説明

電波到来方向測定装置

【課題】電波到来方向を高精度、かつ高速に測定できる電波到来方向測定装置を得る。
【解決手段】無線信号を受信する複数のアンテナ素子10と、複数のアンテナ素子10のそれぞれで受信した無線信号の位相を第1の制御信号に変換するマイクロ波位相量変換手段20と、レーザ光源40から出射されたレーザ光を複数に分波する光分波手段41と、マイクロ波位相量変換手段20からの第1の制御信号に基づいて、光分波手段41で分波されたそれぞれの光の位相変調を行う光位相変調手段30と、光位相変調手段30により位相変調された出力光を空間的にフーリエ変換してフーリエ変換像51を生成するフーリエ変換光学系50と、フーリエ変換像51の強度分布を測定する撮像装置60とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のアンテナ素子で構成されるアレーアンテナを用いて電波の到来方向を計測する電波到来方向測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電波の到来方向を計測する装置として、複数のアンテナ素子で構成されるアレーアンテナを用いて、各アンテナ素子で受信したそれぞれの受信信号の位相、振幅情報から、電波の到来方向を推定するシステムがある。
【0003】
このようなシステムでは、通常、各アンテナ素子で受信した信号の振幅、位相のフーリエ解析などの数値演算により到来方向を算出するため、特に、2次元方向を計測する場合、あるいは角度分解能を高めるためにアンテナ素子数が多い場合には、信号処理に対する負荷の増大に伴って装置規模が増大し、リアルタイム処理が困難になるなどの課題がある。
【0004】
従来、このような課題を解決するための手段として、光学レンズのフーリエ変換作用による光信号処理を用いた手段が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平02−171679号公報(第1頁、図1)
【特許文献2】特開平02−171680号公報(第1頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術には次のような課題があり、その適用範囲が制限されていた。
アレーアンテナの各アンテナ素子で受信した信号を下式(1)とする。
sin(ωm・t+φ(i)) (1)
ここで、iはアンテナ素子の番号、ωmは受信マイクロ波信号の角周波数、φ(i)はアンテナ素子iにおける受信信号の位相とする。なお、各アンテナ素子での受信信号の振幅は、等しいものとする。
【0007】
この受信信号に対して光位相変調器による変調をしたとき、その変調光は、下式(2)となる。
sin(ωc・t+msin(ωm+φ(i)) (2)
ここで、ωcは光の角周波数である。mは変調度を表すものであり、変調器の電気/光の変換効率とアンテナ受信信号の振幅とに比例する項である。
【0008】
この式(2)を、ベッセル関数Jを用いてフーリエ級数に展開すると、下式(3)となる。
J0(m)・sin(ωc・t)
+J1(m){sin[(ωc+ωm)t+φ(i)]
−sin[(ωc−ωm)t−φ(i)]}
+J2(m){sin[(ωc+2ωm)t+2φ(i)]
−sin[(ωc−2ωm)t−2φ(i)]}
+・・・ (3)
ここで、J0(m)、J1(m)、J2(m)は、ベッセル関数である。
【0009】
このように、位相変調光は、角周波数(ωc、ωc±ωm、ωc±2ωmなど)により位相項が異なっている。例えば、隣接するアンテナ素子間での受信マイクロ波信号の位相差がΔφであった場合、隣接する光変調器間での出力光の位相差は、角周波数ωcのときは0、角周波数ωc+ωmのときはΔφ、角周波数ωc+2ωmのときは2Δφとなる。
【0010】
そのため、各位相変調器から出力され、各光ファイバから空間に放射された光は、レンズにより空間的にフーリエ変換され、レンズの後側焦点面に像を形成するが、この際、角周波数により異なる位相分布を持つことにより、複数の位置に像を形成することとなる。この結果、電波到来方向を特定するのが困難となる。特に、角周波数ωcの成分は、受信信号の方向(位相)によらず、光軸付近に像を形成するため、正面方向近傍から電波が到来した場合、ωcの成分とその他の角周波数の成分との識別が困難になるという課題がある。
【0011】
