説明

電池パック入出力制御装置

【課題】電池パックを構成する単位電池の内部の最大温度を推定し、その推定に基づいて電池パックの入出力制限を行う際に、環境温度が短時間に下降した場合、適切な処理を行うことである。
【解決手段】制御装置50は、電池パック14を構成する単位電池の内部の最大温度を推定する最大温度推定部52として、電池パック14を構成する単位電池の表面温度と内部温度との温度差を推定する内外温度差推定モジュール54等を含む。制御装置50は、推定された最大温度に基づいて電池パック14の入出力電力の制限を行う入出力制限部64を含む。内外温度差推定において、環境温度の時間変化率である環境温度変化率を求め、環境温度変化率が閾値変化率を超えたときから予め定めた解除条件を満たすまで、実際の環境温度を用いることを遅延させ、熱容量を有する電池の温度と環境温度との整合性を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池パック入出力制御装置に係り、特に、複数の単位電池を組み合わせて構成される電池パックの電池表面温度に基づいて入出力制限を行う電池パック入出力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電池パック入出力制御装置として、電池パックの過熱防止のため、電池温度ならびに環境温度に基づいて電池内部温度を推定し、電池内部温度を所定値以下となるように、電池の充放電制御を行うことが述べられている。ここでは、環境温度が低いときは、電池が発熱しても、電池表面からの放熱が大きいので、電池の表面温度と内部温度との間の温度差が大きいものと想定している。そこで、環境温度が低い場合、電池の表面温度を高めに見積もっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−108750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法によると、電池パックの環境温度に基づいて、電池の充放電制御が行われる。ここで、車両搭載用の電池パックの場合、環境温度は電池パックへの吸気温度となる。吸気を車室内から導入している場合、例えば、冬季の窓開け等で、短時間で吸気温度が下降したとき、電池温度が同じでも環境温度が低いときと判断され、電池の充放電制限が行われることが生じる。
【0005】
実際には、電池の熱容量は比較的大きいので、吸気温度が短期間に下降しても、電池温度に反映されるにはある程度の時間がかかる。したがって、上記のように、短時間で吸気温度が下降したときに、直ちにそれを反映させると、吸気温度と実際の電池温度とに整合性が取れず、電池の過熱保護について適正な充放電制御とならない。
【0006】
本発明の目的は、短時間で吸気温度が下降したとき、吸気温度と電池温度の整合性を取り、適正な電池の過熱保護を行うことを可能にする電池パック入出力制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電池パック入出力制御装置は、複数の単位電池を組み合わせて構成される電池パックと、電池パックの環境温度を取得する環境温度取得部と、電池パックに設けられ単位電池の表面温度を検出する複数の電池温度センサと、電池パックを構成する単位電池の内部温度と表面温度との間の差である電池内外温度差を、環境温度に応じて推定する内外温度差推定部と、推定される電池内外温度差の値を電池パックを構成する単位電池の表面温度の最大値に加算し、その加算値に基づいて電池パックの最大温度を推定する最大温度推定部と、推定された最大温度に基づいて電池パックの入出力制限を行う入出力制限部と、を備え、内外温度差推定部は、環境温度の時間変化率である環境温度変化率を取得し、環境温度変化率が予め定めた閾値変化率を超えたときを遅延処理開始時として、閾値変化率になったときの環境温度を遅延固定環境温度として、予め定めた解除条件を満たすまで、実際の環境温度を用いることを遅延させて、遅延固定環境温度を用いて電池内外温度差を推定する遅延処理手段を含むことを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る電池パック入出力制御装置において、内外温度差推定部は、遅延開始時から予め定めた所定経過時間を経過したことを解除条件として、解除条件を満たした以後は、実際の環境温度に基づいて電池内外温度差を推定することが好ましい。
【0009】
