説明

電池診断装置

【課題】少ないメモリ容量で開回路電圧測定のための電圧変動監視およびエンジン始動時の最低電圧測定のための電圧変動監視が可能な電池診断装置を提供する。
【解決手段】電池診断装置は、一時的に複数の電圧データを格納するためのRAM、電池の電圧を測定する電圧測定部および電圧測定部で測定された電圧をRAMに記録させるCPUを備えており、CPUは、車両側機器の負荷およびエンジン始動に応じた複数の記録周期で、電圧測定部で測定された電圧をRAMに記録させる。すなわち、電圧測定部で測定された直近の電圧とRAMに記録された電圧データとの差が設定値ΔV1以上か(電圧変動1)を検出し、電圧変動1を検出する前は記録周期T1で、電圧変動1を検出した後は、所定時間t1の間、記録周期T1より周期の短い記録周期T2で記録させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電池診断装置に係り、特に、車両に搭載された電池の電池状態を診断する電池診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車(車両)、携帯機器などの高性能化に伴ってそれらに使用される電池の負荷が大きくなるに従い、電池状態の監視と電池状態の制御は近年その重要性がますます大きくなってきている。自動車用電池では、排ガスの削減のために行われているアイドルストップ・スタート(ISS)や回生充電などを踏まえ、これらの用途に適した電池状態に電池を保つため、電池状態を正確に検知する技術が望まれている。鉛電池はこれらの用途に応用できる代表的な電池である。
【0003】
一般に、車両に搭載された電池の正極端子は、イグニッションスイッチの中央端子に接続されている。イグニッションスイッチは、中央端子とは別に、OFF端子、ON/ACC端子及びSTART端子を有しており、中央端子とこれらの端子のいずれかとは、ロータリー式に切り替え接続が可能である。START端子はエンジン始動用セルモータ(スタータ)に接続されており、スタータはクラッチ機構を介してエンジンの回転軸に回転駆動力の伝達が可能である。また、ON/ACC端子は、エアコン、ラジオ、ランプ等の車両側機器及びレギュレータを介してエンジンの回転により発電する発電機(オルタネータ)に接続されている。一方、電池の負極外部出力端子は、グランド電位として車両側機器、スタータおよびレギュレータの他端に接続されている。
【0004】
このような車載電池の電池状態は電池診断装置により診断される。電池診断装置には、(1)車両のECUに電池の電池状態を判定する判定部を備えた第一の電池診断装置、(2)車両のECUからは独立しているがECUとの通信機能を有する第二の電池診断装置、(3)車両のECUから独立しECUとの通信機能を持たない第三の電池診断装置の形態がある。第一、第二の電池診断装置では、ISS車両でのアイドルストップ可否判断など、車両のECUが車両制御で電池状態の診断(判定)結果を利用することを想定しており、末端ユーザ(ドライバ)に電池状態を知らせるシステムを組むことも可能である。一方、第三の電池診断装置は、末端ユーザに電池状態を報知することを想定した構成であり、車両のECUとの通信手段がないためECUでの制御は難しく、また、レトロフィット(後付)による使用が想定されるため、コストの点の配慮が特に必要である。
【0005】
ところで、電池診断装置には大きく分けて2つの機能がある。ひとつは電池の充電状態(SOC)診断であり、もうひとつは電池の劣化状態(SOH)診断である。充電状態は開回路電圧(OCV)から判定するのが一般的であり、OCVは暗電流が流れた状態または無負荷で長時間放置され安定(分極が解消)した際の電圧として測定される。電圧が安定しているかの判断は、上述した第一、第二の電池診断装置では、車両側機器の通電状態の情報を入手し推定した通電電流と電流しきい値の比較による判断や、電流センサを有する電池診断装置では測定された電流値と電流しきい値との比較判断によって行われる。
【0006】
一方、第三の電池診断装置では電池端子間の電圧変動からOCV測定の可否を検知することが考えられ、例えば、オシロスコープでのウィンドウアウトのトリガ設定と同様な手法が適用可能である。具体的には、トリガレベル=観測された安定電圧±ΔVとし、この2つのトリガレベルに挟まれた電圧範囲から測定電圧が外れたときに電圧が変動したと判断する。すなわち、予め設定された時間幅の前後の電圧を比較し、その差が所定値以上または以下になったときに電圧変動を検出したと判断する手法である。
【0007】
また、劣化状態は電池の内部抵抗や高率放電電圧から判定するのが一般的である。車載電池では、エンジン始動時の最低電圧値を測定し劣化状態を判定する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。なお、本発明の周辺技術としては、電池診断装置付き電池を車両に搭載した後に確実に起動させる技術(例えば、特許文献2参照)、電池状態を複数のLEDで表示したりブザーで報知したりする技術(例えば、特許文献3参照)、電池の新品状態でのエンジン始動時の最低電圧値を予め不揮発性メモリに記憶しておき電池の劣化判定に利用する技術(例えば、特許文献4参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3673895号
【特許文献2】WO/2006/059511号公報
【特許文献3】特開2008−080977号公報