さらに、装置から送信した電波の反射成分を受信していることから、不法電波の送信源の検出などの用途には使用できないという課題もある。また、レーダに適用する場合には、目標に向けて電波を送信するため、目標に対し、自分の位置を知られてしまうという課題もある。
【0012】
本発明は上述のような課題を解決するためになされたもので、電波到来方向を高精度、かつ高速に測定できる電波到来方向測定装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る電波到来方向測定装置は、無線信号を受信する複数のアンテナ素子と、複数のアンテナ素子のそれぞれで受信した無線信号の位相を第1の制御信号に変換するマイクロ波位相量変換手段と、レーザ光源から出射されたレーザ光を複数に分波する光分波手段と、マイクロ波位相量変換手段からの第1の制御信号に基づいて、光分波手段で分波されたそれぞれの光の位相変調を行う光位相変調手段と、光位相変調手段により位相変調された出力光を空間的にフーリエ変換してフーリエ変換像を生成するフーリエ変換光学系と、フーリエ変換像の強度分布を測定する撮像装置とを備えるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、複数のアンテナ素子による受信信号の位相に基づいて光位相変調された光をフーリエ変換像に変換して強度分布を測定することにより、電波到来方向を高精度、かつ高速に測定できる電波到来方向測定装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の電波到来方向測定装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
【0016】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における電波到来方向測定装置の構成図である。図1において、アレーアンテナ10を構成するm個の各アンテナ素子11(1)〜11(m)で受信した各マイクロ波信号は、マイクロ波線路を介して、m個のマイクロ波位相/電圧変換装置20(1)〜20(m)(マイクロ波位相量変換手段に相当)に送られる。
【0017】
さらに、マイクロ波位相/電圧変換装置20(1)〜20(m)は、受信マイクロ波信号の位相に応じた電圧信号を第1の制御信号として出力する。そして、各電圧信号は、光位相変調器アレー30(光位相変調手段に相当)を構成する各光位相変調器31(1)〜31(m)に入力される。
【0018】
一方、レーザ光源40から出射した光は、偏波面保存光ファイバを介して、光分波手段に相当する光分配器41によりm個の光に分岐され、各分岐光は、各々光位相変調器31(1)〜31(m)に入射する。各々の光位相変調器31(1)〜31(m)は、入射した各分岐光を、マイクロ波位相/電圧変換装置20(1)〜20(m)から出力された第1の制御信号である電圧信号により各々位相変調する。
【0019】
各光位相変調器31(1)〜31(m)からの位相変調光は、必要に応じて偏波面保存光ファイバを介して、アレーアンテナ10の各アンテナ素子11(1)〜11(m)の配列と相似な配列をした位置から位相変調光ビーム110として空間に出射される。
【0020】
空間に出射された位相変調光ビーム110は、アレイアンテナにて受信したマイクロ波である電波100の位相分布101と同様の位相分布111を有するものとなる。光位相変調器31(1)〜31(m)としては、例えば、LiNbO3(ニオブ酸リチウム)の電気光学効果を利用した光導波路型のもの等が既に実用化されている。
【0021】
空間に出射された位相変調光ビーム110は、出射面を前側焦点面とした位置に設置したフーリエ変換レンズ50(フーリエ変換光学系に相当)に入射し、さらに、フーリエ変換レンズ50の後側焦点面に設置した撮像装置60に入射する。このとき、フーリエ変換レンズ50の前側焦点面より出射した位相変調光ビーム110は、後側焦点面に空間的にフーリエ変換される。フーリエ変換されたビーム光は、光位相変調器アレー30にて形成された位相分布111、つまり、アレーアンテナ10にて受信したマイクロ波である電波100の位相分布101により、撮像装置60上にフーリエ変換像51を形成する。
【0022】
次に、フーリエ変換像51の位置と、電波100の到来方向の関係を以下に説明する。正面方向を基準とした電波100の到来方向をθ、アレーアンテナ10のアンテナ素子11(1)〜11(m)の各素子の間隔をdm、マイクロ波の波長をλm、レーザ光源40からのレーザ光の波長をλo、光位相変調器アレー30の空間への出射面における各素子の出射位置の間隔をdo、フーリエ変換レンズ50の焦点距離をfとすると、撮像装置60上に形成されるフーリエ変換像51の位置Xは、光軸を基準に、下式(4)となる。
