説明

電池の製造方法

【課題】固体電解質を用いる電池の製造方法において、固体電解質の材料や厚さ等に制約を受けることなく、電池をより安定的に製造することのできる技術を提供する。
【解決手段】負極集電体11の表面に、Y方向に延びるラインアンドスペース構造の負極活物質層12をノズルスキャン法により塗布形成する。これを覆うように薄い固体電解質層13を形成した後、正極活物質材料および高分子電解質材料を含む粉体の層PLを固体電解質層13の表面に堆積させる。正極集電体15となる金属膜を重ねた後、全体をホットプレスして粉体の層PLに含まれる高分子電解質材料を融解させることで、粉体の層PLを固化させて正極活物質層14に変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、正負両極の活物質層の間に固体電解質材料からなる電解質層を介在させてなる電池の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばリチウムイオン電池のような化学電池を製造する方法としては、従来より、正極活物質および負極活物質をそれぞれ集電体としての金属箔に付着させた正負両極の電極をセパレータを介して重ね合わせ、セパレータに電解液を含浸させる技術が知られている。しかしながら、近年では電池のさらなる小型化・高出力化が求められることから、各機能層を平板状に積層する構造に代えて、凹凸構造を有する正負電極を立体的に組み合わせることで相互の対向面積を増大させた構造が提案されてきている。
【0003】
例えば、本願出願人が先に開示した特許文献1に記載の技術では、活物質材料を含む塗布液をノズルスキャン法によって集電体表面にストライプ状に塗布していわゆるラインアンドスペース構造の一方極活物質層を形成し、さらに固体電解質材料を含む塗布液、他方極活物質材料を含む塗布液を順次塗布することによって、正負の活物質層が薄い固体電解質層を挟んで対向した全固体電池を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−070788号公報(例えば、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在実用化されている固体電解質は、一般に電解液に比べてイオン伝導度が小さいため、全固体電池として良好な性能を得るためには固体電解質層を薄く形成することが重要となってくる。しかしながら、電解質層形成後に他の塗布液を塗布する場合、塗布液に含まれる溶剤に電解質材料が溶け出す可能性がある。電解質層が特に薄い場合には、その溶出によって正負の活物質層間で短絡を生じることもあり得るため、電解質の組成や厚さ、溶剤の種類等の組み合わせが制約されることも考えられる。このことから、材料や厚さ等に制約を受けることなく、薄い電解質層を用いた全固体電池を安定的に製造することのできる技術の確立が望まれる。
【0006】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、固体電解質を用いる電池の製造方法において、固体電解質の材料や厚さ等に制約を受けることなく、電池をより安定的に製造することのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明にかかる電池の製造方法は、上記目的を達成するため、正極および負極のうち一方極の集電体を有する基材の表面に、前記一方極の活物質材料を含む塗布液を互いに平行な複数のストライプ状に塗布して一方極活物質層を形成する第1工程と、前記一方極活物質層の表面を覆うように、固体電解質材料を含む固体電解質膜を形成する第2工程と、前記固体電解質膜の表面に、該表面を覆って、前記一方極とは反対の他方極の活物質材料および前記固体電解質材料を含む粉体を付着させる第3工程と、前記粉体の層を覆って、前記一方極とは反対の他方極の集電体を積層する第4工程と、前記粉体の層を加熱により融解させた後に固化させて他方極活物質層を形成する第5工程とを備えることを特徴としている。
【0008】
このように構成された発明では、一方極活物質層を覆う固体電解質膜の形成後に溶剤を含む塗布液を用いず、他方極活物質材料を固体電解質材料とともに粉体として供給し固体電解質膜の表面に供給する。このため、形成済みの固体電解質膜が溶剤により侵されることがない。そして、他方極の集電体を積層してから粉体を加熱し融解することで、粉体の層を固体電解質膜と他方極集電体との間に介在する他方極活物質層とする。このとき、粉体の層に加えられた固体電解質材料が融解して活物質粒子同士を結着させる結着剤(バインダ)としての機能を果たし、粉体の層が十分な強度を有する固体層となる。また、粉体の層の中で電解質材料が融解することで、固体電解質膜と他方極活物質層との間、および他方極活物質層と他方極集電体との間の密着性が向上する。さらには、形成済みの一方極活物質層と固体電解質膜との間においても密着性がより向上する。
