説明

電磁エネルギーの吸収差による消毒法、腫瘍成長の破壊法、および、滅菌法

腫瘍組織、ウイルス感染および微生物感染、および、それ以外の生理学的障害や生理学的諸症状は、害を与える組織や細胞によって吸収に差がある波長の電磁放射線で宿主を照射することによって治療される。吸収差のある放射線は、合成重合体から作られた物品や梱包材の殺菌の際にも利用され、また、食品類の処理にも使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電磁エネルギーの吸収差による消毒法、腫瘍成長の駆除法、および、滅菌法に関するものである。
関連出願の相互参照
本願は、2003年2月28日出願の米国予備特許出願第60/450,736号に関するものであり、この予備特許出願によって合法に申告することのできる全ての権利を主張するものである。この予備特許出願の内容全体は、引例として挙げることで本件の一部を構成するものとする。
【背景技術】
【0002】
合成化学物質、抗生物質、殺虫剤、および、除草剤といった物質が医療、農業、および、地球規模の社会一般についてどのような密接な関連を持っているかということの理解を科学界がより深めるにつれて、こういった物質を生産・成長助長のために用いることについての関心が、環境保護論者、ヘルスケア専門家、および、公衆全体の間で高まりつつある。抗生物質と薬物は膨大な数の病気とその侵襲の治療で施療目的で広く使用されており、化学物質や放射線は人間と穀物の両方で広く使用され、殺虫剤は子供の頭についた虱を殺すために人にも使用される。このような治療は有用かつ有効である一方で、化学物質が環境と長期にわたる人体の健康とに与える潜在的脅威と実際の脅威の両方についての関心も高まりつつある。
【0003】
化学薬品を使用することについてのまた別な関心は、このような薬剤の標的である微生物、病原体、細菌、および、害虫が薬剤に対する抵抗力を高める能力である。通常の化学薬品は、化学薬品を導入してから薬品の効能を失わす程度まで標的有機生命体が抵抗力を高めるまでに5年ないし10年しか有効期間がないと、農事専門家や医者は確信するようになっている。最も効力の高い殺虫剤や除草剤の大半は、食品保護条例や大気浄化条例などに基づいて使用認可の評価を喪失するものと予想されている。効力と使用認可評価の両方を喪失することで、国際的に競争に勝ち残りを賭けて市場シェアを保持する方法を模索している世界中の農事専門家の間でも切迫感が生じている。
【0004】
【特許文献1】米国予備特許出願第60/450,736号
【発明の開示】
【発明の効果】
【0005】
特定のパラメータを満たすように選択された波長と磁束密度の電磁放射線が腫瘍組織の存在と成長を含めた多様な病気やその侵襲の治療に有効であるが、かかる病気に属するものとして、酵素の活動またはそれ以外の生体適合性の反応性物質が発生と増殖を媒介するウイルス性の感染症があることが分かってきている。従って、本発明は病原物質中に現存する物質であって、病原の存命または増殖に重要となる物質を同定することを目的とし、また、そのような病原物質に有害に冒される物質または有機体を選択的に摘発し、臨床治療、滅菌、および、環境的に好ましくない症状または生理学的に好ましくない症状の救済全般を含む有利な結果を達成することを目的とする。従って、治療を受けるべき物質または有機体に電磁放射線をあてるが、そのスペクトル特性を見れば宿主すなわち有機体と害となる物質すなわち宿主の構成要素との間のスペクトル差が分かる。選択的に照射することで、分子の振動状態、回転状態、磁気的状態、および/または、電子的状態に変化すなわち量子遷移を発生させる原因となる、波長次第で変わる光化学反応および/または写真製版反応を誘発させる吸収差を生じると同時に、選択的消毒法、選択的変性法、選択的破壊法、および/または、選択的脱水法などの手段で有効な効果を生む。光化学反応とは、紫外線光のような光で始まる反応、または、そのような光の影響を受ける反応をいう。写真製版反応とは、屈曲、延伸、揺動、回転、および、振動のような分子規模の機械的動作から生じる光により誘発される反応である。
【0006】
本発明が提供する多数の利点に次のような事実がある。すなわち、光化学反応と写真製版反応の両方が無汚染反応であるという事実と、害虫または病原体は対熱抵抗または電磁放射線吸収に対する抵抗を増大させることができないという事実である。更に、本発明は新たな化学物質または薬物の発見、篩い分け検査、登録に必要となる時間と経費の投資を必要とせず、また、本発明は商業的実現に向けて容易に調整できる。本発明は宿主を化学変化させずに実施することができるため、本発明は市場向け応用例ばかりか有機的応用例にも十分に好適である。本発明の多数の実施形態で、照射は化学結合を破壊するのに十分なエネルギーを欠いており、また、イオン化を生じるのにも不十分である。
【0007】
従って、本発明は、腫瘍組織によって先取的に吸収される波長の電磁放射線で有機生体を照射することで有機生体の腫瘍組織を殺傷し、また、それを実施するのに十分な放射線強度で、かつ、照射によって生じる熱が周囲組織に実質的な損傷を与えずに腫瘍を放射線破壊するのに十分な期間にわたり行う方法を目的とする。本発明はまた、酵素が先取的に吸収する波長の電磁放射線で組織を照射することによって生きている組織の酵素を不活性にすることで、そのような酵素の活動に依存するある種の望ましくない生物的プロセスまたは生理学的プロセスを壊し、それを実施するのに十分な放射線強度で、かつ、酵素を変性させるのに十分な期間にわたって行う方法を目的とする。このような望ましくない生物学的プロセスまたは生理学的プロセスとして、ウイルスの侵攻またはウイルスの成長、或いは、免疫反応を含めて、ウイルスが媒介となり、ウイルスによって破壊または阻止される細胞プロセスが挙げられる。
【0008】
本発明は、無菌条件が必要とされる実験室、臨床処置、または、外科手術処置で使用される医療機器のような物体または物品とその他の装備を滅菌する方法を更に目的とする。このような装置および装備は合成重合体で構築されることが多く、生物学的物質と接触した後は再利用のために滅菌されなければならない。本発明によれば、電子対を共有するO−H結合により選択的に吸収される波長の電磁放射線で物品を照射することでその物品の内部またはその表面に存在するグルコースを除去するが、その物品を構築している合成重合体の分子構造に重要な変化または実質的な変化を引き起こすことのないように、物品は滅菌される。代替例として、または、グルコース脱水に関連して、電子対を共有するN−H結合により選択的に吸収される波長の電磁放射線で物品を照射することによりタンパク質性の物質が除去または分解されるが、この場合も、合成重合体の分子構造に重要な変化または実質的な変化を引き起こすことがない。更なる代替例として、または、グルコース脱水およびタンパク質分解に関連して、物品内またはその表面のリボヌクレアーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、パイロジェン、核酸のような、また別な生体反応性物質を分解または不活性化するのに、このような物質を選択的に吸収する波長の電磁放射線で照射する方法を採用し、この場合もまた、合成重合体の分子構造に重要な変化や実質的な変化を引き起こすことがないようにしている。本発明の更に別な目標、実施形態、目的、応用例は後段の説明から明瞭となる。本件記載中の引用文献は全て、引例として挙げることによって本件の一部を構成するものとする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
所与の宿主、物品、または、製品(本件では一括して「宿主」と称する)の治療のパラメータを測定する本発明の方法は宿主を解析することを含むのに加え、関与する標的または病気侵襲部(本件では一括して「標的」と称する)も同様に解析し、それぞれのスペクトル特性を判定する。ここではスペクトルが比較され、宿主と標的との間の最大吸収差を示す周波数か、または、少なくとも、選択的吸収を許容するのに十分な吸収差を示す周波数が識別される。識別が完了すると、このような周波数は、それぞれの周波数に対する宿主の透明度はもちろん、フィルタリング後または周波数変調後の利用可能性、パワー変換係数、利用できる磁束密度、放射帯域、および、効率について評価されることになる。続いて、磁束密度試験が遂行されて、望ましくない副次効果や変換を生ぜずに宿主が耐えることのできる最大強度を判定する。宿主が生きている組織または生物的組織である場合、このような試験は生体条件で実施されるのが好ましく、穀物、生肉、生魚のような食品や塗料のような食品以外の物である宿主の損傷が異論を挟む余地がない場合は特に生体条件が好ましい。そうでなければ、試験は生体条件外で実施されてもよい。磁束密度試験は標的に対しても実施される。続いて、吸収差と処理用のパラメータが定められる。例えば、吸収差の大きさで処理時間が決められるが、その場合、差が大きい吸収は処理時間が非常に短くてもかまわないが、但しその条件として、所望の波長の高い強度と狭い帯域放射の光源が利用できる場合に限る。吸収差が大きくない場合、同時に使用することができる幾つかの異なる波長について適切なパラメータを識別して判定することが好ましい。このような多数モード処理、すなわち、多数波長治療は、宿主に望ましくない副次効果を生じることのない波長のどれか、または、全部の波長で照射することを含んでいてもよい。宿主と相関的な標的の部位、すなわち、標的が大きな塊の宿主に埋没しているのか、それとも、宿主の表面に集中しているのかという点は、波長選択の際のまた別な因子となる。標的が宿主に埋没して存在している場合、波長は、その波長にたいして宿主の少なくとも一部が透明となって放射線を標的に到達させることができるようなものでなければならない。宿主表面の標的については、好ましい波長は、その波長にたいして宿主が反射性を示したり、少なくとも非吸収性となるようなものでなければならない。宿主の物理的状態と、放射線源まで宿主を搬送したり、宿主を露光させたりする手段も、或る場合の因子の原因となる。