X=(dm/λm)/(do/λo)・sinθ・f (4)
【0023】
上式(4)に示されたように、フーリエ変換像51の位置Xは、電波100の到来方向θに対応する。従って、撮像装置60に形成されたフーリエ変換像51を、例えば、画像表示装置62を用いて可視化することにより、受信したマイクロ波である電波100の到来方向をビジュアルに表示することができる。
【0024】
このとき、フーリエ変換像51の位置Xと電波100の到来方向θとの関係は、上式(4)のように、sinθの関数である。そこで、撮像装置60と画像表示装置62との間に信号処理装置61を設けることにより、画像表示装置62への表示位置をXとθが比例関係をとるように座標変換して、表示させてもよい。さらに、信号処理装置61は、フーリエ変換像51の強度が最大となる画素の座標から電波到来方向θを算出し、画像表示装置62に電波到来方向θを重ね書き表示させることもできる。
【0025】
以上のように、実施の形態1によれば、複数のアンテナ素子のそれぞれで受信した無線信号の位相に基づいて、分波光を光位相変調した出力光を生成し、さらに、この出力光をフーリエ変換像に変換して強度分布を測定することにより、電波到来方向を高精度、かつ高速に測定できる電波到来方向測定装置を得ることができる。
【0026】
実施の形態2.
図2は、本発明の実施の形態2における電波到来方向測定装置の構成図である。実施の形態1による図1の構成と比較すると、図2の構成は、マイクロ波位相量変換手段20の構成が異なっている。そこで、図1と同一の構成に関しては、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0027】
ここで、本実施の形態2におけるマイクロ波位相量変換手段20は、マイクロ波信号源21、マイクロ波分波装置22(第1のマイクロ波分波手段に相当)、m個のマイクロ波ミキサ23(1)〜23(m)、およびm個の電圧変換装置24(1)〜24(m)で構成される。
【0028】
マイクロ波信号源21は、電波100と同じ周波数を発生するマイクロ波信号を出力する。さらに、マイクロ波分波装置22は、このマイクロ波信号をm個に分岐した信号をローカル信号として出力する。そして、マイクロ波ミキサ23(1)〜23(m)は、各々のローカル信号と、各アンテナ素子11(1)〜11(m)にて受信した各電波100の信号とを取り込んでミキシングする。
【0029】
ここで、素子番号iに相当するアンテナ素子11(i)で受信した信号をsin(ωm・t+φ(i))とし、ローカル信号をsin(ωm・t)とすると、マイクロ波ミキサ23(i)の出力信号は、周波数変換され、直流信号sin(φ(i))となる。なお、振幅、ミキサの変換損失などは無視した。
【0030】
マイクロ波ミキサ23(1)〜23(m)により出力される直流信号sin(φ(1))〜sin(φ(m))は、各々電圧変換装置24(1)〜24(m)によりA・φに変換され、第1の制御信号が生成される。
【0031】
ここで、Aは、φが−πからπの範囲の変化をしたときに、後述する光位相変調器31(1)〜31(m)の出力光の変調量が−πからπとなるために必要な電圧への変換係数である。各々の光位相変調器31(1)〜31(m)は、光分配器41によりm個に分岐された分岐光を、電圧変換装置24(1)〜24(m)で生成された第1の制御信号により位相変調することにより、受信した電波100の位相分布101と同じ分布で位相変調された位相変調光ビーム110を生成し、空間に出力する。
【0032】
空間に出射された位相変調光ビーム110に基づくフーリエ変換レンズ50以降の動作は、実施の形態1と同一であり、説明を省略する。
【0033】
以上のように、実施の形態2によれば、受信信号と同じ周波数を有するマイクロ波信号を用いて、複数のアンテナ素子のそれぞれで受信した無線信号をミキシングすることにより各無線信号の位相量を抽出できる。そして、この抽出された位相量に基づいて、分波光を光位相変調した出力光を生成し、さらに、この出力光をフーリエ変換像に変換して強度分布を測定することにより、電波到来方向を高精度、かつ高速に測定できる電波到来方向測定装置を得ることができる。
【0034】
実施の形態3.
