説明

電磁クラッチ

【課題】電力による切換作動を確実に行える電磁クラッチを構成する。
【解決手段】プーリ7の内周面7Sに当接可能なクラッチシュー12を出力軸3に枢支し、このクラッチシュー12を当接方向に付勢する第1バネを備えた。出力軸3とともに回転し回転軸芯Xに沿って移動自在な作動プレート15を備え、この作動プレート15が電磁ソレノイドSに吸着した際にクラッチシュー12を回転軸芯Xの方向に案内してプーリ7の内周面7Sから離間変位させる案内機構を備え、このクラッチシュー12の離間変位が行われた際にクラッチシュー12の吸引片12Dを電磁ソレノイドSの外周に吸引してクラッチシュー12を離間位置に保持する保持機構を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁クラッチに関し、詳しくは、車両のエンジンにおいて冷却水を循環させるウオータポンプ等に対する動力の伝達と遮断との制御を電気的に行う電磁クラッチの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のように構成された電磁クラッチとして特許文献1には、圧縮機ハウジングに対して圧縮機回転軸が備えられ、圧縮機ハウジングに対してドラム状のロータが回転自在に支持され、このロータには回転軸芯と直交する姿勢の摩擦面が一体的に形成され、この摩擦面の内部位置に励磁コイルが配置されている。また、圧縮機回転軸に連結するインナーボスに対して板バネを介して連結するアーマチュアがロータの摩擦面に対向する位置に配置されている。
【0003】
この特許文献1では励磁コイルに通電することにより、板バネが弾性変形してアーマチュアがロータの摩擦面に吸引され、ロータとアーマチュアとが一体的に回転することからロータの回転力が圧縮機回転軸芯に伝えられることになる。
【0004】
特許文献2では、プーリと一体回転するロータが回転軸芯で回転自在に備えられ、この回転軸芯と同軸芯で回転自在な被駆動軸が備えられている。被駆動軸のボスに対して回転軸芯と平行姿勢のピンを中心にして揺動自在に中間部材が支持されている。中間部材は、ピンを中心にして回転することによりロータの外周面に対して接触する姿勢と離間する姿勢とに切換自在に構成されている。ロータの内部には中間部材をロータの方向(内側)に引き寄せる電磁コイルを備え、また、ロータをプーリの内周面に向けて張り出す方向に付勢するバネが備えられている。
【0005】
この特許文献2では、電磁コイルに通電することにより、バネの付勢力に抗して中間部材がロータの方向に引き寄せられ、ロータの外周に接触すると共に、ロータから作用するトルクにより中間部材が更に強くロータの外周に押しつけられる状態に達し、ロータの回転力を被駆動軸に伝える伝動状態に達する。また、電磁コイルに対する通電を停止することにより、バネの付勢力により中間部材をロータの外周から離間させて伝動が遮断される状態に切り換わる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3‐28527号公報
【特許文献2】特開2001‐200860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の構成ではコイルへの通電により駆動側の部材と被駆動側の部材とを接触させて動力を伝える構成を有しているため、確実な伝動状態を維持するためにはコイルに供給する電力を増大させる必要がある。
【0008】
また、特許文献2の構成では、コイルへの通電により中間部材をロータの外周に吸引する作動を行うものであるが、中間部材がロータの外周に接触した後には、ロータの回転力を、中間部材がロータの外周面に接触させる方向への力として作用させ、この力により中間部材を強力にロータの外周に接触させ、確実な伝動が可能となる。
【0009】
しかしながら、電磁クラッチは確実な伝動と確実な遮断との切換を必要とするだけではなく、少ない通電によりこの切換を行うものが望まれている。特に、車両のエンジンに備えられるウオータポンプやラジエータファンのように、非駆動状態にある時間より駆動状態にある時間が長い駆動対象に備える電磁クラッチを考えると、駆動時に継続的に電力を供給する必要があるものでは、省エネルギーの観点から改善の余地がある。
【0010】
