説明

電磁弁

【課題】 磁気対向部の磁気吸引力の低下や、シャフトの強度不足等を招くことなく、クリアランスを介してオイルが外部に排出される空間のオイルの排出性能を高める。
【解決手段】 磁気対向部26で区画される第1空間Aのオイルは、オイル排出穴25cを介して排出される。一方、第2空間Bのオイルは、シャフト25と磁気吸引部26のクリアランスCを介して第1空間Aへ排出されるが、クリアランスCに油膜が形成されるとオイルの排出が阻害される。中空のシャフト25には、内外貫通穴よりなる油膜切り手段31が設けられ、エンジン停止中にクリアランスCに形成された油膜に切れ目を入れる。すると、油膜による遮断か解除されて、第2空間BのオイルがクリアランスCを介して第1空間Aに流れ、第1空間Aのオイルとともに、オイル排出穴25cを通ってオイル排出部13gから排出され、次回の運転再開時におけるOCV3の応答性を確保できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイル流路の開閉、切替、調圧、調量等を行う電磁弁に関するものであり、特に電磁アクチュエータのプランジャの変位力を弁体に伝えるシャフトが、プランジャに対向配置された磁気対向部を貫通する構造を備えた電磁弁に関する。
【背景技術】
【0002】
(従来技術)
オイル流路の開閉、切替、調圧、調量等を行うバルブ装置(スプール弁、ボール弁等)を、電磁アクチュエータによって駆動する電磁弁の一例として、例えば特許文献1に開示された技術が知られている。
特許文献1の電磁弁は、ステータの内側にプランジャを摺動自在に支持する非磁性体性のカップガイドを挿入し、カップガイドによってオイルが外部に漏れるのを防ぐように設けられている。
一方、プランジャの磁気吸引側の空間は、プランジャの変位に応じて容積が変動するため、呼吸(容積変動)できるようにドレン手段によってオイル排出部と連通して設けられている。
【0003】
上記のようにカップガイドを設けると、プランジャはカップガイドの径方向内側に配置され、プランジャを磁気吸引するためのステータがカップガイドの径方向外側に配置されることになる。ステータとプランジャが軸方向に対向して配置されなくなり、プランジャの磁気吸引力が弱められてしまう。特に、プランジャの吸引方向への移動量が多くなって、ステータとプランジャの軸方向距離が短くなると、磁束の変化率が低下して磁気吸引力が一層低下する不具合がある。
【0004】
上記の不具合を解決する技術として、ステータとは別体の磁気対向部を設け、その磁気対向部をプランジャの軸方向に対向配置する技術を提案している(周知の技術ではない)。
プランジャの磁気吸引側の空間は、磁気対向部を設けることによって2つの空間(第1、第2空間)に区画されてしまう。
すると、第1、第2空間の一方の空間のオイルは、上述したドレン手段によって外部へ排出される。なお、以下では、第1、第2空間のうち、プランジャとは異なる側の空間を、上述したドレン手段によってオイルが外部へ排出される第1空間として説明する。
一方、第1、第2空間のうち、プランジャ側の第2空間(プランジャと磁気対向部の軸方向間で、且つシャフトとカップガイドの径方向間で囲まれる空間)は、上述したドレン手段と磁気対向部で遮断されるため、第2空間のオイルは、磁気対向部とシャフトの間のクリアランスを介して第1空間に排出され、第1空間からドレン手段を介して外部に排出されることになる。
【0005】
(従来技術の問題点)
クリアランスに油膜が形成されると、第1空間と第2空間が油膜で遮断された状態となり、第1空間から第2空間へのオイルの移動が妨げられる。
運転停止中に第2空間のオイルが排出されないと、残留したオイルは運転停止中の低温時に粘度が高まる。すると、次の運転開始時にプランジャの応答性が劣化してしまう。即ち、電磁弁の応答性が劣化してしまう。
このため、特に高い応答性が要求される電磁弁(例えば、実施例で示すVVT用の電磁弁等)では、第2空間のオイル排出性能を維持したまま、プランジャの磁気吸引力を高める要求がある。
第2空間のオイルの排出性能は、磁気対向部とシャフトの間のクリアランスの影響を大きく受け、プランジャの磁気吸引力は、プランジャと対向する磁気対向部の面積の影響を大きく受ける。
【0006】
このため、第2空間のオイルの排出性能を高めるべくクリアランスを大きくすると、プランジャと対向する磁気対向部の面積が減って磁気吸引力が低下し、逆に、プランジャの磁気吸引力を高めるべくクリアランスを小さくすると、第2空間のオイルの排出性能が悪化してしまう。
