説明

電流制御型駆動回路

【課題】BJT型SiC半導体デバイスを駆動させるベース電流制御型駆動回路において、スイッチング速度を高め、エネルギー損失の少ない電流制御型駆動回路を提供する。
【解決手段】SiC−BJT200を20kHz以上の周波数でスイッチング動作させるにあたり、SiC−BJTの起動時にベース電流を供給するための第1駆動電圧21を印加させる第1制御回路20と、SiC−BJTを駆動し続けるために必要なベース電流を保持するための第2駆動電圧31を印加させる第2制御回路30と、SiC−BJTの停止時にベース電流を取り除くための第3駆動電圧41を印加させる第3制御回路40とを備える電流制御型駆動回路100であって、第3駆動電圧は前記第1駆動電圧に対して逆極性であり、第1駆動電圧の値は第2駆動電圧の値より大きく設定されるとともに、第1駆動電圧の印加時間は1μ秒以内に設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランジスタの電流制御型駆動回路、特にバイポーラ型半導体トランジスタのベース電流制御型駆動回路に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスのスイッチング回路は、その半導体デバイスの構造によって電圧制御型のスイッチング回路又は電流制御型のスイッチング回路に大別される。たとえば、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor )型半導体デバイスやIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)型半導体デバイスは、絶縁型ゲートを有するために構造的に電圧制御(電圧駆動)型のスイッチング回路となり、バイポーラ型半導体トランジスタ(Bipolar Junction Transistor 以下BJTと表記する)デバイスは、電流制御(電流駆動)型のスイッチング回路となる。
【0003】
Siを母体材料とする大電力用半導体デバイスは、電圧制御型デバイスであるMOSFETやIGBTが現在のところ代表的である。MOSFETやIGBTは、絶縁された制御端子(ゲート電極)を有しており、このゲート電極とソース電極(IGBTではエミッタ電極に相当する)間に数V以上の電圧を印加することで、ON(スイッチ)させることができる。ゲート電極は絶縁されており、そこに連続して電流は流れない。このため、ON(スイッチ)させ続けるためのゲート電力は、見かけ上ゼロとなる。厳密には、ターンオンとターンオフの瞬間だけは、絶縁電極がコンデンサであることから、充放電電流が一瞬だけ流れ、ゲート電力を完全にゼロにすることはできない。
【0004】
これに対し、電流制御型デバイスであるBJTは、制御端子(ベース電極)とエミッタ電極間をON(スイッチ)させ続けるためには、電流を流し続ける必要がある。このため、電圧制御型デバイスと比較すると、余分に電力を消費する。この欠点を少しでも緩和するため、駆動回路の電源電圧を必要最小限に止めると、電流の立ち上がり(ターンオン)・立下り(ターンオフ)時間が遅くなってしまいスイッチング機能を低下させることになる。したがって、電流制御型デバイスの場合には、損失の抑制とともに、より速いスイッチング機能が求められていた。
【0005】
トランジスタの電流制御型駆動回路として、たとえば特許文献1には、トランジスタインバータのベース駆動回路が開示されている。従来のトランジスタインバータでは、ベース電流供給回路がインバータ起動時のベース電流及び定常運転時のベース電流を供給しているため、運転状態にかかわらず定格値のベース電流を供給する必要があった。このため、ベース駆動回路が大型化し、ベース電源の容量も大きくなり、効率が悪くなるという課題に対し、この開示技術では、ベース電源供給回路を2組とし、インバータ起動時のベース電流は出力値の高い方のベース電流供給回路を選択し、インバータ定常運転時は出力値の低い回路を選択するようにした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−224872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の開示技術は、Siトランジスタインバータのスイッチング回路を提示したものであり、これをSiC半導体デバイスのスイッチング回路に直接適用することはできない。また、この開示技術を、具体的に実際のBJT型半導体デバイスに適用する場合、BJT型のSi半導体デバイスでは、エミッタ電極で0.6V程度の比較的低電圧でスイッチング機能を発現できる。これに対し、BJT型のSiC半導体デバイスに対しては、ベース・エミッタ電極間のpn接合がその固有物性値から約3.0Vの電圧が必要となる。このため、BJT型のSiC半導体デバイスにスイッチング機能を発現させるためには、より高い電源電圧が必要とされる。
