説明

電波吸収体

【課題】 高周波に対して均一に高精度に誘電損失を達成することができ、加工性に優れ複雑な形状に容易に成形することができ、軽量であり、環境にも優れ、電子機器の筐体などに好適に使用することができ、電波、特に、2〜80GHzなどの高周波に対し均一に高精度に誘電損失を達成することができ、製造が容易で汎用性が高く工業的製造に適した電波吸収体を提供すること。
【解決手段】 熱可塑性樹脂と炭素成分とを含有する電波吸収体であって、炭素成分の含量が30質量%以上、80質量%以下であり、炭素成分の平均粒子径が15μm以上1mm以下であり、好ましくは、炭素成分が黒鉛であり、吸収電波の波長に対して、0.01〜1倍の厚さを有し、吸収する電波の周波数が2〜80GHzであるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波吸収体に関し、より詳しくは周波数が2〜80GHzなどの電波を吸収する電波吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IT化社会の急速な発展に伴い、電子機器の高速処理化が進み、LSIやマイクロプロセッサーなどICの動作周波数は上昇し、通信分野では光ファイバーを用いた高速通信網が使用され、次世代マルチメディヤ移動通信においては具体的に2GHz、ITS(Intelligent Tranport System)の分野ではETS(自動料金収受システム)における5.8GHz、車間距離を測定して運転者に伝える走行支援道路システム(AHS)の自動車搭載レーダーでは76GHzの電波が使用され、今後更に高周波の利用範囲が拡大することが予想される。電波は周波数の上昇に伴いノイズを放出しやすく、一方において、電子機器の小型化、高密度化による電子機器内部のノイズ環境の悪化による誤動作が生じ、このような高周波の利用状況において人体へ及ぼす悪影響も問題となる。
【0003】
かかる電磁波の防止材としては、電磁波遮断体と電磁波吸収体があり、電磁波遮断体には一般的に金属材料が使用され、例えば、電磁波を嫌う精密機器などが設置された部屋においては、壁などに金属板を用いて部屋への電磁波の進入を防止している。また、電子機器では、形状の自由度や、軽量化の点から、表面を導電処理し、あるいは樹脂に導電材を混入させて成形したプラスチック製筐体が用いられている。
【0004】
また、電磁波の吸収体としては、フェライトを使用したもの、金属板に絶縁体を介して表面に自由空間の波動インピーダンス値である導電損失材からなる抵抗膜を設けたもの、金属板に裏打ちされた誘電損失材料や磁性損失材料を設けたものなどがある。このような電磁波吸収体においては、理論上では、電磁波は電磁波吸収体の表面で一部が反射され、吸収体内に進入した電磁波は金属表面で反射され、この反射電磁波は吸収体の表面、即ち吸収体と自由空間の界面で一部を外部へ放出して再度吸収体内部へ反射される。この反射を反復して内部で多重反射する間に電磁波のエネルギーが熱エネルギーに変換され電磁波はそのエネルギーを失う。一方、電磁波吸収体の表面で反射された電磁波は、内部に進入し金属表面で反射した反射電磁波が吸収体表面からその一部を放出した電磁波と相互干渉を起こし、吸収体表面で反射された電磁波と吸収体内部から放出された電磁波のエネルギー密度の総和は自由空間から見ると0となる。このように電磁波吸収体においては、理論上、電磁波吸収体の内部で電磁波を多重反射をさせると共に反射電磁波の相互干渉により、電磁波のエネルギーを消滅させることができるものである。
【0005】
このような電磁波吸収体において誘電損失材料または磁性損失材料としては、ウレタン樹脂系塗料に、黒鉛粉を混入した電磁波の遮へい塗料(特許文献1)や、静電障害と電磁波障害の少なくとも一方から保護しようとする被塗布物上に導電性の保護被膜を形成可能な組成物であって、導電性微粒子と結着材である樹脂とからなり、導電性微粒子が金属、金属酸化物及び炭素系材料のうちから選ばれる1種以上の材料の微粒子であり、結着材の樹脂が、導電性保護皮膜の形成後、溶媒により溶解除去可能なものである導電性樹脂組成物を用いた静電障害及び電磁波障害からの保護方法(特許文献2)や、カーボンブラック粉などの導電性粉体を内部に含んだ合成繊維を含む繊維シートを層状に配置し、相互に熱融着されて電波吸収層を形成した電波吸収体(特許文献3)や、カーボンブラックなどの導電材と無機質中空体の粉粒体とを無機接着剤で結合した電波吸収成形体と、これに接合されたセピオライトを主成分としたスラリーから抄造した不燃性シートまたは無機コーティング剤層とを備えた電波吸収体(特許文献4)などが報告されている。その他、ゴム弾性を示す物質中に平均粒径が100〜400μmの膨張黒鉛が分散してなる電波吸収体(特許文献5)や、溶剤を含まないバインダーを使用し、且つ、このバインダー中に平均粒径が100〜400μmの膨張黒鉛が分散してなる電波吸収体(特許文献6)などが知られている。
