説明

電源装置

【課題】出力端から負荷端の間に存在するインダクタンスが変動する場合であっても、制御部がこれを正しく把握することができる電源装置を提供する。
【解決手段】DSP31は、インピーダンス可変回路24に制御パルス信号Sを出力して、センシング線17のセンシング端子16側におけるインピーダンスを可変させたときに、センシング電圧Vsの変動値ΔVから、出力端子4A,4Bと負荷5との間に存在するインダクタ18のインダクタンス値Lを推定するインダクタンス推定器35を備えている。こうすると、インピーダンス可変回路24に制御パルス信号Sを出力して、センシング線17のセンシング端子16側におけるインピーダンスを可変させたときに、インダクタンス推定器35が、センシング電圧Vsの変動値ΔVから、出力端子4Aと負荷5との間に存在するインダクタ18のインダクタンス値Lを推定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出力端子から負荷に至る負荷線の電圧降下を考慮して、負荷端にセンシング線を繋ぐことにより、負荷端電圧を検出する電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の電源装置として、例えば特許文献1には、直流電源からの入力電圧を直流出力電圧に変換する電源部として、FETなどのスイッチング素子と、このスイッチング素子のスイッチングにより、トランスを介して伝送される入力電圧が断続的に供給されるインダクタと、このインダクタに流れる電流を平滑化する出力コンデンサとを備え、インダクタと共に出力平滑回路を構成する出力コンデンサの両端間に負荷を接続することで、この負荷に出力電圧を供給するDC−DCコンバータが開示されている。
【0003】
また、この特許文献1では、電源部の出力電圧を監視して、スイッチング素子に供給する駆動信号のパルス導通幅を決定し、電源部を制御する制御部を備えている。
【特許文献1】特開2005−304273号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の電源装置は、次のような問題点がある。
【0005】
出力電圧が発生する電源装置の出力端子(出力端)には、前述の負荷が接続される。ところが、出力端から負荷の端部すなわち負荷端に至るまでの負荷線長が延びるに従って、負荷線の電気的な特性による制御系の影響が無視できなくなり、最適な制御が行なわれなくなる。
【0006】
こうした問題に対し、従来は負荷線の抵抗分による電圧降下を考慮して、出力端子の他にセンシング端子を電源装置に設け、このセンシング端子と負荷端との間に負荷線とは別なセンシング線を接続することで、出力端の電圧ではなく、負荷端の電圧が設定電圧に近づくような制御を行なう電源装置が提案されている。
【0007】
しかし、こうしたセンシング機能は、負荷線の抵抗成分に対しては有効であるものの、負荷線のインダクタンス成分を考慮したものではなく、負荷線長の変動に伴ない、負荷線のインダクタンスが増減したり、ユーザがノイズ低減のために、負荷線にインダクタを挿入接続する場合には、出力端から負荷端の間に存在するインダクタンスが変化したのを制御部が正確に把握できない。そのため、予め設定した制御パラメータのままでは、最適な応答特性でスイッチング素子に適切なパルス導通幅の駆動信号を供給できない懸念を生じる。
【0008】
そこで本発明は、こうした問題に鑑み、出力端と負荷端との間に存在するインダクタンスが変動する場合であっても、制御部がこれを正しく把握することができる電源装置を提供することをその第1の目的とする。
【0009】
また本発明の第2の目的は、最適な応答特性でスイッチング素子に適切なパルス導通幅の駆動信号を供給できる電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記第1の目的を達成するために、インダクタおよび出力コンデンサからなる出力平滑回路を備え、スイッチング素子のスイッチングにより、前記インダクタに入力電圧を断続的に供給すると共に、前記インダクタに流れる電流を前記出力コンデンサで平滑して、前記出力コンデンサの両端に接続する出力端子間に接続可能な負荷に出力電圧を供給する電源部と、前記負荷の端部にセンシング線を介して接続可能なセンシング端子とを備え、このセンシング端子におけるセンシング電圧を監視することにより、前記スイッチング素子に供給する駆動信号のパルス導通幅を決定し、前記電源部を制御する制御部とを備えた電源装置において、前記センシング線のセンシング端子側におけるインピーダンスを可変させるインピーダンス可変回路を備え、前記制御部は、前記インピーダンス可変回路に制御パルス信号を出力して、前記センシング線の前記センシング端子側におけるインピーダンスを可変させたときに、前記センシング電圧の変動値から、前記出力端子と前記負荷との間に存在するインダクタのインダクタンス値を推定するインダクタンス推定器を備えた構成としている。