【0008】
また、電源電圧を高くすると、ベース・エミッタ電極間の電圧3Vと電源電圧との差電圧が最終的に大きくなるため、「差電圧」×「電流値」から発生するジュール熱によって損失が大きくなってしまう。また、所望の電流値を設定するために、ドライバ出力−ベース間に抵抗を配置する必要があった。一方、電源電圧を大きくすることによってスイッチング動作は速くなるが、電流駆動回路におけるエネルギー(電力)損失が大きくなってしまうため、差電圧を低くすることも課題となっていた。
【0009】
現在までのところ、大電力用半導体デバイスには、電圧制御型デバイスであるMOSFETやIGBTが専ら使用されており、BJTへの適用例は希少である。しかしながら、近年、SiC半導体デバイスにおいて、その高耐圧・耐環境特性の面から電流制御型半導体デバイスであるSiC−BJTの開発が活発化されつつある(例えば、特開2006−351621号公報、及び、K.Nonaka et al.,“ A New High Current Gain 4H-SiC Bipolar Junction Transistor with Suppressed Surface Recombination Structure ; SSR-BJT ”2008 European Conference on Silicon Carbide and Related Materials (ECSCRM 2008) Th2-1, 2008. Sep. 11.を参照)。
【0010】
前記したように、電流制御型半導体デバイスは、駆動回路の電源電圧を低くすると、電流のターンオン・オフが遅くなり、スイッチング機能が低下するという課題が発生する。また、電源電圧を高くすると、駆動回路の電力損失が大きくなってしまうという課題も発生する。特に、高い電源電圧を有し電流駆動するBJT型SiC半導体デバイスに適用するとなると、高速でスイッチングさせ、その応答・追従性を高めることは困難になるばかりでなく、相当量の発熱が生じることになってしまうことが予測される。
【0011】
本発明は、前記の開発動向及び課題を鑑み創案されたものであり、BJT型半導体デバイス、特に、BJT型SiC半導体デバイスを駆動させるためのベース電流制御型駆動回路において、スイッチング速度を高めるとともに、エネルギー損失の少ない電流制御型駆動回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る電流制御型駆動回路は、バイポーラ型半導体トランジスタ(BJT)を20kHz以上の周波数でスイッチング動作させるにあたり、前記バイポーラ型半導体トランジスタの起動時にベース電流を供給するための第1駆動電圧を印加させる第1制御回路と、前記バイポーラ型半導体トランジスタを駆動し続けるために必要なベース電流を保持するための第2駆動電圧を印加させる第2制御回路と、前記バイポーラ型半導体トランジスタの停止時にベース電流を取り除くための第3駆動電圧を印加させる第3制御回路と、を備える電流制御型駆動回路であって、前記第3駆動電圧は前記第1駆動電圧に対して逆極性であり、前記第1駆動電圧の値は前記第2駆動電圧の値より大きく設定されるとともに、前記第1駆動電圧の印加時間は1μ秒以内に設定されることを特徴とする。
【0013】
このような構成にすることで、20kHz以上の周波数においてバイポーラ型半導体トランジスタを高速スイッチング動作させる場合、ベース電流の制御駆動回路として起動時と停止時にそれぞれターンオン及びターンオフさせるための第1制御回路と第3制御回路によって、第1駆動電圧と第3駆動電圧とを印加させ、さらに、第1駆動電圧印加時間を1μ秒以内とすることで、起動時間を速くすることができるとともに、起動するための電力を小さく留めることができる。そして、ベース電流の制御駆動回路として定常駆動時には第2制御回路によって、第1駆動電圧より低い第2駆動電圧を印加させることで、定常駆動時の消費電力を削減することができる。
【0014】
そして、本発明の請求項2に係る電流制御型駆動回路は、請求項1の電流制御型駆動回路において、前記第2駆動電圧の値は、前記バイポーラ型半導体トランジスタのpn接合における順バイアスの電位障壁によって発生する固有電圧の値より大きく設定することが好適である。