本発明の目的は、電力による切換作動を確実に行える電磁クラッチを合理的に構成する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の特徴は、基体部に、外部からの駆動により回転軸芯の周りに回転駆動される駆動側部材と、当該駆動側部材の回転が伝えられることにより、前記回転軸芯の周りに回転する出力軸を備えた被駆動側ユニットと、通電により磁力を発生させる電磁ソレノイドとを備え、
前記被駆動側ユニットに、前記回転軸芯の方向に相対移動する状態でトルクを伝えるように前記出力軸にスラスト係合し、前記電磁ソレノイドの磁力によって前記基体部に吸着可能な中間部材を備えるとともに、前記駆動側部材と当接するように前記駆動側部材の側に付勢され、前記駆動側部材と当接することで前記駆動側部材の回転を前記出力軸に伝えるように枢支された揺動部材と、前記中間部材が前記電磁ソレノイドの吸着によって制動されることで、前記揺動部材を前記駆動側部材から離間変位させる案内機構と、離間変位した前記揺動部材の位置を保持する保持機構とを備えた点にある。
【0012】
この構成によると、電磁ソレノイドに通電しない状態では、中間部材が基体部に吸着されないので、被駆動部材に枢支された揺動部材が付勢力によって駆動側部材に接触し、駆動側部材の回転が揺動部材と被駆動側ユニットとを介して出力軸に伝えられる。また、電磁ソレノイドに通電した場合には、中間部材が基体部に吸着され制動されることにより中間部材の回転速度より揺動部材の回転速度が大きくなる。この揺動部材の回転により揺動部材自身が案内機構により駆動側部材から離間変位すると共に、保持機構が離間変位した揺動部材の保持を行う。また、遮断状態に設定する場合には、駆動側部材の回転力を利用して揺動部材を変位させるので電磁ソレノイドの吸引力によって直接的に操作するものと比較すると電磁ソレノイドを小型に構成することが可能となる。
これにより、少ない電力でも切換作動を確実に行える電磁クラッチが構成された。
【0013】
本発明は、前記揺動部材に形成される吸引部と、前記中間部材とが磁性体で構成され、前記中間部材が、前記基体部から離間する離間位置から、前記基体部に吸着する吸着位置に移動した際に、この中間部材に前記吸引部を接近させることにより前記中間部材から前記吸引部に流れる磁束の磁束密度を高め、磁気による吸引により前記吸引部の位置保持を行うように前記保持機構が構成されても良い。
【0014】
これによると、伝動を遮断するために電磁ソレノイドに通電して、中間部材を電磁ソレノイドに吸着した場合には、揺動部材が吸引部に近づくため、中間部材から吸引部に流れる磁束の磁束密度を高めることになり、この吸引部を電磁ソレノイドの方向に吸引して位置保持が行われる。つまり、中間部材と吸引部との材料の選択と、これらの位置関係の設定とにより、中間部材を吸着する電磁ソレノイドにより揺動部材の保持も行えるのである。
【0015】
本発明は、前記電磁ソレノイドが、前記回転軸芯を中心にして配置されるドーナツ状のコイル部と、このコイル部を基準にして回転軸芯側に配置される内ヨークと、前記コイル部を基準にして前記回転軸芯と反対側に配置される外ヨークとを備え、前記中間部材が、前記回転軸芯に沿う方向視において前記内ヨークと前記外ヨークとを覆うサイズに形成され、この中間部材の外周面のうち前記外ヨークに対向する面積を縮小する切り欠き部を形成することにより、前記中間部材の外周から前記吸引部に磁束を流し出すように構成されても良い。
【0016】
これによると、電磁ソレノイドを内ヨークと外ヨークとで構成し、中間部材に切り欠き部を形成することにより、電磁ソレノイドに中間部材が吸着された場合には、中間部材の外周面と吸引部との間に流れる磁束密度を増大させ、強い吸引力により揺動部材を電磁ソレノイドの側面に吸引することが可能となる。
【0017】
本発明は、前記揺動部材と一体的に変位する変位部材が備えられ、前記案内機構により前記揺動部材が前記回転軸芯の側に離間変位し、この離間変位に伴い前記変位部材が予め設定された保持境界位置を超えることにより、この変位部材に変位力を与え前記揺動部材を離間側に更に引き込んで位置保持を行う変位力付与部材を備えて前記保持機構が構成されても良い。
【0018】
