説明

電気音響変換器

【課題】振動体や電極に複雑な加工を行うことなく、所望の指向性を実現する電気音響変換器を提供する。
【解決手段】静電型スピーカ1(電気音響変換器)は、固定電極10,50と、固定電極10,50に離間配置され、固定電極10,50との電位差に応じて変位するシート状の振動体30と、振動体30と固定電極10,50との間に設けられた通気性を有する弾性部材20,40と、通電により予め定められた複数の形状パターンのうちのいずれかに変形し、変形後の形状を保つ形状記憶部材60A〜60Hとを備えている。形状記憶部材60A〜60Hが変形すると、静電型スピーカ1は、形状記憶部材60A〜60Hの変形に伴って、つづら折りの形状が異なる複数の形状のいずれかに変形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気音響変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
静電型スピーカの指向特性を制御する発明として、例えば特許文献1や特許文献2に開示された発明がある。特許文献1に開示された発明は、2枚の平板電極の間に振動膜を備えた構成となっており、この振動膜は、振動膜の外縁に近づくほど面密度が増大するように構成されている。この構成によれば、振動膜において面密度が大きい領域では振幅が小さくなって音圧が低下するため、サイドローブが抑制される。また、特許文献2に開示された発明も、2枚の電極の間に振動膜を備えた構成となっている。特許文献2の発明においては、振動膜と電極との間の間隔が異なる領域が複数設けられている。静電型スピーカにおいては、振動膜に働く静電力は振動膜と電極との間の距離の2乗に反比例するため、間隔が異なると振動膜から発生する音の音圧も異なることとなる。このため、静電型スピーカにおいて外縁に近い領域の距離を大きくすれば、外縁に近い領域の音圧が低下するため、サイドローブが抑制される。
【0003】
また、静電型スピーカにおいてアコーディオンプリーツ形状の振動膜を用いたものが提案されている。例えば、特許文献3には、振動膜をアコーディオンプリーツ状に折曲げた膜とし、固定電極を、振動膜の前面及び後面からそのひだに入り込むように配置した複数の平面電極とすることによって、広周波数帯域と高効率の再生を行う静電型スピーカが提案されている。また、特許文献4には、アコーディオンカーテン状の振動膜を用いることによって、高音域の指向性を改善する静電型スピーカが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−274363号公報
【特許文献2】特開2007−274362号公報
【特許文献3】特開昭56−100600号公報
【特許文献4】特開昭52−069610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、特許文献1の発明においては、振動膜の面密度を外縁に近づくほど大きくする必要があるが、振動膜の厚みは非常に薄いため、1枚の振動膜において複数の領域で面密度が異なるように振動体を構成するのは難しい。また、1枚の振動膜ではなく面密度が異なる複数の振動膜を用いる方法も考えられるが、この構成だと振動膜毎にバイアス電圧を供給する配線が必要となってしまう。また、この静電型スピーカの構成を、マイクロフォンの構成として用いることも可能であるが、この場合、外部で発生した音の音波が振動膜を振動させることで、音(音響)が音響信号(電気信号)へと変換されることになる。したがって、マイクロフォンの指向特性を制御するためには、静電型スピーカと同様に振動膜の面密度を外縁に近づくほど大きくする必要があり、上述の静電スピーカと同様に振動体や電極に複雑な加工が必要となってしまう。
【0006】
また、特許文献2の発明においては、電極と振動膜との距離を複数の領域で異ならせる必要があるが、電極を1枚で構成しようとすると電極の加工が難しくなる。また、1枚の電極ではなく複数の電極、各電極と振動膜との距離を異ならせる方法も考えられるが、この構成だと電極毎に信号を供給する配線が必要となってしまう。また、この静電型スピーカの構成をマイクロフォンの構成として用いることも可能であるが、この場合も静電型スピーカと同様に振動体や電極に複雑な加工が必要となってしまう。
【0007】
また、特許文献3に記載の技術では、広周波数帯域と高効率の再生を行うことができるものの、サイドローブを抑制するといった指向性の制御を行うことはできなかった。また、特許文献4に記載の技術でも、高音域の指向性を改善することができるものの、サイドローブを抑制するといった指向性の制御を行うことはできなかった。また、これらの静電型スピーカの構成をマイクロフォンの構成として用いることも可能であるが、この場合も、正面方向からの音を効率よく収音し外縁方向からの音をあまり収音しないようにする、といった指向性の制御を行うことはできなかった。
本発明は、上述した背景の下になされたものであり、電気音響変換器において、振動体や電極に複雑な加工を行うことなく所望の指向性を実現する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するため、本発明は、電極と、前記電極に対向して離間配置され、前記電極との電位差に応じて変位するシート状の振動体と、前記振動体と前記電極との間に設けられた通気性を有する弾性部材とを具備し、前記電極、前記振動体及び前記弾性部材が、積層された状態で当該振動体の一部又は全部の領域において山と谷が交互に繰り返すつづら折りの形状であり、かつ、積層された状態で当該振動体の複数の相異なる領域において異なる形状であることを特徴とする電気音響変換器を提供する。
