説明

電波回折推定装置、電波回折推定システム、コンピュータプログラム及び電波回折推定方法

【課題】送信機からの電波の回折度合いを推定し、推定結果に応じて車両の位置を精度良く特定することができる電波回折推定装置、電波回折推定システム、コンピュータプログラム及び電波回折推定方法を提供する。
【解決手段】制御部30は、周辺車両300の形状情報、位置情報を取得し、自車両の予測位置を求め、送信機200との仮想直線を特定する。制御部30は、送信機200からの電波を受信して電波測位位置を求める。制御部30は、周辺車両300の形状情報、車間距離、仮想直線などに基づいて周辺車両300による仮想遮蔽面を特定し、仮想遮蔽面と仮想直線などに基づいて電波の回折角度θを算出する。制御部30は、算出した回折角度に応じて重み付け係数を設定し、設定した重み付け係数、予想位置及び電波測位位置に基づいて、自車位置を特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波を受信して位置を測位する技術に関し、特に電波が遮蔽された場合でも電波の回折度合いを推定して位置を高精度に特定することができる電波回折推定装置、該電波回折推定装置を備える電波回折推定システム、該電波回折推定装置を実現するためのコンピュータプログラム及び電波回折推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、交差点内及びその付近での車両同士、あるいは車両と歩行者との交通事故を防止するために、交差点に設置された信号機の灯色の表示情報を交差点に向かって走行してくる車両に対して送信し、車両に搭載された車載機で表示情報を受信し、受信した表示情報に基づいて交差点の手前で安全に停止することができるか否か、あるいは、交差点を安全に通過することができるか否かを判定し、判定結果に応じて運転者に音声で注意を促すシステムがある。また、車載機で受信した信号機の表示情報に基づいて、交差点を安全に通過することができるか否かを判定し、判定結果に応じて車両のブレーキ制御を行う信号機連動式車両速度制御装置が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第2806801号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
交差点手前で安全に車両を停止させる場合、交差点付近に設けられた停止線の手前で確実に車両を停止させる必要があり、車両から停止線までの距離を正確に把握しておく必要がある。しかしながら、特許文献1の装置にあっては、車両を減速させる制御が自動的に行われても車両から停止線までの距離が正確に判らないため、車両を停止線の手前で確実に停止させることは困難であり、オーバーランといった不具合を生じる恐れがある。このため、従来の技術では、車両を停止線の手前で確実に停止させて交差点における交通事故を未然に防止するには不十分な面があった。
【0004】
一方、送信機から所定の電波を送信し、その電波を受信して自車両の位置を測位する技術もある。しかし、一般的な道路交通状況では、自車両の周辺を多くの車両が併走しており、例えば、自車両の近くに大型車両が併走するような場合には、その大型車両により送信機からの電波が遮蔽されてしまう。このため、自車両で直接波を受信できず、回折波又は反射波などを受信することとなり、車両の位置を精度良く測位することができず、誤った自車位置情報を正しい位置情報と認識したまま持ち続けてしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、送信機からの電波の回折度合いを推定し、推定結果に応じて車両の位置を精度良く特定することができる電波回折推定装置、該電波回折推定装置を備える電波回折推定システム、該電波回折推定装置を実現するためのコンピュータプログラム及び電波回折推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明に係る電波回折推定装置は、送信機から送信された電波の回折度合いを推定する電波回折推定装置であって、前記送信機の位置情報を取得する送信機情報取得手段と、自身の位置を計測する計測手段と、自身の周辺に存在する周辺物体の形状情報及び位置情報を取得する周辺物体情報取得手段と、前記送信機の位置情報、自身の計測位置並びに前記周辺物体の形状情報及び位置情報に基づいて、前記周辺物体による電波の回折度合いを推定する回折推定手段とを備えることを特徴とする。
【0007】
第2発明に係る電波回折推定装置は、第1発明において、前記送信機の位置と計測した自身の位置とを結ぶ仮想直線を特定する直線特定手段と、前記周辺物体により電波を遮蔽する仮想遮蔽面を特定する遮蔽面特定手段とを備え、前記回折推定手段は、前記仮想直線及び仮想遮蔽面に基づいて電波の回折度合いを推定するように構成してあることを特徴とする。
【0008】
第3発明に係る電波回折推定装置は、第1発明又は第2発明において、前記回折推定手段で推定した電波の回折度合いに基づいて自身の位置を特定する位置特定手段を備えることを特徴とする。
【0009】
第4発明に係る電波回折推定装置は、第3発明において、前記送信機から送信された電波を受信する受信部と、道路形状に関する道路形状情報を取得する道路情報取得手段とを備え、前記計測手段は、前記受信部で受信した電波及び前記道路形状情報に基づいて自身の位置を計測する第1計測手段と、該第1計測手段と異なる計測機能を有し、自身の位置を計測する第2計測手段とを備え、前記位置特定手段は、前記回折推定手段で推定した電波の回折度合いに応じて、前記第1計測手段及び第2計測手段それぞれで計測した位置に重み付けして自身の位置を特定するように構成してあることを特徴とする。
【0010】
第5発明に係る電波回折推定装置は、第4発明において、前記回折推定手段で推定した電波の回折度合いに基づいて、前記第1計測手段で計測する自車の位置の信頼度を判定する信頼度判定手段を備えることを特徴とする。
【0011】
第6発明に係る電波回折推定装置は、第4発明又は第5発明において、前記仮想直線と仮想遮蔽面との交点に基づいて、電波の該仮想遮蔽面外周上の回折点を算出する回折点算出手段と、前記送信機と計測前の自身の位置との距離を算出する第1距離算出手段とを備え、前記第1計測手段は、前記送信機と回折点との距離及び該回折点と計測後の自身の位置との距離の合算距離が、前記第1距離算出手段で算出した距離に等しくなるように自身の位置を計測するように構成してあることを特徴とする。
【0012】
第7発明に係る電波回折推定装置は、第4発明乃至第6発明のいずれか1つにおいて、前記仮想直線と仮想遮蔽面との交点の該仮想遮蔽面上の位置に基づいて前記周辺物体による電波の回折角度を算出する回折角度算出手段を備え、前記回折推定手段は、前記回折角度算出手段で算出した回折角度に応じて回折度合いを推定するように構成してあることを特徴とする。
