説明

電波吸収体、電波吸収パネル構造体、無線通信改善システム

【課題】400〜1000MHz以下の周波数帯域の電磁波を吸収するための電波吸収体において、軽量化と薄型化の双方を兼ね備えた電波吸収体、およびこれを用いた電波吸収パネル構造体、無線通信改善システムを提供する。
【解決手段】導体素子を有するパターン層5と、磁性損失材および誘電損失材の少なくともいずれか一方の材料を含んで構成される損失層4と、誘電体材料を含んで構成される誘電体層3とが、この順に少なくとも1層ずつ積層され、誘電体材料は、密度が1.0g/cm未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波を捉えて、吸収する電磁波吸収体、およびこれを用いた電波吸収パネル構造体、無線通信改善システムに関する。
【背景技術】
【0002】
情報通信の分野のみならず、物流管理などの分野でも無線通信技術が応用され、無線通信機器は、様々な使用環境に置かれることになる。
【0003】
通信品質の改善を目的として、マイクロ波帯の電波を吸収する薄型の電波吸収体が開発されている。
【0004】
特許文献1記載の電波吸収体は、合成ゴム中にフェライト粉末を分散させることにより7mm厚の薄型化を達成させているが、フェライトを85〜95重量%充填するため重量が非常に重くなり、またコスト面も高くなる。
【0005】
特許文献2記載の電波吸収体は、樹脂発泡体を用いることで軽量化させ、炭素繊維を分散させて20−40mm厚の薄型化を達成させている。
【0006】
特許文献3記載の電磁波吸収体は、900MHz帯で10mm以下の薄型化が達成されている。しかし、材料が重く、壁材や衝立、天井材のよう部分では固定するために十分な接着力や、固定部材が必要である。
【0007】
さらに、400MHz帯、UHF帯の電磁波を用いたRFID(Radio Frequency Identification)システムの実用化が進んでいる。UHF帯は、国際的に周波数が統一されていないものの、UHF帯の電磁波を用いるRFIDシステムでは10m、タグが電源を有するアクティブタイプでは数百mもの通信距離が得られ、商品管理、物流管理、製品のトレーサビリティ、セキュリティー等の広範囲に用途展開されている。
【0008】
しかし、長距離通信が可能なせいで、他波干渉と呼ばれる電磁波干渉を生じるおそれがある。また、マルチパス、自己干渉などと呼ばれる反射波などによる誤伝送を生じるおそれもある。その結果、通信端末機器間の伝送速度の低下、BER(Bit Error Rate)の増大すなわち通信環境の劣化、そして情報伝達に誤りを生じる。これを解決するためにUHF帯の電波吸収体が提案されている。
【0009】
吸収体用途として、壁材、内装材、自立式衝立、床材、天井材等が考えられるが、この帯域においては、発泡体型吸収体の場合、厚みが非常に厚くなってしまい、スペースが圧迫されてしまう。また、ゴムフェライトのような材料は薄型化可能であるが、非常に重く、施工性に問題がある。
【0010】
また、薄型化、軽量化双方を達成したとしても、吸収体の機械的強度が低下するという問題もある。
【0011】
【特許文献1】特開平5−299872号公報
【特許文献2】特開平9−92996号公報
【特許文献3】特開2006−128664号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、400〜1000MHz以下の周波数帯域の電磁波を吸収するための電波吸収体において、軽量化と薄型化の双方を兼ね備えた電波吸収体、およびこれを用いた電波吸収パネル構造体、無線通信改善システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、400〜1000MHz以下の周波数帯域の電磁波を吸収するための電波吸収体であって、
電磁波吸収体の総厚が吸収周波数の電磁波の波長λに対してλ/20以下であり、かつ見掛け密度が1.1g/cm以下であることを特徴とする電波吸収体である。
【0014】
また本発明は、導体素子を有するパターン層と、磁性損失材および誘電損失材の少なくともいずれか一方の材料を含んで構成される損失層と、誘電体材料を含んで構成される誘電体層と、導電性反射層とが、この順に少なくとも1層ずつ積層され、誘電体材料は、密度が1.0g/cm未満であることを特徴とする。
【0015】
また本発明は、パターン層は、少なくとも1つの角部が曲線状である導体素子が、互いに隣接しない態様で複数個、配列され、導体素子間に形成される隙間のうち、少なくとも一部の隙間の幅寸法が、その隙間の延在方向に関して連続的に変化することを特徴とする。
【0016】
また本発明は、損失層は、吸収する電磁波の周波数において複素比誘電率の実部ε’が10〜50であり、および/または複素比透磁率の実部が1以上20以下であることを特徴とする。
【0017】
また本発明は、損失層は、結合材として有機重合体を用い、磁性損失材として、フェライト、鉄合金、鉄粒子の群、または誘電損失材として、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、金属繊維、カーボンナノチューブの群から選ばれる1または複数の材料を配合したことを特徴とする。
【0018】
また本発明は、誘電体層は、吸収する電磁波の周波数において複素比誘電率の実部ε’が1〜10であることを特徴とする。
【0019】
また本発明は、誘電体層は、誘電体材料として、多孔質有機材料、多孔質無機材料、および電波入射方向に沿って貫通した空孔が形成された材料の群から選ばれる1または複数の材料を含むことを特徴とする。
【0020】
また本発明は、総厚みに対する5%圧縮時の圧縮強度が、0.2N/mm以上であり、曲げ弾性率が30N/mm以上であることを特徴とする。
【0021】
また本発明は、400〜1000MHz以下の周波数帯域の特定周波数に対し、入射する電磁波の斜入射角度が0°〜10°での反射損失が15dB以上であり、斜入射角度が10°〜45°での反射損失が6dB以上であることを特徴とする。
【0022】
また本発明は、上記の電波吸収体を用いることを特徴とする電波吸収パネル構造体である。
【0023】
