方形の電極である。振動体30は、例えば、PET(polyethylene terephthalate、ポリエチレンテレフタレート)、PP(polypropylene、ポリプロピレン)、ポリエステルなどの高分子材料を用いたフィルム(薄膜あるいはシート)に、金属などの導電性材料を蒸着して形成される。なお、振動体30は、フィルムに導電染料を塗布した材料により形成されてもよい。
【0015】
図1の(b)に示したように、静電型スピーカ1は変圧器70、外部から音響信号が入力される入力部71、振動体30に対して直流バイアスを与えるバイアス電源72とを備えている。バイアス電源72は、振動体30と、変圧器70の出力側の中点と接続されており、2つの固定電極10,50はそれぞれ変圧器70の出力側の一端及び他端に接続されている。振動体30には、バイアス電圧が印加され、固定電極10,50には、それぞれバイアス電圧に対して逆極性となるような電圧が印加される。固定電極10,50に印加される電圧は、入力信号に対応するように生成され、これにより、振動体30は入力信号に対応して振動する。この結果、入力信号に対応する音波が発生し、発生した音は、固定電極10,50を通り抜けて静電型スピーカ1の外部に放射される。
【0016】
次に、弾性部材20及び弾性部材40の特徴について説明する。図2は、弾性部材の構成の一例を示す図である。図2では、図面が煩雑になるのを避けるため、固定電極10および弾性部材20のみ示している。図2の例では、弾性部材20は、中央部の矩形の領域20−1と、領域20−1の両側に設けられる矩形の領域20−2a、20−2bを有する。領域20−2a、20−2bは同じ大きさに構成されている。
同図においては、通気抵抗の分布は各領域内においては一様であるが、中央部の領域20−1に対し両端側にある領域20−2a、20−2bの通気抵抗が大きくなっている。すなわち、領域20−1の通気抵抗をR1,領域20−2a、20−2bにおける通気抵抗をR2と表すとR1<R2の関係になっている。
【0017】
弾性部材20を上述のように構成する一例としては、例えば、領域20−1の弾性部材の密度が他の領域よりも低く(すなわち目が粗く)なるように形成する方法がある。また、他の例としては、例えば、領域20−1と他の領域とで弾性部材の厚みを異ならせるようにしてもよい。弾性部材としては、中綿に熱を加えて圧縮したものであってもよく、また、例えば、合成樹脂をスポンジ状や不織布状にしたものであってもよく、これ以外でも絶縁性と音響透過性とを有するものであればよい。この実施形態では、弾性部材として通気性を有するものを用いるが、弾性部材は通気性を有さないものであってもよく、絶縁性と音響透過性とを有するものであればよい。固定電極10,50を不織布や導電布等の柔軟な部材で構成した場合は、振動体30が箔状であり、弾性部材20,30も柔軟であるため、静電型スピーカ1全体を薄く柔軟に構成することができる。
【0018】
また、他の例としては、例えば、弾性部材20をフィルム状の部材を複数積層して形成する構成とし、領域20−1と他の領域とで積層する枚数を異ならせるようにしてもよい。このように構成すると、各部材に形成された通気孔が他の部材を積層することによって塞がれ、全体として通気孔の面積が小さくなったり、通気孔事態の数が少なくなる。したがって、積層する枚数が多いほど通気抵抗の大きい弾性部材が形成される。また、弾性部材20はこれらに限らず、要は、少なくとも2つの領域において通気抵抗の大きさが異なっているものであればどのようなものであってもよい。
【0019】
図3は、固定電極10および弾性部材20を、図2A−A’で切断した断面を示す断面図である。説明の便宜上、図3には振動体30も併せて図示されている。このように、弾性部材20の領域20−1,20−2a、20−2bは単一の振動体30に接触するように配置されている。なお、上記は弾性部材20について説明したが、弾性部材40についても同様である。
【0020】