【0013】
第8発明に係る電波回折推定装置は、第4発明乃至第7発明のいずれか1つにおいて、前記周辺物体までの距離情報を取得する距離情報取得手段を備え、前記第2計測手段は、前記周辺物体の位置情報及び前記距離情報取得手段で取得した距離情報に基づいて、自身の位置を計測するように構成してあることを特徴とする。
【0014】
第9発明に係る電波回折推定システムは、第1発明乃至第8発明のいずれか1つに係る電波回折推定装置と、電波を該電波回折推定装置へ送信する送信機とを備えることを特徴とする。
【0015】
第10発明に係るコンピュータプログラムは、コンピュータに、送信機から送信された電波の回折度合いを推定させるためのコンピュータプログラムであって、コンピュータを、送信機の位置と自身の位置とを結ぶ仮想直線を特定する直線特定手段と、自身の周辺に存在する周辺物体の形状情報及び位置情報に基づいて、該周辺物体により電波を遮蔽する仮想遮蔽面を特定する遮蔽面特定手段と、前記仮想直線及び仮想遮蔽面に基づいて、前記周辺物体による電波の回折度合いを推定する回折推定手段として機能させることを特徴とする。
【0016】
第11発明に係る電波回折推定方法は、送信機から送信された電波の回折度合いを推定する電波回折推定方法であって、前記送信機の位置情報を取得し、自身の位置を計測し、自身の周辺に存在する周辺物体の形状情報及び位置情報を取得し、前記送信機の位置情報、自身の計測位置並びに前記周辺物体の形状情報及び位置情報に基づいて、前記周辺物体による電波の回折度合いを推定することを特徴とする。
【0017】
第1発明、第10発明及び第11発明にあっては、電波回折推定装置は、送信機の位置情報(例えば、送信機の送信アンテナの絶対位置又は相対位置)、自身(例えば、自車両)の周辺に存在する周辺物体(例えば、周辺車両)の形状情報(例えば、周辺車両の長さ、幅、高さなどの三次元情報)及び位置情報(例えば、周辺車両の絶対位置又は相対位置、周辺車両との車間距離など)を取得するとともに、自身(自車両)の位置を計測する。送信機の位置情報は、送信機が送信する電波に含めてもよく、光ビーコン等路側装置などから取得することもできる。また、周辺車両の情報は、車車間通信により取得することができ、車間距離は、自車両に搭載した車載センサなどにより計測することができる。また、自車両の位置は、例えば、カーナビゲーションシステムからの出力される自車位置の情報、光ビーコン等の路側装置との通信地点の情報、あるいはGPS衛星信号を受信して測位される位置情報などにより計測することができる。また、自車両の位置は、周辺車両の位置とその周辺車両との車間距離により計測することもできる。なお、計測した自車両の位置は、あくまで自車両の概略の位置を示すものであり、高精度に自車両の位置を特定する前段階のものである。
【0018】
電波回折推定装置は、送信機の位置情報、自車両の計測位置並びに周辺車両の形状情報及び位置情報に基づいて、その周辺車両による電波の回折度合いを推定する。例えば、送信機の位置と自車両の計測位置とに基づいて、自車両から見た送信機の位置(方向)を求めることができる。自車両から見た送信機の位置が、周辺車両の形状(高さ、長さ、幅など)により遮蔽される遮蔽面上にあるか否かにより、電波の回折の有無を判定することができる。例えば、送信機、遮蔽物、受信機の位置により電波の回折角度を求め、求めた回折角度により、電波の回折度合いを判定することができる。これにより、自車両で送信機からの電波を受信し、自車両の位置を測位する場合に、測位した位置の精度が高いのか、あるいは大きな誤差が含まれているのかを推定することができ、誤った自車位置情報を正しい位置情報と認識したまま持ち続けてしまうことを防止することができる。
【0019】
第2発明にあっては、電波回折推定装置は、送信機の位置と自車両の計測位置とを結ぶ仮想直線を特定し、周辺車両により電波を遮蔽する仮想遮蔽面を特定する。例えば、仮想遮蔽面は、周辺車両の長さ、高さ、幅等で表わされる形状を仮想直線の方向(自車両から送信機を見た方向)に平面化することにより求めることができる。電波回折推定装置は、仮想直線及び仮想遮蔽面に基づいて電波の回折度合いを推定する。例えば、仮想直線と仮想遮蔽面との交点がある場合、電波の回折があると推定でき、交点がない場合、電波の回折がないと推定できる。例えば、送信機、遮蔽物、受信機の位置により電波の回折角度を求め、求めた回折角度により、電波の回折度合いを判定することができる。これにより、自車両で送信機からの電波を受信し、自車両の位置を測位する場合に、測位した位置の精度が高いのか、あるいは大きな誤差が含まれているのかを推定することができ、誤った自車位置情報を正しい位置情報と認識したまま持ち続けてしまうことを防止することができる。
【0020】
第3発明にあっては、電波回折推定装置は、推定した電波の回折度合いに基づいて自身の位置を特定する。例えば、電波の回折がない場合、電波を受信した位置(電波測位位置)を自車両の位置とすることができる。この場合、自車両の位置は、例えば、送信機の位置を中心とし、電波の到達時間に対応する距離を半径とする球面上にある。これと自車両が走行している道路の道路形状情報などを組み合わせることにより、自車位置を特定することができる。また、電波の回折がある場合には、回折度合いに応じて、電波測位位置を補正することにより自車位置を特定することができる。この場合、送信機と電波測位位置との直線距離と、回折波の伝播距離とが等しくなるように自車位置を決定することができる。これにより、電波の回折が生じた場合でも、自車位置を精度良く特定することができる。
【0021】
第4発明にあっては、第1計測手段は、受信部で受信した電波及び道路形状情報に基づいて自身の位置(電波測位位置)を計測する。例えば、第1計測手段で計測する電波測位位置は、送信機の位置を中心とし、受信部で受信した電波の到達時間に対応する距離を半径とする球面と、道路の道路形状情報とを組み合わせることにより、求めることができる。第2計測手段は、電波を受信して位置を測位するものではなく、例えば、カーナビゲーションシステムからの出力される自車位置の情報、光ビーコン等の路側装置との通信地点の情報、あるいはGPS衛星信号を受信して測位される位置情報などにより計測することができる。第2計測手段で計測される位置は、あくまで概略的なものであって自車両の予測位置である。電波回折推定装置は、電波の回折度合いに応じて、第1計測手段及び第2計測手段それぞれで計測した位置に重み付けして自車両の位置を特定する。例えば、電波の回折度合いが小さい場合又は回折なしの場合、予測位置を用いずに(予測位置に対する重み付けを0にする)電波測位位置を自車位置として特定する。また、電波回折度合いが大きくなるにつれて、電波測位位置の重み付けを小さくし、予測位置の重み付けを大きくして自車位置を特定する。さらに電波回折度合いが大きくなった場合には、電波測位位置を用いずに(電波測位位置に対する重み付けを0にする)予測位置を自車位置として特定する。これにより、電波の回折度合いに応じて、自車位置を精度良く特定することができる。
