説明

電磁波シールド材

【課題】導電ペーストによるヒゲ状物の発生を防止できる電磁波シールド材を提供する。
【解決手段】プライマー層のうち凸状メッシュパターン層が形成されている部分の厚さは、凸状メッシュパターン層が形成されていない部分の厚さよりも厚く、且つ、且つ該凸状メッシュパターン層形成部におけるプライマー層と凸状メッシュパターン層との界面は、(a)該プライマー層と該凸状メッシュパターン層との界面が非直線状に入り組んでいる断面形態、(b)該プライマー層を構成する成分と該凸状メッシュパターン層を構成する成分とが混合している層を有する断面形態、及び、(c)該凸状メッシュパターン層を構成する導電性組成物中に該プライマー層に含まれる成分が存在している断面形態、のいずれか1又は2以上の断面形態を有し、さらに、該凸状メッシュパターン層は、互いに異なる第一方向と第二方向とにそれぞれ走る平行線群から成る第一方向線部及び第二方向線部とが交叉して構成され、該第一方向線部と第二方向線部の段差ΔHが0.5μm未満である電磁波シールド材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定のパターンで形成された導電性を有する層によって電磁波を遮蔽する電磁波シールド材に関する。
【背景技術】
【0002】
テレビやパーソナルコンピュータのモニター等のディスプレイ装置として、例えば、陰極線管(CRT)ディスプレイ装置、液晶ディスプレイ装置(LCD)、プラズマディスプレイ装置(PDP)、電場発光(EL)ディスプレイ装置等が知られている。これらのディスプレイ装置のうち、大画面ディスプレイ装置の分野で注目されているプラズマディスプレイ装置は、発光にプラズマ放電を利用するため、30MHz〜1GHz帯域の不要な電磁波が外部に漏洩して他の機器(例えば、遠隔制御機器、情報処理装置等)に影響を与えるおそれがある。そのため、プラズマディスプレイ装置に用いられるプラズマディスプレイパネルの前面側(観察者側)に、漏洩する電磁波をシールドするためのフィルム状の電磁波シールド材を設けるのが一般的である。
【0003】
電磁波シールド材は今までに種々検討されているが、例えば特許文献1には、透明基材上に無電解めっき触媒ペーストをメッシュパターンでスクリーン印刷し、その上に金属層を無電解めっきしてなる電磁波シールド材が提案されている。また、特許文献2には、導電性インキ組成物をメッシュパターンで転写体に凹版オフセット印刷し、転写体上のメッシュパターンを透明基材上に転写し、透明基材上のメッシュパターンに金属層を電気めっきしてなる電磁波シールド材が提案されている。また、特許文献3には、導電性インキ組成物をメッシュパターンで透明基材に直接凹版印刷し、その透明基材上のメッシュパターンに金属層を電気めっきしてなる電磁波シールド材が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開平11−170420号公報
【特許文献2】特開2001−102792号公報
【特許文献3】特開平11−174174号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の電磁波シールド材は、微細パターンの形成が難しいスクリーン印刷でメッシュパターンを形成するとともに、成膜速度の遅い無電解めっきで金属層を形成するので、生産性の点で劣り、コスト低減を図ることができないという難点がある。また、特許文献2に記載の電磁波シールド材は、凹版印刷でメッシュパターンを形成するので微細パターンの形成は可能であるが、オフセット印刷を採用するので、凹版から転写体に転写した後に転写体から透明基材に2回目の転写を行うので、原版である凹版のメッシュパターンが忠実に透明基材に転写されないことがある。
【0006】
さらに、特許文献2,3に記載の電磁波シールド材は、凹版から転写体又は透明基材に転写(転移とも言う)する際に、未転写部が発生したり、密着性に劣る転写不良が発生したりすることがある。具体的には、図8に示すように、凹版101上に導電性インキ組成物103を塗布した後にドクターブレード102で掻き取って凹部104内に導電性インキ組成物103を充填する際、図8(B)に示すように、ドクターブレード102で掻き取った後の凹部104内の導電性インキ組成物103は、その上部に凹み105が生じる。この凹み105は、その後、凹版101上に透明基材106を圧着して透明基材106上に凹部104内の導電性インキ組成物103を転写する際に、図8(C)に示すように、透明基材106と導電性インキ組成物103との密着を妨げる要因となる。その結果、透明基材106上に、導電性インキ組成物の未転写部が発生したり、密着性に劣る転写不良が発生して、電磁波シールド特性を低下させる原因となる。
【0007】
そこで、本出願人は、凹版印刷により導電性材料組成物を透明基材上に転写し、導電性を有するパターンを形成してなる電磁波シールド材において、導電性材料組成物の転写不良に基づくパターンの断線、形状不良や低密着性等の不具合が生じない電磁波シールド材について、PCT/JP2008/60427(出願日:平成20年6月6日、以下、「先願発明」という。)で提案している。この、先願発明では、前記図8(B)に示す導電性インキ組成物103の凹み105を、図8(C)に示す様に、硬化するまで流動性を保持できるプライマー層形成された透明基材と圧着することによって、プライマー層と凹部104内の導電性インキとを空隙無く密着する圧着工程を経て、プライマー層を硬化し、透明基材を版面から剥がして、凹部104内導電性インキ組成物を硬化したプライマー層上に転写するものである。斯かる方法に於いては、該転写工程において、導電性インキ組成物が凹版から剥離する際に剥離帯電が起こり、その結果静電力によって未硬化状態の導電性インキ組成物の一部がパターン状線部から開口部111に向かってヒゲ状に突出したり、開口部に点状に飛散する(以下、これらを併せて「ヒゲ状物」という。)問題が発生した。かかるヒゲ状物Wは図11に示すように、開口部111に存在すると、外観不良や光透過率の低下を招来し、電磁波シールド材として使用不可となる。
本発明は、電磁波シールド材を作製する際、透明基材を版面から剥がして、版凹部内の未硬化状導電性材料組成物(以下、「導電ペースト」ともいう。)を引き抜いて、透明基材のプライマー層上に転写する工程において、ヒゲ状物の発生を防止できる電磁波シールド材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため鋭意検討した結果、導電ペースト引抜き時のペーストヒゲ状物の発生を防止するには、凸状メッシュパターン層の第一方向線部と第二方向線部の段差を調整することで解決しうることを見出した。本発明はかかる知見に基づき完成したものである。