これによると、揺動部材が離間変位した場合には変位部材も変位し、この変位部材が保持境界位置を超えた場合に、変位力付与部材が変位部材に変位力を作用させて更に離間方向に引き込んで位置保持が行われる。つまり、揺動部材が離間変位した場合には、この離間変位を変位力付与部材が補助することになる。
【0019】
本発明は、前記案内機構が、前記中間部材に形成されたガイド孔と、このガイド孔に挿通するように前記揺動部材に形成されたガイドピンとで構成され、このガイドピンが前記変位部材として用いられると共に、前記変位力付与部材が、前記揺動部材の離間変位時における前記ガイドピンの移動を許す案内面と、この案内面を通過したガイドピンの逆方向への移動を阻止する阻止面とを前記保持境界位置を挟む位置に形成した板バネ材で構成して前記中間部材に支持してあり、前記中間部材が、前記基体部に吸着された吸着位置で前記中間部材から突出する前記ガイドピンに前記変位力付与部材が接触し、前記中間部材が前記基体部から離間する離間位置でガイドピンに前記変位力付与部材が接触しない位置関係に前記変位力付与部材が配置されても良い。
【0020】
これによると、電磁ソレノイドに通電した場合には中間部材が電磁ソレノイドに吸着される吸着位置に達することにより、この中間部材に形成したガイド孔に挿通するガイドピンが中間部材から突出し、中間部材に支持される変位力付与部材の案内面と阻止面とがガイドピンに接触可能となる。この状態でガイドピンが保持境界位置を超える位置まで変位した場合には変位力付与部材からガイドピンに対してバネ力が作用する。このバネ力はガイドピンを介して揺動部材を離間変位方向に更に変位させ、ガイドピンが阻止面に達することでガイドピンの逆方向への移動が阻止される。
また、電磁ソレノイドが通電状態から非通電状態に切換わった場合には、中間部材が離間位置に切り換わり、中間部材に支持される変位力付与部材の阻止面がガイドピンから離間するため、揺動部材は付勢力により駆動側部材に接触し、この駆動側部材の回転力を出力軸に伝えることになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】電磁クラッチの構造を示す正面図である。
【図2】図1をII−II線で切断した断面図である。
【図3】伝動状態と遮断状態との電磁クラッチを示す図である。
【図4】伝動状態と遮断状態との電磁クラッチの断面図である。
【図5】電磁クラッチを伝動状態から遮断状態に切り換えた際の磁束の流れの変化を順次示す断面図である。
【図6】電磁クラッチが伝動状態にある際の別実施形態の保持機構の断面と正面とを示す図である。
【図7】電磁クラッチが遮断状態に操作される初期における別実施形態の保持機構の断面と正面とを示す図である。
【図8】電磁クラッチが切り状態に達した状態における別実施形態の保持機構の断面と正面とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔全体構成〕
図1及び図2には本発明の電磁クラッチCによって動力の伝動及び遮断が可能なウォータポンプが示されている。このウォータポンプは、基体部としてのポンプハウジング1に対してボールベアリング型の第1軸受2により回転軸芯Xを中心にして回転自在に出力軸3を支持し、この出力軸3の内端にインペラ4を備えた構成を有している。
【0023】
電磁クラッチCは、ポンプハウジング1(基端部の一例・固定系の具体例)のボス状部1Aに対しボールベアリング型の第2軸受6により回転軸芯Xを中心にして回転自在にプーリ7を備えている。このプーリ7が駆動部材の一例であり、電磁クラッチCは、プーリ7の回転力を出力軸3に伝える被駆動側ユニットと、ポンプハウジング1に支持される電磁ソレノイドSとを備えている。
【0024】
被駆動側ユニットは、電磁ソレノイドSに対する通電と非通電との一方を選択する制御によりプーリ7の回転力を出力軸3に伝える伝動状態(入り状態)と駆動力を出力軸3に伝えない遮断状態(切り状態)とを実現する。
【0025】
ウォータポンプは、エンジン(図示せず)の冷却水をラジエータに循環させる機能を有し、電磁クラッチCは、エンジンの始動直後のようにエンジンの暖機が充分でない場合に冷却水の循環を阻止して暖機を促進するために遮断状態に制御される。尚、出力軸3の内端側でインペラ4の近傍にはポンプハウジング1との間の空間を塞ぐシール5が備えられている。プーリ7(駆動側部材の一例)は、ドラム型に構成されておりエンジンの駆動力によって回転するクランク軸等に備えた出力プーリ(図示せず)から無端ベルト(図示せず)を介して駆動力が伝えられ、エンジンの稼動時には図1、図3に矢印Yで示す方向に常時回転するように回転方向が設定されている。