【0009】
これらのことから、この発明では、固体電解質の材料や厚さ等が使用溶剤による制約を受けることがなく、例えば薄い固体電解質膜を有する電池であっても、安定的に製造することが可能となる。
【0010】
この発明において、例えば第5工程では、基材、一方極活物質層、固体電解質膜、粉体の層および他方極の集電体を積層してなる積層体に対して熱および圧力を加えることで粉体を融解させるようにしてもよい。こうすることで、各層間に生じうる隙間を確実に消滅させて、各層の密着性をさらに向上させることができる。
【0011】
また、第3工程において用いる粉体は、例えば導電助剤をさらに含んだものであってもよい。こうすることで、活物質と電解質との間での電荷の移動がよりスムーズとなり、電池としての性能をより向上させることができる。
【0012】
また例えば、固体電解質材料が、高分子電解質材料であってもよい。電解質として機能する高分子材料として知られているものは比較的低融点であることから、第5工程における加熱処理における加熱温度も比較的低くて済み、他の機能層の変質等の問題が生じにくくなる。この場合、第5工程では高分子電解質材料の融点以上に粉体を加熱すれば、高分子材料を加熱融解した後固化させた層が電解質層として機能することとなり、安定した電池性能を得ることができる。
【0013】
また例えば、第3工程よりも前に、他方極の活物質材料、固体電解質材料および溶剤を含むスラリーを調製し、該スラリーから溶剤を揮発させた残留物を粉砕して粉体を製造する粉体準備工程をさらに備えてもよい。固体として供給される粉体の材料をそれぞれ混合しただけでは十分に均質な粉体を得られない場合があり、これが電池性能のばらつきの原因となる。いったんスラリー状に混合した材料を粉体化させて用いることで、このような問題を未然に回避することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、固体電解質膜の形成後、活物質材料および固体電解質材料を含む粉体を固体電解質膜表面に積層し、これを融解させた後固化させて活物質層を形成するので、溶剤に起因する固体電解質膜の溶出がなく、種々の材料、厚さの電解質膜を有する電池を安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明にかかる電池の製造方法により製造される電池の一例を示す図である。
【図2】この実施形態におけるリチウムイオン二次電池モジュールの製造方法を示すフローチャートである。
【図3】この製造方法の各処理工程の進行状況を模式的に示す図である。
【図4】ノズルスキャン法による負極活物質層形成の様子を模式的に示す図である。
【図5】正極活物質材料の吹き付けの様子を模式的に示す図である。
【図6】ホットプレス前後での状態変化を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1はこの発明にかかる電池の製造方法により製造される電池の一例を示す図である。より詳しくは、図1(a)はこの発明にかかる電池の製造方法の一実施形態により形成される電池としてのリチウムイオン二次電池モジュールの概略構造を示す外観斜視図であり、図1(b)はその断面構造を示す図である。このリチウムイオン二次電池モジュール1は、負極集電体11の上に負極活物質層12、固体電解質層13、正極活物質層14および正極集電体15を順番に積層した構造を有している。この明細書では、説明の便宜上、X、YおよびZ座標方向をそれぞれ図1(a)に示すように定義する。
【0017】
図1(b)に示すように、負極活物質層12はY方向に沿って延びるストライプ状のパターン121がX方向に一定間隔を空けて多数並んだ、ラインアンドスペース構造となっている。各ストライプ状パターン121の寸法としては、その幅、高さとも例えば20μmないし200μmとすることができる。
【0018】
一方、固体電解質層13は固体電解質によって形成された連続する薄膜であり、上記のように負極集電体11上に負極活物質層12が形成されてなる積層体表面の凹凸に倣う(追従する)ように、該積層体上面のほぼ全体を一様に覆っている。固体電解質層13の厚さについては任意であるが、正負の活物質層間が確実に分離され、また内部抵抗が許容値以下となるような厚さであることが必要である。例えば20μmないし50μmとすることができる。なお、表面積を増大させるために設けた負極活物質層12の凹凸の意義を滅却しない、という観点からは、固体電解質層13の厚さt13が負極活物質層12の凹凸の高低差t12よりも小さいことが望ましい。
