説明

電界放出発光素子

【課題】発光効率の高い電界放出発光素子を提供する。
【解決手段】電界放出発光素子1は、ガラス基板21上に形成された導電層22と、前記導電層22の上にあって、金属、金属錯体及び金属酸化物の少なくともいずれか一つを含有する金属含有物を担持又は内包するナノカーボン材料から形成されたエミッタ23と、前記導電層22の前記エミッタ23の側に対向して、電子により発光可能な蛍光体13を有する透明電極12と、を備える。エミッタ23は、金属25を先端の開孔部に担持又は先端部に内包したカーボンナノチューブである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界放出発光素子に関する。より詳しくは、電子放出源にナノカーボン材料を用いる電界放出発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電界放出発光素子は、平面発光で且つ厚さが小さいので、天井又は壁面等取り付ける場所を選ばず、蛍光灯に代わる照明光源として期待できる。
【0003】
電界放出発光素子は、電子放出源(エミッタ)に電界をかけて電子を放出させ、エミッタと陽極の間の電位差で電子を加速し、陽極の蛍光体に照射して発光させる。そして、電界放出発光素子においてカーボンナノチューブ(CNT)がエミッタとして使用されている。
【0004】
特許文献1には、蛍光体を備えたアノードと、電子放出源及び蛍光体において発生する光を反射する反射層を備えたカソードと、を有する電界放出型ライトが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、透明基板上にCNTを透光性パターンで塗布しているエミッタを有する透明体カソードを有する電界放出型ライトが記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、一端にテーパ形状を有するとともに内部に連通する開孔部が設けられている、六員環炭素構造の二重黒鉛質層から形成された筒状構造体からなるカーボンナノチューブが記載されている。
【0007】
また、特許文献4には、CNTを直立配向させたエミッタが記載されている。
【0008】
また、特許文献5には、保護膜を有する炭素ナノチューブを具備する電界放出素子が記載されている。
【特許文献1】特開2006−156162号公報
【特許文献2】特開2006−278226号公報
【特許文献3】特開2003−317607号公報
【特許文献4】特開2002−157953号公報
【特許文献5】特開2003−217516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上述の電界放出素子等では、エミッタが下地電極の影響を受ける等により、発光効率が十分とはいえない。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、発光効率の高い電界放出発光素子を提供することを目的とするものである。また、電界放出の電流密度を大きくして、発光効率を向上させた電界放出発光素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る電界放出発光素子は、
基板上に形成された陰極と、
前記陰極の上にあって、金属、金属錯体及び金属酸化物の少なくともいずれか一つを含有する金属含有物を担持又は内包するナノカーボン材料から形成された電子放出源と、
前記陰極の前記電子放出源の側に対向して、電子により発光可能な蛍光層を有する透明電極と、を備える、ことを特徴とする。
【0012】
また、前記ナノカーボン材料は、先端部が開孔され、その開孔部のエッジに前記金属含有物が担持されたカーボンナノチューブである、ことも可能である。
【0013】
また、前記ナノカーボン材料は、先端部に前記金属含有物を内包するカーボンナノチューブである、ことも可能である。
【0014】
また、前記ナノカーボン材料は、先端部が開孔され、その開孔部のエッジに前記金属含有物が担持されたカーボンナノホーンである、ことも可能である。
【0015】
また、前記ナノカーボン材料は、突起先端部に前記金属含有物を内包するカーボンナノホーンである、ことも可能である。
【0016】
また、前記カーボンナノチューブは外側に保護膜を有する、ことも可能である。
【0017】
また、前記カーボンナノホーンは外側に保護膜を有する、ことも可能である。
【0018】
また、前記保護膜の厚みは、0.3nm以上10nm以下である、ことも可能である。
【0019】