また、本発明に係る電池パック入出力制御装置において、内外温度差推定部は、実際の環境温度と遅延固定環境温度との間の温度差である偏差温度差が、時間経過とともに増加し、最大偏差となった後に減少し、予め定めた閾値偏差温度差以下となったことを解除条件として、解除条件を満たした以後は、実際の環境温度に基づいて電池内外温度差を推定することが好ましい。
【0010】
また、本発明に係る電池パック入出力制御装置において、内外温度差推定部は、電池表面温度が遅延処理開始時の温度から予め定めた閾値温度差を超えて上昇したことを解除条件として、解除条件を満たした以後は、実際の環境温度に基づいて電池内外温度差を推定することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
上記構成により、電池パック入出力制御装置は、環境温度の時間変化率である環境温度変化率を取得し、環境温度変化率が予め定めた閾値変化率を超えたときを遅延処理開始時として、閾値変化率になったときの環境温度を遅延固定環境温度として、予め定めた解除条件を満たすまで、実際の環境温度を用いることを遅延させ、予め定めた解除条件を満たすまで、遅延固定環境温度を用いて電池内外温度差を推定する。このように、短時間で環境温度である吸気温度が下降したときに、実際の吸気温度を適用することを遅延させるので、吸気温度と電池温度の整合性を取ることができる。これにより、電池の適正な過熱保護ができる。
【0012】
また、電池パック入出力制御装置において、遅延開始時から予め定めた所定経過時間を経過したことを解除条件とするので、所定経過時間の適切な設定によって、吸気温度と電池温度の整合性を取ることができる。
【0013】
また、電池パック入出力制御装置において、実際の環境温度と遅延固定環境温度との間の温度差である偏差温度差が、時間経過とともに増加し、最大偏差となった後に減少し、予め定めた閾値偏差温度差以下となったことを解除条件とする。これによって、吸気温度と電池温度の整合性を適切なものとできる。
【0014】
また、電池パック入出力制御装置において、電池表面温度が遅延処理開始時の温度から予め定めた閾値温度差を超えて上昇したことを解除条件とする。これによって、吸気温度と電池温度の整合性を適切なものとできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る実施の形態における電池パック入出力制御システムの構成を示す図である。
【図2】本発明に係る実施の形態において、電池パックを構成する単位電池の内部の最大温度の推定に基づいて電池パックの入出力制限を行う手順を示すフローチャートである。
【図3】本発明に係る実施の形態において、環境温度と内外温度差と間の関係を示すマップである。
【図4】本発明に係る実施の形態において、吸気温度が短時間に変化したときの入出力電力の算出の詳細の流れを示す図である。
【図5】本発明に係る実施の形態において、吸気温度が短時間に変化したときの遅延処理と遅延解除処理について説明する図である。
【図6】図5とは別の遅延解除処理の例を説明する図である。
【図7】図5、図6とは別の遅延解除処理の例を説明する図である。
【図8】本発明に係る実施の形態において、電池パックの入出力電力特性図を用いて、電池表面温度に基づく入出力制限と、電池パックを構成する単位電池の内部の推定最大温度に基づく入出力制限の様子を示す図である。
【図9】本発明に係る実施の形態において、電流二乗平均値の相違による電池温度差の様子を示す図である。
【図10】本発明に係る実施の形態の電池パック入出力制御装置の作用効果を説明する図である。
【図11】図10の比較例として、従来技術の電池パック入出力制御装置の作用を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に図面を用いて、本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、電池パックとして、ハイブリッド車両に搭載されるものを説明するが、車両搭載以外の用途の電池パックに対しても、同様に本発明が適用される。以下では、電池パックとして、リチウムイオン電池パック、すなわちリチウムイオン単位電池を複数個組み合わせた電池パックを説明するが、これ以外の電池パックであってもよい。例えば、ニッケル水素電池パックであってもよい。また、電池パックは、複数の単位電池を直列に接続して構成されるものとして説明するが、勿論、複数の単位電池を並列に接続して電池パックを構成するものとしてもよい。また、複数の単位電池を直列接続と並列接続とを用いて1つの電池パックとして構成するものとしてもよい。
【0017】
