説明

電源回路の出力電圧補正回路

【課題】電源回路の軽負荷時における正負の出力電圧値の絶対値の上昇を抑制し、両出力電圧値のアンバランスを適切に補正する補正回路の提供。
【解決手段】正の出力電源電圧+Vaが正側の第2閾値+V2以上になると、負荷抵抗R6に補正電流Ia′を流して正の電源電圧+Vaを低くし、負の出力電源電圧−Vbが負側の第2閾値−V2以下になると、負荷抵抗R11に補正電流Ib′を流して負の出力電源電圧を高くする。正の出力電源電圧+Vaが正側の第1閾値+V1(<+V2)と第2閾値+V2の間で、負の電源電圧−Vbが負側の第1閾値−V1(>−V2)と第2閾値−V2の間になると、両出力電源電圧の絶対値の差分に応じた補正電流を出力電圧値の絶対値の大きい極性に対応する負荷抵抗に流して正の出力電源電圧の絶対値|+Va|と負の出力電圧値の絶対値|−Vb|を等しくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正の電源電圧と負の電源電圧をそれぞれ出力する電源回路の出力電圧値及び正負の出力電圧値のバランスのずれを補正する出力電圧補正回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、オーディオ用機器においては、その小型化及び軽量化を目的として、スイッチング電源にデジタルアンプを組み合わせた構成のシステムが提案されている。スイッチング電源回路は、例えば商用交流電源からの交流電圧を整流、平滑化して得られた直流電圧を、スイッチ素子によってスイッチングすることにより高い周波数を有する交流電圧に変換し、この交流電圧から高周波トランスを用いて所望の直流電圧を生成して出力するものである。そして、出力された直流電圧は、例えばデジタルアンプの内部電源電圧として用いられる(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2003−274657号公報
【0004】
デジタルアンプは、スイッチング電源から出力される電源電圧に基づいて音源からのオーディオ信号を所定の利得で増幅し、例えば外部に接続されたスピーカに出力するものである。デジタルアンプでは、そのアンプの利得がスイッチング電源から出力される電源電圧に直接的に影響される。したがって、スイッチング電源から出力される電源電圧は、常時、安定して出力されることが望ましい。
【0005】
しかしながら、例えばシングルエンドタイプのデジタルアンプでは、正負の電源電圧の非対称性に起因して、増幅される信号がアンバランス(不平衡)な状態になりやすい場合があり、その状態になると、無信号入力時に直流電圧が出力されるといった出力オフセットの状態を招く。したがって、スイッチング電源では、可能な限り、出力インピーダンスを低くする、すなわち電流変化に対する電圧変動を小さくすることが望まれている。
【0006】
また、オーディオ用アンプであるデジタルアンプの内部では、音源に基づくオーディオ信号が絶えず変化しているので、負荷(スピーカ)における電圧の変動範囲も大きい。そのため、オーディオ信号をスピーカから適切に出力させるためには、上記電圧変動に対してオーディオ信号を即座に応答させる必要がある。しかしながら、多量の負帰還をかけて、出力電圧を安定化させるタイプのスイッチング電源では、過渡特性が悪化し、音質の劣化が生じる可能性が高い。したがって、この場合、負帰還をなくしたあるいは少量の負帰還をかけた、出力インピーダンスの小さいスイッチング電源を用いることが望ましい。
【0007】
図3は、例えばデジタルアンプが接続されるスイッチング電源回路の一例を示す図である。この回路の構成を簡単に説明すると、トランスTの一次巻線側は、例えばMOSFETからなるNチャネルの第1及び第2スイッチ素子MOS1,MOS2を含むハーフ・ブリッジ回路で構成されている。具体的には、図示しない平滑回路によって生成された直流電圧源E1の正極側(図3のa点)には、第1スイッチ素子MOS1のドレイン端子が接続され、第1スイッチ素子MOS1のソース端子には、直列インダクタンスLsを介してトランスTの一次巻線の一端(図3のb点)が接続されている。また、直流電圧源E1の負極側(図3のe点)は、トランスTの一次巻線の他端(図3のc点)に接続されている。
【0008】
直流電圧源E1の負極側は、直流電圧源E2の正極側に接続されており、直流電圧源E2の負極側(図3のd点)は、第2スイッチ素子MOS2のソース端子に接続され、第2スイッチ素子MOS2のドレイン端子は、第1スイッチ素子MOS1のソース端子に接続されている。
【0009】
第1及び第2スイッチ素子MOS1,MOS2のゲート端子には、図示しない制御回路がそれぞれ接続されており、制御回路は、位相が互いに反転したパルス信号を第1及び第2スイッチ素子MOS1,MOS2にそれぞれ与える。第1及び第2スイッチ素子MOS1,MOS2の各ドレイン端子、ソース端子間には、外付け若しくはMOS1,MOS2に内蔵されるフライホイールダイオードD1,D2がそれぞれ並列接続されている。
【0010】
なお、このハーフ・ブリッジ回路では、図中、点線で示されるように、第1及び第2スイッチ素子MOS1,MOS2の各ドレイン端子、ソース端子間には、接合容量Cj1,Cj2が寄生している。また、トランスTの1次巻線側には、入力容量Ctrが寄生している。
【0011】
トランスTの2次巻線の両端(図3のf,g点)には、整流ダイオードDa,Dbのアノード端子が接続されており、これらのカソード端子は互いに接続されており、その接続点(図3のh点)にはチョークコイルLaを介して正側の電源出力端子11(以下、この電源出力端子11から出力される電圧を「+Va」で表す。)が接続されている。
【0012】
また、トランスTの2次巻線の両端には、整流ダイオードDc,Ddのカソード端子が接続されている。これらのアノード端子は互いに接続されており、その接続点(図3のi点)にはチョークコイルLbを介して負側の電源出力端子12(以下、この電源出力端子12から出力される電圧を「−Vb」で表す。)が接続されている。
【0013】