【0026】
〔電磁クラッチ〕
前述したように電磁クラッチCは、ポンプハウジング1(基体部の一例)に対してプーリ7(駆動側部材の一例)と、出力軸3と、電磁ソレノイドSとを備えると共に、被駆動側ユニットを備えて構成されている。
【0027】
被駆動側ユニットは、出力軸3の外端に連結されたフレーム10と、このフレーム10の両端部に支軸11を介して枢支された揺動部材としてのクラッチシュー12と、フレーム10に一体形成された筒状部10Aに対して回転軸芯Xの方向に相対移動可能でトルクを伝えるようにスラスト係合する中間部材としての作動プレート15と、クラッチシュー12を案内する案内機構と、クラッチシュー12を回転軸芯側に位置保持する保持機構とを備えている。
【0028】
出力軸3の外端(ポンプハウジング1より外側の端部・インペラ4と反対側の端部)に対してプーリ7の直径方向に沿う姿勢(回転軸芯Xに直交する姿勢)で前述したフレーム10を連結しており、このフレーム10の両端部に支軸11を介してクラッチシュー12(揺動部材の一例)が枢支されている。
【0029】
クラッチシュー12は、プーリ7の内周面7Sに沿う円弧状に成形されたシュー本体12Aを有している。このシュー本体12Aの一方の端部が前述した支軸11によりフレーム10に対して揺動自在に枢支されている。このシュー本体12Aの他方の端部とフレーム10との間には、このシュー本体12Aをプーリ7の内周面7Sに当接させる向きに揺動させる圧縮コイル型の第1バネ13が備えられている。なお、第1バネ13はシュー本体12Aをプーリ7の内周面7Sに当接させる方向に付勢できればよく、バネ形状やバネを設ける場所については適宜変更可能である。また、シュー本体12Aの外周面には適度の摩擦係数を有し耐摩耗性と耐熱性とに優れた素材で成る摩擦部材12Bが備えられ、この摩擦部材12Bと反対側には回転軸芯Xの方向に突出する突出部12Cが一体的に形成されている。
【0030】
突出部12Cの突出端部に対して、回転軸芯Xに沿って伸びる姿勢で、回転軸芯Xを中心とする円弧状に湾曲する吸引片12D(吸引部の一例)が形成されている。シュー本体12Aと突出部12Cと吸引片12Dは鋼材等の高透磁率の磁性体により一体的に形成されているが、吸引片12Dのみを磁力により吸着できる材料にて構成しても良い。この吸引片12Dと電磁ソレノイドSとによって保持機構が構成されている。
【0031】
作動プレート15の外周部分において直径方向で対向する2箇所には延出部15Aが備えられている。この延出部15Aには長孔状のガイド孔15Bが形成され、このガイド孔15Bに対してクラッチシュー12の突出部12Cに備えたガイドピン16を挿通している。更に、この作動プレート15を回転軸芯Xに沿って出力軸3の外端に向かう付勢力を作用させるように圧縮コイルバネで成る第2バネ17がガイドピン16に外嵌している。なお、第2バネ17はヨーク19よりも内周側に設けても良い。
【0032】
このガイド孔15Bとガイドピン16とで案内機構が構成されている。ガイド孔15Bは、プーリ7からクラッチシュー12対して矢印Yで示す方向に力が作用した場合にシュー本体12Aを回転軸芯Xの方向に変位させる姿勢で形成されている。
【0033】
出力軸3の外端側を取り囲む位置においてポンプハウジング1(固定系の一例)に支持される電磁ソレノイドSが備えられている。この電磁ソレノイドSは、図4に示すように回転軸芯Xを中心とするドーナツ状のコイル部18と、このコイル部18を取り囲む位置に配置され鋼材等の高透磁率の磁性体で成るヨーク部19とで構成されている。ヨーク部19は、コイル部18を基準にして回転軸芯Xに近接する位置の内ヨーク19Aと、コイル部18を基準にして回転軸芯Xより離れる位置の外ヨーク19Bと、この内ヨーク19Aと外ヨーク19Bとにポンプハウジング側で連なる連結ヨーク19Cとで構成されている。
【0034】