【0006】
これらの電波吸収体においては、繊維状の導電性材料を含有させたものは、樹脂に混合された繊維が折れ曲がったりあるいは切断され、均一な誘電損失が得られないなどの問題がある。また、誘電損失、磁性損失材料として、樹脂に金属や、金属と共にカーボンブラックなどを含有させたものは軽量化、環境に及ぼす影響などの点で改良の余地があり、樹脂にカーボンブラックや、黒鉛などの炭素成分を含有させたものは、充分な誘電損失が得られないという問題がある。樹脂に黒鉛などの炭素成分を含有させた誘電損失材料として、充分な誘電損失が得られるまで炭素成分の含有量を増加させようとすると、製造が困難となる。このため、容易に製造することができ、工業的製造に適し、充分な誘電損失が得られる電波吸収体は得られていない。特に、ETS(自動料金収受システム)においては、反射した電波による誤作動を高精度に抑制することが要請され、特に、高周波に対し均一に高精度に誘電損失を達成することができ、製造が容易な電波吸収体が求められている。
【特許文献1】特開昭62−111499号公報
【特許文献2】特開2001−234075号公報
【特許文献3】特開2004−247720号公報
【特許文献4】特開2000−82892号公報
【特許文献5】特開2004−39798号公報
【特許文献6】特開2004−63578号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、高周波に対して均一に高精度に誘電損失を達成することができ、加工性に優れ複雑な形状に容易に成形することができ、軽量であり、環境にも優れ、電子機器の筐体などに好適に使用することができ、電波、特に、2〜80GHzなどの高周波に対し均一に高精度に誘電損失が達成でき、製造が容易で汎用性が高く工業的製造に適した電波吸収体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
電波吸収体の導電性材料として炭素成分を用いる場合、電波吸収体において充分な誘電損失を得るためには、炭素成分の含有量が30質量%以上必要となる。このような多量の炭素成分を樹脂に混練する工程において、せん断力や樹脂の粘度などの混練条件の相違により得られる混練物中の炭素成分の混合状態が不安定となってしまう。その結果、電波の吸収性能が変化し、安定した誘電損失が得られる電波吸収体を製造することができなかった。本発明者らが鋭意研究の結果、多量の炭素成分を樹脂に混練するときの混練条件の相違に伴い混練物に生じる誘電損失の不安定は、熱可塑性樹脂に対して平均粒子径が15μm以上1mm以下の炭素成分を使用したときに、混練する熱可塑性樹脂と炭素成分が高粘度となることが抑制され、これにより解消されることを見い出した。熱可塑性樹脂に対して平均粒子径が15μm以上1mm以下の炭素成分を使用することにより、せん断力や樹脂の粘度などの混練条件が異なっても、均一の誘電損失が得られる混練物とすることができ、これにより電波吸収体において安定した誘電損失を得ることができることの知見を得て、本発明をするに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、熱可塑性樹脂と炭素成分とを含有する層を少なくとも1層含む電波吸収体であって、前記層が、平均粒子径が15μm以上1mm以下の炭素成分を30質量%以上80質量%以下の範囲で含有することを特徴とする電波吸収体に関し、好ましくは、炭素成分が、X線回折におけるd002が0.336nm以上0.3470nm以下であり、且つa軸方向の結晶サイズが5nm以上である黒鉛であり、開放表面に向かって炭素成分が漸減するものであり、吸収電波の波長に対して、0.01〜1倍の厚さを有