【特許文献4】特開2008−094211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図1は、エンジン始動に伴う14V系車載電池の外部端子間での典型的な電圧変動を示すグラフである。図中、A領域は、エンジン停止かつイグニッションスイッチがOFF端子に位置している状態(この状態を以下「イグニッションオフ」という。)、B領域は、イグニッションスイッチがON/ACC端子に位置した後の状態(この状態を以下「イグニッションオン」という。)、C領域は、イグニッションスイッチがSTART端子に位置しエンジン始動時の状態(厳密には、セルモータに電池から電力が供給されエンジンが始動する直前の状態)、D領域は、イグニッションスイッチがSTART端子に位置しエンジンが始動した後の状態、E領域は、イグニッションスイッチがSTART端子からON/ACC端子に戻されエンジンが作動中の状態を示している。なお、E領域では、上述したオルタネータが作動し電池を充電する。
【0010】
図1に示すように、イグニッションオンにより(B領域)、電池は、例えば、100msで100mV程度の電圧降下が生じる。このため、イグニッションオンによる電圧変動を検出するには、電池診断装置の電圧測定精度は100mV未満、電圧測定周期は100ms未満である必要がある。イグニッションオンの状態では上述した車両側機器に数A程度の電流が流れ、長時間そのまま放置すればイグニッションオフで電池の電圧が安定したときにOCVとして測定される電圧よりも0.3V程度と無視できない電圧降下が生じるので、このような電圧変動を検出した後は再び電圧が安定する(電池の分極状態が解消される)までOCVを測定しないことが望ましい。
【0011】
車両との通信機能がなく電流センサを持たない(電流監視を行わない)第三の電池診断装置は、低コストでありレトロフィットに好適であるという利点があるが、OCVの測定のために、電圧を監視し、連続して電圧変動を検出していない時間が十分長いことを確認して、電圧が安定した状態の電池のOCVを測定することが必要である。しかしながら、一般に電圧波形観測により負荷のオン・オフ(電池から車両側機器への電力供給・その停止)による電圧変動をノイズや誤測定の影響を受けずに検出するのは難しく、車両側機器の負荷による電圧変動の特徴の抽出するアルゴリズムは確立されていない。一方、電圧波形から特徴を抽出するにはフーリエ解析やウェーブレット解析が知られているが、ともに処理が複雑なため大量のメモリと高速処理が必要であり、例えば、低コストのワンチップマイコンに実装することは困難である。
【0012】
また、電池状態を診断するためには、イグニッションオンの他、エンジン始動による電圧変動(C領域)を検出する必要がある。エンジン始動時には、図1に示すように、10ms程度の幅の非常に鋭いパルス状の電圧降下が最初に生じるため(C領域)、最低電圧値から電池の劣化状態を診断する電池診断装置では、この鋭いパルスのパルス幅より十分短い周期(例えば、1〜2ms)で電圧を測定する必要がある。マイコンを使用する場合には、RAMの一部を複数の電圧測定値(電圧データ)を格納するバッファとして確保し、例えば、バッファ中の最古の電圧データと最新の電圧測定値との電圧差が予め設定された所定値以上かを判断することによりエンジン始動時の電圧変動を検知する方法が考えられる。
【0013】
従って、車両との通信機能がなく電流センサを持たない第三の電池診断装置では、充電状態および劣化状態を診断するために、OCV測定における電圧変動の監視(前者)とエンジン始動時の最低電圧測定のための電圧変動監視(後者)との2つの電圧変動監視を行う必要がある。上述したように、前者の電圧測定周期は100ms未満であればよいが、後者の電圧測定周期は、精度を確保するために、エンジン始動時の鋭いパルスのパルス幅より十分短い周期で測定する必要がある。また、後者ではスタータへの通電開始タイミングも知る必要がある。前者のタイムスケールは、電圧が安定していること(または、電流が小さい値で安定していること)がOCV測定タイミングの条件として必要であり、電池の電圧が安定であると判断する際に0.5〜12時間程度であるのに対し、後者のタイムスケールは10ms程度と極めて短い。
【0014】
前者はタイムスケールが長く電圧変動も微小なため、後者はタイムスケールが極めて短くスタータへの通電タイミングを知るためバッファが必要で、マイコンを使用する場合は、いずれでも例えばRAMに測定した電圧データを格納しておく必要がある。後者の電圧測定周期に前者の電圧測定周期を一致させれば技術的な問題は解決できるが、RAMの容量を大きくせざるを得ない。また、それぞれ別々にRAMを持つことも考えられるが、同様にRAMの容量を大きくせざるを得ず、コスト上の問題を招く。
【0015】
本発明は上記事案に鑑み、少ないメモリ容量で開回路電圧測定のための電圧変動監視およびエンジン始動時の最低電圧測定のための電圧変動監視が可能な電池診断装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明は、車両に搭載された電池の電池状態を診断する電池診断装置において、一時的に複数の電圧データを格納するためのデータバッファと、前記電池の電圧を測定する電圧測定手段と、前記電圧測定手段で測定された電圧を前記データバッファに電圧データとして記録する記録手段と、を備え、前記記録手段は、前記電池に対する車両側機器の負荷およびエンジン始動に応じた複数の記録周期で、前記電圧測定手段で測定された電圧を前記データバッファに記録することを特徴とする。
【0017】
本発明において、電圧測定手段で測定された直近の電圧とデータバッファに記録された電圧データとの電圧差が予め定められた設定値ΔV1以上かを検出する電圧変動検出手段と、時間を計測する計時手段と、を備え、記録手段は、電圧変動検出手段が設定値ΔV1以上の電圧差を検出する前は、電圧測定手段で測定された電圧を記録周期T1でデータバッファに記録し、電圧変動検出手段が設定値ΔV1以上の電圧差を検出した後は、計時手段で計測された所定時間t1の間、電圧測定手段で測定された電圧を記録周期T1より周期の短い記録周期T2でデータバッファに記録することが好ましい。