また、シャフトの径を小さくすることで、クリアランスを大きく、且つプランジャと対向する磁気対向部の面積を大きくすることが考えられるが、シャフトの強度不足が生じるとともに、シャフトと他部品との接触面積の減少による摩耗が生じる等の問題が懸念される。
【0007】
なお、上記では、磁気対向部をステータと別体で設ける例を用いて従来技術の問題点を説明したが、磁気対向部がステータと一体のものであっても、磁気対向部により区画された一方の空間のオイルが、磁気対向部とシャフトのクリアランスを介して外部に排出されるものは、上記と同様の問題が生じる。
【特許文献1】特開2001−187979号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、磁気対向部の磁気吸引力の低下や、シャフトの強度不足等を招くことなく、クリアランスを介してオイルが外部に排出される空間のオイルの排出性能を高めることのできる電磁弁の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[請求項1の手段]
請求項1の手段を採用する電磁弁は、プランジャの変位力を弁体に与えるシャフトに、磁気対向部とシャフトの間のクリアランスに形成される油膜を切る油膜切り手段を備える。
この油膜切り手段によってクリアランスに形成された油膜が切れるため、磁気対向部で区画される第1、第2空間のうち、ドレン手段と直接連通していない側の空間のオイルを、油膜が切れたクリアランスを介して、ドレン手段に連通している側の空間に排出することができる。
【0010】
このように、クリアランスの油膜を切ることで、ドレン手段と直接連通していない側の空間のオイルの排出性能が高められるため、運転の停止後で、次回運転を再開した時に、電磁弁の応答性が劣化する不具合を回避することができる。
また、クリアランスの油膜を切ることで、ドレン手段と直接連通していない側の空間のオイルの排出性能が高められるため、プランジャと対向する磁気対向部の面積が減って磁気吸引力が低下する不具合を回避できるとともに、シャフトの径を小さくしてシャフトの強度不足が生じたり、シャフトと他部品との接触面積が減少して摩耗等が生じる不具合を回避することができる。
【0011】
[請求項2の手段]
請求項2の手段を採用する電磁弁の油膜切り手段は、シャフトが通電停止位置で停止している時に貫通穴と軸方向に交差するものである。
これにより、電磁弁の運転停止中に、油膜切り手段によってクリアランスの油膜を確実に切ることができ、運転の停止中にドレン手段と直接連通していない側の空間のオイルの排出性能を高めることができる。
【0012】
[請求項3の手段]
請求項3の手段を採用する電磁弁における油膜切り手段は、オイルを弾く撥油部、通電停止中にオイルの溜まらないスリット、あるいは通電停止中にオイルの溜まらない穴である。
【0013】
[請求項4の手段]
請求項4の手段を採用する電磁弁における油膜切り手段の軸方向長は、貫通穴の軸方向長より長く設けられている。
これにより、油膜切り手段によるクリアランスの油膜切り効果を高めることができる。
【0014】
[請求項5の手段]
請求項5の手段を採用する電磁弁のシャフトは、内側がオイル排出部と連通する筒状を呈する。また、ドレン手段は、磁気対向部で区画される第1、第2空間のうち、プランジャとは異なった側の第1空間のオイルをオイル排出部に導くものである。さらに、油膜切り手段は、筒状を呈するシャフトの内外を貫通する内外貫通穴である。
そして、内外貫通穴は、シャフトが通電停止位置で停止している時に、磁気対向部で区画される第1、第2空間のうち、プランジャ側の第2空間(ドレン手段と直接連通していない側の空間)において開口する。
これにより、第2空間のオイルを、油膜切り手段である内外貫通穴を介してシャフト内に排出することができ、第2空間におけるオイルの排出性能を高めることができる。
【0015】
[請求項6の手段]
請求項6の手段を採用する電磁弁の磁気対向部は、電磁アクチュエータのステータとは別部材で設けられ、ステータと組み合わされて磁気回路を構成するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
