電池の製造方法、電池、車両、RF−IDタグおよび電子機器
【課題】正負極の短絡を確実に防止しつつ、電池特性の優れた電池およびこれを高い生産性にて製造することができる製造方法ならびに該電池を備える機器を提供する。
【解決手段】絶縁性の基材10の表面に相対向するように設けられた負極集電体121と正極集電体131との間の隙間である電解質領域11にノズルディスペンス法を用いて固体電解質材料を含む塗布液を塗布し、基材10の表面の電解質領域11に固体電解質の電解質隔壁111を形成する。その後、負極集電体121の表面に負極活物質を含む塗布液を塗布して負極活物質層122を形成するとともに、正極集電体131の表面に正極活物質を含む塗布液を塗布して正極活物質層132を形成する。先に電解質隔壁111を形成してから負極活物質層122および正極活物質層132を形成しているため、それらの短絡を確実に防止することができる。
【解決手段】絶縁性の基材10の表面に相対向するように設けられた負極集電体121と正極集電体131との間の隙間である電解質領域11にノズルディスペンス法を用いて固体電解質材料を含む塗布液を塗布し、基材10の表面の電解質領域11に固体電解質の電解質隔壁111を形成する。その後、負極集電体121の表面に負極活物質を含む塗布液を塗布して負極活物質層122を形成するとともに、正極集電体131の表面に正極活物質を含む塗布液を塗布して正極活物質層132を形成する。先に電解質隔壁111を形成してから負極活物質層122および正極活物質層132を形成しているため、それらの短絡を確実に防止することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活物質層間に固体電解質層を介在させてなるリチウムイオン二次電池などの電池の製造方法、該製造方法によって製造された電池、および、該電池を搭載する機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、リチウムイオン電池などの化学電池を製造する方法としては、集電体としての金属箔に正極活物質および負極活物質をそれぞれ付着させたものを不織布などのセパレータを介して重ね合わせ、そのセパレータに電解液を含浸させる技術が知られている。しかしながら、電解液として揮発性の高い有機溶剤を含んだ電池は取り扱いに注意が必要であり、またさらなる小型化・高出力化が求められていることから、近年では電解液に代えて固体電解質を用いる技術が提案されてきている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示されている技術では、絶縁性の基板上に金属などの導電体からなる正極集電体および負極集電体を互いに近接させて形成し、それら集電体上に、それぞれ正極活物質および負極活物質を含むスラリーを塗布することによって正負の活物質層を形成している。そして、こうして形成された正負の電極間の空隙に固体電解質を含む材料を充填することで、基板表面に沿った方向に正負の電極が固体電解質を介して対向する構造の二次電池を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−147210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまでに実用化されている固体電解質は、液体の電解質に比べると一般にイオン伝導度が低い。よって、固体電解質を用いた電池において良好な充放電特性を得るためには、正負の活物質層間に介在する固体電解質層の厚さを薄くすることが必要となる。そのためには、正負の活物質層間の間隔を出来る限り狭くすることが求められる。
【0006】
また、固体電解質を用いた電池において高エネルギー密度を得るためには、単位面積あたりの電池容量を大きくすることが必要である。そのためには、基板表面に直交する方向への活物質層の高さを大きくすることが求められる。すなわち、固体電解質を用いた電池の特性を良好なものとするためには、固体電解質層の厚さを薄くするとともに、高さを高くする、つまり固体電解質層のアスペクト比を高くすることが必要となる。
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示される技術では、互いに対向するように形成した正極と負極との空隙に固体電解質の材料を充填するという方法で電池が形成される。そのため、電池の製造工程において正極と負極とが短絡するおそれがあり、特に上記のように固体電解質層を出来る限り薄く高くしようとすると、塗布直後の正極活物質と負極活物質とが接触しやすくなり、短絡を確実に防止することは困難となる。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、正負極の短絡を確実に防止しつつ、電池特性の優れた電池およびこれを高い生産性にて製造することができる製造方法ならびに該電池を備える機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、電池の製造方法において、絶縁性の基材の表面に相対向するように設けられた負極集電体と正極集電体との間の電解質領域に固体電解質材料を含む塗布液を塗布し、前記基材の表面の前記電解質領域に電解質隔壁を形成する電解質隔壁形成工程と、前記電解質隔壁形成工程の後、前記負極集電体の表面に負極活物質を含む塗布液を塗布して負極活物質層を形成する負極活物質層形成工程と、前記電解質隔壁形成工程の後、前記正極集電体の表面に正極活物質を含む塗布液を塗布して正極活物質層を形成する正極活物質層形成工程と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明に係る電池の製造方法において、前記負極集電体および前記正極集電体は、平面視で所定間隔を隔てて互いに噛み合うように対向配置された櫛歯状にパターン形成されていることを特徴とする。
【0011】
また、請求項3の発明は、請求項2の発明に係る電池の製造方法において、前記電解質隔壁の高さは幅の2倍以上であることを特徴とする。
【0012】
また、請求項4の発明は、請求項3の発明に係る電池の製造方法において、前記電解質隔壁形成工程では、熱硬化剤または光硬化剤を添加した塗布液を前記電解質領域に塗布することを特徴とする。
【0013】
また、請求項5の発明は、請求項1から請求項4のいずれかの発明に係る電池の製造方法において、前記負極集電体および前記正極集電体は、フォトリソグラフィ法により形成されることを特徴とする。
【0014】
また、請求項6の発明は、請求項1から請求項5のいずれかの発明に係る電池の製造方法において、前記電解質隔壁形成工程では、固体電解質材料を含む塗布液を吐出するノズルを前記基材の表面に対して相対移動させて前記電解質領域に当該塗布液を塗布することを特徴とする。
【0015】
また、請求項7の発明は、請求項6の発明に係る電池の製造方法において、前記電解質隔壁形成工程では、ノズルに列状に配設した複数の吐出口から固体電解質材料を含む塗布液を吐出させながら当該ノズルを前記基材の表面に対して相対移動させることを特徴とする。
【0016】
また、請求項8の発明は、請求項1から請求項7のいずれかの発明に係る電池の製造方法において、前記負極活物質層および前記正極活物質層を連続的に覆う保護層を形成する保護層形成工程をさらに備えることを特徴とする。
【0017】
また、請求項9の発明は、電池であって、請求項1から請求項8のいずれかの発明に係る電池の製造方法によって製造されている。
【0018】
また、請求項10の発明は、車両であって、請求項9の発明に係る電池を搭載することを特徴とする。
【0019】
また、請求項11の発明は、RF−IDタグであって、請求項9の発明に係る電池を備えることを特徴とする。
【0020】
また、請求項12の発明は、電子機器であって、請求項9の発明に係る電池と、前記電池を電源として動作する回路部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
請求項1から請求項7の発明によれば、絶縁性の基材の表面に相対向するように設けられた負極集電体と正極集電体との間の電解質領域に固体電解質材料を含む塗布液を塗布して電解質領域に電解質隔壁を形成し、その後、負極集電体の表面に負極活物質を含む塗布液を塗布して負極活物質層を形成するとともに、正極集電体の表面に正極活物質を含む塗布液を塗布して正極活物質層を形成するため、正負極の短絡を確実に防止することができ、しかも薄い電解質隔壁を介して正負の活物質を広い面積で対向させることができるため、高速充放電が可能な電池特性の優れた電池を製造することができる。また、塗布液の塗布によって電解質隔壁、負極活物質層および正極活物質層を形成しているため工程数が少なく、高い生産性にて電池を製造することができる。
【0022】
特に、請求項2の発明によれば、負極集電体および正極集電体が、平面視で所定間隔を隔てて互いに噛み合うように対向配置された櫛歯状にパターン形成されているため、基材表面の単位面積あたりの正負の活物質層と電解質隔壁との接触面積を大きくすることができ、電池の反応効率を向上させることができる。
【0023】
特に、請求項3の発明によれば、電解質隔壁の高さは幅の2倍以上であるため、電解質隔壁は薄く高いものとなり、正負極の活物質層の高さも高くすることができ、その結果基材表面の単位面積あたりの電池容量を大きくすることができて高エネルギー密度を得ることができる。
【0024】
特に、請求項4の発明によれば、熱硬化剤または光硬化剤を添加した塗布液を電解質領域に塗布するため、塗布後の液だれを防止して薄く高い電解質隔壁を容易に形成することができる。
【0025】
特に、請求項5の発明によれば、負極集電体および正極集電体がフォトリソグラフィ法により形成されるため、高い位置精度にて負極集電体および正極集電体を相対向させて形成することができ、正負の集電体の接触を確実に防止することができる。また、負極集電体および正極集電体が基材から剥がれにくくすることができる。
【0026】
特に、請求項6の発明によれば、固体電解質材料を含む塗布液を吐出するノズルを基材の表面に対して相対移動させて電解質領域に当該塗布液を塗布するため、電解質領域に正確にかつ高いスループットにて塗布液を塗布して電解質隔壁を形成することができる。
【0027】
特に、請求項7の発明によれば、ノズルに列状に配設した複数の吐出口から固体電解質材料を含む塗布液を吐出させながら当該ノズルを基材の表面に対して相対移動させるため、互いに平行な電解質領域に対しては塗布処理に要する時間を顕著に短くすることができる。
【0028】
また、請求項9の発明によれば、請求項1から請求項8のいずれかの発明に係る電池の製造方法によって製造しているため、正負極の短絡を確実に防止しつつ、電池特性を優れたものとすることができる。
【0029】
また、請求項10の発明によれば、車両の駆動用電源として請求項9の発明に係る電池を好適に使用することができる。
【0030】
また、請求項11の発明によれば、RF−IDタグの電源として請求項9の発明に係る電池を好適に使用することができる。
【0031】
また、請求項12の発明によれば、電子機器の回路部の電源として請求項9の発明に係る電池を好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る電池の製造方法によって製造されるリチウムイオン二次電池の上面図である。
【図2】図1のリチウムイオン二次電池のA−A切断面を示す断面図である。
【図3】リチウムイオン二次電池の製造手順を示すフローチャートである。
【図4】基材の表面に負極集電体および正極集電体が形成された積層体の斜視図である。
【図5】ノズルディスペンス法に用いる塗布ユニットの構成を示す図である。
【図6】吐出ノズルの内部構造を示す断面図である。
【図7】基材の表面に固体電解質の電解質隔壁が形成された段階の斜視図である。
【図8】図7の積層体のB−B切断面を示す断面図である。
【図9】負極集電体の表面に負極活物質層が形成された段階の斜視図である。
【図10】図9の積層体のC−C切断面を示す断面図である。
【図11】正極集電体の表面に正極活物質層が形成された段階の斜視図である。
【図12】図11の積層体のD−D切断面を示す断面図である。
【図13】本発明に係るリチウムイオン二次電池を搭載した電気自動車を模式的に示す図である。
【図14】本発明に係るリチウムイオン二次電池を搭載したRF−IDタグを模式的に示す図である。
【図15】負極集電体および正極集電体のパターンの他の例を示す図である。
【図16】負極集電体および正極集電体のパターンの他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0034】
<1.リチウムイオン電池の構造>
図1は、本発明に係る電池の製造方法によって製造されるリチウムイオン二次電池1の上面図である。また、図2は図1のリチウムイオン二次電池1のA−A切断面を示す断面図である。図1以降の各図においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数を誇張または簡略化して描いている。リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンが電気伝導を担う二次電池(蓄電池)であり、エネルギー密度が高く、またメモリー効果が小さく、さらには繰り返しの充放電に対しても劣化が少ないという特徴を有する。このリチウムイオン二次電池1は、絶縁性の基材10の表面に、固体電解質の電解質隔壁111で互いに隔てられた負極領域12と正極領域13とが交互に並べられた構造を有している。すなわち、負極領域12と正極領域13とに挟み込まれて電解質隔壁111が設けられている。
【0035】
図2に示すように、負極領域12においては、基材10の表面に負極集電体121が形成され、さらに負極集電体121の表面に負極活物質層122が積層されている。図1に示すように、負極集電体121の先端は、所定間隔で複数の歯を備えた櫛歯状に形成されており、それぞれの歯が負極領域12に位置する。負極集電体121の全体は1つの金属膜であり、複数の負極領域12に形成された負極集電体121は互いに電気的に接続されている。また、負極集電体121の櫛歯とは反対側端部は負極タブ123とされている。
【0036】
同様に、負極領域12と電解質隔壁111によって隔てられた正極領域13では、基材10の表面に正極集電体131が形成され、その正極集電体131の表面に正極活物質層132が積層されている。正極集電体131の先端は、所定間隔で複数の歯を備えた櫛歯状に形成されており、それぞれの歯が正極領域13に位置する。負極集電体121および正極集電体131の櫛歯のピッチは等しく、双方の櫛歯が互いに噛み合うように負極集電体121と正極集電体131とが相対向して設けられている。また、正極集電体131も1つの金属膜であって複数の正極領域13に形成された正極集電体131は互いに電気的に接続され、正極集電体131の櫛歯とは反対側端部は正極タブ133とされている。
