説明

電池セル固定装置、電池モジュール、及び車両

【課題】電池セルを好適に固定できる電池セル固定装置、電池モジュール、及び車両を提供すること。
【解決手段】複数の電池セル11を積層した積層体12を有する電池モジュール10に用いられ、複数の電池セル11を固定する電池セル固定装置36であって、複数の電池セル11の積層方向における積層体12の両側にそれぞれ配置される各保持部材18,19と、各保持部材18,19同士を連結するとともに、張力によって各保持部材18,19に積層体12を挟持させるピアノ線23と、ピアノ線23の張力を調節する張力調節機構35と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池セル固定装置、電池モジュール、及び車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両などに搭載される電池モジュールでは、複数の電池セルを積層(段積み)することにより電気容量や出力電圧を確保しつつ、省スペース化を図ることが行われている。このような電池モジュールでは、車両の走行に伴う振動などにより、積層された複数の電池セルが電池セルの積層方向と直交する方向へ移動しないように固定することが行われている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1の電池モジュールでは、電池セルの積層方向における両端に配置した一対の板材を、上記積層方向に沿って延びる帯状部材で連結することにより複数の電池セルを囲うようにして各電池セルを固定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−76769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の電池モジュールでは、積層する電池セルの個数が増加するのに伴って帯状部材を長くする場合、この帯状部材のたわみによって電池セルを十分に固定できなくなる虞がある。
【0006】
本発明は、上記従来技術に存在する問題点に着目してなされたものであり、その目的は、電池セルを好適に固定できる電池セル固定装置、及び電池モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、複数の電池セルを積層した積層体を有する電池モジュールに用いられ、前記複数の電池セルを固定する電池セル固定装置であって、前記複数の電池セルの積層方向における前記積層体の両側にそれぞれ配置される保持部材と、前記保持部材同士を連結するとともに、張力によって前記保持部材に前記積層体を挟持させる金属線と、前記金属線の張力を調節する張力調節機構と、を備えたことを要旨とする。
【0008】
これによれば、電池セルの積層方向における積層体の両側に配置される保持部材同士を金属線で連結するとともに、この金属線の張力によって、保持部材に積層体をなす複数の電池セルを挟持させ、固定することができる。そして、この金属線の張力は、張力調節機構により電池セルの固定に適切な張力に調整可能となる。したがって、帯状部材により各電池セルを固定する従来の構成と比較して、電池セルを好適に固定できる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電池セル固定装置において、前記保持部材のいずれか一方には固定部が設けられ、前記保持部材の他方には前記張力調節機構が設けられ、前記金属線の一端は前記固定部に固定され、他端は前記張力調節機構に固定されることを要旨とする。これによれば、電池セル固定装置の構成を簡略化できるとともに、保持部材の他方に設けられた張力調節機構により、金属線の張力を調節することができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の電池セル固定装置において、前記金属線は複数備えられ、前記金属線の張力を検出する張力検出手段と、前記張力検出手段が検出する張力に基づいて、各金属線の張力を均等な張力となるように前記張力調節機構を制御する制御手段と、をさらに備えたことを要旨とする。
【0011】
これによれば、張力検出手段が検出する張力に基づき、複数備えられた金属線の張力が均等となるように張力調節機構が制御される。このため、電池セルを挟持させる金属線の張力が均等な張力に維持され、温度変化などの影響を受けて電池セルを挟持させる力のバランスが崩れてしまうことを抑制できる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電池セル固定装置において、前記電池セルは、角型電池セルであり、前記金属線は、前記積層体における前記積層方向に沿って延びる面のうち電池セルの電極端子が突出する面に配置されることを要旨とする。
【0013】