【0011】
この場合の前記制御部は、監視した前記センシング電圧の検出レベルを入力として、制御パラメータを含む所望の伝達関数を持つフィルタにより、前記電源部が所望のセンシング電圧を生成するための操作量を算出する操作量算出部と、前記操作量に応じた前記パルス導通幅の駆動信号を、前記スイッチング素子に供給する駆動信号生成部とを備え、前記推定した前記インダクタのインダクタンス値に応じて、前記制御パラメータの値を可変するかまたは前記フィルタの構成を変えることで、前記伝達関数を可変する構成とするのが好ましい。
【0012】
また本発明は、上記第1の目的を達成するために、インダクタおよび出力コンデンサからなる出力平滑回路を備え、スイッチング素子のスイッチングにより、前記インダクタに入力電圧を断続的に供給すると共に、前記インダクタに流れる電流を前記出力コンデンサで平滑して、前記出力コンデンサの両端間に接続可能な負荷に出力電圧を供給する電源部と、前記出力電圧を監視して、前記スイッチング素子に供給する駆動信号のパルス導通幅を決定し、前記電源部を制御する制御部とを備えた電源装置において、前記制御部は、前記出力電圧と前記負荷の両端間に発生する負荷端電圧とを監視し、所定期間における前記出力端子と前記負荷との間の負荷線電流の変動値と、前記所定期間中の前記出力電圧および前記負荷端電圧の各値とにより、前記出力端子と前記負荷との間に存在するインダクタのインダクタンス値を推定するインダクタンス推定器を備えた構成としている。
【0013】
この場合の前記制御部は、監視した前記出力電圧の検出レベルを入力として、制御パラメータを含む所望の伝達関数を持つフィルタにより、前記電源部が所望の出力電圧を生成するための操作量を算出する操作量算出部と、前記操作量に応じた前記パルス導通幅の駆動信号を、前記スイッチング素子に供給する駆動信号生成部とを備え、前記推定した前記インダクタのインダクタンス値に応じて、前記制御パラメータの値を可変するかまたは前記フィルタの構成を変えることで、前記伝達関数を可変する構成とするのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、インピーダンス可変回路に制御パルス信号を出力して、センシング線のセンシング端子側におけるインピーダンスを可変させたときに、インダクタンス推定器が、センシング電圧の変動値から、負荷の端部とセンシング端子との間に存在するインダクタのインダクタンス値、ひいては出力端子と負荷との間に存在するインダクタのインダクタンス値を推定することができる。そのため、ユーザ側で出力端子と負荷との間に存在するインダクタのインダクタンス値を変動させた場合であっても、制御部に備えたインダクタンス推定器がセンシング電圧を監視することで、これを正しく把握することが可能になる。
【0015】
請求項2の発明によれば、推定したインダクタのインダクタンス値に応じて、操作量算出部に記憶される制御パラメータの値を可変するかまたはフィルタの構成を変えることで、伝達関数を適切に変更することができるので、この制御パラメータを含む所望の伝達関数を持つフィルタから算出された操作量を受けて、駆動信号生成部が最適な応答特性でスイッチング素子に適切なパルス導通幅の駆動信号を供給することが可能になる。
【0016】
請求項3の発明によれば、例えば出力電圧の立上がり時を利用して、出力電圧と負荷端電圧を監視するインダクタンス推定器が、所定期間における負荷線電流の変動値と、所定期間中の出力電圧および負荷端電圧の各値から、出力端子と負荷との間に存在するインダクタのインダクタンス値を推定することができる。そのため、センシング端子を備えていない電源装置において、ユーザ側で出力端子と負荷との間に存在するインダクタのインダクタンス値を変動させた場合であっても、制御部に備えたインダクタンス推定器がセンシング電圧を監視することで、これを正しく把握することが可能になる。
【0017】