正側の電源出力端子11及びグランドGND間には、チョークコイルLaとで平滑回路を構成するコンデンサCaが接続され、負側の電源出力端子12及びグランドGND間には、チョークコイルLbとで平滑回路を構成するコンデンサCbが接続されている。
【0014】
上記スイッチング電源回路では、図示しない制御回路によって第1及び第2スイッチ素子MOS1,MOS2が交互にオン、オフ動作される。この動作により、トランスTの1次巻線には、矩形波状の交流電圧が印加されることになる。そして、その交流電圧は、トランスTの2次巻線側において上記平滑回路によって平滑化され、正側の電源電圧+Va及び負側の電源電圧−Vbとしてそれぞれ出力される。
【0015】
図4は、上記スイッチング電源回路における出力電源電圧と負荷電流(例えばデジタルアンプに流れる電流)との関係を示す図である。同図によると、負荷電流が比較的小さいときには、出力電源電圧が高くなっており、負荷電流の増加に伴い、出力電源電圧は以下の3つの領域に特徴付けられるような曲線を描くように低下する。ここで、この図において、負荷電流が0〜I1における範囲で表される領域を「領域1」とし、負荷電流がI1〜I2における範囲で表される領域を「領域2」とし、負荷電流がI2以上における範囲で表される領域を「領域3」とし、以下、各領域における状態について説明する。なお、上記「領域1」は、例えば負荷電流が0〜数10mAの範囲であり、上記「領域2」は、例えば負荷電流が数10mA〜1Aの範囲である。
【0016】
図5は、「領域1」におけるスイッチング電源回路の出力電源電圧の波形を示す図である。なお、図5において、一点鎖線は、両波整流時の波形である。
【0017】
「領域1」は、無負荷状態にほとんど近い状態であり、出力電源電圧の波形には、立ち上がり時と立ち下がり時にいわゆるオーバシュート(図5のB波形における振幅の振動部分を参照)が観測される。このオーバシュートの原因は、直列インダクタンスLs、トランスTの漏れインダクタンス、及び励磁インダクタンスと、第1及び第2スイッチ素子MOS1,MOS2の接合容量Cj1,Cj2、トランスTの入力容量Ctr、並びに図示しない浮遊容量等とによる共振である。
【0018】
「領域1」では、トランスTの2次巻線側において負荷電流がほとんど流れていないので、コンデンサCa,Cbによってこのオーバシュート電圧がピークホールドされ(図5のA参照)、正規の出力電源電圧(図5のB参照)よりかなり大きな出力電源電圧が出力されることになる。図4の「領域1」の異常に高い出力電源電圧の波形はこの状態を示している。
【0019】
なお、「領域1」では、トランスTの1次巻線側を流れる電流は小さいため、直列インダクタンスLsに蓄えられるエネルギも小さく、第1又は第2スイッチ素子MOS1,MOS2がオフの休止期間(図5のT参照)において、上記各コンデンサCa,Cbに蓄えられた電荷は、ほとんど放電されない。そのため、出力電源電圧の波形は、休止期間においても即座に変化しないので、このことも出力電源電圧を上昇させる要因となっている。
【0020】
このオーバシュートは、上述のように、直列インダクタンスLs、トランスTの漏れインダクタンス、及び励磁インダクタンスと、第1及び第2スイッチ素子MOS1,MOS2の接合容量Cj1,Cj2、トランスTの入力容量Ctr、並びに図示しない浮遊容量等とによる共振回路によって生じるため、PWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)やPFM(Pulse Frequency Modulation:周波数変調)といった制御を行っても除去することができず、「領域1」は、負帰還による安定化を目的とした制御を行っても出力電源電圧の安定化が困難な領域である。
【0021】
デジタルアンプにおいて、その電源スイッチがオンされて発振を開始し、内部の回路素子がスイッチングを始めるまでの間(例えば1秒以内の比較的短い時間)では、デジタルアンプの内部にはほとんど電流が流れていない。すなわち、この時間帯は、上記「領域1」に対応し、オーバシュートの影響が顕著に現れる期間であり、また、この「領域1」では、デジタルアンプに対して高電圧が印加されることがあるので、デジタルアンプでは印加される高電圧に耐え得る、耐圧の大きい回路素子を用いる必要がある。
【0022】
図6は、「領域2」におけるスイッチング電源回路の出力電源電圧の波形を示す図である。なお、図6においても一点鎖線は、両波整流時の波形である。
【0023】
「領域2」は、デジタルアンプにおいて負荷電流がある程度流れている場合(I1〜I2)を示している。「領域2」では、「領域1」におけるオーバシュートによる影響は軽減され、第1又は第2スイッチ素子MOS1,MOS2がオンの期間中において直列インダクタンスLsに蓄えられるエネルギが増加する。これにより、第1又は第2スイッチ素子MOS1,MOS2がオフの期間(休止期間:図中T参照)では、上記各コンデンサCa,Cbに蓄えられた電荷の移動が早くなって、休止期間中における電圧降下量は大きくなる。
【0024】
すなわち、この休止期間では、エネルギの伝達が行われにくくなり、負荷電流の増加に応じて休止期間中の電圧降下量が大きくなり、出力電源電圧が低下する(図6のD参照)。「領域2」では、出力インピーダンスが数Ω〜数十Ωであるため、比較的小さな電流変化でも出力電源電圧が変動する。そのため、正負の負荷電流のわずかなアンバランスが正負の出力電源電圧のアンバランスを生じることになる(すなわち、図6中のVa,Vbの関係がVa≠Vbとなる)。
【0025】
デジタルアンプでは、電源スイッチがオンされた後の無信号状態であって回路素子がスイッチングを行っている状態のときに、「領域1」の状態から「領域2」の状態に移行する可能性が高い。そのため、スイッチング電源回路から供給される出力電流において正負のバランスがとれていない場合には、正負の出力電源電圧のアンバランスを生じ、デジタルアンプで出力オフセットが発生しやすくなる。
【0026】
図7は、「領域3」におけるスイッチング電源回路の出力電源電圧の波形を示す図である。
【0027】