【0022】
第5発明にあっては、電波回折推定装置は、推定した電波の回折度合いに基づいて、前記第1計測手段で計測する電波測位自車の信頼度を判定する。例えば、回折度合いが大きいほど、電波測位の信頼度を小さく(低く)することができる。これにより、信頼度に応じて、電波測位位置に対する重み付け値を決定することができ、電波の回折度合いに応じて、自車位置を精度良く特定することができる。
【0023】
第6発明にあっては、電波回折推定装置は、仮想直線と仮想遮蔽面との交点に基づいて、電波の仮想遮蔽面外周上の回折点を算出する。電波回折推定装置は、送信機と回折点との距離及び回折点と計測後の自身の位置との距離の合算距離が、送信機と計測前の自身の位置との距離に等しくなるように自身の位置を計測する。これにより、電波の伝播経路による誤差を考慮して電波測位位置を補正する。なお、補正位置となる候補が複数存在する場合には、例えば、道路情報(形状、高さ、車線位置など)を用いて、候補の中から1つの補正位置を決定することができる。これにより、電波測位に含まれる電波の伝播経路の誤差を除外することができ、自車位置を精度良く特定することができる。
【0024】
第7発明にあっては、電波回折推定装置は、仮想直線と仮想遮蔽面との交点の該仮想遮蔽面上の位置に基づいて電波の回折角度を算出し、算出した回折角度に応じて回折度合いを推定する。例えば、交点からの距離が最短の仮想遮蔽面の周辺上の周辺点を求め、送信機と周辺点とを結ぶ直線と、周辺点と受信部とを結ぶ直線とのなす角度を回折角度として求めることができる。これにより、周辺車両の形状、送信機と受信部との間における周辺車両の位置関係などにかかわらず、電波の回折度合いを精度良く推定することができる。
【0025】
第8発明にあっては、第2計測手段は、周辺車両の位置情報及び距離情報(例えば、自車両との車間距離)に基づいて、自車の位置を計測する。この場合、周辺車両の位置情報は、車車間通信により周辺車両から取得し、車間距離は自車両に搭載した車載カメラ、超音波センサなどの車載センサにより取得することができる。これにより、自車両の予測位置を周辺車両の走行に追従して取得することができる。
【0026】
第9発明にあっては、送信機は、電波を電波回折推定装置へ送信する。これにより、電波回折推定装置は、電波を受信して自車両の位置を特定することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明にあっては、自車両で送信機からの電波を受信して自車両の位置を測位する場合に、測位した位置の精度が高いのか、あるいは大きな誤差が含まれているのかを推定することができ、誤った自車位置情報を正しい位置情報と認識したまま持ち続けてしまうことを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明を実施の形態を示す図面に基づいて説明する。図1は本発明に係る電波回折推定システムの概要を示す模式図である。本発明に係る電波回折推定システムは、所定の位置に設置され所定の信号(電波)を送信する送信機200、自車両に搭載された電波回折推定装置としての車載機100などを備えている。自車両が停止線に向かって走行する場合、車載機100は、送信機200から送信された電波を受信し、受信した電波の到達時間に基づいて自車位置を特定する。特に、自車両の周辺(例えば、図1に例示するように自車両の前方、あるいは、側方若しくは後方でもよい)に、送信機200からの直接波を遮るような遮蔽物体が存在する場合であっても、車載機100は、電波を受信する都度自車位置を精度良く特定することができる。なお、自車位置の特定方法の詳細は後述する。
【0029】
図2は本発明に係る電波回折推定システムの構成を示すブロック図である。送信機200は、制御部210、送信部220などを備えている。送信部220は、例えば、VHF/UHF帯の周波数帯域の電波を車載機100に対して送信する。送信部220は、基準クロック信号を生成する水晶発振器、搬送波生成回路、変調回路等(不図示)を備え、基準クロック信号に基づいて所定の信号(例えば、周波数が10kHz程度の矩形波信号)を生成する。
【0030】
送信部220は、制御部210の制御のもと、生成した信号に基づいて搬送波(例えば、周波数が100MHz程度、200MHz程度、あるいは700MHz程度など)を周波数変調し、アンテナ(不図示)を通じて変調後の搬送波を送信する。なお、送信機200が使用する周波数帯域は、一例であって、VHF/UHF帯に限定されるものではなく、他の周波数帯域でもよい。例えば、自動車専用として割り当てられている5.8GHz帯を使用してもよく、また、携帯電話、PHS等で使用する周波数帯域を使用することも可能である。
【0031】
送信機200は、所定の信号を繰り返し車載機100へ送信する。送信機200が信号を送信するタイミングは任意に設定することができる。また、送信機200が、予め定められた仕様に基づいて、信号を送信できない時間帯がある場合には、送信可能な時間帯において、所定のタイミングで信号を繰り返し車載機100へ送信する。
【0032】
周辺車両300は、送信機200から車載機100へ送信された電波のうち直接波を遮蔽する遮蔽物体となるものである。周辺車両300は、制御部310、車車間通信部320、車両情報記憶部330、車両位置計測部340などを備えている。
【0033】
車両位置計側部340は、GPS受信機、カーナビゲーションシステムなどを備え、車両の位置を計測し、車両の位置情報として車両情報記憶部330に記憶する。車両位置計測部340は、光ビーコン等の路側装置との通信位置とその通信位置からの走行履歴に応じて車両の位置を計測する構成であってもよい。
【0034】
車車間通信部320は、車載機100との間で車車間通信を行う機能を備え、車両情報記憶部330に記憶した車両情報を車載機100へ送信する。車両情報は、例えば、周辺車両の形状情報(例えば、車両の高さ、長さ、幅など)、車両の位置情報(例えば、絶対位置若しくは相対位置又は停止線からの距離など)である。
【0035】
車載機100は、位置計測部10、記憶部20、制御部30、電波回折推定部40、位置特定部50、表示部60、操作部70などを備えている。位置計測部10は、電波受信部11、路車間通信部12、車車間通信部13、センサ部14、GPS受信部15、ナビゲーション部16などを備える。また、電波回折推定部40は、仮想直線特定部41、仮想遮蔽面特定部42、回折角度算出部43などを備える。
【0036】