【0015】
請求項1の電流制御型駆動回路において、第2駆動電圧を、動作させるバイポーラ型半導体トランジスタの構成材料のpn接合特性に対応した順方向バイアスの電位障壁による固有電圧値より大きく設定することで、たとえば、BJT型SiC半導体デバイスを駆動させるためのベース電流制御型駆動回路における第2駆動電圧を設定する場合、その固有電圧値である約3.0V以上の電圧値に設定することが好適である。
【0016】
また、本発明の請求項3に係る電流制御型駆動回路は、請求項1又は請求項2の電流制御型駆動回路において、前記バイポーラ型半導体トランジスタは、半導体SiCを主な構成材料とすることが好適である。
【0017】
このようにすることで、請求項1又は請求項2の電流制御型駆動回路において、駆動させるバイポーラ型半導体トランジスタの主構成材料を半導体SiCとする高耐圧・耐環境特性を有するBJT型SiC半導体デバイスとした電流制御型駆動回路を具現することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る電流制御型駆動回路によれば、BJT型半導体デバイス、特に、BJT型SiC半導体デバイスを駆動させるためのベース電流制御型駆動回路において、スイッチング速度を高めるとともに、エネルギー損失の少ない電流制御型駆動回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態の電流制御型駆動回路の構成及び機能を説明するための機能ブロック図である。
【図2】本発明の実施例に係る電流制御型駆動回路及びSiC−BJTの電源回路を説明するための測定環境を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施例に係る電流制御型駆動回路の回路図である。
【図4】本発明の実施例に係る測定環境において測定されたSiC−BJTのターンオン時間及びターンオフ時間の測定結果である。
【図5】比較例としての従来の単一駆動電圧型の電流制御型駆動回路及びSiC−BJTの電源回路を説明するための測定環境を示すブロック図である。
【図6】比較例としての従来の単一駆動電圧型の電流制御型駆動回路に係る測定環境において測定されたSiC−BJTのターンオン時間及びターンオフ時間の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の電流制御型駆動回路の実施形態について図1を参照して説明し、図2乃至図4を参照して本発明の電流制御型駆動回路の実施例を説明する。なお、比較例として図5及び図6を参照して従来の1駆動電圧型の電流制御型駆動回路について説明する。なお、各図において同様の機能及び動作を行う部位については、同様の符号を付して、場合によっては説明を省略することがある。
【0021】
(実施形態)
本発明の実施形態の電流制御型駆動回路100の構成及び動作について、図1を参照して説明する。
【0022】
電流制御型駆動回路100の構成は、外部入力からの入力信号を受信するインタフェースi/f10、そのインタフェースi/f10に並列に接続された、第1制御回路20、第2制御回路30、及び、第3制御回路40を備えて構成される。そして、各制御回路には、それぞれ、第1駆動電圧(+15V)21、第2駆動電圧(+5.5V)31、及び、第3駆動電圧(−15V)41が設定されている。電流制御型駆動回路100の出力側には、電流制御型駆動回路100の制御電流により、ベース電流が制御されるSiCバイポーラ型半導体トランジスタ(以後SiC−BJTと表記する)200のベース端子Bが接続されている。
【0023】
そして、第1制御回路20は、SiC−BJT200の起動時にベース電流を供給するための第1駆動電圧(+15V)21を印加時間1μ秒以内に印加させるBoost回路である。第2制御回路30は、SiC−BJT200を駆動し続けるために必要なベース電流を保持するための第2駆動電圧(+5.5V)31を印加させるHold保持回路である。そして、第3制御回路40は、SiC−BJT200の停止時にベース電流を取り除くための第3駆動電圧(−15V)41を印加させるSink引き抜き回路である。第1制御回路20及び第2制御回路30は同時に作動させ、最初に第1制御回路20が作用し、引き続いて1μ秒以内に第2の制御回路30が作用する。
【0024】