また本発明は、上記の電波吸収体を用いることを特徴とする無線通信改善システムである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、400〜1000MHz以下の周波数帯域の電磁波を吸収するための電波吸収体であって、電磁波吸収体の総厚が吸収周波数の電磁波の波長λに対してλ/20以下であり、かつ見掛け密度が1.1g/cm以下である。
【0025】
これにより、軽量化と薄型化の双方を兼ね備えた電波吸収体を実現することができる。
また本発明によれば、電波吸収体は、導体素子を有するパターン層と、磁性損失材および誘電損失材の少なくともいずれか一方の材料を含んで構成される損失層と、誘電体材料を含んで構成される誘電体層と、導電性反射層とが、この順に少なくとも1層ずつ積層したものである。さらに、誘電体材料は、密度が25℃での測定において1.0g/cm未満である。
【0026】
誘電体材料の密度を1.0g/cm未満とすることで、電波吸収体全体の密度を低くすることができ、パターン層、損失層、誘電体層、導電性反射層を組み合わせることで、全体の厚みを薄くすることができる。
【0027】
また本発明によれば、パターン層は、少なくとも1つの角部が曲線状である導体素子が、互いに隣接しない態様で複数個、配列され、導体素子間に形成される隙間のうち、少なくとも一部の隙間の幅寸法が、その隙間の延在方向に関して連続的に変化する。
【0028】
電磁波吸収体では、まずパターン層の導電性パターンによって、アンテナの共振原理に従って特定周波数の電磁波を受信する。ここで特定周波数は、導電性パターンの形状および寸法などの諸元によって決定される周波数であり、電磁波吸収体によって吸収すべき周波数である。電磁波を受信する導電性パターンを有するパターン層に積層して、損失層を設けるので、受信した電磁波のエネルギを損失層によって損失させることができる。このようにして電磁波を吸収することができる。
【0029】
また本発明によれば、損失層は、吸収する電磁波の周波数において複素比誘電率の実部ε’が10〜50であり、および/または複素比透磁率の実部が1以上20以下である。複素比誘電率の実部ε’を当該範囲のように高くすることで、誘電体層の厚みを薄くすることができる。
【0030】
また本発明によれば、損失層は、結合材として有機重合体を用い、磁性損失材として、フェライト、鉄合金、鉄粒子の群、または誘電損失材として、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、金属繊維、カーボンナノチューブの群から選ばれる1または複数の材料を配合したものである。
【0031】
これにより、複素比誘電率の実部ε’を適切な範囲に容易に調整することができる。
また本発明によれば、誘電体層は、吸収する電磁波の周波数において複素比誘電率の実部ε’が1〜10である。
【0032】
複素比誘電率の実部ε’を当該範囲とすることで、誘電体層の密度を低くすることができる。
【0033】
また本発明によれば、誘電体層は、誘電体材料として、多孔質有機材料、多孔質無機材料、および電波入射方向に沿って貫通した空孔が形成された材料の群から選ばれる1または複数の材料を含む。
【0034】
これにより、複素比誘電率の実部ε’を適切な範囲に容易に調整することができる。
また本発明によれば、総厚みに対する5%圧縮時の圧縮強度が、0.2N/mm以上であり、曲げ弾性率が30N/mm以上である。
【0035】
これにより、薄型化、軽量化した際に生じる機械的強度の課題を克服し、構造材料として好適な電波吸収体を実現できる。
【0036】
また本発明によれば、400〜1000MHz以下の周波数帯域の特定周波数に対し、入射する電磁波の斜入射角度が0°〜10°での反射損失が15dB以上であり、斜入射角度が10°〜45°での反射損失が6dB以上である。
【0037】
これにより、誘電体層に発泡材料を用いても斜入射の反射損失の劣化を抑えることができる。
【0038】
また本発明によれば、上記の電波吸収体を用いた電波吸収パネル構造体を提供することができる。
【0039】
また本発明によれば、上記の電波吸収体を用いた無線通信改善システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明の電波吸収体1は、400〜1000MHz以下の周波数帯域の電磁波吸収に好適な電波吸収体であり、電磁波吸収体の総厚が吸収周波数の電磁波の波長λに対してλ/20以下、好ましくλ/30以下であり、かつ見掛け密度が1.1g/cm以下、好ましくは0.6g/cm以下であることを特徴としている。
【0041】
また、その層構成は図1に示すように、導体素子を有するパターン層5と、磁性損失材および誘電損失材の少なくともいずれか一方の材料を含んで構成される損失層4と、誘電体材料を含んで構成される誘電体層3と、導電性反射層2が、この順に少なくとも1層ずつ積層される。
【0042】
誘電体層を構成する誘電体材料は、密度が1.0g/cm未満であることが好ましい。
【0043】
さらに、本実施形態では、入射した電磁波を反射する導電性反射層2を、損失層を挟んでパターン層とは反対側に積層している。
【0044】
導体素子を有するパターン層を用いた場合の構成では、軽量の誘電体層は、誘電率が低いため、誘電体層の厚みを厚くしなければならない。また誘電層の誘電率が高い場合、軽量化は難しく誘電材料は重くなってしまう。そこで、本発明では、損失層の誘電率を上げることで、誘電体層の誘電率を低下させることができ軽量化、薄型化を実現することができる。このような材料は、容易に裁断が可能で種々の使用形態に適用可能である。
【0045】
導体素子を有するパターン層5について説明する
図2は、図1に示される本発明の実施の一形態の電磁波吸収体1を構成するパターン層5を示す正面図である。図3は、図1および図2に示される実施の形態におけるパターン層5の一部の拡大した正面図である。
【0046】
パターン層5は、図2に示すように、複数の導電性パターン12を有する。導電性パターン12は、この導電性パターン12に含まれる各パターン30,31の形状に依存して、整合周波数を調整することができる。電磁波吸収体1は、400〜1000MHz以下の周波数帯域の電磁波を吸収するために用いられる。
【0047】
導電素子からなる導電性パターンの形状は、基本的には多角形であるが、少なくとも1つの角部が曲線状に形成される形状にする。角部にRを付与する、つまり曲面状とする効果は、共振電流が角部で滞ることなく流れやすくなることであり、さらに共振する領域が広くなることであり、結果Q値は若干落ちるけれども広帯域性能を示すことにより、偏波特性が改善されることになる。
