説明

電気音響変換器および電気音響変換方法

【課題】
オーディオ再生機器(プレーヤー)からの電気信号を音波(可聴音)に変換してユーザに提供すると共に、当該ユーザの耳朶に触覚提示して、情動を瞬間的に生起し得る電気音響変換器を提供する。
【解決手段】
電気音響変換器は、接続されるオーディオ再生機器からの電気信号を分岐する分岐手段と、分岐された一の電気信号の電圧を増幅する増幅手段と、増幅された当該電気信号を直流化する整流手段と、ユーザの耳朶裏側に装着され、前記直流化された電気信号基づき、低周波振動(略200Hz以下)を提示する振動提示手段と、ユーザの内耳に挿入され、分岐された他の電気信号を可聴音域の音響信号に変換し、前記低周波振動と同位相で出力する音響出力手段と、から構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザによって装着され電気信号を音波に変換する電気音響変換器(イヤホン、ヘッドホン等)および電気音響変換方法に関し、特に接続される音響再生装置(プレーヤー)から入力される電気信号を音波(可聴音)に変換してユーザに提供すると共に、当該ユーザの耳朶に触覚を提示する、電気音響変換器および電気音響変換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、イヤホン、ヘッドホン等の電気音響変換器を含む視聴覚機器において、音声、音響、効果音と合わせて振動等の触覚をユーザに提示し、その臨場感(リアリティ)を高めているものが各種提案されている。
例えば、TVゲーム等の視聴覚コンテンツにおいて、映像とその効果音に合わせて、ユーザが操作するコントローラ等が振動してユーザの手に触覚を提示し、その映像の状況の臨場感を高める装置が提案されている(特許文献1)。
【0003】
また、ジャケットに振動子を組み込み、視聴覚コンテンツと共に体幹部へ振動刺激を加え、高い臨場感を得ることができるジャケット型の体感音響装置(非特許文献1)や、椅子に振動子を組み込み、聴覚コンテンツと共に全身に振動刺激を加え、高い臨場感を得ることができる椅子型の体感音響装置(特許文献2、非特許文献2)等、提案されている。
【0004】
さらに、イヤホン内部に振動装置を組み込み、聴覚コンテンツと共に内耳に振動刺激を加え、高い臨場感を得ることができるイヤホン、ヘッドホンが提案されている(特許文献3)。
【0005】
しかし、これらはいずれも臨場感(リアリティ)を高めることを目的としており、音響が誘発する感情や情動(快−不快、興奮−沈静、緊張−弛緩)への作用を期待するものではない。
また、特許文献3については、イヤホン内部に振動装置があるため、音響に振動音が混在しやすく、音響の外乱となる問題がある。
【0006】
他方、音響が誘発する感情や情動への作用を期待する装置として、可聴域の周波数成分を聴覚系に提示し、可聴域上限(20kHz)を越える超高周波成分を含む、いわゆる超音波「ハイパーソニック・サウンド」を聴覚系以外の生体部位に、空気振動として提示する、ヘッドホンを含む振動提示装置が提案され(特許文献4)、また、同高周波帯域の信号(10kHz以上)を振動に変換して骨伝導で再生するヘッドホンが提案されている(特許文献5)。
【0007】
この「ハイパーソニック・サウンド」は、音を快く美しく感受させ、音聴取行動を強め、心身の状態を総合的に改善向上させる効果(ハイパーソニック・エフェクト)をもたらし、ユーザの感情や情動へ作用するものとして知られている。
但し、特許文献5に係るヘッドホンについては、特許文献4においてその効果を否定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11-004967
【0009】
【特許文献2】特開2004-23490
【0010】
【特許文献3】特開平6-269074
【0011】
【特許文献4】特開2007-190408
【0012】
【特許文献5】特開2003-032768
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Paul Lemmens・Floris Crompvoets・Dirk Brokken・Jack van den Eerenbeemd・Gert-Jan de Vries『A body-conforming tactile jacket to enrich movie viewing』Proceedings of the World Haptics 2009,7-12
【0014】
【非特許文献2】Maria Karam・Carmen Branje・Gabe Nespoli・Norma Thompson・Frank A. Russo・Deborah I. Fels『The emoti-chair: an interactive tactile music exhibit』CHI2010, 3069-3074
