説明

電池用電極及びその製造方法、非水電解質電池、電池パック及び活物質

【課題】 サイクル寿命が向上された非水電解質電池、及び該電池に用いられる電池用電極及びその製造方法、並びに電池パック及びそれらに用いられる活物質を提供する。
【解決手段】 一つの実施形態によれば、単斜晶系二酸化チタンの結晶構造を有する酸化チタン化合物と、塩基性ポリマーとを含む電池用電極が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電池用電極及びその製造方法、非水電解質電池、電池パック及び活物質に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸化物を負極に用いた非水電解質電池は、安定的な急速充放電が可能であり、カーボン系負極を用いた電池に比べて寿命も長い。しかしながら、チタン酸化物は炭素質物に比べて金属リチウムに対する電位が高い。その上、チタン酸化物は、単位重量あたりの容量が低い。このため、チタン酸化物を負極に用いた電池はエネルギー密度が低い。
【0003】
チタン酸化物の理論容量は、アナターゼ構造を有する二酸化チタンが165 mAh/g程度であり、Li4Ti5O12のようなスピネル構造を有するリチウムチタン複合酸化物が170 mAh/g程度である。対して黒鉛系電極材料の理論容量は385 mAh/g以上である。このように、チタン酸化物の容量密度はカーボン系負極のものと比較して著しく低い。これは、チタン酸化物の結晶構造中に、リチウムを吸蔵するサイトが少ないことや、構造中でリチウムが安定化し易いため、実質的な容量が低下することによるものである。
【0004】
そこで近年、単斜晶系二酸化チタンの結晶構造を有する酸化チタン化合物が注目されている。単斜晶系の二酸化チタンは、チタンイオン1つあたりの脱挿入可能なリチウムイオンの数が最大で1.0である。このため、単斜晶系二酸化チタンの結晶構造を有する酸化チタン化合物は約330 mAh/gの理論容量を有し、これは他のチタン酸化合物に比して著しく高い容量である。
【0005】
しかしながら、単斜晶系二酸化チタンの結晶構造を有する酸化チタン化合物を電極材料として用いた場合、電池性能の低下が顕著であり、サイクル寿命が低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−34368号公報
【特許文献2】特開2008−117625号公報
【特許文献3】特開2008−16381号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】R. Marchand, L. Brohan, M. Tournoux, Material Research Bulletin 15, 1129 (1980)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
サイクル寿命が向上された非水電解質電池、及び該電池に用いられる電池用電極及びその製造方法、並びに電池パック及びそれらに用いられる活物質を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一つの実施形態によれば、単斜晶系二酸化チタンの結晶構造を有する酸化チタン化合物と、塩基性ポリマーとを含む電池用電極が提供される。
【0010】
他の実施形態によれば、チタン酸アルカリ化合物を酸と反応させて、そのアルカリカチオンをプロトンに交換することにより、チタン酸プロトン化合物を得ることと、前記チタン酸プロトン化合物を加熱処理することにより、単斜晶系二酸化チタンの結晶構造を有する酸化チタン化合物の粒子を生成することと、前記酸化チタン化合物の粒子の表面に塩基性ポリマーを存在させることとを含む電極の製造方法が提供される。
【0011】
他の実施形態によれば、上記電池用電極を負極として含み、さらに、正極と、非水電解質とを含む非水電解質電池が提供される。
【0012】
他の実施形態によれば、非水電解質電池を含む電池パックが提供される。
【0013】
他の実施形態によれば、単斜晶系二酸化チタンの結晶構造を有する酸化チタン化合物の粒子と、前記酸化チタン化合物の粒子の表面の少なくとも一部を被覆する塩基性ポリマーとを含む活物質が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】単斜晶系二酸化チタンの結晶構造を示す模式図である。
【図2】第2実施形態の第1の方法における電極製造方法のフロー図。
【図3】図2のフローで製造された電極中の粒子を示す模式図。
【図4】第2実施形態の第2の方法における電極製造方法のフロー図。
【図5】図4のフローで製造された電極中の粒子を示す模式図。
【図6】第3実施形態の扁平型非水電解質電池の断面図である。
【図7】図6のA部の拡大断面図である。
【図8】第4実施形態の電池パックの分解斜視図である。
【図9】図8の電池パックの電気回路を示すブロック図である。
【図10】実施例及び比較例で作製した測定セルの容量維持率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、単斜晶系の二酸化チタンの結晶構造を示す模式図である。ここで、単斜晶系の二酸化チタンをTiO2(B)と称する。また、TiO2(B)の結晶構造を有する酸化チタン化合物を、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物と称する。
【0016】
TiO2(B)の結晶構造は、異原子種のインターカレート量やその種類により歪みが発生するため異なる場合があるが、主に空間群C2/mに属し、図1に例示されるようなトンネル構造を有する。なお、TiO2(B)の詳細な結晶構造は、非特許文献1に記載されている。
【0017】
図1に示すように、チタンイオン1と酸化物イオン2が骨格構造部分3を構成し、この骨格構造部分3が互いに結合して連続している。骨格構造部分3同士の間には空隙部分4が存在する。この空隙部分4は、異原子種のインターカレート(又は挿入)のホストサイトとなることができる。
【0018】
TiO2(B)はまた、結晶表面にも異原子種を吸蔵放出可能なホストサイトが存在すると言われている。リチウムイオンがこれらのホストサイトに挿入及び脱離することにより、TiO2(B)は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出することができる。
【0019】
リチウムイオンが空隙部分4に挿入されると、骨格を構成するTi4+がTi3+へと還元され、これによって結晶の電気的中性が保たれる。TiO2(B)は化学式あたり1つのTi4+を有するため、理論上、層間に最大1つのリチウムイオンを挿入することが可能である。このため、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物は、一般式LixTiO2 (0≦x≦1)により表わすことができる。これはスピネル構造又はアナターゼ構造のチタン酸化物に比べ、2倍近い理論容量を有する。なお、上式のxは、充放電反応により0から1の範囲で変動する。
【0020】
よって、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物を活物質として用いることにより、電池の理論容量を上昇させることができると考えられる。
【0021】
しかしながら、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物は固体酸性を示し、水中でpH値が1以上7未満である。これは、TiO2(B)が表面に反応性の高い固体酸点(例えば、水酸基(OH-)及び水酸基ラジカル(OH・))を有しており、固体触媒としても作用するためである。このため、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物を活物質として用いた場合、非水電解質との反応性が高いという問題がある。
【0022】
アナターゼ構造の二酸化チタンやスピネル構造のチタン酸リチウムを用いた場合は、それらが非水電解質と反応して安定な皮膜が形成されるため、活物質表面における非水電解質の分解反応は抑制される。しかし、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物は触媒能力が高いため、一旦、皮膜が形成された後も非水電解質と反応する。その結果、電極性能の低下、電池の内部抵抗の上昇、非水電解質の劣化等の要因によって電池のサイクル寿命が低下する。特に、電池内に微量な水分が存在する場合、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物は高い水中固体酸性を発現する。水分は、原料の製造工程や電池の組み立て工程において混入し得るものであり、化学的に完全に除去することは、原材料の性質やコストの観点から困難である。
【0023】
さらに、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物は、スピネル構造のチタン酸リチウムとは異なり、充放電時に結晶格子サイズが大きく変化する。結晶格子サイズが大きく変化することにより、集電箔上に塗布された電極の体積が変化する。このため、電極の捩れや集電箔上からの活物質の剥離が生じ、その結果、電池のサイクル寿命が低下する虞がある。