上述した構成によれば、一般に、通気抵抗が大きい領域ではそこを通過する音波の振幅が小さくなり、すなわち音圧も低下する。振動体30においてその外側(周縁部)で振幅が小さくなれば、生成された音波において紙面左右方向に発生すると予想されるサイドローブを効率的に抑制することができる。ここで、本実施形態に係る弾性部材の指向特性のシミュレーション結果について、図面を参照しつつ説明する。図4は、このシミュレーションで用いた弾性部材の形状を概略的に示す図である。図4の(a)は、正方形(300mm×300mm)の弾性部材100aの形状を示す。図4の(b)は、長方形(300mm×500mm)の弾性部材100bの形状を示す。図4の(c)は、長方形(300mm×500mm)の弾性部材100cの形状を示す。弾性部材100aと弾性部材100bの通気抵抗の大きさはその全体の領域において一定である。一方、弾性部材100cは、中央の領域100c−1の振動体の体積速度が、他の領域(両端の領域)よりも10dBだけ大きくなるように形成されている。すなわち、弾性部材100cは、中央の領域100c−1の通気抵抗が他の領域の通気抵抗よりも小さくなるように形成されている。このように、図4の(a),(b)に示す弾性部材100a,100bはその全体で通気抵抗が一定である一方、図4の(c)に示す弾性部材100cは、通気抵抗が中央から外縁に近づくほど大きくなっている。
【0021】
図5及び図6は、図4に示した弾性部材を用いた音圧レベルの指向特性のシミュレーション結果を示すものである。図5の(a),(b),(c)はそれぞれ、図4の(a),(b),(c)で示した形状の弾性部材を用いた場合の、音圧レベルの指向特性のシミュレーション結果を示す図である。図5の(a),(b),(c)において、横軸は周波数を示し、縦軸はスピーカの正面を0度とした場合の角度を示す。また、図5においては、音圧レベルを色の濃淡で示している。また、図6の(a),(b),(c),(d),(e),(f)はそれぞれ、周波数が500Hz,1000Hz,2000Hz,4000Hz,8000Hz,16000Hzのそれぞれにおける正規化した音圧レベルを示す。図6において、曲線gaは、図4の(a)に示した弾性部材100aを用いた場合のシミュレーション結果を示すものであり、曲線gbは、図4の(c)に示した弾性部材100cを用いた場合のシミュレーション結果を示す。図5及び図6に示すように、通気抵抗が弾性部材の全体で一定である弾性部材100a,100bと比較して、弾性部材100cはサイドローブが抑制される。
【0022】
このように本実施形態によれば、弾性部材の領域ごとにその通気抵抗を変えることにより、発生する音波の指向性をコントロールすることができる。そのため、本実施形態では、入力信号のレベルや位相などを制御するための回路が不要となる。
【0023】
なお、図2に示す例においては、領域の形成方向は一次元であったが、これに限らず、例えば図7に示すように、二次元的に領域(同図における領域20−1,20−2,20−3)を形成してもよい。また、図2においては、弾性部材20,40は、通気抵抗の異なる2つの領域を有していたが、領域の数はこれに限らず、要は、通気抵抗が異なる2以上の領域を有していればよい。例えば、図8に示すように、3種類の領域(同図における領域20−1,20−2,20−3)を形成してもよい。図2、図7、および図8に示される配置はあくまで例示であり、静電型スピーカ1の構造はこれに限定されるものではない。要は、振動体30の中央側から外縁側に向かう方向において分割され、その通気抵抗がそれぞれ異なる複数の領域を有する弾性部材であれば、どのようなものを用いてもよい。これら図7、図8に示す各領域は内側から外側に向かう領域ほど通気抵抗が大きくなるように設定されている。また、図2、図7及び図8においては、通気抵抗が異なる複数の領域が対称(点対称又は線対称)に配置されている例を示したが、複数の領域は対称に配置されているに限らず、非対称に配置されたものであってもよい。複数の領域の配置態様は、放音したい方向や所望する指向特性に応じて適宜に設定可能である。
【0024】
上述した例は、弾性部材の通気抵抗の大きさを離散的に変化させたが、通気抵抗値を連続的に変化させてもよい。この場合、重み付け特性等に基づいて弾性部材の通気抵抗値分布を決定してもよい。一つの好適な態様としては、通気抵抗の大きさが振動体の略中心から外縁に近づくに従って大きくなるように設定する方法がある。ただし、通気抵抗値分布の形状はこれに限らない。要は、弾性部材の通気抵抗の大きさが振動体の外縁に近づくほど大きくなるものであればどのようなものであってもよい。
【0025】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。図9は本発明の第2の実施形態に係る静電型スピーカ2の大略構造の斜視図である。静電型スピーカ2は、プッシュ・プル型の静電型スピーカであり、同図に示すように、振動体230とこれに対向する2つの固定電極210,250とから大略構成される。これらの構成のうち、振動体230は、上述の第1の実施形態において説明した振動体30と同様であるため、ここではその詳細な説明を省略する。振動体230は、塩化ビニル、アクリル(メチルメタアクリレート)、ゴム等の絶縁材料により形成された固定手段(図示せず)において、所定の張力が振動体230にかかった状態で、例えばその四辺が静電型スピーカ2の筐体(図示せず)に固定される。