最良の形態1の電磁弁は、車両に搭載されてオイル流路の開閉、切替、調圧、調量等を行うものであり、軸方向の変位位置に応じてオイル流路の開閉、切替、調圧、調量等を行う弁体を備えるバルブ装置(スプール弁、ボール弁等)と、通電により磁力を発生するコイル、軸方向へ摺動自在に支持されるプランジャ、このプランジャの軸方向に対向配置されてコイルの発生した磁力によってプランジャを弁体側へ磁気吸引する磁気対向部を備えた電磁アクチュエータと、磁気対向部に設けられた軸方向の貫通穴の内側にクリアランスを介して貫通配置され、プランジャの変位力を弁体に与えるシャフトと、磁気対向部で区画される第1、第2空間のうち、プランジャとは異なる側の第1空間のオイルをオイル排出部に導くドレン手段とを備える。
【0017】
この電磁弁は、シャフトに設けられ、磁気対向部とシャフトの間のクリアランスの油膜を切る油膜切り手段(オイルを弾く撥油部、コイルの通電停止中にオイルの溜まらないスリットや穴)を備える。この電磁弁の油膜切り手段は、シャフトが通電停止位置で停止している時に磁気対向部の貫通穴と軸方向に交差することが好ましく、油膜切り手段によってクリアランスの油膜を確実に切るように設けられている。
油膜切り手段により、クリアランスの油膜が切れることで、第2空間のオイルを第1空間を介して排出することができるため、磁気対向部の磁気吸引力の低下や、シャフトの強度不足等を招くことなく、第2空間のオイルの排出性能を高めることができる。
【実施例1】
【0018】
本発明をバルブ可変タイミング装置(以下、VVT)におけるオイルフローコントロールバルブ(電磁弁の一例:以下、OCV)に適用した実施例1を、図面を参照して説明する。
なお、以下の実施例1では、先ず図2を参照してVVTの構造を説明し、次に図1を参照してOCVの構造を説明し、その後で本発明が適用された特徴部分を説明する。
【0019】
(VVTの説明)
VVTは、内燃機関(以下、エンジン)のカムシャフト(吸気バルブ用、排気バルブ用、吸排気兼用カムシャフトのいずれか)に取り付けられて、バルブの開閉タイミングを連続的に可変可能なバルブタイミング可変機構(以下、VCT)1と、このVCT1の作動を油圧制御する油圧回路2と、油圧回路2に設けられるOCV3を電気的に制御するECU4(エンジン・コントロール・ユニットの略:制御装置)とから構成されている。
【0020】
(VCT1の説明)
VCT1は、エンジンのクランクシャフトに同期して回転駆動されるシューハウジング5と、このシューハウジング5に対して相対回転可能に設けられ、カムシャフトと一体に回転するベーンロータ6とを備えるものであり、シューハウジング5内に構成される油圧アクチュエータによってシューハウジング5に対してベーンロータ6を相対的に回転駆動して、カムシャフトを進角側あるいは遅角側へ変化させるものである。
【0021】
シューハウジング5は、エンジンのクランクシャフトにタイミングベルトやタイミングチェーン等を介して回転駆動されるスプロケットにボルト等によって結合されて、スプロケットと一体回転するものである。このシューハウジング5の内部には、図2に示すように、略扇状の凹部7が複数(この実施例1では3つ)形成されている。なお、シューハウジング5は、図2において時計方向に回転するものであり、この回転方向が進角方向である。
一方、ベーンロータ6は、カムシャフトの端部に位置決めピン等で位置決めされて、ボルト等によってカムシャフトの端部に固定されるものであり、カムシャフトと一体に回転する。
【0022】
ベーンロータ6は、シューハウジング5の凹部7内を進角室7aと遅角室7bに区画するベーン6aを備えるものであり、ベーンロータ6はシューハウジング5に対して所定角度内で回動可能に設けられている。
進角室7aは、油圧によってベーン6aを進角側へ駆動するための油圧室であってベーン6aの反回転方向側の凹部7内に形成されるものであり、逆に、遅角室7bは油圧によってベーン6aを遅角側へ駆動するための油圧室である。なお、各室7a、7b内の液密性は、シール部材8等によって保たれる。
【0023】
(油圧回路2の説明)
油圧回路2は、進角室7aおよび遅角室7bのオイルを給排して、進角室7aと遅角室7bに油圧差を発生させてベーンロータ6をシューハウジング5に対して相対回転させるための手段であり、クランクシャフト等によって駆動されるオイルポンプ9と、このオイルポンプ9によって圧送されるオイル(油圧)を進角室7aまたは遅角室7bに切り替えて供給するOCV3とを備える。
【0024】
(OCV3の説明)
OCV3は、スプール弁11(バルブ装置の一例)と電磁アクチュエータ12とを結合した電磁スプール弁である。
(スプール弁11の説明)
スプール弁11は、スリーブ13、スプール14(弁体の一例)およびリターンスプリング15を備える。