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記の通り、特許文献4に記載の振動呈示装置では、超音波成分によってユーザの感情や情動「快」に作用する効果がある。しかし、この「快」の情動は、超音波の音響放射圧による全身への圧迫による鎮静効果が主な原因であると考えられ、例えば音楽を聴いている際に音楽全体を通して音に艶があるように感じる、ないし安心して聞ける等の時間的に緩やかな情動に過ぎず、瞬間的な情動変化を引き起こすものではない。
瞬間的に強く感情や情動(特に「快−不快」)を生起できることが求められている。
【0016】
上記課題を解決する為に、本発明は、聴覚刺激と皮膚感覚刺激の二つの感覚刺激を提示するイヤホン、ヘッドホン等の電気音響変換器であって、特に可聴音に合わせて瞬間的に振動を触覚として耳介(耳朶)に提示することに着目し、瞬間的に強く感情や情動(快−不快)を刺激することができる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
請求項1に記載の電気音響変換器は、接続される音響再生装置からの電気信号を分岐する分岐手段と、分岐された一の電気信号の電圧を増幅する増幅手段と、増幅された当該電気信号を直流化する整流手段と、ユーザの耳朶裏側に当接され、前記直流化された電気信号に基づき、低周波振動(略200Hz以下)を提示する振動提示手段と、ユーザの内耳に挿入され、分岐された他の電気信号を可聴音域の音響信号に変換し、前記低周波振動と略同位相で出力する音響出力手段と、を備える。
請求項2に記載の電気音響変換器は、前記振動提示手段が、超低周波振動(略20Hz以下)を提示する、ことを特徴としている。
請求項3に記載の電気音響変換器は、前記振動提示手段が、供給される電気信号に基づき、内部軸の偏心によって回転時に振動を発生する偏平型振動モータである、ことを特徴としている。
請求項4に記載の電気音響変換器は、前記音響出力手段が、外耳道を閉鎖しない複数の通気孔を有する、ことを特徴としている。
請求項5に記載の電気音響変換方法は、音響再生装置からの電気信号を分岐するステップと、分岐された一の電気信号の電圧を増幅するステップと、増幅された当該電気信号を直流化するステップと、ユーザの耳朶裏側に、前記直流化された電気信号に基づき、低周波振動(略200Hz以下)を提示すると共に、前記ユーザの内耳に、分岐された他の電気信号を可聴音域の音響信号に変換し、前記低周波振動と同位相で出力するステップと、を含む。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、聴覚刺激と皮膚感覚刺激の二つの感覚刺激を同時且つ耳という共通部位の内耳と耳朶にそれぞれ提示することによって、あたかも耳元で囁かれているような体感をユーザに提供することができる。
また、振動が内耳に伝達されにくい為、振動音が音響に混在することで生じる音響の外乱となることがなく、適切な音響と触覚を提示することができ、情動刺激の効果(快−不快)を高めることができる。
また、本発明は、従来の超音波による情動刺激での課題である、瞬間的に強く感情や情動を刺激することができ、例えば一瞬で心地良く、または気恥ずかしくすることができる効果がある。
【0019】
従来の椅子やジャケット型のもの等比較的大掛かりな装置と比べ、本発明は安価でシンプルな構成で、それ以上の感情や情動を生起する作用効果がある。本発明は安価で携帯可能な電気音響変換器の新しい設計指針を示唆するものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施の形態に係る電気音響変換器の概略ブロック構成図。
【図2】本発明の一実施の形態に係る電気音響変換器の整流回路部の一構成例を示す図。
【図3】本発明の一実施の形態に係る電気音響変換器の振動提示部の一構成例(振動モータ)を示す説明図。
【図4】本発明の一実施の形態に係る電気音響変換器の装着例を示す図。
【図5】本発明の一実施の形態に係る電気音響変換器における動作手順を示すフローチャート図。
【図6】本発明の一実施の形態に係る電気音響変換器の一検証実験例を示す図。
【図7】本発明の一実施の形態に係る電気音響変換器の一検証実験例の検証結果を示す分布図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る電気音響変換器の一実施の形態を、図面を参照し説明する。
【0022】
(1)第1の実施の形態
図1は、本発明の一実施の形態に係る電気音響変換器の概略ブロック図である。
本実施の形態に係る電気音響変換器(100)は、外部のオーディオ再生機器(1)とオーディオ信号を受信可能に接続され、主として、ステレオ2分岐アダプタ(2)と、電圧増幅回路(3)と、整流回路(4)と、一対の振動モータL、R(5)と、一対のイヤホンL、R(6)とで構成される。