以下に述べる各種センサの数とその配置位置は、説明のための例示であって、これ以外の数のセンサを用いてもよく、また、その配置位置も任意に設定するものとできる。例えば、環境温度を検出するものとして、吸気温度センサを説明するが、吸気温度以外で外気温度、あるいは電池パックの近傍の温度を検出するものを用いることができる。
【0018】
電池パックを含む電源回路の構成として、電池パック、システムメインリレー、電圧変換器、平滑コンデンサ、インバータを用いるものとして説明するが、必要に応じ、これ以外の要素を付加するものとしてもよい。例えば、DC/DCコンバータ、低電圧電源等を有する構成としてもよい。
【0019】
また、電池パックを含む電源回路に接続される回転電機として、モータ機能と発電機機能とを有するモータ・ジェネレータを1台用いるものとして説明するが、これを2台のモータ・ジェネレータを用いるものとしてもよい。その場合に、モータ機能のみを有する回転電機を1台、発電機機能のみを有する回転電機を1台用いるものとしてもよい。
【0020】
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0021】
図1は、電池パックと回転電機とを搭載するハイブリッド車両の作動制御を行うハイブリッド車両制御システムのうち、電池パックの入出力の制御に関わる部分を抜き出して、電池パック入出力制御システム10として示す図である。この電池パック入出力制御システム10は、電池パックを構成する単位電池の表面温度に基づいて電池パックの入出力制限を行う機能を有するが、ここでは特に、電池パックを構成する単位電池の内部の最大温度を推定し、その推定された最大温度に基づいて入出力制限を行う機能を有する。
【0022】
この電池パック入出力制御システム10は、複数の単位電池12を組み合わせて構成される電池パック14と、システムメインリレー16、電池パック側平滑コンデンサ18、電圧変換器20、インバータ側平滑コンデンサ22、インバータ24、回転電機26、電池パック14に関連して設けられる電流センサ30、電圧センサ34、温度センサ32、環境温度センサとしての吸気温度センサ36、これらのセンサに接続されて、電流I、電圧V、温度Tをそれぞれ検出するI/V/T検出部40と、これらの各構成要素の作動を全体として制御する制御装置50を含んで構成される。この場合、制御装置50は、電池パック入出力制御装置に相当する。
【0023】
ここで、電池パック14、システムメインリレー16、電池パック側平滑コンデンサ18、電圧変換器20、インバータ側平滑コンデンサ22、インバータ24は、回転電機26に接続される電源回路である。回転電機26は、車両に搭載されるモータ・ジェネレータ(MG)であって、電池パック14を含む電源回路から電力が供給されるときはモータとして機能し、図示されていないエンジンによる駆動時、あるいは車両の制動時には発電機として機能する三相同期型回転電機である。
【0024】
電池パック14は、複数の単位電池12として、リチウムイオン単位電池を直列に接続して、所望の出力電圧と出力電流を得られるように構成された充放電可能な2次電池としての組電池である。所望の出力電圧としては、例えば約200Vの端子電圧とすることができる。この場合は、リチウムイオンの単位電池12を100個以上直列に接続して電池パック14を構成するものとできる。
【0025】
電池パック14に設けられる電流センサ30は、電池パック14の入出力電流を検出する機能を有し、電池パック14の両端子の少なくともいずれか一方に直列に接続されて配置される。電流センサ30が1つの場合には、その電流センサ30の検出値は電池パック14における電流値を検出することになる。電流センサ30が電池パック14の両端子の双方にそれぞれ設けられるときは、I/V/T検出部40において、2つの電流センサの検出値の差異が取得され、例えば予め定めた許容差異値を超えるときは電流センサ30が異常であるとする検出が行われる。
【0026】
このように、電流センサ30は、電池パック14に入出力する電流値を取得するために設けられるので、これを電流値取得部と呼ぶことができる。電流センサ30は、I/V/T検出部40に接続され、ここを経由して、電流値のデータが制御装置50に伝送される。複数の電流センサ30を用いてそれらの間の異常が監視されるときは、その旨を出力し、正しい電流値となるような処理を行い、1つの正しい電流値のデータが制御装置50に伝送される。
【0027】
電池パック14に設けられる電圧センサ34は、電池パック14を構成する単位電池12の電池電圧を検出する機能を有し、複数個用いられる。図1の例では、1つの電池パック14を構成する単位電池12の配列方向に沿って、等間隔となるように、5個の電圧センサ34が配置される様子が示される。