し、吸収する電波の周波数が2〜80GHzであり、より好ましくは、5.8GHzである電波吸収体に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電波吸収体は、高周波に対して均一に高精度に誘電損失を達成することができ、加工性に優れ複雑な形状に容易に成形することができ、軽量であり、環境に対しても好ましく、機械的強度も高く、電子機器の筐体などに好適に使用することができ、製造が容易で汎用性が高く工業的製造に適し、特に、2〜80GHzの高周波に対し均一に高精度に誘電損失を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の電波吸収体は、熱可塑性樹脂と炭素成分とを含有する層を少なくとも1層有する電波吸収体であって、前記層が、平均粒子径が15μm以上1mm以下の炭素成分を30質量%以上80質量%以下の範囲で含有するものであれば、特に限定されるものではない。
【0012】
本発明の電波吸収体に用いられる熱可塑性樹脂としては、単量体重合体、共重合体を問わず、一般に知られている殆ど総ての熱可塑性樹脂を挙げることができる。かかる熱可組成樹脂としては、熱変形温度が50℃以上200℃以下であるものが好ましく、より好ましくは60℃以上180℃以下である。熱可塑性樹脂の熱変形温度が200℃以下であれば、炭素を混練するときに高温を必要とせず、装置の加熱能力が過大になることがなく、樹脂の熱分解を抑制することができる。熱可塑性樹脂の熱変形温度が180℃以下であれば上記効果をより顕著に得ることができる。一方、熱可塑性樹脂の熱変形温度が50℃以下であれば電波吸収体に使用可能な硬度を有し、60℃以上であれば、かかる効果をより顕著に得ることができる。ここで、熱変形温度はASTM D648の試験法による測定値を示す。
【0013】
更に、本発明に用いられる熱可塑性樹脂としては、曲げ強さが10MPa以上の強度を有することが好ましく、より好ましくは30MPaである。熱可塑性樹脂が曲げ強さとして10MPa以上の強度を有することにより電波吸収体において機械的強度を得ることができる。熱可塑性樹脂が曲げ強さとして30MPa以上であれば、上記効果をより顕著に得ることができる。ここで曲げ強さはASTM D790の試験法による測定値を示す。
【0014】
かかる熱可塑性樹脂としては、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、アクリル酸共重合樹脂(EAA)、アクリル酸エチル共重合樹脂(EEA)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂(ABS)、アクリロニトリル−スチレン共重合樹脂(AS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアセタール(ポリオキシメチレン)(POM)、ポリテレフタル酸エチレン(PET)、ポリテレフタル酸ブチレン(PBT)、ポリフェニレオキシド(PPO)、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリスルフォン(PSF)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリエーテル−エーテルケトン(PEEK)、ポリアリレート(PAR)、アロマティックポリエステル(POB)、アロマティックポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合樹脂(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ペルフルオロプロピレン共重合樹脂(FEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニリデンクロライド(PVDC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリビニルフォルマール(PVFM)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリ酢酸セルロース(CA)などを例示することができるが、本発明の電波吸収体に適用される熱可塑性樹脂はこれらに限定されるものではなく、また、これらの2種以上を組み合わせたものであってもよい。