【0048】
これによって電磁波の偏波方向によって吸収量がピーク値となる周波数のずれを小さく抑えることができる。したがって電磁波の吸収量のピーク値が高く、かつ電磁波の偏波方向によって吸収量がピーク値となる周波数のずれが小さい優れた電磁波吸収特性の電磁波吸収体を実現することができる。
【0049】
このパターン層5は、板状基材11の電磁波入射側の表面上に、導電性パターン12が形成される。板状基材11は、たとえば合成樹脂である誘電体から成っており、この板状基材11もまた誘電性の損失材である。導電性パターン12は、放射形パターン30と、略方形パターン31とを有する。
【0050】
放射形パターン30は、放射形状に形成され、複数の放射形パターン30が、相互に間隔(以下「放射形パターン間隔」という)c2x,c2yをあけて設けられる。さらに具体的に述べると、たとえばこの実施の形態では、放射形パターン30は、相互に垂直なx方向およびy方向に沿う放射状である十文字状に形成され、x方向に放射形パターン間隔c2xをあけ、y方向に放射形パターン間隔c2yをあけて、行列状に規則正しく配置されてもよい。
【0051】
吸収すべき電磁波の周波数帯が400〜1000MHz以下の周波数帯域である場合、放射形パターン30の寸法の一例を挙げると、各形状部分14,15の幅a1x,a1yは、等しく、たとえば0.5〜5.0mmであり、各形状部分14,15の長さa2x,a2yは、等しく、たとえば1〜100.0mmである。円弧状に形成される角部の円弧状となる寸法、したがって略三角形22の斜辺を除く辺の長さ、具体的にはx方向の辺の長さa3xおよびy方向の辺の長さa3yは、等しく、たとえば0.5〜50mmであり、斜辺の曲率半径R1は、1〜20mmである。放射形パターン間隔は、x方向の間隔c2xとy方向の間隔c2yが、等しく、たとえば0.5〜90.0mmである。
【0052】
略方形パターン31は、放射形パターン30に囲まれる領域に、放射形パターン30から間隔(以下「放射−方形間隔」という)c1をあけて配置され、放射形パターン30に囲まれる領域を塗潰すように設けられる。さらに詳細には、放射形パターン部に囲まれる領域に対応する形状に形成される。さらに具体的に述べると、たとえばこの実施の形態では、放射形パターン部30が前述のような十字状であり、放射形パターン30に囲まれる領域は長方形を基礎としる略長方形であり、これに対応する形状、つまり放射−方形間隔c1が全周にわたって同一となる形状に形成される。各形状部分14,15が前述のように同一形状である場合、放射形パターン30に囲まれる領域は、正方形を基礎とする略正方形となり、略方形パターン31は、正方形25を基礎とする略正方形となる。略方形パターン31は、基礎と成る正方形25の辺部が、x方向およびy方向のいずれかに延びるように配置されている。
【0053】
略方形パターン31は、正方形25を基礎として、4つの角部26を曲線状、具体的には円弧状にした形状である。具体的には、正方形25から、直角二等辺三角形であり、直角の角部に対向する斜辺が直角の角部に向けて凹となる円弧状である4つの略三角形27を、直角の角部が正方形の各角部26に収まるよう位置関係で取り除いた形状である。
【0054】
吸収すべき電磁波の周波数帯が400〜1000MHz以下の周波数帯域である場合、略方形パターン31の寸法の一例を挙げると、正方形25のx方向の寸法b1xとy方向の寸法b1yとが、等しく、たとえば1〜100mmである。弧状に形成される角部の円弧状となる寸法、したがって略三角形27の斜辺を除く辺の長さ、具体的にはx方向の辺の長さb2xおよびy方向の辺の長さb2yは、等しく、たとえば0.5〜50mmであり、斜辺の曲率半径R2は1〜20mmである。放射形パターン30と略方形パターン31との間隔c1は、これらのパターン30,31間の隙間が伸びる方向の両端部に比べて、中間部が大きくなるように連続的に変化しており、たとえば0.1 〜5mmである。
【0055】
このように放射形パターン30および略方形パターン31は、略多角形を基礎とし、少なくとも1つの角部が曲線状である略多角形の外郭形状を有する導電性パターンである。このようなパターンでは、電磁波を受信したときの共振電流が、曲線状に形成される角部でスムーズに流れるようになる。
【0056】
また放射形パターン30および略方形パターン31は、前述の形状の外周縁に沿って延びる閉ループの線状(帯状)ではなく、内周部も塗潰される面状のパターンである。したがって導電性反射層2との間にコンデンサを形成することができる。
【0057】
このような電磁波吸収体1では、パターン層5によって、各導電性パターン12の共振周波数の電磁波を、効率よく受信することができる。ただし、最終的な共振周波数はパターン寸法だけでなく、導電性パターン12同士の結合特性、電磁波吸収層4、誘電体層3から決定されるリアクタンスやキャパシタンスの影響を受けて決まる。このパターン層5に近接して、電磁波吸収層4、誘電体層3が設けられており、パターン層5によって受信される電磁波のエネルギが損失される。言い換えるならば電磁波のエネルギを熱エネルギに変換して吸収することができる。このようにパターン層5を用いることによって電磁波を効率よく受信して吸収することができる。
【0058】
損失層4は、複素比透磁率(μ’、μ”)を有する磁性損失材および/または複素比誘電率(ε’、ε”)を有する誘電損失材の少なくともいずれか一方である材料を含んで構成される。誘電体層2は、複素比誘電率(ε’、ε”)を有する誘電体材料を含んで構成される。導電性反射層2は、たとえば板状基材の電磁波入射側の表面上に、全面にわたって導電性膜が形成されて構成される。
【0059】
電波吸収体1は、パターン層5の各導電性パターン12によって、その形状および寸法によって決定される共振周波数の電磁波を受信し、その電磁波エネルギを、損失層4および誘電体層3で損失させ、具体的には熱エネルギに変化させて、吸収することができる。
【0060】