前述した吸引片12Dの湾曲面の半径と、外ヨーク19Bの外周の半径とを略一致させると共に、この吸引片12Dの突出端(回転軸芯Xに沿う方向で出力軸の外端側)の位置を外ヨーク19Bの外端を基準にして作動プレート15の厚みだけ突出させている。また、作動プレート15の外周の半径を、外ヨーク19Bの外周の半径と略一致させている。図4に示すように、この作動プレート15の外周で外ヨーク19Bに対向する面積を縮小する切り欠き部Gを形成している。図3に示すように、この切り欠き部Gは、作動プレート15の外周のうち、クラッチシュー12の吸引片12Dに向かい合う一部の領域にのみ形成してあり、この作動プレート15が電磁ソレノイドSに吸引された場合には、この切り欠き部Gの部位において作動プレート15と外ヨーク19Bとの間にギャップが形成される。
【0035】
このように、プーリ7と、出力軸3に連結したフレーム10と、フレーム10に支持される一対のクラッチシュー12と、クラッチシュー12をプーリ7の内周面7Sに当接させる第1バネ13と、回転軸芯Xに沿って移動自在な作動プレート15と、クラッチシュー12と作動プレート15との間に備えられた案内機構と、作動プレート15に吸引力を作用させる電磁ソレノイドSを備えて電磁クラッチCが構成されているのである。
【0036】
〔電磁クラッチの作動形態〕
電磁クラッチCを伝動状態(入り状態)に設定する場合には、電磁ソレノイドSを駆動しない(コイル部18に通電しない)制御が行われる。このように電磁ソレノイドSが消磁状態にある場合には、図3(a)、図4(a)に示すように、作動プレート15は出力軸3とともに自由に回転できる状態になり、2つのクラッチシュー12は第1バネ13の付勢力によって外方に張り出す。これにより、この2つのクラッチシュー12の摩擦部材12Bがプーリ7の内周面7Sに当接しプーリ7からの駆動力を出力軸3に伝えインペラ4は駆動される。
【0037】
電磁クラッチCが伝動状態(入り状態)にある場合には、プーリ7の内周面7Sのうち回転軸芯Xを挟んで向き合う対称位置に対して、クラッチシュー12の摩擦部材12Bが遠心力により更に圧接するため、プーリ7と出力軸3との間に偏った力を作用させず、バランスの良い確実な伝動が実現する。
【0038】
これに対して電磁クラッチCを遮断状態(切り状態)に設定する場合には、電磁ソレノイドSを駆動する(コイル部18に通電する)制御が行われる。電磁ソレノイドSが励磁状態に達することにより、図3(b)、図4(b)に示すように、作動プレート15が電磁ソレノイドSに吸着され、作動プレート15が制動される。これにより、クラッチシュー12の動慣性とプーリ7の内周面7Sからクラッチシュー12に作用する回転力とによりクラッチシュー12が矢印Yの方向に変位する。特に、作動プレート15の外周の一部にだけ切り欠き部Gが形成されているので、吸着が行われる際には切り欠き部Gが形成されていない領域において外ヨーク19Bから作動プレート15に流れる磁束密度を上昇させて強い吸引力を得ている。
【0039】
このクラッチシュー12の変位により、作動プレート15の延出部15Aに形成したガイド孔15Bに沿ってガイドピン16が変位し、クラッチシュー12が回転軸芯Xに接近する方向に変位する。このクラッチシュー12の変位時には電磁ソレノイドSが励磁状態にあるので保持機構としての吸引片12Dが電磁ソレノイドSに吸引される結果、2つのクラッチシュー12の摩擦部材12Bがプーリ7の内周面7Sから離間変位した位置に保持されることになり、電磁クラッチCが遮断状態に維持される。
【0040】
この電磁クラッチCでは、2つのクラッチシュー12の吸引片12Dを電磁ソレノイドSの側面に対して強力に吸引させるために、作動プレート15の外周から磁束を積極的に吸引片12Dに流すように前述した切り欠き部Gが形成されている。
【0041】
つまり、電磁クラッチCが伝動状態(入り状態)にある状況においてコイル部18に通電が行われた場合には図5(a)に示すようにコイル部18に生ずる磁束(同図で破線で示されるループ)が内ヨーク19Aと外ヨーク19Bと連結ヨーク19Cとから作動プレート15に流れる磁束密度が高まり、図5(b)に示すように作動プレート15が内ヨーク19Aと外ヨーク19Bとに吸着される。
【0042】