請求項4の発明によれば、推定したインダクタのインダクタンス値に応じて、操作量算出部に記憶される制御パラメータの値を可変するかまたはフィルタの構成を変えることで、伝達関数を適切に変更することができるので、この制御パラメータを含む所望の伝達関数を持つフィルタから算出された操作量を受けて、駆動信号生成部が最適な応答特性でスイッチング素子に適切なパルス導通幅の駆動信号を供給することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明における電源装置の好ましい一実施形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
同図において、1は電源装置の入力端子2A,2B間に直流入力電圧Viを供給する直流電源、3はこの入力電圧Viを出力電圧Voに変換して、これを出力端子4A,4B間から負荷5に供給する電源部である。なお、ここでの負荷5は、一定の負荷電流Ioを発生する電流源として等価的に示されている。
【0020】
電源部3は、入力電圧Viよりも低い出力電圧Voを負荷5に供給する非絶縁の降圧型コンバータとして、整流および転流用の各スイッチング素子11,12と、これらの各スイッチング素子11,12のスイッチングにより生じる電流を平均化する出力平滑回路としてのチョークコイル13および出力コンデンサ14と、を備えている。そして、各スイッチング素子11,12には後述するPWM信号発生器24からのパルス駆動信号が交互に与えられ、整流用スイッチング素子11がオン,転流用スイッチング素子12がオフしている時には、入力電圧Viと出力電圧Voとの差電圧がチョークコイル13に印加され、直流電源1から整流用スイッチング素子11を通してチョークコイル13や負荷5に電力が供給されると共に、整流用スイッチング素子11がオフ,転流用スイッチング素子12がオンしている時には、チョークコイル13の両端間電圧が出力電圧Voと等しくなり、それまでチョークコイル13に蓄えられていたエネルギーが、出力コンデンサ14および負荷5に送り出される。こうして、各スイッチング素子11,12のスイッチングにより、インダクタであるチョークコイル13に入力電圧Viが断続的に供給され、当該チョークコイル13がエネルギーの蓄積と放出を繰り返すと共に、チョークコイル13に流れるインダクタ電流iLが出力コンデンサ14で平滑され、この出力コンデンサ14の両端間に接続した負荷5に、出力電圧Voが供給されるようになっている。
【0021】
電源装置には、出力端子4A,4Bから負荷5の両端間に至る負荷線15の電圧降下を考慮して、負荷5の両端間(負荷端)の電圧を検知可能にするセンシング端子16が設けられる。これにより、電圧の検出点である負荷5の端部とセンシング端子16との間にはセンシング線17が接続される。図1では、出力端子4A,4Bと負荷5との間にインダクタ18とコンデンサ19とによるローパスフィルタ20が挿入接続される。このローパスフィルタ20は、負荷5にノイズ成分が侵入するのを防止するために、ユーザが必要に応じて付加するもので、出力電圧Voの直流成分はそのままローパスフィルタ20を通過するものの、出力電圧Voに含まれる高周波ノイズ成分は遮断される。
【0022】
また、ここではセンシング線17そのもののインダクタンス成分をインダクタ21として記している。前述したローパスフィルタ20を設けない構成では、負荷線15のインダクタンス値Lは、センシング線17そのもののインダクタンス値Lと近似するものと考えられる(L≒L)。一方、ローパスフィルタ20を設けた場合には、このローパスフィルタ20を構成するインダクタ18(インダクタンス値L)に近似するインダクタンス値Lのインダクタ21をセンシング線17に挿入接続する。さもなければ、インダクタ21の代わりに、他の位相遅れ素子として所定の抵抗を挿入接続してもよい。
【0023】
24は、センシング線17のセンシング端子16側端部におけるインピーダンスを可変するインピーダンス可変回路である。このインピーダンス可変回路24は、コンデンサ25とFETなどのスイッチ素子26との直列回路からなり、その一端はセンシング端子16に接続されると共に、他端は例えばグランドなどの固定電位に接続される。これにより、スイッチ素子26がオンしたときに、センシング端子16とグランドとの間にインピーダンス可変素子であるコンデンサ25が接続され、センシング線17のセンシング端子16側端部のインピーダンスが可変するようになっている。
【0024】