すなわち、本発明は、
(1)透明基材と、該透明基材上に形成されたプライマー層と、該プライマー層上に所定のパターンで形成された導電性組成物からなる凸状メッシュパターン層を有する電磁波シールド材であって、
前記プライマー層のうち前記凸状メッシュパターン層が形成されている部分の厚さは、前記凸状メッシュパターン層が形成されていない部分の厚さよりも厚く、且つ、且つ該凸状メッシュパターン層形成部におけるプライマー層と凸状メッシュパターン層との界面は、(a)該プライマー層と該凸状メッシュパターン層との界面が非直線状に入り組んでいる断面形態、(b)該プライマー層を構成する成分と該凸状メッシュパターン層を構成する成分とが混合している層を有する断面形態、及び、(c)該凸状メッシュパターン層を構成する導電性組成物中に該プライマー層に含まれる成分が存在している断面形態、のいずれか1又は2以上の断面形態を有し、さらに、該凸状メッシュパターン層は、互いに異なる第一方向と第二方向とにそれぞれ走る平行線群から成る第一方向線部及び第二方向線部とが交叉して構成され、該第一方向線部と第二方向線部の段差ΔHが0.5μm未満であることを特徴とする電磁波シールド材、
(2)前記凸状メッシュパターン層の表面に、更に金属層が形成されていることを特徴とする前記(1)に記載の電磁波シールド材、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明により得られるメッシュ状パターンは、第一方向線部と第二方向線部の段差を所定の範囲内としているので、(イ)凹版印刷で形成するに際して相対的に線部周囲に突出或は飛散する部分、いわゆるヒゲ状物が無く、該メッシュパターン上に電解めっきにより金属層を被覆する形態に於いても、電気力線が突出部に集中し難く、又めっきによるヒゲ状物の成長の起点となる体積も少ないので、ヒゲ状物発生が事実上なく、(ロ)メッシュ上に接着剤層や樹脂層を塗工の際、ヒゲ状物を原因とする気泡残留がし難くい。
また、プライマー層のうち凸状メッシュパターン層が形成されている部分の厚さは、凸状メッシュパターン層が形成されていない部分の厚さよりも大きく、かつ、凸状メッシュパターン層形成部におけるプライマー層と凸状メッシュパターン層との界面は、(a)プライマー層と凸状メッシュパターン層との界面が非直線状に入り組んでいる断面形態、(b)プライマー層を構成する成分と凸状メッシュパターン層を構成する成分とが混合している層を有する断面形態、及び、(c)凸状メッシュパターン層を構成する導電性組成物中に該プライマー層に含まれる成分が存在している断面形態、としているので、(ハ)プライマー層と導電組成物層との密着良好、(ニ)凹版印刷でパターン形成する際に、導電性組成物の転移性が良好で、転移欠陥も無く、パターン再現性が良好で、而かも導電性組成物が凹版から転移する際の剥離帯電を生じても、該導電性組成物の周囲の飛散を防止し、開口部の外観不良と光透過率低下を防止する。その結果良好な電磁波遮蔽性が得られるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0011】
[電磁波シールド材]
図1は、本発明の電磁波シールド材の一例を示す模式的な平面図であり、図2は、図1におけるA−A’断面の拡大図である。また、図3は、図2の一部をさらに拡大して示す模式的な断面図である。本発明の電磁波シールド材10は、透明基材1と、透明基材1上に形成されたプライマー層2と、プライマー層2上に所定のパターンで形成された凸状メッシュパターン層3とを有し、必要に応じて凸状メッシュパターン層3上に形成された金属層4を有し、必要に応じてさらに保護層9を有する。なお、図1中、符号7は電磁波遮蔽パターン部であり、符号8は接地部である。また、「所定のパターン」とは、電磁波シールド材10の電磁波遮蔽パターンとして一般的な、メッシュ状のパターンである。以下、本発明の構成を詳しく説明する。
【0012】
[透明基材]
透明基材1は、可視領域での透明性(光透過性)、耐熱性、機械的強度等の要求物性を考慮して、公知の材料及び厚みを適宜選択すればよく、ガラス、セラミックス等の透明無機物の板、或いは樹脂板など板状体の剛直物でもよい。ただし、生産性に優れるロール・トゥ・ロールでの連続加工適性を考慮すると、フレキシブルな樹脂フィルム(乃至シート)が好ましい。なお、ロール・トゥ・ロールとは、巻取(ロール)から巻き出して供給し、適宜加工を施し、その後、巻取に巻き取って保管する加工方式をいう。
【0013】
樹脂フィルム、樹脂板の樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、エチレングリコール−1,4シクロヘキサンジメタノール−テレフタール酸共重合体、エチレングリコール−テレフタール酸−イソフタール酸共重合体などのポリエステル系樹脂、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂、ポリプロピレン、シクロオレフィン重合体などのポリオレフィン系樹脂、トリアセチルセルロースなどのセルロース系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリイミド(PI)系樹脂等である。なかでも、ポリエチレンテレフタレートはその2軸延伸フィルムが耐熱性、機械的強度、光透過性、コスト等の点で好ましい透明基材である。
透明無機物としては、ソーダ硝子、カリ硝子、硼珪酸硝子、鉛硝子等の硝子、或いはPLZT、石英等の透明セラミックス等である。
【0014】
透明基材の厚みは基本的には特に制限はなく用途等に応じ適宜選択し、フレキシブルな樹脂フィルムを利用する場合、例えば12〜500μm、好ましくは25〜200μm程度である。樹脂や透明無機物の板を利用する場合、例えば、500〜5000μm程度である。
【0015】
[プライマー層]
プライマー層2は、その主目的が凸状メッシュパターン層3の印刷形成時に、版から被印刷物(透明基材)へのインキ(導電性組成物)転移性を向上させ、転移後の導電性組成物と被印刷物との密着性を向上させるための層である。すなわち、透明基材及び凸状メッシュパターン層の双方に密着性が良く、また開口部(凸状メッシュパターン層非形成部)の光透過性確保のために透明な層でもある。