このように作動プレート15が吸着された状態では、作動プレート15の外周側の切り欠き部Gがエアギャップとして機能するため、この切り欠き部Gの部位において作動プレート15の外周から外ヨーク19Bの外周に亘る領域に磁束が漏れ出し、このように漏れ出した磁束が、同図に破線で示すように透磁率の高い吸引片12Dに流れ、この吸引片12Dの磁束密度を高めることから図5(c)に示すように吸引片12Dが吸引力により電磁ソレノイドSの外周面に吸引される。
【0043】
尚、遮断状態にある電磁クラッチCを伝動状態に操作する場合には、電磁ソレノイドSのコイル部18に供給されている電流を遮断して電磁ソレノイドSの消磁を行う。これにより第2バネ17の付勢力により作動プレート15が電磁ソレノイドSから離間する方向に作動し、この作動に伴い第1バネ13の付勢力による案内機構がクラッチシュー12の張り出す方向への変位を許す。2つのクラッチシュー12はって外方に張り出す。これにより、この2つのクラッチシュー12の摩擦部材12Bがプーリ7の内周面7Sに当接しプーリ7からの駆動力を出力軸3に伝えインペラ4は駆動される。
【0044】
〔電磁クラッチの別実施形態〕
この別実施形態では、クラッチシュー12を回転軸芯側に位置保持する保持機構が、磁力を利用せずバネ力により位置保持を行う構成を具備する点に特徴を有している。
【0045】
保持機構は、図6〜図8に示すようにクラッチシュー12と一体的に変位する変位部材としてのガイドピン16と、変位力付与部材21とを備えて構成されている。この変位力付与部材21は、電磁ソレノイドSの励磁により作動プレート15が吸着により制動されクラッチシュー12の離間変位に伴いガイドピン16が離間方向Tに変位して保持境界位置Zを超えることにより、ガイドピン16に変位力を与えてクラッチシュー12を離間側に更に引き込んで位置保持を行う。
【0046】
また、保持境界位置Zは、電磁ソレノイドSの励磁により作動プレート15が吸着されクラッチシュー12の動慣性とプーリ7の内周面7Sからクラッチシュー12に作用する回転力とによりガイドピン16が変位する際の変位限界より変位方向の上流側に設定されている。これにより保持境界位置Zを超えてガイドピン16が離間方向Tに変位した場合には、変位力付与部材21のバネ力により変位限界より更に離間方向Tに変位した位置にガイドピン16を変位させた状態で、このガイドピン16を変位力付与部材21保持するように構成されている。
【0047】
変位力付与部材21は、バネ鋼等の板バネ材を屈曲することによりガイドピン16の保持側への変位を許す案内面21Aと、保持位置に達したガイドピン16の戻り側への変位を阻止する阻止面21Bとを頂点部21Pを挟む位置に形成すると共に、固定部21Dを形成して構成されている。この変位力付与部材21は、図6(a)、(b)に示すように、案内面21Aと、阻止面21Bと、頂点部21Pとが回転軸芯Xに沿う方向視においてガイド孔15Bと重複し、頂点部21Pの位置が保持境界位置Zにあるように固定部21Dにより作動プレート15の延出部15Aに連結固定されている。
【0048】
前述したように、作動プレート15が第2バネ17により突出方向に付勢され、電磁ソレノイドSにより吸着されない離間位置においてガイドピン16は作動プレート15から僅かに突出(相対的に突出)し、電磁ソレノイドSにより作動プレート15が吸着された吸着位置においてガイドピン16が、作動プレート15から大きく突出する。
【0049】
このような作動プレート15の作動形態を利用することにより、変位力付与部材21の案内面21Aと阻止面21Bとが、吸着位置の作動プレート15から大きく突出する突出状態のガイドピン16に接触し、離間位置の作動プレート15から僅かに突出する引退状態のガイドピン16には接触しないように相対的な位置関係が設定されている。
【0050】
これにより、電磁ソレノイドSの励磁により作動プレート15が吸着位置に達した場合には、作動プレート15のガイド孔15Bからガイドピン16が突出すると共に、ガイド孔15Bに沿って離間方向Tにガイドピン16が変位する。この変位の初期には図7(a)、(b)に示すように、ガイドピン16が変位力付与部材21の案内面21Aに接触して弾性変形させる状態で頂点部21P(保持境界位置Z)を通過し、阻止面21Bと接触する位置に達する。
【0051】