【0037】
基材10の表面のうち負極集電体121の櫛歯と正極集電体131の櫛歯の間の隙間は電解質領域11とされる。この電解質領域11に、固体電解質の材料を含む塗布液がノズルディスペンス法によって塗布されて固体電解質の電解質隔壁111が形成される。
【0038】
そして、負極領域12に形成された負極活物質層122および正極領域13に形成された正極活物質層132の表面を連続的に覆うように保護層14が形成されている。保護層14としては、例えば電解質隔壁111を形成しているのと同じ固体電解質を用いることができる。
【0039】
このような構造においては、負極領域12に積層された負極集電体121および負極活物質層122からなる負極構造体120と、正極領域13に積層された正極集電体131および正極活物質層132からなる正極構造体130とが、固体電解質にて形成された薄く高い電解質隔壁111を挟み込むようにして対向配置されている。このため、固体電解質を介して負極活物質層122と正極活物質層132との間で電荷およびリチウムイオンが移動することでリチウムイオン二次電池1として機能する。このようなリチウムイオン二次電池1をケーシング内に収容して最終製品としての二次電池が形成される。
【0040】
<2.リチウムイオン電池の製造方法>
次に、上記の構成を有するリチウムイオン二次電池1の製造方法について説明する。図3は、リチウムイオン二次電池の製造手順を示すフローチャートである。まず、絶縁性の基材10を準備する(ステップS1)。基材10は、絶縁性材料にて形成された平板状部材であり、例えばフレキシブル基板などの樹脂基板、ガラス基板、セラミック基板などをを用いることができる。後述するようなRF−IDタグにリチウムイオン二次電池1を組み込むのであれば、可撓性を有するフレキシブル基板を用いるのが好ましい。
【0041】
次に、絶縁性の基材10の表面に負極集電体121および正極集電体131を形成する(ステップS2)。本実施形態においては、負極集電体121および正極集電体131をいわゆるフォトリソグラフィ法を用いて形成する。具体的には、まず基材10の表面に真空蒸着法やスパッタリング法によって負極集電体121を構成する金属(本実施形態では銅)の膜を形成する。そして、その上にフォトレジスト(感光性有機物質)を塗布してレジスト膜を形成し、当該レジスト膜の表面を櫛歯状のパターンを有する負極集電体121の形状に露光する。続いて、現像処理によってレジスト膜の露光部分(または非露光部分)を除去し、残ったレジスト膜をマスクとして金属膜のエッチングを行う。その後、全てのレジスト膜を除去することによって、櫛歯状のパターンを有する負極集電体121が基材10の表面に形成される。
【0042】
同様にして、櫛歯状のパターンを有する正極集電体131も形成される。このときには、先に形成した負極集電体121をマスキングして正極集電体131を構成する金属(本実施形態ではアルミニウム)の膜を形成するのが好ましい。負極集電体121のマスクとしては上述の現像処理後に残ったレジスト膜をそのまま用いるようにしても良い。
【0043】
図4は、基材10の表面に負極集電体121および正極集電体131が形成された積層体の斜視図である。同図に示すように、負極集電体121および正極集電体131は、平面視で所定間隔を隔てて互いに噛み合うように対向配置された櫛歯状にパターン形成されている。すなわち、負極集電体121および正極集電体131はともに複数の歯を備えた櫛歯状に形成されており、それら複数の歯の配設ピッチ(隣り合う歯の設置間隔)は互いに等しい。そして、負極集電体121の歯が正極集電体131の隣り合う歯の間に入り込むとともに、正極集電体131の歯が負極集電体121の隣り合う歯の間に入り込むように両集電体は配置されている。但し、負極集電体121と正極集電体131とが接触することはなく、負極集電体121の歯と正極集電体131の歯との間に所定間隔の隙間が形成された状態にて両集電体は相対向するように配置されている。なお、負極集電体121および正極集電体131の櫛歯状パターン以外の部分(例えば、負極タブ123および正極タブ133)もフォトリソグラフィ法によって形成される。
【0044】
負極集電体121および正極集電体131の形成技術としてはフォトリソグラフィ法に限定されるものではなく、所定のパターンを有する金属膜を形成することができる公知の種々の手法を用いることができる。例えば、インクジェットプリンタやインプリント技術を用いて集電体材料となる金属粒子分散滴を櫛歯状のパターンの印刷して負極集電体121および正極集電体131を形成するようにしても良い。また、集電体材料となる金属微粒を含む材料をレーザプリンタのような電子写真方式によりパターンニングして負極集電体121および正極集電体131を形成するようにしても良い。また、適切なマスクを施した上で真空蒸着法やスパッタリング法によって直接に負極集電体121および正極集電体131を形成するようにしても良い。さらには、後述するようなノズルディスペンス法によって金属粒子を含む導電性ペーストを基材10の表面に塗布して両極の集電体121,131を形成するようにしても良い。
【0045】
負極集電体121および正極集電体131を構成する金属としては銅、アルミニウム、ステンレスなどを用いることができるが、本実施形態のように負極集電体121は銅にて形成し、正極集電体131はアルミニウムにて形成するのが好ましい。負極集電体121および正極集電体131の厚さについては特に限定されるものではないが、例えば5μm〜20μmとすることができる。
【0046】
次に、負極集電体121および正極集電体131が形成された基材10に対して固体電解質材料を含む塗布液を塗布して電解質隔壁11を形成する(ステップS3)。負極集電体121および正極集電体131は、所定間隔を隔てて互いに噛み合うように対向配置された櫛歯状にパターン形成されている。負極集電体121の櫛歯状パターンと正極集電体131の櫛歯状パターンとの間の所定間隔の隙間は基材10の表面が露出しており、その隙間が電解質領域11とされる。ステップS3では、この電解質領域11にノズルディスペンス法を用いて固体電解質材料を含む塗布液が塗布される。
【0047】
図5は、ノズルディスペンス法に用いる塗布ユニット2の構成を示す図である。図5および図6にはそれらの方向関係を明確にするためZ軸方向を鉛直方向とし、XY平面を水平面とするXYZ直交座標系を適宜付している。
【0048】
この塗布ユニット2では、基台210上にステージ移動機構20が設けられ、基材10を保持するステージ30がステージ移動機構20によって水平面内(XY平面内)で移動可能とされている。ステージ30の上方には吐出ノズル40が固定設置されている。すなわち、本実施形態においては、固定設置された吐出ノズル40に対して基材10を保持するステージ30が水平面内で移動することにより、吐出ノズル40が基材10の表面に対して相対移動することとなる。
【0049】
ステージ移動機構20は、下段からステージ30をX方向に移動させるX方向移動機構21、X方向と直行するY方向に移動させるY方向移動機構22、および、鉛直方向(Z方向)に沿った軸を中心に回転させるθ回転機構23を備える。X方向移動機構21は、モータ211にボールネジ212が接続され、さらにY方向移動機構22に固定されたナット213がボールネジ212に螺合される構造を有している。ボールネジ212の上方にはガイドレール214が固定され、モータ211が回転すると、ナット213とともにY方向移動機構22がガイドレール214に沿ってX方向に滑らかに移動する。
【0050】
Y方向移動機構22は、モータ221、ボールネジ機構およびガイドレール224を有し、モータ221が回転するとボールネジ機構によってθ回転機構23がガイドレール224に沿ってY方向に移動する。θ回転機構23は、モータ231によりステージ30をZ方向に沿った軸を中心に回転させる。以上の構成により、吐出ノズル40はステージ移動機構20によって基材10の表面に対してX方向およびY方向に自在に相対移動されるとともに、基材10に対する姿勢も変更可能とされる。
【0051】
固定設置された吐出ノズル40には供給管422の一端が接続されている。供給管422には逆止弁421が介挿されている。供給管422の他端は二叉に分岐されており、その一方はポンプ423に接続され、他方は制御弁424を介して固体電解質材料を含む塗布液を貯留するタンク425に接続される。
【0052】
固体電解質材料を含む塗布液としては、固体電解質として機能する高分子電解質材料、例えばポリエチレンオキシドおよび/またはポリスチレンなどの樹脂に、支持塩としての例えば六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)および溶剤としての例えばジエチレンカーボネートなどを混合したものを用いることができる。支持塩としては、六フッ化リン酸リチウムに代えて、過塩素酸リチウム(LiClO4)またはリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI)を用いるようにしても良い。
【0053】
特に、後述するように固体電解質の電解質隔壁111のアスペクト比を高くするときには、所定温度以上に加熱することによって硬化する熱硬化剤を塗布液に添加するのが好ましい。このような熱硬化剤としては、例えば、モノマー溶液としてのメチルメタクリレートに、重合開始剤としての2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)および架橋剤としてのジメタクリル酸エチレングリコールを加えたものを用いることができる。なお、熱硬化剤に代えて、紫外光などの光照射によって硬化する光硬化剤を塗布液に添加しても良い。
【0054】
図6は、吐出ノズル40の内部構造を示す断面図である。図6(a)は吐出ノズル40をYZ平面にて切断した断面を示し、図6(b)はXZ平面にて切断した断面を示す。図6に示すように、吐出ノズル40の内部にはバッファ空間BFとして機能する空洞が形成されており、このバッファ空間BFに供給管422を経由して送給される固体電解質材料の塗布液が送り込まれる。吐出ノズル40には、バッファ空間BFから下方へと向かう複数の流路41が形設されている。複数の流路41は、Y方向に沿って等間隔で列状に設けられている。そして、各流路41の下端開口部が吐出口44を形成する。よって、吐出ノズル40の下端面には、複数の吐出口44がY方向に沿って列設されることとなる。複数の吐出口44の配設間隔は、負極集電体121および正極集電体131の櫛歯の噛み合わせによって形成される電解質領域11の配置間隔に等しい。また、各吐出口44の開口形状は略正方形で、その1辺の長さは電解質領域11の幅とほぼ同じとされている。なお、吐出ノズル40に設ける吐出口44の個数については特に限定されるものではなく、櫛歯の歯数に応じた適宜の個数とすることができる。
【0055】
ステージ移動機構20の各モータ、ポンプ423および制御弁424は制御部38に電気的に接続されている。制御部38のハードウェアとしての構成は一般的なコンピュータと同様である。すなわち、制御部38は、各種演算処理を行うCPU、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAMおよび制御用ソフトウェアやデータなどを記憶しておく磁気ディスクなどを備えて構成される。制御部38のCPUが所定の処理プログラムを実行することによって、塗布ユニット2の上記各構成が制御部38に制御され、電解質領域11に対する固体電解質材料を含む塗布液の塗布処理が進行する。
【0056】
このような構成を有する塗布ユニット2によって固体電解質材料を含む塗布液を塗布するときには、櫛歯状の負極集電体121および正極集電体131が形成された基材10をステージ30の上面に載置する。基材10は図示を省略するクランプ機構によってステージ30の上面に固定される。
【0057】
その後、制御部38がステージ移動機構20の各モータを駆動制御してステージ30に保持された基材10を塗布開始位置に移動させる。塗布開始位置は、吐出ノズル40の吐出口44が電解質領域11の直上となる位置である。そして、基材10が塗布開始位置に到達した後に、吐出ノズル40から固体電解質材料を含む塗布液の吐出を開始する。
【0058】
吐出ノズル40からの塗布液の吐出は、図5に示す逆止弁421、ポンプ423および制御弁424によって行われる。まず、制御部38の制御により制御弁424が開放された状態でポンプ423が吸引動作を行う。このとき、逆止弁421により吐出ノズル40からの塗布液の逆流が防止されるため、タンク425からポンプ423へと固体電解質材料を含む塗布液が吸引される。次に、制御部38の制御により制御弁424が閉止され、ポンプ423が押出動作を行う。これにより、ポンプ423から吐出ノズル40に固体電解質材料を含む塗布液が送給される。送給された塗布液は一旦吐出ノズル40内のバッファ空間BFに送り込まれた後、複数の吐出口44から下方に向けて吐出される。このように吐出ノズル40では、バッファ空間BFを介して塗布液を吐出しているため、Y方向に沿って列設された複数の吐出口44から均一な流量にて負極活物質を含む塗布液を吐出することができる。なお、固体電解質材料を含む塗布液の粘度が高く、ポンプ423の押出圧力のみでは十分でない場合には、吐出ノズル40にもシリンジポンプなどを設け、そのシリンジポンプによってバッファ空間BFに貯留されている塗布液を複数の吐出口44から押し出すようにしても良い。
【0059】
吐出口44からの塗布液の吐出を開始すると同時に、制御部38がステージ移動機構20を制御してステージ30の移動を開始させる。本実施形態においては、吐出ノズル40の複数の吐出口44から固体電解質材料を含む塗布液を連続的に吐出しつつ、ステージ30が一方向に移動して電解質領域11に直線状に塗布液を塗布する。このとき、複数の吐出口44から固体電解質材料を含む塗布液を同時に吐出しているため、互いに平行な複数の直線状パターンに一回のノズル走査で塗布液を塗布することができる。
【0060】
このように、一列に列設された複数の吐出口44から固体電解質材料を含む塗布液を吐出させながら、吐出ノズル40を基材10の表面に対して一方向に相対移動させるというノズルディスペンス法により、互いに平行な複数の電解質領域11に固体電解質材料を含む塗布液を塗布している。この塗布液を乾燥硬化させることにより、基材10の表面の電解質領域11に電解質隔壁111が形成される。
