説明

電磁係合装置

【課題】トルク容量の不足を補うことができる電磁係合装置を提供する。
【解決手段】電磁係合装置5は、共通の軸線Axの回りに相対回転可能に組み合わされ、その相対回転に伴って軸線Ax方向に関する間隔Xが拡大するように構成された一対のカム部材8、9と、可動カム部材9を間隔Xが狭まる方向に付勢するリターンスプリング15と、一対のカム部材8、9の相対回転を促す電磁駆動部7と、一対のカム部材8、9の間に形成された空間Sにオイルを供給するための分岐路22とを備え、解放状態の時に分岐路22を閉鎖し、かつ解放状態から係合状態に移行する過程で分岐路22を開通させて閉空間Sにオイルを供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カム機構を利用した電磁係合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カム機構を備えた電磁クラッチとして、軸線方向の間隔が相対回転によって拡大するように構成された一対のカム部材のうち、一方のカム部材を電磁コイルの電磁力にて吸引して軸線方向に移動させることにより相対回転を促してそのカム部材を係合対象である回転部材に押し付けて係合状態とするものが知られている(特許文献1)。この電磁クラッチは、係合対象から離れた解放状態の際には、一対のカム部材がリターンスプリングの弾性力で互いに接近する方向に付勢されると同時に摩擦部を介して互いに接触することによりカム部材間の相対回転が抑制されるように構成されている。その他、本発明に関連する先行技術文献として特許文献2及び3が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−60863号公報
【特許文献2】特開2009−220593号公報
【特許文献3】特開平8−261249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
カム機構を利用した電磁クラッチは、一対のカム部材の相対回転により発生させる軸線方向の推力を利用してカム部材を係合対象に押し付けて係合させるものであるので、係合状態を維持させるセルフロック機能をカム機構に与えない場合にはトルク容量が不足する場合がある。
【0005】
そこで、本発明は、トルク容量の不足を補うことができる電磁係合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電磁係合装置は、共通の軸線の回りに相対回転可能に組み合わされ、その相対回転に伴って前記軸線方向に関する間隔が拡大するように構成された一対のカム部材と、前記間隔が狭まる方向に前記一対のカム部材の少なくとも一方を付勢することにより前記一対のカム部材が所定の係合対象と離れている解放状態に維持可能な付勢手段と、前記解放状態から、前記一対のカム部材の少なくとも一方が前記係合対象に押し付けられた係合状態へ移行するように電磁力を利用して前記一対のカム部材の相対回転を促して前記間隔を前記付勢手段の付勢力に抗して拡大させる電磁力発生手段と、前記一対のカム部材の間に開口するオイル導入路を有し、前記解放状態の時に前記オイル導入路を閉鎖し、かつ前記解放状態から前記係合状態に移行する過程で前記オイル導入路を開通させて前記一対のカム部材の間にオイルを供給するオイル供給手段と、を備えたものである(請求項1)。
【0007】
この電磁係合装置によれば、解放状態で閉鎖されていたオイル導入路が解放状態から係合状態へ移行する過程で開通されるので、オイル導入路を通じて一対のカム部材の間にオイルを供給することができる。解放状態から係合状態への移行過程でオイルが供給されるので、供給されるオイルの圧力を利用して係合対象に対するカム部材の押し付け力を補助することができる。これによりトルク容量の不足を補うことができる。
【0008】