これによれば、電池セルの電極端子が突出する面に金属線が配置されることから、電極端子が突出する面とは異なる側面に金属線が配置される構成と比較して、電池モジュールから突出する部位を削減し、電池モジュールを小型化することができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電池セル固定装置において、前記金属線はピアノ線であることを要旨とする。これによれば、高い張力に設定して電池セルをより確実に固定することができる。また、従来の構成と比較して電池セルの温度調節をするための熱交換媒体の流れが妨げられることを抑制できる。
【0015】
請求項6に記載の発明は、電池モジュールにおいて請求項1〜5のいずれか1項に記載の電池セル固定装置を備えたことを要旨とする。これによれば、電池セルを好適に固定できる。
【0016】
請求項7の発明は、車両において、請求項6に記載の電池モジュールを搭載したことを要旨とする。これによれば、温度変化などによって金属線の張力が変化する場合であっても、張力調節機構により電池セルの固定に適切な張力に調整可能となり、電池セルを好適に固定できる。このため、例えば車両の走行中における振動などによって、電池セルが移動することを抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電池セルを好適に固定できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】電池セル固定装置、及び電池モジュールを模式的に示す平面図。
【図2】電池セル固定装置、及び電池モジュールを模式的に示す正面図。
【図3】電池セル固定装置、及び電池モジュールを模式的に示す左側面図。
【図4】電池セル固定装置、及び電池モジュールを模式的に示す右側面図。
【図5】別の実施形態における電池セル固定装置、及び電池モジュールを模式的に示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図4にしたがって説明する。
図1に示すように、車両(例えば産業車両や乗用車両)に搭載される電池モジュール10は、扁平な略立方体状をなす角型電池セルとしての電池セル11を、その厚さ方向に複数個(本実施形態では25個)にわたって積層(段積み)して形成された積層体12を備えている。本実施形態において、各電池セル11は、何れもリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池などの二次電池とされている。本実施形態では、図1で矢印Y1に示す方向が、積層体12における各電池セル11の積層方向となる。以下、説明の便宜のため、電池セルの積層方向を左右方向(矢印Y1に示す)と示し、電池セルの積層方向と直交する方向(矢印Y2に示す)を前後方向と示す。同様に、図2で矢印Y3に示すように、電池セル11の積層方向(左右方向)及び前後方向と直交する方向を上下方向(高さ方向)と示す。
【0020】
図1及び図2に示すように、積層体12において、各電池セル11の間には、全体として矩形平板状をなすスペーサ部材13がそれぞれ介挿(介在)されている。図2に示すように、スペーサ部材13は、側面視において電池セル11に整合一致させた矩形平板状をなすベース部13aを備えるとともに、このベース部13aの左右方向における両面には、それぞれ左右方向へ向かって突出する複数の凸条13bが設けられている。各凸条13bは、前後方向におけるベース部13a(各電池セル11)の全幅にわたって、前後方向に沿って延びるように形成されている。そして、電池セル11によりスペーサ部材13が挟持されることで、各電池セル11とスペーサ部材13との間には、各電池セル11(電池モジュール10)の温度調節をするための熱交換媒体(熱媒体)を流すための媒体流路15が前後方向に沿って延びるように形成される。
【0021】
また、図1及び図2に示すように、各電池セル11の上面には、円柱状をなす電極端子としての正極端子11a及び負極端子11bが上方へ突出するように形成されている。即ち、各電池セル11の正極端子11a、及び負極端子11bは、積層体12における電池セル11の積層方向に沿って延びる面(ここでは上面)に配置されている。各電池セル11は、隣り合う電池セル11の正極端子11a及び負極端子11bを金属板(バスバー)16で電気的に接続することにより、直列に接続されている。また、各電池セル11において、正極端子11a及び負極端子11bの間には、電池セル11内で発生したガスを電池セル11の外部に放出するためのガス抜き孔11cが設けられている。
【0022】
また、積層体12(電池セル11及びスペーサ部材13)は、左右方向に沿って延びる略矩形平板状に形成された支持台21上に配置されている。前後方向における支持台21の両側縁には、左右方向に沿って延びる壁状をなすリブ21aがそれぞれ形成されているとともに、このリブ21aは、前後方向における積層体12の大きさより僅かに離間させて設けられている。そして、支持台21は、リブ21aの間に積層体12が配設(載置)されることで、積層体12が前後方向(電池セル11の積層方向に直交する方向)に移動することを規制するようになっている。