【0026】
固定電極210,250は、平面電極である。固定電極210,250は、金属板に穴を開けたパンチングメタル、スパッタ加工済み不織布、導電性塗料が塗布された不織布などの、導電性を備えて且つ音波透過性(通気性)の高い材料から構成され、静電型スピーカ1の筐体(図示せず)に固定される。なお、固定電極210,250に供給される電圧とそれによる振動体230の変位の態様については、上述した第1の実施形態のそれと同様であるため、ここではその詳細な説明を省略する。
【0027】
固定電極210,250は、その通気抵抗の大きさが外縁に近づくほど大きくなっている。固定電極210,250は振動体230に対向して配置されているため、固定電極210,250の通気抵抗は、振動体230の外縁に近づくほど大きくなっている。固定電極210,250の具体的な構成としては、例えば、固定電極210,250がパンチングメタルである場合には、開けられた穴の開孔率(単位面積当たりの穴の面積)が外縁に近づくほど小さく形成されているものであってもよい。また、例えば、固定電極210,
250が不織布である場合には、外縁に近づくほど目が細かく形成されたものであってもよい。また、固定電極210,250が、導電性を有する経糸と、同じく導電性を有する緯糸を織ることによって形成された導電布である場合には、その織り目の密度が外縁に近づくほど密になるように形成されたものであってもよい。
【0028】
また、固定電極210,250は、各々異なる通気抵抗を有する複数の領域から構成されていてもよい。具体的には、例えば、図10に例示するように、複数の領域210−1,210−2,210−3のそれぞれで通気抵抗の大きさが外縁に近づくほど大きくなるように設定する。この場合、領域の形状は任意に設定することができる。
【0029】
このように本実施形態では、通気抵抗の大きさが振動体230の外縁に近づくほど大きい固定電極210,250が用いられる。一般に、通気抵抗が大きい領域では、そこから放出される音波の振幅が小さくなるから、固定電極210,250を通過して外部に出力される音波の体積速度は振動体230の外縁に近づくほど小さくなる。すなわち、振動体230の外縁に近づくほど発生する音圧が低下する。このような固定電極210,250を用いることによって、上述した第1の実施形態と同様に、サイドローブを効率的に抑制することができる。
【0030】
この実施形態においても、固定電極210,250に領域を一次元方向に形成するようにしてもよく、また、二次元に領域を形成するようにしてもよい。また、領域の数も図10に例示したものに限らず、固定電極210,250が、振動体230の中央側から外縁側に向かう方向において分割された通気抵抗が異なる2以上の領域を有していればよい。また、固定電極210,250は、振動体230の略中心から外縁に近づくに従って通気抵抗の大きさが連続的に大きくなるように形成されていてもよい。
【0031】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。図11は本発明の第3の実施形態に係る静電型スピーカ3の構成を示す図である。静電型スピーカ3は、プッシュ・プル型の静電型スピーカであり、同図に示すように、振動体330とこれに対向する2つの固定電極310,350とを備える。振動体330,固定電極310及び固定電極350はそれぞれ、上述した第1の実施形態において説明した振動体30,固定電極10及び固定電極50と同様であるため、ここではその詳細な説明を省略する。
【0032】
静電型スピーカ3は、カバー部材370,380を有する。カバー部材370,380は、各々固定電極310及び固定電極350を覆う通気性を有する部材で構成され、振動体330の振動面から発生する音波が外部に放出される経路に設けられる。図11に示す例においては、図示のように、カバー部材370は固定電極310に対向する位置に設けられ、カバー部材380は固定電極350に対向する位置に設けられている。また、カバー部材370,380は、その通気抵抗の大きさが振動体330の外縁に近づくほど大きくなっている。カバー部材370,380は、振動体330の振動面から発生する音波が外部に放出される経路に設けられているため、カバー部材370,380の通気抵抗は、振動体330の外縁に近づくほど大きくなっている。カバー部材370,380は、静電型スピーカ3に対して着脱可能に形成されていてもよく、また、静電型スピーカ3に固定されていてもよい。カバー部材370,380の具体的な構成としては、例えば、通気性を有するシート状の部材が、外縁に近づくほど厚くなるように形成する。また、例えば、カバー部材370,380が、シート状の部材が複数積層されたものである場合に、外縁に近づくほど積層枚数が多くなるように形成されたものであってもよい。