「領域3」は、デジタルアンプにおいて負荷電流が十分流れている領域であり、第1又は第2スイッチ素子MOS1,MOS2がオンである期間に、直列インダクタンスLsに蓄えられたエネルギが十分大きくなり、第1又は第2スイッチ素子MOS1,MOS2がオフした瞬間にそのエネルギによって上記コンデンサCa,Cbに蓄えられた電荷が速やかな充放電を行う。これは、一方のスイッチ素子がオフになり、トランスTの1次巻線に印加される電圧の位相が反転され、その後に他方のスイッチ素子がオンされるといった、いわゆる電圧ゼロスイッチングが実現された状態である。そのため、「領域2」の休止期間において見られた出力電源電圧の低下がほぼなくなり、負荷電流変動に対する電圧変動は少なくなるため、出力インピーダンスが低くなる。
【0028】
したがって、正負の負荷電流が多少アンバランスであっても、正負の出力電源電圧のアンバランス量は少なくなる。この状態は、デジタルアンプを組み合わせたシステムでは、スピーカで音楽を再生している状態に相当する。
【0029】
以上のように、上記スイッチング電源回路では、軽負荷時(「領域1」)において電源電圧が上昇するため、デジタルアンプの内部の回路素子を高耐圧化しなければならないといった問題点があった。また、「領域2」においては、正負の出力電源電圧のアンバランスによって出力オフセットが生じるといった問題点があった。
【0030】
そこで、これらの問題に対して、下記に示す出力電圧補正回路をこのスイッチング電源回路の後段に設けることが考えられる。図8は、従来の出力電圧補正回路の一例を示す図である。すなわち、この出力電圧補正回路は、正側の回路と負側の回路とから構成されており、正側の回路と負側の回路とは対称な回路構成となっている。
【0031】
具体的には、正側の回路は、PNP型のバイポーラトランジスタからなる第1トランジスタQ11、及びNPN型のバイポーラトランジスタからなる第2トランジスタQ12を備えている。接続構成を説明すると、正側の回路において、正側の電源端子15(+Va)とグランドGND端子との間には、第1トランジスタQ11に対するバイアス回路である抵抗R21と抵抗R22の直列回路が接続され、抵抗R21と抵抗R22の接続点は第1トランジスタQ11のベース端子に接続されている。
【0032】
正側の電源端子15(+Va)には、ツェナーダイオードZD11のカソード端子が接続され、ツェナーダイオードZD11のアノード端子には、第1トランジスタQ11のエミッタ端子が接続されている。第1トランジスタQ11のコレクタ端子には、第2トランジスタQ12のベース端子が接続されている。
【0033】
第2トランジスタQ12のコレクタ端子には、一端が正側の電源端子15(+Va)に接続された抵抗R23(負荷)の他端が接続されている。第2トランジスタQ12のエミッタ端子は、グランドGNDに接続されている。第2トランジスタQ12のベース端子は、抵抗R24を介してグランドGNDに接続されている。
【0034】
一方、負側の回路において、負側の電源端子16(−Vb)とグランドGND端子との間には、第3トランジスタQ13に対するバイアス回路である抵抗R25と抵抗R26の直列回路が接続され、抵抗R25と抵抗R26の接続点は第3トランジスQ13のベース端子に接続されている。
【0035】
負側の電源端子16(−Vb)には、ツェナーダイオードZD12のアノード端子が接続され、ツェナーダイオードZD12のカソード端子には、第3トランジスQ13のエミッタ端子が接続されている。第3トランジスQ13のコレクタ端子には、第4トランジスタQ14のベース端子が接続されている。
【0036】
第4トランジスタQ14のコレクタ端子には、一端が負側の電源端子16(−Vb)に接続された抵抗R27(負荷)の他端が接続されている。第4トランジスタQ14のエミッタ端子は、グランドGNDに接続されている。第4トランジスタQ14のベース端子は、抵抗R28を介してグランドGNDに接続されている。
【0037】
この出力電圧補正回路では、正の出力電源電圧+Vaの絶対値又は負の出力電源電圧−Vbの絶対値が所定値(以下、「スレッショールド電圧」という。)を超えると、常に補正電流を負荷である抵抗R23又は抵抗R27に流し、出力電源電圧をスレッショールド電圧まで下げるように動作する。そのため、上記した「領域1」において電圧補正を有効に実現することができる。
【0038】
すなわち、例えば正の出力電源電圧の場合、出力電源電圧の絶対値|+Va|が(R21+R22)・(Vz+Vbe)/R22(但し、VzはツェナーダイオードZD11のツェナ電圧、Vbeは第1トランジスタQ11のベース・エミッタ間の電圧である。)を超えると、第1トランジスタQ11がオンになり、第2トランジスタQ12にベース電流が流れ、更に第2トランジスタQ12がオンになると、第2トランジスタQ12にコレクタ電流が流れる。このコレクタ電流は抵抗R23(負荷)を流れるから、これにより抵抗R23の両端電圧、すなわち正の出力電源電圧+Vaが低下する。
【0039】
そして、正の出力電源電圧の絶対値|+Va|が(R21+R22)・(Vz+Vbe)/R22以下に低下すると、第1トランジスタQ11がオフになり、更に第2トランジスタQ12もオフになるので、抵抗R23(負荷)のコレクタ電流が流れなくなるので、これにより抵抗R23の両端電圧、すなわち正の出力電源電圧+Vaはスレッショールド電圧(R21+R22)・(Vz+Vbe)/R22に保持されることになる。負の出力電源電圧の場合も上記と同様の動作をする。
【0040】
しかしながら、この出力電圧補正回路では、グランドGND端子を境にして正側の回路と負側の回路とで対称的な構成とされ、正の出力電源電圧と負の出力電源電圧とはそれぞれ独立して電圧変動が補正される構成であるので、正負の出力電源電圧+Va,−Vbが、例えば図4に示した「領域2」のようにアンバランスな状態となったとき、それを解消することは困難である。
【0041】