図3は、本発明の実施の形態3における電波到来方向測定装置の構成図である。実施の形態2による図2の構成と比較すると、図3の構成は、マイクロ波位相量変換手段20の構成が異なっている。そこで、図2と同一の構成に関しては、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0035】
ここで、本実施の形態3におけるマイクロ波位相量変換手段20は、マイクロ波分波回路25(第2のマイクロ波分波手段に相当)、マイクロ波増幅器26、マイクロ波分波装置22、m個のマイクロ波ミキサ23(1)〜23(m)、およびm個の電圧変換装置24(1)〜24(m)で構成される。すなわち、図3の構成においては、図2におけるマイクロ波信号源21の代わりに、マイクロ波分波回路25およびマイクロ波増幅器26が用いられている。
【0036】
マイクロ波分波回路25は、m個のアンテナ素子11(1)〜11(m)のうちのいずれか1つのアンテナ素子(例えば、アンテナ素子11(m))で受信したマイクロ波信号を分波して取り出す。次に、マイクロ波増幅器26は、取り出したマイクロ波を必要に応じて増幅する。さらに、マイクロ波分波装置22は、増幅後のマイクロ波信号をm個に分岐し、ローカル信号として出力する。これ以降の動作は、実施の形態2と同様であり、説明を省略する。
【0037】
以上のように、実施の形態3によれば、いずれか1つのアンテナ素子の受信信号を分岐して、受信信号と同じ周波数を有するマイクロ波信号を生成することにより、受信電波の周波数が不明であった場合や、周波数が変動した場合にも、電波到来方向を高精度、かつ高速に測定できる電波到来方向測定装置を得ることができる。
【0038】
実施の形態4.
図4は、本発明の実施の形態4における電波方向測定装置の構成図である。図4に示した電波方向測定装置は、新たな構成として、レンズ42、空間型光位相変調器アレー32、および空間型光位相変調器制御装置33を含んでいる。
【0039】
ここで、レンズ42は、光ビーム変換手段に相当するとともに、光分波手段の1形態である。また、空間型光位相変調器アレー32および空間型光位相変調器制御装置33は、空間型光位相変調手段に相当するとともに、光位相変換手段の1形態である。
【0040】
図4において、レーザ光源40は、レーザ光を出力し、そのレーザ光は、必要に応じて偏波面保存光ファイバを介して空間に出射される。そして、レンズ42は、このようにして出射されたレーザ光を平行光ビームに変換する。さらに、この平行光ビームは、位相変調器がアレー状に配置してなる空間型光位相変調器アレー32に入力される。
【0041】
一方、アレーアンテナ10の各アンテナ素子11(1)〜11(m)にて受信したマイクロ波である電波100の信号は、マイクロ波位相/電圧変換装置20(1)〜20(m)により第1の制御信号である電圧信号に変換される。さらに、このようにして変換された第1の制御信号のそれぞれは、空間型光位相変調器制御装置33に入力される。
【0042】
次に、空間型光位相変調器制御装置33は、空間型光位相変調器アレー32に対し、アレーアンテアの各アンテナ素子11(1)〜11(m)の位置と相似な位置の変調素子へ第1の制御信号を出力する。
【0043】
これに対して、空間型光位相変調器アレー32の各変調素子は、空間型光位相変調器制御装置33からの第1の制御信号に基づいて、レンズ42からの入射ビーム光を、アレーアンテナ10の受信信号の位相分布101と同分布を有する位相変調を行い、位相変調光ビーム110として空間に出力する。
【0044】
これ以降の動作は、先の実施の形態1〜3と同様であり、フーリエ変換レンズ50は、空間に出力された位相変調光ビーム110をフーリエ変換することにより、撮像装置60にフーリエ変換像51を形成することとなる。
【0045】
このような、空間型光位相変調器アレー32としては、例えば、液晶により数100×数100素子の2次元配列からなるものが既に実用化されており、大規模な2次元アレーにも容易に適用可能である。
【0046】
以上のように、実施の形態4によれば、光位相変換手段としての空間型光位相変換手段と、光分波手段としての光ビーム変換手段とを用いる構成によっても、位相変調光ビームを得ることができ、これらの適用により、電波到来方向を高精度、かつ高速に測定できる電波到来方向測定装置を得ることができる。
【0047】
実施の形態5.