【0028】
このように、電圧センサ34は、電池パック14の予め任意に定めた複数の配置位置における単位電池12のそれぞれの電池電圧を検出する機能を有するので、これらを電圧検出部と呼ぶことができる。電圧センサ34は、I/V/T検出部40に接続され、ここを経由して、各単位電池12の電池電圧値のデータが制御装置50に伝送される。
【0029】
電池パック14に設けられる温度センサ32は、電池パック14を構成する単位電池の表面に配置され、単位電池の表面温度を検出する機能を有し、複数個用いられる。図1の例では、1つの電池パック14の単位電池12の配列方向に沿って、等間隔となるように、3個の温度センサ32が配置される様子が示される。
【0030】
温度センサ32は、例えばサーミスタ等の感温素子を用いることができる。各温度センサ32は、適当な取付手段によって電池パック14の表面に取り付け配置される。取付手段として、適当な接着材を用いることができる。また、サーミスタ等の感温素子を樹脂材料でモールドしながら、電池パック14と一体化させるモールド一体化技術を用いることもできる。以下では、モールド一体化技術によって電池パック14に取り付け配置されたものとして説明する。
【0031】
このように、温度センサ32は、電池パック14を構成する単位電池の表面温度を検出する機能を有するので、これを電池表面温度センサ、あるいは電池温度センサと呼ぶことができる。温度センサ32は、I/V/T検出部40に接続され、ここを経由して、電池パック14を構成する単位電池の表面温度のデータが制御装置50に伝送される。
【0032】
吸気温度センサ36は、電池パック14の周囲の環境温度を検出する機能を有し、電池パック14を空冷するときの吸気口に設けられる温度センサである。このように吸気温度センサ36は、電池パック14の環境温度を取得する機能を有するので、これを環境温度取得部と呼ぶことができる。吸気温度センサ36は、吸気口に複数設けるものとしてもよい。また、吸気温度センサ36以外に、別のセンサを環境温度検出手段として設けてもよい。これらの場合には、各センサの検出値について平均化が行われ、その結果を電池パック14の環境温度とすることができる。
【0033】
I/V/T検出部40は、各種のセンサと制御装置50との間に設けられるインタフェース回路である。各種センサの検出値は、例えば、アナログの電圧値である。I/V/T検出部40は、各センサによってまちまちであるアナログ信号レベルを、制御装置50における各種処理に適するように、規格化されたアナログ信号、またはディジタル信号に変換する機能を有する。
【0034】
制御装置50は、電池パック入出力制御システム10の各構成要素の作動を全体として制御する機能を有する。ここでは、特に、電池パックを構成する単位電池の内部の最大温度を推定し、その推定された最大温度に基づいて電圧変換器20とインバータ24の作動を制御することで、電池パック14の入出力電力を制限する機能を有する。かかる制御装置50は、車両の搭載に適したコンピュータ等で構成することができる。
【0035】
制御装置50は、電池パック14を構成する単位電池の内部の最大温度を推定する最大温度推定部52と、最大温度推定部52において用いられる温度差マップを記憶する温度差マップ記憶部62と、推定された最大温度に基づいて電池パック14の入出力電力の制限を行う入出力制限部64を含んで構成される。
【0036】
最大温度推定部52は、電池パック14を構成する単位電池の表面温度と内部温度との温度差である内外温度差を推定する内外温度差推定モジュール54と、各単位電池12の内部抵抗の相違に起因する電池パック内の温度差を推定するR起因温度差推定モジュール56と、温度センサ32と電池パック14との接触状態に起因する温度差を推定する接触状態起因温度差推定モジュール58と、複数の温度センサ32の間の検出特性の相違に起因する温度差を推定するセンサ起因温度差推定モジュール60を含んで構成される。
【0037】
かかる機能は、ソフトウェアによって実現でき、具体的には、電池パック入出力制御プログラムを実行することで実現できる。かかる機能の一部をハードウェアで実現するものとしてもよい。
【0038】
かかる構成の作用、特に制御装置50の各機能について、図2以下を用いて詳細に説明する。図2は、電池パック14を構成する単位電池の内部の最大温度の推定に基づいて電池パック14の入出力制限を行う手順を示すフローチャートである。図3は、制御装置50の内外温度差推定モジュール54に用いられる環境温度と内外温度差の関係を示す図である。図4から図11は、環境温度である吸気温度が短時間に変化したときの処理について説明する図である。