また、正負の出力電源電圧+Va,−Vbのバランスが保たれていたとしても、正側の出力電源電圧がスレッショールド電圧を越えて上昇する、または負側の出力電源電圧がスレッショールド電圧を超えて低下すると、常に補正電流が正負の両負荷抵抗R23,R27に対して流れるので、第2及び第4トランジスタQ12,Q14並びに負荷抵抗R23,R27における損失が大きくなり、非効率であるといった問題点もある。
【0042】
図9は、他の出力電圧補正回路の一例を示す回路図である。すなわち、この出力電圧補正回路は、NPN型のトランジスタからなる第5トランジスタQ15及びPNP型のトランジスタからなる第6トランジスタQ16を備えている。接続構成を説明すると、正側の電源電圧端子17(+Va)には、抵抗R31を介して第5トランジスタQ15のベース端子が接続されているとともに、抵抗R32を介して第5トランジスタQ15のコレクタ端子が接続されている。第5トランジスタQ15のエミッタ端子は、グランドGNDに接続されている。
【0043】
また、負側の電源電圧端子18(−Vb)には、抵抗R33を介して第6トランジスタQ16のベース端子が接続されているとともに、抵抗R34を介して第6トランジスタQ16のコレクタ端子が接続されている。第6トランジスタQ16のエミッタ端子は、グランドGNDに接続されている。さらに、第5トランジスタQ15のベース端子は、ダイオードD11のアノード端子に接続され、第6トランジスタQ16のベース端子は、ダイオードD11のカソード端子に接続されている。
【0044】
この出力電圧補正回路では、正負の出力電源電圧の絶対値|+Va|,|−Vb|の差が約0.6V(ダイオードD11の両端電圧)を越えると、出力電源電圧の絶対値の高い側の第5トランジスタQ15又は第6トランジスタQ16がオンして、出力電源電圧の絶対値の高い側の第5トランジスタQ15又は第6トランジスタQ16のコレクタ電流を増加させ、当該出力電源電圧(抵抗R32又は抵抗R34の両端電圧)を低下させるように動作する。そのため、正負の出力電源電圧+Va,−Vbにアンバランスが生じてもそれを抑制することができる。
【0045】
しかしながら、この出力電圧補正回路では、正負の出力電源電圧+Va,−Vbのアンバランスの補正には有効であるが、出力電源電圧の絶対値が所定値(スレッショールド電圧)以上になると、補正電流を流して両出力電源電圧の絶対値を所定値以下にするという動作を行うことはできない。
【0046】
すなわち、図9に示す出力電圧補正回路は、|+Va|と|−Vb|との差分が所定の電圧以上になると、その差分をゼロにするように動作するのみで、|+Va|及び|−Vb|の値が所定値以上になっても両者の差分がゼロであれば、|+Va|及び|−Vb|を所定値以下に抑制する動作をするものではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0047】
本願発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、軽負荷時における正負の出力電圧値の絶対値の上昇を抑制するとともに、両出力電圧値のアンバランスを適切に補正することのできる、電源回路の出力電圧補正回路を提供することを、その課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0048】
上記の課題を解決するため、本願発明では、次の技術的手段を講じている。
【0049】
本願発明によって提供される電源回路の出力電圧補正回路は、正の電源電圧と負の電源電圧をそれぞれ出力する電源回路に接続され、前記正負の電源電圧の出力電圧値および出力バランスがずれると、前記正の電源電圧が供給される第1の負荷と前記負の電源電圧が供給される第2の負荷とにそれぞれ補正電流を流して当該ずれを補正する出力電圧補正回路であって、前記第1の負荷に接続され、当該第1の負荷に流す補正電流を制御する第1の補正電流制御回路と、前記第2の負荷に接続され、当該第2の負荷に流す補正電流を制御する第2の補正電流制御回路と、前記電源回路から出力される正の出力電圧値が正の第1の電圧閾値よりも高い正の第2の電圧閾値以上に変動すると、前記第1の補正電流回路により前記第1の負荷に前記補正電流を流して前記正の出力電圧値を降下させる第1の出力電圧補正回路と、前記電源回路から出力される負の出力電圧値が負の第1の電圧閾値よりも低い負の第2の電圧閾値以下に変動すると、前記第2の補正電流回路により前記第2の負荷に前記補正電流を流して前記負の電圧値を上昇させる第2の出力電圧補正回路と、前記電源回路から出力される正の出力電圧値が前記正の第1の電圧閾値と前記正の第2の電圧閾値の間の電圧値に変動し、かつ、前記電源回路から出力される負の出力電圧値が前記負の第1の電圧閾値と前記負の第2の電圧閾値の間の電圧値に変動すると、前記正の出力電圧値の絶対値と前記負の出力電圧値の絶対値が等しくなるまで、両出力電圧値の絶対値の差分に応じた補正電流を出力電圧値の絶対値の大きい極性に対応する前記第1または第2の補正電流回路により当該極性に対応する前記第1または第2の負荷に流す第3の出力電圧補正回路と、を備えたことを特徴とする。
【0050】
この構成によれば、電源回路から出力される正の出力電圧値が正の第1の電圧閾値とこの正の第1の電圧閾値よりも高い正の第2の電圧閾値の間の電圧値に変動し、かつ、負の出力電圧値が負の第1の電圧閾値とこの負の第1の電圧閾値よりも低い負の第2の電圧閾値の間の電圧値に変動すると、両出力電圧値の絶対値の差分に応じた補正電流を出力電圧値の絶対値の大きい極性に対応する第1または第2の補正電流回路により当該極性に対応する第1または第2の負荷に流して、正の出力電圧値の絶対値と負の出力電圧値の絶対値を等しくするので、正負の出力電圧値のアンバランスが適切に補正される。
【0051】
また、電源回路から出力される正の出力電圧値が正の第2の電圧閾値以上に変動すると、第1の補正電流回路により第1の負荷に補正電流を流して正の出力電圧値を降下させ、電源回路から出力される負の出力電圧値が負の第2の電圧閾値以下に変動すると、第2の補正電流回路により第2の負荷に補正電流を流して負の電圧値を上昇させるので、正の出力電圧値は正の第2の電圧閾値を超えて上昇することがなく、負の出力電圧値は負の第2の電圧閾値を超えて下降することがない。