31は、電源部3の動作を制御する制御部としてのディジタルシグナルプロセッサ(DSP)である。このDSP31は、A/D変換器32と、PWM(パルス幅変調)制御器33と、PWM信号発生器34と、インダクタンス推定器35と、キャリア波生成手段36とを内蔵している。A/D変換器32は、アナログ信号である入力端子4A,4B間に発生する出力電圧Voの他に、センシング端子16におけるセンシング電圧Vsを、DSP31の内部で処理可能なディジタル信号に変換するものである。PWM制御器33は、センシング電圧Vsまたは出力電圧Voに応じたA/D変換器32からのディジタル検出信号と、図示しない基準電源で生成された基準電圧Vrefとを入力として、内蔵する一乃至複数の制御パラメータを含む所望の伝達関数を持つフィルタ(図示せず)により、電源部3が所望のセンシング電圧Vsまたは出力電圧Voを生成するための操作量uを算出する操作量算出部としての機能を備えている。駆動信号生成部としてのPWM信号発生器34は、前記PWM制御器33で算出された操作量uと、キャリア波生成手段36で生成される固定周期の鋸波との比較により、操作量uに応じたパルス導通幅の駆動信号をそれぞれ生成して、これをスイッチング素子11,12のゲートに供給するものである。
【0025】
インダクタンス推定器35は、所定のタイミングでスイッチ素子26をオンにする制御パルス信号Sを当該スイッチ素子26に送出し、A/D変換器32で得られたセンシング電圧Vsのディジタル検出信号から、制御パルス信号Sの送出中において、所定期間ΔT中のセンシング電圧Vsの変動値ΔVを決定することで、負荷5の端部とセンシング端子16との間に存在するインダクタ21のインダクタンス値L、ひいては出力端子4Aと負荷5との間に存在するインダクタ18のインダクタンス値Lを推定するものである。なお、ここでいうセンシング電圧Vsの変動値ΔVは、制御パルス信号Sの送出開始のタイミングから所定期間ΔT後におけるセンシング電圧Vsの電圧値、若しくは制御パルス信号Sの送出中におけるセンシング電圧Vsの傾きから、インダクタンス推定器35により算出することができる。この場合のインダクタンス推定器35は、センシング電圧Vsの電圧レベルを監視する機能を必要とする。
【0026】
また別な変形例として、インダクタンス推定器35は、負荷5の両端間電圧(負荷端電圧)Vおよび出力電圧Voの各値と、負荷線15を流れる電流(負荷線電流)ILLの各値より、負荷5の端部とセンシング端子16との間に存在するインダクタ21のインダクタンス値Lとを推定し、さらにはコンデンサ19の容量Cをも推定する構成であってもよい。この場合は、前記インピーダンス可変回路24を設ける必要はなく、またインダクタンス推定値35も、前記制御パルス信号Sの送出部を必要としない。ここでのインダクタンス推定値35は、出力電圧Voが立ち上がるタイミングで、インダクタ21のインダクタンス値Lやコンデンサ19の容量Cを推定する。
【0027】
この変形例では、負荷線電流ILLを直接監視する代わりに、入力電圧Viおよび出力電圧Voの各電圧レベルを監視し、所定期間ΔT中における駆動信号のデューティの平均値から、インダクタンス推定器35が負荷線電流ILLを推定する構成であってもよい。但しこの場合は、インダクタンス推定器35に、出力コンデンサ14の容量Cを記憶させておく必要がある。駆動信号のデューティは、PWM制御器33で算出された操作量uと、キャリア波生成手段36から発生する鋸波の振幅の各情報をインダクタンス推定器35が取り込めば、容易に導くことができる。
【0028】
そして上記何れの例でも、インダクタンス推定器35が出力コンデンサ14の容量を推定すると、この推定した結果に基づき、制御系の定数としてPWM制御器33に記憶された制御パラメータの値を書き替えるかまたはフィルタの構成を変えることで、伝達関数を可変することで、出力端子4Aと負荷5との間に存在するインダクタ18の変動に対応して制御系を最適化できるようになっている。
【0029】
なお、電源部3の変形例として、図1では非絶縁の降圧型コンバータの回路構成を示しているが、他の非絶縁または絶縁型のコンバータを採用してもよい。例えば絶縁型のコンバータとして、フォワード型,プッシュ・プル型,ハーフブリッジ型,フルブリッジ型など、各種回路構成の電源部3を代わりに用いることが可能である。
【0030】