【0010】
異なるタイプのスペクトルを適切な波長の識別に使用することができる。例えば、赤外線分光法はコンベアライン上の穀物中の病原体を検出することができるし、赤外線監視システムは穀物貯蔵容器内の害虫侵襲を検出する目的で商業的に利用されている。
【0011】
吸収差によって達成することのできる効果としては、微生物の破壊、殺菌または消毒、タンパク質性物質の変性、生物学的プロセスの崩壊、炭水化物およびその他の物質の脱水などが挙げられる。殺菌または消毒は、害虫を殺したり追い払うことにより、或いは、侵襲するのには望ましくない環境、または、そうすることを容赦しない環境を作ることにより、宿主が侵襲されないようにすることである。変性は、タンパク質を不活性にする熱によって、タンパク質を変換することである。脱水は、宿主または宿主の一部に存在する水分または溶剤の量を選択的に低減することで、害になる物質が生き延びる能力を奪うことである。殺菌は、宿主に存在する、病気または感染の原因となりそうな病原体の生存能力を取り除いたり破壊したりすることである。達成することのできるまた別な効果は、1種以上の害となる物質に標識を付し、タグを付け、或いは、照射して、このような物質と照合して、化学薬品、触媒、または、ナノボット(すなわち、ナノメートル規模で諸機能を実施するロボット)の行動を更に標的とするよう図っている。
【0012】
本発明を腫瘍組織の破壊と癌治療全般に適用することで、一般的療法と特殊療法全体で効果がある。例えば、照射時の有害DNAと正常DNAの療法の構造変化を研究することで、265ナノメートルの高度の吸収差が明らかになったが、この時、有害DNAは正常DNAに比べて約80倍まで放射線を吸収している。DNAは摂氏約75度から摂氏約90度の範囲の温度で変性すると分かっている。特殊なタイプの癌はもとより、癌全般が、治療を有効なものとするのに十分な量で癌部位に放射線を投与する搬送システムおよび/または装置を必要とすることになる。例えば、宿主の内側の深部に位置する病巣部または腫瘍組織が必要とするシステムと比べて搬送システムの洗練の度合いが劣っていても、皮膚表面の病巣部の治療は達成することができる。それにも関わらず、全ての癌のための汎用搬送システムは或る共通の特性を有しており、例えば、光源、エネルギーまたは波長の選択手段または最適化手段、放射線を治療部位まで伝播させる手段、および、部位に搬送されるエネルギーを制御および監視するシステムなどがある。ここでも、体表上の病巣部または体表付近の病巣部の専用搬送システムは比較的簡単で、というのも、主要な、恐らく唯一の要件は、有効な治療のために適切な磁束密度まで放射線が集束されて変調されなければならないということだからである。深部組織まで、または、それ以外の内部領域まで搬送するシステムは、もっと念入りな手段が必要となる。
【0013】
吸収され、或いは、散乱させられ、従って、体内を透過しない波長で放射が実施されると、光ファイバー、光導体、または、導波路のような促進手段により、治療部位は効力を得ることができる。ガラスや、重金属フッ化物、低分子重量のカルコゲニド(例えば、As23など)、ハロゲン化銀、サファイア、シラン化亜鉛(ジンクシラニド)、合成ダイアモンド、それ以外の線形物質または非線形物質のような結晶性物質などの、多様な物質から形成されている中実コア透過光ファイバー装置が利用できる。誘電体で皮膜された金属性の中空導波路も利用することができる。高度に可撓性に富む縮射型の中空導波路も利用できるが、穿孔寸法の範囲は250ミクロンから1000ミクロンであり、シリカ管の内側に堆積された金属と誘電体皮膜から構成されている。これらは赤外線放射線の搬送には特に有用である。このようなシステムは全て、本発明を実施するのに有用となる。
【0014】
エネルギーと周波数を最適化し、能動光学系および受動光学系の両方を使用することも、本を実施する際に同様に有用となるが、とりわけ、走査とパルス修正を行って治療部位を最適な期間にわたって適切な磁束密度に曝し、エネルギーが周囲組織へ散逸するのを許すことがないようにする際には有用である。フィードバックとビームサンプリングおよびビームモニタリングによりモードロックで周波数と磁束密度に監視と制御の両方を施す搬送システムは、周波数シフトまたは出力の揺らぎのせいである付随的損傷を最小限に抑える、または、回避することを更に確実にする。このようなシステムは、遠隔通信産業によって開発されてきており、本発明を実施する際の用途に容易に利用できる。
【0015】
生物学的物質における光誘導熱力学反応
有機化合物、とりわけ、タンパク質、核酸、多糖類、および、脂質は、相互依存的で複雑、かつ、細胞および有機体の生存能力に不可欠である多数の代謝プロセスの一因となっている。1種以上のこのような機能の中断、または、低減は、細胞または有機物の破壊の結果として生じることが多い。このような化合物や関連する結合は各々が、本発明を実施する際に生じる吸収差光化学処理または治療、吸収差写真製版処理または治療の潜在的標的となる。
【0016】
タンパク質は有機化合物の中でも特に重要であり、従って、本発明の多数の治療およびプロセスの中心である。タンパク質のアミノ酸配列と3次元構成は、タンパク質の生物化学機能と、タンパク質と生物学システムとの相互作用には重要である。3次元構造の変調の結果、タンパク質を不活性化し、生物化学プロセスに参加するタンパク質の能力を阻害することができる。
【0017】
最も重要なタンパク質の幾つかは酵素である。酵素は生物学的システムで発生する反応の触媒として作用し、よって、代謝に必要である。酵素は、知られている触媒のうちでも最も効率のよい触媒であり、反応速度を1,020倍だけ上昇させる。酵素は球状タンパク質である。
【0018】
タンパク質の変性は、タンパク質の構造の何らかの電子対非共有変化である。通例、変性はタンパク質の二次的構造、三次的構造、または、四次的構造を変化させ、タンパク質がその生物学的活動を喪失する原因となる。酵素の変性の結果、酵素活動の喪失が生じる。変性の原因の1つは熱であり、タンパク質と加熱の厳しさ次第では、変性と活動喪失は可逆的である場合もあれば、非可逆的である場合もある。温度が上昇するにつれて、タンパク質に及ぶ変化は漸進的に生じる。第1の変化は、三次構造を維持するのに必要となる遠距離相互作用に対するものである。この相互作用は弱まってから途絶し、より可撓性のある構造を生じるとともに、タンパク質を溶剤に曝す度合いも高まる結果となる。加熱を強くした場合、構造を安定させる強調結合または相互作用の影響を受けて、水がアミド窒素原子およびカルボニル酸素原子と相互作用して、新たな水素結合を形成することができるようにする。水との接近を増大させることは付近の水素結合を脆弱化することにもなり、これは、このような結合の付近の有効比誘電率を上昇させることによって起こる。この結果、疎水基を溶剤に曝すこととなる。
【0019】
疎水基と新たな水素結合基とを水に曝した結果、タンパク質分子によって結合されていた水の量が増大し、これにより、タンパク質が変性する。このようなタンパク質変性は分子の水力学半径を増大させ、今度はこれが溶液の粘性を増大させる。次いで、極性基を溶剤に曝しながら疎水基を埋め込むことにより、タンパク質は自由エネルギーを最小限に抑えようとすることになる。これは、タンパク質が最初に形成された時に生じた最初の折畳み作用に類似しているが、この新たな再配列は遥かに高温で生じ、これにより、最初にタンパク質折畳みを支配した短距離相互作用をひどく弱化させる。その結果生じた構造は天然のタンパク質の構造とはひどく異なっていることが多いため、タンパク質がその機能を実施する妨げとなる。
【0020】
熱変性されたタンパク質が低温化されると、分子は自由エネルギーが最も低い配座にはないことが多く、疎水結合によって凝集する傾向を示し、これが、分子がそれぞれの本来の配座に戻るのを阻害する速動性の障壁を作る。タンパク質が最度折畳まれて、その天然の構造に戻ることができるようになる前に、まず、このような疎水結合が解離させられなければならないが、これは、タンパク質上の多数の疎水基を溶剤に曝すことになるため、エネルギー的には好ましくない事象である。このようにタンパク質が最度折畳まれることなく本来の生物学的機能を実施し得なくなる形態に変形することは、病原体の発生や蔓延と不可分である生物化学プロセスを破壊するにあたっては、望ましい成果である。
【0021】
多糖類、脂質、および、リポ多糖類はまた別な生物学的種であり、それらの機能と活動は本発明を実施する際に排除することができる。或る微生物は、人間や他の哺乳動物の細胞構造には存在していないペプチドグリカンやグリコカリックスのような物質を含んでいる。従って、このような物質は、人間または哺乳動物の組織、皮膚、または、内部器官の治療における標的として役立つ。