本発明の電磁係合装置の一態様において、前記一対のカム部材の間に開口するオイル排出路を有し、前記解放状態の時に前記オイル排出路を開通させて前記一対のカム部材の間からオイルを排出するオイル排出手段を更に備えてもよい(請求項2)。この態様によれば、解放状態の際にオイル排出路を通じて一対のカム部材の間のオイルが排出されて、カム部材間に存在するオイルを減らす又は無くすことができるので、カム部材の回転に伴うオイルのせん断抵抗を低減できる。従って、いわゆる引き摺り損失を低減できる。
【0009】
本発明の電磁係合装置の一態様において、前記一対のカム部材の間には前記オイル導入路が閉鎖された場合に密閉状態となるオイル保持空間が形成されており、前記オイル供給手段は前記係合状態の時に前記オイル導入路を閉鎖してもよい(請求項3)。この態様によれば、解放状態から係合状態への移行過程で供給されたオイルを係合状態への移行後にオイル保持空間内に保持できる。これによって、オイル保持空間内に閉じ込められたオイルの圧力を利用して押し付け力の補助を係合状態の時に維持できる。そのため、係合状態の維持に必要な電磁力が低下するので電磁力発生手段の消費電力を低減できる。
【0010】
本発明の電磁係合装置の一態様において、前記一対のカム部材の間には前記オイル導入路及び前記オイル排出路のそれぞれが閉鎖された場合に密閉状態となるオイル保持空間が形成されており、前記係合状態の時に、前記オイル供給手段が前記オイル導入路を、前記オイル排出手段が前記オイル排出路をそれぞれ閉鎖してもよい(請求項4)。この態様によれば、係合状態時にオイル導入路及びオイル排出路のそれぞれが閉鎖されてオイル保持空間が密閉状態となるため、解放状態から係合状態への移行過程で供給されたオイルを係合状態への移行後にオイル保持空間内に保持できる。これによって、オイル保持空間内に閉じ込められたオイルの圧力を利用して押し付け力の補助を係合状態の時に維持できる。そのため、係合状態の維持に必要な電磁力が低下するので電磁力発生手段の消費電力を低減できる。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明の電磁係合装置によれば、解放状態から係合状態への移行過程で一対のカム部材の間にオイルが供給され、その供給されるオイルの圧力を利用して係合対象に対するカム部材の押し付け力を補助できるので、トルク容量の不足を補うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一形態に係る電磁係合装置が組み込まれた動力伝達装置の一部を示した断面模式図。
【図2A】各カム部材を半径方向外側から見た状態を示した図であって、各カム部材の位相が一致した状態を示した図。
【図2B】各カム部材を半径方向外側から見た状態を示した図であって、各カム部材の位相がずれた状態を示した図。
【図3】オイルの流れを説明する説明図であって、解放状態におけるオイルの流れを示した図。
【図4】オイルの流れを説明する説明図であって、解放状態から係合状態への移行過程におけるオイルの流れを示した図。
【図5】オイルの流れを説明する説明図であって、係合状態におけるオイルの流れを示した図。
【図6】本発明の他の形態に係る電磁係合装置が組み込まれた動力伝達装置の一部を示した断面模式図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は本発明の一形態に係る電磁係合装置が組み込まれた動力伝達装置の一部を示した断面模式図である。動力伝達装置1は自動車の自動変速機に搭載されて使用される。動力伝達装置1は軸線Ax方向に延びる回転軸2を有しており、その回転軸2は軸線Axの回りに回転可能な状態で不図示のベアリングを介してケース3に支持されている。電磁係合装置5は回転軸2のケース3に対する固定及びその固定を解除するブレーキ装置として動力伝達装置1に搭載されている。
【0014】
電磁係合装置5は、回転軸2に装着されたカム機構6と、ケース3とカム機構6との間に配置されてケース3に固定された電磁力発生手段としての電磁駆動部7とを備えている。カム機構6は軸線Axを共通の軸線として互いに組み合わされた一対のカム部材8、9を有している。一対のカム部材8、9の間には周方向に並んだ複数(図では一つ)のカムボール10が介在しており、そのカムボール10は各カム部材8、9に形成された周方向に並ぶ複数のV字溝11、12にて保持されている。図2A及び図2Bは各カム部材8、9を半径方向外側から見た状態を示している。これらの図から明らかなように、各V字溝11、12はV字状に形成されていて、回転軸2の回転方向(図の上又は下方向)に関して深さが徐々に浅くなるように構成されている。