【0018】
このような態様では、電圧測定手段で測定された電圧が予め定められた電圧値未満まで降下したかを判断することでエンジン停止を判定するエンジン停止判定手段をさらに備え、記録手段は、エンジン停止判定手段がエンジン停止を判定し、かつ、電圧変動検出手段が、所定時間内の電圧変動が所定値未満であることを検出した後、電圧測定手段で測定された電圧を記録周期T1でデータバッファに記録するようにしてもよい。このとき、エンジン停止判定手段がエンジン停止を判定し、かつ、電圧変動手段が設定値ΔV1以上の電圧差を最後に検出した後、計時手段で計測された所定時間t2(ただし、t2>>t1)が経過したかを判断し、否定判断のときに、電圧測定手段で測定された電圧が電池の不安定状態における開回路電圧であると判定し、肯定判断のときに、電圧測定手段で測定された電圧が電池の安定状態における開回路電圧であると判定する開回路電圧採否判定手段をさらに備えるようにしてもよい。
【0019】
また、上記態様において、データバッファに記録された電圧データうちの最低電圧値Vstを検索する最低電圧値検索手段をさらに備え、電圧変動検出手段は、設定値ΔV1以上の電圧差を検出した後、さらに、電圧測定手段で測定された直近の電圧とデータバッファに記録された電圧データとの電圧差が予め定められた設定値ΔV2(ただし、(ΔV2の絶対値)>(ΔV1の絶対値))以上かを検出し、最低電圧値検索手段は、電圧変動手段が設定値ΔV2以上の電圧差を検出した後、計時手段で計測された所定時間t1の間にデータバッファに記録された電圧データうちの最低電圧値Vstを検索するようにしてもよい。このとき、電池の新品状態での最低電圧値(Vst0)を予め記憶しておく不揮発性の記憶手段と、記憶手段に記憶された最低電圧値Vst0と最低電圧値検索手段で検索された最低電圧値Vstとの電圧差が所定値以上かを判断することにより電池の劣化判定を行う劣化判定手段と、をさらに備えるようにしてもよい。
【0020】
上記態様では、記録周期T1が電圧測定手段による電圧測定周期の2倍以上の整数倍であり、記録周期T2が電圧測定手段による電圧測定周期の自然数倍であるようにしてもよく、また、電圧変動検出手段は、電圧測定手段で測定された直近の電圧とデータバッファに記録された最古の電圧データとの電圧差が予め定められた設定値以上かを検出するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、記録手段が、電池に対する車両側機器の負荷およびエンジン始動に応じた複数の記録周期で、電圧測定手段で測定された電圧をデータバッファに記録するので、少ないメモリ容量で開回路電圧測定のための電圧変動監視およびエンジン始動時の最低電圧測定のための電圧変動監視をすることができる、という効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】エンジン始動に伴う14V系車載電池の外部端子間での典型的な電圧変動を示すグラフである。
【図2】本発明が適用可能な実施形態の電池診断装置における、バッファへの記録周期、エンジン状態、車載電池に対する車両機器側の負荷、電池の電圧状態および動作モードの関係を模式的に示すタイミングチャートである。
【図3】電池の開回路電圧の測定処理を示すフローチャートである。
【図4】電池の電圧変動の検出処理の原理を示すフローチャートである。
【図5】実施形態の電池診断装置における電圧変動検出処理のフローチャートである。
【図6】実施例の電池診断装置を模式的に示す外観斜視図である。
【図7】実施例の電池診断装置の表面に貼着される保護カバーの平面図である。
【図8】実施例の電池診断装置の回路構成を示すブロック図である。
【図9】比較例の電池診断装置における、バッファへの記録周期、エンジン状態、車載電池に対する車両機器側の負荷、電池の電圧状態および動作モードの関係を模式的に示すタイミングチャートである。
【図10】比較例の電池診断装置における電圧変動検出処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明を、14V系(公称電圧:12V)車載電池を診断する電池診断装置に適用した実施の形態について説明する。
【0024】
一般に、車載電池の上面には正極外部端子と負極外部端子とが立設されている。本実施形態の電池診断装置は、車載電池の外部端子に接続されており、車載電池を電源として作動する。電池診断装置は、電池の電圧を測定する電圧測定部およびマイコンを備えている。マイコンは、中央演算処理装置として機能するCPU、プログラムおよびプログラムデータが記憶されたROM、CPUのワークエリアおよび電圧データを一時的に格納するバッファ1として機能するRAMを有して構成されている。なお、マイコンにはA/Dコンバータを内蔵しており、A/Dコンバータは電圧測定部の出力側に接続されている。
【0025】
図2は、本実施形態の電池診断装置における、バッファへの記録周期、エンジン状態、車載電池に対する車両機器側の負荷、電池の電圧状態および動作モードの関係を模式的に示すタイミングチャートである。以下、このタイミングチャートを中心に、他の図を参照しつつ、本実施形態の電池診断装置の動作について説明する。
【0026】
図2に示すように、車両側機器の負荷がオフからオンになる変化を電圧変動1で検出し、バッファ1の記録周期が40msから1msに切り替わる。1msに切り替わると、エンジン始動を表す電圧変動2を次に検出し、電圧変動2検出から時間t1(例えば、t1=12ms)の間での最低電圧値を劣化判定で使われるVstとして取得する。電圧変動が小さい(例えば、所定時間(例えば1min)内の電圧変動が所定値(例えば、0.1V/min)未満)ときに負荷オフと判断し、電圧変動1検出またはOCV測定可の状態検出を待つ。図2では負荷オフ後OCV測定可の状態が検出されている。