また、前記金属含有物に含有される金属は、Li、Na、K、Rb、Cs、Fr、Th、Gd、Ce、Pr、Sm、Eu、Tb、Dy、Er、Ho、Tm、Yb、Sr、Ba、Ca、Y、Sc、Hf、Mg、Tl、Ti、Zr、Zn、Cd、Be、Nb、Al、Ta、W、Os、Cr、Re、Ir、Rf、Mo、Mn、Fe、Ni、Co、Ru、Rh、Cu、Ag、Au、Pt及びPdのうち少なくともいずれか一つを含有する、ことも可能である。
【0020】
また、前記基板は、光を透過する物質で形成され、前記陰極は、透明な導体から形成される、ことも可能である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の電界放出発光素子は、発光効率が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(実施形態1)
図1に示すように、電界放出発光素子1は、ガラス基板21上に形成された導電層(陰極)22と、導電層22の上にあるエミッタ(電子放出源)23と、導電層22の上に形成されたエミッタ23の側に対向して、電子により発光可能な蛍光体13を有する陽極(透明電極)12と、を有する。エミッタ(電子放出源)23は、金属含有物を担持又は内包するナノカーボン材料から形成される。金属含有物は、金属、金属錯体及び金属酸化物の少なくともいずれか一つを含有する。
【0023】
(実施形態2)
図2に示すように、電界放出発光素子1は、アノード基板10と、カソード基板20と、スペーサ30と、を有する。スペーサ30は、アノード基板10とカソード基板20との間に設けられる。アノード基板10とカソード基板20との間は真空である。アノード基板10は、ガラス基板11と、陽極(透明電極)12と、蛍光体13と、を有する。カソード電極20は、ガラス基板21と、導電層(陰極)22と、エミッタ(電子放出層)23と、を有する。
なお、図2で示す電界放出発光素子1は、平面発光する光源を想定しているが、電界放出ディスプレイ(FED:Field Emissin Display)の1画素の発光単位(例えば、RGBの1つ)とみることも可能である。
【0024】
図3に示すように、アノード基板10は、透明なガラス基板11の表面に、陽極12が形成され、さらに陽極12の上に蛍光体13が形成されて構成される。また、カソード基板20は、透明なガラス基板21の表面に、導電層22が形成され、さらに導電層22の上にエミッタ23が形成されて構成される。なお、図3では、図面の簡易化のためにスペーサ30が省略されている。
【0025】
陽極12は、ITO、ZnO、TiO等から構成される透明電極である。蛍光体13は、CRT(Cathode Ray Tube)に用いられるのと同じく、電子線が照射されると蛍光を発する電子線励起蛍光体である。蛍光体13は、スクリーン印刷、手塗り印刷又はスプレー法で形成することが可能である。蛍光体13は、例えば、膜厚0.1μm〜10μmで塗布される。
【0026】
導電層22は、金属で形成される。エミッタ23は、金属を担持又は内包するナノカーボン材料で形成される。ナノカーボン材料は、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラフェン、ナノグラファイト等を含有する。エミッタ23は、例えば、スクリーン印刷、手塗り印刷又はスプレー法で塗布される。
【0027】
カーボンナノチューブは、炭素によって作られる六員環ネットワーク(グラフェンシート)が単層又は多層の同軸管状になった構造である。カーボンナノチューブのうち、単層のものはシングルウォールナノチューブ(SWNT)である。二層のものはダブルウォールナノチューブ (DWNT)である。複層のものはマルチウォールナノチューブ(MWNT)である。
【0028】
カーボンナノホーンは、カーボンナノチューブの一種である。カーボンナノホーンは、チューブ形の先端が閉じて牛の角(horn)のような形状となっている。カーボンナノホーンは、密集することにより全体としてイガ栗のような形を形成する。
【0029】
図3に示すように、アノード基板10の蛍光体13と、カソード基板20のエミッタ23は、スペーサ30で囲まれた空間を挟んで対向している。導電層22から陽極12に向かって正の電界をかけると、エミッタ23から電子が放出される。放出された電子は、導電層22と陽極12との間の電位差で加速されて、蛍光体13に照射される。その結果、蛍光体13が発光する。
【0030】
陽極12は透明電極なので、蛍光体13の発光を透過する。蛍光体13から放射された光は、陽極12とガラス基板11を透過して、外部を照射する。
【0031】
図4に示すように、実施形態2では、エミッタ23は、先端部を開孔したカーボンナノチューブ24と金属25とを有する。なお、図4では、模式的に先端部を開孔したカーボンナノチューブ24が揃って直立する状態で説明されている。
