説明

電源装置

【課題】ボディからケースの接地を介して電源供給ユニットに至る電流の経路に異常が生じているのを判定する。
【解決手段】車両のボディ10からDC/DCコンバータ30に電流を戻す本来の経路である接地ライン28を経由する経路に電流センサ52が取り付けられた微小電流回路50を設け、微小電流回路50に流れる電流Izから接地ライン28を経由する経路に流れる電流Iaを計算すると共に計算した電流IaのDC/DCコンバータ30からの出力電流Ioutに対する割合である戻り電流割合を計算し、戻り電流割合が値0.7以上で値0.9未満のときにはDC/DCコンバータ30からの出力電流を許容される最大電流の70%までに制限し、戻り電流割合が値0.7未満のときにはD/DCコンバータ30からの出力を禁止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源装置に関し、詳しくは、電力を消費する少なくとも一つの負荷を有する負荷装置のボディにケースが固定および接地されると共にケースに接地され、負荷の電力供給に際して負荷装置のボディから電流が戻るように設計された回路に組み込まれた電源供給ユニットを備える電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電源装置としては、バッテリから負荷への電力を遮断する遮断器を備え、負荷への出力電流と負荷から遮断機に戻る戻り電流との差分が設定値を超えているときには遮断器により電源を遮断するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、こうした構成により、外部に漏電電流が流れている場合には、即座に電源を遮断し、漏電による感電を効果的に防いでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−194807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電源装置としては、負荷に電力供給したときに負荷からの戻り電流を負荷や電源装置が組み込まれた負荷装置(例えば、車両など)のボディから得るようにするために、負荷をボディに接地し、電源供給を行なう電源供給ユニットを電源装置のケースに接地すると共に電源装置をボディに固定および接地するものがある。この電源装置では、電源装置のボディへの接地を介して戻り電流の大半を得ているが、僅かではあるが、シールド線や電源装置のコントロールユニットの接地などの他の経路に戻り電流が流れる。この場合、電源装置をボディに固定するためのボルトが緩むなどして電源装置のボディへの接地に異常が生じたときや電源供給ユニットのケースへの接地に異常が生じたときには、他の経路に予期しない大電流が流れ、シールド線の断線などの不都合が生じてしまう。
【0005】
本発明の電源装置は、ボディからケースの接地を介して電源供給ユニットに至る電流の経路に異常が生じているのを判定することを主目的とし、こうした異常に対処することを更なる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電源装置は、上述の目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の電源装置は、
電力を消費する少なくとも一つの負荷を有する負荷装置のボディにケースが固定および接地されると共に前記ケースに接地され、前記負荷の電力供給に際して前記負荷装置のボディから電流が戻るように設計された回路に組み込まれた電源供給ユニットを備える電源装置であって、
前記ケースの前記負荷装置のボディへの接地の途中から前記電源供給ユニットに微小な電流を戻すよう配線された微小電流回路と、
前記微小電流回路に流れる電流を検出する電流検出センサと、
前記検出された電流に基づいて前記負荷装置のボディから前記電源供給ユニットに戻る電流を推定すると共に該推定した電流が前記負荷への電力供給の出力電流に対して所定割合未満となったときに異常と判定する異常判定手段と、
を備えることを要旨とする。
【0008】