【0015】
図1に示すように、一対のカム部材8、9のうち、図の左側に位置する固定カム部材8は回転軸2に不図示の固定手段にて固定されており、回転軸2と一体回転できる。他方の可動カム部材9は相手方の固定カム部材8及び回転軸2のそれぞれに対して相対回転でき、かつ軸線Ax方向に移動できる状態で固定カム部材8と組み合わされている。一対のカム部材8、9は、図1及び図2Aに示された位相が一致した状態から相対回転して位相がずれた図2Bに示した状態に変化すると、その相対回転に伴ってカムボール10の位置がV字溝11、12の浅い位置に変化するので軸線Ax方向の間隔Xが拡大する。つまり可動カム部材9は電磁駆動部7に接近する方向に移動する。電磁係合装置5には、一対のカム部材8、9にこうした相対回転が生じることを抑制するため、間隔Xが狭まる方向に可動カム部材9を付勢する付勢手段としてのリターンスプリング15が設けられている。リターンスプリング15は図の右方向の移動がスナップリング16にて阻止された状態で回転軸2の外周に配置されている。
【0016】
電磁駆動部7は電磁コイル18と、ケース3に固定されて電磁コイル18を保持するコイルハウジング19とを有している。電磁駆動部7は電磁コイル18に電力が供給されると電磁力を発生し、その電磁力によって可動カム部材9と一体の磁性体であるアーマチュア20を引き寄せる。これにより、可動カム部材9がリターンスプリング15の弾性力に抗して電磁駆動部7の側へ引き寄せられるため一対のカム部材8、9の相対回転が促されるとともに、可動カム部材9がコイルハウジング19に形成された摩擦部19aに押し付けられる。そして摩擦部19aに生じた摩擦力によって可動カム部材9が係合対象であるコイルハウジング19に係合される。これにより、可動カム部材9がコイルハウジング19から離れている図1に示した解放状態から、可動カム部材9がコイルハウジング19に押し付けられた係合状態へ移行する。電磁係合装置5が係合状態に移行すると、可動カム部材9と組み合わされた固定カム部材8の回転が阻止されるので、固定カム部材8と一体回転する回転軸2がケース3に対して固定される。なお、いわゆるセルフロックは固定カム部材8に作用するトルクと、カムボール10及び各V字溝11、12の幾何学的条件とによって成立し、このセルフロックが成立すると電磁力が無くとも係合状態を維持できる。しかし、本形態に係るカム機構6は係合状態の維持のために電磁駆動部7の電磁力による押し付け力の発生を継続する必要がある。
【0017】
この押し付け力を補助するため、電磁係合装置5は解放状態から係合状態への移行過程でカム部材8、9間にオイルを供給できるように構成されている。図1に示すように、回転軸2には軸線Ax方向に延びるオイル供給路21が形成されており、そのオイル供給路21には不図示のオイルポンプから高圧のオイルが供給されている。オイル供給路21は回転軸2の外周面2aに開口する分岐路22と連通している。分岐路22の開口位置は可動カム部材9で隠される位置に設定されている。
【0018】
一対のカム部材8、9の間にはオイル保持空間としての閉空間Sが形成されている。固定カム部材8の外周側には軸線Ax方向と平行でかつ可動カム部材9の側に突出する円筒状の突出壁25が形成されている。一方、可動カム部材9には、軸線Ax方向と平行でかつ固定カム部材8の側に突出して突出壁25の外周側に嵌め込まれる円筒状の大径突出壁26が形成される。閉空間Sは一対のカム部材8、9、各突出壁25、26及び回転軸2にて画定される。また可動カム部材9の内周側には大径突出壁26と同方向に突出するがこれよりも小径の小径突出壁27が形成されている。固定カム部材8の突出壁25と可動カム部材9の大径突出壁26とは可動カム部材9が軸線Ax方向に移動した場合でも互いに嵌り合った状態に維持されるようになっている。固定カム部材8の突出壁25には半径方向に貫かれたオイル孔30が形成されている。一方、可動カム部材9の大径突出壁26及び小径突出壁27のそれぞれには半径方向に貫かれたオイル孔31、32が形成されている。