【0023】
また、支持台21には、それぞれ扁平な立方体状をなす金属製の第1保持部材18、及び第2保持部材19が、支持台21に対して垂直に立設された状態を維持したまま、左右方向に沿ってスライド移動可能に支持されている。なお、保持部材18,19は、上方へ移動不能となるように支持台21に組み付けられている。第1保持部材18は、積層体12の左端(基端)側に配置される一方で、第2保持部材19は、積層体12の右端(先端)側に配置される。即ち、各保持部材18,19は、積層体12を電池セル11の積層方向における両側(両端側)から挟持するようにそれぞれ配置されている。また、保持部材18,19は、その上下方向に沿った高さが、各電池セル11における上下方向に沿った高さより小さく形成されており、保持部材18,19の上面は、積層体12を支持台21に載置した状態において、電池セル11の上面より下方に位置している。
【0024】
第1保持部材18の上面には、金属線としてのピアノ線23の左端(基端)を第1保持部材18に対して固定(係止)するための複数(本実施形態では3つ)の固定部24が設けられている。なお、本実施形態のピアノ線23は、その引張強度(引張強さ)が例えば2000〜3000N/mmであり、好ましくは2000〜2310N/mmとされており、一般的な鋼板と比較して非常に引張強度に優れている。また、各ピアノ線23は、その線径(直径)が例えば0.26〜1.2mmであり、好ましくは0.8〜1.2mmとされている。
【0025】
各固定部24は、左右方向に沿って延びる矩形平板状をなす固定部24aと、この固定部24aの右端(積層体12や第2保持部材19側の端部)から立設された壁状をなす係止部24bを備えている。係止部24bの先端部(上端部)は、さらに左方(第2保持部材19とは反対側)に向かって屈曲しており、各固定部24は、全体として正面視で略逆コ字状をなしている。
【0026】
図1及び図3に示すように、各固定部24において、係止部24bの前後方向の中央には、先端部から固定部24aへ向かって切欠くように溝部24cが形成されている。この溝部24cの幅は、ピアノ線23の線径(直径)より僅かに大きく、且つピアノ線23の左端(基端)に締結された球状をなす金属製の球部材23aの直径より小さく形成されている。そして、各固定部24の係止部24bには、係止部24bの左側に球部材23aをそれぞれ配置した状態で、ピアノ線23が溝部24cに挿入され、係止(固定)されている。なお、各ピアノ線23は、その張力(テンション)により球部材23aが係止部24bに当接され、固定部24から容易に離脱しないように固定される。本実施形態において、ピアノ線23の基端(球部材23a)は、電池セル11の上面より下方に位置した状態で係止部24bに係止(固定)される。
【0027】
また、各固定部24には、ピアノ線23の張力を検出する張力検出手段としての張力測定装置26が設けられている。張力測定装置26は、図示しない圧電素子(ピエゾ素子)を内蔵しており、この圧電素子に電圧を印加することにより、ピアノ線23に振動を付与可能に構成されている。また、張力測定装置26は、図示しないマイクを内蔵しており、このマイクによりピアノ線23に発生している振動(音波)に応じた検出信号を出力可能に構成されている。
【0028】
また、第1保持部材18の上面には、ピアノ線23を電池セル11の上面に接する高さ(位置)に支持するための複数(本実施形態では3つ)の支持部材25が設けられている。各支持部材25は、各固定部24の右方(第2保持部材19側)において、各固定部24とそれぞれ対をなすように設けられている。図2に示すように、各支持部材25は、第1保持部材18の右端部から立設された壁状をなし、その上面が電池セル11の上面と同一平面状に位置する高さに形成されている。また、図1に示すように、各支持部材25の上面には、左右方向に沿って延びる一対の規制壁25aが形成されている。規制壁25aは、ピアノ線23の線径より僅かに離間させて配置されているとともに、この規制壁25aの間には、ピアノ線23がそれぞれ配置されている。このため、各規制壁25aは、ピアノ線23が前後方向に移動することを規制している。
【0029】
図1及び図2に示すように、各ピアノ線23の右端(先端)は、第2保持部材19において、各固定部24とそれぞれ対をなすように設けられた複数(本実施形態では3つ)の巻取り部28にそれぞれ固定されている。各巻取り部28は、前後方向に沿って延びる金属製の略円柱状をなし、第2保持部材19の上面に開口する収納部29内において、その軸線まわりで回転可能に支持されている。前後方向における巻取り部28の中央には、巻取り部28の軸線方向と直交する方向に貫通するように形成され、ピアノ線23の先端が挿通される挿通孔28aが設けられている。そして、各ピアノ線23は、その先端を挿通孔28aに挿通させた状態で巻取り部28によってそれぞれ巻き取られることにより、各巻取り部28に固定されている。したがって、本実施形態において、ピアノ線23の先端は、電池セル11の上面より下方に位置した状態で巻取り部28に固定される。