そして、電流制御型駆動回路100の動作は、インタフェースi/f10からの信号により、第1制御回路20及び第2制御回路30の制御を同時に始めているが、起動時−定常動作時−停止時の順に、それぞれ、第1制御回路(Boost回路)20−第2制御回路(Hold保持回路)30−第3制御回路(Sink引き抜き回路)40が連続動作することで、SiC−BJT200のベースBのベース電流が制御される。
【0025】
電流制御型駆動回路100の第1制御回路20の動作は、SiC−BJT200の起動時(ターンオン時)に高速で立ち上げるためのベース電流を供給する(図1に実線矢印で表記)ための第1駆動電圧(Boost電圧)21を印加する。したがって、後記する第2駆動電圧(Hold保持電圧)31よりも高い電圧値とする。高速で立ち上げるためには、単純にこの第1駆動電圧(Boost電圧)21をできるだけ大きく設定すればよいが、駆動回路の大型化、駆動回路の制御効果、及び、経済性を考慮する必要がある。本実施形態では、+12V〜+15V程度に設定することが好適である。
【0026】
また、この第1制御回路20の動作として、第1駆動電圧(Boost電圧)21の印加時間は、SiC−BJT200を高速で立ち上げるための時間であり、たとえば、1μ秒以下に設定されることが好適であり、具体的には、100n秒〜200n秒程度に設定することが好適である。
【0027】
そして、電流制御型駆動回路100の第2制御回路30の動作は、SiC−BJT200の定常動作時に必要なベース電流を供給する(図1に実線矢印で表記)ための第2駆動電圧(Hold保持電圧)31を印加する。ここでは、第2駆動電圧(Hold保持電圧)31をSiC−BJT200のベース・エミッタ間の順方向電圧(VBE=2.9V〜3.0V)以上の電圧値として+5.5Vに設定したが、回路動作上余裕があれば+5.5V以下に設定してもよい。
【0028】
さらに、電流制御型駆動回路100の第3制御回路40の動作は、SiC−BJT200の停止時(ターンオフ時)に高速で立ち下げるためのベース電流を引き抜く(図1に点線矢印で表記)ための第3駆動電圧(Sink引き抜き電圧)41を印加する。この第3駆動電圧41は、第1駆動電圧21の逆極性の電圧値を印加する。本実施形態では、第1駆動電圧21の設定条件と同様に、経済性を考慮して、−12V乃至−15Vに設定することが好適である。この逆極性の第3駆動電圧値は、必ずしも第1駆動電圧値の絶対値と同等に設定する必要はなく、定常動作時に印加された第2駆動電圧31を負電圧まで引き抜ければよい。SiC−BJT200の特性により第3制御回路40に電流が流れるが、逆方向バイアスであるためスイッチング動作が終了すれば、余分な電流は流れず、回路上の損失は発生しない。
【0029】
また、この第3制御回路40の動作として、誤って起動してしまうことを防止する副次的な効果もある。
【実施例】
【0030】
つぎに、図2乃至図4を参照して、本発明の実施例について説明する。図2は、本実施例の電流制御型駆動回路及びSiC−BJTの電源回路を説明するための測定環境を示すブロック図である。図3は、本実施例の電流制御型駆動回路の回路図である。そして、図4は、本実施例の測定環境(図2)及び本実施例の電流制御型駆動回路(図3)により測定されたSiC−BJT200のターンオン時間及びターンオフ時間の測定結果である。
【0031】
はじめに、図2を参照して、本実施例の測定環境について説明する。測定環境は、入力信号を発生するパルス信号源と、その入力信号を受信してSiC−BJT200のベースBにベース制御電流を供給する本発明の電流制御型駆動回路100と、この電流制御型駆動回路100からのベース制御電流により駆動されるSiC−BJT200及びその電源回路から構成される。
【0032】
電流制御型駆動回路100は、入力回路i/f10と、第1駆動電圧(Boost電圧)21を印加するBoost回路(第1制御回路)20と、第2駆動電圧(Hold保持電圧)31を印加するHold保持回路(第2制御回路)30と、第3駆動電圧(Sink引き抜き電圧)41を印加することで、SiC−BJT200のベース電流を引き抜くための、Sink引き抜き回路(第3制御回路)40とを備えて構成される。なお、Hold保持回路(第2制御回路)30による保持時間のSiC−BJT200のベース電流(I)は、約2.5Aと設定した。その他の条件、機能及び動作については、実施形態の説明で記載したのでここでは説明を省略する。
【0033】