【0019】
可動カム部材9の移動に応じて、回転軸2のオイル供給路21に導かれたオイルを閉空間Sに供給したり、閉空間S内のオイルを排出したりするため、上述した分岐路22の開口位置及びオイル孔30〜32の位置関係が以下に説明するように設定されている。図3〜図5はオイルの流れを説明する説明図であり、図3は解放状態におけるオイルの流れを、図4は解放状態から係合状態への移行過程におけるオイルの流れを、図5は係合状態におけるオイルの流れをそれぞれ示している。これらの図の矢印はオイルの流れを示している。
【0020】
図3に示すように、解放状態の場合は分岐路22の開口部が小径突出壁27にて塞がれかつ小径突出壁27に形成されたオイル孔32が回転軸2の外周面2aにて塞がれるため分岐路22が閉鎖される。そのため、分岐路22を通じた閉空間Sへのオイル供給が遮断される。その一方で、解放状態の場合には固定カム部材8の突出壁25に形成されたオイル孔30と、大径突出壁26に形成されたオイル孔31とが重なり合うため、閉空間S内のオイルはオイル孔30を通じてカム機構6の外部に排出される。これにより、一対のカム部材8、9の間に存在するオイルを減らす又は無くすことができるので、各カム部材8、9の回転に伴うオイルのせん断抵抗を低減でき引き摺り損失を低減できる。
【0021】
図4に示すように、解放状態から係合状態への移行過程では、分岐路22の開口部と小径突出壁27のオイル孔32とが重なり合って分岐路22が開通するため、閉空間Sに分岐路22を通じてオイルが供給される。その一方で、突出壁25のオイル孔30がその外周側に嵌め合わされる大径突出壁26にて閉鎖されるため、閉空間Sが密閉されてその内部のオイルがオイル孔30を通じて排出することが阻止される。これにより、閉空間S内に供給されたオイルの圧力にて可動カム部材9(アーマチュア20)をコイルハウジング19側へ移動させる力Fが発生し、その力Fを利用して可動カム部材9の押し付け力を補助できる。従って電磁係合装置5のトルク容量の不足を補うことができる。
【0022】
図5に示すように、係合状態への移行後には、移行過程で開通していた分岐路22が小径突出壁27にて隠されて閉鎖されるとともに、オイル孔30が塞がれた状態で維持されるので移行過程で閉空間Sに導かれたオイルが高圧のまま閉空間S内に閉じ込められる。そのため、係合状態の間に力Fを発生させ続けることができる。この力Fを係合状態の維持に利用することによりその維持に必要な電磁力を低下できるから、電磁駆動部7の消費電力を低減できる。
【0023】
このように、電磁係合装置5は解放状態の時に分岐路22を小径突出壁27にて閉鎖し(図3)、解放状態から係合状態に移行する過程で可動カム部材9の動作を利用して小径突出壁27にて分岐路22を開通させて一対のカム部材8、9の間に形成された閉空間Sにオイルを供給する(図4)。そして、係合状態への移行後には分岐路22を小径突出壁27にて閉鎖して閉空間S内にオイルを閉じ込める(図5)。従って、分岐路22は本発明に係るオイル導入路に相当し、その分岐路22と小径突出壁27との組み合わせたものが本発明に係るオイル供給手段として機能する。また、解放状態の時にはオイル孔30を大径突出壁26にて開通させて閉空間S内のオイルを排出させ、かつ、係合状態の時にはそのオイル孔30を大径突出壁26にて閉鎖する。従って、オイル孔30は本発明に係るオイル排出路に相当し、そのオイル孔30と大径突出壁26とを組み合わせたものが本発明に係るオイル排出手段として機能する。
【0024】