【0015】
本発明の電波吸収体に用いられる炭素成分としては、晶質、非晶質を問わず炭素原子が集合したものであれば、微量の他の原子を含有するものであってもよく、例えば、黒鉛、ダイヤモンド状炭素、カーボンナノチューブやカーボンナノホーンなどのフラーレン化合物や、カーボングラックなど非晶質炭素を挙げることができ、このうち、黒鉛または黒鉛をその一部に含むものが好ましい。
【0016】
上記炭素成分としては、コークスから得られたものなどいずれのものであってもよく、その黒鉛化度が100%の黒鉛化コークスの他、黒鉛化度が100%に達しないカルサインドコークスなどであってもよい。このような炭素として、X線結晶構造解析で測定される面間隔(d002)が0.3360nm以上0.3470nm以下、かつa軸方向の結晶サイズ(La110)が5nm以上である炭素が好ましく、より好ましくは、面間隔(d002)が0.3360nm以上0.3450nm以下、かつa軸方向の結晶サイズ(La110)が7nm以上である炭素を挙げることができる。このような炭素を用いることにより、電波吸収体において2〜80GHzの高周波に対し極めて安定した誘電損失を得ることができる。
【0017】
上記炭素成分において、平均粒子径が15μm以上であり、好ましくは30μm以上、より好ましくは50μm以上である。炭素成分の平均粒子径が15μm以上であれば、電波吸収体において安定した吸収性能を得ることができ、30μm以上、更に、50μm以上であれば、この効果をより顕著に得ることができる。一方、炭素成分は平均粒子径が1mm以下であり、好ましくは0.8mm以下、より好ましくは0.5mm以下である。炭素成分の平均粒子径が1mm以下であれば、電波吸収体において機械的強度を得ることができ、0.8mm以下、更に0.5mm以下であればより高い機械的強度を得ることができる。
【0018】
また本発明の電波吸収体において上記炭素成分の含有量が30質量%以上であり、好ましくは40質量%以上である。電波吸収体中の炭素成分の含有量が30質量%以上であれば、電波吸収体において安定した誘電損失を得ることができ、40質量%以上であれば、この効果をより顕著に得ることができる。また、炭素成分の電波吸収体中の含有量は80質量%以下であり、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。電波吸収体中の炭素成分の含有量が80質量%以下であれば、樹脂への混練が困難になることがなく、容易に製造することができ、得られる電波吸収体の機械的強度を得ることができる。炭素成分が70質量%以下、60質量%以下であれば、その効果をより顕著に得ることができる。
【0019】
本発明の電波吸収体における熱可塑性樹脂と炭素成分とを含有する層には上記成分の他、これらの成分の機能を阻害しない範囲において、例えば、ゴム成分を加えることもでき、また、安定剤、滑剤、可塑剤などを含有させることができる。
【0020】
本発明の電波吸収体における熱可塑性樹脂と炭素成分とを含有する層としては、上記熱可塑性樹脂と炭素成分を含有するものであれば特に制限されず、板、シート、フィルムなどのシート状とすることができる。
【0021】
本発明の電波吸収体は、上記層を少なくとも1層有するものであるが、上記熱可塑性樹脂と炭素成分とを含有する層上に、上述の炭素成分の含有量が少ない層を、表面に向かって炭素成分の含有量が漸減するように多層に積層したものであってもよい。本発明の電波吸収体としては炭素成分が表面に向かって漸減することが好ましく、炭素成分の含有量が表面に向かって漸減することにより、電波吸収体において安定した電波吸収が行なわれるようになる。
【0022】
このような本発明の電波吸収体の形体としては、射出成形品、シート、フィルム、異形品、熱成形体などいずれの形体であってもよく、溶融紡糸をして繊維状としたものを樹脂に混合したものであってもよい。また、本発明の電波吸収体を電子機器の筐体に適用することができる。
【0023】