【0024】
そこで本発明者らは、電極中に塩基性ポリマーを含有させ、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物の固体酸点(即ち、触媒活性点)の少なくとも1部を中和することにより、固体酸点の影響を抑え、非水電解質電池のサイクル寿命を向上させることに成功した。
【0025】
以下に、各実施形態に係る電極、その製造方法、該電極を用いた非水電解質電池、電池パック及び活物質について、図面を参照して説明する。なお、実施形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。
【0026】
(第1実施形態)
第1実施形態に係る電池用電極は、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物と、塩基性ポリマーを含む。TiO2(B)構造の酸化チタン化合物は、LixTiO2(0≦x≦1)で表すことができる。
【0027】
電極中にTiO2(B)構造の酸化チタン化合物と塩基性ポリマーが含まれることによって、酸化チタン化合物の粒子の表面の少なくとも一部に塩基性ポリマーが存在する。これにより、酸化チタン化合物の表面の固体酸点が中和されて、触媒活性が失活する。その結果、酸化チタン化合物と非水電解質との反応性が低下し、電極性能の低下、電池の内部抵抗の上昇、及び、非水電解質の劣化が抑制される。よって、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物と塩基性ポリマーを含む電極を用いることにより、電池のサイクル寿命を向上させることができる。また、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物の固体酸点が不活性化されることによって、電池の不可逆容量が減少し、充放電効率も改善される。
【0028】
TiO2(B)構造の酸化チタン化合物は、一次粒子の形状であってもよく、二次粒子の形状であってもよいが、電極スラリーの安定化や電解液との接触による副反応を抑制するため、比表面積を抑制できる二次粒子の形状であることが好ましい。
【0029】
酸化チタン化合物の粒子の表面の少なくとも一部に塩基性ポリマーが存在する状態には、例えば、酸化チタン化合物の一次粒子及び二次粒子の何れか又は両方の、表面の少なくとも一部に塩基性ポリマーが結合及び/又は付着していることが含まれる。或いはまた、酸化チタン化合物粒子の孔隙に塩基性ポリマーが含浸している状態が含まれる。塩基性ポリマーの存在状態は、これに限定されないが、酸化チタン化合物の粒子を被覆していることが好ましい。但し、塩基性ポリマーは、導電性の低下及びLiの吸蔵放出を阻害しない程度に被覆することが好ましい。
【0030】
電極中における塩基性ポリマーの存在は、IR測定又はラマン測定によって電極表面を測定することにより確認することができる。また、塩基性ポリマーが酸化チタン化合物を被覆していることは、透過型電子顕微鏡(TEM)又は走査型電子顕微鏡(SEM)により確認することができる。
【0031】
なお、酸化チタン化合物が有する固体酸点が全て中和されている必要はなく、少なくとも一部が中和されていればよい。
【0032】
塩基性ポリマーは、導電性及び非導電性の何れであってもよい。
【0033】
電極中における塩基性ポリマーの含有量は、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物(塩基性ポリマーの重量を除く)に対して、0.01wt%以上10wt%以下であることが好ましい。0.01wt%以上の塩基性ポリマーを含むことにより、固体酸点を中和する効果を得ることができる。一方、塩基性ポリマーの含有量を10wt%以下とすることにより、電極体の導電性が低下することを防ぐことができる。
【0034】
電極中における塩基性ポリマーの含有量はダブルショット法を用いた熱分解GC/MSによって測定することができる。
【0035】
塩基性ポリマーは、これに限定されないが、100以上100000以下の分子量を有するポリマーであることが好ましい。分子量が100以上であることにより、充放電サイクル時における活物質の格子サイズ変化に耐えうるポリマー強度および結着性を得ることができ、分子量が100000以下であることにより、活物質表面を被覆してもリチウムイオンの導電性及び電子導電性を確保することができる。より好ましい分子量は、500以上5000以下である。
【0036】
塩基性ポリマーとしてはアミン化合物を用いることができる。アミン化合物は、これに限定されないが、含窒素芳香複素環化合物を用いることが好ましい。含窒素芳香複素環化合物を用いることにより高い被覆効果を得ることができる。含窒素芳香複素環化合物は、1種類の化合物を単独で用いてもよく、2種類以上の化合物を組合せて用いてもよい。
【0037】
好ましい含窒素芳香複素環化合物の例には、キノリン、イソキノリン、アクリジン、フェナントリジン、フェナントロリン、アセチルピリジン、フェニルピリジン、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、シンノリン、フタラジン、キナゾリンキノキサリン、メチルピリダジン、アセチルピリダジン、フェニルピリダジン、メチルピリミジン、アセチルピリミジン、フェニルピリミジン、メチルピラジン、アセチルピラジン、フェニルピリジン、トリアジン、ベンゾトリアジン、メチルトリアジン、アセチルトリアジン、フェニルトリアジン、テトラジン、メチルテトラジン、アセチルテトラジン、フェニルテトラジン、ピロール、メチルピロール、ビニルピロール、メチルピロール、アセチルピロール、フェニルピロール、インドール、メチルインドール、カルバゾール、メチルカルバゾール、オキサゾール、チアゾール、イソオキサゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾイソオキサゾール、アントラニル、ベンゾチアゾール、ベンゾイソチアゾール、イミダゾール、ピラゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、オキサジアゾール、N−メチルイミダゾール、N−フェニルイミダゾール、N−ビニルイミダゾール、N−アセチルイミダゾール、ベンゾイミダゾール、イソインダゾール、インダゾール、及びベンゾフラザンが含まれる。
【0038】
ポリベンズイミダゾールのようなイミダゾール塩は、ポリマー強度が強いため好ましい。また、ポリビニルピリジンのようなピリジン系化合物は、良好な固体酸性抑制効果を有するため好ましい。
【0039】
本実施形態ではさらに、電極中に、セルロースエーテル化合物及び共重合体ゴムから選択される少なくとも1つを含んでよい。セルロースエーテル化合物及び共重合体ゴムは、これに限定されないが、結着剤として電極中に含まれることができる。また、セルロースエーテル化合物は、結着剤の増粘剤として含まれることができる。
【0040】
セルロースエーテル化合物及び共重合体ゴムは、粒子を被覆する性質を有することが知られている。よって、電極中に、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物と塩基性ポリマーに加えてさらにセルロースエーテル化合物及び共重合体ゴムから選択される少なくとも1つを含むことにより、塩基性ポリマーとの相乗効果が得られ、より高い被覆効果を得ることができる。その結果、酸化チタン化合物の固体酸性をより低下させて酸化チタン化合物と非水電解質との反応をより抑制することができる。
【0041】
セルロースエーテル化合物は酸性に弱く、固体酸によって分解されるため、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物を被覆する材料として用いることは困難である。しかしながら、本実施形態によれば、酸化チタン化合物の固体酸性が塩基性ポリマーによって中和されているため、酸化チタン化合物と共にセルロースエーテル化合物を含有させることが可能である。
【0042】
セルロースエーテル化合物及び共重合体ゴムは、単独で用いてもよいが、その両方を電極中に含有させることがより好ましい。共重合体ゴムは粘性が低く、溶媒中に分散した状態で存在する。しかし、共重合体ゴムと共にセルロースエーテル化合物を加えることにより、粘性を増大させて、酸化チタン化合物の被覆効果を高めることができる。その結果、より高い固体酸性抑制効果を得ることができる。
【0043】
さらに、セルロースエーテル化合物及び共重合体ゴムは結着剤としても作用するため、電極の結着性を向上させることができる。上記したように、セルロースエーテル化合物及び共重合体ゴムは粒子を被覆する性質を有する。そのため、電極中で活物質や導電剤の粒子を被覆し、これによって粒子同士を面接触により結着することができる。その結果、電極の粘弾性を向上させることができる。粘弾性を向上させることにより、電極の体積変化に対する耐性を向上させることができ、電極の捩れや集電箔上からの活物質層の剥離が生じることを抑制することができる。
【0044】
このように、電極中にセルロースエーテル化合物及び共重合体ゴムから選択される少なくとも1つを含むことにより、電極と電解質との反応が抑制されるとともに、電極の剥離が抑制されるため、電池のサイクル寿命をさらに向上させることができる。