【0032】
先端部を開孔したカーボンナノチューブ24は、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ若しくは多層カーボンナノチューブのいずれも使用することができる。先端部を開孔したカーボンナノチューブ24の直径は、例えば0.5nm〜50nmである。先端部を開孔したカーボンナノチューブ24の長さは、例えば100nm〜10mmである。先端部を開孔したカーボンナノチューブ24の長さは、酸処理、オゾン処理、フッ素処理等酸化処理により制御できる。また、超音波での溶液中での切断処理、ボールミル粉砕、レーザー等による切断処理等を利用して制御することも可能である。
【0033】
先端部を開孔したカーボンナノチューブ24の開孔部に担持される金属25は、図5に示すように担持される。
【0034】
また、図6に示すように、金属25を開孔部に担持した先端部を開孔したカーボンナノチューブ24の代わりに、先端部に金属25を内包するカーボンナノチューブを用いることもできる。この時、カーボンナノチューブの先端部分に沿って内側に内包され、金属面上にグラフェンの皮をかぶっている。このため、グラフェンシートと金属との相互作用を利用してチューブ先端の電子状態(仕事関数やフェルミ準位など)を制御することが可能である。この図6の構造は、カーボンナノチューブの先端部及び側面部を開孔させた後、金属25を内包させ、熱処理により開孔部を閉じることにより作製される。
【0035】
カーボンナノチューブの開孔処理は、気相中及び液相中で行うことができる。気相は、例えば、空気、酸素等が使用できる。液相は、例えば、過酸化水素、硝酸、硫酸又はこれらの混合物等が使用できる。酸素雰囲気中での熱処理による酸化では、350〜700℃の温度範囲で開孔処理を行うことができる。また、酸等によっても開孔処理は可能である。例えば、硝酸溶液であれば、23〜130℃、15分〜24時間の条件で酸化処理が可能である。また、過酸化水素であれば、23〜100℃、15分〜48時間の条件で酸化処理が可能である。また、硫酸と過酸化水素の混合溶液では、23〜70℃、15分〜10時間の条件で酸化処理が可能である。
【0036】
例えば過酸化水素等の弱い酸化処理を用いたカーボンナノチューブの開孔処理では、カーボンナノチューブの先端部に開孔がより多く発生する。この先端部の開孔に金属25を担持させることができる。
一方、例えば硫酸等の強い酸化処理を用いたカーボンナノチューブの開孔処理では、カーボンナノチューブの先端部及び側面部に開孔が多く発生する。この先端部及び側面部の開孔から金属25がカーボンナノチューブ内部に侵入する。そして後述するように内部に侵入した金属25をカーボンナノチューブの先端に移動させ、先端部及び側面部の開孔を閉じることにより、カーボンナノチューブの先端部に金属25を内包させることができる。
【0037】
先端部を開孔したカーボンナノチューブ24の開孔部に担持又はカーボンナチューブの先端部に内包される金属25としては、Li、Na、K、Rb、Cs、Fr等のアルカリ金属、Th、Gd、Ce、Pr、Sm、Eu、Tb、Dy、Er、Ho、Tm、Ybから選ばれる希土類金属、Sr、Ba、Ca、Y、Sc、Hf、Mg、Tl、Ti、Zr、Zn、Cd、Be、Nb、Al、Ta、W、Os、Cr、Re、Ir、Rf、Mo、Mn、Fe、Ni、Co、Ru、Rh、Cu、Ag、Au、PtならびにPd等から選ばれる金属の単体及び合金を用いることができる。
【0038】
上述した金属25をカーボンナノチューブに内包又は先端部を開孔したカーボンナノチューブ24に担持させるには、気相では、1気圧以下が好ましい。内包量(若しくは担持量)、温度、時間等変えることでサイズや量を制御することができる。内包量(若しくは担持量)は、カーボンナノチューブの量に対して重量比で80%程度までが好ましい。また、温度は、23〜1800℃が好ましく、時間は1〜48時間が好ましい。
液相では、溶媒の種類や溶液中のpH、濃度、温度、時間等を変えることで、内包又は担持する金属25のサイズや量を制御することができる。濃度は、各溶媒での飽和濃度まで利用でき、温度は23〜300℃が好ましく、時間は1〜200時間が好ましい。
【0039】
カーボンナノチューブの側面部の開孔から内部に侵入した金属25は、真空又は不活性ガス若しくは還元性雰囲気中で熱処理を加えることで、カーボンナノチューブの先端部に移動する。そして、熱処理の温度を800〜2000℃とすることで、開孔処理に伴って作製された開孔部を閉じることができる。また、先端部の開孔部から内部に侵入した金属25は、上記の同じ条件により、その位置で先端の開孔部が閉じる。
【0040】
次に、電界放出発光素子1の作製方法を述べる。