更に、このプライマー層2は、流動性を保持できる状態で透明基材1上に設けられ、凹版印刷時の凹版に接触している間に液状から固化させる層として形成される層であり、最終的な電磁波シールド材が形成されたときに固化している層である。
【0016】
かかるプライマー層を構成する材料としては、本来特に限定はないが、本発明では、未硬化状態において液状(流動性)の電離放射線重合性化合物を含む電離放射線硬化性組成物を塗工、硬化(固体化)してなる層が好適に用いられる。以下、この材料を中心に詳述する。
該電離放射線重合性化合物としては、電離放射線で架橋等の反応により重合硬化するモノマー及び/又はプレポリマーが用いられる。
かかるモノマーとしては、ラジカル重合性モノマーとして、例えば、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレートなどの単官能(メタ)アクリレート類、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの多官能(メタ)アクリレート類等の各種(メタ)アクリレートが挙げられる。尚、ここで(メタ)アクリレートとの表記は、アクリレート又はメタクリレートを意味する。カチオン重合性モノマーとして、例えば、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレートなどの脂環式エポキシド類、ビスフェノールAジグリシジルエーテルなどグリシジルエーテル類、4−ヒドロキシブチルビニルエーテルなどビニルエーテル類、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタンなどオキセタン類等が挙げられる。
また、かかるプレポリマー(乃至オリゴマー)としては、ラジカル重合性プレポリマーとして、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、トリアジン(メタ)アクリレート等の各種(メタ)アクリレートプレポリマー、トリメチロールプロパントリチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラチオグリコレート等のポリチオール系プレポリマー、不飽和ポリエステルプレポリマー等が挙げられる。その他、カチオン重合性プレポリマーとして、例えば、ノボラック系型エポキシ樹脂プレポリマー、芳香族ビニルエーテル系樹脂プレポリマー等が挙げられる。
これらモノマー、或いはプレポリマーは、要求される性能、塗布適性等に応じて、1種類単独で用いる他、モノマーを2種類以上混合したり、プレポリマーを2種類以上混合したり、或いはモノマー1種類以上とプレポリマー1種類以上とを混合して用いたりすることができる。
【0017】
電離放射線として、紫外線、又は可視光線を採用する場合には、通常は、光重合開始剤を添加する。光重合開始剤としては、ラジカル重合性のモノマー又はプレポリマーの場合には、ベンゾフェノン系、チオキサントン系、ベンゾイン系、アセトフェノン系等の化合物が、又カチオン重合系のモノマー又はプレポリマーの場合には、メタロセン系、芳香族スルホニウム系、芳香族ヨードニウム系等の化合物が用いられる。これら光重合開始剤は、上記モノマー及び/又はプレポリマーからなる組成物100質量部に対して、0.1〜5質量部程度添加する。
なお、電離放射線としては、紫外線、又は電子線が代表的なものであるが、この他、可視光線、X線、γ線等の電磁波、或いはα線、各種イオン線等の荷電粒子線を用いることもできる。
【0018】
当該電離放射線硬化性組成物は、溶剤を含んでもよいが、その場合塗布後に乾燥工程が必要となるため、溶剤を含まないタイプ(ノンソルベントタイプ)であることが好ましい。
【0019】
プライマー層2の厚さ(TB)は特に限定されないが、通常は硬化後の厚さで1μm〜100μm程度となるように形成される。また、プライマー層2の厚さ(TB)は、通常は、凸状メッシュパターン層3とプライマー層2との合計値(総厚。図3(A)でいうと凸状メッシュパターン層3の頂部と透明基材1の表面との高度差)の1〜50%程度である。
【0020】
[導電性組成物からなる凸状メッシュパターン層]
本発明における電磁波シールド材は、導電性組成物からなる凸状メッシュパターン層3が、プライマー層2上に所定のパターンで設けられたものである。その線幅と線間ピッチも通常採用されている寸法であればよい。例えば、線幅は5〜50μmとすることができ、線間ピッチは100〜500μmとすることができる。開口率(電磁波遮蔽パターンの全面積中における開口部の合計面積の占める比率)は、通常、50〜95%程度である。またメッシュの電磁遮蔽パターンとは別に、其の周辺部の全周又は其の一部にそれと導通を保ちつつ隣接した全ベタ等の接地パターンが設けられる場合もある。
また、凸状メッシュパターン層3の厚さは、その凸状メッシュパターン層3の抵抗値によっても異なるが、電磁波遮蔽性能と該凸状メッシュパターン層上への他部材の接着適性との兼ね合いから、その中央部(突起パターンの頂部)での測定において、通常、2μm以上50μm以下であり、好ましくは、5μm以上20μm以下である。
この凸状メッシュパターン層3は、導電性粒子とバインダー樹脂を含む導電性組成物(導電性インキ或は導電性ペースト)を、後述する凹版印刷法によりプライマー層2上に形成することで得ることができる。
【0021】
導電性組成物を構成する導電性粒子としては、金、銀、白金、銅、ニッケル、錫、アルミニウムなどの低抵抗率金属の粒子、或は芯材粒子としての高抵抗率金属粒子、樹脂粒子、無機粒子等の表面が金や銀などの低抵抗率金属で被覆された粒子等を好ましく挙げることができ、形状も球状、回転楕円体状、正多面体状、截頭多面体状、鱗片状、円盤状、樹枝状、繊維状等から選ぶことができる。これらの材料や形状は適宜混合して用いてもよい。導電性粒子の大きさは種類に応じて任意に選択されるので一概に特定できないが、例えば、鱗片状の銀粒子の場合には粒子の平均粒子径が0.1〜10μm程度のものを用いることができる。導電性組成物中の導電性粒子の含有量は、導電性粒子の導電性や粒子の形態に応じて任意に選択されるが、例えば導電性組成物の固形分100質量部のうち、導電性粒子を40〜99質量部の範囲で含有させることができる。なお、本明細書において、平均粒子径というときは、粒度分布計、またはTEM(透過型電子顕微鏡)観察で測定した値を指している。
【0022】