【0009】
本発明の好適な態様において、前記電極、前記振動体及び前記弾性部材は、当該振動体の一部又は全部の領域において前記つづら折りの形状が連続的に変化していてもよい。
【0010】
また、本発明の更に好適な態様において、前記電極、前記振動体及び前記弾性部材は、前記つづら折りの形状において隣り合う山と谷の間の長さが当該振動体の外縁側において短くなってもよい。
また、本発明の別の好適な態様において、前記電極、前記振動体及び前記弾性部材は、前記つづら折りの形状において隣り合う山と山の間隔又は隣り合う谷と谷の間隔の少なくともいずれか一方が当該振動体の外縁側において広くなってもよい。
【0011】
また、本発明は、電極と、前記電極に対向して離間配置され、前記電極との電位差に応じて変位するシート状の振動体と、前記振動体と前記電極との間に設けられた通気性を有する弾性部材とを具備し、前記電極、前記振動体及び前記弾性部材が、積層された状態で当該振動体の一部又は全部の領域において山と谷が交互に繰り返すつづら折りの形状であって当該つづら折りの山を結ぶ包絡線又は谷を結ぶ包絡線の少なくともいずれか一方が曲線形状であることを特徴とする電気音響変換器を提供する。
【0012】
また、本発明の更に好適な態様において、前記電極、前記振動体及び前記弾性部材は、当該振動体の一部の領域において前記つづら折りの形状であり、他の領域において平面形状であってもよい。
【0013】
本発明の好適な態様において、前記電極及び前記弾性部材の少なくともいずれか一方に固定され、通電又は加熱を継続して行うことにより複数の前記つづら折り形状パターンに変形し、変形後の形状を保つ形状記憶部材を具備し、前記形状記憶部材の変形に伴って前記電極、前記振動体及び前記弾性部材の一部又は全部が前記つづら折り形状に変形してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電気音響変換器において、振動体や電極に複雑な加工を行うことなく、所望の指向性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る静電型スピーカ1の模式図である。
【図2】静電型スピーカ1の断面図及び電気的構成を模式的に示した図である。
【図3】静電型スピーカ1の形状を概略的に示す図である。
【図4】静電型スピーカ1の形状を概略的に示す図である。
【図5】静電型スピーカ1の形状を概略的に示す図である。
【図6】形状記憶部材60A〜60Hと電源80との接続関係を示す結線図である。
【図7】静電型スピーカ1の形状を概略的に示す図である。
【図8】静電型スピーカ1の形状を概略的に示す図である。
【図9】静電型スピーカ1の形状を概略的に示す図である。
【図10】静電型スピーカ1の形状を概略的に示す図である。
【図11】静電型スピーカ1の形状を概略的に示す図である。
【図12】静電型スピーカ1の形状を概略的に示す図である。
【図13】静電型スピーカ1の形状を概略的に示す図である。
【図14】静電型スピーカ1の形状を概略的に示す図である。
【図15】マイクロフォン2の断面図及び電気的構成を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。本実施形態においては、電気音響変換器を、音響信号(電気信号)を音波(音響)に変換する静電型スピーカとして適用した例を説明する。なお、以下の説明において音と音波とは同義で用いる。図1は、本発明の一実施形態に係る静電型スピーカ1の外観を模式的に示した図であり、図2は静電型スピーカ1の断面及び電気的構成を模式的に示した図である。本実施形態における静電型スピーカ1は、平面が長方形状で厚さが薄い柔軟な構造となっている。これらの図中のX,Y,Z軸はそれぞれ静電型スピーカ1の長手方向、幅方方向、厚さ方向を示している。また、図2における「○」の中に「・」が記載された記号は図面の裏から表に向かうことを示している。
図1,2に示す静電型スピーカ1は、所定距離隔ててほぼ並行に設けられた方形平板状の固定電極10及び固定電極50を有する、いわゆるプッシュ・プル型の静電型スピーカである。静電型スピーカ1は、固定電極10と固定電極50の間に挟まれた振動体30を有する。固定電極10と振動体30との間および固定電極50と振動体30の間には各々、弾性と通気性を有する方形平板状の弾性部材20,40が設けられており、これにより、振動体30は固定電極10側および固定電極50側に移動可能となっている。なお、図中の振動体30、固定電極10,50等の各構成要素の寸法は、構成要素の形状を容易に理解できるように実際の寸法とは異ならせてある。
【0017】
(静電型スピーカ1の構成)
まず、静電型スピーカ1を構成する各部について説明する。固定電極10及び固定電極50はスパッタ処理により金属などの導電性材料を蒸着した不織布により構成されている。このように不織布で構成することにより、不織布の繊維の隙間から音波が通過することができる。なお、固定電極10及び固定電極50は、導電染料を塗布した不織布により形成されていてもよい。また、固定電極10及び固定電極50は、導電性を有する経糸と、同じく導電性を有する緯糸を織って形成された導電布により形成されていてもよい。要するに、固定電極10及び固定電極50は、導電性、音波透過性(通気性)および柔軟性を兼ね備えた材料であればよい。固定電極10及び固定電極50は折れ曲がりが可能な柔軟な部材で構成されているため、任意の形状例えばつづら折り形状に変形が可能である。