スリーブ13は、略円筒形状を呈するものであり、複数の入出力ポートが形成されている。具体的に実施例1のスリーブ13には、スプール14を軸方向へ摺動自在に支持する挿通穴13a、オイルポンプ9のオイル吐出口に連通する入力ポート13b、進角室7aに連通する進角室出力ポート13c、遅角室7bに連通する遅角室出力ポート13d、オイルパン9a内にオイルを戻す排出ポート13eが形成されている。
【0025】
入力ポート13b、進角室出力ポート13c、遅角室出力ポート13dおよび排出ポート13eは、スリーブ13の側面に形成された穴であり、図1左側(電磁アクチュエータ12とは異なる側)から右側(電磁アクチュエータ12側)に向けて、排出ポート13e、進角室出力ポート13c、入力ポート13b、遅角室出力ポート13d、排出ポート13eが形成されている。
【0026】
スプール14は、スリーブ13の内径寸法(挿通穴13aの径)にほぼ一致した外径寸法を有するポート遮断用の大径部14a(ランド)を4つ備える。
各大径部14aの間には、スプール14の軸方向位置に応じて複数の入出力ポート(13b〜13e)の連通状態を変更する進角室ドレーン用小径部14b、オイル出力用小径部14c、遅角室ドレーン用小径部14dが形成されている。
進角室ドレーン用小径部14bは、遅角室7bに油圧が供給されている時に進角室7aの油圧をドレーンするためのものであり、オイル出力用小径部14cは進角室7aまたは遅角室7bの一方へ油圧を供給するためのものであり、遅角室ドレーン用小径部14dは進角室7aに油圧が供給されている時に遅角室7bの油圧をドレーンするためのものである。
【0027】
リターンスプリング15は、スプール14を図1右側に向けて付勢する圧縮コイルスプリングであり、スリーブ13の図1左側のバネ室13f内において、スリーブ13の軸端壁面とスプール14の間で軸方向に圧縮された状態で配置される。
【0028】
(電磁アクチュエータ12の説明)
電磁アクチュエータ12は、コイル16、プランジャ17、ステータ18、ヨーク19、コネクタ20を備える。
コイル16は、通電されるとプランジャ17を磁気吸引するための磁力を発生する磁力発生手段であり、樹脂製のボビン21の周囲に絶縁被覆された導線(エナメル線等)を多数巻回したものである。
【0029】
プランジャ17は、磁気吸引ステータ22(後述する)に磁気吸引される磁性体金属(例えば、鉄:磁気回路を構成する強磁性材料)によって形成された円柱体であり、ステータ18の内側(具体的には、オイルシール用のカップガイドGの内側)で軸方向へ摺動自在に支持される。
【0030】
ステータ18は、プランジャ17を軸方向に磁気吸引する磁気吸引ステータ22と、カップガイドGの外周を覆い、プランジャ17の周囲と磁気の受け渡しを行う磁気受渡ステータ23とからなる。
磁気吸引ステータ22は、スリーブ13とコイル16との間に挟まれて配置される円盤部22aと、この円盤部22aの磁束をプランジャ17の近傍まで導く筒状部22bとからなる磁性体金属(例えば、鉄:磁気回路を構成する強磁性材料)であって、プランジャ17と筒状部22bとの軸方向間には磁気吸引ギャップ(メインギャップ)が形成される。
筒状部22bは、プランジャ17と軸方向に交差可能に設けられている。筒状部22bの端部にはテーパが形成されており、プランジャ17のストローク量に対して磁気吸引力が変化しない特性に設けられている。
【0031】
磁気受渡ステータ23は、カップガイドGを介してプランジャ17の外周を覆うとともに、ボビン21の内周に挿入配置されるステータ筒部23a、およびこのステータ筒部23aから外径方向に向かって形成され、外周に配置されるヨーク19と磁気結合されるステータフランジ23bからなる磁性体金属(例えば、鉄:磁気回路を構成する強磁性材料)であり、ステータ筒部23aとプランジャ17の径方向間には磁束受渡ギャップ(サイドギャップ)が形成される。
【0032】
ヨーク19は、コイル16の周囲を覆う円筒形状を呈した磁性体金属(例えば、鉄:磁気回路を構成する強磁性材料)であり、図1左側に形成された爪部をカシメることでスリーブ13と結合される。
コネクタ20は、コイル16等を樹脂モールドする2次成形樹脂24の一部によって形成された結合手段であり、その内部には、コイル16の導線端部とそれぞれ接続されるコネクタ端子20aが配置されている。このコネクタ端子20aは、一端がコネクタ20内で露出するとともに、他端がボビン21に差し込まれた状態で2次成形樹脂24に樹脂モールドされている。