図5は、本発明の実施の形態5における電波方向測定装置の構成図である。実施の形態4による図4の構成と比較すると、図5の構成は、ビームスプリッタ34をさらに備えている点が異なっている。ここで、ビームスプリッタ34は、空間型光位相変調手段の一部と見なすことができる。そこで、図4と同一の構成に関しては、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0048】
ビームスプリッタ34は、レンズ42を介して空間に出射された平行光ビーム(図5における点線矢印)を入射光として取り込む。ビームスプリッタ34に入射した平行光ビームは、その半分は、透過するが、残りの半分は入射方向に対し90度方向に反射する。
【0049】
すなわち、90度方向に反射した反射光ビームは、反射型の空間型光位相変調器アレー32に入射し、実施の形態4と同様に、空間型光位相変調器制御装置33に基づいて空間的に位相変調され、位相変調光ビーム110として出力される。そして、出力された位相変調光ビーム110は、ビームスプリッタ34を透過し、フーリエ変換レンズ50により、撮像装置60にフーリエ変換像51が形成される。これ以降の動作は、先の実施の形態と同様であり、説明を省略する。
【0050】
以上のように、実施の形態5によれば、ビームスプリッタを用いることにより、光ビーム変換手段の位置を90度ずらすことができ、配置上の設計自由度を向上させることが可能となる。
【0051】
実施の形態6.
図6は、本発明の実施の形態6における電波方向測定装置の構成図である。実施の形態5による図5の構成と比較すると、図6の構成は、ビームスプリッタ34の代わりに偏向ビームスプリッタ35を備えている点が異なる。さらに、本実施の形態6においては、偏向ビームスプリッタ35と反射型の空間型光位相変調器アレー32との間に4分の1波長板36をさらに挿入してもよい。
【0052】
ここで、偏向ビームスプリッタ35および4分の1波長板36は、空間型光位相変調手段の一部と見なすことができる。そこで、図5と同一の構成に関しては、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0053】
偏向ビームスプリッタ35は、レンズ42を介して空間に出射された平行光ビーム(図6における点線矢印)を入射光として取り込む。このとき、偏向ビームスプリッタ35は、直線偏向光として入射する平行光ビームの偏向方向を反射方向に設定することにより、平行光ビームを入射方向に対し90度方向に反射する。さらに、反射した平行光ビームは、4分の1波長板36を透過することにより、円偏向ビームとなり、反射型の空間型光位相変調器アレー32に入射される。
【0054】
反射型の空間型光位相変調器アレー32に入射されたビーム光は、実施の形態5と同様に、空間型光位相変調器制御装置33に基づいて空間的に位相変調され、位相変調光ビーム110として出力される。そして、出力された位相変調光ビーム110は、再び4分の1波長板36に逆方向から入射し、偏向ビームスプリッタ35から出射したときから90度傾いた偏向方向の位相変調光ビーム110となる。
【0055】
さらに、位相変調光ビーム110は、再び偏向ビームスプリッタ35に入射した後、透過し、フーリエ変換レンズ50によりフーリエ変換像51に変換され、この結果、撮像装置60にフーリエ変換像51が形成されることとなる。これ以降の動作は、先の実施の形態と同様であり、説明を省略する。
【0056】
以上のように、実施の形態6によれば、偏向ビームスプリッタおよび4分の1波長板を用いることにより、実施の形態5において、ビームスプリッタ34を透過するときと反射するときに生じていた50%の損失を低減することができる。
【0057】
なお、上述の実施の形態6では、4分の1波長板36を使用していたが、45度回転ファラディー素子を用いてもよい。このとき、45度ファラディー回転素子を透過したとすると、ビーム光の偏向方向は45度回転し、反射型の空間型光位相変調器アレー32にて反射後、再び45度回転ファラディー素子を透過するときに、さらに45度回転するため、ビーム光偏向方向を合計90度傾けて、偏向ビームスプリッタ35に入射させ、透過させることも可能である。
【0058】
実施の形態7.