【0030】
また、第2保持部材19の上面には、ピアノ線23を電池セル11の上面に接する高さ(位置)に支持するための複数(本実施形態では3つ)の支持部材25が設けられている。この各支持部材25は、各巻取り部28の左方(第1保持部材18側)において、各巻取り部28とそれぞれ対をなすように設けられている。なお第2保持部材19に設けられた支持部材25は、第1保持部材18に設けられた支持部材25と同一構成であることから、その説明を省略する。したがって、本実施形態において各ピアノ線23は、第1保持部材18に設けた支持部材25と、第2保持部材19に設けた支持部材25との間で掛け渡されることにより、積層体12(各電池セル11)の上面において、この電池セル11の上面に僅かに触れた状態で配置される。なお、本実施形態において各ピアノ線23は、積層体12(電池セル11)の上面に対してごく僅かに接するに過ぎず、比較的自由に振動することができるようになっている。
【0031】
このように、本実施形態の電池モジュール10において、ピアノ線23は、各保持部材18,19同士を連結するとともに、張力によって各保持部材18,19に積層体12を挟持させるようになっている。換言すれば、各ピアノ線23は、電池セル11の積層方向における積層体12の両端側(各保持部材18,19)を掛け渡すように配置される。また、本実施形態のピアノ線23は、積層体12において電池セル11の積層方向に沿って延びる面のうち電池セル11の正極端子11a及び負極端子11bが突出する面に配置される。
【0032】
また、各巻取り部28の回転軸には、第2保持部材19内に配設されたウォームホイール31が、巻取り部28の軸線まわりで巻取り部28と一体となって回転可能にそれぞれ連結されている。また、各ウォームホイール31には、第2保持部材19内において、左右方向に沿って延びる略円柱状をなし、巻取り部28の軸線に直交する軸線まわりで回転可能に支持されたウォームギア32が噛合されている。このウォームギア32には、第2保持部材19の右側面に固定されたステッピングモータなどのモータ34の出力軸が接続されている。
【0033】
本実施形態では、モータ34を駆動させ、ピアノ線23を巻き取る方向へ巻取り部28を回転させることにより、固定部24と巻取り部28の間で固定されたピアノ線23の張力(テンション)を高く調節することができる一方で、逆方向へ巻取り部28を回転させることにより、ピアノ線23の張力を低く調節することができる。このように、本実施形態では、巻取り部28、ウォームホイール31、ウォームギア32、及びモータ34により、ピアノ線23の張力(テンション)を調節する張力調節機構35が構成されている。また、本実施形態では、支持台21(保持部材18,19)、各ピアノ線23、各固定部24、及び各張力調節機構35により、電池モジュール10に用いられ複数の電池セル11(積層体12)を固定する電池セル固定装置36が構成される。
【0034】
なお、本実施形態の電池モジュール10は、電池モジュール10に対して前面側から熱交換媒体(熱媒体)を供給するための供給通路、及び電池モジュール10の後面側から熱交換媒体を排出するための排出通路を備えた電池収容部に収容される。電池収容部に電池モジュール10が収容されている場合には、供給通路から供給される熱交換媒体が、スペーサ部材13によって電池セル11の間に形成される媒体流路15を通過して後側へ排出されるようになっている。
【0035】
次に、電池モジュール10(電池セル固定装置36)の電気的構成について説明する。
図1に示すように、電池モジュール10(電池セル固定装置36)には、マイクロコンピュータからなる制御部40が設けられている。制御部40は、例えば第1保持部材18の内部や、電池モジュール10から離間した位置に設けられる。制御部40には、各張力測定装置26が接続されている。制御部40は、各張力測定装置26に内蔵された圧電素子に電圧を印加してピアノ線23に振動を付与可能に構成されているとともに、各張力測定装置26に内蔵されたマイクから出力される検出信号を入力可能に構成されている。また、制御部40には、各張力調節機構35のモータ34が接続されており、各モータ34を駆動して巻取り部28を回転可能に構成されている。
【0036】
次に、制御部40が各ピアノ線23の張力を調節するために行う張力調節制御について説明する。なお、制御部40は、電池モジュール10において最も前側に配置されたピアノ線23、最も後側に配置されたピアノ線23、及び両ピアノ線23の間に配置されたピアノ線23の順に、張力を調整する対象(ピアノ線23)を設定して張力調節制御を実行する。
【0037】