電波受信部11は、送信機200が送信した信号を受信する。より具体的には、電波受信部11は、復調回路を備え、送信機200が送信した電波を受信し、受信した電波を復調して元の信号を抽出する。電波受信部11は、抽出した信号に基づいて、信号の受信時点を算出し、算出した受信時点を制御部30へ出力する。なお、所定の時間内に、複数回にわたって受信時点を算出した上で、これらの平均値又は中央値等を用いることもできる。このような方法によれば、ノイズ等による影響を低減し、安定した受信時点を得ることができる。なお、信号の受信時点の算出は、信号波形の立ち上がり部分のみならず、立ち下り部分で算出することもできる。
【0037】
図3は送信機200が送信する信号に含まれるデータ構造の例を示す説明図である。図3に示すように送信機200が送信する信号は、例えば、送信機200からの電波に基づいて自車位置を特定するための測位用信号(自車位置特定用信号)とデータ領域とで構成され、データ領域には、信号が有効であることを示す有効フラグ、信号の送信時点を特定する送信時点情報(例えば、送信機200で計時される時刻形式情報、あるいは所定の時間間隔で計数されるカウンタのカウンタ値等)、送信機の位置情報などの情報を含む。なお、測位用信号とデータとの送信時点は同時でもよく、異なる時点であってもよい。また、送信機の位置情報は、送信機200から取得する構成に代えて、光ビーコンなどの路側装置から取得するようにしてもよい。
【0038】
図4は信号の受信時点を求める例を示す説明図である。図4(a)の上段は送信機200から受信した信号の例を模式的に示し、下段は車載機100が予め記憶している相関処理(パターンマッチング)を行うためのレプリカ信号である。図4(a)に示すように、車載機100で受信した信号及びレプリカ信号を所定の時間間隔でサンプリングし、波形とレプリカ信号の波形が一致する場合、図4(b)に示すように両信号の相関値が鋭いピークを示す。図4(b)に示すように、電波受信部11は、相関値の鋭いピークが取れた時点で、信号の受信時点を求める。受信時点を求める方法は、時間軸の相関処理に限定されず、周波数領域での相関処理を行うこともできる。なお、図4(b)に示す相関は、直達波による相関だけでなく、回折波による相関も含んでいる。ここで、回折波とは、例えば、直進する電波が遮蔽物体により遮蔽され、回折して電波受信部11で受信される電波であり、送信機200と電波受信部11との間の電波の伝播経路が非直進性を有する場合を示す。
【0039】
図5は電波測位の一例を示す説明図である。車載機100を搭載した車両が道路を走行している場合、制御部30は、GPS受信部15、ナビゲーション部16などから出力される情報により、時々刻々自車両の大まかな存在領域を把握する。なお、把握した存在領域は、電波測位位置を特定する際に、後述するように送信機200の位置を中心とする球面と自車両の仮想的な走行面との交線が2つ存在する場合、いずれの交線を電波測位位置として選定するかを決定するのに用いることができる。道路上のある地点P1において、送信機200からの信号(測位用信号)を受信した場合、制御部30は、信号の受信時点と送信時点との差により、その信号が送信機200から車載機100へ到達するまでの到達時間を算出する。この場合、信号の送信時点は、その信号に含まれる送信時点情報から取得することができる。
【0040】
制御部30は、信号の到達時間に光速を積算することにより、送信機200からの距離L1を算出する。すなわち、地点P1の位置は、送信機200の位置を中心とする半径L1の球面Q1上であることがわかる。
【0041】
一方、制御部30は、送信機200から信号を受信して送信機200からの位置を求める場合、自車両が走行する道路の道路形状情報と車載機100の高さ情報により、自車両の仮想的な走行面を特定する。なお、道路が直線道路である場合には、仮想的な走行面は平面であり、道路がカーブしている場合には、仮想的な走行面は曲面となる。
【0042】
制御部30は、電波測位位置を球面Q1と走行面と交わる交線として求める。なお、図1の例で示すように、送信機200が停止線(交差点)近くに設置され、かつ道路形状情報がリンク毎に与えられた場合、球面Q1の中心点はリンクの端部にあるため、球面Q1と走行面とは、通常1つの交線で交わる。これにより、1台の送信機200からの信号を受信するだけで、電波測位により自車両の位置を求めることができる。なお、図5では、地点P1を×印で示しているが、より正確には、走行面と球面Q1とが交わる交線であるため、走行面の道路幅方向の長さに略等しい長さ分の幅がある。しかし、実際には、車両は車線又は道路のほぼ真ん中を走行すると考えられるので、走行面の幅方向の略中央の位置を自車の位置として特定して差し支えない。
【0043】
車両がさらに走行を続け、道路上の地点P2で送信機200から信号を受信したとすると、地点P1の場合と同様に、制御部30は、信号の到達時間に光速を積算することにより、送信機200からの距離L2を算出する。すなわち、地点P2の位置は、送信機200の位置を中心とする半径L2の球面Q2上であることがわかる。
【0044】
一方、制御部30は、送信機200から信号を受信して送信機200からの位置を求める場合、自車両が走行する道路の道路形状情報と車載機100の高さ情報により、自車両の仮想的な走行面を特定する。
【0045】
制御部30は、電波測位位置を球面Q2と走行面と交わる交線として求める。以降、同様の動作を繰り返すことにより、制御部30は、送信機200から信号を受信する都度、電波測位位置を精度良く求めることができる。
【0046】
図6は送信機を用いた場合の電波測位の概念を示す説明図である。図6に示すように、電波測位位置は、送信機200から車載機100までの信号の到達時間に光速(又は電波の伝播速度)を積算した距離を半径とする球面Q上に存在する。次に球面Q上のどこに自車両の位置が存在するかを求める。
【0047】
車載機100は、自車が走行している道路の道路形状情報と車載機100の高さ情報とにより自車の仮想的な走行面Sを特定する。
【0048】
図7は道路形状情報の構造を示す説明図である。図7に示すように、道路形状情報は、道路を複数のノードにより所定の距離(例えば、20m)の区間に分割し、区間毎の距離、勾配、曲率などの情報により構成されている。道路が直線の場合、道路に沿って1つの直線上にノードが設定され、道路がカーブの場合、道路に沿って複数の直線上にノード(例えば、2つのノード)が設定される。これにより、カーブにより道路が傾斜している場合でも、2つの直線で決定される平面を特定することができる。
【0049】
制御部30は、球面Qと仮想的な走行面Sとが交わる交線を電波測位位置とすることができる。道路形状情報で特定される走行面Sは、帯状であって、その幅は道路幅又はそれ以下であり、交線を特定することにより電波測位位置を精度良く求めることが可能である。なお、走行面Sの形状は、帯状に限定されるものではない。
【0050】
なお、図6に示すように、球面Qと走行面Sとが交わる交線が2つ特定された場合には、以下のようにして電波測位位置を特定することができる。すなわち、球面Qと走行面Sの交線が2カ所生じるが、このうちいずれかは、前回の測位結果とその後の走行履歴、GPS受信機での測位結果など、高い精度を持たない情報であっても十分判定可能である。