【0039】
図2は、上記のように、電池パック14を構成する単位電池の内部の最大温度の推定に基づいて電池パック14の入出力制限を行う手順を示すフローチャートであり、各手順は、電池パック入出力制限プログラムの各処理手順にそれぞれ対応する。電池パック14の入出力制限を行うには、最初に、環境温度、電池表面温度、電流I、電圧Vが取得される(S10)。具体的には、吸気温度センサ36を介して環境温度が取得され、温度センサ32を介して電池表面温度が取得され、電流センサ30を介して電流値が取得され、電圧センサ34を介して単位電池の電池電圧が取得される。
【0040】
次に、4つの温度差の推定が行われる。すなわち、内外温度差推定(S12)と、R起因温度差推定(S14)と、センサ接触状態起因温度差推定(S16)と、センサ起因温度差推定(S18)が行われる。これらについて、図3から図7を用いて説明する。
【0041】
内外温度差推定(S12)は、電池パック14を構成する単位電池の内部温度と、温度センサ32によって実際に検出される電池表面温度との間の差である電池内外温度差を、環境温度に応じて推定する工程である。この工程は、制御装置50の最大温度推定部52における内外温度差推定モジュール54の機能によって実行される。
【0042】
具体的には、吸気温度センサ36を介して取得される環境温度を考慮して、温度センサ32によって実際に検出される電池表面温度と電池パック14を構成する単位電池の内部温度との間の差である温度差の推定が行われる。そのために、図3で示される環境温度と内外温度差との関係を示すマップが用いられる。このマップは、実験等によって予め求められたデータをマップ化したもので、横軸に環境温度、縦軸に電池表面温度を基準とした内外温度差、つまり、内外温度差=(電池パック14を構成する単位電池の内部温度)−(温度センサ32によって実測された電池表面温度)が取られている。
【0043】
内外温度差は、環境温度が室温(Room Temperature:RT)から低温になるにつれ、増大する特性を有する。この特性は、電池パック14の構造で定まるものであるので、予め求めておくことができる。求められた環境温度と内外温度差とのマップは、制御装置50の温度差マップ記憶部62に記憶される。したがって、内外温度差推定を行うには、環境温度を検索キーとして、環境温度と内外温度差との関係を示すマップを検索して、対応する内外温度差を読み出すことで行うことができる。
【0044】
環境温度と内外温度差との関係を示すマップは、環境温度と内外温度差を関連付けるものであれば、マップ形式以外の形式であってもよい。例えば、環境温度と内外温度差との関係をテーブル化したルックアップテーブル形式であってもよく、また、環境温度を入力して内外温度差が出力される関数形の形式であってもよい。
【0045】
R起因温度差推定(S14)は、複数の配置位置における各電池電圧Vと電流Iとから各単位電池12の内部抵抗Rを推定し、各単位電池12の内部抵抗Rの相違に起因する電池パック14内の温度差を推定する工程である。この工程は、最大温度推定部52のR起因温度差推定モジュール56の機能によって実行される。
【0046】
センサ接触状態起因温度差推定(S16)は、複数の温度センサ32と電池パック14の表面との接触状態に起因して、電池パック14を構成する単位電池の実際の表面温度と各温度センサ32の検出値との間に偏差が生じることについて、その最大値を予め推定する工程である。この工程は、最大温度推定部52の接触状態起因温度差推定モジュール58の機能によって実行される。
【0047】
センサ起因温度差推定(S18)は、複数の温度センサ32の間の検出特性の相違による検出温度誤差を、環境温度に応じて推定する工程である。この工程は、最大温度推定部52のセンサ起因温度差推定モジュール60の機能によって実行される。
【0048】
再び図2に戻り、4つの温度差推定処理が終わると、次に電池パックを構成する単位電池の内部における最大温度の推定が行われる(S20)。そして、推定最大温度が予め定めた閾値温度以上か否かが判断される(S22)。閾値温度としては、リチウムイオン電池の特性である発煙温度T0を用いることが好ましい。リチウムイオン電池以外の電池パック14の場合は、その電池形式の特性に合わせて設定された閾値温度をT0として用いることができる。そして、S22の判断が肯定されると、電池パック14の入出力電力を制限して発煙が生じないように入出力制限が行われる(S24)。S24が実行され、あるいはS22の判断が否定されると、一連の電池パック入出力制御処理が終了する。