【0019】
また、正極活物質層14は、その下面側は固体電解質層13上面の凹凸に倣った凹凸構造を有するが、その上面は略平坦となっている。正極活物質層14の厚さとしては、例えば20μmないし100μmとすることができる。そして、このように略平坦に形成された正極活物質層14の上面に正極集電体15が積層されて、リチウムイオン二次電池モジュール1が形成される。このリチウムイオン二次電池モジュール1に適宜タブ電極が設けられたり、複数のモジュールが積層されてリチウムイオン二次電池が構成される。
【0020】
ここで、各層を構成する材料としては、リチウムイオン電池の構成材料として公知のものを用いることが可能であり、負極集電体11、正極集電体15としては、例えば銅箔、アルミニウム箔をそれぞれ用いることができる。また、正極活物質としては例えばLiCoO2(LCO)を主体とするものを、負極活物質としては例えばLi4Ti512(LTO)を主体としたものをそれぞれ用いることができる。また、固体電解質層13としては、例えばポリエチレンオキサイドとポリスチレンとの共重合体を用いることができる。なお、各機能層の材質についてはこれらに限定されるものではない。
【0021】
このような構造を有するリチウムイオン二次電池モジュール1は、薄型で折り曲げ容易である。また、負極活物質層12を図示したような凹凸を有する立体的構造として、その体積に対する表面積を大きくしているので、薄い固体電解質層13を介した正極活物質層14との対向面積を大きく取ることができ、高効率・高出力が得られる。このように、上記構造を有するリチウムイオン二次電池は小型で高性能を得ることができるものである。
【0022】
次に、上記したリチウムイオン二次電池モジュール1を製造する方法について説明する。図2はこの実施形態におけるリチウムイオン二次電池モジュールの製造方法を示すフローチャートである。また、図3はこの製造方法の各処理工程の進行状況を模式的に示す図である。この製造方法では、まず負極集電体11となる金属箔、例えば銅箔を後述の塗布工程の基材として準備する(ステップS101)。薄い銅箔はその搬送や取り扱いが難しいので、例えば片面をガラス板や樹脂シート等のキャリアに適宜の固定方法で固定し搬送性を高めておくことが好ましい。以下の処理においては、このように銅箔をキャリアに固定したものを処理対象物たるワークとする。
【0023】
続いて、こうして準備されたワークの銅箔面に、負極活物質材料を含む塗布液をノズルスキャン法により塗布し、これによって、図3(a)に示すように、ストライプ状パターン121からなる負極活物質層12を形成する(ステップS102)。
【0024】
図4はノズルスキャン法による負極活物質層形成の様子を模式的に示す図である。より詳しくは、図4(a)はノズルスキャン法による塗布の様子をX方向から見た図、図4(b)および図4(c)は同じ様子をそれぞれY方向、斜め上方から見た図である。ノズルスキャン法によって塗布液を基材に塗布する技術は公知であり、本方法においてもそのような公知技術を適用することが可能であるので、装置構成については詳しい説明を省略する。
【0025】
塗布液としては、例えば、前記した負極活物質を含む有機系LTO材料(有機・無機複合材料)を用いることができる。塗布液には、負極活物質の他に、導電助剤としてのアセチレンブラックまたはケッチェンブラック、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)またはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)などを混合したものを用いることができる。上記結着剤に代えて、あるいは上記結着剤とともに前記した固体電解質材料を添加することがより望ましい。なお、負極活物質材料としては上記したLTOの他に例えば黒鉛、金属リチウム、SnO2、合金系などを用いることが可能である。
【0026】
ノズルスキャン法では、上記有機系LTO材料を塗布液として吐出するための吐出口311をY方向に沿って複数配設された吐出ノズル31を基材(銅箔)11の上方に配置し、吐出口311から一定量の塗布液32を吐出させながら、吐出ノズル31を銅箔11に対し相対的に矢印方向Dnに一定速度で走査移動させる。
【0027】
こうすることで、基材たる銅箔11上には塗布液32がY方向に沿ったストライプ状に塗布される。吐出ノズル31に複数の吐出口311を設けることで1回の走査移動で複数のストライプを形成することができ、必要に応じて走査移動を繰り返すことで、銅箔11の全面にストライプ状に塗布液を塗布することができる。これにより、銅箔11の上面に負極活物質によるストライプ状パターン121が形成される。