つぎに、SiC−BJT200及びその電源回路について説明する。SiC−BJT200は、I50A級SiC−BJTを使用した。そして、電源回路の構成は、SiC−BJT200のコレクタC側には、インダクタL(100μH)と電流逆流阻止用のショトキーバリアダイオードSiC−SBDとが並列に接続され、平滑コンデンサCを介してSiC−BJT200のエミッタEとコレクタC間に、最大で約650Vの直流電圧を供給する直流電源を備えて構成される。そして、SiC−BJT200のターンオン時間及びターンオフ時間の測定を行うために、SiC−BJT200のエミッタE側に、リング状の高速電流センサ(Pearson#2878)に対してリング内にエミッタ電流が貫通して接続されており、その検出出力の変化が汎用のオシロスコープ(たとえば、日本テクトロニクスTDS754D等)により観測される。観測結果から、SiC−BJT200のターンオン時間及びターンオフ時間を測定した。
【0034】
そして、図3には、本実施例の電流制御型駆動回路100の回路図を示した。構成される具体的な回路部品の仕様を記載した。電流制御型駆動回路100は、図2を参照して説明した入力回路i/f10と、Boost回路(第1制御回路)20と、Hold保持回路(第2制御回路)30と、Sink引き抜き回路(第3制御回路)40とを備えて構成される。
【0035】
電流制御型駆動回路100の全体構成としては、図面左側から、パルス入力信号が入力されるInput+及びInput−と、i/fで示される入力回路i/f10と、図面上部のBoost用MOSFETQ2(2SK2231)を中心として構成されるBoost回路20と、図面中央部の保持用MOSFETQ1(2SK2231)を中心として構成されるHold保持回路30と、引き抜き経路を中心として構成されるSink引き抜き回路40と、出力端子であるOutput及びGND端子とを備えて構成される。以下、その構成要件を踏まえて説明する。なお、構成される部品のうち、抵抗R1乃至R5の抵抗値は数値のみを記載し抵抗の単位Ωは省略してある。
【0036】
(入力回路i/f10)
入力パルス信号がInput+とInput−間に入力され、この入力回路i/f10は、3つの電源電圧、すなわち、Boost回路20のBoost電圧(+15V)、Hold保持回路30のHold保持電圧(+5.5V)、及び、Sink引き抜き回路40のSink引き抜き電圧(−15V)の電源電圧印加制御を行う。また、パワーエレクトロニクス回路の基本形態としてフォトカプラ絶縁の形態を備えている。
【0037】
(Boost回路20)
Boost回路20は、図3の上部において、Boost電圧印加部、バイパスコンデンサC2、接地GND2、Boost用MOSFETQ2、逆流阻止用ダイオードD2、キャパシタC4、抵抗R4、及び、ダイオードD3を備えて構成される。
【0038】
Boost回路20の動作は、図3の上部において、入力回路i/f10からのBoost電圧(+15V)が印加され、一方の経路として、瞬時的な電圧変動を補償するバイパスコンデンサC2(100μF)を経由してGND2に接地される。他方は、Boost用MOSFETQ2(2SK2231)のドレイン端子に入力され、ソース端子から逆流阻止用ダイオードD2(2GWJ42)を経由して、出力端子Outputに出力される。また、Boost用MOSFETQ2(2SK2231)のゲート端子には、CR微分回路が設けられている。このCR微分回路は、キャパシタC4(3300pF)、抵抗R4(1k)そしてダイオードD3(1S2076A)から構成され、前記実施形態の説明において記載した、第1駆動電圧(Boost電圧)21の印加時間である1μ秒以下のパルスを発生させる回路を構成している。そして、キャパシタC4(3300pF)の他端は入力回路i/f10の出力端子OUTPUTに接続される。また、抵抗R4(1k)とダイオードD3(1S2076A)の他端は−15Vの電源に接続されている。なお、このCR微分回路は、別回路として設けたCPU等によるデジタル手法を用いてパルスを発生させ、Boost回路20に入力することでBoost回路20を小型化することもできる。
【0039】
(Hold保持回路30)
つぎに、Hold保持回路30は、図3の中央部において、Hold保持電圧印加部、バイパスコンデンサC1、GND2、保持用MOSFETQ1、抵抗R3、トランジスタQ3、抵抗R1、及び、抵抗R2を備えて構成される。
【0040】
