説明

電池外装用積層体および二次電池

【課題】プレス油を使用せずに加工高さが高い絞り加工を行うことができ、かつ作業性を低下させずに熱融着により接合することができる、電池外装用積層体を提供すること。
【解決手段】ステンレス鋼箔の第1の面に酸変性ポリオレフィン系樹脂層および熱融着性ポリオレフィン系樹脂層を形成し、第2の面にポリエチレン−フッ素樹脂粒子を含むウレタン樹脂層を形成する。ウレタン樹脂層を構成するウレタン樹脂の流動開始温度は、150℃以上である。ポリエチレン−フッ素樹脂粒子は、ウレタン樹脂層の表面から突出しており、ウレタン樹脂層表面の動摩擦係数は、0.2以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池外装用積層体および前記電池外装用積層体を使用した二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル−カドミウム電池やニッケル−水素電池、リチウムイオン電池などの二次電池は、携帯電話やノート型パーソナルコンピュータ、ビデオカメラ、電気自動車、衛星、社会インフラ系コンポーネントなどの電子機器または電子部品に幅広く使用されている。特に、リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度および出力特性に優れているため、小型化および軽量性が求められる携帯電話やモバイル機器などに多用されている。従来、これらの小型電池の包装部材には、軽量性、成形性およびコストの観点から、アルミニウムが用いられてきた。
【0003】
近年、二次電池は、電気自動車やハイブリッド自動車、太陽電池用蓄電池などの大型機器においても採用されている。これら大型機器用の電池では、出力容量を向上させるために電解質の量を増やす必要があり、電池サイズも大型になる。このような大型電池の包装部材には、小型電池の包装部材以上の安全性(堅牢性や耐久性など)が求められる。
【0004】
電池の包装部材としてこれまで用いられてきたアルミニウムは剛性が低いため、電池内部の圧力増加に対する耐圧性を高めるためには板厚を増加させる必要があった。そのため、アルミニウムを電池の包装部材として使用する場合、電池の省スペース化および低コスト化には限界があった。また、アルミニウムは熱膨張係数が大きいため、放充電時の発熱により、包装部材に大きな熱衝撃が加わるという問題もあった。
【0005】
上記問題点を解決する手段として、ステンレス鋼箔を電池の包装部材に使用することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、オーステナイト系ステンレス鋼箔からなる電池外装用材を絞り加工して電池ケースを製造することが記載されている。この電池ケースの内部に電池部材(正極や負極、セパレータ、電解液など)を収容し、ケース部材同士をシーム溶接により接合することで、電池を製造することができる。
【0006】
特許文献1に記載のステンレス鋼箔からなる電池外装用材は、高強度かつ熱膨張係数が小さいため、上記問題点を解決することができる。しかしながら、特許文献1に記載の電池外装用材を使用して電池を製造する場合、電池部材をケース内に収容した状態で溶接することから、溶接熱により電池部材が劣化してしまうおそれがある。また、特許文献1の電池に限らず、ステンレス鋼箔などの金属からなるケースを使用した電池では、使用時に容器の内圧が過剰に上昇して容器が破裂するおそれがある。容器内圧の過剰な上昇を防ぐためには、安全弁を設ければよいが、安全弁は複雑な構造をとるため、製造コストが高くなってしまう。
【0007】
上記溶接熱および製造コストの問題点を解決する手段として、ステンレス鋼箔と熱融着性樹脂層との積層体を電池外装用材として使用することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2には、ステンレス鋼箔にポリオレフィン系樹脂層を積層した電池外装用材(樹脂被覆ステンレス鋼箔)が記載されている。この電池外装用材(樹脂被覆ステンレス鋼箔)を絞り加工して得られた電池ケースの内部に電池部材を収容し、ケース部材同士を熱融着により接合することで、電池を製造することができる。この方法では、溶接ではなく熱融着によりケース部材を接合しているため、溶接熱による電池部材の劣化は生じない。また、熱融着による接合強度は、溶接による接合強度に比べて格段に小さい。したがって、容器内圧が過剰に上昇しても、熱融着面においてケース部材が分離するため、安全弁を必要としない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−52100号公報
【特許文献2】特開2007−168184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献に記載されているような電池外装用材(ステンレス鋼箔を含む積層体)を用いて電池ケースを製造する場合、従来は、成形高さ5mm程度の絞り加工を行うのが一般的であった。その一方で、近年、電池ケースに要求される加工高さが、10mm、30mmとどんどん高くなってきている。このように加工高さが高い絞り加工を行うためには、加工の際にプレス油を塗布する必要がある。
【0010】