この本発明の電源装置では、ケースのボディへの接地の途中から電源供給ユニットに微小な電流を戻すよう配線された微小電流回路に流れる電流を検出し、この検出した電流に基づいて負荷装置のボディから電源供給ユニットに戻る電流を推定する。そして、推定した電流が負荷への電力供給の出力電流に対して所定割合未満となったときに異常と判定する。これにより、電源装置のボディへの接地や電源供給ユニットのケースへの接地等に異常が生じているなどの負荷装置のボディからケースの接地を介して電源供給ユニットに至る経路に異常が生じているのをより確実に判定することができる。ここで、負荷装置のボディから電源供給ユニットに戻る電流Iaは、負荷装置のボディからケースの接地を介して電源供給ユニットに至る経路の微少電流回路との分岐後の抵抗をRa,負荷装置のボディからケースの接地を介して電源供給ユニットに至る経路のうち微少電流回路との分岐後に流れる電流をIa2,電流検出センサを含めた微小電流回路の抵抗をRz,微小電流回路に流れる電流をIzとすると、Ra・Ia2=Rz・Iz,Ia=Ia2+Izとなるから、Ia=(Rz/Ra−1)・Izにより計算することができる。なお、Ia2>>Izとすれば、I=(Rz/Ra)・Izによっても計算することができるから、Ia2>>Izとなるように電流検出センサを含む微小電流回路を設計するのが好ましい。
【0009】
こうした本発明の電源装置において、前記異常判定手段により異常と判定されたときには前記電源供給ユニットから前記負荷への電力供給を制限または禁止する制限禁止手段を備えるものとすることもできる。こうすれば、負荷装置のボディからケースの接地を介して電源供給ユニットに至る電流の経路とは異なる電流の経路に流れる電流を小さくしたりなくしたりすることができるから、この異なる電流の経路に異常が生じるのを抑制することができる。ここで、電力供給の制限には、電源供給ユニットから負荷へ供給する電力を最大電力の70%や60%或いは50%などにすることが想定される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施例としての電源装置20が組み込まれた車両の電気系の一部を模式的に示す構成図である。
【図2】図1の電気系の等価回路の一例を示す説明図である。
【図3】電子制御ユニット40により実行される異常判定処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0012】
図1は、本発明の一実施例としての電源装置20が組み込まれた車両の電気系の一部を模式的に示す構成図である。実施例の電源装置20は、図示するように、車両の複数の補機12に電力供給するDC/DCコンバータ30と、このDC/DCコンバータを制御する電子制御ユニット40とを備え、電源装置20のケース22は、接地ライン28と共に図示しないボルトにより車両のボディ10に取り付けられている。
【0013】
DC/DCコンバータ30は、電流センサ34が取り付けられた出力ライン36により補機12に接続されていると共に、接地ライン38によりケース22に接地されている。
【0014】
接地ライン28には、途中から分岐して電源装置20のケース22に接続する微小電流回路50が取り付けられており、微小電流回路50にはこの回路に流れる電流を検出する電流センサ52が取り付けられている。微小電流回路50は、接地ライン28に比して微小な電流しか流れないようにその抵抗値が設計されている。
【0015】
電子制御ユニット40は、図示しないCPUを中心に構成されたマイクロコンピュータとして構成されており、図示しないROMやRAM,入力ポート,出力ポートなどを備える。電子制御ユニット40の入力ポートには、電流センサ34からのDC/DCコンバータ30の出力としての電流Ioutや電流センサ52からの微小電流回路50に流れる電流Izが入力されており、電子制御ユニット40の出力ポートからは、DC/DCコンバータ30への駆動制御信号が出力されている。
【0016】
また、電源装置20は、シールド線などが接地ライン16により接地されていると共に、電子制御ユニット40に電力供給する図示しない低電圧系が接地ライン18により接地されている。
【0017】
DC/DCコンバータ30からの出力電流Ioutは、出力ライン36により補機12に供給され、補機12で消費された後、補機12の接地ライン14を介して車両のボディ10に至り、主として電源装置20のケース22に取り付けられた接地ライン28と接地ライン38とを経由する経路によりDC/DCコンバータに戻ってくるが、僅かな電流ではあるが、車両のボディ10から接地ライン16を経由する経路(シールド線を経由する経路)や接地ライン18を経由する経路(低電圧系を経由する経路)によってもDC/DCコンバータ30に戻ってくる。なお、接地ライン28と接地ライン38とを経由する経路には、微小電流回路50への分岐もあるため、微小な電流が微小電流開度50を経由する経路によってもDC/DCコンバータ30に戻ってくる。
【0018】