導電性組成物を構成するバインダー樹脂としては、熱硬化性樹脂、電離放射線硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれも使用可能である。熱硬化性樹脂としては、例えば、メラミン樹脂、ポリエステル−メラミン樹脂、エポキシ−メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、熱硬化性アクリル樹脂、熱硬化性ポリウレタン樹脂、熱硬化性ポリエステル樹脂等の樹脂を挙げることができ、電離放射線硬化性樹脂としては、プライマーの材料として前記した物を挙げることができ、熱可塑性樹脂としては、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、熱可塑性アクリル樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂等の樹脂を挙げることができる。なお、熱硬化性樹脂を使用する場合、必要に応じて硬化触媒を添加してもよい。電離放射線硬化性樹脂を用いる場合は必要に応じて光重合開始剤を添加してもよい。
また、版の凹部への充填に適した流動性を得るために、これら樹脂は通常、溶剤に溶けたワニスとして使用する。溶剤の種類には特に制限はなく、一般的に印刷インキに用いられる溶剤を使用できる。溶剤の含有量は通常、10〜70質量%程度であるが、必要な流動性が得られる範囲でなるべく少ないほうが好ましい。また、電離放射線硬化性樹脂を用いる場合には、もともと流動性があるため、必ずしも溶剤を必要としない。
【0023】
また、導電性組成物の流動性や安定性を改善するために、導電性や、プライマー層との密着性に悪影響を与えない限りにおいて適宜充填剤や増粘剤、帯電防止剤、界面活性剤、酸化防止剤、分散剤、沈降防止剤などを添加してもよい。
【0024】
[電磁波シールド材の製造方法]
以下、本発明の電磁波シールド材の製造方法について図により詳細に説明する。
図4は、本発明の電磁波シールドの製造方法の一例を示す工程図である。また、図5は、本発明の製造方法を実施する装置の概略構成図であり、図6は、導電性材料組成物をプライマー層上に転写する転写工程を実施する装置の概略構成図である。
【0025】
本発明の電磁波シールドの製造方法は、透明基材1の一方の面に凸状メッシュパターン層3が形成されてなる電磁波シールド材10(図2を参照)の製造方法であって、図4〜図6に示すように、硬化するまで流動性を保持できるプライマー層2が一方の面S1に形成された透明基材1を準備する透明基材準備工程と、凸状メッシュパターンで凹部64が第一方向線部と第二方向線部の版深の段差Δhが0.5μm未満で形成された板状又は円筒状の版面63に、硬化後に導電性を有した硬化物を形成する導電性材料組成物15を塗布した後、その凹部内以外に付着した導電性材料組成物を掻き取って凹部64内に導電性材料組成物15を充填する充填工程(図4(b)参照)と、充填工程後の版面63の凹部64側と透明基材準備工程後の透明基材1のプライマー層2側とを圧着して、凹部64内の導電性材料組成物15とプライマー層2とを空隙無く密着する圧着工程(図4(c)参照)と、圧着工程後にプライマー層2を硬化するプライマー硬化工程と、プライマー硬化工程後に透明基材1を版面63から剥がして凹部内の導電性材料組成物15をプライマー層2上に転写する転写工程(図4(d)参照)と、転写工程後、プライマー層2上に所定のパターンで形成された導電性組成物層3’を硬化させる硬化工程(図4(e)参照)と、を少なくとも有するものである。以下、各工程について図面を参照して説明する。
【0026】
(透明基材準備工程)
透明基材準備工程は、硬化するまで流動性を保持できるプライマー層2が一方の面S1に形成された透明基材1を準備する工程である。プライマー層2はプライマー層用樹脂組成物を透明基材1上に塗布して形成するが、こうしたプライマー層用樹脂組成物は上述したとおりであるのでここではその説明を省略する。プライマー層2を有する透明基材1は購入品であってもよいし、図5に示すような塗布法で形成したものであってもよいが、いずれの場合であっても、後述する圧着工程時に、プライマー層2が流動性を保持した状態であることが必要である。
【0027】
例えば、プライマー層用樹脂組成物として硬化性樹脂組成物を用いた場合には、電離放射線を照射しない未照射状態で、その電離放射線硬化性樹脂組成物中の溶剤のみを乾燥除去し、透明基材上に流動状態からなるプライマー層2を塗膜として形成しておき、その状態で後述する圧着工程に供給することが好ましい。もちろん、ここで用いる光硬化性樹脂組成物が溶剤を含まない、いわゆるノンソルベント(無溶剤)タイプの場合には、プライマー層2を形成する際の乾燥工程は不要である。
また、プライマー層用樹脂組成物として熱可塑性樹脂組成物を用いた場合には、後述する圧着工程において加熱による流動状態となっていれば良く、圧着工程の直前にプライマー層2の加熱処理を行っても良く、熱ロールなどでプライマー層2の加熱と版面への圧着を同時に行っても良い。
【0028】
なお、プライマー層を塗布する方法については各種コーティング方式が使用でき、例えば、ロールコート、グラビアロールコート、コンマコート、ダイコート等の各種方式から適宜選ぶことができる。
図5に示す塗布法はグラビアリバースコートの一例であり、ロール状に巻かれたフィルム状の透明基材1をグラビアロール51とバックアップロール52との間に導入してプライマー層用の光硬化性樹脂組成物を塗布する方法である。この場合において、グラビアロール51は電離放射線硬化性樹脂組成物充填容器53に下方で接触し、電離放射線硬化性樹脂組成物を引き上げて透明基材1の一方の面に塗布する。このとき、余分な電離放射線硬化性樹脂組成物をドクターブレード54で掻き取る。透明基材1上に電離放射線硬化性樹脂組成物を塗布した後においては、必要に応じて樹脂組成物に含まれる溶剤の乾燥処理を施す。この乾燥処理は、例えば、コーティング装置に適した粘度に調整された電離放射線硬化性樹脂組成物中の溶剤のみを乾燥除去して、続く圧着工程に供する流動状態のプライマー層2を形成する処理である。コーティング装置に適した粘度を持つノンソルベントタイプの電離放射線硬化性樹脂組成物を用いる場合は乾燥装置は不要である。流動性を保持したプライマー層2を有する透明基材1は、その後に圧着工程に供給される。
【0029】
(樹脂充填工程)