電波吸収体1は、前述のような積層構成とすることによって、電磁波の吸収効率を高くすることができるので、電磁波吸収量が大きい電磁波吸収特性を得ることができ、薄型化および軽量化を図ることができる。たとえば電波吸収体1は、λ/4型の電磁波吸収体に比べて約1/5〜約1/7程度の厚さに抑える薄型化、ゴムフェライトなどを用いる単層型電磁波吸収体に比べて相当程度の薄型化および約1/4程度の重量に抑える軽量化を実現することができる。また導電性パターン12を面状のパターンとして、導電性反射層2との間でコンデンサを形成し、その容量を大きくして受信効率を高く、電磁波吸収効率を高くすることができる。
【0061】
また電波吸収体1は、電磁波遮蔽板としての導電性反射板2を設ける構成が好ましい。この導電性反射板2を設けない場合には、電磁波遮蔽性能を有する物体の面上に設置するよう構成とする。導電性反射板2に代替する材料を利用してもよいが、導電性反射層としての機能は電波吸収体として必要である。導電性反射板2によって、パターン層5の形状および寸法などの決定、つまり設計が容易になる。この場合導電性反射板2を用いる構成では、電磁波吸収体1の設置場所の影響を受けて、導電性パターン12,30,31の共振周波数が変化することが防がれる。導電性反射板2を積層しない構成を、導電性を有さない建物内装材の上に設けても、その内装材の固有の複素比誘電率などの影響を受けて、パターン(受信アンテナ)の共振周波数が変化してしまうことがあるが、導電性反射板2を積層することでそれを防ぐことができる。
【0062】
また導電性パターン12において、放射形パターン30は、前述のように放射状に延びる部分を相互に突合せるように配置され、略方形パターン31は、放射形パターン30に囲まれる領域に対応する形状に形成される。このような配置は、受信原理の異なる(放射形パターンがダイポールアンテナ、方形パターンがパッチアンテナとなる。)、放射形パターン30と方形パターン31を組み合わせることで、受信効率が最適(高くなる)となる組み合わせである。したがって吸収効率の高い、電磁波吸収体を実現することができる。また放射形パターン30がx方向およびy方向に沿って放射する配置であるとともに略方形パターン31の基礎となる正方形の辺部がx方向およびy方向に延びるように配置されており、x方向およびy方向に電界の方向が存在するように偏波する電磁波の受信効率が高くすることができる。
【0063】
電磁波吸収体1では、電磁波を受信する導電性パターン12が、基本的に多角形である略多角形の外郭形状を有しており、電磁波吸収量のピーク値を、導電性パターンの外郭形状が円形の場合と比べて、電磁波吸収量のピーク値を高くすることができる。Q値を高くし、受信効率を上げることが可能となる。このように基本的には多角形であり、少なくとも1つの角部が曲線状に形成される。これによって電磁波の偏波方向によって吸収量がピークとなる周波数のずれを小さく抑えることができる。したがって電磁波の吸収量のピーク値が高く、かつ電磁波の偏波方向によって吸収量がピーク値となる周波数のずれが小さい優れた電磁波吸収特性を得ることができる。
【0064】
このように本実施の形態の電磁波吸収体1は、パターン層5の導電性パターン12によって、アンテナの共振原理に従って特定周波数の電磁波を受信する。言い換えれば、本発明の電磁波吸収体は、電磁波を吸収する以外に、近くに金属(導電性反射層2)の存在する状態で、導体パターン12が受信アンテナとしても有効に動作する機能を有している。ここで特定周波数は、導電性パターン12の形状および寸法などの諸元によって決定される周波数であり、電磁波吸収体1によって吸収すべき周波数である。電磁波を導電性パターン12で受信すると、導電性パターン12の端部に共振電流が流れることになる。この電流が流れることで、電流のまわりに磁界が発生する。磁束密度は、電流に近いほど大きい状態で分布する。このパターン層5の近くに磁性損失材を有する損失層を設けると、磁界をエネルギ的に損失させることができる。このように電磁波のエネルギを熱エネルギに変化させて吸収することができる。また電磁波は、導電性パターン12にて位相が180°変わって反射する電磁波と、導電性パターン12の隙間や導電性パターン12の再放射にて電磁波吸収体1内に入り込む電磁波に分かれ、この電磁波吸収体1内に入った電磁波は導電性反射層2などでさらに位相を変えて反射する。これらの導電性パターン12での反射波と導電性反射層2での反射波が、それらの位相差で干渉することによりエネルギ的に消失することでも吸収されている。
【0065】
さらに電磁波吸収体1を表面部が導電性材料から成る物体に装着して用いる、または損失層に対してパターン層5と反対側に導電性反射層をさらに設けるなど、パターン層と導電性の層の間に損失層を介した積層状態で用いることによって、パターン層5の導電性パターン12と、導電性の層(導電性材料から成る物体の表面層または導電性反射層)の間にコンデンサを構成することができる。この導電性パターン12と導電性の層との距離を短くすると、コンデンサの容量を大きくすることができる。またパターン相互間にもコンデンサを形成することができる。このようにパターン電磁波吸収体では、コンデンサを利用することによりリアクタンス調整機能が付与されることで薄型化を達成することができる。
【0066】
パターン層5は、アルミ蒸着PETフィルムでエッチング法により所定形状の導電性パターンを形成して製造することができる。
【0067】
損失層4は、吸収する電磁波の周波数において複素比透磁率(μ’、μ”)を有する磁性損失材および複素比誘電率(ε’、ε”)を有する誘電損失材の少なくともいずれか一方である材料を含んで構成される。この損失層4は、磁性損失材である材料から成る部分だけを有する層であってもよいし、誘電損失材である材料から成る部分だけを有する層であってもよいし、磁性損失材である材料から成る部分と誘電損失材である材料から成る部分とを有する層であってもよいし、磁性損失材でありかつ誘電損失材である材料から成る部分を有する層であってもよい。
【0068】
損失層4は、吸収する電磁波の周波数において複素比透磁率の実部が1以上20以下である。磁性損失材である材料を結合材中に充填することで製造できる。磁性損失材としては、絶縁性を持つ磁性体を用いることができる。フェライトなどの焼結体、軟磁性粉末、金属酸化物系膜、金属高分子系膜、結合材と磁性体の複合体などが使用できる。このような材料は、磁性損失材でありかつ誘電損失材である。損失層4は、有機重合体と磁性体とだけから成ってもよいし、他の素材、たとえばグラファイト、炭素繊維などが加えられてもよい。
【0069】