【0061】
図7は、基材10の表面に固体電解質の電解質隔壁111が形成された段階の斜視図である。図8は、図7の積層体のB−B切断面を示す断面図である。負極集電体121の櫛歯状パターンと正極集電体131の櫛歯状パターンとの間の隙間の電解質領域11に固体電解質の電解質隔壁111が形成され、結果的に電解質隔壁111によって隣り合う負極集電体121の歯と正極集電体131の歯とが仕切られている。電解質隔壁111と接する負極集電体121および正極集電体131がそれぞれ負極領域12および正極領域13となる。
【0062】
固体電解質の電解質隔壁111の幅EWは、10μm〜100μmとされる。既述したように、固体電解質は液体の電解質に比較して一般にイオン伝導度が低く、良好な充放電特性を得るためには電解質隔壁111の幅EWを小さくする必要がある。このような観点から電解質隔壁111の幅EWは100μm以下とされ、より良好な充放電特性を得るためには幅Ewを50μm以下とするのが望ましい。一方、電解質隔壁111の幅EWが10μm未満となると、薄くなりすぎて負極構造体120と正極構造体130との間で短絡が生じるおそれがある。このため、電解質隔壁111の幅Ewは、10μm〜100μmとしている。
【0063】
また、電解質隔壁111の高さEHは、10μm〜100μmとされる。これも既述したように、固体電解質を用いた電池において高エネルギー密度を得るためには、単位面積あたりの電池容量を大きくすることが必要である。このためには、電解質隔壁111の高さEHを高くする必要がある。この観点から電解質隔壁111の高さEHを少なくとも10μm以上としており、高いほど好ましい。もっとも、電解質隔壁111の高さEHが100μmを超えると、生産性が低下するおそれがある。
【0064】
このように、固体電解質を用いたリチウムイオン二次電池1において、良好な充放電特性および高エネルギー密度を得るためには、固体電解質の電解質隔壁111の幅EWを小さくするとともに高さEHを高くすることが求められる。換言すれば、電解質隔壁111のアスペクト比(高さEH/幅EW)を高くすることが求められ、2以上とすることが好ましい(つまり、電解質隔壁111の高さEHを幅EWの2倍以上とすることが好ましい)。このため、本実施形態においては、固体電解質の電解質隔壁111の高さEHを100μmとし、幅EWを50μmとしている。
【0065】
電解質隔壁111のアスペクト比を高くする場合には、固体電解質材料の塗布液に熱硬化剤または光硬化剤を添加したものを電解質領域11に塗布するのが好ましい。光硬化剤または熱硬化剤を添加した塗布液を電解質領域11に塗布し、塗布後直ちに紫外光などによる光照射またはヒータなどによる加熱を行うことによって高いアスペクトを維持したまま迅速に硬化させて電解質隔壁111を形成することができる。また、固体電解質材料を含む塗布液そのものの固形成分を多くして粘度を高くする(せん断速度1s-1(1/秒)で20Pa・s(パスカル秒)ないし2000Pa・s程度)ことにより、高いアスペクト比の電解質隔壁111を形成するようにしても良い。
【0066】
固体電解質の電解質隔壁111を形成した後、負極領域12の負極集電体121の表面に、負極活物質を含む塗布液を塗布して負極活物質層122を形成する(ステップS4)。負極活物質を含む塗布液としては、例えば負極活物質材料としてのチタン酸リチウム(Li4Ti5O12)に、導電助剤としてのアセチレンブラックまたはケッチェンブラック、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)またはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)などを混合したものを用いることができる。塗布液の粘度としては、例えばせん断速度1s-1で1mPa・sないし100Pa・s程度が望ましい。なお、負極活物質材料としては、上記のチタン酸リチウムの他に例えば黒鉛、金属リチウム、SnO2、合金系などを用いることが可能である。
【0067】
負極活物質を含む塗布液の塗布方法としては種々の公知の塗布方法を適用することが可能であり、例えば上述した固体電解質材料を含む塗布液の塗布と同じノズルディスペンス法を用いることができる。また、インクジェット法またはスクリーン印刷法などを用いるようにしても良い。本実施形態の製造方法では、先行して形成された電解質隔壁111によって塗布液の流出が防止されるため、低粘度の塗布液を用いることによって負極領域12の全体に短時間で効率よく負極活物質を含む塗布液を行き渡らせることができる。
【0068】
図9は、負極領域12の負極集電体121の表面に負極活物質層122が形成された段階の斜視図である。図10は、図9の積層体のC−C切断面を示す断面図である。負極領域12を覆う負極集電体121の表面に負極活物質層122が積層されている。負極活物質層122の上面の高さ位置は電解質隔壁111の上面を超えてはならず、若干低いのが好ましい。すなわち、負極集電体121の厚さと負極活物質層122の厚さとの和が電解質隔壁111の高さEHよりも若干小さくなるように、負極活物質を含む塗布液を塗布するのが好ましい。
【0069】
こうすることによって、電解質隔壁111の一方側の側壁面のほぼ全面に負極活物質層122を接触させることができ、基材10の単位面積あたりの電池容量を大きくしてリチウムイオン二次電池1のエネルギー密度を高めることができる。なお、負極活物質層122の上面の高さ位置が電解質隔壁111の上面を超える程度にまで負極活物質を含む塗布液の塗布すると、負極活物質と正極活物質とが接触して短絡が生じるおそれがある。
【0070】
同様に、固体電解質の電解質隔壁111を形成した後、正極領域13の正極集電体131の表面に、正極活物質を含む塗布液を塗布して正極活物質層132を形成する(ステップS5)。正極活物質を含む塗布液としては、例えば正極活物質材料としてのコバルト酸リチウム(LiCoO2)に、導電助剤としてのアセチレンブラック、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)、溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)などを混合したものを用いることができる。本実施形態にて固体電解質の電解質隔壁111の支持塩として用いている六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)は水と反応して分解する性質を有している。従って、電解質隔壁111に直接接触する正極および負極活物質を含む塗布液の溶媒として水が含まれていると、この溶媒の水と六フッ化リン酸リチウムが反応して分解するおそれがある。このため、正負極の活物質を含む塗布液の溶媒としては水を含まないものが好ましく、本実施形態では例えば有機溶媒であるNMPを用いている。なお、正極活物質材料としては、LiCoO2の他に、LiNiO2またはLiFePO4、LiMnPO4、LiMn2O4、またLiMeO2(Me=MxMyMz;Me、Mは遷移金属、x+y+z=1)で代表的に示される化合物、例えばLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2などを用いることができる。また、正極活物質を含む塗布液の粘度としては、負極活物質の塗布液と同じく、例えばせん断速度1s-1で1mPa・sないし100Pa・s程度が望ましい。
【0071】
正極活物質を含む塗布液の塗布方法としては種々の公知の塗布方法を適用することが可能であり、例えば上述したノズルディスペンス法、インクジェット法またはスクリーン印刷法などを用いることができる。本実施形態の製造方法では、先行して形成された電解質隔壁111によって塗布液の流出が防止されるため、低粘度の塗布液を用いることによって正極領域13の全体に短時間で効率よく正極活物質を含む塗布液を行き渡らせることができる。なお、ステップS4の負極活物質層122の形成とステップS5の正極活物質層132の形成とは順序が逆であっても良い。
【0072】
図11は、正極集電体131の表面に正極活物質層132が形成された段階の斜視図である。図12は、図11の積層体のD−D切断面を示す断面図である。正極領域13を覆う正極集電体131の表面に正極活物質層132が積層されている。これにより、負極活物質層122と正極活物質層132とが電解質隔壁111を挟み込んで交互に基材10の表面に沿って並べられた構造となる。
【0073】
負極活物質層122と同じく、短絡防止のために正極活物質層132の上面の高さ位置は電解質隔壁111の上面を超えてはならず、若干低いのが好ましい。すなわち、正極集電体131の厚さと正極活物質層132の厚さとの和が電解質隔壁111の高さEHよりも若干小さくなるように、負極活物質を含む塗布液の塗布するのが好ましい。より好ましくは、正極活物質層132の上面高さ位置と負極活物質層122の上面高さ位置とを同程度とする。
【0074】
こうすることによって、電解質隔壁111の他方側の側壁面のほぼ全面に正極活物質層132を接触させることができ、固体電解質と正極活物質との接触面積を大きくすることができる。負極活物質および正極活物質の双方と固体電解質との接触面積を大きくすることによりリチウムイオン二次電池1の反応効率を高めることができる。
【0075】
そして、こうして形成された負極活物質層122および正極活物質層132を覆うように、固体電解質材料を含む塗布液を塗布して、活物質層の表面を保護する保護層14を形成する(ステップS6)。保護層14を形成するための塗布液としては、上述した電解質隔壁111を形成する場合のものと同じで良いが、薄く均一な膜を形成するという目的からより低粘度のものが好ましい。保護層14を形成するための塗布方法としても、ノズルディスペンス法、インクジェット法またはスクリーン印刷などを用いることができる。また、負極タブ123および正極タブ133をマスクした上でスピンコート法によって保護層14を形成するようにしても良い。図1,2に示したリチウムイオン二次電池1は、保護層14を形成した後のものである。
【0076】
<3.本実施形態の製造方法の利点>
本実施形態のリチウムイオン二次電池1の製造方法においては、絶縁性の基材10の表面に相対向するように設けられた負極集電体121と正極集電体131との間の隙間である電解質領域11にノズルディスペンス法を用いて固体電解質材料を含む塗布液を塗布し、基材10の表面の電解質領域11に固体電解質の電解質隔壁111を形成している。そして、先に電解質隔壁111を形成してから負極活物質層122および正極活物質層132を形成しているため、それらの短絡を確実に防止することができる。特に、電池特性向上のために電解質隔壁111を薄く高くしたとしても、負極活物質層122および正極活物質層132の形成に先行して仕切壁として機能する電解質隔壁111を形成しているため、正極と負極との短絡を確実に防止することができる。
【0077】
このことは、電解質隔壁111のアスペクト比を高くして良好な充放電特性および高エネルギー密度を得ることが可能なことを示している。すなわち、電解質隔壁111を先行して形成することにより正負極の短絡を確実に防止することができるため、電解質隔壁111の高さEHを幅EWの2倍以上とすることができる。その結果、薄い電解質隔壁111によって充放電特性が良好になるとともに、基材10の単位面積あたりの電池容量が増大することによってエネルギー密度を高めることができ、リチウムイオン二次電池1の電池特性を優れたものとすることができる。
【0078】
電解質隔壁111のアスペクト比を高くする場合には、固体電解質材料の塗布液に熱硬化剤または光硬化剤を添加するのが好ましい。そのような塗布液を電解質領域11に塗布し、光照射または加熱によって迅速に硬化させることにより、塗布後の液だれを防止して高アスペクト比の電解質隔壁111を容易に形成することができる。
【0079】
また、電解質領域11にノズルディスペンス法を用いて固体電解質材料を含む塗布液を塗布して電解質隔壁111を形成し、その後に塗布法によって負極活物質層122および正極活物質層132を形成しているため、少ない工程数で高い生産性にてリチウムイオン二次電池1を製造することができる。
【0080】
また、本実施形態においては、フォトリソグラフィ法を用いて、負極集電体121および正極集電体131が、所定間隔を隔てて互いに噛み合うように対向配置された櫛歯状にパターン形成されている。このため、基材10表面の単位面積あたりの負極活物質層122および正極活物質層132と電解質隔壁111との接触面積を大きくすることができ、リチウムイオン二次電池1の反応効率を向上させることができる。特に、フォトリソグラフィ法によって絶縁性の基材10の表面に負極集電体121および正極集電体131を形成しているため、それらの密着性は良好であり、負極集電体121および正極集電体131が下地の基材10から剥がれるという問題は生じにくい。また、負極集電体121および正極集電体131の形成時に、櫛歯状パターンの歯の部分の面積を大きくしておけば、その後に形成される負極活物質層122および正極活物質層132の体積が増大し、リチウムイオン二次電池1を高容量の電池とすることできる。
【0081】
本実施形態では、負極集電体121および正極集電体131は固体電解質の電解質隔壁111よりも先に形成される要素ではあるが、フォトリソグラフィ法を用いれば非常に高い位置精度にて負極集電体121および正極集電体131の櫛歯状パターンを形成することができる。このため、仕切壁としての電解質隔壁111が存在していなかったとしても、負極集電体121と正極集電体131との接触(短絡)を確実に防止することができる。
【0082】
また、固体電解質材料を含む塗布液を吐出する吐出ノズル40を基材10の表面に対して相対移動させるノズルディスペンス法を用いて電解質領域11に塗布液を塗布しているため、相対向する負極集電体121と正極集電体131との間の隙間である電解質領域11に正確にかつ高いスループットにて固体電解質材料を含む塗布液を塗布して電解質隔壁111を形成することができる。特に、吐出ノズル40に列設された複数の吐出口44から固体電解質材料を含む塗布液を連続的に吐出しつつ、それら複数の吐出口44を一括して相対移動させているため、本実施形態のように互いに平行な電解質領域11に対しては塗布処理に要する時間を顕著に短くすることができる。
【0083】
<4.リチウムイオン電池の応用例>