Hold保持回路30の動作は、図3中央部において入力回路i/f10からのHold保持電圧(+5.5V)が印加され、一方の経路は、瞬時的な電圧変動を補償するバイパスコンデンサC1(470μF)を経由してGND2に接地される。他方は、保持用MOSFETQ1(2SK2231)のドレイン端子に入力され、ソース端子から保持電流量を制御するための抵抗R3(0.27)を経由して、出力端子Outputに出力される。また、保持用MOSFETQ1(2SK2231)のソース端子から保持電流量を制御するためのトランジスタQ3(2SC1815)のベース端子に入力され、エミッタ端子から出力端子Outputに出力される。また、トランジスタQ3(2SC1815)のコレクタ端子から保持用MOSFETQ1(2SK2231)のゲート端子に接続された保持電流量を制御するための抵抗R1(470)を経由して入力回路i/f10の出力端子OUTPUTに接続される。また、トランジスタQ3(2SC1815)のコレクタ端子から抵抗R2(10k)を介してGNDに接地されている。抵抗R3及びトランジスタQ3で出力電流を検出し、その電流が一定値となるように保持用MOSFETQ1にフィードバック制御している。
【0041】
(Sink引き抜き回路40)
そして、Sink引き抜き回路40は、図3の下部において、抵抗R5、GND2、逆流阻止用ダイオードD1、引き抜き経路、バイパスコンデンサC3、引き抜きSink電圧印加部、及び、GND2を備えて構成される。
【0042】
そして、Sink引き抜き回路40は、図3の下部において、出力端子Outputから引き抜かれた電流は、一方は、電源電圧オフであっても出力先のSiC−BJT200のエミッタE−ベースB間のオフ状態を保証する抵抗R5(10k)を経由してGND2及びGNDに接地される。他方は、逆流阻止用ダイオードD1(2GWJ42)と引き抜き経路を経由して、入力回路i/f10の出力端子OUTPUTに接続される。また、Sink引き抜き回路40として入力回路i/f10には、Sink引き抜き電圧(−15V)の電源電圧が印加され、そして、瞬時的な電圧変動を補償するバイパスコンデンサC3(100μF)が並列に接続されGND2に接地されている。
【0043】
つぎに、前記図2及び図3を参照して説明した本実施例における測定環境により測定されたSiC−BJT200のターンオン時間及びターンオフ時間の測定結果について、図4(a)及び図4(b)を参照してそれぞれ説明する。
【0044】
測定方法は、前記測定環境(図2参照)において説明したように、SiC−BJT200のターンオン時間及びターンオフ時間の測定を行うために、SiC−BJT200のエミッタE側に、高速電流センサ(Pearson#2878)を直列に接続してその検出出力の変化を汎用のオシロスコープ(たとえば、日本テクトロニクスTDS754D等)により観測し、SiC−BJT200のターンオン時間及びターンオフ時間を測定した。また、Pearson#2878は、オシロスコープチャンネル4に接続されており、画面の2.00V/divが20A/divに相当している。
【0045】
図4(a)は、本実施例におけるSiC−BJT200のターンオン時間を測定した結果を示す。図4(b)は、本実施例におけるSiC−BJT200のターンオフ時間を測定した結果を示す。図4(a)及び図4(b)において、横軸は時間であり最小目盛りは100nsecである。縦軸には、各種のトランジスタのパラメータ、VBE、IBE、VCE、及び、ICEの観測波形が表示されるが、本実施例では、実際のターンオン及びターンオフ動作を反映するVCEの変化をIBEの変動に着目して測定を行った。ちなみに、ターンオン時間の測定値はVCEの0Vへの立下り時間である図4(a)におけるC3Fallの時間であり、ターンオフ時間の測定値はVCEの0Vからの立ち上がり時間である図4(b)におけるC3Riseの時間である。
【0046】
測定によって得られたターンオン時間及びターンオフ時間は、それぞれ、89nsec及び96nsecの値を示した。ターンオン時間及びターンオフ時間ともに100nsec以下の値が得られ、本発明の電流制御型駆動回路の有効性を示すものである。
【0047】
(比較例)
つぎに、前記実施例の比較例について図5及び図6を参照して説明する。図5は、従来の単一駆動電圧型の電流制御型駆動回路及びSiC−BJT200の電源回路を説明するための測定環境を示すブロック図である。図6は、前記測定環境(図5)において測定されたSiC−BJT200のターンオン時間及びターンオフ時間の測定結果である。
【0048】