フェライトとしては、たとえばMn−Znフェライト、Ni−Znフェライト、Mn−Mgフェライト、Mnフェライト、Cu−Znフェライト、Cu−Mg−Znフェライト、Ba−Ni−Coフェライトなどのソフトフェライト、あるいは永久磁石材料であるハードフェライトが挙げられる。
【0070】
鉄合金としては、たとえば磁性ステンレス(Fe−Cr−Al−Si合金)、センダスト(Fe−Si−Al合金)、パーマアロイ(Fe−Ni合金)、ケイ素銅(Fe−Cu−Si合金)、Fe−Si−B(−Cu−Nb)合金、Fe−Si−Cr合金、Fe−Ni−Cr−Si合金、Fe−Si−Al−Ni−Cr合金等が挙げられる。なお、これら合金においては扁平状のものを用いてもよい。鉄粒子としては、たとえばカルボニル鉄粉が挙げられる。カルボニル鉄の場合はできるだけ真球に近いものがよい。磁性材料であれば、その形状に制限はなく、塊状、扁平状、繊維状等を適宜用いることができる。好ましくは低コストで複素比透磁率の高いソフトフェライト粉末を使用するのがよい。フェライトの様な磁性損失材が存在しないと、複素比透磁率を利用した薄層化を達成することができない。また、電磁波吸収層4が磁性体そのもので形成されてもよい。この場合は、フェライトなどの軟磁性焼結体やそれらのメッキ物、金属化合物や金属酸化物の層を形成する方法が採用される。
【0071】
損失層4は、吸収する電磁波の周波数において複素比誘電率の実部ε’が10〜50であることが好ましい。複素比誘電率の実部ε’が10よりも小さいと、誘電体層3の厚みを大きくするか、または誘電体層3の密度を高くしなければならず、薄型化および軽量化を実現することが困難となる。複素比誘電率の実部ε’が50よりも大きいと、高誘電材料を多量に添加しなければならず、成形が困難になってくる。また高誘電材料の均一単分散が難しく、結果として複素比誘電率の実部ε’がばらつき、損失層4の電磁波吸収特性が安定しない。
【0072】
損失層4としては、結合材として有機重合体を用い、磁性損失材として、フェライト、鉄合金、鉄粒子の群、または誘電損失材として、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、金属繊維、カーボンナノチューブの群から選ばれる1または複数の材料を含むように構成することが好ましい。
【0073】
誘電体層3は、誘電体材料を含んで構成され、誘電体層を構成する誘電体材料は、密度が1.0g/cm未満であることが好ましい。
【0074】
誘電体材料としては、多孔質有機材料、多孔質無機材料および電波入射方向に沿って貫通した空孔が形成された材料群から選ばれる1または複数の材料を使用する。
【0075】
多孔質有機材料としては、例えばゴム、熱可塑性エラストマー、各種プラスチック、木材、紙材、などの高分子有機材料等の多孔質体が挙げられる。前記ゴムとしては、天然ゴムのほか、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDMゴム)、エチレン−酢酸ビニル系ゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、エチレンアクリル系ゴム、エピクロロヒドリンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、シリコンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、水素添加ニトリルゴム(HNBR)などの合成ゴム単独、それらの誘導体、もしくはこれらを各種変性処理にて改質したものなどが挙げられる。これらのゴムは、単独で使用するほか、複数をブレンドして用いることができる。
【0076】
熱可塑性エラストマーとしては、たとえば塩素化ポリエチレンのような塩素系、エチレン系共重合体、アクリル系、エチレンアクリル共重合体系、ウレタン系、エステル系、シリコーン系、スチレン系、アミド系、オレフィン系などの各種熱可塑性エラストマーおよびそれらの誘導体が挙げられる。
【0077】
さらに、各種プラスチックとしては、たとえばポリエチレン、ポリプロピレン、AS樹脂、ABS樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の塩素系樹脂;ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、アクリル系樹脂、ナイロン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル、ポリスルホン、ウレタン系樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂などの熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂およびこれらの誘導体が挙げられる。
【0078】
以上の他、ダンボールなどの紙材、木材、土系材料なども使用可能である。
発泡方法として、発泡剤添加、または熱膨張性微粒子添加等に分類される。発泡剤は有機系発泡剤と無機系発泡剤がある。
【0079】
有機系発泡剤としては、例えばジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)、アゾジカルボンアミド(ADCA)、p,p'-オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)、ヒドラジドジカルボンアミド(HDCA)等が添加されるが、それに限られたものではない。
【0080】
無機系発泡剤としては、炭酸水素ナトリウムなどが添加されるがそれに限られたものではなく、材料に応じて適宜選択して添加してもよい。
【0081】
また熱膨張性微粒子としては、マイクロカプセル化した熱膨張性微粒子小球などが添加される。
【0082】
発泡倍率も特に限定されるものではないが、吸収体の厚み変化が少なく、強度が保持され、かつ軽量化ができるような形態にする必要がある。これらから好ましくは、発泡倍率は2〜20倍程度が好ましい。
【0083】
発泡構造については特に限定されるものではないが、圧縮方向に強い構成、例えば厚み方向に扁平発泡された発泡形態が好ましい。
【0084】
木材として、合板、ラワン材、パーチクルボード、MDF等の木質材料でありその材料に本質的な制限を受けるものではなく、複数の材料を組み合わせて用いることもできる。
【0085】