【0051】
制御部30は、GPS受信部15で受信した信号により得られる自車位置の情報、ナビゲーション部16などから出力された自車位置の情報、あるいは、光ビーコンなどの路側装置との通信地点の情報により、自車の存在領域を絞り込むことができる。例えば、GPS衛星信号を受信して得られた自車位置(測位地点)と、この測位地点を中心とする所定の位置誤差内の領域(例えば、測位地点を中心とする半径10mの領域)を自車の存在領域として絞り込む。絞り込んだ存在領域内にある交線を電波測位位置として求めることができる。
【0052】
また、別の方法として、制御部30は、直近に特定した自車位置と、その地点からの走行履歴に基づいて、自車の存在領域を絞り込むことができる。例えば、直近に特定した自車位置から100m走行した場合、100m走行後の走行予想地点を中心とする走行に伴う位置誤差内の領域(例えば、走行予想地点を中心とする半径10mの領域)を自車の存在領域として絞り込む。絞り込んだ存在領域内にある交線を電波測位位置として求めることができる。なお、走行に伴う位置誤差は、車輪速などの自律センサの信頼度に応じて変更することができる。
【0053】
路車間通信部12は、光ビーコン、電波ビーコン、DSRCなどの路側装置との通信機能を有する。例えば、光ビーコンとの通信により、通信地点の位置情報、送信機200の位置情報、停止線の位置情報、道路形状に関する道路形状情報などを受信することができる。なお、路車間通信部12は、狭域通信機能のみならず、中域通信機能、広域通信機能を備えるものでもよい。
【0054】
車車間通信部13は、周辺車両300との通信機能を備え、周辺車両300から車両情報を受信する。これにより、周辺車両300で測位した位置と周辺車両300との車間距離に基づいて自車両の予測位置を求める場合、自車両の予測位置を周辺車両300の走行に追従して求めることができる。
【0055】
センサ部14は、車輪速センサ、ジャイロセンサ、加速度センサ等の車載センサを備え、走行履歴を記録して自車両の位置を随時求めることができる自律センサとして機能する。また、センサ部14は、車載カメラ、超音波センサなどを備えることもできる。これにより、周辺車両300との車間距離を計測することができる。
【0056】
GPS受信部15は、DGPS(ディファレンシャルGPS)又はRTK−GPS(Real-Time KinematicGPS)などのGPS受信機能を備え、複数のGPSを含むGNSS(Global Navigation Satellite System)衛星からの電波を随時繰り返し受信し、自車位置を測位する。なお、GPS受信部15の精度、受信電波の状況などに応じての自車の存在領域は変動する可能性がある。
【0057】
ナビゲーション部16は、地図データベース等を内蔵し、GPS受信部15からの情報、センサ部14からの情報に基づいて、自車の走行履歴(例えば、時刻とともに記録された走行距離、走行方位、走行速度、加減速度など)を記憶している。
【0058】
記憶部20は、電波受信部11、路車間通信部12、車車間通信部13などを通じて受信した情報を記憶する。また、記憶部20は、予め車載機100(例えば、電波受信部11の受信アンテナ)の搭載位置の高さ情報を記憶してある。
【0059】
仮想直線特定部41は、路車間通信部12、車車間通信部13、センサ部14、GPS受信部15、ナビゲーション部16などにより計測した自車両の位置(予測位置)と送信機200の位置とを結ぶ仮想的な直線を特定する。
【0060】
仮想遮蔽面特定部42は、周辺車両300の長さ、高さ、幅等で表わされる形状を、仮想直線特定部41で特定した仮想直線の方向(自車両から送信機200を見た方向)に平面化することにより、仮想遮蔽面を特定する。仮想遮蔽面は、自車両から見た送信機200の位置が、周辺車両300の形状(高さ、長さ、幅など)により遮蔽される面である。
【0061】
回折角度算出部43は、仮想直線特定部41で特定した仮想直線と仮想遮蔽面特定部42で特定した仮想遮蔽面との交点の仮想遮蔽面上の位置に基づいて電波の回折角度を算出する。回折角度は、例えば、仮想遮蔽面上の交点からの距離が最短の仮想遮蔽面の周辺上の周辺点を求め、送信機200と周辺点とを結ぶ直線と、周辺点と自車の位置(予測位置)とを結ぶ直線とのなす角度を回折角度として求めることができる。これにより、周辺車両300の形状、送信機200と車載機100との間における周辺車両300の位置関係などにかかわらず、すなわち、仮想遮蔽面の形状にかかわらず、電波が回折する点を特定することができ、電波の回折度合い(電波の伝播経路の非直進性の度合い)を精度良く推定することができる。
【0062】
図8は送信機200からの電波が遮蔽される例を示す説明図である。図8に示すように、車載機100の位置が地点P1にある場合、送信機200からの電波は、周辺車両300により遮蔽されることなく、車載機100は、送信機200からの直達波を受信することができる。一方、車載機100の位置が地点P2にある場合、送信機200からの電波は、周辺車両300により遮蔽され、車載機100は、送信機200からの直達波を受信することができず、回折波を受信することになる。
【0063】
図9は送信機200からの電波の回折角度の算出例を示す説明図である。送信機200の位置を(X0、Y0、Z0)とし、車載機100の予想位置を(X1、Y1、Z1)とする。ここで予想位置は、光ビーコン、車載センサ、周辺車両300との車車間通信などにより計測した自車の位置であり、送信機200からの電波により計測した電波受信位置を除外するものである。
【0064】
仮想直線Lは、車載機100の予想位置と送信機200の位置とを結ぶ直線として特定することができる。
【0065】
仮想遮蔽面Rは、周辺車両300の三次元形状を、仮想直線Lの方向(車載機100から送信機200を見た方向)に平面化することにより特定することができる。例えば、車載機100を搭載した自車両が周辺車両300の後方を走行している場合において、送信機200の位置が道路方向前方にあるようなときは、周辺車両300の幅、高さ、周辺車両300との車間距離などで画定される略矩形状の面を仮想遮蔽面Rとすることができる。仮想遮蔽面Rの四隅の位置をA(Xa、Ya、Za)、B(Xb、Yb、Zb)、C(Xc、Yc、Zc)、D(Xd、Yd、Xd)とすると、ADの長さ及びBCの長さは周辺車両300の幅にほぼ相当し、ABの長さ及びCDの長さは周辺車両300の路面からの高さにほぼ相当する。
【0066】
位置A〜Dで決定される仮想遮蔽面Rと仮想直線Lとの仮想交点E(Xe、Ye、Ze)とし、仮想交点Eからの距離が最短の仮想遮蔽面Rの周辺上の周辺点F(Xf、Yf、Zf)を求め、送信機200と周辺点Fとを結ぶ直線と、周辺点Fと車載機100とを結ぶ直線とのなす角度を回折角度θとして求めることができる。