樹脂充填工程は、図4(a)(b)に示すように、メッシュ状又はストライプ状の所定のパターンで凹部64が形成された板状又は円筒状の版面63に、硬化後に凸状メッシュパターン層3を形成できる導電性材料組成物15を塗布した後、その凹部内以外に付着した導電性材料組成物を掻き取って凹部内に導電性材料組成物15を充填する工程である。導電性材料組成物15は上述したとおりであるのでここではその説明を省略する。
【0030】
プライマー層用樹脂組成物に対する導電性材料組成物の組合せは特に限定されず、プライマー層用樹脂組成物の硬化処理と導電性材料組成物の硬化処理との方式が異なっていてもよいが、導電性材料組成物15として導電性粉末を含む電離放射線硬化性樹脂を採用する場合には、プライマー層用樹脂組成物も電離放射線硬化性樹脂組成物であることが好ましい。そうした組合せにすることにより、この樹脂充填工程後の圧着工程とそれに続くプライマー層の硬化工程時の電離放射線照射処理によって、プライマー層2の硬化と導電性材料組成物層3の硬化を同時に行うことができる。このとき、照射する電離放射線が光、或いは紫外線の場合には、適切な光重合開始剤と光硬化樹脂の組み合わせを選ぶことにより硬化させることができる。なお、紫外線照射の場合においては、導電性粉末の色が黒などの光を通さないものでは表面だけが硬化されやすく、内側の樹脂は硬化しにくいことを考慮しておく必要がある。
また、電子線を照射する場合には特に導電性粉末の色は考慮する必要はない。
【0031】
なお、図5及び図6に示す塗布法は、プライマー層2を有する透明基材1を凹版ロール62に圧着する前に行われる工程の一例であり、具体的には、ピックアップロール61は導電性材料組成物充填容器68に下方で接触し、導電性材料組成物15を引き上げて凹版ロール62の版面63に塗布する。このとき、版面63上の凹部64以外の部分に導電性材料組成物15が乗らないように、ドクターブレード65で掻き落とす。
【0032】
(圧着工程)
圧着工程は、図4(c)及び図6に示すように、樹脂充填工程後の版面63の凹部64側と、透明基材準備工程後の透明基材1のプライマー層2側とを圧着して、凹部64内の導電性材料組成物15とプライマー層2とを空隙無く密着する工程である。圧着はニップロール66で行われ、凹版ロール62に対して所定の圧力で付勢されている。そのニップロール66は付勢圧力の調整手段を備えており、その付勢圧力は、プライマー層2の流動性に応じて任意に調整される。
プライマー層2が熱可塑性樹脂である場合は、ニップロール66は加熱可能なロールにすることが好ましい。この場合、加熱圧着によってプライマー層2が軟化し流動可能となる。
【0033】
(硬化工程)
硬化工程は、ニップロール66の付勢力による圧着工程後にプライマー層2を硬化する工程であり、圧着した後の状態で硬化処理することにより、プライマー層2と導電性材料組成物15とが密着した状態で硬化させることができる。具体的には、プライマー層用樹脂組成物が電離放射線硬化型樹脂組成物である場合には、図6に示す照射ゾーンで電離放射線が照射され、硬化処理される。この場合、プライマー層は透明基材と版面にはさまれた形になり、空気中の酸素による硬化阻害を受けないため、窒素パージ装置などは必ずしも必要ない。
なお、硬化処理は、上記と同様、プライマー層用樹脂組成物と導電性材料組成物の種類に応じて選択され、例えば、電離放射線照射処理、冷却処理等の硬化処理が施される。
【0034】
(転写工程)
転写工程は、図4(d)に示すように、硬化工程後に透明基材1を凹版ロール62の版面63から剥がして凹部64内の導電性材料組成物15をプライマー層2上に転写する工程である。プライマー層2は、この工程前のプライマー硬化工程で硬化しているので、透明基材1を凹版ロール62の版面63から剥がすことにより、プライマー層2に密着した導電性材料組成物15は凹部内から離れてプライマー層2上にきれいに転写し、導電性材料組成物層3’となる。引き剥がしは、図5と図6に示すように、出口側に設けられたニップロール67により行われる。なお、転写工程において導電性材料組成物15は必ずしも硬化させる必要はなく、導電性材料組成物15に溶剤が含まれた状態でも転移させることができる。この理由は今のところ不明であるが、空隙なく密着した状態で硬化させたプライマー層2と導電性材料組成物15の間の密着力が、凹版ロールの凹部64の内壁と導電性材料組成物15の間の密着力よりも大きくなっているためと推測される。
【0035】
図7は、凹部64内の導電性材料組成物15の凹み6にプライマー層2を充填し、その導電性材料組成物15が転写する形態を示す模式図である。図7(C)に示すように、転写工程後のプライマー層2の形態と導電性材料層3’の形態を観察すると、プライマー層2のうち導電性材料層3’が転写された部分Aの厚さTAは、導電性材料層3’が転写されていない部分Bの厚さTBよりも大きい。そして、厚さの大きい部分Aのサイドエッジ5,5は、厚さの小さい部分Bの側に導電性材料層3が回り込んでいる。こうした形態は、流動性を保持したプライマー層2が形成された透明基材1のプライマー層2側と、樹脂充填工程後の版面63の凹部64側とを図7(A)(B)に示すように圧着することにより、凹部64内の導電性材料組成物上部に生じやすい凹み6に流動性のあるプライマー層2が充填するので、転写後の形態は、図7(C)に示すように、透明基材1上に設けられたプライマー層2のうち導電性材料層3が形成されている部分Aの厚さTAは導電性材料層3が形成されていない部分Bの厚さTBよりも大きくなり、さらに、厚さの大きい部分Aのサイドエッジ5,5は厚さの小さい部分Bの側に導電性材料層3が回り込んだ形態になる。通常、凸状メッシュパターン層が形成されている部分Aに於けるプライマー層の厚さTAは、図3に示す如く、該部分の中央部に行く程厚みが厚くなる。即ち、電磁波遮蔽用パターン部の横断面(例えば図3)に於いて、該プライマー層2の断面形状は、透明基材1から遠ざかる方向に向かって凸になった、半円、半楕円等の所謂釣鐘型形状、3角形、台形、5角形等の所謂山形形状、或いはこれらに類似の形状をなす。
本発明の電磁波シールド材は、特に、凸状メッシュパターン層形成部におけるプライマー層と凸状メッシュパターン層との界面に特徴がある。
【0036】
[凸状メッシュパターン層とプライマー層の界面の断面形態]