【0018】
振動体30は、薄い箔状の方形の電極である。振動体30は、例えば、PET(polyethylene terephthalate、ポリエチレンテレフタレート)、PP(polypropylene、ポリプロピレン)、ポリエステルなどの高分子材料を用いたフィルム(薄膜あるいはシート)に、金属などの導電性材料を蒸着して形成される。なお、振動体30は、フィルムに導電染料を塗布した材料により形成されてもよい。このように、本実施形態においては振動体30も折れ曲がりが可能な柔軟な部材で構成されているため、任意の形状例えばつづら折り形状に変形が可能である。
【0019】
弾性部材20,40は、柔軟で通気性のある部材で構成され、例えば、中綿に熱を加えて圧縮したものであってもよく、また、合成樹脂をスポンジ状や不織布状にしたものなどであってもよい。これ以外でも、柔軟で絶縁性と音響透過性とを有する部材であればよい。この実施形態では、弾性部材として通気性を有するものを用いるが、弾性部材は通気性を有さないものであってもよく、絶縁性と音響透過性とを有するものであればよい。弾性部材20,40は折れ曲がりが可能な柔軟な部材で構成されているため、任意の形状例えばつづら折り形状に変形が可能である。本実施形態においては、弾性部材20,40のX方向およびY方向の長さは、固定電極10のX方向およびY方向の長さより長くなっており、また、振動体30のX方向およびY方向の長さより長くなっている。また、弾性部材20と弾性部材40の厚み(Z方向の高さ)は、いずれも同じとなっている。
【0020】
形状記憶部材60A〜60Hは、断面が円形の線状の形状記憶合金の表面を絶縁性と耐熱性を有する合成樹脂で被覆した部材である。形状記憶部材60A〜60Hは、接着剤や粘着テープなどによって固定電極10に接着して配置される。この場合、形状記憶部材60A,60C,60E,60Gは各々隣接して配置され、固定電極10の幅方向の一方の端部に沿って設けられている。また、形状記憶部材60B,60D,60E,60Gは各々隣接して配置され、固定電極10の幅方向の他方の端部に沿って設けられている。形状記憶部材60A〜60Hの取り付け方は、例えば、固定電極10が不織布や導電布である場合に、固定電極に縫い付けることによって取り付けてもよい。要は、形状記憶部材60A〜60Hが、固定電極10に固定され、形状記憶部材60A〜60Hの形状の変化に固定電極10の形状が連動して変形するように構成されていればよい。形状記憶部材60A〜60Hの形状記憶合金は、例えば特開2002−20848号公報に開示されている形状記憶合金である。
【0021】
形状記憶部材60A〜60Hは、電流が流れるとジュール熱により温度が上昇し、硬く収縮して記憶している形状に変形する。一方、形状記憶部材60A〜60Hは、通電をやめると温度が下がり、柔らかくなって容易に変形可能となる。この実施形態における形状記憶部材60A,60Bは、直線形状を記憶している。一方、形状記憶部材60C,60Dは、図3に示すように、山と谷が交互に繰り返すいわゆるつづら折りの形状であって、ヒダの深さ(つづら折りにおける隣り合う山と谷の間の長さd1)が振動体30の外縁側にいくほど浅くなる形状(以下「つづら折り形状A1」という)を記憶している。図示のように、つづら折り形状A1においては、ヒダの深さは振動体30の内側から外縁側に向かって連続的に次第に減少しており、固定電極10側に形成される複数の山を結ぶ包絡線S11は直線となる一方、固定電極50側に形成される複数の谷を結ぶ包絡線S12は振動体30の略中央部分が膨らんだ凸形状となる。
【0022】
形状記憶部材60E,60Fは、図4に示すように、山と谷が交互に繰り返すつづら折り形状であって、複数の山を結ぶ包絡線S21と複数の谷を結ぶ包絡線S22が、固定電極10側に円の中心が位置するような円弧形状となる形状(以下「つづら折り形状A2」という)を記憶している。つづら折り形状A2においては、図示のように、つづら折りのヒダの深さは全体において均一となっている。なお、包絡線が円弧形状とは、円弧という意味に限定されるものではなく、例えば楕円の一部をなす形状であってもよい。要するに、包絡線が一方にのみ凸の曲線であればよい。
【0023】
形状記憶部材60G,60Hは、図5に示すような、山と谷が交互に繰り返すつづら折り形状であって、山を結ぶ包絡線S31と谷を結ぶ包絡線S32が、固定電極50側に円の中心が位置するような円弧形状となる形状(以下「つづら折り形状A3」という)を記憶している。つづら折り形状A3においては、図示のように、つづら折りのヒダの深さは全体において均一となっている。包絡線S31,32も上述の図4と同様であり、包絡線が円弧形状とは、円弧という意味に限定されるものではなく、例えば楕円の一部をなす形状であってもよい。要するに、包絡線が一方にのみ凸の曲線であればよい。
【0024】