【0033】
また、カバー部材370,380は各々異なる通気抵抗を有する複数の領域を有していてもよい。具体的には、例えば、図12に例示するように、複数の領域370−1,37
0−2,370−3のそれぞれの通気抵抗の大きさが振動体330の外縁に向かうほど大きくなる形成されている。また、カバー部材370,380は、振動体330の略中心から外縁に近づくに従って通気抵抗の大きさが連続的に大きくなるように形成されていてもよい。
【0034】
本実施形態では上述したように、通気抵抗の大きさが振動体330の外縁に近づくほど大きいカバー部材370,380が静電型スピーカ3に装着されて用いられる。一般に、
通気抵抗が大きい領域ではそこを通過する音の振幅が小さくなるから、静電型スピーカ3から出力される音の音圧は振動体330の外縁に近づくほど低くなる。このようなカバー部材370,380を用いることによって、上述した第1の実施形態と同様に、サイドロ
ーブを効率的に抑制することができる。
【0035】
この実施形態においても、カバー部材370,380に領域を一次元方向に形成するよ
うにしてもよく、また、二次元に領域を形成するようにしてもよい。また、領域の数も図12に例示したものに限らず、カバー部材370,380が、振動体330の中央側から
外縁側に向かう方向において分割された通気抵抗が異なる2以上の領域を有していればよい。また、通気抵抗の分布に応じて形成されたカバー部材を複数用意し、これらをユーザの好みや音響環境等に合わせて適宜取り替えるといったことも可能である。
【0036】
また、この実施形態では、静電型スピーカ3を覆うカバー部材370,380について説明したが、カバー部材が覆うスピーカは静電型スピーカに限定されるものではなく、他の構成のスピーカ(例えばダイナミック型スピーカやホーン型スピーカ等、振動体と、振動体の振動と電気信号とを相互に変換する変換手段(例えば、ボイスコイル)とを有するスピーカ)であってもよい。他の構成のスピーカに対して用いる場合であっても、上述の実施形態と同様に、カバー部材は、スピーカの振動体や放音面の一部又は全部を覆い、その通気抵抗の値が振動体の外縁側において大きく設定されていればよい。
【0037】
<変形例>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、他の様々な形態で実施可能である。例えば、上述の実施形態を以下のように変形して本発明を実施してもよい。
(1)上述の第1乃至第3の実施形態においては、静電型スピーカ1,2,3がプッシュ・プル型の静電型スピーカである態様について説明したが、固定電極を1枚しか有しない、いわゆるシングル型の静電型スピーカであってもよい。シングル型の静電型スピーカの場合は、固定電極が設けられていない側から放音を行う際は、固定電極は通気性を有しないものであってもよい。
【0038】
(2)上述の第1乃至第3の実施形態では、静電型スピーカ1,2,3は、振動体と電極との間に通気性を有する弾性部材を設ける構成となっていたが、弾性部材が通気性を有しているに限らず、例えばバネのような通気性を有さない弾性部材を、振動体と電極との間に点在させて隙間を保つ構成となっていてもよい。また、弾性部材を用いる構成とせず、例えば、電極と振動体の間にスペーサを点在させることによって電極との隙間を保つ構成であってもよい。このような構成であっても、電極やカバー部材の通気抵抗に分布を持たせることによって、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。なお、弾性部材を点在させる場合やスペーサを点在させる場合は、箔状の振動体に代えて箔よりも剛性の高い振動部材を用いると好適である。
【0039】
(3)上述した実施形態及び変形例では、電気音響変換器を、音響信号(電気信号)を音(音響)に変換する静電型スピーカに適用した例を説明したが、電気音響変換器を、音波(音響)を音響信号(電気信号)に変換する静電型マイクロフォンに適用してもよい。図13は、上述した第1実施形態に係る静電型スピーカ1の構成を静電型マイクロフォンに適用した場合の構成の一例を示す図である。図13に示す静電型マイクロフォン4の構成が上述した図1の静電型スピーカ1と異なる点は、入力部71に代えて出力端子73を備えている点である。なお、変圧器70の変圧比は適宜調整される。