【0052】
従って、電源回路から出力される正負の出力電圧値を正の第2の電圧閾値と負の第2の電圧閾値との範囲内に抑制するとともに、正負の出力電圧値のバランスを適切に補正することかできる。
【0053】
本願発明のその他の特徴及び利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
以下、本願発明の好ましい実施の形態を、添付図面を参照して具体的に説明する。
【0055】
図1は、本願発明に係る、スイッチング電源回路の出力電圧補正回路を示す図である。
【0056】
この出力電圧補正回路は、例えば背景技術の欄で説明した図3に示したスイッチング電源回路に接続され、スイッチング電源回路から出力される正負の出力電圧値の変動やアンバランスを補正するためのものである。すなわち、出力電圧補正回路の正側の電源端子13と負側の電源端子14がそれぞれ図3に示したスイッチング電源回路の正側の電源出力端子11と負側の電源出力端子12に接続され、抵抗R6及び抵抗R11が負荷として動作するものである。
【0057】
この出力電圧補正回路は、スイッチング電源回路から供給される正負の電源電圧に対応して、正側の回路と負側の回路とによって構成されており、両回路は、略対称の回路構成とされている。すなわち、回路定数としては、R1=R7、R2=R8、R3=R9、R5=R10、R6=R11、Vz1=Vz2、Q1=Q3(Vbe1=Vbe3)、Q2=Q4(Vbe2=Vbe4)となっている。
【0058】
正側の回路では、例えばPNP型のバイポーラトランジスタからなる第1トランジスタQ1と、例えばNPN型のバイポーラトランジスタからなる第2トランジスタQ2と、複数の抵抗群(後述)等とが備えられている。負側の回路では、例えばNPN型のバイポーラトランジスタからなる第3トランジスタQ3と、例えばPNP型のバイポーラトランジスタからなる第4トランジスタQ4と、複数の抵抗群(後述)等とが備えられている。
【0059】
なお、これら、第1ないし第4トランジスタQ1,Q2,Q3,Q4は、バイポーラトランジスタに限るものではなく、電界効果トランジスタなどの他のタイプのトランジスタが用いられてもよい。
【0060】
これらの回路素子の詳細な接続構成を説明すると、正側の回路において、正側の電源端子13(+Va)とグランドGND端子との間には、第1トランジスタQ1に対するバイアス回路である抵抗R1と抵抗R2の直列回路が接続され、抵抗R1と抵抗R2の接続点は第1トランジスタQ1のベース端子に接続されている。
【0061】
正側の電源端子13(+Va)には、ツェナーダイオードZD1のカソード端子が接続され、ツェナーダイオードZD1のアノード端子には、抵抗R3を介して第1トランジスタQ1のエミッタ端子が接続されている。第1トランジスタQ1のコレクタ端子には、第2トランジスタQ2のベース端子が接続されている。
【0062】
第2トランジスタQ2のコレクタ端子には、一端が正側の電源端子13(+Va)に接続された負荷抵抗R6の他端が接続されている。第2トランジスタQ2のエミッタ端子は、グランドGNDに接続されている。第2トランジスタQ2のベース端子には、抵抗R5を介してグランドGNDに接続されている。
【0063】
そして、負荷抵抗R6は本発明に係る第1の負荷に相当し、抵抗R5及び第2トランジスタQ2により本発明に係る第1の補正電流制御回路が構成され、抵抗R1〜R3、第1トランジスタQ1及びツェナーダイオードZD1からなる回路により本発明に係る第1の出力電圧補正回路が構成されている。
【0064】
一方、負側の回路において、負側の電源端子14(−Vb)とグランドGND端子との間には、第3トランジスタQ3に対するバイアス回路である抵抗R7と抵抗R8の直列回路が接続され、抵抗R7と抵抗R8の接続点は第3トランジスタQ3のベース端子に接続されている。
【0065】
負側の電源端子14(−Vb)には、ツェナーダイオードZD2のアノード端子が接続され、ツェナーダイオードZD2のカソード端子には、抵抗R9を介して第3トランジスタQ3のエミッタ端子が接続されている。第3トランジスタQ3のコレクタ端子には、第4トランジスタQ4のベース端子が接続されている。
【0066】
第4トランジスタQ4のコレクタ端子には、一端が負側の電源端子14(−Vb)に接続された負荷抵抗R11の他端が接続されている。第4トランジスタQ4のエミッタ端子は、グランドGNDに接続されている。第4トランジスタQ4のベース端子には、抵抗R10を介してグランドGNDに接続されている。
【0067】
また、正側の回路の第1トランジスタQ1のコレクタ端子と、負側の回路の第3トランジスタQ3のコレクタ端子との間には、抵抗R4が接続されており、すなわち、抵抗R4は、抵抗R5及び抵抗R10と並列に接続されている。
【0068】
そして、負荷抵抗R11は本発明に係る第2の負荷に相当し、抵抗R10及び第4トランジスタQ4により本発明に係る第2の補正電流制御回路が構成され、抵抗R7〜R9、第3トランジスタQ3及びツェナーダイオードZD2からなる回路により本発明に係る第2の出力電圧補正回路が構成されている。また、抵抗R4、抵抗R5及び抵抗R10により本発明に係る第3の出力電圧補正回路が構成されている。
【0069】
なお、上記回路構成において、抵抗R1と抵抗R7とは略同一の抵抗値を有し、同じく抵抗R2と抵抗R8、抵抗R3と抵抗R9、抵抗R5と抵抗R10、及び負荷抵抗R6と負荷抵抗R11は、それぞれ略同一の抵抗値を有している。
【0070】
次に、上記回路構成における作用を説明する。
【0071】
上記出力電圧補正回路の正側の回路において、第1トランジスタQ1のベースに供給されるバイアス電圧Vb1は+R2・Va/(R1+R2)であり、ツェナーダイオードZD1の両端電圧をVz1、第1トランジスタQ1のベース、エミッタ間電圧をVbe1(例えば約0.6V)とすると、第1トランジスタQ1がオンの状態の条件は、(Va−Vz1−Vbe1)≧Vb1であるから、第1トランジスタQ1がオンになる正側の出力電源電圧の値+V1は、下記の(1)式で表される。
【0072】
【数1】