図6は、形状記憶部材60A〜60Hと電源80との接続関係を示す結線図である。図6に示すように、形状記憶部材60A,60C,60E,60Gの各一端は、各々スイッチ81A,81B,81C,81Dを介して電源80の正側端子に接続されている。形状記憶部材60A,60C,60E,60Gの各他端は、各々形状記憶部材60B,60D,60F,60Hの各一端に接続され、形状記憶部材60B,60D,60F,60Hの各他端は電源80の負側端子に接続されている。図6に示す破線は、平坦で水平な面に静電型スピーカ1を置いたときの固定電極10の外縁を示しており、上述した結線に用いられる導線Lのうち、外縁の内側に配置されるものは、絶縁性と耐熱性を有する合成樹脂で表面が被覆され、かつ、静電型スピーカ1の柔軟性を阻害することがない程度に柔軟な素材で形成されている。これらの導線も形状記憶部材60A〜60Hと同様に接着剤や粘着テープなどによって固定電極10に固定されている。なお、固定電極10が不織布や導電布である場合に、導線を固定電極10に縫い付けることによって取り付けてもよい。
また、各導線Lのスイッチ81A,81B,81C,81Dに接続される端部は、固定電極10上においてハーネス状にまとめられて配置され、コネクタCNの端子に接続され、このコネクタCNを介してスイッチ81A,81B,81C,81Dおよび電源80に接続されている。
【0025】
図2に示したように、静電型スピーカ1は変圧器70、外部から音響信号が入力される入力部71、振動体30に対して直流バイアスを与えるバイアス電源72とを備えている。バイアス電源72は、振動体30と、変圧器70の出力側の中点と接続されており、2つの固定電極10,50はそれぞれ変圧器70の出力側の一端および他端に接続されている。操作部83は、ボタン等の操作子を備え、利用者によって操作された内容に応じた信号を出力する操作手段である。スイッチ制御部82は、操作部83から出力される信号に応じて、スイッチ81A,81B,81C,81Dのオン/オフの制御を行う。スイッチ制御部82は、利用者からの形状を指定する操作を受け付けるとともに、受け付けた操作に応じた形状になるように、指定された形状に対応する形状記憶部材60A〜60Hに対して通電を行うことによって形状記憶部材60A〜60Hを変形する。なお、図2においては、図面が煩雑になるのを防ぐため、形状記憶部材60A,60Bのみを図示し、形状記憶部材60C〜60Hの図示を省略している。
【0026】
(静電型スピーカ1の動作)
静電型スピーカ1においては、スイッチ81Aがオフの状態では電源80と形状記憶部材60Aとの間の導通がなく電流が電源80から形状記憶部材60A,60Bに流れない。同様に、スイッチ81Bがオフの状態では電源80と形状記憶部材60Cとの間の導通がなく電流が電源80から形状記憶部材60C,60Dに流れない。同様に、スイッチ81Cがオフの状態では電源80と形状記憶部材60Eとの間の導通がなく電流が電源80から形状記憶部材60E,60Fに流れず、スイッチ81Dがオフの状態では電源80と形状記憶部材60Gとの間の導通がなく電流が電源80から形状記憶部材60G,60Hに流れない。形状記憶部材60A〜60Hは、電流が流れていない時には柔らかくなって自在に変形可能である。
【0027】
一方、スイッチ81B,81C,81Dがオフの状態でスイッチ81Aがオンとなると、電流が電源80から形状記憶部材60A,60Bに流れ、形状記憶部材60A,60Bにおいて電流が流れるとジュール熱により形状記憶部材60A,60Bの温度が上昇する。この温度の上昇により形状記憶部材60A,60Bは直線形状に変形する。形状記憶部材60A,60Bは固定電極10に固定されているから、形状記憶部材60A,60Bの変形に伴って、固定電極10,50,弾性部材20,40及び振動体30(すなわち静電型スピーカ1全体)が図1に例示したような平面形状となる。すなわち、形状記憶部材60A,60Bの変形に伴って、固定電極10,50、振動体30、弾性部材20,40が平面形状に変形する。
【0028】
また、スイッチ81A,81C,81Dがオフの状態でスイッチ81Bがオンとなると、電流が電源80から形状記憶部材60C,60Dに流れ、形状記憶部材60C,60Dにおいて電流が流れるとジュール熱により形状記憶部材60C,60Dの温度が上昇する。この温度の上昇により形状記憶部材60C,60Dは上述したつづら折り形状A1に変形する。形状記憶部材60C,60Dは固定電極10に固定されているから、形状記憶部材60C,60Dの変形に伴って、固定電極10,50,弾性部材20,40及び振動体30(すなわち静電型スピーカ1全体)の幅方向両端が変形し、これにより静電型スピーカ1全体が図3に示すようなつづら折り形状A1に変形する。図3は、スイッチ81Bがオンとなった場合の静電型スピーカ1の形状を概略的に示す図である。形状記憶部材60C,60Dは固定電極10の長手方向の二辺に沿って位置しているため、形状記憶部材60C,60Dがつづら折り形状A1に変形すると、静電型スピーカ1は人の手で形状を整えなくとも図3に示すようなつづら折り形状A1になる。すなわち、スイッチ81Bがオンとなると、形状記憶部材60C,60Dの変形に伴って、固定電極10,50、振動体30、弾性部材20,40が、ヒダの深さが振動体30の外縁側において次第に浅くなるつづら折り形状であって、ヒダの深さが連続的に次第に減少するつづら折り形状に変形する。
【0029】