【0067】
なお、仮想遮蔽面Rは、周辺車両300の後ろ側の面に限定されるものではなく、周辺車両300が自車両の隣接車線を走行している場合において、送信機200の位置が周辺車両300を挟んで自車両の横方向にあるときは、仮想遮蔽面Rは、周辺車両300の長さ及び高さにより画定される。また、周辺車両300が自車両の斜め前方を走行している場合において、送信機200の位置が周辺車両300を挟んで自車両の斜め前方方向にあるときは、仮想遮蔽面Rは、周辺車両300の長さ、幅及び高さにより画定される。この場合、仮想遮蔽面Rの形状は矩形状に限定されず、例えば、線分ADが途中で山状に屈折して略五角形状になる。
【0068】
電波回折推定部40は、回折角度算出部43で算出した回折角度に応じて電波の回折度合いを推定し、推定結果を制御部30へ出力する。
【0069】
位置特定部50は、電波受信部11で計測した電波測位位置と、路車間通信部12、車車間通信部13、センサ部14、GPS受信部15、ナビゲーション部16などにより計測した予測位置とに対して、電波回折推定部40で推定した回折度合いに基づいて、重み付けを行い、自車の位置を特定する。
【0070】
より具体的には、位置特定部50は、送信機200と電波受信部11で計測した補正前の電波測位位置との直線距離R1を算出する。次に、位置特定部50は、送信機200と周辺点F(電波の回折点)との距離と、周辺点Fと補正後の電波測位位置との距離との合算距離R2を算出する。位置特定部50は、算出した距離R1とR2が等しくなるように電波測位位置を補正する。これにより、電波測位に含まれる電波の伝播経路の誤差を除外することができる。
【0071】
すなわち、電波遮蔽がある場合には、電波測位位置を補正し、電波遮蔽がない場合には、電波測位位置を補正せずにそのまま使用する。位置特定部50は、電波の回折度合いに基づいて、電波測位位置(補正した場合も含む)と予測位置との重み付けを行って自車位置を特定(決定)する。これにより、自車位置を精度良く特定することができる。
【0072】
この場合、補正位置となる候補が複数存在するときには、道路情報(形状、高さ、車線位置など)を用いて、候補の中から1つの補正位置を決定することができる。また、道路上の補正位置であって、予測位置に最も近い位置を補正位置として決定してもよい。以下、電波の回折度合いに応じた自車位置の特定方法について説明する。
【0073】
図10は回折角度と経路誤差との関係の一例を示す説明図である。図10において、横軸は回折角度を示し、縦軸は経路誤差を示す。経路誤差は、例えば、車載機100と送信機200との直線距離と、周辺車両300により回折した回折波の伝播距離との差とすることができる。図10に示すように、回折角度が大きくなるにつれて経路誤差は大きくなり、電波を遮蔽する周辺車両300との車間距離が0になるときに経路誤差が最も大きくなる。また、周辺車両300との車間距離が短くなるにつれて経路誤差は大きくなる。
【0074】
経路誤差が大きくなるにつれて、送信機200からの電波を受信し、受信した電波の伝播時間に相当する距離により位置を計測する際の計測誤差が大きくなり、電波測位位置、すなわち自車位置の精度が低下する。以下、送信機200からの電波が周辺車両300などにより遮蔽される場合の自車位置の特定方法の例について説明する。
【0075】
図11は電波の回折がない場合の自車位置の特定の一例を示す説明図である。図11において、送信機200からの電波により測位した電波測位位置をP3(X3、Y3、Z3)とする。一方、電波測位以外の方法で自車位置を計測した予測位置をP4(X4、Y4、Z4)とする。
【0076】
図11に示すように、電波の回折がない場合には、予測位置P4は、周辺車両300により遮蔽されず、周辺車両300の陰の外にあり、電波測位位置P3では、遮蔽されることなく送信機200からの電波を受信することができ、電波測位位置P3を補正することなく自車位置と特定する。
【0077】
図12は電波の回折角度がある場合の自車位置の特定の一例を示す説明図である。図12において、送信機200からの電波により測位した電波測位位置をP5(X5、Y5、Z5)とする。一方、電波測位以外の方法で自車位置を計測した予測位置をP7(X7、Y7、Z7)とする。
【0078】
送信機200と周辺車両300の周辺点Fとを結ぶ直線と、周辺点Fと車載機100とを結ぶ直線とのなす角である回折角度θが0でない場合には、電波回折による経路誤差が生じるため、送信機200と電波測位位置P5との直線距離r5と、回折波の伝播距離(r61+r62)とが等しくなるように電波測位位置P5を回折分だけ補正し、補正された電波測位位置P6(X6、Y6、Z6)を決定する。回折角度θの大きさに応じて、予測位置P7と補正された電波測位位置P6との重み付けにより自車位置を特定する。これにより、高精度に自車位置を特定することができる。
【0079】
図13は電波の回折角度がさらに大きい場合の自車位置の特定の一例を示す説明図である。図13において、送信機200からの電波により測位した電波測位位置をP8(X8、Y8、Z8)とする。一方、電波測位以外の方法で自車位置を計測した予測位置をP9(X9、Y9、Z9)とする。
【0080】
送信機200と周辺車両300の周辺点Fとを結ぶ直線と、周辺点Fと車載機100とを結ぶ直線とのなす角である回折角度θが大きい場合には、回折による電波減衰などの影響で測位誤差が大きくなると考えられるので、予測位置P9を自車位置と特定する。
【0081】
この場合、電波回折推定部40は、回折角度算出部43で算出された回折角度に基づいて、電波測位位置の信頼度を判定するように構成することができる。これにより、図13の例で示すように、電波測位位置の信頼度が小さい(低い)場合には、電波測位位置を使用せず予測位置を用いて自車位置を求めることができる。また、信頼度が小さい場合、電波測位位置に対する重み付けを小さくすることもできる。これにより、信頼度に応じて、電波測位位置に対する重み付け値を決定することができ、電波の回折度合いに応じて、自車位置を精度良く特定することができる。
【0082】
電波測位位置の補正により、どの程度の経路誤差を除外できるかを数値例で説明する。(X、Y、Z)の三次元空間において、送信機200の位置を(0、0、6)(単位はmとする)とする。すなわち、送信機200のアンテナ部分の高さが6mの位置にあるとする。電波の遮蔽面が送信機200から60mの地点にあり、その高さを3.8mとする。自車両の予測位置が遮蔽面から3m離れており、受信機の高さを1.5mとする。すなわち、予測位置を(63、0、1.5)とする。この場合、電波測位距離は65m、補正前の電波測位位置は、(64.84、0、1.5)となり、補正した電波測位位置は、(64.39、0、1.5)となる。すなわち、補正により、約0.4mの経路誤差を除外することができる。
【0083】