【0027】
図3は、電池の(安定状態における)開回路電圧の測定処理を示すフローチャートである。このフローチャートのルーチンでは、電圧変動1を検出したかを判断し(ステップ102)、肯定判断のときはカウンタC3をクリアして(ステップ104)、否定判断のときはカウンタC3を1だけインクリメントして(ステップ106)、ステップ108に進む。ステップ108では、カウンタC3がt2(例えば、6時間で、上述したt1より極めて大きい。)以上に相当する値か否かを判断し、否定判断のときは電池が不安定状態にあるとみなして(電池の安定状態におけるOCVとして採用せず)ステップ102に戻り、肯定判断のときは電池が安定状態にあるとみなして電圧測定部で測定した電圧をOCVとして採用し(ステップ110)、カウンタC3をクリアして(ステップ112)、ルーチンを終了する。なお、図3以降のフローチャートでは、本来、最初の処理に戻るべき流れを「終了」としているが、カウンタをみても明らかなように、最初の処理に戻る内容を省略して記載したものである。
【0028】
すなわち、OCVの測定は十分電圧が安定した状態で行う必要があるため、負荷オフを検出してから、電圧変動1をt2時間検知しなければOCV測定可と判断する。エンジン作動中の負荷オフ誤検出を避けるために、負荷オフの検出は電圧測定部で測定された電圧が予め定められた電圧値(例えば、13.5V)未満まで降下したかを判断することでエンジン停止を判定し、かつ、電圧測定部で測定された電圧とバッファ1に記録された電圧とに設定値ΔV1以上の電圧差を検出した後とすることが好ましい。OCVが充電状態判定しきい値以上/未満で、充電状態=良好/要充電を判断可能であるが、上述のように電圧変動1と負荷オフを検出する処理がなければOCVの測定もできないので、要充電判定する上で電圧変動1と負荷オフを検出する処理は欠かせない。車両ECUとの通信機能を持つ電池診断装置であれば車両ECUから負荷オン/オフの情報を受信することも可能であるが、電池から直接配線してECUで管理不能な条件で電装品を追加するユーザもいるので、本実施形態のように電圧変動を監視して負荷オン/オフを判断する方が信頼性の高い電池診断装置を得ることができる。なお、電池の安定状態で測定したOCVにより、例えば、上述した特許文献3に記載のように、電池の充電状態(SOC)をLEDやブザーでユーザに報知するようにしてもよい。
【0029】
図4は、電池の電圧変動の検出処理の原理を示すフローチャートである。このフローチャートのルーチンでは、電圧測定部で電池の電圧を測定し(ステップ202)、カウンタT0を1だけインクリメントする(ステップ204)。次いで、カウンタT0の値がTbuf、すなわち、バッファへの記録タイミングか否かを判断し(ステップ206)、否定判断のときはステップ212に進み、肯定判断のときは電圧測定値をバッファに電圧データとして記録して(ステップ208)カウンタT0をクリアし(ステップ210)、ステップ212に進む。ステップ212では、バッファ最古のデータと電圧測定部で測定した電圧測定値との電圧差が予め定められた設定値ΔV以上か否かを判断する。肯定判断のときは電圧変動を検知(検知)したと判断して(ステップ214)ルーチンを終了し、否定判断のときはステップ202に戻る。
【0030】
すなわち、ある時間Δt以内でΔV以上の電圧変動が起こる場合に、時間遅れなく電圧変動を検出しようとすればΔtより十分短い時間周期で電圧を測定する必要があるが、その場合、連続して測定される2つの電圧差は小さくなるため、電圧変動と判断できる有意の電圧差が得られるΔtの時間幅だけ電圧をバッファに記憶し、最古の電圧記録値と直近(最新)の電圧を比較し電圧変動を検出する。図4に示したTbufはバッファへの記録周期を表し、おおよそint(Δt/Tbuf)で算出される個数だけ測定電圧が記録できるようにバッファの大きさは設定される。バッファへの記録周期Tbufは電圧測定周期1msの、1以上の整数倍とすることが望ましい。この例では、1msごとに電圧を測定し電圧変動検知する処理を示すが、Δtより十分短い時間であれば1msでなくてもよい。電圧変動1と電圧変動2の検出においても基本的に同様な方法で電圧変動検出が可能であるが、本実施形態ではバッファのメモリ領域を節約する工夫を行う。
【0031】
図5は、本実施形態の電池診断装置のCPUが実行する電圧変動検出処理のフローチャートである。CPUは、負荷オフか否かを判断し(ステップ302)、肯定判断のときは電圧変動検出モード1(電圧変動1を検出するためのモード)を動作モードとして(ステップ304)ステップ306に進み、否定判断のときはそのままステップ306に進む。ステップ306では電圧測定部で電池の電圧を測定し(電圧測定部に接続されたA/Dコンバータからのデジタル電圧を取り込み)、カウンタCを1だけインクリメントし(ステップ308)、電圧変動検出モード1か否かを判断する(ステップ310)。
【0032】
ステップ310での判断が肯定のときには、カウンタCが記録周期T1の時間に相当する値に至ったか否かを判断し(ステップ312)、肯定判断のときには電圧測定値をバッファ1に記録して(ステップ314)カウンタCをクリアし(ステップ316)ステップ318に進み、否定判断のときにはステップ318に進む。ステップ318では、バッファ1に記録された最古の電圧データと直近の電圧測定値との電圧差が設定値ΔV1以上か否かを判断する。否定判断のときはステップ302に戻り、肯定判断のときは電圧変動1を検知したと判断し(ステップ320)、動作モードを電圧変動検出モード2(スタータへの通電開始タイミング(エンジン始動)、すなわち、電圧変動2を検出するモード)に遷移させる(ステップ322)。続いて、バッファ1をクリアし(ステップ324)、電圧測定値をバッファ1に記録して(ステップ326)カウンタCをクリアした後(ステップ328)ステップ302に戻る。