この阻止面21Bの位置に達する際には、変位力付与部材21を構成する板バネ材の付勢力により頂点部21Pがガイド孔15Bの方向に突出することによりガイドピン16に対して離間方向Tへの変位力を付与する。これにより、図8(a)、(b)に示すように、ガイドピン16を介してクラッチシュー12を回転軸芯Xの方向に引き寄せ、2つのクラッチシュー12の摩擦部材12Bをプーリ7の内周面7Sから離間させ電磁クラッチCが遮断状態に達するのである。
【0052】
このようにガイドピン16が阻止面21Bに接触する状態では、ガイドピン16に対して離間方向Tと逆方向に向かう力が作用することがあっても、ガイドピン16が阻止面21Bに接触することにより、この変位が阻止され、電磁クラッチCの切り状態が維持される。この後に、電磁ソレノイドSが消磁状態に切換わった場合には、第2バネ17の付勢力によって作動プレート15が変位し、作動プレート15に対するガイドピン16の相対的な突出量が減少する。これにより、ガイドピン16と変位力付与部材21の阻止面21Bとの接触が解除され、ガイドピン16がガイド孔15Bに沿って離間方向Tと逆方向への相対移動が許される。その結果、クラッチシュー12が第1バネ13の付勢力によりプーリ7の内周面7Sに当接する方向に変位することになり電磁クラッチCが伝動状態に達する。
【0053】
特に、この保持機構を構成する変位力付与部材21として板バネ材を用いるものに限るものではなく、例えば、頂点部21Pを挟む位置に案内面21Aと阻止面21Bと形成した接触部材等をコイルバネ等により突出付勢する状態で作動プレート15に支持する構成する等、ガイドピン16に接触することにより変位力を作用させる様々な構成を採用することができる。尚、この変位力付与部材21と磁気により吸引片12Dを電磁ソレノイドSの外周面に吸引する構成とを併せて保持機構を構成しても良い。
【0054】
更に、変位部材をクラッチシュー12に備え、この変位部材に接触することにより変位力を付与する部材を作動プレート15以外の部材に備えて保持機構を構成しても良い。
【0055】
〔実施形態の作用・効果〕
このように本発明の電磁クラッチCは、作動プレート15を電磁ソレノイドSによって固定系に吸着した際の作動プレート15とクラッチシュー12との速度差により案内機構がクラッチシュー12をプーリ7の内周面7Sから離間させる方向に変位させる構成を採用している。この構成から、電磁ソレノイドSの磁力によってクラッチシュー12を直接的に作動させるものと比較して、電磁ソレノイドSに大容量のものを用いずに済むものにしている。更に、クラッチシュー12が離間側に変位した場合に、クラッチシュー12をプーリ7の内周面7Sから完全に離間させて保持位置に保持する保持機構を備えている。この構成から、クラッチシュー12の一部がプーリ7の内周面7Sに接触する不都合を解消して電磁クラッチCの完全な遮断状態(切り状態)を現出する。
【0056】
この電磁クラッチCでは、電磁ソレノイドSに通電しない状態において伝動状態を維持し、電磁ソレノイドSに通電して励磁した際に遮断状態となるので、遮断状態での使用時間より伝動状態での使用時間が長い傾向にある自動車用ウォータポンプに用いることにより通電時間を短縮して省エネルギーを実現している。
【0057】
特に、保持機構として、電磁ソレノイドSからの磁束を作動プレート15に流し、この作動プレート15の切り欠き部Gからクラッチシュー12の吸引片12Dに磁束を流すことにより磁束密度を高める構成では、電磁ソレノイドSにより作動プレート15を吸着する構成を大きく変更することなく吸引片12Dに対して強い吸引力を作用させて電磁クラッチCの完全な遮断状態を実現する。
【0058】
また、保持機構として、ガイドピン16に接触するように板バネ材で変位力付与部材21を構成した場合には、電磁クラッチCの遮断作動時には、ガイドピン16に対して直接的にバネ力を作用させてクラッチシュー12を保持位置に引き込むことが可能となり、比較的簡単な構成でありながら、電磁クラッチCの完全な遮断状態を実現する。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、ウオータポンプ以外にラジエータファンや過給器の等の伝動系にも利用することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 基体部(ポンプハウジング)