なお、本実施の形態では、振動モータL、R(5)、イヤホンL、R(6)を一対としたが、これはユーザの両耳への装着を想定したもので、振動モータLとイヤホンL、振動モータRとイヤホンRとを各々一組として、一方の組のみの構成でも良い(以下まとめて、振動モータL(R)(5)、イヤホンL(R)(6)として説明する)。
【0023】
オーディオ再生機器(1)は、電気音響変換器(100)の外部に接続する音源であって、ユーザによる操作に基づき、電気信号(交流)としてのオーディオ信号を生成し、接続する電気音響変換器(100)に出力する。
なお、音源としては、歌唱、楽曲の他、音程の無い朗読等も含まれる。
【0024】
ステレオ2分岐アダプタ(2)は、分岐手段として、オーディオ再生機器(1)から入力されたオーディオ信号を分岐し、一方の信号を後述する振動用信号として電圧増幅回路(3)に出力し、他方の信号を音響信号としてイヤホンL(R)(6)に出力する。
これにより、音響と振動とのタイミングを別途図ることなく、略同位相にて提示させることができる。
【0025】
電圧増幅回路(3)は、増幅手段として、オーディオ信号の電圧を後述する振動モータL(R)(5)が必要な電圧レベルまで増幅させるものである。
この増幅する電圧レベル(増幅率)は任意に調整可能とし、この電圧レベルを調整することにより、後述する振動モータL(R)(5)におけるユーザへの触覚提示として必要な電圧レベルに達する振動周波数を増減できる。これにより振動モータL(R)(5)の振動周波数を所望の周波数以下(例えば200Hz以下)とすることを実現している。
【0026】
整流回路(4)は、整流手段として、増幅されたオーディオ信号(交流)を直流信号に変換し、振動モータL(R)(5)に出力する。振動モータL(R)(5)を振動させる為には直流信号が必要である為、この変換が行われる(詳細は後述する)。
【0027】
振動モータL(R)(5)は、振動提示手段として、直流化された電気信号に基づいて振動し、ユーザの耳朶裏側に触覚としての物理的な振動を提示する。
なお、振動周波数は触覚に有効な略200Hz以下であることが好ましく、特に超低周波音である20Hz以下であることが、内耳に振動音を伝達させない点で好ましい。
前述の通り、電圧増幅回路(3)での増幅率調整によってこの振動周波数を200Hz以下(または、20Hz以下)とすることができる。
以上により、もとの楽曲の周波数がどのような周波数成分を含んでいても、触覚提示にとって重要な周波数の振動を簡単に実現できる。
また、振動提示手段として種々の手段があるが、本実施の形態では、静音性に優れた偏平型振動モータL(R)(5)を使用する(詳細は後述する)。
本実施形態では、定格電圧は3.0Vのものを採用した。
【0028】
イヤホンL(R)(6)は、電気信号を可聴音域の音響信号(20Hz〜20kHz)に変換して出力する音響出力手段として、ステレオ2分岐アダプタからのオーディオ信号を可聴音域の音響信号に変換し、直接内耳に伝達する。
このイヤホンL(R)(6)には、後述する複数の通気孔(7)が設けられ、この通気孔(7)によって一端閉口に近づけ、いわゆる外耳道閉鎖効果(外耳道を耳栓等で閉鎖すると、共振特性が変化し、200Hz程度の低周波が強調される)を防止する。
従ってこの通気孔(7)により、振動モータL(R)(5)からの振動音(超低周波音)が、内耳に伝達されたとき、外耳道閉鎖効果によって強調されることを防止することができる。
【0029】
前述の整流回路(4)の一例について、図2を参照して詳述する。
図2は、本実施の形態に係る整流回路(4)の内部構成の一例で、いわゆる半端整流回路であって、電圧増幅回路(3)とダイオードの入力側端子が接続され、その出力側端子に振動モータL(R)(5)及びコンデンサC3(C4)が互いに並列に接続される。この構成を一組として、L(R)各々設ける。
正弦波形の正の半サイクル期間については、ダイオードに対する順方向バイアスとなり、電源−ダイオードを介して、コンデンサC3(C4)に電荷が蓄積され、振動モータL(R)(5)に印加される。
また、正弦波形の負の半サイクル期間については、ダイオードに対する逆方向バイアスとなり、ダイオードに電流が流れない。
単純に半端整流回路で整流しただけの電流は、交流電流の波形を残した脈波と呼ばれる状態となり、コンデンサC3(C4)は、平滑コンデンサの役割を担い、特に逆方向バイアスのときに、蓄積された電荷がコンデンサC3(C4)−振動モータL(R)(5)の経路で放電電流が流れ電源としての代わりとして働く。結果、波形の凹凸が少ない直流化が為し得る。この整流回路により元の信号の振幅にほぼ比例した直流信号が得られる。
なお、本実施の形態に記載の整流回路は一例であって、特にこれに限定されるものではなく、交流電源を直流化するものであればよい。