【0028】
図2に戻って、この実施形態におけるリチウムイオン二次電池モジュールの製造方法の説明を続ける。上記のようにして基材11上に負極活物質層12を形成した後、続いて高分子電解質材料による固体電解質層13の形成を行う(ステップS103)。固体電解質層13については、例えば固体電解質材料を含む塗布液を負極電極に塗布することにより形成することができる。塗布方法は任意であるが、負極活物質層12表面の凹凸に倣った凹凸を有する薄膜状の固体電解質層を形成するのに適した公知の塗布方法としては、上記のノズルスキャン法のほか、スピンコート法やスプレーコート法、インクジェット法などがある。
【0029】
この場合の塗布液としては、前記した高分子電解質材料、例えばポリエチレンオキサイドとポリスチレンとの共重合体、支持塩としての例えばLiPF6(六フッ化リン酸リチウム)および溶剤としての例えばジエチレンカーボネートなどを混合したものを用いることができる。
【0030】
そして、こうして塗布された塗布液を乾燥硬化させて(ステップS104)、図3(b)に示すように負極活物質層12の表面および基材11の露出表面を連続的に覆う、薄膜状の固体電解質層13を得る。乾燥硬化のための処理としては、乾燥雰囲気中に所定時間静置する、加熱する、減圧する等の方法を適用することが可能である。なお、ここでの硬化は完全なものである必要はなく、例えばある程度の流動性を残すようにしてもよい。次に説明するように正極活物質材料は粉体として供給されることから、電解質層の硬化を不完全なものとすることで、粉体の付着を容易にすることが可能である。
【0031】
続いて、固体電解質層13の表面を覆うようにして正極活物質層14を形成する。ここでは、正極活物質材料を塗布液としてではなく粉体として固体電解質層13の表面に供給する。しかもこのとき、供給する粉体には正極活物質材料のみでなく上記した高分子電解質材料と、導電助剤とを混合したものを用いる。すなわち、この実施形態では、正極活物質材料、高分子電解質材料および導電助剤を含む粉体を吹き付け堆積させることにより、固体電解質層13の表面に正極活物質層14の材料物質を供給する(ステップS105)。粉体における正極活物質材料、高分子電解質材料および導電助剤の混合比としては、例えば重量比で6:2:2程度とすることができる。
【0032】
この粉体は、例えば上記した各材料を所定の比率で適宜の溶剤(例えばNMP)に予め溶解させて均質なスラリーを製造した後、このスラリーから溶剤成分を揮発させて残った残留物を粉砕することにより調製することが可能である(粉体準備工程)。このように、材料をいったん溶剤に溶解させることで各材料を均一に混合することができ、これを用いて形成される正極活物質層の特性のばらつきを抑制することができる。
【0033】
正極活物質材料としては、上記したLCOの他、LiNiO2またはLiFePO4、LiMnPO4、LiMn24、またLiMeO2(Me=MxMyMz;Me、Mは遷移金属、x+y+z=1)で代表的に示される化合物、例えばLiNi1/3Mn1/3Co1/32、LiNi0.8Co0.15Al0.052などを用いることができる。
【0034】
図5は正極活物質材料の吹き付けの様子を模式的に示す図である。この時点における処理対象たるワークWは、基材である銅箔11上に複数のストライプ状パターン121からなる負極活物質層12が形成され、さらに負極活物質層12および基材11の表面を薄い固体電解質層13が覆った状態のものである。このワークWの上方に、粉体を噴射可能なノズル41を配置し、該ノズル41から正極活物質材料、高分子電解質材料および導電助剤を含む粉体42をワークWに吹き付けて、図3(c)に示すように、固体電解質層13の表面に粉体の層PLを堆積させる。必要に応じて、ノズル41をワークWに対して相対的に走査移動させてもよい。
【0035】
このような粉体の吹き付けには、例えば公知の粉体塗装技術を適用することが可能である。したがって、ここでは装置構成の詳しい説明は省略する。
【0036】
再び図2に戻って説明を続ける。こうして形成された粉体の層PLに対して、これを覆うように正極集電体となる金属膜、例えばアルミニウム箔を重ね合わせる(ステップS106)。図3(d)に示すように、この時点では粉体の層PLは単に固体電解質層13上に粉体が付着堆積したものであり崩れやすい状態である。そこで、これを固化させるために、図3(e)に示すように、それぞれヒータ511,521を有する加熱プレート51,52によりワークを挟み込んで所定時間加熱および加圧するホットプレス処理を行う(ステップS107)。ヒータをいずれか一方のプレートのみに設けてもよく、例えば上部側の加熱プレート51のみにヒータを設けるようにしてもよい。またホットプレスとともに周囲雰囲気を減圧して、各層内に残る気泡の除去を促進するようにしてもよい。