次に、上記構成における作用を説明する。先ず、定常時における電源部3の動作を説明すると、各スイッチング素子11,12には後述するPWM信号発生器34からのパルス駆動信号が交互に与えられ、整流用スイッチング素子11がオン,転流用スイッチング素子12がオフしている時には、入力電圧Viと出力電圧Voとの差電圧がチョークコイル13に印加され、直流電源1から整流用スイッチング素子11を通してチョークコイル13や負荷5に電力が供給されると共に、整流用スイッチング素子11がオフ,転流用スイッチング素子12がオンしている時には、チョークコイル13の両端間電圧が出力電圧Voと等しくなり、それまでチョークコイル13に蓄えられていたエネルギーが、出力コンデンサ14および負荷5に送り出される。
【0031】
一方、電源装置の起動時における動作を説明すると、電源装置を起動させるために、入力端子2A,2B間に直流入力電圧Viが供給され、DSP31としての動作が開始すると、PWM制御器33からPWM信号発生器34に、出力電圧Voを徐々に上昇させるような操作量uが与えられる。これを受けてPWM信号発生器34は、PWM制御器33からの操作量uの電圧レベルが、キャリア波生成手段36で生成される鋸波の電圧レベルを越えると、整流用スイッチング素子11がオンし、転流用スイッチング素子12がオフするようなパルス駆動信号を生成出力し、逆に操作量uの電圧レベルが、キャリア波生成手段36からの鋸波の電圧レベルを越えない場合は、整流用スイッチング素子11がオフし、転流用スイッチング素子12がオンするようなパルス駆動信号を生成出力する。これにより、チョークコイル13を通して出力コンデンサ14に充電電流が流れ、チョークコイル13に一定のインダクタ電流が流れると共に、出力コンデンサ14の両端間電圧すなわち出力電圧Voや、負荷端電圧Vおよびセンシング電圧Vsが徐々に上昇する。
【0032】
やがて、センシング電圧Vsが所定値に達すると、前述の定常時に移行し、センシング電圧Vsに応じたA/D変換器32からのディジタル検出信号と、基準電圧Vrefとを入力として、当該センシング電圧Vsが設定電圧に一致するような操作量uがPWM制御器33により算出され、これがPWM信号発生器34に送出される。これによりPWM信号発生器34は、前記PWM制御器33からの操作量uと、キャリア波生成手段36で生成される鋸波との比較により、操作量uに応じたパルス導通幅の駆動信号をそれぞれ生成して、これをスイッチング素子11,12のゲートに供給し、センシング電圧Vsが設定電圧に一致するようなスイッチング制御が行なわれる。
【0033】
ここでユーザがローパスフィルタ20やインダクタ21を意図的に取付けていない場合、インダクタンス推定器35は、出力電圧Voが一方的に上昇している起動中か、或いは定常時直後に、図2に示すように、所定のタイミングでスイッチ素子26をオンにする制御パルス信号Sを当該スイッチ素子26に送出し、センシング端子16のインピーダンスを変化させる。これによりセンシング電圧Vsの電圧レベルは、制御パルス信号Sの送出直後に0になり、そこから負荷線17そのもののインダクタ21に依存した傾斜で、徐々に上昇する。インダクタンス推定器35は、A/D変換器32を通じてセンシング電圧Vsのディジタル検出信号を取り込み、制御パルス信号Sの送出開始のタイミングから所定期間ΔT後におけるセンシング電圧Vsの電圧値、若しくは制御パルス信号Sの送出中におけるセンシング電圧Vsの傾きから、所定期間ΔT中のセンシング電圧Vsの変動値ΔVを決定し、センシング線17そのもののインダクタ21のインダクタンス値Lを推定する。そしてインダクタンス値Lが推定されれば、インダクタンス推定器35は、この推定したインダクタンス値Lが負荷線15そのもののインダクタ18のインダクタンス値Lと近い値であると見なし、これをインダクタンス値Lとして推定する。
【0034】
一方、ユーザが出力端子4A,4Bと負荷5との間にローパスフィルタ20を設けた場合にも、インダクタンス推定器35によって、ローパスフィルタ20を構成するインダクタ18のインダクタンス値Lを正しく推定できるようにする。そのためには、インダクタ18とほぼ同じインダクタンス値Lのインダクタ21を、予めセンシング線17に挿入接続する。この場合も、インダクタンス推定器35は、出力電圧Voが一方的に上昇している起動中か、或いは定常時直後に、図2に示すように、所定のタイミングでスイッチ素子26をオンにする制御パルス信号Sを当該スイッチ素子26に送出し、センシング端子16のインピーダンスを変化させる。これによりセンシング電圧Vsの電圧レベルは、制御パルス信号Sの送出直後に0になり、そこから負荷線17そのもののインダクタ21に依存した傾斜で、徐々に上昇する。インダクタンス推定器35は、A/D変換器32を通じてセンシング電圧Vsのディジタル検出信号を取り込み、制御パルス信号Sの送出開始のタイミングから所定期間ΔT後におけるセンシング電圧Vsの電圧値、若しくは制御パルス信号Sの送出中におけるセンシング電圧Vsの傾きから、所定期間ΔT中のセンシング電圧Vsの変動値ΔVを決定し、センシング線17に挿入接続されたインダクタ21のインダクタンス値Lを推定する。そしてインダクタンス値Lが推定されれば、インダクタンス推定器35は、この推定したインダクタンス値Lがインダクタ18のインダクタンス値Lと近い値であると見なし、これをインダクタンス値Lとして推定する。