【0033】
一方、ステップ310での判断が否定のときは、カウンタCが記録周期T2の時間に相当する値に至ったか否かを判断し(ステップ330)、肯定判断のときには電圧測定値をバッファ1に記録して(ステップ332)カウンタCをクリアして(ステップ334)ステップ336に進み、否定判断のときにはステップ336に進む。次のステップ336では、バッファ1の最古の電圧データと直近の電圧測定値との電圧差が後述する設定値ΔV2以上か否かを判断する。否定判断のときはステップ302に戻り、肯定判断のときは電圧変動2を検知したと判断し(ステップ338)、ステップ302に戻る。
【0034】
従って、本実施形態の電池診断装置は、電圧変動検出モード1と電圧変動検出モード2の動作モードを持ち、電圧変動1検知で電圧変動検出モード2へ遷移し、負荷オフで電圧変動検出モード1へ遷移し、2つの動作モードの間を交互に遷移する。電圧変動検出モード1ではT1=40ms周期でバッファ1へデータを記録しΔV1=0.1V以上の電圧差を検出することで負荷オンに相当する電圧変動1を検出する。電圧変動検出モード2ではT2=1ms周期でバッファへ1データを記録し、ΔV2=1.5V以上の電圧差を検出することでエンジン始動に相当する電圧変動2を検出する。電圧測定値の内部変数は、例えば、フルスケール16Vの符号無し2バイト整数とし、この内部変数を25個記録可能とするためバッファ1の大きさを50バイト程度とすることができる。
【0035】
図5に示すように、イグニッションオンによる電圧変動を検知する動作モードとエンジン始動による電圧変動を検知する動作モードとに動作モードを分けることで、データバッファを共有することができ、少ないRAM容量で低コストのマイコンでも電池診断装置に利用可能となる。バッファの容量は例えば50バイトであり、2バイト変数25個を記録する。データの移動による演算負荷を低減するため、バッファ1はリングバッファとすることが好ましい。マイコンの電圧測定周期は例えば1msであるが、バッファ1への記録周期は必ずしも1msではなく、1以上の整数としてもよい。線形補間により任意の時間の電圧を算出すれば、バッファ1への記録周期は整数に限定されずにすむが、特に理由がない限り、1以上の整数として線形補間による処理を不要とすることが好ましい。
【0036】
電圧変動1を検出するための動作モード、換言すれば、イグニッションオンによる電圧変動を検知する動作モードである電圧変動検出モード1では、40msごとにバッファ1に測定電圧を記録する。1msごとに測定電圧とバッファの最古のデータとを比較し、その差ΔV1が100mV以上であればイグニッションオンと判断する。
【0037】
イグニッションオンを検知すると、エンジン始動による電圧変動を検知する電圧変動検出モード2に移る。エンジン始動による電圧変動を検知する動作モードでは、1msごとにバッファに測定電圧を記録する。エンジン始動時に電圧低下開始から電圧最低値Vstに至るまでの時間は5ms程度のため(図1参照)、エンジン始動時の電圧変動を検知する動作モードでのバッファへの記録周期は2msを上回らないように設定することが望ましい。測定電圧またはバッファの最新の電圧と、バッファの最古の値を比較し、その差ΔV2が1.5V以上であればエンジン始動した(電圧変動2を検出した)と判断する。
【0038】
エンジン始動検知後、例えば24ms間で測定される25個の電圧値のうちの最低電圧値Vstを劣化判定のパラメータとして用いることができる。すなわち、最低電圧値Vstは、バッファ1に格納された電圧データ(上記の例に則して云えば25個の電圧値)のうち、最小の値を有するものを検索することによって検出することができる。上述した特許文献4にはこのような劣化判定の詳細が記載されており、例えば、電池の新品状態での最低電圧値Vst0を予めEEPROM等の不揮発性メモリに記憶しておき、不揮発性メモリに記憶された最低電圧値Vst0と、バッファ1に格納された最低電圧値Vstとの電圧差が所定値以上かを判断することにより行うことができる。
【0039】
なお、最低電圧値Vstの測定にバッファは必ずしも必要でないが、バッファを利用することにより処理の負荷が緩和されるようであればバッファに一旦25個の電圧を記録した後に最低電圧値Vstを検索することが好ましい。エンジン始動による電圧変動を検知する動作モードがなければ最低電圧値Vstも検知できないので、劣化判定を行う上でエンジン始動による電圧変動を検知する動作モードは欠かせない。
【0040】
電池診断装置では、上述のイグニッションオンまたはエンジン始動の電圧変動を検出する処理において、バッファ1の利用が必須である。従って、図2において、時間t1経過後に必ずしも電圧変動検出モード2とする必要はなく(例えば、図2では、バッファ1への記録を行わない時間を例示している。)、他にも種々の処理で利用可能である。例えば、13.5V以上で、2秒毎に算出する2秒間移動平均の変動範囲が200mV以下の状態が50秒経過したとき、この50秒間の電圧の平均値を発電機電圧とし、発電機電圧が15V以上のときに充電電圧過大の判定を行う機能を付加する場合、2秒毎に算出する2秒間移動平均を25個のバッファ1に順次記録していけば、上記発電電圧はバッファ1中の電圧値を平均することで算出できる。これらの処理でのバッファ1を共有することによりメモリの少ないマイコンでも多機能が実現可能となる。
【0041】
上述した記録周期T1は電圧測定部による電圧測定周期の2倍以上の整数倍であり、記録周期T2が電圧測定部による電圧測定周期の自然数倍であることが好ましい。メモリの問題は、消費電流とも関係する。本実施形態の電池診断装置は原則的に常時電池を監視しているため、エンジン停止し車両放置中に消費電流が大きいと電池の放電を加速しエンジン始動不能トラブルの原因となるため、消費電流が小さくなるよう設計することが望ましく、そのためには主に以下に述べる3つの方法がある。