まず、ガラス基板11に陽極12として、ITO、ZnO、TiOに代表される透明導電体をスパッタにて形成する。
次に、陽極12を形成したガラス基板に、蛍光体13をスクリーン印刷等によって、10μm〜40μmの厚さに塗布する。そして塗布した蛍光体13を焼成する。これによりアノード基板10を作成する。
【0041】
ガラス基板21に、Au、Ag、Al、Cu、Fe、Ni、Co、Pd、Pt、Mo若しくはWの金属の群から、1種類又は2種類の金属の合金、又は、ITO、ZnO、TiOに代表される透明電極のなかから選択された導体で、導電層22を形成する。また、透明電極には、カーボンナノチューブなどで作製された透明導電膜を使用することも可能である。導電層22の形成方法は、選択された導体に応じて、スクリーン印刷、蒸着又はスパッタ法から選択する。
【0042】
導電層22が形成されたガラス基板21に、金属25をカーボンナノチューブの先端部に内包又は先端部を開孔したカーボンナノチューブ24の開孔部に担持させたエミッタ材料を、スクリーン印刷、手塗り塗布又はスプレー法で塗布して、エミッタ23を形成する。エミッタ材料は、1〜10μmの厚さで均一に塗布することが好ましく、より好適には1〜5μmの厚さで塗布することが好ましい。導電層22の領域を、例えば、複数の矩形に分割して、矩形領域ごとにエミッタ材料を塗布することも可能である。エミッタ材料の溶剤を揮発させて、カソード基板20を作製する。
【0043】
次に、真空中の雰囲気で、アノード基板10、カソード基板20及びスペーサ30を貼り合わせて、電界放出発光素子1を作製する。電界放出発光素子1は、例えば、陽極12及び導電層22から端子にそれぞれリード線を接続して、電界放出ライト又は電界放出デバイスとして用いることが可能である。
【0044】
図5のように先端部を開孔したカーボンナノチューブ24の開孔部に金属25を担持する場合、又は、図6のようにカーボンナノチューブの先端部に金属25を内包する場合、カーボンナノチューブの先端から電子が放出しやすい。即ち、同じ電界強度では、電子の放出が多くなり、電界放出発光素子1の電流密度が増加する。又は、同じ電流密度を得るための電界強度が小さくなる。これは、カーボンナノチューブの形状が変わらず、電界集中が同じであって、金属25によって、自由電子が増加するためであると考えられる。
【0045】
カソード基板20の導電層22を、例えば、ITO、ZnO、TiO等の透明電極としてもよい。蛍光体13から放射された光は、一部がエミッタ23、導電層22及びガラス基板21を透過して、外部に照射される。そのために、蛍光体13の発光は電界放出発光素子1の両面から照射され、後ろ側に出る光も利用できる。その場合、特に、エミッタ23の厚さを0.1〜1μmにすると、光を透過しやすい。
【0046】
以上説明したように、エミッタ23に金属25を担持又は内包するカーボンナノチューブを用いることによって、電界放出発光素子1の発光効率が向上する。
【0047】
(実施形態3)
実施形態3に係る電界放出発光素子1のエミッタ23が、図7に模式的に示される。エミッタ23は、金属を先端部の開孔部に担持したカーボンナノホーン又は金属を先端の突起部に内包したカーボンナノホーンの集合体であるカーボンナノホーン集合体28で構成される。
図8にカーボンナノホーン集合体28を模式的に拡大して示す。その直径は、例えば、30〜200nmである。このカーボンナノホーン集合体28は、カーボンナノホーン27が突起部(先端部)26を外側にして球形(放射状)に集まって形成されている。このカーボンナノホーン27は、各々は2〜5nmの直径を持つカーボンナノチューブであり突起部26を有している。
【0048】
突起部26の先端には、図9に示すように先端部が開孔されたカーボンナノホーン27の開孔部のエッジに金属25が担持されている。
また、突起部26の先端には、図10に示すようにカーボンナノホーン27に金属25が内包されている。この時、カーボンナノホーン27の先端部分に沿って内側に内包され、金属面上にグラフェンの皮をかぶっている。
【0049】
先端部が開孔したカーボンナノホーン27の開孔部のエッジに担持又はカーボンナノホーン27の先端部に内包される金属は、実施形態2に示した金属と同様のものを使用することができる。また、電界放出発光素子1の製造方法は、カーボンナノホーン集合体28を用いること以外は実施形態2と同様である。
【0050】
カーボンナノホーン27の開孔処理は、様々な酸化条件により、開孔サイズを制御できる。酸素雰囲気中での熱処理による酸化では、酸化処理温度を変えることにより、カーボンナノホーン27の開孔サイズが制御できる。例えば350〜550℃では、直径0.3〜1nmの孔を開けることができる。