【0033】
(シャフト25の説明)
OCV3は、プランジャ17による図1左側への駆動力をスプール14へ伝えるとともに、スプール14に与えられたリターンスプリング15の付勢力をプランジャ17へ伝えるシャフト25を備える。
この実施例に示すシャフト25は、非磁性体の金属板(例えば、ステンレス板等)をカップ形状に加工した中空部品である。
【0034】
シャフト25の内部は、シャフト25の図1左端に形成された穴25aを介してスプール14の軸心に形成されたスプール呼吸路14eと連通するとともに、シャフト25の図1右端のカップ開口25bを介してプランジャ17の軸心に形成されたプランジャ呼吸路17aと連通する。
これにより、プランジャ17の図1右側の容積変化部は、プランジャ呼吸路17a→シャフト25内→スプール呼吸路14eを介して、バネ室13fに形成されたオイル排出部13gと連通する。なお、オイル排出部13gは、オイルをOCV3の外部に排出する開口部である。
【0035】
また、シャフト25は、内外を連通するオイル排出穴25cが形成されており、シャフト25の外側の空間とシャフト25内とが連通する。
これにより、スプール14とプランジャ17の間の容積変化部は、オイル排出穴25c→シャフト25内→スプール呼吸路14eを介してオイル排出部13gと連通する。このオイル排出穴25c、シャフト25内、スプール呼吸路14eが、スプール14とプランジャ17の間の容積変化部をオイル排出部13gに連通するドレン手段に相当する。
なお、プランジャ17の磁気吸引力を高める磁気対向部26、およびこの磁気対向部26を固定するための板バネ27については後述する。
また、図1中に示す符号28はシール用のOリング、符号29はOCV3を油圧ケース等に固定するためのブラケットである。
【0036】
(ECU4の説明)
ECU4は、デューティ比制御によって電磁アクチュエータ12のコイル16へ供給する電流量(以下、供給電流量)を制御するものであり、コイル16への供給電流量を制御することによって、スプール14の軸方向の位置をリニアに制御し、エンジンの運転状態に応じた作動油圧を、進角室7aおよび遅角室7bに発生させて、カムシャフトの進角位相を制御するものである。
【0037】
(VVTの作動説明)
車両の運転状態に応じてECU4がカムシャフトを進角させる際、ECU4はコイル16への供給電流量を増加させる。すると、コイル16の発生する磁力が増加し、プランジャ17とシャフト25とスプール14が図1左側(進角側)へ移動する。すると、入力ポート13bと進角室出力ポート13cの連通割合が増加するとともに、遅角室出力ポート13dと排出ポート13eの連通割合が増加する。この結果、進角室7aの油圧が増加し、逆に遅角室7bの油圧が減少して、ベーンロータ6がシューハウジング5に対して相対的に進角側へ変位し、カムシャフトが進角する。
【0038】
逆に、車両の運転状態に応じてECU4がカムシャフトを遅角させる際、ECU4はコイル16への供給電流量を減少させる。すると、コイル16の発生する磁力が減少し、プランジャ17とシャフト25とスプール14が図1右側(遅角側)へ移動する。すると、入力ポート13bと遅角室出力ポート13dの連通割合が増加するとともに、進角室出力ポート13cと排出ポート13eの連通割合が増加する。この結果、遅角室7bの油圧が増加し、逆に進角室7aの油圧が減少して、ベーンロータ6がシューハウジング5に対して相対的に遅角側へ変位し、カムシャフトが遅角する。
【0039】
〔実施例1の特徴〕
上述したOCV3の電磁アクチュエータ12は、筒形カップ形状に設けたカップガイドGを、ステータ18(磁気吸引ステータ22+磁気受渡ステータ23)の内側に挿入し、カップガイドGによってオイルが外部に漏れるのを防ぐようにしている。
このようにカップガイドGを設けると、プランジャ17はカップガイドGの径方向内側に配置され、プランジャ17を磁気吸引するための磁気吸引ステータ22がカップガイドGの径方向外側に配置されることになり、磁気吸引ステータ22とプランジャ17が軸方向に対向しない配置となってしまい、磁気吸引ステータ22によるプランジャ17の磁気吸引力が弱められてしまう。
特に、プランジャ17の吸引方向への移動量が多くなって、磁気吸引ステータ22とプランジャ17の一部とが軸方向に交差すると、磁気吸引力が一層低下する不具合が生じる。
【0040】