【0022】
例えば、ペプチドグリカンは微生物のほぼ全ての微生物のほぼ全ての細胞壁構造に共通している。グリカンの主鎖はN−アセチルムラミン酸とN−アセチルグルコサミンとの間のβ−1,4グリコシド酸から成る。このようなアセチル結合は赤外線放射の有効な標的部位として働くが、これは、多糖類のアミノ酸残基の配列が、グリカン層とグリカン層を架橋結合することで大いに安定させられるからである。グラム陽性の有機体では、このよう架橋がD−アラニン残基をグリシン残基に結合し、グラム陰性細菌では、このような架橋がジアミノピメリン酸をD−アラニンに結合している。グラム陰性の有機体は、薄いペプチドグリカン層を被覆する外側層を備えている。この外側層は、リポ多糖類、膜間タンパク質、および、ポリンを含有している。ポリンは、生存に必要な細胞機能にとって重要なタンパク質を輸送するネットワークである。ポリンは、赤外線放射を利用した熱変性によって不活性化させることができる。リポ多糖類は、四糖類の末端または五糖類の末端、コア多糖類としてのケトデオキシオクトネート、および、有毒脂質Aヘッドを含有している。ケトデオキシオクトネートも、本発明によると、とりわけ赤外線光での照射により、破壊の有効標的となる。
【0023】
グリコカリックスは、細菌細胞を包囲する粘性ゼラチン状の重合体であり、多糖類、ポリペプチド、または、その両方を含んでいる。多糖類外被は、形成後に細胞壁に堅固に付着させられると、細菌の病毒性の一因となり、かつ、病原体細菌を宿主の細胞による食作用から保護するカプセルを形成する。カプセルはまた、細菌が何の表面にでも付着状態になって、その自然環境で生き延びるのを助けることもできる。カプセル内に封じ込まれていない細菌は容易に食菌され、病気の原因とはなり得ない。よって、グリコカリックスが選択的に吸収する照射放射線によるグリコカリックスの破壊または脆弱化は、本発明による細菌感染治療のもう1つの効果的な手段である。
【0024】
テコイン酸と自己溶解素
多くのグラム陽性細菌の細胞壁がテコイン酸を含有している。このような酸はペプチドグリカン層に結合されるか、プラズマ膜に結合されて、細胞成長で或る役割も示す。自己溶解素は、細胞壁の成長に不可欠な酵素である。テコイン酸は自己溶解素の活動を調節して、壁の破壊と溶解を妨げる。抗酸性細菌の細胞壁もペプチドグリカンを含んでおり、壁の60%程度が脂質である。よって、自己溶解素は、物品の殺菌手段としての、または、組織の細菌殺傷手段としての本発明の選択的吸収による放射破壊の有効な標的となる。
【0025】
細胞壁はまた、リゾチームに曝すことによっても損傷を受けることがある。リゾチームは、多糖類鎖の糖類とペプチドグリカンとの間の結合の加水分解を行う触媒の作用をする酵素である。ペニシリンなどの或る種の抗生物質は、ペプチドグリカンのペプチド架橋の形成を干渉することにより、細菌を破壊することで、機能的細胞壁が形成されるのを阻害する。よって、糖類と糖類の間の結合は本発明を実施する際のまた別な標的であり、結合破壊はペプチド架橋の抑制と破壊を引き起こすため、細菌を殺傷する。
内生胞子
不可欠な養分が欠乏すると、または、水が入手できなくなると、クロストリジウムやバチルスなどの或る腫のグラム陽性細菌は、内生胞子として知られている、分化した「休止」細胞を形成する。内生胞子は脱水されてもかなり耐えられる組織体である。胞子形成すなわち伝播生殖の間、前芽胞と呼ばれる構造体が作られ、ペプチドグリカンの厚い層によって被覆される。次に、タンパク質の厚い胞子皮膜が内生胞子の外側膜としてペプチドグリカンを覆って形成される。このタンパク質の皮膜が原因で、胞子は多数の刺激の強い化学物質に対して耐性を示す。ペプチドグリカン層と外側タンパク質皮膜の両方が選択的赤外線吸収に対して壊れ易く、そのため、本発明を実施する際の標的となる。
【0026】
伝播生殖が完了すると、内生胞子は保有水分の大半を失っており、そのため、代謝機能を行うことができない。相当な脱水状態の内生胞子のコアは、DNAと、少量のRNAと、リボゾームと、酵素と、大型のカルシウムイオンを伴った大量のジピコリン酸を服務小型分子とを含有している。このような細胞成分は細菌が代謝を再開するには不可欠である。胞子の発芽は外側タンパク質皮膜に損傷を与えることで始まり、酵素が残余の層を破壊して水を呼び込み、代謝を再開することができるようにする。ゆえに、タンパク質皮膜、ペプチドグリカン、および、酵素は細菌が発芽するのを防ぐ際の別な標的場所である。
【0027】
節足動物と病原体はキチンをベースとした構造によって互いに関連しており、ペプチドグリカン層は50%がキチンであり、或いは、自らが加水分解で生成したN−アセチルDグルコサミンである。本発明によるキチンの選択的吸収は、従って、細菌を殺傷するもう1つの手段であり、或いは、細菌を不活性にする手段である。
【0028】
虫の赤外線標的化処理
アール・ムザレッリ(Muzzarelli, R.)ほか編(「天然環境におけるキチンとテクノロジー(Chitin in Nature and Technology)」(ニューヨーク、プレミアムプレス社刊、1985年)の中でイー・コーエン(Cohen, E.)が「虫器官におけるキチン合成の抑止(Inhibition of chitin Synthesis in Insect Systems)」により報告しているように、キューティクルは虫の生存にきわめて重要である。キチンはキューティクルの主要な構造的成分であるため、昆虫系の有害生物を制御するにあたって本発明を実施する際の選択的吸収の標的は、キチンである。ムシはその組織体の複数領域が標的となることがあり、それらの領域はキューティクル、キチン、或いは、それ以外の、赤外線エネルギーまたはマイクロウエーブエネルギーのような電磁エネルギーの吸収差を示す物質に関連している。例えば、複眼、鼓膜、触覚などの虫の感覚点の構造は、失明させたり聴覚を喪失させるために標的にされ、或いは、虫が位置確認しながら空を飛んだり仲間の位置を探すことができないようにするために標的にされる。
【0029】
赤外線源に曝された虫は、感覚障害に見舞われ、光源を反応認知することができなくなる。標準的な光源にされされた場合、それに応じて虫は反応して逃げる。ある種の虫は光の赤色波長に対しては現実に盲目状態にあるが、紫外線領域を含む遠領域見ることはできるのは、ヴィー・ビー・ウイグルスワース(Wigglesworth, V.B.)が「昆虫生理学(Insect Physiology)」第8版(ロンドン、チャップマン・アンド・ホール社刊、1984年)で報告しているとおりである。このような虫(例えば、双翅類)に赤色(可視光)レセプタが存在していないということは、実験に基づいて報告されている現象から推断されている。ジー・エー・ホリッジ編の「昆虫の複眼と視力(The Compound Eye and Vision of Insects)」(オックスフォード、クラレンドンプレス社刊、1975年)の中のアール・メンゼル(Menzel, R.)著の「昆虫の色レセプタ(Color Receptors in Insects)」と、アール・ヴェーナー(Wehner, R.)編の「節足動物の視覚器官における情報処理(Information Processing in the Visual Systems of Arthropods)」(ベルリン、シュプリンゲル・フェルラーク社刊、1972年)の中のカー・キルシュフェルト(Kirschfeld, K.)著の「イエバエの視覚器官:光学系、構造、機能についての研究(The Visual System of Musca: Studies on Optics, Structure and Function)」とを参照のこと。アール・ヴェーナー編の「節足動物の視覚器官における情報処理」(ベルリン、シュプリンゲル・フェルラーク社刊、1972年)の中のデー・バークハート(Burkhards, D.)ら著の「双翅類、長翅類、膜翅類の目の電気生理学的研究(Electrophysiological Studies on the Eyes Diptera, Mecoptera and Hymenoptera)」によると、この「赤色色盲」は、長い波長の放射線に対して篩い分けをする色素を欠いているせいである。しかし、昆虫は紫外線に高感度な色素と500ナノメートル、450ナノメートル、または、350ナノメートルのスペクトル感度最大値との間に強い視覚的相関関係を示し、このような色素により、昆虫は空の迷光スペクトル分布に反応することができる。これは、エム・ロックスタイン(Rockstein, M.)編の「昆虫の生理学(The Physiology of Insecta)」第2版、第2巻(ニューヨーク、アカデミックプレス社刊、1972年)の中のティー・エイチ・ゴールドスミス(Goldsmith, T.H.)著の「昆虫の視覚器官(The Visual System of Insects)」により報告されているとともに、アール・ヴェーナー編の「節足動物の視覚器官における情報処理」(ベルリン、シュプリンゲル・フェルラーク社刊、1972年)の中のカー・ハムドルフ(Hamdorf, K)ほか著の「無脊椎動物の視覚色素の光再変換(Photoreconversion of Invertebrate Visual Pigments)」によっても報告されている。昆虫は、放射線の狭帯域よりもむしろ、天然の迷光に強い視覚反応を示す。特に、昆虫は、迷光に曝されると、走って逃げたり、跳ねて逃げたり、飛躍して逃げたり、飛行して逃げる。従って、赤外線波長は節足動物には透明なままである(不可視である)。節足動物の角膜は透明なキューティクルから構築されており、ジー・ヴィー・デシエール(Dethier, V.G.)著の「昆虫の感覚の生理学(The physiology of Insect Senses)」(ロンドン、メシューエン社刊、1963年)、および、アール・ヴェーナー編の「節足動物の視覚器官における情報処理」(ベルリン、シュプリンゲル・フェルラーク社刊、1972年)の中のエム・エフ・ラント(Land, M.F.)著の「跳躍する蜘蛛(ハエ取り蜘蛛)による向きとパターン認識のメカニズム(Mechanism of Orientation and Pattern Recognition by Jumping Spiders, Salticidae)」によって報告されているとおりである。従って、蜘蛛や昆虫の目は本発明のプロセスによって標的にすることができる。角膜(または、鼓膜)の赤外線透過は組織の脱水によって視覚機能(または、聴覚機能)を壊され、組織の脱水が生じる前に組織損傷を引き起こし、この損傷があとで盲目(または、減感)を生じるため、処理された昆虫が生存するのは困難となる。