このようにプレス油を塗布した場合は、加工後に脱脂する必要が生じる。しかしながら、電池外装用材(ステンレス鋼箔を含む積層体)は非常に薄いため、脱脂工程で変形してしまいやすい。したがって、プレス油を使用せずに絞り加工を行うことができる電池外装用材が求められていた。
【0011】
プレス油を使用せずに絞り加工を行うことができるようにする手段としては、電池外装用材の熱融着性樹脂層が形成されていない面(電池ケースの外面となる面)に潤滑性に優れる樹脂皮膜を形成することが考えられる。この場合、電池ケースを熱融着により接合する際に、潤滑性樹脂皮膜が軟化して治具(ヒートシールバー)に付着してしまうと、作業性が低下してしまう。したがって、潤滑性樹脂皮膜には、熱融着させる際に軟化して治具に付着しない耐ヒートシール性が求められる。
【0012】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、プレス油を使用せずに加工高さが高い絞り加工を行うことができ、かつ作業性を低下させずに熱融着により接合することができる、電池外装用積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、ステンレス鋼箔の第1の面に熱融着性ポリオレフィン系樹脂層を形成し、第2の面にポリエチレン−フッ素樹脂粒子を含むウレタン樹脂層を形成することで、上記課題を解決できることを見出し、さらに検討を加えて本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、本発明の第一は、以下の電池外装用積層体に関する。
[1]絞り加工により電池外装部材に成形加工される電池外装用積層体であって:第1の面および第2の面を有するステンレス鋼箔と;前記ステンレス鋼箔の第1の面に直接または化成処理皮膜を介して配置された酸変性ポリオレフィン系樹脂層と;前記酸変性ポリオレフィン系樹脂層の上に配置された熱融着性ポリオレフィン系樹脂層と;前記ステンレス鋼箔の第2の面に配置され、ポリエチレン樹脂粒子の表面にフッ素樹脂微粒子が付着したポリエチレン−フッ素樹脂粒子を含むウレタン樹脂層とを有し;前記ウレタン樹脂層の流動開始温度は、150℃以上であり;前記ポリエチレン−フッ素樹脂粒子の中の少なくとも一部の粒子は、前記ウレタン樹脂層の表面から外部に露出しており;前記ウレタン樹脂層表面の動摩擦係数は、0.2以下であり;前記ウレタン樹脂層表面の動摩擦係数に対する前記熱融着性ポリオレフィン系樹脂層表面の動摩擦係数の比は、1.1以上である、電池外装用積層体。
[2]前記ウレタン樹脂層を構成するウレタン樹脂の破断伸び率は、50〜600%の範囲内であり;前記ウレタン樹脂層を構成するウレタン樹脂の破断強度は、60〜1000kgf/cmの範囲内である、[1]に記載の電池外装用積層体。
[3]前記ウレタン樹脂層の厚みは、0.2〜10μmの範囲内であり;前記ポリエチレン樹脂粒子の平均粒径は、0.1〜5μmの範囲内である、[1]または[2]に記載の電池外装用積層体。
[4]前記酸変性ポリオレフィン系樹脂は、酸変性ポリプロピレン樹脂であり;前記熱融着性ポリオレフィン系樹脂は、ポリプロピレン樹脂である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の電池外装用積層体。
【0015】
また、本発明の第二は、以下の二次電池に関する。
[5][1]〜[4]のいずれかに記載の電池外装用積層体の成形品を熱融着して形成されたケースを有する二次電池。
【発明の効果】
【0016】
本発明の電池外装用積層体を用いれば、所望の加工高さの電池ケースをプレス油を使用せずに製造することができる。また、本発明の電池外装用積層体は、作業性を低下させることなく熱融着により接合可能である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.電池外装用積層体
本発明の電池外装用積層体は、1)ステンレス鋼箔、2)酸変性ポリオレフィン系樹脂層、3)熱融着性ポリオレフィン系樹脂層および4)ウレタン樹脂層を含む。酸変性ポリオレフィン系樹脂層および熱融着性ポリオレフィン系樹脂層は、ステンレス鋼箔の第1の面に配置されており、ウレタン樹脂層は、ステンレス鋼箔の第2の面(第1の面の反対側の面)に配置されている。本発明の電池外装用積層体を2次電池に適用した場合、第1の面は内面(電解質側の面)となり、第2の面は外面(外界側の面)となる。
【0018】
1)ステンレス鋼箔
本発明の電池外装用積層体は、ステンレス鋼箔を基材とする。ステンレス鋼箔を基材とすることで、アルミニウム箔を基材とする場合に比べて、強度、耐久性および耐食性を向上させることができる。
【0019】
ステンレス鋼箔を構成するステンレス鋼の鋼種は、オーステナイト系、フェライト系、マルテンサイト系など特に限定されない。鋼種の例には、SUS304、SUS430、SUS316などが含まれる。また、ステンレス鋼板の表面仕上げの種類も、特に限定されない。表面仕上げの種類の例には、BA、2B、2D、No.4、HLなどが含まれる。
【0020】
ステンレス鋼箔の板厚は、電池ケースとしての要求重量や要求強度、要求加工高さなどに応じて適宜設定することができる。電池ケースの重量を軽量化する観点からは、板厚は薄いほど好ましいが、板厚を薄くするほど強度が低下してしまう。電池ケースとしての強度を確保する観点からは、板厚は20μm以上であることが好ましい。また、加工高さが50mm程度の絞り加工を行う場合であっても、板厚は400μmもあれば十分である。一般的に求められる電池ケースの強度および加工高さを考慮すると、ステンレス鋼箔の板厚は、40〜150μmの範囲内が好ましい。