図1の電気系の等価回路を図2に示す。図示するように、接地ライン28を経由する経路はボディ10から微小電流回路50への分岐までの抵抗Ra1と分岐後の抵抗Ra2として表わされ、微小電流回路50を経由する経路は抵抗Rzとして表わされ、接地ライン16を経由する経路(シールド線を経由する経路)は抵抗Rbとして表わされ、接地ライン18を経由する経路(低電圧系を経由する経路)は抵抗Rcとして表わされる。ここで、実施例の電源装置20では、DC/DCコンバータ30に戻る電流は主として接地ライン28を経由する経路によることから、抵抗Rbや抵抗Rcは抵抗Ra1,Ra2に比して十分に大きくなるよう設計されていると共に抵抗Rzも抵抗Ra2に比して十分に大きくなるように設計されている。言い換えると、実施例の電源装置20では、車両のボディ10から接地ライン28に流れる電流をIa、接地ライン28の微小電流回路50の分岐後に流れる電流をIa2、微小電流回路50に流れる電流をIz、接地ライン16を経由する経路(シールド線を経由する経路)に流れる電流をIb、接地ライン18を経由する経路(低電圧系を経由する経路)に流れる電流をIcとすると、電流Ibや電流Icは電流Iaに比して十分に小さく、電流Izは電流Iaや電流Ia2に比して十分小さくなるよう設計されている。
【0019】
次に、こうして構成された実施例の電源装置20の異常を判定する際の動作について説明する。図3は、電子制御ユニット40により実行される異常判定処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、DC/DCコンバータ30の出力を禁止するまで所定時間毎に繰り返し実行される。
【0020】
異常判定処理ルーチンが実行されると、電子制御ユニット40は、まず、電流センサ34からのDC/DCコンバータ30の出力電流Ioutや電流センサ52からの微小電流回路50に流れる電流Izとを入力し(ステップS100)、入力した電流Izに基づいて車両のボディから接地ライン28を経由する経路によってDC/DCコンバータ30に戻ってくる電流(戻り電流)Iaを計算する(ステップS110)。ここで、戻り電流Iaは、図2の等価回路から、次式(1),(2)が成立し、これを解けば式(3)が導かれる。ステップS110の計算は、式(3)によって行なうことができるが、電流Izが電流Iaや電流Ia2に比して十分に小さいことを考慮すれば、Ia=Ia2を式(1)に代入して電流Iaについて解いた式(4)によって計算してもよい。
【0021】
Ra2・Ia2=Rz・Iz (1)
Ia=Ia2+Iz (2)
Ia=(Rz/Ra2−1)・Iz (3)
Ia=(Rz/Ra2)・Iz (4)
【0022】
こうして戻り電流Iaを計算すると、計算した戻り電流Iaを出力電流Ioutで割って戻り電流割合Pを計算し(ステップS120)、戻り電流割合Pを値0.7や値0.9と比較する(ステップS130)。戻り電流割合Pが値0.9以上のときには、接地ライン28を経由する経路に異常は生じていないと判断して、本ルーチンを終了する。戻り電流割合Pが値0.7以上で値0.9未満のときには、接地ライン28を経由する経路にボルトの緩みなどの異常が生じているもののDC/DCコンバータ30からの出力を禁止するほどではないと判断し、DC/DCコンバータ30からの出力電流を許容される最大電流の70%までに制限して(ステップS140)、本ルーチンを終了し、戻り電流割合Pが値0.7未満のときには、接地ライン28を経由する経路に異常が生じているためにD/DCコンバータ30からの出力を禁止すべきと判断し、DC/DCコンバータ30からの出力を禁止して(ステップS150)、本ルーチンを終了する。戻り電流割合Pが値0.9未満のときには、本来の接地ライン28を経由する経路によってDC/DCコンバータ30に戻る電流が小さくなるために、接地ライン16を経由する経路(シールド線を経由する経路)や接地ライン18を経由する経路(低電圧系を経由する経路)によってDC/DCコンバータ30に戻る電流が大きくなり、シールド線などに予期しない過大な電流が流れることになる。実施例では、シールド線などに損傷を与えない程度の電流の流れを許容するために、戻り電流割合Pが値0.9未満であっても値0.7以上であれば、DC/DCコンバータ30からの出力を禁止することなく、DC/DCコンバータ30からの出力電流を許容される最大電流の70%に制限するものとした。
【0023】