【0030】
更に、アンテナ機能と脚部の運動性もキューティクルと関係がある。通常は、キューティクルは、乾燥して、硬度を増して、タンパク質−意チン質の架橋結合により劣化に耐えながら、硬化されるが、これは、シー・アール・ブスカ(Busca, R.C.)ほか著の「無脊椎動物(Invertebrates)」(サンダーランド、シニョールアソシエーツ社刊、1990年)によって報告されているとおりである。しかし、関節部では、キューティクルは硬化されず、柔軟性を許容している。この「脆弱さ・弱さ」の意味するところは、赤外線に曝すことで内部のキチンの能力を変えて、外筋肉、結合組織、コンディル(関節組織)のような運動性に必要な組織内の水分を保持することができるとういことであり、このような変化が昆虫の関節に対する損傷の原因となって、昆虫を不具にしてしまうことができる。
【0031】
標的としてのキチン
微生物は養分摂取の3つの主要なモードに基づいて5つの区系界に分類される。これらの区系界とは、モネラ界(微生物)、原生生物界(主として、藻類と単細胞性の動物)、植物界(各種植物)、菌類界(イーストやカビ)、それに、動物界(線虫、円虫、扁虫、条虫、吸虫、それ以外の門)をいう。最初の2つの区系界は残余の3つの区系界の進化の元になる出発点である。このシステムの基本となる養分摂取モードは、植物(光合成)、菌類(吸収による養分摂取)、および、動物(食物摂取による養分摂取)である。更に、ウイルス(動物宿主)、ウイロイド(植物宿主)、プリオン(感染性タンパク質)、および、ビリノ(宿主のタンパク質に含まれる核酸)のような非細胞性の感染媒体が微生物集団を構成しているが、これもまた、分類学上、外してはならないものである。エム・ジェイ・ペルツァー・ジュニア(Pelczar, Jr., M.J.)ほか著の「微生物:概念と応用(Microbiology: Concepts and Applications)」(ニューヨーク、マグローヒル社刊、1993年)。
【0032】
菌類のキチン質は節足動物のキチン質と化学的に同一であり、細胞質内封入顆粒としても見出される1分類を除く全ての生物の細胞壁に排他的に閉じ込められている。これは、アール・ムザレッリほか編(「天然環境におけるキチンとテクノロジー」(ニューヨーク、プレミアムプレス社刊、1985年)の中でイー・コーエンが「虫器官におけるキチン合成の抑止」により報告しているとおりである。菌類では、キチン質の役割は細胞壁の形状と硬度を維持することである。菌類の細胞壁は、主として多糖類(糖質)と、少量の脂質と、タンパク質と、それ以外の無機イオンとを構成要素とする。多糖類は2種の主要構造中に見られる。すなわち、糸状のマイクロフィブリルと形質化の劣る配列である。マイクロフィブリルの構造体は、細胞壁の主要な構造敵構成要素であるが、他の鎖の周囲に巻きついた別個の多糖類の鎖から成り、粗くて強度のある糸状体を形成している。このような糸状体は配列中に埋設されおてり、構造化されないまま顆粒状で発現するより小型の多糖類の凝集体である。配列もタンパク質と脂質を構成要素とするが、このような成分が配列に占める割合はそれぞれに、概ね、10重量%および8重量%に満たない。菌類の壁は、スチールロッドとして作用するマイクロフィブリルおよび凝結物としての配列で補強された結成体に類似している。これは、エム・オー・ギャラウエイ(Garraway, M.O.)ほか著の「菌類の養分摂取と生理学(Fungal Nutrition and Physiology)」(ニューヨーク、ウイリーインターサイエンス、1984年)により報告されている。
【0033】
マイクロフィルリル自体はキチン、セルロース、または、それ以外の非セルロースを基調としたグルカンから構成されている。構造的には、キチンはβ−1,4結合されたN−アセチルD−グルコサミンの単位体の枝なし組成の重合体である。主要な菌類のうちの幾つかのものの菌性の細胞セル内にキチン質が存在していることが、菌類をより高等な植物類と分け隔てる顕著な特徴となっている。菌類を分類する1つの基準は、配列糖類とマイクロフィブリルの発生であるが、これは、配列中の炭水化物分布が決め手となって菌類の分類学上の或る範疇を別な範疇と区別するからである。ディー・エイチ・グリフィン(Griffin, D.H.)著の「菌類の生理学(Fungal Physiology)」(ニューヨーク、ウイリーインターサイエンス、1981 年)を参照のこと。
【0034】
菌類の細胞壁に存在しているキチン質の量(乾燥重量)は特定のライフサイクル構造ごとに異なっている。ケカビ(Mucor rouxii)の種では、胞子嚢床(子実体を形成する胞子)に見られるキチンの量は乾燥重量が18%である。それ以外の菌類の細胞壁は、これも乾燥重量で、39%から58%程度を含有していることがある。リン脂質とスフィンゴ脂質は菌類の膜に見られる主たる脂質であり、これらの脂質は極性分子であって、親水性の「ヘッド」と長い疎水性の「テール」を備えている。プラズマ膜は、細胞の内と外からの物質通路の調整役をするが、等分の脂質およびタンパク質と、少量の炭水化物からなり、場合によっては、核酸を構成要素とする。
【0035】
アスペルギルス腫では、キチン質の量は発芽管が現れる直前は細胞壁内で増大する。キチンのような細胞質成分の濃度の変化は、とりわけ、菌性の植物病原体の成長を査定する際に菌類の生長を判定する方法として利用されてきた。上述のグリフィンほか著の論文によれば、「キチン合成の抑制によって病原体の菌類を制御することは、宿主に有害な副次効果を生じることのない、選択的な殺菌剤の理想的なメカニズムであると思われる。しかし、この腫の行為を利用した菌類駆除の例は極めて数が少ないことが分かっている」のである。キチン質は赤外線活性であるため、菌類のキチン(よって、細胞壁)は、狭い帯域の電磁放射線の吸収差によって、本発明を実施する際に選択的に破壊される。
【0036】
細菌を殺傷するもう1つの手段は、細菌から運動能力を奪うことである。これは、糸状体、鞭毛、ピリ線毛のタンパク質を変性させることによって達成される。糸状体は、大半の細菌では膜によって被覆されてはいない、球形のタンパク質フラジェリンを含有している。鞭毛は、細菌細胞に速度と方向を変える能力を与える機械化学生物学的モーターである。ピリ線毛は、細菌細胞が他の細胞などの表面に付着できるようにすることにより、グリコカリックスに類似した機能を果たすため、細菌が増殖する助けとなる。このような構造体のいずれにおけるタンパク質破壊も、細菌が蔓延するのを防ぎ、このため、このような構造体の全部が、本発明による電磁放射線の吸収差の標的となる。
【0037】
人体へのAIDSウイルスの侵入
AIDSウイルスの好ましい標的は人体のT−細胞であり、この細胞は、人体の防御の必須部分を形成している。ウイルスがこの細胞を攻撃すると、そのSUタンパク質が細胞表面のCD4レセプタに取り付く。次いで、ウイルスのTMタンパク質が細胞膜を透過して、膜溶融プロセスを開始するが、これにより、ウイルスのコアが細胞に入ることができるようになる。ウイルスの遺伝子物質がその細胞の細胞質に入ってしまうと、ウイルス性RNAと相補的であるDNAを生成するプロセスが始まる。それゆえに、SUタンパク質とTMタンパク質は、AIDS感染を治療するにあたり、本発明を実施するための標的となる。
【0038】
本発明によって同様に制御され、或いは、排除される、また別な微生物は、イースト、カビ(ケカビ、黒色アスペルギルス)、大腸菌属、大腸菌、バチルス菌、腸内細菌、ウェルチ菌、中温度好性嫌気菌、サルモネラ菌、乳酸菌、および、リステリア菌である。
【0039】