また、スイッチ81A,81B,81Dがオフの状態でスイッチ81Cがオンとなると、電流が電源80から形状記憶部材60E,60Fに流れ、形状記憶部材60E,60Fにおいて電流が流れるとジュール熱により形状記憶部材60E,60Fの温度が上昇する。この温度の上昇により形状記憶部材60E,60Fは上述したつづら折り形状A2に変形する。形状記憶部材60E,60Fは固定電極10に固定されているから、形状記憶部材60E,60Fの変形に伴って、固定電極10,50,弾性部材20,40及び振動体30(すなわち静電型スピーカ1全体)の幅方向両端が変形し、これにより静電型スピーカ1全体が図4に示すようなつづら折り形状A2に変形する。図4は、スイッチ81Cがオンとなった場合の静電型スピーカ1の形状を概略的に示す図である。形状記憶部材60E,60Fは固定電極10の長手方向の二辺に沿って位置しているため、形状記憶部材60E,60Fがつづら折り形状A2に変形すると、静電型スピーカ1は人の手で形状を整えなくとも図4に示したようなつづら折り形状A2になる。すなわち、スイッチ81Cがオンとなると、形状記憶部材60E,60Fの変形に伴って、固定電極10,50、振動体30、弾性部材20,40が、山を結ぶ包絡線と谷を結ぶ包絡線が、固定電極10側に円の中心が位置するような円弧形状となる、つづら折り形状に変形する。
【0030】
また、スイッチ81A,81B,81Cがオフの状態でスイッチ81Dがオンとなると、電流が電源80から形状記憶部材60G,60Hに流れ、形状記憶部材60G,60Hにおいて電流が流れるとジュール熱により形状記憶部材60G,60Hの温度が上昇する。この温度の上昇により形状記憶部材60G,60Hは上述したつづら折り形状A3に変形する。形状記憶部材60G,60Hは固定電極10に固定されているから、形状記憶部材60G,60Hの変形に伴って、固定電極10,50,弾性部材20,40及び振動体30(すなわち静電型スピーカ1全体)の幅方向両端が変形し、これにより静電型スピーカ1全体が図5に示すようなつづら折り形状A3に変形する。図5は、スイッチ81Dがオンとなった場合の静電型スピーカ1の形状を概略的に示す図である。形状記憶部材60G,60Hは固定電極10の長手方向の二辺に沿って位置しているため、形状記憶部材60G,60Hがつづら折り形状A3に変形すると、静電型スピーカ1は人の手で形状を整えなくとも図5に示したようなつづら折り形状A3となる。すなわち、スイッチ81Dがオンとなると、形状記憶部材60G,60Hの変形に伴って、固定電極10,50、振動体30、弾性部材20,40が、山を結ぶ包絡線と谷を結ぶ包絡線が、固定電極50側に円の中心が位置するような円弧形状となる、つづら折り形状に変形する。
このように本実施形態では、形状記憶部材60A〜60Hの変形に伴って、固定電極10,50、振動体30、弾性部材20,40が、平面形状、つづら折り形状A1、つづら折り形状A2、つづら折り形状A3のいずれかの形状に変形する。
【0031】
静電型スピーカ1が変形した状態で入力部71に音響信号が入力されると、固定電極10,50には入力される音響信号に応じた電圧が印加される。これにより、バイアス電源72によってバイアス電圧が印加された振動体30は音響信号に対応して振動し、この結果、音響信号に対応する音波が発生し、発生した音波は、固定電極10,50を通り抜けて静電型スピーカ1の外部に放射される。
【0032】
静電型スピーカ1が図1に示す平面形状の場合には、静電型スピーカ1から出力される音波は平面波となるので、距離による減衰が少なく遠方まで音が伝搬する音場が形成される。一方、静電型スピーカ1が図3に示すつづら折り形状A1である場合は、つづら折りの凹んだ空間のそれぞれで空気が圧縮、膨張されて生成される音波は、基本的に平面波であるが、上記の平面形状の場合よりは相対的に指向性の広い音場が形成される(点音源に近い曲面波も生成が可能である)。更に、振動体30の外縁側ほどヒダの深さが浅くなっていることにより、振動体30の外縁側ほど放音面の体積速度が小さくなり、放射される音圧が小さくなるため、サイドローブが抑制された指向性を得ることができる。
【0033】
また、静電型スピーカ1が図4に示すつづら折り形状A2である場合は、静電型スピーカ1から図中のZ軸の正方向に出力される音波は、凹曲面の放射面に対応して焦点を持つ曲面波が生成されるため、狭い範囲に音波が集中して、周囲への音の漏れが生じにくい音場が形成される。また、静電型スピーカ1が図5に示すつづら折り形状A3の場合は、静電型スピーカ1から図中Z軸の正方向に出力される音波は、凸曲面の放射面に対応する曲面波が生成されるため、広い範囲に音が伝搬される。
【0034】
以上より、静電型スピーカ1の利用者は、設置する用途や目的、設置環境、利用者の好み等に応じて静電型スピーカ1の形状を選択して用いることができる。具体的には、例えば、静電型スピーカ1を図3に示すつづら折り形状A1で用いたい場合には、利用者は、操作部83を用いてスイッチ81Bをオンにするための操作を行う。スイッチ制御部82は操作部83から出力される信号に応じてスイッチ81Bをオンにし、スイッチ81Bがオンにされると、静電型スピーカ1は図3に示すようなつづら折り形状A1に変形する。
【0035】
この実施形態では、静電型スピーカ1の形状を平面形状から異なる態様のつづら折り形状に変形させることで、指向性の異なるスピーカに変更することが可能となる。また、本実施形態では、静電型スピーカ1のつづら折りの形状を異なる態様に変えることにより、発生する音波の指向性をコントロールすることができる。また、本実施形態では、指向性を制御するためにスピーカユニットに供給する音響信号を制御する回路が不要であり、装置構成を簡易なものとすることができる。