【0021】
ステンレス鋼箔は、酸変性ポリオレフィン系樹脂層およびウレタン樹脂層の密着性をより向上させる観点から、化成処理皮膜を形成されていてもよい。この場合、化成処理の種類は、特に限定されない。化成処理の例には、クロメート処理、クロムフリー処理、リン酸塩処理などが含まれる。化成処理皮膜の膜厚は、酸変性ポリオレフィン系樹脂層の密着性の向上に有効な範囲内であれば特に限定されない。たとえば、クロメート皮膜の場合、全Cr換算付着量が5〜100mg/mとなるように膜厚を調整すればよい。また、クロムフリー皮膜の場合、Ti−Mo複合皮膜では10〜500mg/m、フルオロアシッド系皮膜ではフッ素換算付着量または総金属元素換算付着量が3〜100mg/mの範囲内となるように膜厚を調整すればよい。また、リン酸塩皮膜の場合、付着量が5〜500mg/mとなるように膜厚を調整すればよい。
【0022】
化成処理皮膜は、公知の方法で形成されうる。たとえば、化成処理液をロールコート法、スピンコート法、スプレー法などの方法でステンレス鋼箔の表面に塗布し、水洗せずに乾燥させればよい。乾燥温度および乾燥時間は、水分を蒸発させることができれば特に限定されない。生産性の観点からは、乾燥温度は、到達板温で60〜150℃の範囲内が好ましく、乾燥時間は、2〜10秒の範囲内が好ましい。
【0023】
2)酸変性ポリオレフィン系樹脂層
酸変性ポリオレフィン系樹脂層は、ステンレス鋼箔の第1の面上に配置されている。ここで「ステンレス鋼箔の第1の面」とは、ステンレス鋼箔そのものの第1の面だけでなく、ステンレス鋼箔の第1の面に形成された化成処理皮膜の表面も含む。すなわち、酸変性ポリオレフィン系樹脂層は、ステンレス鋼箔の第1の面上に直接配置されていてもよいし、化成処理皮膜を介して配置されていてもよい。酸変性ポリオレフィン系樹脂層は、ステンレス鋼箔とポリオレフィン系樹脂層との密着性を向上させるとともに、電解液に対するステンレス鋼箔の耐腐食性を向上させる機能を担っている。
【0024】
酸変性ポリオレフィン系樹脂層を構成する酸変性ポリオレフィン系樹脂の種類は、特に限定されず、公知のものから適宜選択することができる。酸変性ポリオレフィン系樹脂の例には、不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリオレフィン樹脂、エチレンもしくはプロピレンとアクリル酸もしくはメタクリル酸との共重合体、金属で架橋されたポリオレフィン樹脂などが含まれる。これらの中では、耐熱性の観点から、不飽和カルボン酸でグラフト変性したオレフィン樹脂が特に好ましい。
【0025】
酸変性ポリオレフィン系樹脂層の厚みは、10〜100μmの範囲内が好ましく、15〜50μmの範囲内がより好ましい。厚みが10μm未満の場合、ステンレス鋼箔とポリオレフィン系樹脂層との密着性を十分に確保できないおそれがある。また、電解液に対するステンレス鋼箔の耐腐食性を十分に付与できないおそれもある。一方、厚みを100μm超としても、密着性および耐腐食性のさらなる向上は認められず、コスト的に不利になる。また、加工性が低下するおそれもある。酸変性ポリオレフィン系樹脂層の厚みは、例えば30μmである。
【0026】
ステンレス鋼箔の第1の面上に酸変性ポリオレフィン系樹脂層を配置する方法は、特に限定されず、公知の方法から適宜選択することができる。たとえば、ステンレス鋼箔の第1の面に酸変性ポリオレフィン系樹脂フィルムを積層してもよいし(積層法)、ステンレス鋼箔の第1の面に酸変性ポリオレフィン系樹脂組成物を塗布してもよい(塗布法)。積層法の例には、熱ラミネーション法、サンドラミネーション法などが含まれる。また、酸変性ポリオレフィン系樹脂フィルムは、市販のものを使用してもよいし、Tダイ押し出し機などを用いて作製してもよい。また、酸変性ポリオレフィン系樹脂フィルムは、未延伸のものでもよいし、一軸または二軸延伸されたものでもよい。一方、塗布法の例には、樹脂組成物を溶融してバーコーターやロールコーターなどで塗布する方法、溶融した樹脂組成物にステンレス鋼箔を浸漬する方法、樹脂組成物を溶媒に溶解してバーコーターやロールコーター、スピンコーターなどで塗布する方法などが含まれる。
【0027】
3)熱融着性ポリオレフィン系樹脂層
熱融着性ポリオレフィン系樹脂層は、ステンレス鋼箔の第1の面の酸変性ポリオレフィン系樹脂層の上に配置されている。熱融着性ポリオレフィン系樹脂層は、電池内部を外気から遮断して密封系にする機能を担っている。すなわち、本発明の積層体を用いて電池を製造する際に、一方の積層体の熱融着性ポリオレフィン系樹脂層を、他方の積層体の熱融着性ポリオレフィン系樹脂層または金属製電極と熱融着させることにより、電池内部を外気(特に水蒸気ガス)から遮断するとともに、電解液の液漏れを防止する。また、熱融着性ポリオレフィン系樹脂層は、電解液に対するステンレス鋼箔の耐腐食性を向上させる機能も担っている。
【0028】
熱融着性ポリオレフィン系樹脂層を構成する熱融着性ポリオレフィン系樹脂の種類は、特に限定されず、公知のものから適宜選択することができる。熱融着性ポリオレフィン系樹脂の例には、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体などが含まれる。これらの中では、ポリプロピレンが特に好ましい。