本実施形態の製造方法によって製造されたリチウムイオン二次電池1は、薄型である上に電池特性も優れている。また、リチウムイオン二次電池1は、有機溶剤を含まない全固体電池であり、取り扱いが容易であるとともに、小型で優れた性能を有するものである。このようなリチウムイオン二次電池1は、例えば電気自動車(ハイブリッド電気自動車を含む)、電動アシスト自転車、電動工具、ロボットなどの機械類や、パーソナルコンピュータ(ノート型パソコンを含む)、携帯電話や携帯型音楽プレイヤー、デジタルカメラやビデオカメラなどのモバイル機器、非接触ICカードを含むRF−ID(Radio Frequency Identification:電波による固体識別)タグ、ゲーム機、ポータブル型の測定機器、通信機器や玩具などの各種の電子機器に使用することが可能である。
【0084】
以下に、本発明に係るリチウムイオン二次電池1を搭載した機器の例について説明するが、これらは本実施形態のリチウムイオン二次電池1を応用しうる機器の一部を例示するものであって、本発明に係るリチウムイオン二次電池1の適用範囲がこれらに限定されるものではない。
【0085】
図13は、本発明に係るリチウムイオン二次電池1を搭載した機器の一例としての車両、具体的には電気自動車を模式的に示す図である。この電気自動車70は、車輪71と、車輪71を駆動するモータ72と、モータ72に電力を供給する電池73とを備えている。この電池73として、上記実施形態のリチウムイオン二次電池1を複数直列および並列に接続したものを電気自動車70に搭載することができる。本実施形態のリチウムイオン二次電池1は、エネルギー密度が高くしかも充放電特性が良好であるため、小型であっても高い出力を得ることができるとともに短時間の充電も可能であり、電気自動車70のような車両の駆動用電源として好適である。
【0086】
図14は、本発明に係るリチウムイオン二次電池1を搭載した機器の他の例としての電子機器、具体的にはRF−IDタグを模式的に示す図である。このRF−IDタグ80は、互いに重ね合わせられることでカード型のパッケージを構成する1対の筐体81,82と、該筐体内に収容される回路モジュール83および該回路モジュール83の電源となる電池84とを備えている。回路モジュール83は、外部との通信のためのループ状のアンテナ831と、アンテナ831を介した外部機器とのデータ交換および種々の演算・記憶処理を実行する集積回路(IC)を含む回路部832とを備えている。電池84としては、本実施形態のリチウムイオン二次電池1を1組または複数組備えるものを用いることができ、回路部832はこの電池84を電源として動作する。
【0087】
このような構成によれば、それ自身は電源を有さないタグ(いわゆるパッシブタグ)に比較して、外部機器との通信可能距離を拡張することができ、またより複雑な処理を行うことが可能となる。本発明に係るリチウムイオン二次電池1は、基材10の表面に沿って負極構造体120と正極構造体130とが電解質隔壁111を介在させつつ交互に配置された構造を有しているため、負極構造体120および正極構造体130の構成数を増やしたとしても容易に薄型を実現することができる。また、上述したように、リチウムイオン二次電池1は、電池としての特性も優れている。よって、カード型のRF−IDタグの電源としても好適である。
【0088】
電気自動車70やRF−IDタグ80以外の機器であっても、例えばノート型パソコンなどの電子機器に本発明に係るリチウムイオン二次電池1を搭載し、ノート型パソコンの回路部(CPU、液晶ディスプレイ、ハードディスク等が有する回路)をリチウムイオン二次電池1を電源として動作させるようにしても良い。
【0089】
<5.変形例>
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態においては、負極集電体121および正極集電体131を直線状の歯を有する櫛歯状パターンに形成していたが、櫛歯の歯の形状は直線状に限定されるものではなく、他の形状であっても良い。例えば、図15に示すように、櫛歯状パターンの歯の形状を曲線状としても良い。同図に示すパターン例においても、負極集電体121および正極集電体131は、平面視で所定間隔を隔てて互いに噛み合うように対向配置された櫛歯状にパターン形成されている。すなわち、「櫛歯状」とは複数の歯を有する形状であり、極集電体121および正極集電体131はともに複数の歯を備えた櫛歯状に形成されており、一方の歯が他方の隣り合う歯の間に入り込むような配置構成とされている。但し、図15に示す例での櫛歯状パターンの歯の形状は正弦曲線である。
【0090】
このような櫛歯状パターンを有する負極集電体121および正極集電体131は、上記実施形態と同様にフォトリソグラフィ法によって形成すれば良い。そして、負極集電体121および正極集電体131の双方の曲線状櫛歯の隙間が電解質領域11となり、その電解質領域11に沿ってノズルディスペンス法により正弦曲線状に固体電解質材料を含む塗布液が塗布される。図15に示すパターンであっても、電解質領域11は互いに平行な正弦曲線状となるため、複数の吐出口44から固体電解質材料を含む塗布液を連続的に吐出しつつ、吐出ノズル40を正弦曲線の軌跡を描くように相対移動させることにより、複数の電解質領域11に対して一括して塗布を行うことができる。この塗布液を乾燥硬化させることにより、負極集電体121と正極集電体131との間に固体電解質の電解質隔壁111が正弦曲線状に形成される。電解質隔壁111と接する負極集電体121および正極集電体131がそれぞれ負極領域12および正極領域13となる。その後、上記実施形態と同様に、負極領域12の負極集電体121の表面に負極活物質を含む塗布液を塗布して負極活物質層122を形成するとともに、正極領域13の正極集電体131の表面に正極活物質を含む塗布液を塗布して正極活物質層132を形成する。このようにしても、上記実施形態と同じく、先に電解質隔壁111を形成してから負極活物質層122および正極活物質層132を形成しているため、正負極の短絡を確実に防止しつつ、電池特性の優れた電池を高い生産性にて製造することができる。
【0091】
また、図15に示す正弦曲線状のパターンをジグザグの折れ線パターンとしても良い。すなわち、櫛歯状パターンの歯の形状をジグザグの折れ線形状としても良い。この場合であっても、電解質領域11は互いに平行な折れ線形状となるため、複数の吐出口44から固体電解質材料を含む塗布液を連続的に吐出しつつ、吐出ノズル40を折れ線形状の軌跡を描くように相対移動させることにより、複数の電解質領域11に対して一括して塗布を行うことができる。
【0092】
また、負極集電体121および正極集電体131の双方の櫛歯の隙間である電解質領域11は互いに平行であることに限定されるものではなく、例えば図16に示すように、電解質領域11が互いに平行でなくても良い。但し、この場合、単一の吐出口を有するノズルを基材10の表面に対して相対移動させることによって電解質領域11に固体電解質材料を含む塗布液が塗布される。具体的には、単一の吐出口から固体電解質材料を含む塗布液を連続的に吐出しつつ、当該ノズルを基材10に対して相対移動させることにより、互いに平行でない電解質領域11に対して固体電解質材料を含む塗布液を塗布して電解質隔壁111を形成している。このとき、それぞれが単一の吐出口を有する複数のノズルを個別に相対移動させるようにしても良いし、単一の吐出口を有する1つのノズルを繰り返して相対移動させるようにしても良い。図16に示す例においても、電解質隔壁111と接する負極集電体121および正極集電体131がそれぞれ負極領域12および正極領域13となる。
【0093】
そして、電解質隔壁111が形成された後、負極領域12の負極集電体121の表面に負極活物質を含む塗布液を塗布して負極活物質層122を形成するとともに、正極領域13の正極集電体131の表面に正極活物質を含む塗布液を塗布して正極活物質層132を形成する。このようにしても、先に電解質隔壁111を形成してから負極活物質層122および正極活物質層132を形成しているため、正負極の短絡を確実に防止しつつ、電池特性の優れた電池を高い生産性にて製造することができる。もっとも、上記実施形態のように、複数の吐出口44を有する吐出ノズル40を相対移動させて複数の電解質領域11に対して一括して塗布液を塗布するようにした方が高い生産性を得ることができる。
【0094】
図1に示すような互いに平行な電解質領域11に対して、単一の吐出口を有するノズルから固体電解質材料を含む塗布液を塗布するようにしても良い。単一の吐出口を有するノズルであれば、負極集電体121と正極集電体131との間の隙間全体に固体電解質材料を含む塗布液を塗布して電解質隔壁111を形成するようにしても良い。負極として機能する負極領域12(つまり、負極活物質層122を形成する領域)は、電解質隔壁111と接する負極集電体121のうちの任意の領域とすることができる。同様に、正極として機能する正極領域13(つまり、正極活物質層132を形成する領域)も電解質隔壁111と接する正極集電体131のうちの任意の領域とすることができる。
【0095】
また、負極集電体121および正極集電体131の形状は、必ずしも櫛歯状のパターンを有することに限定されるものではない。櫛歯状のパターンを有していなくても、負極集電体121および正極集電体131を基材10の表面に相対向するように設け、その隙間の電解質領域11に固体電解質材料を含む塗布液を塗布するようにすれば電池構造を実現することができる。但し、基材10の単位面積当たりの電池反応効率を高める観点からは、負極集電体121および正極集電体131を互いに噛み合うように対向配置された櫛歯状にパターン形成した方が好ましい。
【0096】
また、上記実施形態においては、電解質領域11にノズルディスペンス法を用いて固体電解質材料を含む塗布液を塗布して電解質隔壁111を形成するようにしていたが、他の手法によって固体電解質の電解質隔壁111を形成するようにしても良い。例えば、インクジェット法やスクリーン印刷法によって電解質隔壁111を形成するようにしても良い。但し、これらの手法を採用した場合には、電解質隔壁111の高さEHを高くするためには複数回の重ね塗りを必要とするため、ノズルディスペンス法を用いた方が迅速に高いアスペクト比の電解質隔壁111を形成することができる。
【0097】
また、上記実施形態では、最終工程として保護層14を形成するようにしていたが、電池として機能する構造を実現する上では保護層14を形成することは必須の要件ではなく、これを省略するようにしても良い。
【0098】
また、上記実施形態では、負極集電体121を銅にて形成し、正極集電体131をアルミニウムにて形成していたが、これら以外の金属材料を用いても良く、さらには負極集電体121および正極集電体131を同一の金属材料(例えば、金)によって形成するようにしても良い。正負の集電体121,131を同一の金属材料にて形成するのであれば、フォトリソグラフィ法によって負極集電体121および正極集電体131を同時に形成することができる。
【0099】
また、上記実施形態で例示した集電体、活物質、電解質等の材料はその一例を示したものであってこれに限定されるものではなく、リチウムイオン二次電池の構成材料として用いられる他の材料を使用してリチウムイオン二次電池を製造する場合においても、本発明に係る製造方法を好適に適用することが可能である。また、リチウムイオン二次電池に限らず、リチウムイオン一次電池やアルカリ電池等の他の種類の化学電池の製造に本発明に係る製造方法を適用するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、電解質としてポリマー電解質などの固体電解質を用いた全固体電池の製造技術に好適に適用することができ、特に薄型で電池特性の優れた電池を高い生産性にて製造するのに適している。
【符号の説明】
【0101】
1 リチウムイオン二次電池
2 塗布ユニット
10 基材
11 電解質領域
12 負極領域
13 正極領域
14 保護層
20 ステージ移動機構
30 ステージ
40 吐出ノズル
44 吐出口
70 電気自動車
80 RF−IDタグ
111 電解質隔壁
120 負極構造体
121 負極集電体
122 負極活物質層
130 正極構造体
131 正極集電体
132 正極活物質層
832 回路部
【技術分野】
【0001】
本発明は、活物質層間に固体電解質層を介在させてなるリチウムイオン二次電池などの電池の製造方法、該製造方法によって製造された電池、および、該電池を搭載する機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、リチウムイオン電池などの化学電池を製造する方法としては、集電体としての金属箔に正極活物質および負極活物質をそれぞれ付着させたものを不織布などのセパレータを介して重ね合わせ、そのセパレータに電解液を含浸させる技術が知られている。しかしながら、電解液として揮発性の高い有機溶剤を含んだ電池は取り扱いに注意が必要であり、またさらなる小型化・高出力化が求められていることから、近年では電解液に代えて固体電解質を用いる技術が提案されてきている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示されている技術では、絶縁性の基板上に金属などの導電体からなる正極集電体および負極集電体を互いに近接させて形成し、それら集電体上に、それぞれ正極活物質および負極活物質を含むスラリーを塗布することによって正負の活物質層を形成している。そして、こうして形成された正負の電極間の空隙に固体電解質を含む材料を充填することで、基板表面に沿った方向に正負の電極が固体電解質を介して対向する構造の二次電池を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−147210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまでに実用化されている固体電解質は、液体の電解質に比べると一般にイオン伝導度が低い。よって、固体電解質を用いた電池において良好な充放電特性を得るためには、正負の活物質層間に介在する固体電解質層の厚さを薄くすることが必要となる。そのためには、正負の活物質層間の間隔を出来る限り狭くすることが求められる。
【0006】
また、固体電解質を用いた電池において高エネルギー密度を得るためには、単位面積あたりの電池容量を大きくすることが必要である。そのためには、基板表面に直交する方向への活物質層の高さを大きくすることが求められる。すなわち、固体電解質を用いた電池の特性を良好なものとするためには、固体電解質層の厚さを薄くするとともに、高さを高くする、つまり固体電解質層のアスペクト比を高くすることが必要となる。