【0036】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、他の様々な形態で実施可能である。例えば、上述の実施形態を以下のように変形して本発明を実施してもよい。
(1)上述の実施形態では、形状記憶部材60A〜60Hによって静電型スピーカ1を複数の形状に変形させるようにしたが、静電型スピーカ1は複数の形状に変形可能なものに限らず、ひとつの形状に変形するものであってもよい。具体的には、例えば、図3の形状にのみ変形するものであってもよい。
【0037】
更に、静電型スピーカ1は変形可能なものに限らず、つづら折りの形状で固定されたものであってもよい。この場合は、固定電極、振動体及び弾性部材が、つづら折りの形状が複数の領域において異なる形状に形成された部材を用いて静電型スピーカ1を構成すればよい。
【0038】
(2)静電型スピーカ1の形状(固定電極10,50、振動体30、弾性部材20,40の形状)は、上述の実施形態で示した形状に限らず、他の形状であってもよい。具体的には、例えば、図7や図8に示す形状であってもよい。図7に示す例では、形状記憶部材は、つづら折りの形状であって、ヒダの深さが振動体30の内側から外縁側に向かって、複数の領域(同図では5つの領域)ごとに段階的に浅くなる形状(以下「つづら折り形状A4」という)を記憶している。つづら折り形状A4においては、同図のように、固定電極10側に形成される複数の山を結ぶ包絡線S41は直線である一方、固定電極50側に形成される複数の谷を結ぶ包絡線S42は振動体30の略中央部分が段階的に膨らんだ凸形状となる。
【0039】
図7に示す例において、電流が形状記憶部材に流れると、形状記憶部材は固定電極10の幅方向両端に沿って位置しているため、形状記憶部材がつづら折り形状A4に変形するに伴って、固定電極10,50、振動体30、弾性部材20,40が、ヒダの深さが振動体30の外縁側において浅くなるつづら折り形状であって、ヒダの深さが複数の領域で段階的に変化するつづら折り形状に変形する。この形状の場合は、振動体30の外縁側ほどヒダの深さが浅くなっていることにより、振動体30の外縁側ほど放射される音波の体積速度が小さくなり、サイドローブが抑制された指向性を得ることができる。
【0040】
また、図8に示す例では、形状記憶部材は、つづら折りの形状であって、隣り合う山と山(又は隣り合う谷と谷)との間の間隔(ピッチ)が振動体30の内側から外縁側に向かって、複数の領域(同図では3つの領域)ごとに段階的に広くなる形状(以下「つづら折り形状A5」という)を記憶している。つづら折り形状A5においては、同図のように固定電極10側に形成される複数の山を結ぶ包絡線S51と固定電極50側に形成される複数の谷を結ぶ包絡線S52はともに直線となる。
【0041】
図8に示す例において、電流が形状記憶部材に流れると、形状記憶部材は固定電極10の幅方向両端に沿って位置しているため、形状記憶部材がつづら折り形状A5に変形するに伴って、固定電極10,50、振動体30、弾性部材20,40が、ヒダのピッチが振動体30の外縁側において広くなるつづら折り形状であって、ヒダのピッチが複数の領域で段階的に変化するつづら折り形状に変形する。この形状の場合は、振動体30の外縁側ほどヒダのピッチが広くなることにより、振動体30の外縁側ほど放射される音波の体積速度が小さくなり、サイドローブが抑制された指向性を得ることができる。
【0042】
また、図8に示す例に限らず、例えば、振動体の内側から外縁側に向かってヒダのピッチが連続的に変化するつづら折りの形状であってもよい。また、他の例として、例えば、図9に示すような、谷と谷の間の間隔P1が一定であり、かつ、山と山の間の間隔P2が振動体の外縁側において広くなるつづら折りの形状A6であってもよい。また、例えば、山と山の間の間隔が一定であり、かつ、谷と谷の間の間隔が振動体の外縁側において広くなるつづら折りの形状であってもよい。即ち、固定電極10,50,振動体30,弾性部材20,40の形状が、山と山、または谷と谷の間の間隔が振動体30の外縁側において広くなるつづら折り形状であってもよい。
【0043】
また、上述した形状に限らず、例えば、図10の(a)及び(b)に示すような、つづら折りのピッチが、固定電極10,50、振動体30及び弾性部材20,40の幅方向(図中Y軸方向)の両端で異なっているつづら折り形状A7であってもよい。図10に示す例では、つづら折りの形状が、図中Y軸方向の両端部でピッチが異なる形状となっている。より具体的には、Y軸方向の図中手前から奥に向かってピッチが小さくなる形状となっている。図10に示すつづら折り形状の場合は、Y軸方向の図中手前側のピッチが大きくなっているため、Y軸方向の図中手前側の領域のみサイドローブが抑制される。また、このつづら折り形状と図9に示したつづら折り形状とを組み合わせた形状であってもよい。すなわち、固定電極10,50,振動体30,弾性部材20,40の形状が、図中Y軸方向の両端部でピッチが異なる形状であり、かつ、山と山の間隔又は谷と谷の間隔が振動体30の外縁側において広くなるつづら折り形状であってもよい。
【0044】