【0035】
なお、上記一連の動作で、スイッチ素子26がオンしている間は、センシング電圧Vsによって制御系のDSP31が誤った操作量uを算出しないように、スイッチ素子26がオンする直前のセンシング電圧Vsの値を用いて、PWM制御器33が操作量uを算出するか、さもなければスイッチ素子26のオン動作の影響を受けない出力電圧Voを取り込んで、この出力電圧Voと基準電圧Vrefとにより、操作量uを算出するのが好ましい。
【0036】
別な変形例において、インダクタンス推定器35は、出力電圧Voが一方的に上昇している所定期間ΔT中に、A/D変換器32を通じて負荷端電圧V,出力電圧Voおよびの負荷線電流ILLの各ディジタル検出信号を取り込む。そして、所定期間ΔTの開始時点と終了時点における各負荷端電圧Vの差から求められる負荷端電圧Vの変動値ΔVと、所定期間ΔT中に取り込んだ負荷線電流ILLの平均値ILLaveとをそれぞれ算出し、次の式によってユーザが装着したコンデンサ19の容量Cを推定する。
【0037】
【数1】

【0038】
また、出力端子4Aと負荷5との間に存在するインダクタ18のインダクタンス値Lも、インダクタンス推定器35によって次の式で推定される。
【0039】
【数2】

【0040】
ここで、負荷線電流ILLの変動値ΔILLは、所定期間ΔTの開始時点と終了時点における各負荷線電流ILLの差から求めることができる。
【0041】
また、インダクタンス推定器35に出力コンデンサ14の容量Cが記憶されていれば、入力電圧Viおよび出力電圧Voの各電圧レベルと、駆動信号のデューティから、負荷線電流ILLを推定できる。
【0042】
具体的には、先ず次の式によって、所定期間ΔT中の入力電圧Viおよび出力電圧Voの各電圧レベルと、駆動信号のデューティとから、チョークコイル13を流れるインダクタ電流ILfを算出する。
【0043】
【数3】

【0044】
このインダクタ電流ILfから、次の式で負荷線電流ILLを推定する。
【0045】
【数4】

【0046】
なお、上記数4で得られる負荷線電流ILLは、所定期間ΔT中の平均値であり、前記数1の平均値ILLaveとしてそのまま利用することができる。また、数2の変動値ΔILLは、数4で得られる負荷線電流ILLを異なる時間で2回算出し、その偏差を求めることで得られる。つまり数3の所定期間ΔTは、数4の所定期間ΔTよりも長い。上記数3および数4により、主電源部3に対する電圧監視だけで、負荷線電流ILLを推定することが可能になる。
【0047】
こうして、インダクタンス推定器35がインダクタ18のインダクタンス値Lと、コンデンサ19の容量Cを推定すると、この推定した結果がPWM制御器33に送り出される。PWM制御器33は、インダクタンス推定器35で推定されたインダクタ18のインダクタンス値Lと、コンデンサ19の容量Cとに応じて、制御パラメータを最適な値に書き替えるかまたはフィルタの構成を変えることで、伝達関数を可変し、以後定常時には、この制御パラメータを含む所望の伝達関数を持つフィルタによって、出力電圧Voが安定化する操作量uを算出する。
【0048】
以上のように本実施例では、チョークコイル13および出力コンデンサ14からなる出力平滑回路を備え、スイッチング素子11,12のスイッチングにより、チョークコイル13に入力電圧Viを断続的に供給すると共に、チョークコイル13に流れるインダクタ電流ILfを出力コンデンサ14で平滑して、この出力コンデンサ14の両端に接続する出力端子4A,4B間に接続可能な負荷5に、出力電圧Voを供給する電源部3と、負荷5の端部にセンシング線を介して接続可能なセンシング端子16とを備え、このセンシング端子16におけるセンシング電圧Vsを監視することにより、スイッチング素子11,12に供給する駆動信号のパルス導通幅を決定し、電源部3を制御する制御部としてのDSP31を備えた電源装置において、センシング端子16にインピーダンス可変回路24を接続すると共に、前記DSP31は、インピーダンス可変回路24に制御パルス信号Sを出力して、センシング線17のセンシング端子16側におけるインピーダンスを可変させたときに、センシング電圧Vsの変動値ΔVから、出力端子4A,4Bと負荷5との間に存在するインダクタ18のインダクタンス値Lを推定するインダクタンス推定器35を備えている。