【0029】
熱融着性ポリオレフィン系樹脂層の厚みは、10〜100μmの範囲内が好ましく、20〜80μmの範囲内がより好ましい。厚みが10μm未満の場合、十分な強度で熱融着させることができないおそれがある。また、電解液に対するステンレス鋼箔の耐腐食性を十分に付与できないおそれもある。一方、厚みを100μm超としても、熱融着の強度および耐腐食性のさらなる向上は認められず、コスト的に不利になる。また、加工性が低下するおそれもある。熱融着性ポリオレフィン系樹脂層の厚みは、例えば30μmである。
【0030】
ステンレス鋼箔の第1の面の酸変性ポリオレフィン系樹脂層の上に熱融着性ポリオレフィン系樹脂層を配置する方法は、特に限定されず、公知の方法から適宜選択することができる。たとえば、酸変性ポリオレフィン系樹脂層の上に熱融着性ポリオレフィン系樹脂フィルムを積層してもよいし(積層法)、酸変性ポリオレフィン系樹脂層の上に熱融着性ポリオレフィン系樹脂組成物を塗布してもよい(塗布法)。
【0031】
4)ウレタン樹脂層
ウレタン樹脂層は、ステンレス鋼箔の第2の面上に配置されている。ここで「ステンレス鋼箔の第2の面」とは、ステンレス鋼箔そのものの第2の面だけでなく、ステンレス鋼箔の第2の面に形成された化成処理皮膜の表面も含む。すなわち、ウレタン樹脂層層は、ステンレス鋼箔の第2の面上に直接配置されていてもよいし、化成処理皮膜を介して配置されていてもよい。ウレタン樹脂層中には潤滑性付与の役割を担うポリエチレン−フッ素樹脂粒子が分散しており、ポリエチレン−フッ素樹脂粒子のうちの少なくとも一部の粒子はウレタン樹脂層の表面から外部に突出している。ポリエチレン−フッ素樹脂粒子を含むウレタン樹脂層は、ステンレス鋼箔の第2の面に潤滑性を付与して、絞り加工性を向上させる機能を担っている。
【0032】
ウレタン樹脂層は、主としてウレタン樹脂から構成される。ウレタン樹脂は、他の樹脂に比べて、絞り加工に追従できる良好な伸びおよび高い強度を得られやすい。また、アクリル樹脂のように低温域(−20〜50℃)に軟化点を有しないため、本発明の積層体同士を熱融着する際にも熱的に安定しているものが多い。
【0033】
ウレタン樹脂層を構成するウレタン樹脂の種類は、流動開始温度が150℃以上のものが好ましい。ここで「流動開始温度」とは、ウレタン樹脂を約50℃/分の昇温速度で加熱したときに、ウレタン樹脂が溶融状態となって流出し始める温度を意味する。ウレタン樹脂の流動開始温度は、ウレタン樹脂の乾燥物(水分蒸発後の固形物)を細かく(縦約5mm×横約5mm×厚み約1mm)裁断したものを、電気オーブン(SPHH201;エスペック株式会社)内において、雰囲気温度約300℃、昇温速度約50℃/分で加熱したときに、ウレタン樹脂が溶融状態となって流出し始める温度を測定することで確認される。ウレタン樹脂の流動開始温度が150℃未満の場合、本発明の積層体同士を第1の面を対向させて熱融着する際に、ウレタン樹脂層を構成するウレタン樹脂が軟化(流動化)して治具(ヒートシールバー)に付着したり、ステンレス鋼箔から脱落したりしてしまう。
【0034】
ウレタン樹脂の流動開始温度を150℃以上とするためには、ウレタン樹脂中のウレタン結合の割合を増加させるとともに、ウレタン樹脂の酸価を低下させればよい。このようにすることで、ウレタン樹脂の電解液やアルコールなどに対する耐薬品性も高めることができる。
【0035】
具体的には、ウレタン樹脂の固形分あたりのウレタン結合の含有量をイソシアネート基(NCO)換算で1〜50質量%の範囲内とし、かつウレタン樹脂の酸価を50KOHmg/g以下にすればよい。ここで「イソシアネート基換算のウレタン結合の含有量」とは、ウレタン結合1つあたりのモル質量を42g/mol(NCOのモル質量)として、「ウレタン結合の質量/ウレタン樹脂の質量」として求められる値である。ウレタン結合の含有量がイソシアネート基換算で1質量%未満の場合、ウレタン樹脂の凝集力が不足して、流動開始温度が150℃未満となってしまうとともに、耐薬品性も不十分なものとなってしまう。一方、ウレタン結合の含有量がイソシアネート基換算で50質量%超の場合、ウレタン樹脂の凝集力が過剰に高くなり、絞り加工の際にカジリが発生しやすくなってしまう。また、ウレタン樹脂の酸価が50KOHmg/g超の場合、流動開始温度が150℃未満となってしまうとともに、耐薬品性も不十分なものとなってしまう。
【0036】
ウレタン樹脂層を構成するウレタン樹脂は、A)有機ポリイソシアネート化合物と、B)ポリオール化合物とを反応させることで得られる。また、上記A)およびB)のモノマー成分に加えて、任意に、C)カルボキシル基またはその塩を少なくとも1つ有し、A)またはB)と反応しうる親水性化合物や、D)鎖伸長剤などを反応させてもよい。
【0037】
A)有機ポリイソシアネート化合物としては、例えば、芳香族系ポリイソシアネート、脂肪族系ポリイソシアネート、脂環族系ポリイソシアネートなどが挙げられる。B)ポリオール化合物としては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリアクリレートポリオールなどが挙げられる。C)カルボキシル基またはその塩を少なくとも1つ有する親水性化合物としては、例えば、2,2ジメチロールブタン酸、ジオキシマレイン酸、3,4−ジアミノ安息香酸などが挙げられる。鎖伸長剤としては、例えば、ポリオール、ポリアミンなどが挙げられる。