【0045】
好ましいセルロースエーテル化合物の例には、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース及びヒドロキシエチルセルロース、及び、リチウム塩、ナトリウム塩及びカリウム塩のようなそれらのセルロース化合物のアルカリ金属塩、及び、それらのセルロース化合物のアンモニウム塩が含まれる。
【0046】
好ましい共重合体ゴムの例には、スチレン・ブタジエン共重合体ゴムのようなスチレン・共役ジエン共重合体;ニトリル・ブタジエン共重合体ゴムのようなニトリル・共役ジエン共重合体ゴム;ポリオルガノシロキサンのようなシリコンゴム;アクリル酸アルキルエステルの重合体;アクリル酸アルキルエステルと、エチレン性不飽和カルボン酸又はその他のエチレン性不飽和単重体との共重合により得られるアクリルゴム;ビニリデンフルオライド共重合体ゴムのようなフッ素ゴムが含まれる。
【0047】
本実施形態において、酸化チタン化合物の粒子径やBET比表面積は特に制限されず、どのような粒子径や比表面積を有する酸化チタン化合物においても、同様の効果を得ることができる。
【0048】
セルロースエーテル化合物は、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物(塩基性ポリマーの重量を除く)に対して、0.5wt%〜5wt%の割合で含まれることが好ましい。0.5wt%以上含まれることにより、スラリーを安定して増粘しつつ粒子表面を被覆することができる。一方、5wt%以下の含有量で含まれることにより、被覆量過多による電子導電性及びイオン伝導性の低下を防ぐことができる。
【0049】
共重合体ゴムは、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物(塩基性ポリマーの重量を除く)に対して、0.5wt%〜10wt%の割合で含まれることが好ましい。0.5wt%以上含まれることにより、集電体との結着性を確保し、優れたサイクル特性を得ることができる。
【0050】
一方、10wt%以下の含有量で含まれることにより、電子導電性とイオン伝導性を維持しながら電極スラリーの流動性を確保し、塗布性(生産性)を向上できる。
【0051】
電極中のセルロースエーテル化合物の存在と共重合体ゴムの存在は、走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡によって電極表面を観察することにより確認することができる。
【0052】
電極中のセルロースエーテル化合物の含有量と共重合体ゴムの含有量は、ダブルショット法を用いた熱分解GC/MSによって測定することができる。
【0053】
電極中における塩基性ポリマー、セルロースエーテル化合物、及び共重合体ゴムの含有量を測定するためのダブルショット法を用いた熱分解GC/MSは、例えば以下のように行うことができる。
【0054】
既に電池となっている電極体からこれらの測定を行う場合、先ず、負極中のリチウムイオンを脱離させるため、電池を放電状態(即ち、酸化チタン化合物からリチウムイオンを抜き取った状態)にする。次に電池を短絡させぬように注意深く電池を分解し、取り出した電極を適宜裁断する。裁断した電極は、エチルメチルカーボネート等の溶媒中で洗浄し、電解液中の塩を取り除く。次に、電極をエチルメチルカーボネート等の溶媒中に浸漬しながら、超音波洗浄機に入れることで、集電体と電極活物質を分離することができる。溶媒分を蒸発乾固することで電極活物質及び結着剤、導電助剤の混合物を得ることができる。電池になっていない電極体のみを測定するときには、この工程のみ行えばよい。
【0055】
次に得られた試料を、ダブルショット法を用いたガスクロマトグラフィ/質量分析法(GC/MS)分析に供する。ダブルショット法とは、1回目の緩やかな昇温で低分子量成分の分析を、2回目の瞬時の熱分解によりポリマー成分の分析を行う方法である。この方法により低分子量を持った塩基性ポリマーやアミン基の存在を知ることができ、セルロースやゴム成分を分離して調べることができる。
【0056】
以上の実施形態によれば、サイクル寿命及び充放電効率が向上された電池を実現するための電極を提供することができる。
【0057】
(第2実施形態)
上記第1実施形態に係る電極の製造方法を以下に詳細に説明する。
電極の製造方法は、チタン酸アルカリ化合物を酸と反応させて、そのアルカリカチオンをプロトンに交換することにより、チタン酸プロトン化合物(即ち、プロトン交換体)を得ることと、チタン酸プロトン化合物を加熱処理することにより、単斜晶系二酸化チタンの結晶構造を有する酸化チタン化合物の粒子を生成することと、該酸化チタン化合物の粒子の表面に塩基性ポリマーを存在させることとを含む。
【0058】
まず、チタン酸アルカリ化合物を酸と反応させて、そのアルカリカチオンをプロトンに交換することによりプロトン交換体を得る。
【0059】
チタン酸アルカリ化合物には、チタン酸ナトリウム、チタン酸カリウム、及びチタン酸セシウムのようなチタン酸アルカリ化合物のような化合物を用いることができるが、これらに限定されない。これらのチタン酸アルカリ化合物の例には、Na2Ti3O7、K2Ti4O9、及びCs2Ti5O12が含まれる。これらのチタン酸アルカリ化合物は、原料酸化物や炭酸塩等を、所定の化学量論比で混合して加熱する固相反応法により得ることができる。チタン酸アルカリ化合物の結晶形状は特に限定されない。また、チタン酸アルカリ化合物は、上記の方法により合成されたものに限定されず、市販のものであってもよい。
【0060】
チタン酸アルカリ化合物を蒸留水でよく水洗し、不純物を除去する。その後、チタン酸アルカリ化合物に酸を反応させて、チタン酸アルカリ化合物のアルカリカチオンをプロトンに交換し、プロトン交換体を得る。チタン酸ナトリウム、チタン酸カリウム、及びチタン酸セシウムのようなチタン酸アルカリ化合物は、酸で処理することにより、結晶構造を崩さずにアルカリカチオンをプロトンに交換することが可能である。プロトン交換には、濃度0.5〜2Mの塩酸、硝酸及び硫酸のような酸を用いることができる。
【0061】
酸処理は、チタン酸アルカリ化合物の粉末に酸を加えて攪拌することによって行うことができる。酸処理は、アルカリカチオンがプロトンに十分に交換されるまで継続することが望ましい。プロトン交換体にカリウムやナトリウムのようなアルカリカチオンが残留していると、充放電容量が低下する原因となる。よって、ほぼ全てのアルカリカチオンが、プロトンに確実に交換されるように注意する必要がある。
【0062】
酸処理の時間は、特に制限されないが、室温25℃付近で、濃度1M程度の塩酸を用いた場合、24時間以上行うことが望ましい。より好ましくは、1〜2週間ほど継続すると良い。さらに、24時間ごとに酸溶液を新しいものと交換することが望ましい。プロトン交換をより効率的に行うために、チタン酸アルカリ化合物を、ボールミルなどで粉砕しながら酸処理することも好ましい。
【0063】
プロトン交換が完了した後、任意に、水酸化リチウム水溶液のようなアルカリ性溶液を添加し、残留した酸を中和する。得られたプロトン交換体は、蒸留水で水洗し、次いで乾燥する。プロトン交換体は、洗浄水のpHが6〜8の範囲に入るまで十分に水洗する。一方で、酸処理後に残留した酸の中和や洗浄、乾燥をせずに次の工程に進むこともできる。
【0064】
次いで、プロトン交換体を加熱処理して、式TiO2構造で表されるTiO2(B)構造の酸化チタン化合物を得る。Liは、酸化チタン化合物中に予め含まれていても良いが、充放電により酸化チタン化合物中に吸蔵されてもよい。
【0065】
加熱処理は、焼成により行うことが好ましい。焼成温度は、プロトン交換体の組成や粒子径、結晶形状のような条件により最適な温度が異なるため、プロトン交換体に依存して適宜決定されるが、300℃〜500℃の範囲であることが好ましい。300℃以上であると、結晶性が良好であり、電極容量、充放電効率、繰り返し特性も良好である。一方、500℃以下であると、不純物相の生成が抑制されるため、電極性能の低下を防ぐことができる。焼成温度は、350℃〜400℃の範囲であると、得られた酸化チタン化合物がより高い容量を有するためにより好ましい。加熱時間は、例えば2〜3時間の範囲であってよいが、これに限定されない。
【0066】
得られた酸化チタン化合物がTiO2(B)の結晶構造を有することは、Cu−Kαを線源とする粉末X線回折により測定することができる。
粉末X線回折測定は、次のように行うことができる。まず、対象試料を平均粒子径が5μm程度となるまで粉砕する。平均粒子径はレーザー回折法によって求めることができる。粉砕した試料を、ガラス試料板上に形成された深さ0.2mmのホルダー部分に充填する。このとき、試料が十分にホルダー部分に充填されるように留意する。また、試料の充填不足によりひび割れ、空隙等がないように注意する。次いで、外部から別のガラス板を使い、充分に押し付けて平滑化する。充填量の過不足により、ホルダーの基準面より凹凸が生じることのないように注意する。次いで、試料が充填されたガラス板を粉末X線回折装置に設置し、Cu−Kα線を用いて回折パターンを取得する。
【0067】