また、他の例として、例えば、図11の(a)に示すような、つづら折りの複数の山を結ぶ包絡線S81と複数の谷を結ぶ包絡線S82が共に固定電極10側に円の中心が位置するような円弧形状であって、かつ、つづら折りのヒダの深さが外縁側ほど浅くなるような形状であってもよい。また、例えば、図11の(b)に示すような、つづら折りの複数の山を結ぶ包絡線S91と複数の谷を結ぶ包絡線S92が共に固定電極50側に円の中心が位置するような円弧形状であって、かつ、つづら折りのヒダの深さが外縁側ほど浅くなるような形状であってもよい。また、図12に示すような、つづら折りの複数の山を結ぶ包絡線S101が固定電極10側に円の中心が位置するような円弧形状であり、複数の谷を結ぶ包絡線S102が固定電極50側に円の中心が位置するような円弧形状であって、かつ、つづら折りのヒダの深さが外縁側ほど浅い形状であってもよい。なお、包絡線が円弧形状とは、円弧という意味に限定されるものではなく、例えば楕円の一部をなす形状であってもよい。要するに、包絡線が一方にのみ凸の曲線であればよい。
【0045】
また、他の例として、例えば、図13に示すように、固定電極10,50、振動体30、弾性部材20,40が、積層された状態で振動体30の一部の領域R11においてつづら折り形状であり、他の領域R12,R13において平面形状であってもよい。また、例えば、図14に示すように、固定電極10,50、振動体30、弾性部材20,40が、積層された状態で振動体30の一部の領域R21においてつづら折り形状であり、他の領域R22,R23において平面形状であって、かつ、領域R21におけるつづら折りの形状が複数の領域R211とR212,213とでそれぞれ異なる形状となっていてもよい。
また、これら以外の形状であってもよく、要は、固定電極10,50、振動体30、弾性部材20,40が、積層された状態で振動体30の一部又は全部の領域において山と谷が交互に繰り返すつづら折りの形状であり、かつ、積層された状態で振動体30の複数の相異なる領域において異なる形状であればよい。又は、固定電極10,50、振動体30、弾性部材20,40が、積層された状態で振動体30の一部又は全部の領域において山と谷が交互に繰り返すつづら折りの形状であり、かつ、つづら折りの複数の山を結ぶ包絡線若しくは複数の谷を結ぶ包絡線の少なくともいずれか一方の包絡線が曲線形状である形状であればよい。
【0046】
(3)上述した実施形態においては、バイアス電源72と電源80とで2つの電源を要しているが、バイアス電源72から分圧して形状記憶部材60A〜60Hに電流を流し、電源を一つにするようにしてもよい。この構成において静電型スピーカ1を使用する場合のみスイッチでバイアス電源72から電流が流れるようにすれば、静電型スピーカ1の電源を入れるだけで静電型スピーカ1を所定の形状に変形することができる。また、バイアス電源72が入れられておらず静電型スピーカ1が発音不可となっている状態では形状記憶部材60A〜60Hに電流が流れないため、発音させないとき無駄に静電型スピーカ1を変形させることがなく消費電力を抑えることができる。
【0047】
(4)また、本発明においては、固定電極10,50、弾性部材20,40および振動体30の形状は矩形に限定されるものではなく、多角形、円形、楕円形など、他の形状であってもよい。また、本発明においては、非導電性で音響透過性を有する部材で静電型スピーカ1の全体を覆ってもよい。
【0048】
また、固定電極10,50として導電布を用いる場合において、上述した形状記憶合金を糸状にして固定電極10,50に織り込み、この糸状にした形状記憶合金に電流を流して変形させるようにしてもよい。
【0049】
(5)上述した実施形態においては、固定電極10の長手方向(図1のX方向)の二辺に沿って形状記憶部材60A〜60Hが位置しているが、固定電極10の各辺(矩形の場合は四辺)に沿って形状記憶部材が配置されるようにして、ヒダが延伸する方向が異なるように変形してもよい。また、固定電極10のY方向の二辺にそって形状記憶部材が配置されるようにしてもよい。また、上述した実施形態においては、固定電極10の各辺に沿って形状記憶部材60A〜60Hが位置しているが、固定電極10の対角線に沿って形状記憶部材が位置するようにしてもよい。
【0050】
また、形状記憶部材60A〜60Hと平行に複数の形状記憶部材が固定電極10と弾性部材20,40の間に位置するようにしてもよい。また、形状記憶部材60A〜60Hは、固定電極10の縁部分だけでなく固定電極50の縁部分にも配置して、静電型スピーカ1の両面を用いて静電型スピーカ1を変形するようにしてもよい。また、形状記憶部材60A〜60Hは、固定電極10,50ではなく弾性部材20と弾性部材40の両方または弾性部材20,40のいずれかに配置するようにしてもよい。
【0051】
(6)上述の実施形態では、形状記憶部材として複数の形状記憶合金を用いたが、形状記憶部材は上述したものに限らず、例えば、力を加えることにより変形し、変形後の形状を保つ部材であってもよい。要は、形状記憶部材は、通電及び加熱を継続して行うこと並びに力を加えることの少なくともいずれかひとつにより、複数の形状パターンのいずれかに変形し、変形後の形状を保つ形状記憶部材であって、通電及び加熱の態様並びに力の加わりかたの少なくともいずれかひとつに応じて変形する形状が異なるものであればどのようなものであってもよい。通電の態様としては、複数の形状記憶合金のいずれに通電するかによって形状を異ならせるものであってもよい。また、加熱の態様としては、例えば、形状記憶部材として、温度の変化によって変形するバイメタルを複数用いる構成とし、いずれのバイメタルを加熱するかによって形状が変わるものであってもよい。また、例えば、加熱の温度を異ならせることによって形状が変わるものであってもよい。