【0030】
次に、前述の振動モータL(R)(5)の一例について、図3を参照して詳述する。
図3は、本発明の一実施の形態に係る電気音響変換器(100)の振動モータL(R)(5)の一構成例(外観)を示す。なお、本実施の形態において用いた振動モータL(R)(5)は、周知(特開平6−205565号)のものを用い、特にこれに限定されるものではない。
本実施の形態における振動モータL(R)(5)は、偏平型振動モータL(R)(5)であって、回転子を偏心構造としているものである。
この振動モータは、環状に配置されて軸方向に着磁された4つの永久磁石と、この永久磁石と軸方向に対向する電機子を備えた回転子とからなり、回転子の電機子が、電流が供給される3つのコイルを周方向に近接配置させて全体が扇状となるように構成することにより、回転子を偏心構造としたものである。
【0031】
このように3つのコイルを回転子の一方に偏らせた配置とすることで、回転子が回転すると偏荷重により振動を発生する。
振動モータの利点は、外耳全体が震えること(振動振幅が大きい)、振動に伴う駆動音が生じにくいこと、小型軽量であることである。
【0032】
以上の本実施形態の電気音響変換器(100)について、その装着例を図4に示す。
本実施形態の電気音響変換器(100)は、耳に装着して、内耳に音響、耳朶に同位相で超低周波振動を提示するもので、ユーザの耳の内耳部分に、イヤホンL(R)(6)を挿入し、振動モータL(R)(5)は、耳朶裏側に装着する。
振動モータL(R)(5)の耳朶裏側への装着方法は特に限定されるものではなく、本実施形態では、公知の手段(特開2001−320790)、U字形状の弾性手段によって、耳朶裏側に振動モータL(R)(5)が当接するように耳朶を挟んで固定している。
また、イヤホンL(R)(6)には、前述の複数の通気孔が内耳に対しての露出側に設けられ、外耳道閉鎖効果を防止するようになっている。
【0033】
ステレオ2分岐アダプタ(2)、電圧増幅回路(3)、整流回路(4)は図示しないが、これらは一つの機器(変換回路部(10))としての構成を呈し、イヤホンL(R)(6)、振動モータL(R)(5)とはイヤホンケーブル(電気信号を送信可能な一般的なコード)で接続されている。
【0034】
次に、本実施形態の電気音響変換器(100)における具体的な動作手順を、図5を参照しながら説明する。なお、図5は、本実施形態における電気音響変換器(100)の具体的な動作手順を示すフローチャートである。
【0035】
まず、オーディオ再生機器(1)より、音源として、電気信号であるオーディオ信号が生成され、電気音響変換器(100)に入力される(ステップS1)。
【0036】
次に、ステレオ分岐アダプタ(2)は、オーディオ再生機器(1)から入力されたオーディオ信号を分岐し、一方の信号を振動用信号として電圧増幅回路(3)に出力し、他方の信号を音響信号としてイヤホンL(R)(6)に出力する(ステップS2)。
【0037】
振動用信号としてオーディオ信号が入力された電圧増幅回路(3)は、その信号の電圧を振動モータL(R)(5)が駆動に必要な電圧レベルまで増幅させる(ステップS3)。なお、この増幅させる電圧レベルは、周知のボリューム等を設けユーザにより任意に調整できる。
【0038】
次いで、増幅された電圧が整流回路(4)へ入力され、整流回路(4)は、整流処理として、オーディオ信号(交流信号)を直流信号に変換し、コンデンサC3(C4)によって直流信号を平滑化する(ステップS4)。
【0039】
ステップ5において、増幅され直流化された振動用信号は振動モータL(R)(5)に印加され、振動モータL(R)(5)は、その印加電圧によって駆動して振動をユーザに提示し(ステップS5)、音響用信号はユーザの内耳に挿入されているイヤホンL(R)(6)に入力され、イヤホンL(R)(6)は、入力されたオーディオ信号(電気信号)を可聴音域の音響信号に変換し、音響と振動とを同位相でユーザに提示する(ステップS6)。
【0040】
以上の動作手順によって、ユーザの内耳に可聴音を、耳朶に超低周波振動を同位相で提示することができる。
【0041】
これにより、聴覚刺激と皮膚感覚刺激の二つの感覚刺激を同時、且つ耳という共通部位の内耳と耳朶にそれぞれ提示することで、あたかも耳元で囁かれているような体感をユーザに提供することができる。
また、振動が内耳に伝達されない為、振動音が音響に混在することで生じる音響の外乱となることがなく、適切な音響と触覚を提示することができ、情動刺激の効果(快−不快)を高めることができる。
また、従来の超音波による情動刺激での課題である、瞬間的に強く感情や情動を刺激することができ、例えば一瞬で心地良く、または気恥ずかしくすることができる。
【0042】