本発明の電波吸収体において、吸収の対象となる電波の周波数は、電波吸収体の材質、即ちその材質が有する複素誘電率、その厚さ、層構造を制御することにより調整することができ、本発明の電波吸収体が適用される吸収対象の電波の周波数としては、2〜80GHzが好ましく、特に、2〜10GHzが好ましい。このような周波数の電波を吸収する本発明の電波吸収体の厚さとしては、吸収の対象となる電波の波長の0.01倍以上に相当すると、電波の吸収性能を維持することができるため好ましい。電波吸収体の厚さとしてより好ましくは対象電波の波長の0.02倍以上、さらに好ましくは0.03倍以上であり、このような厚さであれば、上記効果をより顕著に得ることができる。また、吸収の対象とする電波の波長に対して厚さが、1倍以下であれば軽量で取扱い性がよいものとなる。本発明の電波吸収体の厚さはより好ましくは吸収の対象になる電波の波長に対して0.8倍以下、更に好ましくは0.5倍以下であり、このような厚さを有することにより、上記効果をより顕著に得ることができる。本発明の電波吸収体の厚さとしては、具体的には、0.03mm〜15cmなどを挙げることができる。
【0024】
このような本発明の電波吸収体は、金属に裏打ちされることが好ましい。使用される金属としては、いずれのものであってもよいが、例えば、鉄、ニッケル、アルミニウム、亜鉛、ステンレス鋼などの金属板が好ましい。電波吸収体に使用される金属の厚さは、電波を反射することができれば、いずれの厚さであってもよく、例えば50μm〜1mmなどとすることができる。
【0025】
本発明の電波吸収体の製造方法について説明する。
【0026】
本発明の電波吸収体の製造方法は、平均粒子径が15μm以上1mm以下である炭素成分を熱可塑性樹脂に混練して行なうことができる。混練は、熱可塑製樹脂と炭素成分を所定量配合し、ロール、バンバリーミキサー、単軸押出機、2軸押出機等の一般的な混練機を用いて行なうことができる。混練温度は、混練において樹脂の粘度に規制を受けないため、熱可塑性樹脂の溶融温度以上であればよく、所望時間行なうことができる。樹脂を溶媒に溶解して炭素成分との混合を行なうこともできる。混練を行なうせん断力、即ちせん断量やせん断速度も、その相違によって電波吸収体の誘電損失が不安定になることがないため、適宜選択することができる。このように混練における条件が相違しても得られる混練物において安定した誘電損失を有するものになる。溶媒に溶融して混合することも可能である。
【0027】
本発明の電波吸収体の成形方法としてはいずれの方法も使用することができ、例えば、射出成形、カレンダー成形、ブロー成形、押出成形、熱成形、発泡成形、熔融紡糸などの方法を使用して、射出成形品、シート、フィルム、異形品、熱成形体、繊維などの成形体を得ることができる。
【0028】
以上説明した本発明の電波吸収体は、熱可塑性樹脂と炭素成分を含有する均一な誘電損失を得ることができるものとすることができ、吸収の対象となる電波に応じて、炭素成分の含有や厚さ、層構造を調整することにより、その吸収率を高く調整することができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。
諸物性の測定は下記の方法による。
(1)平均粒子径
マルバーン社製レーザー回折式粒度分布計(マスターサーサイザー)を用いて測定した。測定方法、条件は、マルバーン社の推奨する標準条件で行った。すなわち、ミクロスパーテル1杯の試料を少量の水に界面活性剤を用いて分散して装置に投入し、循環しながら超音波を60秒かけることにより、さらに分散した。その後、超音波照射を止めて、測定を行い、粒度分布を求め、その中央値(d50)を測定値とした。
(2)黒鉛のX線回折
X線回折測定装置を用いて、日本学術振興会 第117委員会制定「人造黒鉛の格子定数および結晶子の大きさ測定法」 に準拠して測定・データ処理を行い、面間隔d002および結晶サイズLa011を求めた。X線回折測定条件としては、以下の通りである。
X線源:CuKα、50KV、200mA
測定範囲:2θ=10〜40deg
走査速度:1deg/min
スリット:DS=1/2deg、SS=1/2deg、RS=0.15mm
サンプルホールダー:直径46mm厚さ3mmの円柱形ガラス板の中央に、直径26mm、深さ0.2mmのくぼみを掘ったもの(くぼみに、サンプルを充填した。)
(3)誘電率
厚さ2〜3mmの試料を用意し、5.8GHzにおいて、方形導波管(47.55mm×22.15mm)を用い、導波管終端が金属の場合の定在波の節と腹の電界強度比および節の位置、および金属板の手前に資料を置いた場合の定在波の節と腹の電界強度比および節の位置から複素誘電率を求めた。測定の詳細は、「材料定数測定法」p45〜65 橋本修著、森北出版(2003)