以上説明した実施例の電源装置20によれば、車両のボディ10からDC/DCコンバータ30に電流を戻す本来の経路である接地ライン28を経由する経路に電流センサ52が取り付けられた微小電流回路50を設け、微小電流回路50に流れる電流Izから接地ライン28を経由する経路に流れる電流Iaを計算すると共に計算した電流IaのDC/DCコンバータ30からの出力電流Ioutに対する割合である戻り電流割合Pを計算し、戻り電流割合Pが値0.9未満のときに接地ライン28を経由する経路に異常が生じていると判定することにより、接地ライン28を経由する経路の異常をより確実に判定することができる。しかも、戻り電流割合Pが値0.7以上で値0.9未満のときにはDC/DCコンバータ30からの出力電流を許容される最大電流の70%までに制限し、戻り電流割合Pが値0.7未満のときにはD/DCコンバータ30からの出力を禁止するから、接地ライン16を経由する経路(シールド線を経由する経路)や接地ライン18を経由する経路(低電圧系を経由する経路)に過大な電流が流れることによる不都合、例えばシールド線の破損などを抑制することができる。
【0024】
実施例の電源装置20では、戻り電流割合Pが値0.7以上で値0.9未満のときにはDC/DCコンバータ30からの出力電流を許容される最大電流の70%までに制限し、戻り電流割合Pが値0.7未満のときにはD/DCコンバータ30からの出力を禁止するものとしたが、戻り電流割合Pと比較する二つの値は、設計上定めることができるものであるから、値0.7と値0.9に限定されるものではない。
【0025】
実施例の電源装置20では、戻り電流割合Pが値0.7以上で値0.9未満のときにはDC/DCコンバータ30からの出力電流を許容される最大電流の70%までに制限し、戻り電流割合Pが値0.7未満のときにはD/DCコンバータ30からの出力を禁止するものとしたが、戻り電流割合Pが値0.9未満に至ったときに直ちにD/DCコンバータ30からの出力を禁止するものとしてもよい。また、戻り電流割合Pが値0.7以上で値0.9未満のときにはDC/DCコンバータ30からの出力電流を許容される最大電流の60%までに制限するものとしてもよいし、50%までに制限するものとしてもよい。
【0026】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、複数の補機12が「負荷」に相当し、車両のボディ10が「負荷装置のボディ」に相当し、ケース22が「ケース」に相当し、DC/DCコンバータ30が「電源供給ユニット」に相当し、微小電流回路50が「微小電流回路」に相当し、電流センサ52が「電流検出センサ」に相当し、図3の異常判定処理ルーチンを実行する電子制御ユニット40が「異常判定手段」および「制限禁止手段」に相当する。
【0027】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0028】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、電源装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0030】
10 車両のボディ、12 補機、14,16,18 接地ライン、20 電源装置、22 ケース、28 接地ライン、30 DC/DCコンバータ、34 電流センサ、36 出力ライン、38 接地ライン、40 電子制御ユニット、50 微小電流回路、52 電流センサ、Ra1,Ra2,Rb,Rc,Rz 抵抗。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力を消費する少なくとも一つの負荷を有する負荷装置のボディにケースが固定および接地されると共に前記ケースに接地され、前記負荷の電力供給に際して前記負荷装置のボディから電流が戻るように設計された回路に組み込まれた電源供給ユニットを備える電源装置であって、
前記ケースの前記負荷装置のボディへの接地の途中から前記電源供給ユニットに微小な電流を戻すよう配線された微小電流回路と、
前記微小電流回路に流れる電流を検出する電流検出センサと、
前記検出された電流に基づいて前記負荷装置のボディから前記電源供給ユニットに戻る電流を推定すると共に該推定した電流が前記負荷への電力供給の出力電流に対して所定割合未満となったときに異常と判定する異常判定手段と、
を備える電源装置。
【請求項2】
請求項1記載の電源装置であって、
前記異常判定手段により異常と判定されたときには前記電源供給ユニットから前記負荷への電力供給を制限または禁止する制限禁止手段、
を備える電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−165595(P2012−165595A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24927(P2011−24927)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】