但し、本発明は上記形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内において種々の形態にて実施できる。上記形態の電磁係合装置5は一例に過ぎない。例えば、図6に示した形態で本発明を実施することもできる。図6は本発明の他の形態に係る電磁係合装置が組み込まれた動力伝達装置の一部を示した断面模式図である。なお、図1に示した形態と共通の構成は図6に同一符号を付して説明を省略する。図6の電磁係合装置50が組み込まれた動力伝達装置1′は図1の場合と同様に自動変速機に搭載されて使用される。
【0025】
電磁係合装置50は回転軸2のケース3に対する固定及びその固定を解除するブレーキ装置として動力伝達装置1′に搭載されている。電磁係合装置50は一対のカム部材51、52を持ち回転軸2に装着されたカム機構53と、所定の電磁力を発生させる電磁力発生手段としての電磁駆動部54とを備えている。一対のカム部材51、52は軸線Axの回りに相対回転可能に組み合わされ、図1の形態と同様にその相対回転により軸線Ax方向に関する間隔Xが拡大するように構成されている。一対のカム部材51、52の間にはカムボール55が介在しており、そのカムボール55は各カム部材51、52に形成されたV字溝57、58にて保持されている。
【0026】
図6の右側の固定カム部材51は回転軸2に固定されて一体回転する。左側の可動カム部材52は固定カム部材51に対して相対回転しながら軸線Ax方向に移動できる。そして可動カム部材52は付勢手段であるリターンスプリング15にて間隔Xが狭まる方向に付勢されている。リターンスプリング15はスナップリング16にて図6の左方向への移動が阻止されている。可動カム部材52の外周側には電磁駆動部54の反対側の一方向に突出する操作部60が設けられていて、その操作部60は外周がケース3にスプライン結合されて回り止めされかつ軸線Ax方向への移動が許容された摩擦プレート61に隣接している。摩擦プレート61の隣りにはリテーニングプレート62が設けられ、そのリテーニングプレート62は回転軸2にスプライン結合されて回り止めされ、かつ不図示のスナップリングにて図6の左方への移動が制限されている。
【0027】
電磁駆動部54はケース3に固定されたコイルハウジング65と、そのコイルハウジング65に保持された電磁コイル66と、軸線Ax方向への移動が許容された状態で固定カム部材51と一体回転できるように固定カム部材51の外周にスプライン結合されたアーマチュア67とを有している。図6に示した解放状態の時に、電磁コイル66に電力を印可して電磁力を発生させると、アーマチュア67が固定カム部材51と噛み合った状態で電磁コイル66側に引き寄せられてコイルハウジング65に形成された摩擦部68に接触する。その接触に伴う摩擦力により固定カム部材51が減速される。その減速を契機としてカム部材51、52間に相対回転が促されてリターンスプリング15の弾性力に抗して間隔Xが拡大するように可動カム部材52が図6の左方向に移動する。これにより、可動カム部材52と一体に設けられた操作部60が移動し摩擦プレート61が操作部60とリテーニングプレート62とによって挟み込まれて解放状態から係合状態に移行する。係合状態に移行すると、操作部60、摩擦プレート61及びリテーニングプレート62の相互間に生じる摩擦力によって回転軸2がケース3に対して固定される。なお、摩擦プレート61は本発明に係る係合対象に相当する。
【0028】
電磁係合装置50は、図1の形態と同様に操作部60による押し付け力を補助するために一対のカム部材51、52の間にオイルを供給できるように構成されている。即ち、可動カム部材52には固定カム部材51側に突出する円筒状の大径突出壁70及び小径突出壁71のそれぞれが設けられている。また、固定カム部材51の外周に装着されるアーマチュア67には、大径突出壁70の外周に嵌り合う円筒状の突出壁73が形成されている。これにより、一対のカム部材51、52の間にはオイル保持空間としての閉空間S′が形成される。更に、大径突出壁70及び小径突出壁71のそれぞれには閉空間S′に通じるように貫かれたオイル孔80、81が形成され、アーマチュア67の突出壁73にはオイル孔82が形成されている。
【0029】