張力調節制御において最初に、制御部40は、張力を調整する対象とするピアノ線23が固定された固定部24の張力測定装置26を制御して、ピアノ線23に振動を付与するとともに、張力測定装置26から入力される検出信号に基づき、ピアノ線23に発生している振動の周波数(基本振動数)を特定(判定)する特定処理を実行する。制御部40は、ピアノ線23の周波数を特定すると、特定した周波数に加えて、予め記憶されたピアノ線23の長さ(本実施形態では第1保持部材18の支持部材25と、第2保持部材19の支持部材25の離間距離)、及びピアノ線23の線密度をもとにピアノ線23に発生している張力を算出する算出処理を実行する。
【0038】
次に、制御部40は、算出したピアノ線23の張力に基づいて張力調節機構35のモータ34を制御することにより、ピアノ線23の張力を調節する調節処理を実行する。詳しく説明すると、制御部40は、算出したピアノ線23の張力が下限値(閾値)未満である場合、該ピアノ線23が固定された張力調節機構35のモータ34を制御し、ピアノ線23を巻き取る方向へ巻取り部28を所定角度だけ回転させる。一方、制御部40は、算出したピアノ線23の張力が上限値(閾値)以上である場合、該ピアノ線23が固定された張力調節機構35のモータ34を制御し、ピアノ線23を送り出す方向へ巻取り部28を所定角度だけ回転させる。なお、本実施形態の制御部40では、図示しない操作手段を操作することによって、上述したピアノ線23の長さ、ピアノ線23の線密度、及び張力の閾値(上限値、及び下限値)を作業者が設定可能に構成されている。その後、制御部40は、特定処理に戻る。
【0039】
その一方で、制御部40は、算出したピアノ線23の張力が下限値以上であり、且つ上限値未満である場合、張力調節制御を終了する。そして、全てのピアノ線23について張力調節制御が終了していない場合、制御部40は、次のピアノ線23を対象として張力調節制御を実行する。なお、本実施形態の制御部40は、張力調節制御を電源投入時、及び電源投入時から所定時間(例えば15分)毎に実行するようになっている。
【0040】
次に、電池セル固定装置36で積層体12(電池セル11)を固定する方法について説明する。
最初に、保持部材18,19の間に位置するように積層体12を支持台21に載置する。続けて、ピアノ線23の基部(球部材23a)が係止部24bの左側に配置されるように、各固定部24の溝部24cに対してピアノ線23をそれぞれ挿入する。次に、各ピアノ線23を保持部材18,19の支持部材25における規制壁25aの間にそれぞれ配置するとともに、各ピアノ線23の先端を、巻取り部28の挿通孔28aにそれぞれ挿通させる。そして、制御部40の電源を投入すると、張力調節制御が実行され、各ピアノ線23の張力が所定の閾値に達するまで、各ピアノ線23が巻取り部28に巻き取られる。これにより、積層体12(電池セル11)は支持台21に載置された状態で保持部材18,19により挟持され、支持台21に固定される。
【0041】
次に、上記のように構成した電池モジュール10(電池セル固定装置36)の作用について説明する。
本実施形態の電池モジュール10(電池セル固定装置36)では、引張強度に優れたピアノ線23を、積層体12における左右方向の両側(各保持部材18,19)を掛け渡すように配置し、各電池セル11(積層体12)をその張力により両側から積層方向に押し止めている。そして、このピアノ線23の張力は、張力調節機構35により電池セル11を固定するのに適切な張力に調整することができる。したがって、本実施形態では、単に帯状部材を用いて保持部材18,19を接続する構成と比較して、積層体12を構成する各電池セル11を好適に固定できる。これにより、本実施形態では、振動などによって、積層体12を構成する電池セル11がその積層方向と直交する方向(本実施形態の場合は特に上方)へ移動することが抑制される。
【0042】
また、本実施形態の電池モジュール10(電池セル固定装置36)では、ピアノ線23の先端側を巻取り部28によって巻き取ることから、積層体12を構成する電池セル11の個数が変更された場合であっても、ピアノ線23の張力を適切な張力に調節することができる。
【0043】
また、ピアノ線23は、主に電池モジュール10が配置される環境温度に依存して、その張力が変化する。より具体的にいえば、ピアノ線23は、環境温度が上昇した場合にその張力が低下する。しかしながら、本実施形態の電池モジュール10(電池セル固定装置36)では、張力調節機構35を動作させることによって、ピアノ線23の張力を所定の張力に保つことができる。
【0044】
特に、本実施形態の制御部40が実行する張力調節制御によれば、各ピアノ線23について、何れも張力が下限値から上限値迄の間となるように、即ち各ピアノ線23の張力が均等(略均等)な張力となるように張力調節機構35が制御される。このため、積層体12を構成する電池セル11を挟持する力(押し止める力)が不足したり、不均一(アンバランス)となったりすることを好適に抑制できる。