によった。
(4)電波吸収率
キーコム社製「レンズアンテナ方式斜入射タイプ電波吸収体(電波吸収材料)・反射減衰量測定装置」を用いて、1〜18GHzで測定を行なった。
[実施例1]
石油コークス10kgを大島鉄工製ボールミルBM50を用いて乾式で5時間粉砕した後、1500℃で10時間熱処理することにより、平均粒子径15μmの炭素粒子を得た。X線回折の結果、面間隔d002は0.345nm、a軸方向の結晶サイズは、8nmであった。この炭素1200gを、PET樹脂(帝人化成 TR-8550)800gと栗本鉄工所製 KRC S1ニーダーを用いて、表1に示す条件で混練し、組成物1−1、1−2、1−3を得た。これら組成物を用いて、厚さ2mm、47.55mm×22.15mmの試験片を作製し、導波管法により5.8GHzで測定した複素誘電率をあわせて表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
これらの組成物は、いずれも厚さ2.02mmで5.8GHz付近の電波を吸収すると予測されるため、プレス成型より、40cm×40cmのシートを成型し、厚さ1mmの鉄板を背面に取り付けて電波吸収を測定したところ、図1に示すとおり吸収を確認することができた。
[実施例2]
石油コークス10kgを大島鉄工製ボールミルBM50を用いて乾式で1時間粉砕した後、1900℃で10時間熱処理することにより、平均粒子径15μmの炭素粒子を得た。X線回折の結果、面間隔d002は0.340nm、a軸方向の結晶サイズは、50nmであった。この炭素1000gを、ポリカーボネート樹脂(帝人化成 パンライトL1225Y)1000gと栗本鉄工所製 KRC S1ニーダーを用いて、表2に示す条件で混練し、組成物2−1、2−2、2−3を得た。これら組成物を用いて、厚さ2mm、47.55mm×22.15mmの試験片を作製し、導波管法により5.8GHzで測定した複素誘電率をあわせて表2に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
これらの組成物は、いずれも厚さ2.15mmで5.8GHz付近の電波を吸収すると予測されるため、プレス成型より、40cm×40cmのシートを成型し、厚さ1mmの鉄板を背面に取り付けて電波吸収を測定したところ、図2に示すとおり吸収を確認することができた。
[実施例3]
石油コークス10kgを乳鉢で粗粉砕して篩いにかけ、2800℃で2時間熱処理することにより、平均粒子径1000μmの炭素粒子を得た。X線回折の結果、面間隔d002は0.336nm、a軸方向の結晶サイズは、120nmであった。この炭素800gを、ポリカーボネート樹脂(帝人化成 パンライトL1225Y)1200gと栗本鉄工所製 KRC S1ニーダーを用いて、表3に示す条件で混練し、組成物3−1、3−2、3−3を得た。これら組成物を用いて、厚さ2mm、47.55mm×22.15mmの試験片を作製し、導波管法により5.8GHzで測定した複素誘電率をあわせて表3に示す。
【0034】
【表3】

【0035】
これらの組成物は、いずれも厚さ2.33mmで5.8GHz付近の電波を吸収すると予測されるため、プレス成型より、40cm×40cmのシートを成型し、厚さ1mmの鉄板を背面に取り付けて電波吸収を測定したところ、図3に示すとおり吸収を確認することができた。
[比較例1]
実施例3で使用した炭素を、大島鉄工製ボールミルBM50を用いて乾式で1時間粉砕し、平均粒子径15μmの炭素を得た。この炭素500gを、ポリカーボネート樹脂(帝人化成 パンライトL1225Y)1500gと栗本鉄工所製 KRC S1ニーダーを用いて、表4に示す条件で混練し、組成物4−1、4−2、4−3を得た。これら組成物を用いて、厚さ2mm、47.55mm×22.15mmの試験片を作製し、導波管法により5.8GHzで測定した複素誘電率をあわせて表4に示す。
【0036】
【表4】

【0037】
結果より、いずれの組成物も誘電損失が不十分と推定され、実際厚さ2.8mmの成型体について、電波吸収を測定したが、図4に示す通り不十分であった。
[比較例2]