【0037】
加熱温度は高分子電解質材料の融点以上とする。これにより粉体の層PLに含まれている高分子電解質材料が融解し、これが再び固化することでバインダとしての機能を持つようになる。すなわち、塗布により正極活物質層を形成した場合と同様の結果が得られる。ただしこの実施形態では溶剤を用いずに正極活物質材料を供給しているため、薄い固体電解質層13が溶剤に溶出して正負極が短絡してしまうという問題は生じない。また、ホットプレスを行うことで、次のような効果も得られる。
【0038】
図6はホットプレス前後での状態変化を模式的に示す図である。より詳しくは、図6(a)はホットプレス前における各層の状態を表す断面図であり、図6(b)はホットプレス後の状態を表す図である。この実施形態の製造方法(図4)のステップS101ないしS106までの処理では、負極集電体である銅箔11の表面に負極活物質層12を塗布により形成し、さらにその上に固体電解質層13を塗布により形成する。そして、その上に正極活物質材料を主体とする粉体の層PLを堆積させた後に、正極集電体であるアルミニウム箔14を重ね合わせる。
【0039】
図6(a)に示すように、このとき負極活物質層12は負極活物質材料の粒子と導電助剤の粒子とを含み、これらが塗布液に添加されたバインダ(図示せず)によって結合された状態である。塗布液に負極活物質材料とともに高分子電解質材料を加えておくことにより、負極活物質層12の形成後に塗布により形成される固体電解質層13と、負極活物質層12との界面における密着性が向上する。
【0040】
一方、粉体の層PLはそれぞれ微粒子状の正極活物質材料、高分子電解質材料および導電助剤を含み、しかもそれらの間には比較的大きな空隙があり粒子間の結着も弱い。また硬化後の固体電解質層13に粉体を堆積させていることから、固体電解質層13と粉体の層PLとの界面がはっきりしている。このため、正極活物質材料と固体電解質層13との間での電荷の移動がスムーズに行えず、この時点では電池としての性能が不十分である。
【0041】
ホットプレス処理を行った後では、図6(b)に示すように、粉体の層PLに含有されていた固体電解質材料が融解して正極活物質の粒子間に浸透しその隙間を埋めるとともに、既設の固体電解質層13との界面における固体電解質層13との密着性も向上する。これにより電池としての性能が改善され、しかもより安定した性能を有するものとなる。また導電助剤を添加することで、電解質層と活物質層との間、および活物質層と集電体層との間での電荷移動をよりスムーズにすることができる。
【0042】
また、形成済みの固体電解質層13においても加熱により高分子電解質材料が融解して、塗布により形成されている負極活物質層12や固体電解質層13自身に残留している空隙を埋めることも期待される。これにより、電池としての性能がより向上する。
【0043】
以上のように、この実施形態では、電解質として高分子電解質材料を用いた電池の製造方法において、負極集電体11上にラインアンドスペース構造で形成した負極活物質層12を覆うように、薄い固体電解質層13を塗布により形成する。次いで正極活物質層14を積層するのに際して、溶剤を含む塗布液ではなく、正極活物質材料を主体とする粉体を堆積させる。このため、形成済みの固体電解質が溶剤に溶出して正負極が短絡してしまうという問題は生じず、薄い電解質層を有する電池であっても安定して製造することが可能となっている。
【0044】
また、正極活物質材料を供給するための粉体に固体電解質材料を含有させているため、加熱によって融解した固体電解質材料をバインダとして機能させて正極活物質層14を安定化させるとともに、電解質材料が活物質層内部に浸透することで、電解質層を介した電荷の移動をスムーズにして、電池としての性能を向上させることが可能となっている。
【0045】
以上説明したように、この実施形態では、負極および正極が本発明の「一方極」および「他方極」にそれぞれ相当しており、負極活物質層12および正極活物質層14がそれぞれ本発明の「一方極活物質層」および「他方極活物質層」に相当している。
【0046】
また、この実施形態の電池の製造方法(図4)においては、ステップS102が本発明の「第1工程」に相当する一方、ステップS103が本発明の「第2工程」に相当している。また、ステップS105が本発明の「第3工程」に相当し、ステップS106およびS107がそれぞれ本発明の「第4工程」および「第5工程」に相当している。