図7は、本発明の実施の形態7における電波到来方向測定装置の構成図である。実施の形態1による図1の構成と比較すると、図7の構成は、さらに、光強度変調装置70(光強度変調手段に相当)、m個のマイクロ波分波器80(1)〜80(m)(第3のマイクロ波分波手段に相当)、およびm個のマイクロ波振幅/電圧変換装置90(1)〜90(m)(マイクロ波振幅量変換手段に相当)を備えている点が異なっている。そこで、図1と異なる構成を中心に、動作を説明する。
【0059】
m個のマイクロ波分波器80(1)〜80(m)のそれぞれは、アレーアンテナ10の各アンテナ素子11(1)〜11(m)で受信したマイクロ波信号を2分岐する。一方の分岐信号は、実施の形態1の場合と同様に、マイクロ波位相/電圧変換装置20(1)〜20(m)でマイクロ波の位相が電圧信号に変換された第1の制御信号として、各光位相変調器31(1)〜31(m)に入力される。
【0060】
また、m個のマイクロ波分波器80(1)〜80(m)のそれぞれで2分岐されたもう一方の分岐信号は、マイクロ波振幅/電圧変換装置90(1)〜90(m)でマイクロ波の振幅が電圧信号に変換された第2の制御信号として、光強度変調装置70を構成する各光強度変調器71(1)〜81(m)に入力される。
【0061】
レーザ光源40から出射した光は、偏波面保存光ファイバを介して、光分配器41によりm個の光に分岐され、各分岐光は、各々光強度変調器71(1)〜71(m)に入射する。各々の光強度変調器71(1)〜71(m)は、入射した各分岐光を、マイクロ波振幅/電圧変換装置90(1)〜90(m)からの第2の制御信号により各々振幅変調する。この結果、入力光は、マイクロ波の平均振幅により光強度を変調された強度変調信号光となる。
【0062】
次に、各々の光位相変調器31(1)〜31(m)は、入射した各強度変調信号光を、マイクロ波位相/電圧変換装置20(1)〜20(m)からの第1の制御信号により各々位相変調する。
【0063】
このように、第1の制御信号と第2の制御信号とを用いて2段階の変調処理を行うことにより、各レーザ光は、アレーアンテナ10の各アンテナ素子11(1)〜11(m)で受信したマイクロ波の平均振幅および位相と同一の振幅/位相分布をなす位相変調光ビーム110となり、空間に放射される。空間に出射された位相変調光ビーム110は、フーリエ変換レンズ50により、空間的にフーリエ変換され、撮像装置60上にフーリエ変換像51が形成されることとなる。
【0064】
このように、本実施の形態7においては、アレーアンテナ10の各アンテナ素子11(1)〜11(m)で受信した信号の振幅情報および位相情報をもとにビーム光をフーリエ変換している。従って、アンテナ受信信号の遠方界と同じ強度分布、つまり、複数のビームが到来する場合には、図7に示すように、複数のフーリエ変換像51(1)および51(2)を形成することができる。このフーリエ変換像51(1)、51(2)を、信号処理装置61を介して画像表示装置に入力することにより、複数の目標から到来する電波を同時に可視化することが可能となる。
【0065】
以上のように、実施の形態7によれば、光強度変調および光位相変調の2段階の変調により生成された変調光ビームからフーリエ変換像を生成することができ、複数の目標から到来する電波に対しても、電波到来方向を高精度、かつ高速に測定できる電波到来方向測定装置を得ることができる。
【0066】
実施の形態8.