【0049】
図4は、入出力電力の算出の詳細の流れを示す図である。ここでは、電流値と環境温度に基づいて、内外温度差、R起因温度差、センサ接触状態起因温度差、センサ起因温度差が、電池パック14の使用上限温度T1に順次加算されて、電池パック14を構成する単位電池の内部の最大温度が推定される様子が示されている。そして、推定最大温度が、リチウムイオン電池の発煙を防止する限界温度である発煙温度T0と比較され、その結果に基づいて使用上限温度の制限が行われることが示されている。この使用上限温度の制限に基づいて、電池パック14の入出力電力が制限される入出力制限が行われる。
【0050】
図4において、環境温度である吸気温度について、吸気温度が短時間に変化したときの処理が示されている。すなわち、図2で説明したように、S10で吸気温度が取得されると、吸気温度の時間変化率である吸気温度変化率検出が行われる(S32)。この工程では、所定時間当たりの吸気温度変化量が算出される。吸気温度をTCとして、所定時間をΔtとすると、変化率=TC/Δtである。所定時間は、変化率検出のための判定時間である。
【0051】
吸気温度変化率検出が行われると、検出された吸気温度変化率が低下方向に予め定めた閾値変化率を超えたときに、吸気温度遅延処理が行われる(S34)。具体的には、吸気温度変化率が閾値変化率を超えたときを遅延処理開始時として、閾値変化率になったときの吸気温度を固定して、予め定めた解除条件を満たすまで、実際の環境温度を用いることを遅延させる。この遅延処理は、吸気温度が短時間に変化したとしても、電池の熱容量は比較的大きいので、電池温度に吸気温度が反映されるまである程度の時間がかかることを考慮し、その間は、吸気温度を変化しないものとして、電池温度と吸気温度の整合性を図るためである。
【0052】
遅延処理を解除すると、実際の吸気温度が内外温度差の推定に用いられるようになる。遅延処理を解除する条件としては、以下の3つのいずれかを満たしたときとする。1つは、遅延開始時から予め定めた所定経過時間を経過したことである。次の1つは、実際の吸気温度と遅延処理で固定された吸気温度との間の温度差である偏差温度差が、時間経過とともに増加し、最大偏差となった後に減少し、予め定めた閾値偏差温度差以下となったことである。最後の1つは、電池表面温度が遅延処理開始時の温度から予め定めた閾値温度差を超えて上昇したことである。これら3つの条件の1つを満たせば、遅延処理が解除される。その様子を図5から図7を用いて説明する。
【0053】
図5は、遅延開始時から予め定めた所定経過時間を経過したときに、遅延処理が解除される様子を示す図である。所定経過時間としては、吸気温度変化が電池温度に反映される時間を用いることができる。この所定経過時間は、電池の熱容量等に基づいて、実験的に設定することができる。図5の横軸は時間で、縦軸には、電池表面温度である電池温度TBと吸気温度TCが取られている。
【0054】
ここでは、時間t1で、吸気温度TCの下降が始まる。そして、短時間でかなり吸気温度TCが下降して、吸気温度変化率が低下方向でかなり大きい値となる。時間t2は、低下方向の吸気温度変化率が低下方向の閾値変化率を超えたときである。この時間t2から、吸気温度TCの遅延処理が開始する。すなわち、時間t2が遅延処理開始時である。予め定めた所定経過時間をtD1とすると、時間t2からtD1経過する時間t3まで、電池の過熱保護に用いられる吸気温度TCは、時間t2のときの吸気温度TC1で固定される。そして、時間t3になると、遅延処理が解除され、電池の過熱保護は、実際の吸気温度TCに基づいて行われるようになる。図5では、時間t3から吸気温度がTC1から実際の吸気温度TCに向かって戻され、時間t4で完全に実際の吸気温度TCとなる様子が示されている。
【0055】
図6は、実際の吸気温度と遅延処理で固定された吸気温度との間の温度差である偏差温度差が、時間経過とともに増加し、最大偏差となった後に減少し、予め定めた閾値偏差温度差以下となったときに遅延処理が解除される様子を示す図である。図6の横軸、縦軸は図5と同じである。図5と同様に、時間t1は吸気温度TCの下降が始まる時間で、時間t2が遅延処理開始時であり、TC1が遅延処理において固定された吸気温度である。
【0056】
ここでは、吸気温度TCが下降した後、再び上昇し、実際の吸気温度TCとTC1との間の温度差である偏差温度差ΔTCが、次第に縮まり、時間t5で偏差温度差ΔTCが閾値偏差温度差以下となる。時間t5になると、遅延処理が解除され、電池の過熱保護は、実際の吸気温度TCに基づいて行われるようになる。したがって、時間t2から時間t5の間の時間tD2が、遅延処理が行われた時間となる。図6では、時間t5から吸気温度がTC1から実際の吸気温度TCに向かって戻され、時間t6で完全に実際の吸気温度TCとなる様子が示されている。