【0047】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態の電池の製造方法では、負極活物質材料を塗布してから正極活物質材料を塗布しているが、これらの順序は逆であってもよい。すなわち、負極活物質材料を含む粉体を準備し、正極活物質層および固体電解質層の形成後に、該粉体を堆積させるようにしてもよい。また、固体電解質層の形成方法は塗布に限定されるものではない。
【0048】
また、上記実施形態では、正極活物質材料を供給するための粉体に別途バインダを加えず、高分子電解質材料をバインダとしても機能させている。しかしながら、例えば電解質としての機能とバインダとしての機能とを分離し、電解質材料とは別にバインダとしての機能を有する材料を粉体に含有させるようにしてもよい。このようにした場合には、電解質材料として比較的融点の高い材料を使用することも可能となり、例えば無機固体電解質材料を用いた電池の製造に本発明を適用することができる。
【0049】
また、上記実施形態では、負極集電体として機能する銅箔11を本発明の「基材」に相当するものとして用いているが、これに限定されず、例えば集電体層が形成された導電性または絶縁性の基板を本発明の「基材」として用いてもよい。また例えば、一方極の集電体層と同極の活物質層とを積層したものを本発明の「基材」としてもよい。このような基材を用いた電池の製造方法に本発明を適用することで、固体電解質層を介した正負の活物質層の対向面積を増大させて、電池性能の向上を図ることができる。
【0050】
また、上記実施形態で例示した集電体、活物質、電解質等の材料はその一例を示したものであってこれに限定されず、リチウムイオン電池の構成材料として用いられる他の材料を使用してリチウムイオン電池を製造する場合においても、本発明の製造方法を好適に適用することが可能である。また、リチウムイオン電池に限らず、他の材料を用いた化学電池全般に本発明を適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
この発明は、例えばリチウムイオン二次電池のように正負極の活物質層が固体電解質層を介して対向する構造を有する電池に適用可能であり、特に、固体電解質層を薄く形成する必要がある場合に好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 電池モジュール(電池)
11 負極集電体(一方極の集電体)
12 負極活物質層(一方極活物質層)
13 固体電解質層(固体電解質膜)
14 正極活物質層(他方極活物質層)
15 正極集電体(他方極の集電体)
S102 第1工程
S103 第2工程
S105 第3工程
S106 第4工程
S107 第5工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極および負極のうち一方極の集電体を有する基材の表面に、前記一方極の活物質材料を含む塗布液を互いに平行な複数のストライプ状に塗布して一方極活物質層を形成する第1工程と、
前記一方極活物質層の表面を覆うように、固体電解質材料を含む固体電解質膜を形成する第2工程と、
前記固体電解質膜の表面に、該表面を覆って、前記一方極とは反対の他方極の活物質材料および前記固体電解質材料を含む粉体を付着させる第3工程と、
前記粉体の層を覆って、前記一方極とは反対の他方極の集電体を積層する第4工程と、
前記粉体の層を加熱により融解させた後に固化させて他方極活物質層を形成する第5工程と
を備えることを特徴とする電池の製造方法。
【請求項2】
前記第5工程では、前記基材、前記一方極活物質層、前記固体電解質膜、前記粉体の層および前記他方極の集電体を積層してなる積層体に対して熱および圧力を加えることで前記粉体を融解させる請求項1に記載の電池の製造方法。
【請求項3】
前記粉体は、導電助剤をさらに含んだものである請求項1または2に記載の電池の製造方法。
【請求項4】
前記固体電解質材料が、高分子電解質材料である請求項1ないし3のいずれかに記載の電池の製造方法。
【請求項5】
前記第5工程では、前記高分子電解質材料の融点以上に前記粉体を加熱する請求項4に記載の電池の製造方法。
【請求項6】
前記第3工程よりも前に、前記他方極の活物質材料、前記固体電解質材料および溶剤を含むスラリーを調製し、該スラリーから溶剤を揮発させた残留物を粉砕して前記粉体を製造する、粉体準備工程をさらに備える請求項1ないし5のいずれかに記載の電池の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−73721(P2013−73721A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210557(P2011−210557)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】