図8は、本発明の実施の形態8における撮像装置60で受信したフーリエ変換像51の強度分布を示す図である。先の実施の形態1〜7において、撮像装置60に入射するフーリエ変換像51の強度分布は、例えば、図8のように連続的なものである。しかし、撮像装置60を構成する各画素63は、有限の素子数、素子サイズ、素子間隔を有するものである。なお、図8では、1次元のアレーを図示している。
【0067】
従って、電波の到来方向角度の測定分解能は、撮像装置60を構成する各画素63の素子数および間隔で制限される。例えば、500素子の撮像装置を用いて、±50度の範囲を測定する場合、約50度×2/500素子=0.2度より細かい角度で測定することができない。
【0068】
そこで、本実施の形態8では、信号処理装置61において、前述のような離散的な画素63から得られる離散的な強度分布52に対して、画素間の補間演算として重心演算を行い、強度が最大となる位置を求める。これにより、画素63の間隔よりも細かい位置精度で強度を特定することができる。ここでは、画素間の補間演算の一例として重心演算を用いたが、離散的な強度分布の近似関数53を計算し、近似曲線から最大値を求めてもよい。
【0069】
以上のように、実施の形態8によれば、撮像装置上の各画素により得られる離散的な強度分布に基づいて、強度が最大となる位置を補間演算で求めることにより、画素間隔よりも細かい位置精度でフーリエ変換像の位置を求めることができ、電波到来方向を高精度、かつ高速に測定できる電波到来方向測定装置を得ることができる。
【0070】
なお、実施の形態1〜8において、撮像素子の代わりにフォトダイオードアレーを用いてもよいことはいうまでもない。また、電波到来方向測定装置から電波を送信し、目標で反射した電波の到来方向を測定する装置にも適用可能である。その場合、図2のマイクロ波信号源と送信電波の信号源を共通化することができる。
【0071】
また、実施の形態4〜8において、マイクロ波位相/電圧変換装置の詳細については示していないが、いずれも実施の形態2、3と同様の構成で実施してもよいことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の実施の形態1における電波到来方向測定装置の構成図である。
【図2】本発明の実施の形態2における電波到来方向測定装置の構成図である。
【図3】本発明の実施の形態3における電波到来方向測定装置の構成図である。
【図4】本発明の実施の形態4における電波到来方向測定装置の構成図である。
【図5】本発明の実施の形態5における電波到来方向測定装置の構成図である。
【図6】本発明の実施の形態6における電波到来方向測定装置の構成図である。
【図7】本発明の実施の形態7における電波到来方向測定装置の構成図である。
【図8】本発明の実施の形態8における撮像装置で受信したフーリエ変換像の強度分布を示す図である。
【符号の説明】
【0073】
10 アレーアンテナ、11 アンテナ素子、20 マイクロ波位相量変換手段、20(1)〜20(m) マイクロ波位相/電圧変換装置、21 マイクロ波信号源、22 マイクロ波分波装置(第1のマイクロ波分波手段)、23 マイクロ波ミキサ、24 電圧変換装置、25 マイクロ波分波回路(第2のマイクロ波分波手段)、26 マイクロ波増幅器、30 光位相変調器アレー(光位相変調手段)、31 光位相変調器、32 空間型光位相変調器アレー、33 空間型光位相変調器制御装置、34 ビームスプリッタ、35 偏向ビームスプリッタ、36 波長板、40 レーザ光源、41 光分配器(光分波手段)、42 レンズ(光ビーム変換手段)、50 フーリエ変換レンズ(フーリエ変換光学系)、51 フーリエ変換像、60 撮像装置、61 信号処理装置、62 画像表示装置、70 光強度変調装置(光強度変調手段)、71 光強度変調器、80 マイクロ波分波器(第3のマイクロ波分波手段)、90 マイクロ波振幅/電圧変換装置(マイクロ波振幅量変換手段)、100 電波、101 位相分布、110 位相変調光ビーム、111 位相分布。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線信号を受信する複数のアンテナ素子と、