【0038】
前述の通り、ウレタン樹脂の流動開始温度を150℃以上とし、かつ耐薬品性を向上させるには、ウレタン樹脂中のイソシアネート基換算のウレタン結合の含有量を1〜50質量%の範囲内とし、かつウレタン樹脂の酸価を50KOHmg/g以下にすればよい。ウレタン樹脂中のウレタン結合の含有量は、A)有機ポリイソシアネート化合物の添加量の割合を調整することで、調整されうる。さらに、ウレタン樹脂の酸価は、C)親水性化合物の種類および含有量により調整されうる。
【0039】
また、ウレタン樹脂層を構成するウレタン樹脂の破断伸び率は、50〜600%の範囲内が好ましい。ウレタン樹脂の破断伸び率が50%未満の場合、絞り加工の際にウレタン樹脂層が損傷しやすくなり、金型に堆積した皮膜屑により打痕が発生しやすくなる。一方、ウレタン樹脂の破断伸び率が600%超の場合、ウレタン樹脂層が粘着性を有するものとなってしまうため、潤滑性および絞り加工性が低下してしまう。
【0040】
また、ウレタン樹脂層を構成するウレタン樹脂の破断強度は、60〜1000kgf/cmの範囲内が好ましい。ウレタン樹脂の破断強度が60kgf/cm未満の場合、絞り加工の際にウレタン樹脂層が損傷しやすくなり、金型に堆積した皮膜屑により打痕が発生してしまう。一方、ウレタン樹脂の破断強度が1000kgf/cm超の場合、ウレタン樹脂層の凝集力が過剰に高くなり、かえって絞り加工の際にカジリが発生しやすくなってしまう。ウレタン樹脂の破断伸び率および破断強度は、引張り試験機(テンシロンUCT−5T型;株式会社エー・アンド・デイ)を用いて、試料厚みを100μmとし、試験片をJIS K 7127の試験片タイプ5とし、掴み具間距離を80mmとし、引張り速度を500mm/分として測定される。
【0041】
ウレタン樹脂の破断伸び率および破断強度を上記範囲内とするためには、前述の通り、ウレタン樹脂中のイソシアネート基換算のウレタン結合の含有量を1〜50質量%の範囲内とし、かつウレタン樹脂の酸価を50KOHmg/g以下とした上で、さらに原料となるポリオール化合物の分子量を30〜10000の範囲内とすればよい。ポリオール化合物の分子量が30未満の場合、ウレタン樹脂が過剰に硬くなり、所望の破断伸び率を実現することができない。一方、ポリオール化合物の分子量が10000超の場合、ウレタン樹脂が過剰に柔らかくなり、所望の破断強度を実現することができない。
【0042】
ウレタン樹脂層の厚みは、0.2〜10μmの範囲内が好ましく、1〜5μmの範囲内がより好ましい。厚みが0.2μm未満の場合、高面圧が加わる加工条件下においてカジリが発生しやすくなる。一方、厚みが10μm超の場合、ステンレス鋼箔の変形に追従した際にウレタン樹脂層の内部応力が大きくなり、ウレタン樹脂層が剥離しやすくなるため、耐カジリ性が低下してしまう。ウレタン樹脂層の厚みは、例えば2μmである。
【0043】
前述の通り、ウレタン樹脂層は、潤滑性を付与するポリエチレン−フッ素樹脂粒子を含む。ポリエチレン−フッ素樹脂粒子は、ポリエチレン樹脂粒子の表面にフッ素樹脂微粒子を付着させた複合粒子である。たとえば、ポリエチレン−フッ素樹脂粒子は、軟化状態のポリエチレン樹脂粒子の表面にフッ素樹脂微粒子を吹きつけることで製造されうる。使用できるポリエチレン−フッ素樹脂粒子の種類は、特に限定されず、例えば興洋化学株式会社製のミクロ・フラットシリーズ(PF−8やPF−51など)が挙げられる。
【0044】
ポリエチレン−フッ素樹脂粒子の少なくとも一部は、ウレタン樹脂層の表面から外部に突出している。これにより、ウレタン樹脂層表面の動摩擦係数は0.2以下となり、プレス油を必要としない程度まで絞り加工性が向上する。これは、ウレタン樹脂層の表面から突出するポリエチレン−フッ素樹脂粒子が、プレス加工の際に「コロ」のように機能するためと推察される。
【0045】
ポリエチレン樹脂粒子の平均粒径は、0.1〜5μmの範囲内が好ましく、フッ素樹脂微粒子の平均粒径は、10〜100nmの範囲内が好ましい。ポリエチレン樹脂粒子の平均粒径が0.1μm未満の場合、ポリエチレン−フッ素樹脂粒子がウレタン樹脂層内に埋没してしまい、ウレタン樹脂層表面の動摩擦係数を十分に低下させることができない。一方、ポリエチレン樹脂粒子の平均粒径が5μm超の場合、ウレタン樹脂層の表面からポリエチレン−フッ素樹脂粒子が突出しすぎて、成形加工の際にポリエチレン−フッ素樹脂粒子が削り取られやすくなってしまう。ポリエチレン−フッ素樹脂粒子をウレタン樹脂層の表面から部分的に突出させるためには、ポリエチレン樹脂粒子の平均粒径をウレタン樹脂層の厚みの1/20〜1/2の範囲内とすることが好ましい。
【0046】
潤滑性を付与するというだけであれば、フッ素樹脂微粒子が結合していないポリエチレン樹脂粒子のみをウレタン樹脂層に分散させることでも効果を得られる。しかしながら、ポリエチレン粒子をウレタン樹脂層に分散させた場合は、本発明の積層体同士を第1の面を対向させて熱融着する際に、ポリエチレンが軟化して治具(ヒートシールバー)に付着してしまい、作業性が低下してしまうおそれがある。すなわち、ポリエチレンは、種類や分子量により差があるものの、その融点が100〜130℃程度である。したがって、本発明の積層体同士を第1の面を対向させて熱融着する際に、例えば180〜200℃で熱融着すると、ポリエチレン粒子が融解して治具(ヒートシールバー)に付着してしまうのである。これに対し、ポリエチレン−フッ素樹脂粒子は、ポリエチレン粒子の表面に付着したフッ素樹脂微粒子によって耐熱性が付与されているため、熱融着の際にポリエチレンの融点を超える温度まで加熱されても軟化したポリエチレンが治具(ヒートシールバー)に付着することはない。