上記の不具合を解決するため、カップガイドGの図1左側の内側に、磁気吸引ステータ22と磁気結合する磁気対向部26を設けている。この磁気対向部26は、プランジャ17の軸方向に対向配置されて、コイル16の発生した磁力によってプランジャ17を磁気吸引する部品であり、中心部にはシャフト25を挿通するための軸方向の貫通穴が形成されており、磁気対向部26とシャフト25の間には、オイルが通過可能なクリアランス(隙間)Cが形成されている。
磁気対向部26は、例えば磁性体の金属板(例えば、鉄:磁気回路を構成する強磁性材料)をカップ形状に加工したものであり、磁気対向部26とスリーブ13との間に圧縮配置されたフィン形状の板バネ27の復元力によって磁気対向部26が固定されている。
【0041】
このように磁気対向部26を設けると、プランジャ17の磁気吸引側の空間は、磁気対向部26によって2つの空間(第1、第2空間)に区画されてしまう。
ここで、磁気対向部26によって区画される2つの空間のうち、プランジャ17とは異なった側(図1左側)の空間を第1空間Aと称し、プランジャ17側(図1右側)の空間を第2空間Bと称して説明する。
【0042】
上述したように、プランジャ17の磁気吸引側の空間は、ドレン手段(オイル排出穴25c、シャフト25内、スプール呼吸路14e)を介してオイル排出部13gと連通する。この実施例では、オイル排出穴25cが第1空間Aに設けられているため、第1空間Aのオイルは、ドレン手段によって外部へ排出される。
一方、第2空間B(プランジャ17と磁気対向部26の軸方向間で、且つシャフト25とカップガイドGの径方向間で囲まれる空間)のオイルは、磁気対向部26とシャフト25の間のクリアランスCを介して第1空間Aに排出され、第1空間Aからドレン手段を介して外部に排出される。
【0043】
クリアランスCに油膜が形成されると、第1空間Aと第2空間Bが油膜で遮断された状態となり、第1空間Aから第2空間Bへのオイルの移動が妨げられる。
エンジンの停止中(OCV3の通電停止中)に、第2空間Bのオイルが排出されないと、第2空間Bに残留したオイルが低温時に粘度が高まり、次の運転開始時にプランジャ17の応答性が劣化してしまう。即ち、OCV3の応答性が劣化し、カムシャフトの進角制御が遅れ、結果的にエミッションの悪化を招く可能性がある。
そこで、第2空間Bのオイル排出性能を高め、且つプランジャ17の磁気吸引力を高める要求がある。
【0044】
第2空間Bのオイルの排出性能を高めるべくクリアランスCを大きくすると、プランジャ17と対向する磁気対向部26の面積が減って磁気吸引力が低下してしまう。逆に、プランジャ17の磁気吸引力を高めるべくクリアランスCを小さくすると、第2空間Bのオイルの排出性能が悪化してしまう。
また、シャフト25の径を小さくすることで、クリアランスCを大きくし、且つプランジャ17と対向する磁気対向部26の面積を大きくすることが考えられる。しかし、シャフト25の強度不足が生じるとともに、シャフト25とスプール14との接触面積の減少による摩耗が生じる等の問題が懸念される。
【0045】
上記の不具合を解決するために、実施例1のOCV3は、下記に述べる各手段を採用している。
(第1の手段)
シャフト25には、磁気対向部26の貫通穴とシャフト25の外周との間のクリアランスCに形成された油膜を切る油膜切り手段31が設けられている。
シャフト25に設けた油膜切り手段31によって、クリアランスCに形成された油膜が切れるため、磁気対向部26で区画される第1、第2空間A、Bのうち、ドレン手段に直接連通していない第2空間Bのオイルを、油膜が切れたクリアランスCを介して、ドレン手段に連通する第1空間Aに排出することができる。なお、第1空間Aはドレン手段を介して外部に連通しているため、第2空間Bから第1空間Aに排出されたオイルは、外部に排出される。
【0046】
このように、クリアランスCの油膜を切ることで第2空間Bのオイルの排出性能が高められるため、運転の停止後で、次回運転を再開した時に、OCV3の応答性が劣化する不具合を回避することができる。
また、クリアランスCの油膜を切ることで第2空間Bのオイルの排出性能が高められるため、プランジャ17と対向する磁気対向部26の面積が減って磁気吸引力が低下する不具合を回避できるとともに、シャフト25の径を小さくしてシャフト25の強度不足が生じたり、シャフト25とスプール14との接触面積が減少して摩耗等が生じる不具合を回避することができる。
【0047】
(第2の手段)
シャフト25の油膜切り手段31は、シャフト25が通電停止位置で停止している時(エンジン停止中での位置:図1参照)に、磁気対向部26の貫通穴の軸方向板厚と軸方向に交差して、クリアランスCに形成された油膜に切れ目を作る位置に設けられる。