本発明における導電性組成物からなる凸状メッシュパターン層3とプライマー層2の界面は、図9(A)〜(C)に示すような3つの態様の断面形態をとり得るものであり、凸状メッシュパターン層3とプライマー層2との界面が、(a)プライマー層2と凸状メッシュパターン層3との界面が非直線状に入り組んでいる断面形態(以下、「第1態様」という)、(b)プライマー層2を構成する成分と凸状メッシュパターン層3を構成する成分とが混合している層を有する断面形態(以下、「第2態様」という)、及び、(c)凸状メッシュパターン層3を構成する導電性組成物中にプライマー層2に含まれる成分が存在している断面形態(以下、「第3態様」という、また、断面形態を「界面形態」ともいう。)が密着性、導電性組成物の転移性の点で好ましい結果を与えている。
【0037】
界面形態の第1態様は、図9(A)に示すように、プライマー層2と凸状メッシュパターン層3との界面11が、プライマー層2側と凸状メッシュパターン層3側とに交互に非直線状に入り組んだ形態である。
なお、この界面形態の第1態様において、入り組んだ界面は、全体としては中央が高い山型の断面形態となっている。
【0038】
こうした界面形態の第1態様は、そもそも平坦面でない山型のプライマー層2上に凸状メッシュパターン層3が形成されていることを以ってしても密着性が良いのに加え、上記のように界面11が入り組んだ形態になっているので、所謂投錨効果により、プライマー層2と凸状メッシュパターン層3との密着性が著しく高くなっている。さらに、こういう界面形態をとるゆえに、版凹部内に充填された導電性組成物がプライマー層2上に極めて高い転移率(ほぼ100%)で転写されるという格別の効果を備えている。
【0039】
界面形態の第2態様は、図9(B)に示すように、プライマー層2と凸状メッシュパターン層3との界面11の近傍に、プライマー層に含まれるプライマー成分と、凸状メッシュパターン層を構成する成分とが混合する領域21が存在している形態である。図9(B)では界面が明確に現れているが、実際には、明瞭でない曖昧な界面が現れる。また、図9(B)では混合領域21は、界面11を上下に挟むように存在する。この場合は、プライマー層中のプライマー成分と凸状メッシュパターン層3中の任意の成分とが両層内に相互に侵入する場合である。なお、混合領域21は界面11の上側(透明基材とは反対側)に存在しても下側(透明基材側)に存在してもよい。混合領域21が界面11の上側に存在する場合としては、プライマー層中のプライマー成分が凸状メッシュパターン層内に侵入し、凸状メッシュパターン層中の成分がプライマー層内に侵入しない場合であり、一方、混合領域21が界面11の下側に存在する場合としては、凸状メッシュパターン層中の任意の成分がプライマー層内に侵入し、プライマー層中のプライマー成分が凸状メッシュパターン層内に侵入しない場合である。
【0040】
こうした界面形態の第2態様は、そもそも平坦面でない山型のプライマー層2上に凸状メッシュパターン層3が形成されていることを以ってしても密着性が良いのに加え、上記のように界面11近傍に混合領域21を有するので、プライマー層2と凸状メッシュパターン層3との密着性が著しく高くなっている。さらに、こういう界面形態をとるゆえに、版凹部内に充填された導電性組成物がプライマー層2上に極めて高い転移率(ほぼ100%)で転写されるという格別の効果を備えている。
【0041】
界面形態の第3態様は、図9(C)示すように、凸状メッシュパターン層3中に広く、プライマー層2に含まれるプライマー成分31が存在している形態である。図9(C)ではプライマー成分31が界面11付近で多く、頂部に向かって少なくなって態様を模式的に表しているが、こうした態様には特に限定されない。プライマー成分31は、凸状メッシュパターン層3の頂部から検出される程度に凸状メッシュパターン層3内に侵入していてもよいし、主として界面近傍で検出される程度であってもよい。なお、第3態様において、特に、プライマー成分31が凸状メッシュパターン層内に存在している領域が界面11の近傍に局在化している場合が、上記第2態様において混合領域が界面11の上側にのみ存在する形態に相当するといえる。
【0042】
こうした界面形態の第3態様も上記第1及び第2形態の場合と同様、そもそも平坦面でない山型のプライマー層2上に凸状メッシュパターン層3が形成されていることを以ってしても密着性が良いのに加え、上記のようにプライマー成分31が凸状メッシュパターン層3に侵入しているので、プライマー層2と凸状メッシュパターン層3との密着性が著しく高くなっている。さらに、こういう界面形態をとるゆえに、版凹部内に充填された導電性組成物がプライマー層2上に極めて高い転移率(ほぼ100%)で転写されるという格別の効果を備えている。
【0043】
本発明における導電性組成物からなる凸状メッシュパターン層3とプライマー層2の界面11は、上記の第1〜第3態様の界面形態の特徴を少なくとも1つ有しているが、それらの特徴を2つ以上有していてもよく、3つの全てを有していてもよい。
【0044】
[凸状メッシュパターン層の第一方向線部と第二方向線部の段差]
凸状メッシュパターン層は、互いに方向の異なる2群以上の平行線群がから成る線部が交差して、これら線部に囲繞されて開口部が形成される。尚、3群以上の平行線群(線部)が交叉する場合も、其の基本的な設計要領及び作用効果は共通の為、以下、通常広く用いられている2群の場合を例に絞って説明する。又、各線群の交叉角度、即ち、第一方向線部と第二方向線部との交叉角度θは、0°<θ<180°の範囲から選択できるが、以下の説明では、通常広く用いられているθ=90°の場合を例に説明する。例えば、直交するメッシュ状の凸状メッシュパターン層では、図10(A)、(B)に拡大説明図として示すように、導電性組成物3からなる多数の第一方向に走る平行線群から成る第一方向線部L1と第二方向に走る平行線群から成る第二方向線部L2との交叉により正方格子の凸状メッシュパターンが形成される。そして、第一方向線部L1の高さと第二方向線部L2の高さに差、即ち段差ΔHが生ずる場合が多い。これは、第一方向線部と第二方向線部に対応する凹版の作製時における、凹版面に於ける各線部に対応する溝状凹部の差、即ち版深の段差Δhに依存している。すなわち、凹版の版深の加工精度に依存しているとも言える。
本発明においては、硬化後の凸状メッシュパターン層の第一方向線部と第二方向線部の段差ΔHが0.5μm未満であることが必要である。
ΔHが0.5μm以上では、凹版からの離型時に、版と基材(プライマーと導電性組成物)とが剥離帯電し、その帯電量にもΔHに比例した差が発生するため、版から離脱した未硬化状導電性組成物に対して、図11に示すように開口部の方向に向かってヒゲ状物(細針状突起)Wを発生させる。