【0047】
一方、樹脂粒子の耐熱性を重視した場合、フッ素樹脂のみからなるフッ素樹脂粒子をウレタン樹脂層に分散させることも考えられる。しかしながら、フッ素樹脂粒子は比重が大きく、塗料中の分散安定性に劣るため、ウレタン樹脂層中に均一に分散させることが困難である。したがって、フッ素樹脂粒子をウレタン樹脂層に分散させた場合は、ウレタン樹脂層全体に均一に潤滑性を付与することが困難であり、好ましくない。これに対し、ポリエチレン−フッ素樹脂粒子をウレタン樹脂層に分散させた場合は、ウレタン樹脂層全体に均一に分散させて、ウレタン樹脂層全体に均一に潤滑性を付与することができる。
【0048】
ポリエチレン−フッ素樹脂粒子の配合量は、ウレタン樹脂100質量部に対し1〜20質量部の範囲内が好ましい。1質量部未満では、ウレタン樹脂層表面の動摩擦係数が0.2を越えてしまい、十分に潤滑性を付与することができない。一方、20質量部超では、塗料中の分散安定性に劣るため、ウレタン樹脂層中に均一に分散させることが困難である。
【0049】
前述の通り、ウレタン樹脂層表面の動摩擦係数は、プレス油を使用せずに絞り加工を行う観点からは、0.2以下であることが好ましい。動摩擦係数が0.2超の場合、プレス油を使用せずに絞り加工を行うのが困難な場合がある。また、ウレタン樹脂層表面(第2の面)の動摩擦係数に対する熱融着性ポリオレフィン系樹脂層表面(第1の面)の動摩擦係数の比は、1.1以上であることが好ましい。動摩擦係数の比が1.1未満の場合、すなわち積層体の第1の面(電池の内面側)も動摩擦係数が小さい場合、プレス加工の際にパンチ肩部の積層体の板厚の減少量が大きくなり、限界絞り高さが低くなってしまう。これらの動摩擦係数の比は、例えば、ウレタン樹脂層中に分散させるポリエチレン−フッ素樹脂粒子の配合量を調整することで制御することができる。ウレタン樹脂層表面および熱融着性ポリオレフィン系樹脂層表面の動摩擦係数は、動摩擦係数測定装置(HEIDON−14;新東科学株式会社)により、直径10mmのステンレス鋼球を用いて、荷重1N、摺動速度150mm/分で測定される。
【0050】
ステンレス鋼箔の第2の面上にポリエチレン−フッ素樹脂粒子を含むウレタン樹脂層を配置する方法は、特に限定されず、公知の方法から適宜選択することができる。たとえば、ステンレス鋼箔の第2の面にポリエチレン−フッ素樹脂粒子を含むウレタン樹脂組成物を塗布すればよい。ウレタン樹脂組成物を塗布する方法は、特に限定されないが、例えば、ウレタン樹脂組成物を溶媒に溶解してバーコーターやロールコーター、スピンコーターなどで塗布すればよい。
【0051】
以上のように、本発明の積層体は、耐熱性に優れたポリエチレン−フッ素樹脂粒子を分散させたウレタン樹脂層を第2の面に有しており、第2の面の潤滑性が高いため、プレス油を使用せずに加工高さが高い絞り加工を行うことができる。また、本発明の積層体は、熱融着性ポリオレフィン系樹脂層を第1の面に有しているため、熱融着により接合することができる。このとき、ウレタン樹脂層中に分散しているポリエチレン−フッ素樹脂粒子は、フッ素樹脂微粒子によって耐熱性が付与されているため、熱融着の際にポリエチレンの融点を超える温度まで加熱されても、軟化したポリエチレンが治具(ヒートシールバー)に付着することはない。
【0052】
2.二次電池
本発明の積層体は、二次電池の外装材(ケース)として好適に使用されうる。二次電池の形状は、直方体の角筒形状や円筒形状など、特に限定されない。2次電池の種類も、リチウムイオン電池、リチウムポリマー電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池など、特に限定されない。
【0053】
本発明の積層体を二次電池のケースとして使用する際には、本発明の積層体同士を貼り合わせて密閉するのが好ましい。このとき、成形加工された積層体同士を貼り合わせてもよいし、一方の積層体のみが成形加工されていてもよい。本発明の積層体を成形加工する方法は、特に限定されず、プレス加工や扱き加工、絞り加工などの公知の方法から適宜選択することができる。本発明の積層体を貼り合わせる方法としては、本発明の積層体の第1の面(ポリオレフィン系樹脂層で被覆されている面)同士を合わせて、熱融着で接着する方法が好ましい。
【0054】
本発明の積層体を用いて2次電池を製造するには、本発明の積層体を成形加工して得られるケースに、正極や負極、セパレータなどの電池素子、電解液などの電池内容部を収容し、熱融着により接着すればよい。
【0055】
以下、本発明を実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【実施例】
【0056】
1.積層体の作製
供試ステンレス鋼箔として、板厚100μmのSUS304(BA仕上げ)を準備した。準備したステンレス鋼箔の第1の面に、ロールコーターを用いてクロメート処理液を塗布し、到達板温100℃で乾燥させて、クロメート皮膜(全Cr換算付着量:30mg/m)を形成した。