【0057】
図7は、電池表面温度が遅延処理開始時の温度から予め定めた閾値温度差を超えて上昇したときに遅延処理が解除される様子を示す図である。図6の横軸、縦軸は図5と同じである。図5,6と同様に、時間t1は吸気温度TCの下降が始まる時間で、時間t2が遅延処理開始時であり、TC1が遅延処理において固定された吸気温度である。時間t7になると、遅延処理が解除され、電池の過熱保護は、実際の吸気温度TCに基づいて行われるようになる。したがって、時間t2から時間t7の間の時間tD3が、遅延処理が行われた時間となる。図7では、時間t7から吸気温度がTC1から実際の吸気温度TCに向かって戻され、時間t8で完全に実際の吸気温度TCとなる様子が示されている。
【0058】
このようにして、吸気温度TCが短時間に下降しても、直ちにその温度を内外温度差の推定に反映させず、ある程度の遅延時間の後に、実際の吸気温度TCを電池の過熱保護の処理に用いるようにする。これによって、熱容量を有する電池温度TBと吸気温度TCとの間の整合性を図ることができる。
【0059】
図8は、電池パック14の入出力電力特性図を用いて、電池表面温度に基づく入出力制限と、電池パック14を構成する単位電池の内部の推定最大温度に基づく入出力制限の様子を示す図である。ここで、横軸は電池パック14を構成する単位電池の表面温度、縦軸は電池パック14の入出力電力、つまり充放電電力である。電池表面温度に基づく入出力制限の場合は、上記のように、電池パック14を構成する単位電池の表面温度が使用上限温度T1以下となるように、入出力電力の制限が行われる。
【0060】
これに対し、電池パック14を構成する単位電池の内部の推定最大温度に基づく入出力制限の場合は、推定最大温度が発煙温度T0以上となるときは、電池パック14を構成する単位電池の表面温度をT1’に引き下げ、推定最大温度が発煙温度T0を超えないように入出力制限が行われる。つまり、電池パック14を構成する単位電池の内部の推定最大温度に基づいて、電池パック14の入出力電力特性図の温度軸がT1とT1’の差に相当する分、オフセットされる。このようにして、電池パック14を構成する単位電池の内部の推定最大温度に基づいて、電池パック14の入出力制限が行われ、リチウムイオン電池の発煙が防止される。
【0061】
この場合、吸気温度TCが短時間で下降したときは、図4から図7で説明したように、遅延処理が行われて、吸気温度TCの変化が遅延される。したがって、図8においても、電池パック14の入出力電力特性図の温度軸のオフセットが行われれず、電池パック14の入出力制限が行われない。
【0062】
図9は、図3で説明した吸気温度に対応する内外温度差の関係が、電流値の大小によってどのように変化するかを示す図である。電流値としてここでは電流二乗平均値が用いられている。図9に示されるように、電流二乗平均値が大きいほど、内外温度差は大きくなる。
【0063】
吸気温度が短期間に下降したときに、吸気温度の遅延処理を行う作用効果について、図10と図11を用いて説明する。これらの図の横軸は時間、縦軸には、電池温度TB、吸気温度TC、電池パック14の放電可能電力WOUT、電流二乗平均値、車速が取られている。図10は、車両が電流一定で定常走行している場合に、吸気温度の遅延処理を行い、図5で説明した条件を満たして遅延処理の解除が行われた場合、図11は、図10と同じ条件の下で、吸気温度の遅延処理を行わない従来技術の場合である。
【0064】
図10では、図5で説明したのと同様に、時間t1で吸気温度TCの下降が始まり、時間t2で遅延処理が開始し、所定経過時間tD1の間、吸気温度はTC1に固定される。所定経過時間tD1は、吸気温度変化が電池温度に反映される時間として設定されるので、吸気温度の変化以外に、他の条件が変化しなければ、WOUTに制限がかからず、電流二乗平均値も制限されない。したがって、回転電機の出力トルクに変化がなく、車両の走行にも影響を及ぼさず、車速は変化しない。
【0065】