なお、粉末X線回折パターンにおける標準鉱物データーベースであるJCPDSカードに記載された標準的なピーク強度比から、特定のピーク強度比が50%以上ずれるなど、試料の配向性が高い場合は、試料の充填の仕方によってピークの位置がずれたり、強度比が変化したりする可能性がある。そのような試料は、ガラスホルダーに試料を分散させた液体を入れ、スプレーを用いて吹きつけることで、粒子をランダムに配置させて測定する必要がある。
【0068】
或いは、対象試料をペレットの形状にして測定しても良い。ペレットは、対象試料を予めよく粉砕してから形成する。ペレットは、例えば直径10mm、厚さ2mmの圧粉体であってよい。該圧粉体は、試料に約250 MPaの圧力を15分間かけて製作することができる。得られたペレットをX線回折装置に設置し、その表面を測定する。このような方法で測定することにより、オペレータによる測定結果の違いを排除し、再現性を高くすることができる。
【0069】
次に、得られたTiO2(B)構造の酸化チタン化合物の粒子の表面に塩基性ポリマーを存在させる。第1の方法として、合成したTiO2(B)構造の酸化チタン化合物を予め塩基性ポリマーで処理し、該処理後の酸化チタン化合物を用いて電極を製造する方法を説明する。また、第2の方法として、合成したTiO2(B)構造の酸化チタン化合物と、塩基性ポリマーをそれぞれ別個に用いて電極を製造する方法を説明する。
【0070】
<第1の方法>
第1の方法では、得られたTiO2(B)構造の酸化チタン化合物を塩基性ポリマーで予め処理し、該処理後の酸化チタン化合物を用いて電極を製造する。
【0071】
具体的には、酸化チタン化合物を塩基性ポリマー溶液中に分散させることにより、分散液を調製することと、分散液から、塩基性ポリマーによって被覆された酸化チタン化合物を分離することと、分離された酸化チタン化合物を溶媒中に分散させることにより、電極作製用スラリーを調製することとを含む。
【0072】
第1の方法のフローの一例を図2に示した。図2の例では、合成した酸化チタン化合物の粉末(S21)を塩基性ポリマー溶液中に分散し、分散液を調製する(S22)。このとき、酸化チタン化合物の孔隙中への塩基性ポリマー溶液の含浸を促進するため、分散液を減圧してもよい。
【0073】
次いで、分散液をろ過し、塩基性ポリマーで被覆された酸化チタン化合物を分離し、乾燥する(S23)。乾燥は、加熱乾燥であってよい。加熱温度は、塩基性ポリマーの種類によって異なるが、60〜200℃の範囲であることが好ましく、例えば約130℃とすることができる。
【0074】
なお、塩基性ポリマーで被覆された酸化チタン化合物において、塩基性ポリマーの含有量は、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物(塩基性ポリマーの重量を除く)に対して、0.01wt%以上10wt%以下であることが好ましい。0.01wt%以上の塩基性ポリマーを含むことにより、固体酸点を中和する効果を得ることができる。一方、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物を塩基性ポリマーで予め被覆することにより、電極中に存在する塩基性ポリマーの大部分をTiO2(B)構造の酸化チタン化合物の表面に存在させることができるため、塩基性ポリマーの含有量を10wt%以下にすることができる。塩基性ポリマーの含有量は、分散液の調製に用いるための塩基性ポリマー溶液の濃度を調整することによって変化させることができる。或いは、分散液からの酸化チタン化合物の分離方法を変化させて、酸化チタン化合物に付着する塩基性ポリマー溶液の量を調整することにより変化させることができる。
【0075】
次いで、塩基性ポリマーで被覆された酸化チタン化合物と導電剤とを混合する(S24)。この混合物を、スラリー調製用の分散溶媒中に加え、分散液を調製する(S25)。この分散液にセルロースエーテル化合物を加えて混合する(S26)。さらに、共重合体ゴムを加えて混合することにより(S27)、電極調製用スラリーを得る(S28)。
【0076】
このようにして得られたスラリーを、集電体として機能する金属箔の片面又は両面に塗布し、乾燥し、プレスすることによって、電極を得ることができる。
【0077】
図3に、第1の方法で製造された電極中の酸化チタン化合物粒子の断面模式図を示す。図3に示すように、酸化チタン化合物の二次粒子5は塩基性ポリマー層6により被覆されており、さらに、該塩基性ポリマー層6が、結着剤(即ち、セルロースエーテル化合物及び共重合体ゴム)と導電剤の混合層7により被覆されている。
【0078】
なお、図2の例では、セルロールエーテル化合物と共重合体ゴムの両方を用いたが、何れかひとつのみを用いてもよく、或いは両方とも用いずに他の結着剤を用いてもよい。
【0079】
<第2の方法>
第2の方法では、得られたTiO2(B)構造の酸化チタン化合物と塩基性ポリマーとを別個に用いて電極を作製する。
【0080】
具体的には、酸化チタン化合物を塩基性ポリマー溶液中に分散させることにより、分散液を調製することと、該分散液を用いて電極作製用スラリーを調製することとを含む。
【0081】
第2の方法のフローの一例を図4に示した。図4の例では、合成した酸化チタン化合物の粉末(S41)を導電剤と混合する(S42)。次いで、この混合物を塩基性ポリマー溶液中に分散し、分散液を調製する(S43)。このとき、酸化チタン化合物の孔隙中への塩基性ポリマー溶液の含浸を促進するため、分散液を減圧してもよい。
【0082】
次いで、この分散液にセルロースエーテル化合物を加えて混合する(S44)。さらに、共重合体ゴムを加えて混合することにより(S45)、電極調製用スラリーを得る(S46)。
【0083】
このようにして得られたスラリーを、集電体として機能する金属箔の片面又は両面に塗布し、乾燥し、プレスすることによって、電極を得ることができる。
【0084】
図5に、第2の方法で製造された電極中の酸化チタン化合物粒子の断面模式図を示す。図5に示すように、酸化チタン化合物の二次粒子5は、結着剤(即ち、セルロースエーテル化合物及び共重合体ゴム)、導電剤、及び塩基性ポリマーの混合層8により被覆されている。
【0085】
なお、図4の例では、セルロールエーテル化合物と共重合体ゴムの両方を用いたが、何れかひとつのみを用いてもよく、或いは両方とも用いずに他の結着剤を用いてもよい。
【0086】
また、第2の方法では、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物の固体酸点を中和する効果を得るために、塩基性ポリマーの含有量が、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物(塩基性ポリマーの重量を除く)に対して、0.05wt%以上であることが好ましい。塩基性ポリマーの含有量は、塩基性ポリマー溶液の濃度、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物との混合比などを調整することによって変化させることができる。
【0087】
以上のような製造方法によって製造された電極中では、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物の表面の少なくとも一部に塩基性ポリマーが存在し、酸化チタン化合物の固体酸点の少なくとも一部が中和されている。これにより、酸化チタン化合物と非水電解質との反応性が抑制された電極を得ることができる。
【0088】
さらに、本実施形態の方法では、結着剤としてセルロースエーテル化合物及び/又は共重合ゴムを用いることができる。セルロースエーテル化合物及び共重合ゴムは、水に分散するため、電極作製用スラリーの溶媒として有機溶媒の代わりに水を用いることができる。よって、コスト及び環境負荷を低減することができ、また、設備を簡略化することができるという利点がある。
【0089】
以上の実施形態によれば、サイクル寿命及び充放電効率が向上された電池を実現するための電極の製造方法を提供することができる。
【0090】
(第3実施形態)
第3実施形態では、上記第1実施形態における電極を負極として含み、さらに、リチウムを吸蔵及び放出可能な正極と、非水電解質、セパレータ及び外装材を含む非水電解質電池が提供される。
【0091】
以下、負極、正極、非水電解質、セパレータ、外装材について詳細に説明する。
【0092】
1)負極
負極には、上記第1実施形態において説明されたように、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物と、塩基性ポリマーとを含む電極を用いることができる。具体的には、負極は、集電体と、負極層(負極活物質含有層)とを含む。負極層は、集電体の片面若しくは両面に形成され、活物質と、任意に導電剤及び結着剤を含む。
【0093】
上記第1実施形態において説明された電極を用いた負極は、酸化チタン化合物の固体酸点が不活性化されているため非水電解質との反応性が低い。よって、このような負極を用いた非水電解質電池は、性能劣化が抑制され、良好なサイクル寿命を有する。
【0094】
負極は、さらに、セルロースエーテル化合物及び共重合体ゴムのうち少なくとも1つを含むことが好ましい。セルロースエーテル化合物及び共重合体ゴムを両方含むことがより好ましい。これらを両方含むことにより、粒子表面を被覆する効果が向上すると共に、活物質粒子同士及び集電箔と活物質粒子との密着性を向上させることができる。これにより、充放電時の酸化チタン化合物の格子体積変化が引き起こす電極の捩れや電極の剥離を抑えることができ、サイクル寿命を向上させることができる。