以上のように、電波の回折角度に応じて、電波測位位置及び予測位置それぞれに対して所要の重み付けを行って、自車位置を特定することができる。
【0084】
図14は重み付けの一例を示す説明図である。図14において、横軸は回折角度を示し、縦軸は重み付け計数を示す。電波測位位置の重み付け係数をα、予測位置の重み付け係数をβとし、α+β=1の関係とする。特定した自車位置は、α×電波測位位置(補正された電波測位位置を含む)+β×予測位置で求めることができる。なお、α、βの曲線は一例であって、これに限定されるものではない。
【0085】
図14に示すように、回折角度が0の場合、α=1、β=0とし、電波測位位置を自車位置とする。また、回折角度が大きくなるにつれて、電波測位位置の重み付けを小さくする。さらに回折角度が大きくなった場合には、α=0、β=1とし、予測位置を自車位置とする。これにより、電波の回折度合いに応じて、自車位置を精度良く特定することができる。
【0086】
図15は重み付けの他の例を示す説明図である。この場合、所要の角度閾値を予め設定しておき、回折角度が角度閾値より大きい場合には、予測位置を特定した位置(最終的な自車位置)とし、回折角度が角度閾値より小さい場合には、電波測位位置を特定した位置とすることもできる。なお、角度閾値は、電波の受信状況などに応じて適宜設定してもよい。
【0087】
表示部60は、ヘッドアップディスプレイ、カーナビゲーションシステム又は監視モニタなどの液晶表示パネルであり、運転者に対して、各種交通情報を表示することができる。例えば、交差点又は停止線までの距離、交差点を安全に走行できない場合の警告等を表示する。
【0088】
操作部70は、各種操作パネルを備え、運転者と車載機100とのユーザインタフェースとして機能する。例えば、操作部70は、運転者の操作により車載機100の動作の開始又は停止の操作を受け付ける。
【0089】
次に車載機100の動作について説明する。図16は車載機100の処理手順を示すフローチャートである。制御部30は、周辺車両300の形状情報、位置情報を取得し(S11)、送信機200から信号を受信したか否かを判定し(S12)、信号を受信していない場合(S12でNO)、ステップS11の処理を続ける。
【0090】
送信機200から信号を受信した場合(S12でYES)、制御部30は、自車両の予測位置を算出し(S13)、受信した信号に基づいて自車両の電波測位位置を算出する(S14)。制御部30は、送信機の位置及び自車両の予測位置に基づいて、送信機200との仮想直線を特定する(S15)。
【0091】
制御部30は、周辺車両300の形状情報、周辺車両300との車間距離、上述の仮想直線などに基づいて周辺車両300による仮想遮蔽面を特定し(S16)、仮想遮蔽面と仮想直線との仮想交点、仮想遮蔽面の周辺点などに基づいて電波の回折角度θを算出する(S17)。
【0092】
制御部30は、算出した回折角度に基づいて、電波の遮蔽の有無を判定し(S18)、遮蔽がある場合(S18でYES)、電波測位位置を補正する(S19)。電波の遮蔽がない場合(S18でNO)、制御部30は、ステップS19の処理を行わずに、後述のステップS20の処置を行う。
【0093】
制御部30は、算出した回折角度に応じて重み付け係数を設定し(S20)、設定した重み付け係数、予想位置及び電波測位位置(補正された電波測位位置を含む)に基づいて、自車位置を特定する(S21)。制御部30は、処理の終了指示の有無を判定し(S22)、終了指示がない場合(S22でNO)、ステップS11以降の処理を繰り返し、終了指示がある場合(S22でYES)、処理を終了する。
【0094】
以上説明したように、本発明にあっては、自車両で送信機からの電波を受信し、自車両の位置を測位する場合に、測位した位置の精度が高いのか、あるいは大きな誤差が含まれているのかを推定することができ、誤った自車位置情報を正しい位置情報と認識したまま持ち続けてしまうことを防止することができる。また、周辺車両により電波が遮蔽され、直達波を受信することができず回折波を受信するような場合でも電波の回折度合いに応じて電波測位位置を補正して高精度に自車両の位置を特定することができる。
【0095】
上述の実施の形態では、周辺車両の形状情報を車車間通信により周辺車両から取得する構成であったが、これに限定されるものではない。例えば、予め周辺車両の車種(例えば、バス、トラックなど)に対応させて形状情報を記憶するようにしておき、自車両に搭載した車載センサにより周辺車両の車種を判別し、判別した車種に応じた形状情報を用いることもできる。
【0096】
上述の実施の形態では、1台の送信機からの電波に基づいて自車両の位置を特定する際に、周辺車両などの存在により電波が遮蔽される場合の回折度合いの推定及び自車位置の補正について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、複数台の送信機を用いて自車両の位置を特定する場合に、いずれか1つ又は複数の送信機からの電波が遮蔽されるようなときにも本発明を適用することができる。このような場合に、仮に補正する位置が複数存在するようなときには、予測位置に最も近い補正位置を自車両の位置として特定することができる。
【0097】
上述の実施の形態では、電波を遮蔽する周辺物体として周辺車両の例を用いて説明したが、周辺物体は、車両などの移動物体に限定されるものではなく、例えば、送信機と自車両が走行する道路との間に存在するビル、屋外施設等の建物により電波が遮蔽される場合にも、本発明を適用することができる。この場合には、建物の高さ、幅、長さ、位置などの情報を、例えば、建物付近に設置した路側装置から取得するように構成すればよい。
【0098】
上述の発明により、送信機から送信される電波が周辺車両(例えば、大型車)により遮蔽されるような状態であっても、走行中の自車の位置を精度良く特定することができるため、本発明を用いることにより、例えば、車載機で前方の信号機の表示情報を受信し、受信した表示情報に基づいて交差点の手前で安全に停止することができるか否か、あるいは、交差点を安全に通過することができるか否かを高精度に判定し、判定結果に応じて運転者に音声で注意を促すことができる。また、車載機で受信した信号機の表示情報に基づいて、交差点を安全に通過することができるか否かを高精度に判定し、判定結果に応じて車両のブレーキ制御を行うこともでき、交通事故を未然に防止して交通の安全性を高めることができる。
【0099】
上述の実施の形態において、電波の回折度合い、回折角度、電波の伝播経路を算出する場合に、幾何光学回折理論(GTD:Geometrical Theory of Diffraction)、あるいは、一様回折理論(UTD:Uniform Theory of Diffraction)などを用いることもできる。
【0100】
開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明に係る電波回折推定システムの概要を示す模式図である。