また、酸等によっても開孔処理を行うことができる。例えば硝酸溶液であれば、110℃、15分で1nmの開孔を空けることが可能である。また例えば過酸化水素であれば、100℃、2時間で1nmの開孔を空けることができる。
【0051】
弱い酸化処理を用いた開孔処理では、カーボンナノホーン27の先端部及びチューブ上の欠陥部に開孔がより多く発生し、この開孔部に金属を担持させることができる。一方、強い酸化処理を用いた開孔処理では、カーボンナノホーン27の先端部、欠陥部及び側面部に大きな開孔が発生し、これらの開孔から金属がカーボンナノホーン27内部に侵入する。そして後述するように内部に侵入した金属25をカーボンナノホーン27の先端に移動させ、開孔部を閉じることにより、カーボンナノホーン27の先端部に金属25を内包させることができる。
【0052】
開孔時の条件を制御して開孔の径を変化させることにより、先端部が開孔したカーボンナノホーン27の開孔部のエッジに担持又はカーボンナノホーン27の先端部に内包される金属のサイズを制御することができる。
また、先端部が開孔したカーボンナノホーン27の開孔部のエッジに担持又はカーボンナノホーン27の先端部に内包される金属の量を制御することにより、カーボンナノホーン27に担持される金属のサイズ、さらには、熱処理後のカーボンナノホーン27に内包される金属のサイズを制御することができる。
【0053】
金属25を先端部が開孔したカーボンナノホーン27の開孔部のエッジに担持又はカーボンナノホーン27の先端部に内包させるには、気相では、1気圧以下が好ましく、内包量(若しくは担持量)、温度、時間等変えることでサイズや量を制御できる。内包量(若しくは担持量)は、カーボンナノホーン27の量に対して重量比で60%程度までが好ましい。また、温度は、23〜1800℃が好ましく、時間は1〜48時間が好ましい。
液相では、溶媒の種類や溶液中のpH、濃度、温度、時間等を変えることで、内包又は担持する金属のサイズや量を制御できる。濃度は、各溶媒での飽和濃度まで利用でき、温度は23〜300℃が好ましく、時間は1〜200時間が好ましい。
【0054】
金属を内包させるカーボンナノホーン27は、真空、不活性ガス、水素等の還元性雰囲気中及びそれらの組み合わせで加熱処理することで、開孔から内部に侵入させた金属を先端部に移動させて凝集化させることにより作製する。この場合、加熱処理温度は23〜1800℃が好ましい。加熱する温度は、内包物の融点付近で適宜温度制御することが望ましい。また、内包物の種類によっては、内包物の蒸発温度でも移動させることができる。なお、1800℃より加熱処理温度が大きくなると、カーボンナノホーン27のグラファイト化が起こる可能性があり好ましくない。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン等が好ましい。更に水素等で内包物を還元しながら移動させることも可能である。
そして、加熱処理の温度を800〜1800℃とすることで、開孔処理に伴って作製されたカーボンナノホーン27の開孔を閉じることができる。
【0055】
図9では、図5のカーボンナノチューブのように、開孔部のエッジに金属が担持されている。また、図10では、図6のように、先端部に金属が内包されている。従って、実施形態3においても、突起部26から電子が放出しやすい。その結果、実施形態2と同様に、同じ電界強度では、電子の放出が多くなり、電界放出発光素子1の電流密度が増加する。又は、同じ電流密度を得るための電界強度が小さくなる。
【0056】
以上説明したように、金属を先端部が開孔したカーボンナノホーン27の開孔部のエッジに担持又はカーボンナノホーン27の先端部に内包したエミッタ23を用いることによって、電界放出発光素子1の発光効率が向上する。
なお、本実施形態3においても、導電層22を透明電極として、光が電界放出発光素子1の両側に照射するように構成することも可能である。
【0057】
(その他の実施形態)
上述の実施形態では、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーンに担持又は内包される物質は金属であった。もっともこれに限定されない。担持又は内包される物質は、真空中や不活性ガス中で昇華するものや溶媒に溶解されて溶液中に存在する物質を対象とすることができる。このような物質であれば、有機物、無機物、金属のいずれか1種、又は、2種以上の混合物を用いることができる。内包される物質が複数種であるとき、それらの物質の化学反応により目的の物性を得ることができる。その場合、内包される複数種の物質の混合比を制御することにより内包物質の組成を制御することができる。