前記複数のアンテナ素子のそれぞれで受信した無線信号の位相を第1の制御信号に変換するマイクロ波位相量変換手段と、
レーザ光源から出射されたレーザ光を複数に分波する光分波手段と、
前記マイクロ波位相量変換手段からの前記第1の制御信号に基づいて、前記光分波手段で分波されたそれぞれの光の位相変調を行う光位相変調手段と、
前記光位相変調手段により位相変調された出力光を空間的にフーリエ変換してフーリエ変換像を生成するフーリエ変換光学系と、
前記フーリエ変換像の強度分布を測定する撮像装置と
を備えることを特徴とする電波到来方向測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電波到来方向測定装置において、
前記マイクロ波位相量変換手段は、
前記無線信号と同じ周波数を有するマイクロ波を出力するマイクロ波信号源と、
前記マイクロ波を複数に分波してローカル信号を生成する第1のマイクロ波分波手段と、
分波された前記ローカル信号に基づいて、前記複数のアンテナ素子のそれぞれで受信した無線信号の周波数変換を行うマイクロ波ミキサと、
周波数変換された前記無線信号を第1の制御信号に変換する電圧変換装置と
を備えたことを特徴とする電波到来方向測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電波到来方向測定装置において、
前記マイクロ波信号源は、
前記複数のアンテナ素子の何れかで受信した無線信号を分波する第2のマイクロ波分波手段と、
分波された前記無線信号を増幅するマイクロ波増幅器と
を備えたことを特徴とする電波到来方向測定装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の電波到来方向測定装置において、
前記光分波手段は、前記レーザ光源から出射したレーザ光を所定のサイズのビーム光に変換する光ビーム変換手段であり、
前記光位相変調手段は、前記マイクロ波位相量変換手段からの前記第1の制御信号に基づいて、前記光ビーム変換手段で変換された前記ビーム光の空間分布の位相変調を行う空間型光位相変調手段である
ことを特徴とする電波到来方向測定装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の電波到来方向測定装置において、
前記複数のアンテナ素子のそれぞれで受信した無線信号を分波する第3のマイクロ波分波手段と、
分波された前記無線信号のそれぞれの振幅を第2の制御信号に変換するマイクロ波振幅量変換手段と、
前記マイクロ波振幅量変換手段からの前記第2の制御信号に基づいて、前記光分波手段で分波されたそれぞれの光の強度変調を行う光強度変調手段と
をさらに備え、
前記光位相変調手段は、前記マイクロ波位相量変換手段からの前記第1の制御信号に基づいて、前記光強度変調手段で強度変調されたそれぞれの光の位相変調を行う
ことを特徴とする電波到来方向測定装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の電波到来方向測定装置において、
前記撮像装置の各画素で受信した前記フーリエ変換像の出力強度分布を入力として画素間の補間演算を行い、画素間隔より細かい分解能でフーリエ変換像の強度最大位置を算出する信号処理装置をさらに備えたことを特徴とする電波到来方向測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−147482(P2007−147482A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−343363(P2005−343363)
【出願日】平成17年11月29日(2005.11.29)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】