【0042】
一つ目はマイコンのクロックを遅くする方法である。一般にクロックが遅いほどマイコンの消費電流は小さい。クロックあたりの処理量が多いほどクロックを遅く設定できるので、コンパイルオプションで速度優先とすることが望ましい。ソフトウエア動作中にクロック速度を変更できるマイコンの場合は、各動作モードの処理量の大/小に応じてマイコンのクロックを各動作モードで早く/遅く変更することが望ましい。
【0043】
二つ目はマイコンのスリープモードを利用する方法である。多くのマイコンにはクロック以外のマイコン動作を止めて電流を下げるスリープモードと呼ばれる省電力モードが用意されており、一定時間ごとに一定量の処理を行い、余った時間はスリープモードとすることで消費電流を下げることができる。処理時間が短いほど消費電流が下がるので、一つ目の方法同様、コンパイルオプションで速度優先とすることが望ましい。また、電池の放電に寄与してしまう車両放置中の消費電流を下げる効果があるため、エンジン停止し車両放置中であることを認識するとエンジン動作中に限定される処理をしないなどのプログラムとし、車両放置中の処理量を少なくすることが望ましい。
【0044】
三つ目の方法は、エンジン停止し車両放置中であることを認識すると、A/D入力動作の周期を長くする方法である。一般にA/Dコンバータの入力動作中は消費電流が大きくなるため、A/Dコンバータの入力動作の周期が長いと消費電流が下がる。A/Dコンバータの入力動作の周期を長くしすぎると、エンジン始動時の最低電圧を適切なタイミングで検出できず大きな誤差が発生するので、エンジン停止中もA/Dコンバータの入力動作の周期は10ms以下あることが望ましい。
【実施例】
【0045】
以下、上記実施形態に従って作製した実施例の電池診断装置について説明する。なお、比較のために作製した比較例の電池診断装置についても併記する。
【0046】
(実施例1)
図6に示すように、実施例1の電池診断装置10は、電池の上蓋に形成された窪みに組み込まれるタイプの小型電池診断装置である。電池診断装置10は、4個のLED1、スイッチ2、ブザー報音孔3および2本のブスバ4を除き、樹脂モールドされてケーシング6内に収容されている。ブスバ4は0.2mmバネ用リン青銅板を打ち抜くことによって作製されている。ブスバ4の両先端部にはリング状で内側に同心円状に10本のスリットが形成されており、電池の外部端子に勘合する構造が採られている。なお、ブスバ4のケーシング6から導出された近傍には、伸縮吸収用曲げ部5が形成されている。
【0047】
図7に示すように、LED1およびスイッチ2の上面には、ユーザに電池状態を知らせるための保護カバー9が貼着されている。保護カバー9のLED1が位置する箇所には半透明の樹脂製カバー7が配置されており、保護カバー9のスイッチ2が位置する箇所には上方に丸みを持って突出したスイッチカバー8が配置されている。なお、本発明ではこれらの構成は必須の内容ではなく、上述した特許文献3にこれらのLED1、スイッチ2について記載されているため、これらの詳細な説明は例示した文献に譲ることとする。
【0048】
図8は、実施例1の電池診断装置10の回路構成を示すブロック図である。電池診断装置10は、測定部11、演算部12、電源部13、記憶部14、放音部15および表示部1、入力部2を備えている。測定部11は、電池電圧をA/Dコンバータで測定可能な電圧まで降下させる差動増幅回路を有する電圧測定部と、サーミスタ等のセンサで電池の温度を検出する温度測定部とを有している。演算部12は、10ビットA/Dコンバータ、ROM、RAM、ウォッチドッグタイマ(WDT)内蔵の8ビットワンチップマイコンで構成されている。なお、8ビットワンチップマイコンには、時間測定を行うため図示を省略した5MHz発振回路が接続されている。電源部13は、シャントレギュレータIC、基準電源IC、電池診断装置を車両に搭載した後に確実に起動させる自動起動回路(詳細は上述した特許文献2参照)を備えている。
【0049】
演算部12には、不揮発性のEEPROMからなる記憶部(詳細は上述した特許文献4参照)、表示部1および報音部15(詳細は上述した特許文献3参照)、入力部2(詳細は上述した特許文献2参照)が接続されている。なお、図7に示すように、4個のLED1は、電池のSOHに対して良好、要注意、要交換のいずれにあるか、SOCに対して要充電、過充電状態かをユーザに報知するために用いられ、スイッチ2は、例えば、上述した自動起動回路を作動させるために用いられる。
【0050】
実施例1の電池診断装置10では、OCVによる充電状態判定と、エンジン始動時の最低電圧(Vst)による劣化判定を行うプログラムをC++言語で作成し、コンパイルしたものを搭載した。OCV判定とVst劣化判定で必要なバッファは図5に示したように共有するようプログラムを作成した。
【0051】
下表1に、実施例1の電池診断装置10の演算部12のRAM容量を示す。なお、表1において、通常変数とは、プログラムで定義されている変数の内バッファ以外の変数をいい、下表2で示される変数の大きさの合計である。スタックの値は、スタック見積りツールで見積られた値である。ここでのスタックとは、関数間の変数の受け渡しや数式演算などのプログラム実行の過程でプログラムが一時的に使用するRAM領域をいい、同じプログラムでもマイコンやコンパイラの種類、コンパイルオプションなどによって大きさが変わりうる性格のものである。スタック領域が足りないと不具合が生じるが、コンパイル時にはスタック領域のチェックをコンパイラが行わず、実行中にスタック領域が足りなくなる可能性のあるソフトウエアであってもコンパイル時にはエラーが出ないため、スタック領域をプログラム開発者がチェックできるよう、コンパイラメーカがスタック見積もりツールをコンパイラと別に提供している。実施例1でのバッファ容量は2バイト変数25個の50バイトであり、通常変数とスタックを加えても全体115バイトであり、RAM容量128バイトのマイコンが使用可能である。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