多孔質無機材料として、各種セラミック材料、石膏ボード、コンクリート、発泡ガラス、軽石、アスファルト、土材などが挙げられるが、それに限られるものではない。
【0086】
電波入射方向に沿って貫通した空孔が形成された構造とは、三角柱、四角柱、五角柱六角柱等の多角柱状や、円柱状、面を組み合わせた様々な形状が挙げられるが、上記形状に限られるものではない。また材料としては、硝子、セラミック、紙材、不織布、有機高分子等、その材料に本質的な制限を受けるものではなく、複数の材料を組み合わせて用いることもできる。
【0087】
これらを用いることによって、空気が層中に一様に分布し、誘電体層3の誘電率が安定する。本来、発砲体材料は、斜入射角度が大きい電磁波の吸収特性に劣る材料であるが、本発明のようなパターン層5と組み合わせることで、斜入射角度が大きい電磁波の吸収特性を確保することができる。具体的には、400〜1000MHz以下の周波数帯域の特定周波数に対し、入射する電磁波の斜入射角度が0°〜10°での反射損失が15dB以上であり、斜入射角度が10°〜45°での反射損失が6dB以上である。
【0088】
誘電体層3は、吸収する電磁波の周波数において複素比誘電率の実部ε’が1〜10であることが好ましい。本発明では軽量化を達成するため多孔質材料を採用しているが、空気成分が多くなると、複素比誘電率の実部ε’は小さくなる。しかし、それでも電波吸収体の薄型化には複素比誘電率の実部ε’の向上が有効であるため、空孔部の壁となる材料の複素比誘電率の実部ε’をできるだけ上げる検討もしており、製造可能な上限値として10としている。
【0089】
薄型化、軽量化すると同時に材料強度低下の課題があるため、誘電体材料の構成を、厚み方向に配列する扁平発泡体を有する構成、または厚み方向に貫通した空孔が形成される構成として、圧縮強度を向上させている。
【0090】
また薄型材料の課題となる反りを防止するため、誘電体層の柔軟性及び、パターン層、損失層、反射層の強度を併せ持たせることにより、曲げ弾性率を向上させている。
【0091】
電波吸収体1全体としては、総厚みに対する5%圧縮時の圧縮強度が、0.2N/mm以上であり、曲げ弾性率が30N/mm以上であることが好ましい。
【0092】
また、損失層4、もしくは必要ならば誘電体層3にも含まれる誘電損失材料は、グラファイト、カーボンブラック、炭素繊維、グラファイト繊維、金属粉、金属繊維の群から選ばれる材料である電磁波吸収体である。損失層4は磁性損失材料を必須の成分として含むが、インピーダンス整合のためには適宜な複素比誘電率を付与することも好ましい。この目的で、損失層4もしくは必要なら誘電体層3に充填される誘電損失材料としては、たとえばファーネスブラックやチャンネルブラックなどのカーボンブラック、ステンレス鋼や銅やアルミニウム等の導電粒子や繊維、グラファイト、カーボン繊維、グラファイト繊維、酸化チタン等が挙げられる。本発明で好ましく使用する誘電性材料は、カーボンブラックであり、特に窒素吸着比表面積(ASTM(American Society for Testing and
Materials)D3037‐93)が100〜1000m/g、DBP吸油量(ASTM D2414−96)が100〜400ml/100gであるカーボンブラック、たとえば昭和キャボット社製の商品名IP1000およびライオン・アクゾ社製商品名ケッチェンブラックECなどを使用するのが好ましい。DBP吸油量というのは、可塑剤の一種であるDBP(dibutyl phthalateの略)の吸収量(単位cm/100g)である。
【0093】
損失層4に使用される有機重合体の材料(ビヒクル)としては、合成樹脂、ゴム、および熱可塑性エラストマーを使用している。たとえばポリエチレン、ポリプロピレン、およびこれらの共重合体、ポリブタジエンおよびこれらの共重合体等のポリオレフィン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂などの熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂やビチュメン等が挙げられる。ポリ尿酸などの生分解性を有する樹脂も使用可能である。またガラス繊維などの材料が充填されたFRPとなっていても良い。また、前述の誘電体材料として挙げた材料を使用することもできる。
【0094】
損失層4が接着剤層を兼ねることも可能である。たとえばエポキシ樹脂にフェライトや誘電損失材を配合させて、パターン層5、誘電体層3、導電性反射層2の各界面や積層で用いる場合の各層の間に位置させることができる。この場合、損失層4および誘電体層3を交互に複数、積層した構成をとることができる。
【0095】
パターン層5および導電性反射層2は、金、白金、銀、ニッケル、クロム、アルミニウム、銅、亜鉛、鉛、タングステン、鉄などの金属であってもよく、樹脂に上記金属の粉末、導電性カーボンブラックの混入された樹脂混合物、あるいは導電性樹脂のフィルム等であってもよい。上記金属等を、板、シート、フィルム、不織布等に蒸着、メッキ、積層、焼付け等にて加工されたものであってもよい。あるいはまた合成樹脂性フィルム上に、膜厚たとえば600Åの金属層が形成された構成を有してもよい。金属箔をフィルムもしくはクロスなどの基材に転写したものでもよい。また、導電インク(たとえば抵抗率10Ω/□以下0.5Ω/□以上)を基材もしくは損失層4もしくは誘電体層3上に塗布してもよい。金属箔など基材を用いない導電性材料そのものであってもよい。
【0096】
前述のような電波吸収体の具体的な用途として、自立式の電波吸収パーティションボードがある。図4は、パーティションボード50の例を示す斜視図である。図4(a)は、一枚のパーティションボード50を示し、図4(b)は、これを2枚連結した状態のパーティションボード50を示す。これは、脚付フレーム51に電波吸収体1を片面または両面固定したものを、UHF帯の周波数を用いて無線通信を行う通信装置間に設置することにより、電波干渉を抑制して通信環境の改善を実現するものである。連結式のボードは、フレームの1辺同士が接続可能となっており、図では2枚を連結した例を示しているが3枚以上連結したものであってもよい。
【0097】
また、複数のフレームが1辺同士で接続されるとともに、接続された1辺を中心としてボード全体が角変位可能に構成された折り畳み式ボードなども実現できる。
【0098】