これに対し、吸気温度の短時間の低下についての遅延処理が行われない図11の場合には、実際の吸気温度を用いて、図3の関係に従って内外温度差を推定する。したがって、時間t1で吸気温度TCが下降し始めると、電池はある程度の熱容量があるので、吸気温度TCが下降するに従って電池温度TBとの差が大きくなり、推定内外温度差が大きくなる。これによって、時間t10において、WOUTに制限がかかり始める。そして、時間t11では、WOUTの制限に応じて、電流制限が始まり、電流二乗平均値が下がり始める。これによって回転電機の出力トルクが低下し、車速が低下する。このように、実際の電池温度TBはあまり下降しないにもかかわらず、推定内外温度差が変化するので、車両の走行に影響が及ぶ。なお、時間t12になると、電池温度TBが吸気温度TCの変化に追従して低下するので、推定内外温度差が小さくなり、WOUTの制限が回復する。これにより、回転電機の出力トルクが戻り、車速を元に戻すことができる。
【0066】
このように、短時間で吸気温度が下降したとき、吸気温度の扱いに対して遅延処理を行うことで、吸気温度と電池温度の整合性を取り、適正な電池の過熱保護を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明に係る電池パック入出力制御装置は、複数のリチウム単位電池を組み合わせて構成される電池パックの入出力制御に利用できる。
【符号の説明】
【0068】
10 電池パック入出力制御システム、12 単位電池、14 電池パック、16 システムメインリレー、18 電池パック側平滑コンデンサ、20 電圧変換器、22 インバータ側平滑コンデンサ、24 インバータ、26 回転電機、30 電流センサ、32 温度センサ、34 電圧センサ、36 吸気温度センサ、40 I/V/T検出部、50 制御装置、52 最大温度推定部、54 内外温度差推定モジュール、56 R起因温度差推定モジュール、58 接触状態起因温度差推定モジュール、60 センサ起因温度差推定モジュール、62 温度差マップ記憶部、64 入出力制限部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の単位電池を組み合わせて構成される電池パックと、
電池パックの環境温度を取得する環境温度取得部と、
電池パックに設けられ単位電池の表面温度を検出する複数の電池温度センサと、
電池パックを構成する単位電池の内部温度と表面温度との間の差である電池内外温度差を、環境温度に応じて推定する内外温度差推定部と、
推定される電池内外温度差の値を電池パックを構成する単位電池の表面温度の最大値に加算し、その加算値に基づいて電池パックの最大温度を推定する最大温度推定部と、
推定された最大温度に基づいて電池パックの入出力制限を行う入出力制限部と、
を備え、
内外温度差推定部は、
環境温度の時間変化率である環境温度変化率を取得し、環境温度変化率が予め定めた閾値変化率を超えたときを遅延処理開始時として、閾値変化率になったときの環境温度を遅延固定環境温度として、予め定めた解除条件を満たすまで、実際の環境温度を用いることを遅延させて、遅延固定環境温度を用いて電池内外温度差を推定する遅延処理手段を含むことを特徴とする電池パック入出力制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電池パック入出力制御装置において、
内外温度差推定部は、
遅延開始時から予め定めた所定経過時間を経過したことを解除条件として、解除条件を満たした以後は、実際の環境温度に基づいて電池内外温度差を推定することを特徴とする電池パック入出力制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電池パック入出力制御装置において、
内外温度差推定部は、
実際の環境温度と遅延固定環境温度との間の温度差である偏差温度差が、時間経過とともに増加し、最大偏差となった後に減少し、予め定めた閾値偏差温度差以下となったことを解除条件として、解除条件を満たした以後は、実際の環境温度に基づいて電池内外温度差を推定することを特徴とする電池パック入出力制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の電池パック入出力制御装置において、
内外温度差推定部は、
電池表面温度が遅延処理開始時の温度から予め定めた閾値温度差を超えて上昇したことを解除条件として、解除条件を満たした以後は、実際の環境温度に基づいて電池内外温度差を推定することを特徴とする電池パック入出力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−5663(P2013−5663A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136890(P2011−136890)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】