なお、実施例1の電池診断装置10では、消費電流を下げるために速度優先のコンパイルオプションを用いた。本例の電池診断装置は常時電池を監視しているため、消費電流が大きいと電池の放電を加速しエンジン始動不能トラブルの原因となるため消費電流が小さくなるよう設計した。すなわち、マイコンのクロックを低くしているため、本実施例では1msごとに割り込みを行い、一連の作業が終わったら次の割り込みが入るまでマイコンを消費電流の少ないスリープモードとすることで消費電流を少なくし、速度を優先させた。なお、コンパイルオプションとはコンパイル時に設定する優先条件設定のことをいい、例えば、コンパイル後の実行ファイルの大きさが小さくなることを優先したり、RAM領域の節約を優先したり、速度を優先したり、というオプション(優先条件)をコンパイルオプションで指定できる。
【0055】
(比較例1)
比較例1の電池診断装置では、図9に示すように、バッファを共有せず、1msごとの電圧を25ms記憶するバッファ2と40msごとの電圧を1秒間記憶するバッファ1をそれぞれ確保した。使用RAM容量の内訳を下表3に示す。実施例1よりも使用RAM
容量が50バイト多い。なお、図10に、比較例1の電池診断装置のCPUが実行する電圧変動検出処理ルーチンを示すが、ステップ418、424でバッファ2に対する処理を行っている点で図5に示した実施例1の電圧変動検出処理ルーチンと大きく異なっている。また、ステップ416では、電圧測定値が13.5V未満かを判断することにより、エンジンが作動しているか、停止しているかを判断している。
【0056】
【表3】

【0057】
(比較例2)
比較例2の電池診断装置では、比較例1と同様にバッファを共有せず、さらにバッファへの記録周期を1msに統一し、1秒間記録することとしてバッファ1、2を確保した。そのようにすることで、エンジン始動検知でのバッファ容量は50バイト、イグニッションオン検知でのバッファ容量は2000バイトとなる。使用RAM容量の内訳を下表4に示す。実施例1よりも使用RAM容量が2000バイト多い。
【0058】
【表4】

【0059】
(比較例3)
比較例3の電池診断装置では、比較例1と同様にバッファを共有せず、さらにバッファを使用する動作モードに平均電圧演算モードを追加した上でバッファへの記録周期を1msに統一し、1秒間記録することとしてバッファ1、2を確保した。そのようにすることで、エンジン始動検知でのバッファ容量は50バイト、イグニッションオン検知でのバッファ容量は2000バイトとなる。使用RAM容量の内訳は表4に示したものと同じである。実施例1よりも使用RAM容量が2000バイト多い。
【0060】
以上の結果より、RAMの使用量が少ないので実施例1の電池診断装置10が優れていることがわかる。RAMの大きさによってマイコンの単価が異なるので、RAMの使用量が少ない実施例1の電池診断装置10を比較例のそれらより低コストで提供することが可能となる。
【0061】
(作用効果)
次に、本実施形態の電池診断装置の作用効果について説明する。
【0062】
本実施形態の電池診断装置は、一時的に複数の電圧データを格納するためのRAM、電池の電圧を測定する電圧測定部および電圧測定部で測定された電圧をRAMに記録させるCPUを備えており、CPUは、電池に対する車両側機器の負荷およびエンジン始動に応じた複数の記録周期で、電圧測定部で測定された電圧をRAMに記録させる。具体的には、演算部12にWDTを内蔵し、CPUは、電圧測定部で測定された直近の電圧とRAMに記録された電圧データとの電圧差が予め定められた設定値ΔV1以上か(電圧変動1)を検出し、電圧変動1を検出する前は、電圧測定部で測定された電圧を記録周期T1でRAMに記録させ、電圧変動1を検出した後は、WDTで計測された所定時間t1の間、電圧測定部で測定された電圧を記録周期T1より周期の短い記録周期T2でRAMに記録させる。このため、イグニッションオンによる電圧変動を検知する電圧変動検出モード1と、エンジン始動による電圧変動を検知する電圧変動検出モード2とでRAMを共有することができ、少ないメモリ容量でOCV測定のための電圧変動監視およびエンジン始動時の最低電圧測定のための電圧変動監視をすることができる。
【0063】
また、本実施形態の電池診断装置では、電圧測定部で測定された電圧が予め定められた電圧値(例えば、13.5V)未満まで降下したかを判断することでエンジン停止を判定し、かつ、所定時間内の電圧変動が所定値未満であることを検出した後、電圧変動1をt2時間検知しなければOCV測定可と判断する(ステップ110)。このため、電池の不安定状態におけるOCVを排除し、安定状態におけるOCVを採用できるので、精度よく電池のSOCを算出することができる。
【0064】
さらに、本実施形態の電池診断装置では、CPUは、電圧変動1を検出した後、さらに、電圧測定部で測定された直近の電圧とRAMに記録された電圧データとの電圧差が予め定められた設定値ΔV2以上かを検出し、所定時間t1の間にRAMに記録された電圧データうちの最低電圧値Vstを検索する。そして、電池の新品状態での最低電圧値Vst0を予め不揮発性メモリに記憶しておき、不揮発性メモリに記憶された最低電圧値Vst0と検索した最低電圧値Vstとの電圧差が所定値以上かを判断することにより電池の劣化判定を行う。従って、本実施形態の電池診断装置では、電圧測定部で測定された電圧のみで劣化判定が可能となる。