フューリンは、あらゆる脊椎動物および無脊椎動物に見られる、794アミノ酸型1経膜タンパク質と普遍的に表現される、細胞内生プロテアーゼである。このタンパク質の広い内腔領域と細胞外領域は、セリン内生プロテアーゼのサブチリシンスーパーファミリーに属する前タンパク質コンバーターゼ(PC)ファミリーの別なメンバーの同じ領域と全体的相同関係にある。前酵素が内生プラズマ網状質(ER)に転座するのを支配する、このシグナルペプチドに加えて、フューリンおよびそれ以外のPCは、アミノ終端側のシグナルペプチド分裂部位が傍に位置する、また、カルボキシル終端側のタンパク質自己分解分裂部位を含む基本アミノ酸の1つの保存セットが傍に位置する前ドメインを含む。この必須の前ドメインは、タンパク質の折畳み形成、PCの活性化と輸送、および、PC活動の調整で重要な役割を有している。フューリンおよび他のPCは保存Pドメインを共有するが、これは、酵素の活動と、pH要件およびカルシウム要件の調整に不可欠であり、関連する細菌酵素にはこのPドメインが存在しない。フューリンの細胞質ドメインは経ゴルジ体ネットワーク(TGN)システムおよびエンドソームシステムにおけるフューリンの局在化と選別を制御し、また、フューリンは哺乳動物の細胞内を移動するタンパク質の規則を理解するのに重要なモデルとなっている。
【0040】
フューリンは、病原体の媒体を含む、分泌物通過室内の前タンパク性の多数の物質をタンパク質分解過程で活性化する。フューリンはまた、胚形成でも不可欠な役割を有しており、前タンパク性の物質を著しく広範に収集する熟成作用を引き起こす触媒の働きをする。これらの物質は、成長因子およびレセプタから、細胞外配列のタンパク質や、果ては、病気を制御する別なプロテアーゼ系にまで及ぶ。その結果、フューリンは多数の異なる細胞内事象やアルツハイマー病、炭疽、鳥インフルエンザ、HIV、癌、痴呆症、および、エボラ熱などの諸症状で、重要な役割を果たしている。フューリンの構造的特性や酵素特性や、その自己活性化作用、および、細胞内の局在化や細胞内通過に関しては、フューリンは、フューリン抑止によるウイルスや細菌の制御を目的とした本発明による電磁エネルギー吸収差の標的となる。フューリンは多様な癌の治療の標的でもあるが、それは腫瘍に見られるレベル上昇したフューリンが、迅速な腫瘍成長と新血管新生にとって重要な膜型配列のメタロプロテナーゼの増大と相関関係があるからである。
【0041】
食品処理
食品の風味や舌触りは、無数の化学物質の有無と、量と、物理的状態に左右される。このような物質の幾つかがタンパク質類であり、それ以外にも脂質や多糖類がある。食品が処理中に加熱されると、全ての成分が直ちに加熱され、タンパク質類は変性して変質し、液体は酸化し、多糖類(糖類)は破壊し、或いは、カラメル状になる。
【0042】
タンパク質類の風味や舌触りの変化の一例は、肉や卵の風味の変化を引き合いに出すのが最善であるが、このような食品はタンパク質変性の結果として調理中に変化する。脂質(脂肪やオイル)も食品の味に大いに影響を及ぼし、脂質の酸化率は温度が摂氏20度上昇することに倍加する。酸化すると、脂質は容易に酸敗し、不快な味を発する。芳香揮発性油が一因である食品中のもっと微妙な風味の大半が、同様に失われる。
【0043】
酵素は多様な態様で食品に影響を与え、その具体例として、腐敗のような不快な状態進行が加速すること、茶変色、腐敗臭の発生がある。酵素を選択的に不能化することにより、このような状態進行を停止させることができ、また、その良い風味や商品寿命を保つことができる。
【0044】
図1は3種のスペクトルを示しており、その最上段のものは西洋スモモの果肉、中段はスモモの果柄、そして、下段はスモモの果核のスペクトルである。中間赤外線範囲におけるこのようなスペクトル差は波長を示しており、それぞれの波長によって、スモモの種なのか柄なのかを看破することができるが、その場合、「〜ならば(If)」、「かつ(And)」、「〜ではない(Not)」の論理のいずれかを使ったり、複数のモダリティーで処理または排除した。顕著なピークは、それぞれの最高吸収率から分かる。タグに赤外線を当てて除去してゆけば、同定と却下は直接行えるし、正答率も上げることができ、或いは、種と柄を選択的に加熱して、熱走査による除去を行うようにしてもよい。3種のスペクトルの各々の期間にわたる4本の垂直線は、3つの素材を区別するのに有用な3つの区域を線引きしたものである。ゾーン1では、柄と種の吸収はスモモの果肉における吸収よりも相当に高い。ゾーン2は、同様に、柄のスペクトルに急峻突出点があり、これは果肉のスペクトルの比較的低い吸収に比べて顕著である。ゾーン3は、同様に、果肉における吸収よりも相当に高い吸収が柄と種に見られる。よって、いずれであれ、これら3つのゾーンの比較スペクトルをプロセスで使用して、柄と種の両方を除去することができる。
【0045】
鑑別写真製版プロセスで食品を処理することで、特定の物質を選択的に加熱したり、加熱を選択的に回避したりすることができる。これにより、或る物質を選択的に変化させながら別な物質は変化させないようにすることができるようになり、またこれは、風味を変えるために利用することも、処理中に風味が変わらないようにするために利用することもできる。
【0046】
本発明を実施するにあたって、正常組織のタンパク質や脂質と比べて、新生物性組織のタンパク質と脂質に対する吸収率を異ならせるような波長の赤外線放射を利用し、多数の種類の癌を治療することができる。
【0047】
赤外線フーリエ変換分光法により判定された、正常な皮膚領域、正常ではないが良性の皮膚病巣部、悪性皮膚病巣部のそれぞれの分子成分を比較すると、次の皮膚病巣部は正常組織および良性組織と比べて違いがあった。皮膚病巣部とは、すなわち、皮膚線維腫、脂漏性角化症、光線性角化症、角化性棘細胞腫、基底細胞癌、増殖上皮細胞癌、真皮内母斑、複合母斑、異形成母斑、および、悪性黒子である。タンパク質類の主要構造および二次構造は、ペプチド結合のアミド振動、すなわち、1510から1610ナノメートルの第1の倍振動、1040から1070ナノメートルの第2の倍振動、および、3006から3400ナノメートルの基礎振動の影響を受ける。主要な脂質振動は、(CH2)およびCHを捩らして振動させ、第2の倍振動の伸張振動は2460から2540ナノメートルであり、基礎振動の伸張振動は3300から3600ナノメートルであった。
【0048】
組織学的に区別可能な病巣部では、タンパク質構造の変化と脂質の分子構造変化を意味する帯域変化が特殊な組み合わされて現れる。組織遺伝学関係の病巣部(光線性角化症および扁平上皮癌)は、互いに類似してはいるが同一ではないパターンのスペクトル変化を生じる。皮膚病巣部は再生可能な固有のスペクトルを生じるため、皮膚病巣部の治療はもとより、それ以外の多種の癌の治療にも、本発明を実施するにあたり、選択された波長の赤外線放射線が有用である。脳癌、前立腺癌、乳癌、および、それ以外の癌は皮膚がんと同じ代謝要件と組成を示し、というのも、スペクトルが悪性組織と健康な組織とで異なっているからである。これは、光学検出法の近年の進歩を物語る。癌を検出できるだけの十分な差異があれば、癌を治療するうえでの差異は十分にあるといえる。
【0049】
合成重合体から構築された物品の殺菌
合成重合体には多数の応用例と用途があり、それらの幾つか、なかでも主として医療や食品産業のものは、無菌状態を必要とする。合成重合体から作られた製品、または、合成重合体に梱包された商品は、通例は、電子ビーム、γ放射線、三酸化エチレン(ETO)、または、熱によって殺菌されてから、ロットあたりの単位量に基づいて、病原体、菌体内毒素、エンドヌクレアーゼ、および、核酸の検査に付される。熱、γ線、および、電子ビームの現在の処理は温度上昇を生じた結果、望ましくない架橋結合を生じたり、物質を脆化させて退色させる構造変化を生じ、引張り強度を20%以下ばかり低下させている。
【0050】
ある種のポリプロピレン、テフロン、ある種のシリコーン、および、それ以外の共重合体のような多数の合成重合体については、上記のような処理はまた別な理由から望ましくない。例えば、γ線は、線源がコバルト−60で燃料補給されねばならないせいで、危険な廃棄物を生じ、更に、価格を上昇させるうえに製造上の複雑さ増大させる拡張シールドを必要とする。ETOに曝すことを含む治療は2時間ないし4時間を要し、有毒ガスを生じ、特殊な梱包を必要とする。熱治療を含む処置は低い透過深度のせいで限界があり、不適切な加熱のために変形する危険を生む。
【0051】
重合体のそれぞれ異なる種類と用途ごとに、殺菌の程度を変える必要がある。外科手術用器具、移植可能な装置、および、それ以外の人間と動物への殺菌処置で主として使用される重合体は、病気または感染の原因となり得る病原菌、ウイルス、細菌のような、どのような生きている病原体も存在しない状態にしなければならない。食品産業も同様に、病気または疾病を引き起こすような生きている病原体の無い容器や器具を必要とする。生物学的検査で使用される重合体は高度の無菌状態を必要とする。これらは、病原体がいないだけではなく、反応性物質を含まないようにしなければならず、すなわち、生体反応性がない状態(NBR:non‐bioreactableでなければならない。NBR殺菌の標準は、リボヌクレアーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、発熱原、および、核酸が存在しないことである。菌体内毒素や発熱原は特に問題となる。菌体内毒素はグラム陽性細菌の細胞壁に含まれるリポ多糖類であり、遊離すると、細胞内で攻撃的な免疫反応を引き起こし、これは実験室内の試験や研究の妨げとなる。
【0052】