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示される技術では、互いに対向するように形成した正極と負極との空隙に固体電解質の材料を充填するという方法で電池が形成される。そのため、電池の製造工程において正極と負極とが短絡するおそれがあり、特に上記のように固体電解質層を出来る限り薄く高くしようとすると、塗布直後の正極活物質と負極活物質とが接触しやすくなり、短絡を確実に防止することは困難となる。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、正負極の短絡を確実に防止しつつ、電池特性の優れた電池およびこれを高い生産性にて製造することができる製造方法ならびに該電池を備える機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、電池の製造方法において、絶縁性の基材の表面に相対向するように設けられた負極集電体と正極集電体との間の電解質領域に固体電解質材料を含む塗布液を塗布し、前記基材の表面の前記電解質領域に電解質隔壁を形成する電解質隔壁形成工程と、前記電解質隔壁形成工程の後、前記負極集電体の表面に負極活物質を含む塗布液を塗布して負極活物質層を形成する負極活物質層形成工程と、前記電解質隔壁形成工程の後、前記正極集電体の表面に正極活物質を含む塗布液を塗布して正極活物質層を形成する正極活物質層形成工程と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明に係る電池の製造方法において、前記負極集電体および前記正極集電体は、平面視で所定間隔を隔てて互いに噛み合うように対向配置された櫛歯状にパターン形成されていることを特徴とする。
【0011】
また、請求項3の発明は、請求項2の発明に係る電池の製造方法において、前記電解質隔壁の高さは幅の2倍以上であることを特徴とする。
【0012】
また、請求項4の発明は、請求項3の発明に係る電池の製造方法において、前記電解質隔壁形成工程では、熱硬化剤または光硬化剤を添加した塗布液を前記電解質領域に塗布することを特徴とする。
【0013】
また、請求項5の発明は、請求項1から請求項4のいずれかの発明に係る電池の製造方法において、前記負極集電体および前記正極集電体は、フォトリソグラフィ法により形成されることを特徴とする。
【0014】
また、請求項6の発明は、請求項1から請求項5のいずれかの発明に係る電池の製造方法において、前記電解質隔壁形成工程では、固体電解質材料を含む塗布液を吐出するノズルを前記基材の表面に対して相対移動させて前記電解質領域に当該塗布液を塗布することを特徴とする。
【0015】
また、請求項7の発明は、請求項6の発明に係る電池の製造方法において、前記電解質隔壁形成工程では、ノズルに列状に配設した複数の吐出口から固体電解質材料を含む塗布液を吐出させながら当該ノズルを前記基材の表面に対して相対移動させることを特徴とする。
【0016】
また、請求項8の発明は、請求項1から請求項7のいずれかの発明に係る電池の製造方法において、前記負極活物質層および前記正極活物質層を連続的に覆う保護層を形成する保護層形成工程をさらに備えることを特徴とする。
【0017】
また、請求項9の発明は、電池であって、請求項1から請求項8のいずれかの発明に係る電池の製造方法によって製造されている。
【0018】
また、請求項10の発明は、車両であって、請求項9の発明に係る電池を搭載することを特徴とする。
【0019】
また、請求項11の発明は、RF−IDタグであって、請求項9の発明に係る電池を備えることを特徴とする。
【0020】
また、請求項12の発明は、電子機器であって、請求項9の発明に係る電池と、前記電池を電源として動作する回路部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
請求項1から請求項7の発明によれば、絶縁性の基材の表面に相対向するように設けられた負極集電体と正極集電体との間の電解質領域に固体電解質材料を含む塗布液を塗布して電解質領域に電解質隔壁を形成し、その後、負極集電体の表面に負極活物質を含む塗布液を塗布して負極活物質層を形成するとともに、正極集電体の表面に正極活物質を含む塗布液を塗布して正極活物質層を形成するため、正負極の短絡を確実に防止することができ、しかも薄い電解質隔壁を介して正負の活物質を広い面積で対向させることができるため、高速充放電が可能な電池特性の優れた電池を製造することができる。また、塗布液の塗布によって電解質隔壁、負極活物質層および正極活物質層を形成しているため工程数が少なく、高い生産性にて電池を製造することができる。
【0022】
特に、請求項2の発明によれば、負極集電体および正極集電体が、平面視で所定間隔を隔てて互いに噛み合うように対向配置された櫛歯状にパターン形成されているため、基材表面の単位面積あたりの正負の活物質層と電解質隔壁との接触面積を大きくすることができ、電池の反応効率を向上させることができる。
【0023】
特に、請求項3の発明によれば、電解質隔壁の高さは幅の2倍以上であるため、電解質隔壁は薄く高いものとなり、正負極の活物質層の高さも高くすることができ、その結果基材表面の単位面積あたりの電池容量を大きくすることができて高エネルギー密度を得ることができる。
【0024】
特に、請求項4の発明によれば、熱硬化剤または光硬化剤を添加した塗布液を電解質領域に塗布するため、塗布後の液だれを防止して薄く高い電解質隔壁を容易に形成することができる。
【0025】
特に、請求項5の発明によれば、負極集電体および正極集電体がフォトリソグラフィ法により形成されるため、高い位置精度にて負極集電体および正極集電体を相対向させて形成することができ、正負の集電体の接触を確実に防止することができる。また、負極集電体および正極集電体が基材から剥がれにくくすることができる。
【0026】
特に、請求項6の発明によれば、固体電解質材料を含む塗布液を吐出するノズルを基材の表面に対して相対移動させて電解質領域に当該塗布液を塗布するため、電解質領域に正確にかつ高いスループットにて塗布液を塗布して電解質隔壁を形成することができる。
【0027】
特に、請求項7の発明によれば、ノズルに列状に配設した複数の吐出口から固体電解質材料を含む塗布液を吐出させながら当該ノズルを基材の表面に対して相対移動させるため、互いに平行な電解質領域に対しては塗布処理に要する時間を顕著に短くすることができる。
【0028】
また、請求項9の発明によれば、請求項1から請求項8のいずれかの発明に係る電池の製造方法によって製造しているため、正負極の短絡を確実に防止しつつ、電池特性を優れたものとすることができる。
【0029】
また、請求項10の発明によれば、車両の駆動用電源として請求項9の発明に係る電池を好適に使用することができる。
【0030】
また、請求項11の発明によれば、RF−IDタグの電源として請求項9の発明に係る電池を好適に使用することができる。
【0031】
また、請求項12の発明によれば、電子機器の回路部の電源として請求項9の発明に係る電池を好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る電池の製造方法によって製造されるリチウムイオン二次電池の上面図である。
【図2】図1のリチウムイオン二次電池のA−A切断面を示す断面図である。
【図3】リチウムイオン二次電池の製造手順を示すフローチャートである。
【図4】基材の表面に負極集電体および正極集電体が形成された積層体の斜視図である。
【図5】ノズルディスペンス法に用いる塗布ユニットの構成を示す図である。
【図6】吐出ノズルの内部構造を示す断面図である。
【図7】基材の表面に固体電解質の電解質隔壁が形成された段階の斜視図である。
【図8】図7の積層体のB−B切断面を示す断面図である。
【図9】負極集電体の表面に負極活物質層が形成された段階の斜視図である。
【図10】図9の積層体のC−C切断面を示す断面図である。
【図11】正極集電体の表面に正極活物質層が形成された段階の斜視図である。
【図12】図11の積層体のD−D切断面を示す断面図である。
【図13】本発明に係るリチウムイオン二次電池を搭載した電気自動車を模式的に示す図である。
【図14】本発明に係るリチウムイオン二次電池を搭載したRF−IDタグを模式的に示す図である。
【図15】負極集電体および正極集電体のパターンの他の例を示す図である。
【図16】負極集電体および正極集電体のパターンの他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0034】
<1.リチウムイオン電池の構造>
図1は、本発明に係る電池の製造方法によって製造されるリチウムイオン二次電池1の上面図である。また、図2は図1のリチウムイオン二次電池1のA−A切断面を示す断面図である。図1以降の各図においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数を誇張または簡略化して描いている。リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンが電気伝導を担う二次電池(蓄電池)であり、エネルギー密度が高く、またメモリー効果が小さく、さらには繰り返しの充放電に対しても劣化が少ないという特徴を有する。このリチウムイオン二次電池1は、絶縁性の基材10の表面に、固体電解質の電解質隔壁111で互いに隔てられた負極領域12と正極領域13とが交互に並べられた構造を有している。すなわち、負極領域12と正極領域13とに挟み込まれて電解質隔壁111が設けられている。
【0035】
図2に示すように、負極領域12においては、基材10の表面に負極集電体121が形成され、さらに負極集電体121の表面に負極活物質層122が積層されている。図1に示すように、負極集電体121の先端は、所定間隔で複数の歯を備えた櫛歯状に形成されており、それぞれの歯が負極領域12に位置する。負極集電体121の全体は1つの金属膜であり、複数の負極領域12に形成された負極集電体121は互いに電気的に接続されている。また、負極集電体121の櫛歯とは反対側端部は負極タブ123とされている。
【0036】
同様に、負極領域12と電解質隔壁111によって隔てられた正極領域13では、基材10の表面に正極集電体131が形成され、その正極集電体131の表面に正極活物質層132が積層されている。正極集電体131の先端は、所定間隔で複数の歯を備えた櫛歯状に形成されており、それぞれの歯が正極領域13に位置する。負極集電体121および正極集電体131の櫛歯のピッチは等しく、双方の櫛歯が互いに噛み合うように負極集電体121と正極集電体131とが相対向して設けられている。また、正極集電体131も1つの金属膜であって複数の正極領域13に形成された正極集電体131は互いに電気的に接続され、正極集電体131の櫛歯とは反対側端部は正極タブ133とされている。
【0037】
基材10の表面のうち負極集電体121の櫛歯と正極集電体131の櫛歯の間の隙間は電解質領域11とされる。この電解質領域11に、固体電解質の材料を含む塗布液がノズルディスペンス法によって塗布されて固体電解質の電解質隔壁111が形成される。
【0038】
そして、負極領域12に形成された負極活物質層122および正極領域13に形成された正極活物質層132の表面を連続的に覆うように保護層14が形成されている。保護層14としては、例えば電解質隔壁111を形成しているのと同じ固体電解質を用いることができる。
【0039】
このような構造においては、負極領域12に積層された負極集電体121および負極活物質層122からなる負極構造体120と、正極領域13に積層された正極集電体131および正極活物質層132からなる正極構造体130とが、固体電解質にて形成された薄く高い電解質隔壁111を挟み込むようにして対向配置されている。このため、固体電解質を介して負極活物質層122と正極活物質層132との間で電荷およびリチウムイオンが移動することでリチウムイオン二次電池1として機能する。このようなリチウムイオン二次電池1をケーシング内に収容して最終製品としての二次電池が形成される。
【0040】
<2.リチウムイオン電池の製造方法>
次に、上記の構成を有するリチウムイオン二次電池1の製造方法について説明する。図3は、リチウムイオン二次電池の製造手順を示すフローチャートである。まず、絶縁性の基材10を準備する(ステップS1)。基材10は、絶縁性材料にて形成された平板状部材であり、例えばフレキシブル基板などの樹脂基板、ガラス基板、セラミック基板などをを用いることができる。後述するようなRF−IDタグにリチウムイオン二次電池1を組み込むのであれば、可撓性を有するフレキシブル基板を用いるのが好ましい。
【0041】
次に、絶縁性の基材10の表面に負極集電体121および正極集電体131を形成する(ステップS2)。本実施形態においては、負極集電体121および正極集電体131をいわゆるフォトリソグラフィ法を用いて形成する。具体的には、まず基材10の表面に真空蒸着法やスパッタリング法によって負極集電体121を構成する金属(本実施形態では銅)の膜を形成する。そして、その上にフォトレジスト(感光性有機物質)を塗布してレジスト膜を形成し、当該レジスト膜の表面を櫛歯状のパターンを有する負極集電体121の形状に露光する。続いて、現像処理によってレジスト膜の露光部分(または非露光部分)を除去し、残ったレジスト膜をマスクとして金属膜のエッチングを行う。その後、全てのレジスト膜を除去することによって、櫛歯状のパターンを有する負極集電体121が基材10の表面に形成される。
【0042】
同様にして、櫛歯状のパターンを有する正極集電体131も形成される。このときには、先に形成した負極集電体121をマスキングして正極集電体131を構成する金属(本実施形態ではアルミニウム)の膜を形成するのが好ましい。負極集電体121のマスクとしては上述の現像処理後に残ったレジスト膜をそのまま用いるようにしても良い。
【0043】
図4は、基材10の表面に負極集電体121および正極集電体131が形成された積層体の斜視図である。同図に示すように、負極集電体121および正極集電体131は、平面視で所定間隔を隔てて互いに噛み合うように対向配置された櫛歯状にパターン形成されている。すなわち、負極集電体121および正極集電体131はともに複数の歯を備えた櫛歯状に形成されており、それら複数の歯の配設ピッチ(隣り合う歯の設置間隔)は互いに等しい。そして、負極集電体121の歯が正極集電体131の隣り合う歯の間に入り込むとともに、正極集電体131の歯が負極集電体121の隣り合う歯の間に入り込むように両集電体は配置されている。但し、負極集電体121と正極集電体131とが接触することはなく、負極集電体121の歯と正極集電体131の歯との間に所定間隔の隙間が形成された状態にて両集電体は相対向するように配置されている。なお、負極集電体121および正極集電体131の櫛歯状パターン以外の部分(例えば、負極タブ123および正極タブ133)もフォトリソグラフィ法によって形成される。