まず、図5を参照して、比較例の従来の単一駆動電圧型の電流制御型駆動回路及びSiC−BJT200の電源回路について説明する。この比較例は、前記実施例の電流制御型駆動回路100における第2制御回路(Hold保持回路)30のみを電流制御型駆動回路として用いて、SiC−BJT200を駆動制御させるものである。したがって、測定環境は、入力信号が駆動電圧+5Vを印加する単一駆動電圧型の制御回路とその出力をSiC−BJT200のベースBに入力して、SiC−BJT200の動作を制御するものである。なお、ベース電流Iは、実施例と同様約2.5Aとした。
【0049】
また、測定対象のSiC−BJT200及びその電源回路については、SiC−BJT200のエミッタEとコレクタC間に直流電源の電圧値を400Vとして動作させた。その他の構成は、実施例(図2)と同様である。そして、SiC−BJT200のターンオン時間及びターンオフ時間の測定についても実施例と同様測定系で行った。
【0050】
測定結果を図6(a)及び図6(b)に示す。比較例の単一駆動電圧型の電流制御型駆動回路によるSiC−BJT200のターンオン時間及びターンオフ時間は、それぞれ、288nsec及び157nsecの値を示した。ターンオン時間において、本発明の実施例と比較してIBEの立ち上がりも遅く、約3倍のターンオン時間を示した。また、ターオフ時間については、実施例と比較して1.5倍のターンオフ時間を示し、IBEの立下りが遅く揺り戻し現象が観測された。
【0051】
以上説明したように、本実施形態及び実施例の電流制御型駆動回路によれば、BJT型SiC半導体デバイスを駆動させるベース電流制御型駆動回路において、スイッチング速度を高め、エネルギー損失の少ない電流制御型駆動回路を提供することが可能となる。
【0052】
また、本実施形態及び実施例について説明したが、本発明の電流制御型駆動回路は、これらに限定されるものではなく、たとえば、インバータ回路、そしてさらには、燃料電池自動車(FCV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)、電気自動車(EV)、及び、太陽光発電システム等の電動及び電動アシストシステム系の電力変換器に利用することができる。
【符号の説明】
【0053】
10 i/f(入力回路)
20 第1制御回路(Boost回路)
21 第1駆動電圧(Boost電圧)
30 第2制御回路(Hold保持回路)
31 第2駆動電圧(Hold保持電圧)
40 第3制御回路(Sink引き抜き回路)
41 第3駆動電圧(Sink引き抜き電圧)
100 電流制御型駆動回路
200 SiCバイポーラ型半導体トランジスタ(SiC−BJT)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイポーラ型半導体トランジスタを20kHz以上の周波数でスイッチング動作させるにあたり、
前記バイポーラ型半導体トランジスタの起動時にベース電流を供給するための第1駆動電圧を印加させる第1制御回路と、
前記バイポーラ型半導体トランジスタを駆動し続けるために必要なベース電流を保持するための第2駆動電圧を印加させる第2制御回路と、
前記バイポーラ型半導体トランジスタの停止時にベース電流を取り除くための第3駆動電圧を印加させる第3制御回路と
を備える電流制御型駆動回路であって、
前記第3駆動電圧は前記第1駆動電圧に対して逆極性であり、
前記第1駆動電圧の値は前記第2駆動電圧の値より大きく設定されるとともに、
前記第1駆動電圧の印加時間は1μ秒以内に設定される
ことを特徴とする電流制御型駆動回路。
【請求項2】
前記第2駆動電圧の値は、前記バイポーラ型半導体トランジスタのpn接合における順バイアスの電位障壁によって発生する固有電圧の値より大きく設定する
ことを特徴とする請求項1に記載の電流制御型駆動回路。
【請求項3】
前記バイポーラ型半導体トランジスタは、半導体SiCを主な構成材料とする
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電流制御型駆動回路。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−55616(P2011−55616A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201309(P2009−201309)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】