【0045】
また、ピアノ線23は、引張強度に優れていることから、その線径を細く設定することが可能となる。このため、電池モジュール10を上述したような電池収容部に収容した場合に、上記帯状部材を設ける構成と比較して熱交換媒体(熱媒体)の流れを妨げてしまうことを抑制できる。
【0046】
したがって、上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)電池セル11の積層方向における積層体12の両側に配置された各保持部材18,19同士をピアノ線23で連結するとともに、このピアノ線23の張力によって、各保持部材18,19に積層体12をなす複数の電池セル11を挟持させ、固定している。そして、このピアノ線23の張力は、張力調節機構35により電池セル11の固定に適切な張力に調整可能となる。したがって、帯状部材により各電池セル11を固定する従来の構成と比較して、電池セル11を好適に固定できる。
【0047】
(2)各保持部材18,19のうち、第1保持部材18に固定部24を設ける一方で、第2保持部材19に張力調節機構35を設けた。このため、電池モジュール10(電池セル固定装置36)の構成を簡略化できるとともに、第2保持部材19に設けられた張力調節機構35により、ピアノ線23の張力を調節することができる。
【0048】
(3)また、張力測定装置26が検出する張力に基づき、各ピアノ線23の張力が均等(略均等)となるように張力調節機構35が制御される。このため、電池セル11を挟持させるピアノ線23の張力が均等(略均等)な張力に維持され、温度変化などの影響を受けて電池セル11を挟持させる力のバランスが崩れてしまうことを抑制できる。
【0049】
(4)電池セル11の正極端子11a及び負極端子11bが突出する上面にピアノ線23が配置されることから、正極端子11a及び負極端子11bが突出する面とは異なる面にピアノ線23が配置される構成と比較して、電池モジュール10から突出する部位を削減し、電池モジュール10を小型化することができる。
【0050】
(4)金属線の中でも特に引張強度に優れたピアノ線23を用いている。したがって、ピアノ線23の張力を高い張力に設定して電池セル11をより確実に固定することができる。また、帯状部材を設ける従来の構成と比較して熱交換媒体(熱媒体)の流れを妨げてしまうことを抑制できる。
【0051】
(5)電池セル11の上面に接するようにピアノ線23が配置されている。したがって、振動などによって電池セル11が浮き上がろうとする場合であっても、ピアノ線23によって上方への移動が規制される。したがって、電池モジュール10(電池セル固定装置36)によれば、電池セル11を好適に固定することができる。
【0052】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
・ ピアノ線23は、電池セル11の正極端子11a及び負極端子11bが突出する面とは異なる面に配置してもよい。具体的に説明すると、図5に示すように、第1保持部材18の前面に固定部24を設けるとともに、第2保持部材19の前面に張力調節機構35を設け、積層体12の前面にピアノ線23を掛け渡してもよい。さらにこの場合には、第1保持部材18の後面に固定部24を設けるとともに、第2保持部材19の後面に張力調節機構35を設け、積層体12の後面にもピアノ線23を掛け渡すとよい。このように構成しても、ピアノ線23の張力により積層体12(電池セル11)を固定することができる。
【0053】
・ 第1保持部材18の前面及び後面のうち、一方の面に固定部24を設けるとともに、他方の面に張力調節機構35を設け、さらにピアノ線23を第2保持部材19において一方の面から他方の面へ折り返すことで、平面視でコ字状をなすようにピアノ線23を掛け渡してもよい。この場合、固定部24及び張力調節機構35のうち、一方を第1保持部材18の左面に設け、ピアノ線23により積層体12の略全周を囲うようにしてもよい。
【0054】
・ ピアノ線23は積層体12の上面に接していなくてもよい。この場合、保持部材18,19は、その上下方向に沿った高さが、各電池セル11における上下方向に沿った高さと同じ、又は大きく形成されていてもよい。このようにしてもピアノ線23の張力により積層体12を固定することができる。
【0055】
・ 張力調節機構35は、作業者がスパナなどの工具により巻取り部28を手動で回転可能に構成してもよい。また、この場合には、張力測定装置26、モータ34、及び制御部40を省略することもできる。このように構成しても、作業者が手動によりピアノ線23の張力を調節できる。
【0056】
・ ピアノ線23の本数(固定部24及び張力調節機構35の組数)を1つ、2つ、或いは4つ以上に変更してもよい。