【0044】
負極集電体121および正極集電体131の形成技術としてはフォトリソグラフィ法に限定されるものではなく、所定のパターンを有する金属膜を形成することができる公知の種々の手法を用いることができる。例えば、インクジェットプリンタやインプリント技術を用いて集電体材料となる金属粒子分散滴を櫛歯状のパターンの印刷して負極集電体121および正極集電体131を形成するようにしても良い。また、集電体材料となる金属微粒を含む材料をレーザプリンタのような電子写真方式によりパターンニングして負極集電体121および正極集電体131を形成するようにしても良い。また、適切なマスクを施した上で真空蒸着法やスパッタリング法によって直接に負極集電体121および正極集電体131を形成するようにしても良い。さらには、後述するようなノズルディスペンス法によって金属粒子を含む導電性ペーストを基材10の表面に塗布して両極の集電体121,131を形成するようにしても良い。
【0045】
負極集電体121および正極集電体131を構成する金属としては銅、アルミニウム、ステンレスなどを用いることができるが、本実施形態のように負極集電体121は銅にて形成し、正極集電体131はアルミニウムにて形成するのが好ましい。負極集電体121および正極集電体131の厚さについては特に限定されるものではないが、例えば5μm〜20μmとすることができる。
【0046】
次に、負極集電体121および正極集電体131が形成された基材10に対して固体電解質材料を含む塗布液を塗布して電解質隔壁11を形成する(ステップS3)。負極集電体121および正極集電体131は、所定間隔を隔てて互いに噛み合うように対向配置された櫛歯状にパターン形成されている。負極集電体121の櫛歯状パターンと正極集電体131の櫛歯状パターンとの間の所定間隔の隙間は基材10の表面が露出しており、その隙間が電解質領域11とされる。ステップS3では、この電解質領域11にノズルディスペンス法を用いて固体電解質材料を含む塗布液が塗布される。
【0047】
図5は、ノズルディスペンス法に用いる塗布ユニット2の構成を示す図である。図5および図6にはそれらの方向関係を明確にするためZ軸方向を鉛直方向とし、XY平面を水平面とするXYZ直交座標系を適宜付している。
【0048】
この塗布ユニット2では、基台210上にステージ移動機構20が設けられ、基材10を保持するステージ30がステージ移動機構20によって水平面内(XY平面内)で移動可能とされている。ステージ30の上方には吐出ノズル40が固定設置されている。すなわち、本実施形態においては、固定設置された吐出ノズル40に対して基材10を保持するステージ30が水平面内で移動することにより、吐出ノズル40が基材10の表面に対して相対移動することとなる。
【0049】
ステージ移動機構20は、下段からステージ30をX方向に移動させるX方向移動機構21、X方向と直行するY方向に移動させるY方向移動機構22、および、鉛直方向(Z方向)に沿った軸を中心に回転させるθ回転機構23を備える。X方向移動機構21は、モータ211にボールネジ212が接続され、さらにY方向移動機構22に固定されたナット213がボールネジ212に螺合される構造を有している。ボールネジ212の上方にはガイドレール214が固定され、モータ211が回転すると、ナット213とともにY方向移動機構22がガイドレール214に沿ってX方向に滑らかに移動する。
【0050】
Y方向移動機構22は、モータ221、ボールネジ機構およびガイドレール224を有し、モータ221が回転するとボールネジ機構によってθ回転機構23がガイドレール224に沿ってY方向に移動する。θ回転機構23は、モータ231によりステージ30をZ方向に沿った軸を中心に回転させる。以上の構成により、吐出ノズル40はステージ移動機構20によって基材10の表面に対してX方向およびY方向に自在に相対移動されるとともに、基材10に対する姿勢も変更可能とされる。
【0051】
固定設置された吐出ノズル40には供給管422の一端が接続されている。供給管422には逆止弁421が介挿されている。供給管422の他端は二叉に分岐されており、その一方はポンプ423に接続され、他方は制御弁424を介して固体電解質材料を含む塗布液を貯留するタンク425に接続される。
【0052】
固体電解質材料を含む塗布液としては、固体電解質として機能する高分子電解質材料、例えばポリエチレンオキシドおよび/またはポリスチレンなどの樹脂に、支持塩としての例えば六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)および溶剤としての例えばジエチレンカーボネートなどを混合したものを用いることができる。支持塩としては、六フッ化リン酸リチウムに代えて、過塩素酸リチウム(LiClO4)またはリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI)を用いるようにしても良い。
【0053】
特に、後述するように固体電解質の電解質隔壁111のアスペクト比を高くするときには、所定温度以上に加熱することによって硬化する熱硬化剤を塗布液に添加するのが好ましい。このような熱硬化剤としては、例えば、モノマー溶液としてのメチルメタクリレートに、重合開始剤としての2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)および架橋剤としてのジメタクリル酸エチレングリコールを加えたものを用いることができる。なお、熱硬化剤に代えて、紫外光などの光照射によって硬化する光硬化剤を塗布液に添加しても良い。
【0054】
図6は、吐出ノズル40の内部構造を示す断面図である。図6(a)は吐出ノズル40をYZ平面にて切断した断面を示し、図6(b)はXZ平面にて切断した断面を示す。図6に示すように、吐出ノズル40の内部にはバッファ空間BFとして機能する空洞が形成されており、このバッファ空間BFに供給管422を経由して送給される固体電解質材料の塗布液が送り込まれる。吐出ノズル40には、バッファ空間BFから下方へと向かう複数の流路41が形設されている。複数の流路41は、Y方向に沿って等間隔で列状に設けられている。そして、各流路41の下端開口部が吐出口44を形成する。よって、吐出ノズル40の下端面には、複数の吐出口44がY方向に沿って列設されることとなる。複数の吐出口44の配設間隔は、負極集電体121および正極集電体131の櫛歯の噛み合わせによって形成される電解質領域11の配置間隔に等しい。また、各吐出口44の開口形状は略正方形で、その1辺の長さは電解質領域11の幅とほぼ同じとされている。なお、吐出ノズル40に設ける吐出口44の個数については特に限定されるものではなく、櫛歯の歯数に応じた適宜の個数とすることができる。
【0055】
ステージ移動機構20の各モータ、ポンプ423および制御弁424は制御部38に電気的に接続されている。制御部38のハードウェアとしての構成は一般的なコンピュータと同様である。すなわち、制御部38は、各種演算処理を行うCPU、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAMおよび制御用ソフトウェアやデータなどを記憶しておく磁気ディスクなどを備えて構成される。制御部38のCPUが所定の処理プログラムを実行することによって、塗布ユニット2の上記各構成が制御部38に制御され、電解質領域11に対する固体電解質材料を含む塗布液の塗布処理が進行する。
【0056】
このような構成を有する塗布ユニット2によって固体電解質材料を含む塗布液を塗布するときには、櫛歯状の負極集電体121および正極集電体131が形成された基材10をステージ30の上面に載置する。基材10は図示を省略するクランプ機構によってステージ30の上面に固定される。
【0057】
その後、制御部38がステージ移動機構20の各モータを駆動制御してステージ30に保持された基材10を塗布開始位置に移動させる。塗布開始位置は、吐出ノズル40の吐出口44が電解質領域11の直上となる位置である。そして、基材10が塗布開始位置に到達した後に、吐出ノズル40から固体電解質材料を含む塗布液の吐出を開始する。
【0058】
吐出ノズル40からの塗布液の吐出は、図5に示す逆止弁421、ポンプ423および制御弁424によって行われる。まず、制御部38の制御により制御弁424が開放された状態でポンプ423が吸引動作を行う。このとき、逆止弁421により吐出ノズル40からの塗布液の逆流が防止されるため、タンク425からポンプ423へと固体電解質材料を含む塗布液が吸引される。次に、制御部38の制御により制御弁424が閉止され、ポンプ423が押出動作を行う。これにより、ポンプ423から吐出ノズル40に固体電解質材料を含む塗布液が送給される。送給された塗布液は一旦吐出ノズル40内のバッファ空間BFに送り込まれた後、複数の吐出口44から下方に向けて吐出される。このように吐出ノズル40では、バッファ空間BFを介して塗布液を吐出しているため、Y方向に沿って列設された複数の吐出口44から均一な流量にて負極活物質を含む塗布液を吐出することができる。なお、固体電解質材料を含む塗布液の粘度が高く、ポンプ423の押出圧力のみでは十分でない場合には、吐出ノズル40にもシリンジポンプなどを設け、そのシリンジポンプによってバッファ空間BFに貯留されている塗布液を複数の吐出口44から押し出すようにしても良い。
【0059】
吐出口44からの塗布液の吐出を開始すると同時に、制御部38がステージ移動機構20を制御してステージ30の移動を開始させる。本実施形態においては、吐出ノズル40の複数の吐出口44から固体電解質材料を含む塗布液を連続的に吐出しつつ、ステージ30が一方向に移動して電解質領域11に直線状に塗布液を塗布する。このとき、複数の吐出口44から固体電解質材料を含む塗布液を同時に吐出しているため、互いに平行な複数の直線状パターンに一回のノズル走査で塗布液を塗布することができる。
【0060】
このように、一列に列設された複数の吐出口44から固体電解質材料を含む塗布液を吐出させながら、吐出ノズル40を基材10の表面に対して一方向に相対移動させるというノズルディスペンス法により、互いに平行な複数の電解質領域11に固体電解質材料を含む塗布液を塗布している。この塗布液を乾燥硬化させることにより、基材10の表面の電解質領域11に電解質隔壁111が形成される。
【0061】
図7は、基材10の表面に固体電解質の電解質隔壁111が形成された段階の斜視図である。図8は、図7の積層体のB−B切断面を示す断面図である。負極集電体121の櫛歯状パターンと正極集電体131の櫛歯状パターンとの間の隙間の電解質領域11に固体電解質の電解質隔壁111が形成され、結果的に電解質隔壁111によって隣り合う負極集電体121の歯と正極集電体131の歯とが仕切られている。電解質隔壁111と接する負極集電体121および正極集電体131がそれぞれ負極領域12および正極領域13となる。
【0062】
固体電解質の電解質隔壁111の幅EWは、10μm〜100μmとされる。既述したように、固体電解質は液体の電解質に比較して一般にイオン伝導度が低く、良好な充放電特性を得るためには電解質隔壁111の幅EWを小さくする必要がある。このような観点から電解質隔壁111の幅EWは100μm以下とされ、より良好な充放電特性を得るためには幅Ewを50μm以下とするのが望ましい。一方、電解質隔壁111の幅EWが10μm未満となると、薄くなりすぎて負極構造体120と正極構造体130との間で短絡が生じるおそれがある。このため、電解質隔壁111の幅Ewは、10μm〜100μmとしている。
【0063】
また、電解質隔壁111の高さEHは、10μm〜100μmとされる。これも既述したように、固体電解質を用いた電池において高エネルギー密度を得るためには、単位面積あたりの電池容量を大きくすることが必要である。このためには、電解質隔壁111の高さEHを高くする必要がある。この観点から電解質隔壁111の高さEHを少なくとも10μm以上としており、高いほど好ましい。もっとも、電解質隔壁111の高さEHが100μmを超えると、生産性が低下するおそれがある。
【0064】
このように、固体電解質を用いたリチウムイオン二次電池1において、良好な充放電特性および高エネルギー密度を得るためには、固体電解質の電解質隔壁111の幅EWを小さくするとともに高さEHを高くすることが求められる。換言すれば、電解質隔壁111のアスペクト比(高さEH/幅EW)を高くすることが求められ、2以上とすることが好ましい(つまり、電解質隔壁111の高さEHを幅EWの2倍以上とすることが好ましい)。このため、本実施形態においては、固体電解質の電解質隔壁111の高さEHを100μmとし、幅EWを50μmとしている。
【0065】
電解質隔壁111のアスペクト比を高くする場合には、固体電解質材料の塗布液に熱硬化剤または光硬化剤を添加したものを電解質領域11に塗布するのが好ましい。光硬化剤または熱硬化剤を添加した塗布液を電解質領域11に塗布し、塗布後直ちに紫外光などによる光照射またはヒータなどによる加熱を行うことによって高いアスペクトを維持したまま迅速に硬化させて電解質隔壁111を形成することができる。また、固体電解質材料を含む塗布液そのものの固形成分を多くして粘度を高くする(せん断速度1s-1(1/秒)で20Pa・s(パスカル秒)ないし2000Pa・s程度)ことにより、高いアスペクト比の電解質隔壁111を形成するようにしても良い。
【0066】
固体電解質の電解質隔壁111を形成した後、負極領域12の負極集電体121の表面に、負極活物質を含む塗布液を塗布して負極活物質層122を形成する(ステップS4)。負極活物質を含む塗布液としては、例えば負極活物質材料としてのチタン酸リチウム(Li4Ti5O12)に、導電助剤としてのアセチレンブラックまたはケッチェンブラック、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)またはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)などを混合したものを用いることができる。塗布液の粘度としては、例えばせん断速度1s-1で1mPa・sないし100Pa・s程度が望ましい。なお、負極活物質材料としては、上記のチタン酸リチウムの他に例えば黒鉛、金属リチウム、SnO2、合金系などを用いることが可能である。
【0067】