【0057】
クロメート皮膜を形成したステンレス鋼箔の表面に、膜厚30μmの酸変性ポリプロピレンフィルムと膜厚30μmの無延伸ポリプロピレンフィルムを熱ラミネーション法で積層し、積層体を作製した。具体的には、クロメート皮膜を形成したステンレス鋼箔を基材温度が100℃になるようにオーブンで加熱した後、その表面に酸変性ポリプロピレンフィルムと無延伸ポリプロピレンフィルム(パイレンフィルムCT、P1128;東洋紡績株式会社)を加圧ロールにて仮ラミネートし、仮ラミネートしたステンレス鋼箔を160℃のオーブンで60秒間加熱して、積層体を作製した。酸変性ポリプロピレンフィルムは、酸変性ポリプロピレン(モディック、P553A;三菱化学株式会社)をTダイ押し出し機を用いて30μmの厚さで押し出して調製した。
【0058】
次に、ステンレス鋼箔の第2の面に、ポリエチレン−フッ素樹脂粒子を分散させたウレタン樹脂組成物を、ロールコーターを用いて所定の膜厚となるように塗布し、乾燥オーブンを用いて到達板温150℃で乾燥させて、ウレタン樹脂層を形成した。
【0059】
使用したウレタン樹脂のポリオール成分、イソシアネート成分、ウレタン樹脂の質量、酸価、イソシアネート基換算のウレタン結合含有量、ウレタン樹脂の特性、ポリエチレン−フッ素樹脂粒子の大きさおよび添加量、形成されたウレタン樹脂層の膜厚、ウレタン樹脂層表面の動摩擦係数、ウレタン樹脂層表面の動摩擦係数に対する第1の面の熱融着性ポリオレフィン系樹脂フィルム表面の動摩擦係数の比を表1および表2に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
イソシアネート基換算のウレタン結合含有量は、ウレタン結合1つあたりのモル質量を42g/mol(NCOのモル質量)として、「ウレタン結合の質量/ウレタン樹脂の質量」として求めた。ウレタン結合の質量は、「ポリイソシアネートのイソシアネート基の価数×ポリイソシアネートのモル数×42(NCOのモル質量)」として求めた。また、ウレタン樹脂の質量は、「(ポリオールのモル質量×ポリオールのモル数)+(ポリイソシアネートのモル質量×ポリイソシアネートのモル数)」として求めた。
【0063】
ウレタン樹脂の流動開始温度の測定は、細かく裁断された供試ウレタン樹脂の乾燥物(縦約5mm×横約5mm×厚み約1mm)を、電気オーブン(SPHH201;エスペック株式会社)内において、雰囲気温度約300℃、昇温速度約50℃/分で加熱したときに、ウレタン樹脂が溶融状態となって流出し始めた温度を測定することで行った。
【0064】
ウレタン樹脂の破断伸び率および破断強度は、供試ウレタン樹脂からなる膜厚100μmの乾燥皮膜を試験片として、引張り試験機(テンシロンUCT−5T型;株式会社エー・アンド・デイ)により、試験片の形状をJIS K 7127の試験片タイプ5とし、掴み具間距離を80mmとし、引張り速度を500mm/分として測定した。
【0065】
ポリエチレン−フッ素樹脂粒子がウレタン樹脂層の表面から突出しているかどうかは、ウレタン樹脂層の表面を電子顕微鏡で観察することで確認した。
【0066】
ウレタン樹脂層表面および熱融着性ポリオレフィン系樹脂フィルム表面の動摩擦係数は、動摩擦係数測定装置(HEIDON−14;新東科学株式会社)により、直径10mmのステンレス鋼球を用いて、荷重を1Nとし、摺動速度を150mm/分として測定した。得られた値から、以下の式(1)により、ウレタン樹脂層表面の動摩擦係数に対する熱融着性ポリオレフィン系樹脂フィルム表面の動摩擦係数の比を算出した。
【数1】

【0067】
2.積層体の性能評価
各積層体(実施例1〜14、比較例1〜4)について、ヒートシール性、耐ヒートシール性、加工性および耐カジリ性について評価試験を行った。
【0068】
(1)ヒートシール性試験
2枚の積層体を熱融着した後、熱融着部のT型剥離強度をJIS K 6854−3:1999に準拠して測定した。
【0069】
積層体の熱融着は、以下の手順により行った。まず、各積層体の第1の面(熱融着性ポリオレフィン系樹脂フィルムで被覆されている面)が対向するように2枚の積層体を重ね合わせた。次いで、220℃に加温した真鍮製のヒートシールバーを用いて、各積層体の第2の面(ウレタン樹脂層で被覆されている面)側から0.3MPaの圧力で20秒間挟み込み、各積層体の熱融着性ポリオレフィン系樹脂フィルムを熱融着させた。
【0070】
各積層体について、熱融着部のT型剥離強度が40N/15mm以上の場合は「◎」、30N/15mm以上40N/15mm未満の場合は「○」、20N/15mm以上30N/15mm未満の場合は「△」、20N/15mm未満の場合は「×」と評価した。
【0071】
(2)耐ヒートシール性試験
上記ヒートシール性試験において熱融着させた後に、ヒートシールバーが接触したウレタン樹脂層の状態を目視により評価した。
【0072】
各積層体について、ウレタン樹脂層の残存率が100%の場合は「◎」、80%以上100%未満の場合は「○」、50%以上80%未満の場合は「△」、50%未満の場合は「×」と評価した。
【0073】
(3)加工性試験