・ 張力測定装置26は異なる種類の張力測定装置としてもよい。例えば、張力測定装置26は、ピアノ線23から付与される荷重(張力)を検出し、その荷重に応じた検出信号を出力する荷重測定器としてもよい。
【0057】
・ 積層体12を構成する電池セル11の個数は適宜変更できる。また、スペーサ部材13を省略した構成としてもよい。
・ 固定部24は、ピアノ線23を固定できればその形状を適宜変更してもよい。
【0058】
・ 張力調節機構35は、ピアノ線23を巻き取ることでピアノ線23の張力を調節可能であればその構成を適宜変更してもよい。
・ 固定部24及び張力調節機構35に固定可能であれば、ピアノ線23は球部材23aを備えないものであってもよい。
【0059】
・ 第1保持部材18に張力調節機構35を設ける一方で、第2保持部材19に固定部24を設けてもよい。即ち、各保持部材18,19のうち一方に固定部24を設け、他方に張力調節機構35を設ければよい。
【0060】
・ 電池セル11は直方体状など、積層(段積み)して積層体12を形成可能な形状であれば適宜変更してもよい。
・ 上記実施形態の電池モジュール10を車両(例えば産業車両や乗用車両など)に搭載し、車両に装備された発電機により充電する一方で、電池モジュール10から供給する電力によりエアコン用のコンプレッサや、車輪を駆動するための電動モータ、或いはカーナビゲーションシステムなどの電装品を駆動してもよい。この場合、電池モジュール10は、車両に設けた上述の電池収容部に配設するとよい。これによれば、温度変化などによってピアノ線23の張力が変化する場合であっても、張力調節機構35により電池セル11の固定に適切な張力に調整可能となり、電池セル11を好適に固定できる。このため、例えば車両の走行中における振動などによって、電池セル11が移動することを抑制することができる。
【0061】
以下、上記実施形態から把握できる技術的思想について追記する。
(イ)前記金属線は、前記電池セルに接するように配置されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の電池セル固定装置。
【符号の説明】
【0062】
Y1…積層方向、10…電池モジュール、11…電池セル、11a…正極端子(電極端子)、11b…負極端子(電極端子)、12…積層体、18…第1保持部材(保持部材)、19…第2保持部材(保持部材)、23…ピアノ線(金属線)、24…固定部、26…張力測定装置(張力検出手段)、35…張力調節機構、36…電池セル固定装置、40…制御部(制御手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電池セルを積層した積層体を有する電池モジュールに用いられ、前記複数の電池セルを固定する電池セル固定装置であって、
前記複数の電池セルの積層方向における前記積層体の両側にそれぞれ配置される保持部材と、
前記保持部材同士を連結するとともに、張力によって前記保持部材に前記積層体を挟持させる金属線と、
前記金属線の張力を調節する張力調節機構と、を備えたことを特徴とする電池セル固定装置。
【請求項2】
前記保持部材のいずれか一方には固定部が設けられ、
前記保持部材の他方には前記張力調節機構が設けられ、
前記金属線の一端は前記固定部に固定され、他端は前記張力調節機構に固定されることを特徴とする請求項1に記載の電池セル固定装置。
【請求項3】
前記金属線は複数備えられ、
前記金属線の張力を検出する張力検出手段と、
前記張力検出手段が検出する張力に基づいて、各金属線の張力を均等な張力となるように前記張力調節機構を制御する制御手段と、をさらに備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の電池セル固定装置。
【請求項4】
前記電池セルは、角型電池セルであり、
前記金属線は、前記積層体における前記積層方向に沿って延びる面のうち電池セルの電極端子が突出する面に配置されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電池セル固定装置。
【請求項5】
前記金属線はピアノ線であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の電池セル固定装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の電池セル固定装置を備えたことを特徴とする電池モジュール。
【請求項7】
請求項6に記載の電池モジュールを搭載したことを特徴とする車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−109956(P2013−109956A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254100(P2011−254100)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】