【0073】
正側の出力電源電圧の値+Vaが(1)式に示す電圧値+V1(以下、この電圧を「正側の第1スレッショールド電圧+V1」という。)以上になると、第1トランジスタQ1にコレクタ電流Iaが流れ、このコレクタ電流Iaは下記(2)式で表される。(2)式で示されるように、コレクタ電流Iaは正側の出力電源電圧の絶対値|+Va|の上昇に応じて上昇する。なお、「正側の第1スレッショールド電圧+V1」は本発明に係る「正の第1の電圧閾値」に相当している。
【0074】
【数2】

【0075】
同様に、負側の回路において、第3トランジスタQ3のベースに供給されるバイアス電圧Vb3は−R8・Vb/(R7+R8)であり、ツェナーダイオードZD2の両端電圧をVz2、第3トランジスタQ3のベース、エミッタ間電圧をVbe3(例えば約0.6V)とすると、第3トランジスタQ3がオンの状態の条件は、(−Vb+Vz2+Vbe2)≦Vb3であるから、第3トランジスタQ3がオンになる負側の出力電源電圧の値−V1は、下記の(3)式で表される。
【0076】
【数3】

【0077】
なお、正側の回路と負側の回路の対称性より、R7=R1、R8=R2、Vz2=Vz1、Vbe3=Vbe1であるから、−V1=−(Vz1+Vbe1)・(R1+R2)/R1となり、|−V1|=|+V1|となっている。
【0078】
負側の出力電源電圧の値−Vbが(3)式に示す電圧値−V1(以下、「負側の第1スレッショールド電圧−V1」という。)以下になると、第3トランジスタQ3にコレクタ電流Ibが流れ、このコレクタ電流Ibは下記(4)式で表される。(4)式で示されるように、コレクタ電流Ibは負側の出力電源電圧の絶対値|−Vb|の上昇に応じて上昇する。なお、「負側の第1スレッショールド電圧−V1」は本願発明に係る「負の第1の電圧閾値」に相当している。
【0079】
【数4】

【0080】
電流Ibについても、正側の回路と負側の回路の対称性より、Ib=[R1・Vb/(R1+R2)−Vz1−Vbe1]/R6であるから、|−Vb|=|+Va|であれば、|Ib|=|Ia|となる。
【0081】
次に、第2トランジスタQ2がオンになり、負荷抵抗R6に電流Ia′(以下、この電流を「補正電流Ia′」という。)が流れる条件を、電流Ibがゼロの場合について説明する。
【0082】
電流Ibが流れ始める条件は、上述したように、負側の出力電源電圧−Vbが負側第1スレッショールド電圧−V1以下になることであるから、−Vb=−V2、Ib=0の状態で、正側の出力電源電圧+Vaが上昇し、第1,第2トランジスタQ1,Q2がオンになる条件を考えると、その条件は以下のようになる。
【0083】
すなわち、第1トランジスタQ1がオンになってコレクタ電流Iaが流れると、このコレクタ電流Iaが抵抗R5と抵抗R4,R10の直列回路に分流され、抵抗R5に流れる電流をIcとすると、抵抗R5の両端電圧(R5・Ic)が第2トランジスタQ2のベース・エミッタ電圧Vbe2以上になると、トランジスタQ2がオンになり、第2トランジスタQ2にコレクタ電流Ia′(補正電流Ia′)が流れる。
【0084】
抵抗R5に流れる電流Icは、Ic=(R4+R10)・Ia/(R4+R5+R10)であるから、補正電流Ia′が流れ始める第1トランジスタQ1のコレクタ電流Ia1は、下記(5)式となる。
【0085】
【数5】

【0086】
従って、第1トランジスタQ1のコレクタ電流IaがIa1となるときの正側の出力電源電圧+V1’は、R2・Va/(R1+R2)+Vbe1+Ia1・R3+Vz1=Vaより、下記(6)式となる。
【0087】
【数6】

【0088】
負側の回路についても同様に第4トランジスタQ4がオンになり、負荷抵抗R11に電流Ib′(以下、この電流を「補正電流Ib′」という。)が流れる条件を、電流Iaがゼロの場合について求めると、下記(7)式のようになる。
【0089】
【数7】

【0090】
なお、正側の回路と負側の回路の対称性より、+V1’=[(R1+R2)/R1]・[(Vz1+Vbe1)+(R4+2・R5)・R3・Vbe2/[(R5・(R4+R5)]]、−V1’=[(R1+R2)/R1]・[(Vz1+Vbe1)+(R4+2・R5)・R3・Vbe2/[(R5・(R4+R5)]]となるから、|+V1’|=|−V1’|である。
【0091】
(6)式および(7)式において、[(R1+R2)/R1]・(Vz1+Vbe1)は正側の第1スレッショールド電圧+V1、[(R7+R8)/R7]・(Vz2+Vbe3)は負側の第1スレッショールド電圧−V1であるから、例えば負側の出力電源電圧−Vbは−V1以上であるが、正側の出力電源電圧+Vaが+V1以上に上昇し、正側の出力電源電圧の絶対値|+Va|と負側の出力電源電圧の絶対値|−Vb|に差ΔVが生じた場合は、その差が下記(8)式に示す電圧ΔVr1以上になると、負荷抵抗R6に補正電流Ia′が流れて正側の出力電源電圧が自動的に低下することになる。
【0092】
【数8】

【0093】
同様に、正側の出力電源電圧+Vaは+V1以下であるが、負側の出力電源電圧−Vbが−V1以下に低下し、負側の出力電源電圧の絶対値|−Vb|と正側の出力電源電圧の絶対値|+Va|に差ΔVが生じた場合は、その差が下記(9)式に示す電圧ΔVr2以上になると、負荷抵抗R11に補正電流Ib′が流れて負側の出力電源電圧が自動的に上昇することになる。
【0094】
【数9】

【0095】
なお、正側の回路と負側の回路の対称性より、R5=R10、Vbe2=Vbe4=0.6であるから、ΔVr1およびΔVr2は、下記(10)式に示すΔVrとなる。
【0096】
【数10】