負極活物質を含む塗布液の塗布方法としては種々の公知の塗布方法を適用することが可能であり、例えば上述した固体電解質材料を含む塗布液の塗布と同じノズルディスペンス法を用いることができる。また、インクジェット法またはスクリーン印刷法などを用いるようにしても良い。本実施形態の製造方法では、先行して形成された電解質隔壁111によって塗布液の流出が防止されるため、低粘度の塗布液を用いることによって負極領域12の全体に短時間で効率よく負極活物質を含む塗布液を行き渡らせることができる。
【0068】
図9は、負極領域12の負極集電体121の表面に負極活物質層122が形成された段階の斜視図である。図10は、図9の積層体のC−C切断面を示す断面図である。負極領域12を覆う負極集電体121の表面に負極活物質層122が積層されている。負極活物質層122の上面の高さ位置は電解質隔壁111の上面を超えてはならず、若干低いのが好ましい。すなわち、負極集電体121の厚さと負極活物質層122の厚さとの和が電解質隔壁111の高さEHよりも若干小さくなるように、負極活物質を含む塗布液を塗布するのが好ましい。
【0069】
こうすることによって、電解質隔壁111の一方側の側壁面のほぼ全面に負極活物質層122を接触させることができ、基材10の単位面積あたりの電池容量を大きくしてリチウムイオン二次電池1のエネルギー密度を高めることができる。なお、負極活物質層122の上面の高さ位置が電解質隔壁111の上面を超える程度にまで負極活物質を含む塗布液の塗布すると、負極活物質と正極活物質とが接触して短絡が生じるおそれがある。
【0070】
同様に、固体電解質の電解質隔壁111を形成した後、正極領域13の正極集電体131の表面に、正極活物質を含む塗布液を塗布して正極活物質層132を形成する(ステップS5)。正極活物質を含む塗布液としては、例えば正極活物質材料としてのコバルト酸リチウム(LiCoO2)に、導電助剤としてのアセチレンブラック、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)、溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)などを混合したものを用いることができる。本実施形態にて固体電解質の電解質隔壁111の支持塩として用いている六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)は水と反応して分解する性質を有している。従って、電解質隔壁111に直接接触する正極および負極活物質を含む塗布液の溶媒として水が含まれていると、この溶媒の水と六フッ化リン酸リチウムが反応して分解するおそれがある。このため、正負極の活物質を含む塗布液の溶媒としては水を含まないものが好ましく、本実施形態では例えば有機溶媒であるNMPを用いている。なお、正極活物質材料としては、LiCoO2の他に、LiNiO2またはLiFePO4、LiMnPO4、LiMn2O4、またLiMeO2(Me=MxMyMz;Me、Mは遷移金属、x+y+z=1)で代表的に示される化合物、例えばLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2などを用いることができる。また、正極活物質を含む塗布液の粘度としては、負極活物質の塗布液と同じく、例えばせん断速度1s-1で1mPa・sないし100Pa・s程度が望ましい。
【0071】
正極活物質を含む塗布液の塗布方法としては種々の公知の塗布方法を適用することが可能であり、例えば上述したノズルディスペンス法、インクジェット法またはスクリーン印刷法などを用いることができる。本実施形態の製造方法では、先行して形成された電解質隔壁111によって塗布液の流出が防止されるため、低粘度の塗布液を用いることによって正極領域13の全体に短時間で効率よく正極活物質を含む塗布液を行き渡らせることができる。なお、ステップS4の負極活物質層122の形成とステップS5の正極活物質層132の形成とは順序が逆であっても良い。
【0072】
図11は、正極集電体131の表面に正極活物質層132が形成された段階の斜視図である。図12は、図11の積層体のD−D切断面を示す断面図である。正極領域13を覆う正極集電体131の表面に正極活物質層132が積層されている。これにより、負極活物質層122と正極活物質層132とが電解質隔壁111を挟み込んで交互に基材10の表面に沿って並べられた構造となる。
【0073】
負極活物質層122と同じく、短絡防止のために正極活物質層132の上面の高さ位置は電解質隔壁111の上面を超えてはならず、若干低いのが好ましい。すなわち、正極集電体131の厚さと正極活物質層132の厚さとの和が電解質隔壁111の高さEHよりも若干小さくなるように、負極活物質を含む塗布液の塗布するのが好ましい。より好ましくは、正極活物質層132の上面高さ位置と負極活物質層122の上面高さ位置とを同程度とする。
【0074】
こうすることによって、電解質隔壁111の他方側の側壁面のほぼ全面に正極活物質層132を接触させることができ、固体電解質と正極活物質との接触面積を大きくすることができる。負極活物質および正極活物質の双方と固体電解質との接触面積を大きくすることによりリチウムイオン二次電池1の反応効率を高めることができる。
【0075】
そして、こうして形成された負極活物質層122および正極活物質層132を覆うように、固体電解質材料を含む塗布液を塗布して、活物質層の表面を保護する保護層14を形成する(ステップS6)。保護層14を形成するための塗布液としては、上述した電解質隔壁111を形成する場合のものと同じで良いが、薄く均一な膜を形成するという目的からより低粘度のものが好ましい。保護層14を形成するための塗布方法としても、ノズルディスペンス法、インクジェット法またはスクリーン印刷などを用いることができる。また、負極タブ123および正極タブ133をマスクした上でスピンコート法によって保護層14を形成するようにしても良い。図1,2に示したリチウムイオン二次電池1は、保護層14を形成した後のものである。
【0076】
<3.本実施形態の製造方法の利点>
本実施形態のリチウムイオン二次電池1の製造方法においては、絶縁性の基材10の表面に相対向するように設けられた負極集電体121と正極集電体131との間の隙間である電解質領域11にノズルディスペンス法を用いて固体電解質材料を含む塗布液を塗布し、基材10の表面の電解質領域11に固体電解質の電解質隔壁111を形成している。そして、先に電解質隔壁111を形成してから負極活物質層122および正極活物質層132を形成しているため、それらの短絡を確実に防止することができる。特に、電池特性向上のために電解質隔壁111を薄く高くしたとしても、負極活物質層122および正極活物質層132の形成に先行して仕切壁として機能する電解質隔壁111を形成しているため、正極と負極との短絡を確実に防止することができる。
【0077】
このことは、電解質隔壁111のアスペクト比を高くして良好な充放電特性および高エネルギー密度を得ることが可能なことを示している。すなわち、電解質隔壁111を先行して形成することにより正負極の短絡を確実に防止することができるため、電解質隔壁111の高さEHを幅EWの2倍以上とすることができる。その結果、薄い電解質隔壁111によって充放電特性が良好になるとともに、基材10の単位面積あたりの電池容量が増大することによってエネルギー密度を高めることができ、リチウムイオン二次電池1の電池特性を優れたものとすることができる。
【0078】
電解質隔壁111のアスペクト比を高くする場合には、固体電解質材料の塗布液に熱硬化剤または光硬化剤を添加するのが好ましい。そのような塗布液を電解質領域11に塗布し、光照射または加熱によって迅速に硬化させることにより、塗布後の液だれを防止して高アスペクト比の電解質隔壁111を容易に形成することができる。
【0079】
また、電解質領域11にノズルディスペンス法を用いて固体電解質材料を含む塗布液を塗布して電解質隔壁111を形成し、その後に塗布法によって負極活物質層122および正極活物質層132を形成しているため、少ない工程数で高い生産性にてリチウムイオン二次電池1を製造することができる。
【0080】
また、本実施形態においては、フォトリソグラフィ法を用いて、負極集電体121および正極集電体131が、所定間隔を隔てて互いに噛み合うように対向配置された櫛歯状にパターン形成されている。このため、基材10表面の単位面積あたりの負極活物質層122および正極活物質層132と電解質隔壁111との接触面積を大きくすることができ、リチウムイオン二次電池1の反応効率を向上させることができる。特に、フォトリソグラフィ法によって絶縁性の基材10の表面に負極集電体121および正極集電体131を形成しているため、それらの密着性は良好であり、負極集電体121および正極集電体131が下地の基材10から剥がれるという問題は生じにくい。また、負極集電体121および正極集電体131の形成時に、櫛歯状パターンの歯の部分の面積を大きくしておけば、その後に形成される負極活物質層122および正極活物質層132の体積が増大し、リチウムイオン二次電池1を高容量の電池とすることできる。
【0081】
本実施形態では、負極集電体121および正極集電体131は固体電解質の電解質隔壁111よりも先に形成される要素ではあるが、フォトリソグラフィ法を用いれば非常に高い位置精度にて負極集電体121および正極集電体131の櫛歯状パターンを形成することができる。このため、仕切壁としての電解質隔壁111が存在していなかったとしても、負極集電体121と正極集電体131との接触(短絡)を確実に防止することができる。
【0082】
また、固体電解質材料を含む塗布液を吐出する吐出ノズル40を基材10の表面に対して相対移動させるノズルディスペンス法を用いて電解質領域11に塗布液を塗布しているため、相対向する負極集電体121と正極集電体131との間の隙間である電解質領域11に正確にかつ高いスループットにて固体電解質材料を含む塗布液を塗布して電解質隔壁111を形成することができる。特に、吐出ノズル40に列設された複数の吐出口44から固体電解質材料を含む塗布液を連続的に吐出しつつ、それら複数の吐出口44を一括して相対移動させているため、本実施形態のように互いに平行な電解質領域11に対しては塗布処理に要する時間を顕著に短くすることができる。
【0083】
<4.リチウムイオン電池の応用例>
本実施形態の製造方法によって製造されたリチウムイオン二次電池1は、薄型である上に電池特性も優れている。また、リチウムイオン二次電池1は、有機溶剤を含まない全固体電池であり、取り扱いが容易であるとともに、小型で優れた性能を有するものである。このようなリチウムイオン二次電池1は、例えば電気自動車(ハイブリッド電気自動車を含む)、電動アシスト自転車、電動工具、ロボットなどの機械類や、パーソナルコンピュータ(ノート型パソコンを含む)、携帯電話や携帯型音楽プレイヤー、デジタルカメラやビデオカメラなどのモバイル機器、非接触ICカードを含むRF−ID(Radio Frequency Identification:電波による固体識別)タグ、ゲーム機、ポータブル型の測定機器、通信機器や玩具などの各種の電子機器に使用することが可能である。
【0084】
以下に、本発明に係るリチウムイオン二次電池1を搭載した機器の例について説明するが、これらは本実施形態のリチウムイオン二次電池1を応用しうる機器の一部を例示するものであって、本発明に係るリチウムイオン二次電池1の適用範囲がこれらに限定されるものではない。
【0085】
図13は、本発明に係るリチウムイオン二次電池1を搭載した機器の一例としての車両、具体的には電気自動車を模式的に示す図である。この電気自動車70は、車輪71と、車輪71を駆動するモータ72と、モータ72に電力を供給する電池73とを備えている。この電池73として、上記実施形態のリチウムイオン二次電池1を複数直列および並列に接続したものを電気自動車70に搭載することができる。本実施形態のリチウムイオン二次電池1は、エネルギー密度が高くしかも充放電特性が良好であるため、小型であっても高い出力を得ることができるとともに短時間の充電も可能であり、電気自動車70のような車両の駆動用電源として好適である。
【0086】
図14は、本発明に係るリチウムイオン二次電池1を搭載した機器の他の例としての電子機器、具体的にはRF−IDタグを模式的に示す図である。このRF−IDタグ80は、互いに重ね合わせられることでカード型のパッケージを構成する1対の筐体81,82と、該筐体内に収容される回路モジュール83および該回路モジュール83の電源となる電池84とを備えている。回路モジュール83は、外部との通信のためのループ状のアンテナ831と、アンテナ831を介した外部機器とのデータ交換および種々の演算・記憶処理を実行する集積回路(IC)を含む回路部832とを備えている。電池84としては、本実施形態のリチウムイオン二次電池1を1組または複数組備えるものを用いることができ、回路部832はこの電池84を電源として動作する。
【0087】
このような構成によれば、それ自身は電源を有さないタグ(いわゆるパッシブタグ)に比較して、外部機器との通信可能距離を拡張することができ、またより複雑な処理を行うことが可能となる。本発明に係るリチウムイオン二次電池1は、基材10の表面に沿って負極構造体120と正極構造体130とが電解質隔壁111を介在させつつ交互に配置された構造を有しているため、負極構造体120および正極構造体130の構成数を増やしたとしても容易に薄型を実現することができる。また、上述したように、リチウムイオン二次電池1は、電池としての特性も優れている。よって、カード型のRF−IDタグの電源としても好適である。
【0088】
電気自動車70やRF−IDタグ80以外の機器であっても、例えばノート型パソコンなどの電子機器に本発明に係るリチウムイオン二次電池1を搭載し、ノート型パソコンの回路部(CPU、液晶ディスプレイ、ハードディスク等が有する回路)をリチウムイオン二次電池1を電源として動作させるようにしても良い。
【0089】
<5.変形例>
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態においては、負極集電体121および正極集電体131を直線状の歯を有する櫛歯状パターンに形成していたが、櫛歯の歯の形状は直線状に限定されるものではなく、他の形状であっても良い。例えば、図15に示すように、櫛歯状パターンの歯の形状を曲線状としても良い。同図に示すパターン例においても、負極集電体121および正極集電体131は、平面視で所定間隔を隔てて互いに噛み合うように対向配置された櫛歯状にパターン形成されている。すなわち、「櫛歯状」とは複数の歯を有する形状であり、極集電体121および正極集電体131はともに複数の歯を備えた櫛歯状に形成されており、一方の歯が他方の隣り合う歯の間に入り込むような配置構成とされている。但し、図15に示す例での櫛歯状パターンの歯の形状は正弦曲線である。