図6から理解できるように、電磁係合装置50もまた図1の形態と同様に、可動カム部材52の動作を利用して分岐路22及びオイル孔80を開閉し、第1の形態と同様の効果を得ることができる。即ち、図6の解放状態の時に分岐路22を小径突出壁71にて閉鎖し、解放状態から係合状態に移行する過程で小径突出壁71にて分岐路22を開通させて閉空間S′内にオイルを供給する。そして、図示を略したが、係合状態への移行後には分岐路22を小径突出壁71にて閉鎖して閉空間S′内にオイルを閉じ込める。従って、分岐路22が本発明に係るオイル導入路に相当し、その分岐路22と小径突出壁71との組み合わせたものが本発明に係るオイル供給手段として機能する。また、解放状態の時にはオイル孔80をアーマチュア67の突出壁73にて開通させて閉空間S′内のオイルを排出させ、かつ係合状態の時にはそのオイル孔80を突出壁73にて閉鎖する。従って、オイル孔80は本発明に係るオイル排出路に相当し、そのオイル孔80と突出壁73とを組み合わせたものが本発明に係るオイル排出手段として機能する。
【0030】
なお、上記の各形態では、本発明の電磁係合装置をブレーキ装置として利用した形態であるが、本発明を2つの回転要素間に介在させるクラッチとして実施することも可能である。また、オイル導入路とオイル排出路との両者を設けることは一例であり、上記の各形態からオイル排出路に相当するオイル孔30、80を省いて実施することも可能である。
【符号の説明】
【0031】
5、50 電磁係合装置
8、51 固定カム部材(カム部材)
9、52 可動カム部材(カム部材)
7、54 電磁駆動部(電磁力発生手段)
15 リターンスプリング(付勢手段)
19 コイルハウジング(係合対象)
22 分岐路(オイル導入路)
30、80 オイル孔(オイル排出路)
61 摩擦プレート(係合対象)
Ax 軸線
S、S′ 閉空間(オイル保持空間)
X 一対のカム部材の軸線方向に関する間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通の軸線の回りに相対回転可能に組み合わされ、その相対回転に伴って前記軸線方向に関する間隔が拡大するように構成された一対のカム部材と、
前記間隔が狭まる方向に前記一対のカム部材の少なくとも一方を付勢することにより前記一対のカム部材が所定の係合対象と離れている解放状態に維持可能な付勢手段と、
前記解放状態から、前記一対のカム部材の少なくとも一方が前記係合対象に押し付けられた係合状態へ移行するように電磁力を利用して前記一対のカム部材の相対回転を促して前記間隔を前記付勢手段の付勢力に抗して拡大させる電磁力発生手段と、
前記一対のカム部材の間に開口するオイル導入路を有し、前記解放状態の時に前記オイル導入路を閉鎖し、かつ前記解放状態から前記係合状態に移行する過程で前記オイル導入路を開通させて前記一対のカム部材の間にオイルを供給するオイル供給手段と、
を備えた電磁係合装置。
【請求項2】
前記一対のカム部材の間に開口するオイル排出路を有し、前記解放状態の時に前記オイル排出路を開通させて前記一対のカム部材の間からオイルを排出するオイル排出手段を更に備える請求項1に記載の電磁係合装置。
【請求項3】
前記一対のカム部材の間には前記オイル導入路が閉鎖された場合に密閉状態となるオイル保持空間が形成されており、
前記オイル供給手段は前記係合状態の時に前記オイル導入路を閉鎖する請求項1に記載の電磁係合装置。
【請求項4】
前記一対のカム部材の間には前記オイル導入路及び前記オイル排出路のそれぞれが閉鎖された場合に密閉状態となるオイル保持空間が形成されており、
前記係合状態の時に、前記オイル供給手段が前記オイル導入路を、前記オイル排出手段が前記オイル排出路をそれぞれ閉鎖する請求項2に記載の電磁係合装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−226499(P2011−226499A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94043(P2010−94043)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】