【0097】
すなわち、正側の出力電源電圧の絶対値|+Va|と負側の出力電源電圧の絶対値|−Vb|とにΔVr以上のアンバランスが生じると、出力電源電圧の絶対値の大きい方の負荷抵抗に補正電流が流れてそのアンバランスが自動的に解消されるようになる。
【0098】
上記の説明は、正側の出力電源電圧+Vaまたは負側の出力電源電圧−Vaの一方の絶対値だけが正負の第1スレッショールド電圧の絶対値|±V1|を超える場合であるが、両方の出力電源電圧の絶対値|+Va|,|−Vb|が正負の第1スレッショールド電圧の絶対値|±V1|を超える場合は、第1トランジスタQ1のコレクタ電流Iaと第3トランジスタQ3のコレクタ電流Ibとが同時に流れ、両電流Ia,Ibの一部が互いに逆向きに抵抗R5と抵抗R10とに流れることになる。
【0099】
この場合も正側の出力電源電圧+Va及び負側の出力電源電圧−Vbに抵抗R5の両端電圧が第2トランジスタQ2のベース・エミッタ電圧Vbe2を超えるような変動が生じると、補正電流Ia′が流れ、抵抗R10の両端電圧が第4トランジスタQ4のベース・エミッタ電圧Vbe4を超えるような変動が生じると、補正電流Ib′が流れることになる。
【0100】
正側の回路と負側の回路の対称性より、例えば正側の出力電源電圧の絶対値|+Va|と負側の出力電源電圧の絶対値|−Vb|とがバランスした状態で、両出力電源電圧の絶対値が正負の第1スレッショールド電圧の絶対値|±V1|以上に変動した場合は、第1トランジスタQ1に流れるコレクタ電流Iaと第3トランジスタQ3に流れるコレクタ電流Ibとは等しくなる。
【0101】
この場合、抵抗R5と抵抗R10とに流れる電流は等しくなり、抵抗R5及び抵抗R10の両端電圧も互いに等しくなるから、第2トランジスタQ2のベース端子と第4トランジスタQ4のベース端子との間の電位差、すなわち、抵抗R4の両端電圧が(Vbe2+Vbe4)=約1.2V以上になるような正負の出力電源電圧になると、負荷抵抗R6と負荷抵抗R11にそれぞれ補正電流Ia′と補正電流Ib′が流れて正側の出力電源電圧+Vaは低下し、負側の出力電源電圧−Vbは上昇し、過大な出力電源電圧が解消されることになる。
【0102】
この場合の抵抗R4に流れる電流をIdとし、Ia=Ib=Iとすると、電流Idは、下記(11)式となるから、正負の出力電源電圧が過電圧となるのを防止するために補正電流Ia′または補正電流Ib′が流れ始めるための条件は、下記(12)となる。
【0103】
【数11】

【0104】
従って、(12)式より、正負の出力電源電圧の絶対値|+Va|,|−Vb|が0.6・(R4+2・R5)/R4・R5の電流Ia,Ibが流れるような絶対値|±V2|に上昇すると、負荷抵抗R6,R11に補正電流Ia′及び補正電流Ib′が流れて正負の出力電源電圧の絶対値|+Va|,|−Vb|が絶対値|±V2|に抑制され、過電圧が防止されることになる。
【0105】
コレクタ電流Ia,Ibが0.6・(R4+2・R5)/R4・R5となるときの正側の出力電源電圧+V2(以下、この電圧を「正側の第2スレッショールド電圧+V2」という。)と負側の出力電源電圧−V2(以下、この電圧を「負側の第2スレッショールド電圧−V2」という。)を算出すると、下記(13),(14)式となる。なお、正側の第2スレッショールド電圧は本発明に係る「正の第2の電圧閾値」に相当し、負側の第2スレッショールド電圧は本発明に係る「負の第2の電圧閾値」に相当している。
【0106】
【数12】

【0107】
正負の回路の対称性より、Vz1=Vz2=Vz、Vbe1=Vbe2=Vbe3=Vbe4=0.6Vとすると、上記(13),(14)式の絶対値|+V2|,|−V2|は下記(15)式となる。
【0108】
【数13】