担持及び内包される無機物としては、例えば上述した実施形態で記載した金属の酸化物を使用することができる。また、有機物は、フラーレン、金属内包フラーレン類やデキサメタゾン(DEX)、ドキソルビシン(DRX)、テトラチアフルバレン(TTF)、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)のような有機機能性分子、フェロセン、フタロシアニン、シスプラチン等の金属錯体を用いることが可能である。
【0058】
また、上述の実施形態では、カーボンナノチューブとカーボンナノホーンについて別々に示しているが、混合して使用することも可能である。その際カーボンナノチューブに対するカーボンナノホーンの割合は10%〜90%で使用でき、電極を作製する際の必要とされるペーストの粘性により調整することができる。高い粘性が必要なスクリーン印刷等では、カーボンナノチューブの割合が60%〜90%が好ましく、スプレー法で作製する場合は、カーボンナノチューブの割合が10%〜60%が好ましい。
【実施例】
【0059】
(実施例1)
〔金属内包カーボンナノチューブを用いたエミッタ特性〕
未処理単層カーボンナノチューブを、空気中、400℃で酸化処理した後、塩酸中で金属触媒を溶出させた。熱重量分析結果から、含有されるFe不純物は30%から5%まで除去されており、精製された単層のカーボンナノチューブを作製した。
【0060】
精製された単層のカーボンナノチューブを開孔するため、酸素中で550℃にて熱処理を行った。このときの酸素の流量は、200ml/分で行った。
そして、開孔したカーボンナノチューブ100mgと酢酸ガドリニウム100mgとをエタノール100ml中に分散させ、24時間攪拌した。その後、フィルターを使ってろ過し、余分な酢酸ガドリニウムを除去した。
【0061】
酢酸ガドリニウムを内包したカーボンナノチューブを1200℃、不活性ガス雰囲気で3時間熱処理を行った。この結果、酢酸ガドリニウムはナノチューブの先端部に移動した。
また、77K窒素吸着測定おいて開孔したカーボンナノチューブに比べ1200℃熱処理後のガドリニウム内包カーボンナノチューブの比表面積は、精製したカーボンナノチューブと同じぐらいになった。このことは、開孔が閉じたことを示す。
【0062】
ガドリニウムを内包したカーボンナノチューブは、白金のスパッタによって外側に保護膜を作製した。この時、時間と電流値を制御することで1nm程度の膜を蒸着させた。保護膜を設けることにより、電界放出発光素子1の内部のガスを排気した後の酸素等の残留気体が、カーボンナノチューブに吸着することによる電界放出発光素子1の短寿命化を防止できる。保護膜の厚みは0.3nm〜10nmとすることが好ましい。厚みが0.3nmよりも小さいと保護としての役割が不十分となる可能性があり、厚みが10nmよりも大きいと保護膜の作成が困難となる可能性がありうるからである。
【0063】
ガドリニウムを内包したカーボンナノチューブ2gを、1,2−ジクロロエタン500ml中で30分間超音波分散を行った。その分散液に30gのセルロース系有機バインダーを混ぜ、30分間超音波分散を行うことで、カーボンナノチューブのペーストを作製した。
【0064】
カーボンナノチューブペーストを、ITOをスパッタしたガラス基板上に厚みが3μm程度になるようにスクリーン印刷した。その後、有機バインダーを除去するために空気中で400℃にて熱処理を行うことで、エミッタを作製した。
【0065】
単なるカーボンナノチューブで作製したエミッタ電極と、ガドリニウムを内包したカーボンナノチューブで作製したエミッタ電極とを比較した。カソードの電流電圧特性は、10−6Torrの真空度で測定した。この結果、同じ電圧下では、ガドリニウムを先端に内包したカーボンナノチューブを用いたエミッタ電極の方が、単なるカーボンナノチューブを用いたエミッタ電極よりも、1.5倍の電流を引き出した。これは、金属の先端への内包により、カーボンナノチューブの仕事関数の減少等の効果のためと考えられる。
【0066】
〔金属担持カーボンナノチューブを用いたエミッタ特性〕
精製した単層のカーボンナノチューブ1gの先端を除去するために、70℃において硫酸と硝酸の混酸(硫酸:硝酸=3:1)1000ml中で30分間酸化処理を行った。その後、酸を多量の水で薄めたあと、pHが6程度になるまで洗浄した。得られた先端除去後の単層のカーボンナノチューブ100mgとヘキサアンミン白金酸溶液(Pt含有量100mg)をエタノール100ml中に分散させ、24時間攪拌した。その後、フィルターを使ってろ過し、余分な白金を除去した。この時、エッジ上に置換されている表面官能基が酸性ならアルカリ性の金属錯体がより有利であり、アルカリ性なら酸性の金属錯体を選択すると有効である。
【0067】