写真製版殺菌技術は化学結合には特効があり、標的を変質させるために特殊な波長を利用する。多糖類とリポ多糖類の主たる構造的成分はグルコースであり、グルコースは細胞壁のかなりの部分を損なう。本発明を実施する際に電磁エネルギーを選択的吸収することでグルコースが分解することは、殺菌を達成する1つの手段である。
【0053】
生物学的検査器具は、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレンの3つの重合体のうちの1つから主として製造されている。このような重合体は、グルコースに見られるような、赤外線の形態のエネルギーを活発に吸収する酸素−水素(O−H)結合は有していない。従って、O−H結合は電磁エネルギーの選択的吸収のための標的を与える。O−H結合の吸収帯域に向けられた照射はOH基を励起させ、分子からOH基を追い出し、グルコースの脱水を生じる。これは生きている有機体を全て効果的に殺傷し、菌体内毒素または発熱原の汚染を緩和する。核酸は、分子の主鎖を構成する糖類−リン酸塩の不断の鎖を含んでいるので、拡散も放射線照射の影響を受けることになる。O−H結合は可視領域の放射線を吸収し、水と氷の青い色の原因となっているが、O−H結合は1450ナノメートル、1935ナノメートルの近赤外線で放射線を吸収する。O−H結合にとっての中間赤外線吸収は3500cm-1、1600cm-1、900cm-1、500cm-1である。N−H結合は1200ナノメートル、2100ナノメートル、2200ナノメートルの近赤外線で放射線を吸収する。中間赤外線吸収は3700〜3000cm-1、1650〜1500cm-1、900〜700cm-1である。
【0054】
グルコースは、多数の合成ポリマーの殺菌のための標的であるが、多数の領域で複数波長の吸収差を示し、好ましい波長は紫外線から可視光線領域、NIR領域、基礎領域、および、基本領域にある。図2は低密度ポリエチレンと低密度グルコースのスペクトルを示している。ポリエチレンは3.3ミクロンから3.5ミクロン、6.8ミクロンから7ミクロン、更にまた、13.7ミクロンから14ミクロンの強い吸収を示す。ポリエチレンは、中間赤外線領域の他の全ての波長に対して比較的透明である(70%から80%)。グルコースは、O−H結合のせいで2.8ミクロンから3.3ミクロンの強い吸収を示し、C−H結合のせいで3.3ミクロンから3.5ミクロンの強い吸収を示す。指紋領域では、グルコースの放射線吸収は6.5ミクロンから10.5ミクロンの範囲内で90%から60%の割合で生じる(6.5μから10.5ミクロンの光透過のピークは、11μ、12μ、13μの時の3つの小さいピークだけ)。これは、選択的グルコース破壊が達成されるのは、2.8ミクロンから3.5ミクロンの波長と、6.5ミクロンから13μの波長の時で、重合体の加熱の程度が低い場合のみであることを示すものである。グルコースを選択的に加熱するための好ましい処理範囲は、2.5ミクロンから3.3ミクロンと8.5ミクロンから10.5ミクロンである。選択的加熱の好適な放射線源は、3ミクロン付近で発射する灰色体エミッタと、9ミクロンから11ミクロンの範囲で発射するCOレーザーである。
【0055】
重合体を殺菌するについて、有用な標的(特定の波長の放射線を選択的に吸収する結合)が多数あり、適切な標的は特定の重合体ごとに選択することができる。例えば、シリコーンは、殺菌のための最良の標的となるO−H結合を含んでいる。シリコーンの破壊を回避するために、タンパク質とペプチドを分解しようとしている場合には、窒素と水素の間の結合(N−H)が標的として使える。
【0056】
合成ポリマーは、通例、病原体または反応物質について、単位ロットあたりの量を基準にして検査される。この検査は2週間を要することが多く、検証が終わるまで、発送は控えられなければならない。本発明を実施する場合、検証は、処理中に処理区域からの出口付近で宿主重合体の温度を監視することにより、オンラインで実施することができる。吸収差のプロセスは、例えば、宿主重合体の温度が摂氏70度に維持されている時に、標的の生体負荷を摂氏150度の臨界温度に達するように上昇させるように手配すればよい。吸収エネルギーは以下の関係式で判定することができる。

この場合、Pは出力、Aは面積、tは時間、Aλは吸収率、すなわち、スペクトルから推測される吸収の割合(波長依存)、Eaは吸収されたエネルギー、msは物質の質量、Cは熱容量、Tcは臨界温度(所望の効果)、Taは雰囲気温度である。
【0057】
吸収差と、その結果である加熱差により、宿主の温度を監視することで標的の温度を判定することができる。宿主の温度が摂氏70度ならば、標的の病原体の温度は摂氏150度の臨界温度に既に達しており、所望の効果が達成される。
【0058】
食品および飲料水産業は、医療装置産業で使用される梱包材用の、同じ3つの重合体と同じ3種の殺菌方法とを利用する。食品容器、ボトル、蓋、および、キャップを殺菌するために最も広く利用されているプロセスは熱プロセスである。このようなプロセスでは、高温充填壜詰めラインで、キャップ表面やボトル表面に存在している生きた病原体を全て殺傷するのに十分な高温で、ボトルに液体が高温充填される。ボトルは液体が過剰充填され、または、充填され、キャップで塞がれ、表面を高温液に曝して熱殺菌を達成するのに十分な期間にわたり逆さに向けられる。このプロセスと所要の器具は高額であるとともに有効性を検証するのが困難であり、また、消耗品を多量に使用することを伴う。電子ビーム、ETO、γ放射線も利用されるが、経費効率が悪いことが多く、有害廃棄物についての懸念も増す。
【0059】
本発明による電磁吸収差の利用で、標的病原体を選択的に加熱することができるようになるとともに、放射線への被曝時間も短縮することができる。被曝時間が短縮されることで、1分あたり単位体が約900個というコンベア速度で処理することができる。完全に重合体から構築された容器は、充填後に処理して、病原体が最度導入されてしまう機会を排除することができる。
【0060】
活性再発光型の分光器
加熱された本体が広いスペクトル範囲にわたって電磁波を発射する。放射線の一部は赤外線領域にあって、サーマルラジエーションまたは熱放射線と呼ばれることが多い。赤外線エネルギーは絶対零度より高い全ての温度で、本体全体から発射される。熱放射線はいたるところに存在し、物体と物体の間の空間や物体内部の空間を透過する。
【0061】
本発明を実施するにあたり、特別な波長または集中波長帯域の十分に高い磁束密度の電磁エネルギーが物体または組織に当てられ、それが人間であれ、動物であれ、植物であれ、細菌であれ、ウイルスであれ、化学物質であれ、その物体または組織に線源の波長とは異なる波長のエネルギーを再発光させる。或る物質を特定の波長の電磁エネルギーに曝すと、エネルギーのある部分は反射され、ある部分は吸収され、ある部分は透過される。各部分の相対量は被曝した物体の化学的組成で決まる。反射エネルギーの波長は、線源の波長と同じである。標的の分子および原子の熱じょう乱の結果として放出されるエネルギーが熱放射線でありその放射波長は温度とともに変動する。
【0062】
反射エネルギーは、検出はできるが、散乱することが多く、解析するのが困難であり、とりわけ、処理ラインに在る場合のように、反射している本体が運動している場合はそうなる。放出される熱エネルギーも検出され、特定の物質なのか外来の物質なのかを識別するのを助けることができる。反射エネルギーと熱エネルギーの両方からの信号が結合されて論理的に分析され、検出精度をかなり向上させることができる。反射率を生じた信号は熱写真法と組み合わされて、データ比較を行えるようにするとともに、不当に積極的な読みが発生するのを低減することができる。
【0063】
本発明を実施するにあたり、乾燥果実または乾燥肉などの有機組織が選択波長の電磁エネルギーで照射され、その結果として生じた放射が、外来の物質、果核、果柄、果核、切片、骨、病原体、または、組織に存在する有害物質を検出して識別する手段として使用される。このような望ましくない構成要素は各々が特徴的な吸収率と反射率を示す。吸収エネルギーは、熱放射を生じる加熱作用を生じる。このような構成要素は、いずれであれ、存在しているという判定、間違いないという同定の判定を行うのに、反射率分光法と熱放射解析によって実施できる。
【0064】
物質または有機体は短波紫外放射線で照射された結果、蛍光を発するか、または、可視光を放出することができるのが分かっている。蛍光は検出することが可能であり、当該技術分野で周知の処置手順に従って、同定手段として利用される。
【0065】
フルスペクトル解析と治療
非イオン化周波数または非イオン化波長の全てについて電磁エネルギーを利用する、物質のフルスペクトル解析と治療の方法が示すものは、本発明の原理が広範な応用例でどのように実施することができるかということである。解析と治療では、紫外線から可視光線、赤外線、および、高周波帯域に現れる吸収帯のせいで、約10電子ボルト(約180ナノメートル)よりも長い波長に関して、特に水が例証となっている。
【0066】
非イオン化の最短波長でさえ、紫外線分光法の解析と比較は有効な治療用途と殺菌用途を可能にする。吸収差と放射は可視光線と近赤外線の両方で生じる。近赤外線放射は、人体を解析したり治療する場合には特に有用であり、近赤外線の領域は「治療ウインドウ」と呼ばれることが多い。このウインドウは、約800ナノメートルで始まり、約2500ナノメートルまで続く。このような周波数範囲は第1の倍振動吸収、第2の倍振動吸収、および、第3の倍振動吸収を含む。基本吸収と最大吸収が生じるのは、中間赤外線周波数域である。中間赤外線領域の吸収スペクトルは、主として、指紋領域を含む調査のための分光識別プロセスで使われる。水も中間赤外線領域で基本吸収を示すため、ある種の分光法および分光プロセスの妨げとなる。