これにより、エンジンの運転停止中に、油膜切り手段31によってクリアランスCの油膜を確実に切ることができ、エンジンの運転停止中に第2空間Bのオイルを確実に外部へ排出することができる。
【0048】
(第3の手段)
油膜切り手段31は、オイルを弾く撥油部、コイル16の通電停止中にオイルの溜まらないスリット、あるいはコイル16の通電停止中にオイルの溜まらない穴であり、この実施例1では油膜切り手段31として、筒状を呈するシャフト25の内外を貫通する内外貫通穴(コイル16の通電停止中にオイルの溜まらない穴の一例)を採用している。
【0049】
(第4の手段)
油膜切り手段31の軸方向長は、磁気対向部26の貫通穴の軸方向長より長く設けられている。
具体的に、この実施例1の油膜切り手段31は、上述したように内外貫通穴であり、この内外貫通穴は丸穴形状を呈する。そして、油膜切り手段31を成す内外貫通穴の内径寸法が、クリアランスCに形成された油膜に切れ目を作る径で、且つ磁気対向部26の貫通穴の板厚寸法より大きく設けられている。
このように設けることにより、油膜切り手段31によってクリアランスCの油膜切りを確実にでき、油膜切り手段31によるクリアランスCの油膜切り効果を高めることができる。
【0050】
(第5の手段)
上述したように、シャフト25は、内側がオイル排出部13gと連通する筒状を呈し、オイル排出穴25cによるドレン手段は、磁気対向部26で区画される第1、第2空間A、Bのうち、第1空間Aをオイル排出部13gに連通させるものであり、オイル排出穴25cによって直接第2空間Bのオイルを排出しない構造になっている。
一方、この実施例1の油膜切り手段31は、上述したように、シャフト25の内外を貫通する内外貫通穴である。そこで、油膜切り手段31として用いられる内外貫通穴を、図1に示すように、シャフト25が通電停止位置で停止している時(エンジン停止中での位置)に、第2空間Bにおいて開口するように設けている。
これにより、第2空間Bのオイルを、油膜切り手段31である内外貫通穴を介してシャフト内に排出することができ、第2空間Bにおけるオイルの排出性能を高めることができる。
【0051】
(実施例1の効果)
実施例1のOCV3は、エンジンの運転中に、磁気対向部26の貫通穴とシャフト25の外周面との間のクリアランスCに油膜が形成されても、エンジン停止中(OCV3の通電停止中)に、シャフト25に設けた油膜切り手段31(内外貫通穴)によって、クリアランスCに形成された油膜に切れ目が作られ、油膜による第1空間Aと第2空間Bの遮断が解除される。即ち、クリアランスCを介して空気が通過可能な状態になる。
これにより、エンジン運転中に第2空間Bに導かれたオイルが、クリアランスCを介して第1空間Aに流れ、第1空間Aのオイルとともに、ドレン手段(オイル排出穴25c、シャフト25内、スプール呼吸路14e)を介してオイル排出部13gから外部へ排出される。
【0052】
このように、エンジン運転停止中に、第1、第2空間A、Bのオイルが外部に排出されて、第1、第2空間A、Bに空気が導かれることになるため、次の運転開始時にプランジャ17の応答性が阻害されることがない。即ち、運転再開時にOCV3の応答性を確保でき、エンジンの運転を再開した直後からカムシャフトの進角制御を高い精度で実施することが可能となり、エンジン始動直後にエミッションが悪化する不具合を回避することができる。
この実施例1のOCV3を採用することにより、磁気対向部26の磁気吸引力の低下や、シャフト25の強度不足等を招くことなく、クリアランスCを介してオイルが外部に排出される第2空間Bのオイルの排出性能を高めることができ、エンジン始動直後のエミッションの悪化を防ぐことができる。
【0053】
〔変形例〕
上記の実施例では、磁気対向部26と磁気吸引ステータ22とを別部材に設ける例を示したが、例えばカップガイドGが設けられない場合など、磁気対向部26が磁気吸引ステータ22と一体の1部品であっても良い。
上記の実施例では、磁気吸引ステータ22と磁気受渡ステータ23とを別体に設ける例を示したが、磁気吸引ステータ22と磁気受渡ステータ23とを一体のステータ18として設け、磁気吸引ステータ22と磁気受渡ステータ23の間に磁気遮断部や磁気抵抗部を設けても良い。
【0054】
上記の実施例では、中空のシャフト25を用いる例を示したが、中実のシャフトであっても良い。