【0095】
活物質は、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物と共に他の活物質を用いることもできる。他の活物質の例には、ナノチューブ/ナノファイバー型二酸化チタンTiO2、ラムスデライト構造のチタン酸リチウムであるLi2Ti3O7、スピネル構造のチタン酸リチウムであるLi4Ti5O12が含まれる。これらの酸化チタン化合物は、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物と比重なども近く、混合及び分散が容易であるため好適に用いることができる。
【0096】
導電剤は、活物質の集電性能を高め、集電体との接触抵抗を抑える。導電剤の例には、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛等の炭素質物が含まれる。
【0097】
結着剤は、分散された負極活物質の間隙を埋めるために配合され、活物質と導電剤を結着する。結着剤の例には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用いることができる。これらの結着剤を用いても、塩基性ポリマーによる固体酸性の抑制効果を得ることができる。しかしながら、負極にセルロースエーテル化合物又は共重合体ゴムが含まれる場合、これらは結着剤として機能するため、その他の結着剤は用いなくてもよい。
【0098】
負極層中において、活物質、塩基性ポリマー、導電剤及び結着剤の含有量は、それぞれ68重量部以上96重量部以下、0.01重量部以上5重量部以下、2重量部以上30重量部以下、及び2重量部以上20重量部以下であることが好ましい。
【0099】
塩基性ポリマーの含有量が0.01重量部以上であると、固体酸性抑制効果を得ることができる。導電剤の含有量が2重量部以上であると、負極層の集電性能が良好である。また、結着剤の含有量が2重量部以上であると、負極層と集電体の結着性が十分で、優れたサイクル特性を期待できる。一方、電子導電性及びイオン伝導性確保のために、塩基性ポリマーは5重量部以下であることが好ましい。また、非水電解質電池を高容量化するために、導電剤は10重量部以下であることが好ましく、結着剤は10重量部以下であることが好ましい。
【0100】
集電体は、負極活物質のリチウムの吸蔵及び放出電位において電気化学的に安定である材料が用いられる。集電体は、銅、ニッケル、ステンレス又はアルミニウム、或いは、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、及びSiから選択される一以上の元素を含むアルミニウム合金から作られることが好ましい。集電体の厚さは5〜20μmであることが好ましい。このような厚さを有する集電体は、負極の強度と軽量化のバランスをとることができる。
【0101】
負極は、上記第2実施形態で説明されたように製造することができる。調製された電極用スラリーを集電体に塗布し、乾燥し、負極層を形成した後、プレスを施すことにより作製される。或いは、活物質、塩基性ポリマー、導電剤及び結着剤をペレット状に形成して負極層とし、これを集電体上に形成することにより作製されてもよい。
【0102】
2)正極
正極は、集電体と、正極層(正極活物質含有層)とを含む。正極層は、集電体の片面若しくは両面に形成され、活物質と、任意に導電剤及び結着剤を含む。
【0103】
活物質は、例えば、酸化物、硫化物、又はポリマーを用いることができる。酸化物及び硫化物の例には、リチウムを吸蔵する二酸化マンガン(MnO2)、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLixMn24またはLixMnO2)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLixNiO2)、リチウムコバルト複合酸化物(例えばLixCoO2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLiNi1-yCoy2)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えばLixMnyCo1-y2)、スピネル構造を有するリチウムマンガンニッケル複合酸化物(例えばLixMn2-yNiy4)、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物(例えばLixFePO4、LixFe1-yMnyPO4、LixCoPO4)、硫酸鉄[Fe2(SO43]、バナジウム酸化物(例えばV25)、及び、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物が含まれる。ここで、0<x≦1であり、0<y≦1である。活物質として、これらの化合物を単独で用いてもよく、或いは、複数の化合物を組合せて用いてもよい。
【0104】
ポリマーの例には、ポリアニリン及びポリピロールのような導電性ポリマー材料、又はジスルフィド系ポリマー材料が含まれる。
【0105】
また、イオウ(S)又はフッ化カーボンも活物質として使用できる。
【0106】
より好ましい活物質の例には、正極電圧が高いリチウムマンガン複合酸化物(LixMn24)、リチウムニッケル複合酸化物(LixNiO2)、リチウムコバルト複合酸化物(LixCoO2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(LiNi1-yCoy2)、スピネル構造を有するリチウムマンガンニッケル複合酸化物(LixMn2-yNiy4)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(LixMnyCo1-y2)、リチウムリン酸鉄(LixFePO4)、及び、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物が含まれる。ここで、0<x≦1であり、0<y≦1である。
【0107】
電池の非水電解質として常温溶融塩を用いる場合に、好ましい活物質の例には、リチウムリン酸鉄、LixVPO4F(0≦x≦1)、リチウムマンガン複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、及び、リチウムニッケルコバルト複合酸化物が含まれる。これらの化合物は常温溶融塩との反応性が低いため、サイクル寿命を向上させることができる。
【0108】
活物質の比表面積は、0.1m2/g以上10m2/g以下であることが好ましい。0.1m2/g以上の比表面積を有する正極活物質は、リチウムイオンの吸蔵・放出サイトを十分に確保できる。10m2/g以下の比表面積を有する正極活物質は、工業生産の上で取り扱い易く、かつ良好な充放電サイクル性能を確保できる。
【0109】
結着剤は、活物質と集電体を結着させる。結着剤の例には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素系ゴムが含まれる。
【0110】
導電剤は、集電性能を高め、且つ活物質と集電体との接触抵抗を抑えるために必要に応じて配合される。導電剤の例には、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛のような炭素質物が含まれる。
【0111】
正極層において、活物質及び結着剤はそれぞれ80質量%以上98質量%以下、2質量%以上20質量%以下の割合で配合することが好ましい。
【0112】
結着剤は、2質量%以上の量にすることにより十分な電極強度が得られる。また、20質量%以下にすることにより電極の絶縁体の配合量を減少させ、内部抵抗を減少できる。
【0113】
導電剤を加える場合には、活物質、結着剤及び導電剤はそれぞれ77質量%以上95質量%以下、2質量%以上20質量%以下、及び3質量%以上15質量%以下の割合で配合することが好ましい。導電剤は、3質量%以上の量にすることにより上述した効果を発揮することができる。また、15質量%以下にすることにより、高温保存下での正極導電剤表面での非水電解質の分解を低減することができる。
【0114】
集電体は、アルミニウム箔、又は、Mg、Ti、Zn、Ni、Cr、Mn、Fe、Cu及びSiから選択される一以上の元素を含むアルミニウム合金箔であることが好ましい。
【0115】
アルミニウム箔またはアルミニウム合金箔の厚さは、5μm以上20μm以下、より好ましくは15μm以下にすることが望ましい。アルミニウム箔の純度は99質量%以上が好ましい。アルミニウム箔またはアルミニウム合金箔に含まれる鉄、銅、ニッケル、クロムなどの遷移金属の含有量は、1質量%以下にすることが好ましい。
【0116】
正極は、例えば活物質、結着剤及び必要に応じて配合される導電剤を適当な溶媒に懸濁してスラリーを調製し、このスラリーを正極集電体に塗布し、乾燥して正極層を形成した後、プレスを施すことにより作製される。正極はまた、活物質、結着剤及び必要に応じて配合される導電剤をペレット状に形成して正極層とし、これを集電体上に形成することにより作製されてもよい。