【0067】
水は試料から除去することができ、走査が進むと、O−H吸収帯域の重複部に秘匿されていた詳細が詳らかになる。このような帯域は全ての治療に有用とはいえないかもしれないが、近赤外線の倍振動と下方倍振動の評価に有用なデータを詳らかにする。多数の試料はそれぞれの構成要素に分離されてから、別個に走査されて、構成要素ごとに真の吸収差を明らかにする。近赤外線領域は、広帯域の水吸収のせいで、大半の部分が不明のままである。しかし、20μm付近には幾つかの小さいウインドウが存在し、1000μmの領域には、これとは別なウインドウも存在する。ギガヘルツ(GHz)レベルおよびテラヘルツ(THz)レベルの周波数、例えば、200ないし500 GHz(0.2ないし0.5 THz)領域の周波数も有用なウインドウである。例えば230 GHzでは、悪性組織からの透過率は約18%であるが、同じ周波数での、正常組織からの透過率は約60%であり、その差は42%である。メガヘルツ(MHz)領域、キロヘルツ(KHz)領域、および、ヘルツ(Hz)領域は、水吸収の無い帯域を示すが、範囲の限定がそれほど明確ではない。3 MHz領域での吸収は特に有用である。非イオン化周波数の全領域を使用するほうが効果が高いことが多いため、スペクトルの1点のみの使用には望ましい。反応パターンは全領域解析で現れるが、1帯域の周波数で物質が反応する様式によって、その物質が異なる帯域ではどのように反応するかについて分かるようになることが多い。
【0068】
農産物、虫、および、微生物のスペクトル分析に関する現行の技術水準は、組織と物質を処理することに関する詳細を含む、膨大な量の価値ある情報を提供している。虫は、多層であること、および、その体内の複数の物質の観点から、また、人体に存在する全てのまたは大半の化学結合と同じ化学結合の領域が虫の体内に存在しているという観点から、人体組織の有効なモデルとなる。虫の複雑な呼吸器系、光学系、生殖器系、神経系、および、心臓血管系に電磁エネルギーが与える効果についての研究は、人間の治療を効果的にするための洞察と達成方法を示すとともに、犠牲にしてもよい宿主に試験を実施することができる。O−H結合またはC−H結合は、人間、植生、または、病原体についてほぼ同じ態様で電磁エネルギーに反応する。
【0069】
図3は医者の手に装着できる手袋状の分光装置を例示している。この手袋状の装置は、外科手術用手袋と、それに類似する装置に好適な医療等級のシリコーンなどの素材から形成することができる。この装置を装備すると、検出装置、分析装置、治療装置(例えば、放射線搬送装置)のような機能を果たすこともできるし、上記諸機能を組合わせて作動する装置としても使える。したがって、この装置は癌検査や癌治療に有用となる。線源、エネルギーと波長を監視してエネルギーを最適化する手段、周波数を制御する手段、治療部位にエネルギーを搬送する手段、熱走査監視装置、ビーム試料採取装置、および、エネルギー出力を制御および監視するシステムの各部を手袋状の装置に設け、ケーブルや光ファイバーによって中央処理装置や制御装置の他に、関連するハードウエアに接続することができる。
【0070】
手袋状装置11は、手袋の指先に1対の互いに交錯した連結器を備えている。このような連結器は、双方向データを1点から同軸に検出するレンズシステムを形成している。指の先端部付近には1対の超小型受信機/検出器13も設置されており、遷移分光測光計として機能する。癌検出のために手袋が使用されると、超小型受信機/検出器13が出力連結器に接続されて組み合わせ信号を生成し、この信号により、1対の光ファイバー結合器14を介して光エネルギーを反射させたり、透過させることができるようになる。電子光学リード15は指先の構成要素から送信機/処理装置/制御装置16まで延びており、これらの装置は手袋のリストバンド17を横断し、そこから電源(図示せず)まで延びている。送信機/処理装置/制御装置16は、医者が検出用構成要素と搬送用構成要素を操作しながら検出と治療を必要とする肉体の厳密な領域へ当てることができるようにすると同時に、装置自体は受信機/検出器13からの信号を光学的に解析する。
【0071】
図4は、図3の装置が女性患者の膣領域の癌検査をするために使用されているのを例示している。手袋11の1本の指が膣21から子宮22に向けて挿入され、もう1本の指は直腸23に挿入され、二本の指の先端部が骨盤内組織24の両側に置かれるようにする。二本の指の先端部の受信機/検出器13は、電子光学リード15を介して、送信機/処理装置/制御装置16との間で信号を送受信する。悪性組織に特徴的な波長が存在するため、悪性組織は監視装置で検出される。悪性組織の検出が完了すると、放射装置が手袋状の装置に取り付けられ、或いは、手袋状装置は、放射装置が既に固着された別な手袋状の装置と取り替えられる。いずれにせよ、この放射装置は、患者の正常な組織に害を及ぼすことなく、悪性組織を選択的に破壊する波長の放射線を放出するものである。手袋状の装置を利用することにより、放射線は、悪性腫瘍が検出された直近の領域に当てられ、外科手術をせずに癌を治療することができる。
【0072】
図3の手袋状の装置は図5にも例示されているが、図5では、装置は男性患者の前立腺を検査および/または治療するために使用されている。この場合、手袋11の1本の指が患者の直腸31に挿入されると同時に、もう1本の指は陰嚢32の背後に設置される。ここでもまた、2本の指の先端部の受信機/検出器13は電子光学リード15を介して送信機/処理装置/制御装置16との間で信号を送受信する。従って、前立腺33の癌は、図4の説明で先に明示された態様で検出および治療することができる。
【0073】
図6では、男性患者の睾丸41の癌検査または癌治療のために、同じ装置が使用されているの例示している。この処置手順では、手袋状の装置の親指と人差し指は患者の睾丸41の両側に置かれ、両方の指の先端部にある受信機/検出器13が電子光学リード15を介して送信機/処理装置/制御装置16に信号を送る。従って、睾丸41の癌は、図6以前の図面の説明で先に明示された態様で、検出および治療することができる。
【0074】
図7は、図3の手袋状の装置を使って達成できる出力レベルよりも高いレベルで作動する装置を描いている。図7の装置は、男性患者の前立腺に存在する新生物性組織の治療のために使用中であるのが例示されている。散乱光検出器51は、尿道54に挿入されたカテーテル53を通して、患者の膀胱52に設置される。光学ヘッド56と、光学ヘッドの上の検出器配列57とを設けた解析治療用光学ワンド55は直腸58に設置される。膀胱には反射液が充填され、この液は、光学ヘッド56からの信号を検出器配列57に向けて反射させることにより、光学ワンド55の検出感度を向上させる。
【0075】
図8Aおよび図8Bはそれぞれ、高出力レーザー分光器と破壊放射線にかけるように区分けされた試料を保持するように設計され、かつ、制御された雰囲気条件に試料を設置するための試料ホルダー61の頂面図と側面図である。試料ホルダー61は、分光解析または温度記録解析と画像化とを目的として、カメラまたは検出器配列に搭載されて、レーザーによる放射線の直接透過を可能にしている。ホルダーは円筒状ハウジング62から成り、このハウジングは両端が、クランプディスク65、66によって適所に保持された光学フィルターウインドウ63、64で閉じられているとともに、真空ライン67が取り付けられている。スペーサ68、69と一連の透明な試料支持ディスク70とが、ハウジングの中央で試料を支える。光学フィルターウインドウ63、64は選択波長の光を透過する。
【0076】
図9は女性患者の胸部の斜視図であり、乳房の一方には本発明の検出治療装置が取り付けられている。この装置は、一連の真空ライン82を介して付与される低真空によって乳房の方面に固着された透明な重合体のカップ81を備えている。カップの底面には、一連の入出力連結器83の対体が取り付けられており、入出力連結器は各対ごとに、透過分光測光計として作動する受信機/検出器を備えている。電子光学リード84は各対の入出力連結器83を送信機/処理装置/制御装置(図示せず)と接続している。これら構成要素は、図9以前の図面に例示された構造体の構成要素と同じ態様で作動する。この装置を使用することで、乳房を圧搾しなくても、すなわち、新生物性組織を転位しなくても、乳房の画像を形成し、新生物性組織を検出することができる。よって、乳房の新生物性組織の種類、位置、および、程度は厳密に範囲限定してマッピングすることができる。新生物性組織が正確にマッピングされてしまえば、選択波長または選択波長帯の電磁放射線が新生物性組織に当てられて、外科手術をしなくても、また、隣接する健康な組織を損傷せずに、組織を破壊する。
【0077】