なお、本実施形態における電気音響変換器(100)は、イヤホンL(R)(6)、振動モータL(R)(5)等各部位を別体としたが、これに限ることなく、いわゆるヘッドホンとして一体的に構成できることは言うまでもない。
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。
【0043】
(2)本発明の一実施の形態に係る電気音響変換器(100)の有効性の検証
本発明の有効性の検証の為、被験者10名による実験を行った。
被験者は20代の健常な女性5名、男性5名の計10名である。
すなわち、図6に示すように、被験者に本発明に係る電気音響変換器(100)を装着させると共に、アイマスク(図示せず)を装着させ、オーディオ再生機器(1)(プレーヤー)から異なる声優6名による同じ言葉の音声を出力し、電気音響変換器(100)により聞かせる実験を行った。
【0044】
また、被験者には、音声と共に振動がある場合と、音声のみで振動がない場合の2通りを体験させ、その際に想起した情動を比較させた。
一試行の時間内訳を図6に示す。
図6に示すとおり、「振動あり」→「振動なし」の順で体験させるグループ(5名)と、その逆順のグループ(5名)とに別けた。これは同じ音声刺激を2度聴くため、順序によって回答の傾向に差が出た場合を考慮したものである。
なお、後述の実験結果より、順序を異ならせた2グループ間で有意な差は無かった。
このインターバルを上記の通り6種類の異なる声優による音声について夫々行った。
【0045】
実験の評価基準として、7段階のリッカート尺度を使用し、情動変化の軸として、ヴントの感情の三次元説に基づく3つの項目(不快−快、沈静−興奮、弛緩−緊張)で評価させた。
被験者には、各項目に対して、音声のみの場合を基準に情動変化がなければ0点と回答させ、情動変化の度合いを±3までのスコアで回答させた。
また、実験終了後に自由回答形式でさらにアンケートを実施した。
【0046】
図7は、全被験者10名の評価結果の度数分布を示している。
本発明に係る電気音響変換器により、上記ヴントの三次元説に基づく評価基準のうち、被験者から「快」の感情への強い影響を示す回答を得た。
また、実験終了後の自由回答形式によるアンケートによって、10人中9人の被験者が再度本発明に係る電気音響変換器の使用を希望する旨の回答を得た。
【0047】
従って、以上の検証実験から、本発明に係る電気音響変換器(100)の効果としての、音響と同時に耳朶への触覚刺激によって、「快」の情動を瞬間的に生起させる可能性が示唆された。
【符号の説明】
【0048】
1…オーディオ再生機器、2…ステレオ2分岐アダプタ、3…電圧増幅回路、4…整流回路、5…振動モータL(R)、6…イヤホンL(R)、7…通気孔、8…弾性手段、10…変換回路部、100…電気音響変換器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
接続される音響再生装置からの電気信号を分岐する分岐手段と、
分岐された一の電気信号の電圧を増幅する増幅手段と、
増幅された当該電気信号を直流化する整流手段と、
ユーザの耳朶裏側に当接され、前記直流化された電気信号に基づき、低周波振動(略200Hz以下)を提示する振動提示手段と、
ユーザの内耳に挿入され、分岐された他の電気信号を可聴音域の音響信号に変換し、前記低周波振動と略同位相で出力する音響出力手段と、
を備える電気音響変換器。
【請求項2】
前記振動提示手段は、超低周波振動(略20Hz以下)を提示する、
請求項1に記載の電気音響変換器。
【請求項3】
前記振動提示手段は、供給される電気信号に基づき、内部軸の偏心によって回転時に振動を発生する偏平型振動モータである、
請求項1又は2に記載の電気音響変換器。
【請求項4】
前記音響出力手段は、外耳道を閉鎖しない複数の通気孔を有する、
請求項1乃至3の何れかに記載の電気音響変換器。
【請求項5】
音響再生装置からの電気信号を分岐するステップと、
分岐された一の電気信号の電圧を増幅するステップと、
増幅された当該電気信号を直流化するステップと、
ユーザの耳朶裏側に、前記直流化された電気信号に基づき、低周波振動(略200Hz以下)を提示すると共に、前記ユーザの内耳に、分岐された他の電気信号を可聴音域の音響信号に変換し、前記低周波振動と同位相で出力するステップと、
を含む電気音響変換方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−50003(P2012−50003A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192642(P2010−192642)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(504133110)国立大学法人電気通信大学 (383)
【Fターム(参考)】