実施例3で使用した炭素を、大島鉄工製ボールミルBM50を用いて乾式で4時間粉砕し、平均粒子径10μmの炭素を得た。この炭素600gを、ポリカーボネート樹脂(帝人化成 パンライトL1225Y)1700gと栗本鉄工所製 KRC S1ニーダーを用いて、表5に示す条件で混練し、組成物5−1、5−2、5−3を得た。これら組成物を用いて、厚さ2mm、47.55mm×22.15mmの試験片を作製し、導波管法により5.8GHzで測定した複素誘電率をあわせて表5に示す。
【0038】
【表5】

【0039】
その結果、誘電損失が混練条件に大きく左右されることが判明した。厚さ2.2mmの成型体について、電波吸収を測定したが、図5に示す通り混練条件により、吸収が大きく変化してしまうことが分かった。
[比較例3]
石油コークス10kgを1500℃で10時間熱処理したのち、乳鉢で粗粉砕して篩いにかけ、平均粒子径1000μmの炭素粒子を得た。X線回折の結果、面間隔d002は0.345nm、a軸方向の結晶サイズは、8nmであった。この炭素1700gをポリカーボネート樹脂(帝人化成 パンライトL1225Y)300gと栗本鉄工所製 KRC S1ニーダーを用いて、混練して組成物を得ようとしたが、粘度上昇が著しく、組成物を得ることができなかった。
[比較例4]
石油コークス10kgを1200℃で10時間熱処理したのち、大島鉄工製ボールミルBM50を用いて乾式で1時間粉砕し、平均粒子径15μmの炭素を得た。X線回折の結果、面間隔d002は0.350nm、a軸方向の結晶サイズは、5nmであった。この炭素1500gを、ポリカーボネート樹脂(帝人化成 パンライトL1225Y)500gと栗本鉄工所製 KRC S1ニーダーを用いて、表6に示す条件で混練し、組成物6−1、6−2、6−3を得た。これら組成物を用いて、厚さ2mm、47.55mm×22.15mmの試験片を作製し、導波管法により5.8GHzで測定した複素誘電率をあわせて表6に示す。
【0040】
【表6】

【0041】
結果より、いずれの組成物も誘電損失が不十分と推定され、実際厚さ2.0mmの成型体について、電波吸収を測定したが、図6に示す通り不十分であった。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の電波吸収体の一例の電波吸収を示す図である。
【図2】本発明の電波吸収体の一例の電波吸収を示す図である。
【図3】本発明の電波吸収体の一例の電波吸収を示す図である。
【図4】従来例の電波吸収体の電波吸収を示す図である。
【図5】従来例の電波吸収体の電波吸収を示す図である。
【図6】従来例の電波吸収体の電波吸収を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と炭素成分とを含有する層を少なくとも1層有する電波吸収体であって、前記層が、平均粒子径が15μm以上1mm以下の炭素成分を30質量%以上80質量%以下の範囲で含有することを特徴とする電波吸収体。
【請求項2】
炭素成分が、X線回折における面間隔(d002)が0.3360nm以上0.3470nm以下であり、且つa軸方向の結晶サイズ(La110)が5nm以上である黒鉛であることを特徴とする請求項1記載の電波吸収体。
【請求項3】
開放表面に向かって炭素成分が漸減することを特徴とする請求項1または2記載の電波吸収体。
【請求項4】
吸収電波の波長に対して、0.01〜1倍の厚さを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の電波吸収体。
【請求項5】
吸収する電波の周波数が2〜80GHzであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の電波吸収体。
【請求項6】
吸収する電波の周波数が5.8GHzであることを特徴とする請求項5記載の電波吸収体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−173264(P2006−173264A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−361700(P2004−361700)
【出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】