また、他の用途としては、電波暗箱の壁材として用いることも可能である。図5は、電波暗箱60の例を示す斜視図である。電波暗箱は、シールドボックスとも呼ばれ、その内部空間を、電磁波測定を行うための空間として提供する。したがって、電波暗箱の壁材に本発明の電波吸収体1を壁材として用いることで、箱の内部では発生した電磁波が壁面で反射しないように吸収し、箱の外部では、ノイズの侵入を防ぐために吸収することができる。
【0099】
さらに、無線通信改善システムとして、特に物流システムなどにおいて、たとえば倉庫出入り口などで製品の出入りを管理するためのマルチゲートシステムに適用される。
【0100】
図6は、マルチゲートシステム70を示す概略図である。マルチゲートシステム70は、UHF帯の周波数を用いた無線通信により、製品に付されたICタグの情報を読み取るためのゲート71と、ゲート71間に設置される電波吸収パーティションボード50とから構成される。ゲート71間に電波吸収パーティションボード50を設置することで、隣接するゲートから照射される情報読み取りのための電磁波による電波干渉を抑制することができる。
【0101】
電波吸収パーティションボード50を設置しない場合、隣接するゲート71からの電磁波を受けてしまい、本来のゲート71で読み取るべきICタグと無線通信できなくなってしまう。さらには、隣接のレーンを通過するICタグを読み取ってしまうなど、誤検出が発生する。これらに対し、電磁波吸収パーティション50を設置することにより、電磁波吸収体の吸収機能及び遮蔽機能により、各レーン内の電磁波環境を安定化させることができ、全てのゲート71がICタグを正常に読み取ることができた。
【0102】
このような適応例以外にも、オフィスなどの電磁波環境空間の形成する床材、壁材、天井材として、あるいは家具や事務機器の金属面の被覆材として、あるいは衝立等として、本発明に従う電磁波吸収体を配置することにより、電磁波環境の改善を行う。具体的には、自波干渉や他波干渉による電子機器(医療用機器)の誤動作防止、人体保護、および伝送遅延対策や電磁波通信環境の保全対策である。そして電磁波環境については、オフィスだけではなく、倉庫、物流センター、配送センター、運送設備、コンテナ、家庭内、病院、コンサートホール、工場、研究施設、駅舎、展示場、道路側壁等の屋外施設等でも利用できる。それぞれ想定できる環境での壁、床、天井、柱、パネル、広告板、スチール製品等において、必要とされる箇所ごとに利用できる。
【実施例】
【0103】
以下では、本発明の実施例および比較例について説明する。
実施例の製造法および性能評価結果を記す。図1記載の電磁波吸収体1を製作した。パターン層5として図2記載のパターン形状をアルミ蒸着PETシートからエッチング処理にて形成したシートを用いた。吸収層4は、塩化ビニル樹脂100phrにフェライト粉445phrおよびグラファイト70phrを加熱混練した後、カレンダー成形にてシートを作成した。この吸収層4は、950MHz帯での複素比透磁率の実部(μ’)が2.6、虚部(μ”)が1.0、複素比誘電率の実部(ε’)が31、虚部(ε”)が2であるシートを厚さ1.5mmで用いている。さらに誘電体層3として、厚み方向に対し長く伸びるような扁平状発泡構造を有するポリプロピレン樹脂発泡体(磁性はなく、950MHz帯での複素比誘電率の実部(ε’)が1.25、虚部(ε”)が0.05)の5.5mm厚を用い、導電性反射層2としてアルミ蒸着PETシートを使用した。接着剤による各積層後、総厚7.5mm、900mm×1,800mmのサイズでの重量7.5kgのUHF帯用電磁波吸収体を得た。
【0104】
なお本発明で用いた導電性反射層2は、アルミ蒸着層が400〜500Åのアルミ蒸着PETシートである。そのシートの、KEC法による1GHzでのシールド性を測定したところ、電界シールド性が45dB、磁界シールド性が28dBであった。
【0105】
電磁波吸収測定は、自由空間測定法により行い、電波送受信用アンテナとしてダブルリッジドアンテナを使用し、ネットワークアナライザーHP8720ESに同軸ケーブルで接続して、ネットワークアナライザーのゲート設定による周辺電波干渉波の除去、及びアンテナ同士の直接波の除去後を行った後、900mm×1,800mmのサイズにて測定を行った。
【0106】
また、機械的強度として曲げ弾性率および圧縮強度を測定し、その測定結果を表2に示す。なお、曲げ弾性率および圧縮強度の測定条件は以下のとおりである。
[曲げ弾性率]
曲げ弾性率測定については、JISK 7171を準拠して行った。試験方法は、両端支持の試験片の中央に集中荷重を加え、試験片が規定のたわみに達するまで一定速度でたわませ、その間の試験片に負荷される物性値を読み取る測定である。試験片のサイズは長さ80mm、幅10mmであり、試験速度は2.0mm/minで行った。曲げ弾性率とは、規定された2点のひずみε1=0.0005、及びε2=0.0025に対応する応力をそれぞれσ1及びσ2とするとき、応力の差(σ21)をひずみの差(ε21)で除した値のことである。
[圧縮強度]
圧縮強度測定については、JISK 6254を準拠して行った。試験方法は、圧縮試験機より一定速度の負荷荷重を加え、そのときの圧縮力を読み取る測定である。試験片のサイズは30mm角、高さ20mmであり、圧縮速度は10mm/minで行い、23±2℃で湿度60%の試験環境下での1回目の圧縮応力の測定を行った。
【0107】
【表1】

【0108】
【表2】

【0109】
実施例1〜4,9の誘電体材料である扁平状発泡体は、具体的には積水化学工業株式会社製のゼットロンである。実施例6〜8の誘電体材料であるペーパーコアは、具体的には新日本コア株式会社製のS−140である。実施例10の誘電体材料である合板および実施例11の誘電体材料であるMDF(中密度繊維板)は、ホームセンターなどで市販されている一般普及品を用いた。
【0110】
比較例1は、特開2006−128664号公報に記載のパターン層を有する電波吸収体であり、比較例2は、特開2000−223883号公報記載の電波吸収体である。
【0111】
比較例3は、カーボンを含浸した発泡ポリエチレンからなり、比較例4は、市販のゴムフェライトの電磁波吸収体であり、フェライト粉を適量ゴムに添加し、吸収周波数における材料定数(ε’、ε”、μ’、μ”)および厚みを制御して、電波吸収体と設計したものである。
【0112】