Ptを担持したカーボンナノチューブ2gを、1,2−ジクロロエタン500ml中で30分間超音波分散を行った。その分散液に30gのセルロース系有機バインダーを混ぜ、30分間超音波分散を行うことで、カーボンナノチューブのペーストを作製した。
【0068】
カーボンナノチューブペーストを、ITOをスパッタしたガラス基板上に厚みが3μm程度になるようにスクリーン印刷した。その後、有機バインダーを除去するために空気中で400℃にて熱処理を行うことで、エミッタを作製した。
【0069】
単なるカーボンナノチューブで作製したエミッタ電極と、Ptを担持したカーボンナノチューブで作製したエミッタ電極とを比較した。カソードの電流電圧特性は、10−6Torrの真空度で測定した。この結果、同じ電圧下では、Ptを先端に担持したカーボンナノチューブを用いたエミッタ電極の方が、単なるカーボンナノチューブを用いたエミッタ電極よりも、1.5倍の電流を引き出した。
【0070】
(実施例2)
〔金属内包カーボンナノホーンを用いたエミッタ特性〕
カーボンナノホーンの開孔処理は、酸素中で500℃にて10分間熱処理を行った。酸素の流量は、200ml/分で行った。次に、酢酸ガドリニウム50mgと開孔処理をしたカーボンナノホーン50mgとをエタノール溶液20ml中で混合し、室温で約24時間攪拌した。その後、フィルターを使って3回ろ過した後、24時間真空乾燥を行い、含まれている溶媒等を蒸発させて完全に取り除いた。粒子サイズの上限は、鞘の大きさで5nm程度であった。
【0071】
酢酸ガドリニウムを内包したカーボンナノホーンを1200℃、アルゴン等の不活性ガス雰囲気で3時間熱処理を行った。内包された酢酸ガドリニウムはカーボンナノホーンの先端部に移動した。
また、77K窒素吸着測定おいて開孔したカーボンナノホーンに比べ1200℃熱処理後のガドリニウム内包カーボンナノホーンの比表面積は、開孔未処理のカーボンナノホーンと同じぐらいになった。このことは、開孔が閉じたことを示す。
【0072】
ガドリニウムを内包したカーボンナノホーンは、白金のスパッタによって外側に保護膜を作製した。この時、時間と電流値を制御することで1nm程度の膜を蒸着させることができた。
【0073】
ガドリニウムを内包したカーボンナノホーン2gを、1,2−ジクロロエタン500ml中で30分間超音波分散を行った。その分散液に30gのセルロース系有機バインダーを混ぜ、30分間超音波分散を行うことで、カーボンナノホーンのペーストを作製した。
【0074】
カーボンナノホーンのペーストを、ITOをスパッタしたガラス基板上に厚みが3μm程度になるようにスクリーン印刷した。その後、有機バインダーを除去するために空気中で400℃にて熱処理を行うことで、エミッタを作製した。
【0075】
単なるカーボンナノホーンで作製したエミッタ電極と、ガドリニウムを内包したカーボンナノホーンで作製したエミッタ電極とを比較した。カソードの電流電圧特性は、10−6Torrの真空度で測定した。この結果、同じ電圧下では、ガドリニウムを先端に内包したカーボンナノホーンを用いたエミッタ電極の方が、単なるカーボンナノホーンを用いたエミッタ電極よりも、3割程度増加した電流を引き出した。これは、金属の先端への内包により、カーボンナノホーンの仕事関数の減少等の効果のためと考えられる。
【0076】
〔金属担持カーボンナノホーンを用いたエミッタ特性〕
精製したカーボンナノホーン1gの先端を除去するために、70℃において硫酸と硝酸の混酸(硫酸:硝酸=3:1)1000ml中で10分間酸化処理を行った。その後、酸を多量の水で薄めたあと、pHが6程度になるまで洗浄した。得られた先端除去後のカーボンナノホーン100mgとヘキサアンミン白金酸溶液(Pt含有量100mg)をエタノール100ml中に分散させ、24時間攪拌した。その後、フィルターを使ってろ過し、余分な白金を除去した。この時、エッジ上に置換されている表面官能基が酸性ならアルカリ性の金属錯体がより有利であり、アルカリ性なら酸性の金属錯体を選択すると有効である。
【0077】
Ptを担持したカーボンナノホーン2gを、1,2−ジクロロエタン500ml中で30分間超音波分散を行った。その分散液に30gのセルロース系有機バインダーを混ぜ、30分間超音波分散を行うことで、カーボンナノホーンのペーストを作製した。
【0078】
カーボンナノホーンを、ITOをスパッタしたガラス基板上に厚みが3μm程度になるようにスクリーン印刷した。その後、有機バインダーを除去するために空気中で400℃にて熱処理を行うことで、エミッタを作製した。
【0079】