3 出力軸
7 駆動側部材(プーリ)
12 揺動部材(クラッチシュー)
12D 吸引部(吸引片、保持機構)
15 中間部材(作動プレート)
15B ガイド孔(案内機構)
16 変位部材(ガイドピン、案内機構)
18 コイル部
19 ヨーク部
19A 内ヨーク
19B 外ヨーク
21 変位力付与部材21
21A 案内面
21B 阻止面
G 切り欠き部
S 電磁ソレノイド(保持機構)
X 回転軸芯
Z 保持境界位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体部に、
外部からの駆動により回転軸芯の周りに回転駆動される駆動側部材と、
当該駆動側部材の回転が伝えられることにより、前記回転軸芯の周りに回転する出力軸を備えた被駆動側ユニットと、
通電により磁力を発生させる電磁ソレノイドとを備え、
前記被駆動側ユニットに、
前記回転軸芯の方向に相対移動する状態でトルクを伝えるように前記出力軸にスラスト係合し、前記電磁ソレノイドの磁力によって前記基体部に吸着可能な中間部材を備えるとともに、
前記駆動側部材と当接するように前記駆動側部材の側に付勢され、前記駆動側部材と当接することで前記駆動側部材の回転を前記出力軸に伝えるように枢支された揺動部材と、
前記中間部材が前記電磁ソレノイドの吸着によって制動されることで、前記揺動部材を前記駆動側部材から離間変位させる案内機構と、
離間変位した前記揺動部材の位置を保持する保持機構とを備えた電磁クラッチ。
【請求項2】
前記揺動部材に形成される吸引部と、前記中間部材とが磁性体で構成され、
前記中間部材が、前記基体部から離間する離間位置から、前記基体部に吸着する吸着位置に移動した際に、この中間部材に前記吸引部を接近させることにより前記中間部材から前記吸引部に流れる磁束の磁束密度を高め、磁気による吸引により前記吸引部の位置保持を行うように前記保持機構が構成されている請求項1記載の電磁クラッチ。
【請求項3】
前記電磁ソレノイドが、前記回転軸芯を中心にして配置されるドーナツ状のコイル部と、このコイル部を基準にして回転軸芯側に配置される内ヨークと、前記コイル部を基準にして前記回転軸芯と反対側に配置される外ヨークとを備え、
前記中間部材が、前記回転軸芯に沿う方向視において前記内ヨークと前記外ヨークとを覆うサイズに形成され、この中間部材の外周面のうち前記外ヨークに対向する面積を縮小する切り欠き部を形成することにより、前記中間部材の外周から前記吸引部に磁束を流し出すように構成されている請求項2記載の電磁クラッチ。
【請求項4】
前記揺動部材と一体的に変位する変位部材が備えられ、前記案内機構により前記揺動部材が前記回転軸芯の側に離間変位し、この離間変位に伴い前記変位部材が予め設定された保持境界位置を超えることにより、この変位部材に変位力を与え前記揺動部材を離間側に更に引き込んで位置保持を行う変位力付与部材を備えて前記保持機構が構成されている請求項1記載の電磁クラッチ。
【請求項5】
前記案内機構が、前記中間部材に形成されたガイド孔と、このガイド孔に挿通するように前記揺動部材に形成されたガイドピンとで構成され、このガイドピンが前記変位部材として用いられると共に、
前記変位力付与部材が、前記揺動部材の離間変位時における前記ガイドピンの移動を許す案内面と、この案内面を通過したガイドピンの逆方向への移動を阻止する阻止面とを前記保持境界位置を挟む位置に形成した板バネ材で構成して前記中間部材に支持してあり、前記中間部材が、前記基体部に吸着された吸着位置で前記中間部材から突出する前記ガイドピンに前記変位力付与部材が接触し、前記中間部材が前記基体部から離間する離間位置でガイドピンに前記変位力付与部材が接触しない位置関係に前記変位力付与部材が配置されている請求項4記載の電磁クラッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−97862(P2012−97862A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247630(P2010−247630)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】