各積層体から試験片(70mm×70mm)を切り出した。第1の面(熱融着性ポリオレフィン系樹脂フィルムで被覆されている面)がパンチに対向するように各試験片を金型(パンチ:40mm×40mm×Rc3.0mm×Rp0.5mm、ダイ:40.4mm×40.4mm×Rc3.2mm×Rd1.0mm)にセットし、角筒絞り加工試験を行った。
【0074】
各積層体について、限界絞り高さが10mm以上の場合は「◎」、7mm以上10mm未満の場合は「○」、5mm以上7mm未満の場合は「△」、5mm未満の場合は「×」と評価した。
【0075】
(4)耐カジリ性試験
上記加工性試験により得られた角筒絞り加工品について、縦壁部の第2の面側のウレタン樹脂層の状態を目視により評価した。
【0076】
各積層体について、ウレタン樹脂層の残存率が100%の場合は「◎」、80%以上100%未満の場合は「○」、50%以上80%未満の場合は「△」、50%未満の場合は「×」と評価した。
【0077】
(5)評価結果
各評価試験の結果を表3に示す。
【0078】
【表3】

【0079】
表3に示されるように、実施例1〜14の積層体は、ヒートシール性、耐ヒートシール性、加工性および耐カジリ性のすべてにおいて良好な評価を得られた。特に、破断伸び率が50%〜600%の範囲内で、かつ破断強度が60〜1000kgf/cmの範囲内のウレタン樹脂を使用した積層体(実施例1〜4、6〜7、10〜11、13〜14)は、ヒートシール性、耐ヒートシール性、加工性および耐カジリ性のすべてにおいて特に良好な評価を得られた。実施例9の積層体の耐カジリ性が「◎」ではなく「○」であるのは、ポリエチレン−フッ素樹脂粒子の添加量が12質量%と比較的多く、ウレタン樹脂層がわずかに脆くなったため、角筒絞り加工時にわずかにカジリが生じたと推察される。
【0080】
一方、流動開始温度が150℃未満のウレタン樹脂を使用した比較例1の積層体は、積層体を熱融着させる際にウレタン樹脂が軟化してヒートシールバーに付着してしまい、耐ヒートシール性について良好な評価を得られなかった。
【0081】
また、ポリエチレン−フッ素樹脂粒子の添加量が少なく、ウレタン樹脂層表面の動摩擦係数が0.2超の比較例2の積層体は、ウレタン樹脂層で被覆されている第2の面の潤滑性が不十分であるため、加工性および耐カジリ性について良好な評価を得られなかった。
【0082】
また、ポリエチレン樹脂粒子の平均粒径が0.1μm未満の比較例3の積層体は、ポリエチレン−フッ素樹脂粒子がウレタン樹脂層中に埋没してしまい、ウレタン樹脂層で被覆されている第2の面の潤滑性が不十分であるため、加工性および耐カジリ性について良好な評価を得られなかった。
【0083】
また、動摩擦係数の比が1.1未満の比較例4の積層体は、絞り加工の際のパンチ肩部の板厚減少が大きくなるため、加工性について良好な評価を得られなかった。
【0084】
以上のことから、本発明の積層体は、ヒートシール性、耐ヒートシール性、加工性および耐カジリ性に優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の積層体は、外側表面の潤滑性に優れており、所望の加工高さの電池ケースをプレス油を使用せずに製造することができるため、電池外装用材として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絞り加工により電池外装部材に成形加工される電池外装用積層体であって、
第1の面および第2の面を有するステンレス鋼箔と、
前記ステンレス鋼箔の第1の面に直接または化成処理皮膜を介して配置された酸変性ポリオレフィン系樹脂層と、
前記酸変性ポリオレフィン系樹脂層の上に配置された熱融着性ポリオレフィン系樹脂層と、
前記ステンレス鋼箔の第2の面に配置され、ポリエチレン樹脂粒子の表面にフッ素樹脂微粒子が付着したポリエチレン−フッ素樹脂粒子を含むウレタン樹脂層と、を有し、
前記ウレタン樹脂層を構成するウレタン樹脂の流動開始温度は、150℃以上であり、
前記ポリエチレン−フッ素樹脂粒子の中の少なくとも一部の粒子は、前記ウレタン樹脂層の表面から外部に露出しており、
前記ウレタン樹脂層表面の動摩擦係数は、0.2以下であり、
前記ウレタン樹脂層表面の動摩擦係数に対する前記熱融着性ポリオレフィン系樹脂層表面の動摩擦係数の比は、1.1以上である、
電池外装用積層体。
【請求項2】
前記ウレタン樹脂層を構成するウレタン樹脂の破断伸び率は、50〜600%の範囲内であり、
前記ウレタン樹脂層を構成するウレタン樹脂の破断強度は、60〜1000kgf/cmの範囲内である、
請求項1に記載の電池外装用積層体。
【請求項3】
前記ウレタン樹脂層の厚みは、0.2〜10μmの範囲内であり、
前記ポリエチレン樹脂粒子の平均粒径は、0.1〜5μmの範囲内である、
請求項1に記載の電池外装用積層体。
【請求項4】
前記酸変性ポリオレフィン系樹脂は、酸変性ポリプロピレン樹脂であり、
前記熱融着性ポリオレフィン系樹脂は、ポリプロピレン樹脂である、
請求項1に記載の電池外装用積層体。
【請求項5】
請求項1に記載の電池外装用積層体の成形品を熱融着して形成されたケースを有する二次電池。

【公開番号】特開2012−9314(P2012−9314A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144836(P2010−144836)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】