【0065】
なお、本実施形態では、背景技術欄で説明した第三の電池診断装置を例示したが、本発明はこれに限らず、上述した第一、第二の電池診断装置にも適用可能である。また、本実施形態では種々の数値や例を挙げて説明したが、本発明はこれらに制限されるものではなく、後述する特許請求の範囲を逸脱しない範囲で公知の技術を組み込んで実施可能であることは論を待たない。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は少ないメモリ容量で開回路電圧測定のための電圧変動監視およびエンジン始動時の最低電圧測定のための電圧変動監視が可能な電池診断装置を提供するものであるため、電池診断装置の製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0067】
10 電池診断装置
11 測定部(電圧測定手段の一部)
12 演算部(電圧測定手段の一部、データバッファ、記録手段、電圧変動検出手段、計時手段、エンジン停止判定手段、開回路電圧採否判定手段、最低電圧値検索手段、劣化判定手段)
14 記憶部(記憶手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された電池の電池状態を診断する電池診断装置において、
一時的に複数の電圧データを格納するためのデータバッファと、
前記電池の電圧を測定する電圧測定手段と、
前記電圧測定手段で測定された電圧を前記データバッファに電圧データとして記録する記録手段と、
を備え、
前記記録手段は、前記電池に対する車両側機器の負荷およびエンジン始動に応じた複数の記録周期で、前記電圧測定手段で測定された電圧を前記データバッファに記録することを特徴とする電池診断装置。
【請求項2】
前記電圧測定手段で測定された直近の電圧と前記データバッファに記録された電圧データとの電圧差が予め定められた設定値ΔV1以上かを検出する電圧変動検出手段と、
時間を計測する計時手段と、
を備え、
前記記録手段は、前記電圧変動検出手段が前記設定値ΔV1以上の電圧差を検出する前は、前記電圧測定手段で測定された電圧を記録周期T1で前記データバッファに記録し、前記電圧変動検出手段が前記設定値ΔV1以上の電圧差を検出した後は、前記計時手段で計測された所定時間t1の間、前記電圧測定手段で測定された電圧を前記記録周期T1より周期の短い記録周期T2で前記データバッファに記録することを特徴とする請求項1に記載の電池診断装置。
【請求項3】
前記電圧測定手段で測定された電圧が予め定められた電圧値未満まで降下したかを判断することでエンジン停止を判定するエンジン停止判定手段をさらに備え、前記記録手段は、前記エンジン停止判定手段がエンジン停止を判定し、かつ、前記電圧変動検出手段が、所定時間内の電圧変動が所定値未満であることを検出した後、前記電圧測定手段で測定された電圧を前記記録周期T1で前記データバッファに記録することを特徴とする請求項2に記載の電池診断装置。
【請求項4】
前記エンジン停止判定手段がエンジン停止を判定し、かつ、前記電圧変動手段が前記設定値ΔV1以上の電圧差を最後に検出した後、前記計時手段で計測された所定時間t2(ただし、t2>>t1)が経過したかを判断し、否定判断のときに、前記電圧測定手段で測定された電圧が前記電池の不安定状態における開回路電圧であると判定し、肯定判断のときに、前記電圧測定手段で測定された電圧が前記電池の安定状態における開回路電圧であると判定する開回路電圧採否判定手段をさらに備えたことを特徴とする請求項3に記載の電池診断装置。
【請求項5】
前記データバッファに記録された電圧データうちの最低電圧値Vstを検索する最低電圧値検索手段をさらに備え、前記電圧変動検出手段は、前記設定値ΔV1以上の電圧差を検出した後、さらに、前記電圧測定手段で測定された直近の電圧と前記データバッファに記録された電圧データとの電圧差が予め定められた設定値ΔV2(ただし、(ΔV2の絶対値)>(ΔV1の絶対値))以上かを検出し、前記最低電圧値検索手段は、前記電圧変動手段が前記設定値ΔV2以上の電圧差を検出した後、前記計時手段で計測された所定時間t1の間に前記データバッファに記録された電圧データうちの最低電圧値Vstを検索することを特徴とする請求項2に記載の電池診断装置。
【請求項6】
前記電池の新品状態での前記最低電圧値(Vst0)を予め記憶しておく不揮発性の記憶手段と、前記記憶手段に記憶された最低電圧値Vst0と前記最低電圧値検索手段で検索された最低電圧値Vstとの電圧差が所定値以上かを判断することにより前記電池の劣化判定を行う劣化判定手段と、をさらに備えたことを特徴とする請求項5に記載の電池診断装置。
【請求項7】
前記記録周期T1が前記電圧測定手段による電圧測定周期の2倍以上の整数倍であり、前記記録周期T2が前記電圧測定手段による電圧測定周期の自然数倍であることを特徴とする請求項2ないし請求項6のいずれか1項に記載の電池診断装置。
【請求項8】
前記電圧変動検出手段は、前記電圧測定手段で測定された直近の電圧と前記データバッファに記録された最古の電圧データとの電圧差が予め定められた設定値以上かを検出することを特徴とする請求項2ないし請求項7のいずれか1項に記載の電池診断装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2010−208539(P2010−208539A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−57904(P2009−57904)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】