単なるカーボンナノホーンで作製したエミッタ電極と、Ptを担持したカーボンナノホーンで作製したエミッタ電極とを比較した。カソードの電流電圧特性は、10−6Torrの真空度で測定した。この結果、同じ電圧下では、Ptを先端に担持したカーボンナノホーンを用いたエミッタ電極の方が、単なるカーボンナノホーンを用いたエミッタ電極よりも、1.5倍の電流を引き出した。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の実施形態1に係る電界放出発光素子の構成例を示す模式図である。
【図2】本発明の実施形態2に係る電界放出発光素子の構成例を示す分解斜視図である。
【図3】図1の電界放出発光素子の断面図である。
【図4】実施形態2に係るエミッタを模式的に示す断面図である。
【図5】金属がカーボンナノチューブに担持される場合を模式的に示す図である。
【図6】金属がカーボンナノチューブに内包される場合を模式的に示す図である。
【図7】本発明の実施形態3に係るエミッタを模式的に示す断面図である。
【図8】カーボンナノホーンを模式的に示す拡大図である。
【図9】カーボンナノホーンの開孔部に金属が担持されるようすを示す図である。
【図10】カーボンナノホーンの先端部に金属が内包されるようすを示す図である。
【符号の説明】
【0081】
1 電界放出発光素子
10 アノード基板
11 ガラス基板
12 陽極
13 蛍光体
20 カソード基板
21 ガラス基板
22 導電層
23 エミッタ
24 先端部を開孔したカーボンナノチューブ
25 金属
26 突起部
27 カーボンナノホーン
28 カーボンナノホーン集合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された陰極と、
前記陰極の上にあって、金属、金属錯体及び金属酸化物の少なくともいずれか一つを含有する金属含有物を担持又は内包するナノカーボン材料から形成された電子放出源と、
前記陰極の前記電子放出源の側に対向して、電子により発光可能な蛍光層を有する透明電極と、を備える、
ことを特徴とする電界放出発光素子。
【請求項2】
前記ナノカーボン材料は、先端部が開孔され、その開孔部のエッジに前記金属含有物が担持されたカーボンナノチューブである、
ことを特徴とする請求項1記載の電界放出発光素子。
【請求項3】
前記ナノカーボン材料は、先端部に前記金属含有物を内包するカーボンナノチューブである、
ことを特徴とする請求項1記載の電界放出発光素子。
【請求項4】
前記ナノカーボン材料は、先端部が開孔され、その開孔部のエッジに前記金属含有物が担持されたカーボンナノホーンである、
ことを特徴とする請求項1記載の電界放出発光素子。
【請求項5】
前記ナノカーボン材料は、突起先端部に前記金属含有物を内包するカーボンナノホーンである、
ことを特徴とする請求項1記載の電界放出発光素子。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブは外側に保護膜を有する、
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の電界放出発光素子。
【請求項7】
前記カーボンナノホーンは外側に保護膜を有する、
ことを特徴とする請求項4又は5に記載の電界放出発光素子。
【請求項8】
前記保護膜の厚みは、0.3nm以上10nm以下である、
ことを特徴とする請求項6又は7に記載の電界放出発光素子。
【請求項9】
前記金属含有物に含有される金属は、Li、Na、K、Rb、Cs、Fr、Th、Gd、Ce、Pr、Sm、Eu、Tb、Dy、Er、Ho、Tm、Yb、Sr、Ba、Ca、Y、Sc、Hf、Mg、Tl、Ti、Zr、Zn、Cd、Be、Nb、Al、Ta、W、Os、Cr、Re、Ir、Rf、Mo、Mn、Fe、Ni、Co、Ru、Rh、Cu、Ag、Au、Pt及びPdのうち少なくともいずれか一つを含有する、
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の電界放出発光素子。
【請求項10】
前記基板は、光を透過する物質で形成され、
前記陰極は、透明な導体から形成される、
ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の電界放出発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−76314(P2009−76314A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−244116(P2007−244116)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【出願人】(300022353)NECライティング株式会社 (483)
【Fターム(参考)】