比較例5は、市販のλ/4型の電磁波吸収体である。一般に電磁波入射面に空間インピーダンス相当の抵抗皮膜を設置してインピーダンス整合にて反射を抑え、誘電体(発泡体)および導電性反射層を積層した構成である。入射波と導電性反射層での反射波との位相の差により、干渉にて電磁波を打ち消すというメカニズムである。953MHzの周波数は、波長λが31.5cmあり、λ/4≒7.9cmの厚さが必要であるが、高誘電率のシートを含有するなどして、波長短縮効果により薄型化されている。しかし、誘電率を上げるほど製造が不安定となるため、一般に30mmが薄型化の限界とされている。
【0113】
電磁波吸収量(反射損失量)は実施例、比較例ともにほぼ同様の結果が得られたが、電波吸収体1全体の厚みおよび密度については以下のような違いが顕著に見られた。
【0114】
実施例1〜11は、電波吸収体1全体の厚み(総厚)が吸収周波数の電磁波の波長λに対してλ/20以下またはλ/30以下、密度が1.1g/cm以下と薄型化、軽量化を実現できた。
【0115】
比較例1,2,4は、総厚は薄くできるが密度が高く軽量化に限界がある。比較例3,5は、密度は低いが、総厚が大きく薄型化は困難である。
【0116】
また、材料物性強度について、実施例1,8,10,11の曲げ弾性率はが、30N/mm以上であり、かつ圧縮強度は0.2N/mmと高い値であったのに対し、比較例3は曲げ弾性率、圧縮強度がともに0.1N/mmと低く、比較例4は、曲げ弾性率が30N/mm未満であった。比較例3については、実際の使用の際には材料物性強度がなく、パーティションボードや、壁材等の前に自立させての使用や、床面材への適用については、狭いスペースに対して吸収体厚みを考慮すると困難である。また比較例4についても重量が非常に重く、曲げ弾性率も低く、フェライト使用量からコストも高く、実用途への使用には向いていない。
【0117】
次に、本発明の実施例1,10の斜入射角度に対する電磁波吸収量(反射損失量)の変化を調べた。
【0118】
図7は、実施例1,10の電磁波吸収特性を示すグラフである。横軸は周波数を示し、縦軸はリターンロス(反射損失量)を示す。誘電体材料が扁平状発泡体の実施例1および合板の実施例10のいずれも、斜入射角度が0°〜10°での反射損失が15dB以上であり、斜入射角度が10°〜45°での反射損失が7dB以上であった。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】電波吸収体1の層構成を示す図である。
【図2】パターン層5を示す正面図である。
【図3】パターン層5の一部を拡大した正面図である。
【図4】パーティションボード50の例を示す斜視図である。
【図5】電波暗箱60の例を示す斜視図である。
【図6】マルチゲートシステム70を示す概略図である。
【図7】実施例1,10の電磁波吸収特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0120】
1 電波吸収体
2 導電性反射層
3 誘電体層
4 電磁波吸収層
5 パターン層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
400〜1000MHz以下の周波数帯域の電磁波を吸収するための電波吸収体であって、
電磁波吸収体の総厚が吸収周波数の電磁波の波長λに対してλ/20以下であり、かつ見掛け密度が1.1g/cm以下であることを特徴とする電波吸収体。
【請求項2】
導体素子を有するパターン層と、磁性損失材および誘電損失材の少なくともいずれか一方の材料を含んで構成される損失層と、誘電体材料を含んで構成される誘電体層と、導電性反射層とが、この順に少なくとも1層ずつ積層され、誘電体材料は、密度が1.0g/cm未満であることを特徴とする請求項1記載の電波吸収体。
【請求項3】
パターン層は、少なくとも1つの角部が曲線状である導体素子が、互いに隣接しない態様で複数個、配列され、導体素子間に形成されることを特徴とする請求項2記載の電波吸収体。
【請求項4】
損失層は、吸収する電磁波の周波数において複素比誘電率の実部ε’が10〜50であり、および/または複素比透磁率の実部が1以上20以下であることを特徴とする請求項2記載の電波吸収体。
【請求項5】
損失層は、結合材として有機重合体を用い、磁性損失材として、フェライト、鉄合金、鉄粒子の群、または誘電損失材として、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、金属繊維、カーボンナノチューブの群から選ばれる1または複数の材料を配合したことを特徴とする請求項2記載の電磁波吸収体。
【請求項6】
誘電体層は、吸収する電磁波の周波数において複素比誘電率の実部ε’が1〜10であることを特徴とする請求項2記載の電波吸収体。
【請求項7】
誘電体層は、誘電体材料として、多孔質有機材料、多孔質無機材料、および電波入射方向に沿って貫通した空孔が形成された材料の群から選ばれる1または複数の材料を含むことを特徴とする請求項2記載の電波吸収体。
【請求項8】
総厚みに対する5%圧縮時の圧縮強度が、0.2N/mm以上であり、曲げ弾性率が30N/mm以上であることを特徴とする請求項1または2記載の電波吸収体。
【請求項9】
400〜1000MHz以下の周波数帯域の特定周波数に対し、入射する電磁波の斜入射角度が0°〜10°での反射損失が15dB以上であり、斜入射角度が10°〜45°での反射損失が6dB以上であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載の電波吸収体。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1つに記載の電波吸収体を用いることを特徴とする電波吸収パネル構造体。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか1つに記載の電波吸収体を用いることを特徴とする無線通信改善システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−59972(P2009−59972A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−227200(P2007−227200)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【Fターム(参考)】