【0117】
3)非水電解質
非水電解質は、例えば、電解質を有機溶媒に溶解することにより調製される液状非水電解質、又は、液状電解質と高分子材料を複合化したゲル状非水電解質であってよい。
【0118】
液状非水電解質は、電解質を0.5モル/L以上2.5モル/L以下の濃度で有機溶媒に溶解することが好ましい。
【0119】
電解質の例には、過塩素酸リチウム(LiClO4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF6)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、及びビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム[LiN(CF3SO22]のようなリチウム塩、及び、これらの混合物が含まれる。電解質は高電位でも酸化し難いものであることが好ましく、LiPF6が最も好ましい。
【0120】
有機溶媒の例には、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ビニレンカーボネートのような環状カーボネート;ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)のような鎖状カーボネート;テトラヒドロフラン(THF)、2メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)、ジオキソラン(DOX)のような環状エーテル;ジメトキシエタン(DME)、ジエトキシエタン(DEE)のような鎖状エーテル;γ-ブチロラクトン(GBL)、アセトニトリル(AN)、及びスルホラン(SL)が含まれる。これらの有機溶媒は、単独で、又は混合溶媒として用いることができる。
【0121】
高分子材料の例には、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレンオキサイド(PEO)が含まれる。
【0122】
また或いは、非水電解質には、リチウムイオンを含有した常温溶融塩(イオン性融体)、高分子固体電解質、無機固体電解質等を用いてもよい。
【0123】
常温溶融塩(イオン性融体)は、有機物カチオンとアニオンの組合せからなる有機塩の内、常温(15〜25℃)で液体として存在しうる化合物を指す。常温溶融塩には、単体で液体として存在する常温溶融塩、電解質と混合させることで液体となる常温溶融塩、有機溶媒に溶解させることで液体となる常温溶融塩が含まれる。一般に、非水電解質電池に用いられる常温溶融塩の融点は、25℃以下である。また、有機物カチオンは、一般に4級アンモニウム骨格を有する。
【0124】
高分子固体電解質は、電解質を高分子材料に溶解し、固体化することによって調製される。
無機固体電解質は、リチウムイオン伝導性を有する固体物質である。
【0125】
4)セパレータ
セパレータは、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース、またはポリフッ化ビニリデン(PVdF)を含む多孔質フィルム、または、合成樹脂製不織布から形成されてよい。中でも、ポリエチレン又はポリプロピレンから形成された多孔質フィルムは、一定温度において溶融し、電流を遮断することが可能であるため、安全性を向上できる。
【0126】
5)外装材
外装材は、厚さ0.5mm以下のラミネートフィルムまたは厚さ1mm以下の金属製容器が用いることができる。ラミネートフィルムの厚さは0.2mm以下であることがより好ましい。金属製容器は、厚さ0.5mm以下であることがより好ましく、厚さ0.2mm以下であることがさらに好ましい。
【0127】
外装材の形状は、扁平型(薄型)、角型、円筒型、コイン型、ボタン型等が挙げられる。外装材は、電池寸法に応じて、例えば携帯用電子機器等に積載される小型電池用外装材、二輪乃至四輪の自動車等に積載される大型電池用外装材が挙げられる。
【0128】
ラミネートフィルムは、樹脂層間に金属層を介在した多層フィルムが用いられる。金属層は、軽量化のためにアルミニウム箔もしくはアルミニウム合金箔が好ましい。樹脂層は、例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の高分子材料を用いることができる。ラミネートフィルムは、熱融着によりシールを行って外装材の形状に成形することができる。
【0129】
金属製容器は、アルミニウムまたはアルミニウム合金等から作られる。アルミニウム合金は、マグネシウム、亜鉛、ケイ素等の元素を含む合金が好ましい。合金中に鉄、銅、ニッケル、クロム等の遷移金属を含む場合、その含有量は1質量%以下にすることが好ましい。これにより、高温環境下での長期信頼性、放熱性を飛躍的に向上させることができる。
【0130】
次に、第3実施形態に係る非水電解質電池を、図面を参照してより具体的に説明する。図6は、扁平型非水電解質電池の断面図である。図7は図6のA部の拡大断面図である。なお、各図は実施形態の説明とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる点があるが、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜設計変更することができる。
【0131】
扁平状の捲回電極群9は、2枚の樹脂層の間に金属層を介在したラミネートフィルムからなる袋状外装材10内に収納されている。扁平状の捲回電極群9は、図7に示すように、外側から負極11、セパレータ12、正極13、セパレータ12の順で積層した積層物を渦巻状に捲回し、プレス成型することにより形成される。
【0132】
負極11は、負極集電体11aと負極層11bとを含む。負極層11bには、上記第1実施形態に係る負極活物質が含まれる。最外層の負極11は、図6に示すように負極集電体11aの内面側の片面に負極層11bを形成した構成を有する。その他の負極11は、負極集電体11aの両面に負極層11bが形成されている。
【0133】
正極13は、正極集電体13aの両面に正極層13bが形成されている。
【0134】
図6に示すように、捲回電極群9の外周端近傍において、負極端子14は最外層の負極11の負極集電体11aに接続され、正極端子15は内側の正極13の正極集電体13aに接続されている。これらの負極端子14及び正極端子15は、袋状外装材10の開口部から外部に延出されている。例えば液状非水電解質は、袋状外装材10の開口部から注入されている。袋状外装材10の開口部を負極端子14及び正極端子15を挟んでヒートシールすることにより捲回電極群9及び液状非水電解質を完全密封している。
【0135】
負極端子は、例えば、負極活物質のLi吸蔵放出電位において電気化学的に安定であり、かつ導電性を有する材料から形成される。具体的には、銅、ニッケル、ステンレス又はアルミニウム、或いは、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、Siのような元素を含むアルミニウム合金から形成される。負極端子は、負極集電体との接触抵抗を低減するために、負極集電体と同様の材料から形成されることが好ましい。
【0136】
正極端子は、例えば、リチウムイオン金属に対する電位が3V以上5V以下、好ましくは3.0V以上4.25V以下の範囲における電気的安定性と導電性とを有する材料から形成される。具体的には、アルミニウム又はMg、Ti、Zn、Ni、Cr、Mn、Fe、Cu、Si等の元素を含むアルミニウム合金から形成される。正極端子は、正極集電体との接触抵抗を低減するために、正極集電体と同様の材料から形成されることが好ましい。
【0137】
以上の実施形態によれば、サイクル寿命及び充放電効率が向上された非水電解質電池を提供することができる。
【0138】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態に係る電池パックについて、図面を参照して説明する。電池パックは、上記第3実施形態に係る非水電解質電池(単電池)を1個又は複数有する。複数の単電池を含む場合、各単電池は、電気的に直列もしくは並列に接続して配置される。
【0139】
図8及び9に、図6に示した扁平型電池を複数含む電池パックの一例を示す。図8は、電池パックの分解斜視図である。図9は、図8の電池パックの電気回路を示すブロック図である。
【0140】
複数の単電池16は、外部に延出した負極端子14及び正極端子15が同じ向きに揃えられるように積層され、粘着テープ17で締結することにより組電池18を構成している。これらの単電池16は、図9に示すように互いに電気的に直列に接続されている。
【0141】
プリント配線基板19は、負極端子14及び正極端子15が延出する単電池16側面と対向して配置されている。プリント配線基板19には、図9に示すようにサーミスタ20、保護回路21及び外部機器への通電用端子22が搭載されている。なお、プリント配線基板19の組電池18と対向する面には、組電池18の配線との不要な接続を回避するために絶縁板(図示せず)が取り付けられている。
【0142】