【0049】
こうすると、インピーダンス可変回路24に制御パルス信号Sを出力して、センシング線17のセンシング端子16側におけるインピーダンスを可変させたときに、インダクタンス推定器35が、センシング電圧Vsの変動値ΔVから、負荷5の端部とセンシング端子16との間に存在するインダクタ21のインダクタンス値L、ひいては出力端子4Aと負荷5との間に存在するインダクタ18のインダクタンス値Lを推定することができる。そのため、ユーザ側で出力端子4Aと負荷5との間に存在するインダクタ18のインダクタンス値Lを変動させた場合であっても、DSP31に備えたインダクタンス推定器35がセンシング電圧Vsを監視することで、これを正しく把握することが可能になる。
【0050】
また別な例として、センシング端子16を有しない電源装置では、チョークコイル13および出力コンデンサ14からなる出力平滑回路を備え、スイッチング素子11,12のスイッチングにより、チョークコイル13に入力電圧Viを断続的に供給すると共に、チョークコイル13に流れるインダクタ電流ILfを出力コンデンサ14で平滑して、この出力コンデンサ14の両端に接続する出力端子4A,4B間に接続可能な負荷5に、出力電圧Voを供給する電源部3を備え、この出力端子4A,4B間における出力電圧Voを監視することにより、スイッチング素子11,12に供給する駆動信号のパルス導通幅を決定し、電源部3を制御する制御部としてのDSP31を備えた構成を採用している。この場合のDSP31は、少なくとも出力電圧Voおよび負荷5の両端間に発生する負荷端電圧Vと、場合によっては出力端子4A,4Bと負荷5との間の負荷線電流ILLを監視し、所定期間ΔTにおける負荷線電流ILLの変動値ΔILLと、前記所定期間ΔT中における出力電圧Voおよび負荷端電圧Vの各平均値とにより、上記数2〜数4の各式を利用して、インダクタ18のインダクタンス値Lを推定するインダクタンス推定器35を備えていることが好ましい。
【0051】
こうすると、例えば出力電圧Voの立上がり時を利用して、出力電圧Voと負荷端電圧Vを監視するインダクタンス推定器35が、所定期間ΔTにおける負荷線電流ILLの変動値ΔILLと、所定期間ΔT中の出力電圧Voおよび負荷端電圧Vの各値から、インダクタ18のインダクタンス値Lを推定することができる。そのため、センシング端子16を備えていない電源装置において、ユーザ側で出力端子4Aと負荷5との間に存在するインダクタ18のインダクタンス値Lを変動させた場合であっても、DSP31に備えたインダクタンス推定器35がセンシング電圧Vsを監視することで、これを正しく把握することが可能になる。
【0052】
なお、上記何れの場合も、DSP31は、監視したセンシング電圧Vsまたは出力電圧Voの検出レベルを入力として、制御パラメータを含む所望の伝達関数を持つフィルタにより、電源部3が所望のセンシング電圧Vsまたは出力電圧Voを生成するための操作量uを算出する操作量算出部としてのPWM制御器33と、操作量uに応じた前記パルス導通幅の駆動信号を、スイッチング素子11,12に供給する駆動信号生成部としてのPWM信号発生器34を備え、推定したインダクタ18のインダクタンス値Lに応じて、制御パラメータの値を可変するかまたはフィルタの構成を変えることで、伝達関数を可変する構成とするのが好ましい。
【0053】
こうすると、推定したインダクタ18のインダクタンス値Lに応じて、PWM制御器33に記憶される制御パラメータの値を可変するかまたはフィルタの構成を変えることで、伝達関数を適切に変更することができるので、この制御パラメータを含む所望の伝達関数を持つフィルタから算出された操作量uを受けて、PWM信号発生器34が最適な応答特性でスイッチング素子11,12に適切なパルス導通幅の駆動信号を供給することが可能になる。