【0109】
すなわち、正負の出力電源電圧の絶対値|+Va|,|−Vb|が等しく、バランスした状態であってもその絶対値が正負の第2スレッショールド電圧の絶対値|+V2|,|−V2|以上になると、補正電流Ia′,Ib′が流れて正側の出力電源電圧+Vaの上昇と負側の出力電源電圧−Vbの低下とが抑制される。
【0110】
以上を総合すると、正側の出力電源電圧+Vaが正側の第2スレッショールド電圧+V2以上になると、正負の出力電源電圧+Va,−Vbがバランスしているか否かに関係なく、負荷抵抗R6に補正電流Ia′が流れて正側の出力電源電圧+Vaの上昇が抑制され、負側の出力電源電圧−Vbが負側の第2スレッショールド電圧−V2以下になると、正負の出力電源電圧+Va,−Vbがバランスしているか否かに関係なく、負荷抵抗R11に補正電流Ib′が流れて負側の出力電源電圧−Vbの低下が抑制される。
【0111】
一方、正側の出力電源電圧+Vaが正側の第1スレッショールド電圧+V1と正側の第2スレッショールド電圧+V2との間にあり、負側の出力電源電圧+−Vbが負側の第1スレッショールド電圧−V1と負側の第2スレッショールド電圧−V2との間にあるときは、正負の出力電源電圧の絶対値|+Va|,|−Vb|の差ΔVに(10)式に示すΔVr以上のアンバランスが生じると、絶対値の大きい側の負荷抵抗R6または負荷抵抗R11に補正電流Ia′または補正電流Ib′が流れてそのアンバランスが解消される。
【0112】
図2は、正負の負荷電流、正負の補正電流、及び正負の出力電源電圧を状態別に示した波形図である。
【0113】
ここで、「II」の状態は、正側の出力電源電圧+Vaが正側の第1スレッショールド
電圧+V1と正側の第2スレッショールド電圧+V2(>+V1)との間にあり(+V2>+Va>+V1)、且つ、負の出力電源電圧の値−Vbが負側の第1スレッショールド電圧−V1と負側の第2スレッショールド電圧−V2(<−V1)との間にあるとき(−V1>−Vb>−V2)を示している。
【0114】
この「II」の状態は、図4に示した「領域2」に対応し、この状態では、電圧補正回
路は、正側の出力電源電圧の絶対値|+Va|と負側の出力電源電圧の絶対値|−Vb|とを比較し、出力電源電圧の絶対値の大きい方が出力電源電圧の絶対値の小さい方に等しくなるまで、負荷抵抗(R6又はR11)に補正電流(Ia′又はIb′)を流し、アンバランスを解消するように動作する。
【0115】
例えば、図2の「II」の状態は、負側の出力電源電圧の絶対値|−Vb|が正側の出
力電源電圧の絶対値|+Va|より大きい場合を示しており、この場合は、負側の出力電源電圧の絶対値|−Vb|が正側の出力電源電圧の絶対値|+Va|に等しくなるように(図2のP1参照)、負荷抵抗R11に補正電流Ib′が流れ、アンバランスを解消する。
【0116】
なお、「II」の状態では、正負の出力電源電圧+Va,−Vbがアンバランスである
ときのみ、出力電源電圧+Va,−Vbの絶対値のうちの高い方の出力電源電圧の回路においてのみ補正電流(Ia′又はIb′)を流すので、流れる補正電流の量は少なくて済み、図8に示した回路構成における効率の低下を回避することができるといった利点がある。
【0117】
次に、「I」の状態は、正側の出力電源電圧の値+Vaが正側の第1スレッショール
ド電圧+V1以上であり(+Va≧+V1)、且つ、負の出力電源電圧の値−Vbが負側の第1スレッショールド電圧−V1以下であるとき(−V1≧−Vb)を示している。
【0118】
この「I」の状態は、図4に示した「領域1」に対応し、電圧補正回路では、両電源
電圧+Va,−Vbが対称であっても、正側の回路及び負側の回路において第1ないし第4トランジスタQ1,Q2,Q3,Q4のいずれもがオンとなり、補正電流Ia′,Ib′が流れて正側の出力電源電圧+Vaを正側の第2スレッショールド電圧+V2まで低下させる(図2のP2参照)とともに、負側の出力電源電圧−Vbを負側の第2スレッショールド電圧−V2まで上昇させる(図2のP3参照)。なお、この領域では、正負の電源出力インピーダンスは比較的大きいので、小さな負荷電流(補正電流)で正側の出力電源電圧+Vaの上昇と負側の出力電源電圧−Vbの低下を抑制することができる。
【0119】
また、図2の「III」の状態は、補正電流が十分流れている期間と、「領域2」の状態
が混在している期間(負荷電流1A付近)とが混在した状態を示すものであり、スイッチング電源回路の出力インピーダンスが低い状態(補正電流を流しても、電圧の変動が起きにくい状態)である。
【0120】
この状態では、正側の出力電源電圧の絶対値|+Va|が負側の出力電源電圧の絶対値|−Vb|より小さいとき、負側の出力電源電圧の絶対値|−Vb|が負側の第1スレッショールド電圧−V1になるように(図2のP4参照)、補正電流Ib′が負荷抵抗R11に流れる。また、正側の出力電源電圧の絶対値|+Va|が負側の出力電源電圧の絶対値|−Vb|より大きいとき、正側の出力電源電圧の絶対値|+Va|が正側の第1スレッショールド電圧+V1になるように(図2のP5参照)、補正電流Ia′が負荷抵抗R6に流れ、アンバランスを解消しようとする。なお、この状態は、補正電流Ia′を流しても、電圧の変動が生じにくい状態であるので、補正回路に大きな負荷電流が流れて損失が過大にならないように、負荷抵抗R6及び負荷抵抗R11の値を設定している。
【0121】
もちろん、この発明の範囲は上述した実施の形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態で説明した電圧補正回路は、スイッチング電源回路に接続されることに限らず、例えば出力電圧を安定化させたい回路に接続してその出力電圧の電圧補正を行うようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】本発明に係るスイッチング電源回路を示す図である。
【図2】スイッチング電源回路における各部の波形図である。
【図3】従来のスイッチング電源回路の一例を示す図である。
【図4】従来のスイッチング電源回路における出力電源電圧と負荷電流との関係を示す図である。
【図5】「領域1」におけるスイッチング電源回路の出力電源電圧の波形を示す図である。
【図6】「領域2」におけるスイッチング電源回路の出力電源電圧の波形を示す図である。
【図7】「領域3」におけるスイッチング電源回路の出力電源電圧の波形を示す図である。
【図8】従来のスイッチング電源回路に接続される電圧補正回路の一例を示す図である。
【図9】従来のスイッチング電源回路に接続される他の電圧補正回路の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0123】
R1〜R11 抵抗
Q1 第1トランジスタ
Q2 第2トランジスタ
Q3 第3トランジスタ
Q4 第4トランジスタ
+Va 正の出力電源電圧
−Vb 負の出力電源電圧
ZD1,ZD2 ツェナーダイオード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正の電源電圧と負の電源電圧をそれぞれ出力する電源回路に接続され、前記正負の電源電圧の出力電圧値および出力バランスがずれると、前記正の電源電圧が供給される第1の負荷と前記負の電源電圧が供給される第2の負荷とにそれぞれ補正電流を流して当該ずれを補正する出力電圧補正回路であって、
前記第1の負荷に接続され、当該第1の負荷に流す補正電流を制御する第1の補正電流制御回路と、
前記第2の負荷に接続され、当該第2の負荷に流す補正電流を制御する第2の補正電流制御回路と、
前記電源回路から出力される正の出力電圧値が正の第1の電圧閾値よりも高い正の第2の電圧閾値以上に変動すると、前記第1の補正電流回路により前記第1の負荷に前記補正電流を流して前記正の出力電圧値を降下させる第1の出力電圧補正回路と、
前記電源回路から出力される負の出力電圧値が負の第1の電圧閾値よりも低い負の第2の電圧閾値以下に変動すると、前記第2の補正電流回路により前記第2の負荷に前記補正電流を流して前記負の電圧値を上昇させる第2の出力電圧補正回路と、
前記電源回路から出力される正の出力電圧値が前記正の第1の電圧閾値と前記正の第2の電圧閾値の間の電圧値に変動し、かつ、前記電源回路から出力される負の出力電圧値が前記負の第1の電圧閾値と前記負の第2の電圧閾値の間の電圧値に変動すると、前記正の出力電圧値の絶対値と前記負の出力電圧値の絶対値が等しくなるまで、両出力電圧値の絶対値の差分に応じた補正電流を出力電圧値の絶対値の大きい極性に対応する前記第1または第2の補正電流回路により当該極性に対応する前記第1または第2の負荷に流す第3の出力電圧補正回路と、を備えたことを特徴とする電源回路の出力電圧補正回路。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−197661(P2006−197661A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−3525(P2005−3525)
【出願日】平成17年1月11日(2005.1.11)
【出願人】(000000273)オンキヨー株式会社 (502)
【Fターム(参考)】