【0052】
(7)また、上述の実施形態においては、静電型スピーカ1がプッシュ・プル型の静電型スピーカである態様について説明した。しかし、静電型スピーカ1は、固定電極を1枚しか有しない、いわゆるシングル型の静電型スピーカであってもよい。
【0053】
(8)上述した実施形態及び変形例では、電気音響変換器を、音響信号(電気信号)を音(音響)に変換する静電型スピーカに適用した例を説明したが、電気音響変換器を、音波(音響)を音響信号(電気信号)に変換する静電型マイクロフォンに適用してもよい。図15は、この変形例に係るマイクロフォン2の電気的構成を示した図である。図15に示す静電型マイクロフォン2の構成が上述した図2の静電型スピーカ1と異なる点は、入力部71に代えて出力端子73を備えている点である。なお、変圧器70の変圧比は適宜調整される。
【0054】
外部で音波が発生した場合には、その音波によって振動体30が振動することにより、その振動に応じて振動体30と電極10,50との間の距離が変わるため、振動体30と電極10,50との間の静電容量に変化が発生する。ここで、振動体30はバイアス電源72に接続されており、振動体30はグランド(図示略)に接続されているため、静電容量が変化しても電荷は一定にとどまる。この状態において、振動体30が振動すると、この振動の変位に比例した電圧出力、つまり、音響信号が得られる。そして、この音響信号は変圧器70に供給され、この変圧器70によって変圧された後に出力端子73へと出力される。
【0055】
静電型マイクロフォン2も、上述の実施形態における静電型スピーカ1と同様に、種々のつづら折り形状に変形することが可能である。例えば静電型マイクロフォン2が図3に示すつづら折り形状A1に変形した場合には、振動体30の外縁側ほどヒダの深さが浅くなることにより、振動体30の外縁側ほど収音面の体積速度が小さくなり、外縁側における収音が弱くなるため、振動体30の正面方向からの音を効率よく収音し、外縁方向からの音をあまり収音しないようにする、といった指向性を実現することができる。静電型マイクロフォン2が他のつづら折り形状である場合についても同様であり、静電型スピーカ1と同様の指向性の制御を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0056】
1…静電型スピーカ(電気音響変換器)、2…静電型マイクロフォン(電気音響変換器)、10,50…固定電極、20,40…弾性部材、30…振動体、60A,60B,60C,60D,60E,60F,60G…形状記憶部材、70…変圧器、71…入力部、72…バイアス電源、80…電源、81A,81B,81C,81D…スイッチ、82…スイッチ制御部、83…操作部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極と、
前記電極に対向して離間配置され、前記電極との電位差に応じて変位するシート状の振動体と、
前記振動体と前記電極との間に設けられた通気性を有する弾性部材と
を具備し、
前記電極、前記振動体及び前記弾性部材が、積層された状態で当該振動体の一部又は全部の領域において山と谷が交互に繰り返すつづら折りの形状であり、かつ、積層された状態で当該振動体の複数の相異なる領域において異なる形状である
ことを特徴とする電気音響変換器。
【請求項2】
前記電極、前記振動体及び前記弾性部材は、当該振動体の一部又は全部の領域において前記つづら折りの形状が連続的に変化している
ことを特徴とする請求項1に記載の電気音響変換器。
【請求項3】
前記電極、前記振動体及び前記弾性部材は、前記つづら折りの形状において隣り合う山と谷の間の長さが当該振動体の外縁側において短くなる
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の電気音響変換器。
【請求項4】
前記電極、前記振動体及び前記弾性部材は、前記つづら折りの形状において隣り合う山と山の間隔又は隣り合う谷と谷の間隔の少なくともいずれか一方が当該振動体の外縁側において広くなる
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の電気音響変換器。
【請求項5】
前記電極、前記振動体及び前記弾性部材は、当該振動体の一部の領域において前記つづら折りの形状であり、他の領域において平面形状である
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電気音響変換器。
【請求項6】
前記電極及び前記弾性部材の少なくともいずれか一方に固定され、通電又は加熱を継続して行うことにより複数の前記つづら折り形状パターンに変形し、変形後の形状を保つ形状記憶部材
を具備し、
前記形状記憶部材の変形に伴って前記電極、前記振動体及び前記弾性部材の一部又は全部が前記つづら折り形状に変形する
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電気音響変換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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