【図2】本発明に係る電波回折推定システムの構成を示すブロック図である。
【図3】送信機が送信する信号に含まれるデータ構造の例を示す説明図である。
【図4】信号の受信時点を求める例を示す説明図である。
【図5】電波測位の一例を示す説明図である。
【図6】送信機を用いた場合の電波測位の概念を示す説明図である。
【図7】道路形状情報の構造を示す説明図である。
【図8】送信機からの電波が遮蔽される例を示す説明図である。
【図9】送信機からの電波の回折角度の算出例を示す説明図である。
【図10】回折角度と経路誤差との関係の一例を示す説明図である。
【図11】電波の回折がない場合の自車位置の特定の一例を示す説明図である。
【図12】電波の回折角度がある場合の自車位置の特定の一例を示す説明図である。
【図13】電波の回折角度がさらに大きい場合の自車位置の特定の一例を示す説明図である。
【図14】重み付けの一例を示す説明図である。
【図15】重み付けの他の例を示す説明図である。
【図16】車載機の処理手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0102】
100 車載機
10 位置計測部
11 電波受信部
12 路車間通信部
13 車車間通信部
14 センサ部
15 GPS受信部
16 ナビゲーション部
20 記憶部
30 制御部
40 電波回折推定部
41 仮想直線特定部
42 仮想遮蔽面特定部
43 回折角度算出部
50 位置特定部
60 表示部
70 操作部
200 送信機
210 制御部
220 送信部
300 周辺車両
310 制御部
320 車車間通信部
330 車両情報記憶部
340 車両位置計測部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信機から送信された電波の回折度合いを推定する電波回折推定装置であって、
前記送信機の位置情報を取得する送信機情報取得手段と、
自身の位置を計測する計測手段と、
自身の周辺に存在する周辺物体の形状情報及び位置情報を取得する周辺物体情報取得手段と、
前記送信機の位置情報、自身の計測位置並びに前記周辺物体の形状情報及び位置情報に基づいて、前記周辺物体による電波の回折度合いを推定する回折推定手段と
を備えることを特徴とする電波回折推定装置。
【請求項2】
前記送信機の位置と計測した自身の位置とを結ぶ仮想直線を特定する直線特定手段と、
前記周辺物体により電波を遮蔽する仮想遮蔽面を特定する遮蔽面特定手段と
を備え、
前記回折推定手段は、
前記仮想直線及び仮想遮蔽面に基づいて電波の回折度合いを推定するように構成してあることを特徴とする請求項1に記載の電波回折推定装置。
【請求項3】
前記回折推定手段で推定した電波の回折度合いに基づいて自身の位置を特定する位置特定手段を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電波回折推定装置。
【請求項4】
前記送信機から送信された電波を受信する受信部と、
道路形状に関する道路形状情報を取得する道路情報取得手段と
を備え、
前記計測手段は、
前記受信部で受信した電波及び前記道路形状情報に基づいて自身の位置を計測する第1計測手段と、
該第1計測手段と異なる計測機能を有し、自身の位置を計測する第2計測手段と
を備え、
前記位置特定手段は、
前記回折推定手段で推定した電波の回折度合いに応じて、前記第1計測手段及び第2計測手段それぞれで計測した位置に重み付けして自身の位置を特定するように構成してあることを特徴とする請求項3に記載の電波回折推定装置。
【請求項5】
前記回折推定手段で推定した電波の回折度合いに基づいて、前記第1計測手段で計測する自車の位置の信頼度を判定する信頼度判定手段を備えることを特徴とする請求項4に記載の電波回折推定装置。
【請求項6】
前記仮想直線と仮想遮蔽面との交点に基づいて、電波の該仮想遮蔽面外周上の回折点を算出する回折点算出手段と、
前記送信機と計測前の自身の位置との距離を算出する第1距離算出手段と
を備え、
前記第1計測手段は、
前記送信機と回折点との距離及び該回折点と計測後の自身の位置との距離の合算距離が、前記第1距離算出手段で算出した距離に等しくなるように自身の位置を計測するように構成してあることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の電波回折推定装置。
【請求項7】
前記仮想直線と仮想遮蔽面との交点の該仮想遮蔽面上の位置に基づいて前記周辺物体による電波の回折角度を算出する回折角度算出手段を備え、
前記回折推定手段は、
前記回折角度算出手段で算出した回折角度に応じて回折度合いを推定するように構成してあることを特徴とする請求項4乃至請求項6のいずれか1つに記載の電波回折推定装置。
【請求項8】
前記周辺物体までの距離情報を取得する距離情報取得手段を備え、
前記第2計測手段は、
前記周辺物体の位置情報及び前記距離情報取得手段で取得した距離情報に基づいて、自身の位置を計測するように構成してあることを特徴とする請求項4乃至請求項7のいずれか1つに記載の電波回折推定装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか1つに記載の電波回折推定装置と、電波を該電波回折推定装置へ送信する送信機とを備えることを特徴とする電波回折推定システム。
【請求項10】
コンピュータに、送信機から送信された電波の回折度合いを推定させるためのコンピュータプログラムであって、
コンピュータを、送信機の位置と自身の位置とを結ぶ仮想直線を特定する直線特定手段と、
自身の周辺に存在する周辺物体の形状情報及び位置情報に基づいて、該周辺物体により電波を遮蔽する仮想遮蔽面を特定する遮蔽面特定手段と、
前記仮想直線及び仮想遮蔽面に基づいて、前記周辺物体による電波の回折度合いを推定する回折推定手段と
して機能させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項11】
送信機から送信された電波の回折度合いを推定する電波回折推定方法であって、
前記送信機の位置情報を取得し、
自身の位置を計測し、
自身の周辺に存在する周辺物体の形状情報及び位置情報を取得し、
前記送信機の位置情報、自身の計測位置並びに前記周辺物体の形状情報及び位置情報に基づいて、前記周辺物体による電波の回折度合いを推定することを特徴とする電波回折推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−145186(P2009−145186A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−322466(P2007−322466)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】