正極側リード23は、組電池18の最下層に位置する正極端子15に接続され、その先端はプリント配線基板19の正極側コネクタ24に挿入されて電気的に接続されている。負極側リード25は、組電池18の最上層に位置する負極端子14に接続され、その先端はプリント配線基板19の負極側コネクタ26に挿入されて電気的に接続されている。これらのコネクタ24,26は、プリント配線基板19に形成された配線27,28を通して保護回路21に接続されている。
【0143】
サーミスタ20は、単電池16の温度を検出するために用いられる。その検出信号は保護回路21に送信される。保護回路21は、所定の条件で保護回路21と外部機器への通電用端子22との間のプラス側配線29a及びマイナス側配線29bを遮断できる。所定の条件とは、例えばサーミスタ20の検出温度が所定温度以上になったときである。また、所定の条件とは単電池16の過充電、過放電、過電流等を検出したときである。この過充電等の検出は、個々の単電池16もしくは単電池16全体について行われる。個々の単電池16を検出する場合、電池電圧を検出してもよいし、正極電位もしくは負極電位を検出してもよい。後者の場合、個々の単電池16中に参照極として用いるリチウム電極が挿入される。図8及び図9の場合、単電池16それぞれに電圧検出のための配線30を接続し、これら配線30を通して検出信号が保護回路21に送信される。
【0144】
正極端子15及び負極端子14が突出する側面を除く組電池18の三側面には、ゴムもしくは樹脂からなる保護シート31がそれぞれ配置されている。
【0145】
組電池18は、各保護シート31及びプリント配線基板19と共に収納容器32内に収納される。すなわち、収納容器32の長辺方向の両方の内側面と短辺方向の内側面それぞれに保護シート31が配置され、短辺方向の反対側の内側面にプリント配線基板19が配置される。組電池18は、保護シート31及びプリント配線基板19で囲まれた空間内に位置する。蓋33は、収納容器32の上面に取り付けられている。
【0146】
なお、組電池18の固定には粘着テープ17に代えて、熱収縮テープを用いてもよい。この場合、組電池の両側面に保護シートを配置し、熱収縮テープを周回させた後、熱収縮テープを熱収縮させて組電池を結束させる。
【0147】
図8、図9では単電池16を直列接続した形態を示したが、電池容量を増大させるためには並列に接続してもよい。あるいは、直列接続と並列接続を組合せてもよい。組み上がった電池パックをさらに直列又は並列に接続することもできる。
【0148】
また、電池パックの態様は用途により適宜変更される。本実施形態に係る電池パックは、大電流を取り出したときにサイクル特性が優れていることが要求される用途に好適に用いられる。具体的には、デジタルカメラの電源として、又は、例えば二輪乃至四輪のハイブリッド電気自動車、二輪乃至四輪の電気自動車、及び、アシスト自転車の車載用電池として用いられる。特に、車載用電池として好適に用いられる。
【0149】
以上の実施形態によれば、サイクル寿命及び充放電効率が向上された電池パックを提供することができる。
【0150】
(第5実施形態)
第5実施形態において、単斜晶系二酸化チタンの結晶構造を有する酸化チタン化合物の粒子と、前記酸化チタン化合物の粒子の表面の少なくとも一部を被覆する塩基性ポリマーとを含む活物質が提供される。
【0151】
このような活物質は、酸化チタン化合物の表面の少なくとも一部が塩基性ポリマーで被覆されていることにより、酸化チタン化合物の表面の固体酸点が中和されて、触媒活性が失活している。その結果、非水電解質との反応性が低下しており、電極性能の低下、電池の内部抵抗の上昇、及び、非水電解質の劣化を抑制することができる。よって、電池のサイクル寿命の向上に寄与することができる。また、酸化チタン化合物の固体酸点が不活性化されていることによって、電池の不可逆容量が減少することによる充放電効率の改善に寄与することができる。
【0152】
本実施形態における活物質は、上記第2実施形態の第1の方法に記載したように製造することができる。即ち、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物を、塩基性ポリマー溶液中に分散させることにより、分散液を調製し、該分散液から塩基性ポリマーによって被覆された酸化チタン化合物を分離することによって製造することができる。
【0153】
以上の実施形態によれば、サイクル寿命及び充放電効率が向上された非水電解質電池を製造するための活物質を提供することができる。
【実施例】
【0154】
以下、実施例に基づいて上記実施形態をさらに詳細に説明する。なお、合成した酸化チタン化合物の結晶相の同定及び結晶構造の推定は、Cu-Kα線を用いた粉末X線回折法によって行った。また、比表面積はBET法により測定した。また、生成物の組成をICP法により分析し、目的物が得られていることを確認した。
【0155】
<TiO2(B)構造の酸化チタン化合物の合成>
まず、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物を合成した。出発原料には市販のK2Ti4O9を用いた。K2Ti4O9の粉末を蒸留水で水洗し、不純物を除去した。次いで、該粉末を1Mの塩酸溶液中に加え、25℃で72時間攪拌し、プロトン交換を行った。このとき、24時間ごとに1M塩酸溶液を新しいものに交換した。
【0156】
プロトン交換によって得られた懸濁液は、分散性が良好であるため、ろ過による分離が困難であった。よって、該懸濁液を遠心分離し、溶媒と固形分を分離し、H2Ti4O9で表されるチタン酸プロトン化合物(即ち、プロトン交換体)を得た。
【0157】
次に、プロトン交換体H2Ti4O9を、350℃の温度で3時間焼成した。正確な熱履歴を得るために、あらかじめ設定された温度の電気炉にプロトン交換体を入れ、加熱後は速やかに炉外に取り出して、大気中で急冷した。この焼成物を80℃の真空中で12時間乾燥させ、酸化チタン化合物を得た。
【0158】
得られた酸化チタン化合物を、Cu−Kαを線源とする粉末X線回折により測定した。その結果、2θ=14°付近に(001)面のピークが現れ、2θ=25°付近に(110)面のピークが現れ、2θ=28.5°付近に(002)面のピークが現れ、2θ=43.5°付近に(003)面のピークが現れた。このことから、合成した酸化チタン化合物が、TiO2(B)の結晶構造を有し、式TiO2で表される酸化チタン化合物であることが確認された。
【0159】
粉末X線回折測定は、次のように行った。まず、対象試料を平均粒子径が5μm程度となるまで粉砕した。粉砕した試料を、ガラス試料板上に形成された深さ0.2mmのホルダー部分に充填した。次いで、外部から別のガラス板を使い、充分に押し付けて平滑化した。次いで、試料が充填されたガラス板を粉末X線回折装置に設置し、Cu−Kα線を用いて回折パターンを取得した。
【0160】
<実施例1>
上記で作製したTiO2(B)構造の酸化チタン化合物を用いて、図2に示すような手順によって電極を作製し、この電極を用いて電気化学測定セルを作製した。
【0161】
まず、ポリベンズイミダゾール(PBI)溶液を、N,N-ジメチルアセトアミドで希釈して、濃度20wt%の溶液を得た。この溶液に、10gの酸化チタン化合物を混合した後、攪拌した。得られた白色の分散液をろ過して固形分を分離し、140℃で2時間乾燥させた。これにより、PBIで被覆された酸化チタン化合物を得た。PBIの含有量は、被覆前の酸化チタン化合物に対して、0.03wt%であった。
【0162】
得られた被覆酸化チタン化合物の粉末に、導電剤としてアセチレンブラックを酸化チタン化合物(PBIの重量を除く)に対して10wt%混合し、該混合物を水で分散した。この分散液に、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を、酸化チタン化合物(PBIの重量を除く)に対して2.5wt%添加して混合した。次いで、この分散液に、結着剤としてスチレン・ブタジエン共重合体ゴム(SBR)を、酸化チタン化合物(PBIの重量を除く)に対して2.5wt%混合し、スラリーを得た。このスラリーを、ブレードを用いて、アルミ箔から成る集電体上に塗布した。これを真空下、130℃で12時間乾燥し、電極を得た。
【0163】
この電極と、対極として金属リチウム箔と、非水電解質を用いて、電気化学測定セルを作製した。非水電解質として、エチレンカーボネート及びジエチルカーボネートの混合溶媒(体積比1:1)中に六フッ化リン酸リチウムを1Mの濃度で溶解させたものを用いた。
【0164】
なお、リチウム金属を対極としているため、酸化チタン化合物の電極電位は対極に比して貴となる。このため、充放電の方向は、酸化チタン化合物電極をリチウムイオン電池の負極として用いたときと反対になる。ここで、混乱を避けるため、本実施例ではリチウムイオンが酸化チタン化合物の電極に挿入される方向を充電、脱離する方向を放電という呼称で統一することにする。本実施例では前述の通り酸化チタン化合物を用いた電極を正極として作動させているが、正極材料と組み合わせることで、酸化チタン化合物を用いた電極を負極として動作させることももちろん可能である。
【0165】
<実施例2>
結着剤として、SBRの代わりにポリフッ化ビニリデン(PVDF)を酸化チタン化合物(PBIの重量を除く)に対して10wt%用いた以外は、実施例1と同様に電気化学測定セルを製造した。
【0166】
<実施例3>