図10Aは、図7の光学ヘッド56および光学ワンド55の側面図である。光学ヘッド56は旋回ハンドル91の端部に取り付けられており、光学ヘッド上の積層体は、レンズ92、一連の互いに交錯した入出力連結器93、光学素子の配列94、および、正負両方の電気リード95からなる。図10Bは図10Aの光学素子配列の拡大図である。光学素子は、焦平面配列96、マイクロボロメータ97、低出力送受用光ファイバー98、高出力放射光ファイバー99、および、CCD検出器100から構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】西洋スモモの果肉、果柄、果核をそれぞれ表している、3種の吸収スペクトルを示す組み合わせチャートである。
【図2】低密度ポリエチレンの吸収スペクトルにグルコーススペクトルを重畳させたのを示すチャートである。
【図3】本発明の実施形態を実用に付すために、医者の手に装着された状態の手袋状の医療装置の図である。
【図4】女性患者が図3の装置を使用しているのを示す断面図である。
【図5】男性患者が図3の装置を使用しているのを示す断面図である。
【図6】男性患者が図3の装置を更に使用しているのを示す断面図である。
【図7】男性患者に使用する際の、本発明の実用上有益なまた別な医療装置を示す断面図である。
【図8A】本発明の一実施形態を実用する一部として試料を検査する際に有用となる装置の頂面図である。
【図8B】図8Aの装置の側面断面図である。
【図9】本発明の一実施形態による乳癌検査を実施しているのを示す斜視図である。
【図10A】図7の装置の構成要素のうちの1つである光学ワンドスキャナの側面図である。
【図10B】光成分を示しているワンドスキャナの光学ヘッドの断面拡大図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機生体の新生物性組織を選択的に殺傷する方法であって、該方法は、有機生体の少なくとも一部を放射線照射する処置を含み、該処置では、隣接組織よりも先取的に新生物性組織によって吸収される波長の電磁放射線で組織を照射し、放射腺によって生じた熱によって隣接組織は実質的に殺傷せずに新生物性組織を殺傷するのに十分な強度で十分な期間にわたって照射することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記波長は、前記有機生体の前記新生物性組織の吸収スペクトルを該有機生体の前記部分の吸収スペクトルと比較することにより選択され、新生物性組織が前記部分の隣接組織よりも先取的に電磁放射線を吸収する際の波長を識別するようにしたことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記新生物性組織は皮膚病巣部であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記皮膚病巣部は、皮膚線維腫、脂漏性角化症、光線性角化症、角化性棘細胞腫、基底細胞癌、増殖上皮細胞癌、真皮内母斑、複合母斑、異形成母斑、および、悪性黒子からなるグループから選択される1種であることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記波長は、1510ナノメートルから1610ナノメートルの範囲、1040ナノメートルから1070ナノメートルの範囲、および、3006ナノメートルから3400ナノメートルの範囲からなるグループから選択される範囲に入ることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記波長は約265ナノメートルであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記電磁放射線の大きさと期間は、摂氏約75度から摂氏約90度の間の標的温度まで前記新生物性組織の温度を上昇させるのには十分であるが、前記隣接組織が標的温度に達することのないようにする程度であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
光ファイバー、光導体、導波路からなるグループから選択された、前記有機生体に挿入される部材を通して有機生体内の治療部位に前記放射線を搬送する処置を含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
生体組織内の酵素を不活性化する方法であって、該方法は、組織内の酵素以外の分子よりも先取的に酵素によって吸収される波長の電磁波で組織を照射する処理を含み、放射腺によって生じた熱によって酵素以外の分子を実質的に変性させたり損傷させずに酵素を変性させるのに十分な強度で十分な期間にわたって照射する、方法。
【請求項10】
前記放射線照射は前記酵素の不可逆変性を生じるのに十分なだけ実施されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記波長は、前記組織内の前記酵素の吸収スペクトルを該組織の酵素以外の前記分子の吸収スペクトルと比較することにより選択され、酵素が酵素以外の分子よりも先取的に電磁放射線を吸収する際の波長を識別するようにしたことを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
ポリエチレン、ポリスチレン、および、ポリプロピレンからなるグループから選択された合成重合体を含む構築素材から作成され、生物学的物質と接触状態にある物体を殺菌する方法であって、該方法は、電子対を共有するO−H結合が選択的に吸収する波長の電磁放射線で該物体を照射する処理を含み、該物体上に存在するグルコースは脱水させるが、合成重合体の分子構造に実質的に全く変化を生じさせない波長で照射することを特徴とする、方法。
【請求項13】
前記波長は、約2.8ミクロンから約3.3ミクロンの範囲に入ることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
シリコーンを含む構築素材から作成された物体を殺菌する方法であって、該方法は、電子対を共有するN−H結合が選択的に吸収する波長の電磁放射線で該物体を照射する処理を含み、該物体上に存在するタンパク質性の物質は分解させるが、シリコーンの分子構造に実質的に全く変化を生じさせない波長で照射することを特徴とする、方法。
【請求項15】
生物学的物質と接触状態にある物体を殺菌して、該物体から生体反応性を失くす方法であって、該方法は、リボヌクレアーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、パイロジェン、核酸からなるグループから選択された生体反応性物質が選択的に吸収する波長の電磁放射線で該物体を照射する処理を含み、該物体に付着した生体反応性物質は分解させるが、物体の素材の分子構造に実質的に全く変化を生じさせない波長で照射することを特徴とする、方法。
【請求項16】
細菌に感染した哺乳動物の組織を治療する方法であって、該方法は、哺乳動物の組織よりも先取的に細菌の細胞成分によって吸収される波長の電磁放射線で哺乳動物の組織を照射する処置を含み、細菌を不活性化させるのに十分な強度で十分な期間にわたり照射することを特徴とする方法。
【請求項17】
前記細胞成分はペプチドグリカンであることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記細胞成分はグリコカリックスであることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記細胞成分は自己溶解素であることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記細胞成分はキチン質であることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
哺乳動物の組織の細菌感染症を治療する方法であって、該方法は、哺乳動物の組織よりも先取的にポリンによって吸収される波長の電磁放射線で哺乳動物の組織を照射する処理を含み、細菌を不活性化させるのに十分な強度で十分な期間にわたり照射することを特徴とする方法。
【請求項22】
フューリンが媒介となって蔓延した病気の症状に罹った被検体を治療する方法であって、該方法は、被検体よりも先取的にフューリンによって吸収される波長の電磁放射線で被検体を被曝させる処理を含み、フューリンを不活性化させるのに十分な強度で十分な期間にわたり被曝させることを特徴とする方法。
【請求項23】
食品中の内生固有でない外来物質を分解させるために食品類を処理する方法であって、該方法は、哺乳動物の組織よりも先取的に外来物質によって吸収される波長の電磁放射線で食品類を被曝させる処理を含み、外来物質を分解させるのに十分な強度で十分な期間にわたり被曝させることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【公表番号】特表2006−522616(P2006−522616A)
【公表日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−501206(P2006−501206)
【出願日】平成16年2月27日(2004.2.27)
【国際出願番号】PCT/US2004/005924
【国際公開番号】WO2005/021049
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
テフロン
【出願人】(505323574)アドヴァンスト ライト テクノロジーズ リミテッド ライアビリティ カンパニー (1)
【Fターム(参考)】