【0054】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲において種々の変形実施が可能である。図1に示す電源装置の回路構成はあくまでも一例に過ぎず、同等の機能を実現する別な回路構成を採用してもよいことは勿論である。例えば、DSP31に代わって、アナログ信号をそのまま演算処理する制御部を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一実施形態における電源装置の回路構成図である。
【図2】同上、負荷端電圧Vと、センシング電圧Vsと、制御パルス信号Sの各動作波形図である。
【符号の説明】
【0056】
3 電源部
11,12 スイッチング素子
13 チョークコイル(インダクタ)
14 出力コンデンサ
31 制御部(DSP)
33 PWM制御器(操作量算出部)
34 PWM信号発生器(駆動信号生成部)
35 インダクタンス推定器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インダクタおよび出力コンデンサからなる出力平滑回路を備え、スイッチング素子のスイッチングにより、前記インダクタに入力電圧を断続的に供給すると共に、前記インダクタに流れる電流を前記出力コンデンサで平滑して、前記出力コンデンサの両端に接続する出力端子間に接続可能な負荷に出力電圧を供給する電源部と、
前記負荷の端部にセンシング線を介して接続可能なセンシング端子とを備え、このセンシング端子におけるセンシング電圧を監視することにより、前記スイッチング素子に供給する駆動信号のパルス導通幅を決定し、前記電源部を制御する制御部とを備えた電源装置において、
前記センシング線のセンシング端子側におけるインピーダンスを可変させるインピーダンス可変回路を備え、
前記制御部は、前記インピーダンス可変回路に制御パルス信号を出力して、前記センシング線の前記センシング端子側におけるインピーダンスを可変させたときに、前記センシング電圧の変動値から、前記出力端子と前記負荷との間に存在するインダクタのインダクタンス値を推定するインダクタンス推定器を備えたことを特徴とする電源装置。
【請求項2】
前記制御部は、監視した前記センシング電圧の検出レベルを入力として、制御パラメータを含む所望の伝達関数を持つフィルタにより、前記電源部が所望のセンシング電圧を生成するための操作量を算出する操作量算出部と、
前記操作量に応じた前記パルス導通幅の駆動信号を、前記スイッチング素子に供給する駆動信号生成部とを備え、
前記推定した前記インダクタのインダクタンス値に応じて、前記制御パラメータの値を可変するかまたは前記フィルタの構成を変えることで、前記伝達関数を可変する構成としたことを特徴とする請求項1記載の電源装置。
【請求項3】
インダクタおよび出力コンデンサからなる出力平滑回路を備え、スイッチング素子のスイッチングにより、前記インダクタに入力電圧を断続的に供給すると共に、前記インダクタに流れる電流を前記出力コンデンサで平滑して、前記出力コンデンサの両端間に接続可能な負荷に出力電圧を供給する電源部と、
前記出力電圧を監視して、前記スイッチング素子に供給する駆動信号のパルス導通幅を決定し、前記電源部を制御する制御部とを備えた電源装置において、
前記制御部は、前記出力電圧と前記負荷の両端間に発生する負荷端電圧とを監視し、所定期間における前記出力端子と前記負荷との間の負荷線電流の変動値と、前記所定期間中の前記出力電圧および前記負荷端電圧の各値とにより、前記出力端子と前記負荷との間に存在するインダクタのインダクタンス値を推定するインダクタンス推定器を備えたことを特徴とする電源装置。
【請求項4】
前記制御部は、監視した前記出力電圧の検出レベルを入力として、制御パラメータを含む所望の伝達関数を持つフィルタにより、前記電源部が所望の出力電圧を生成するための操作量を算出する操作量算出部と、
前記操作量に応じた前記パルス導通幅の駆動信号を、前記スイッチング素子に供給する駆動信号生成部とを備え、
前記推定した前記インダクタのインダクタンス値に応じて、前記制御パラメータの値を可変するかまたは前記フィルタの構成を変えることで、前記伝達関数を可変する構成としたことを特徴とする請求項3記載の電源装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−72004(P2009−72004A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−238836(P2007−238836)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(390013723)TDKラムダ株式会社 (272)
【Fターム(参考)】