CMC及びSBRを用いず、結着剤としてPVDFを酸化チタン化合物(PBIの重量を除く)に対して10wt%用いた以外は、実施例1と同様に電気化学測定セルを製造した。
【0167】
<実施例4>
CMCを用いなかった以外は、実施例1と同様に電気化学測定セルを製造した。
【0168】
<実施例5>
上記で合成したTiO2(B)構造の酸化チタン化合物を用いて、図4に示すような手順によって電極を作製し、この電極を用いて電気化学測定セルを作製した。
【0169】
まず、TiO2(B)構造の酸化チタン化合物に対して、導電剤としてアセチレンブラックを重量比で10wt%混合した。また、PBI溶液を、N,N-ジメチルアセトアミドで希釈して、濃度20wt%溶液とした溶液を得た。上記混合物に、この溶液を酸化チタン化合物に対して30wt%の割合で添加して攪拌した。
【0170】
この混合物に、増粘剤としてCMCを酸化チタン化合物に対して2.5wt%の割合で混合した。また、結着剤としてスチレン・ブタジエン共重合体ゴム(SBR)を酸化チタン化合物に対して2.5wt%の割合で混合した。さらに、導電剤としてアセチレンブラックを酸化チタン化合物に対して10wt%の割合で混合し、スラリーを得た。このスラリーを用いて、実施例1と同様に電極及び電気化学測定セルを作製した。
【0171】
<比較例1>
上記で合成したTiO2(B)構造の酸化チタン化合物に、導電剤としてアセチレンブラックを酸化チタン化合物に対して10wt%の割合で混合した。この混合物を水で分散して分散液を得た。この分散液に、増粘剤としてCMCを酸化チタン化合物に対して2.5wt%の割合で添加して混合した。次いで、結着剤としてSBRを酸化チタン化合物に対して2.5wt%の割合で混合し、スラリーを得た。このスラリーを用いて、塩基性ポリマーを含まない電極を作製した。電極の作製方法は実施例1と同様である。この電極を用いて、実施例1と同様に電気化学測定セルを作製した。
【0172】
<比較例2>
CMCを用いなかった以外は、比較例1と同様に電気化学測定セルを製造した。
【0173】
<比較例3>
CMC及びSBRを用いず、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを酸化チタン化合物に対して10wt%の割合で用いた以外は、比較例1と同様に電気化学測定セルを製造した。
【0174】
<XRD分析>
実施例1〜5及び比較例1〜3で作製した電極を、粉末X線回折法(XRD)により調べた。その結果、電極を製造する過程において、酸化チタン化合物のTiO2(B)結晶構造が変化していないことが確認された。なお、ここで得られた分析結果は、充放電後の構造変化を確認するための初期値として用いることができる。
【0175】
<放電特性の評価>
実施例1〜5及び比較例1〜3で作製した測定セルを用いて、45℃の高温度下で電極劣化の加速試験を行った。100サイクル繰り返し充放電を行い(充電/放電で1サイクルとする)、放電容量維持率を調べた。充放電は、金属リチウム電極基準で1.0V〜3.0Vの電位範囲で、放電電流値0.05mA/cm2、45℃の測定条件で行った。容量維持率は、0.05 mA/cm2の時の初回放電容量を100として算出した。また、初回充放電効率と100サイクル後の充放電効率も測定した。また、初回充放電を完了した電池の抵抗を1.0とし、100サイクル後の電池抵抗から、100サイクル後の電池抵抗上昇率を算出した。また、100サイクル後の電極を観察した。それらの結果を図10及び表1に示す。
【表1】

【0176】
図10および表1に示したように、実施例1〜5は、比較例1〜3と比較して100サイクル後の放電容量維持率が高く、また、充放電効率も高かった。よって、電極中にTiO2(B)構造の酸化チタン化合物と塩基性ポリマーとを含むことにより、電極と非水電解質の反応が抑制されて、電池性能の劣化が抑制されることが示された。
【0177】
また、CMC及びSBRを共に用いた実施例1及び5は、100サイクル後の放電容量維持率及び充放電効率が特に高く、これらを用いることにより、電池性能の劣化がさらに抑制されることが示された。
【0178】
また、実施例1〜5は、比較例1〜3と比較して、100サイクル後の抵抗上昇率が低く、十分な放電容量を維持していることが示された。このことから、電極中にTiO2(B)構造の酸化チタン化合物と塩基性ポリマーとを含むことにより、電極の抵抗上昇が抑制されることが示された。またさらに、CMC及びSBRを共に用いた実施例1及び5は、100サイクル後の抵抗上昇率が特に低く、これらを用いることにより、抵抗上昇を抑制する効果がさらに得られることが示された。
【0179】
実施例1〜5はいずれも、100サイクル後の電極表面に変化は見られなかった。
【0180】
一方、塩基性ポリマーを含まないがCMC及びSBRを含む比較例1は、比較例2及び3より高い容量維持率を示した。しかし、図10に示すように、サイクル数が上昇するにつれて急激に容量が減少した。そこで、100サイクル後の電極表面を観察すると、細かなひび割れが多数見られた。また、活物質層が集電体から剥離していることが観察された。これは、CMCがチタン酸化物の固体酸性によって分解されることにより、CMC及びSBRによる結着作用が低下したことによるものと考えられる。
【0181】
比較例2は比較例1と同様に電極表面にひび割れが観察された。CMC及びSBRの何れも含まない比較例3は、活物質層と集電体との間に気泡が入ったように浮いていることが観察された。これは、充放電によるチタン酸化物の結晶格子サイズの変化に対して、ポリフッ化ビニリデンの結着性が不足していたためと考えられる。
【0182】
以上の実施形態又は実施例によれば、サイクル寿命が向上された電池及び該電池を実現するための電極及び活物質を提供することができる。
【0183】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0184】
1…チタンイオン、2…酸化物イオン、3…骨格構造、4…空隙部分、
5…酸化チタン化合物粒子、6…塩基性ポリマー層、7…結着剤及び導電剤の混合層、8…結着剤、導電剤、及び塩基性ポリマーの混合層、9…電極群、10…外装材、11…負極、12…セパレータ、13…正極、14…負極端子、15…正極端子、16…単電池、19…プリント配線基板、20…サーミスタ、21…保護回路、32…収納容器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単斜晶系二酸化チタンの結晶構造を有する酸化チタン化合物と、塩基性ポリマーとを含むことを特徴とする電池用電極。
【請求項2】
前記塩基性ポリマーは、アミン化合物であることを特徴とする請求項1に記載の電池用電極。
【請求項3】
前記アミン化合物は、含窒素芳香複素環化合物を含むことを特徴とする請求項2に記載の電池用電極。
【請求項4】
セルロースエーテル化合物及び共重合体ゴムから選択される少なくとも1つをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の電池用電極。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の電池用電極を負極として含み、さらに、正極と、非水電解質とを含むことを特徴とする非水電解質電池。
【請求項6】
請求項5に記載の非水電解質電池を含むことを特徴とする電池パック。
【請求項7】
チタン酸アルカリ化合物を酸と反応させて、そのアルカリカチオンをプロトンに交換することにより、チタン酸プロトン化合物を得ることと、
前記チタン酸プロトン化合物を加熱処理することにより、単斜晶系二酸化チタンの結晶構造を有する酸化チタン化合物の粒子を生成することと、
前記酸化チタン化合物の粒子の表面に塩基性ポリマーを存在させることと、
を含むことを特徴とする、電極の製造方法。
【請求項8】
前記酸化チタン化合物の粒子の表面に塩基性ポリマーを存在させることは、前記酸化チタン化合物を前記塩基性ポリマー溶液中に分散させることにより、分散液を調製することと、前記分散液から、前記塩基性ポリマーによって被覆された酸化チタン化合物を分離することとを含み、
続いて、前記分離された酸化チタン化合物を溶媒中に分散させることにより、電極作製用スラリーを調製することを含むことを特徴とする、請求項7に記載の電極の製造方法。
【請求項9】
前記酸化チタン化合物の粒子の表面に塩基性ポリマーを存在させることは、前記酸化チタン化合物を、前記塩基性ポリマー溶液中に分散させることにより、分散液を調製することと、前記分散液を用いて電極作製用スラリーを調製することとを含むことを特徴とする、請求項7に記載の電極の製造方法。
【請求項10】
単斜晶系二酸化チタンの結晶構造を有する酸化チタン化合物の粒子と、
前記酸化チタン化合物の粒子の表面の少なくとも一部を被覆する塩基性ポリマーと、
を含むことを特徴とする活物質。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−59467(P2012−59467A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200207(P2010−200207)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】