【0040】
外部で音波が発生した場合には、その音波によって振動体30が振動することにより、その振動に応じて振動体30と電極10,50との間の距離が変わるため、振動体30と電極10,50との間の静電容量に変化が発生する。この静電容量の変化によって電極10と電極50との間で電流が流れ、これにより、電圧出力、つまり、音響信号が得られる。そして、この音響信号は変圧器70に供給され、変圧器70によって変圧された後に出力される。静電型マイクロフォン4においては、通気抵抗が小さい領域においては外部で発生した音波が振動体30に伝わりやすく、音波が音響信号へ変換されやすい一方、通気抵抗が大きい領域においては外部で発生した音波が振動体30に伝わりにくく、音波が音響信号へ変換されにくい。このように、この静電型マイクロフォン4も、上述の実施形態における静電型スピーカ1と同様に、弾性部材の領域ごとに通気抵抗を変えることにより、振動体30の正面方向からの音を効率よく収音し、外縁方向からの音をあまり収音しないようにする、といった指向性を実現することができる。
【0041】
また、第2実施形態に係る静電型スピーカ2や、第3実施形態に係る静電型スピーカ3の構成を静電型マイクロフォンに適用することも可能である。静電型スピーカ2の構成を静電型マイクロフォンに適用した場合は、固定電極210,250の通気抵抗が振動体230の外縁に近づくほど大きくなるため、振動体230の外縁に近づくほど音波が音響信号へと変換されにくくなり、これにより、振動体230の正面方向からの音を効率よく収音し、外縁方向からの音をあまり収音しないようにする、といった指向性を実現することができる。
【0042】
また、静電型スピーカ3の構成を静電型マイクロフォンに適用した場合も、カバー部材370,380の通気抵抗が振動体330の外縁に近づくほど大きくなるため、中央方向からの音を効率よく収音し、外縁付近からの音をあまり収音しないようにする、といった指向性を実現することができる。また、カバー部材が覆うマイクロフォンは静電型マイクロフォンに限定されるものではなく、他の構成のマイクロフォンであってもよい。要は、カバー部材は、通気性を有する振動体を有する電気音響変換器の一部又は全部を覆うものであり、その通気抵抗の値が振動体の外縁側において大きく設定されているものであればどのようなものであってもよい。
【符号の説明】
【0043】
1,2,3…静電型スピーカ(電気音響変換器)、4…静電型マイクロフォン(電気音響変換器)、10,50,210,250,310,350…固定電極、20,40…弾性部材、30,230,330…振動体、60…スペーサ、370,380…カバー部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極と、
前記電極に対向して離間配置され、導電性を有するシート状の振動体と、
前記振動体と前記電極との間に設けられた通気性を有する弾性部材と
を有する電気音響変換器において、
前記弾性部材の通気抵抗の値が前記振動体の外縁側において大きく設定されている
ことを特徴とする電気音響変換器。
【請求項2】
前記弾性部材は、各々異なる通気抵抗に設定された複数の領域を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の電気音響変換器。
【請求項3】
通気性を有する電極と、
前記電極に対向して離間配置され、導電性を有するシート状の振動体と
を有する電気音響変換器において、
前記電極の通気抵抗の値が前記振動体の外縁側において大きく設定されている
ことを特徴とする電気音響変換器。
【請求項4】
前記電極は、各々異なる通気抵抗に設定された複数の領域を有する
ことを特徴とする請求項3に記載の電気音響変換器。
【請求項5】
振動体と、該振動体の振動と電気信号とを相互に変換する変換手段とを有する電気音響変換器の一部又は全部を覆う電気音響変換器用カバーであって、
前記電気音響変換器の一部又は全部を覆う通気性を有する部材を有し、その通気抵抗の値が前記振動体の外縁側において大きく設定されている
ことを特徴とする電気音響変換器用カバー。
【請求項6】
前記部材は、各々異なる通気抵抗に設定された複数の領域を有する
ことを特徴とする請求項5に記載の電気音響変換器用カバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図5】
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