従って、所定のパターンで凹部が第一方向線部と第二方向線部の版深の段差Δhが0.5μm未満で形成された板状又は円筒状の版面を有する凹版を用いることが必須であり、Δhが0μmに近いほど好ましい。
第一方向線部と第二方向線部に対応する版深さに差の少ない凹版とするには、バイトによる切削加工が好ましい。
なお、このように転写された未硬化状導電性組成物の段差ΔHが問題となるのは、本発明の凸状メッシュパターン層は、前記の如く、版凹部内に充填された導電性組成物がプライマー層2上に極めて高い転移率(ほぼ100%)で転写されるので、生産性、経済性等を考慮して未硬化状で転写させて導電性パターンを形成しようとする場合に、ヒゲ状物が発生するということであり、特定の電磁波シールド材の製造方法における場合ではあるが、極めて重要な事項である。
【0045】
[金属層]
本発明における電磁波シールド材は、導電性組成物からなる凸状メッシュパターン層3のみでは所望の導電性に不足する場合に、導電性を更に向上せしめるために、金属層を、必要に応じ形成することができ、凸状メッシュパターン層3上にめっきにより形成される。めっきの方法としては電解めっき、無電解めっきなどの方法があるが、電解めっきは無電解めっきに比べて通電量を増やすことでめっき速度を数倍に上げることができ、生産性を著しく向上させることができるため好ましい。
電解めっきの場合、凸状メッシュパターン層3への給電は凸状メッシュパターン層3が形成された面に接触させた通電ロール等の電極から行われるが、凸状メッシュパターン層3が電解めっき可能な程度の導電性(例えば、100Ω/□以下)を有するので、電解めっきを問題なく行うことができる。金属層を構成する材料としては、導電性が高く容易にめっき可能な、銅、銀、金、クロム、ニッケル等を挙げることができる。
金属層は凸状メッシュパターン層3に比べると一般的に体積抵抗率が1桁以上小さいため、凸状メッシュパターン層単体で電磁波シールド性を確保する場合に比べて、必要な導電性材料の量を減らせるという利点がある。
【0046】
なお、金属層を形成した後においては、必要に応じて、その金属層を黒化処理したり、保護層を設けてもよい。黒化処理は、例えば黒化ニッケルめっき、銅−コバルト合金めっき等の処理を例示でき、また、保護層は、平坦化層とは別に凸状メッシュパターン層の凹凸を充填、表面平坦化はせずに、単に凸状メッシュパターン層表面を被覆し保護する層である。例えばアクリル系の光硬化性樹脂を用いて形成することができる。凸状メッシュパターン層や金属層に使用する金属が銅などの錆びやすい金属の場合には防錆処理を行うことが好ましく、一般的な防錆剤を使用でき、また防錆処理は黒化処理や保護層形成と兼ねてもよい。
【0047】
[光学フィルタ]
こうして得られた電磁波シールド材に光学調整層を設けて電磁波遮蔽機能と光学機能との両機能を具備する光学フィルタとして利用することができる。光学調整層としては、従来公知のものをそのまま用いればよく、例えば近赤外線吸収層、ネオン光吸収層、紫外線吸収層、反射防止層、及び防眩層を挙げることが出来る。又、必要に応じて、該光学フィルタには、更に、光学機能以外の機能を発現する層を複合することが出来る。斯かる層としては耐衝撃層、帯電防止層、ハードコート層、及び防汚層等を挙げることができる。
ここで、凸状メッシュパターン層を形成した透明基材に反射防止層などの光学調整層を直接形成すると、凸状メッシュパターン層と(プライマー層被覆)透明基材との凹凸により、反射防止層などの塗りムラや気泡の混入が起こり、気泡が画像光を散乱して画質低下をもたらし、反射防止効果なども不十分となる。この問題を解決するために、凸状メッシュパターン層と(プライマー層被覆)透明基材との凹凸を埋めて平坦化するための透明な平坦化層を設け、その上面に反射防止層などの光学調整層を設けることが好ましい。なお、平坦化層に用いる樹脂へ、近赤外線吸収剤、ネオン光吸収剤、紫外線吸収剤などを添加することもできる。
【実施例】
【0048】
以下に、実施例と比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
【0049】
図6に示す装置により電磁波シールド材を製造した。
〔凹版の準備〕
先ず、凹版ロール62として、線幅が20μmで線ピッチが300μm、目標の版深10μmの格子状のメッシュパターンとなる凹部がバイト切削加工により、第一方向(凹版ロールの円周方向)線部と、これと直交する第二方向(凹版ロールの幅方向)線部が形成された版面63を有する凹版ロールA、B、Cを準備した。次いで凹版ロールの凹部64にシリコン樹脂による印象材を充填し、これを硬化させて固めた後、凹版より引き剥がして方向別の版周面からの高さを測定し、凹版ロール上の凸状メッシュパターンに対応する溝状凹部について、第一方向線部と第二方向線部との段差Δhを0.1μm単位で求めた。その結果を表1に示す。
【0050】
〔透明基材準備〕
次いで、透明基材1として、片面に易接着処理がされた幅1000mmで厚さ100μmの長尺ロール巻ポリエチレンテレフタレー卜(PET)フィルムを用いた。供給部にセットしたPETフィルムを繰り出し、易接着処理面にプライマー層用の光硬化性樹脂組成物を厚さ5μmとなるように塗布形成した。塗布方式は、通常のグラビアリバース法を採用し、光硬化性樹脂組成物としては、エポキシアクリレートプレポリマー35重量部、ウレタンアクリレートプレポリマー12重量部、フェノキシエチルアクリレートからなる単官能モノマーを44重量部、エチレンオキシド変性イソシアヌル酸トリアクリレートからなる3官能モノマーを9重量部、さらに光開始剤としてイルガキュア184(物質名;1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、製造元;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ)を3重量部添加したものに、帯電防止剤として変性シリコーン・リチウム塩を2重量部添加したものを使用した。このときの粘度は約150cps(at25℃、B型粘度計)であり、塗布後のプライマー層は触ると流動性を示すものの、PETフィルム上から流れ落ちることはなかった。
【0051】
実施例1、比較例1及び2