上記の実施例では、油膜切り手段31の一例としてコイル16の通電停止中にオイルの溜まらない穴(実施例中では内外貫通穴)を用いる例を示したが、オイルを弾く撥油部あるいはコイル16の通電停止中にオイルの溜まらないスリットを採用しても良い。
【0055】
上記の実施例で示したVCT1および油圧回路2は一例であって、他の構成を備えたVCT1および油圧回路2を用いても良い。
上記の実施例では、VVTに用いられるOCV3に本発明を適用する例を示したが、VVT以外の用途に用いられる電磁弁(例えば、自動変速機の油圧制御用の電磁弁等)に本発明を適用しても良い。
上記の実施例では、バルブ装置の一例としてスプール弁11を用いる例を示したが、ボール弁など、他の構造のバルブ装置を用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】OCVの軸方向に沿う断面図である。
【図2】VVTの概略図である。
【符号の説明】
【0057】
3 OCV(電磁弁)
11 スプール弁(バルブ装置)
12 電磁アクチュエータ
13g オイル排出部
14 スプール(弁体)
16 コイル
17 プランジャ
18 ステータ
25 シャフト
25c オイル排出穴(ドレン手段の一部)
26 磁気対向部
31 油膜切り手段(内外貫通穴)
A 第1空間
B 第2空間
C クリアランス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)オイル流路の開閉、切替、調圧、調量等を行う弁体を備えるバルブ装置と、
(b)通電により磁力を発生するコイル、軸方向へ摺動自在に支持されるプランジャ、このプランジャの軸方向に対向配置されて前記コイルの発生した磁力によって前記プランジャを前記弁体側へ磁気吸引する磁気対向部を備えた電磁アクチュエータと、
(c)前記磁気対向部に設けられた軸方向の貫通穴の内側にクリアランスを介して貫通配置され、前記プランジャの変位力を前記弁体に与えるシャフトと、
(d)前記磁気対向部で区画される第1、第2空間のうちの一方の空間のオイルを、オイル排出のためのオイル排出部に導くドレン手段と、
(e)前記シャフトに設けられ、前記磁気対向部と前記シャフトの間のクリアランスの油膜を切る油膜切り手段と、
を具備する電磁弁。
【請求項2】
請求項1に記載の電磁弁において、
前記シャフトは、前記コイルの通電停止時に所定の通電停止位置で停止するものであり、
前記油膜切り手段は、前記シャフトが通電停止位置で停止している時に前記貫通穴と軸方向に交差することを特徴とする電磁弁。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電磁弁において、
前記油膜切り手段は、オイルを弾く撥油部、前記コイルの通電停止中にオイルの溜まらないスリット、あるいは前記コイルの通電停止中にオイルの溜まらない穴であることを特徴とする電磁弁。
【請求項4】
請求項3に記載の電磁弁において、
前記油膜切り手段の軸方向長は、前記貫通穴の軸方向長より長いことを特徴とする電磁弁。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の電磁弁において、
前記シャフトは、内側が前記オイル排出部と連通する筒状を呈し、
前記ドレン手段は、前記磁気対向部で区画される前記第1、第2空間のうち、前記プランジャとは異なった側の前記第1空間のオイルを前記オイル排出部に導くものであり、
前記油膜切り手段は、筒状を呈する前記シャフトの内外を貫通する内外貫通穴であり、 この内外貫通穴は、前記シャフトが通電停止位置で停止している時に、前記磁気対向部で区画される前記第1、第2空間のうち、前記プランジャ側の前記第2空間において開口することを特徴とする電磁弁。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の電磁弁において、
前記磁気対向部は、前記電磁アクチュエータのステータとは別部材で設けられ、前記ステータと組み合わされて磁気回路を構成することを特徴とする電磁弁。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−51203(P2008−51203A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−227774(P2006−227774)
【出願日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】