【0090】
このような櫛歯状パターンを有する負極集電体121および正極集電体131は、上記実施形態と同様にフォトリソグラフィ法によって形成すれば良い。そして、負極集電体121および正極集電体131の双方の曲線状櫛歯の隙間が電解質領域11となり、その電解質領域11に沿ってノズルディスペンス法により正弦曲線状に固体電解質材料を含む塗布液が塗布される。図15に示すパターンであっても、電解質領域11は互いに平行な正弦曲線状となるため、複数の吐出口44から固体電解質材料を含む塗布液を連続的に吐出しつつ、吐出ノズル40を正弦曲線の軌跡を描くように相対移動させることにより、複数の電解質領域11に対して一括して塗布を行うことができる。この塗布液を乾燥硬化させることにより、負極集電体121と正極集電体131との間に固体電解質の電解質隔壁111が正弦曲線状に形成される。電解質隔壁111と接する負極集電体121および正極集電体131がそれぞれ負極領域12および正極領域13となる。その後、上記実施形態と同様に、負極領域12の負極集電体121の表面に負極活物質を含む塗布液を塗布して負極活物質層122を形成するとともに、正極領域13の正極集電体131の表面に正極活物質を含む塗布液を塗布して正極活物質層132を形成する。このようにしても、上記実施形態と同じく、先に電解質隔壁111を形成してから負極活物質層122および正極活物質層132を形成しているため、正負極の短絡を確実に防止しつつ、電池特性の優れた電池を高い生産性にて製造することができる。
【0091】
また、図15に示す正弦曲線状のパターンをジグザグの折れ線パターンとしても良い。すなわち、櫛歯状パターンの歯の形状をジグザグの折れ線形状としても良い。この場合であっても、電解質領域11は互いに平行な折れ線形状となるため、複数の吐出口44から固体電解質材料を含む塗布液を連続的に吐出しつつ、吐出ノズル40を折れ線形状の軌跡を描くように相対移動させることにより、複数の電解質領域11に対して一括して塗布を行うことができる。
【0092】
また、負極集電体121および正極集電体131の双方の櫛歯の隙間である電解質領域11は互いに平行であることに限定されるものではなく、例えば図16に示すように、電解質領域11が互いに平行でなくても良い。但し、この場合、単一の吐出口を有するノズルを基材10の表面に対して相対移動させることによって電解質領域11に固体電解質材料を含む塗布液が塗布される。具体的には、単一の吐出口から固体電解質材料を含む塗布液を連続的に吐出しつつ、当該ノズルを基材10に対して相対移動させることにより、互いに平行でない電解質領域11に対して固体電解質材料を含む塗布液を塗布して電解質隔壁111を形成している。このとき、それぞれが単一の吐出口を有する複数のノズルを個別に相対移動させるようにしても良いし、単一の吐出口を有する1つのノズルを繰り返して相対移動させるようにしても良い。図16に示す例においても、電解質隔壁111と接する負極集電体121および正極集電体131がそれぞれ負極領域12および正極領域13となる。
【0093】
そして、電解質隔壁111が形成された後、負極領域12の負極集電体121の表面に負極活物質を含む塗布液を塗布して負極活物質層122を形成するとともに、正極領域13の正極集電体131の表面に正極活物質を含む塗布液を塗布して正極活物質層132を形成する。このようにしても、先に電解質隔壁111を形成してから負極活物質層122および正極活物質層132を形成しているため、正負極の短絡を確実に防止しつつ、電池特性の優れた電池を高い生産性にて製造することができる。もっとも、上記実施形態のように、複数の吐出口44を有する吐出ノズル40を相対移動させて複数の電解質領域11に対して一括して塗布液を塗布するようにした方が高い生産性を得ることができる。
【0094】
図1に示すような互いに平行な電解質領域11に対して、単一の吐出口を有するノズルから固体電解質材料を含む塗布液を塗布するようにしても良い。単一の吐出口を有するノズルであれば、負極集電体121と正極集電体131との間の隙間全体に固体電解質材料を含む塗布液を塗布して電解質隔壁111を形成するようにしても良い。負極として機能する負極領域12(つまり、負極活物質層122を形成する領域)は、電解質隔壁111と接する負極集電体121のうちの任意の領域とすることができる。同様に、正極として機能する正極領域13(つまり、正極活物質層132を形成する領域)も電解質隔壁111と接する正極集電体131のうちの任意の領域とすることができる。
【0095】
また、負極集電体121および正極集電体131の形状は、必ずしも櫛歯状のパターンを有することに限定されるものではない。櫛歯状のパターンを有していなくても、負極集電体121および正極集電体131を基材10の表面に相対向するように設け、その隙間の電解質領域11に固体電解質材料を含む塗布液を塗布するようにすれば電池構造を実現することができる。但し、基材10の単位面積当たりの電池反応効率を高める観点からは、負極集電体121および正極集電体131を互いに噛み合うように対向配置された櫛歯状にパターン形成した方が好ましい。
【0096】
また、上記実施形態においては、電解質領域11にノズルディスペンス法を用いて固体電解質材料を含む塗布液を塗布して電解質隔壁111を形成するようにしていたが、他の手法によって固体電解質の電解質隔壁111を形成するようにしても良い。例えば、インクジェット法やスクリーン印刷法によって電解質隔壁111を形成するようにしても良い。但し、これらの手法を採用した場合には、電解質隔壁111の高さEHを高くするためには複数回の重ね塗りを必要とするため、ノズルディスペンス法を用いた方が迅速に高いアスペクト比の電解質隔壁111を形成することができる。
【0097】
また、上記実施形態では、最終工程として保護層14を形成するようにしていたが、電池として機能する構造を実現する上では保護層14を形成することは必須の要件ではなく、これを省略するようにしても良い。
【0098】
また、上記実施形態では、負極集電体121を銅にて形成し、正極集電体131をアルミニウムにて形成していたが、これら以外の金属材料を用いても良く、さらには負極集電体121および正極集電体131を同一の金属材料(例えば、金)によって形成するようにしても良い。正負の集電体121,131を同一の金属材料にて形成するのであれば、フォトリソグラフィ法によって負極集電体121および正極集電体131を同時に形成することができる。
【0099】
また、上記実施形態で例示した集電体、活物質、電解質等の材料はその一例を示したものであってこれに限定されるものではなく、リチウムイオン二次電池の構成材料として用いられる他の材料を使用してリチウムイオン二次電池を製造する場合においても、本発明に係る製造方法を好適に適用することが可能である。また、リチウムイオン二次電池に限らず、リチウムイオン一次電池やアルカリ電池等の他の種類の化学電池の製造に本発明に係る製造方法を適用するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、電解質としてポリマー電解質などの固体電解質を用いた全固体電池の製造技術に好適に適用することができ、特に薄型で電池特性の優れた電池を高い生産性にて製造するのに適している。
【符号の説明】
【0101】
1 リチウムイオン二次電池
2 塗布ユニット
10 基材
11 電解質領域
12 負極領域
13 正極領域
14 保護層
20 ステージ移動機構
30 ステージ
40 吐出ノズル
44 吐出口
70 電気自動車
80 RF−IDタグ
111 電解質隔壁
120 負極構造体
121 負極集電体
122 負極活物質層
130 正極構造体
131 正極集電体
132 正極活物質層
832 回路部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性の基材の表面に相対向するように設けられた負極集電体と正極集電体との間の電解質領域に固体電解質材料を含む塗布液を塗布し、前記基材の表面の前記電解質領域に電解質隔壁を形成する電解質隔壁形成工程と、
前記電解質隔壁形成工程の後、前記負極集電体の表面に負極活物質を含む塗布液を塗布して負極活物質層を形成する負極活物質層形成工程と、
前記電解質隔壁形成工程の後、前記正極集電体の表面に正極活物質を含む塗布液を塗布して正極活物質層を形成する正極活物質層形成工程と、
を備えることを特徴とする電池の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の電池の製造方法において、
前記負極集電体および前記正極集電体は、平面視で所定間隔を隔てて互いに噛み合うように対向配置された櫛歯状にパターン形成されていることを特徴とする電池の製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の電池の製造方法において、
前記電解質隔壁の高さは幅の2倍以上であることを特徴とする電池の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の電池の製造方法において、
前記電解質隔壁形成工程では、熱硬化剤または光硬化剤を添加した塗布液を前記電解質領域に塗布することを特徴とする電池の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の電池の製造方法において、
前記負極集電体および前記正極集電体は、フォトリソグラフィ法により形成されることを特徴とする電池の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の電池の製造方法において、
前記電解質隔壁形成工程では、固体電解質材料を含む塗布液を吐出するノズルを前記基材の表面に対して相対移動させて前記電解質領域に当該塗布液を塗布することを特徴とする電池の製造方法。
【請求項7】
請求項6記載の電池の製造方法において、
前記電解質隔壁形成工程では、ノズルに列状に配設した複数の吐出口から固体電解質材料を含む塗布液を吐出させながら当該ノズルを前記基材の表面に対して相対移動させることを特徴とする電池の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の電池の製造方法において、
前記負極活物質層および前記正極活物質層を連続的に覆う保護層を形成する保護層形成工程をさらに備えることを特徴とする電池の製造方法。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれかに記載の電池の製造方法によって製造された電池。
【請求項10】
請求項9記載の電池を搭載することを特徴とする車両。
【請求項11】
請求項9記載の電池を備えることを特徴とするRF−IDタグ。
【請求項12】
請求項9記載の電池と、
前記電池を電源として動作する回路部と、
を備えることを特徴とする電子機器。
【請求項1】
絶縁性の基材の表面に相対向するように設けられた負極集電体と正極集電体との間の電解質領域に固体電解質材料を含む塗布液を塗布し、前記基材の表面の前記電解質領域に電解質隔壁を形成する電解質隔壁形成工程と、
前記電解質隔壁形成工程の後、前記負極集電体の表面に負極活物質を含む塗布液を塗布して負極活物質層を形成する負極活物質層形成工程と、
前記電解質隔壁形成工程の後、前記正極集電体の表面に正極活物質を含む塗布液を塗布して正極活物質層を形成する正極活物質層形成工程と、
を備えることを特徴とする電池の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の電池の製造方法において、
前記負極集電体および前記正極集電体は、平面視で所定間隔を隔てて互いに噛み合うように対向配置された櫛歯状にパターン形成されていることを特徴とする電池の製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の電池の製造方法において、
前記電解質隔壁の高さは幅の2倍以上であることを特徴とする電池の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の電池の製造方法において、
前記電解質隔壁形成工程では、熱硬化剤または光硬化剤を添加した塗布液を前記電解質領域に塗布することを特徴とする電池の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の電池の製造方法において、
前記負極集電体および前記正極集電体は、フォトリソグラフィ法により形成されることを特徴とする電池の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の電池の製造方法において、
前記電解質隔壁形成工程では、固体電解質材料を含む塗布液を吐出するノズルを前記基材の表面に対して相対移動させて前記電解質領域に当該塗布液を塗布することを特徴とする電池の製造方法。
【請求項7】
請求項6記載の電池の製造方法において、
前記電解質隔壁形成工程では、ノズルに列状に配設した複数の吐出口から固体電解質材料を含む塗布液を吐出させながら当該ノズルを前記基材の表面に対して相対移動させることを特徴とする電池の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の電池の製造方法において、
前記負極活物質層および前記正極活物質層を連続的に覆う保護層を形成する保護層形成工程をさらに備えることを特徴とする電池の製造方法。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれかに記載の電池の製造方法によって製造された電池。
【請求項10】
請求項9記載の電池を搭載することを特徴とする車両。
【請求項11】
請求項9記載の電池を備えることを特徴とするRF−IDタグ。
【請求項12】
請求項9記載の電池と、
前記電池を電源として動作する回路部と、
を備えることを特徴とする電子機器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−119236(P2012−119236A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269638(P2010−269638)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】
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