次に、凹版ロール62として、前記の3種類の凹版A(実施例1),B(比較例1),C(比較例2)を用いて、光硬化樹脂からなるプライマー層2が形成されたPETフィルムを、そのプライマー層2が凹版ロール62の版面63側に対向した状態で、凹版ロール62とニップロール66との間に挟む。その凹版ロール62とニップロ−ル66との間でPETフィルムのプライマー層2は版面63に押し付けられる。プライマー層2は流動性を有しているので、版面63に押し付けられたプライマー層2は、導電性組成物15が充填した凹部64内にも流入し、凹部64内で生じた導電性材成物15の凹み6を充填する。こうしてプライマー層2は導電性組成物15に対して隙間なく密着した状態となる。その後、さらに凹版ロール62が回転して高圧水銀燈によって紫外線が照射され、電離放射線硬化性樹脂組成物からなるプライマー層2を硬化させた。
尚、斯かる導電性組成物としては、導電性粉末として平均粒径約2μmの鱗片状銀粉末93重量部、バインダー樹脂として熱可塑性のポリエステルウレタン樹脂7重量部、溶剤としてブチルカルビトールアセテート25重量部を配合し、十分に攪拌混合した後、3本ロールで混練りして作製したものを用いた。
プライマー層2の硬化により、凹版ロール62の凹部64内の導電性組成物はプライマー層2と密着し、その後、出口側のニップロール67によってフィルムが凹版ロール62から剥離され、プライマー層2上には導電性材料層3’が転写形成された。このようにして得られた転写フィルムを、110℃の乾燥ゾーンを通過させて銀ペーストの溶剤を蒸発させ、プライマー層2上にメッシュパターンからなる凸状メッシュパターン層3を形成した。このときの凸状メッシュパターン層3の厚み(凸状メッシュパターン層3が形成されているメッシュパターン部分とそれ以外の部分との厚み差)を第一方向線部及び第二方向線部の各々について測定し、両者の差として、凸状メッシュパターン層についての第一方向線部及び第二方向線部の段差ΔHを0.1μm単位で求めた。実施例1及び比較例1及び2とも、第一方向線部及び第二方向線部について平均した凸状メッシュパターンの厚み(高さ)はいずれも約9μmであり、版の凹部64内の銀ペーストが高い転移率(90%程度)で転移していた。また、断線や形状不良も見られなかった。
【0052】
〔ヒゲ状物の評価〕
凹版A,B,Cにより得られた電磁波シールド材におけるヒゲ状物発生状況を観察した。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
以上より、第一方向線部と第二方向線部の版深の段差Δhが0.0μmの凹版Aを用いた実施例1では、得られた凸状メッシュパターン層の段差ΔHも0.0μmとなり、且つ此の場合は、開口部に向けてのヒゲ状物の発生が殆んどなく、電磁波シールド材として優れたものであった。又、凸状メッシュパターン層の段差ΔHが0.5μmを超えるとヒゲ状物の発生が顕著になることもわかる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の電磁波シールド材の一例を示す模式的な平面図である。
【図2】図1におけるA−A’断面の拡大図である。
【図3】図2の一部をさらに拡大して示す模式的な断面図である。
【図4】本発明の電磁波シールドの製造方法の一例を示す工程図である。
【図5】本発明の製造方法を実施する装置の概略構成図である。
【図6】導電性材料組成物をプライマー層上に転写する転写工程を実施する装置の概略構成図である。
【図7】凹部内の導電性材料組成物の凹みにプライマー層を充填し、その導電性材料組成物が転写する形態を示す模式図である。
【図8】透明基材上に導電性インキ組成物の未転写部が発生する従来の現象の説明図である。
【図9】凸状メッシュパターン層とプライマー層との界面形態の模式的な断面図であり、(A)界面形態が第1態様、(B)界面形態が第2態様、(C)界面形態が第3態様を示す。
【図10】凸状メッシュパターン層の第一方向線部と第二方向線部の段差ΔHを説明する、(A)斜視図、(B)(A)の正面図である。
【図11】凸状メッシュパターン層上に生じたヒゲ状物の説明図である。
【符号の説明】
【0056】
1 透明基材
2 プライマー層
3 凸状メッシュパターン層(3’ 導電性材料組成物層)
4 金属層
5 サイドエッジ
6 凹み
7 電磁波遮蔽パターン部
8 接地部
9 保護層
10 電磁波シールド材
15 導電性材料組成物
51 グラビアロール
52 バックアップロール
53 樹脂組成物充填容器
54 ドクターブレード
61 ピックアップロール
62 凹版ロール
63 版面
64 凹部
65 ドクターブレード
66 ニップロール
67 ニップロール
68 充填容器
A 導電性材料層が形成されている部分
A Aの厚さ
B 導電性材料層が形成されていない部分
B Bの厚さ
L1 第一方向線部
L2 第二方向線部
W ヒゲ状物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材と、該透明基材上に形成されたプライマー層と、該プライマー層上に所定のパターンで形成された導電性組成物からなる凸状メッシュパターン層を有する電磁波シールド材であって、
前記プライマー層のうち前記凸状メッシュパターン層が形成されている部分の厚さは、前記凸状メッシュパターン層が形成されていない部分の厚さよりも厚く、且つ、且つ該凸状メッシュパターン層形成部におけるプライマー層と凸状メッシュパターン層との界面は、(a)該プライマー層と該凸状メッシュパターン層との界面が非直線状に入り組んでいる断面形態、(b)該プライマー層を構成する成分と該凸状メッシュパターン層を構成する成分とが混合している層を有する断面形態、及び、(c)該凸状メッシュパターン層を構成する導電性組成物中に該プライマー層に含まれる成分が存在している断面形態、のいずれか1又は2以上の断面形態を有し、さらに、該凸状メッシュパターン層は、互いに異なる第一方向と第二方向とにそれぞれ走る平行線群から成る第一方向線部及び第二方向線部とが交叉して構成され、該第一方向線部と第二方向線部の段差ΔHが0.5μm未満であることを特徴とする電磁波シールド材。
【請求項2】
前記凸状メッシュパターン層の表面に、更に金属層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電磁波シールド材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−80835(P2010−80835A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−249877(P2008−249877)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】